3−ヒドロキシアルカン酸の酵素的脱炭酸によるアルケンの製造法
本発明は、生物学的にアルケンを作製するための方法に関する。本発明は、より具体的には、3-ヒドロキシアルカノアート分子の酵素的脱炭酸によって末端アルケンを製造するための方法に関する。本発明はまた、使用される酵素システムおよび微生物株、ならびに得られる生成物にも関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
序論
本発明は、生物学的プロセスによってアルケンを作製するための方法に関する。より具体的には、本発明は、3-ヒドロキシアルカノアートタイプの分子から末端アルケン(特に、プロピレン、エチレン、1-ブチレン、イソブチレンまたはイソアミレン)を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
多数の化合物が、現在、石油化学製品から誘導されている。アルケン(例えば、エチレン、プロピレン、種々のブテン、またはペンテン)は、例えばポリプロピレンまたはポリエチレンを製造するために、プラスチック産業において、ならびに化学産業の他の領域および燃料の領域において、使用されている。
【0003】
最も単純なアルケンであるエチレンは、産業的な有機化学の中心にあり:世界で最も広く製造されている有機化合物である。これは特に、主要なプラスチックであるポリエチレンを製造するために使用される。エチレンはまた、反応(酸化反応、ハロゲン化反応)によって多くの産業的に有用な生成物へと変換され得る。
【0004】
プロピレンは、同様に重要な役割を有し:その重合によって、プラスチック材料であるポリプロピレンが得られる。耐性、密度、固体性、変形能、および透明性の点でのこの生成物の技術的特性は、匹敵するものがない。ポリプロピレンの世界市場は、1954年のその発明以来、継続的に成長している。
【0005】
ブチレンは、4つの形態で存在し、そのうちの1つであるイソブチレンは、自動車燃料用のアンチノック剤であるメチル-tert-ブチル-エーテル(MTBE)の組成の一部である。イソブチレンはまた、イソオクテンを製造するために使用され得、これが次に、イソオクタン(2,2,4-トリメチルペンタン)へ還元され得;イソオクタンの非常に高い燃焼/爆発比のために、これは、いわゆる「ガソリン」エンジンに最良の燃料である。
【0006】
アミレン、ヘキセン、およびヘプテンは、二重結合の位置および立体配置に従って多くの形態で存在する。これらの生成物は、実際の産業的用途を有するが、エチレン、プロピレンまたはブテンほど重要ではない。
【0007】
これらのアルケンは全て、石油製品の接触分解によって(または、ヘキセンの場合、石炭またはガスから、Fisher-Tropsch法の派生法によって)現在製造されている。従って、それらのコストは、当然、石油価格へスライドされる。さらに、接触分解は、時には、相当な技術的問題を伴い、このために、処理の複雑性および製造コストが増大する。
【0008】
上記の考慮事柄とは無関係に、プラスチックの生物生産(「バイオプラスチック」)分野は、繁栄している。このブームは、石油価格に関連する経済問題によって、ならびにグローバル(カーボンニュートラル製品)およびローカル(廃棄物管理)の両方における環境に対する配慮によるものである。
【0009】
バイオプラスチックの主要なファミリーは、ポリヒドロキシアルカノアート(PHA)ファミリーである。これらは、酸基およびアルコール基の両方を含む分子の縮合によって得られるポリマーである。縮合は、下記のモノマーのアルコール上における酸のエステル化によって行われる。このエステル結合は、従来のプラスチックのポリマー中に存在する直接の炭素−炭素結合ほど安定ではなく、これが、PHAが数週間〜数ヶ月間の生分解性を有する理由の説明となる。PHAファミリーとしては、特に、3-ヒドロキシブチラートのポリマーであるポリ-3-ヒドロキシブチラート(PHB)、ならびに、3-ヒドロキシブチラートおよび3-ヒドロキシバレラートの交互ポリマーであるポリヒドロキシブチラート-バレラート(PHBV)が挙げられる。
【0010】
PHBは、アルカリゲネス・ユートロフス(Alcaligenes eutrophus)およびバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)などのいくつかの細菌株によって天然に産生される。PHBまたは一般的にPHAをもたらす合成経路が組み込まれた大腸菌などの実験室細菌が構築された。前記化合物またはそのポリマーは、ある特定の実験室条件において、細菌質量の80%までを占め得る(Wong MS et al., Biotech. Bioeng., 2008(非特許文献1))。PHBの工業規模製造が1980年代に試みられたが、発酵によって該化合物を製造するコストは、当時、高すぎると考えられた。(産生体細菌中に存在するPHB合成経路の重要な酵素が組み込まれた)遺伝子組換え植物でのこれらの化合物の直接製造を含むプロジェクトが進行中であり、必要な操作コストはより低くなり得る。
【0011】
燃料としてまたは合成樹脂の前駆体として使用され得るアルカンまたは他の有機分子の生物学的経路による製造が、地球化学的循環と調和しての持続可能な工業活動との関連において求められる。発酵および蒸留プロセスが食品加工業界に既に存在したため、バイオ燃料の第一世代はエタノールの発酵生産であった。特に長鎖アルコール(ブタノールおよびペンタノール)、テルペン、直鎖アルカンおよび脂肪酸の製造を包含する第二世代バイオ燃料の製造は、探究段階にある。2つの最近のレビューが、この分野における研究の全体的な概観を提供している:Ladygina N et al., Process Biochemistry, 2006, 41:1001(非特許文献2)およびWackett LP, Current Opinions in Chemical Biology, 2008, 21:187(非特許文献3)。
【0012】
アルケンの化学的ファミリーにおいて、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)はテルペンモチーフであり、重合によってゴムとなる。バイオ燃料などの有用な製品としてまたはプラスチックを製造するために、他のテルペンが化学的経路、生物学的経路または混合経路によって開発され得る。最近の文献は、メバロン酸経路(多くの生物におけるステロイド生合成の重要な中間体)が、工業的収率でテルペンファミリーからの生成物を効率的に製造するために使用され得ることを示している(Withers ST et al., Appl. Environ. Microbiol., 2007, 73:6277(非特許文献4))。
【0013】
末端アルケン[2位で一置換または二置換されたエチレン:H2C=C(R1)(R2)]の製造は、あまり大規模には研究されていないようである。酵母ロドトルラ・ミヌタ(Rhodotorula minuta)によるイソバレラートからのイソブチレンの産生が検出された(Fujii T. et al., Appl. Environ. Microbiol., 1988, 54:583(非特許文献5))が、1分当たり100万分の1未満または1日当たり1000について約1というこの変換効率は、産業的利用を可能にするには程遠い。反応機構は、Fukuda H.ら(BBRC, 1994, 201(2):516)(非特許文献6)によって解明されており、オキソフェリル(oxoferryl)基FeV=Oの還元によってイソバレラートを脱炭酸するシトクロムP450酵素を必要とする。どの時点でも、反応はイソバレラートのヒドロキシル化を含まない。イソバレラートはまた、ロイシン異化における中間体である。イソブチレン1分子を形成するためにロイシン1分子の合成および分解を必要とするため、この経路によるイソブチレンの大規模生合成は極めて好ましくないようである。さらに、反応を触媒する酵素は、補因子としてヘムを使用するが、これは、細菌における組換え発現および酵素パラメータの改善にほとんど役に立たない。これらの全ての理由のために、先行技術のこの経路は、産業開発の基礎として役立ち得る可能性は非常に低いようである。他の微生物がイソバレラートからイソブチレンを天然に産生することが僅かにできると記載されたが;得られる収率は、ロドトルラ・ミヌタで得られるものよりもさらに低い(Fukuda H. et al, Agric. Biol. Chem., 1984, 48:1679(非特許文献7))。
【0014】
これらの同一の研究はまた、プロピレンの天然産生も記載している:多くの微生物は、同じく非常に低い収率でしかプロピレンを産生することができない。
【0015】
植物によるエチレンの産生は、長く知られている(Meigh et al, 1960, Nature, 186:902(非特許文献8))。解明された代謝経路によれば、メチオニンがエチレンの前駆体である(Adams and Yang, PNAS, 1979, 76:170(非特許文献9))。2-オキソグルタラートの変換もまた記載された(Ladygina N. et al., Process Biochemistry 2006, 41:1001(非特許文献2))。1つのエチレン分子に対して4-または5-炭素鎖を予め製造する必要があるので、これら全ての経路の設備およびエネルギー需要は好ましくないものであり、アルケン生物生産のためのそれらの産業的利用にとって幸先がよいとはいえない。
【0016】
植物において1-アミノ-シクロプロパン-1-カルボキシラート(ACC)の形成を介してその真の代謝前駆体であるS-アデノシルメチオニン(SAM)をエチレンへと変換するという酵素段階の特徴決定(Adams and Yang, PNAS, 1979, 76:170(非特許文献9))の前に、エチレン産生を説明するためにいくつかの他の仮説が科学文献において提唱されたが、これらの中に、3-ヒドロキシプロピオナートの脱水に起因するアクリレート(H2C=CH-CO2H)の脱炭酸があった。いくつかの論文は、アクリレートを介して、3-ヒドロキシプロピオナートをエチレンへと変換する代謝経路を具体的に推測し、エチレン産生の放射性トレーサ研究を解釈し、ここで、14C標識基質が植物組織調製物へ供給された:β-アラニン-2-14Cが豆子葉抽出物へ(Stinson and Spencer, Plant Physiol., 1969, 44:1217(非特許文献10);Thompson and Spencer, Nature, 1966, 210:5036(非特許文献11))、プロピオナート-2-14Cがバナナパルプホモジネートへ(Shimokawa and Kasai, Agr. Biol. Chem., 1970, 34(11):1640(非特許文献12))。3-ヒドロキシプロピオナートおよびアクリレートが代謝的エチレン産生に関与するとのこれらの仮説の全ては、酵素活性の特徴決定へは至らず、メチオニン、SAMおよびACCの役割が発見されたらすぐに科学文献から姿を消した(Hanson and Kende, Plant Physiology, 1976, 57:528(非特許文献13);Adams and Yang, PNAS, 1979, 76:170(非特許文献9))。
【0017】
従って、本発明者の知る限りでは、微生物学的合成によってエチレン、プロピレン、1-ブチレン、イソブチレン、1-アミレンまたはイソアミレンなどの末端アルケンを製造するための効率的な方法は、現在のところ存在しない。このような方法は、石油製品の使用を避け、プラスチックおよび燃料の製造コストを下げることを可能にする。最後に、炭素の固体形態での保存を可能にすることによって、相当なグローバルな環境上の影響を潜在的に有し得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Wong MS et al., Biotech. Bioeng., 2008
【非特許文献2】Ladygina N et al., Process Biochemistry, 2006, 41:1001
【非特許文献3】Wackett LP, Current Opinions in Chemical Biology, 2008, 21:187
【非特許文献4】Withers ST et al., Appl. Environ. Microbiol., 2007, 73:6277
【非特許文献5】Fujii T. et al., Appl. Environ. Microbiol., 1988, 54:583
【非特許文献6】Fukuda H. et al., BBRC, 1994, 201(2):516
【非特許文献7】Fukuda H. et al, Agric. Biol. Chem., 1984, 48:1679
【非特許文献8】Meigh et al, 1960, Nature, 186:902
【非特許文献9】Adams and Yang, PNAS, 1979, 76:170
【非特許文献10】Stinson and Spencer, Plant Physiol., 1969, 44:1217
【非特許文献11】Thompson and Spencer, Nature, 1966, 210:5036
【非特許文献12】Shimokawa and Kasai, Agr. Biol. Chem., 1970, 34(11):1640
【非特許文献13】Hanson and Kende, Plant Physiology, 1976, 57:528
【発明の概要】
【0019】
本発明は、生物学的プロセスによってアルケン化合物の合成を行うための方法を記載する。
【0020】
本発明は、3-ヒドロキシアルカノアートの変換に基づく、末端アルケン化合物についての新規合成経路の設計に基づく。本発明はまた、前記変換がデカルボキシラーゼタイプの酵素またはその変異体を使用することによって生物学的に行われ得るという実証に基づく。本発明は、微生物を使用することによって、または無細胞系において、インビトロで行われ得る。本発明はまた、炭素源、特に炭水化物(特にグルコース)、ポリオール(特にグリセロール)、生分解性ポリマー(特にデンプン、セルロース、ポリ-3-ヒドロキシアルカノアート)からのアルケンの製造に関し;炭素源は、3-ヒドロキシアルカノアートファミリーに属する代謝中間体へと微生物によって変換され、次いで、末端アルケンへと変換される。
【0021】
より具体的には、本発明の目的は、デカルボキシラーゼ活性を有する酵素の存在下において3-ヒドロキシアルカノアートを変換する工程を含むことを特徴とする、末端アルケンを製造するための方法を提供することである。
【0022】
本発明の別の目的は、末端アルケン化合物の製造のための、前駆体または基質としての3-ヒドロキシアルカノアート化合物の使用に基づく。
【0023】
本発明の特定の態様において:
− 3-ヒドロキシプロピオナートはエチレンへと変換され;または
− 3-ヒドロキシブチラートはプロピレンへと変換され;または
− 3-ヒドロキシバレラートは1-ブチレンへと変換され;または
− 3-ヒドロキシ-3-メチルブチラート(または3-ヒドロキシイソバレラート)はイソブチレンへと変換され;または
− 3-ヒドロキシ-3-メチルバレラートはイソアミレンへと変換される。
【0024】
本発明はさらに、3-ヒドロキシアルカノアートから末端アルケン化合物を製造するための、デカルボキシラーゼ酵素の使用またはデカルボキシラーゼを産生する微生物の使用に関する。
【0025】
本発明はまた、デカルボキシラーゼを産生する微生物、好適な培養培地、および、該微生物によって3-ヒドロキシアルカノアート化合物または3-ヒドロキシアルカノアート化合物へと変換され得る炭素源を含む、組成物に関する。
【0026】
本発明の別の目的は、末端アルケンへ3-ヒドロキシアルカノアート化合物を脱炭酸するデカルボキシラーゼを産生する微生物、またはデカルボキシラーゼ酵素を含む生体触媒に関する。
【0027】
本発明の別の目的は、本発明に記載されるような方法によって得られる末端アルケン化合物に関する。
【0028】
本発明のさらなる目的は、デカルボキシラーゼ活性を有しかつ配列番号:6の全体または一部を含む単離または精製された酵素、またはそれらに対して少なくとも15%の配列相同性を有する酵素である。
【0029】
本発明の別の目的は、末端アルケンを製造するための、デカルボキシラーゼ活性を有しかつ配列番号:6の全体または一部を含む酵素、またはそれらに対して少なくとも15%の配列相同性を有する酵素の使用に関する。
【0030】
本発明の別の目的は、デカルボキシラーゼ活性を有しかつ配列番号:6の全体または一部を含む酵素、またはそれらに対して少なくとも15%の配列相同性を有する酵素を製造するための方法であって、該配列の発現を可能にする条件下で、該配列をコードする組換え核酸を含む微生物を培養する工程を含む方法に関する。
【0031】
本発明の別の目的は、デカルボキシラーゼ活性を有しかつ配列番号:6の全体または一部を含む酵素またはそれらに対して少なくとも15%の配列相同性を有する酵素をコードする組換え核酸を含む微生物に関する。
【0032】
定義
「3-ヒドロキシアルカノアート」は、本明細書において使用される場合、共通のモチーフとしての3-ヒドロキシプロピオナート(図1)、および任意で炭素3上に1つまたは2つのアルキル置換を含む任意の分子を意味する。前記アルキル残基または基は、直鎖または分岐鎖であり得る。本明細書において使用される場合、用語「アルコイル」および「アルキル」は、同一の意味を有し、交換可能である。同様に、用語「残基」および「基」は、同一の意味を有し、交換可能である。メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基は、前記アルキル基の例である。炭素3は、2つのアルキル置換が異なる場合、キラル中心となる。2つの形態のうちの1つ、例えば、R形態が、天然に産生される主要な形態であったとしても、本定義は、2つのキラル形態を包含する。3-ヒドロキシアルカノアートの例を図3に示す。任意で、アルキル置換基が炭素2上に付加され得、その場合、これはまたキラルとなり得る(2つの置換基が異なる場合)。同様に、本発明における3-ヒドロキシアルカノアート基質の立体配置は、全ての立体異性体を包含する。好ましい様式において、3-ヒドロキシアルカノアートは、3-ヒドロキシプロピオナートまたは3-ヒドロキシプロピオナートの変形もしくは誘導体のいずれかに対応し、ここで、炭素3上に保有される2つの水素原子または2つのうちの1つは、炭素および水素原子のみから構成されるモチーフによって置換されており、該置換基の炭素原子の数は、1〜5個、好ましくは1〜3個の範囲にある(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基またはイソブチル基)。接尾辞「オアート」は、本明細書において使用される場合、カルボン酸イオン(COO-)またはカルボン酸(COOH)のいずれかを交換可能に意味し得る。それは、エステルを示すためには使用されない。特定の態様において、3-ヒドロキシアルカノアートは、以下の式によって表される:HO-CO-CH2-C(R1)(R2)-OHまたはO--CO-CH2-C(R1)(R2)-OH。
【0033】
「末端アルケン」は、本発明によれば、直鎖または分岐鎖アルキル基による炭素2へ結合された2つの水素原子の一置換または二置換によってエチレンから誘導される有機分子およびエチレンを含む炭素および水素のみから構成される分子(式CnH2nを有する不飽和炭化水素)を意味する。末端アルケンは、好ましくは、式H2C=C(R1)(R2)によって表され、式中、R1およびR2は、独立して、水素原子、および好ましくは1〜4個の炭素原子、より好ましくは1〜3個の炭素原子を有する、直鎖または分岐鎖アルキル基からなる群において選択される。好ましくは、アルケンの炭素2上の2つの置換基のうちの少なくとも1つは、直鎖または分岐鎖アルキル基である。末端アルケンは、例えばイソブチレンなどの、分岐鎖イソアルケン化合物を含む。本発明による末端アルケン化合物の好ましい例は、特に、エチレン、プロピレン、イソブチレン、およびイソアミレン(図4)、または1-ブチレンおよび1-アミレンである。
【0034】
「炭素源」は、本明細書において使用される場合、本発明による生物についての基質として使用され得る任意の炭素化合物を意味する。前記用語は、グルコースもしくは任意の他のヘキソース、キシロースもしくは任意の他のペントース、ポリオール、例えば、グリセロール、ソルビトールもしくはマンニトール、またはポリマー、例えば、デンプン、セルロースもしくはヘミセルロース、またはポリ-3-ヒドロキシアルカノアート、例えば、ポリ-3-ヒドロキシブチラートを含む。それは、微生物の増殖を可能にする任意の基質、例えば、ホルマートであり得る。生物が光合成を行うことができる場合、それはまた、CO2であり得る。
【0035】
「組換え」は、本明細書において使用される場合、染色体遺伝子もしくは染色体外遺伝子もしくは調節モチーフ、例えば、プロモーターの付加、除去、もしくは改変によるか、または生物の融合によるか、または任意のタイプの、例えばプラスミドの、ベクターの添加による、生物の人工的な遺伝子改変を意味する。「組換え発現」という用語は、好ましくは、その宿主に関して外因性または異種起源の、即ち、産生宿主において天然には生じない、タンパク質を産生するための、または、改変されたか突然変異した内因性タンパク質を産生するための、遺伝子改変を伴うタンパク質の産生を意味する。
