説明

20℃から60℃の環境において最大使用長を短くすることなく使用できる一括シールド付きLAN用メタルケーブル

【課題】本発明は、60℃という過酷環境下でも90mの使用が可能な一括シールド付きLAN用メタルケーブルを提供する。
【解決手段】本発明は、使用温度範囲−20〜60℃、周囲温度20℃での減衰量を標準規定値、更に、20℃以下の場合にのみパーマネントリンク使用長の最大90m使用を認め、温度が上がり減衰量が増大することから、温度が上がる程、パーマネントリンク長を短くすることを規定しているLAN用メタルケーブルにおいて、導体の径、絶縁体の厚さ、四組の各対撚線の撚りピッチ及び前記四組の対撚線の集合ピッチの4条件を最適化することにより周囲温度60℃でも20℃標準規定値内に減衰量を抑制することで周囲温度60℃でも90mのパーマネントリンク使用を可能としたLAN用メタルケーブルの構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンハンスドカテゴリー5(Cat.5E)規格に準拠したLAN用メタルケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から使用されているLANケーブルにおいては、高精度なデータ伝送を行うため、減衰量(挿入損失とも称す)や近端漏話減衰量などをはじめとする様々な電気特性が規定されているほか、単線導体LANケーブルの最大長は90mと制限されている。
【0003】
これらの規定は20℃環境下での規定であり、従来のLANケーブルを規定値環境の20℃以上で使用した場合、導体抵抗等が増加するため伝送特性が劣化するという問題があった。
【0004】
しかしながら、常に規定値の20℃という環境でLANケーブルを使用することは難しく、20℃を超える可能性が高い場合は、使用ケーブル長を90mよりも短くすることで使用を認めていた。
【0005】
例えば、減衰量(挿入損失とも称す)は、温度上昇とケーブル長さに比例することから、温度上昇による増加分をケーブルの長さを短くすることで補っていた。
【0006】
即ち、LAN配線システムの使用温度範囲−20℃〜60℃において、20℃環境では最大90mの単線導体LANケーブルを使用できるのに対して、60℃環境では、シールド付きケーブルの場合、最大82.8mまでしか使用できず、非シールドケーブルの場合は、最大72mまでしか使用できないため、それぞれ長さを減じて使用することとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−294590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、20℃〜60℃という40℃の温度変化領域でも90mの使用が可能な一括シールド付きLAN用メタルケーブルを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために、使用温度範囲−20〜60℃、周囲温度20℃での減衰量を標準規定値、更に、20℃以下の場合にのみパーマネントリンク使用長の最大90m使用を認め、温度が上がり減衰量が増大することから、温度が上がる程、パーマネントリンク長を短くすることを規定しているLAN用メタルケーブルにおいて、導体の径、絶縁体の厚さ、四組の各対撚線の撚りピッチ及び前記四組の対撚線の集合ピッチの4条件を最適化することにより周囲温度60℃でも20℃標準規定値内に減衰量を抑制することで周囲温度20℃〜60℃でも90mのパーマネントリンク使用を可能としたLAN用メタルケーブルの構成とした。
【0010】
また、絶縁体外径を1.08mm未満、かつ、最小対撚りピッチを12.0以上とし、アルミ箔貼り付けプラスチックテープ又は/及び編組シールドを施したことを特徴とするLAN用メタルケーブルの構成とした。
【0011】
更に、前記導体を、導体径が0.510mm〜0.570mmの導体とし、前記絶縁体を、厚さが0.20〜0.27の絶縁体とし、前記対撚線を、撚りピッチが10.0〜21.0で、且つ四組の各対撚りピッチが異なる対撚線とし、前記四組の対撚線を、集合ピッチが60.0〜200.0で撚り合わせた四組の対撚線としたことを特徴とするLAN用メタルケーブルの構成とした。
【発明の効果】
【0012】
本発明は上記のような構成であるため、規定温度20℃を遙かに超える60℃環境においてもケーブル長を短くすることなく、最大長の90mでLANケーブルを使用することができる。
【0013】
また、上記のように常に最大長である90mでLANケーブルを敷設することができるため、従来よりも敷設コストを下げることが出来る。
【0014】
さらに、減衰量(挿入損失とも称す)を抑制する為に施したシールドは、ケーブル内部から外部へのノイズの流出や外部から内部へのノイズの侵入を抑制できる。
