説明

3価マンガンの製造方法及び該製造方法で製造された3価マンガンを用いる酸化反応生成物の製造方法

【課題】マンガンペルオキシダーゼを固定化せず液体中で用いることで酵素活性を低下させず、かつ繰り返し使用して、3価マンガンを安定した収率で効率よく得るための製造方法及び該製造方法で得られた3価マンガンを用いて、酸化反応生成物を効率よく低コストで製造する方法を提供する。
【解決手段】マンガンペルオキシダーゼ存在下で2価マンガンを酸化する3価マンガンの製造方法であって、水又は水溶液中で或いは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中でマンガンペルオキシダーゼと2価マンガンと酸化剤とを反応させて2価マンガンを酸化して3価マンガンを生成させる第一工程と、膜を用いた分画で3価マンガンを含有する反応液からマンガンペルオキシダーゼを分離する第二工程と、を有することを特徴とする3価マンガンの製造方法、及び該製造方法で得られた3価マンガンを用いて酸化反応を行う第四工程を有することを特徴とする酸化反応生成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンガンペルオキシダーゼの存在下で2価マンガンを酸化して3価マンガンを生成させ、さらに、3価マンガンを含有する反応液から膜を用いた分画によりマンガンペルオキシダーゼを分離する3価マンガンの製造方法に関する。
さらに本発明は、前記製造方法で製造された3価マンガンを用いて酸化反応を行う酸化反応生成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3価マンガンを酸化剤として用いて原料を酸化させることにより酸化反応生成物を得る方法は、従来から広く用いられている。
そのような方法として、例えば、マンガンペルオキシダーゼを固定化した担体を充填したカラムに対し、入口から2価マンガンを含む溶液を送液し、出口から得られる3価マンガンを含む溶液を用いて酸化対象である原料を酸化させる方法、より具体的には、リグニンを分解してパルプを漂白する方法が開示されている(特許文献1参照)。
また、水性媒質中で、ジアルコキシフェノールとマンガンペルオキシダーゼと、酸化剤と、二価のマンガンイオンとを反応させてジアルコキシキノン2量体を得て、さらに引き続き還元剤を添加してジアルコキシフェノール2量体を製造する方法が開示されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−190269号公報
【特許文献2】特開2005−229944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1に記載の方法では、担体に固定化されたマンガンペルオキシダーゼを用いるため、同量の固定化していないマンガンペルオキシダーゼを用いる場合と比較すると、固定化されたマンガンペルオキシダーゼの自由度が低下する分、活性の低下が避けられず、3価マンガンを効率よく得られないという問題点があった。
また、特許文献2に記載の方法では、マンガンペルオキシダーゼを含む液を用いるため、同量の固定化されたマンガンペルオキシダーゼを用いる場合よりも高い活性が得られ、3価マンガンを効率よく得られるが、マンガンペルオキシダーゼが基質や反応物に曝露されてしまうため繰り返し耐性が低くなり、高価なマンガンペルオキシダーゼを回収して再利用することができず、一度しか用いることができないため、工業的スケールで実用化する際には、酸化反応生成物の製造コストが高くなることがあるという問題点があった。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、マンガンペルオキシダーゼを固定化せずに液体中で用いることで、本来有している酵素活性を低下させることなく、かつ、マンガンペルオキシダーゼを繰り返し使用して、3価マンガンを安定した収率で効率よく得るための製造方法及び該製造方法で得られた3価マンガンを用いて、酸化反応生成物を効率よく低コストで製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究した結果、水溶液中に溶解しているマンガンペルオキシダーゼの作用で得られた3価マンガンを、膜を用いた分画によりマンガンペルオキシダーゼから分離して酸化剤として用いる一方、分離されたマンガンペルオキシダーゼを、再度3価マンガンの製造に用いることで、酸化反応生成物の収率を損ねることなく、3価マンガンの製造効率とマンガンペルオキシダーゼの利用効率を向上させることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の第一の発明は、マンガンペルオキシダーゼの存在下で2価マンガンを酸化する3価マンガンの製造方法であって、水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、マンガンペルオキシダーゼと2価マンガンと酸化剤とを反応させて2価マンガンを酸化することにより3価マンガンを生成させる第一工程と、膜を用いた分画により、3価マンガンを含有する反応液からマンガンペルオキシダーゼを分離する第二工程と、を有することを特徴とする3価マンガンの製造方法である。
【0007】