【0036】
「過剰発現」または「過剰発現する」は、本明細書において使用される場合、該タンパク質の天然発現と比較して少なくとも10%、好ましくは20%、50%、100%、500%、場合によってはそれ以上増大した、それが発現されるものとは異なる生物に好ましくは由来するタンパク質の組換え発現を意味する。この定義は、前記タンパク質の天然発現が存在しない場合をも包含する。
【0037】
「補助基質」は、そのある特定のパラメータを改善するため、特にその活性を向上させるために酵素反応へ添加される生成物であり、該生成物および主要基質は等しい量で消費される。従って補助基質は、主要基質と同等の濃度で反応へ添加されなければならない。酵素に応じて、酵素反応のために補助基質の存在が必要となり得る。
【0038】
「補因子」は、そのある特定のパラメータを改善するために、特にその活性を向上させるために酵素反応へ添加される生成物であり、該生成物は反応の間に消費されず、従って、酵素の量に比例して低濃度で添加されることのみが必要であり、従って該濃度は「触媒的」と呼ばれる。
【0039】
アミノ酸配列の「部分」は、該配列の少なくとも10、好ましくは少なくとも20、30、40または50の連続アミノ酸残基を含むフラグメントを意味する。
【0040】
「相同性」は、2つの配列間のパーセント同一性によって測定されるような2つの配列間の類似性の存在を意味する。
【0041】
化合物は、いくつかの名称、正式名または一般名によって公知であることが多い。本明細書においては、分子の一般名が好ましい。従って:
− 「エチレン」は、エテンを示すために使用される。
− 「プロピレン」は、プロペンを示すために使用される。
− 「ブチレン」は、ブテンを示すために使用される。
− 「イソブチレン」は、2-メチルプロペンまたはイソブテンを示すために使用される。
− 「アミレン」は、ペンテンを示すために使用される。
− 「イソアミレン」は、2-メチル-ブタ-1-エンまたはイソペンテンを示すために使用される。
− 「プロピオナート」は、プロパン酸またはプロパン酸イオンを示すために使用される。
− 「ブチラート」は、ブタン酸またはブタン酸イオンを示すために使用される。
− 「バレラート」は、ペンタン酸またはペンタン酸イオンを示すために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】3-ヒドロキシプロピオナートモチーフ。
【図2】MDPデカルボキシラーゼによるメバロン酸二リン酸の脱炭酸−一般的な活性。
【図3】3-ヒドロキシアルカノアートの例。
【図4】末端アルケンを製造するためのMDPデカルボキシラーゼの使用。
【図5】触媒部位における構造補完のために反応において使用され得る補因子。
【図6】グルコースからアルケンを製造するための一体化方法。
【図7】実施例4の条件番号1で行われた酵素反応のクロマトグラム。
【図8】配列番号:6の酵素の過剰発現および精製工程のSDS-PAGE。1.マーカー。2.誘導前の培養物。3.溶解物。4.カラム上に吸着されていないフラクション。5.カラム洗浄フラクション。6.精製酵素、MW 36.8 kDa。
【図9】HIVのIBNへの変換のGC/MSクロマトグラフィー分析。1および2:酵素の非存在下でのバックグラウンドノイズに対応する陰性対象。3および4:配列番号:6の酵素の存在下における反応。
【図10】ATPの存在および非存在下でのIBN産生の比率。
【図11】Mg2+の存在および非存在下でのIBN産生の比率。
【図12】温度に応じての酵素活性。比率:バックグラウンドに対する酵素の存在下で形成されたIBNの量。
【図13】HIV基質の濃度に応じてのIBN産生。
【図14】最適化された反応の測定およびバックグラウンドとの比較。フレームイオン化検出を備えるガスクロマトグラフィーによって測定。
【図15】配列番号:6をコードするヌクレオチド配列の最適化により向上した発現レベル。レーンM:分子量マーカー。レーン1、2、3:天然ヌクレオチド配列。(1)細胞溶解物、精製カラム上にロードされた可溶性フラクション。(2)精製カラム上に保持されなかった溶解物フラクション。(3)溶出されたフラクション:10μg精製酵素。レーン4、5、6:最適化されたヌクレオチド配列。(4)細胞溶解物、精製カラム上にロードされた可溶性フラクション。(5)精製カラム上に保持されなかった溶解物フラクション。(6)溶出されたフラクション:10μg精製酵素。
【発明を実施するための形態】
【0043】
発明の詳細な説明
特に、本発明は、3-ヒドロキシアルカノアート化合物の酵素的脱炭酸の工程を含む、末端アルケンを製造するための方法を提供する。本発明はまた、この反応を触媒するためのデカルボキシラーゼの使用、ならびに特に、メバロン酸二リン酸デカルボキシラーゼタイプの酵素の使用、ならびに3-ヒドロキシブチラート、3-ヒドロキシバレラート、3-ヒドロキシ-3-メチルブチラート(または3-ヒドロキシイソバレラート)および3-ヒドロキシプロピオナートなどの基質の使用に関する。本発明は、エチル二リン酸、プロピル二リン酸、メチル二リン酸、該分子のアナログ、およびピロホスファートを含む、補因子の使用を記載する。本発明は、さらに、ATPまたはリン酸無水物結合を含む他の化合物などの、補助基質の使用を記載する。
【0044】
本発明はまた、細胞全体から末端アルケンを直接製造するための、グルコースなどの炭素源の使用に関し、合成経路は、3-ヒドロキシアルカノアート経由で行われる。
【0045】
本発明はさらに、3-ヒドロキシアルカノアートを内因的に産生し、かつまた該3-ヒドロキシアルカノアートを末端アルケンへと変換するデカルボキシラーゼを発現する、天然のまたは改変された生物に関する。
【0046】
製造されるアルケン化合物、特に、プロピレン、エチレンおよびイソブチレンは、プラスチックおよび燃料産業において重要な分子であり、再生可能資源からの生物学的経路によるそれらの工業生産は、大幅な革新を示す。
【0047】
従って、本発明は、3-ヒドロキシアルカノアートタイプの化合物の変換に基づく、末端アルケンタイプの化合物についての新規の合成経路の設計から得られる。本発明は、末端アルケンへの3-ヒドロキシアルカノアートの変換を可能にする、デカルボキシラーゼタイプの酵素を使用することによって、前記変換が生物学的に行われ得ることを実証する。図2に示されるように、前記変換は、3-ホスホ-ヒドロキシアルカノアート構造を有する反応中間体を介して起こる。
【0048】
本発明による変換工程は、単離酵素(または、1つもしくは複数の補因子をさらに含む酵素システム)の存在下でインビトロで行われ得るか、または該酵素を産生する微生物の存在下で培養中に、行われ得る。
【0049】
本明細書の実施例5に記載されるように、変換収率について約100倍のシグナル対ノイズ比(酵素の非存在下で測定される)が、いくつかの条件下で観察され得た。3-ヒドロキシイソバレラート(HIV)に対する親和性は、約40 mMで測定された。このような非常に顕著な酵素活性が得られ得ることは、自明ではなかった:実際、酵素活性部位にはある特定の基質の認識、結合および化学変換を可能にする構造エレメントが含まれることは、酵素学の理論および実施に精通している生化学者にとって非常に周知である。たとえ僅かであっても、サイズまたは電荷の変化は基質の排除につながり得ることを示す実験データが、科学文献には多く存在する。具体的には、MDPデカルボキシラーゼが、概して3-ヒドロキシアルカノアートタイプの分子、特に3-ヒドロキシイソバレラートを基質として使用し得ると予想できた科学的予測は存在せず、後者は、そのサイズ(メバロン酸二リン酸についての308に対してMW 118)の点だけでなく、天然基質であるメバロン酸二リン酸上に存在する二リン酸基の電荷の点でも、メバロン酸二リン酸とは相違している。
【0050】
特定の態様において、補因子は、触媒クレフトに立体的または電子的補完を提供するために反応へ添加される。補因子は、ピロリン酸イオン、メチル二リン酸、エチル二リン酸、またはプロピル二リン酸からなる群において有利には選択される。より一般的に、補因子は、一般式R-O-PO2H-O-PO3H2を有するリン酸無水物モチーフを含む化合物であり、式中、Rは特に、水素原子、好ましくは1〜10個もしくは1〜5個の炭素原子を有する直鎖、分岐鎖、もしくは環式のアルキル基、または任意の他の一価の有機基を示す。加水分解されないという利点を有するメチレン架橋によってリン酸無水物が置き換えられた一般式R-O-PO2H-CH2-PO3H2によって表される、メチレンジホスホナートのモノエステルに対応する類似モチーフも、本発明の一部である。
【0051】
好ましい態様において、変換は補助基質の存在下で生じ、該補助基質は好ましくは、リン酸無水物を含む化合物であり、かつ好ましくは、ATP、rNTP、dNTP、またはいくつかのこれらの分子の混合物、ポリホスファート、またはピロホスファートである。補助基質は一般的に、宿主中に存在する。しかし別の特定の態様において、ATP、rNTP、dNTP、いくつかのrNTPもしくはdNTPの混合物、ポリホスファート、および好ましくはピロホスファート、または、リン酸無水物を含む化合物(図2の一般式X-PO3H2によって表される)からなる群において好ましくは選択される補助基質を、反応へ添加することができる。
【0052】
本発明の特定の態様において、デカルボキシラーゼを産生する微生物が使用される。好ましい態様において微生物は、産生宿主に対して異種のデカルボキシラーゼを産生する点で、組換えられている。従って、本方法は、酵素システムを分離または精製することなく、直接、培養培地において行われ得る。特に有利な様式において、溶液中に存在する炭素源から末端アルケンを直接産生するように、1つまたは複数の3-ヒドロキシアルカノアートを内因的に産生しかつ天然のまたは改変されたデカルボキシラーゼも発現または過剰発現する、天然または人工の特性を有する微生物が使用される。
【0053】
本発明において使用される微生物は、原核生物または真核生物、特に、細菌、酵母、植物細胞、真菌および糸状菌、動物細胞であり得る。特定の態様において、微生物は、細菌、特に、株アルカリゲネス・ユートロフスまたはバチルス・メガテリウムである。
【0054】
別の特定の態様において、微生物は、1つまたは複数の3-ヒドロキシアルカノアートを内因的に産生するように改変され、かつそれらを末端アルケンへと変換する、組換え大腸菌(Escherichia coli)株である。
【0055】
別の特定の態様において、微生物は、3-ヒドロキシアルカノアートを産生し、それらを末端アルケンへと変換する、組換え酵母である。
【0056】
別の特定の態様において、一方では、1つまたは複数の3-ヒドロキシアルカノアートを産生する微生物を使用し、他方では、第2の微生物によって任意で発現されたデカルボキシラーゼを使用する。任意で、本発明による方法において、前記2種類の生物を培養し、同時に使用する。
【0057】
別の特定の態様において、内因的に産生されるかまたは外因的に供給されるかにかかわらず、3-ヒドロキシアルカノアートから末端アルケンを製造するために、遺伝子導入によって任意で改変された植物または動物全体が使用される。
【0058】
別の特定の態様において、溶液中に存在するCO2から末端アルケンを直接産生するように、1つまたは複数の3-ヒドロキシアルカノアートを内因的に産生しかつ天然のまたは改変されたデカルボキシラーゼも過剰発現する、天然または人工の特性を有する光合成微生物が使用される。好ましくは、微生物は、光合成細菌、または微細藻類である。
【0059】
本発明はさらに、本明細書で上述した生物、および、末端アルケン化合物を製造するためのそれらの使用に関する。
【0060】
下記に記載されるように、本発明の方法は、微好気性条件下において行われ得る。
【0061】
さらに、好ましい態様において、本方法は、反応から脱気する(degas)末端アルケンのガスを収集するためのシステムの存在下で行われる。
【0062】
本明細書において使用されるデカルボキシラーゼは、n個の炭素原子を有する3-ヒドロキシアルカノアートを、n-1個の炭素原子を有する末端アルケン化合物へと変換することができる、任意の酵素を意味する。図2に示されるように、本発明の方法は好ましくは、3-ホスホ-ヒドロキシアルカノアート反応中間体を介して行われ、使用される酵素は、有利には、デカルボキシラーゼ活性およびホスホリラーゼ活性を有する。
【0063】
特定の態様において、デカルボキシラーゼは、メバロン酸二リン酸(MDP)デカルボキシラーゼ(酵素学名EC 4.1.1.33)の系統発生的スーパーファミリーのメンバーであり、即ち、図2に示される反応を任意で触媒することができる、天然または合成の遺伝子によってコードされた天然または人工の酵素である。
【0064】
MDPデカルボキシラーゼは、コレステロール生合成に関与する酵素である。該酵素は、動物、真菌、酵母およびいくつかの細菌を含む様々な生物から単離された。それはまた、いくつかの植物によっても発現され得る(Lalitha et al., 1985)。この酵素をコードする多くの遺伝子が、クローニングおよび配列決定された。これらの酵素は一般的に、300〜400個のアミノ酸から構成され、補助基質としてATPを使用し、これは反応の際にADPおよび無機ホスファートへと変換される。リン酸基が、ATP分子からメバロン酸二リン酸の第3級アルコールへ移動し、ADPが放出される。3-ヒドロキシル基上でリン酸化された反応中間体は、次いで、リン酸基の除去を受け、生理学的状況ではイソペンテニルピロリン酸が放出される(図2)。
【0065】
このファミリー由来のいくつかの酵素の三次元構造が解明された。現在までに行われたこのファミリーの酵素についての研究は比較的少なく、これらの酵素は、コレステロール生合成経路の正確な記載に関連して研究されたに過ぎない。他方では、本発明者の知る限りでは、この酵素をその天然機能から転用し、工業用触媒へ変えるための研究は、まだ行われていない。
【0066】
異なる生物由来のMDPデカルボキシラーゼのいくつかの例を、配列番号:1〜配列番号:16の配列で示す。
【0067】
従って、好ましい態様において、使用される酵素は、配列番号:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15もしくは16からなる群より選択されるアミノ酸配列または該配列のうちの1つに対して少なくとも15%の配列相同性を有しかつデカルボキシラーゼ活性を保持する配列を好ましくは含む、デカルボキシラーゼである。好ましい酵素は、配列番号:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15および16の主要な(primary)配列のうちの1つに対して少なくとも50%の配列相同性、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、なおより好ましくは少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性を有利には有する。配列相同性のパーセントは、種々の方法によって、当業者に公知のソフトウェアプログラム、例えば、CLUSTAL法またはBLASTおよび派生したソフトウェアによって、または配列比較アルゴリズム、例えば、NeedlemanおよびWunsch(J. Mol. Biol., 1970, 48:443)またはSmithおよびWaterman(J. Mol. Biol., 1981, 147:195)に記載されるものを使用することによって、測定され得る。
【0068】
本発明の好ましいデカルボキシラーゼは、配列番号:6の配列を有する酵素、ならびにそれに対して有意な配列相同性を有する任意の酵素に代表される。好ましい酵素は、配列番号:6の主要な配列に対して、少なくとも50%の配列相同性、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、なおより好ましくは少なくとも90、95、96、97、98または99%の配列相同性を有利には有する。前記酵素は、ピクロフィラス・トリダス(Picrophilus torridus)からクローニングされ、本発明の範囲内の組換え手段によって製造された。実施例において説明されるように、この酵素は、本発明による末端アルケン化合物を製造する点で特に効率的である。触媒としてのその製造および使用と同様に、この酵素もまた本発明の対象である。特に、本発明の目的は、末端アルケン化合物を製造するための、配列番号:6の全体または一部を含むデカルボキシラーゼ酵素の使用、または配列番号:6に対して有意な、好ましくは少なくとも15%の配列相同性を有する酵素の使用である。有意な配列相同性は、上述のアルゴリズムを使用することによって検出可能な配列相同性、好ましくは、15%を超える配列相同性を意味する。ピクロフィラス・トリダスと最も近い系統発生関係を有する生物、例えば、フェロプラズマ・アシダルマヌス(Ferroplasma acidarmanus)、サーモプラズマ・アシドフィラム(Thermoplasma acidophilum)、サーモプラズマ・ボルカニウム(Thermoplasma volcanium)およびピクロフィラス・オシマエ(Picrophilus oshimae)は、配列番号:6のそれに最も近いMDPデカルボキシラーゼを産生することができる。例えば、サーモプラズマ・アシドフィラムのMDPデカルボキシラーゼ(AC番号Q9HIN1)は、配列番号:6に対して38%の配列相同性を有し;サーモプラズマ・ボルカニウムのMDPデカルボキシラーゼ(Q97BY2)は、約42%を有する。これらのMDPデカルボキシラーゼの使用は、本発明においてより特に考慮される。
【0069】
デカルボキシラーゼタイプの天然または合成のその他の酵素を、本発明により末端アルケンを産生する能力について選択することができる。従って、選択試験は、精製酵素または該酵素を産生する微生物と、反応の基質とを接触させる工程、および末端アルケン化合物の産生を測定する工程を含む。このような試験は実施例セクションに記載され、60種を超える異なる酵素を試験した。
【0070】
使用される酵素は、天然のまたは産生された、または人工的に最適化された、任意のデカルボキシラーゼであり得る。特に、1つまたは複数の3-ヒドロキシアルカノアートに関して最適化された活性を有するデカルボキシラーゼが、有利には使用される。
【0071】
酵素は、タンパク質操作技術、例えば、ランダム突然変異誘発、大規模突然変異誘発、部位特異的突然変異誘発、DNAシャフリング、合成シャフリング、インビボ進化、または遺伝子の完全合成によって、(天然の、またはそれ自体が既に合成もしくは最適化された)参照デカルボキシラーゼから選択または製造され得る。
【0072】
この点で、本発明の1つの目的はまた、3-ヒドロキシアルカノアート基質に対してデカルボキシラーゼ活性を有する酵素を作製するための方法であって、酵素源を処理し、未処理酵素と比較して、該基質に対して増強された特性を有する酵素を選択する工程を含む方法に関する。
【0073】
本発明において使用される酵素は、従って、天然または合成であり得、かつ、化学的、生物学的、または遺伝学的手段によって製造され得る。またこれは、例えばその活性、耐性、特異性、精製を改善するために、またはそれを支持体上に固定するために、化学修飾され得る。
【0074】
本発明は、3-ヒドロキシアルカノアートを末端アルケンへと変換するための、デカルボキシラーゼの使用、特に天然のまたは改変されたMDPデカルボキシラーゼの使用を特徴とする。
【0075】
MDPデカルボキシラーゼの天然基質はメバロン酸二リン酸であり、これは、3-ヒドロキシアルカノアートの定義には入らない。
【0076】
種々の3-ヒドロキシアルカノアートを使用してMDPデカルボキシラーゼによって行われる一般的な反応を、図2Bに示す。これらの反応は、直接かつシングルステップで末端アルケンをもたらすことが理解されよう。
【0077】
第1の態様において、3-ヒドロキシアルカノアートを末端アルケンへと変換するために、精製されたまたは精製されていない天然または組換え酵素を使用する。これを行うために、酵素を活性にする物理化学的条件下で基質の存在下で酵素調製物をインキュベーションし、十分な期間進行させる。インキュベーションの終わりに、アルケン生成物のまたは遊離ホスファートの形成を測定するために、あるいは3-ヒドロキシアルカノアート基質のまたはATPの消失を測定するために、ガスクロマトグラフィーまたは比色試験などの当業者に公知の任意の検出システムを使用することによって、末端アルケンの存在を任意で測定する。
【0078】
好ましい態様において、天然の反応を最もよく模倣するために、補因子が添加される。実際に、3-ヒドロキシアルカノアートの構造は、MDPのフラグメントにほぼ対応しており、従って、酵素−基質結合の際、触媒クレフト中の大きな空間が空のままになる。この空間を補因子で満たし、基質の欠けている部分を元に戻すことは、MDP分子を最も厳密に模倣するという目的を有する。補因子は反応の間改変されないので、従って触媒量のみを添加する。反応の基質が3-ヒドロキシプロピオナートである場合、補完的な補因子はプロピル二リン酸である。基質が3-ヒドロキシブチラートまたは3-ヒドロキシ-3-メチルブチラートである場合、補完的な補因子はエチル二リン酸である。基質が3-ヒドロキシバレラートまたは3-ヒドロキシ-3-メチルバレラートである場合、補完的な補因子はメチル二リン酸である。これらの種々の分子を図5に示す。偶然に、反応の補完的な補因子が、別の基質の反応に対してプラス効果を有することが起こり得る。一般的に、補因子はリン酸無水物を含み、従って一般式R-PO2H-O-PO3H2を有する任意の分子であり得、式中、Rは、特にH、直鎖、分岐鎖、もしくは環式のアルキル基、または任意の他の一価の有機基である。加水分解されないという利点を有するメチレン架橋によってリン酸無水物が置き換えられている一般式R-O-PO2H-CH2-PO3H2を有する、メチレンジホスホナートのモノエステルに対応する類似モチーフも、本発明の一部である。