【0015】
その上、二重シールドを施したことにより、広い周波数成分のノイズの流出入を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明であるLAN用メタルケーブルの断面図である。
【図2】本発明であるLAN用メタルケーブルの周囲温度別最大減衰量を示すグラフである。
【図3】<JIS X 5150:2004>規定の周囲温度別最大リンク長を示した表である。
【図4】各種LAN用メタルケーブルの周囲温度60℃での減衰量を示す表及びグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付の図面を参照し、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明であるLAN用メタルケーブルの断面図、図2はLAN用メタルケーブルの周囲温度別最大減衰量を示すグラフ、図3は<JIS X 5150:2004>規定の周囲温度別最大リンク長を示した表、図4は各種LAN用メタルケーブルの周囲温度60℃での減衰量を示す表及びグラフである。
【0019】
図1に示すように、本発明であるLAN用メタルケーブル1は、絶縁体6bで被覆した単線導体6aからなる絶縁心線6を二本撚り合わせてなる四組の対撚線2、3、4、5と、前記対撚線2、3、4、5を撚り合わせて一括被覆する内部シース7と、前記内部シース7の外表面を被覆する第一シールド8と、前記第一シールド8の外表面を被覆する第二シールド9と、前記第二シールド9を被覆するシース10からなる。
【0020】
前記各対撚線2、3、4、5を構成する二本の絶縁心線6、6の撚りピッチは、各々の対撚線2、3、4、5で異なる。
【0021】
前記対撚線2、3、4、5の絶縁心線6、6の撚りピッチは10.〜21.0mmの範囲で12.0mm以上であることが好適である。
【0022】
前記単線導体6aの径は0.510〜0.570mmであり、前記絶縁体6bの厚さは0.20〜0.27mmである。また、前記単線導体6aを絶縁体6bで被覆してなる絶縁心線6の外径は1.08mm未満である。
【0023】
前記内部シースまたは押さえ巻きテープ7は素材としてはプラスチックテープが好適であるが、特に限定したものではない。
【0024】
前記第一シールド8は、アルミ箔貼り付けプラスチックテープであることが好適であり、前記第二シールド9は、編組シールドであることが好適である。また、前記シース10は難燃、耐油タイプの鉛フリーPVCシースであることが好適である。但し、これらについても特に限定したものではない。
【0025】
前記対撚線2、3、4、5を撚り合わせた際の集合ピッチは60.0〜200.0mmである。
【0026】
以上の範囲内で図1に示したLAN用メタルケーブルを構成した結果、図2に示すように、周波数1MHzでは、周囲温度が20℃で1.85、40℃で1.97、60℃で2.00であり、いずれの数値もカテゴリー5Eの20℃の既定値2.04を下回っている。また、周波数10MHzでは、周囲温度が20℃で5.37、40℃で5.57、60℃で5.75であり、いずれの数値もカテゴリー5Eの20℃の既定値6.47を下回っている。更に、周波数100MHzでは、周囲温度が20℃で17.14、40℃で17.71、60℃で18.30であり、いずれの数値もエンハンスドカテゴリー5の20℃の既定値21.98を下回っている。
【0027】
即ち、上記の範囲内の構成からなるLAN用メタルケーブル1では、周囲温度が60℃となった場合であっても、エンハンスドカテゴリー5の20℃の既定値内にあるため、最大ケーブル長90mで使用可能であることがわかる。
【0028】
図3は、<JIS X 5150:2004>規定の周囲温度別最大リンク長を示した表である。図3に示すように、非シールドケーブルでは、周囲環境20℃で90m使用可能なLANケーブルであっても、周囲温度が上昇するにつれて減衰量が増加するため60℃まで上昇した場合、減衰量の増加率は1.24%となり、18.0mの減長の結果、最大リンク長が72.0mとなる。
【0029】
また、シールド付きケーブルであっても、周囲温度の上昇に伴い減衰量は増加するため非シールドケーブル程まで減長する必要はないとしても、図3に示すように周囲環境が60℃まで上昇した場合、減衰量の増加率は1.08%となり、7.2mの減長の結果、最大リンク長は82.8mとなる。
【0030】
図4は、エンハンスドカテゴリー5の規格値(20℃)と周囲温度60℃での本発明(以下、本品)、前記シールド付きケーブル(以下、現行品)及び前記非シールドケーブル(以下、非シールド品)の減衰量を示す表及びグラフである。
【0031】
図4に示すように、周囲環境60℃の周波数1MHzにおいては、本品は2.00、現行品は2.13、非シールド品は2.07となり、本品だけがエンハンスドカテゴリー5(20℃)の規定値2.04を満たした。
