説明

3Dメガネ用偏光子の保護フィルム兼位相差板および3Dメガネ用レンズの製造方法

【課題】打ち抜き加工適性が優れた偏光子保護フィルム兼位相差板を提供するとともに、該保護フィルム兼位相差板を使用した3Dメガネ用のレンズを提供することを課題とする。
【解決手段】メタロセン触媒で重合したポリプロピレン樹脂を溶融して、該溶融状態のポリプロピレン樹脂をダイから押し出して未延伸のフィルムを形成する工程と、該未延伸のフィルムを巻き取り方向に対し斜め延伸する工程により、偏光子保護フィルム兼位相差板を製造する製造方法において、該ポリプロピレン樹脂の曲げ弾性率が900MPa〜1200MPaであることを特徴とする、3Dメガネ用偏光子保護フィルム兼位相差板の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3Dメガネ用偏光子の保護フィルム兼位相差板および3Dメガネ用レンズの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
立体映像表示用のディスプレイ(以後3D表示ディスプレイと呼ぶ)と組み合せて使用される立体視メガネ(以後3Dメガネと呼ぶ)は、右目用映像表示部からの右目用映像を透過し左目用映像表示部からの左目用映像を遮断する偏光板付右目用レンズ、及び左目用映像表示部からの左目用映像を透過し右目用映像表示部からの右目用映像を遮断する偏光板付左目用レンズで構成されている。
【0003】
偏光板だけを使用する3Dメガネレンズでは色調が変化するため、高画質や、色調の高い再現性が要求される映像等を視聴するには、偏光板以外にも位相差板を貼り合せ合わせて色調を補正する必要があった(特許文献1)。
【0004】
映画館での3D映画や家庭用の3D表示ディスプレイが普及するに従い、3Dメガネにも低価格化の要求が強く、偏光板と位相差板の2枚の光学フィルムを使う高価な3Dメガネは、市場の要求に合わなくなってきていた。
【0005】
偏光板は偏光子の両面に保護フィルムを貼り合せており、片方の保護フィルムが位相差板も兼ねることができればコストダウンが可能となるが、従来は偏光子の保護フィルムにはトリアセチルセルロースが使用されており。トリアセチルセルロースは位相差がないことが特徴であり、無理に延伸してもトリアセチルセルロースの吸湿性から経時的に光学特性が変化するので位相差板としては使用できなかった。
【0006】
さらに、3Dメガネレンズに使用される偏光板や位相差板は小さく打ち抜いて使用されるため、打ち抜きの工程中にバリやクラック等が発生しないような加工適性も必要となる。ディスプレイに使用されてきた偏光板や位相差板は、ディスプレイの画面サイズにあった大きなサイズで取り扱われるので、偏光板や位相差板のメガネレンズサイズの打ち抜き加工適性についてこれまでは検討されていなかった。
【0007】
特許文献2には、メタロセン触媒を使用して重合したポリプロピレン樹脂の未延伸のフィルムが、トリアセチルセルロースの代わりに偏光子の保護フィルムとして使用できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−232365号公報
【特許文献2】特開2008‐146023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、打ち抜き加工適性が優れた偏光子保護フィルム兼位相差板を提供するとともに、該保護フィルム兼位相差板を使用した3Dメガネ用のレンズを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、メタロセン触媒で重合したポリプロピレン樹脂を溶融して、該溶融状態のポリプロピレン樹脂をダイから押し出して未延伸のフィルムを形成する工程と、該未延伸のフィルムを巻き取り方向に対し斜め延伸する工程により、偏光子保護フィルム兼位相差板を製造する製造方法において、該ポリプロピレン樹脂の曲げ弾性率が900MPa〜1200MPaであることを特徴とする、3Dメガネ用偏光子保護フィルム兼位相差板の製造方法である。
【0011】
第2の発明は、該偏光子保護フィルム兼位相差板が、フィルムの厚さが80μm〜120μmのλ/4板の位相差板であることを特徴とする第1の発明に記載の偏光子保護フィルム兼位相差板の製造方法である。
【0012】
第3の発明は、第2の発明に記載の偏光子保護フィルム兼位相差板を、トリアセチルセルロースフィルムで片面を貼合された偏光子の非貼合面に貼合して偏光板兼位相差板を形成した後、該偏光板兼位相差板をレンズ状に打ち抜くことを特徴とする3Dメガネ用レンズの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、打ち抜き加工適性に優れた偏光板兼位相差板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の3Dメガネ用レンズフィルムの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第1の態様は、メタロセン触媒で重合したポリプロピレン樹脂を溶融して、該溶融状態のポリプロピレン樹脂をダイから押し出して未延伸のフィルムを形成する工程と、該未延伸のフィルムを巻き取り方向に対し斜め延伸する工程により、偏光子保護フィルム兼位相差板を製造する製造方法において、該ポリプロピレン樹脂の曲げ弾性率が900MPa〜1200MPaであることを特徴とする、3Dメガネ用偏光子保護フィルム兼位相差板の製造方法である。
【0016】
