5−2−5マトリックス・エンコーダおよびデコーダ・システム
【課題】多チャネルのオリジナルから方向的に符号化された2入力チャネルにおいてステレオ信号を変換する音響再生システム。
【解決手段】音響再生システムは、右方入力チャネルに記録された楽器が出力チャネルの各々の側にあるように、かつ全ての出力チャネルにおける全ての楽器の明瞭なラウドネスが同じであるように、所望の方向における入力信号の方向的に符号化された成分を強調し符号化される方向と関連しないチャネルにおけるかかる信号の振幅は低減する復号装置、ならびに相関されない左側と右側の入力に対するデコーダにおける分離を改善し、側方と後方との間の明瞭な動きの再生を改善し、音場の前方象限における信号へ印加されるブーストを補償し、方向制御信号の他の1つが変化しつつあるとき該信号の各々の最大エクスカーションを制限する回路、を含む。
【解決手段】音響再生システムは、右方入力チャネルに記録された楽器が出力チャネルの各々の側にあるように、かつ全ての出力チャネルにおける全ての楽器の明瞭なラウドネスが同じであるように、所望の方向における入力信号の方向的に符号化された成分を強調し符号化される方向と関連しないチャネルにおけるかかる信号の振幅は低減する復号装置、ならびに相関されない左側と右側の入力に対するデコーダにおける分離を改善し、側方と後方との間の明瞭な動きの再生を改善し、音場の前方象限における信号へ印加されるブーストを補償し、方向制御信号の他の1つが変化しつつあるとき該信号の各々の最大エクスカーションを制限する回路、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(相互引証)
本願は、1997年9月5日出願の米国仮特許出願第60/058,169号「5−2−5マトリックス・エンコーダおよびデコーダ・システム(5−2−5 Matrix Encoder and Decoder System)」に基づく。
【0002】
発明の分野
本発明は、聴取者を包囲するように配置された複数のラウドスピーカによる適切な増幅後の再生のため同数の出力信号への1対のステレオ音響入力信号のデコード、ならびに多チャネル素材の2チャネルへのエンコーディングを含む音響再生システムに関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
本発明は、規定された方向を持つ信号に対する種々の出力間の高いセパレーションを維持しながら、かつ入力音響信号の方向的にエンコードされた成分の方向の如何に拘わらず一定の音響レベルにおける方向性のないエンコード成分を維持しながら、入力信号に対する正味の前方および後方のバイアスが存在するときでさえ、あるいは特定方向における強い音響成分があるときでも、前後の信号間の均衡を改善してシステムの7チャネル・バージョン付近の平滑な音の動きを生じかつ7チャネル・バージョンの音に近い5チャネル・バージョンの音を生成する周波数に依存する回路を含む、エンコードされた多チャネル素材の再生における最適な音響心理学的性能を有するデコーティング・マトリックス、ならびに全ての条件下におけるステレオ信号の左右の成分間の高いセパレーションを維持することを含む標準的な2チャネル素材を生成する設計基準とその解決法の改善されたセットに関する。
【0004】
更に、本発明は、本発明によるデコーダによる標準的な2チャネル受信機において再生するための2チャネルへの多チャネル音のエンコーディングのためのエンコーディング回路を生成する設計基準とその解決法の改善されたセットに関する。
【0005】
本発明は、2つの個々のチャネルへの多チャネル音響信号のエンコーディング手段と、次いで結果として得る2チャネルをこれらが得られた多チャネル信号へ再びセパレーションする手段とを精錬する継続努力の一部である。当該エンコード/デコードプロセスの目標の1つは、できるだけ元の信号をオリジナルと恒久的に同じものとして復元することである。前記デコーダの別の重要な目標は、5チャネルのオリジナルからはエンコードされなかった2チャネル・ソースから5つ以上の個々のチャネルを抽出することである。結果として得る5チャネル表現は、少なくとも元の2チャネル表現と同程度に音楽的に興趣がありかつ鑑賞可能でなければならない。
【0006】
本発明は、適切な可変マトリックス係数の取得に対する改善に関する。かかる改善の理解を助けるため、本文の開示は、1989年米国特許と呼ばれるGriesingerの米国特許第4,862,502号(1989年)、1992米国特許と呼ばれる同第5,136,650号(1992年)、1996年7月米国特許出願と呼ばれる1996年7月のGriesingerの米国特許出願第08/684、948号、および1996年11月の米国特許出願と呼ばれるGriesingerの同第08/742、460号を参照する。前記の最後の米国特許出願に基くデコーダの市販バージョンは、バージョン1.11(即ち、V1.11)と呼ばれる。更なる幾つかの改善が、バージョン1.01(即ち、V2.01)と呼ばれる1997年9月出願の米国仮特許出願第60/058,169号に開示される。これらバージョンV1.11およびV2.01、および本発明は、まとめて「ロジック7」デコーダと呼ぶことにする。
【0007】
引用される更に他の技術的文献は:[1]「両耳の聴取者に対する多チャネル・マトリックス・サラウンド・デコーダ(Multichannel Matrix Surround Decoder for Two−Eared Listeners)」(D.GriesingerのAESプレプリント第4402号、1996年12月、および[2]「5−2−5マトリックス・システムにおけるプロセス」(D.GriesingerのAESプレプリント第4625号、1997年9月)である。
【0008】
発明の概要
5ないし2チャネルからエンコードされた元の信号を再生成し、5チャネル・フォーマットにおける2チャネル素材の感覚的に良好な再生を行うという2つの目標を具現するため用いられる手段が、関与する物理的および音響心理学的な事象を当方がよく理解するかぎりに体現した。前述の米国特許および米国特許出願は、有効なデコーダ装置を作り出した設計のフィロソフィを提示していた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、音響心理学的性能を最大化する幾つかの特性を有するアクティブ・マトリックスの実現に関する。別の特質において、本発明は、アクティブ・マトリックスからの出力の一部の周波数に依存する修正を開示する。更に他の特質において、本発明は、ともに標準的な2チャネル装置である本発明によるデコーダと産業規格「ドルビー・プロ・ロジック」デコーダとを用いて、最適な性能を発揮する5入力チャネルを2チャネル出力へエンコードする本発明によるアクティブ回路を提供する。
【0010】
本発明は、一部は、到来する信号の方向成分に依存して変化するマトリックス要素を有するアクティブ・マトリックス・デコーダである。このマトリックス要素は、入力に同時に存在する他の信号の左右のセパレーションをつねに保持しながら、意図された方向の再生に含まれる方向における信号のラウドネスを強調しながら、意図された方向に含まれない出力における方向的にエンコードされた信号のラウドネスを減じるように変動する。更に、本発明によるマトリックス要素は、例えばステレオ幅の制御により、2つの入力間の混合を増加あるいは低減することによって方向的にエンコードされた相関性のない2チャネル素材の左右のセパレーションを復元する。更に、本発明によるマトリックス要素は、音声と伴奏間の均衡がデコーダ出力に保存されるように、入力信号の色々な成分間のエネルギ均衡をできるだけ多く保存するよう設計される。結果として、本発明によるマトリックス要素は、入力音の方向的にエンコードれない要素のラウドネスとこれら要素の左右のセパレーションの両方を保存する。
【0011】
更に、本発明によるデコーダは、音の方向が7チャネル・デコーダからの音の方向に更によく似たように感じるよう、5チャネル・デコーダに対する2つから7チャネル・デコーダに対する4つへ戻しかつ5チャネル・デコーダにおける後方チャネルのスペクトルを修正する標準的な2チャネル素材が演奏されるとき、デコーダ出力の互換性を改善する周波数に依存する回路を含む。
【0012】
本発明によるエンコーダは、特定の入力の入力レベルが強いときこの入力に存在するエネルギが出力に保存されるように、強い入力の方向が出力信号の位相/振幅の比でエンコードされるように、強い信号がエンコーダの任意の2つの入力間でパンできかつ出力が適正に方向的にエンコードされるように、5つ(あるいは、5つの全レンジに1つの低周波をプラスするもの)の入力チャネルを2つの出力チャネルへ混合する。更に、エンコーダの2つの後方入力へ印加される相関性のない素材は、エンコーダの2つの後方チャネルに対する同相の入力が本発明によるデコーダおよびドルビー規格によるデコーダの後方チャネルへデコードする2チャネルの出力を生じるよう、かつエンコーダの2つの後方チャネルに対する逆相の入力が本発明によるデコーダとドルビー規格によるデコーダとに対する非方向性信号に対応する出力を生じるように、かつエンコーダの2つの後方入力へ印加される低レベルの残響信号が2チャネル出力におけるレベルで3dBの低減でエンコードされるように、エンコーダ出力が本発明によるデコーダによってデコードされるとき、入力の左右のセパレーションが保存されるような方法で2チャネルにエンコードされることになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
発明の新規な特徴と信じられる特性は、頭書の特許請求の範囲に記載される。本発明自体ならびに本発明の他の特徴および利点は、添付図面に関して実施の形態の以降の詳細な記述を参照することにより最もよく理解されよう。
【図1】図1は、本発明のデコーダの2から5へのチャネルマトリクッスセクションおよび方向検出セクションのブロック図。
【図2】図2は、図1のマトリクッスセクションの出力とデコーダ出力の間に接続される5チャネル周波数依存型アクティブ信号プロセッサ回路のブロック図。
【図3】図3は、図1のマトリクッスセクションの出力とデコーダ出力との間のどれかに接続される5から7へのチャネル周波数依存型アクティブ信号プロセッサのブロック図。
【図4】図4は、本発明のアクティブ5チャネルから2チャネルエンコ−ダのブロック図
【図5】図5は、マトリクッス値が1になるようにスケールした、1998年の米国特許およびドルビー プロ・ロジック(Dolby Pro−Logic)からの従来技術の左前方左(LFL)マトリックス・エレメントの三次元グラフを示す。
【図6】図6は、最小値が−0.5で最大値が+0.5であるように0.71までスケールした、1998年の米国特許およびドルビー プロ・ロジック(Dolby Pro−Logic)からの従来技術の左前方右(LFL)マトリックス エレメントの三次元グラフを示す。
