説明

4−ニトロソジフェニルアミン類の製造方法

【課題】ジフェニルアミン類を良好な転化率で反応させ、4−ニトロソジフェニルアミン類を良好な選択率で製造しうる方法を提供すること。
【解決手段】溶媒中、ジフェニルアミン類を塩化水素及びNOと反応させて4−ニトロソジフェニルアミン類を製造する方法であって、(1)NOにおけるXの値が1.41〜1.45であり、かつ(2)ジフェニルアミン類1モルに対して0.0010〜0.05モルのソルビタンモノステアレートの存在下に前記反応を行うことを特徴とする4−ニトロソジフェニルアミン類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジフェニルアミン類をニトロソ化して4−ニトロソジフェニルアミン類を製造する方法に関する。本発明により得られる4−ニトロソジフェニルアミン類は、天然ゴム、合成ゴムの酸化防止剤やアゾ染料等の原料として有用である。
【背景技術】
【0002】
ジフェニルアミン類を塩化水素及びニトロソ化剤と反応させて4−ニトロソジフェニルアミン類を製造する方法として、特開平7−10815号公報(特許文献1)には、ニトロソ化剤として、Xの値が1.17〜1.66であるNO(酸素原子に対する窒素原子の比は0.6〜0.85)を上記反応に用いる方法が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−10815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の方法は、ジフェニルアミン類の転化率や4−ニトロソジフェニルアミン類の選択率の点で、必ずしも満足のできるものではなかった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、ジフェニルアミン類を良好な転化率で反応させ、4−ニトロソジフェニルアミン類を良好な選択率で製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる状況のもと、本発明者等は鋭意検討の結果、Xが所定の値であるNOを上記反応に用い、かつ、所定量のソルビタンモノステアレートの存在下に上記反応を行うことにより、上記目的を達成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、溶媒中、ジフェニルアミン類を塩化水素及びNOと反応させて4−ニトロソジフェニルアミン類を製造する方法であって、(1)NOにおけるXの値が1.41〜1.45であり、かつ(2)ジフェニルアミン類1モルに対して0.0010〜0.05モルのソルビタンモノステアレートの存在下に前記反応を行うことを特徴とする4−ニトロソジフェニルアミン類の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ジフェニルアミン類を良好な転化率で反応させ、4−ニトロソジフェニルアミン類を良好な選択率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明では、溶媒中、ジフェニルアミン類を塩化水素及びNOと反応させて4−ニトロソジフェニルアミン類を製造するにあたり、(1)NOにおけるXの値が1.41〜1.45であること、及び(2)ジフェニルアミン類1モルに対して0.0010〜0.05モルのソルビタンモノステアレートの存在下に前記反応を行うことを特徴とする。このようにXが所定の値であるNOを上記反応に用い、所定量のソルビタンモノステアレートの存在下に上記反応を行うことにより、ジフェニルアミン類を良好な転化率で反応させ、4−ニトロソジフェニルアミン類を良好な選択率で製造することができる。
【0010】
本発明で用いられるジフェニルアミン類は、無置換のジフェニルアミン、又は、フェニル基に置換基を有する置換ジフェニルアミンであり、かかる置換基の例としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲノ基等が挙げられる。ジフェニルアミン類の具体例としては、ジフェニルアミン、2−メチルジフェニルアミン、3−メチルジフェニルアミン、4−メチルジフェニルアミン、2−エチルジフェニルアミン、3−エチルジフェニルアミン、4−エチルジフェニルアミン、2−シクロヘキシルジフェニルアミン、3−シクロヘキシルジフェニルアミン、4−シクロヘキシルジフェニルアミン、2−メトキシジフェニルアミン、3−メトキシジフェニルアミン、4−メトキシジフェニルアミン、2−クロロジフェニルアミン、3−クロロジフェニルアミン、4−クロロジフェニルアミン、2−ブロモジフェニルアミン、3−ブロモジフェニルアミン、4−ブロモジフェニルアミン等が挙げられる。中でも、ジフェニルアミンが好適に採用される。
