説明

2−クロロプロパンの製造方法

【課題】塩化第二鉄の使用量を抑えつつ、温和な条件下で効果的にプロピレンと塩化水素との反応を行い、2−クロロプロパンを良好な品質で製造しうる方法を提供すること。
【解決手段】溶媒中、塩化第二鉄の存在下に、プロピレン及び塩化水素を反応させる2−クロロプロパンの製造方法であって、(1)前記溶媒に対して0.10〜0.20重量%の塩化第二鉄と前記溶媒との混合物に、プロピレン及び塩化水素を供給して前記反応を開始すること、及び(2)前記反応を40〜50℃で行うこと、を特徴とする2−クロロプロパンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン及び塩化水素を反応させて2−クロロプロパンを製造する方法に関する。2−クロロプロパンは、溶剤や医農薬の原料等として有用である。
【背景技術】
【0002】
溶媒中、塩化第二鉄の存在下に、プロピレン及び塩化水素を反応させて2−クロロプロパンを製造する方法として、例えば、特開昭60−178831号公報(特許文献1)には、溶媒に対して0.6重量%以上の塩化第二鉄と溶媒との混合物に、プロピレン及び塩化水素を供給して上記反応を開始し、該反応を5〜35℃で行う方法が提案されている。また、米国特許第6617479号明細書(特許文献2)には、溶媒に対して15〜350ppmの塩化第二鉄と溶媒との混合物に、プロピレン及び塩化水素を供給して上記反応を開始し、該反応を50℃以上で行う方法が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭60−178831号公報
【特許文献2】米国特許第6617479号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、塩化第二鉄を高濃度で使用するため、塩化第二鉄のロスが多く、副反応も起こりやすかった。また、特許文献2に記載の方法では、高温、高圧下で反応を行うため、安全性の点で十分ではなかった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、塩化第二鉄の使用量を抑えつつ、温和な条件下で効果的に上記反応を行い、2−クロロプロパンを良好な品質で製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は鋭意研究を行った結果、所定量の塩化第二鉄と溶媒との混合物に、プロピレン及び塩化水素を供給して上記反応を開始し、該反応を所定温度で行うことにより、上記目的を達成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、溶媒中、塩化第二鉄の存在下に、プロピレン及び塩化水素を反応させる2−クロロプロパンの製造方法であって、(1)溶媒に対して0.10〜0.20重量%の塩化第二鉄と溶媒との混合物に、プロピレン及び塩化水素を供給して前記反応を開始すること、及び(2)前記反応を40〜50℃で行うこと、を特徴とする2−クロロプロパンの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塩化第二鉄の使用量を抑えつつ、温和な条件下で効果的に上記反応を行い、2−クロロプロパンを良好な品質で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明で使用する溶媒は、プロピレンと塩化水素との反応を特に阻害するものでなければよく、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンのような脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエンのような芳香族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、塩化エチル、1,2−ジクロロエタンのようなハロゲン化脂肪族炭化水素、モノクロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼンのようなハロゲン化芳香族炭化水素等が挙げられ、必要に応じてこれらの2種以上を用いることもできる。好ましくは、2−クロロプロパンが用いられる。
【0010】
使用する塩化第二鉄としては、無水塩化第二鉄や、塩化第二鉄の水和物が挙げられ、中でも無水塩化第二鉄が好ましい。また、塩化第二鉄の使用量は、溶媒に対して通常0.10〜0.20重量%であり、好ましくは0.15〜0.20重量%である。
【0011】
本発明では、上記所定量の塩化第二鉄と溶媒との混合物を40〜50℃に調整し、これにプロピレン及び塩化水素を供給して上記反応を開始する。そして、その後も40〜50℃に保持して上記反応を行う。このように、塩化第二鉄の濃度を上記所定値に調整した混合物に、上記温度範囲内でプロピレン及び塩化水素を供給することにより、反応器内の圧力上昇を抑え、長時間にわたり上記反応を行うことができ、また、副反応や2−クロロプロパンの着色を抑え、良好な品質の2−クロロプロパンを製造することができる。
【0012】
使用するプロピレンは、ガス状のものであってもよく、また、溶媒に溶解してなる溶液であってもよい。好ましくはガス状のものが使用される。
