説明

2−ヒドロキシイソ酪酸産生組み換え細胞

本発明の主題は、その野生型に比較してより多くの2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートを形成することができるように遺伝子工学的に改変された細胞において、2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートの形成をアセトアセチル−補酵素Aを介して中間生成物として、及び3−ヒドロキシブチリル−補酵素Aを介して予備生成物として行うことを特徴とする細胞である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明の主題は、その野生型に比較してより多くの2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートを形成することができるように遺伝子工学的に改変された細胞において、2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートの形成をアセトアセチル−補酵素Aを介して中間生成物として、及び、3−ヒドロキシブチリル−補酵素Aを介して予備生成物として行うことを特徴とする細胞である。
【0002】
先行技術
メタクリル酸、そのエステル及びポリマーはアクリルガラス板、射出成形生成物、コーティング及び他の種々の製品の製造の際に幅広く適用される。
【0003】
メタクリル酸の製造方法の多くが知られている。但し、この商業的な製造のうち世界最大の部分は、メタクリル酸のアミドスルファートの加水分解のための化学的方法を基礎とし、これはこの相応する2−ヒドロキシニトリルから製造され、その際約1.6kgの硫酸が1kgのメタクリル酸の製造のために必要とされる。
【0004】
メタクリル酸への2−ヒドロキシ酪酸(2−HIB)の化学的変換は96%までの収率でもってUS 3,666,805及びUS 5,225,594に記載されている。
【0005】
メタクリル酸の代替的な製造方法は、ニトリル加水分解性酵素の利用下での2−ヒドロキシニトリルから2−ヒドロキシイソ酪酸への加水分解により生じる。この場合に、前記酵素は、ニトリラーゼ又はニトリル−ヒドラターゼとアミダーゼとからの組み合わせ物である(A. Banerjee, R. Sharma, U. C. Banerjee, 2002, "The nitrile-degrading enzymes: current status and future prospects", Appl. Microbiol. Biotechnol., 60:3344及びUS 6,582,943)。この方法の重大な欠点は、効率的なニトリル加水分解性酵素活性のために必要な中性のpH範囲内におけるニトリルの不安定性である。反応混合物中でのニトリルの分解はケトン及びシアニドの蓄積を招き、これらは共にニトリル加水分解性酵素活性を阻害する。
【0006】
両者の方法、即ち、現在支配的であるアミド−スルファートをベースとする方法及び酵素によるニトリル加水分解法の一般的な欠点は、2−ヒドロキシニトリルが必要であることである。2−ヒドロキシニトリルはまず、環境に有害な出発物質、即ちケトン及びシアニドから製造されねばならない。
【0007】
酵素による、tert−ブチルアルコールを分解する物質代謝経路を介した2−ヒドロキシイソ酪酸の代替的な提供方法はCA 2,510, 657から知られている。
【0008】
更なる、酵素による2−ヒドロキシイソ酪酸の提供方法はPCT/EP2007/052830から知られている。ここでは、ムターゼ 3−ヒドロキシブチリル−補酵素A(3−HBCoA)を用いて予備生成物として2−ヒドロキシ酪酸に変換される。この詳説された方法は以下の欠点を示す:この詳説された方法は不連続的であり、3−ヒドロキシ酪酸(3−HB)は外から出発材料として添加され、この方法条件は不活性ガスを必要とする。この変換率は20%である。
【0009】
したがって、この記載の欠点を克服する、2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートの製造方法は有利であろう。
【0010】
したがって、本発明の課題は、メタクリル酸、そのエステル及びポリマーに更に加工されることができる、2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートのための予備生成物についての要求を保証する、2−ヒドロキシイソ酪酸の形成方法を提供することであった。
【0011】
本発明の説明
意外なことに、アセトアセチル−補酵素Aを介して中間生成物として、及び、3−ヒドロキシブチリル補酵素Aを介して予備生成物として、2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートの形成が、前述の課題解決に寄与することが見出された。
【0012】
概念「予備生成物」とは、本願で使用される場合には、単に1の酵素の使用により酵素による経路で所望の生成物へと反応させられることができる化学化合物を定義し、その一方で、概念「中間生成物」とは、少なくとも2の酵素の使用により酵素による経路で所望の生成物へ反応させられることができる化学化合物を定義し、その際、「化学化合物」とは、補酵素A−チオエステル−官能化あり又はなしで等価に見られるべきものであり、したがってチオエステルを形成するか又は開裂する酵素は考慮されない。
【0013】
したがって、本発明の主題は、その野生型に比較してより多くの2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートを形成することができるように遺伝子工学的に改変された細胞において、2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートの形成をアセトアセチル−補酵素Aを介して中間生成物として、及び、3−ヒドロキシブチリル−補酵素Aを介して予備生成物として行うことを特徴とする細胞である。
【0014】
本発明の更なる一主題は、本発明による細胞の製造方法及び本発明による細胞を用いた2−ヒドロキシイソ酪酸の製造方法並びにメタクリル酸の製造方法である。
【0015】
本発明の一利点は、2−ヒドロキシイソ酪酸又はメタクリル酸を再生可能な(nachwachsend)原料から、例えば炭水化物から及び/又はグリセリンから製造できるが、しかし、化石燃料から誘導された原料、例えばメタノールからも製造でき、これにより化石原料の変動する供給性の問題を回避できることである。
【0016】
本発明の更なる一利点は、本発明による方法ではほとんど熱負荷してない工程を用いて、かつ、一般的に少ない方法工程を用いて、メタクリル酸が得られることができることである。
【0017】
本発明のまた更なる一利点は、様々な毒性の又は攻撃性の物質の回避であり、これは例えば2−ヒドロキシイソ酪酸の従来の化学的方法において生じる。
【0018】
本発明は以下において例示的に記載され、この場合に本発明はこの例示的な実施態様に限定されるべきではない。
【0019】
全ての記載されたパーセント(%)は、他のことが記載されていない場合には、質量パーセントである。
【0020】
概念「2−ヒドロキシイソ酪酸」とは、本願で使用される場合には、常に、pH値に依存してこの相応する微生物による形成後に存在する形態にあるこの相応するC4−カルボン酸を記載する。したがって、この概念は、常に、純粋な酸形態(2−ヒドロキシイソ酪酸)、純粋な塩基形態(2−ヒドロキシイソブチラート)並びにこの酸のプロトン化及び脱プロトン化した形態を含む。
【0021】
更に、概念「3−ヒドロキシブチリル−補酵素A」は根本的に、(R)−立体異性もまた同様に(S)−立体異性も含み、その際(R)−立体異性は特に好ましい。
【0022】
「その野生型に比較してより多くの2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー含有ポリヒドロキシアルカノアートを形成できる」との表現は、この遺伝子工学的に改変された細胞の野生型が全くもって2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートを形成できず、しかし、少なくともこれら化合物の検出可能な量を形成できず、そして、この遺伝子工学的改変により初めてこの成分の検出可能な量が形成されることができる場合も該当する。細胞の「野生型」とは、好ましくは、そのゲノムが進化により自然に発生したような状態にある細胞を指す。この概念は、この全体的な細胞にもまた同様に個々の遺伝子にも使用される。したがって、概念「野生型」とは特に、その遺伝子配列が少なくとも部分的に人的に組み換え方法を用いて改変されているような細胞又はそのような遺伝子には当てはまらない。
【0023】
この2−ヒドロキシイソ酪酸からは引き続き、慎重な脱水反応によりメタクリル酸が得られることができる。2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートの場合には、この細胞中に含まれる、このポリヒドロキシアルカノアートで満たされているグラナが単離され、引き続き、このポリマーが2−ヒドロキシイソ酪酸を取得しながら開裂されることができ、次にこれはメタクリル酸を取得しながら脱水されることができる。
【0024】
この場合に、本発明により好ましいのは、この遺伝子工学的に改変された細胞が、これが定義された時間間隔において、好ましくは2時間の間、更に一層好ましくは8時間の間、最も好ましくは24時間の間、この細胞の野生型に比較して少なくとも2倍、特に好ましくは10倍、更に好ましくは少なくとも100倍、更に一層より好ましくは少なくとも1000倍、最も好ましくは少なくとも10000倍より多くの2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートを形成するように遺伝子工学的に改変されていることである。この生成物形成の増加はこの場合に、例えば次のように決定されることができる:本発明による細胞及びこの野生型の細胞をそれぞれ別個に同じ条件(同じ細胞密度、同じ栄養培地、同じ培養条件)下で一定の時間間隔にわたり適した栄養培地中で培養させ、引き続き目的生成物(2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアート)に関する量を、2−ヒドロキシイソ酪酸の場合には細胞上清中で、又は、2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートの場合には細胞中で決定する。本発明による細胞は原核生物又は真核生物であることができる。この場合に、これは、哺乳動物細胞(例えばヒトからの細胞)、植物細胞又は微生物、例えば酵母、菌類又は細菌であることができ、この場合に微生物が特に好ましく、細菌及び酵母が最も好ましい。
【0025】
細菌、酵母又は菌類としては特に、Deutschen Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH (DSMZ), Braunschweig,ドイツ国、で細菌株、酵母株又は菌株として寄託されている細菌、酵母又は菌類が適する。本発明により適した細菌は、
http : //www. dsmz . de/species/bacteria .htm
で記載の属に属し、本発明により適した酵母は、
http : //www. dsmz . de/species/yeasts .htm
で記載の属に属し、そして、本発明により適した菌類は、
http : //www. dsmz . de/species/fungi .htm
で記載のものである。
【0026】