【0032】
また、周囲環境60℃の周波数10MHzにおいては、本品は5.75、現行品は6.34、非シールド品は6.71となり、本品はエンハンスドカテゴリー5(20℃)の規定値6.47を満たし、更に周囲環境60℃の周波数100MHzにおいては、本品は18.30、現行品は20.15、非シールド品は22.86となり、本品はエンハンスドカテゴリー5(20℃)の規定値21.98を満たした。
【0033】
以上のように、本品は周囲環境が60℃のときに1MHz〜100Mhzの帯域全てにおいてエンハンスドカテゴリー5(20℃)の規定値内に収まることができた。従って、本品は周囲環境が60℃まで上昇してもケーブル長を減長する必要が無く、エンハンスドカテゴリー5(20℃)の規定値で使用可能な90mで使用することができる。
【0034】
以上より、本発明である過酷環境でも使用可能な一括シールド付きLAN用メタルケーブルは、使用温度範囲−20〜60℃、周囲温度20℃での減衰量を標準規定値、更に、20℃以下の場合にのみパーマネントリンク使用長の最大90m使用を認め、温度が上がり減衰量が増大することから、温度が上がる程、パーマネントリンク長を短くすることを規定しているLAN用メタルケーブルにおいて、導体の径、絶縁体の厚さ、四組の各対撚線の撚りピッチ及び前記四組の対撚線の集合ピッチの4条件を最適化することにより周囲温度60℃でも20℃標準規定値内に減衰量を抑制することで周囲温度60℃でも90mのパーマネントリンク使用を可能とした。
【0035】
また、前記絶縁体の外径を1.08mm未満、かつ、最小対撚りピッチを12.0mm以上とし、アルミ箔貼り付けプラスチックテープ又は/及び編組シールドを施したことを特徴とするLAN用メタルケーブルである。
【0036】
更に、前記導体6aを、導体径が0.510mm〜0.570mmの導体とし、前記絶縁体6bを、厚さが0.20〜0.27の絶縁体とし、前記対撚線2、6、4、5を、撚りピッチが10.0〜21.0で、且つ四組の各対撚りピッチが異なる対撚線とし、前記四組の対撚線2、3、4、5を、集合ピッチが60.0〜200.0で撚り合わせた四組の対撚線としたことを特徴とするLAN用メタルケーブルである。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明であるLAN用メタルケーブルは、規定値を遙かに超える60℃環境下においてもケーブル長を短くすることなく、最大ケーブル長の90mで敷設することができるため、温度変化を気にすることがなく、LAN配線をする多くの領域に多大な貢献をもたらす。
【符号の説明】
【0038】
1 LAN用メタルケーブル
2 対撚線
3 対撚線
4 対撚線
5 対撚線
6 絶縁心線
6a 単線導体
6b 絶縁体
7 内部シースまたは押さえ巻きテープ
8 第一シールド
9 第二シールド
10 シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用温度範囲−20〜60℃、周囲温度20℃での減衰量を標準規定値、更に、20℃以下の場合にのみパーマネントリンク使用長の最大90m使用を認め、温度が上がり減衰量が増大することから、温度が上がる程、パーマネントリンク長を短くすることを規定しているLAN用メタルケーブルにおいて、
導体の径、絶縁体の厚さ、四組の各対撚線の撚りピッチ及び前記四組の対撚線の集合ピッチの4条件を最適化することにより周囲温度60℃でも20℃標準規定値内に減衰量を抑制することで周囲温度60℃でも90mのパーマネントリンク使用を可能としたLAN用メタルケーブル。
【請求項2】
絶縁体外径を1.08mm未満、かつ、最小対撚りピッチを12.0以上とし、アルミ箔貼り付けプラスチックテープ又は/及び編組シールドを施したことを特徴とする請求項1に記載のLAN用メタルケーブル。
【請求項3】
前記導体を、導体径が0.510mm〜0.570mmの導体とし、
前記絶縁体を、厚さが0.20〜0.27の絶縁体とし、
前記対撚線を、撚りピッチが10.0〜21.0で、且つ四組の各対撚りピッチが異なる対撚線とし、
前記四組の対撚線を、集合ピッチが60.0〜200.0で撚り合わせた四組の対撚線としたことを特徴とする請求項1に記載のLAN用メタルケーブル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−178243(P2012−178243A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39565(P2011−39565)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(300040302)東日京三電線株式会社 (16)
【Fターム(参考)】