説明

3ヶ月齢未満の増体成績および飼料効率を高めた子牛用人工乳

【課題】3ヶ月齢未満の子牛に対し、小腸で実際に吸収される蛋白質を高めることができ、同時に体内エネルギー効率の高いエネルギー源を供給することができる3ヶ月齢未満の子牛用人工乳を提供すること
【解決手段】全飼料中のリノール酸含量を1.8〜2.6重量%、リノレン酸含量を0.2〜1.0重量%とするとともに、リノレン酸/リノール酸比を3〜10とし、さらに、ルーメンバイパス性の高い蛋白質を7.5〜9.5重量%配合した子牛用人工乳

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3ヶ月齢未満の子牛用飼料に関する。詳しくは、子牛の発育成績と飼料効率が優れた牛人工乳に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー供給量を高めるために、牛に脂肪酸カルシウムを給与する技術がある(非特許文献1)が、一般的に脂肪酸カルシウムは嗜好性が悪いことから、特に嗜好性に敏感な3ヶ月齢未満の子牛用飼料としてはあまり普及していなかった。
また、従来の脂肪酸カルシウムは、主にパーム油由来の脂肪酸であることから、3ヶ月齢未満の子牛に、これら脂肪酸カルシウムを給与しても、十分な必須脂肪酸が供給できていない問題点があった。
【0003】
さらに、3ヶ月齢未満の子牛は、ルーメンが未発達であることから、小腸に移行するルーメン微生物由来の蛋白質の供給量が少なく、従来の人工乳の給与では、小腸で吸収される蛋白質が十分に供給されず、骨格形成や筋肉形成に必要な蛋白質がまかなえないという問題点もあった。
【0004】
3ヶ月齢未満の子牛にとって、小腸で実際に吸収される蛋白質を高めることと、同時に体内エネルギー効率の高いエネルギー源を供給することは、体形成に必要な蛋白質の有効的利用の観点から重要なことであるが、エネルギー効率を高めるための必須脂肪酸供給量は、実際は不足がちである。
【0005】
このように、従来の3ヶ月齢未満の子牛用人工乳として、小腸で実際に吸収される蛋白質を高めることと、同時に体内エネルギー効率の高いエネルギー源を供給することを実現するという観点からの設計がなされていなかった。
【0006】
必須脂肪酸の給与については、6ヵ月齢以上の反芻動物に対し、オレイン酸とリノール酸を含む高級脂肪酸の金属塩を給与することで、増体成績の向上を図ることが特許文献1で提案されているが、3ヶ月齢未満の子牛に対する必須脂肪酸の給与は示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3148318号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】畜産成果情報第12巻(平成9年度)畜産研究情報Sirial No 1238、独立行政法人農業・食品技術総合研究機構 畜産草地研究所
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、3ヶ月齢未満の子牛に対し、小腸で実際に吸収される蛋白質を高めることができ、同時に体内エネルギー効率の高いエネルギー源を供給することができる3ヶ月齢未満の子牛用人工乳を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、3ヶ月齢未満の子牛用人工乳について、種々研究した結果、近年市販されている脂肪酸は、嗜好性が改善されていることから、所定量であれば、リノール酸・リノレン酸含量を高含量で含む脂肪酸を牛人工乳に配合することで、子牛に摂取させることができ、必須脂肪酸自体の摂取量が増加すること、さらに、リノール酸/リノレン酸比を3〜10の範囲に調整する事で、よりエネルギーの利用効率が高まること、さらに、エネルギー効率を高めた状態でルーメンバイパス性の高い蛋白質を給与すると子牛の小腸で吸収される蛋白質量が増加し、蛋白質とエネルギーのバランスを整えられること、を見出し、本発明に至ったものである。
【0011】
本発明の実施の態様は、以下のとおりである。
(1)全飼料中のリノール酸含量を1.8〜2.6重量%、リノレン酸含量を0.2〜1.0重量%としたことを特徴とする3ヶ月齢未満の子牛用人工乳。
(2)リノレン酸/リノール酸比を3〜10としたことを特徴とする(1)記載の子牛用人工乳。
(3)さらに、ルーメンバイパス性の高い蛋白質を7.5〜9.5重量%配合したことを特徴とする(1)または(2)記載の子牛用人工乳。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リノール酸・リノレン酸を高含量で含む脂肪酸を所定量配合することにより、必須脂肪酸を十分に供給できる3ヶ月齢未満の子牛用人工乳を提供することができる。
【0013】