本発明により好ましい細胞は、アスペルギルス(Aspergillus)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)、バシラス(Bacillus)、アシネトバクター(Acinetobacter)、アルカリゲネス(Alcaligenes)、ラクトバシラス(Lactobacillus)、パラコッカス(Paracoccus)、ラクトコッカス(Lactococcus)、カンジダ(Candida)、ピキア(Pichia)、ハンゼヌラ(Hansenula)、クルイベロマイサイス(Kluyveromyces)、サッカロマイセス(Saccharomyces)、エシェリキア(Escherichia)、ザイモモナス(Zymomonas)、ヤロウイア(Yarrowia)、メチロバクテリウム(Methylobacterium)、ラルストニア(Ralstonia)、シュードモナス(Pseudomonas)、ロドスピリルム(Rhodospirillum)、ロドバクター(Rhodobacter)、バークホルデリア(Burkholderia)、クロストリジウム(Clostridium)及びクプリアビダス(Cupriavidus)の属のものであり、その際、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、黒色アスペルギルス(Aspergillus niger)、アルカリゲネス・レイタス(Alcaligenes latus)、バシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バシラス・サチラス(Bacillus subtilis)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・ラクトフェルメンタム(Brevibacterium lactofermentum)、大腸菌(Escherichia coli)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、クリベロマイセス・ラクティス(Kluveromyces lactis)、カンジダ・ブランキ(Candida blankii)、カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、メチロバクテリウム・エキストルクエンス(Methylobacterium extorquens)、ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)、特にラルストニア・ユートロファH16(Ralstonia eutropha H16)、ロドスピリラム・ラブラム(Rhodospirillum rubrum)、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)、パラコッカス・ベルスタス(Paracoccus versutus)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、アシネトバクター・カルコアセティクス(Acinetobacter calcoaceticus)、及びピキア・パストリス(Pichia pastoris)が特に好ましい。
【0027】
したがって、その野生型に比較してより多くの2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートを中間生成物としてアセトアセチル−補酵素Aを介して、そして、予備生成物として3−ヒドロキシブチリル補酵素Aを介して形成することができる本発明の細胞は、アセトアセチル−補酵素Aから3−ヒドロキシブチリル−補酵素Aの反応を触媒作用する酵素E1の活性を有する。
【0028】
酵素E1は、好ましくは以下を含む群から選択された酵素である:
3−ヒドロキシアシル−CoAデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.35)、
アセトアセチル−補酵素Aレダクターゼ(EC1.1.1.36)、
長鎖−3−ヒドロキシアシル−CoAデヒドロゲナーゼ((EC1.1.1.211)及び
3−ヒドロキシブチリル−補酵素A−デヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.157)。
【0029】
この酵素は好ましくはphaB、phbB、fabG、phbN1、phbB2又はからなる群から選択された遺伝子によりコードされ、その際がphaB、phbBが特に好ましいこの遺伝子のヌクレオチド配列は例えば、"Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes" (KEGG-データバンク)、National Library of Medicine (Bethesda, MD, USA)のNational Center for Biotechnology Information (NCBI) のデータバンク、又はEuropean Molecular Biologies Laboratories (EMBL, Heidelberg, ドイツ国又はCambridge, UK)のヌクレオチド配列データバンクから取り出すことができる。
【0030】
本発明による細胞にとっては、本発明による細胞がその野生型と比較して酵素E1の上昇した活性を有することが好ましくあってよく、この酵素はアセトセチル−補酵素Aの3−ヒドロキシブチリル−補酵素Aへの反応を触媒作用する。
【0031】
酵素E1との関連で前述し、かつ、以下の詳細な説明において酵素E2等との関連において使用されるとおり、概念「酵素の上昇した活性」とは、好ましくは、上昇した細胞内活性が理解される。
【0032】
細胞中での酵素活性の向上のための以下の詳細な説明は、酵素E1の活性の向上のためにもまた同様にその活性が場合により向上させられることができる以下に挙げる酵素全てについても当てはまる。
【0033】
根本的に、酵素活性の上昇は、この酵素をコードする1の遺伝子配列又は複数の遺伝子配列のコピー数を向上させる、強力なプロモーターを使用する、この遺伝子のコドン利用を改変する、様々な手法でこのmRNA又はこの酵素の半値時間を向上させる、この遺伝子の発現の制御を調節するか、又は、上昇した活性でもってこの相応する酵素をコードする遺伝子又はアレルを使用し、かつ、場合により、これら処置を組み合わせることにより達成される。本発明により遺伝子工学的に改変された細胞は例えば、トランスフォーメーション、形質導入、コンジュゲーション又はこれら方法の組み合わせにより、ベクターを用いて生じさせられ、これはこの所望の遺伝子、この遺伝子のアレル又はこの部分及びこの遺伝子の発現を可能にするプロモーターを含有する。この非相同発現は特にこの細胞の染色体中へのこの遺伝子又はアレルの組み込み又は染色体外で複製するベクターにより達成される。
【0034】
ピルビン酸−カルボキシラーゼを例にとって細胞中での酵素活性の向上のための手段に関する概要DE A-100 31 999は示し、これは参照により参照文献として導入され、この開示内容は細胞中での酵素活性の向上のための手段に関して本発明の開示の一部を構成する。
【0035】
前述の及び全ての後述の酵素又は遺伝子の発現は、1−及び2−次元のタンパク質走行分離及び引き続くタンパク質濃度の光学的同定を用いて相応する評価ソフトウェアを使用してゲル中で検出可能である。酵素活性の向上がこの相応する遺伝子の発現の向上のみを基礎とする場合には、この酵素活性の向上の定量化は容易に、野生型と遺伝子工学的に改変された細胞間の1又は2次元のタンパク質走行分離の比較により測定されることができる。コリネフォルメ細菌でのこのタンパク質ゲルの調整のための及びこのタンパク質の同定のための慣用の方法はHermann et al.(Electrophoresis, 22: 1712.23 (2001) により記載された方法様式である。このタンパク質濃度は同様に、検出すべきタンパク質にとって特異的な抗体を用いてウェスタン−ブロット−ハイブリダイゼーション(Sambrook et al., Molecular Cloning: a laboratory manual, 2nd Ed. CoId Spring Harbor Laboratory Press, CoId Spring Harbor, N.Y. USA, 1989)及び濃度測定のための相応するソフトウェアを用いて引き続く光学的評価(Lohaus及びMeyer (1989) Biospektrum, 5: 32-39; Lottspeich (1999), Angewandte Chemie 111: 2630-2647)により分析されることができる。DNA結合性タンパク質の活性はDNA−バンド−シフト−アッセイ(ゲルリターデーションとも呼ばれる)を用いて測定されることができる(Wilson et al. (2001) Journal of Bacteriology, 183: 2151-2155)。DNA結合性タンパク質の他の遺伝子の発現に対する作用は様々な豊富に記載されている、リポート遺伝子−アッセイ方法により検出されることができる(Sambrook et al., Molecular Cloning: a laboratory manual, 2nd Ed. CoId Spring Harbor Laboratory Press, CoId Spring Harbor, N.Y. USA, 1989)。細胞内酵素活性は様々な記載された方法(Donahue et al. (2000) Journal of Bacteriology 182 (19): 5624-5627; Ray et al. (2000) Journal of Bacteriology 182 (8): 2277-2284; Freedberg et al. (1973) Journal of Bacteriology 115 (3): 816-823)により測定されることができる。以下の詳説において特定の酵素の活性の測定のための具体的方法が挙げられていない場合には、この酵素活性の上昇の測定及びまたこの酵素活性の減少の測定は好ましくはHermann et al., Electophoresis, 22: 1712-23 (2001), Lohaus et al., Biospektrum 5 32-39 (1998), Lottspeich, Angewandte Chemie 111: 2630-2647 (1999)及びWilson et al., Journal of Bacteriology 183: 2151-2155 (2001)中で記載の方法を用いて行われる。
【0036】
この酵素活性の向上が内因性遺伝子の突然変異により実施される場合には、この種の突然変異は典型的な方法により狙いを定めないで生じさせられることができ、これは例えばUV照射により又は突然変異誘発性化学薬品により生じさせられることができ、又は、狙いを定めて、遺伝子工学的方法により、例えば(1又は複数の)欠失、(1又は複数の)挿入及び/又は(1又は複数の)ヌクレオオチド交換により生じさせられることができる。この突然変異により改変された細胞が得られる。
【0037】
酵素の特に好ましい突然変異はとりわけ、フィードバック阻害可能性をもはや有しないか又は少なくとも野生型−酵素と比較して減少したフィードバック阻害可能性を有するような酵素である。
【0038】
酵素活性の向上が酵素の合成の向上により実施される場合には、例えばこの相応する遺伝子のコピー数を向上させるか又はプロモーター−及び調節配列又はリボソーム結合部位を突然変異させ、これはこの構造遺伝子の上流に存在する。同様に、構造遺伝子の上流に組み込まれる発現カセットが作用する。誘導可能なプロモーターにより付加的に、この発現をそれぞれ任意の時間点で上昇させることが可能である。更に、しかし、酵素−遺伝子に調節性配列としていわゆる「エンハンサー」も配置されていることができ、これはRNA−ポリメラーゼとDNAの間の改善された相互作用を介して同様に向上した遺伝子発現を引き起こす。このmRNAの寿命の延長化のための処置により同様にこの発現が改善される。