【図7】図7は、最大値が1であるようにスケールされた、1989年米国特許からのLFLおよびLFR従来技術の平方和の二乗平方根の三次元グラフを示す。
【図8】最大値が1であるようにスケールされた、出願番号08/42、460からのLFLおよびLFRの和の二乗平方根の三次元グラフを示す。
【図9】図9は、V1.11の左前方左(LFL)マトリクッスの三次元グラフを示す。
【図10】図10は、本願発明の左前方左マトリックス要素の特に完全な三次元グラフを示す。
【図11】図11は、左と前後方間の後方境界に沿った本願発明のLFLとLFRの作用を示すグラフ。
【図12】図12は、左後方からの図として本願発明の完全な左前方左(LFL)マトリックス エレメントの三次元グラフを示す。
【図13】図13は、本願発明の完全な左前方右(LFR)マトリックス エレメントの三次元グラフを示す。
【図14】図14は、本願発明のLFLとLFRの和を平方する乗根(root)手段の三次元グラフを示す。
【図15】図15は、左後部から見た後方レベルに対する補正中の本願発明のLFLとLFRの平方の和の二乗根を表す三次元グラフを示す。
【図16】図16は、DB単位のCS関数としての従来のドルビー プロ・ロジクで使用されるべき中央マトリックスエレメントの実線カーブと、ドルビー プロ・ロジク デコーダの中央マトリックス エレメントの実際の値の点線カーブを示すグラフ。
【図17】図17は、中央マトリックスエレメントの理想値の実線カーブと、従来のドルビー プロ・ロジクの中央マトリックス エレメントの実際の値の点線カーブとを示すグラフ。
【図18】図18は、V1.11の従来エレメントに使用されている、LRLとLRRの平方の和の二乗根を表す三次元グラフを示す。
【図19】図19は、cs=0軸に沿った一定パワーレベルに対するGS(lr)とGR(lr)と、および左と中央間の境界に沿ったゼロ出力の数字的な解法を表すグラフ。
【図20】図20は、本願発明のGRとGSに対する値を用いるLRLとLRRの平方の和の二乗根を表す三次元グラフを示す。
【図21】図21は、左と右とが交換された中央右(CR)マトリック スエレメントを表す1989年米国特許の4チャネルデコーダ(およびドルビー プロ・ロジク デコーダ)の従来の中央左(CL)マトリックス エレメントを表す三次元グラフを示す。
【図22】図22は、ロジック7V1.11デコーダの中央左(CL)マトリックス エレメントを表す三次元グラフを示す。
【図23】図23は、新しいLFLとLFRとに対して必要とされる中央出力チャネル減衰の実線カーブと、標準のドルビー プロ・ロジク デコーダに対する中央減衰の点線カーブとを示すグラフ。
【図24】図24は、本願発明の“フィルム”戦略に対する理想中央減衰の実線カーブと、著しく良く動作する値の長点カーブと、比較のための標準ドルビー デコーダに対する減衰の点線カーブとを示すグラフ。
【図25】図25は、本願発明の“音楽”戦略に使用された中央減衰を示す。
【図26】図26は、本願本発明の“音楽”中央減衰GCを伴う一定エネルギー比を必要とするGFの値の実線カーブと、sin(cs)の値の点線カーブとを示すグラフ。
【図27】図27は、lr=0軸に沿った中央レベルの補正中の、新しい発明の左前方右(LFR)マトリックス エレメントを表す三次元グラフを示す。
【図28】図28は、新しい中央ブースト関数による中央左(CL)マトリックス エレメントを表す三次元グラフを示す。
【図29】図29は、出力レベルを左前方出力から(点線)プロットし、中央から左に強い信号として中央出力(実線)をプロットしたグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
望ましい実施の形態の詳細な記述
本文に提示する設計は、実際の設計が多くの方法において変更した前掲の開示の設計フィロソフィの多くを保持している。読み得る長さの文書の範囲内ではこのような設計の発展を完全に記述することは不可能である。文書の一貫性を保持するため、本文において前記設計フィロソフィの最も重要な要素を提起される問題に対する数学的な解決を示し、当該出願ではオリジナルである解決法について請求を行うため記述する。かかる主題について当方の前の出願を考察することは有用であるが、必須のものではない。
【0015】
1996年7月および1996年11月の米国特許出願、および1997年9月の米国仮特許出願に記載された如きデコーダおよびエンコーダにおける経歴が、まだ開示されていなかった更なる改善を導くものであった。本願は、本発明の改善されたエンコーダとデコーダの最も重要な特徴を記述し、米国特許出願第08/742,460号以来付加されてきた新規な特徴について請求を行うものである。
【0016】
・ デコーダの一般的記述
本願におけるデコーダについては、2つの個々の部分からなるものとして記述される。第1の部分は、2つの入力チャネルを中央、左前方、右前方、左後方および右後方として通常識別される5つの出力チャネルへ分割するマトリックスである。第2の部分は、2つの後方出力のスペクトルおよびレベルを修正する一連の遅延要素およびフィルタからなる。第2の部分の機能の1つは、デコーダの7チャネル・バージョンが望ましいとき左側と右側の付加的な対の出力を得ることである。米国特許出願第08/742,460号においては、前記第2の部分は明瞭ではなく、2つの付加的なチャネルが元のマトリックスにおける更なる1対のマトリックス要素から得たものである。
【0017】
デコーダとエンコーダとを記述する数学式において、ベクトル量はボールド字体の大文字活字でありマトリックスはボールドの小文字活字によって表わされるが、簡単な変数がイタリックで示される大半の変数については標準的な活字的な変換を用いることにする。名前を付した入力チャネルから結果として得る名前を付した出力チャネルからの係数であるマトリックス要素は、通常の大文字活字で示される。lrおよびcsのような簡単な変数は、2つの個々の簡単な変数の積は表わさない2文字の名前によって記述される。他の変数l/rおよびc/sは、ある意味では、左/右と中央/サラウンドの比の値を表わすが、このような比から得た制御信号電圧に関するものである。これらの変換は、本文に引用される前述の米国特許および米国特許出願において用いられたものである。マトラブ(Matlab)言語におけるプログラム・セグメントもまた、異なるタイプの活字面とポイント・サイズの使用により、かつこれらの行を引っ込めることによって弁別される。式は、マトラブ割当てステートメントから弁別して本文に述べる特定の特徴に対する基準を与えるため番号が付される。
【0018】
米国特許出願第08/742,460号における図4と同じものである図1は、デコーダの第1の部分、即ち5チャネル・マトリックス90に対する2チャネルのブロック図を示している。縦方向の鎖線により区切られた図1の左半分は、2つの指向(steering)電圧l/rおよびc/sを取得する手段を示す。これらの指向電圧は、左方/右方あるいは前方/後方の方向における固有の、即ちエンコードされた方向成分をそれぞれ有する。同図のこの部分は、参考のため本文に援用される前述の米国特許出願に詳細に記載されているので、本願においては明確に論述されない。
【0019】
図1において、要素92ないし138を含むデコーダ90の方向検出手段の後には縦方向の鎖線の右まで5×2マトリックスが続く。このマトリックス140ないし158の要素は、他の入力チャネルと直線的に組み合わされて各出力チャネルを形成する各入力チャネルの量を決定する.これらのマトリックス要素は、実際のものであると仮定される。(複合マトリックス要素の場合は米国特許出願第08/742,460号に記載されており、ここでは論述されない。)このマトリックス要素は、2つの指向電圧l/rおよびc/sの関数である。米国特許出願第08/742,460号がこれら関数に対する数学式を示している。本願における新規性の一部は、これら数式に対する改善にある。これらの数式をグラフにより示し、なぜこれらの式がそのような形態をとるかについて説明を行うことにする。
【0020】
2.指向電圧の簡単な記述
図1に示されるように、指向電圧c/sおよびl/rは、端子94における右入力振幅に対する端子92における左入力振幅の比の対数と、異なる振幅に対する和の振幅の比の対数とから得られる。指向電圧マトリックス要素の記述において、l/rおよびc/sを+45度から−45度まで変化する角度として表わすのが便利である。V1.11およびV2.01のデコーダにおいては、これら電圧はデシベルの単位を有する。下記において、指向電圧パラメータを角度へ変換することができる。
【0021】
lr=90-arctan(10^((l/r)/20)) (1a)
cs=90-arctan(10^((c/s)/20)) (1b)
角度lrおよびcsは、入力信号が有する方向成分に対する角度を決定する。例えば、デコーダに対する入力が相関されないとき、lrおよびcsはともにゼロである。中央のみから到達する信号の場合はlrはゼロであり、csは45度の値を有する。後方からくる信号の場合はlrはゼロでありcsは−45度である。同様に、左からくる信号は45度のlr値とゼロのcs右からの信号は−45度のlr値とゼロのcs値とを有する。弊設計においては、エンコード信号を生じるデコーダが、左後方信号をエンコードするときlr=22.5度でありかつcs=22.5度である特性を有するものと仮定する。同様に、エンコーダに対する右後方入力へ印加される信号はlr=22.5度とcs=22.5度の値を生じる。
【0022】
lrおよびcsの定義とlrおよびcsの誘導から、lrおよびcsの絶対値の和が45度より大きくはあり得ないことが判る。lrおよびcsの許容値は、絶対値(lr)−絶対値(cs)=45度の軌跡によって囲まれる面を形成する。この面の境界に沿って存在するlrおよびcsの値を生じる任意の入力信号は全く局在化される−即ち、特定方向から達するようにエンコードされた1つの音からなる。
【0023】
本願においては、このような2次元の面における関数としてマトリックス要素のグラフを広く利用する。一般に、マトリックス要素の誘導は、このような面の4つの象限において異なる。換言すれば、マトリックス要素は、指向が前方か後方かに従って、かつ指向が左か右かに従って、異なって記述される。前記面が象限間の境界に跨がって連続的であることを保証することに対して多くの研究がなされた。このような連続性の偶発的な欠如が、本願が目的とするV1.11のデコーダにおける問題の1つである。
【0024】
3.周波数に依存する要素
図1に示されたマトリックス要素は、実際のものであり、従って周波数に依存する。入力における全ての信号は、誘導される角度lrおよびcsに応じて出力へ誘導される。(今日の技術では、低周波および超高周波が図1には示されないフィルタによって入力信号からのlrおよびcsの誘導において減衰される。しかし、マトリックス自体は広帯域である。)
【0025】