さらに、リノール酸/リノレン酸比を3〜10の範囲に調整することで、よりエネルギーの利用効率を高めることができる。
【0014】
また、エネルギー効率を高めた状態において、ルーメンバイパス性の高い蛋白質源である飼料原料を用いて、牛人工乳中のバイパス蛋白質(RUP)含量を高めることで、子牛の小腸で吸収される蛋白質量が増加し、蛋白質とエネルギーのバランスを整えることが可能となる。
【0015】
本発明によれば、3ヶ月齢未満の子牛に対し、小腸で実際に吸収される蛋白質を高めることができ、同時に体内エネルギー効率の高いエネルギー源を供給することができるので、子牛の増体成績を効果的に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の牛人工乳とは、生後3ヶ月未満の子牛に給与する飼料のことをいう。
【0017】
本発明で使用される必須脂肪酸源としては、リノール酸およびリノレン酸の含有量が多い、トウモロコシ、大豆、綿実、大麦、小麦、ライ麦、えん麦、米、ナタネ、アマニ、マイロ、ルーピンの他、エゴマ、ゴマ、ひまわり、サフラワー、シソ等が挙げられる。これらの植物種実から搾油した油脂は、液体油脂または乾燥粉末油脂の形態で使用してもよいが、製造時や原料保管時の便利性を考慮すると、脂肪酸カルシウムの形態とするのが好ましい。
さらに、上記植物種実自体、または種実の副産物、例えば、加熱処理大豆(キナコ等)、高油脂アマニ粕、米ぬか、等の油脂含量の高い副産物をリノール酸およびリノレン酸源として飼料に配合してもよい。
また、リノレン酸とリノール酸の比率は、それぞれの原料中のリノール酸とリノレン酸含量を勘案して、単独もしくは2種以上の油脂を適宜配合比率を変えることで調整が可能である。
【0018】
牛人工乳中のリノール酸含量は、1.8〜2.6重量%、また、リノレン酸含量は、0.2〜1.0重量%の範囲内とするのが好ましい。
リノレン酸やリノール酸など必須脂肪酸の含量がこの範囲を超えても、それ以上の効果が見込まれず、この範囲未満では、必須脂肪酸の供給量が不足するという問題がある。
【0019】
本発明で用いられるルーメンバイパス性の高い蛋白質とは、原料中の粗蛋白質のルーメンバイパス率が50%以上のものをいい、そのような粗蛋白質を含む原料としては、加糖加熱処理大豆油かす、キナコ、コーングルテンミール、ルーメンバイパス加工された植物性油かす類やアミノ酸製剤等が挙げられる。これらの飼料原料は1種もしくは2種以上を混合して使用する。
【0020】
これら蛋白質の総量は、全配合飼料中7.5〜9.5重量%であることが好ましい。蛋白質の量が7.5重量%未満では小腸で吸収される蛋白質量が不足し、増体成績が劣り、9.5重量%を超えると過剰な蛋白質の供給により、飼料効率が低下したり、下痢・軟便の発生率が高まるという問題がある。
【0021】
本発明の人工乳の給与は、哺乳子牛に対しては、本発明の人工乳を母乳もしくは代用乳と一緒に給与し、離乳子牛に対しては、本発明の人工乳を単独で給与、または粗飼料との併用給与とする。
【実施例1】
【0022】
<脂肪酸カルシウム給与が子牛の発育に及ぼす影響>
約1ヶ月齢の子牛を用い、表1に示される3種類の試験飼料を49日間給与し、増体成績・飼料効率を調査した。試験結果、増体成績・飼料効率は下記表2のとおり。
対照区:脂肪酸カルシウム無添加
試験区1:パーム油由来の脂肪酸カルシウムを添加
試験区2:大豆・菜種油およびアマニ油由来の脂肪酸カルシウムを添加
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
試験1区は、対照区に比べ、増体成績はほぼ同等であったが、飼料効率が大幅に改善された。この結果から、従来の脂肪酸カルシウムを給与することで、発育成績の改善につながることが示された。
さらに、試験2区の結果を見ると、増体重・飼料効率共に、対照区・試験1区よりも優れる結果となった。この結果から、リノール酸・リノレン酸を高含量で含む脂肪酸カルシウムを配合した人工乳の給与は、発育成績を効果的に改善させることが示された。
【実施例2】
【0026】
<リノール酸・リノレン酸の含量の差が子牛の発育成績に及ぼす影響>
約1ヶ月齢の子牛を用い、リノール酸・リノレン酸含量を変えた6種類の試験飼料(表3)を49日間給与し、増体成績・飼料効率を調査した。試験結果は下記表4のとおり。
試験区1:リノール酸含量が1.6%、リノレン酸含量が0.1%の試験飼料
試験区2:リノール酸含量が1.8%、リノレン酸含量が0.2%の試験飼料
試験区3:リノール酸含量が2.0%、リノレン酸含量が0.4%の試験飼料
試験区4:リノール酸含量が2.2%、リノレン酸含量が0.6%の試験飼料
試験区5:リノール酸含量が2.4%、リノレン酸含量が0.8%の試験飼料
試験区6:リノール酸含量が2.6%、リノレン酸含量が1.0%の試験飼料
【0027】
【表3】

