説明

4−メトキシサリチル酸の合成方法

【課題】反応収率及び反応速度に優れた、マイクロリアクターを用いた4−メトキシサリチル酸の合成方法の提供。
【解決手段】βレゾルシン酸を、マイクロリアクター内で硫酸ジメチルと反応させることによる、4−メトキシサリチル酸を合成することを特徴とする4−メトキシサリチル酸の合成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロリアクターを用いた4−メトキシサリチル酸の合成方法、特に4−メトキシサリチル酸の反応収率及び反応速度の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
4−メトキシサリチル酸の製造にあたり、βレゾルシン酸をアルカリ水溶液中で硫酸ジメチルを用いてアルキル化する方法が開示されている(非特許文献1)。しかしながら、前記方法によると、メチル基を導入したい4位のヒドロキシル基のほかに、1位のカルボキシル基、2位のヒドロキシル基までメチル化された多種の副生成物等が生成してしまい、目的部位にのみメチル化を行うことが困難であった。このため、合成ルートが多段階になり、反応収率の低下、生産コストが高くなる等の問題があった。
【0003】
また、4−アルコキシサリチル酸塩類を効率良く製造する方法が開示されているが(特許文献1)、芳香族スルホン酸エステルを触媒的に添加する必要があり、不純物が混入する、生産コストが高くなる等の問題があった。
【0004】
一方、近年においては小型化された化学反応装置、いわゆるマイクロリアクターが合成化学の分野で注目を集めており、種々の化学反応に適用した例が報告されている(例えば、特許文献2〜3等)。マイクロリアクターは、流路の断面積が0.001〜100mmのキャピラリーやマイクロチャネルを利用し、微小領域での反応を行うものであり、普通サイズの反応装置に比べ体積当りの表面積の比率を大きくしうる等の理由で、化学反応の効率化の手段として注目されている。
【特許文献1】特開2006−131886号公報
【特許文献2】特開2004−160273号公報
【特許文献3】特開2004−181298号公報
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,39,1687(1917)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来技術に鑑みなされたものであり、その目的は、マイクロリアクターを用いることによって、4−メトキシサリチル酸の反応収率及び反応速度に優れた4−メトキシサリチル酸の合成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために本発明者等は鋭意検討を行った結果、マイクロリアクターを用いてβレゾルシン酸と硫酸ジメチルを合成させて4−メトキシサリチル酸を得ることにより、従来のバルク反応による合成方法において40数%程度であった4−メトキシサリチル酸の反応率をほぼ75%にまで向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の主題は、下記一般式(1)で表されるβレゾルシン酸を、マイクロリアクター内で下記一般式(2)で表される硫酸ジメチルと反応させることによる、4−メトキシサリチル酸を合成することを特徴とする4−メトキシサリチル酸の合成方法である。
【化1】

【化2】

【化3】

【0008】
前記4−メトキシサリチル酸の合成方法において、マイクロリアクターが、βレゾルシン酸を流入する微細な流路及び硫酸ジメチルを流入する微細な流路と、これらの流路が合流する反応路とが基板上に形成され、前記反応路にて層流を接触させることを特徴とする化学反応装置であることが好適である。
【0009】
前記4−メトキシサリチル酸の合成方法において、マイクロリアクターの流路の断面積が0.001〜100mmであることが好適である。
【0010】
前記4−メトキシサリチル酸の合成方法において、マイクロリアクターの流速が0.5〜10μl/分となるように設定することが好適である。
【0011】
前記4−メトキシサリチル酸の合成方法において、マイクロリアクター内の一方の流路に流入される硫酸ジメチルのモル濃度が、もう一方の流路に流入されるβレゾルシン酸のモル濃度の1.5〜3.0倍であることが好適である。
【0012】
前記4−メトキシサリチル酸の合成方法において、βレゾルシン酸を流入する流路にアルカリ触媒を共存させることが好適である。
【0013】
前記4−メトキシサリチル酸の合成方法において、アルカリ触媒のモル濃度がβレゾルシン酸のモル濃度の1.0〜3.0倍であることが好適である。
【0014】
前記4−メトキシサリチル酸の合成方法において、βレゾルシン酸/アルカリ触媒水溶液と硫酸ジメチル/有機溶媒溶液の流速比が2:1〜1:2となるようにマイクロリアクターの流速を設定することが好適である。