実施において、マトリックス後の信号に対して周波数依存回路を適用することの幾つかの利点があることが発見された。これらの周波数依存回路の1つ─図1における右側出力180の移相ネットワーク170─については、米国特許出願第08/742,460号に記載されており、本文ではこれ以上論述しない。
【0026】
図2は、更に他の周波数依存回路の5チャネル・バージョンを示す。これらの回路は、固定されたパラメータを持たない。周波数およびレベルの挙動は、指向値lrおよびcsに依存する。これら回路は、幾つかの目的を達成する。第一に、5チャネルと7チャネルの両デコーダにおいて、指向が中立(lrおよびcsが0)であるかあるいは前方(cs>0)であるとき、更なる要素が後方チャネルの明瞭なラウドネスを調整することを可能にする。米国特許出願第08/742,460号において、このような減衰がマトリックス自体の一部として行われ、周波数に依存するものであった。理論的研究およびリスニング・テストによって、低周波が聴取者の場所から再生されることが非常に望ましいことを発見した。このように、ここで述べたデコーダにかぎり、高周波が可変低域通過フィルタ182、184、188および190によって減衰される。
【0027】
これは、指向が略々つねに中立であるかあるいは前方であるとき、本願で後に定義されるバックグラウンド制御信号186を用いて、後方チャネルにおける500Hzより高い
周波数を要素188、190により、また4KHzより高い周波数を要素182、184
によって減衰することによって達成される。後方へ指向される音が偶発的に存在すると、通常の2チャネル素材からのサラウンドエンコード素材を自動的に弁別する特徴である減衰を低減させる。
【0028】
5チャネル・バージョンにおける要素192、194は、ラウドスピーカの実際の位置が側方にあってさえラウドスピーカが聴取者の背後に置かれるものと思われるように、指向が後方に対するとき(cs<0)、c/s信号196を用いて音のスペクトルを修正する。修正された左サラウンド信号および右サラウンド信号がそれぞれ端子198および200に現れる。この回路の更なる詳細については本文の開示の後半部分に示される。
【0029】
図3は、周波数依存要素の7チャネル・バージョンを示す。前のように、指向がバックグラウンド制御信号186により再び制御される中立あるいは前方であるとき、フィルタ182、184、188、190の第1の組が側方出力および後方出力の高い周波数を減衰する。このような減衰もまた、更に前方の音像を生じる結果となり、聴取者の好みに調整することができる。c/s信号196により表わされる指向が後方へ移動するとき、更に他の回路202、204、206、208が後方出力から側方出力を弁別するように働く。指向が後方へ動くとき、側方スピーカにおいて先に述べた減衰は、側方に向けられる音を生じるように要素204、206によって最初に除去される。指向が更に後方へ動くとき、要素204、206の減衰が復旧され増加される。結果は、音が前方ラウドスピーカから側方ラウドスピーカ(複数)へ平滑に移動し、次いで遅延要素202、208により生じる約10msの遅延を生じる後方ラウドスピーカへ移動することである。低周波がこれら回路によって影響を受けないので、側方スピーカ(広がりの認識の役割をもつ)における低周波ラウドネスは音の動きによって影響を受けない。本文の以降の章で、図3における回路について更に詳細を述べる。
【0030】
4.エンコーダの全般的記述
図4は、5つの入力チャネルを2つの出力チャネルへ自動的にミックスするように設計されたエンコーダのブロック図を示す。このアーキテクチャは、米国特許出願第08/742,460号に記載されたエンコーダとは全く異なる。この新規な設計の目的は、デコーダにより元の5チャネルを抽出することを可能にする位相/振幅キューを提供しながら、2つの出力チャネルにおいて5チャネル・オリジナルの音楽的均衡を保持することである。従前のエンコーダは同様な目標を持っていたが、これらの目標を達成するため用いられた方法における改善がなされた。音楽的均衡の保存は、エンコーダにおいて非常に重要である。エンコーダの主な目的の1つは、通常の2チャネル・システムにおいて5チャネル・オリジナルと同じ芸術的品質で演奏する5チャネル・レコーディングの2チャネル・ミックスを自動的に生じることである。この新規なエンコーダ設計は、音楽的均衡が保存されることを保証するアクティブな要素を含んでいる。
【0031】
1997年11月の米国特許出願のエンコーダとは異なり、この新規な設計は、入力信号をエンコーダの5つの入力間にパンすることを可能にする。例えば、音を左前方入力から右後方入力へパンすることができる。結果として得る2チャネル信号が本願に述べたデコーダによってデコードされるとき、結果はオリジナルの音に非常に近づくことになる。往時のサラウンド・デコーダによるデコーディングもまたオリジナルと類似することになる。
【0032】
当該エンコーダの詳細な記述については、以降の章で述べる。
【0033】
5.デコーダのアクティブ・マトリックス要素の設計目標
本発明の最も基本的な目標は、従前のデコーダ、特に米国特許出願第08/742,460号に記載されたデコーダの目標と同じである。即ち、「本発明は、意図された方向における再生に直接には関与しない出力における方向的にエンコードされたオーディオ成分を減じ、前記信号に対する一定の全出力を維持するように意図された方向における出力の再生に直接に関与する出力における方向的にエンコードされたオーディオ成分を強調し、指向性信号の如何に拘わらず非方向性信号の左右のチャネル成分間の高いセパレーションを保持しながら、方向的にエンコードされた信号が存在するかどうかに拘わらず、かつこれらの意図された方向があってもその如何に拘わらず、非方向性信号の全オーディオ出力レベルとして定義されるラウドネスを有効に一定に維持するように構成された可変マトリックス値を有するサラウンド音響デコーダである。」
【0034】
これらの目標の大部分は、全てのマトリックス・デコーダにより明白に共有される。本願における新規性は、一部は上記の法則をどのように更に正確に実現するかを知ることに、また一部は上記法則を適用しないときを知ることに存在する。しかし、米国特許出願第08/742,460号の方法論の多くは保存される。前述の目標の最も重要なものの1つは、全ての条件下でデコーダの左右のチャネル間の高いセパレーションの明確な保持である。前述の4つのチャネルは、1つの後方チャネルのみを提供するため、後方におけるセパレーションを維持することはできない。他の製造者による5チャネル・デコーダは、多くの方法においてセパレーションの折り合いをつけている。本願に述べるデコーダは、V1.11の方法と類似した方法でこのような目標を満たしているが、更なる目標もまた満たすものである。
【0035】
米国特許出願第08/742,460号はまた、指向信号の精度を改善する回路および強い後方指向中に後方チャネルの1つの位相を切換える可変移相ネットワークのような設計に対する多くの比較的小さな改善も記載している。デコーダV1.11のこれらの特徴は、新たな設計に保持されるが、本文には包含されない。
【0036】
図4において、前方の入力信号L、CおよびRが入力端子50、52および54へそれぞれ印加される。C信号は両加算器278、282の入力へ印加される前に減衰器372において係数fcnだけ最初に減衰されるが、L信号およびR信号は加算器278、282へそれぞれ直接入る。低周波効果信号LFEは、要素374における利得2.0で通過し、次いで両加算器278、282へ印加される。
【0037】
サラウンド入力信号LSおよびRSは、2つの入力端子62、64を介してそれぞれが2つの個々の経路へ印加され、LS信号に対しては、減衰器378を経由する経路が利得fs(l,ls)を持ち、RS信号は利得fs(r,rs)を持つ対応する減衰器380を通過する。これら減衰器の出力は、利得係数−crxを有する交差結合要素384、386へ送られる(ここで、crxは公称的に0.383である)。これらの要素からの交差結合信号は、これもまた0.91の減衰器388、392から減衰されたLSおよびRS信号を受取る加算器392、394へ送られる。加算器392、394の出力は、加算器278、282の入力へ印加される。これは、これら要素をデコードされた空間中の中央後方の45度左および右にそれぞれ配置させる。
【0038】
他の信号分岐はそれぞれ、利得fc(l,ls)を持つ減衰器376および利得fc(r,rs)を持つ減衰器382を通るように、次いで交差結合要素396、398、402、404、406および408の類似の構成を通るように、LS信号およびRS信号を送り、加算器406、408は前のように中央後方の45度左右における左後方および右後方の入力を表わす出力を有する。しかし、加算器278、282からの左右の信号はそれぞれ移相要素286、288を通過するが、前記信号は各々移相要素234および246をそれぞれ通過する。これらの移相要素の各々は、全通過型フィルタであり、位相応答は要素286、288に対してはφ(f)であり、要素234、246に対してはφ(f)−90°である。これらのフィルタにおいて要求される成分値の計算は当技術において周知であり、本文ではこれ以上論述しない。その結果は、加算器406、408の出力が図4に示される如き全通過フィルタ・ネットワークの通過後は全ての周波数において加算器278、282の出力より90度だけ遅らせられることである。フィルタ246、288の出力は加算器280により組み合わされて端子46にB(即ち、右)出力信号を生じるが、全通過フィルタ・ネットワーク234、286の出力はこの時加算器276によって組み合わされて端子44にA(即ち、左)出力信号を生じる。
【0039】
弱いサラウンド信号は90度位相がずれた経路を通過して相関性のない「音楽」信号に対する一定出力を保持するが、利得関数fsおよびfcは強いサラウンド信号を他の音と同位相にさせるように設計される。値crxはまた、サラウンド信号が聴こえる角度を変化させ得る。
【0040】
6.米国特許出願第08/742,460号以来の設計の改善
米国特許出願第08/742,460号と関連する本発明における最も顕著な改善の1つは、信号が中央方向に指向されるときの、中央のマトリックス要素と左右の前方マトリックス要素における変化である。前にエンコードされデコードされた如き中央チャネルに2つの問題があることが判った。最も明らかな問題は、5チャネル・マトリックス・システムでは、中央チャネルの使用はできるだけ多くの左右のセパレーションを維持しようとする目標と本質的に相い入ないことである。2つの入力チャネルが左右の成分を持たないとき、マトリックスが従来の2チャネル・ステレオ素材から認識し得る出力を生じるならば、中央チャネルは左右の入力チャネルの和で駆動されねばならない。このように、左のデコーダと右のデコーダの両入力が中央スピーカにより再生され、最初は左(または、右)のチャネルだけであった音もまた中央から再生されることになる。その結果は、これらの音の明瞭な位置が部屋の中間へ引き寄せられることである。このことが生じる程度は、中央チャネルのラウドネスに依存する。
