説明

4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンの製造方法

【課題】 本発明は、4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジンを過酸化水素で酸化し、4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンを得る方法において、過酸化水素による酸化反応後の4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オン水溶液製品に影響せず、効率よく余剰過酸化水素を分解する方法を提供することにある。
【解決手段】 特定のホスホン酸化合物の存在下で4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン水分散液を加温し、過酸化水素を添加して4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンを製造した後、加温下で過酸化水素分解酵素を添加し、余剰の過酸化水素を分解することを特徴とする4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N−オキシル化合物、例えば4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンはラジカル重合抑制効果に優れていることから、重合性のビニル系モノマーの製造工程、精製工程、貯蔵工程などにおいて該モノマーの重合を抑制し装置内での重合による汚れを防ぎ、装置の運転効率の向上、モノマー収率の向上等に卓越した効果を持つことから注目されている。一般に4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンは下記反応式のように4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジンを過酸化水素で酸化して製造され、反応促進のために種々の触媒が用いられている。
【0003】
【化1】

例えばヘテロポリ酸塩(例えば特許文献1参照)、タングステン酸あるいは酸化バナジウムなどの酸化触媒にエチレンジアミン四酢酸などの助触媒を用いる方法(例えば特許文献2参照)などがある。しかし、得られた4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オン中には、重金属系触媒・助触媒に由来する重金属が含まれるため、反応終了後には抽出や再結晶等の精製を行う必要があり、製品の精製工程が大きな障害となっていた。本発明者らは、その改善策としてホスホン酸存在下で行う方法(例えば特許文献3参照)を提示した。このホスホン酸存在下で4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジンの過酸化水素による酸化方法(例えば特許文献3参照)は、重金属系触媒・助触媒を用いないこと、高純度の4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンを容易に高効率で得られることから製品の精製工程が大幅に低減された。しかし、この方法では余剰の過酸化水素が製品中に残り、しかもホスホン酸の存在により過酸化水素が安定化されているために、この余剰の過酸化水素の除去に酸化ニッケル及び/又は二酸化マンガンを添加し、過酸化水素を分解した後、濾過、デカンテーション、遠心分離などの固液分離操作で分離していた。その結果、過酸化水素処理時間がかかると共に新たに酸化ニッケル・二酸化マンガンが残存するようになり、品質の維持と製品コストの低減に障害となっていた。そこで、新たな過酸化水素の除去方法が求められているが、依然として満足しうる方法は見出されていない。
【0004】
【特許文献1】特開平6−247932号公報
【特許文献2】特公昭44−12142号公報
【特許文献3】特許第3253596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジンを過酸化水素で酸化し、4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンを得る方法において、過酸化水素による酸化反応後の4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オン水溶液製品に影響せず、効率よく余剰過酸化水素を分解する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジンの過酸化水素酸化による4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンの製造方法における余剰過酸化水素の分解方法について、鋭意検討した結果、特定のホスホン酸化合物の共存下、過酸化水素による酸化と特定の過酸化水素分解酵素の組合せで、4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジンの過酸化水素酸化による4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンの製造及び余剰過酸化水素の分解を連続して行うことができることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下の発明を包含している。
【0007】