【0015】
前記4−メトキシサリチル酸の合成方法において、反応路を流れる反応時間が1〜10分となるように設定することが好適である。
【0016】
前記4−メトキシサリチル酸の合成方法において、室温条件下にて反応させることが好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のマイクロリアクターを用いた4−メトキシサリチル酸の合成方法によれば、室温条件下において、反応収率及び反応速度に優れた4−メトキシサリチル酸を得ることできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0019】
以下に図面を参照して本発明のマイクロリアクターの説明を行う。図1は本発明にかかる合成方法により用いられたマイクロリアクターの平面図である。
図1のマイクロリアクター10は、マイクロリアクター10外部から流入される溶液の流路となる流路12及び流路16とが基板に溝として形成されたものである。上記の流路12及び流路16は、その一部が合流し反応路14を形成している。流路12と開流路16とからの層流は、反応路14にて互いに接触し安定な界面を形成する。反応路14の末端は、流出口18となっており、ここから目的物の流出を行う。
【0020】
次にこのマイクロリアクターチップの使用時の動作を、図1を参照して説明する。
外部のマイクロポンプ(図示せず)等により流路12からβレゾルシン酸、及び流路16から硫酸ジメチルが注入され、各流路を流れていく。これらの層流は、反応路14において互いに接触しながら流れて行く。流路の幅はマイクロメートルのオーダーであるので、反応路14中の層流間の界面は安定して存在することができ、反応は界面を通してのみ行われる。層流の体積に対して界面の表面積が大きいので反応効率は良く、また層流間で起こる拡散は界面を通しての分子拡散のみでマクロな混合は起こらず、相分離を行い易い。また、反応路14における2層流の接触の仕方は、左右(基板面に対して平行な方向)に並べた流し方でも、上下(基板面に垂直な方向)に重なった流し方でもよい。上下に重なった流し方の場合、反応路の溝をやや深くし、反応液と触媒の比重等を考慮してマイクロリアクターを設計する。
【0021】
本発明のマイクロリアクターの典型例としては、その流路の直径が10,000μm程度以下、好ましくは10〜1000μm程度、より好ましくは50〜100μm程度のものが挙げられる。流路をこのような範囲にすることでマイクロリアクターの形状は特に限定されない。例えば、キャピラリー状、チューブ状、基板状に流路を形成したものなどが挙げられる。その流路の長さは、合成対象物、反応条件等に応じて変化するが、通常、1〜100cm程度、好ましくは5〜50cm程度であればよい。
【0022】
本発明のマイクロリアクターの断面積は、0.001〜100mmであることが好ましく、0.1〜10mmであることが特に好ましい。
【0023】
本発明のマイクロリアクターの流速は、好ましくは0.5〜10μl/分の流速が得られるように設定される。
【0024】
本発明のβレゾルシン酸のモル濃度は硫酸ジメチルのモル濃度の1.5〜3.0倍であることが好ましく、2.0〜2.5倍であることが特に好ましい。
【0025】
本発明の合成方法において用いられるアルカリ触媒は、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属のアルコキシド等が挙げられ、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が好ましく、水酸化カリウムが特に好ましい。アルカリ触媒の添加量は、βレゾルシン酸のモル濃度の1.0〜3.5倍であることが好ましく、2.0〜3.0倍であることが特に好ましい。アルカリ触媒の添加量が1.0倍量より少ないと反応が効率よく進まず、3.5倍量より多いとそれ以上の触媒効果は得られない。
【0026】
本発明の合成方法において、βレゾルシン酸/アルカリ触媒水溶液と硫酸ジメチル/有機溶媒溶液をマイクロリアクターに導入させる流速比は、2:1〜1:2の範囲に設定されるのが好ましく、1:1に設定されるのが特に好ましい。
【0027】
本発明の合成方法において、反応路を流れる反応時間は1〜10分であることが好ましい。反応時間が1分より短いと、不純物として未反応物の原料、βレゾルシン酸が残存することになる。また、10分より長くなると、不純物として過剰にメチル基が付加した1,4−ジメトキシサリチル酸、1,2,4−トリメトキシサリチル酸が生成していまい、高純度の4−メトキシサリチル酸が得られなくなる。
【0028】