【0041】
米国特許出願第4,862,502号および同第5,136,650号は、左右のチャネルに比して3dBの最小値を持つマトリックス要素を使用した。デコーダに対する入力が相関性がないとき、中央チャネルのラウドネスは左右のチャネルのラウドネスと等しかった。指向が中央マトリックス要素へ動くに従って、更に3dBだけ増加した。このような高いラウドネスの効果は、前方音像の幅を著しく低減することである。音像の左右において鳴奏されるべき楽器は、つねに音像の中央に向けて引き寄せられる。
【0042】
米国特許出願第08/742,460号は、往時の値より4.5dB少ない最小値を持った中央マトリックス要素を用いた。この最小値は、リスニング・テストに基づいて選定された。このような減衰は、入力素材がオーケストラ音楽におけるように相関性のないときに、前方の音像へ快い広がりを生じた。前方の音像が著しく狭められることはなかった。米国特許出願第08/742,460号においては、指向が前方へ移動するときこれらマトリックス要素が増加し、最後にはドルビー・マトリックスにおいて用いられる値に達した。
【0043】
V1.11デコーダにおける経験が、中央チャネルのラウドネスにおける低減が空間的な問題は解明したが、入力信号における出力均衡はマトリックスにおいて保存されなかったことを示した。数学的な分析は、誤りに関してはV1.11のみでなく、ドルビー・デコーダおよび他の従前のデコーダもまた誤りであることを明らかにした。逆説的には、中央チャネルが前方の音像の幅を再生する観点からは強すぎたが、出力のバランスを保存するには弱過ぎた。この問題は、マンデル(Mandel)のデコーダ─標準的なドルビー・デコーダに対しては特に厳しい。標準的なドルビー・デコーダにおいては、後方チャネルが米国特許第4,862,502号の弊方のデコーダにおけるよりも強い。結果として、中央チャネルは、出力バランスを保持するために強くなければならない。中央チャネルにおける出力バランスの欠如は、ドルビー・デコーダに対しては引き続き問題であった。ドルビーは、音響ミックス技術者がつねにマトリックスを介するバランスを聴きとるべきことを推奨しており、従って、マトリックスにおける出力バランスの欠如がミキシング・プロセスにおいて補償することができる。不都合にも、最近のフィルムは5チャネル・リリース用にミックスされ、2チャネルに対する自動的なエンコーディングは対話レベルにおける問題を招来しがちである。
【0044】
更に多くの分析およびリスニング・テストは、フィルムおよび音楽がバランス問題に対する異なる解決法を必要とすることを示した。フィルムの場合は、米国特許出願第08/742,460号から、左右の前方マトリックス要素を保存することが最も有効であることが判った。これらの要素は、左右の前方チャネルから中央チャネルの情報をでき得るかぎり除去する。このことは、前方の左右のチャネルへの対話の漏れを最小限に抑える。新規な「フィルム」設計においては、指向が前方へ移動する(csがゼロより大きくなる)に伴って中央チャネルのラウドネスが標準的デコーダよりも急激に増加するように、出力バランスが中央マトリックス要素の変更によって補正される。実際には、中央チャネルがアクティブであるときにのみこのような条件に達するので、中央マトリックス要素の最終値が標準的デコーダにおける最終値より高いことは必要でない。中央チャネルおよび左右のチャネルにおいて略々等しいレベルが存在するときに中央のレベルが標準的デコーダより強いことのみが必要である。
【0045】
前記の「フィルム」方策により、他の全ての出力における中央チャネル成分を最小化しながら、入力信号における出力バランスを保持するように中央チャネルのラウドネスが増加される。このような方策がフィルムに対して理想的であると思われ、この場合中央チャネルは主として対話に対して用い、中央以外の位置からの対話は予期されない。このような方策の主な欠点は、多くの種類の大衆音楽において生じるような著しい中央指向があるとき前方の音像が狭められることである。しかし、フィルムに対する利点─前方チャネルに対する最小限の対話の漏れと、優れた出力バランスを含む─がこのような短所を補って余りある。
【0046】
音楽の場合は、別の方策を用いる。この場合は、中央チャネルのラウドネスを米国特許出願第08/742,460号と同じ比率で指向の中間値まで増加させ、この時cs≧22.5度である。音楽バランスを復元するため、入力信号の中央成分が完全に除去されないように左右の前方マトリックス要素を変化させる。デコーダの全ての出力からの音響出力が入力信号における音響出力と一致するように、中央において過度のラウドネスもなく、左右の前方チャネルにおける中央チャネル成分の量が調整される。
【0047】
このような方策により、3つ全ての前方スピーカが元のエンコードされた素材に存在する中央チャネルの情報を再生する。かかる方策の最も有効なバージョンは、入力の中央成分が中央出力において他の2つの前方出力のいずれよりも6dB強いときに指向作用を制限する。これは、csの正の値を単に制限することによって行われる。
【0048】
中央チャネル成分を3つ全てのスピーカから来させかつ前方の左右より中央が6dB高いとき指向作用を制限するような新規な方策が、全ての種類の音楽を優れたものにする。エンコードされた5チャネルと通常の2チャネルの両方のミックスが安定した中央、および中央チャネルと左右チャネルとの間の充分なセパレーションをもってデコードする。従前のデコーダとは異なり、中央と左右との間のセパレーションが厳密に完全ではないことに注目されたい。左からくるように意図された信号は中央チャネルから除去されるが、他の方向については除去されない。音楽の場合、当該方策が提供する高い側方セパレーションと安定した前方音像とは、このような完全なセパレーションの欠如を重視する。フィルムにおけるこのような設定によるリスニング・テストは、左右の前方スピーカから対話が存在したとしても、結果として得る音像の安定度が非常に良好であることを明らかにする。この結果は快く、煩くない。このような聴取者が音楽に対して設定されたデコーダによりフィルムを聴く場合、フィルムの芸術的品質を殺ぐことはない。フィルムに対して設定されたデコーダにより音楽レコーディングを聴くことは更に問題が多い。
【0049】
おそらくは、本願における改善の次の最も明らかなことは、信号が左前方から左後方の方向へ指向されるとき、前方チャネルと後方チャネルとの間のセパレーションの増加である。V1.11のデコーダは、このような条件下で前方チャネルに対して米国特許第4,862,502号のマトリックス要素を使用した。これらのマトリックス要素は、後方指向信号が全後方位置─左右の後方の中間へ指向されなかったならば、この後方指向信号を完全には除去することがない。指向が左後方あるいは右後方(完全に後方ではない)に対するときは、左または右の前方出力は対応する後方出力より9dB少ない出力を生じた。本発明においては、指向が左後方および右後方の間のどこかであるとき前方からの音を除去するように前方マトリックス要素が修正される。
【0050】
7.後方マトリックス要素に対する改善
後方マトリックス要素に対する改善は、典型的な聴取者にとって直ちに明らかなものではない。これらの改善は、象限間の境界に跨がるマトリックス要素の連続性における種々の誤りを補正する。これら改善はまた、様々な条件下で指向された信号と指向されない信号間の出力バランスをも改善する。後で述べるマトリックス要素の数学的記述は、これらの改善を含んでいる。
【0051】
8.アクティブ・マトリックスelの詳細な記述マトラブ言語
マトリックス要素を記述するため用いられる数学は、変数csおよびlrの連続関数に基くものではない。一般に、数式に対する条件、絶対値および他の非リニア修正がある。このような理由から、プログラミング言語を用いてマトリックス要素について記述する。マトラブ(Matlab)言語は、数式をグラフにより調べる簡単な方法を提供する。マトラブは、フォートランあるいはC言語に非常に類似する。主な相違は、マトラブにおける変数がベクトルであり得、即ち、各変数が一連の数列を表わすことができる。例えば、下記のように変数xを定義することができる。
【0052】
x=1:10;
マトラブにおけるこのような規定は、1から10までの値を持つ10個の数字のストリングを生成する。変数xは全てが10の値を含む。これは、1*10マトリックスであるベクトルとして記述される。各ベクトル内の個々の数字をアクセス即ち操作することができる。例えば、式
x(4)=4;
は、ベクトルxの4番目の項を値4に設定する。変数はまた、2次元のマトリックスを表わすこともできる。マトリックスにおける個々の要素は、同様に割当てることができる。
【0053】
X(2,3)=10;
は、値10をマトリックスXの2番目の行と3番目の列に割当てる。
【0054】
下記のマトリックス要素の詳細な記述は、文献[2]において刊行された記述と略々同じである。テキストはやや改善された。主な相違は、1.文献[2]は、「tvマトリックス」の特徴を含んでいる。この特徴は、指向が前方あるいは中立であるとき後方出力のレベルを低減する。本願では、この関数はマトリックスに続く周波数依存回路によって得られる。従って、「tvマトリックス」の補正を除外した。2.中央マトリックス要素における部分は、「フィルム」方式、「音楽」方式および「音楽」の設定作用を制限する方式に対する参照を含むように修正された。文献[2]は、制限なしに「音楽」設定についてのみ記載している。
【0055】
9.式およびグラフィックスにおけるマトリックス・デコーダ
文献[1]では、n×2マトリックの要素により記述することができるマトリックス・デコーダの設計を述べた。nは出力チャネル数である。各出力は、2つの入力の線形結合として示すことができ、ここで線形結合の係数はマトリックスにおける要素によって与えられる。この論文では、要素は文字の単純な組合組合せによって識別される。文献[1]は、5チャネルと7チャネルのデコーダについて記載する。5チャネルから7チャネルへの変換は、デコーダの周波数依存部分において行われ、従って本文では5チャネル・デコーダについてのみ記述する。
【0056】
対称性から、僅かに6つの要素、─中央要素、2つの左前方要素、および2つの左後方要素の挙動について述べる必要があることが明らかである。右要素は、左右の識別を切換えるだけで左から見出すことができる。これらの要素とは、
CL:中央出力への左入力チャネルに対するマトリックス要素
CR:中央出力への右入力チャネルに対するマトリックス要素
LFL:左前方出力に対する左入力チャネル
LFR:左前方出力に対する右入力チャネル
LRL:左後方出力に対する左入力チャネル
LRR:左後方出力に対する右入力チャネル
である。
【0057】