即ち、請求項1に係る発明は、4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジンを過酸化水素で酸化して4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンを製造する方法において、ホスホン酸化合物の存在下で4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン水分散液を加温し、過酸化水素を添加して4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンを製造した後、加温下で過酸化水素分解酵素を添加し、余剰の過酸化水素を分解することを特徴とする4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンの製造方法である。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンの製造方法であり、4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン水分散液を60〜95℃に加温することを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2記載の4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンの製造方法であり、過酸化水素の添加前にホスホン酸化合物を4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン水分散液に0.1〜500ppm添加することを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンの製造方法であり、ホスホン酸化合物がジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(エチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(プロピレンホスホン酸)及びこれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩から選ばれた1種以上であることを特徴とする。4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンの製造方法である。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンの製造方法であり、過酸化水素と4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジンのモル比が1:1〜1:1.5となるように過酸化水素を添加することを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンの製造方法であり、過酸化水素分解酵素を温度20〜40℃に加温して添加することを特徴とする。
【0013】
請求項7に係る発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンの製造方法であり、過酸化水素分解酵素がカタラーゼ及び/又はグルタチオンペルオキシターゼであることを特徴とする。
【0014】
請求項8に係る発明は、請求項1乃至7のいずれかに記載の4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンの製造方法であり、過酸化水素を添加して酸化反応を行った後の4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン水分散液全量に対して過酸化水素分解酵素を10〜1000ppm添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンを一連の操作で4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジンの過酸化水素による酸化で製造することができ、従来の酸化触媒を使用した場合のように生成物の4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンの面倒な分離・精製操作を必要とせず、しかも高収率で残存過酸化水素の少ない、高純度の4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンが製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オン(以下「HTEMPO」とする)の製造方法は、4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン(以下「TEMPNOL」とする)を過酸化水素で酸化して4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オン(HTEMPO)を製造する方法において、特定のホスホン酸化合物存在下で4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン(TEMPNOL)水分散液を加温し、過酸化水素を添加して酸化させて4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オン(HTEMPO)を製造し、次いで特定のホスホン酸化合物を除去することなく、加温下に特定の過酸化水素分解酵素を添加して残存した過酸化水素を分解除去し、過酸化水素を含まない4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オン(HTEMPO)を得る方法である。この方法によって、TEMPNOLの過酸化水素による酸化でHTEMPOを得、次いで余剰過酸化水素を除去し、過酸化水素を含まないHTEMPOを一連の操作で連続的に得ることができる。しかも、従来のように余剰の過酸化水素を酸化ニッケル及び/又は二酸化マンガンを添加して分解除去した後、加えた酸化ニッケル及び/又は二酸化マンガンをろ過、分別し、再結晶等の煩雑な操作を経ることなく、過酸化水素を含まないHTEMPOを得ることができる。