第2の態様は、該偏光子保護フィルム兼位相差板が、フィルムの厚さが80μm〜120μmのλ/4板の位相差板であることを特徴とする第1の態様に記載の偏光子保護フィルム兼位相差板の製造方法である。
【0017】
第3の態様は、第2の態様に記載の偏光子保護フィルム兼位相差板を、トリアセチルセルロースフィルムで片面を貼合された偏光子の非貼合面に貼合して偏光板兼位相差板を形成した後、該偏光板兼位相差板をレンズ状に打ち抜くことを特徴とする3Dメガネ用レンズの製造方法である。
【0018】
メガネを使用する立体映像認識システムとしては、アナグリフ方式、パッシブメガネ方式(以下、単にパッシブ方式とも言う。)、アクティブシャッターメガネ方式(以下、単にアクティブ方式とも言う。)、等が知られている。アナグリフ方式は、表示品位が非常に悪く、いわゆるクロストークが発生してしまう。パッシブ方式及びアクティブ方式はいずれも偏光メガネを利用する。アクティブ方式に用いられる偏光メガネをアクティブシャッターメガネと言い、画像に合せてシャッターを開閉する電子装置であり高価である。
【0019】
パッシブ方式は、偏光メガネ自体を軽量かつ安価に製造することができるが、左眼用画像及び右眼用画像を生成するために、別々の画素を用いる必要がある。そのため、立体映像表示時において通常の平面映像表示時と比べて2倍の空間解像度を必要とし、一般的には立体映像の解像度が低いことが知られている。
【0020】
観察者に対して立体画像を認識させる装置として、右目用の画像と左目用の画像をそれぞれ異なる領域に表示させる画像生成部、および、二つの異なる領域に入射した偏光の光軸を互いに直交させる偏光軸制御板を含む画像表示装置が知られており、このような画像表示装置により表示される上記右目用の画像および左目用の画像を観察者に立体画像として認識させる偏光メガネが知られている。
【0021】
特に家庭用のテレビ、モニター、ホームシアターなどには、液晶表示装置内に偏光板とλ/4板の位相差板を右目画像用と左目画像用とに装着してあり、立体画像として観察するときには従来使用されていた立体視メガネの偏光板の他に、位相差を相殺し色調を調整するためにλ/4板の位相差板が必要であった。ここでλ/4板は1/4波長板のことである。
【0022】
本発明は、偏光子の2枚の保護フィルムのうち1枚をポリプロピレンフィルムで代替し、該ポリプロピレンフィルムにλ/4板の位相差機能を持たせることと、且つレンズ打ち抜き工程に適した保護フィルム兼位相差板を提供するものである。以下詳細に説明する。
【0023】
<ポリプロピレン樹脂>
メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンは、チーグラー・ナッタ触媒を用いて重合されたポリプロピレンと比べて、一般に分子量と結晶性が均一で、低分子量・低結晶性成分が少ないという特長を有する。そのため、メタロセン触媒で重合したポリプロピレンから形成した光学フィルムは、チーグラー・ナッタ触媒で重合したポリプロピレンから形成した光学フィルムよりも、透明性が高いものができる。
【0024】
メタロセン触媒を用いて重合したポリプロピレンは、プロピレンの単独重合体、あるいはプロピレンとα−オレフィンとのランダム共重合体のいずれでもよく、光学特性の観点から、プロピレンとα−オレフィンとのランダム共重合体であることが好ましい。
α−オレフィンとしては、エチレン、炭素数4〜18の1−オレフィンが好ましく用いられ、具体的にはエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ヘプテン、4−メチル−ペンテン−1、4−メチル−ヘキセン−1、4,4−ジメチルペンテン−1などが好ましく挙げられる。
【0025】
共重合体中のプロピレンモノマー単位の割合は、透明性と耐熱性のバランスの観点から、好ましくは80モル%以上100モル%未満であり、共重合させるモノマーは20モル%以下である。共重合させるモノマーとして、前記のα−オレフィンは1種類に限られず、2種類以上を用いることができ、共重合体をターポリマーのような多元系共重合体とすることもできる。なお、共重合体におけるコモノマー由来の構成単位の含量は、赤外線(IR)吸収スペクトルの測定により求めることができる。
【0026】
(メタロセン触媒)
メタロセン触媒としては、公知のものを適宜用いることができる。一般的には、Zr、Ti、Hfなどの4〜6族遷移金属化合物、特に4族遷移金属化合物と、シクロペンタジエニル基あるいはシクロペンタジエニル誘導体の基を有する有機遷移金属化合物を使用することができる。
【0027】
シクロペンタジエニル誘導体の基としては、ペンタメチルシクロペンタジエニルなどのアルキル置換体基、あるいは2以上の置換基が結合して飽和もしくは不飽和の環状置換基を構成した基を使用することができ、代表的にはインデニル基、フルオレニル基、アズレニル基、あるいはこれらの部分水素添加物を挙げることができる。また、複数のシクロペンタジエニル基がアルキレン基、シリレン基、ゲルミレン基などで結合されたものも好適に挙げることができる。
【0028】
(助触媒)
ポリプロピレンの製造において、メタロセン触媒とともに、助触媒を使用することができる。助触媒としては、アルミニウムオキシ化合物、メタロセン化合物と反応してメタロセン化合物成分をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物もしくはルイス酸、固体酸、あるいは、層状ケイ酸塩からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を用いることができる。また、必要に応じてこれらの化合物と共に有機アルミニウム化合物を添加することができる。
