説明

3価クロム化成皮膜処理廃液の精製方法

【課題】3価クロムを利用した化成皮膜処理廃液から必要金属イオン成分である3価クロムイオンやコバルトイオン等を除去することなく、亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン及びニッケルイオン等の不純金属イオン成分を効果的に除去することで上記3価クロムを利用した化成皮膜処理廃液の精製を行い、ひいては当該化成皮膜処理液を長寿命化するための溶液精製処理方法を提供する。
【解決手段】3価クロムイオンを含む3価クロム化成皮膜処理廃液を精製する方法であって、(a)前記3価クロム化成皮膜処理廃液と、アミノリン酸基を有するキレート樹脂とを接触する工程;及び(b)前記3価クロム化成皮膜処理廃液から亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン及びニッケルイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを前記キレート樹脂に選択的に吸着しかつ除去する工程、を含むことを特徴とする方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3価クロム化成皮膜処理廃液の精製方法及びこれに用いるキレート樹脂に関する。特に、本発明は、3価クロムを利用した化成皮膜処理廃液を長寿命化するための方法及びこれに用いる処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クロムめっきは、耐食性、防食性及び耐摩耗性に優れていること、高い硬度性能を有すること、めっき対象物との密着性が良いこと、光沢付与や着色が可能で装飾的な機能性も併せ持つこと、非常に安価にめっき出来ること等の利点がある。このような利点から、クロムめっきは、装飾品や工業製品の表面処理方法として幅広く利用され普及してきた。
クロムめっきは、通常、めっき対象物の表面にクロムを主成分とする金属皮膜を形成することによって行われる。従来より、このクロムめっきは、6価クロムを用いた電気めっきにより行われてきた。
しかし、6価クロムは毒性が強く、人体に対して猛毒である。環境中に排出された6価クロム化合物は、土壌中、もしくは、河川や海などの水底の泥中に堆積し得る。6価クロム化合物については、古くから排水規制も行われ、環境基本法等の法規制により環境基準値が厳しく定められている。近年、環境問題・様々な法的規制(PRTR或いはRoHS、REACHといったEU指令等)から、めっき用材料として6価クロム自体を利用しない技術へ移行しつつある。
また、亜鉛めっき処理においても通常、めっき対象物に亜鉛をめっきした後、耐食性、防食性、耐摩耗性を向上させる為に、6価クロムを利用した化成皮膜処理が行われてきた。しかし、上記より、同等の性能を有する3価クロムを利用した化成皮膜処理へと移行が行われ、その代替が盛んに行われている。
【0003】
しかしながら、3価クロムを利用した化成皮膜処理は、量産性、コスト、操作性の観点では、6価クロムを利用した化成皮膜処理と浴管理の特長を満たすに至っていない。特に、3価クロムを利用した化成皮膜処理では、処理を繰り返すにつれて3価クロム化成皮膜処理液中に亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン、ニッケルイオン等の不純金属イオン成分が蓄積する。これらの不純金属イオン成分は、3価クロム化成皮膜を変色し、耐蝕性、防食性、耐摩耗性等のめっき処理機能を低下させるなどの不利益を生ずる。このような不利益なく皮膜処理を続けられる期間は、従来の6価クロムを利用した化成皮膜処理よりも非常に短い。
上記3価クロム化成皮膜処理廃液から不純金属イオン成分を除去するために、イミノジ酢酸基を有するキレート交換樹脂を用いて3価クロム化成皮膜処理廃液を精製する方法が知られている(特許文献1及び2)。しかし、イミノジ酢酸基を有するイオン交換樹脂を用いた3価クロム化成皮膜処理廃液の精製方法は、不純金属イオン成分である亜鉛イオン等だけを除去するといった不純金属イオン成分の選択的除去を十分に行うことができない。特に、イミノジ酢酸基を有するイオン交換樹脂を用いた場合、不純金属イオン成分のみならず、3価クロムイオンやコバルトイオン等の必要金属イオン成分も吸着除去するため、3価クロム化成皮膜処理液としての機能及び活性が失われるという問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開平4−228599号公報
【特許文献2】特開2006−137987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の第1の課題は、3価クロムを利用した化成皮膜処理廃液から必要金属イオン成分である3価クロムイオンやコバルトイオン等を除去することなく、亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン及びニッケルイオン等の不純金属イオン成分を効果的に除去することで上記3価クロムを利用した化成皮膜処理廃液の精製を行い、ひいては当該化成皮膜処理液を長寿命化するための溶液精製処理方法を提供することにある。
本発明の第2の課題は、3価クロムを利用した化成皮膜処理廃液から必要金属イオン成分を除去することなく不純金属イオン成分を効果的に除去できるキレート樹脂及びこれを用いた3価クロム化成皮膜処理廃液の精製処理装置を提供することにある。
本発明の第3の課題は、6価クロムを利用した従来の化成皮膜処理液にかえて、3価クロムを利用した化成皮膜処理液を使用することにより、環境に与える負荷の大幅な低減を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定のアミノリン酸基を有するキレート樹脂を使用することにより、3価クロムイオンを含む3価クロム化成皮膜処理廃液から、亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン及びニッケルイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを選択的かつ効率的に除去し得ることを見いだし、本発明を完成するに至った。
具体的に、本発明は、
[1]3価クロムイオンを含む3価クロム化成皮膜処理廃液を精製する方法であって、
(a)前記3価クロム化成皮膜処理廃液と、下記式(I);