【0011】
溶媒としては、炭素数1〜10の脂肪族アルコールが好ましく用いられ、その具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール等が挙げられる。好ましくは、ブタノール、ヘキサノール、2−エチルヘキサノール等の炭素数4〜8の脂肪族アルコールを用いることができる。また、上記アルコールを2種以上用いることもでき、上記アルコールにくわえ、上記反応に対し反応性を有さない溶媒を併用することもできる。反応性を有さない溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタンのような脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素、クロロホルムのような塩素化脂肪族炭化水素、モノクロロベンゼンのような塩素化芳香族炭化水素等を挙げることができる。また、水を共存させることも可能である。本発明においては、炭素数4〜8の脂肪族アルコールと芳香族炭化水素の混合溶媒を用いるのがより好ましい。溶媒の使用量は、適宜選択しうるが、通常、ジフェニルアミン類に対して2〜20重量倍である。
【0012】
塩化水素は、ガス状のものを用いてもよく、溶媒に溶解させてなる溶液として用いてもよい。塩化水素の使用量はジフェニルアミン類1モルに対して通常1.2〜3.0モル、好ましくは1.5〜2.7モルである。
【0013】
NOxは窒素酸化物のことをいい、NOxにおけるXの値は、1.41〜1.45である。NOxは一酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO2)とを混合して得ることができ、NO2はNOとO2とを混合することによって得られるので、NOxはNOとO2とを混合することによって容易に得ることができる。また、NO及びO2の混合割合を調整することにより、NOxにおけるXの値も調整することができる。NOxの使用量は、NOxをNOとNO2の混合物とみなして求めた組成において、NO2がジフェニルアミン類1モルに対し、通常0.4〜1.5モル、好ましくは0.5〜1.0モルである。
【0014】
ソルビタンモノステアレートの使用量は、ジフェニルアミン類1モルに対して、通常0.0010〜0.05モル、好ましくは0.0020〜0.02モル、更に好ましくは0.0020〜0.01モルである。ソルビタンモノステアレートは、そのまま使用してもよいし、あらかじめ溶媒に溶解させてなる溶液を使用してもよい。
【0015】
反応温度は、通常約0〜60℃であり、好ましくは約20〜40℃である。反応圧力は常圧でも加圧でもよいが、常圧で十分な結果が得られる。反応時間は、ジフェニルアミン類に対する塩化水素の使用量、反応温度により変わるが、通常約0.5〜20時間程度である。
【0016】
反応方式や混合処方については適宜選択することができる。例えば、回分式反応でもよいし、連続式反応でもよい。回分式反応では、ジフェニルアミン類、ソルビタンモノステアレート及び溶媒を予め反応器に導入しておき、該混合物に、塩化水素を加え、次いでNOxを加えてもよく、また、該混合物に、塩化水素及びNOxを併注(共フィード)してもよい。連続式反応では、溶媒又は反応混合物が導入されている反応器に、ジフェニルアミン類、ソルビタンモノステアレート、塩化水素及びNOxをそれぞれ連続的に供給することができ、また、これら試剤を供給する際、予め溶媒で希釈されたものを供給してもよい。
【0017】
単離操作についても種々の方法が可能である。例えば、反応終了後、4−ニトロソジフェニルアミン類が塩酸塩としてスラリーになっている場合には、そのままろ過し、目的物を塩酸塩の結晶として取得することもできるし、アルカリ水溶液で中和したあと、晶析等によりフリーの4−ニトロソジフェニルアミン類を得ることもできる。また、過剰量のアルカリ水溶液を加え、4−ニトロソジフェニルアミン類がアルカリ金属塩として溶解されてなる水溶液を取得することも可能である。尚、ろ過した場合におけるろ液や、アルカリ水溶液で抽出した場合における油層を再度反応に用いることができ、これにより、該ろ液や該油層中に含まれているソルビタンモノステアレートを再度使用することができる。