【0029】
<添加成分>
本発明で用いられるポリプロピレン樹脂基材フィルムは、上記のポリプロピレン樹脂及びその他の添加成分を含むポリプロピレン樹脂混合物からなるものである。ポリプロピレン樹脂混合物中のポリプロピレン樹脂の含有量は、80重量%以上であることが好ましく、85重量%以上がより好ましい。
【0030】
ポリプロピレン樹脂混合物に含まれる添加成分としては、紫外線吸収剤、安定剤、滑剤、加工助剤、可塑剤、耐衝撃助剤、艶消し剤、抗菌剤、防かびなどが好ましく挙げられる。また、透明性や位相差に影響を与えない範囲で他の高分子樹脂を添加してもよい。
【0031】
上記ポリプロピレン樹脂を、溶融押出しして未延伸の位相差の小さなフィルムを得るためには、ポリプロピレン樹脂のメルトフローレートが重要である。メルトフローレートが小さな樹脂は、押し出したフィルムを巻き取るときに張力がかかりフィルムが延伸されやすくなる。
【0032】
一方、フローレートが大きな樹脂は、押し出し時に流れ落ちてしまうためにうまくフィルムを形成することができない。そのため本発明に使用されるメタロセン触媒で重合したポリプロピレン樹脂のメルトフローレートは、15g/10min〜40g/10minの範囲にある樹脂を用いることにより、未延伸で押し出し成形したフィルムは透明性に優れ、且つ位相差も小さく偏光子の保護フィルムとして使用することができる。さらにメルトフローレートが22g/10min〜33g/10minの範囲のメタロセン触媒で重合したプロピレン樹脂がより好ましい。
【0033】
メルトフローレートとは、溶融した樹脂の流動性を示す値である。ヒーターで加熱された円筒容器内で一定量の合成樹脂を、定められた温度で加熱・加圧し、容器底部に設けられた開口部(ノズル)から10分間あたりに押出された樹脂量を測定する。値はg/10minで表示される。試験機械はJIS‐K6760で定められた押出し形プラストメータを用い、測定方法はJIS‐K7210で規定されている。その測定条件は、230℃、荷重21.18Nである。
【0034】
メタロセン触媒で重合されたポリプロピレン樹脂のメルトフローレートが上記範囲内にあれば、未延伸フィルムの成膜時にひずみの発生を抑えることができ、所望の設計通りの位相差フィルムを得ることができるので好ましい。また、光学フィルムとして十分な強度が得られ、後加工を容易に行うことができる。さらに、製造ロット内でのメルトフローレートの安定が容易となるので安定成形ができ、メルトフローレート調整剤などの添加剤の添加量をおさえることができるので、物性に悪影響を与えることがない。なお、ポリプロピレンのメルトフローレートの調整は、例えば有機過酸化物などの、一般的なメルトフローレート調整剤などによって行うことができる。
【0035】
<加工方法>
(押出し)
メタロセン触媒で重合されたポリプロピレン共重合体で、上記の範囲のメルトフローレートの樹脂を偏光保護フィルムに加工する方法について説明する。加工方法としては、押出し成形法、キャスト法、Tダイ法、水冷インフレーション法、射出成形等の各種成形法によって、フィルム状にすればよく、特にその加工方法を限定さえることはない。偏光板の偏光子に貼り合せるため、収縮の少ない延伸のかからない押出し成形、Tダイ成形が望ましい。
【0036】
押出機の吐出能力は、加熱溶融された樹脂の好ましい滞留時間を勘案のうえ設定される。工業的な観点からは、例えば幅約1500mm程度で厚さ約100μm程度のフィルムを製造する場合、吐出量が最高300kg/h程度の押出機を選ぶことが好ましい。スクリューはポリプロピレンを溶融押出しするための通常のスクリューを使用することが出来、中でも単軸のスクリューが好ましい。
【0037】
本発明の溶融押出しによるフィルム製造においては、樹脂押出し後フィルターを通すことが好ましい。フィルターとしては、必要なろ過面積を持ったリーフディスク状のフィルターエレメントおよびこれを保持する円筒形のハウジングからなる構成を有するものが好ましい。例えば長瀬産業の商品名「デナフィルター」等が好適に使用される。
【0038】
フィルターエレメントとして、平均空孔径が5〜20μmの範囲にある金属不織布製のものを用いることが好ましく、より好ましくは平均空孔径が5〜10μmの範囲である。
用いるフィルターエレメントの空孔径が大きすぎると異物の捕集能力に劣るためフィルム内に異物欠点が目立つようになり、一方で小さすぎると差圧が高くなりポリマーの流量、ろ過速度を上げることが出来ず、かえってフィルター内で滞留を起こしやすくなることにより異物発生量が増える恐れがあるため好ましくない。
【0039】
材質としては樹脂が滞留しても熱劣化等を促進させない材質が好ましく、具体的にはステンレスを挙げることが出来る。かかるファインフィルターを用いることにより、未延伸段階のみならず延伸後でもフィルムに異物、欠点が少ないポリプロピレンフィルムを得ることが可能である。
【0040】
本発明に用いる溶融押出しダイとしては、ダイの幅方向の中央部から樹脂を供給するタイプのTダイまたはTダイを樹脂の流入部で二分した形状のダイとし、ダイの幅方向の一端部から樹脂を流入させるタイプのТダイ等従来公知のものを用いることができる。本発明においてダイの開度(リップ開度)は、所望のフィルム厚みをtとしたときに、5t〜25tの範囲とすることが好ましく、より好ましくは7t〜20tの範囲である。
【0041】