(式中、A1及びA2は、それぞれ独立に、H又はNaである)
で表されるアミノリン酸基を有するキレート樹脂とを接触する工程;及び
(b)前記3価クロム化成皮膜処理廃液から亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン及びニッケルイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを前記キレート樹脂に選択的に吸着しかつ除去する工程、
を含むことを特徴とする方法に関する。
[2]前記3価クロム化成皮膜処理廃液が金属イオンとして亜鉛イオンを含み、前記(a)工程が、前記3価クロム化成皮膜処理廃液1リットルあたりの亜鉛イオン質量を5000〜10000mgに維持しながら行われる、請求項1に記載の方法に関する。
[3]請求項1に記載の3価クロムイオンを含む3価クロム化成皮膜処理廃液を精製する方法に用いるキレート樹脂であって、前記キレート樹脂が、下記式(I);

(式中、A1及びA2は、それぞれ独立に、H又はNaである)
で表されるアミノリン酸基を有することを特徴とする、キレート樹脂に関する。
[4]3価クロムイオンを含む3価クロム化成皮膜処理廃液から、亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン及びニッケルイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを選択的に除去するための3価クロム化成皮膜処理廃液精製処理装置であって、前記装置が請求項3に記載のキレート樹脂を含むことを特徴とする装置に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アミノリン酸基を有するキレート樹脂を使用することにより、必要金属イオン成分である3価クロムイオンやコバルトイオンを含む3価クロム化成皮膜処理廃液から、不純物金属イオン成分である亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン及びニッケルイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを選択的かつ効率的に吸着・除去することができる。不純金属イオン成分である亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン、ニッケルイオンに起因する外観、耐食性、耐摩耗性の低下で、3価クロム化成皮膜処理液としての機能及び活性が低下することを防止できる。結果的に、本発明により、3価クロム化成皮膜処理液を長寿命化し、3価クロム化成皮膜処理を効率的に行うことが可能である。また、3価クロム化成皮膜処理液を長期間繰り返し使用することができるため、3価クロム化成皮膜処理廃液の排出量を、これ迄の3価クロム化成皮膜処理廃液の排出量(100体積%)に対して30〜100体積%カットできるため、環境に与える負荷を大きく低減することが可能である。
また、本発明では、3価クロム化成皮膜処理廃液とアミノリン酸基を有するキレート樹脂とを接触させて不純金属イオン成分である亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン、ニッケルイオン等の除去処理を行う際、当該3価クロム化成皮膜処理廃液1リットル中の亜鉛質量を5000mg〜10000mgに保持した状態で除去処理を進めることで、3価クロムイオンやコバルトイオン等の必要金属イオン成分の除去率を非常に低く抑えつつ、不純金属イオン成分を高効率で吸着除去することができる。特に、これまでのイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂を用いた場合と比較して、本発明のアミノリン酸基を有するキレート樹脂は、3価クロムイオン及びコバルトイオンの除去率が低く、亜鉛イオンの除去率は高い。従って、本発明により、必要金属イオン成分の除去率を抑え、不純金属イオン成分の除去率を向上することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(1)3価クロム化成皮膜処理廃液
本発明で精製されるべき3価クロム化成皮膜処理廃液は、めっき対象物を3価クロム化成皮膜処理した後の廃液を意味する。本発明の3価クロム化成皮膜処理廃液は、特に、3価クロムイオンを含む少なくとも2種の金属イオンを含有する溶液を意味する。ここで、3価クロム化成皮膜処理は、めっき対象物の表面を3価クロムを用いて皮膜(化成皮膜)を形成することをいい、通常、亜鉛めっき処理工程に含まれる3価クロム化成皮膜処理又は3価クロメート処理等が含まれる。