また、合成反応の際に用いられる溶媒としては、前記基質を溶解しやすく、基質と反応しないまたは基質よりも反応性に劣るものであればいかなる溶媒でも用いることが可能であり、基質の種類に応じて適宜選択すれば良い。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、流動パラフィンなどの炭化水素系溶媒、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等の塩化物系溶媒などの他、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、水等である。なお、これらの溶媒は2種以上混合して用いてもよい。
【0029】
本発明のアクリル酸系反応誘導体の合成における温度条件は、室温であればよく、5〜35℃であることが好ましく、特に15〜25℃であることが特に好ましい。
【0030】
以下に本発明の実施例及び製造例を挙げるが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0031】
<βレゾルシン酸と硫酸ジメチルの濃度比の検討>
試験例1−1〜1−4
硫酸ジメチルのモル濃度がβレゾルシン酸のモル濃度の等倍量となるように、一方の導入経路にβレゾルシン酸を0.5mmol/l、及び水酸化カリウムを1.0mmol/l含む水溶液を、もう一方の導入経路に硫酸ジメチル0.5mmol/l、及びアセトンを含む溶液を、フローリアクター内に注入した。
また、βレゾルシン酸/水酸化カリウム混合水溶液と、硫酸ジメチル/アセトン混合溶液の流速比が1:1となるように設定した。そして、反応路を流れる反応時間がそれぞれ2分、5分、10分、30分となるように、流速をそれぞれ4.205μm/分、1.61μm/分、0.805μm/分、0.268μm/分に設定し、4−メトキシサリチル酸の合成を行った(試験例1−1〜1−4)。なお、室温を25℃に設定し、マイクロリアクターはガラスチップの断面積が0.003313mm、長さが120mmであり、シリコーンチューブの断面積が0.007850mm、長さが2000mmのものを使用した。
得られた合成物を高速液体クロマトグラフフィー(HPLC)で分離・分析した。試験例1−1〜1−4のHPLC面積比結果を図2に示す。
【0032】
試験例2−1〜2−7
上記試験例に準じて、硫酸ジメチルのモル濃度がβレゾルシン酸のモル濃度の2倍量となるように、一方の導入経路にβレゾルシン酸を0.5mmol/l、及び水酸化カリウムを1.0mmol/l含む水溶液を、もう一方の導入経路に硫酸ジメチル1.0mmol/l、及びアセトンを含む溶液を、フローリアクター内に注入した。
また、βレゾルシン酸/水酸化カリウムの混合水溶液と、硫酸ジメチル/アセトン混合溶液の流速比が1:1となるように設定した。そして、反応路を流れる反応時間がそれぞれ0.5分、1分、2分、5分、10分、30分、60分となるように、流速をそれぞれ16.1μm/分、8.05μm/分、4.205μm/分、1.61μm/分、0.805μm/分、0.268μm/分、0.134μm/分に設定し、4−メトキシサリチル酸の合成を行った(試験例2−1〜2−7)。なお、室温を25℃に設定し、マイクロリアクターはガラスチップの断面積が0.003313mm、長さが120mmであり、シリコーンチューブの断面積が0.007850mm、長さが2000mmのものを使用した。
得られた合成物を高速液体クロマトグラフフィー(HPLC)で分離・分析した。試験例2−1〜2−7のHPLC面積比結果を図3に示す。
【0033】
試験例3−1〜3−4
上記試験例に準じて、硫酸ジメチルのモル濃度がβレゾルシン酸のモル濃度の2.5倍量となるように、一方の導入経路にβレゾルシン酸を0.5mmol/l、及び水酸化カリウムを1.0mmol/l含む水溶液を、もう一方の導入経路に硫酸ジメチル1.25mmol/l、及びアセトンを含む溶液を、フローリアクター内に注入した。
また、βレゾルシン酸/水酸化カリウム混合水溶液と、硫酸ジメチル/アセトン混合溶液の流速比が1:1となるように設定した。そして、反応路を流れる反応時間がそれぞれ1分、2分、5分、10分となるように、流速をそれぞれ8.05μm/分、4.205μm/分、1.61μm/分、0.805μm/分に設定し、4−メトキシサリチル酸の合成を行った(試験例3−1〜3−4)。なお、室温を25℃に設定し、マイクロリアクターはガラスチップの断面積が0.003313mm、長さが120mmであり、シリコーンチューブの断面積が0.007850mm、長さが2000mmのものを使用した。
得られた合成物を高速液体クロマトグラフフィー(HPLC)で分離・分析した。試験例3−1〜3−4)のHPLC面積比結果を図4に示す。
【0034】
図2〜4に示すように、硫酸ジメチルのモル濃度がβレゾルシン酸のモル濃度の2.0倍量、及び2.5倍量となるように反応させた場合、反応時間を1〜10分となるようにに流速設定すると、目的物の4−メトキシサリチル酸を効率良く生成することができた(試験例2−2〜2−5,試験例2−2〜2−5)。一方、硫酸ジメチルのモル濃度がβレゾルシン酸のモル濃度の1.0倍量となるように反応させ、反応時間を2分に流速設定した場合(試験例1−1)には、効率良く4−メトキシサリチル酸を生成させることができなかった。