これらの要素は一定ではない。その値は、入力音の明瞭な方向の2次元関数として変化する。大部分の位相/振幅デコーダが、入力信号の振幅の比を比較することにより入力の明瞭な方向を決定する。例えば、左右の方向における指向度は、右の入力チャネルの振幅に対する左入力チャネルの振幅の比から決定される。同様に、前後の方向における指向度は、入力チャネルの和と差の振幅の比から決定される。ロジック7デコーダは指向方向の決定方法において標準的デコーダとは著しく異なるが、本文ではこれらの指向方向の決定のための方法については論述しない。指向方向が決定されたものと仮定する。本文では、これらの方向を角度として、即ち、左右の方向に対して1つの角度(lr)、および前後の(中央/サラウンド)方向に対して1つの角度(cs)として表わすことを仮定する。2つの指向方向は符号を付した変数である。lrとcsの両方がゼロであるとき、入力信号は指向されない─即ち、2つの入力チャネルが相関付けられない。
【0058】
入力が方向的にエンコードされた単一の信号からなるとき、2つの指向方向がそれらの最大値を有する。しかし、このような条件下では、これらは独立的でない。指向値を角度として表わすことに対する利点は、1つの信号しかないとき2つの指向値の絶対値が45度まで加算しなければならないことである。入力が強く指向された信号と共に相関しない素材を含むとき、指向値の絶対値の和は45度より小さくなければならない。
【0059】
|lr|+|cs|≦45 (2)
マトリックス要素の値を指向値により形成される2次元面上にプロットするならば、この面の中心は値(0,0)を持ち、指向値の和に対する適正値は45を越えることがない。実際に、非線形フィルタの挙動により和が45を越えることはあり得ない─米国特許出願第08/742,460号に請求されたlrとcsの小さい方を制限する回路─従って、その和が45度を越えなかった。この請求の範囲については本文ではこれ以上論述しない。マトリックス要素に対する数学的関係はオーバーランの間は良好な挙動となるものとする。マトリックス要素をグラフ表示するとき、入力変数の適正値を越えるときは値を任意にゼロにする。このことは、境界の射影に沿った要素の挙動を直接見ることを可能にし、─射影後に強く指向された信号が続く。グラフィックスは、マトラブ言語により生成された。マトラブ言語においては、マトラブ言語が角度変数が実際の角度値より1大きいことを要求するので、指向されなかった位置は(46,46)となる。このことは過度に混乱しないことが望ましい。
【0060】
マトリックス・デコーダに対する以前の設計は、強く指向された信号に対するマトリックスの挙動、即ち、当該面の境界周囲におけるマトリックス要素の挙動のみを考察しようとする。これは、展望における基本的な誤りである。フィルムあるいは音楽のいずれでも実際の信号を検討すると、面の境界にはほとんど達しないからである。ほとんどの場合、信号は面の中間付近、即ち、中央の僅かに前方で揺動する。これらの条件下のマトリックスの挙動は、音にとって非常に重要である。これら要素を前の要素に比較するとき、中間領域における面の複合性における著しい増加を見出すことができる。音における改善に役割を担うのはこのような複合性である。
【0061】
このような複合性が価値を有する。当方の元の1987年の設計─1989年の米国特許参照─は、アナログ成分による構成は簡単なものであった。新しい要素は、ディジタル構成では些細なものである1次元の索引テーブルによってほとんど完全に記述されるように設計される。同様な性能を有するアナログ・バージョンの設計は可能であるが、些細なものではない。
【0062】
本願においては、マトリックス要素の幾つかの異なるバージョンを対照する。最も古いものは、1989年の弊米国特許からの要素である。これらの要素は、当方の最初のサラウンド・プロセッサにおいて用いられ、(サラウンド・チャネルにおける同じものではない)左、中央および右のチャネルにおける標準的な(ドルビー)サラウンド・プロセッサの要素と同じものである。当方の設計では、サラウンド・チャネルは中央チャネルに対して対称的に取扱われる。標準的な(ドルビー)デコーダにおいては、サラウンド・チャネルは別様に取扱われ、この問題は本願において後で詳細に論述される。
【0063】
ここで述べる要素は、つねに正しくスケールされるとはかぎらない。一般に、これら要素は、任意の所与のチャネルに対するゼロでないマトリックス要素の指向されない値が1であるように示される。実際には、これらの要素は通常、各要素の最大値が1以下であるようにスケールされる。いずれの場合も、最終的な製品においては、要素のスケーリングは較正手順において更に変更される。本明細書で示すマトリックス要素は、適切な定数によりスケール付け可能であると見なすことができる。
【0064】
10.1989年米国特許における左前方マトリックス要素
csおよびlrがそれぞれ中央/サラウンドおよび左/右の軸における度単位の指向方向であるとする。
【0065】
1989年の米国特許において、前方マトリックス要素に対する式は下記のように与えられる。
【0066】
左前方象限では、
LFL=1-0.5*G(cs)+0.41*G(lr) (3a)
LFR=-0.5*G(cs) (3b)
右前方象限では、
LFL=1-0.5*G(cs) (3c)
LFR=-0.5*G(cs) (3d)
左後方象限(csが負であることを想起されたい)では、
LFL=1-0.5*G(cs)+0.41*G(lr) (3e)
LFR=-0.5*G(cs) (3f)
右後方象限では、
LFL=1-0.5*G(cs) (3g)
LFR=-0.5*G(cs) (3h)
関数G(x)は、1989年の米国特許において実験的に決定され、1991年の米国特許においては数学的に規定されている。この関数は、xが0から45度まで変化するとき0から1へ変化する。指向が左前方象限(lrおよびcsがともに正である)にあるとき、G(x)は1−|r|/|l|に等しく示すことができ、ここで|r|および|l|は左右の入力振幅である。G(x)はまた、色々な数式を用いて指向角度に関して記述することができる。これら数式の1つは1991年の米国特許において示され、別の数式は本文において後で示される。lr軸およびcs軸に対して3次元でプロットされたLFLおよびLFRのマトリックス要素のグラフについては図5および図6を参照されたい。
【0067】
文献[1]において、これらのマトリックス要素は、指向されない素材のラウドネスが指向方向の如何に拘わらず一定でなければならないという要件を加えることにより改善された。このことは、数学的には、LFLおよびLFRのマトリックス要素の平均2乗平方根の和が一定でなければならないことを意味する。前記論文において、この目標が指向の方向において変更されるべきこと、すなわち、指向が全左方であるときこれらマトリックス要素の平方和が3dBだけ増加すべきことが指摘された。図7は、これらのマトリックス要素の平方和を示し、上記マトリックス要素が一定のラウドネスの要件を満たさないことを示している。図7において、この値が指向されない位置から右へ軸に沿った0.71で一定であることに注目されたい。左に対して指向されない素材は値1まで3dB増加し、中央あるいは後方へ指向されないと値0.5まで3dBだけ低減する。グラフの当該部分は、左におけるピークによって隠される。後方向のレベルは、中央方向におけるレベルに等しい。
【0068】
米国特許出願第08/742,460号および文献[1]において、正弦および余弦によりマトリックス式における関数G(x)を置換することにより、図7における振幅誤差を補正した。式(4a)ないし式(4h)により以下に記述された補正要素LFLおよびLFRの平方和の結果として得るグラフについては図8参照。
【0069】
面の全右半部における一定の値0.71が左の頂点に向けて1まで増加することに注目されたい。左前方象限については、
LFL=cos(cs)+0.41*G(lr) (4a)
LFR=-sin(cs) (4b)
右前方象限については、
LFL=cos(cs) (4c)
LFR=-sin(cs) (4d)
左後方象限については、
LFL=cos(-cs)+0.41*G(lr) (4e)
LFR=sin(-cs) (4f)
右後方象限については、
LFL=cos(-cs) (4g)
LFR=sin(-cs) (4h)
【0070】
11.左前方マトリックス要素に対する改善
セパレーション1996年3月に、これらマトリックス要素に対して幾つかの変更を行った。基本的な関数の依存性は保持したが、前方ではcs軸に沿って更なるブーストを付加し、後方においてはcs軸に沿ってカットを付加した。ブーストの理由は、前方へパンされたステレオ音楽による演奏を改善することであった。後方におけるカットの目的は、ステレオ音楽が後方へパンされるとき前方チャネルと後方チャネル間のセパレーションを増すことであった。
【0071】
前方左象限については、
LFL=(cos(cs)+0.41*G(lr))*boost1(cs) (5a)
LFR=(-sin(cs))*boost1(cs) (5b)
右前方象限については、
LFL=(cos(cs))*boost1(cs) (5c)
LFR=(-sin(cs))*boost1(cs) (5d)
左後方象限については、
LFL=(cos(-cs))+0.41*G(lr))/boost1(cs) (5e)
LFR=(sin(cs))/boost(cs) (5f)
右後方象限については、
LFL=(cos(cs))/boost(cs) (5g)
LFR=(sin(cs))/boost(cs) (5h)
関数G(x)は、1989年の米国特許における関数と同じものである。入力として角度で表わされるとき、前記関数は下式に等しく示すことができる。
【0072】
G(x)=1-tan(45-x) (6)
1997年3月において用いられた如き関数boost1(cs)は、最初の22.5度の指向にわたり印加される合計3dBの線形ブーストであり、次の22.5度では0dBまで再び低減する。Boost1(cs)は、下記のマトラブ・コードのcorr(x)により示される(コメント行はパーセント記号%が先頭にある)。
【0073】
%22.5度で+3dBのブースト関数を計算
%corr(x)を3dBに上昇して保持する、corrl(x)を上昇しその後に再度下降する
forx=1:24x;%xは0から23度を表す1から24の値をもつ
corr(x)=10∧(3*(x−1)/(23*20)9;%3dBに上昇しこの範囲を越える
corrl(x)=corr(x);
endfor
x=25:46%corrlに対して下降このレンジ24から25度を越える
corr(x)=1.41:
corrl(x)=cor(48−x);
end
式(5a)ないし(5h)から結果として得るLFLのプロットについては図9を参照されたい。指向が中央に向けて移動するときブーストがともにlr=0軸および左から中央の境界に沿って印加されることに注目されたい。また、指向が後方へ移動するときのレベルにおける低下にも注目されたい。
【0074】