【0039】
更に、この酵素タンパク質の分解の防止により同様にこの酵素活性が増強される。この遺伝子又は遺伝子コンストラクトはこの場合に、様々なコピー数でもってプラスミド中に存在するか、又は、染色体中に組み込まれ、増幅される。代替的に、更に、当該遺伝子の過剰発現がこの培地組成物及び培養操作の改変により達成されることができる。
【0040】
このためのマニュアルを当業者は特にMartin et al. (Bio/Technology 5, 137-146 (1987))で、Guerrero et al.(Gene 138, 35-41 (1994))で、Tsuchiya及びMorinaga (Bio/Technology 6, 428-430 (1988))で、Eikmanns et al. (Gene 102, 93-98 (1991))で、EP-A-0 472 869に、US 4,601,893に、Schwarzer und Puehler (Bio/Technology 9, 84-87 (1991)で、Reinscheid et al.(Applied and Environmental Microbiology 60, 126-132 (1994))で、LaBarre et al. (Journal of Bacteriology 175, 1001-1007 (1993))で、WO-A-96/15246に、Malumbres et al. (Gene 134, 15-24 (1993)で、JP-A-10-229891に、Jensen及びHammer (Biotechnology and Bioengineering 58, 191-195 (1998))に及び遺伝学及び分子生物学の公知の教科書に見出す。前述の処置は突然変異と同様に遺伝子工学的に改変した細胞を生じる。
【0041】
このそれぞれの遺伝子の発現の向上には例えばエピソーム性プラスミドが使用される。プラスミド又はベクターとして原則的に当業者にこの目的のために提供される実施形態の全てが考慮される。この種のプラスミド及びベクターは例えば、Novagen社、Promega、New England Biolabs、Clontech又はGibco BRLのパンフレットから取り出すことができる。更なる好ましいプラスミド及びベクターは以下に見出すことができる:Glover, D. M. (1985), DNA cloning: a practical approach, Vol. I-III, IRL Press Ltd. , Oxford; Rodriguez, R. L.及びDenhardt, D. T (eds) (1988) , Vectors : a survey of molecular cloning vectors and their uses, 179-204, Butterworth, Stoneham; Goeddel, D. V. (1990) , Systems for heterologous gene expression, Methods Enzymol. 185, 3-7; Sambrook, J.; Fritsch, E. F.及びManiatis, T. (1989), Molecular cloning: a laboratory manual, 2nd ed., CoId Spring Harbor Laboratory Press, New York。
【0042】
増幅すべき遺伝子を含有するプラスミドベクターを引き続き、コンジュゲーション又はトランスフォーメーションにより所望の株に移す。コンジュゲーションの方法は例えばSchaefer et al., Applied and Environmental Microbiology 60: 756-759 (1994)に記載されている。トランスフォーメーションのための方法は例えばThierbach et al., Applied Microbiology and Biotechnology 29: 356-362 (1988), Dunican及びShivnan, Bio/Technology 7: 1067-1070 (1989)及びTauch et al., FEMS Microbiology Letters 123: 343-347 (1994)に記載されている。「cross-over」事象を用いた相同性組み換え後にこの生じる株は当該遺伝子の少なくとも2のコピーを含有する。
【0043】
前述及び後述の詳説で使用される表現「その野生型に比較した酵素Exの上昇した活性」とは好ましくは、常に、このそれぞれの酵素Exの少なくとも2倍、特に好ましくは少なくとも10倍、更に好ましくは少なくとも100倍、更に一層好ましくは少なくとも1000倍、最も好ましくは少なくとも10000倍上昇した活性を理解すべきである。更に、「その野生型に対して酵素Exの上昇した活性」を有する本発明による細胞は、特に、その野生型がこの酵素Exの活性を有しないか又は少なくとも検出可能な活性を有さず、かつ、この酵素活性の向上により、例えば過剰発現により、初めてこの酵素Exの検出可能な活性を示す細胞を含む。この関連において、概念「過剰発現」又は以下の詳説で使用される表現「発現の向上」は、出発細胞、例えば野生型細胞が発現を有しないか又は少なくとも検出可能な発現を有さず、かつ、組み換え方法により初めてこの酵素Exの検出可能な合成が誘発される場合も含む。
【0044】
以下使用される表現「酵素Exの減少した活性」とは、これに応じて好ましくは、少なくとも0.5倍、特に好ましくは少なくとも0.1倍、更に好ましくは少なくとも0.01倍、更に一層好ましくは少なくとも0.001倍、最も好ましくは少なくとも0.0001倍減少した活性が理解される。表現「減少した活性」は検出可能な活性も含まない(ゼロの活性)。特定の酵素の活性の減少化は例えば狙いを定めた突然変異により、競合性の又は非競合性の阻害剤の添加により、又は特定の酵素の活性の減少化のために当業者に知られた他の処置により行われることができる。
【0045】
その野生型に比較してより多くの2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートをアセトアセチル−補酵素Aを介して中間生成物として、及び、3−ヒドロイシブチリル−補酵素Aを介して予備生成物として形成することができる本発明による細胞が、炭水化物、グリセリン、油及び脂肪、二酸化炭素、カルボン酸又はメタノールを炭素供給源として使用できることが好ましい。
【0046】
更に、2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートをアセトアセチル−補酵素Aを介して中間生成物として、及び、3−ヒドロイシブチリル−補酵素Aを介して予備生成物として形成することができる本発明による細胞にとっては、この細胞が、場合により酵素E1の活性に付加して、酵素E2の活性、好ましくは、その野生型と比較して酵素E2の上昇した活性を有し、これが2のアセチル−補酵素Aからアセト−アセチル補酵素Aへの反応を触媒作用することが好ましい。
【0047】
酵素E2とは、好ましくは、アセチル−CoA C−アセチルトランスフェラーゼ(EC数 2.3.1.9)である。この酵素は好ましくは、acat1, acat2, Ioc484063, Ioc489421, mgc69098, mgc81403, mgc81256, mgc83664, kat-1, erg10, ygeF, atoB, fadAx, phbA-1, phbA-2, atoB-2, pcaF, pcaF-2, phb-A, bktB, phaA, tioL, thlA, fadA, paaJ, phbAf, pimB, mmgA, yhfS, thl, vraB, thl, mvaC, thiL, paaJ, fadA3, fadA4, fadA5, fadA6, cgll2392, catF, sc8f4.03, thiL1, thiL2, acaB1, acaB2, acaB3又はacaB4からなる群から選択される遺伝子によりコードされ、その際、acat1, acat2, atoB, thlA, thlB, phaA及びphbA、特に好ましくはphaA及びphbAである。
【0048】
この遺伝子のヌクレオチド配列は例えば、"Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes" (KEGG-データバンク)、National Library of Medicine (Bethesda, MD, USA)のNational Center for Biotechnology Information (NCBI) のデータバンク、又はEuropean Molecular Biologies Laboratories (EMBL, Heidelberg, ドイツ国又はCambridge, UK)のヌクレオチド配列データバンクから取り出すことができる。
【0049】
本発明による細胞は好ましくは酵素E3の少なくとも1の活性を、好ましくはその野生型と比較して酵素E3の上昇した活性を有し、これは3−ヒドロキシブチリル−補酵素Aから2−ヒドロキシイソブチリル補酵素Aの反応を触媒作用する。酵素E3は好ましくはヒドロキシル−イソブチリル−CoAムターゼ、イソブチリル−CoAムターゼ(EC5.4.99.13)又はメチルマロニル−CoAムターゼ(EC5.4.99.2)であり、そのつど好ましくは補酵素B12依存性ムターゼである。
【0050】
酵素E3は好ましくは微生物アキノコラ・テルシアリカルボニス(Aquincola tertiaricarbonis)L108、DSM18028、DSM18512、メチリビウム・ペテロレイフィリウムPM1(Methylibium petroleiphilum PM1)、メチリビウム種(Methylibium sp .)R8、キサントバクター・オートトロフィカスPy2(Xanthobacter autotrophicus Py2)、ロドバクター・スフェロイダス(Rhodobacter sphaeroides)(ATCC 17029)、ノカルジオイデス種(Nocardioides sp .)JS614、マリノバクター・アルギコラ(Marinobacter algicola)DG893、シノリゾビウム・メディカエ(Sinorhizobium medicae)WSM419、ロセノバリウス種(Roseovarius sp .)217、ピロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)DSM3638から単離される酵素、特に好ましくはPCT/EP2007/052830に記載の補酵素B12依存性ムターゼ、並びに、少なくとも1のその部分配列中にPCT/EP2007/052830に記載のムターゼ(アクセッション番号DQ436457.1及びDQ436456.1)の小又は大サブユニットのアミノ酸配列に対してアミノ酸レベルで少なくとも60%、有利には少なくとも80%、特に有利には少なくとも95%、特にとりわけ好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する酵素であり、これは期待閾値(expect threshold)10、ワードサイズ3、blosum62マトリックスでもって存在:11及び伸長1のギャップコスト及び条件組成スコアマトリックス調節(conditional compositional score matrix adjustment)でもってblastpアルゴリズムにより測定される。
【0051】