具体的には例えば厚み100μmのフィルムの場合には、リップ開度を0.5〜2.5mmとすることが好ましく、0.7〜2mmとすることがより好ましい。かかる範囲にダイリップを調整することにより、吐出する樹脂がダイリップで受ける剪断応力が軽減され、複屈折率、特に面内の複屈折率を小さく抑えることができる。またかかるリップ開度はフィルム厚みに対して十分に広いため、ダイリップのキズや付着物等との接触により生じるダイ筋が軽減されるという有利な効果もある。本発明におけるような位相差フィルム用途では、フィルムのダイ筋は可能な限り抑制することが望ましい。
【0042】
フィルム幅方向の厚みムラの調整にはダイのリップボルトを機械的に回転させて、リップ間隙を調整する方式や、ダイリップに一定間隔で加熱装置をつけ、それらを個別に温度調整して溶融樹脂の粘度の温度変化を利用してフィルム厚みを調整する方式(温度リップ)を採ることができる。
【0043】
ダイより押出した溶融樹脂フィルムの冷却方式としては、1個のロールのみを使用して冷却するもの、複数個のロールを使用して冷却するもののいずれも用いることができる。冷却ロールの温度としては、使用するポリプロピレン樹脂に対し、20〜120℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは30〜50℃の範囲である。
【0044】
冷却ロールの温度を、上記範囲を超えて低くすると樹脂フィルムのロールへの密着性が低下し、その結果空気の巻き込みが起こりやすくなりフィルムの均質性が低下する傾向にある。一方で冷却ロールの温度が高い場合には、フィルムのロールへの密着性が高くなりすぎ、フィルムがロールから剥離する時にフィルムに傷や歪み等が生じやすくなり、好ましくない。
【0045】
冷却ロールの表面温度は均一に制御できるものを用いることが好ましい。ロールの表面温度を均一に保つために、内部に温度を制御した冷却媒体を流すことが好ましい。また冷却ロール表面は鏡面であるものを用いることが好ましく、硬質クロームやセラミック等の素材からなるものが好ましく用いられる。
【0046】
またこのときのエアーギャップ、すなわちダイの先端部と冷却ロール上の溶融樹脂の落下点との間隙は、5〜50mmであることが好ましい。エアーギャップは5〜30mmであることがより好ましく、更に5〜25mmとすることが好ましい。
エアーギャップが広すぎると溶融樹脂が周辺空気の乱れ等の影響により揺れることがあり、それがフィルム送り方向の微小な厚みムラ、ひいては延伸後の位相差ムラにつながることがある。
【0047】
本発明において、フィルムの製膜速度は特に制限はなく、フィルム物性を満足する範囲で適宜に設定することができる。生産性の点からは製膜速度は速い方が望ましいが、速すぎるとキャスト部分でのエアーの巻き込み等によりロールへの密着性が低下し、フィルムの均質性が損なわれるおそれがある。本発明において、好ましい製膜速度は、3〜50m/分であり、より好ましくは5〜30m/分である。
【0048】
(未延伸フィルムの幅方向の厚みムラ)
未延伸フィルムの幅方向の厚みムラ(Tc/Te)は下記式を満たすことが好ましい。
1.02<Tc/Te<1.10
(但し、Tcはフィルム中心の厚み、Teはフィルム端部の厚みである。)
より好ましくは1.03<Tc/Te<1.07の範囲である。
フィルム端部の厚みTeとは、フィルム端から20mmの距離にあるフィルム両端それぞれの厚みのことであり、両端2箇所どちらの厚みもかかる範囲内に入っていることを意味する。
【0049】
厚みムラはフィルム中心を基準として、幅方向に沿って対称的であることが好ましい。かかる値が、1.02以下であると、フィルム幅方向の位相差ムラを±5nmの範囲に抑えることが困難となり、1.10以上であると逆にフィルム中心部の位相差のほうが高くなり位相差ムラを±5nmの範囲に抑えることが困難となり、また厚みムラが大きいことから延伸によるシワ等の問題も生じやすくなる。
【0050】
(巻き取り)
かくして得られた未延伸フィルムを延伸することにより本発明の位相差フィルムが得られるが、本発明ではかかる未延伸フィルムの段階で一旦巻き取り、別途延伸しても良いし、製膜と延伸を連続して行っても良いが、工業的な観点からは、製膜と延伸を連続して行う製造方法が生産性の面から好ましい。
未延伸段階で一旦巻き取り、フィルム巻層体とする場合には、フィルム表面保護のため、また巻きずれ防止のため、他の高分子フィルム、例えば表面に弱粘着層を持ったポリオレフィン製マスキングフィルムを用いる方法等を好ましく採用できる。
【0051】
(延伸)
本発明の偏光子保護フィルム兼位相差板を製造する延伸方法としては、ロール間で延伸する縦一軸延伸、テンターを用いる横一軸延伸、あるいはそれらを組み合わせた同時二軸延伸、逐次二軸延伸など公知の方法を用いることが出来る。目的に応じて最適の延伸方法を選択すれば良い。
【0052】
未延伸のフィルムを巻き取り方向に対し略45度に斜め延伸することが好ましい。本発明の偏光子保護フィルム兼位相差板が好適に用いられるのは、偏光板の軸に合わせて略45度設定であるため、ポリプロピレンフィルムを略45度に斜め延伸することが後の貼り合せ加工で無駄がなくなるからである。斜め延伸加工法は、従来公知の方法で実施した。
【0053】
ロール間での延伸においては延伸ムラを小さくするため、延伸室内のフィルム幅方向温度は±0.5℃程度にするのが好ましい。そのためロール間ではフィルムを空気噴流で加熱することが好ましく、かかる熱風である噴流の速度は5〜25m/秒の範囲にあることが好ましい。本発明の延伸において、延伸温度は、ポリプロピレンフィルムの熱変形温度の−5℃〜+30℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは0℃〜+20℃の範囲である。