【0079】
より一般的には、補因子は前述の分子の一リン酸アナログであってもよく、またはリン酸非含有アナログであってさえよく、あるいは、酵素触媒部位に立体的または電子的補完を提供することによって反応収率を改善し得る任意の他の分子であってもよい。
【0080】
特定の態様において、補助基質が反応へ添加される。前記補助基質は、ATP、即ちMDPデカルボキシラーゼの天然の補助基質、あるいは、任意のrNTP(リボヌクレオシド三リン酸)もしくはdNTP(デオキシリボヌクレオシド三リン酸)、またはrNTPもしくはdNTPの任意の混合物、あるいはピロホスファート、または別のポリホスファート、あるいは、リン酸無水物基を含む任意の分子(図2のX-PO3H2)のいずれかであり得る。
【0081】
好ましい態様において、3-ヒドロキシアルカノアートを末端アルケンへと変換するために、デカルボキシラーゼ活性を有する天然酵素に対して、特に配列番号:1〜16の配列に対応する酵素のうちの1つに対して、少なくとも15%の配列相同性、好ましくは少なくとも30%、50%、なおより好ましくは少なくとも80、90、95、96、97、98または99%を有する酵素を使用する。特に該酵素は、配列番号:1〜16の酵素のうちの1つから、または別の供給源から同定された任意の他のデカルボキシラーゼから、操作によって改変することができる。このような酵素は、特に実験室における遺伝子操作によって、また同じく自然進化の間に(MDPデカルボキシラーゼの痕跡のことを述べる場合)そのMDPデカルボキシラーゼ活性を失っていてもよく、3-ヒドロキシアルカノアートタイプの1つまたは複数の分子に対するその活性を保持していても増加させていてもよい。前記基質に対する反応性が高まったこれらの酵素の変異体を作製することによって、本発明による反応の収率を改善することが可能となる。例えば、3-ヒドロキシアルカノアートに対する野生型MDPデカルボキシラーゼの反応性は、必ずしも最適ではない。このような変異体を製造および選択するための当業者に公知の任意のアプローチ、例えば、ランダム突然変異誘発、部位特異的突然変異誘発、大規模突然変異誘発、DNAシャフリング、またはインビボ進化が使用され得る。
【0082】
本発明はまた、3-ヒドロキシアルカノアートを末端アルケンへと変換することを目的として、設計のためにMDPデカルボキシラーゼについての公知のデータを使用してまたは使用せずに、全く新しい酵素をコードする合成遺伝子を設計および製造することによって得られた、完全に人工的な酵素の使用を特徴とする。
【0083】
本発明の別の目的は、デカルボキシラーゼ活性を有しかつ配列番号:6の全体または一部を含む、単離または精製された酵素である。
【0084】
本発明の別の目的は、末端アルケンを製造するための、デカルボキシラーゼ活性を有しかつ配列番号:6の配列の全体もしくは一部を含む酵素の使用、または上述されるような配列相同性を有する酵素の使用に関する。一変形において、該配列は、例えばN末端におけるヒスチジンタグのような、追加の残基をさらに含み得る。
【0085】
本発明の別の目的は、デカルボキシラーゼ活性を有しかつ配列番号:6の配列の全体または一部を含む酵素、または上述されるような配列相同性を有する酵素を製造するための方法であって、該配列の発現を可能にする条件下で該配列をコードする組換え核酸を含む微生物を培養する工程を含む方法に関する。この文脈において、本発明は、天然核酸(配列番号:19)に加えて、細菌における、特に大腸菌における配列番号:6の酵素の発現のために最適化されている配列を有する核酸(配列番号:17)を記載する。この核酸、および任意の最適化された核酸(即ち、野生型配列と比較して発現の少なくとも30%向上を可能にする)は、本出願の対象である。
【0086】
本発明の別の目的は、デカルボキシラーゼ活性を有しかつ配列番号:6の配列の全体または一部を含む酵素をコードするかまたは上述されるような配列相同性を有する酵素をコードする組換え核酸を含む、微生物に関する。該微生物は、好ましくは、細菌、酵母または真菌である。本発明はまた、本発明によるデカルボキシラーゼをコードする組換え核酸を含む任意の植物または非ヒト動物に関する。
【0087】
一態様において、3-ヒドロキシアルカノアートを末端アルケンへと変換するためにMDPデカルボキシラーゼを精製形態で使用する。しかし、酵素および基質の製造および精製費用が高いので、この方法は高コストである。
【0088】
別の態様において、タンパク質精製費用を節約するために、MDPデカルボキシラーゼを未精製の抽出物として、または未溶解の細菌の形態で、反応物中に存在させる。しかし、基質を製造および精製する費用のために、この方法に伴う費用も依然としてかなり高い。
【0089】
本発明の別の態様において、本方法は、上記変換を行うための上記酵素を産生する生きた生物を使用する。従って本発明は、デカルボキシラーゼを過剰発現でき(該酵素は好ましくは宿主微生物とは異なる生物に由来する)、かつ1つまたは複数の末端アルケンを直接作製することができるような、1つまたは複数の3-ヒドロキシアルカノアートを産生する細菌株[例えば、アルカリゲネス・ユートロフスまたはバチルス・メガテリウム、あるいは該産物を産生するように実験室改変された大腸菌株]の遺伝子操作改変を特徴とする。該遺伝子改変は、染色体中にデカルボキシラーゼ遺伝子を組込むこと;該酵素コード配列の上流にプロモーターを含むプラスミド上で該酵素を発現させること(プロモーターおよびコード配列は異なる生物に好ましくは由来する);または当業者に公知の任意の他の方法にあり得る。あるいは、他の細菌または酵母が、特定の利点を有し得、選択され得る。例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などの酵母、サーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)などの好極限性細菌、またはクロストリジウム(Clostridiae)科由来の嫌気性細菌、例えば、微細藻類、または光合成細菌が使用され得る。後に末端アルケンへと変換される3-ヒドロキシアルカノアートを最適に産生するように、上記菌株はまた、遺伝子操作によって、即ちインビトロ組換えによってまたは定方向インビボ進化によって、改変されていてもよい。
【0090】
一態様において、本発明の方法は、3-ヒドロキシアルカノアートへのグルコースなどの炭素源の変換、引き続く二次産物、即ち末端アルケンへの該一次産物の変換を特徴とする。前記方法の種々の工程を図6に概説する。
【0091】
特定の態様において、本発明は、酵素または好適な物理化学的方法を使用することによる、3-ヒドロキシアルカノアートへのポリヒドロキシアルカノアートの変換、引き続く二次産物、即ち末端アルケンへの該一次産物の変換を特徴とする。任意で、ポリヒドロキシアルカノアートは、高収率のポリヒドロキシアルカノアートを産生するように代謝経路が改変された植物によって、産生される。
【0092】
特定の態様において、本発明は、大気CO2からまたは培養培地へ人工的に添加されたCO2から生成物を製造するための一体化方法にある。本発明の方法は、例えば微細藻類などの、光合成を行うことができる生物において実施される。
【0093】
これらの態様において、本発明の方法は、培養物から脱気する生成物の回収の様式をさらに特徴とする。実際のところ、短鎖末端アルケン、特にエチレン、プロピレン、ブテン異性体は、室温および大気圧でガス状態をとる。従って本発明の方法は、工業規模で行う場合にはいつも非常に高コストな工程である液体培養培地からの生成物の抽出を必要としない。ガス状炭化水素の排出および貯蔵、ならびにその後の可能な物理的分離および化学変換は、当業者に公知の任意の方法に従って行われ得る。
【0094】
特定の態様において、本発明はまた、前記方法の気相中に存在するアルケン(特に、プロピレン、エチレンおよびイソブチレン)を検出する工程を含む。空気または別の気体の環境における標的化合物の存在は、たとえ少量であっても、種々の技術を使用することによって、特に赤外線もしくはフレームイオン化検出を備えるガスクロマトグラフィーシステムを使用することによって、または質量分析と連結することによって、検出され得る。
【0095】
特定の態様において、得られた末端アルケンは、より長鎖のアルケンまたはより長鎖のアルカンを製造するために、当業者に公知の技術を使用することによって縮合され、次いで任意で還元される。特に、イソオクタンを合成するためにイソブチレンが使用され得:この反応を首尾よく行うための触媒方法は、既に詳細に記載されている。
【0096】
特定の態様において、本方法は、標準培養条件(30〜37℃、1 atmで、細菌の好気性増殖を可能にする発酵槽において)または非培養条件(例えば、好熱性生物の培養条件に対応するためのより高い温度)において微生物を培養する工程を含む。
【0097】
特定の態様において、微生物は、微好気性条件下で培養され、注入される空気の量は、アルケン炭化水素を含有するガス状放出物中の残留酸素濃度を最小にするように制限的である。
【0098】
本発明の他の局面および利点は、以下の実施例に記載され、これらは、制限のためではなく、例示のために提供される。
【実施例】
【0099】
実施例1:いくつかのMDPデカルボキシラーゼのクローニングおよび発現
サッカロマイセス・セレビシエのMDPデカルボキシラーゼをコードする遺伝子を、オーバーラッピングオリゴヌクレオチドから合成し、細菌における発現を可能にするpETプラスミド(Novagen)中にクローニングする。次いで、前記プラスミドを、エレクトロポレーションによって細菌株BL21(Invitrogen)中へ形質転換する。アンピシリンを含有するペトリ皿上に細菌を画線培養し、37℃でインキュベーションする。翌日、細菌コロニーを無作為に選択し、アンピシリンを含有するLB培地50 mlに接種するために使用する。振盪しながら培養物を24時間インキュベーションし、その後、培養物を遠心分離し、細菌を超音波処理によって溶解し、総タンパク質抽出物を調製する。抽出物のアリコートを、形質転換されていない同一の株からのタンパク質抽出物および分子量マーカーと共に電気泳動ゲル上にロードする。形質転換された株に対応するレーンは約30 kDの単一バンドを含み、これは予想されるタンパク質のサイズに対応するが、該バンドは、形質転換されていない細菌がロードされたレーン中には存在しない。
【0100】
実施例2:3-ヒドロキシ-3-メチルブチラートに対するタンパク質抽出物の活性の測定
3-ヒドロキシ-3-メチルブチラート(Sigma、β-ヒドロキシイソ吉草酸との名称で参照番号55453)を、10 g/lの濃度で懸濁する。従来法によってメバロノラクトンおよび他の試薬(Sigma)からメバロン酸二リン酸を合成し、10 g/lの濃度で再懸濁する。
【0101】
6個のクロマトグラフィーバイアルを調製する。50 mM Bistris/HCl 1 mMジチオスレイトール、10 mM MgCl2および5 mM ATPを含有する緩衝液50μLを、各バイアルへ添加する。
バイアル1および4:水5μlを添加する(基質無し)。
バイアル2および5:メバロン酸二リン酸調製物5μlを添加する(陽性対照)。
バイアル3および6:3-ヒドロキシ-3-メチルブチラート(HIV)調製物5μlを添加する。
バイアル1、2および3:次に水5μlを添加する(酵素無し)。
バイアル4、5および6:実施例1に記載の酵素調製物5μlを添加する。
【0102】
バイアルをセプタムで密封し、クリンプする。全てのバイアルを37℃で4時間〜3日間インキュベーションする。インキュベーション後、ガス注射器を使用して各バイアル中に存在するガスを収集し、試料中のCO2濃度をガスクロマトグラフィーによって測定する。バイアル5は非常に高いCO2濃度を有し、これよりも少ない濃度でのCO2が同じくバイアル6において検出され、このことは、3-ヒドロキシ-3-メチルブチラートに対する酵素調製物の顕著な反応を示す。次いで、バイアル6のガス試料におけるイソブチレンの存在を、赤外線またはフレームイオン化検出を備えるガスクロマトグラフィーによって測定する。
【0103】
実施例3:補因子を使用することによる反応条件の最適化
前の実施例のバイアル6に記載のものと同一の反応を行うが、試料のうち1つにおいて、注文生産のエチル二リン酸を補因子として添加する。この実施例において3個のバイアルを使用する。第1のバイアルは、前の実施例に記載の量で、緩衝液、ATP、および酵素抽出物を含有する。第2のバイアルは、同一の成分を含有するが、前の実施例に記載の量で3-ヒドロキシ-3-メチルブチラートもさらに含有する。第3のバイアルは、3-ヒドロキシ-3-メチルブチラートに加えて、10 mg/lエチル二リン酸を10μl含有する。前の実施例におけるように、イソブチレン形成を、赤外線またはフレームイオン化検出を備えるガスクロマトグラフィーによって測定する。エチル二リン酸が存在する場合、経時的に産生されるイソブチレンの量は著しく多くなることが分かる。
【0104】
実施例4:酵素ライブラリーのスクリーニング
MDPデカルボキシラーゼファミリーからの酵素をコードする63個の遺伝子のライブラリーを得、基質としてのHIVに対する活性について試験した。
【0105】
クローニング、細菌培養、およびタンパク質の発現
メバロン酸二リン酸(MDP)デカルボキシラーゼファミリーEC 4.1.1.33をコードする遺伝子を、メチオニン開始コドンの直後のN末端に6-ヒスチジンタグを有する、真核生物遺伝子の場合はpET 25bベクター(Novagen)に、原核生物起源の遺伝子についてはpET 22b(Novagen)に、クローニングした。コンピテント大腸菌BL21(DE3)細胞(Novagen)を、熱ショックによってこれらのベクターで形質転換した。0.5 Mソルビトール、5 mMベタイン(betain)、100μg/mlアンピシリンを含有するTB培地において30℃で振盪(160 rpm)しながら、600 nmでのODが0.8〜1の範囲に達するまで、細胞を増殖させた。次いで、イソプロピルB-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)を1 mMの最終濃度まで添加し、タンパク質発現を20℃で一晩(約16時間)継続した。4℃、10,000 rpmで20分間の遠心分離によって細胞を収集し、ペレットを-80℃で凍結させた。
【0106】
細胞溶解
細胞1.6 gを氷上で解凍し、300 mM NaCl、5 mM MgCl2、1 mM DTTを含有する50 mM Na2HPO4 pH 8 5 mlに再懸濁した。20マイクロリットルのリソナーゼ(lysonase)(Novagen)を添加した。細胞を室温で10分間インキュベーションし、次いで、20分間氷へ戻した。0℃の超音波水浴における5分間×3回の超音波処理によって、細胞溶解を完了し;試料をパルス間でホモジナイズした。次いで、細菌抽出物を、4℃、10,000 rpmで20分間の遠心分離によって清澄化した。
【0107】
タンパク質精製および濃縮(PROTINOキット)
清澄化された細菌溶解物を、6-Hisタグタンパク質の吸着を可能にするPROTINO-1000 Ni-IDAカラム(Macherey-Nagel)上にロードした。カラムを洗浄し、関心対象の酵素を、300 mM NaCl、5 mM MgCl2、1 mM DTT、250 mMイミダゾールを含有する50 mM Na2HPO4 pH 8 4 mlで溶出した。次いで、Amicon Ultra-4 10 kDa細胞(Millipore)内で溶出液を濃縮し、最終体積250μlとした。タンパク質をBradford法によって定量した。
【0108】
酵素反応
所望の酵素反応(3-ヒドロキシ-3-メチルブチラート、または3-ヒドロキシイソバレラート、またはHIVの変換)を、緩衝液および反応pHが異なる2つの実験条件下で試験した。
実験条件番号1
100 mMクエン酸塩
10 mM MgCl2
10 mM ATP
20 mM KCl
200 mM HIV
最終pHを5.5へ調節する
実験条件番号2
100 mM Tris-HCl pH 7.0
10mM MgCl2
10 mM ATP
20 mM KCl
200 mM HIV
最終pHを7.0へ調節する
【0109】
酵素を反応混合物へ添加した。タンパク質収率は可変であったので、添加した酵素の量は、試料ごとに0.01〜1 mg/mlの範囲に及んだ。酵素を伴わない対照反応を並行して行った。
【0110】
1 ml反応物を2 mlバイアル(Interchim)中に置き、テフロン/シリカ/テフロンセプタム(Interchim)で密封した。反応物を振盪無しで37℃において72時間インキュベーションした。
【0111】
反応物の分析
反応物上に存在するガスを、使い捨て機構を備えた注射器で収集した。質量分析器(MS)と連結したガスクロマトグラフィー(GC)によって、ガス試料を分析した。様々なイソブチレン濃度を使用して、機器を予め較正した。
カラム:BPX5 (SGE)
GC/MS:MSD 5973 (HP)
【0112】
各クロマトグラムについて3つの主要なピークが得られ、第1のピークは空気に、第2のピークは水に、第3のピークはイソブチレンに対応した。製造および試験した63個の酵素のうち、11個の可能性のある候補が、一次スクリーニングにおいて同定された。これらの候補のうちのいくつかを、図7において矢印で示す。それらの個別情報を下記に、配列を配列番号:6〜16として示す(Hisタグは示さない)。
【0113】
候補1:配列番号:7
Genebankアクセッション番号:CAI97800.1
Swissprot/TrEMBLアクセッション番号:Q1GAB2
微生物:ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシズ・ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)(株ATCC 11842 / DSM 20081)
【0114】
候補2:配列番号:8
Genebankアクセッション番号:CAJ51653
Swissprot/TrEMBLアクセッション番号:Q18K00
微生物:ハロクアドラトゥム・ワルスビイ(Haloquadratum walsbyi)DSM 16790
【0115】
候補3:配列番号:9
Genebankアクセッション番号:ABD99494.1
Swissprot/TrEMBLアクセッション番号:Q1WU41
微生物:ラクトバチルス・サリバリウス・サブスピーシーズ・サリバリウス(Lactobacillus salivarius subsp. salivarius)(株UCC118)
【0116】
候補4:配列番号:10
Genebankアクセッション番号:ABJ57000.1
Swissprot/TrEMBLアクセッション番号:Q04EX2
微生物:オエノコッカス・オエニ(Oenococcus oeni)(株BAA-331 / PSU-1)
【0117】
候補5:配列番号:11
Genebankアクセッション番号:ABJ67984.1
Swissprot/TrEMBLアクセッション番号:Q03FN8
微生物:ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)ATCC 25745
【0118】
候補6:配列番号:12
Genebankアクセッション番号:ABV09606.1
Swissprot/TrEMBLアクセッション番号:A8AUU9
微生物:ストレプトコッカス・ゴルドニ(Streptococcus gordonii)(株Challis / ATCC 35105 / CH1 / DL1 / V288)
【0119】
候補7:配列番号:13
Genebankアクセッション番号:ABQ14154.1
Swissprot/TrEMBLアクセッション番号:A5EVP2
微生物:ディケロバクター・ノドーサス(Dichelobacter nodosus)VCS1703A
【0120】
候補8:配列番号:14
Genebankアクセッション番号:EDT95457.1
Swissprot/TrEMBLアクセッション番号:B2DRT0
微生物:ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)CDC0288-04
【0121】
候補9:配列番号:15
Genebankアクセッション番号:AAT86835
Swissprot/TrEMBLアクセッション番号:Q5XCM8
微生物:ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)血清型M6(ATCC BAA-946 / MGAS10394)
【0122】
候補10:配列番号:6
Genebankアクセッション番号:AAT43941
Swissprot/TrEMBLアクセッション番号:Q6KZB1
微生物:ピクロフィラス・トリダスDSM 9790
【0123】