2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートをアセトアセチル−補酵素Aを中間生成物として、そして、3−ヒドロキシブチリル補酵素Aを予備生成物として形成することができる本発明の細胞の好ましい一実施態様においては、本発明による細胞は野生型として酵素E4の活性を、好ましくはその野生型に比較して少なくとも1の酵素E4の低下した活性を有し、これは3−ヒドロキシブチリル−補酵素Aからポリヒドロキシブチラートへの反応を触媒作用する。
【0052】
酵素E4は好ましくはポリヒドロキシアルカノアート合成酵素、特に好ましくはポリヒドロキシブチラート合成酵素である。この酵素は好ましくは遺伝子phbC又はphaCによりコードされ、その際phaCが特に好ましい。
【0053】
2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートをアセトアセチル−補酵素Aを中間生成物として、そして、3−ヒドロキシブチリル補酵素Aを予備生成物として形成することができる本発明の細胞の更なる好ましい一実施態様においては、本発明による細胞は野生型として酵素E5の活性を、特にその野生型に比較して酵素E5の低下した活性を有し、これは3−ヒドロキシブチリル−補酵素Aからクロトニル−補酵素Aへの反応を触媒作用する。
【0054】
酵素E5は好ましくはクロトナーゼ(EC数4.2.1.55)又は(3R)−3−ヒドロキシブタノイル−CoAデヒドラターゼ(EC数4.2.1.17)である。この酵素は好ましくはcrt, crt1, crt2, fadB, paaFからなる群から選択される遺伝子によりコードされ、その際crt並びにクロストリジンからのこの相応する遺伝子が好ましく、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)からのcrtが特に好ましい。
【0055】
2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートをアセトアセチル−補酵素Aを介して中間生成物として、そして、3−ヒドロキシブチリル補酵素Aを予備生成物として形成することができる本発明の細胞の更なる好ましい一実施態様においては、本発明による細胞は酵素E6の活性を、好ましくはその野生型に比較して酵素E6の低下した活性を有し、これはR−3−ヒドロキシブチリル−補酵素AからS−3−ヒドロキシブチリル−補酵素Aへの反応を触媒作用する。
【0056】
酵素E6とは好ましくは3−ヒドロキシブチリル−CoAエピメラーゼ(EC 5.1.2.3)である。この酵素は好ましくはfadB, fadB1, fadB2, fadJ, fabJ-1, faoA yfcXからなる群から選択された遺伝子によりコードされ、その際fadB, fadJ, yfcXが好ましく、fadB, fadJが特に好ましい。
【0057】
更に、2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートをアセトアセチル−補酵素Aを介して中間生成物として、そして、3−ヒドロキシブチリル補酵素Aを予備生成物として形成することができる本発明の細胞にとっては、本発明による細胞がその野生型に比較して少なくとも1の酵素E7の低下した活性を有することが好ましく、これは3−ヒドロキシブチリル−補酵素Aを基質として許容する。
【0058】
冒頭部で挙げた課題解決のためには次の方法工程:
a)本発明による細胞を、炭素供給源を含む栄養培地と、この炭素供給源から2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートが形成される条件下で接触させる方法工程、並びに、場合により
b)2−ヒドロキシイソ酪酸をこの栄養培地から、又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートをこの細胞から精製する方法工程
を含む2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートの製造方法が更に寄与する。
【0059】
炭素供給源として例えば次のものが使用されることができる:
炭水化物[例えば単糖(例えばグルコース、フルクトース、ガラクトース、アラビノース、キシロース)、オリゴ糖(例えばマルトース、サッカロース、ラクトース)、及び多糖(例えばデンプン、加水分解処理されたデンプン、セルロース、加水分解処理されたセルロース、ヘミセルロース、加水分解処理されたヘミセルロース)]、並びにその反応生成物、例えば
糖アルコール及びポリヒドロキシ酸;
二酸化炭素;
有機の、場合により1又は複数の、例えば1、2、3又は4個のヒドロキシル基を有するモノ−、ジ−及びトリカルボン酸、例えば酢酸、酒石酸、イタコン酸、コハク酸、プロピオン酸、乳酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、2,5−フランジカルボン酸、グルタル酸、レブリン酸、グルコン酸、アコニット酸、コハク酸及び
ジアミノピメリン酸、クエン酸;
脂質;
油又は脂肪、例えばナタネ油、大豆油、パーム油、ヒマワリ油、落花生油及びヤシ油;
飽和及び不飽和脂肪酸であって好ましくは10〜22個のC原子を有するもの、例えばγ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸;
炭化水素、例えばメタン;
アルコール、例えば1〜22個のC原子を有するもの、例えばブタノール、メタノール、エタノール;
ジオールであって好ましくは3〜8個のC原子を有するもの、例えばプロパンジオール及びブタンジオール;
3以上の、例えば3、4、5又は6個のOH基を有する多価(高級とも呼ばれる)アルコール、例えばグリセリン、ソルビトール、マンニトール、キシリトール及びアラビニトール;
ケトンであって好ましくは3〜10個のC原子及び場合により1以上のヒドロキシル基を有するもの、例えばアセトン及びアセトイン;
ラクトン、例えばγ−ブチロラクトン、シクロデキストリン、生体高分子、例えばポリヒドロキシアセタート、ポリエステル、例えばポリラクチド、多糖、ポリイソプレノイド、ポリアミド;
芳香族化合物、例えば芳香族アミン、バニリン及びインジゴ;
タンパク質、例えば酵素、例えばアミラーゼ、ペクチナーゼ、酸、ハイブリッドの又は中性のセルラーゼ、エステラーゼ、例えばリパーゼ、パンクレアーゼ、プロテアーゼ、キシラナーゼ及びオキシドレダクターゼ、例えばラッカーゼ、ケタラーゼ及びペルオキシダーゼ、グルカナーゼ、フィターゼ;カロテノイド、例えばリコピン、β−カロチン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン及びカンタキサンチン;
タンパク質性及び非タンパク質性アミノ酸、例えばリシン、グルタマート、メチオニン、フェニルアラニン、アルパルギン酸、トリプトファン及びトレオニン;
プリン−及びピリミジン塩基;
ヌクレオシド及びヌクレオチド、例えばニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)及びアデノシン−5′−一リン酸(AMP);
並びに前述の化合物の前駆体及び誘導体、例えば挙げられた酸の場合にはその塩。
【0060】
これらの物質は、単独で又は混合として使用されることができる。特に好ましくは炭水化物、特に単糖、オリゴ糖又は多糖、例えばUS 6,136,576に記載されているようなもの、C5−糖又はグリセリンの使用である。メタノールは好ましく使用すべきアルコールであり、というのもこれは多数の様々な供給源、例えばバイオガス、バイオマス、天然ガス又は石炭から製造されることができるからである。炭素供給源は、様々な形態で(純粋に又は溶液/懸濁液中で)かつ様々な組成で(精製して又は粗生成物として)、様々な加工段階(例えばサトウキビジュース、シロップ、糖蜜、粗糖、結晶糖;トウモロコシ粒(Maiskorn)、小麦粉、デンプン、デキストリン、グルコース)から、処理(蒸気爆発、酸予備処理、酵素による前処理)前又は後に使用されることができる。
【0061】
好ましい代替的な一実施態様において、この炭素供給源はCO2又はCO、特に合成ガスを含む。この関連において使用される本発明による細胞は、アセトゲン(acetogen)細胞、例えば、アセトバクテリウムの属の種類、例えばA.ウッディ(woodii)及びクロストリジウム・アセチクム(Clostridium aceticum)である。特には、サーモアナエロバクター・キブイ(Thermoanaerobacter kivui)、アセトバクテリウム・ウッディ(Acetobacterium woodii)、アセトアンアエロビウム・ノテラ(Acetoanaerobium notera)、クロストリジウム・アセチクム(Clostridium aceticum)、ブチリバクテリウム・メチロトロフィカム(Butyribacterium methylotrophicum)、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)、ムーレラ・サーモアセチカ(Moorella thermoacetica)、ユウバクテリウム・リモサム(Eubacterium limosum)、ペプトストレプトコッカス・プロダクツス(Peptostreptococcus productus)、クロストリジウム・リュングダリイ(Clostridium ljungdahlii)及びクロストリジウム・カルボキシディボランス(Clostridium carboxidivorans)を含む群から選択されているこのアセトゲン細胞である。この関連において特に適した細胞はクロストリジウム・カルボキシディボランスであり、特に例えば「P7」及び「P11」の株のものである。このような細胞は例えばUS 2007/0275447及びUS 2008/0057554に記載されている。更なる、この関連において特に適した細胞は、クロストリジウム・リュングダリイであり、特にクロストリジウム・リュングダリイPETC、クロストリジウム・リュングダリイERI2、クロストリジウム・リュングダリイC01及びクロストリジウム・リュングダリイO52を含む群から選択された株であり、かつ、WO 98/00558及びWO 00/68407に記載される。
【0062】
本発明による、遺伝子工学的に改変された細胞は連続的に又は不連続的にバッチ法(バッチ培養)で又は流加培養法(供給法)又はrepeated-fed-batch法(繰り返した流加培養法)で2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートの製造の目的で栄養培地と接触され、これにより培養されることができる。半連続方法も考慮でき、これは例えばGB-A-1009370に記載されている。公知の培養方法に関する概要は、Chmielによる教科書(Bioprozesstechnik 1. Einfuehrung in die Bioverfahrenstechnik (Gustav Fischer Verlag, Stuttgart, 1991))又はStorhasによる教科書(Bioreaktoren und periphere Einrichtungen (Vieweg Verlag, Braunschweig/Wiesbaden, 1994))に記載されている。
【0063】
使用すべき培養培地は適したように、前記のそれぞれの株の要求を満足しなくてはならない。様々な微生物の培養培地の記載は、American Society for Bacteriology(Washington D.C., USA, 1981)の教科書「Manual of Methods for General Bacteriology」に含まれている。
【0064】
窒素供給源として、有機窒素含有化合物、例えばペプトン、酵母エキス、肉エキス、麦芽エキス、コーンスティープリカー、大豆粉及び尿素又は無機化合物、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウムが使用されることができる。前記窒素供給源は、単独で又は混合として使用されることができる。