【0018】
かくして得られる4−ニトロソジフェニルアミン類は、4−アルキルアミノジフェニルアミンのようなゴム老化防止剤等の原料として使用することができる。かかる4−ニトロソジフェニルアミン類の具体例としては、4−ニトロソジフェニルアミン、2−メチル−4’−ニトロソジフェニルアミン、3−メチル−4’−ニトロソジフェニルアミン、4−メチル−4’−ニトロソジフェニルアミン、2−エチル−4’−ニトロソジフェニルアミン、3−エチル−4’−ニトロソジフェニルアミン、4−エチル−4’−ニトロソジフェニルアミン、2−シクロヘキシル−4’−ニトロソジフェニルアミン、3−シクロヘキシル−4’−ニトロソジフェニルアミン、4−シクロヘキシル−4’−ニトロソジフェニルアミン、2−メトキシ−4’−ニトロソジフェニルアミン、3−メトキシ−4’−ニトロソジフェニルアミン、4−メトキシ−4’−ニトロソジフェニルアミン、2−クロロ−4’−ニトロソジフェニルアミン、3−クロロ−4’−ニトロソジフェニルアミン、4−クロロ−4’−ニトロソジフェニルアミン、2−ブロモ−4’−ニトロソジフェニルアミン、3−ブロモ−4’−ニトロソジフェニルアミン、4−ブロモ−4’−ニトロソジフェニルアミン等が挙げられる。また、ここでいう4−ニトロソジフェニルアミン類は、フリーのものでもよく、塩酸塩やアルカリ金属塩であってもよい。本発明は、中でも4−ニトロソジフェニルアミンを製造する方法として有利に採用される。
【実施例】
【0019】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0020】
ジフェニルアミン及び4−ニトロソジフェニルアミンの分析は、高速液体クロマトグラフィーにより行い、ジフェニルアミンの転化率及び4−ニトロソジフェニルアミンの選択率は、使用したジフェニルアミンのモル数をX、未反応のジフェニルアミンのモル数をY、生成した4−ニトロソジフェニルアミンのモル数をZとして、それぞれ以下の式により算出した。
【0021】
ジフェニルアミンの転化率(%)=[(X−Y)/X]×100
4−ニトロソジフェニルアミンの選択率(%)=[Z/(X−Y)]×100
【0022】
実施例1
ジフェニルアミン68.38g(0.40モル)、ソルビタンモノステアレート0.40g(0.00092モル)、トルエン228.80g及び2−エチルヘキサノール228.80gを混合し、約30℃で攪拌しながら塩化水素ガス36.50g(1.0モル)を、ガス導入管を通して約90分間かけて吹き込んだ。得られた混合物を約35℃に昇温し、次いでNO(123cc/min)とO2(26cc/min)を予め混合して調製したNOガス(NO1.43)を、ガス導入管を通して該混合物に約85分間吹き込んだ。吹き込み後、約35℃で約1時間攪拌した。その後、過剰量の水酸化ナトリウム水溶液を混合し、得られた油水層を分析したところ、ジフェニルアミンの転化率は98.6%、4−ニトロソジフェニルアミンの選択率は97.4%であった。
【0023】
実施例2
ソルビタンモノステアレート0.79g(0.00182モル)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行った。先と同様、得られた油水層を分析したところ、ジフェニルアミンの転化率は97.1%、4−ニトロソジフェニルアミンの選択率は96.9%であった。
【0024】
実施例3
ソルビタンモノステアレート1.58g(0.00363モル)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行った。先と同様、得られた油水層を分析したところ、ジフェニルアミンの転化率は96.6%、4−ニトロソジフェニルアミンの選択率は96.9%であった。
【0025】
実施例4
NO(123cc/min)とO2(28cc/min)を予め混合して調製したNOxガス(NO1.45)を吹き込んだ以外は、実施例1と同様の操作を行った。先と同様、得られた油水層を分析したところ、ジフェニルアミンの転化率は96.3%、4−ニトロソジフェニルアミンの選択率は96.8%であった。
【0026】
実施例5