候補11:配列番号:16
Genebankアクセッション番号:AAV43007.1
Swissprot/TrEMBLアクセッション番号:Q5FJW7
微生物:ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)NCFM
【0124】
最高レベルのイソブチレン(IBN)産生は、候補10、即ち、ピクロフィラス・トリダス由来の配列番号:6の精製デカルボキシラーゼ酵素で観察された。この酵素をさらなる特徴決定のために保持した。
【0125】
実施例5:配列番号:6の酵素の特徴決定
実施例4に記載されるように、組換え酵素を精製した。図8に示される結果は、最終タンパク質試料中の酵素純度が約90%であったことを示している。
【0126】
単離酵素の活性を確認した。反応を以下の条件で行った。
100 mM Tris-HCl pH 7.0
10mM MgCl2
10 mM ATP
20 mM KCl
250 mM HIV
最終pHを6.0へ調節する
3 mg/ml酵素
【0127】
30℃での72時間インキュベーションの後、シグナルをGC/MSによって測定した。結果を図9に示す。酵素の存在下において、ここでのIBN産生は、バックグラウンドノイズと比べて約2.3倍増加した。ここで観察されたバックグラウンドノイズは有機化学文献と一致しており、このことは、水溶液中および約100℃の温度において、3-ヒドロキシイソ吉草酸が徐々に脱炭酸してtert-ブタノールとなり、これが、tert-ブタノールの形成に有利な平衡に従って部分的に脱水されイソブチレンとなることを示している(Pressman and Luca, J. Am. Chem. Soc. 1940)。
【0128】
ATP補助基質の効果
試験条件
100 mMクエン酸塩
50 mM KCl
10 mM MgCl2
200 mM HIV(指定される)
1 mg/ml精製酵素
pH 5.5
30℃で72時間インキュベーション
【0129】
図10における結果は、酵素活性が補助基質ATPの存在下においてのみ観察されたことを示している。他の分子、特にリン酸無水物結合を含むものもまた、酵素についての有効な補助基質であり得た。
【0130】
Mg2+補因子の効果
試験条件
100 mMクエン酸塩pH 5.5
50 mM KCl
10 mM ATP
200 mM HIV(指定される)
pH 5.5
1 mg/ml精製酵素
30℃で72時間インキュベーション
【0131】
図11における結果は、酵素活性がMg2+イオンの存在下で向上したことを示している。他のイオン、特に他の二価イオンが、Mg2+イオンの代わりにまたはこれに加えて、補因子として使用され得た。
【0132】
温度に応じての酵素活性
試験条件
100 mM緩衝液
50 mM KCl
10 mM ATP
200 mM HIV(指定される)
1 mg/ml精製酵素
異なる温度で72時間インキュベーション
【0133】
図12における結果は、酵素が、約50℃の温度最適条件で適度に熱活性(thermoactive)であることを示している。
【0134】
pHに応じての活性
試験条件
100 mM緩衝液
50 mM KCl
10 mM ATP
200 mM HIV(指定される)
1 mg/ml精製酵素
30℃で72時間インキュベーション
【0135】
最適な条件は、100 mMクエン酸塩においてpH5.5で得られた。
【0136】
酵素パラメータ
インキュベーションを50℃で行って、前述の条件で、基質範囲を試験した。酵素のKmは約40 mM HIVである。
【0137】
反応条件の最適化
下記の条件を保持し、最適な反応条件を求めた。
100 mMクエン酸塩
50 mM KCl
40 mM ATP
200 mM HIV
1 mg/ml酵素
50℃で48時間インキュベーション
【0138】
図14に示されるように、シグナル対バックグラウンドノイズの比率は、約100である。
【0139】
実施例6:大腸菌におけるP.トリダスMDPデカルボキシラーゼ発現の最適化
精製前にSDS-PAGEでバンドを見るのが困難であったように、大腸菌BL21中の発現の初期レベルは低かった。大腸菌における発現用の天然配列のCodon Optimization Index(CAI)を、SharpおよびLiの方法(1987)に基づいて、http://genomes.urv.es/OPTIMIZER/で入手可能な「Optimizer」プログラムで測定した。得られた値は僅か0.23であり、大腸菌における該タンパク質の低レベルの発現を反映している。
【0140】
同一のタンパク質をコードするが、大腸菌中での発現により適合させたコドンを含有する、配列を作製した。この配列は、最適条件1により近い0.77のCAIを有した。
【0141】
天然配列および最適化配列を、配列番号:17(Hisタグを含むP.トリダス(AAT43941)MDPデカルボキシラーゼの最適化配列)および配列番号:19(Hisタグを含むP.トリダス(AAT43941)MDPデカルボキシラーゼの天然配列)に示す。
【0142】
最適化配列を、オリゴヌクレオチド連結によって合成し、pET25発現ベクター中にクローニングした。大腸菌株BL21(DE3)中へベクターを形質転換し前述のプロトコルに従って誘導した後、前述のように、タンパク質を製造し、精製し、ゲル上において分析した。比較のために、同一のプロトコルを天然配列で行った。
【0143】
天然ヌクレオチド配列または大腸菌における発現用に最適化された配列のいずれかを使用した、候補224の発現レベルの比較
図15における結果は、最適化された遺伝子に対応するタンパク質が、未精製の細胞溶解物(レーン4)において、ゲル上ではっきりと目に見えたことを示しており、これは、発現の非常に顕著な増加を示している。精製工程後のタンパク質の純度のレベルもまた、最適化された遺伝子の場合により高かった。
【0144】
活性を粗製溶解物について測定した。天然核酸配列に対応する粗製溶解物について、活性は検出されなかった。上記改善された配列(最適化クローン224)で得られた粗製溶解物が下記の活性を示すように、該タンパク質の発現は向上した。
【0145】
下記の反応媒体をこの試験において使用した。
【0146】
反応媒体
50℃でインキュベーション2日間
【0147】
結果
条件番号1:最適化クローン224の溶解物
条件番号2:クローンGB6の溶解物(空のpETプラスミド)
【0148】
実施例7:3-ヒドロキシ-3-メチルブチラートからイソブチレンを合成するための方法およびイソオクタンへの変換
実施例3におけるバイアル3と同一の反応を、ガス抽出システムを備えた発酵槽において、1リットル体積で行った。組換え酵素の存在によってイソブチレンへの3-ヒドロキシ-3-メチルブチラートの変換が誘導され、これは自然に脱気し、これを、発酵槽の上部に配置したガス抽出システムによって回収した。次いで、イソブチレンを使用し、Amberlyst 35wetまたは36wet樹脂(Rohm and Haas)によって触媒される付加によってイソオクテンを製造した。次に、イソオクテンを接触水素化によってイソオクタンへ還元した。
【0149】
実施例8:基質に対する有効性を改善するための酵素操作
ランダム突然変異誘発技術を使用し、実施例1に記載の遺伝子の突然変異体を何千も含有するライブラリーを作製した。次いで、この突然変異体ライブラリーを、発現プラスミド中にクローニングし、コンピテント細菌株BL21へ形質転換した。
【0150】
次いで、1000個の細菌を単離し、アンピシリンが補われたLB培地500μlを含有するエッペンドルフ管へ接種した。試料を15時間、撹拌器上においてインキュベーションした。翌日、生成されたイソブチレンの量を、前の実施例に記載の実験プロトコルのうちの1つまたは別のものを使用することによって測定した。
【0151】
イソブチレンの量が顕著に増加したクローンを、次いで、同一の実験プロトコルを使用して再確認した。この改善が確認されたら、各改善されたクローンから該プラスミドを抽出し、配列決定した。活性の向上を担う突然変異を同定し、同一のプラスミド上で組み合わせた。次に、種々の改善突然変異を含むプラスミドを、コンピテント細菌へ形質転換し、同一の分析を行った。
【0152】
単一の改善突然変異しか含まないものよりも活性が顕著により大きかった、突然変異の組み合わせを含むクローンを、次いで、突然変異/スクリーニングの新しいサイクルの基礎として使用し、なおさらに活性が向上した突然変異体を同定した。
【0153】
このプロトコルの完了時に、いくつかの突然変異を含みかつ最良の活性を有するクローンを選択した。
【0154】
実施例9:3-ヒドロキシプロピオナートからエチレンを合成するための方法
実施例1に記載の酵素をコードする遺伝子を、大腸菌株中での組換えタンパク質の発現を可能にするプラスミドに挿入した。該プラスミドを、前記細菌株中へ形質転換した。形質転換された細菌を、次いで、プロピル二リン酸(10 mg/l)および3-ヒドロキシプロピオナート(1 g/l)の存在下で発酵槽においてインキュベーションした。組換え酵素の存在によって3-ヒドロキシプロピオナートのエチレンへの変換が起こり、これは自然に脱気し、これを、発酵槽の上部に配置したガス抽出システムによって回収した。次いで、エチレンが強く放射するスペクトル部分における赤外線検出を備えるガスクロマトグラフィーによって、ガス試料においてエチレンを測定した。
【0155】
実施例10:3-ヒドロキシブチラートからプロピレンを合成するための方法
実施例1に記載の酵素または実施例4に記載の酵素をコードする遺伝子を、大腸菌株中での組換えタンパク質の発現を可能にするプラスミドに挿入した。プラスミドを、前記細菌株中へ形質転換した。形質転換された細菌を、次いで、エチル二リン酸(10 mg/l)および3-ヒドロキシブチラート(1 g/l)(Sigma、参照番号166898)の存在下で、発酵槽においてインキュベーションした。組換え酵素の存在によって、3-ヒドロキシブチラートのプロピレンへの変換が起こり、これは自然に脱気し、これを、発酵槽の上部に配置したガス抽出システムによって回収した。次いで、プロピレンが強く放射するスペクトル部分における赤外線検出を備えるガスクロマトグラフィーによって、ガス試料においてプロピレンを測定した。
【0156】
実施例11:グルコースからプロピレンを合成するための方法
実施例1に記載の酵素または実施例4に記載の酵素をコードする遺伝子を、細菌アルカリゲネス・ユートロフス中での組換えタンパク質の発現を可能にするプラスミド中にクローニングした。プラスミドを、前記細菌株中へ形質転換した。形質転換された細菌を、次いで、微好気性条件下において、グルコースおよびエチル二リン酸の存在下で発酵槽においてインキュベーションし、次いで熱ショックへ供し、これによって、大量の3-ヒドロキシブチラートを産生するように誘導した。組換え酵素の存在によって、3-ヒドロキシブチラートのプロピレンへの同時変換が起こり、これは自然に脱気し、これを、発酵槽の上部に配置したガス抽出システムによって回収した。
【0157】
実施例12:グルコースからプロピレンを合成するための方法
この実施例は、実施例11のそれと非常に類似している方法を記載する。主な相違は、アルカリゲネス・ユートロフスなどの天然株の代わりに3-ヒドロキシブチラートを産生するように改変された大腸菌株を使用することである。前記株は、3-ヒドロキシブチラートの蓄積をもたらすような代謝経路の操作によって得られた。実施例1または実施例4に記載されるようなMDPデカルボキシラーゼの添加によって、3-ヒドロキシブチラートのプロピレンへの変換が可能になった。
【0158】
実施例13:グルコースからイソブチレンを合成するための方法
実施例1に記載の酵素をコードする遺伝子を、大腸菌株中での組換えタンパク質の発現を可能にするプラスミド中にクローニングし、大腸菌株もまた、3-ヒドロキシ-3-メチルブチラートを内因的に合成するように代謝改変された。次いで、細菌を、グルコースの存在下において、微好気性条件下で発酵槽においてインキュベーションした。組換え酵素の存在によって、3-ヒドロキシ-3-メチルブチラートのイソブチレンへの同時変換が誘導され、これは自然に脱気し、これを、発酵槽の上部に配置したガス抽出システムによって回収した。
【技術分野】
【0001】
序論
本発明は、生物学的プロセスによってアルケンを作製するための方法に関する。より具体的には、本発明は、3-ヒドロキシアルカノアートタイプの分子から末端アルケン(特に、プロピレン、エチレン、1-ブチレン、イソブチレンまたはイソアミレン)を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
多数の化合物が、現在、石油化学製品から誘導されている。アルケン(例えば、エチレン、プロピレン、種々のブテン、またはペンテン)は、例えばポリプロピレンまたはポリエチレンを製造するために、プラスチック産業において、ならびに化学産業の他の領域および燃料の領域において、使用されている。
【0003】
最も単純なアルケンであるエチレンは、産業的な有機化学の中心にあり:世界で最も広く製造されている有機化合物である。これは特に、主要なプラスチックであるポリエチレンを製造するために使用される。エチレンはまた、反応(酸化反応、ハロゲン化反応)によって多くの産業的に有用な生成物へと変換され得る。
【0004】
プロピレンは、同様に重要な役割を有し:その重合によって、プラスチック材料であるポリプロピレンが得られる。耐性、密度、固体性、変形能、および透明性の点でのこの生成物の技術的特性は、匹敵するものがない。ポリプロピレンの世界市場は、1954年のその発明以来、継続的に成長している。
【0005】
ブチレンは、4つの形態で存在し、そのうちの1つであるイソブチレンは、自動車燃料用のアンチノック剤であるメチル-tert-ブチル-エーテル(MTBE)の組成の一部である。イソブチレンはまた、イソオクテンを製造するために使用され得、これが次に、イソオクタン(2,2,4-トリメチルペンタン)へ還元され得;イソオクタンの非常に高い燃焼/爆発比のために、これは、いわゆる「ガソリン」エンジンに最良の燃料である。
【0006】
アミレン、ヘキセン、およびヘプテンは、二重結合の位置および立体配置に従って多くの形態で存在する。これらの生成物は、実際の産業的用途を有するが、エチレン、プロピレンまたはブテンほど重要ではない。
【0007】
これらのアルケンは全て、石油製品の接触分解によって(または、ヘキセンの場合、石炭またはガスから、Fisher-Tropsch法の派生法によって)現在製造されている。従って、それらのコストは、当然、石油価格へスライドされる。さらに、接触分解は、時には、相当な技術的問題を伴い、このために、処理の複雑性および製造コストが増大する。
【0008】
上記の考慮事柄とは無関係に、プラスチックの生物生産(「バイオプラスチック」)分野は、繁栄している。このブームは、石油価格に関連する経済問題によって、ならびにグローバル(カーボンニュートラル製品)およびローカル(廃棄物管理)の両方における環境に対する配慮によるものである。
【0009】
バイオプラスチックの主要なファミリーは、ポリヒドロキシアルカノアート(PHA)ファミリーである。これらは、酸基およびアルコール基の両方を含む分子の縮合によって得られるポリマーである。縮合は、下記のモノマーのアルコール上における酸のエステル化によって行われる。このエステル結合は、従来のプラスチックのポリマー中に存在する直接の炭素−炭素結合ほど安定ではなく、これが、PHAが数週間〜数ヶ月間の生分解性を有する理由の説明となる。PHAファミリーとしては、特に、3-ヒドロキシブチラートのポリマーであるポリ-3-ヒドロキシブチラート(PHB)、ならびに、3-ヒドロキシブチラートおよび3-ヒドロキシバレラートの交互ポリマーであるポリヒドロキシブチラート-バレラート(PHBV)が挙げられる。
【0010】
PHBは、アルカリゲネス・ユートロフス(Alcaligenes eutrophus)およびバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)などのいくつかの細菌株によって天然に産生される。PHBまたは一般的にPHAをもたらす合成経路が組み込まれた大腸菌などの実験室細菌が構築された。前記化合物またはそのポリマーは、ある特定の実験室条件において、細菌質量の80%までを占め得る(Wong MS et al., Biotech. Bioeng., 2008(非特許文献1))。PHBの工業規模製造が1980年代に試みられたが、発酵によって該化合物を製造するコストは、当時、高すぎると考えられた。(産生体細菌中に存在するPHB合成経路の重要な酵素が組み込まれた)遺伝子組換え植物でのこれらの化合物の直接製造を含むプロジェクトが進行中であり、必要な操作コストはより低くなり得る。
【0011】
燃料としてまたは合成樹脂の前駆体として使用され得るアルカンまたは他の有機分子の生物学的経路による製造が、地球化学的循環と調和しての持続可能な工業活動との関連において求められる。発酵および蒸留プロセスが食品加工業界に既に存在したため、バイオ燃料の第一世代はエタノールの発酵生産であった。特に長鎖アルコール(ブタノールおよびペンタノール)、テルペン、直鎖アルカンおよび脂肪酸の製造を包含する第二世代バイオ燃料の製造は、探究段階にある。2つの最近のレビューが、この分野における研究の全体的な概観を提供している:Ladygina N et al., Process Biochemistry, 2006, 41:1001(非特許文献2)およびWackett LP, Current Opinions in Chemical Biology, 2008, 21:187(非特許文献3)。
【0012】
アルケンの化学的ファミリーにおいて、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)はテルペンモチーフであり、重合によってゴムとなる。バイオ燃料などの有用な製品としてまたはプラスチックを製造するために、他のテルペンが化学的経路、生物学的経路または混合経路によって開発され得る。最近の文献は、メバロン酸経路(多くの生物におけるステロイド生合成の重要な中間体)が、工業的収率でテルペンファミリーからの生成物を効率的に製造するために使用され得ることを示している(Withers ST et al., Appl. Environ. Microbiol., 2007, 73:6277(非特許文献4))。
【0013】
末端アルケン[2位で一置換または二置換されたエチレン:H2C=C(R1)(R2)]の製造は、あまり大規模には研究されていないようである。酵母ロドトルラ・ミヌタ(Rhodotorula minuta)によるイソバレラートからのイソブチレンの産生が検出された(Fujii T. et al., Appl. Environ. Microbiol., 1988, 54:583(非特許文献5))が、1分当たり100万分の1未満または1日当たり1000について約1というこの変換効率は、産業的利用を可能にするには程遠い。反応機構は、Fukuda H.ら(BBRC, 1994, 201(2):516)(非特許文献6)によって解明されており、オキソフェリル(oxoferryl)基FeV=Oの還元によってイソバレラートを脱炭酸するシトクロムP450酵素を必要とする。どの時点でも、反応はイソバレラートのヒドロキシル化を含まない。イソバレラートはまた、ロイシン異化における中間体である。イソブチレン1分子を形成するためにロイシン1分子の合成および分解を必要とするため、この経路によるイソブチレンの大規模生合成は極めて好ましくないようである。さらに、反応を触媒する酵素は、補因子としてヘムを使用するが、これは、細菌における組換え発現および酵素パラメータの改善にほとんど役に立たない。これらの全ての理由のために、先行技術のこの経路は、産業開発の基礎として役立ち得る可能性は非常に低いようである。他の微生物がイソバレラートからイソブチレンを天然に産生することが僅かにできると記載されたが;得られる収率は、ロドトルラ・ミヌタで得られるものよりもさらに低い(Fukuda H. et al, Agric. Biol. Chem., 1984, 48:1679(非特許文献7))。
【0014】
これらの同一の研究はまた、プロピレンの天然産生も記載している:多くの微生物は、同じく非常に低い収率でしかプロピレンを産生することができない。
【0015】
植物によるエチレンの産生は、長く知られている(Meigh et al, 1960, Nature, 186:902(非特許文献8))。解明された代謝経路によれば、メチオニンがエチレンの前駆体である(Adams and Yang, PNAS, 1979, 76:170(非特許文献9))。2-オキソグルタラートの変換もまた記載された(Ladygina N. et al., Process Biochemistry 2006, 41:1001(非特許文献2))。1つのエチレン分子に対して4-または5-炭素鎖を予め製造する必要があるので、これら全ての経路の設備およびエネルギー需要は好ましくないものであり、アルケン生物生産のためのそれらの産業的利用にとって幸先がよいとはいえない。
【0016】
