説明

2サイクル内燃エンジン

【課題】2サイクル内燃エンジンの典型的な構造を大きく改変することなく効果的に吹き抜けを防止する。
【解決手段】クランク室内の混合気を燃焼室に供給して掃気を行う主掃気通路24は、これから分岐した分岐掃気通路26を有し、分岐掃気通路26は吸気ポート12側に向けて斜め上方に傾斜して延びている。主掃気通路24は排気ポート16側に位置する第1掃気出口20に連なっている。分岐掃気通路26は吸気ポート側に位置する第2掃気出口22に連なっている。分岐掃気通路26は主掃気通路24に比べて平均通路断面積が小さい。主掃気通路24のクランク室に臨む入口24aの近傍部分24bの通路断面積は、第1、第2の掃気出口20、22の合計した開口面積よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は2サイクル内燃エンジンに関し、より詳しくは、混合気の吹き抜けを低減できる2サイクル内燃エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
2サイクル内燃エンジンは、部品点数も少なく軽量且つコンパクトであることから、チェーンソーや刈り払い機の動力源として好適に採用されている。2サイクルエンジンは、シリンダに形成された排気ポートをピストンの上下動作によって開閉する構造を有するのが一般的であり、そして、燃焼室に混合気を充填しながら燃焼室内の既燃ガスを排気するため、燃焼室に充填した混合気がそのまま外部に排出されるという、いわゆる「吹き抜け」の問題を有している。この混合気の吹き抜けは、燃料消費率を悪化させるだけでなく排気ガス中の未燃焼成分(HC)の増加を招く。
【0003】
特許文献1は、混合気の吹き抜けを低減する目的で、燃焼室に臨む掃気出口を複数設け、このうち排気ポートから遠ざかる位置に配設された掃気出口から混合気を燃焼室に導入し、排気ポートに近い位置に配設された掃気出口からフレッシュエアを燃焼室に導入することを提案している。この提案によれば、混合気の他に燃焼室に導入したフレッシュエアによる掃気が実行されることにより、排気ポートから吹き抜ける混合気の量を低減することができる。この掃気方法は一般的に「層状掃気」と呼ばれている。
【0004】
特許文献2は他の形式の層状掃気を提案している。具体的に特許文献2に開示の内容を以下に説明する。特許文献2に開示の発明は、2サイクルエンジンの吹き抜けを低減するのに、燃焼室に導入された新気(混合気)と燃焼室内の既燃ガスとの混合を抑制するのが好ましい、ということを前提としている。そして、特許文献2は次の発明を提案している。すなわち、特許文献2に開示のエンジンは、シリンダボアの中心と排気ポートの中心とを結ぶ仮想線に対して対称の位置に掃気出口が配設されている。そして、各掃気出口は隔壁によって一対の分割掃気出口に区分されていると共に、この隔壁によって各掃気出口から流出する混合気の流れ方向が規定される。また、シリンダボアの内壁には、このシリンダボアの中心を挟んで排気ポートとは反対側の位置に凹所つまり掃気流減衰室が形成されている。そして、一対の分割掃気出口のうち排気ポート側に位置する第1の分割掃気出口は、排気ポートから離れる方向且つ上方に向けて指向されている。他方、掃気流減衰室側に位置する第2の分割掃気出口は掃気流減衰室に向けて指向されている。
【0005】
この特許文献2の発明によれば、隔壁で流れ方向が掃気流減衰室に向かうように指向された左右の第2分割掃気出口から吐出された掃気流は掃気流減衰室で衝突すると同時に掃気流減衰室の壁に衝突し、そして掃気流減衰室によって拡散が抑制される。他方、左右の第1分割掃気出口から吐出された掃気流はシリンダの上方に向けて流れて互いに衝突しながら既燃ガスを排気ポートに押し出す。これにより、第1、第2の分割掃気出口から燃焼室に導入された掃気ガスつまり混合気を排気ポートとは反対側のシリンダ内空間つまり燃焼室の排気ポートとは反対側の領域に分布させることができ、他方、排気ポート側の領域に既燃ガスを分布させることで層状掃気が可能になる。
【0006】