【0017】
本発明の過酸化水素のよる酸化反応を行う場合の反応容器には、少なくとも接液部の材質には合成樹脂あるいはガラスを用いるか、合成樹脂あるいはガラスで構成された反応容器、あるいは鉄等の金属製容器の該接液部を合成樹脂あるいはガラスで表面ライニングしたものが用いられる。合成樹脂としては、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、例えば「テフロン(登録商標)」など)、エポキシ樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、フェノール樹脂などがあるが、好ましくは「テフロン(登録商標)」あるいはガラスが好ましい。鋼、ステンレスなどの鉄系材料では、これらの表面で過酸化水素の自己分解が促進され、好ましくない。
【0018】
本発明で用いる4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン(TEMPNOL)は過酸化水素により酸化されて4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オン(HTEMPO)になる。本発明の方法では、過酸化水素による酸化反応を効率よく行うために通常の撹拌機で撹拌ができる程度の濃度である40〜70重量%濃度のTEMPNOL水分散液が用いられる。
【0019】
本発明で用いられるホスホン酸化合物(以下「ホスホン酸化合物」とする)は、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(エチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(プロピレンホスホン酸)、2−ヒドロキシエチルイミノビス(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)及びこれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩から選ばれた1種以上のホスホン酸化合物である。中でも好ましくは、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(エチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(プロピレンホスホン酸)及びこれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩であり、より好ましくはジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)及びそのナトリウム塩である。前記以外のホスホン酸化合物では、過酸化水素によるTEMPNOLの酸化に支障を来したり、過酸化水素分解酵素の作用を妨げる場合があり、好ましくない。これらのホスホン酸化合物は、「BRIQUEST」(商品名)(Albright&Wilson社)、「DEQUEST」(商品名)(Solutia Inc.社)として市販されている。
【0020】
本発明では、ホスホン酸化合物をTEMPNOL水分散液に添加して用いられる。また、ホスホン酸化合物の一部を過酸化水素水に予め添加しても良い。ホスホン酸化合物の添加量は、過酸化水素の自己分解抑制効果が維持される添加量であれば、特に限定されないが、通常はTEMPNOL水分散液に対して0.1〜500ppm、好ましくは0.5〜20ppmである。また、TEMPNOL水分散液に過酸化水素を添加した後の酸化反応が進行している段階のTEMPNOL−HTEMPO混合液においても0.1〜500ppm、好ましくは0.5〜20ppmを維持することが好ましい。ホスホン酸化合物の使用方法としては、そのままで用いる方法と水溶液として用いる方法のいずれでも良い。
【0021】
本発明で用いられる過酸化水素は、特に限定されるものではなく、工業的な過酸化水素であり、通常10〜60重量%濃度の過酸化水素水溶液が用いられる。過酸化水素の添加量は、HTEMPに対してモル比で1.0から1.5倍、好ましくは1.05〜1.15倍用いる。過酸化水素の添加量がTEMPNOLに対してモル比で1.0未満では、十分な酸化反応が進まない場合があり、1.5倍を超えると酸化反応後の余剰過酸化水素が多くなり、好ましくない。過酸化水素の添加方法は、特に限定されるものではないが、通常、薬注ポンプを用いて、TEMPNOL水分散液に徐々に添加して酸化反応を行う。酸化反応の進展と共に生成した水が系内に蓄積され、生成するHTEMPOが水溶性であるために反応系の撹拌が容易になる。また、過酸化水素による反応をガスクロマトグラフィーによりモニターすることによって、反応の進行を追跡し、反応時間と反応率から、過酸化水素の添加量を調製することができる。
【0022】