また、本発明の第二の発明は、第一の発明に記載の3価マンガンの製造方法により製造された3価マンガンを用いて酸化反応を行う第四工程を有することを特徴とする酸化反応生成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、第一工程において、水又は水溶液中の、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中の2価マンガンと酸化剤に、マンガンペルオキシダーゼを作用させることで、固定化したマンガンペルオキシダーゼを用いる場合よりも効率よく3価マンガンを得ることができる。さらに反応後、第二工程において、3価マンガンとマンガンペルオキシダーゼの分子量が大きく異なることを利用し、前記第一工程終了後の3価マンガンを含有する反応液から、膜を用いた分画によって、マンガンペルオキシダーゼを分離することができる。分離後のマンガンペルオキシダーゼは再度3価マンガンの製造に用いることができ、また3価マンガンは、酸化剤として各種酸化反応に用いることができる。従って、工業的スケールにおいて、3価マンガンを安定した収率で効率よく製造することができ、得られた3価マンガンを用いて、酸化反応生成物を効率よく低コストで製造することができる
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について、各工程ごとに詳しく説明する。なお、バッチ式反応器を用いた場合の本発明の3価マンガンの製造方法及び該製造方法で製造された3価マンガンを用いる酸化反応生成物の製造方法の一例を模式図として図1に示す。図1中に示すMnPとは、マンガンペルオキシダーゼのことである。
【0010】
(3価マンガンの製造方法)
まず、本発明の3価マンガンの製造方法について説明する。
本発明の3価マンガンの製造方法は、水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、マンガンペルオキシダーゼと2価マンガンと酸化剤とを反応させて2価マンガンを酸化することにより3価マンガンを生成させる第一工程と、膜を用いた分画により、3価マンガンを含有する反応液からマンガンペルオキシダーゼを分離する第二工程と、を有することを特徴とする。
第一工程で得られた無機イオンである3価マンガンと、タンパク質であるマンガンペルオキシダーゼは分子量が大きく異なるため、第二工程において膜を用いた分画により、3価マンガンを含有する反応液からマンガンペルオキシダーゼを分離することができる。
【0011】
◎第一工程
本発明の第一工程においては、水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、マンガンペルオキシダーゼと2価マンガンと酸化剤とを反応させて2価マンガンを酸化することにより3価マンガンを生成させる。
第一工程は、具体的には、例えば、マンガンペルオキシダーゼとマンガンの酸化数が+2であるマンガン化合物とを含む水又は水溶液中に、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中に、酸化剤を溶解あるいは分散させることによって、2価マンガンの酸化反応を行い、3価マンガンを得る工程である。
この時、マンガンペルオキシダーゼは、水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で溶解させることが好ましい。なお、第一工程で用いる水又は水溶液、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒のことを、以降、反応溶媒と略記する場合がある。
【0012】
本発明の第一工程で用いるマンガンペルオキシダーゼとしては、例えば、ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、ファネロカエテ・ソルディダ(Phanerochaete sordida)、カイガラタケ(Lenzites betulinus)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、シイタケ(Lentinus edodes)等の担子菌類が生産するリグニン分解酵素を挙げることができる。これらのマンガンペルオキシダーゼは、単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0013】
マンガンペルオキシダーゼ、2価マンガン及び酸化剤を含む反応溶媒中にて、2価マンガンを3価マンガンへと酸化する際は、マンガンペルオキシダーゼの活性を最大限に引き出すために、反応温度を10〜70℃に保つことが好ましく、20〜40℃に保つことがより好ましい。
また、反応時間は、5分以内とすることが好ましい。ここで言う反応時間とは、反応開始から、第二工程においてマンガンペルオキシダーゼが分画されるまでの時間を指す。該反応時間が5分を超えると、得られる3価マンガンの濃度が減少してしまうことがある。
【0014】
本発明の第一工程で用いる酸化剤としては、例えば、過酸化水素、メチル過酸化物、エチル過酸化物等の過酸化物等が挙げられるが、反応性、経済性の観点から過酸化水素が好ましい。
酸化剤は、マンガンペルオキシダーゼ及び2価マンガンを含む反応溶媒と混合し、反応に用いる。反応方法は、従来公知の方法を適用することができる。例えば、バッチ式の様に、一つの反応容器中にマンガンペルオキシダーゼ、2価マンガン及び酸化剤を加えた反応溶媒を調製し、2価マンガンから3価マンガンへの酸化反応を行うことができる。また、例えば、連続式の様に、マンガンペルオキシダーゼ、2価マンガン及び酸化剤の内、少なくとも一つを、残りの成分が混合した状態の溶媒に連続的に供給しても良く、さらに、前記三つの成分を別々に含む溶媒を、それぞれ連続的に一つの容器へと供給するようにしても良い。
【0015】