【0013】
使用する塩化水素は、ガス状のものであってもよく、液体であってもよい。また、溶媒に溶解してなる溶液であってもよい。好ましくはガス状のものが使用される。
【0014】
プロピレン及び塩化水素の供給方法としては、例えば、上記混合物に塩化水素を加えた後、プロピレンを加えてもよく、上記混合物にプロピレン及び塩化水素を併注(共フィード)してもよい。
【0015】
使用する塩化水素の量は、特に制限はないが、ガス状の塩化水素を使用する場合は、塩化第二鉄1gに対して、通常30〜10000ml/min、好ましくは300〜2000ml/minである。
【0016】
プロピレンに対する塩化水素のモル比は、特に制限はないが、好ましくは1.0〜1.2である。
【0017】
反応方式については適宜選択することができ、例えば、回分式反応でもよいし、連続式反応でもよい。
【0018】
かくして良好な品質で2−クロロプロパンを得ることができる。尚、得られた2−クロロプロパンは蒸留や洗浄などの公知の方法によって更に精製することができる。
【実施例】
【0019】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。尚、実施例中のGC面百値とはガスクロマトグラフィーでの分析による2−クロロプロパンの面積百分率を表す。また、タール生成率とは、生成した2−クロロプロパンの重量をX、濃縮した後の残渣の重量をYとして、以下の式により算出した。
【0020】
タール生成率(%)=Y/X×100
【0021】
実施例1
(2−クロロプロパンの製造)
1Lのオートクレーブに塩化第二鉄0.30g及び2−クロロプロパン200gを入れ、撹拌しながら40℃に昇温した。その後、ガス状のプロピレンを200ml/minの流量で、ガス状の塩化水素を204ml/minの流量で、それぞれ反応器内の液中に供給した。反応温度を40℃に保ちながら反応を行ったところ、反応開始後、112分が経過した時点で、反応器内の圧力が0.25MPaGに達した。
【0022】
実施例2
(2−クロロプロパンの製造)
反応温度を50℃とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。反応開始後、84分が経過した時点で、反応器内の圧力が0.25MPaGに達した。
【0023】
比較例1
(2−クロロプロパンの製造)
反応温度を30℃とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。反応開始後、35分が経過した時点で、反応器内の圧力が0.25MPaGに達した。
【0024】
比較例2
(2−クロロプロパンの製造)
反応温度を60℃とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。反応開始後、41分が経過した時点で、反応器内の圧力が0.25MPaGに達した。
【0025】
比較例3
(2−クロロプロパンの製造)
塩化第二鉄の使用量を0.18gとし、ガス状のプロピレンを120ml/minの流量で、ガス状の塩化水素を122ml/minの流量で、それぞれ反応器内の液中に供給した以外は、実施例1と同様の操作を行った。反応開始後、41分が経過した時点で、反応器内の圧力が0.25MPaGに達した。
【0026】
実施例1〜2及び比較例1〜3の結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
塩化第二鉄の触媒活性は、反応器内の圧力上昇の推移で評価した。すなわち、触媒活性が低下すると、未反応のプロピレンや塩化水素が気相部に吹き抜け、反応器内の圧力が高くなるため、かかる圧力を測定することにより触媒活性の持続性を評価した。実施例1及び2で示すように、反応開始時の塩化第二鉄の濃度を0.15重量%とし、反応温度を40℃、50℃とした場合には、反応器内の圧力が0.25MPaに達するまでの時間が長く、触媒活性が効果的に維持されるのに対し、比較例1及び2で示すように、反応開始時の塩化第二鉄を上記濃度とし、反応温度を30℃、60℃とした場合には、反応器内の圧力が0.25MPaに達するまでの時間が短く、触媒活性を効果的に維持できなかった。また、比較例3で示すように、反応開始時の塩化第二鉄の濃度を0.09重量%とし、反応温度を40℃とした場合も、先と同様、反応器内圧が0.25MPaに達するまでの時間が短く、触媒活性を効果的に維持できなかった。
【0029】
実施例3
(2−クロロプロパンの製造)
1Lのオートクレーブに塩化第二鉄0.40g及び2−クロロプロパン200gを入れ、撹拌しながら40℃に昇温した。その後、ガス状のプロピレンを400ml/minの流量で、ガス状の塩化水素を420ml/minの流量で、それぞれ反応器内の液中に供給した。反応温度を40℃に保ちながら5時間反応を行ったところ、反応液638gが得られ、反応器内の圧力は0.13MPaGであった。反応終了後の反応液は透明な黄色であり、灰色の沈殿物が少量見られた。
【0030】
(2−クロロプロパンの含量分析)