特許文献3は、2サイクル内燃エンジンの燃焼室に臨む掃気出口とクランク室とを連通させる掃気通路に着目して、上述した「吹き抜け」問題の改善案を提案している。具体的には、特許文献3の発明は、主掃気通路及びこれに連なる第1掃気出口と隔壁を隔てて副掃気通路及びこれに連なる第2掃気出口を配設し、この副掃気通路及び第2掃気出口を通じて燃焼室に流入する第2掃気流によって、第1掃気出口から吐出される第1掃気流を制御することを提案している。この提案は、第2掃気出口から吐出される相対的に速い第2掃気流で第1掃気流の流れ方向を制御するものであり、典型例として、第1掃気流の一部が短絡して排気ポートに流れ込むのを阻止する例が特許文献3に開示されている。
【0007】
特許文献4は、高出力と低エミッションを目的として、2サイクル内燃エンジンの断面略矩形の掃気出口の両側壁の角度を規定することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭59−170423号公報
【特許文献2】特開昭59−173518号公報
【特許文献3】特開昭60−156933号公報
【特許文献4】USP第6,848,398号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明者は、燃焼室に臨む掃気出口の配置位置と「吹き抜け」との関係に検討を加えた。図10は、従来の典型的な2サイクル内燃エンジンを模式的に示す図である。図中、参照符号1は排気ポートを示す。シリンダボアの中心Oと排気ポート1の幅方向の中心とを結ぶ仮想線CLを挟んでその左右に夫々第1、第2の掃気出口2、3が配設され、そして、これら第1、第2の掃気出口2、3は排気ポート1から遠ざかる方向に指向されている。このマルチ掃気出口を備えたエンジンは合計4つの掃気出口2、2、3、3を具備した、いわゆる4流掃気式のエンジンである。
【0010】
図11は、クランク室と燃焼室とに亘って縦方向(シリンダボアの軸線と平行)に延びる第1、第2の掃気通路4、5及びその上端部に位置する第1、第2の掃気出口2、3の立体形状を示す。この図11から理解できるように、従来のマルチ掃気出口方式の2サイクル内燃エンジンにあっては、各掃気出口2、3毎に掃気通路が用意され、各掃気通路は実質的に独立した通路で構成されている。図12は、円筒状のシリンダボア7に対する排気ポート1、吸気ポート8、第1、第2の掃気通路4、5の配置関係を示す。
【0011】
図13、図14は、図10に関連した図であり、図13は、第1、第2の掃気出口2、3を排気ポート1から遠ざけた位置に配置した場合を示し、他方、図14は、第1、第2の掃気出口2、3を排気ポート1に近づけた位置に配置した場合を示す。図13、図14において、掃気流の流れを矢印で示す。
【0012】
図13の配置例(排気ポート1から遠ざけた掃気出口2、3の配置)では、第1の掃気出口2と排気ポート1とで挟まれたシリンダ内領域DSでガス交換が十分に行われ難くなる。他方、図14の配置例(排気ポート1に近づけた掃気出口2、3の配置)では、排気行程の前半で第1の掃気出口2から流出した掃気流の一部が短絡(ショートカット)して排気ポート1から排出される傾向になる。
【0013】
本発明の目的は、2サイクル内燃エンジンの典型的な構造を大きく改変することなく効果的に吹き抜けを防止することのできる2サイクル内燃エンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の技術的課題は、本発明によれば、
クランク室内の混合気を掃気通路を通じて燃焼室に吐出させながら、該燃焼室内の既燃ガスを排気ポートを通じて外部に排出する2サイクル内燃エンジンにおいて、
前記燃焼室に臨んで開口し且つ前記排気ポートから遠ざかる方向に指向された第1掃気出口と、
該第1掃気出口と前記クランク室とを連通させる主掃気通路と、
前記燃焼室に臨んで開口し且つ前記第1掃気出口よりも前記排気ポートから遠ざかる位置に配置され、前記排気ポートから遠ざかる方向に指向された第2掃気出口と、
該主掃気通路から分岐して前記排気ポートから遠ざかる方向に向けて傾斜して延び且つ前記第2掃気出口に連なる分岐掃気通路とを有し、
該分岐掃気通路の平均通路断面積が前記主掃気通路の平均通路断面積よりも小さく、
前記第1、第2の掃気出口の合計した開口面積が、前記主掃気通路の前記クランク室に臨む入口部分の通路断面積よりも大きいことを特徴とする2サイクル内燃エンジンを提供することにより達成される。