また、酸化剤の配合量を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜調整することで、3価マンガンの製造を効率的に行うことができると同時に、後述の第二工程で分離するマンガンペルオキシダーゼを、複数回繰返して再利用することができる。例えば、酸化剤として過酸化水素を用いる場合、過酸化水素の終濃度は、好ましくは1〜20mmol/L、より好ましくは3〜15mmol/L、特に好ましくは5〜10mmolの範囲である。その際、反応溶媒中のマンガンペルオキシダーゼの終濃度は、好ましくは10〜1000mg/L、より好ましくは100〜750mg/L、特に好ましくは150〜600mg/Lの範囲で用いる。また、マンガンペルオキシダーゼの繰り返し使用耐性を高める点から、反応溶媒中のマンガンペルオキシダーゼの終濃度を高くするにつれ、過酸化水素も濃度を高くして用いることが好ましい。ただし、ここで言う終濃度とは、マンガンペルオキシダーゼ、2価マンガン及び酸化剤を反応溶媒中に混合した後の濃度を指す。
【0016】
第一工程で用いる反応溶媒とは、水又は水溶液、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒のことであるが、水溶液としては、例えば、緩衝液を挙げることができる。
緩衝液としては、例えば、マロン酸緩衝液、シュウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、酢酸緩衝液、コハク酸緩衝液、クエン酸緩衝液及びリン酸緩衝液等が挙げられる。
また、有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、トリクロロメタン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ブタノール、エタノール、メタノール、ジオキサン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、ギ酸ジメチルホルムアミドメチル、アセトン、n−プロパノール、イソプロパノール及びt−ブチルアルコール等が挙げられる。
反応溶媒が水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒である場合には、混合溶媒中の有機溶媒の割合は10体積%以下とすることが好ましく、5体積%以下とすることがより好ましい。有機溶媒の割合が高くなり過ぎると、マンガンペルオキシダーゼが失活しやすくなる。
【0017】
本発明においては、2価マンガンの酸化反応に伴って生成する3価マンガンを錯体として安定化させるために、第一工程及び第二工程において反応溶媒中に有機酸を含有させることが好ましい。なかでも、効率よく錯体を形成し、3価マンガンを安定化する効果が大きいことから、用いる有機酸は、マロン酸、シュウ酸及び酒石酸のいずれかであることが好ましい。また、有機酸は単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
また、用いる有機酸の量は、3価マンガンのモル数の二倍以上であることが好ましい。
【0018】
第一工程で用いる2価マンガンとしては、マンガンの酸化数が+2であるマンガン化合物を用いればよく、特に限定されない。このようなものとして、例えば、硫酸マンガンを挙げることができる。
また、2価マンガンの配合量は、得られる3価マンガンの用途に応じて適宜調整すれば良い。例えば、得られた3価マンガンを後述の本発明の第四工程で用いる場合には、2価マンガンの配合量は、酸化反応の原料の種類に応じて適宜調整すれば良い。ただし、第一工程において、反応溶媒として前記緩衝液を用いた場合等、反応溶媒中に有機酸を含有する場合には、有機酸のモル数の1/2よりも少ないことが好ましい。このような量とすることで、2価マンガンの酸化反応に伴って生成する3価マンガンが、これら有機酸と効率的に錯体を形成する。
【0019】
◎第二工程
本発明の第二工程においては、膜を用いた分画により、3価マンガンを含有する反応液からマンガンペルオキシダーゼを分離する。
3価マンガンとマンガンペルオキシダーゼの分子量が大きく異なるため、膜を用いた分画によってこれらを分離することができる。
【0020】
第二工程で用いる膜は、マンガンペルオキシダーゼを分画することができ、反応液に対して耐性を有するものであれば特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。第一工程終了後の反応液中には、マンガンペルオキシダーゼ、3価マンガン、未反応の2価マンガン、未反応の酸化剤および反応溶媒を構成する物質が含まれている。これらの中で、マンガンペルオキシダーゼの分子量は3〜5万程度であり、唯一分子量が1万を超える物質である。そのため、用いる膜は分画分子量が5千〜2万であることが好ましく、1万〜2万であることがより好ましい。このような膜を用いることによって、3価マンガンを含有する反応液中からマンガンペルオキシダーゼを精度良く分画することができる。膜の分画分子量が小さくなるに従い、分画精度は向上するものの、膜を通過する反応液の流速が小さくなり、単位時間当たりに得られる3価マンガンの量が減少する。一方、膜の分画分子量が大きくなるに従い、分画精度は落ちるものの、膜を通過する反応液の流速が大きくなり、単位時間当たりに得られる3価マンガンの量が増大する。どのような分画分子量の膜を用いるかは、反応液の組成に応じて適宜選定すれば良い。
【0021】