過酸化水素の添加を行う前にTEMPNOL水分散液を60〜95℃、好ましくは70〜80℃、さらに好ましくは70〜75℃に加温した後、過酸化水素の添加を行なう。TEMPNOL水分散液の温度が60℃より低いと酸化反応の進行が遅く、また、95℃より高いと生成したHTEMPOの熱劣化が急速に進行することがあり好ましくないことがある。酸化反応がスタートしたならば、酸化反応による発熱が生じるためにジャケット冷却等の外部冷却や冷却コイル等の内部反応系の冷却を行いながら、TEMPNOL水分散液を所定温度範囲に維持するようにする。また、所定温度の維持が困難になった場合、過酸化水素の添加を調整等の操作を行う。
【0023】
TEMPNOL水分散液のpHは、TEMPNOLの水スラリーとするだけで10〜11となるので、特にpH調整せず、そのまま反応を開始させてよい。過酸化水素を添加し、酸化反応を行った後でもpHは8〜10の範囲になる。
【0024】
過酸化水素による酸化反応の進行の程度は、通常、ガスクロマトグラフィー等の分析機器を用いて定期的に反応装置からサンプリングしてTEMPNOLの減少とHTEMPOの生成比率を測定することで可能である。過酸化水素による酸化反応を十分に行うために所定量の過酸化水素を添加した後、約2〜10時間さらにTEMPNOL−HTEMPO混合系を60〜95℃に維持する。
【0025】
本発明で用いられる過酸化水素分解酵素としては、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシターゼがあり、いずれを用いても良い。カタラーゼは、特に限定されるものではなく、一般的なものが使用される。例えば、「レオネット」(商品名)として、ナガセケムテック(株)から市販されている。また、グルタチオンペルオキシターゼは、シグマ・アルドリッチ社から市販されているものが使用できる。過酸化水素分解酵素の添加は、TEMPNOL−HTEMPO混合液の温度を60以下に冷却した後、添加する。過酸化水素分解酵素のカタラーゼの作用する温度領域は、通常、15℃〜50℃であり、好ましくは20℃〜40℃、より好ましくは30℃〜37℃である。カタラーゼの作用するpH領域は、通常、5〜8であり、好ましくは6〜7.5である。カタラーゼの作用所要時間は、通常、1分〜60分であり、過剰過酸化水素量に応じて適宜、時間を決定すればよい。カタラーゼの失活は、TEMPNOL−HTEMPO混合液を加熱して50℃を超える温度にすることで得られ、通常は60℃で20分間熱処理した場合に失活する。一方、グルタチオンペルオキシターゼの作用する温度領域は、通常、5℃〜60℃であり、好ましくは20℃〜40℃、より好ましくは28℃〜30℃である。グルタチオンペルオキシターゼの作用するpH領域は、通常、5〜9であり、好ましくは7.5〜8.5である。グルタチオンペルオキシターゼの作用所要時間は、通常、1分〜60分であり、過剰過酸化水素量に応じて適宜、時間を決定すればよい。グルタチオンペルオキシターゼの失活は、TEMPNOL−HTEMPO混合液を加熱して60℃を超える温度にすることで得られ、通常は65℃で20分間熱処理した場合に失活し、75℃以上では5分以内に失活する。過酸化水素分解酵素の使用する環境の温度域がこの範囲の外であればその効果は十分に発揮されない場合がある。
【0026】
過酸化水素分解酵素の添加量は、余剰過酸化水素量及び目的とする余剰過酸化水素の除去程度に応じて適宜、過酸化水素分解酵素を添加すればよい。通常は過酸化水素分解酵素有効分としてTEMPNOL−HTEMPO混合液に対して1〜1000ppm、好ましくは10〜100ppmである。過酸化水素分解酵素の添加量が1ppmより少ないと十分な効果が得られない場合があり、1000ppmより多いと、十分な過酸化水素分解効果が発揮されるが経済的に見合うだけの効果が発揮されない場合がある。
【0027】
過酸化水素分解酵素の添加方法は、酵素を一旦、水に分散させて分散用いる方法や薬液注入ポンプを用いて一括添加あるいは分割添加、更には連続添加等があり、適宜決定されればよい。
【0028】
余剰過酸化水素を分解した後の残存した過酸化水素分解酵素は、失活させることでその効果は著しく低下し、支障を来さなくなる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
(使用薬品)
・TEMPNOL:4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン(試薬、関東化学(株)製)
・HTEMPO:4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オン(試薬、関東化学(株)製)
・ATMP:アミノトリ(メチレンホスホン酸)5ナトリウム塩水溶液(40重量%水溶液)(「ディクエスト2006」(商品名)、ソルシア(株)製)
・HEDP:1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸4ナトリウム塩水溶液(30重量%水溶液)(「ディクエスト2016」(商品名)、ソルシア(株)製)
・DETPM:ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)7ナトリウム塩水溶液(32重量%水溶液)(「ディクエスト2066」(商品名)、ソルシア(株)製)
・DETPE:ジエチレントリアミンペンタ(エチレンホスホン酸)7ナトリウム塩水溶液(30重量%水溶液、東京化成(株)製)
・DETPP:ジエチレントリアミンペンタ(プロピレンホスホン酸)7ナトリウム塩水溶液(30重量%水溶液、東京化成(株)製)
・過酸化水素:35重量%過酸化水素水溶液(三菱瓦斯化学(株)製)
【0031】
(過酸化水素分解酵素)
・タカラーゼ:「レオネットF−35」(商品名、ナガセケムテック(株)製)
・グルタチオンペルオキシターゼ(試薬、シグマ・アルドリッチ(株))
【0032】
(実施例1)