【0054】
また延伸倍率は目的とする位相差値を実現するために適宜選択され特に制限はないが、およそ1.05〜1.55倍の範囲である。また延伸速度は生産性の点からは速いほうが好ましいが、速度が速いほど位相差値は高くなる傾向にあるため、延伸温度および延伸倍率との兼ね合いで決められ、繰り出し速度がおよそ2〜30m/分の範囲である。
【0055】
延伸終了後のフィルムが延伸ゾーンから出て冷却される際、フィルムを空間で冷却する場合にも、またフィルムをロールに接触させて冷却させる場合にもフィルム温度を延伸温度から室温まで急激に下げると、フィルムの熱収縮によりフィルムの縦方向、すなわち送り方向に平行に皺が入りやすい。この膨張、収縮による皺は急冷するとそのまま固定され縦方向にほぼ並行な波板状のいわゆる波皺となって残ることがある。かかる波板状の皺は延伸後のフィルムを80〜150℃の温度でロールに接触させるかまたはロール間で空気熱処理して、引き続き室温まで冷却すれば抑えることが可能である。
【0056】
(平均厚み)
本発明の偏光子保護フィルム兼位相差板は、その平均厚みが80〜120μmである。厚みが80μmより薄いと取り扱いが困難となり、120μmより厚い場合は、薄膜化が求められる位相差フィルムとして相応しくなく、また延伸時に延伸倍率が低くなることから位相差の均一性および光軸を合わせることが困難となる。また、120μmの厚みを超えるとフィルムの透明性が低下し、製品巻取りの重量も増し、ハンドリング困難となり、コストにも悪影響を与える。ここで平均厚みとは、フィルムの厚みを全幅方向に連続的にあるいは一定間隔毎に測定した値の平均値のことを示す。
【0057】
(面内の位相差R;589)
本発明の偏光子保護フィルム兼位相差板は、波長589nmで測定したそのフィルム面内の位相差R;589が50〜300nmの範囲内にあるように加工する。ここで面内位相差Rとは下記式(1)で定義されるものであり、フィルムに垂直方向に透過する光の位相の遅れを表す特性である。
R=(nx−ny)×d 式(1)
ここで、nXはフィルム面内の遅相軸(最も屈折率が高い軸)の屈折率のことであり、nyはフィルム面内でnx垂直方向の屈折率であり、dはフィルムの厚さである。
【0058】
具体的なR値として、ポリプロピレン位相差フィルムでは延伸によるいわゆるλ/4板、λ/2板、λ板がよく用いられていることから、R=140nm、280nm、570nm前後のものを好ましく挙げることが出来る。かかる延伸による位相差フィルムの場合には、厚み方向も含めたフィルムの3次元複屈折が、nx>ny=nzであるいわゆるAマイナスプレートに近いフィルムが視野角の点で好ましい。言い換えれば、下記式(2)で定義されるNz係数が、出来る限りNz=1に近いほうが好ましい。
Nz=(nx−nz)/(nx−ny) 式(2)
(上記式(2)中のnx、ny、nzはそれぞれフィルムの3次元屈折率であり、nxは面内遅相軸(x軸)の屈折率、nyは面内方向においてx軸と直交する方向(y軸)の屈折率、nzはx軸およびy軸を含む面に垂直な厚み方向(Z軸)の屈折率である。)
【0059】
流延法による未延伸フィルムの製膜では、乾燥過程で面配向によりnzが低下しやすく、従って縦一軸延伸後もNZが1より大きくなりやすいのに対し、溶融押出しの場合は未延伸フィルムの段階では、nzも含めた3次元での光学等方性が高いのでNz=1により近い縦一軸延伸フィルムが得られやすい。本発明では、延伸後のNzが、0.98≦Nz≦1.02であることが好ましく、より好ましくは、0.99≦Nz≦1.01である。
【0060】
また本発明の偏光子保護フィルム兼位相差板は、波長589nmで測定したフィルム面内の位相差R;589のムラが、±7nmの範囲にあることを特徴とする。ここで±7nmとは、フィルムの平均値からのバラツキの範囲を示す。具合的にはフィルムを縦方向および横方向に何点か、連続的に位相差を測定してフィルム全体の平均値を求め、全測定値の最大値および最小値の、その平均値からの乖離を求めることにより算出される。
【0061】
λ/4板は、少なくとも波長589nmの光に対して略1/4波長のリタデーションを有する層である。λ/4板のリタデーションは、波長589nmの光に対して100nm以上、180nm以下であればよく、120nm以上、160nm以下であることが好ましく、130nm以上、145nm以下であることがより好ましい。また、位相差ムラは好ましくは±7nm、さらに好ましくは±5nmの範囲である。
【0062】
一般に、延伸後のフィルムの位相差ムラに一番影響を及ぼすのは未延伸段階でのフィルムの厚みムラである。フィルムの厚みムラには、フィルム幅方向(横方向)とフィルム送り方向(縦方向)があるが、本発明では未延伸フィルム段階での厚みムラとして、フィルム送り方向にはできる限り厚みムラの揃ったものが好ましいが、フィルム幅方向に関しては、フィルム中心部のほうを端部よりやや厚く盛り上がった形にすることが好ましい。かかる際の厚み変化はできる限り滑らかにすることが好ましい。
【0063】
本発明の偏光子保護フィルム兼位相差板は、その光軸、すなわちフィルム面内の遅相軸が出来るかぎり揃っていることが好ましい。具体的には、好ましい形態として挙げられる延伸による位相差フィルムの場合において、その光軸のばらつきが延伸方向、すなわちフィルム送り方向に対して、±3°の範囲内であることが好ましく、より好ましくは±1°の範囲内である。かかる光軸は、延伸段階における延伸機内の温度の均一性、延伸倍率、延伸温度等を調整することにより制御することが可能である。