したがって、本発明の4−メトキシサリチル酸を効率良く生成させるためには、硫酸ジメチルのモル濃度がβレゾルシン酸のモル濃度の1.5〜3.0倍量であることが好ましいことが明らかとなった。
【0035】
<βレゾルシン酸とアルカリ触媒の濃度比の検討>
試験例4−1〜4−4
続いて上記試験例に準じて、水酸化カリウムのモル濃度がβレゾルシン酸のモル濃度の3.0倍量となるように、一方の導入経路にβレゾルシン酸を0.5mmol/l、及び水酸化カリウムを1.5mmol/l含む水溶液を、もう一方の導入経路に硫酸ジメチル1.0mmol/l、及びアセトンを含む溶液を、フローリアクター内に注入した。
また、βレゾルシン酸/水酸化カリウム混合溶液と、硫酸ジメチル/アセトン混合水溶液の流速比が1:1となるように設定した。そして、反応路を流れる反応時間がそれぞれ1分、2分、5分、10分となるように、流速をそれぞれ8.05μm/分、4.205μm/分、1.61μm/分、0.805μm/分に設定し、4−メトキシサリチル酸の合成を行った(試験例4−1〜4−4)。なお、室温を25℃に設定し、マイクロリアクターはその流路が2000mmのものを使用した。
得られた合成物を高速液体クロマトグラフフィー(HPLC)で分離・分析した。試験例4−1〜4−4)のHPLC面積比結果を図5に示す。
【0036】
図6に示すように、水酸化カリウムのモル濃度がβレゾルシン酸のモル濃度の3.0倍量となるように混合した試験例4−1〜4−4は、反応時間が1〜10分の場合において目的物の4−メトキシサリチル酸を効率良く生成しているといえる。なお、水酸化カリウムのモル濃度がβレゾルシン酸のモル濃度に対して1.0倍量、及び2.0倍量の場合においても上記試験例4−1〜4−4と同様、反応時間が1〜10分の場合において4−メトキシサリチル酸を効率良く生成できた。
また、水酸化カリウム以外のアルカリ触媒についても同様の結果を得ることができた。
したがって、本発明の4−メトキシサリチル酸の生成において、アルカリ触媒のモル濃度がβレゾルシン酸のモル濃度の1.0〜3.0倍量が好ましいことが明らかとなった。
【0037】
<反応時間の検討>
実施例1〜4
硫酸ジメチルのモル濃度がβレゾルシン酸のモル濃度の2.5倍量となるよう、さらに水酸化カリウムのモル濃度がβレゾルシン酸のモル濃度の3.0倍量となるように、一方の導入経路にβレゾルシン酸を0.5mmol/l、及び水酸化カリウムを1.5mmol/l含む水溶液を、もう一方の導入経路に硫酸ジメチルを1.25mmol/l、及びアセトンを含む溶液を、フローリアクター内に注入した。
また、βレゾルシン酸/水酸化カリウム混合水溶液と、硫酸ジメチル/アセトン混合溶液の流速比が1:1となるように設定した。そして、反応路を流れる反応時間がそれぞれ1分、2分、5分、10分となるように、流速をそれぞれ8.05μm/分、4.205μm/分、1.61μm/分、0.805μm/分に設定し、4−メトキシサリチル酸の合成を行った(実施例1〜4)。なお、室温を25℃に設定し、マイクロリアクターはガラスチップの断面積が0.003313mm、長さが120mmであり、シリコーンチューブの断面積が0.007850mm、長さが2000mmのものを使用した。
得られた合成物を高速液体クロマトグラフフィー(HPLC)で分離・分析した。実施例1〜4のHPLC面積比結果を図6に示す。
【0038】
比較例1〜3
上記実施例1〜4と同じ処方にて、反応時間がそれぞれ30分、60分となるように流速をそれぞれ0.268μm/分、0.134μm/分に設定し、4−メトキシサリチル酸の合成を行った(比較例1〜2)。また、比較例3として、従来のフラスコを用いた合成方法(バルク)にて4−メトキシサリチル酸の合成を行った。以上の得られた合成物を高速液体クロマトグラフフィーで分離・分析した。そして、比較例1〜3のHPLC面積比結果を図6に示す。
【0039】
図6に示すように、反応時間が30分、60分となるように設定した比較例1及び比較例2は、目的物である4−メトキシサリチル酸の反応収率が50%にも満たない値を示した。そして反応時間を長く設定した為に、過剰にメチル基が付加した副生成物(1,4−ジメトキシサリチル酸)も多く生成された。また、比較例3の従来のフラスコによる合成方法(バルク)により得られた反応収率も同様に、4−メトキシサリチル酸の反応収率は悪く、45%程度となった。
一方で、反応路を流れる反応時間が5分となるように設定した実施例3は、最も反応収率に優れる結果となり、約73%の反応収率を達成することが明らかとなった。なお、同処方にて反応時間が1分、2分、10分と設定した実施例1,2,4においても反応収率に優れ、60%以上の反応収率を達成することが明らかとなった。