植物において1-アミノ-シクロプロパン-1-カルボキシラート(ACC)の形成を介してその真の代謝前駆体であるS-アデノシルメチオニン(SAM)をエチレンへと変換するという酵素段階の特徴決定(Adams and Yang, PNAS, 1979, 76:170(非特許文献9))の前に、エチレン産生を説明するためにいくつかの他の仮説が科学文献において提唱されたが、これらの中に、3-ヒドロキシプロピオナートの脱水に起因するアクリレート(H2C=CH-CO2H)の脱炭酸があった。いくつかの論文は、アクリレートを介して、3-ヒドロキシプロピオナートをエチレンへと変換する代謝経路を具体的に推測し、エチレン産生の放射性トレーサ研究を解釈し、ここで、14C標識基質が植物組織調製物へ供給された:β-アラニン-2-14Cが豆子葉抽出物へ(Stinson and Spencer, Plant Physiol., 1969, 44:1217(非特許文献10);Thompson and Spencer, Nature, 1966, 210:5036(非特許文献11))、プロピオナート-2-14Cがバナナパルプホモジネートへ(Shimokawa and Kasai, Agr. Biol. Chem., 1970, 34(11):1640(非特許文献12))。3-ヒドロキシプロピオナートおよびアクリレートが代謝的エチレン産生に関与するとのこれらの仮説の全ては、酵素活性の特徴決定へは至らず、メチオニン、SAMおよびACCの役割が発見されたらすぐに科学文献から姿を消した(Hanson and Kende, Plant Physiology, 1976, 57:528(非特許文献13);Adams and Yang, PNAS, 1979, 76:170(非特許文献9))。
【0017】
従って、本発明者の知る限りでは、微生物学的合成によってエチレン、プロピレン、1-ブチレン、イソブチレン、1-アミレンまたはイソアミレンなどの末端アルケンを製造するための効率的な方法は、現在のところ存在しない。このような方法は、石油製品の使用を避け、プラスチックおよび燃料の製造コストを下げることを可能にする。最後に、炭素の固体形態での保存を可能にすることによって、相当なグローバルな環境上の影響を潜在的に有し得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Wong MS et al., Biotech. Bioeng., 2008
【非特許文献2】Ladygina N et al., Process Biochemistry, 2006, 41:1001
【非特許文献3】Wackett LP, Current Opinions in Chemical Biology, 2008, 21:187
【非特許文献4】Withers ST et al., Appl. Environ. Microbiol., 2007, 73:6277
【非特許文献5】Fujii T. et al., Appl. Environ. Microbiol., 1988, 54:583
【非特許文献6】Fukuda H. et al., BBRC, 1994, 201(2):516
【非特許文献7】Fukuda H. et al, Agric. Biol. Chem., 1984, 48:1679
【非特許文献8】Meigh et al, 1960, Nature, 186:902
【非特許文献9】Adams and Yang, PNAS, 1979, 76:170
【非特許文献10】Stinson and Spencer, Plant Physiol., 1969, 44:1217
【非特許文献11】Thompson and Spencer, Nature, 1966, 210:5036
【非特許文献12】Shimokawa and Kasai, Agr. Biol. Chem., 1970, 34(11):1640
【非特許文献13】Hanson and Kende, Plant Physiology, 1976, 57:528
【発明の概要】
【0019】
本発明は、生物学的プロセスによってアルケン化合物の合成を行うための方法を記載する。
【0020】
本発明は、3-ヒドロキシアルカノアートの変換に基づく、末端アルケン化合物についての新規合成経路の設計に基づく。本発明はまた、前記変換がデカルボキシラーゼタイプの酵素またはその変異体を使用することによって生物学的に行われ得るという実証に基づく。本発明は、微生物を使用することによって、または無細胞系において、インビトロで行われ得る。本発明はまた、炭素源、特に炭水化物(特にグルコース)、ポリオール(特にグリセロール)、生分解性ポリマー(特にデンプン、セルロース、ポリ-3-ヒドロキシアルカノアート)からのアルケンの製造に関し;炭素源は、3-ヒドロキシアルカノアートファミリーに属する代謝中間体へと微生物によって変換され、次いで、末端アルケンへと変換される。
【0021】
より具体的には、本発明の目的は、デカルボキシラーゼ活性を有する酵素の存在下において3-ヒドロキシアルカノアートを変換する工程を含むことを特徴とする、末端アルケンを製造するための方法を提供することである。
【0022】
本発明の別の目的は、末端アルケン化合物の製造のための、前駆体または基質としての3-ヒドロキシアルカノアート化合物の使用に基づく。
【0023】
本発明の特定の態様において:
− 3-ヒドロキシプロピオナートはエチレンへと変換され;または
− 3-ヒドロキシブチラートはプロピレンへと変換され;または
− 3-ヒドロキシバレラートは1-ブチレンへと変換され;または
− 3-ヒドロキシ-3-メチルブチラート(または3-ヒドロキシイソバレラート)はイソブチレンへと変換され;または
− 3-ヒドロキシ-3-メチルバレラートはイソアミレンへと変換される。
【0024】
本発明はさらに、3-ヒドロキシアルカノアートから末端アルケン化合物を製造するための、デカルボキシラーゼ酵素の使用またはデカルボキシラーゼを産生する微生物の使用に関する。
【0025】
本発明はまた、デカルボキシラーゼを産生する微生物、好適な培養培地、および、該微生物によって3-ヒドロキシアルカノアート化合物または3-ヒドロキシアルカノアート化合物へと変換され得る炭素源を含む、組成物に関する。
【0026】
本発明の別の目的は、末端アルケンへ3-ヒドロキシアルカノアート化合物を脱炭酸するデカルボキシラーゼを産生する微生物、またはデカルボキシラーゼ酵素を含む生体触媒に関する。
【0027】
本発明の別の目的は、本発明に記載されるような方法によって得られる末端アルケン化合物に関する。
【0028】
本発明のさらなる目的は、デカルボキシラーゼ活性を有しかつ配列番号:6の全体または一部を含む単離または精製された酵素、またはそれらに対して少なくとも15%の配列相同性を有する酵素である。
【0029】
本発明の別の目的は、末端アルケンを製造するための、デカルボキシラーゼ活性を有しかつ配列番号:6の全体または一部を含む酵素、またはそれらに対して少なくとも15%の配列相同性を有する酵素の使用に関する。
【0030】
本発明の別の目的は、デカルボキシラーゼ活性を有しかつ配列番号:6の全体または一部を含む酵素、またはそれらに対して少なくとも15%の配列相同性を有する酵素を製造するための方法であって、該配列の発現を可能にする条件下で、該配列をコードする組換え核酸を含む微生物を培養する工程を含む方法に関する。
【0031】
本発明の別の目的は、デカルボキシラーゼ活性を有しかつ配列番号:6の全体または一部を含む酵素またはそれらに対して少なくとも15%の配列相同性を有する酵素をコードする組換え核酸を含む微生物に関する。
【0032】
定義
「3-ヒドロキシアルカノアート」は、本明細書において使用される場合、共通のモチーフとしての3-ヒドロキシプロピオナート(図1)、および任意で炭素3上に1つまたは2つのアルキル置換を含む任意の分子を意味する。前記アルキル残基または基は、直鎖または分岐鎖であり得る。本明細書において使用される場合、用語「アルコイル」および「アルキル」は、同一の意味を有し、交換可能である。同様に、用語「残基」および「基」は、同一の意味を有し、交換可能である。メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基は、前記アルキル基の例である。炭素3は、2つのアルキル置換が異なる場合、キラル中心となる。2つの形態のうちの1つ、例えば、R形態が、天然に産生される主要な形態であったとしても、本定義は、2つのキラル形態を包含する。3-ヒドロキシアルカノアートの例を図3に示す。任意で、アルキル置換基が炭素2上に付加され得、その場合、これはまたキラルとなり得る(2つの置換基が異なる場合)。同様に、本発明における3-ヒドロキシアルカノアート基質の立体配置は、全ての立体異性体を包含する。好ましい様式において、3-ヒドロキシアルカノアートは、3-ヒドロキシプロピオナートまたは3-ヒドロキシプロピオナートの変形もしくは誘導体のいずれかに対応し、ここで、炭素3上に保有される2つの水素原子または2つのうちの1つは、炭素および水素原子のみから構成されるモチーフによって置換されており、該置換基の炭素原子の数は、1〜5個、好ましくは1〜3個の範囲にある(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基またはイソブチル基)。接尾辞「オアート」は、本明細書において使用される場合、カルボン酸イオン(COO-)またはカルボン酸(COOH)のいずれかを交換可能に意味し得る。それは、エステルを示すためには使用されない。特定の態様において、3-ヒドロキシアルカノアートは、以下の式によって表される:HO-CO-CH2-C(R1)(R2)-OHまたはO--CO-CH2-C(R1)(R2)-OH。
【0033】
「末端アルケン」は、本発明によれば、直鎖または分岐鎖アルキル基による炭素2へ結合された2つの水素原子の一置換または二置換によってエチレンから誘導される有機分子およびエチレンを含む炭素および水素のみから構成される分子(式CnH2nを有する不飽和炭化水素)を意味する。末端アルケンは、好ましくは、式H2C=C(R1)(R2)によって表され、式中、R1およびR2は、独立して、水素原子、および好ましくは1〜4個の炭素原子、より好ましくは1〜3個の炭素原子を有する、直鎖または分岐鎖アルキル基からなる群において選択される。好ましくは、アルケンの炭素2上の2つの置換基のうちの少なくとも1つは、直鎖または分岐鎖アルキル基である。末端アルケンは、例えばイソブチレンなどの、分岐鎖イソアルケン化合物を含む。本発明による末端アルケン化合物の好ましい例は、特に、エチレン、プロピレン、イソブチレン、およびイソアミレン(図4)、または1-ブチレンおよび1-アミレンである。
【0034】
「炭素源」は、本明細書において使用される場合、本発明による生物についての基質として使用され得る任意の炭素化合物を意味する。前記用語は、グルコースもしくは任意の他のヘキソース、キシロースもしくは任意の他のペントース、ポリオール、例えば、グリセロール、ソルビトールもしくはマンニトール、またはポリマー、例えば、デンプン、セルロースもしくはヘミセルロース、またはポリ-3-ヒドロキシアルカノアート、例えば、ポリ-3-ヒドロキシブチラートを含む。それは、微生物の増殖を可能にする任意の基質、例えば、ホルマートであり得る。生物が光合成を行うことができる場合、それはまた、CO2であり得る。
【0035】
「組換え」は、本明細書において使用される場合、染色体遺伝子もしくは染色体外遺伝子もしくは調節モチーフ、例えば、プロモーターの付加、除去、もしくは改変によるか、または生物の融合によるか、または任意のタイプの、例えばプラスミドの、ベクターの添加による、生物の人工的な遺伝子改変を意味する。「組換え発現」という用語は、好ましくは、その宿主に関して外因性または異種起源の、即ち、産生宿主において天然には生じない、タンパク質を産生するための、または、改変されたか突然変異した内因性タンパク質を産生するための、遺伝子改変を伴うタンパク質の産生を意味する。
【0036】
「過剰発現」または「過剰発現する」は、本明細書において使用される場合、該タンパク質の天然発現と比較して少なくとも10%、好ましくは20%、50%、100%、500%、場合によってはそれ以上増大した、それが発現されるものとは異なる生物に好ましくは由来するタンパク質の組換え発現を意味する。この定義は、前記タンパク質の天然発現が存在しない場合をも包含する。
【0037】
「補助基質」は、そのある特定のパラメータを改善するため、特にその活性を向上させるために酵素反応へ添加される生成物であり、該生成物および主要基質は等しい量で消費される。従って補助基質は、主要基質と同等の濃度で反応へ添加されなければならない。酵素に応じて、酵素反応のために補助基質の存在が必要となり得る。
【0038】
「補因子」は、そのある特定のパラメータを改善するために、特にその活性を向上させるために酵素反応へ添加される生成物であり、該生成物は反応の間に消費されず、従って、酵素の量に比例して低濃度で添加されることのみが必要であり、従って該濃度は「触媒的」と呼ばれる。
【0039】
アミノ酸配列の「部分」は、該配列の少なくとも10、好ましくは少なくとも20、30、40または50の連続アミノ酸残基を含むフラグメントを意味する。
【0040】
「相同性」は、2つの配列間のパーセント同一性によって測定されるような2つの配列間の類似性の存在を意味する。
【0041】
化合物は、いくつかの名称、正式名または一般名によって公知であることが多い。本明細書においては、分子の一般名が好ましい。従って:
− 「エチレン」は、エテンを示すために使用される。
− 「プロピレン」は、プロペンを示すために使用される。
− 「ブチレン」は、ブテンを示すために使用される。
− 「イソブチレン」は、2-メチルプロペンまたはイソブテンを示すために使用される。
− 「アミレン」は、ペンテンを示すために使用される。
− 「イソアミレン」は、2-メチル-ブタ-1-エンまたはイソペンテンを示すために使用される。
− 「プロピオナート」は、プロパン酸またはプロパン酸イオンを示すために使用される。
− 「ブチラート」は、ブタン酸またはブタン酸イオンを示すために使用される。
− 「バレラート」は、ペンタン酸またはペンタン酸イオンを示すために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】3-ヒドロキシプロピオナートモチーフ。
【図2】MDPデカルボキシラーゼによるメバロン酸二リン酸の脱炭酸−一般的な活性。
【図3】3-ヒドロキシアルカノアートの例。
【図4】末端アルケンを製造するためのMDPデカルボキシラーゼの使用。
【図5】触媒部位における構造補完のために反応において使用され得る補因子。
【図6】グルコースからアルケンを製造するための一体化方法。
【図7】実施例4の条件番号1で行われた酵素反応のクロマトグラム。
【図8】配列番号:6の酵素の過剰発現および精製工程のSDS-PAGE。1.マーカー。2.誘導前の培養物。3.溶解物。4.カラム上に吸着されていないフラクション。5.カラム洗浄フラクション。6.精製酵素、MW 36.8 kDa。
【図9】HIVのIBNへの変換のGC/MSクロマトグラフィー分析。1および2:酵素の非存在下でのバックグラウンドノイズに対応する陰性対象。3および4:配列番号:6の酵素の存在下における反応。
【図10】ATPの存在および非存在下でのIBN産生の比率。
【図11】Mg2+の存在および非存在下でのIBN産生の比率。
【図12】温度に応じての酵素活性。比率:バックグラウンドに対する酵素の存在下で形成されたIBNの量。
【図13】HIV基質の濃度に応じてのIBN産生。
【図14】最適化された反応の測定およびバックグラウンドとの比較。フレームイオン化検出を備えるガスクロマトグラフィーによって測定。
【図15】配列番号:6をコードするヌクレオチド配列の最適化により向上した発現レベル。レーンM:分子量マーカー。レーン1、2、3:天然ヌクレオチド配列。(1)細胞溶解物、精製カラム上にロードされた可溶性フラクション。(2)精製カラム上に保持されなかった溶解物フラクション。(3)溶出されたフラクション:10μg精製酵素。レーン4、5、6:最適化されたヌクレオチド配列。(4)細胞溶解物、精製カラム上にロードされた可溶性フラクション。(5)精製カラム上に保持されなかった溶解物フラクション。(6)溶出されたフラクション:10μg精製酵素。
【発明を実施するための形態】
【0043】
発明の詳細な説明
特に、本発明は、3-ヒドロキシアルカノアート化合物の酵素的脱炭酸の工程を含む、末端アルケンを製造するための方法を提供する。本発明はまた、この反応を触媒するためのデカルボキシラーゼの使用、ならびに特に、メバロン酸二リン酸デカルボキシラーゼタイプの酵素の使用、ならびに3-ヒドロキシブチラート、3-ヒドロキシバレラート、3-ヒドロキシ-3-メチルブチラート(または3-ヒドロキシイソバレラート)および3-ヒドロキシプロピオナートなどの基質の使用に関する。本発明は、エチル二リン酸、プロピル二リン酸、メチル二リン酸、該分子のアナログ、およびピロホスファートを含む、補因子の使用を記載する。本発明は、さらに、ATPまたはリン酸無水物結合を含む他の化合物などの、補助基質の使用を記載する。
【0044】
本発明はまた、細胞全体から末端アルケンを直接製造するための、グルコースなどの炭素源の使用に関し、合成経路は、3-ヒドロキシアルカノアート経由で行われる。
【0045】
本発明はさらに、3-ヒドロキシアルカノアートを内因的に産生し、かつまた該3-ヒドロキシアルカノアートを末端アルケンへと変換するデカルボキシラーゼを発現する、天然のまたは改変された生物に関する。
【0046】
製造されるアルケン化合物、特に、プロピレン、エチレンおよびイソブチレンは、プラスチックおよび燃料産業において重要な分子であり、再生可能資源からの生物学的経路によるそれらの工業生産は、大幅な革新を示す。
【0047】
従って、本発明は、3-ヒドロキシアルカノアートタイプの化合物の変換に基づく、末端アルケンタイプの化合物についての新規の合成経路の設計から得られる。本発明は、末端アルケンへの3-ヒドロキシアルカノアートの変換を可能にする、デカルボキシラーゼタイプの酵素を使用することによって、前記変換が生物学的に行われ得ることを実証する。図2に示されるように、前記変換は、3-ホスホ-ヒドロキシアルカノアート構造を有する反応中間体を介して起こる。
【0048】
本発明による変換工程は、単離酵素(または、1つもしくは複数の補因子をさらに含む酵素システム)の存在下でインビトロで行われ得るか、または該酵素を産生する微生物の存在下で培養中に、行われ得る。
【0049】
本明細書の実施例5に記載されるように、変換収率について約100倍のシグナル対ノイズ比(酵素の非存在下で測定される)が、いくつかの条件下で観察され得た。3-ヒドロキシイソバレラート(HIV)に対する親和性は、約40 mMで測定された。このような非常に顕著な酵素活性が得られ得ることは、自明ではなかった:実際、酵素活性部位にはある特定の基質の認識、結合および化学変換を可能にする構造エレメントが含まれることは、酵素学の理論および実施に精通している生化学者にとって非常に周知である。たとえ僅かであっても、サイズまたは電荷の変化は基質の排除につながり得ることを示す実験データが、科学文献には多く存在する。具体的には、MDPデカルボキシラーゼが、概して3-ヒドロキシアルカノアートタイプの分子、特に3-ヒドロキシイソバレラートを基質として使用し得ると予想できた科学的予測は存在せず、後者は、そのサイズ(メバロン酸二リン酸についての308に対してMW 118)の点だけでなく、天然基質であるメバロン酸二リン酸上に存在する二リン酸基の電荷の点でも、メバロン酸二リン酸とは相違している。
【0050】
特定の態様において、補因子は、触媒クレフトに立体的または電子的補完を提供するために反応へ添加される。補因子は、ピロリン酸イオン、メチル二リン酸、エチル二リン酸、またはプロピル二リン酸からなる群において有利には選択される。より一般的に、補因子は、一般式R-O-PO2H-O-PO3H2を有するリン酸無水物モチーフを含む化合物であり、式中、Rは特に、水素原子、好ましくは1〜10個もしくは1〜5個の炭素原子を有する直鎖、分岐鎖、もしくは環式のアルキル基、または任意の他の一価の有機基を示す。加水分解されないという利点を有するメチレン架橋によってリン酸無水物が置き換えられた一般式R-O-PO2H-CH2-PO3H2によって表される、メチレンジホスホナートのモノエステルに対応する類似モチーフも、本発明の一部である。
【0051】
好ましい態様において、変換は補助基質の存在下で生じ、該補助基質は好ましくは、リン酸無水物を含む化合物であり、かつ好ましくは、ATP、rNTP、dNTP、またはいくつかのこれらの分子の混合物、ポリホスファート、またはピロホスファートである。補助基質は一般的に、宿主中に存在する。しかし別の特定の態様において、ATP、rNTP、dNTP、いくつかのrNTPもしくはdNTPの混合物、ポリホスファート、および好ましくはピロホスファート、または、リン酸無水物を含む化合物(図2の一般式X-PO3H2によって表される)からなる群において好ましくは選択される補助基質を、反応へ添加することができる。
【0052】
本発明の特定の態様において、デカルボキシラーゼを産生する微生物が使用される。好ましい態様において微生物は、産生宿主に対して異種のデカルボキシラーゼを産生する点で、組換えられている。従って、本方法は、酵素システムを分離または精製することなく、直接、培養培地において行われ得る。特に有利な様式において、溶液中に存在する炭素源から末端アルケンを直接産生するように、1つまたは複数の3-ヒドロキシアルカノアートを内因的に産生しかつ天然のまたは改変されたデカルボキシラーゼも発現または過剰発現する、天然または人工の特性を有する微生物が使用される。