【0064】
ロール状に巻き上げる方法としては、表面に弱粘着層を持ったマスキングフィルムと本発明のフィルムとを重ね巻きして使用に供する方法等を採用することができる。かかるフィルム表面の保護方法は使用する条件によって好ましい方法を選択することが出来るが、マスキングフィルムを用いる方法が取り扱い面、生産性、フィルム物性への影響の面から好ましく挙げられる。
【0065】
一般的にはマスキングフィルムはポリエチレンのようにヤング率の低い、比較的やわらかいフィルムを基材として、表面が弱粘着性を持つように加工されたものが多用されている。これらのマスキングフィルムを本発明のフィルム製造工程中において、フィルムに重ね巻きするが、まずマスキングフィルムを巻きだし機にセットして巻きだす。この際、巻きだし張力でマスキングフィルムが引っ張られて変形しないように極力弱い力で巻きだすようにしなければならない。このようにして巻きだしたマスキングフィルムを本発明のフィルムに合流させて、マスキングフィルムの粘着面を本発明フィルムの面に向けてニップロールで弱くニップして貼りあわせ、その後巻き取ることが好ましい。また、マスキングフィルムと貼りあわせた複合体もやはり弱い巻き取り張力で巻き取ることが好ましい。
【0066】
≪接着剤≫
トリアセチルセルロースフィルムとポリビニルアルコールの偏光子の接着には、ポリビニルアルコールの水系接着剤が使用される。具体的にはアセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂と架橋剤の水溶液が使用される。本発明の保護フィルム兼位相差板と偏光子の接着にもこの水系接着剤を利用することができる。
【0067】
(アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂)
アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂は、ポリビニルアルコールとジケテンの反応で得られる。例えばポリビニルアルコールを酢酸溶媒中に分散させてジケテンを添加する方法、ポリビニルアルコールをジメチルホルムアミドまたはジオキサンに溶解し、ジケテンを添加する方法などがある。
【0068】
使用するポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化して得られるポリビニルアルコール及びその誘導体が使用できる。あるいは酢酸ビニルと共重合性を有する単量体との共重合体をケン化したものが使用できる。さらには前記ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール誘導体、ポリビニルアルコール共重合体を、アセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化などをした変性ポリビニルアルコールが使用できる。
【0069】
上記の方法でアセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂を製造してもよいが、市販されているアセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂を利用するのが簡便である。
【0070】
もちろん、本発明の偏光子保護用光学フィルムの接着剤が水系接着剤に限定されることなく、イソシアネート系接着剤やエポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤など、通常極性基を持つ材料表面の接着に使用できる接着剤も使用することができる。
【0071】
(架橋剤)
アセトアセチル基は反応性が高く、種々の官能基と反応するためいろいろな架橋剤が使用できる。例えばアミン化合物、アルデヒド化合物、メチロール化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、多価金属塩などが用いられる。
【0072】
架橋剤としては例えば、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のアルキレン基とアミノ基を2個有するアルキレンジアミン類;トリレンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート、トリメチロールプロパン−トリレンジイソシアネートアダクト、トリフェニルメタントリイソシアネート、メチレンビス(4−フェニルメタントリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、及びこれらのケトオキシムブロック物又はフェノールブロック物等のイソシアネート類;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジ又はトリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルアミン等のエポキシ類;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド等のモノアルデヒド類;グリオキザール、マロンジアルデヒド、スクシンジアルデヒド、グルタルジアルデヒド、マレインジアルデヒド、フタルジアルデヒド等のジアルデヒド類;アルキル化メチロール尿素、アルキル化メチロールメラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミンとホルムアルデヒドとの縮合物等のアミノ−ホルムアルデヒド樹脂;ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、鉄、ニッケル等の二価金属、又は三価金属の塩及びその酸化物が挙げられる。