また、第二工程で用いる膜の形状は、マンガンペルオキシダーゼを分画することができ、反応液に対して耐性を有するものであれば特に限定されず、例えば、平膜形状や中空糸形状のものを用いることができる。また、分画する際、膜を通過させるための圧力を前記反応液に加える方法としては、遠心機を用いる方法とポンプを用いる方法があるが、第二工程を連続して行うことが可能になることから、ポンプを用いる方法が好ましく、工業的にこのような方法に適用することができる膜を用いることが好ましい。このような条件を満たす膜として本発明では、中空糸膜又は限外ろ過膜を好適に用いることができる。
【0022】
◎第三工程
本発明の3価マンガンの製造方法は、第二工程で分離されたマンガンペルオキシダーゼを第一工程へ供給する第三工程を有することが好ましい。このように、第二工程で分離されたマンガンペルオキシダーゼを、第一工程で再利用することで、高価なマンガンペルオキシダーゼの利用効率を向上させることができ、3価マンガンを効率よく低コストで製造することができる。
また、マンガンペルオキシダーゼを第一工程で再利用する際には、第三工程において、第一工程へのマンガンペルオキシダーゼの供給量を測定することが好ましい。このように、再利用するマンガンペルオキシダーゼの供給量を測定することで、第一工程で用いるマンガンペルオキシダーゼの量を調整することができ、3価マンガンを一層効率よく製造することができる。
【0023】
第一工程へのマンガンペルオキシダーゼの供給量を測定する方法は特に限定されないが、例えば、第一工程へ供給するマンガンペルオキシダーゼ含有液の供給量及びマンガンペルオキシダーゼの濃度を測定し、これらの値から第一工程へのマンガンペルオキシダーゼの供給量を算出する方法が挙げられる。
【0024】
マンガンペルオキシダーゼ含有液の供給量を測定する方法としては、従来公知の方法を適用すれば良く、例えば、供給する液の全量を容器に一旦貯留し、この時の貯留量を計測する方法や、第一工程で用いる反応器に配管を通じて液を供給する場合には、配管等に流速計を設けて、反応器へ供給中のマンガンペルオキシダーゼ含有液の流速と供給時間とから供給量を算出する方法が挙げられる。
マンガンペルオキシダーゼ含有液のマンガンペルオキシダーゼの濃度を測定する方法としては、従来公知の方法を適用すれば良く、例えば、液中のマンガンペルオキシダーゼ活性を測定して検量線から濃度を算出する方法や、ブラッドフォード法のようにマンガンペルオキシダーゼ中のアミノ酸残基に結合した色素量を測定した後、検量線から濃度を算出する方法が挙げられる。
【0025】
第二工程で分離されたマンガンペルオキシダーゼを第一工程で再利用する方法は特に限定されず、第一工程で用いるマンガンペルオキシダーゼの全量を第二工程で分離されたマンガンペルオキシダーゼで賄っても良く、第二工程で分離されたマンガンペルオキシダーゼに別途新たに調製したマンガンペルオキシダーゼを混合して第一工程で用いても良い。
【0026】
第二工程で分離されたマンガンペルオキシダーゼを第一工程で再利用する際に、第一工程で用いるマンガンペルオキシダーゼの量を調整する方法は特に限定されない。
例えば、第一工程で用いるマンガンペルオキシダーゼの全量を第二工程で分離されたマンガンペルオキシダーゼで賄う場合には、分離されたマンガンペルオキシダーゼ含有液の濃度を変えずに液量を調整する方法、液量を変えずに濃度を調整する方法及び濃度と液量の両方を調整する方法が挙げられる。
また、例えば、第一工程で用いるマンガンペルオキシダーゼとして、第二工程で分離されたマンガンペルオキシダーゼに別途新たに調製したマンガンペルオキシダーゼを混合して用いる場合には、別途新たに調製したマンガンペルオキシダーゼの量のみを調整する方法、別途新たに調製したマンガンペルオキシダーゼの量と分離されたマンガンペルオキシダーゼ含有液の液量及び/又は濃度をいずれも調整する方法を挙げることができる。
【0027】
(酸化反応生成物の製造方法)
◎第四工程
続いて、本発明の酸化反応生成物の製造方法について説明する。
本発明の酸化反応生成物の製造方法は、前記3価マンガンの製造方法により製造された3価マンガンを用いて酸化反応を行う第四工程を有することを特徴とする。
第四工程においては、原料は3価マンガンによりラジカル化され、ラジカル化された原料が、未反応の原料、ラジカル化された原料、水等と反応し、酸化反応生成物となる。
この時、原料のラジカル化に供された3価マンガンは2価マンガンへと還元される。第四工程においては、投入されたすべての3価マンガンが還元されることもあれば、一部の3価マンガンは還元されずにそのまま残る可能性もある。そのため、第四工程の反応液中には2価と3価のマンガンが共存していることがある。
【0028】
本発明の第四工程で用いられる原料は、3価マンガンにより酸化できるものであれば特に限定されない。なかでも、好ましいものとしてフェノール類やナフトール類などの芳香族ヒドロキシ化合物を挙げることができ、これらを原料として用いることで、エンジニアリングプラスチックとして有用な芳香族ヒドロキシ化合物の二量体又はポリマーを効率よく低コストで製造することができる。なお、ここでポリマーとは三量体以上の重合体を指す。
【0029】
原料としてフェノール類を用いる場合、二量体又はポリマーとして特定の化学物質を高い収率で得るためには、該フェノール類は、芳香環の水素原子がアルキル基で置換されたアルキルフェノール類であることが好ましく、そのようなものとして具体的には、o−キシレン、m−キシレン及びp−キシレン等を挙げることができる。さらに、置換されたアルキル基の数が複数であるアルキルフェノール類であることがより好ましく、なかでも反応性の観点から、フェノール性水酸基から見て芳香環の2位と6位にアルキル基が置換されたアルキルフェノール類であることが特に好ましい。例えば、2,6−ジアルキル置換フェノールは、その反応特異性が高いことが知られており、具体的には、2,6−ジメチルフェノールを最も好ましいものとして挙げることができる。