【0053】
本発明において使用される微生物は、原核生物または真核生物、特に、細菌、酵母、植物細胞、真菌および糸状菌、動物細胞であり得る。特定の態様において、微生物は、細菌、特に、株アルカリゲネス・ユートロフスまたはバチルス・メガテリウムである。
【0054】
別の特定の態様において、微生物は、1つまたは複数の3-ヒドロキシアルカノアートを内因的に産生するように改変され、かつそれらを末端アルケンへと変換する、組換え大腸菌(Escherichia coli)株である。
【0055】
別の特定の態様において、微生物は、3-ヒドロキシアルカノアートを産生し、それらを末端アルケンへと変換する、組換え酵母である。
【0056】
別の特定の態様において、一方では、1つまたは複数の3-ヒドロキシアルカノアートを産生する微生物を使用し、他方では、第2の微生物によって任意で発現されたデカルボキシラーゼを使用する。任意で、本発明による方法において、前記2種類の生物を培養し、同時に使用する。
【0057】
別の特定の態様において、内因的に産生されるかまたは外因的に供給されるかにかかわらず、3-ヒドロキシアルカノアートから末端アルケンを製造するために、遺伝子導入によって任意で改変された植物または動物全体が使用される。
【0058】
別の特定の態様において、溶液中に存在するCO2から末端アルケンを直接産生するように、1つまたは複数の3-ヒドロキシアルカノアートを内因的に産生しかつ天然のまたは改変されたデカルボキシラーゼも過剰発現する、天然または人工の特性を有する光合成微生物が使用される。好ましくは、微生物は、光合成細菌、または微細藻類である。
【0059】
本発明はさらに、本明細書で上述した生物、および、末端アルケン化合物を製造するためのそれらの使用に関する。
【0060】
下記に記載されるように、本発明の方法は、微好気性条件下において行われ得る。
【0061】
さらに、好ましい態様において、本方法は、反応から脱気する(degas)末端アルケンのガスを収集するためのシステムの存在下で行われる。
【0062】
本明細書において使用されるデカルボキシラーゼは、n個の炭素原子を有する3-ヒドロキシアルカノアートを、n-1個の炭素原子を有する末端アルケン化合物へと変換することができる、任意の酵素を意味する。図2に示されるように、本発明の方法は好ましくは、3-ホスホ-ヒドロキシアルカノアート反応中間体を介して行われ、使用される酵素は、有利には、デカルボキシラーゼ活性およびホスホリラーゼ活性を有する。
【0063】
特定の態様において、デカルボキシラーゼは、メバロン酸二リン酸(MDP)デカルボキシラーゼ(酵素学名EC 4.1.1.33)の系統発生的スーパーファミリーのメンバーであり、即ち、図2に示される反応を任意で触媒することができる、天然または合成の遺伝子によってコードされた天然または人工の酵素である。
【0064】
MDPデカルボキシラーゼは、コレステロール生合成に関与する酵素である。該酵素は、動物、真菌、酵母およびいくつかの細菌を含む様々な生物から単離された。それはまた、いくつかの植物によっても発現され得る(Lalitha et al., 1985)。この酵素をコードする多くの遺伝子が、クローニングおよび配列決定された。これらの酵素は一般的に、300〜400個のアミノ酸から構成され、補助基質としてATPを使用し、これは反応の際にADPおよび無機ホスファートへと変換される。リン酸基が、ATP分子からメバロン酸二リン酸の第3級アルコールへ移動し、ADPが放出される。3-ヒドロキシル基上でリン酸化された反応中間体は、次いで、リン酸基の除去を受け、生理学的状況ではイソペンテニルピロリン酸が放出される(図2)。
【0065】
このファミリー由来のいくつかの酵素の三次元構造が解明された。現在までに行われたこのファミリーの酵素についての研究は比較的少なく、これらの酵素は、コレステロール生合成経路の正確な記載に関連して研究されたに過ぎない。他方では、本発明者の知る限りでは、この酵素をその天然機能から転用し、工業用触媒へ変えるための研究は、まだ行われていない。
【0066】
異なる生物由来のMDPデカルボキシラーゼのいくつかの例を、配列番号:1〜配列番号:16の配列で示す。
【0067】
従って、好ましい態様において、使用される酵素は、配列番号:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15もしくは16からなる群より選択されるアミノ酸配列または該配列のうちの1つに対して少なくとも15%の配列相同性を有しかつデカルボキシラーゼ活性を保持する配列を好ましくは含む、デカルボキシラーゼである。好ましい酵素は、配列番号:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15および16の主要な(primary)配列のうちの1つに対して少なくとも50%の配列相同性、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、なおより好ましくは少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性を有利には有する。配列相同性のパーセントは、種々の方法によって、当業者に公知のソフトウェアプログラム、例えば、CLUSTAL法またはBLASTおよび派生したソフトウェアによって、または配列比較アルゴリズム、例えば、NeedlemanおよびWunsch(J. Mol. Biol., 1970, 48:443)またはSmithおよびWaterman(J. Mol. Biol., 1981, 147:195)に記載されるものを使用することによって、測定され得る。
【0068】
本発明の好ましいデカルボキシラーゼは、配列番号:6の配列を有する酵素、ならびにそれに対して有意な配列相同性を有する任意の酵素に代表される。好ましい酵素は、配列番号:6の主要な配列に対して、少なくとも50%の配列相同性、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、なおより好ましくは少なくとも90、95、96、97、98または99%の配列相同性を有利には有する。前記酵素は、ピクロフィラス・トリダス(Picrophilus torridus)からクローニングされ、本発明の範囲内の組換え手段によって製造された。実施例において説明されるように、この酵素は、本発明による末端アルケン化合物を製造する点で特に効率的である。触媒としてのその製造および使用と同様に、この酵素もまた本発明の対象である。特に、本発明の目的は、末端アルケン化合物を製造するための、配列番号:6の全体または一部を含むデカルボキシラーゼ酵素の使用、または配列番号:6に対して有意な、好ましくは少なくとも15%の配列相同性を有する酵素の使用である。有意な配列相同性は、上述のアルゴリズムを使用することによって検出可能な配列相同性、好ましくは、15%を超える配列相同性を意味する。ピクロフィラス・トリダスと最も近い系統発生関係を有する生物、例えば、フェロプラズマ・アシダルマヌス(Ferroplasma acidarmanus)、サーモプラズマ・アシドフィラム(Thermoplasma acidophilum)、サーモプラズマ・ボルカニウム(Thermoplasma volcanium)およびピクロフィラス・オシマエ(Picrophilus oshimae)は、配列番号:6のそれに最も近いMDPデカルボキシラーゼを産生することができる。例えば、サーモプラズマ・アシドフィラムのMDPデカルボキシラーゼ(AC番号Q9HIN1)は、配列番号:6に対して38%の配列相同性を有し;サーモプラズマ・ボルカニウムのMDPデカルボキシラーゼ(Q97BY2)は、約42%を有する。これらのMDPデカルボキシラーゼの使用は、本発明においてより特に考慮される。
【0069】
デカルボキシラーゼタイプの天然または合成のその他の酵素を、本発明により末端アルケンを産生する能力について選択することができる。従って、選択試験は、精製酵素または該酵素を産生する微生物と、反応の基質とを接触させる工程、および末端アルケン化合物の産生を測定する工程を含む。このような試験は実施例セクションに記載され、60種を超える異なる酵素を試験した。
【0070】
使用される酵素は、天然のまたは産生された、または人工的に最適化された、任意のデカルボキシラーゼであり得る。特に、1つまたは複数の3-ヒドロキシアルカノアートに関して最適化された活性を有するデカルボキシラーゼが、有利には使用される。
【0071】
酵素は、タンパク質操作技術、例えば、ランダム突然変異誘発、大規模突然変異誘発、部位特異的突然変異誘発、DNAシャフリング、合成シャフリング、インビボ進化、または遺伝子の完全合成によって、(天然の、またはそれ自体が既に合成もしくは最適化された)参照デカルボキシラーゼから選択または製造され得る。
【0072】
この点で、本発明の1つの目的はまた、3-ヒドロキシアルカノアート基質に対してデカルボキシラーゼ活性を有する酵素を作製するための方法であって、酵素源を処理し、未処理酵素と比較して、該基質に対して増強された特性を有する酵素を選択する工程を含む方法に関する。
【0073】
本発明において使用される酵素は、従って、天然または合成であり得、かつ、化学的、生物学的、または遺伝学的手段によって製造され得る。またこれは、例えばその活性、耐性、特異性、精製を改善するために、またはそれを支持体上に固定するために、化学修飾され得る。
【0074】
本発明は、3-ヒドロキシアルカノアートを末端アルケンへと変換するための、デカルボキシラーゼの使用、特に天然のまたは改変されたMDPデカルボキシラーゼの使用を特徴とする。
【0075】
MDPデカルボキシラーゼの天然基質はメバロン酸二リン酸であり、これは、3-ヒドロキシアルカノアートの定義には入らない。
【0076】
種々の3-ヒドロキシアルカノアートを使用してMDPデカルボキシラーゼによって行われる一般的な反応を、図2Bに示す。これらの反応は、直接かつシングルステップで末端アルケンをもたらすことが理解されよう。
【0077】
第1の態様において、3-ヒドロキシアルカノアートを末端アルケンへと変換するために、精製されたまたは精製されていない天然または組換え酵素を使用する。これを行うために、酵素を活性にする物理化学的条件下で基質の存在下で酵素調製物をインキュベーションし、十分な期間進行させる。インキュベーションの終わりに、アルケン生成物のまたは遊離ホスファートの形成を測定するために、あるいは3-ヒドロキシアルカノアート基質のまたはATPの消失を測定するために、ガスクロマトグラフィーまたは比色試験などの当業者に公知の任意の検出システムを使用することによって、末端アルケンの存在を任意で測定する。
【0078】
好ましい態様において、天然の反応を最もよく模倣するために、補因子が添加される。実際に、3-ヒドロキシアルカノアートの構造は、MDPのフラグメントにほぼ対応しており、従って、酵素−基質結合の際、触媒クレフト中の大きな空間が空のままになる。この空間を補因子で満たし、基質の欠けている部分を元に戻すことは、MDP分子を最も厳密に模倣するという目的を有する。補因子は反応の間改変されないので、従って触媒量のみを添加する。反応の基質が3-ヒドロキシプロピオナートである場合、補完的な補因子はプロピル二リン酸である。基質が3-ヒドロキシブチラートまたは3-ヒドロキシ-3-メチルブチラートである場合、補完的な補因子はエチル二リン酸である。基質が3-ヒドロキシバレラートまたは3-ヒドロキシ-3-メチルバレラートである場合、補完的な補因子はメチル二リン酸である。これらの種々の分子を図5に示す。偶然に、反応の補完的な補因子が、別の基質の反応に対してプラス効果を有することが起こり得る。一般的に、補因子はリン酸無水物を含み、従って一般式R-PO2H-O-PO3H2を有する任意の分子であり得、式中、Rは、特にH、直鎖、分岐鎖、もしくは環式のアルキル基、または任意の他の一価の有機基である。加水分解されないという利点を有するメチレン架橋によってリン酸無水物が置き換えられている一般式R-O-PO2H-CH2-PO3H2を有する、メチレンジホスホナートのモノエステルに対応する類似モチーフも、本発明の一部である。
【0079】
より一般的には、補因子は前述の分子の一リン酸アナログであってもよく、またはリン酸非含有アナログであってさえよく、あるいは、酵素触媒部位に立体的または電子的補完を提供することによって反応収率を改善し得る任意の他の分子であってもよい。
【0080】
特定の態様において、補助基質が反応へ添加される。前記補助基質は、ATP、即ちMDPデカルボキシラーゼの天然の補助基質、あるいは、任意のrNTP(リボヌクレオシド三リン酸)もしくはdNTP(デオキシリボヌクレオシド三リン酸)、またはrNTPもしくはdNTPの任意の混合物、あるいはピロホスファート、または別のポリホスファート、あるいは、リン酸無水物基を含む任意の分子(図2のX-PO3H2)のいずれかであり得る。
【0081】
好ましい態様において、3-ヒドロキシアルカノアートを末端アルケンへと変換するために、デカルボキシラーゼ活性を有する天然酵素に対して、特に配列番号:1〜16の配列に対応する酵素のうちの1つに対して、少なくとも15%の配列相同性、好ましくは少なくとも30%、50%、なおより好ましくは少なくとも80、90、95、96、97、98または99%を有する酵素を使用する。特に該酵素は、配列番号:1〜16の酵素のうちの1つから、または別の供給源から同定された任意の他のデカルボキシラーゼから、操作によって改変することができる。このような酵素は、特に実験室における遺伝子操作によって、また同じく自然進化の間に(MDPデカルボキシラーゼの痕跡のことを述べる場合)そのMDPデカルボキシラーゼ活性を失っていてもよく、3-ヒドロキシアルカノアートタイプの1つまたは複数の分子に対するその活性を保持していても増加させていてもよい。前記基質に対する反応性が高まったこれらの酵素の変異体を作製することによって、本発明による反応の収率を改善することが可能となる。例えば、3-ヒドロキシアルカノアートに対する野生型MDPデカルボキシラーゼの反応性は、必ずしも最適ではない。このような変異体を製造および選択するための当業者に公知の任意のアプローチ、例えば、ランダム突然変異誘発、部位特異的突然変異誘発、大規模突然変異誘発、DNAシャフリング、またはインビボ進化が使用され得る。
【0082】
本発明はまた、3-ヒドロキシアルカノアートを末端アルケンへと変換することを目的として、設計のためにMDPデカルボキシラーゼについての公知のデータを使用してまたは使用せずに、全く新しい酵素をコードする合成遺伝子を設計および製造することによって得られた、完全に人工的な酵素の使用を特徴とする。
【0083】
本発明の別の目的は、デカルボキシラーゼ活性を有しかつ配列番号:6の全体または一部を含む、単離または精製された酵素である。
【0084】
本発明の別の目的は、末端アルケンを製造するための、デカルボキシラーゼ活性を有しかつ配列番号:6の配列の全体もしくは一部を含む酵素の使用、または上述されるような配列相同性を有する酵素の使用に関する。一変形において、該配列は、例えばN末端におけるヒスチジンタグのような、追加の残基をさらに含み得る。
【0085】
本発明の別の目的は、デカルボキシラーゼ活性を有しかつ配列番号:6の配列の全体または一部を含む酵素、または上述されるような配列相同性を有する酵素を製造するための方法であって、該配列の発現を可能にする条件下で該配列をコードする組換え核酸を含む微生物を培養する工程を含む方法に関する。この文脈において、本発明は、天然核酸(配列番号:19)に加えて、細菌における、特に大腸菌における配列番号:6の酵素の発現のために最適化されている配列を有する核酸(配列番号:17)を記載する。この核酸、および任意の最適化された核酸(即ち、野生型配列と比較して発現の少なくとも30%向上を可能にする)は、本出願の対象である。
【0086】
本発明の別の目的は、デカルボキシラーゼ活性を有しかつ配列番号:6の配列の全体または一部を含む酵素をコードするかまたは上述されるような配列相同性を有する酵素をコードする組換え核酸を含む、微生物に関する。該微生物は、好ましくは、細菌、酵母または真菌である。本発明はまた、本発明によるデカルボキシラーゼをコードする組換え核酸を含む任意の植物または非ヒト動物に関する。
【0087】
一態様において、3-ヒドロキシアルカノアートを末端アルケンへと変換するためにMDPデカルボキシラーゼを精製形態で使用する。しかし、酵素および基質の製造および精製費用が高いので、この方法は高コストである。
【0088】
別の態様において、タンパク質精製費用を節約するために、MDPデカルボキシラーゼを未精製の抽出物として、または未溶解の細菌の形態で、反応物中に存在させる。しかし、基質を製造および精製する費用のために、この方法に伴う費用も依然としてかなり高い。
【0089】
本発明の別の態様において、本方法は、上記変換を行うための上記酵素を産生する生きた生物を使用する。従って本発明は、デカルボキシラーゼを過剰発現でき(該酵素は好ましくは宿主微生物とは異なる生物に由来する)、かつ1つまたは複数の末端アルケンを直接作製することができるような、1つまたは複数の3-ヒドロキシアルカノアートを産生する細菌株[例えば、アルカリゲネス・ユートロフスまたはバチルス・メガテリウム、あるいは該産物を産生するように実験室改変された大腸菌株]の遺伝子操作改変を特徴とする。該遺伝子改変は、染色体中にデカルボキシラーゼ遺伝子を組込むこと;該酵素コード配列の上流にプロモーターを含むプラスミド上で該酵素を発現させること(プロモーターおよびコード配列は異なる生物に好ましくは由来する);または当業者に公知の任意の他の方法にあり得る。あるいは、他の細菌または酵母が、特定の利点を有し得、選択され得る。例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などの酵母、サーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)などの好極限性細菌、またはクロストリジウム(Clostridiae)科由来の嫌気性細菌、例えば、微細藻類、または光合成細菌が使用され得る。後に末端アルケンへと変換される3-ヒドロキシアルカノアートを最適に産生するように、上記菌株はまた、遺伝子操作によって、即ちインビトロ組換えによってまたは定方向インビボ進化によって、改変されていてもよい。
【0090】
一態様において、本発明の方法は、3-ヒドロキシアルカノアートへのグルコースなどの炭素源の変換、引き続く二次産物、即ち末端アルケンへの該一次産物の変換を特徴とする。前記方法の種々の工程を図6に概説する。
【0091】
特定の態様において、本発明は、酵素または好適な物理化学的方法を使用することによる、3-ヒドロキシアルカノアートへのポリヒドロキシアルカノアートの変換、引き続く二次産物、即ち末端アルケンへの該一次産物の変換を特徴とする。任意で、ポリヒドロキシアルカノアートは、高収率のポリヒドロキシアルカノアートを産生するように代謝経路が改変された植物によって、産生される。
【0092】
特定の態様において、本発明は、大気CO2からまたは培養培地へ人工的に添加されたCO2から生成物を製造するための一体化方法にある。本発明の方法は、例えば微細藻類などの、光合成を行うことができる生物において実施される。
【0093】
これらの態様において、本発明の方法は、培養物から脱気する生成物の回収の様式をさらに特徴とする。実際のところ、短鎖末端アルケン、特にエチレン、プロピレン、ブテン異性体は、室温および大気圧でガス状態をとる。従って本発明の方法は、工業規模で行う場合にはいつも非常に高コストな工程である液体培養培地からの生成物の抽出を必要としない。ガス状炭化水素の排出および貯蔵、ならびにその後の可能な物理的分離および化学変換は、当業者に公知の任意の方法に従って行われ得る。
【0094】
特定の態様において、本発明はまた、前記方法の気相中に存在するアルケン(特に、プロピレン、エチレンおよびイソブチレン)を検出する工程を含む。空気または別の気体の環境における標的化合物の存在は、たとえ少量であっても、種々の技術を使用することによって、特に赤外線もしくはフレームイオン化検出を備えるガスクロマトグラフィーシステムを使用することによって、または質量分析と連結することによって、検出され得る。
【0095】
特定の態様において、得られた末端アルケンは、より長鎖のアルケンまたはより長鎖のアルカンを製造するために、当業者に公知の技術を使用することによって縮合され、次いで任意で還元される。特に、イソオクタンを合成するためにイソブチレンが使用され得:この反応を首尾よく行うための触媒方法は、既に詳細に記載されている。
【0096】
特定の態様において、本方法は、標準培養条件(30〜37℃、1 atmで、細菌の好気性増殖を可能にする発酵槽において)または非培養条件(例えば、好熱性生物の培養条件に対応するためのより高い温度)において微生物を培養する工程を含む。
【0097】
特定の態様において、微生物は、微好気性条件下で培養され、注入される空気の量は、アルケン炭化水素を含有するガス状放出物中の残留酸素濃度を最小にするように制限的である。
【0098】
本発明の他の局面および利点は、以下の実施例に記載され、これらは、制限のためではなく、例示のために提供される。