【0073】
≪アンカー樹脂≫
アンカー樹脂は、本発明の保護フィルム兼位相差板の表面に塗布して、偏光子との接着性を向上させるために使用する。
【0074】
本発明に使用するアンカー樹脂は、偏光子と接着するPVA系樹脂との化学的親和性を有する樹脂である限りは、特に限定されるものではなく、アセトアセチル基と反応する官能基をもつ親水性樹脂や、硬化した接着剤と親和性を持つ官能基を持つアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などの親水性樹脂が好ましく挙げられる。これらの親水性樹脂は、単独であるいは複数を組み合わせて使用することができる。また、これらの親水性樹脂の重量平均分子量は、通常100〜100,000程度であり、好ましくは200〜40,000である。
【0075】
アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などの親水性樹脂あるいはさらにそれらの樹脂を変性した樹脂は、合成してもよいが、市販されている各種性能の樹脂を選択して使用することができる。
【0076】
さらに、親水性樹脂にシランカップリング剤で処理することにより接着性を強化することができる。例えば、イソシアネート基含有アルコキシシラン類、アミノ基含有アルコキシシラン類、メルカプト基含有アルコキシシラン類、カルボキシ含有アルコキシシラン類、エポキシ基含有アルコキシシラン類、ビニル型不飽和基含有アルコキシシラン類、ハロゲン基含有アルコキシシラン類およびイソシアヌレート基含有アルコキシシラン類などから選択して使用することができる。
【0077】
本発明の保護フィルム兼位相差板にアンカー樹脂を塗布するには、アンカー樹脂に対する密着性を向上させる必要がある。ポリプロピレン樹脂を押出成形するときのマスターバッチに親水基を持つ樹脂をブレンドしておくと、親水性樹脂との密着性は良好になる。
【0078】
あるいは、形成後のフィルムにコロナ処理、プラズマ処理、火炎処理などを施すことにより、アンカー樹脂に対する密着性を向上させることができる。さらに、前記シランカップリング剤で処理することにより、アンカー樹脂に対する密着性を格段に向上することができる。
【0079】
保護フィルム兼位相差板のポリプロピレンフィルムの表面が傷つきやすい場合には、表面にハードコート層を設けてもよい。例えば、多官能アクリレートの紫外線硬化樹脂を塗布して、活性エネルギーを照射して硬化することができる。
【実施例】
【0080】
≪測定方法≫
(位相差の測定)
フィルムの面内位相差Rは、王子計測機器株式会社製の位相差測定装置「KOBRA‐WR」を用いて測定した。波長589nmで位相差Rを測定し、Nzは3次元屈折率測定モードを用いて測定した。フィルムの遅相軸は、フィルム送り方向(縦方向)を0°として遅相軸を測定した。
【0081】
(フィルムの厚み測定)
ソニー株式会社製のデジタルマイクロメーターで測定した。なお実施例、比較例では延伸後のフィルム中心部の厚みと平均厚みを示した。平均厚みはフィルムの幅方向に平行に10mmピッチで全幅にわたって厚みを測定し、その平均値を平均厚みとした。
【0082】
(打ち抜き適性の評価)
偏光レンズ基材の打ち抜き適性についての評価を行った。打ち抜き適性は、トムソン刃により光学シートを打ち抜くことにより評価した。5枚重ねて置いて打抜き、4隅から内側に入るクラックを観察した。評価基準は以下の通りとした。

○:所定の大きさに打ち抜ける。
△:所定の大きさに打ち抜けるが、基材に4すみから内側にクラックが入る。
×:所定の大きさに打ち抜けないか、基材が割れる、あるいはバリ不良が出る。
【0083】
(クリア感の評価)
偏光板にした後での、基材表面の状態を外観で判断した。

○:クリア感があり問題なし。
×:基材に白っぽさが見られる。クリア感がない。
【0084】
<実施例1〜実施例4>
(溶融押出し)
日本ポリプロ株式会社製の、メタロセン触媒で重合したポリプロピレン共重合体樹脂ウィンテック(登録商標)のなかから曲げ弾性率の異なる3種の樹脂を選択し、これらの樹脂を除湿熱風乾燥機を用いて80℃で4時間ペレットを乾燥させた。これらの樹脂をそれぞれ下記の方法で表1に示す厚みのフィルムを形成した。
【0085】
押出し機は単軸スクリューであるものを用いた。乾燥した樹脂ペレットを80℃に加熱した溶融押出機の加熱ホッパーに投入した。押出機シリンダ温度を190℃とし、押出機とTダイの間に平均目開きが10μmのSUS不織布製のリーフディスク状フィルターを用いた。
【0086】
吐出直後の溶融樹脂を200℃に設定したTダイにより、回転する冷却ロール面に押出した。押出しダイのリップ幅は1,800mm、リップ開度は1mmであった。ダイリップはその下面に凹凸がない平坦なものを用いた。冷却ロールは3本構成であり、直径が360mmφ、ロール面長が1,900mm、ロールの表面温度が均一になるように冷媒を循環させて制御する構造のものを用いた。
【0087】
ダイリップ先端部と冷却ロール面とのエアーギャップを15mm、第1冷却ロール温度を100℃、第2冷却ロール温度を100℃、第3冷却ロール温度を100℃とし、第1冷却ロールの周速度をR1、第2冷却ロールの周速度をR2、第3冷却ロールの周速度をR3としたときに、R1=8m/分とし、またその比率R2/R1を1.005、比率R3/R2を1.000とした。第1冷却ロール、第2冷却ロール、第3冷却ロールと順次フィルムを外接させ、テイクオフロールを介してフィルムを巻き取った。