【0028】
【表4】

【0029】
リノール酸・リノレン酸含量の高い脂肪酸カルシウムを添加した試験2〜6区は、添加していない試験1区に比べ、増体成績および飼料効率が改善された。
また、脂肪酸カルシウムの添加量が高まるに従い、飼料摂取量は低下するものの、飼料効率が改善されることで、増体成績が高まる結果となった。
以上のことから、牛人工乳にリノール酸を1.8〜2.6%、リノレン酸を0.2〜1.0%の範囲内になるように配合することで、発育成績および飼料効率が改善されることが分った。
【実施例3】
【0030】
<リノール酸・リノレン酸比率が子牛の発育に及ぼす影響>
約1ヶ月齢の子牛を用い、リノール酸・リノレン酸比率を変えた4種類の試験飼料(表5)を49日間給与し、増体成績・飼料効率を調査した。試験結果・飼料効率は下記表6のとおり。
試験区1:リノール酸/リノレン酸比率が20
試験区2:リノール酸/リノレン酸比率が10
試験区3:リノール酸/リノレン酸比率が7
試験区4:リノール酸/リノレン酸比率が3
【0031】
【表5】

【0032】
【表6】

【0033】
増体成績は各試験区間に大きな差は見られなかったが、飼料効率は、試験1が、他の3区よりも劣った。これら結果から、リノール酸・リノレン酸を高含量で含む脂肪酸カルシウムを人工乳に配合する際、リノール酸・リノレン酸比率が3〜10の範囲内に設定することで、より効率良く発育が改善されることが示された。
【実施例4】
【0034】
<ルーメンバイパス率の含量が子牛の発育に及ぼす影響>
約1ヶ月齢の子牛を用い、RUP含量の異なる試験飼料(表7)を49日間給与し、増体成績・飼料効率を調査した。また、RUP源として、加糖加熱処理大豆を用いた。増体成績・飼料効率は下記表8のとおり。
対照区:RUP含量が7.0%の試験飼料(加糖加熱処理大豆粕なし)
試験区1:RUP含量が7.5%の試験飼料(加糖加熱処理大豆粕使用)
試験区2:RUP含量が8.0%の試験飼料(加糖加熱処理大豆粕使用)
試験区3:RUP含量が8.5%の試験飼料(加糖加熱処理大豆粕使用)
試験区4:RUP含量が9.0%の試験飼料(加糖加熱処理大豆粕使用)
試験区5:RUP含量が9.5%の試験飼料(加糖加熱処理大豆粕使用)
【0035】
【表7】

【0036】
【表8】

【0037】
加糖加熱処理大豆粕を配合し、飼料中のRUP含量を高めた試験1〜5区の増体成績および飼料効率は、何れも試験1区よりも高い結果となった。
これら結果から、ルーメンバイパス蛋白質源である加糖加熱処理大豆を用いてRUP含量を飼料中7.5〜9.5%に高めることで、発育成績および飼料効率が改善することが分った。
【実施例5】
【0038】
<ルーメンバイパス率が高い各種蛋白質源(加糖加熱処理大豆粕、キナコ、コーングルテンミール)の給与が子牛の発育に及ぼす影響>
約1ヶ月齢の子牛を用い、各種ルーメンバイパス率が高い蛋白質源を配合した試験飼料(表9)を49日間給与し、増体成績・飼料効率を調査した。増体成績・飼料効率は下記表10のとおり。
対照区:ルーメンバイパス性の高い蛋白質源を配合していない人工乳
試験区1:加糖加熱処理大豆油かすを配合した人工乳
試験区2:キナコを配合した人工乳
試験区3:コーングルテンミールを配合した人工乳
試験区4:加糖加熱処理大豆油粕・キナコ・コーングルテンミールを配合した人工乳
【0039】
【表9】