【0030】
一方、原料としてナフトール類を用いる場合は、好ましいものとして1−ナフトール及び2−ナフトールを挙げることができる。
【0031】
また、本発明の酸化反応生成物の製造方法で用いる原料は、一種でも良く二種以上を併用しても良い。目的とする酸化反応生成物の種類に応じて、適宜選定すれば良い。例えば、前記のように酸化重合反応によりポリマー又は二量体を製造する場合には、二種以上の原料を用いれば共重合体を得ることができる。
【0032】
本発明の第四工程において、3価マンガンを原料と反応させる方法としては、従来公知の方法を適用すれば良い。例えば、反応器として連続式反応器を用いる場合は、3価マンガンを含む反応溶媒が供給される位置において原料を供給すればよい。
また、反応器としてバッチ式反応器を用いる場合は、3価マンガンを含む反応溶媒を反応器中に一定量蓄えた後、該反応器に原料を供給すればよい。
【0033】
反応器が連続式反応器である場合、3価マンガンを含む反応溶媒および原料を供給する方法としては、従来公知の方法を適用することができる。例えば、ペリスタルティックポンプ、ダイヤフラムポンプ及びシリンジポンプ等を用いる方法が挙げられる。
【0034】
反応器がバッチ式反応器である場合、原料を供給する方法としては、反応器へ原料を一度に投入する方法と分割して投入する方法とがあるが、いずれの方法においても、ペリスタルティックポンプ、ダイヤフラムポンプ及びシリンジポンプ等を用いる従来公知の方法を適用することができる。
【0035】
第四工程で、3価マンガンを用いて原料を酸化する際の反応温度は、50℃以下であることが好ましく、25℃程度であることがより好ましい。温度が高すぎる場合には、3価マンガンが不安定となり、原料を酸化させる前に失活することがあり、温度が低すぎる場合には、3価マンガンと原料との反応が進行しにくくなることがある。
また反応時間は、3価マンガンの濃度と量、及び原料の種類と濃度等に依存するところが大きく、一般的に必要となる反応時間を限定することは困難であると考えられるが、例えば、3価マンガンの濃度が1.0mM、液量が1mlであり、原料が0.5mMの2,6−ジメチルフェノールである場合、原料を完全に反応させるために必要な時間は1〜10分程度である。
さらに、原料を3価マンガンにて酸化する際の反応効率を高めるためには、原料の濃度に比して3価マンガン濃度が高濃度であることが、化学量論的な見地から好ましい。
【0036】
第四工程においては、本発明の製造方法で製造された3価マンガンの反応器への供給量を測定し、該供給量に応じて、酸化反応の原料の反応器への供給量を調整することが好ましい。このように、3価マンガン供給量に応じて原料供給量を調整することで、酸化反応を効率的に行うことができ、高純度の酸化反応生成物を低コストで製造することができる。特に原料として芳香族ヒドロキシ化合物を用いて二量体又はポリマーを製造する際に有効である。
【0037】
3価マンガンの供給量を測定する方法は特に限定されないが、例えば、第四工程へ供給する3価マンガン含有液の供給量及び3価マンガンの濃度を測定し、これらの値から第四工程への3価マンガンの供給量を算出する方法が挙げられる。
3価マンガン含有液の供給量を測定する方法としては、従来公知の方法を適用すれば良く、例えば、供給する液の全量を容器に一旦貯留し、この時の貯留量を計測する方法や、第四工程で用いる反応器に配管を通じて3価マンガン含有液を供給する場合には、配管等に流速計を設けて、反応器へ供給中の3価マンガン含有液の流速と供給時間とから、3価マンガンの供給量を算出する方法が挙げられる。
3価マンガン含有液の3価マンガンの濃度を測定する方法としては、従来公知の方法を適用すれば良く、例えば、3価マンガン含有液を分取して測定試料として用いる方法や、第四工程で用いる反応器に配管を通じて3価マンガン含有液を供給する場合には、配管等に濃度測定器を設けて、反応器に供給される3価マンガン含有液そのものを測定試料として用いる方法が挙げられる。いずれの場合においても、3価マンガンの濃度の算出方法は特に限定されず、例えば、分光光度計を用いて270nmにおける吸光度を測定して、該測定値より算出することができる。また、濃度の測定に際しては、前記測定試料を適宜希釈しても良い。
【0038】
3価マンガン供給量に応じて酸化反応の原料供給量を調整する方法は、例えば、原料を液体に溶解又は分散させて供給する場合には、該原料含有液の濃度ではなく量を調整する方法、原料含有液の量ではなく濃度を調整する方法及び原料含有液の濃度と量をいずれも調整する方法を挙げることができる。一方、原料を固体で供給する場合には、固体の重量を調整すればよい。
【0039】
◎第五工程
本発明の酸化反応生成物の製造方法は、前記第四工程で得られた酸化反応生成物から2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンを分離する第五工程を有することが好ましい。このようにすることで、反応液から不純物を除けるだけでなく、後で述べるように、分離した2価マンガンを第一工程に供給して再利用することで、3価マンガンの製造をより効率的に低コストで行うことができ、さらに、3価マンガンが分離された場合にはこれを回収することで、酸化反応生成物をより低コストで製造することができる。
【0040】