【0015】
すなわち、本発明によれば、掃気通路のクランク室に臨む入口部分の通路断面積よりも、この掃気通路の燃焼室に臨む掃気出口の開口面積が大きいことから、掃気出口から吐出される掃気流の速度は従来よりも遅くなる。また、分岐掃気通路が主掃気通路よりも細い通路で構成されているため、分岐掃気通路に連なる第2掃気出口から吐出される第2掃気流は、排気ポート側に位置する第1掃気出口から吐出される第1掃気流よりも流速が速い。更に、傾斜した分岐掃気通路によって、第2掃気出口から吐出される第2掃気流の方向付けが向上する。
【0016】
このことから、排気ポート側の第1掃気出口から吐出される第1掃気流は、排気ポートから遠ざかる位置に配設された第2掃気出口から吐出される第2掃気流に引き寄せられる。これにより、排気行程初期において、第1掃気流の一部が排気ポートから外部に流出してしまうショートカット現象を低減することができる。また、第1、第2の掃気出口から吐出される第1、第2の掃気流の速度が比較的遅く、これに加えて、第1掃気出口から吐出される第1掃気流が、第2掃気出口から吐出される第2掃気流によって排気ポートから遠ざかる方向に引き寄せられるため、第1掃気出口の第1掃気流が排気ポートから遠ざかる方向に移動し、次いでシリンダボアの内壁面と衝突することにより流れ方向が反転して排気ポートに至るまでの第1掃気流の移動距離が長くなる。このことによって、排気行程の後半での吹き抜けを抑制することができる(後に説明する図2参照)。
【0017】
本発明の排気行程の初期及び後半での吹き抜け抑制に関する効果は、典型的には従来の4流掃気式のエンジンの掃気通路を改変するだけで達成することができる。勿論、第2掃気出口から吐出する第2掃気流はクランク室の混合気で構成してもよいし、分岐掃気通路にフレッシュエアを供給して、このフレッシュエアで第2掃気流を構成してもよい。
【0018】
本発明の他の目的及び作用効果は、以下の本発明の好ましい実施例の詳細な説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例のエンジンのシリンダボア及びこれに開口する排気ポート、吸気ポート、マルチ掃気出口を示すと共にマルチ掃気出口に連なる掃気通路を説明するための図である。
【図2】図1の実施例に含まれる掃気システムの作用を説明するための図である。
【図3】図1の実施例に含まれる掃気システムの掃気通路及び掃気出口を立体的に示す図である。
【図4】主掃気通路のクランク室に臨む入口部分の通路断面積を説明するための図である。
【図5】第1変形例の掃気通路を説明するための図である。
【図6】第2変形例の掃気通路を説明するための図である。
【図7】第3変形例の掃気通路を説明するための図である。
【図8】第4変形例の掃気通路を説明するための図である。
【図9】第5変形例の掃気通路を説明するための図である。
【図10】従来の2サイクルエンジンに含まれる掃気システムを説明するための図である。
【図11】従来の2サイクルエンジンの掃気通路とこれに連なって燃焼室に臨む掃気出口を立体的に示す図である。
【図12】従来のエンジンのシリンダボア及びこれに開口する排気ポート、吸気ポート、マルチ掃気出口を示すと共にマルチ掃気出口に連なる掃気通路を説明するための図である。
【図13】従来の2サイクルエンジンに含まれる掃気出口を吸気ポート側に近づけた場合の問題点を説明するための図である。
【図14】従来の2サイクルエンジンに含まれるマルチ掃気出口を排気ポート側に近づけた場合の問題点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0020】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。
【0021】
図1〜図3は本発明の実施例を示す。図1を参照して、空冷式単気筒2サイクル内燃エンジン10はアルミニウムダイキャスト製のシリンダブロックによって形成されるシリンダボア12を有する。このシリンダボア12に開口する吸気ポート14、排気ポート16は、シリンダボア12の略直径方向に対抗して位置し、吸気ポート14から供給される混合気はクランク室(図示せず)に充填される。
【0022】