上記めっき対象物としては、例えば、鉄、ニッケル、銅、及び前記金属等の合金などが挙げられる。従って、3価クロム化成皮膜処理廃液中には、このめっき対象物の材料に応じた不純物金属イオン成分と亜鉛めっきに起因する金属の亜鉛が含まれることになる。
本発明で精製されるべき3価クロム化成皮膜処理廃液は、水、カルボン酸類(マロン酸やシュウ酸等)の水溶液等の有機物から選択される少なくとも1種の溶媒を含む。
【0009】
本発明で精製されるべき3価クロム化成皮膜処理廃液は、必要金属イオン成分として、少なくとも3価クロムイオンを含む。3価クロムイオンは、3価クロムを用いてクロム化成皮膜を形成するために必要なイオンである。3価クロムイオンは、本発明のキレート樹脂にほとんど吸着しないため、本発明の精製方法によっては除去されにくい。また、他の必要金属イオン成分としては、コバルトイオンを挙げることができる。コバルトは、3価クロムと共にめっき対象物表面上の皮膜に取り込まれ、形成されためっき対象物表面上の皮膜の退色を抑制することができる。このコバルトイオンも、本発明のキレート樹脂に吸着されにくいため、本発明の精製方法によっては除去されない。
【0010】
また、本発明で精製されるべき3価クロム化成皮膜処理廃液は、上記めっき対象物の材料等に起因する亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン及びニッケルイオン等の不純金属イオンが含まれる。特に、これらのイオンが3価クロム化成皮膜処理液に存在すると、3価クロム化成皮膜処理により形成されためっき対象物の表面の皮膜を変色し、めっき処理機能の活性を失わせるなどの不利益を生ずる。従って、これらの不純金属イオン成分の少なくとも1種、2種又はすべて;好ましくは、亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン及びニッケルイオンから選択される少なくとも1種、2種又はすべての不純金属イオン成分は、本発明のキレート樹脂に吸着し、本発明の精製方法によって除去される。
3価クロム化成皮膜処理廃液1リットルに含まれる主な金属イオン成分の精製前の質量、精製後の質量、及び除去率(質量%)の好ましい範囲を、以下の表1にまとめる。なお、括弧内の数値はより好ましい範囲である。
【0011】
表1

*1:3価クロム化成皮膜処理廃液1リットルあたりの各金属イオンの質量(mg)である。
*2:除去率(質量%)=[精製前の量(mg)−精製後の量(mg)]/[精製前の量(mg)]×100
なお、3価クロム化成皮膜処理液には、仕上がりの外観色の違いから、(1)白色系めっき用3価クロム化成皮膜処理液と、(2)黒色系めっき用3価クロム化成皮膜処理液の2種類があるので、それぞれの廃液の精製前の量、精製後の量、及び除去率(質量%)の好ましい範囲を、以下の表2及び表3にまとめる。なお、括弧内の数値はより好ましい範囲である。
【0012】
表2

*1:3価クロム化成皮膜処理廃液1リットルあたりの各金属イオンの質量(mg)である。
*2:除去率(質量%)=[精製前の量(mg)−精製後の量(mg)]/[精製前の量(mg)]×100

【0013】
表3

*1:3価クロム化成皮膜処理廃液1リットルあたりの各金属イオンの質量(mg)である。
*2:除去率(質量%)=[精製前の量(mg)−精製後の量(mg)]/[精製前の量(mg)]×100
【0014】
3価クロム化成皮膜処理廃液は、通常、酸性に管理される。特に弱酸性であれば、不純金属イオン成分の選択的除去が高効率で行われる。3価クロム化成皮膜処理廃液のpHは、例えば、pH1.5〜3.0、好ましくはpH2.0〜2.3に調整される。3価クロム化成皮膜処理液のpHは、好ましくは、3価クロム化成皮膜処理中及び/又は3価クロム化成皮膜処理廃液精製中、常時監視し、pH範囲が上記範囲より高い値となった場合には3価クロム化成皮膜処理液の補充剤(例えば、クロム、コバルト、硝酸を含む補充液)や硝酸を添加し調整する。
【0015】
(2)キレート樹脂
キレート樹脂とは、一般に、金属イオンとキレート結合を形成することができる配位基を持った樹脂をいう。本発明の方法において使用するキレート樹脂は、下記式(I);

