説明

2,6−trans−ジメチルモルホリンのラセミ分離

光学活性trans-2,6-ジメチルモルホリンを製造する方法であって、(i)ラセミtrans-2,6-ジメチルモルホリンをD-マンデル酸と反応させるステップ、(ii)D-マンデル酸とtrans-2,6-ジメチルモルホリンの1つのエナンチオマーとから形成された塩をtrans-2,6-ジメチルモルホリンの他のエナンチオマーから取り出すステップ、および(iii)所望の光学活性trans-2,6-ジメチルモルホリンを単離するステップによる、前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラセミtrans-2,6-ジメチルモルホリンを光学活性マンデル酸と反応させることにより、光学活性trans-2,6-ジメチルモルホリンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
trans-2,6-ジメチルモルホリンは、殺菌剤および医薬品を合成するための中間体である。しかし、一般的にtrans-2,6-ジメチルモルホリンの1つのエナンチオマーだけが求められる生物活性を有するので、trans-2,6-ジメチルモルホリンを純粋な光学活性型で調製することが望ましい。
【0003】
これは、例えば、Licandroら(Gazzetta Chimica Italiana 1997, 127, 815-817, 非特許文献1)に記載されたように、複雑なエナンチオ選択的合成によって行われる。その場合、(-)-(2R,6R)-2,6-ジメチルモルホリンを、1,2-プロパンジオールから出発して9段階の合成ステップで製造する。
【非特許文献1】Licandroら, Gazzetta Chimica Italiana 1997, 127, 815-817
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この製造は、非常に高コストであり、かつ時間がかかる;従って、もっと安く、かつもっと迅速に光学活性trans-2,6-ジメチルモルホリンを得る代替製造法に対するニーズが強い。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、光学活性trans-2,6-ジメチルモルホリンを製造する方法であって、(i)ラセミtrans-2,6-ジメチルモルホリンを光学活性マンデル酸と反応させるステップ、(ii)光学活性マンデル酸とtrans-2,6-ジメチルモルホリンの1つのエナンチオマーとから形成された塩をtrans-2,6-ジメチルモルホリンの他のエナンチオマーから取り出すステップ、および(iii)所望の光学活性trans-2,6-ジメチルモルホリンを単離するステップによる、方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
ラセミtrans-2,6-ジメチルモルホリンは、当業者に公知の合成により得られ得るtrans-とcis-2,6-ジメチルモルホリンの混合物から、分留によって単離することができる。
【0007】
次いでラセミtrans-2,6-ジメチルモルホリンを光学活性マンデル酸と反応させる。塩を完全に形成させるために、ラセミtrans-2,6-ジメチルモルホリン1モル当たり1モルの光学活性マンデル酸を加える。マンデル酸をラセミtrans-2,6-ジメチルモルホリンに加えてもよいし、またその逆であってもよい。最初にマンデル酸を供給し、ラセミtrans-2,6-ジメチルモルホリンを加えることが好ましい。
【0008】
S,S-trans-2,6-ジメチルモルホリンは、D-マンデル酸によって結晶化し;R,R-trans-2,6-ジメチルモルホリンは、L-マンデル酸によって結晶化する。結晶となって析出したアミンの構造は、X線構造分析により決定した。
【0009】
本発明による方法の特別な実施形態は、1モルのラセミtrans-2,6-ジメチルモルホリン当たり、0.5モルまでの光学活性マンデル酸を加え、そして0.5モルまでの他の非キラルな酸、好ましくは酢酸を加えることから成る。
【0010】
この手順の利点は、trans-2,6-ジメチルモルホリンの1つのエナンチオマーが光学活性マンデル酸とともに、対応する塩を形成して反応媒質から沈降析出するのに対し、trans-2,6-ジメチルモルホリンの他のエナンチオマーは、光学的に不活性な酸、例えば酢酸と一緒に、溶液中に残ることにある。これによって、エナンチオマーをお互いから容易に分離しかつ単離することができる。
【0011】
本発明の方法の温度は特に厳密なものではない。温度は広範囲に変えることができる。0℃と使用溶媒の沸点の間の温度が好ましく、さらに好ましくは5〜50℃である。もし所望であれば、生じる混合熱を除去するためにおよび/または塩の沈降を完全にするために、反応混合物を冷却してもよい。
【0012】
反応は多くの通常の有機溶媒中で行うことができ;溶媒としてアルカノールを用いることが好ましい。本発明による方法は、溶媒としてイソプロパノールを用いると特に良い収率で進行する。
【0013】
ステップ(i)で形成される塩は好ましくは結晶化と結晶の濾過により取り出す。結晶化を加速するために、いくらかの種晶を加えることが望ましい。形成される結晶は一般的に既に70%de超、好ましくは、80%de超の高い光学純度(de=ジアステレオマー過剰率)を有する。光学純度をさらに増加するために、これらの塩を再結晶してもよい。例えば、塩をイソプロパノールから2回再結晶すると、98%de超の光学純度が得られる。
【0014】
光学活性R,R-trans-2,6-ジメチルモルホリンは、塩基、好ましくは水酸化ナトリウム溶液を加えることにより、塩から遊離させ、そして、例えば、減圧蒸留により単離することができる。
【0015】
光学活性S,S-trans-2,6-ジメチルモルホリンは、反応溶液から塩として単離し、同様に塩基を用いて遊離させることができる。好適な条件のもとで、光学分割に用いる補助試薬のマンデル酸を光学活性型で回収することもできる。
【0016】
以下の実施例は、本発明をさらに詳しく説明しかつ記載するものである。
【実施例】
【0017】
本発明による方法の全体スキームは下記の通りである:
【化1】