ソルビタンモノステアレート0.79g(0.00182モル)を使用した以外は、実施例4と同様の操作を行った。先と同様、得られた油水層を分析したところ、ジフェニルアミンの転化率は96.5%、4−ニトロソジフェニルアミンの選択率は96.9%であった。
【0027】
実施例6
ソルビタンモノステアレート1.58g(0.00363モル)を使用した以外は、実施例4と同様の操作を行った。先と同様、得られた油水層を分析したところ、ジフェニルアミンの転化率は95.4%、4−ニトロソジフェニルアミンの選択率は96.9%であった。
【0028】
比較例1
ソルビタンモノステアレートを使用しなかった以外は、実施例1と同様に反応を行った。先と同様、得られた油水層を分析したところ、ジフェニルアミンの転化率は95.2%、4−ニトロソジフェニルアミンの選択率は95.8%であった。
【0029】
比較例2
ソルビタンモノステアレートを使用しなかった以外は、実施例4と同様に反応を行った。先と同様、得られた油水層を分析したところ、ジフェニルアミンの転化率は94.9%、4−ニトロソジフェニルアミンの選択率は95.8%であった。
【0030】
比較例3
ソルビタンモノステアレート0.08g(0.00018モル)を使用した以外は、実施例4と同様の操作を行った。先と同様、得られた油水層を分析したところ、ジフェニルアミンの転化率は94.1%、4−ニトロソジフェニルアミンの選択率は95.5%であった。
【0031】
比較例4
ジフェニルアミン68.38g(0.40モル)、トルエン228.80g及び2−エチルヘキサノール228.80gを混合し、約30℃で攪拌しながら塩化水素ガス36.50g(1.0モル)を、ガス導入管を通して約90分間かけて吹き込んだ。得られた混合物を約35℃に昇温し、次いでNO(123cc/min)とO2(30cc/min)を予め混合して調製したNOxガス(NO1.49)を、ガス導入管を通して該混合物に約85分間吹き込んだ。吹き込み後、約35℃で約1時間攪拌した。その後、過剰量の水酸化ナトリウム水溶液を混合し、得られた油水層を分析したところ、ジフェニルアミンの転化率は95.8%、4−ニトロソジフェニルアミンの選択率は95.2%であった。
【0032】
比較例5
ソルビタンモノステアレート0.08g(0.00018モル)を使用した以外は、比較例4と同様の操作を行った。先と同様、得られた油水層を分析したところ、ジフェニルアミンの転化率は94.6%、4−ニトロソジフェニルアミンの選択率は94.9%であった。
【0033】
比較例6
ソルビタンモノステアレート0.79g(0.00182モル)を使用した以外は、比較例4と同様の操作を行った。先と同様、得られた油水層を分析したところ、ジフェニルアミンの転化率は94.2%、4−ニトロソジフェニルアミンの選択率は95.0%であった。
【0034】
比較例7
NO(123cc/min)とO2(25cc/min)を予め混合して調製したNOxガス(NO1.40)を吹き込んだ以外は、実施例2と同様の操作を行った。先と同様、得られた油水層を分析したところ、ジフェニルアミンの転化率は94.9%、4−ニトロソジフェニルアミンの選択率は95.6%であった。
【0035】
実施例1〜6、比較例1〜7の結果を以下の表1に示す。
【0036】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中、ジフェニルアミン類を塩化水素及びNOと反応させて4−ニトロソジフェニルアミン類を製造する方法であって、
(1)NOにおけるXの値が1.41〜1.45であり、かつ
(2)ジフェニルアミン類1モルに対して0.0010〜0.05モルのソルビタンモノステアレートの存在下に前記反応を行うこと
を特徴とする4−ニトロソジフェニルアミン類の製造方法。
【請求項2】
ジフェニルアミン類1モルに対して0.0020〜0.02モルのソルビタンモノステアレートの存在下に前記反応を行う請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ジフェニルアミン類がジフェニルアミンである請求項1又は2に記載の方法。

【公開番号】特開2009−221170(P2009−221170A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68997(P2008−68997)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】