1997年3月の回路の性能は改善することができる。第1の問題は、左および中央間と右および中央間との境界に沿った指向の挙動にある。強い1つの信号が左から中央へパンするとき、図9においてLFLマトリックス要素の車両が左および中央間の最大半分まで増加することが判る。このような値の増加は、中央信号がステレオ音楽に加えられるとき、左および右の主出力に対するレベルにおける計画的な増加の意図しない結果である。
【0075】
ステレオ信号が前方へパンされるとき、これら出力からの相関成分のマトリックスによる除去を補償するため左右の前方出力がレベルにおいて増加すべきことが望ましい。しかし、これらの条件下でレベルを増加するため用いられる方法は、入力のlr成分が最小であるとき、即ち、左あるいは右の正味の指向がないときにのみ生じるべきである。1997年3月におけるこのような増加を実現するため選択された方法は、値lrには依存せず、強い信号が境界に跨がってパンされたときレベルの増加を結果として生じた。
【0076】
ブーストは、lr=0軸に沿ってのみ必要である。lrがゼロでないとき、マトリックス要素はブーストされるべきでない。この問題は、マトリックス要素に対して掛算の代わりに、加算項を用いることにより解決することができる。下記のマトラブ・コードにより境界制限cs値である新たな指向指数を定義する。
【0077】
lrおよびcsの両方が>0であること、─即ち、左前方象限にあるものとする(csおよびlrが1から46まで変化するマトラブ規約に従うものとする)
【0078】
【数1】
cs<22.5およびlr=0(マトラブ規約では、cs<24およびlr=1)であるならば、bcsはcsに等しい。しかし、lrが増加すると、bcsはゼロに低減する。cs>22.5ならば、lrが増加するときbcsもまた低減する。
【0079】
次に、必要な補正関数を見出すために、lr=0軸に沿った、ブーストされたマトリックス要素とブーストされないマトリックス要素との間の差異を見出す。この差異をcos_tbl_plusおよびsin_tbl_plusと呼ぶ。マトラブ・コードを用いて、
【0080】
【数2】
ベクトルsin_tbl_plusおよびcos_tbl_plusは、平坦な正弦および余弦と、ブーストされた正弦および余弦との間の差異である。次に、下記のように定義する。
【0081】
LFL=cos(cs)+0.41*G(lr)+cos_tbl_plus(bcs) (7a)
LFR=-sin(cs)-sin_tbl_plus(bcs) (7b)
前方右象限におけるLFLおよびLFRは類似するが、+0.41*G項はない。これらの新たな定義は、図10のグラフに示されるマトリックス要素を導く。
【0082】
図10において、新たな要素が左から中央の境界に沿って、ならびに中央から右の境界に沿って適正な振幅を有することに注目されたい。
【0083】
後方象限における指向もまた最適ではない。指向が後方へのものであるとき、上記マトリックス要素は下式により与えられる。
【0084】
LFL=cos_tbl_minus(-cs)+0.41*G(-cs) (8a)
LFR=sin_tbl_minus(-cs) (8b)
これらのマトリックス要素は、1989年の米国特許における要素とほとんど同じものである。強い信号が左から後方へパンする場合について考察しよう。1989年の米国特許のマトリックス要素は、この信号が完全に後方に対するものである(cs=−45,lr=0)ときにのみ、前方左出力からの出力の完全な打ち消しとなるように設計された。しかし、ロジック7デコーダにおいては、エンコードされた信号が左後方の方向に達する(cs=−22.5およびlr=22.5)ときに左前方出力からの出力がゼロであることが望ましい。左前方出力は、信号が更に全後方へパンするときゼロのままでなければならない。1997年3月において用いられたマトリックス要素─先に述べた─は、信号が左後方位置へパンされるとき前方左チャネルにおける出力が結果として約−9dBとなる。このレベル差は、マトリックスの優れた性能に対して充分なものであっても、これがあり得るほどは良好ではない。
【0085】
当該性能は、左後方象限におけるLFLおよびLFRのマトリックス要素を変更することによって改善することができる。ここでは、マトリックス要素が左と後方間の境界に沿ってどのように変化するかが関心事であることに注目されたい。前記境界に沿ったマトリックス要素の挙動を見出すため、文献[1]に示された数学的方法を用いることができる。tが0(左方)から−22.5度(左後方)へ変化するとき、左前方出力の振幅が関数F(t)で低減するものと仮定しよう。この方法は、下記のマトリックス要素を与える。
【0086】
LFL=cos(t)*F(t)-/+sin(t)*(sqrt(1-F(t)^2)) (9a)
LFR=(sin(t)*F(t)+/-cos(t)*(sqrt(1-F(t)^2))) (9b)
F(t)=cos(4*t)を選択し正しい信号を選択するならば、これらは下式へ簡単にする。
【0087】
LFL=cos(t)*cos(4*t)+sin(t)*sin(4*t) (9c)
LFR=(sin(t)*cos(4*t)-cos(t)*sin(4*t) (9d)
これら係数LFL(実線カーブ)とLFR(点線カーブ)のtに対するプロットについては図11を参照されたい。(マトラブ・コードでの全ての角度が整数であるため、中間における僅かな欠陥は22.5度における点の欠如によるものである) これらマトリックス要素は良好に働く─tが0度から22.5度まで変化するとき前方左出力がゼロまで平滑に低減される。指向が22.5度から45度(全後方)まで継続するとき出力がゼロに止まることが求められる。境界のこの部分に沿って、
LFL=-sin(t) (10a)
LFR=cos(t) (10b)
これらのマトリックス要素がlr=0の境界に沿ってマトリックス要素から遠くにあることに注目されたい。ここで、文献[1]では、この値は
LFL=cos(cs) (10c)
LFR=sin(cs) (10d)
であった。
【0088】
これらのマトリックス要素が強い指向信号により適正に挙動するように設計されことに注目されたい─ここで、csとlrの両方が最大値を持つ。lrが略々ゼロである場合─即ち、後方へパンされたステレオ信号がある場合、以前のマトリックス要素は信号に対して良好であった。lrおよびcsが境界に近づくとき往時のマトリックス要素をより新しいマトリックス要素へ平滑に変形する方法を必要とする。線形補間法を用いることができる。数が多くなると高価になるレキシコン社の製品で用いられたプロセッサにおいては、優れた方策は、下記のマトラブ・セグメントにより定義される如き新たな変数─lrおよびcsの最小値を定義することである。即ち、
【0089】
【数3】
そして、bpに依存する新たな補正関数
【0090】
【数4】
次いで、当該象限におけるLFLおよびLFRを下記のように定義する。即ち、
LFL=cos(cs)/(cos(cs)+sin(cs))-front_boundary_tbl(bp)+0.41*G(lr)(11a)
LFR=sin(cs)/(cos(cs)+sin(cs))+front_boundary_tbl(bp) (11b)
cos(cs)+sin(cs)の補正に注目されたい。cos(cs)をこの係数で除すと、関数1−0.5*G(cs)を得るが、これは当該象限におけるドルビー・マトリックスと同じものである。sin(cs)をこの係数で除すと、往時の関数+0.5*G(cs)を得る。
【0091】
同様に、右後方象限においては、
LFL=cos(cs)/(cos(cs)+sin(cs))=1-0.5*G(cs) (12a)
LFR=sin(cs)/(cos(cs)+sin(cs))=0.5*G(cs) (12b)
これらの値のグラフ表示については、図12および図13を参照されたい。
【0092】
左後方からの係数のグラフを示す図12において、左後方の境界に沿った大きな補正に注目されたい。これは、指向が左から左後方になるとき前方左出力をゼロにさせる。指向が全後方へ進むとき、この出力はゼロに止まる。lr=0軸に沿ってかつ右後方象限においては、当該関数はドルビー・マトリックスと同じである。
【0093】
図13において、左から後方の境界における大きなピークに注目されたい。これは、指向が左後方から全後方になるとき、LFLマトリックス要素に関して働いて前記境界に沿って前方出力をゼロに保持する。再び、lr=0軸に沿って後方向にかつ後方象限において、マトリックス要素はドルビー・マトリックスと同じものである。
【0094】
ロジック7マトリックスの設計の主な設計目標の1つは、デコーダの出力に存在した指向されない素材の任意の所与の出力におけるラウドネスが同時に存在する指向信号の方向の如何に拘わらず一定でなければならないことである。前に説明したように、これは、指向方向の如何に拘わらず、各出力に対するマトリックス要素の平方和が1でなければならないことを意味する。前に説明したように、この要件は、問題の出力の方向に強い指向があるとき変更されねばならない。すなわち、左前方出力に向いているならば、指向が全左になるときマトリックス要素の平方和が3dBだけ増加しなければならない。上記のマトリックス要素もまた、指向がlr=0軸に沿って前後方向に移動するとき、前記要件をやや変更する。
【0095】
しかし、マトリックス要素の平方和の平方根をプロットすることにより、当方の設計の成功を依然として検証することができる。改変された設計に対するこれらのプロットについては図14および図15を参照されたい。
【0096】
図14において、左方向における3dBのピークと中央方向において信号が指向されない状態から22.5度になるときのやや弱いピークとに注目されたい。(このプロットについては、後方の象限における1/(sin(cs))の補正を削除し、その結果結果として得る和がどのように正確に1になったかを知ることができる。)このピークは、半分前方の指向における左右の出力の慎重なブーストの結果である。他の象限では、設計意図であったように、rmsの和が1に非常に近いことに注目されたい。後方左象限における値は、マトリックス要素を生じるため用いられる方法が近似するが整合がやや良好であるとき、1にそれほど近くない。
【0097】
図15において、右方へは指向されない(中間の)軸が値1を持ち、中央の頂点が値0.71を持ち、後方の頂点が値0.5を持ち、左方の頂点が値1.41を持つ。中央軸に対して中間に沿ったピークに注目されたい。
【0098】
12.前方指向における後方マトリックス要素
1989年の米国特許における後方のマトリックス要素(標準的な較正較正手順の効果を示すためここでは0.71だけのスケーリングを導入したことを除いて)は、下式により与えられる。即ち、
前方左象限については、
LRL=0.71*(1-G(lr)) (13a)
LRR=0.71*(-1) (13b)
後方左象限については、
LRL=0.71*(1-G(lx)+0.41*G(-cs)) (13c)
LRR=-0.71*(1+0.41*G(-cs)) (13d)
(面の右半分が同じであるが、LRLおよびLRRを切換える)