【0018】
製造規模における光学分割
a. R-マンデル酸塩の沈降
【化2】

【0019】
手順:
初めにD-マンデル酸(330.4g、2.174mol)をイソプロパノール(2 l)中に供給し、まず酢酸(130.4g、2.174mol)を、次にtrans-2,6-ジメチルモルホリン(trans-DiMeMo、500g、4.348mol)を速やかに滴下して加えて混合した。この過程で、混合物の温度は45℃に上昇した。透明な溶液に、R,S,S塩2を種晶として加え、そして室温にて一晩放置した。翌日、その混合物を攪拌しながら10℃に冷却しそして沈降した残留物を吸引濾過した。単離したR,S,S塩2(400g(湿)、34%)中に結合したS,S-DiMeMoは74%eeの光学純度を有していた。その塩をイソプロパノール(1 l)中で煮沸し、室温に冷却しそしてR,S,S塩2の1つの結晶を種晶として加えた。混合物を室温にて一晩放置しそして翌日再び吸引濾過した。350g(30%、湿)のR,S,S塩2を得た;それに結合したS,S-DiMeMoは97.7%eeの光学純度を有した。その塩を再び加温条件(70℃)下でイソプロパノール(1 l)に溶解しそして室温にて一晩放置した。再び、その混合物にR,S,S塩2の1つの結晶を種晶として加えそして一晩放置した。沈降した塩を吸引濾過して取り出しそして乾燥室内で乾燥した。266.5g(23%)のR,S,S塩2を得た;それに結合したS,S-DiMeMoは98.3%eeの光学純度を有した。R,S,S塩2の融点は134℃であった。
【0020】
塩に結合したtrans-2,6-ジメチルモルホリンの絶対的立体配置を、X線構造分析(添付1を参照されたい)により決定した。この結果によると、S,S-DiMeMoはD-マンデル酸とともに優先的に沈降した。
【0021】
b. 塩基性条件下でのD-マンデル酸塩(R,S,S塩2)からのS,S-2,6-ジメチルモルホリン(S,S-DiMeMo)の遊離
【化3】

【0022】
手順:
D-マンデル酸塩(R,S,S塩2、266.5g、1mol)を20%水酸化ナトリウム溶液(400ml)に溶解し、50℃にて1時間攪拌した。これによって透明な溶液を得た。浴温を120℃に上昇させ、遊離したS,S-DiMeMoを蒸留装置により水との共沸混合物で(100℃にて)留出させた。ほぼ300mlの凝縮液が留出した後に、蒸留受器を室温に冷却し、10%HClを用いて酸性化した。沈降したマンデル酸を吸引濾過して取り出し、減圧下で乾燥した。光学純度の分析結果はD-マンデル酸が全てラセミ化していることを示した。
【0023】
留出し終わった凝縮液を固体NaOHを加えることにより飽和した;有機相を分離しそしてMTBE(200ml)を用いて希釈した。抽出をMTBE(2x100ml)により行い、その抽出物を統合して、Na2SO4を通して乾燥しそして回転蒸発器により濃縮した。101gの粗生成物を得て、水-ジェットポンプ真空で分別した。純粋なS,S-DiMeMoが37〜39℃/14mmで留出した。88g(使用したtrans-DiMeMoラセミ体を基準として18%)のS,S-DiMeMoを透明な油として得た。
【0024】
旋光度[α]D=-6.15°(純粋、d=0.94g*cm-3)。
【0025】
GC分析によると、単離したS,S-DiMeMoの光学純度は97.9%eeであった。
【0026】
c. S-マンデル酸塩の沈降
【化4】