【0040】
以上の検討結果から、室温にて、硫酸ジメチルのモル濃度がβレゾルシン酸のモル濃度の1.5〜3.0倍量になるように調製し、そしてアルカリ触媒のモル濃度がβレゾルシン酸のモル濃度の2.5〜3.0倍量となるように調整し、βレゾルシン酸/水酸化カリウムと硫酸ジメチルの流速比が2:1〜1:2、反応経路を流れる反応時間が1〜10分になるように設定したマイクロリアクターを用いて合成反応させると、反応収率及び純度に極めて優れた4−メトキシサリチル酸を得ることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明にかかる合成方法により用いられたマイクロリアクターの平面図である。
【図2】本発明にかかる合成方法により得られた4−メトキシサリチル酸及び副生成物のHPLC面積比結果である。
【図3】本発明にかかる合成方法により得られた4−メトキシサリチル酸及び副生成物のHPLC面積比結果である。
【図4】本発明にかかる合成方法により得られた4−メトキシサリチル酸及び副生成物のHPLC面積比結果である。
【図5】本発明にかかる合成方法により得られた4−メトキシサリチル酸及び副生成物のHPLC面積比結果である。
【図6】本発明にかかる合成方法、及び従来の合成方法により得られた4−メトキシサリチル酸及び副生成物のHPLC面積比結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるβレゾルシン酸を、マイクロリアクター内で下記一般式(2)で表される硫酸ジメチルと反応させることによる、下記一般式(3)で表される4−メトキシサリチル酸を合成することを特徴とする4−メトキシサリチル酸の合成方法。
【化1】


【化2】


【化3】

【請求項2】
請求項1に記載の合成方法において、マイクロリアクターが、βレゾルシン酸を流入する微細な流路及び硫酸ジメチルを流入する微細な流路と、これらの流路が合流する反応路とが基板上に形成され、前記反応路にて層流を接触させることを特徴とする化学反応装置であることを特徴とする4−メトキシサリチル酸の合成方法。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかに記載の合成方法において、マイクロリアクターの流路の断面積が0.001〜100mmであることを特徴とする4−メトキシサリチル酸の合成方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の合成方法において、マイクロリアクターの流速が0.5〜10μl/分となるように設定することを特徴とする4−メトキシサリチル酸の合成方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の合成方法において、マイクロリアクター内の一方の流路に流入される硫酸ジメチルのモル濃度が、もう一方の流路に流入されるβレゾルシン酸のモル濃度の1.5〜3.0倍であることを特徴とする4−メトキシサリチル酸の合成方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の合成方法において、βレゾルシン酸を流入する流路にアルカリ触媒を共存させることを特徴とする4−メトキシサリチル酸の合成方法。
【請求項7】
請求項6に記載の合成方法において、アルカリ触媒のモル濃度がβレゾルシン酸のモル濃度の1.0〜3.0倍であることを特徴とする4−メトキシサリチル酸の合成方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載の合成方法において、βレゾルシン酸/アルカリ触媒水溶液と硫酸ジメチル/有機溶媒溶液の流速比が2:1〜1:2となるようにマイクロリアクターの流速を設定することを特徴とする4−メトキシサリチル酸の合成方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の合成方法において、反応路を流れる反応時間が1〜10分となるようにマイクロリアクターの流速を設定することを特徴とする4−メトキシサリチル酸の合成方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の合成方法において、室温条件下にて反応させることを特徴とする4−メトキシサリチル酸の合成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−30940(P2010−30940A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193540(P2008−193540)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【Fターム(参考)】