(式中、A1及びA2は、それぞれ独立に、H又はNaである)
で表されるアミノリン酸基を配位基として有する。
上記アミノリン酸基は、金属イオン(M)と、以下のような配位結合を形成する。

本発明で使用するキレート樹脂は、ポリスチレン等のポリマーを主鎖とし、上記(I)式で示されるアミノリン酸基を側鎖として有する。
キレート樹脂としては、平均孔径が、例えば、0.001〜1μm、好ましくは0.01〜0.1μmである多孔質構造を有するキレート樹脂が特に好適である。特に好ましいキレート樹脂は、アミノリン酸型キレート樹脂(例えば、ピュロライト社製 商品名:ピュロライトS−950、ローム・アンド・ハース社製 商品名:デュオライトC−467)である。
【0016】
(3)3価クロムイオンを含む3価クロム化成皮膜処理廃液を精製する方法
本発明の3価クロムイオンを含む3価クロム化成皮膜処理廃液を精製する方法は、以下の工程を有する。
(a)3価クロム化成皮膜処理廃液と、下記式(I);

(式中、A1及びA2は、それぞれ独立に、H又はNaである)
で表されるアミノリン酸基を有するキレート樹脂とを接触する工程;及び
(b)前記3価クロム化成皮膜処理廃液から亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン及びニッケルイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを前記キレート樹脂に選択的に吸着しかつ除去する工程。
また、本発明の3価クロムイオンを含む3価クロム化成皮膜処理廃液を精製する方法は、任意に
(c)キレート樹脂を再生する工程
を含んでもよい。
以下、各工程について詳細に説明する。
【0017】
(3-a) 3価クロム化成皮膜処理廃液とアミノリン酸基を有するキレート樹脂とを接触する工程
接触されるべき3価クロム化成皮膜処理廃液とキレート樹脂は、上述の通りである。接触は、キレート樹脂を含むカラムに3価クロム化成皮膜処理廃液を流す方法として、当該カラムの下部から上部へ廃液を流す上向流通水と、当該カラムの上部から下部へ流す下向流通水を採用することができる。
好ましくは、上記(a)工程は、3価クロム化成皮膜処理廃液をpH1.8〜2.4、好ましくはpH2.0〜2.3に調整しながら行われる。pHを測定する方法としては、ガラス電極法、水素電極法、指示薬による測定法が挙げられる。
また、精製する各工程を通じて、特に(a)工程では、3価クロム化成皮膜処理廃液1リットルあたりの亜鉛イオン質量を5000〜10000mg、好ましくは6000〜9000mg、より好ましくは、6000〜7500mgに維持しながら行われる。このように、不純金属イオン成分の中でも、亜鉛イオンは、完全に除去することなく、ある程度の量で3価クロム化成皮膜処理廃液に残留していることが好ましい。亜鉛が上記質量で3価クロム化成皮膜処理廃液に残留することにより、クロムイオンやコバルトイオンなどの必要金属イオン成分がキレート樹脂に吸着して除去されることを防止することができる。
【0018】
3価クロム化成皮膜処理液中の金属イオン濃度は常時リアルタイムで測定し、不純金属イオン濃度によって処理操作を進行・停止することができる。3価クロム化成皮膜処理液中の金属イオン濃度を測定する方法としては、例えば、原子吸光式、ICP発光分析式(誘導結合プラズマ発光分析)、EDX(蛍光X線分析)等が利用できる。
【0019】
(3-b)前記3価クロム化成皮膜処理廃液から不純金属イオン成分を選択的に吸着しかつ除去する工程
3価クロム化成皮膜処理廃液には、めっき対象物の材料に起因する亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン及びニッケルイオン等の不純金属イオンが含まれる。従って、これらの不純金属イオン成分の少なくとも1種、2種又はすべて;好ましくは、亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン及びニッケルイオンから選択される少なくとも1種、2種又はすべての不純金属イオン成分は、本発明のキレート樹脂に吸着されかつ除去される。除去される不純金属イオン成分は、キレート樹脂の性質上、通常は、3価クロム化成皮膜処理廃液に含まれるすべての不純金属イオン成分である。
具体的には、例えば、3価クロム化成皮膜処理廃液を、上記キレート樹脂を含むカラムに通す。これにより3価クロム化成皮膜処理廃液中の金属イオン成分は、キレート樹脂と接触する。この金属イオン成分のうち、不純金属イオン成分である亜鉛イオン、鉄イオン等が、キレート樹脂上の配位基であるアミノリン酸基と配位結合を形成し、キレート樹脂に吸着し、3価クロム化成皮膜処理廃液から除去される。一方、3価クロムイオンやコバルトイオンなどの必要金属イオン成分は、キレート樹脂に吸着されず、そのまま3価クロムイオン化成皮膜処理廃液中に残存する。3価クロム化成皮膜処理廃液を、キレート樹脂を含むカラムに通す速度(SV)(l/時)は、
SV(1/時)=[3価クロム化成皮膜処理廃液の流量(L/時)]/[キレート樹脂の体積(L)]
から求めることができ、例えば、SV=8〜40(1/時)、好ましくは、8〜16(1/時)、より好ましくは、9〜12(1/時)である。
【0020】
(3-c)キレート樹脂を再生する工程