【0040】
【表10】

【0041】
ルーメンバイパス性の高い加糖加熱処理大豆、キナコ・コーングルテンミールを配合した試験区は、対照区よりも増体重・飼料効率が高かった。
これら結果から、ルーメンバイパス性の高い蛋白質原料(加糖加熱処理大豆、キナコ・コーングルテンミール)を配合することで、増体重・飼料効率が改善されることが示された。
また、試験実施例4の結果と合わせて考察すると、ルーメンバイパス性の高い蛋白質源である加糖加熱処理大豆、キナコ・コーングルテンミールを用い、人工乳中のRUP含量を7.5〜9.5%の範囲内にすることで、発育成績および飼料効率が改善されることが示された。
【実施例6】
【0042】
<リノール酸・リノレン酸の含量および比率を調整し、さらにルーメンバイパス率が高い蛋白質源を用いてRUP含量を調整した人工乳の給与が子牛の発育に及ぼす影響>
約1ヶ月齢の子牛を用い、脂肪酸カルシウムを用いリノール酸/リノレン酸比率を整え、さらにルーメンバイパス率が高い蛋白質源を配合した試験飼料(表11)を49日間給与し、増体成績・飼料効率を調査した。増体成績・飼料効率は下記表12のとおり。
対照区:脂肪酸カルシウム・バイパス蛋白質を配合していない人工乳
試験区1:脂肪酸カルシウムを用いリノール酸・リノレン酸含量および比率を整えた人工乳
試験区2:ルーメンバイパス性の高い蛋白質源を用いてRUP含量を調整した人工乳
試験区3:脂肪酸カルシウムを用いリノール酸・リノレン酸含量および比率を整え、さらにルーメンバイパス率が高い蛋白質源のRUP含量を調整した人工乳
【0043】
【表11】

【0044】
【表12】

【0045】
試験結果から、試験1区の方が、対照区よりも増体成績・飼料効率が改善され、試験実施例3と同様な結果となった。したがって、牛人工乳にリノール酸・リノレン酸含量の高い脂肪酸カルシウムを用い、リノール酸・リノレン酸含量および比率を調整することで、発育成績が高まることが示された。
また、試験2区は、対照区よりも増体成績・飼料効率が改善され、試験実施例4、5と同様な結果となった。したがって、牛人工乳にルーメンバイパス性の高い蛋白質原料を用い、RUP含量を調整することで、増体重・飼料効率が改善されることが示された。
試験3区は、対照区、試験1区および試験2区よりも増体成績・飼料効率がさらに改善される結果となった。
これら結果から、牛人工乳に、リノール酸・リノレン酸含量の高い脂肪酸カルシウムを用い、飼料中のリノール酸含量を1.8〜2.6%、リノレン酸含量を0.2〜1.0%の範囲内で、かつその比率を3〜10に調整し、さらにルーメンバイパス性の高い蛋白質を用いてRUP含量を7.5〜9.5%の範囲内に調整することで、3ヶ月齢未満の子牛の増体重・飼料効率が改善されることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の人工乳を3ヶ月齢未満の子牛に給与すれば、子牛の増体重を高めることが出来、早期育成が可能となるので、乳牛であれば早い時期から乳生産が可能となり、肉用飼育であれば出荷時期を早めることが可能となる。また、飼料効率を改善することにより、飼料コストを低減することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全飼料中のリノール酸含量を1.8〜2.6重量%、リノレン酸含量を0.2〜1.0重量%としたことを特徴とする3ヶ月齢未満の子牛用人工乳。
【請求項2】
リノレン酸/リノール酸比を3〜10としたことを特徴とする請求項1記載の子牛用人工乳。
【請求項3】
さらに、ルーメンバイパス性の高い蛋白質を7.5〜9.5重量%配合したことを特徴とする請求項1または2記載の子牛用人工乳。