ドルビー・プロ・ロジックにおける後方マトリックス要素は、(同様な較正較正後)
前方左象限については、
LRL=1-G(lx) (14a)
LRR=-1 (14b)
後方左象限については、
LRL=1-G(lr) (14c)
LRR=-1 (14d)
(面の右半分は同じであるが、LRLおよびLRRを切換える)
cs=−45度であるとき、ドルビーの要素および1989年の米国特許の要素が後方左象限において等しくなるように較正されることに注目されたい。
【0099】
13.ドルビー・プロ・ロジックにおけるサラウンド・レベルの小さな逸脱
このドルビー要素は、1989年の弊米国特許に類似するが、後方においてcsに依存するブーストはない。このような差異は、標準的な較正手順後に要素が指向されない信号に対して非常に異なる値を持つときは、実際に非常に重要である。一般に、このマトリックス要素の記述は3個のデコーダに対する較正手順を考察するものではない。比較的任意のスケーリングを有する全てのマトリックス要素を得る。ほとんどの場合、要素はあたかも最大値1.41を持つかのように提供される。実際に、技術的な理由から、マトリックス要素は全て1より小さい最大値を持つように最終的にスケールされる。更に、デコーダが最終的に使用に供されるときは、ラウドスピーカに対する各出力の利得が調整される。マトリックス要素を調整するために、等しい音響出力を持つ4つの主な方向─左、中央、右およびサラウンドからエンコードされた信号が再生され、各出力の利得は音響出力が聴取位置において等しくなるまで調整される。このことは、実際には、デコーダの4つの出力が全指向の条件下で等しくなるように、マトリックス要素の実際のレベルがスケールされることを意味する。明らかに、このような較正を前述の後方要素に対する式に含めた。
【0100】
前方に指向されあるいは指向されない条件における要素の3dBの差は無意味ではない。指向されない条件においては、1989年の米国特許からの要素が値0.71を持ち、要素の平方和は値1を有する。このことは、較正されたときはドルビー要素には妥当しない。LRLは指向されない値1を持ち、平方和は1989年の米国特許の出力より2ないし3dB高くなる。マトリックスが指向されないときは、較正手順が「ドルビー・サラウンド」パッシブ・マトリックスには対応しないマトリックスを生じる結果となることに注目されたい。ドルビー・サラウンド・パッシブ・マトリックスは、後方出力が0.71*(Ain−Bin)の値を持たねばならず、ドルビー・プロ・ロジックのマトリックスはこのような仕様は満たさないことを規定する。結果は、入力AおよびBが相関性のないとき後方出力が他の出力より3dB強くなることである。後方出力を分担する2個のスピーカがあるならば、デコーダ入力が相関されないときは、各々が単一の後方スピーカより3dBソフトになるように調整され、これが5個全てのスピーカに略々等しい音響出力を持たせる。1989年の米国特許からのマトリックス要素が用いられるとき、デコーダ入力が相関されないとき、同じ較正手順が3dB少ない後方からの音響出力を生じる結果となる。
【0101】
入力が相関性のないときは、後方チャネルがどれだけの音量であるべきかの問題は結局は好みの問題である。サラウンドエンコードレコーディングが演奏されるときは、レコーディングがミックスされるときプロジューサが聴いたバランスを再生したいものである。このようなバランスの達成は、組合組合せにおけるデコーダおよびエンコーダに対する設計目標である。しかし、標準的なステレオ素材の場合は、目標は、興趣があり耳障りでないサラウンドを生じながら元のレコーディングにおける出力バランスを再生することである。ドルビー・マトリックス要素における問題は、従来の2チャネル・レコーディングにおける出力バランスがマトリックスに保存されないことである。サラウンド・チャネルは強すぎ、中央チャネルは弱すぎる。
【0102】
このような問題の重要性を知るために、3つの成分、即ち相関されない左右の成分および別個の相関されない中央成分からなるデコーダに対する入力があるときになにが生じるかを考察しよう。
【0103】
Ain=Lin-0.71*Cin (15a)
Bin=Rin+0.71*Cin (15b)
AinおよびBinが従来のステレオ・システムにより演奏されるとき、室内の音響出力はLin2+Rin2+Cin2に比例する。3つ全ての成分が略々等しい振幅を持つならば、中央
成分の左に右を加えた成分に対する出力比は1:2となる。
【0104】
LinおよびRinに対するCinの出力比の如何に拘わらず、デコーダがステレオと略々同じ出力比で音響出力を室内で再生したいと思う。このことを数学的に表わすことができる。他の全てのマトリックス要素が所与のとおり用いられるならば、実質的に等しい出力比の要件がcs軸に沿う中央マトリックスの関数形態を規定する。マトリックスが完全に指向されるとき、即ち標準的な較正より3dB少ないとき、後方の音響出力が他の3出力より3dB少ないように較正されたドルビー・マトリックス要素を前提とすると、中央マトリックス要素は図16に示される形状を持つべきである。標準的な較正に対しては、同じことを行うことができ、図17における結果となる。
【0105】
図16において、デコーダ出力における出力比がステレオにおける出力比と同じであるべきことを前提とし、後方のドルビー・マトリックス要素が典型的に使用されるレベルにおいて3dB低く較正されると、実際の値が指向されない信号および完全に指向された信号に対して妥当な結果を生じるが、この実際の値は中間においては約1.5dB低い。
【0106】
図17において、ステレオ出力に対する等しい出力比がドルビー・プロ・ロジックにおいて実際に使用されるマトリックス要素と較正を生じることを前提とすると、実際の値がcsの全ての値に対して低すぎる3dBより高いことに注目されたい。
【0107】
これら2つの図は、ミックス技術者がしばしば気が付くなにか─即ち、ドルビー・プロ・ロジック・システムにおける再現のため調製されるミックスがステレオでの再現のため調製されるミックスより多くの中央ラウドネスを必要とし得ることを示す。反対に、プロ・ロジック・デコーダで再生されたときはステレオのため調製されたミックスが音声の鮮明度を失うことになる。皮肉にも、これは受動ドルビー・サラウンド・デコーダでは真実でない。中央マトリックス要素について論議するとき、再びこのような問題に対処することにする。
【0108】
14.2つの独立的な後方出力の生成
1989年の米国特許の要素とドルビー要素の双方における主な問題は、1つの後方出力しかないことである。1991年の米国特許が2つの独立的な側方出力を生成する方法を開示しており、この特許における数学的処理が1996年の文献[1]および米国特許出願第08/742,460号において前方左象限に包含されていた。当該象限における要素の目標は、同時に存在する指向されないZARに対する左後方チャネルからの一部の出力を維持しながら、左から中央へ指向される信号の出力を除去することであった。このような目標を達成するため、LRLマトリックス要素が下記の形態を持つものとした。
【0109】
左前方象限については、
LRL=1-GS(lr)-0.5*G(cs) (16a)
LRR=-0.5*G(cs)-G(lr) (16b)
明らかなように、これらのマトリックス要素は1989年の米国特許の要素に非常に類似しているが、LRRにG(lr)項を、またLRLにGS項を付加したものである。G(lr)は、デコーダのB入力チャネルからの信号を左後方出力へ追加し、指向された信号が除去されつつあるとき一部の指向されない信号出力を提供するため含まれた。次に、完全に指向された信号が左から中央へ移動するとき信号出力があってはならないという基準を用いて、関数GS(lr)に対する解を得た。数式の更に複雑な表現が1991年の米国特許に示されるが、GS(lr)に対する数式がG2(lr)と等しくなった。この
2つの表現は同じものとして示すことができる。
【0110】
文献[1]においては、これらの要素は、自らを指向されない素材に対する一定のラウドネスに近づけるため(sin(cs)+cos(cs))のブーストが与えられることによって補正される。右前方象限においては全く良好であるが、かかる補正は左前方象限においてはそれほど良好ではない。図18を参照されたい。(右前方象限に対しては、マトリックス要素は1989年の米国特許におけるLRLおよびLRRの要素と同じである。)
【0111】
図18において、前方左象限においては、中間から左の頂点に対する線に沿って3dBの弛みがあり、左と中央間の境界に沿って略々3dBのレベルにおけるブーストがあることに注目されたい。後方象限における山の範囲については後で論述する。同図では、図20における本発明に対する良好な対比を可能にするため、V1.11における「tvマトリックス」の補正が除去された。
【0112】
図18は、音響出力における幾つかの問題を示している。最初に、cs=0軸に沿った平方和における弛みについて考察しよう。この弛みは、LRRにおけるG(lr)の関数形態が最適でないゆえに存在する。G(lr)の選択は任意であり、往時の設計ではこの関数はデコーダに既に存在しており、アナログ回路におけるその実現は容易である。
【0113】
理想的には、当該式に関数GR(lr)を含み、かつLRLとLRRの平方和をcs=0軸に沿って一定に保持し、かつ左と中央間の境界に沿って出力をゼロに保持するようにGS(lr)およびGR(lr)を選択することを欲する。これは可能である。また、マトリックス要素がlr=0軸に沿って右前方象限におけるマトリックス要素と同じものであることを確証したいとも欲する。このため、下記のとおり仮定する。即ち、
LRL=cos(cs)-GS(lr) (17a)
LRR=-sin(cs)-GR(lr) (17b)
平方和がcs=0軸に沿って1となることを欲する。
【0114】
(1-GS(lr))2+(GR(lr))2=1 (18)
かつ、出力が指向された信号に対してゼロである、即ち、tがゼロから45度へ変化することを欲する。
【0115】
LRL*cos(t)+LRR*sin(t)=0 (19)
式18および式19は、GRおよびGSに対するめんどうな象限式を生じる結果となり、これは数学的に解かれ図19においてグラフ化される。図示のようなGSおよびGRの使用は、cs=0軸に沿った出力和に所期の大きな改善をもたらす結果となる。しかし、左と中央間の境界に沿った平方和におけるピークが残る。
【0116】
実際の設計においては、このような誤差を補償することはおそらくはそれほど重要ではないが、下記の方策により発見的にこれを行うことを決断した。lrおよびcsに基く新たな変数の組合せに依存する係数により両方のマトリックス要素を除す。この新たな変数をxyminと呼ぶ。(実際には、除算を用いずに、以下に述べる係数の逆数で乗じる。)マトラブ表記では、%xまたはyの最小を見つける
xymin=x;
if(xymin>y)
xymin=y;
end
if(xymin>23)
xymin=23;
end