第五工程で2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンを分離する方法は、従来公知の方法を適用することができ、特に限定されない。例えば、酸化反応生成物が反応液に対して不溶となり固体状物質として析出する場合には、該酸化反応生成物をろ過及び遠心等の従来公知の方法で反応液から除くことにより、2価マンガン及び3価マンガンを酸化反応生成物から分離することができる。また、酸化反応生成物が反応液に対して可溶である場合には、該酸化反応生成物を抽出及び吸着等の従来公知の方法で反応液から除くことにより、2価マンガン及び3価マンガンを酸化反応生成物から分離することができる。この場合は、例えば、酢酸エチルで酸化反応生成物を抽出することによって、酸化反応生成物が酢酸エチル側に、2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンを含む溶液が水層側に分離される。
【0041】
◎第六工程
さらに、本発明の酸化反応生成物の製造方法は、前記第五工程で分離された2価マンガンを前記第一工程へ供給する第六工程を有することが好ましい。このようにすることで、第五工程で分離された2価マンガンを第一工程で再利用することで3価マンガンを効率よく低コストで製造することができる。
また、第五工程で3価マンガンが分離された場合には、2価マンガンと共に第一工程に供してそのまま3価マンガンとして回収すれば、酸化反応生成物の製造コストをより低減することができる。
【0042】
2価マンガンを第一工程で再利用する際には、第六工程において、第一工程への2価マンガンの供給量を測定することが好ましい。このように、再利用する2価マンガンの供給量を測定することで、第一工程で用いる2価マンガンの量を調整することができ、3価マンガンを一層効率よく低コストで製造することができ、酸化反応生成物の製造コストをより低減することができる。
2価マンガンの供給量を測定する方法は特に限定されない。例えば、溶液中の2価マンガンをマンガンペルオキシダーゼにて3価マンガンに変換した後、分光光度計を用いて検出波長270nmで測定することが可能である。
また、第五工程で3価マンガンが分離された場合には、同様に第一工程への3価マンガンの供給量を測定することが好ましく、この時は、前記の3価マンガンの供給量を測定する方法を適用すれば良い。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下において、単位「M」は「mol/L」を、単位「mM」は「mmol/L」を示す。
【0044】
(実施例1)
本実施例においては、緩衝液として、マロン酸二ナトリウム(和光純薬工業株式会社製「マロン酸二ナトリウム」)を用いたマロン酸緩衝液(pH4.5)を使用し、酸化数+2のマンガンを有するマンガン化合物として硫酸マンガン(和光純薬工業株式会社製「硫酸マンガン」)を用いた。酸化反応の原料としては、ジアルキル置換フェノールである2,6−ジメチルフェノール(和光純薬工業株式会社製「2,6−ジメチルフェノール」)をアセトンに溶解したものを用いた。また、以下、還元剤として亜ジチオン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製「ハイドロサルファイトナトリウム」)を用いた。
【0045】
マンガンペルオキシダーゼとしては、ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)の培養菌床から得られたマンガンペルオキシダーゼを用いた。このマンガンペルオキシダーゼの調製方法は以下の通りとした。
すなわち、白色腐朽菌ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)ATCC24725を、表1に示す組成のカーク液体培地で37℃にて培養した。なお、表1中のカークトレースエレメンツの組成を表2に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
培養は2L三角フラスコ中で前記培地1Lにて行い、37℃で3日間培養後、100%酸素をパージし、その後毎日一回酸素パージを行った。所定時間培養した後、培養液を吸引濾過して培養濾液を得て、得られた培養濾液を粗酵素溶液とした。pH7.2のリン酸緩衝液にて膨潤させた後にカラムに充填したトヨパールDEAE650M(「TOYOPEARL DEAE650M」、商品名;東ソー株式会社製)に、前記粗酵素溶液を、pHを7.2に調整後チャージした。カラム中に充填されたトヨパールDEAE650Mに吸着されたマンガンペルオキシダーゼを、pH6.0のリン酸緩衝液にて流出させて回収し、マンガンペルオキシダーゼ溶液とした。
【0049】
◎第一工程
(3価マンガンの作製)
400mg/Lマンガンペルオキシダーゼを150mL、50mM硫酸マンガンを8mL、500mMマロン酸緩衝液(pH4.5)を20mL及び水2mLを混合して2価マンガン溶液を調製した。これに、酸化剤である50mM過酸化水素を20mL加えて、25℃にて2分間、2価マンガンの酸化反応を行い、3価マンガン溶液を調製した。
【0050】
◎第二工程
(マンガンペルオキシダーゼの分離)
調製した前記3価マンガン溶液を、ペリスタルティックポンプを用いて流速15mL/分にて、中空糸膜へと送液した。中空糸膜は、分画分子量が13000である「マイクローザ(ACP−0013(UF))」(商品名;旭化成株式会社製)を用いた。この中空糸膜の高分子側出口に背圧を加えることによって、高分子側の出口からはマンガンペルオキシダーゼを含む溶液が、低分子側の出口からはマンガンペルオキシダーゼ以外の分子を含む溶液が、主に排出されることとなる。