不純金属イオン成分を吸着したキレート樹脂は、金属イオンの吸着限界濃度を超えると、キレート樹脂としての機能活性が失われる。従って、キレート樹脂に吸着した金属イオンを脱離し、キレート樹脂を再生することが必要である。キレート樹脂の再生は、キレート樹脂に再生剤を通し、吸着した金属イオンを脱離することによって行われる。使用する再生剤は、硫酸、塩酸等が挙げられる。硫酸及び塩酸(水溶液)の濃度は、例えば、4〜16質量%、好ましくは4〜10質量%である。再生剤の使用量は、1N塩酸の場合、キレート樹脂1リットルあたり、140〜250g、好ましくは180g±20g、1N硫酸の場合、キレート樹脂1リットルあたり、200〜350g、好ましくは300g±20gである。
また、再生剤を、キレート樹脂を含むカラムに通す速度(SV’)(1/時)は、
SV’ (1/時)=[3価クロム化成皮膜処理廃液の流量(L/時)]/[キレート樹脂の体積(L)]
から求められる。
再生剤でキレート樹脂を処理した後、キレート樹脂のアミノリン酸基をナトリウム塩とするため(式(I)のA1及びA2をHからNaとする)、キレート樹脂を水酸化ナトリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液等のナトリウムイオン含有溶液で処理する。水酸化ナトリウム水溶液の濃度は、例えば1〜20質量%、好ましくは2〜10質量%であることが適当である。ナトリウム含有溶液の使用量は、例えば1N水酸化ナトリウムの場合、キレート樹脂1リットルあたり、40〜120g、好ましくは60g±10gである。
上記ナトリウムイオン含有溶液で処理したキレート樹脂は、適宜精製水で洗浄してもよい。
【0021】
(4)実際の処理態様
以下、本発明の3価クロムイオンを含む3価クロム化成皮膜処理廃液を精製する方法及びこれに使用するキレート樹脂並びに装置の使用態様について説明する。
(4-1)3価クロム化成皮膜処理
3価クロム化成皮膜処理は、めっき対象物である鉄、銅等の材料を3価クロムイオンを含む金属イオンを含有する溶液(3価クロム化成皮膜処理液)に浸漬する。これにより、該めっき対象物の表面上に、クロムの化成皮膜が施される。
【0022】
(4-2) 3価クロム化成皮膜処理廃液の精製処理
上記のようにして3価クロム皮膜処理を行った後の3価クロム化成皮膜処理液には、上述したような、めっき対象物等に起因する鉄、ニッケル、亜鉛等の不純金属イオンが含まれる。この不純金属イオンを除去して3価クロム化成皮膜処理廃液を精製処理する方法としては、例えば、連続精製方式と回分精製方式が挙げられる。
連続精製方式は、3価クロム化成皮膜処理液が満たされた処理浴に直接キレート樹脂を充填したカラムを接続し、上述の3価クロム化成皮膜処理を行いながら、かつ同時並行的に3価クロム化成皮膜処理液を該カラムに通し、不純金属イオンを除去する方法である。3価クロム化成皮膜処理液が満たされた処理浴には、適宜pH測定装置及び金属イオン濃度測定装置を備え付け、pH及び金属イオン濃度を常時監視し、適宜pHを調整したり精製処理を進行/停止することができる。
【0023】
回分精製方式は、3価クロム化成皮膜処理液中の不純金属イオン濃度が限界に達した場合、3価クロム化成皮膜処理液が満たされた処理浴を新しい3価クロム化成皮膜処理液が満たされた処理浴と交換し、使用済みの3価クロム化成皮膜処理廃液を3価クロム化成皮膜処理工程とは別に、精製処理を行う方法である。pH測定装置及び金属イオン濃度測定装置にて3価クロム化成皮膜処理廃液中のpH及び金属イオン濃度を監視/測定できる点は、連続精製方式と同様である。
【0024】
(5)3価クロム化成皮膜処理廃液精製処理装置
本発明の3価クロム化成皮膜処理廃液精製処理装置は、少なくとも上記本発明のキレート樹脂を含む。キレート樹脂は、好ましくは、ポリエチレン、ビニルエステル、ABS、ポリ塩化ビニル、ステンレス製等の樹脂や金属カラムに充填される。カラムとしては、例えば内径φ200〜φ900mm、長さ1200〜2000mmの円筒形カラムが使用できる。
【実施例】
【0025】
次に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
[試験廃液の調製]
実生産で使用されている3価クロム化成皮膜処理液を、亜鉛イオン濃度の上昇に伴い採取し試験溶液とした。3価クロム100gと、コバルト29gと、精製水50Lとを混合し、3価クロム化成皮膜処理液を調製した。この3価クロム化成皮膜処理液にめっき(亜鉛)を施した10cm×3cm×厚さ0.2cmの試験片を50秒間30℃でエアー曝気にて攪拌を行いながら浸漬した。試験溶液として亜鉛イオン濃度が試験片浸漬中の3価クロム化成皮膜処理液をICP発光分析装置(誘導結合プラズマ発光分析装置)により絶えず試験片から溶出してくる試験液1リットルあたりの亜鉛金属イオンの質量を測定し、亜鉛濃度が約1.6g (試験溶液(1))、約3.0g (試験溶液(2))、約4.5g (試験溶液(3))、約5.7g (試験溶液(4))、約7.6g (試験溶液(5))、約9.1g (試験溶液(6))、約12.1g (試験溶液(7))、約13.7g (試験溶液(8))到達時に3Lずつ採取した。得られた各試験溶液における、試験溶液1リットルあたりの各金属イオンの質量をICP発光分析装置(誘導結合プラズマ発光分析装置)を用いて測定した。結果を以下の表4に示す。