【0088】
フィルムの幅方向の厚みに関して、フィルム中心部が厚くなるよう山形に調整してから、フィルム両端部を100mmずつエッジカットして1,500mm幅、厚み約130μm以下のフィルムとして、厚さ30μmのポリエチレン製のマスキングフィルムと1,000mを共巻して、未延伸フィルムの巻層体を得た。
【0089】
(フィルムの延伸)
次いで、このフィルム巻層体をゾーン長7m、乾燥炉内のニップロール間で延伸する延伸機の繰り出し機にセットして、マスキングフィルムを剥がしながら斜め延伸機に通し、繰り出し速度6m/分、温度120℃で縦換算で1.20倍の延伸を略45度に行い、厚み30μmのポリエチレン製マスキングフィルムをつけてエッジカットして巻き取り、ロール状の延伸フィルムを得た。
【0090】
延伸フィルムは位相差140nmのλ/4板であり、位相差ムラが小さく遅相軸のばらつきも小さかった。また大きさ100μm以上のフィルム欠点は自動検出装置、目視どちらにおいてもほとんど見られず、またダイ筋も小さく外観上極めて均一性の高いものであり、位相差フィルムとして好適なものであった。
【0091】
<比較例1>
実施例1のポリプロピレン共重合体樹脂と曲げ弾性率が等しいチグラー触媒のホモポリプロピレンを、実施例1と同様にして溶融押出し、フィルム両端部を100mmずつエッジカットして1,500mm幅、厚み130μm以下のフィルムとした。厚さ30μmのポリエチレン製のマスキングフィルムと1,000m共巻して、未延伸フィルムの巻層体を得た。次いで実施例1と同様の延伸機を用いて斜め延伸を行ったところ、延伸が不安定であり、フィルムの破断、シワが多く見られ安定して延伸することが出来なかった。延伸が不安定だったためか特にフィルム送り方向の位相差ムラが±12nmと位相差ムラの大きいフィルムであった。
【0092】
<比較例2>
実施例2と同じポリプロピレン共重合体樹脂を使用し、厚み300μmのフィルムを作成して同等の評価を実施した。
【0093】
<比較例3>
実施例3と同じポリプロピレン共重合体樹脂を使用し、厚み70μmのフィルムを作成して同等の評価を実施した。
【0094】
<比較例4>
:曲げ弾性率が800MPaのメタロセン触媒で重合したポリプロピレン樹脂を使用し、厚みを120μmとなるように実施例1と同様に作成し、同等の評価を実施した。
【0095】
実施例1〜4、及び比較例1〜4の評価結果を表1に示す。
表1: 保護フィルムの特性と評価結果
【表1】

【0096】
<実施例5>
実施例1で得たポリプロピレン位相差フィルムにコロナ処理を施し、その表面へユニストール(登録商標)P−901(水酸基含有ポリオレフィンの22%トルエン溶液、トルエン除去物は固体・固形分のMn>5000、水酸基価50mgKOH/g、三井化学社製)を全面にコンマコーター方式で塗工し、乾燥して塗工厚み2μmとなるように作成した。
【0097】
80μm厚のトリアセチルセルロースを片面に接着したPVA偏光子に、前記ポリプロピレン位相差フィルムのユニストール塗布面に水系接着剤を塗布して、PVA偏光子のトリアセチルセルロースの接着面の反対に接着した。このとき偏光子の吸収軸と位相差フィルムの遅相軸が45度の角度となるようにして貼り付けた。
【0098】
水系接着剤には下記組成の接着剤を使用した。

反応型ポリビニルアルコール :10重量部
「日本合成化学工業株式会社製、ゴーセファイマー(登録商標)Z‐300」
ヘキサメチレンジアミン :2重量部
水 :190重量部
【0099】
このフィルムをメガネのフレーム形状を想定した様々な形状にて打ち抜くテストを行ったが、いずれもフィルムの欠け、割れは観察されず3D偏光メガネ用途にも問題ないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明により、打ち抜き加工適性が優れた偏光子保護フィルム兼位相差板を提供するとともに、該保護フィルム兼位相差板を使用した3Dメガネ用のレンズを提供することができる。
【符号の説明】
【0101】
1.トリアセテートフィルム
2.偏光子
3.偏光子保護フィルム兼位相差板
10.偏光板兼位相差板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタロセン触媒で重合したポリプロピレン樹脂を溶融して、該溶融状態のポリプロピレン樹脂をダイから押し出して未延伸のフィルムを形成する工程と、
該未延伸のフィルムを巻き取り方向に対し斜め延伸する工程により、
偏光子保護フィルム兼位相差板を製造する製造方法において、
該ポリプロピレン樹脂の曲げ弾性率が900MPa〜1200MPaであることを特徴とする、3Dメガネ用偏光子保護フィルム兼位相差板の製造方法。
【請求項2】
該偏光子保護フィルム兼位相差板が、フィルムの厚さが80μm〜120μmのλ/4板の位相差板であることを特徴とする請求項1に記載の偏光子保護フィルム兼位相差板の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の偏光子保護フィルム兼位相差板を、トリアセチルセルロースフィルムで片面を貼合された偏光子の非貼合面に貼合して偏光板兼位相差板を形成した後、
該偏光板兼位相差板をレンズ状に打ち抜くことを特徴とする3Dメガネ用レンズの製造方法。

【図1】
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