本実施例では、高分子側の出口から5mL/分の流速でマンガンペルオキシダーゼを含む溶液を、低分子側の出口から10mL/分の流速でマンガンペルオキシダーゼ以外の分子を含む溶液を得た。
【0051】
◎第三工程
(分離したマンガンペルオキシダーゼを用いた2価マンガンの酸化)
前記第二工程において分離されたマンガンペルオキシダーゼを含む溶液を、前記第一工程で用いるマンガンペルオキシダーゼとして再利用した。再利用に際し、分離したマンガンペルオキシダーゼ溶液の濃度を、タンパク質濃度の測定法であるブラッドフォード法をベースとしたプロテインアッセイA(商品名;バイオラッド社製)を用いて測定し、2価マンガンの酸化反応を行う前の濃度とほぼ同等であることを確認した。
濃度を確認した後、該分離したマンガンペルオキシダーゼ溶液を、5mL/分の流速で第一工程を行った容器へと注入した。またあわせて、50mMマロン酸、5mM過酸化水素水、2mM硫酸マンガンを含む緩衝液(pH4.5)からなる2価マンガン溶液を、10ml/分の流速で第一工程を行った容器へと注入した。
このように、第一工程の容器中にて、再利用したマンガンペルオキシダーゼを用いて2価マンガンの酸化反応を連続的に行うことが可能であった。
【0052】
◎第四工程
(3価マンガンの第四工程への供給)
第一〜第三工程を経て得られた3価マンガン溶液のうち、1.99mLをピペットにて分取し、第四工程で用いる反応器であるガラス製の蓋付試験管に供給した。
【0053】
(3価マンガン溶液の濃度の検出)
反応器へ供給する3価マンガン溶液中の3価マンガンの濃度を、270nmにおける吸光度を測定して検出した。吸光度測定は、UV−1650PC(商品名;株式会社島津製作所製)を用いて行った。測定値が分光光度計の測定限界を超える場合には、緩衝液にて3価マンガンを含む水性溶媒を適宜希釈してから、測定を行った。その結果、3価マンガンの濃度は約1.75mMであることを確認した。
【0054】
(3価マンガン濃度に応じた原料の濃度調整と供給)
3価マンガンを供給した反応器に、酸化反応の原料として、アセトンに溶解した50mMの2,6−ジメチルフェノール10μLを供給した、該反応器中で室温にて1分間撹拌することにより、3価マンガンによる酸化重合反応を行った。この時の撹拌スピードは120rpmとした。
【0055】
◎第五工程
(2価マンガン及び3価マンガンの分離)
前記第四工程の反応後の溶液を、マイクロ冷却遠心機(モデル3740;クボタ製)を用い、15000rpmにて20分間遠心して酸化反応生成物を沈殿として回収し、2価マンガン及び3価マンガンを含む溶液を酸化反応生成物から分離した。
【0056】
◎第六工程
(分離された2価マンガン及び3価マンガンの第一工程への供給)
前記第五工程において分離された2価マンガン及び3価マンガンを含む溶液に、終濃度が5mMとなるように過酸化水素を加えたものを、50mMマロン酸、5mM過酸化水素水、2mM硫酸マンガンを含む緩衝液(pH4.5)からなる2価マンガン溶液中に加えた。その後、該溶液を、10mL/分の流速で第一工程を行った容器へ注入し、マンガンペルオキシダーゼと混合したところ、3価マンガンの発生が確認された。
【0057】
(酸化反応生成物の成分の確認)
前記第五工程で回収した酸化反応生成物に、2.0mLの水を加え、0.2gの亜ジチオン酸ナトリウムを加えた後、2mLの酢酸エチルを加え、酸化反応の原料である2,6−ジメチルフェノール及び2,6−ジメチルフェノール二量体を含む酸化反応生成物の抽出を行った。
【0058】
前記抽出物中における2,6−ジメチルフェノール二量体及び2,6−ジメチルフェノールの濃度について、下記条件でHPLC(高速液体クロマトグラフィー)による測定を行った。
検出装置:SPDM10A(商品名;株式会社島津製作所製)
カラム:イナートシルODS−3(商品名;ジーエルサイエンス株式会社)
溶出条件:水とアセトニトリルによるグラジエント溶出
0−5分:20% 水/80% アセトニトリル
5−21分:グラジエント
21−31分:0% 水/100% アセトニトリル
送液速度:1.0 mL/min
検出波長:270nm
【0059】
前記条件によるHPLC測定において検出された吸収ピークの強度から、抽出物に含まれる2,6−ジメチルフェノール二量体のモル濃度αと、2,6−ジメチルフェノールのモル濃度βを求めた。
前記モル濃度αと、原料として供給した2,6−ジメチルフェノールのモル濃度から算出される2,6−ジメチルフェノール二量体の理論生成濃度との比率によって表される値を、2,6−ジメチルフェノール二量体の収率(以下、二量体収率と略記)とし、下記式により算出した。その結果、本実施例において二量体収率は95%であった。
【0060】
[数1]
(二量体収率)[%]=α/[(1/2)×(原料として供給した2,6−ジメチルフェノールモル濃度)]×100
【0061】
また前記モル濃度βと、原料として供給した2,6−ジメチルフェノールのモル濃度との比率によって表される値を、2,6−ジメチルフェノールの残存率(以下、原料残存率と略記)とし、下記式により算出した。その結果、本実施例において原料残存率は5%であった。
【0062】
[数2]
(原料残存率)[%]=β/(原料として供給した2,6−ジメチルフェノールモル濃度)×100
【0063】