【0027】
手順:
光学純度27.8%ee(S,S:R,R=36:64)のR,R-DiMeMoを、a.で得たR,S,S塩2の母液から、b.に概説した方法により遊離した。全体で、312g(74%)の混合物を得た。
【0028】
L-マンデル酸(312.5g、2.06mol)と酢酸(69.7g、1.16mol)を最初にイソプロパノール(1500ml)に供給し、速やかにtrans-2,6-ジメチルモルホリン(370g、3.21mol、R,R:S,S=64:36)を加えて混合した。この過程で、混合物の温度はほぼ40℃に上昇した。室温に冷却する過程で、S,R,R塩2が沈降し始めた。その混合物を室温にて一晩放置し、沈降した塩を翌日、吸引濾過して取り出した。400g(使用した出発物質を基準として47%)の湿S,R,R塩2を得た。S,R,R塩2に結合したR,R-DiMeMoは81.5%eeの光学純度を有した。その塩をイソプロパノール(1L)に溶解し、室温にて一晩放置した。再びS,R,R塩2を吸引濾過して取り出して320gのS,R,R塩2を得た;それに結合したR,R-DiMeMoは95.6%eeの光学純度を有した。こうして得た塩をもう一度イソプロパノール(900ml)から再結晶し、吸引濾過して取り出しそして減圧下で乾燥した。274gを得た(使用したR,R-ジメチルモルホリンR,R-DiMeMoを基準として50%)。それに結合したR,R-DiMeMoは99.1%eeの光学純度を有した。
【0029】
d. 酸性条件下でのL-マンデル酸塩(S,R,R塩2)からのR,R-2,6-ジメチルモルホリン(R,R-DiMeMo)の遊離
【化5】

【0030】
手順:
L-マンデル酸塩(S,R,R塩2、274g、1.03mol)を水(400ml)に溶解しそして濃塩酸を加えてpH1.5とした。その混合物を1℃に冷却しそして数個のS-マンデル酸の結晶を種晶として加えた。その混合物を0℃にてさらに2時間攪拌し、沈降した結晶スラリーを吸引濾過した。フィルター残留物を氷水(100ml)を用いて洗浄し、50℃にて減圧下で乾燥した。86g(57%)のL-マンデル酸を得た。これは分析によると光学的に純粋であった。
【0031】
統合した濾液を氷冷しながら固体NaOHを加えることにより塩基性にした(pH14)。t-ブチルメチルエーテル(300ml)を加えると、白色グリース状の固体が沈降析出した。有機相をデカントして取り出し、その混合物をさらに3回t-ブチルメチルエーテル(100mlで3回)とともに攪拌した。それぞれの場合に、有機相をデカントして取り出し、統合した有機抽出物を硫酸ナトリウム上で乾燥した。溶媒を減圧下で除去し、残留物を減圧下で分別した。純粋なR,R-DiMeMoは36℃/13mmにて留出した。93.2g(使用したtrans-DiMeMoラセミ体を基準にして18.5%)のR,R-DiMeMoを透明な油として得た。
【0032】
旋光度[α]D=6.28°(純粋、d=0.94g*cm-3)。
【0033】
GC分析によると、単離したR,R-DiMeMosの光学純度は99.1% eeであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学活性trans-2,6-ジメチルモルホリンを製造する方法であって、(i)ラセミtrans-2,6-ジメチルモルホリンを光学活性マンデル酸と反応させるステップ、(ii)光学活性マンデル酸とtrans-2,6-ジメチルモルホリンの1つのエナンチオマーとから形成された塩をtrans-2,6-ジメチルモルホリンの他のエナンチオマーから取り出すステップ、および(iii)所望の光学活性trans-2,6-ジメチルモルホリンを単離するステップによる、前記方法。
【請求項2】
前記の取り出すステップ(ii)を反応媒質から塩を沈降させることにより行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応をイソプロパノール中で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
0.5モルまでの光学活性マンデル酸をラセミtrans-2,6-ジメチルモルホリン1モル当たりに用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
0.5モルまでの酢酸を、光学活性マンデル酸の他に加える、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
S,S-trans-2,6-ジメチルモルホリンをD-マンデル酸とともに沈降させる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
R,R-trans-2,6-ジメチルモルホリンをL-マンデル酸とともに沈降させる、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2009−522229(P2009−522229A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−547943(P2008−547943)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【国際出願番号】PCT/EP2006/069862
【国際公開番号】WO2007/077118
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】