図2を参照して、第1、第2の掃気出口20、22の対が、シリンダボア12の中心Oと排気ポート16の中心とを結ぶ仮想線CLを対称軸として線対称に配設されている。第1、第2の掃気出口20、22はピストン(図示せず)によって開閉される。実施例の2サイクル内燃エンジン10のここまでの構成は従来の4流掃気式のエンジンと同じである。
【0023】
実施例のエンジン10に含まれる掃気システムを図示する図3を参照して、排気ポート14に近い側の第1の掃気出口20は、シリンダブロック(図示せず)に形成された上下方向に延びる主掃気通路24によってクランク室(図示せず)に連通されている。この第1の掃気出口20は、従来と同様に、排気ポート16から遠ざかる方向に指向されている。
【0024】
引き続き図3を参照して、2サイクル内燃エンジン10は、主掃気通路24から分岐して吸気ポート14側に傾斜して延びる分岐掃気通路26を有し、この分岐掃気通路26は、主掃気通路24から吸気ポート12側に向けて斜め上方に傾斜して延びる上方壁26aと下方壁26bとを有し、上方壁26aと下方壁26bとは互いにほぼ平行に延びている。分岐掃気通路26の断面形状は、上述した主掃気通路24と同様に任意である。分岐掃気通路26は、その上端が第2の掃気出口22に滑らかに連なっており、この第2の掃気出口22は、上記の第1の掃気出口20と同様に燃焼室に臨んで開放している。そして、第2の掃気出口22は、従来と同様に、排気ポート16から遠ざかる方向に指向されている。
【0025】
排気ポート16側の第1掃気出口20に連なる主掃気通路24におけるクランク室に臨む通路入口24aから第1掃気出口20に至るまでの平均通路断面積S1(図3)は、分岐掃気通路26における主掃気通路24との分岐部から第2掃気出口22に至るまでの平均通路断面積S2(図3)とを対比すると、分岐掃気通路26の平均通路断面積S2は主掃気通路24の平均通路断面積S1よりも小さく、具体的には、分岐掃気通路26の平均通路断面積S2は、主掃気通路24の平均通路断面積S1の約0.56〜0.75倍であり、好ましくは、分岐掃気通路26の最小通路断面積は、主掃気通路24の最小通路断面積の約0.29〜0.38倍である。すなわち、分岐掃気通路26は主掃気通路24よりも細い通路で構成されている。
【0026】
上記の掃気通路構造を有するエンジン1は、従来と同様にピストン(図示せず)によって排気ポート16及び第1、第2の掃気出口20、22が開閉されてクランク室の混合気が燃焼室に充填され、この燃焼室に流入した混合気によって掃気が行われる。そして、クランク室に臨む主掃気通路24の入口24a(図3)は、第1の掃気出口20から燃焼室に吐出する第1掃気流を生成するためにクランク室から混合気を導入する入口を構成するだけでなく、第2の掃気出口22から燃焼室に吐出する第2掃気流流を生成するためにクランク室から混合気を導入する入口をも構成する。すなわち、実施例のエンジン10の掃気システムは、図3を参照して、クランク室内の混合気が主掃気通路24の通路入口24aから主掃気通路24に流入し、そして、混合気が主掃気通路24を通じて第1掃気出口20に至る途中で分岐掃気通路26に分配される。
【0027】
このことから、実施例の掃気システムは、クランク室に臨む共通の入口通路部分24bの断面(図4)の通路面積S3よりも燃焼室に臨む複数の掃気出口つまり第1掃気出口20、第2掃気出口22の合計した開口面積(S4+S5:図3)の方が大きい。具体的には、実施例において、入口通路部分24bの通路断面積S3に対して、第1掃気出口20、第2掃気出口22の合計した開口面積(S4+S5)は約1.2〜1.4倍である。このことから、第1、第2の掃気出口20、22による第1、第2の掃気流28、30の速度は従来よりも遅くなる。
【0028】
更に、吸気ポート14側に位置する第2掃気出口22に連なる分岐掃気通路26が、排気ポート16側に位置する主掃気通路24から吸気ポート14側に向けて斜め上方に傾斜して延びているのは上述した通りであるが、この分岐掃気通路26の延び方向が第2掃気出口22の指向方向と共通していることから、第2掃気出口22から吐出される第2掃気流30の方向付けを分岐掃気通路26によって強めることができる。
【0029】