さらに、原料として供給した2,6−ジメチルフェノールのうちポリマーの生成に使用された量と、原料として供給した2,6−ジメチルフェノールの濃度との比率によって表される値である2,6−ジメチルフェノールのポリマー率(以下、ポリマー率と略記)を、前記二量体収率及び原料残存率を用いて、下記式により算出した。その結果、本実施例においてポリマー率は0%であった。
【0064】
[数3]
(ポリマー率)[%]=100−(二量体収率)−(原料残存率)
【0065】
これらの結果から、第一工程で得られた3価マンガン溶液から、第二工程において中空糸膜を用いてマンガンペルオキシダーゼを分離し、第二工程後の3価マンガン溶液を用いて、第四工程において酸化反応を行えることが確認された。
また、第二工程において分離されたマンガンペルオキシダーゼを再利用して、第一工程において3価マンガンを製造することが可能であり、さらに、第五工程において分離された2価マンガンを再利用して、第一工程において3価マンガンを製造できることが確認された。
【0066】
以上の結果から明らかなように、本発明の3価マンガンの製造方法によって、水溶液中においてマンガンペルオキシダーゼと2価マンガンと酸化剤とを反応させて得られる3価マンガン溶液から、膜を用いた分画によりマンガンペルオキシダーゼを分離することができ、この結果得られた3価マンガンを用いて、酸化反応を行うことができた。また、分離されたマンガンペルオキシダーゼを再利用して2価マンガンの酸化反応を行っても、未使用のマンガンペルオキシダーゼを用いた場合と同等に3価マンガンを製造することができ、これにより、マンガンペルオキシダーゼを回収しながら3価マンガンの製造を連続的に行えることが確認された。
さらに、前記方法により製造された3価マンガンを用いて酸化反応を行った後、酸化反応生成物から分離した2価マンガンを再利用しても、未使用の2価マンガンを用いた場合と同等に3価マンガンを製造することができ、これにより、2価マンガンを回収しながら3価マンガン及び酸化反応生成物の製造を連続的に行えることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
3価マンガンを安定した収率で効率よく製造することができ、しかも、マンガンペルオキシダーゼを容易に分離及び再利用できるので、酸化剤である3価マンガンを低コストで各産業界に提供できる。また該製造法で製造された3価マンガンを用いて酸化反応生成物を安定した収率で効率よく製造することができ、しかも、同時に生成する2価マンガンを
、あるいは2価マンガン及び未反応の3価マンガンを容易に分離及び再利用できるので、3価マンガン及び酸化反応生成物をより低コストで各産業界に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の3価マンガンの製造方法及び酸化反応生成物の製造方法の一例を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガンペルオキシダーゼの存在下で2価マンガンを酸化する3価マンガンの製造方法であって、
水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、マンガンペルオキシダーゼと2価マンガンと酸化剤とを反応させて2価マンガンを酸化することにより3価マンガンを生成させる第一工程と、
膜を用いた分画により、3価マンガンを含有する反応液からマンガンペルオキシダーゼを分離する第二工程と、
を有することを特徴とする3価マンガンの製造方法。
【請求項2】
第二工程で分離されたマンガンペルオキシダーゼを第一工程へ供給する第三工程を有する請求項1に記載の3価マンガンの製造方法。
【請求項3】
前記第三工程において、マンガンペルオキシダーゼの第一工程への供給量を測定する請求項2に記載の3価マンガンの製造方法。
【請求項4】
前記膜が中空糸膜又は限外ろ過膜である請求項1〜3のいずれか一項に記載の3価マンガンの製造方法。
【請求項5】
前記膜の分画分子量が5千〜2万である請求項1〜4のいずれか一項に記載の3価マンガンの製造方法。
【請求項6】
第一工程で用いる水又は水溶液、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒に有機酸を含有させる請求項1〜5のいずれか一項に記載の3価マンガンの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の3価マンガンの製造方法により製造された3価マンガンを用いて酸化反応を行う第四工程を有することを特徴とする酸化反応生成物の製造方法。
【請求項8】
第四工程で得られた酸化反応生成物から2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンを分離する第五工程を有する請求項7に記載の酸化反応生成物の製造方法。
【請求項9】
第五工程で分離された2価マンガンを第一工程へ供給する第六工程を有する請求項8に記載の酸化反応生成物の製造方法。
【請求項10】
前記第六工程において、2価マンガンの第一工程への供給量を測定する請求項9に記載の酸化反応生成物の製造方法。
【請求項11】
請求項8に記載の酸化反応生成物の製造方法の第五工程で分離された2価マンガンを第一工程へ供給する第六工程を有する請求項1〜6のいずれか一項に記載の3価マンガンの製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の3価マンガンの製造方法の第六工程において、2価マンガンの第一工程への供給量を測定する3価マンガンの製造方法。

【図1】
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