【実施例】
【0099】
実施例1:いくつかのMDPデカルボキシラーゼのクローニングおよび発現
サッカロマイセス・セレビシエのMDPデカルボキシラーゼをコードする遺伝子を、オーバーラッピングオリゴヌクレオチドから合成し、細菌における発現を可能にするpETプラスミド(Novagen)中にクローニングする。次いで、前記プラスミドを、エレクトロポレーションによって細菌株BL21(Invitrogen)中へ形質転換する。アンピシリンを含有するペトリ皿上に細菌を画線培養し、37℃でインキュベーションする。翌日、細菌コロニーを無作為に選択し、アンピシリンを含有するLB培地50 mlに接種するために使用する。振盪しながら培養物を24時間インキュベーションし、その後、培養物を遠心分離し、細菌を超音波処理によって溶解し、総タンパク質抽出物を調製する。抽出物のアリコートを、形質転換されていない同一の株からのタンパク質抽出物および分子量マーカーと共に電気泳動ゲル上にロードする。形質転換された株に対応するレーンは約30 kDの単一バンドを含み、これは予想されるタンパク質のサイズに対応するが、該バンドは、形質転換されていない細菌がロードされたレーン中には存在しない。
【0100】
実施例2:3-ヒドロキシ-3-メチルブチラートに対するタンパク質抽出物の活性の測定
3-ヒドロキシ-3-メチルブチラート(Sigma、β-ヒドロキシイソ吉草酸との名称で参照番号55453)を、10 g/lの濃度で懸濁する。従来法によってメバロノラクトンおよび他の試薬(Sigma)からメバロン酸二リン酸を合成し、10 g/lの濃度で再懸濁する。
【0101】
6個のクロマトグラフィーバイアルを調製する。50 mM Bistris/HCl 1 mMジチオスレイトール、10 mM MgCl2および5 mM ATPを含有する緩衝液50μLを、各バイアルへ添加する。
バイアル1および4:水5μlを添加する(基質無し)。
バイアル2および5:メバロン酸二リン酸調製物5μlを添加する(陽性対照)。
バイアル3および6:3-ヒドロキシ-3-メチルブチラート(HIV)調製物5μlを添加する。
バイアル1、2および3:次に水5μlを添加する(酵素無し)。
バイアル4、5および6:実施例1に記載の酵素調製物5μlを添加する。
【0102】
バイアルをセプタムで密封し、クリンプする。全てのバイアルを37℃で4時間〜3日間インキュベーションする。インキュベーション後、ガス注射器を使用して各バイアル中に存在するガスを収集し、試料中のCO2濃度をガスクロマトグラフィーによって測定する。バイアル5は非常に高いCO2濃度を有し、これよりも少ない濃度でのCO2が同じくバイアル6において検出され、このことは、3-ヒドロキシ-3-メチルブチラートに対する酵素調製物の顕著な反応を示す。次いで、バイアル6のガス試料におけるイソブチレンの存在を、赤外線またはフレームイオン化検出を備えるガスクロマトグラフィーによって測定する。
【0103】
実施例3:補因子を使用することによる反応条件の最適化
前の実施例のバイアル6に記載のものと同一の反応を行うが、試料のうち1つにおいて、注文生産のエチル二リン酸を補因子として添加する。この実施例において3個のバイアルを使用する。第1のバイアルは、前の実施例に記載の量で、緩衝液、ATP、および酵素抽出物を含有する。第2のバイアルは、同一の成分を含有するが、前の実施例に記載の量で3-ヒドロキシ-3-メチルブチラートもさらに含有する。第3のバイアルは、3-ヒドロキシ-3-メチルブチラートに加えて、10 mg/lエチル二リン酸を10μl含有する。前の実施例におけるように、イソブチレン形成を、赤外線またはフレームイオン化検出を備えるガスクロマトグラフィーによって測定する。エチル二リン酸が存在する場合、経時的に産生されるイソブチレンの量は著しく多くなることが分かる。
【0104】
実施例4:酵素ライブラリーのスクリーニング
MDPデカルボキシラーゼファミリーからの酵素をコードする63個の遺伝子のライブラリーを得、基質としてのHIVに対する活性について試験した。
【0105】
クローニング、細菌培養、およびタンパク質の発現
メバロン酸二リン酸(MDP)デカルボキシラーゼファミリーEC 4.1.1.33をコードする遺伝子を、メチオニン開始コドンの直後のN末端に6-ヒスチジンタグを有する、真核生物遺伝子の場合はpET 25bベクター(Novagen)に、原核生物起源の遺伝子についてはpET 22b(Novagen)に、クローニングした。コンピテント大腸菌BL21(DE3)細胞(Novagen)を、熱ショックによってこれらのベクターで形質転換した。0.5 Mソルビトール、5 mMベタイン(betain)、100μg/mlアンピシリンを含有するTB培地において30℃で振盪(160 rpm)しながら、600 nmでのODが0.8〜1の範囲に達するまで、細胞を増殖させた。次いで、イソプロピルB-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)を1 mMの最終濃度まで添加し、タンパク質発現を20℃で一晩(約16時間)継続した。4℃、10,000 rpmで20分間の遠心分離によって細胞を収集し、ペレットを-80℃で凍結させた。
【0106】
細胞溶解
細胞1.6 gを氷上で解凍し、300 mM NaCl、5 mM MgCl2、1 mM DTTを含有する50 mM Na2HPO4 pH 8 5 mlに再懸濁した。20マイクロリットルのリソナーゼ(lysonase)(Novagen)を添加した。細胞を室温で10分間インキュベーションし、次いで、20分間氷へ戻した。0℃の超音波水浴における5分間×3回の超音波処理によって、細胞溶解を完了し;試料をパルス間でホモジナイズした。次いで、細菌抽出物を、4℃、10,000 rpmで20分間の遠心分離によって清澄化した。
【0107】
タンパク質精製および濃縮(PROTINOキット)
清澄化された細菌溶解物を、6-Hisタグタンパク質の吸着を可能にするPROTINO-1000 Ni-IDAカラム(Macherey-Nagel)上にロードした。カラムを洗浄し、関心対象の酵素を、300 mM NaCl、5 mM MgCl2、1 mM DTT、250 mMイミダゾールを含有する50 mM Na2HPO4 pH 8 4 mlで溶出した。次いで、Amicon Ultra-4 10 kDa細胞(Millipore)内で溶出液を濃縮し、最終体積250μlとした。タンパク質をBradford法によって定量した。
【0108】
酵素反応
所望の酵素反応(3-ヒドロキシ-3-メチルブチラート、または3-ヒドロキシイソバレラート、またはHIVの変換)を、緩衝液および反応pHが異なる2つの実験条件下で試験した。
実験条件番号1
100 mMクエン酸塩
10 mM MgCl2
10 mM ATP
20 mM KCl
200 mM HIV
最終pHを5.5へ調節する
実験条件番号2
100 mM Tris-HCl pH 7.0
10mM MgCl2
10 mM ATP
20 mM KCl
200 mM HIV
最終pHを7.0へ調節する
【0109】
酵素を反応混合物へ添加した。タンパク質収率は可変であったので、添加した酵素の量は、試料ごとに0.01〜1 mg/mlの範囲に及んだ。酵素を伴わない対照反応を並行して行った。
【0110】
1 ml反応物を2 mlバイアル(Interchim)中に置き、テフロン/シリカ/テフロンセプタム(Interchim)で密封した。反応物を振盪無しで37℃において72時間インキュベーションした。
【0111】
反応物の分析
反応物上に存在するガスを、使い捨て機構を備えた注射器で収集した。質量分析器(MS)と連結したガスクロマトグラフィー(GC)によって、ガス試料を分析した。様々なイソブチレン濃度を使用して、機器を予め較正した。
カラム:BPX5 (SGE)
GC/MS:MSD 5973 (HP)
【0112】
各クロマトグラムについて3つの主要なピークが得られ、第1のピークは空気に、第2のピークは水に、第3のピークはイソブチレンに対応した。製造および試験した63個の酵素のうち、11個の可能性のある候補が、一次スクリーニングにおいて同定された。これらの候補のうちのいくつかを、図7において矢印で示す。それらの個別情報を下記に、配列を配列番号:6〜16として示す(Hisタグは示さない)。
【0113】
候補1:配列番号:7
Genebankアクセッション番号:CAI97800.1
Swissprot/TrEMBLアクセッション番号:Q1GAB2
微生物:ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシズ・ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)(株ATCC 11842 / DSM 20081)
【0114】
候補2:配列番号:8
Genebankアクセッション番号:CAJ51653
Swissprot/TrEMBLアクセッション番号:Q18K00
微生物:ハロクアドラトゥム・ワルスビイ(Haloquadratum walsbyi)DSM 16790
【0115】
候補3:配列番号:9
Genebankアクセッション番号:ABD99494.1
Swissprot/TrEMBLアクセッション番号:Q1WU41
微生物:ラクトバチルス・サリバリウス・サブスピーシーズ・サリバリウス(Lactobacillus salivarius subsp. salivarius)(株UCC118)
【0116】
候補4:配列番号:10
Genebankアクセッション番号:ABJ57000.1
Swissprot/TrEMBLアクセッション番号:Q04EX2
微生物:オエノコッカス・オエニ(Oenococcus oeni)(株BAA-331 / PSU-1)
【0117】
候補5:配列番号:11
Genebankアクセッション番号:ABJ67984.1
Swissprot/TrEMBLアクセッション番号:Q03FN8
微生物:ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)ATCC 25745
【0118】
候補6:配列番号:12
Genebankアクセッション番号:ABV09606.1
Swissprot/TrEMBLアクセッション番号:A8AUU9
微生物:ストレプトコッカス・ゴルドニ(Streptococcus gordonii)(株Challis / ATCC 35105 / CH1 / DL1 / V288)
【0119】
候補7:配列番号:13
Genebankアクセッション番号:ABQ14154.1
Swissprot/TrEMBLアクセッション番号:A5EVP2
微生物:ディケロバクター・ノドーサス(Dichelobacter nodosus)VCS1703A
【0120】
候補8:配列番号:14
Genebankアクセッション番号:EDT95457.1
Swissprot/TrEMBLアクセッション番号:B2DRT0
微生物:ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)CDC0288-04
【0121】
候補9:配列番号:15
Genebankアクセッション番号:AAT86835
Swissprot/TrEMBLアクセッション番号:Q5XCM8
微生物:ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)血清型M6(ATCC BAA-946 / MGAS10394)
【0122】
候補10:配列番号:6
Genebankアクセッション番号:AAT43941
Swissprot/TrEMBLアクセッション番号:Q6KZB1
微生物:ピクロフィラス・トリダスDSM 9790
【0123】
候補11:配列番号:16
Genebankアクセッション番号:AAV43007.1
Swissprot/TrEMBLアクセッション番号:Q5FJW7
微生物:ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)NCFM
【0124】
最高レベルのイソブチレン(IBN)産生は、候補10、即ち、ピクロフィラス・トリダス由来の配列番号:6の精製デカルボキシラーゼ酵素で観察された。この酵素をさらなる特徴決定のために保持した。
【0125】
実施例5:配列番号:6の酵素の特徴決定
実施例4に記載されるように、組換え酵素を精製した。図8に示される結果は、最終タンパク質試料中の酵素純度が約90%であったことを示している。
【0126】
単離酵素の活性を確認した。反応を以下の条件で行った。
100 mM Tris-HCl pH 7.0
10mM MgCl2
10 mM ATP
20 mM KCl
250 mM HIV
最終pHを6.0へ調節する
3 mg/ml酵素
【0127】
30℃での72時間インキュベーションの後、シグナルをGC/MSによって測定した。結果を図9に示す。酵素の存在下において、ここでのIBN産生は、バックグラウンドノイズと比べて約2.3倍増加した。ここで観察されたバックグラウンドノイズは有機化学文献と一致しており、このことは、水溶液中および約100℃の温度において、3-ヒドロキシイソ吉草酸が徐々に脱炭酸してtert-ブタノールとなり、これが、tert-ブタノールの形成に有利な平衡に従って部分的に脱水されイソブチレンとなることを示している(Pressman and Luca, J. Am. Chem. Soc. 1940)。
【0128】
ATP補助基質の効果
試験条件
100 mMクエン酸塩
50 mM KCl
10 mM MgCl2
200 mM HIV(指定される)
1 mg/ml精製酵素
pH 5.5
30℃で72時間インキュベーション
【0129】
図10における結果は、酵素活性が補助基質ATPの存在下においてのみ観察されたことを示している。他の分子、特にリン酸無水物結合を含むものもまた、酵素についての有効な補助基質であり得た。
【0130】
Mg2+補因子の効果
試験条件
100 mMクエン酸塩pH 5.5
50 mM KCl
10 mM ATP
200 mM HIV(指定される)
pH 5.5
1 mg/ml精製酵素
30℃で72時間インキュベーション
【0131】
図11における結果は、酵素活性がMg2+イオンの存在下で向上したことを示している。他のイオン、特に他の二価イオンが、Mg2+イオンの代わりにまたはこれに加えて、補因子として使用され得た。
【0132】
温度に応じての酵素活性
試験条件
100 mM緩衝液
50 mM KCl
10 mM ATP
200 mM HIV(指定される)
1 mg/ml精製酵素
異なる温度で72時間インキュベーション
【0133】
図12における結果は、酵素が、約50℃の温度最適条件で適度に熱活性(thermoactive)であることを示している。
【0134】
pHに応じての活性
試験条件
100 mM緩衝液
50 mM KCl
10 mM ATP
200 mM HIV(指定される)
1 mg/ml精製酵素
30℃で72時間インキュベーション
【0135】
最適な条件は、100 mMクエン酸塩においてpH5.5で得られた。
【0136】
酵素パラメータ
インキュベーションを50℃で行って、前述の条件で、基質範囲を試験した。酵素のKmは約40 mM HIVである。
【0137】
反応条件の最適化
下記の条件を保持し、最適な反応条件を求めた。
100 mMクエン酸塩
50 mM KCl
40 mM ATP
200 mM HIV
1 mg/ml酵素
50℃で48時間インキュベーション
【0138】
図14に示されるように、シグナル対バックグラウンドノイズの比率は、約100である。
【0139】
実施例6:大腸菌におけるP.トリダスMDPデカルボキシラーゼ発現の最適化
精製前にSDS-PAGEでバンドを見るのが困難であったように、大腸菌BL21中の発現の初期レベルは低かった。大腸菌における発現用の天然配列のCodon Optimization Index(CAI)を、SharpおよびLiの方法(1987)に基づいて、http://genomes.urv.es/OPTIMIZER/で入手可能な「Optimizer」プログラムで測定した。得られた値は僅か0.23であり、大腸菌における該タンパク質の低レベルの発現を反映している。
【0140】
同一のタンパク質をコードするが、大腸菌中での発現により適合させたコドンを含有する、配列を作製した。この配列は、最適条件1により近い0.77のCAIを有した。
【0141】
天然配列および最適化配列を、配列番号:17(Hisタグを含むP.トリダス(AAT43941)MDPデカルボキシラーゼの最適化配列)および配列番号:19(Hisタグを含むP.トリダス(AAT43941)MDPデカルボキシラーゼの天然配列)に示す。
【0142】
最適化配列を、オリゴヌクレオチド連結によって合成し、pET25発現ベクター中にクローニングした。大腸菌株BL21(DE3)中へベクターを形質転換し前述のプロトコルに従って誘導した後、前述のように、タンパク質を製造し、精製し、ゲル上において分析した。比較のために、同一のプロトコルを天然配列で行った。
【0143】
天然ヌクレオチド配列または大腸菌における発現用に最適化された配列のいずれかを使用した、候補224の発現レベルの比較
図15における結果は、最適化された遺伝子に対応するタンパク質が、未精製の細胞溶解物(レーン4)において、ゲル上ではっきりと目に見えたことを示しており、これは、発現の非常に顕著な増加を示している。精製工程後のタンパク質の純度のレベルもまた、最適化された遺伝子の場合により高かった。
【0144】
活性を粗製溶解物について測定した。天然核酸配列に対応する粗製溶解物について、活性は検出されなかった。上記改善された配列(最適化クローン224)で得られた粗製溶解物が下記の活性を示すように、該タンパク質の発現は向上した。
【0145】
下記の反応媒体をこの試験において使用した。
【0146】
反応媒体
50℃でインキュベーション2日間
【0147】
結果
条件番号1:最適化クローン224の溶解物
条件番号2:クローンGB6の溶解物(空のpETプラスミド)
【0148】
実施例7:3-ヒドロキシ-3-メチルブチラートからイソブチレンを合成するための方法およびイソオクタンへの変換
実施例3におけるバイアル3と同一の反応を、ガス抽出システムを備えた発酵槽において、1リットル体積で行った。組換え酵素の存在によってイソブチレンへの3-ヒドロキシ-3-メチルブチラートの変換が誘導され、これは自然に脱気し、これを、発酵槽の上部に配置したガス抽出システムによって回収した。次いで、イソブチレンを使用し、Amberlyst 35wetまたは36wet樹脂(Rohm and Haas)によって触媒される付加によってイソオクテンを製造した。次に、イソオクテンを接触水素化によってイソオクタンへ還元した。
【0149】
実施例8:基質に対する有効性を改善するための酵素操作
ランダム突然変異誘発技術を使用し、実施例1に記載の遺伝子の突然変異体を何千も含有するライブラリーを作製した。次いで、この突然変異体ライブラリーを、発現プラスミド中にクローニングし、コンピテント細菌株BL21へ形質転換した。
【0150】
次いで、1000個の細菌を単離し、アンピシリンが補われたLB培地500μlを含有するエッペンドルフ管へ接種した。試料を15時間、撹拌器上においてインキュベーションした。翌日、生成されたイソブチレンの量を、前の実施例に記載の実験プロトコルのうちの1つまたは別のものを使用することによって測定した。
【0151】
イソブチレンの量が顕著に増加したクローンを、次いで、同一の実験プロトコルを使用して再確認した。この改善が確認されたら、各改善されたクローンから該プラスミドを抽出し、配列決定した。活性の向上を担う突然変異を同定し、同一のプラスミド上で組み合わせた。次に、種々の改善突然変異を含むプラスミドを、コンピテント細菌へ形質転換し、同一の分析を行った。
【0152】
単一の改善突然変異しか含まないものよりも活性が顕著により大きかった、突然変異の組み合わせを含むクローンを、次いで、突然変異/スクリーニングの新しいサイクルの基礎として使用し、なおさらに活性が向上した突然変異体を同定した。
【0153】
このプロトコルの完了時に、いくつかの突然変異を含みかつ最良の活性を有するクローンを選択した。
【0154】
実施例9:3-ヒドロキシプロピオナートからエチレンを合成するための方法
実施例1に記載の酵素をコードする遺伝子を、大腸菌株中での組換えタンパク質の発現を可能にするプラスミドに挿入した。該プラスミドを、前記細菌株中へ形質転換した。形質転換された細菌を、次いで、プロピル二リン酸(10 mg/l)および3-ヒドロキシプロピオナート(1 g/l)の存在下で発酵槽においてインキュベーションした。組換え酵素の存在によって3-ヒドロキシプロピオナートのエチレンへの変換が起こり、これは自然に脱気し、これを、発酵槽の上部に配置したガス抽出システムによって回収した。次いで、エチレンが強く放射するスペクトル部分における赤外線検出を備えるガスクロマトグラフィーによって、ガス試料においてエチレンを測定した。
【0155】
実施例10:3-ヒドロキシブチラートからプロピレンを合成するための方法