内部に「テフロン(登録商標)」ライニング加工を施した容器に脱イオン水227.2gを入れ、75℃に加温してから4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン(TEMPNOL)345.4g(2.2モル)を加えて攪拌し、スラリー状とした。ここにジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)7ナトリウム塩(DETPM)0.25g(反応終了溶液に対して25ppm)を溶解した。スラリーを75℃に維持し、攪拌しながら3時間かけて35%過酸化水素水352.6g(3.63モル:理論量の1.1倍)を添加した。全量の過酸化水素水を添加した後、70℃とし、この温度で5時間撹拌を続けガスクロマトグラフィーで4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オン(HTEMPO)への酸化反応の完結を確認した。その後、35℃まで冷却して、撹拌下、タカラーゼ「レオネットF−35」を100ppm添加し、この温度を1時間維持して、その間に余剰過酸化水素を過酸化水素試験紙((株)アイシス製)にて測定し、余剰過酸化水素分解を行ない、過酸化水素をほとんど含まない(10ppm以下)4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オン(HTEMPO)370g(収率97.7%)を含む水溶液958gを得た。また、得られたHTEMPO液外観(目視により、○:沈殿物がない、×:沈殿物あり、とした)、余剰過酸化水素除去作業性(作業性良:○、作業性不良:×)を評価した。
【0033】
(実施例2)
内部に「テフロン(登録商標)」ライニング加工を施した容器をガラス製容器に変更し、その他は実施例1と同様にして行なった。余剰過酸化水素が20ppmとなった後、スラリー液を減圧乾燥して、結晶状のHTEMPO:359.5g(収率93.3%)を得た。
【0034】
(実施例3)
実施例1のジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)7ナトリウム塩の代わりにジエチレントリアミンペンタ(エチルホスホン酸)7ナトリウム塩(DETPE)を用い、それ以外は実施例1と同様にしてHTEMPO:356.1g(収率94.1%)を含む水溶液を得た。
【0035】
(実施例4)
実施例1のジエチレントリアミンペンタ(メチルホスホン酸)7ナトリウム塩の代わりにジエチレントリアミンペンタ(イソプロピルホスホン酸)7ナトリウム塩(DETPP)を用い、また、タカラーゼ「レオネットF−35」の代わりにグルタチオンペルオキシターゼを用い、それ以外は実施例1と同様にして、過酸化水素が15ppmのHTEMPO:362.7g(収率95.9%)を含む水溶液を得た。
【0036】
(実施例5)
実施例1のジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)7ナトリウム塩の代わりに同モルのアミノトリ(メチレンホスホン酸)5ナトリウム塩水溶液(ATMP)を用い、それ以外は実施例1と同様にしてHTEMPO:358.1g(収率94.6%)を含む水溶液を得た。
【0037】
(実施例6)
実施例1のジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)7ナトリウム塩の代わりに同モルの1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸4ナトリウム塩水溶液(HEDP)を用い、それ以外は実施例1と同様にしてHTEMPO:363.3g(収率96.0%)を含む水溶液を得た。
【0038】
(比較例1)
内部に「テフロン(登録商標)」ライニング加工を施した容器に脱イオン水227.2gを入れ、75℃に加温してからTEMPNOL:345.4g(2.2モル)を加えて攪拌し、スラリー状とした。スラリーを75℃に維持し、攪拌しながら3時間かけて35%過酸化水素水352.6g(3.63モル:理論量の1.1倍)を添加した。全量の過酸化水素水を添加した後、70℃とし、この温度で5時間撹拌を続けた。過酸化水素による酸化反応終了後、余剰過酸化水素は2000ppmとなった。水溶液を減圧乾燥してHTEMPO:83.2g(HTEMPO収率22.0%)を含むTEMPNOL−HTEMPO混合液を得た。
【0039】
(比較例2)
内部に「テフロン(登録商標)」ライニング加工を施した容器に脱イオン水227.2gを入れ、75℃に加温してからTEMPNOL:345.4g(2.2モル)を加えて攪拌し、スラリー状とした。スラリーを75℃に維持し、攪拌しながら3時間かけて35%過酸化水素水352.6g(3.63モル:理論量の1.1倍)を添加した。全量の過酸化水素水を添加した後、70℃とし、この温度で5時間撹拌を続けた。過酸化水素による酸化反応終了後、35℃まで冷却し、撹拌下、タカラーゼ「レオネットF−35」を100ppm添加し、この温度を1時間維持し余剰過酸化水素分解を行なった。その結果、余剰過酸化水素40ppmのHTEMPO:101.4g(HTEMPO収率26.8%)を含むTEMPNOL−HTEMPO混合液を得た。
【0040】
(比較例3)
実施例1において、TEMPNOLを過酸化水素で酸化した後、余剰の過酸化水素を除去することなく、冷却して、余剰過酸化水素1700ppmを含むHTEMPO:363.6g(HTEMPO収率96.1%)を得た。
【0041】
(比較例4)