上記で得られた反応液65gを分液ロートに移し、同量の水で水洗した後、静置して分液し、水層を除去した。次に、4.2重量%水酸化ナトリウム水溶液21gを用いて洗浄した後、静置して分液し、次いで水層を除去した後、硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過した。得られた有機層をガスクロマトグラフィーで分析したところ、2−クロロプロパンのGC面百値は99.8%、プロピレンのGC面百値は0.07%であった。
【0031】
(2−クロロプロパンのタール生成率の算出)
上記で得られた2−クロロプロパンを、常圧下、50℃で十分に濃縮したところ、残渣は0.06g(タール生成率0.09%)であった。
【0032】
比較例4
(2−クロロプロパンの製造)
1Lのオートクレーブに塩化第二鉄0.40g及び2−クロロプロパン200gを入れ、撹拌しながら20℃に保持した。その後、ガス状のプロピレンを400ml/minの流量で、ガス状の塩化水素を420ml/minの流量で、それぞれ反応器内の液中に供給した。反応温度を20℃に保ちながら反応を行ったところ、30分を経過した時点で、反応器内の圧力は0.26MPaGにまで達し、反応の継続が困難となり、反応を停止した。反応終了後の反応液(230g)は透明な黄色であり、灰色の沈殿物は見られなかった。
【0033】
比較例5
(2−クロロプロパンの製造)
反応温度を60℃とする以外は、実施例3と同様に反応を行ったところ、反応液637gが得られ、反応器内の圧力は0.25MPaGであった。反応終了後の反応液は薄い黄色であり、灰色の沈殿物が少量見られた。
【0034】
(2−クロロプロパンの含量分析)
上記で得られた反応液61gを実施例3と同様の方法で精製し、得られた有機層をガスクロマトグラフィーで分析したところ、2−クロロプロパンのGC面百値は99.6%、プロピレンのGC面百値は0.20%であった。
【0035】
(2−クロロプロパンのタール生成率の算出)
上記で得られた2−クロロプロパンを実施例3と同様の方法で濃縮したところ、残渣は0.17g(タール生成率0.27%)であった。
【0036】
比較例6
(2−クロロプロパンの製造)
1Lのオートクレーブに塩化第二鉄1.20g及び2−クロロプロパン200gを入れ、撹拌しながら20℃に保持した。その後、ガス状のプロピレンを400ml/minの流量で、ガス状の塩化水素を420ml/minの流量で、それぞれ反応器内の液中に供給した。反応温度を20℃に保ちながら5時間反応を行ったところ、反応液637gが得られ、反応器内の圧力は0.078MPaGであった。反応終了後の反応液は黄色であり、灰色の沈殿物が多く見られた。
【0037】
(2−クロロプロパンの含量分析)
上記で得られた反応液57gを実施例3と同様の方法で精製し、得られた有機層をガスクロマトグラフィーで分析したところ、2−クロロプロパンのGC面百値は99.7%、プロピレンのGC面百値は0.19%であった。
【0038】
(2−クロロプロパンのタール生成率の算出)
上記で得られた2−クロロプロパンを実施例3と同様の方法で濃縮したところ、残渣は0.14g(タール生成率0.25%)であった。
【0039】
実施例3及び比較例4〜6の結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
実施例3で示すように、反応開始時の塩化第二鉄の濃度を0.20重量%とし、反応温度を40℃とした場合では、反応終了時の反応器内の圧力はさほど高くなく、タール生成量も少ない良好な品質の2−クロロプロパンが得られた。それに対し、比較例4で示すように、反応開始時の塩化第二鉄の濃度を0.20重量%とし、反応温度を20℃とした場合では、すぐに反応器内の圧力が高くなり反応を継続できなかった。また、比較例5で示すように、反応開始時の塩化第二鉄の濃度を0.20重量%とし、反応温度を60℃とした場合では、先と同様、反応終了時の反応器内の圧力も高くなり、また、タール生成量も多かった。さらに、比較例6で示すように、反応開始時の塩化第二鉄の濃度を0.60重量%とし、反応温度を20℃とした場合では、反応終了時の反応器内の圧力はさほど高くないものの、反応終了時の反応液に灰色沈殿物が多く見られ、タール生成量も多かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中、塩化第二鉄の存在下に、プロピレン及び塩化水素を反応させる2−クロロプロパンの製造方法であって、
(1)前記溶媒に対して0.10〜0.20重量%の塩化第二鉄と前記溶媒との混合物に、プロピレン及び塩化水素を供給して前記反応を開始すること、及び
(2)前記反応を40〜50℃で行うこと、
を特徴とする2−クロロプロパンの製造方法。
【請求項2】
前記溶媒が、2−クロロプロパンである請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2008−247743(P2008−247743A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87287(P2007−87287)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】