この第2掃気出口22から吐出される第2掃気流30の流れ方向の方向付けが強化されることにより、排気ポート14側の第1掃気出口20から吐出される第1掃気流28が第2掃気流30に引き寄せられる。これにより、排気行程初期において、第1掃気流28の一部が排気ポート16から外部に流出してしまう短絡(ショートカット)現象を低減することができる。
【0030】
また、第1、第2の掃気出口20、22から燃焼室に吐出される第1、第2の掃気流28、30は、その合計した開口面積が共通の通路入口24aよりも大きいため、第1、第2の掃気流28、30の流速は比較的遅い。しかも、主掃気通路24に連なる排気ポート16側の第1掃気出口20から吐出される第1掃気流28が、吸気ポート14側の第2掃気出口22から吐出される第2掃気流30によって吸気ポート14側に引き寄せられるため、第1掃気出口20の比較的遅い流速の第1掃気流28が吸気ポート14側に移動し、次いでシリンダボア12の内壁面と衝突することにより流れ方向が反転して排気ポート16に至るまでの第1掃気流28の移動距離が実質的に長くなる。第1、第2の掃気流28、30の比較的低速の流速及び第1掃気流28の移動距離の拡大によって排気行程の後半の吹き抜けを抑制することができる。
【0031】
なお、効果を確認するために試作エンジンを作り、従来と対比したところエンジン出力が約1.3〜3.3%向上し、HCの排出を約30%低減できることを確認した。
【0032】
以上、本発明の実施例を説明したが、第1、第2の掃気出口20、22に関して例えばUSP第6,848,398号明細書(前述した特許文献4)に開示のように第1、第2の掃気出口20、22の各側壁20a、20b、22a、22b(図2)の角度つまりシリンダボア12の中心Oと排気ポート16の中心とを結ぶ対称軸線CL(図2)に対する第1掃気出口20の両側壁20a、20bの交差角度及び/又は第2掃気出口22の両側壁22a、22bの交差角度を規定するようにしてもよい。この交差角度に関してUSP第6,848,398号明細書に詳細に記載があることから、USP第6,848,398号明細書の全文をここに援用することでその説明を省略する。
【0033】
また、上記の実施例では主掃気通路24及び分岐掃気通路26をシリンダブロックに形成した例を説明したが、この主掃気通路24及び/又は分岐掃気通路26をシリンダブロックとは別体の部材で構成してもよい。すなわち、主掃気通路24及び分岐掃気通路26を、例えばシリンダブロックに対して通路形成部材を脱着自在に固定することで形成してもよいし、シリンダブロックに脱着自在に連結したパイプ部材によって主掃気通路24及び分岐掃気通路26を形成するようにしてもよい。
【0034】
図5〜図10は変形例を説明するための図である。図5は、主掃気通路24の下端部を排気ポート16側に変位させて、主掃気通路24を傾斜した通路で構成する例を示す。図6は、主掃気通路24の下端部が排気ポート16の下方に位置するまで主掃気通路24を更に傾斜させた例を示す。
【0035】
図7は、一つの主掃気通路24に対して複数の分岐掃気通路26(26A、26B)を設けると共に、分岐掃気通路26A、26Bの下端を上下に離間して主掃気通路24に連結した例を示す図である。なお、この図7では、主掃気通路24として縦方向に起立して位置するように図示されているが、この主掃気通路24を図5及び図6で説明したように傾斜して配置してもよい。
【0036】
図8は、上記の図7と同様に、一つの主掃気通路24に対して複数の分岐掃気通路26(26A、26B)を設けた例を示すものであるが、この図8の例は、主掃気通路24に対して一つの分岐掃気通路26Aを連通させ、この一つの分岐掃気通路26Aを分岐することで他の分岐掃気通路26Bを形成してもよいことを示すものである。
【0037】
図9は、フレッシュエアによる掃気の例を模式的に示す図である。この図9は、フレッシュエアを分岐掃気通路26に供給することで、分岐掃気通路26を通じて燃焼室にフレッシュエアを流入させることで掃気する例を示しているが、このフレッシュエアの供給に関して、特許文献1に開示しているよう主掃気通路24に対してフレッシュエアを供給して第1掃気出口20からフレッシュエアを燃焼室に吐出させるようにしてもよく、又は、第1、第2の掃気出口20、22からフレッシュエアを燃焼室に吐出させるようにしてもよい。