実施例1において、TEMPNOLを過酸化水素で酸化した後、余剰の過酸化水素を除去するために70℃で二酸化マンガン(顆粒状)0.5gを添加し、2時間撹拌しながらこの温度を維持した。その後、冷却して、ろ紙(「定性ろ紙No.2」(商品名)、東洋ろ紙(株)製)を用いて吸引ろ過して二酸化マンガンを除去した。得られたTEMPNOL液は、余剰過酸化水素10ppm以下、HTEMPO:363.0g(HTEMPO収率95.9%)を含んでいたが、目視で確認しうる程度の微量の二酸化マンガンが含まれていた。
【0042】
(比較例5)
ステンレス製容器を用い、ジエチレントリアミンペンタメチルホスホン酸ナトリウム塩を添加せず、実施例2と同じくして反応を行った。ステンレス製容器に脱イオン水297.4gを加えて75℃に加熱してから、TEMPNOL:345.4g(2.2モル)を入れて攪拌してスラリーとした。このスラリーを75℃に保ちながら、攪拌下3時間かけて35%過酸化水素水352.6g(3.63モル:理論量の1.1倍)を滴下し、この温度で10時間撹拌を続けた。反応終了後、冷却して、余剰過酸化水素1500ppmのHTEMPO:19.7g(HTEMPO収率5.2%)を含むTEMPNOL−HTEMPO混合液を得た。
以上の結果を表1にまとめた。
【0043】
【表1】

本発明の方法により、途中でTEMPNOLからHTEMPOを分離する操作を要することなく、一連の操作でTEMPNOL收率:58〜99%を維持しながら余剰過酸化水素量を10ppm以下に低減させることができる。一方、従来の比較例4のように余剰過酸化水素を二酸化マンガンで処理する場合、作業手順が煩雑になるほか、微量ながら二酸化マンガンがTEMPO液に残存し好ましくないことが分る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジンを過酸化水素で酸化して4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンを製造する方法において、ホスホン酸化合物の存在下で4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン水分散液を加温し、過酸化水素を添加して4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンを製造した後、加温下で過酸化水素分解酵素を添加し、余剰の過酸化水素を分解することを特徴とする4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンの製造方法。
【請求項2】
4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン水分散液を60〜95℃に加温する請求項1記載の4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンの製造方法。
【請求項3】
過酸化水素の添加前にホスホン酸化合物を4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン水分散液に0.1〜500ppm添加する請求項1又は2記載の4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンの製造方法。
【請求項4】
ホスホン酸化合物が、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(エチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(プロピレンホスホン酸)及びこれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩から選ばれた1種以上である請求項1乃至3のいずれかに記載の4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンの製造方法。
【請求項5】
過酸化水素と4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジンのモル比が1:1〜1:1.5となるように過酸化水素を添加する請求項1乃至4のいずれか記載の4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンの製造方法。
【請求項6】
過酸化水素分解酵素を温度20〜40℃に加温して添加する請求項1乃至5のいずれか記載の4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンの製造方法。
【請求項7】
過酸化水素分解酵素が、カタラーゼ及び/又はグルタチオンペルオキシターゼである請求項1乃至6のいずれか記載の4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンの製造方法。
【請求項8】
過酸化水素を添加して酸化反応を行った後の4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン水分散液全量に対して過酸化水素分解酵素を1〜1000ppm添加する請求項1乃至6のいずれか記載の4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オンの製造方法。


【公開番号】特開2007−230971(P2007−230971A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57937(P2006−57937)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】