【0065】
リン供給源として、リン酸、リン酸二水素カリウム又はリン酸水素二カリウム又はこの相応するナトリウム含有塩が使用されることができる。前記培養培地は更に、金属塩、例えば硫酸マグネシウム又は硫酸鉄を含有しなくてはならず、これらは成長に必要である。最後に、必須成長物質、例えばアミノ酸及びビタミンを上述の物質に付加的に使用することができる。培養培地にはその上適した前駆体が添加されることができる。上述の使用物質は、1回のバッチの形で培養物に添加するか、適した方法で、この培養の間に供給されてよい。
【0066】
前記培養物のpH調節のために、塩基性化合物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、又はアンモニア水、又は酸性化合物、例えばリン酸、又は硫酸を適した方法で使用する。泡の発生の調節のために、消泡剤、例えば脂肪酸ポリグリコールエステルが使用できる。プラスミドの安定性の維持のために前記溶媒に、適した選択的に作用する物質、例えば抗生物質を添加できる。好気的条件を維持するために、酸素又は酸素含有ガス混合物、例えば空気を前記培養物中に導入する。この培養物の温度は、通常は20℃〜45℃、有利には25℃〜40℃である特に、グリセリンを基質として変換できる細胞の使用の際には、細胞としてUS 6,803,218に記載されるような細胞を使用することが好ましくあることができる。この場合には細胞は40〜100℃の範囲で培養されることができる。
【0067】
2−ヒドロキシイソ酪酸のこの栄養溶液からの精製は好ましくは連続的に行われ、その際この関連においてこの2−ヒドロキシイソ酪酸の製造も発酵を介して連続的に実施することが更に好ましく、この結果、2−ヒドロキシイソ酪酸の製造から発酵ブイヨンからのその精製までの全プロセスが実施されることができる。この発酵ブイヨンからの2−ヒドロキシイソ酪酸の製造の連続的精製のためにはこれは連続的にこの発酵の際に使用される微生物の分離のための装置を介して、好ましくは20〜200kDaの範囲の排除大きさを有するフィルターを介して実施され、この中では固/液分離が生じる。遠心分離、適した沈殿装置の使用又はこれら装置の組み合わせも考慮でき、その際、この微生物の少なくとも一部をまずは沈殿を介して分離し、引き続き微生物から一部除去された発酵ブイヨンを限外濾過又は遠心分離装置に供給することが特に好ましい。
【0068】
その2−ヒドロキシイソ酪酸−含分に関して濃縮された発酵結果物はこの微生物の分離後に好ましくは多工程の分離設備に供給される。この分離設備においては複数の相前後して接続した分離段階が予定されており、ここからそのつど返送ラインにつながり(ausmuenden)、これは発酵タンクに戻されている。更にこのそのつどの分離段階から排出ラインが導出(herausfuehren)される。この個々の分離段階は電気透析、逆浸透、限外濾過又はナノ濾過の原理に応じて作業されることができる。通常これは個々の分離段階中の膜−分離機である。この個々の分離段階の選択は、発酵副生成物及び基質残分の種類及び範囲から明らかである。
【0069】
終生成物として水性2−ヒドロキシイソ酪酸−溶液がこの過程で得られる電気透析、逆浸透、限外濾過又はナノ濾過を用いた2−ヒドロキシイソ酪酸の分離の他に、2−ヒドロキシイソ酪酸は抽出方法によってもこの微生物を除去した発酵溶液から分離されることができ、その際、この場合には最終的に、純粋な2−ヒドロキシイソ酪酸が得られることができる。抽出を介した2−ヒドロキシイソ酪酸の分離のためには発酵溶液には例えばアンモニウム化合物又はアミンが、2−ヒドロキシイソ酪酸のアンモニウム塩を形成するために、添加されることができる。このアンモニウム塩は次いでこの発酵溶液から分離されることができ、この中には有機抽出剤が添加され、かつ、このようにして得られた混合物は引き続き加熱され、これによりこのアンモニウム塩は有機相中に濃縮する。この相からは次いで2−ヒドロキシイソ酪酸が、純粋な2−ヒドロキシイソ酪酸を獲得しながら例えば更なる抽出工程により単離されることができる。この分離方法についてのより正確な詳細はWO-A-02/090312から取り出すことができ、この開示の内容は発酵溶液からのヒドロキシカルボン酸の分離に関して参照により参照文献として導入され、かつ、本出願の開示の一部を構成する。
【0070】
この発酵溶液からの2−ヒドロキシイソ酪酸の分離の手法に応じて、2〜90質量%、好ましくは7.5〜50質量%、特に好ましくは10〜25質量%の2−ヒドロキシイソ酪酸を含有する水性2−ヒドロキシイソ酪酸−溶液、しかし又は、純粋な2−ヒドロキシイソ酪酸のいずれかが得られる。
【0071】
2−ヒドロキシイソ酪酸は濃度の上昇と共に、その環式ダイマー(テトラメチルグリコライド、TMG)を形成する傾向がある。このダイマーは本発明による方法の脱水工程において2−ヒドロキシイソ酪酸と同様に処理されることができ、したがって以下においてはこの方法工程のためには常に「2−ヒドロキシイソ酪酸」の概念に含まれる。
【0072】
更に、本発明による方法により製造された2−ヒドロキシイソ酢酸は、この精製の前、間又は後に更に中和されることができ、その際、このためには例えば塩基、例えばアルカリ−又はアルカリ土類金属水酸化物、例えば水酸化カルシウム又は水酸化ナトリウム、又は例えばNH3又はNH4OHも使用されることができる。
【0073】
冒頭部で挙げた課題解決には特に、次の方法工程:
IA)2−ヒドロキシイソ酪酸を前述の方法により製造し、並びに、場合により、この2−ヒドロキシイソ酪酸を精製及び/又は中和する方法工程、
IB)この2−ヒドロキシイソ酪酸をメタクリル酸の形成下で脱水し、並びに、場合により、このメタクリラート又はメタクリル酸をエステル化する方法工程
を含むメタクリル酸又はメタクリル酸エステルの製造方法も寄与する。
【0074】
方法工程IB)によれば2−ヒドロキシイソ酪酸はメタクリル酸の形成下で脱水され、その際このためにはこの発酵溶液から単離された、純粋な2−ヒドロキシイソ酪酸、しかし又は、この発酵溶液の後処理の際に単離された水性2−ヒドロキシイソ酪酸溶液のいずれかが使用されることができ、その際、これは場合により更に、脱水前に例えば蒸留により、場合により適した共留剤の存在下で濃縮される。
【0075】
この脱水は根本的には液相中で又は気相中で実施されることができる。更に、本発明により、この脱水を触媒の存在下で行うことが好ましく、この場合にはこの使用される触媒の種類は気相−又は液相反応のいずれが実施されるかに依存する。
【0076】
脱水化触媒として酸性触媒もまた同様にアルカリ性触媒も考慮される。酸性触媒は特にオリゴマー形成のための少ない傾向のために好ましい。脱水触媒は均一系触媒としてもまた同様に不均一系触媒としても使用されることができる。脱水触媒が不均一系触媒として存在する場合には、脱水触媒が担体xと接触することが好ましい。担体xとしては当業者にとって適しているように見える全ての固形物質が考慮される。この関連において、この固形物質が適した孔体積を有することが好ましく、これは脱水触媒の良好な結合及び収容に適している。更に、DIN 66133に応じた、0.01〜3ml/gの範囲内にある全孔体積が好ましく、0.1〜1.5ml/gの範囲内にある全孔体積が特に好ましい。その上、担体xとして適した固形物質が、DIN 66131に応じたBET試験により、0.001〜1000m2/gの範囲内の、好ましくは0.005〜450m2/gの範囲内の、更に好ましくは0.01〜300m2/gの範囲内の表面積を有することが好ましい。脱水触媒のための担体としては、一方では、0.1〜40mmの範囲内の、好ましくは1〜10mmの範囲内の、更に好ましくは1.5〜5mmの範囲内の平均粒子直径を有するばら材(Schuettgut)が使用されることができる。更に、脱水反応器の壁が担体として使用されることができる。更に、担体は自体で酸性又は塩基性であることができるか又は酸性又は塩基性の脱水触媒が不活性担体に設けられることができる。設ける技術として特に浸漬又は含浸又は担体マトリックス中への混和を挙げることができる。
【0077】
脱水触媒特性をも有することができる担体xとしては特に、天然又は合成のシリカート性物質、例えば特にモルデナイト、モンモリロナイト、酸性ゼオライト;一、二又は多塩基性の無機酸、特にリン酸、又は無機酸の酸性塩でコーティングした担体物質、例えば、酸化物性又はシリカート性物質、例えばAl23、TiO2;酸化物及び混合酸化物、例えばγ−Al23及びZnO−Al23−混合酸化物であってヘテロポリ酸のものが適している。
【0078】
これは、担体xが少なくとも部分的に酸化物性化合物からなる本発明による実施態様に当たる。この種の酸化物性化合物はSi、Ti、Zr、Al、Pの少なくとも1の元素又はこの少なくとも2の組み合わせを有するものである。この種の担体は自体でその酸性の又は塩基性の特性により脱水触媒として作用することもできる。好ましい、xとしての担体としてもまた同様に脱水触媒としても作用する化合物クラスは、ケイ素/アルミニウム/リン酸化物を包含する。好ましい、塩基性の、脱水触媒としてもまた同様に担体xとしても機能する物質は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタン、ランタノイド又はこの少なくとも2の組み合わせをその酸化物の形で包含する。この種の酸性の又は塩基性の脱水触媒はEvonik Degussa GmbHでもまた同様にSuedchemie AGでも入手できる。イオン交換体は更なるクラスを示す。これも塩基性のまた同様に酸性の形に存在することができる。
【0079】
均一系脱水触媒としては特に無機酸、好ましくはリン含有酸、更に好ましくはリン酸が考慮される。これら無機酸は担体xに浸漬又は含浸により固定化されることができる。
【0080】
特に気相脱水では不均一系触媒の使用が特に信頼できる。しかし液相脱水では均一系脱水触媒もまた同様に不均一系脱水触媒も使用される。
【0081】
その上、本発明による方法においては、+1〜−10の範囲内の、好ましくは+2〜−8.2の範囲内の、更に好ましくは液相脱水の際に+2〜−3の範囲内の、気相脱水において−3〜−8.2の範囲内のH0値を有する脱水触媒が使用されることが好ましい。このH0値は、Haemmertによる酸度関数に当たり、かつ、いわゆるアミン滴定及び指示薬の使用により又は気状塩基の吸収により算出される("Studies in Surface Science and Catalytics", Vol. 51, 1989: "New solid Acids and Bases, their catalytic Properties", K. Tannabe et al 参照のこと)。
【0082】
本発明による方法の特別な一実施態様によれば、酸性固形物質触媒として無機酸と、好ましくはリン酸と又は超酸と、例えば硫酸化(suldatisieren)又はホスファチド化した酸化ジルコニウムと接触させた孔形状の担体物質が使用され、これは好ましくは少なくとも90質量%が、更に好ましくは少なくとも95質量%が、最も好ましくは少なくとも99質量%が酸化ケイ素、好ましくはSiO2を基礎とする。この孔形状の担体物質と無機酸との接触は好ましくは担体物質の酸での含浸により行われ、その際、これは好ましくは、担体物質の質量に対して10〜70質量%の範囲内、特に好ましくは20〜60質量%の範囲内、更に好ましくは30〜50質量%の範囲内の量でこれと接触され、引き続き乾燥される。乾燥に引き続き、この担体物質は無機酸の固定化のために加熱され、好ましくは300〜600℃の範囲内、更に好ましくは400〜500℃の範囲内の温度に加熱される。
【0083】