【0026】
表4 試験溶液(精製前)1リットルあたりの金属イオン成分質量(mg)

【0027】
[実施例1]
上記各試験溶液を、キレート樹脂で精製処理した。キレート樹脂としては、アミノリン酸型キレート樹脂(ピュロライト社製、商品名:ピュロライトS−950)150mlに1N硫酸300gを通じ、さらに1Nの水酸化ナトリウム60gを通じ、Na+型(式(I)のA1及びA2がNaのアミノリン酸基を有するポリスチレン系キレート樹脂)としたものを用いた。このアミノリン酸型キレート樹脂の構造は以下の通りである。
このアミノリン酸型キレート樹脂を、内径20mm、長さ800mmのガラスカラムに充填した。カラムに試験溶液をキレート樹脂を含むカラムに通す速度(SV)=10(l/時)の流量でカラムに通し、それぞれ合計3Lの試験溶液をキレート樹脂と接触させた。試験後に、各試験溶液1リットルあたりの各金属イオンの質量をICP発光分析装置(誘導結合プラズマ発光分析装置)を用いて測定した。結果を以下の表5に示す。
【0028】
表5 試験溶液(精製後)1リットルあたりの金属イオン成分の質量(mg)

【0029】
また、各試験溶液における金属イオンの除去率を、以下の式;
除去率(質量%)=[精製前の金属イオン量(mg)−精製後の金属イオン量(mg)]/[精製前の金属イオン量(mg)]×100
から求めた。結果を以下の表6に示す。









表6 試験溶液(精製後)の金属イオン成分除去率(質量%)

【0030】
[比較例1]
キレート樹脂として、イミノジ酢酸型キレート樹脂(商品名:ピュロライトS−930)を用いた以外は、実施例1と同様に表4の試験溶液(精製前)にて試験を行った。試験後に、各試験溶液1リットルあたりの各金属イオンの質量をICP発光分析装置(誘導結合プラズマ発光分析装置)を用いて測定した。結果を以下の表7に示す。
【0031】
表7 試験溶液(精製後)1リットルあたりの金属イオン成分の質量(mg)

【0032】
また、各試験溶液における金属イオンの除去率を、以下の式;
除去率(質量%)=[精製前の金属イオン量(mg)−精製後の金属イオン量(mg)]/[精製前の金属イオン量(mg)]×100
から求めた。結果を以下の表8に示す。
表8 試験溶液(精製後)の金属イオン成分除去率(質量%)

【0033】
実施例1の表6及び図1から分かるように試験溶液中の亜鉛イオン濃度が低い場合には必要金属イオンである3価クロムイオンおよびコバルトイオンが多く吸着され除去されるのに対して、亜鉛イオン濃度の上昇に伴って必要金属イオンの除去率は低下し、逆に亜鉛の除去率は向上する。
一方、比較例1の図2からわかるように、本発明の比較例であるイミノジ酢酸型キレート樹脂を使用すると、必要金属イオン成分である3価クロムイオン及びコバルトイオンが除去されてしまうのに対し、不純金属イオン成分である亜鉛の除去率は80質量%を超えることがなく、また、表8からも亜鉛イオンは他の金属イオンと除去率に大きな差もなく、金属イオン成分の選択的除去の面で効果が低いことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1の各試験溶液における金属イオンの吸着比率(質量%)を示すグラフである。ここで、図1の吸着比率(質量%)は以下の式から求められる。吸着比率(質量%)=[精製後の金属吸着イオン量(mg)※1/[各金属総吸着イオン量(mg)※2]×100]※1:[精製後の金属吸着イオン量(mg)]=[表4に示す精製前の金属イオン量(mg)]−[表5に示す精製後の金属イオン量(mg)]※2:表4及び5に記載された各金属イオンに関する[精製後の金属吸着イオン量(mg)]の和
【図2】比較例1の各試験溶液における金属イオンの吸着比率(質量%)を示すグラフである。ここで、図2の吸着比率(質量%)は以下の式から求められる。吸着比率(質量%)=[精製後の金属吸着イオン量(mg)※1/[各金属総吸着イオン量(mg)※2]×100]※1:[精製後の金属吸着イオン量(mg)]=[表4に示す精製前の金属イオン量(mg)]−[表7に示す精製後の金属イオン量(mg)]※2:表4及び7に記載された各金属イオンに関する[精製後の金属吸着イオン量(mg)]の和

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3価クロムイオンを含む3価クロム化成皮膜処理廃液を精製する方法であって、
(a)前記3価クロム化成皮膜処理廃液と、下記式(I);

(式中、A1及びA2は、それぞれ独立に、H又はNaである)
で表されるアミノリン酸基を有するキレート樹脂とを接触する工程;及び
(b)前記3価クロム化成皮膜処理廃液から亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン及びニッケルイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを前記キレート樹脂に選択的に吸着しかつ除去する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記3価クロム化成皮膜処理廃液が金属イオンとして亜鉛イオンを含み、前記(a)工程が、前記3価クロム化成皮膜処理廃液1リットルあたりの亜鉛イオン質量を5000〜10000mgに維持しながら行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1に記載の3価クロムイオンを含む3価クロム化成皮膜処理廃液を精製する方法に用いるキレート樹脂であって、前記キレート樹脂が、下記式(I);

(式中、A1及びA2は、それぞれ独立に、H又はNaである)
で表されるアミノリン酸基を有することを特徴とする、キレート樹脂。
【請求項4】
3価クロムイオンを含む3価クロム化成皮膜処理廃液から、亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン及びニッケルイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを選択的に除去するための3価クロム化成皮膜処理廃液精製処理装置であって、前記装置が請求項3に記載のキレート樹脂を含むことを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−91610(P2009−91610A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262172(P2007−262172)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(596102816)日本フイルター株式会社 (3)
【Fターム(参考)】