実施例1に記載の酵素または実施例4に記載の酵素をコードする遺伝子を、大腸菌株中での組換えタンパク質の発現を可能にするプラスミドに挿入した。プラスミドを、前記細菌株中へ形質転換した。形質転換された細菌を、次いで、エチル二リン酸(10 mg/l)および3-ヒドロキシブチラート(1 g/l)(Sigma、参照番号166898)の存在下で、発酵槽においてインキュベーションした。組換え酵素の存在によって、3-ヒドロキシブチラートのプロピレンへの変換が起こり、これは自然に脱気し、これを、発酵槽の上部に配置したガス抽出システムによって回収した。次いで、プロピレンが強く放射するスペクトル部分における赤外線検出を備えるガスクロマトグラフィーによって、ガス試料においてプロピレンを測定した。
【0156】
実施例11:グルコースからプロピレンを合成するための方法
実施例1に記載の酵素または実施例4に記載の酵素をコードする遺伝子を、細菌アルカリゲネス・ユートロフス中での組換えタンパク質の発現を可能にするプラスミド中にクローニングした。プラスミドを、前記細菌株中へ形質転換した。形質転換された細菌を、次いで、微好気性条件下において、グルコースおよびエチル二リン酸の存在下で発酵槽においてインキュベーションし、次いで熱ショックへ供し、これによって、大量の3-ヒドロキシブチラートを産生するように誘導した。組換え酵素の存在によって、3-ヒドロキシブチラートのプロピレンへの同時変換が起こり、これは自然に脱気し、これを、発酵槽の上部に配置したガス抽出システムによって回収した。
【0157】
実施例12:グルコースからプロピレンを合成するための方法
この実施例は、実施例11のそれと非常に類似している方法を記載する。主な相違は、アルカリゲネス・ユートロフスなどの天然株の代わりに3-ヒドロキシブチラートを産生するように改変された大腸菌株を使用することである。前記株は、3-ヒドロキシブチラートの蓄積をもたらすような代謝経路の操作によって得られた。実施例1または実施例4に記載されるようなMDPデカルボキシラーゼの添加によって、3-ヒドロキシブチラートのプロピレンへの変換が可能になった。
【0158】
実施例13:グルコースからイソブチレンを合成するための方法
実施例1に記載の酵素をコードする遺伝子を、大腸菌株中での組換えタンパク質の発現を可能にするプラスミド中にクローニングし、大腸菌株もまた、3-ヒドロキシ-3-メチルブチラートを内因的に合成するように代謝改変された。次いで、細菌を、グルコースの存在下において、微好気性条件下で発酵槽においてインキュベーションした。組換え酵素の存在によって、3-ヒドロキシ-3-メチルブチラートのイソブチレンへの同時変換が誘導され、これは自然に脱気し、これを、発酵槽の上部に配置したガス抽出システムによって回収した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デカルボキシラーゼ活性を有する酵素によって3-ヒドロキシアルカノアートを変換する工程を含むことを特徴とする、末端アルケンを製造するための方法。
【請求項2】
前記アルケンの炭素2における2つの置換基のうちの少なくとも1つが、直鎖または分岐鎖のアルキル基であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
3-ヒドロキシブチラートをプロピレンへと変換する工程を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
3-ヒドロキシバレラートを1-ブチレンへと変換する工程を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
3-ヒドロキシ-3-メチルブチラートをイソブチレンへと変換する工程を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項6】
3-ヒドロキシ-3-メチルバレラートをイソアミレンへと変換する工程を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項7】
前記酵素が、MDPデカルボキシラーゼ活性、EC 4.1.1.33を有する、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
前記酵素が、配列番号:1〜16からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むか、または該配列の1つに対して少なくとも15%、好ましくは50%、80%、もしくは90%の配列相同性を有する配列を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記酵素が、配列番号:6の配列の全体もしくは一部を含むか、またはそれに対して少なくとも15%、好ましくは50%、80%、もしくは90%の配列相同性を有する配列を含むことを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
前記酵素が、1つまたは複数の3-ヒドロキシアルカノアートを末端アルケンへと変換する活性が増大した突然変異デカルボキシラーゼである、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
デカルボキシラーゼ活性を有する酵素によって、好ましくは、配列番号:6の配列の全体もしくは一部を含むか、またはそれに対して少なくとも15%、好ましくは50%、80%、もしくは90%の配列相同性を有する配列を含む酵素によって、3-ヒドロキシ-3-メチルブチラートを変換する工程を含むことを特徴とする、イソブチレンを製造するための方法。
【請求項12】
Rが、好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、またはプロピル基であり、かつ直鎖、分岐鎖、もしくは環式のアルキル基、または任意の他の一価の有機基でもあり得る、一般式R-O-PO2H-O-PO3H2によって表され、リン酸無水物ファミリーに好ましくは由来する補因子が、反応へ添加される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
Rが、好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、またはプロピル基であり、かつ任意の直鎖、分岐鎖、もしくは環式のアルキル基、または任意の他の一価の有機基でもあり得る、一般式R-O-PO2H-CH2-PO3H2を有し、メチレンジホスホナートモノエステルのファミリーに好ましくは由来する補因子が、反応へ添加される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
前記変換が補助基質の存在下で起こり、該補助基質が、好ましくは、リン酸無水物を含む化合物であり、かつ好ましくは、ATP、rNTP、dNTP、またはいくつかのこのような分子の混合物、ポリホスファート、またはピロホスファートである、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
前記変換する工程が、無細胞系においてインビトロで行われることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
前記変換する工程が、前記デカルボキシラーゼを産生する微生物の存在下で、好ましくは天然のまたは改変された該デカルボキシラーゼを過剰発現する微生物の存在下で、行われることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
炭素源から末端アルケンを直接産生するように、1つまたは複数の3-ヒドロキシアルカノアートを内因的に産生しかつ天然のまたは改変された前記デカルボキシラーゼも発現または過剰発現する、天然または人工の特性を有する微生物の使用を特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
前記微生物が、株アルカリゲネス・ユートロフス(Alcaligenes eutrophus)もしくはバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)の細菌であるか、または、好ましくはプラスミドによる染色体改変もしくは形質転換によって、1つもしくは複数の3-ヒドロキシアルカノアートを過剰産生するように組換えられた、細菌、酵母、もしくは真菌である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記炭素源が、グルコースもしくは任意の他のヘキソース、キシロースもしくは任意の他のペントース、グリセロールもしくは任意の他のポリオール、または、デンプン、セルロース、ヘミセルロース、ポリ-3-ヒドロキシアルカノアート、もしくは任意の他のポリマーである、該ポリマーをモノマーへ分解するためのシステムの存在下、例えば好適な酵素(アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、セルラーゼ、ポリ-3-ヒドロキシアルカノアーゼ)および/または特定の化学的条件の存在下で行われる、請求項17または18記載の方法。
【請求項20】
溶液中に存在するCO2から末端アルケンを直接産生するように、1つまたは複数の3-ヒドロキシアルカノアートを内因的に産生しかつ天然のまたは改変されたデカルボキシラーゼも過剰発現する、天然または人工の特性を有する光合成微生物、特にシアノバクテリアまたは微細藻類の使用を特徴とする、請求項17記載の方法。
【請求項21】
炭素源の3-ヒドロキシアルカノアートへの変換を可能にする第1の微生物の使用、および、3-ヒドロキシアルカノアートの末端アルケンへの変換を可能にする、単離されたかまたは第2の微生物によって発現されたデカルボキシラーゼの使用を特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
3-ヒドロキシアルカノアートの脱炭酸によって末端アルケンを製造するための、植物または非ヒト動物などの、デカルボキシラーゼを発現する多細胞生物の使用を特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
前記多細胞生物が、1つまたは複数の3-ヒドロキシアルカノアートを合成するように特定の代謝経路においてさらに改変されていることを特徴とする、請求項22記載の方法。
【請求項24】
反応から脱気(degas)する末端アルケンのガスを収集する工程を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
微好気性条件下で行われるという事実を特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
3-ヒドロキシアルカノアートから末端アルケン化合物を製造するための、デカルボキシラーゼ酵素またはデカルボキシラーゼを産生する微生物の使用。
【請求項27】
前記酵素が、配列番号:6の配列の全体もしくは一部を含むか、またはそれに対して少なくとも15%、好ましくは50%、80%、もしくは90%の配列相同性を有する配列を含むことを特徴とする、請求項26記載のデカルボキシラーゼ酵素の使用。
【請求項28】
デカルボキシラーゼを産生する微生物、好適な培養培地、および3-ヒドロキシアルカノアート化合物、または、微生物によって3-ヒドロキシアルカノアート化合物へ変換され得る炭素源を含む、組成物。
【請求項29】
炭素源から末端アルケンを直接産生するように、1つまたは複数の3-ヒドロキシアルカノアートを内因的に産生しかつ天然のまたは改変されたデカルボキシラーゼも発現または過剰発現する、天然または人工の特性を有する、多細胞生物または微生物。
【請求項1】
デカルボキシラーゼ活性を有する酵素によって3-ヒドロキシアルカノアートを変換する工程を含むことを特徴とする、末端アルケンを製造するための方法。
【請求項2】
前記アルケンの炭素2における2つの置換基のうちの少なくとも1つが、直鎖または分岐鎖のアルキル基であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
3-ヒドロキシブチラートをプロピレンへと変換する工程を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
3-ヒドロキシバレラートを1-ブチレンへと変換する工程を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
3-ヒドロキシ-3-メチルブチラートをイソブチレンへと変換する工程を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項6】
3-ヒドロキシ-3-メチルバレラートをイソアミレンへと変換する工程を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項7】
前記酵素が、MDPデカルボキシラーゼ活性、EC 4.1.1.33を有する、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
前記酵素が、配列番号:1〜16からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むか、または該配列の1つに対して少なくとも15%、好ましくは50%、80%、もしくは90%の配列相同性を有する配列を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記酵素が、配列番号:6の配列の全体もしくは一部を含むか、またはそれに対して少なくとも15%、好ましくは50%、80%、もしくは90%の配列相同性を有する配列を含むことを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
前記酵素が、1つまたは複数の3-ヒドロキシアルカノアートを末端アルケンへと変換する活性が増大した突然変異デカルボキシラーゼである、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
デカルボキシラーゼ活性を有する酵素によって、好ましくは、配列番号:6の配列の全体もしくは一部を含むか、またはそれに対して少なくとも15%、好ましくは50%、80%、もしくは90%の配列相同性を有する配列を含む酵素によって、3-ヒドロキシ-3-メチルブチラートを変換する工程を含むことを特徴とする、イソブチレンを製造するための方法。
【請求項12】
Rが、好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、またはプロピル基であり、かつ直鎖、分岐鎖、もしくは環式のアルキル基、または任意の他の一価の有機基でもあり得る、一般式R-O-PO2H-O-PO3H2によって表され、リン酸無水物ファミリーに好ましくは由来する補因子が、反応へ添加される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
Rが、好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、またはプロピル基であり、かつ任意の直鎖、分岐鎖、もしくは環式のアルキル基、または任意の他の一価の有機基でもあり得る、一般式R-O-PO2H-CH2-PO3H2を有し、メチレンジホスホナートモノエステルのファミリーに好ましくは由来する補因子が、反応へ添加される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
前記変換が補助基質の存在下で起こり、該補助基質が、好ましくは、リン酸無水物を含む化合物であり、かつ好ましくは、ATP、rNTP、dNTP、またはいくつかのこのような分子の混合物、ポリホスファート、またはピロホスファートである、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
前記変換する工程が、無細胞系においてインビトロで行われることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
前記変換する工程が、前記デカルボキシラーゼを産生する微生物の存在下で、好ましくは天然のまたは改変された該デカルボキシラーゼを過剰発現する微生物の存在下で、行われることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
炭素源から末端アルケンを直接産生するように、1つまたは複数の3-ヒドロキシアルカノアートを内因的に産生しかつ天然のまたは改変された前記デカルボキシラーゼも発現または過剰発現する、天然または人工の特性を有する微生物の使用を特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
前記微生物が、株アルカリゲネス・ユートロフス(Alcaligenes eutrophus)もしくはバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)の細菌であるか、または、好ましくはプラスミドによる染色体改変もしくは形質転換によって、1つもしくは複数の3-ヒドロキシアルカノアートを過剰産生するように組換えられた、細菌、酵母、もしくは真菌である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記炭素源が、グルコースもしくは任意の他のヘキソース、キシロースもしくは任意の他のペントース、グリセロールもしくは任意の他のポリオール、または、デンプン、セルロース、ヘミセルロース、ポリ-3-ヒドロキシアルカノアート、もしくは任意の他のポリマーである、該ポリマーをモノマーへ分解するためのシステムの存在下、例えば好適な酵素(アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、セルラーゼ、ポリ-3-ヒドロキシアルカノアーゼ)および/または特定の化学的条件の存在下で行われる、請求項17または18記載の方法。
【請求項20】
溶液中に存在するCO2から末端アルケンを直接産生するように、1つまたは複数の3-ヒドロキシアルカノアートを内因的に産生しかつ天然のまたは改変されたデカルボキシラーゼも過剰発現する、天然または人工の特性を有する光合成微生物、特にシアノバクテリアまたは微細藻類の使用を特徴とする、請求項17記載の方法。
【請求項21】
炭素源の3-ヒドロキシアルカノアートへの変換を可能にする第1の微生物の使用、および、3-ヒドロキシアルカノアートの末端アルケンへの変換を可能にする、単離されたかまたは第2の微生物によって発現されたデカルボキシラーゼの使用を特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
3-ヒドロキシアルカノアートの脱炭酸によって末端アルケンを製造するための、植物または非ヒト動物などの、デカルボキシラーゼを発現する多細胞生物の使用を特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
前記多細胞生物が、1つまたは複数の3-ヒドロキシアルカノアートを合成するように特定の代謝経路においてさらに改変されていることを特徴とする、請求項22記載の方法。
【請求項24】
反応から脱気(degas)する末端アルケンのガスを収集する工程を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
微好気性条件下で行われるという事実を特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
3-ヒドロキシアルカノアートから末端アルケン化合物を製造するための、デカルボキシラーゼ酵素またはデカルボキシラーゼを産生する微生物の使用。
【請求項27】
前記酵素が、配列番号:6の配列の全体もしくは一部を含むか、またはそれに対して少なくとも15%、好ましくは50%、80%、もしくは90%の配列相同性を有する配列を含むことを特徴とする、請求項26記載のデカルボキシラーゼ酵素の使用。
【請求項28】
デカルボキシラーゼを産生する微生物、好適な培養培地、および3-ヒドロキシアルカノアート化合物、または、微生物によって3-ヒドロキシアルカノアート化合物へ変換され得る炭素源を含む、組成物。
【請求項29】
炭素源から末端アルケンを直接産生するように、1つまたは複数の3-ヒドロキシアルカノアートを内因的に産生しかつ天然のまたは改変されたデカルボキシラーゼも発現または過剰発現する、天然または人工の特性を有する、多細胞生物または微生物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2011−526489(P2011−526489A)
【公表日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515586(P2011−515586)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051332
【国際公開番号】WO2010/001078
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(511002157)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051332
【国際公開番号】WO2010/001078
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(511002157)
【Fターム(参考)】
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