本発明による方法の特別な一実施態様によれば、この脱水は気相中で実施される。この場合に、慣用の装備、例えば気相反応のために当業者に知られている装備、例えば管型反応器が使用されることができる。特に好ましくは、管束型熱交換器並びに熱交換器として熱プレート(Thermobleche)を包含する反応器の使用である。
【0084】
気相脱水の一実施態様によれば、純粋な2−ヒドロキシイソ酪酸が前述の固体層触媒を含む反応器中に導入される。
【0085】
他の一実施態様によれば、そのつど水溶液の全質量に対して、2〜80質量%、特に好ましくは5〜50質量%、更に好ましくは10〜25質量%の2−ヒドロキシイソ酪酸を含有する水溶液の形にある2−ヒドロキシイソ酪酸が、この反応器中に導入される。この反応器の内部中の圧力−及び温度条件は、この2−ヒドロキシイソ酪酸又はこの水溶液がこの反応器中への進入の際に気状の形で存在するように選択される。気相中での脱水は好ましくは温度範囲200〜400℃、特に好ましくは250〜350℃で行われる。この反応器の内部中の圧力は気相脱水の際に好ましくは0.1〜50barの範囲内、特に好ましくは0.2〜10barの範囲内、最も好ましくは0.5〜5barの範囲内にある。
【0086】
反応器中に導入される2−ヒドロキシイソ酪酸の量は気相脱水の際に好ましくは10〜100Vol.−%の範囲内に、特に好ましくは20〜100Vol.−%の範囲内に、最も好ましくは30〜100Vol.−%の範囲内にある。
【0087】
本発明による方法の別の特別な一実施態様によれば、この脱水は液相中で実施される。この液相脱水は同様に、当業者に知られている全ての装備中で実施されることができ、この中では液体が所望される反応温度に加熱されることができ、その際、この装備は、反応成分を所望の温度条件下で液状に維持するのに十分な圧力に課されることができる。
【0088】
本発明による方法の特別な一実施態様によれば、液相脱水のこの方法は、純粋な2−ヒドロキシイソ酪酸、又は水溶液の全質量に対して5〜100質量%、特に好ましくは20〜100質量%、最も好ましくは50〜100質量%の2−ヒドロキシイソ酪酸を含有する水溶液を反応器中に導入する第1の方法工程を含む。この反応器の内部中の圧力−及び温度条件は、この2−ヒドロキシイソ酪酸又はこの水溶液がこの反応器中への進入の際に液状の形で存在するように選択される。脱水が液相中で実施される本発明による特別な一実施態様によれば、2−ヒドロキシイソ酪酸又はこの水溶液が脱水反応器の内部中に、この液相がこの触媒粒子の表面に沿って滴るように、触媒固体層を介して導通される。この種の実施様式は例えば細流床反応器中で実施されることができる。
【0089】
液相中での脱水は好ましくは温度範囲200〜350℃、特に好ましくは250〜300℃で行われる。この反応器の内部中の圧力は液相脱水の際に好ましくは1〜50barの範囲内、特に好ましくは2〜25barの範囲内、最も好ましくは3〜10barの範囲内にある。
【0090】
脱水の触媒作用は気相脱水の場合にもまた同様に液相脱水の場合にも均一系で又は不均一系で行うことができる。
【0091】
均一系触媒作用では、次いで好ましくは無機酸、例えばリン酸又は硫酸である触媒が、まず純粋な2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸を含む水溶液と接触させられる。引き続き、このように得られた組成物を反応器中に導入し、所望の圧力−及び温度条件下でメタクリル酸に移行させる。無機酸を2−ヒドロキシイソ酪酸又はこの水溶液とは無関係に反応器中に導入することも考慮できる。この場合にはこの反応器は少なくとも2の供給ラインを有し、1つは2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸を含有する水溶液のためであり、もう1つは触媒のためである。脱水が液相中で細流床反応器中で実施される場合には、触媒を2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸を含有する水溶液と一緒に反応器の頭部領域中に導入することが好ましい。
【0092】
不均一系触媒作用の場合には、この触媒は、固体の基材の形で反応室中に、例えば固体層ばら物(Festbettschuettung)の形で、触媒で被覆された板、好ましくは熱プレートの形で存在し、これは反応器の内部中に配置されているか、しかし又は、触媒で被覆された反応器壁の形にある。可能性のある反応器は例えばDE-A-198 48 208、DE-A-100 19 381及びEP-A1 234 612に記載されている。不均一系触媒作用の場合には、触媒として無機酸と接触させた、好ましくは含浸させた孔形状の担体物質が好ましい。2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸を含有する水溶液を次いで、蒸気状の又は液状の形で、固体の触媒材料の表面と接触させる。
【0093】
本発明による方法の特別に好ましい一実施態様によれば、2−ヒドロキシイソ酪酸の脱水は液相中で200〜500mbarの範囲内の圧力で、160〜300℃、好ましくは200〜240℃の範囲内の温度で、触媒としてアルカリ金属イオンの存在下で実施される。
【0094】
この生じたメタクリル酸は本発明による反応条件では気状で水と一緒になって留去され、引き続き水溶液として凝縮され、この結果、触媒成分を含有しないメタクリル酸水溶液が得られることができる。
【0095】
このようにして得られるメタクリル酸溶液は本発明による方法の特別な一実施態様によれば容易に更なる後処理なしに場合によりエステル化に供給されることができる。この場合にこのメタクリル酸溶液は相応するアルコール並びに適した、当業者に知られているエステル化触媒、例えば濃縮した酸と加熱下で接触させられ、このメタクリル酸はこのようにして相応するエステルに移行する。
【0096】
好ましいアルコールには特に、そのつど少なくとも1の炭素原子、好ましくは2〜12、特に好ましくは4〜9個の炭素原子を有するアルコールが属する。このアルコールは線状、分枝鎖状又は環式構造を有することができる。更に、このアルコールは芳香族基又は置換基、例えばハロゲン原子を含むことができる。好ましいアルコールには特にメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、1−メチル−プロパノール、2−メチルプロパノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、1−メチルブタノール、2−メチルブタノール、3−メチルブタノール、2,2−ジメチルプロパノール、n−ヘキサノール、1−メチルペンタノール、2−メチルペンタノール、3−メチルペンタノール、4−メチルペンタノール、1,1−ジメチルブタノール、2,2−ジメチルブタノール、3,3−ジメチルブタノール、1,2−ジメチルブタノール、n−ヘプタノール、1−メチルヘキサノール、2−メチルヘキサノール、3−メチルヘキサノール、4−メチルヘキサノール、1,2−ジメチルペンタノール、1,3−ジメチルペンタノール、1,1−ジメチルペンタノール、1,1,2,2,−テトラメチルプロパノール、ベンジルアルコール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、n−ノナノ−ル、1−メチルオクタノール、2−メチルオクタノール、n−デカノール、n−ウンデカノール、1−メチルデカノール、2−メチルデカノール、n−ドデカノール、2,4−ジエチルオクタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、4−tert−ブチルシクロヘキサノール、シクロヘプタノール、シクロドデカノール、2−(ジメチルアミノ)エタノール、3−(ジメチルアミノ)プロパノール、4−(ジメチルアミノ)ブタノール、5−(ジメチルアミノ)−ペンタノール、6−(ジメチルアミノ)ヘキサノール、8−(ジメチルアミノ)オクタノール、10−(ジメチルアミノ)デカノール、12−(ジメチルアミノ)ドデカノール、2−(ジエチルアミノ)エタノール、3−(ジエチルアミノ)プロパノール、4−(ジエチルアミノ)ブタノール、5−(ジエチルアミノ)−ペンタノール、6−(ジエチルアミノ)ヘキサノール、8−(ジエチルアミノ)オクタノール、10−(ジエチルアミノ)デカノール、12−(ジエチルアミノ)ドデカノール、2−(ジ(イソプロピル)−アミノ)−エタノール、3−(ジ(イソプロピル)アミノ)−プロパノール、4−(ジ(イソプロピル)−アミノ)ブタノール、5−(ジ(イソプロピル)−アミノ)ペンタノール、6−(ジ(イソプロピル)−アミノ)ヘキサノール、8−(ジ(イソプロピル)−アミノ)オクタノール、10−(ジ(イソプロピル)−アミノ)デカノール、12−(ジ(イソプロピル)−アミノ)ドデカノール、2−(ジブチルアミノ)−エタノール、3−(ジブチルアミノ)−プロパノール、4−(ジブチルアミノ)−ブタノール、5−(ジブチルアミノ)−ペンタノール、6−(ジブチルアミノ)−ヘキサノール、8−(ジブチルアミノ)−オクタノール、10−(ジブチルアミノ)−デカノール、12−(ジブチルアミノ)−ドデカノール、2−(ジヘキシルアミノ)−エタノール、3−(ジヘキシルアミノ)−プロパノール、4−(ジヘキシルアミノ)−ブタノール、5−(ジヘキシルアミノ)−ペンタノール、6−(ジヘキシルアミノ)−ヘキサノール、8−(ジヘキシルアミノ)−オクタノール、10−(ジヘキシルアミノ)−デカノール、12−(ジヘキシルアミノ)−ドデカノール、2−(メチル−エチル−アミノ)−エチ−、2−(メチル−プロピル−アミノ)−エタノール、2−(メチル−イソプロピル−アミノ)−エタノール、2−(メチル−ブチル−アミノ)−エタノール、2−(メチル−ヘキシル−アミノ)−エタノール、2−(メチル−オクチル−アミノ)−エタノール、2−(エチル−プロピル−アミノ)−エタノール、2−(エチル−イソプロピル−アミノ)−エタノール、2−(エチル−ブチル−アミノ)−エタノール、2−(エチル−ヘキシル−アミノ)−エタノール、2−(エチル−オクチル−アミノ)−エタノール、3−(メチル−エチル−アミノ)−プロパノール、3−(メチル−プロピル−アミノ)−プロパノール、3−(メチル−イソプロピル−アミノ)−プロパノール、3−(メチル−ブチル−アミノ)−プロパノール、3−(メチル−ヘキシル−アミノ)−プロパノール、3−(メチル−オクチル−アミノ)−プロパノール、3−(エチル−プロピル−アミノ)−プロパノール、3−(エチル−イソプロピル−アミノ)−プロパノール、3−(エチル−ブチル−アミノ)−プロパノール、3−(エチル−ヘキシル−アミノ)−プロパノール、3−(エチル−オクチル−アミノ)−プロパノール、4−(メチル−エチル−アミノ)−ブタノール、4−(メチル−プロピル−アミノ)−ブタノール、4−(メチル−イソプロピル−アミノ)−ブタノール、4−(メチル−ブチル−アミノ)−ブタノール、4−(メチル−ヘキシル−アミノ)−ブタノール、4−(メチル−オクチル−アミノ)−ブタノール、4−(エチル−プロピル−アミノ)−ブタノール、4−(エチル−イソプロピル−アミノ)−ブタノール、4−(エチル−ブチル−アミノ)−ブタノール、4−(エチル−ヘキシル−アミノ)−ブタノール、4−(エチル−オクチル−アミノ)−ブタノール、2−(N−ピペリジニル)−エタノール、3−(N−ピペリジニル)−プロパノール、4−(N−ピペリジニル)−ブタノール、5−(N−ピペリジニル)−ペンタノール、6−(N−ピペリジニル)−ヘキサノール、8−(N−ピペリジニル)−オクタノール、10−(N−ピペリジニル)−デカノール、12−(N−ピペリジニル)−ドデカノール、2−(N−ピロリジニル)−エタノール、3−(N−ピロリジニル)−プロパノール、4−(N−ピロリジニル)−ブタノール、5−(N−ピロリジニル)−ペンタノール、6−(N−ピロリジニル)−ヘキサノール、8−(N−ピロリジニル)−オクタノール、10−(N−ピロリジニル)−デカノール、12−(N−ピロリジニル)−ドデカノール、2−(N−モルホリノ)−エタノール、3−(N−モルホリノ)−プロパノール、4−(N−モルホリノ)−ブタノール、5−(N−モルホリノ)−ペンタノール、6−(N−モルホリノ)−ヘキサノール、8−(N−モルホリノ)−オクタノール、10−(N−モルホリノ)−デカノール、12−(N−モルホリノ)−ドデカノール、2−(N′−メチル−N−ピペラジニル)−エタノール、3−(N′−メチル−N−ピペラジニル)−プロパノール、4−(N′−メチル−N−ピペラジニル)−ブタノール、5−(N′−メチル−N−ピペラジニル)−ペンタノール、6−(N′−メチル−N−ピペラジニル)−ヘキサノール、8−(N′−メチル−N−ピペラジニル)−オクタノール、10−(N′−メチル−N−ピペラジニル)−デカノール、12−(N′−メチル−N−ピペラジニル)−ドデカノール、2−(N′−エチル−N−ピペラジニル)−エタノール、3−(N′−エチル−N−ピペラジニル)−プロパノール、4−(N′−エチル−N−ピペラジニル)−ブタノール、5−(N′−エチル−N−ピペラジニル)−ペンタノール、6−(N′−エチル−N−ピペラジニル)−ヘキサノール、8−(N′−エチル−N−ピペラジニル)−オクタノール、10−(N′−エチル−N−ピペラジニル)−デカノール、12−(N′−エチル−N−ピペラジニル)−ドデカノール、2−(N′−イソプロピル−N−ピペラジニル)−エタノール、3−(N′−イソプロピル−N−ピペラジニル)−プロパノール、4−(N′−イソプロピル−N−ピペラジニル)−ブタノール、5−(N′−イソプロピル−N−ピペラジニル)−ペンタノール、6−(N′−イソプロピル−N−ピペラジニル)−ヘキサノール、8−(N′−イソプロピル−N−ピペラジニル)−オクタノール、10−(N′−イソプロピル−N−ピペラジニル)−デカノール、12−(N′−イソプロピル−N−ピペラジニル)−ドデカノール、3−オキサ−ブタノール、3−オキサ−ペンタノール、2,2−ジメチル−4−オキサ−ペンタノール、3,6−ジオキサ−ヘプタノール、3,6−ジオキサ−オクタノール、3,6,9−トリオキサ−デカノール、3,6,9−トリオキサ−ウンデカノール、4−オキサ−ペンタノール、4−オキサ−ヘキサノール、4−オキサ−ヘプタノール、4,8−ジオキサ−ノナノール、4,8−ジオキサ−ドデカノール、4,8−ジオキサ−ウンデカノール、5−オキサ−ヘキサノール、又は5,10−ジオキサ−ウンデカノール。
【0097】
更に、エトキシル化及び/又はプロポキシル化アルコール並びに混合エトキシル化及び/又はプロポキシル化アルコールが溶媒として使用されることができ、特にRa−(O−CH2−CH2x−OH又はRa−(O−CH(CH3)−CH2x−OH、又は、Ra−(O−CH2−CH(CH3))x−OH[式中、RaはC1〜C20−アルキル及びxは10〜20の整数である]、又はエトキシル化及び/又はプロポキシル化アミノアルコール、例えばRb2N(−CH2−CH2−O)y−H又はRb2N(−CH(CH3)−CH2−O)y−H又はRb2N(−CH2CH(CH3)−O)y−H[式中、yは1〜4の整数である]である。Rbは1〜6の炭素原子を有するアルキル基であり、その際この窒素は置換基Rbと一緒になって五〜六員環を形成することもできる。この環は、場合により更に1又は複数の短鎖アルキル基、例えばメチル、エチル又はプロピルにより置換されていることができる。
【0098】
しかし、メタクリル酸がエステル化前に更に精製されることが好ましくあることができ、その際、精製のためには根本的に、汚染された、プロピレンの触媒気相酸化により得られる(メタ)アクリル酸の精製に慣用の様式で適用される、当業者に知られている全ての精製方法を適用できる。
【0099】
気相中で脱水が実施された場合には、このメタクリル酸をまず、水性メタクリル酸溶液を獲得しながら凝縮することが好ましい。この場合には根本的に、当業者に知られている全ての凝縮方法、例えば分画した凝縮を使用することができ、これは例えばWO-A-2004/035514, WO-A03/014172又はEP-A-EP 1 163 201に記載されており、又は、全体凝縮によることができ、これは例えばEP-A-O 695 736に記載されている。メタクリル酸を可能な限り完全に吸収するために、凝縮の際に付加的な溶媒、例えば水を添加することも考慮できる。
【0100】
凝縮後に得られた水性メタクリル酸溶液、しかし又は、液相脱水の場合に得られた水性メタクリル酸溶液も、次いで更なる精製工程において水及び他の不純物から除去されることができる。この場合には先ず水が共留剤の存在下で共沸蒸留により除去されることができ、これは例えばDE-A-198 53 064に記載されているとおりである。メタクリル酸の吸収のために高沸性有機溶媒の使用も考慮でき、これは例えばEP-A-0 974 574に開示されているとおりである。この蒸留的方法の他に水除去のための膜も使用でき、これは例えばDE-A-44 01 405に提案されているとおりである。更に、結晶方法による、液相脱水の場合に獲得されたか又は凝縮により得られた水性メタクリル酸溶液の精製が考慮できる。
【0101】
脱水により得られたメタクリル酸は更なる方法工程において更に引き続き精製されることができる。したがって更に得られた、高沸性不純物は更なる蒸留工程により除去されることができる。しかし特に好ましくは、脱水後に得られたメタクリル酸が結晶方法により更に精製される場合であり、これは例えばDE-A-101 49 353に記載されるとおりである。
【0102】
このように得られた、精製されたメタクリル酸を次いで場合によりエステル化にかけることができる。
【0103】
冒頭部で挙げた課題の解決には更に、次の方法工程:
IIA)前述の方法により2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートを製造する方法工程、
IIB)2−ヒドロキシイソ酪酸の形成下でこの2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートを開裂し、並びに、場合により、この2−ヒドロキシイソ酪酸を中和及び/又はこの2−ヒドロキシイソ酪酸を精製する方法工程、
IIC)この2−ヒドロキシイソ酪酸をメタクリル酸の形成下で脱水し、並びに、場合により、このメタクリラート又はメタクリル酸をエステル化する工程
を含むメタクリル酸又はメタクリル酸エステルの製造方法も寄与する。
【0104】
冒頭部で挙げた課題の解決には、次の方法工程:
IIIA)前述の方法によりメタクリル酸を製造する方法工程、
IIIB)このメタクリル酸をラジカル重合する方法工程
を含み、その際、場合により、このメタクリル酸のカルボキシル基がこのラジカル重合の前又は後に少なくとも部分的にエステル化されることができる
ポリメタクリル酸又はポリメタクリル酸エステルの製造方法も寄与する。
【0105】
以下に記載の実施例は、適用の幅がこの全体の発明の詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかである本発明をこの実施例に挙げる実施態様に限定することなく、本発明を例示的に記載する。以下の図面は実施例の一部である。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】ハイブリッドプラスミド pET101/D-TOPO::icmA-icmBを示す。
【図2】ハイブリッドプラスミド pBBR1MCS-2::icmA-icmBを示す。
【図3】試料IM−86中の2−ヒドロキシイソ酪酸の定量化を2−ヒドロキシイソ酪酸でのこの試料のドーピング後に行った。このメチルアセタート−ピーク(Rt. 7,16 min)をこの場合に内部標準として利用した。このドーピングされたものとこのオリジナル−試料のGC−MSクロマトグラムの抜粋が図示されている。
【図4】試料IM−89への2−ヒドロキシイソ酪酸の添加(Aufstockung)を示す。このオリジナル−試料(A)とドーピングされた試料(B)の試料のNMRスペクトルの抜粋が図示されている。
【0107】
実施例
1. ゲノム性DNAの単離及び断片icmA及びicmBの増幅
アキノコラ・テルシアリカルボニス(Aquincola tertiaricarbonis)株(A.テルシアリカルボニスDSMZ 18512)からキットDNeasy Blood & Tissue (Qiagen GmbH, Hilden)を用いて製造者指示に従いゲノム性DNAを単離し、PCRのための鋳型として断片icmA(1.7kbp;DQ436456)及びicmB(0.4kbp;DQ436457)の増幅のために使用した。これらは酵素E3をコードする。この場合に、オリゴヌクレオチドAqt−icmA_fw 5′−CACCATGACCTGGCTTGAGCCGCAG−3′(フォワードプライマー;開始コドンは下線を引いてある)及びAqt−icmA−Hind_rev 5′−AAAAAAGCTTCCTGCTCAGAAGACCGGCGTCTCGCG−3′(リバースプライマー;停止コドン及びHindIII切断部位は下線が引いてある)をicmAの増幅のために、そしてオリゴヌクレオチドAqt−icmB−Hind_fw 5′−AAAAAAGCTTCCCACCATGGACCAAATCCCGATCCGC−3′(フォワードプライマー;開始コドン及びHindIII切断部位は下線が引いてある)及びAqt−icmB_rev 5′−TCAGCGGGCGCCGCGCGCGGCGAC−3′(リバースプライマー;停止コドンは下線が引いてある)をicmBの増幅のために使用した。
【0108】
ポリメラーゼチェーン反応(PCR, SAIKI et al., 1985, Enzymatic amplification of β-globin genomic sequences and restriction site analysis for diagnosis of sickle cell anemia. Science 230:1350-1354.による)を、Pfuポリメラーゼ(Promega, Madison, USA)で開始させた。この場合にそのつど95℃で60秒間、65℃で30秒間、及び、72℃で4分間を有する35サイクルを実施した。このPCRの実施をサーモサイクラー(Primus 96 advanced; PEQLAB Biotechnologie GMBH, Erlangen)において行った。
【0109】
この断片をQIAquick PCR精製キット(Qiagen GmbH, Hilden)を用いて製造者指示に従い精製し、これに引き続きHindIIIで制限処理した。両方のバッチを、HindIII切断部位を介してライゲーションした。
【0110】
このライゲーション産物icmA-icmB(2.1kbp)をオリゴヌクレオチドAqt−icmA_fw 5′−CACCATGACCTGGCTTGAGCCGCAG−3′(フォワードプライマー;開始コドンは下線を引いてある)及びAqt−icmB_rev 5′−TCAGCGGGCGCCGCGCGCGGCGAC−3′(リバースプライマー;停止コドンは下線を引いてある)を用いたPfu−PCRのためのテンプレートとして使用した(そのつど95℃で60秒間、65℃で30秒間、及び72℃で4.5分間を有する35サイクル)。この相応するサイズの得られたPCR産物をQIAquick PCR精製キット(Qiagen GmbH, Hilden)を用いて製造者指示に従い精製した。
【0111】
2. ラルストニア・ユートロファ発現ベクターの製造