【0038】
前述した実施例及び変形例において、排気ポート16側の第1掃気出口20と、吸気ポート14側の第2掃気通路22の水平面に対する傾斜角度(仰角)に関して、第1掃気出口20よりも第2掃気出口22の仰角を大きく設定するのが好ましい。第2掃気出口22の仰角を相対的に大きな角度に設定することにより、燃焼室内の既燃ガスを立体的に掃気することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、チェーンソー、刈り払い機、ヘッジトリマー、ブロワーなどの携帯作業機や小型作業機の動力源に好適に適用される。
【符号の説明】
【0040】
10 エンジン
12 シリンダボア
14 吸気ポート
16 排気ポート
20 第1掃気出口(排気側)
22 第2掃気出口(吸気側)
24 第1掃気出口に通じる主掃気通路
24a 主掃気通路のクランク室に臨む通路入口
26 第2掃気出口に通じる分岐掃気通路
26a 分岐掃気通路の傾斜した上方壁
26b 分岐掃気通路の傾斜した下方壁
28 第1掃気流(第1掃気出口による掃気流)
30 第2掃気流(第2掃気出口による掃気流)
S1 主掃気通路の平均通路断面積
S2 分岐掃気通路の平均通路断面積
S3 主掃気通路の入口部分の通路断面積
S4 第1掃気出口の開口面積
S5 第2掃気出口の開口面積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク室内の混合気を掃気通路を通じて燃焼室に吐出させながら、該燃焼室内の既燃ガスを排気ポートを通じて外部に排出する2サイクル内燃エンジンにおいて、
前記燃焼室に臨んで開口し且つ前記排気ポートから遠ざかる方向に指向された第1掃気出口と、
該第1掃気出口と前記クランク室とを連通させる主掃気通路と、
前記燃焼室に臨んで開口し且つ前記第1掃気出口よりも前記排気ポートから遠ざかる位置に配置され、前記排気ポートから遠ざかる方向に指向された第2掃気出口と、
該主掃気通路から分岐して前記排気ポートから遠ざかる方向に向けて傾斜して延び且つ前記第2掃気出口に連なる分岐掃気通路とを有し、
該分岐掃気通路の平均通路断面積が前記主掃気通路の平均通路断面積よりも小さく、
前記第1、第2の掃気出口の合計した開口面積が、前記主掃気通路の前記クランク室に臨む入口部分の通路断面積よりも大きいことを特徴とする2サイクル内燃エンジン。
【請求項2】
前記分岐掃気通路の最小通路断面積が前記主掃気通路の最小通路断面積の約0.29〜0.38倍である、請求項1に記載の2サイクル内燃エンジン。
【請求項3】
前記第1、第2の掃気出口の合計した開口面積が、前記主掃気通路の前記クランク室に臨む入口部分の通路断面積の約1.2〜1.4倍である、請求項1又は2に記載の2サイクル内燃エンジン。
【請求項4】
前記主掃気通路又は前記分岐掃気通路にフレッシュエアが供給される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の2サイクル内燃エンジン。
【請求項5】
前記主掃気通路が上下に延びている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の2サイクル内燃エンジン。
【請求項6】
前記主掃気通路が、該主掃気通路の前記クランク室に臨む入口部分から前記第1掃気出口に向かうに従って前記排気ポートから遠ざかる方向に傾斜して延びている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の2サイクル内燃エンジン。
【請求項7】
前記第2掃気出口の仰角が前記第1掃気出口の仰角よりも大きい、請求項1〜6のいずれか一項に記載の2サイクル内燃エンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−36430(P2013−36430A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174936(P2011−174936)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(509264132)株式会社やまびこ (65)