この精製したPCR断片icmA-icmB(2.1kbp)を製造者の指示に従いベクターpET101/D-TOPOにライゲーションした(Invitrogen GmbH, Karlsruhe)。この得られたハイブリッドプラスミドpET101 /D-TOPO : : icmA-icmB(図1、配列番号1)をコンピテント大腸菌(E. coli)DH5α細胞(New England Biolabs, Frankfurt)中に移し、制限処理及び配列決定により制御した。
【0112】
野生型として酵素E1、E2及びE4の活性を有する;R.ユートロファ株中での発現を達成するために、このコンストラクトは適した広宿主域ベクター中にクローニングされなくてはならなかった。利用されたベクターとは、KOVACH et al. (1995)で記載されているpBBR1MCS-2である。 Four new derivatives of the broad-host-range cloning vector pBBR1MCS carrying different antibiotic-resistance cassettes. Gene, 166:175-176。
【0113】
このためにプラスミドpET101 /D-TOPO : : icmA-icmB及びpBBR1MCS-2を酵素Xbal及びSacIで制限処理し、この断片icmA-icmBを目的ベクターpBBR1MCS-2中にライゲーションし、コンピテント大腸菌DH5α細胞(New England Biolabs, Frankfurt)をこの生じるハイブリッドプラスミドpBBR1MCS-2 : : icmA-icmB (図2、配列番号2)でトランスフォーメーションした。
【0114】
このプラスミドを制限化及び配列決定により検証し、コンピテント大腸菌S17-1細胞中に移し、これを用いてプラスミドの特にラストニア・ユートロファ株中へのコンジュゲートによる移行部が可能である株である。このためにスポット接合(Spotmating)−コンジュゲーション(例えばFRIEDRICH et al.,が1981, Naturally occurring genetic transfer of hydrogen-oxidizing ability between strains of Alcaligenes eutrophus . J Bacteriol 147:198-205で記載)を大腸菌S17-1 pBBR1MCS-2 : : icmA-icmBをドナーとして、そして、R.ユートロファH16(カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)として再分類される、DSMZ428)並びにR.ユートロファPHB−4(カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)として再分類される、DSMZ541)をレシピエントとして用いて実施した。プラスミドpBBR1MCS-2 : : icmA-icmBを有するトランスコンジュゲート体が得られることができた。
【0115】
3. 組み換えR.ユートロファ細胞中での2−ヒドロキシイソ酪酸の製造
実施例2で記載のプラスミドを有するR.ユートロファ株を50mlのVollbrecht-MSM-培地((NH42HPO4、2.0g;KH2PO4、2.1g;MgSO4×7H2O、0.2g;FeCl3×6H2O、6mg;CaCl2×2H2O、10mg;痕跡量元素−溶液(Pfennig and Lippert, 1966)、0.1mL)中での2−ヒドロキシイソ酪酸の形成の検査のために使用した。この培地を更にグルコン酸Na(15g/L)、カナマイシン(50μg/mL)及び補酵素B12(60μg/mL)で補給した。この細胞を温度調節可能な振盪器で30℃及び160rpmでインキュベーションした。30h後にグルコン酸Na(1.5%、w/v)及び補酵素B12[60μg/mL]を後添加した。回収を培養52h後に5000rpm(4℃)での遠心分離により行った。培養物上清を分析のために−20℃で貯蔵した。
【0116】
2−ヒドロキシイソ酪酸の検出及び定量化を定量的1H−NMR−分光器を用いて行った。この試料を量的に濃縮した。この残留物から1H−NMRスペクトルを取り出し、この含量を内部標準としてのTSP(トリシリルプロピオン酸)に対して精算した。2−ヒドロキシイソ酢酸は約1.36ppmでのスペクトル中に一重項を示し、保護(Absicherung)のためにこの純粋な物質で添加した。(図3)。
【0117】
この分析した試料中で最大0.72mmol/kgの2−ヒドロキシイソ酪酸の濃度が検出された。これに対して空のプラスミドを有する相応するコントロールバッチ中では2−ヒドロキシイソ酪酸は検出されなかった。このNMR測定を定量的にかつ定性的にGC−MS及び純粋物質2−ヒドロキシイソ酪酸での添加を用いて確認した(図4)。このクロマトグラフィによる分離をこの場合に30mのRtx-1701キャピラリーカラムで行った(Fisher Scientific, Pittsburgh, USA)。この試料を凍結乾燥後に誘導体化試薬「Methelute」(Pierce, Rockford, USA)で取り込んだ。この溶液0.5μLを直接的にスプリット−/スプリットレス−インジェクターを介して適用した。2−ヒドロキシイソ酪酸−ピークの同定をこの測定スペクトルとデータバンクスペクトルの調整(Abgleich)により行った。2−ヒドロキシイソ酪酸の含量の見積もりのために一定量の比較物質2−ヒドロキシイソ酪酸でのこの試料のドーピングを行った。この分析した試料中には最大44μg/mLの濃度が検出された。空のプラスミドを有するコントロールバッチ中では2−ヒドロキシイソ酪酸は検出されなかった。同様に、C供給源(1.5%、w/v)としてフルクトースから出発して合成された2−ヒドロキシイソ酪酸が検出されることができた。
【0118】
4. 2−ヒドロキシイソ酪酸からメタクリラートへの脱水
実施例3に従い製造された2−ヒドロキシイソ酪酸(0.2g/L)の溶液5mlを撹拌しながらNaOH(0.06mg)と混合する。この溶液を撹拌及び185〜195℃での環流冷却下で真空下(300torr)でインキュベーションする。5hの期間にわたり毎時そのつど、5mL中の更なる0.5mgの2−ヒドロキシイソ酪酸を添加し、これは0.4質量%のp−メトキシフェノールを、メタクリラートの重合を妨げるべく含有した。インキュベーション24h後にこの反応を終了する。2−ヒドロキシイソ酪酸からメタクリラートへの変換は90%超に達する。この反応バッチからのメタクリル酸の分離を蒸留により行う。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その野生型に比較してより多くの2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートを形成することができるように遺伝子工学的に改変された細胞において、2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートの形成をアセトアセチル−補酵素Aを介して中間生成物として、及び、3−ヒドロキシブチリル−補酵素Aを介して予備生成物として行うことを特徴とする細胞。
【請求項2】
細胞が、3−ヒドロキシブチリル−補酵素Aの2−ヒドロキシイソブチリル−補酵素Aへの反応を触媒作用する酵素E3の少なくとも1の活性を有する請求項1記載の細胞。
【請求項3】
細胞がその野生型に比較して酵素E3の向上した活性を有する請求項2記載の細胞。
【請求項4】
細胞が野生型として、3−ヒドロキシブチリル−補酵素Aのポリヒドロキシブチラートへの反応を触媒作用する酵素E4の活性を有する請求項1から3までのいずれか1項記載の細胞。
【請求項5】
細胞がその野生型に比較して酵素E4の低められた活性を有する請求項4記載の細胞。
【請求項6】
細胞が野生型として、3−ヒドロキシブチリル−補酵素Aのクロトニル−補酵素Aへの反応を触媒作用する酵素E5の活性を有する請求項1から3までのいずれか1項記載の細胞。
【請求項7】
細胞がその野生型に比較して酵素E5の低められた活性を有する請求項6記載の細胞。
【請求項8】
細胞が野生型として、R−3−ヒドロキシブチリル−補酵素AのS−3−ヒドロキシブチリル−補酵素Aへの反応を触媒作用する酵素E6の活性を有する請求項1から3までのいずれか1項記載の細胞。
【請求項9】
細胞が、少なくとも1の酵素E7のその野生型に比較して低められた活性少なくとも1を有し、これが3−ヒドロキシブチリル−補酵素Aを基質として許容する請求項1から8までのいずれか1項記載の細胞。
【請求項10】
2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートの製造方法であって、次の方法工程:
a)請求項1から9までのいずれか1項記載の細胞を、炭素供給源を含む栄養培地と、この炭素供給源から2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートが形成される条件下で接触させる方法工程、並びに、場合により
b)2−ヒドロキシイソ酪酸をこの栄養培地から、又は2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートをこの細胞から、精製する方法工程
を含む製造方法。
【請求項11】
メタクリル酸又はメタクリル酸エステルの製造方法であって、次の方法工程:
IA)2−ヒドロキシイソ酪酸を請求項10記載の方法により製造し、並びに、場合により、この2−ヒドロキシイソ酪酸を精製及び/又は中和する方法工程、
IB)この2−ヒドロキシイソ酪酸をメタクリル酸の形成下で脱水し、並びに、場合により、このメタクリラート又はメタクリル酸をエステル化する方法工程
を含む製造方法。
【請求項12】
メタクリル酸又はメタクリル酸エステルの製造方法であって、次の方法工程:
IIA)請求項10記載の方法により2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートを製造する方法工程、
IIB)2−ヒドロキシイソ酪酸の形成下でこの2−ヒドロキシイソ酪酸−モノマー単位含有ポリヒドロキシアルカノアートを開裂し、並びに、場合により、この2−ヒドロキシイソ酪酸を中和及び/又はこの2−ヒドロキシイソ酪酸を精製する方法工程、
IIC)この2−ヒドロキシイソ酪酸をメタクリル酸の形成下で脱水し、並びに、場合により、このメタクリラート又はメタクリル酸をエステル化する工程
を含む製造方法。
【請求項13】
ポリメタクリル酸又はポリメタクリル酸エステルの製造方法であって、次の方法工程:
IIIA)請求項12又は13記載の方法によりメタクリル酸を製造する方法工程、
IIIB)このメタクリル酸をラジカル重合する方法工程
を含み、その際、場合により、このメタクリル酸のカルボキシル基がこのラジカル重合の前又は後に少なくとも部分的にエステル化されることができる製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【公表番号】特表2011−525367(P2011−525367A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515257(P2011−515257)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055089
【国際公開番号】WO2009/156214
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(390009128)エボニック レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (293)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Kirschenallee,D−64293 Darmstadt,Germany
【Fターム(参考)】