%は、xyminがゼロから22.5度まで変化することを示す。
【0117】
次に、xyminを用いて境界に沿ったマトリックス要素に対する補正を知る。
前方左象限においては、
LRL=(cos(cs)-GS(lr))/(1+0.29*sin(4*xymin)) (20a)
LRR=(-sin(cs)-GR(lr))/(1+0.29*sin(4*xymin)) (20b)
前方右象限においては、
LRL=cos(cs) (20c)
LRR=-sin(cs) (20d)
文献[2]においては、これらの要素は更に「tvマトリックス」補正により乗じられる。本文における図20は、「tvマトリックス」補正を行わないマトリックス要素を示す。本願においては、このような補正は、マトリックスに後続する周波数依存回路によって処理されるもので、後で記述する。
【0118】
図20において、平方和が1に近くかつ後方におけるレベルの意図的な増加を除いて連続的であることに注目されたい。
【0119】
15.後方指向における後方マトリックス要素
1991年の米国特許に示された後方マトリックス要素は、5チャネル・デコーダには適さず、当方のCP−3製品においては実践的にに修正された。文献[1]および米国特許出願第08/742,460号は、左後方象限の境界に沿ってこれら要素を得る数学的方法が示された。当該方法は、境界に沿っては働くが、lr=0軸に沿って、かつcs=0軸に沿って不連続を生じる結果となった。1997年3月の米国特許では、これらの不連続は、マトリックス要素に対する更なる補正によって(ほとんど)修復され、これが指向の境界に沿って当該マトリックス要素の挙動を保持した。
【0120】
本願に述べる要素については、これらの誤りは補間法によって補正された。最初の補間がLRLに対するcs=0の境界に沿って不連続を固定する。この補間法は、csがゼロであるとき値をGS(lr)の値に一致させ、またcsが後方に向けて負の方向に増加するとき、この値を前の一致により与えられる値へ平滑に増加させる。第2の補間法は、LRRをcs=0軸に沿ってGR(lr)の値へ補間させる。
【0121】
16.右から右後方への後方指向における左側方/後方出力
最初に、指向が中立であるか全右および右後方間のどこかであるときの左後方左および左後方右のマトリックス要素について考察しよう。即ち、lrは0度から−45度まで変化し得、csは0度から−22.5度まで変化し得る。
【0122】
これらの条件下では、入力の指向成分は左出力から除去されねばならず─指向が右または右後方に対するときに後方左チャネルから出力があってはならない。
【0123】
1991年の米国特許に記載されたマトリックス要素が当該目標を達成する。これらの要素は、指向されないラウドネスに対するsin(cs)+cos(cs)の補正を付加した4チャネル・デコーダにおける後方マトリックス要素と実質的に同じものである。これが行われると、マトリックス要素は単純な正弦および余弦である。即ち、
LRL=cos(-cs)=sri(-cs) (21a)
LRR=sin(-cs)=sric(-cs) (21b)
0度から22.5度までの範囲にわたるsin(x)に等しい新たな関数sri(x)と、cos(x)に等しいsri(x)とを定義したことに注目されたい。左の指向における左後方のマトリックス要素の定義においてこれらの関数を再び用いることになろう。
【0124】
17.右後方から後方への後方指向における左側方/後方出力
次に、csが−22.5度より大きくなるときの同じマトリックス要素について考察しよう。文献[1]および前述の2つの米国特許出願において述べたように、LRLは前記範囲にわたって1以上に増加すべきであり、LRRはゼロに低減すべきである。簡単な関数がこのことを満たす(csが負であり、次の式において−22.5度から−45度まで変化することを想起されたい)。
【0125】
LRL=(cos(45+cs)+rboost(-cs))=(sri(-cs)+rboost(-cs)) (22a)
LRR=sin(45+cs)=sric(-cs) (22b)
Rboost(cs)は、文献[1]および米国特許出願第08/742,460号において定義される。これは、rboost(cs)が0>cs>−22.5に対してゼロであることを除いて、往時のマトリックス要素における関数0.41*G(cs)に非常に近く、またcsが−22.5度から−45度へ変化するときゼロから0.41まで変化する。その正確な関数形態は、音響が左後方から全後方へパンされるとき後方出力のラウドネスを一定に保持する要求によって決定される。
【0126】
右指向の間における左後方マトリックス要素がこの時完了する。
【0127】
18.左から左後方への指向における左後方要素
左後左および左後方右の要素の挙動は、更に非常に複雑である。lrが45度から22.5度まであるいはゼロ度まで低減するとき、左後方左要素はゼロから略々最大値まで急速に増加する。文献[1]に示されたマトリックス要素はこれを行うが、先に示したように、cs=0の境界における連続による問題がある。
【0128】
1997年3月リリースの場合は、1つの変数と幾つかの条件項の関数を用いる解決法が見出された。文献[1]においては、境界の前方側(cs≧0)ではLRLマトリックス要素がGS(lr)により与えられるので、cs=0の境界における問題が生じる。後方側(cs<0)では、文献[1]により示された関数は同じ終端点を持つが、lrがゼロあるいは45度でないときは異なる。
【0129】
文献[1]における数学的方法は、範囲22.5<lr<45の範囲にわたる左後方マトリックス要素に対する下式を提供する(文献[1]からのこれらの式を書き換えるとき、t=45−lrであることを想起されたい)。
LRL=cos(45-lr)*sin(4*(45-lr))-sin(45-lr)*cos(4*(45-lr))
=sra(lr) (23a)
LRR=-(sin(45-lr)*sin(4*(45-lr))+cos(45-lr)*cos(4*(45-lr)))=-srac(lr) (23
b)
この範囲にわたり、2つの新たな関数、即ち、sra(lr)およびsrac(lr)を有することに注目されたい。
【0130】
cs≧22.5ならば、lrは依然として0から45まで変化し得る。文献[1]は、(lrが範囲0<lr<22.5を持つとき)LRLおよびLRRを下式のように定義する(文献[1]における図6参照)。
LRL=cos(lr)=sra(lr) (23c)
LRR=-sin(lr)=-srac(lr) (23d)
2つの関数sra(x)およびsrac(x)は、この時0<lr<45に対して定義される。
【0131】
19. 1997年3月バージョン
1997年3月バージョンは、補間技術を用いて、境界に沿ったLRRを修正する。ここでは、2つの不連続がある。cs=0の境界に沿って、後方のLRRは、cs=0の境界に沿ってLRR=−G(lr)を示す前方向に対してのLRRと整合する必要がある。
【0132】
1997年3月に使用された選択肢は、計算的には幾らか強調的ではあるが、0ないし15度の範囲にわたってのcsの値に基づく補間を用いることである。言い換えると、csが零のときに、G(lr)を用いてLRRを見出だす。csが15度に増加すると、srac(lr)の値に補間を行う。
【0133】
また、lr=0の軸に沿っての不連続の可能性もある。1997年3月において、この不連続は、新しい変数cs_boundedを用いて求めた項をLRRに付加することにより、(幾らかではあるが)修正された。修正項は、単にsric(cs_bounded)になる。この項は、lr=0の軸を横切っての連続性を保証する。
【0134】
最初に、cs_boundedを以下のMatlab(マトラブ)記数法で定める。
【0135】
【数5】
【0136】
20. 97年8月のロジック7において実施されたLRL
本発明において、LRLは、LRRのように補間法を用いて計算される。マトラブ記数法では以下のようである。
【0137】
【数6】
【0138】
21. 左後方から完全な後方への指向の間の後方出力
指向が左後方から完全な後方へと進むと、エレメントは、リファレンス[1]に示されたものに従い、後方音量に対しての修正の付加を伴う。マトラブ記数法では以下のようである。
【0139】
【数7】
これにより、左指向の間に、LRLおよびLRRのマトリクス・エレメントが完成される。右指向に対する値は、定義における左と右とを交換することによって求めることができる。
【0140】
22. センタ・マトリクス・エレメント
89年の特許およびドルビープロ・ロジック(Dolby Pro−Logic)の両方が、以下のマトリクス・エレメントを有する。
【0141】
前方指向に対しては以下のようである。
【0142】
【数8】
後方指向に対しては以下のようである。
【0143】
【数9】
マトリクス・エレメントは、左右軸について対称であるので、右指向に対するCLおよびCRの値は、CLとCRとを交換することにより求めることができる。このエレメントの図式表現に関しては、図21を参照せよ。
【0144】
図21において、グラフの中間、および右および後方の頂点の値は1である。中央の頂点の値は1.41である。実際には、このエレメントはスケーリングされているので最大値が1である。
【0145】
出願番号第08/742460号およびリファレンス[1]において、これらのエレメントはサインおよびコサインにより置き換えられる。
【0146】
前方指向に対しては以下のようである。
【0147】
【数10】
これらの式は実施されなかった。1997年3月の製品は89年の特許におけるエレメントを使用したが、異なるスケーリングおよびG(cs)と異なるブースト関数を用いている。我々は中央出力の指向されないレベルを低減させることが重要であったことを発見し、プロ−ロジックのレベルよりも4.5dB小さい値を選択した。ブースト関数(0.41*G(cs))は、csが中央方向に増加するにつれてプロ−ロジックの値に戻すようにマトリクス・エレメントの値を増加するように、変更された。1997年3月バージョンにおけるブースト関数は、傾聴テストを通じて発見的に選択された。
【0148】
1997年3月バージョンにおいて、csのブースト関数は、以前のように、0から開始し、csが0から22.5度になるにつれて、CLおよびCRが4.5dB増加するような様式で、csとともに上昇する。この増加は、csにおける各dBの増加に対して定数のdBである。次に、ブースト関数は、次の20度において、マトリクス・エレメントが更に3dB上昇し、それから一定を保つ様式で、勾配を変化させる。即ち、指向が「ハーフ・フロント(半前方)」(8dBまたは23度)であるときに、新しいマトリクス・エレメントは、古いマトリクス・エレメントのニュートラル値に等しい。指向が前方に進み続けると、新しいマトリクス・エレメントと古いマトリクス・エレメントとは等しくなる。従って、中央チャネルの出力は、ニュートラルに指向されたときには、古い出力よりも4.5dB少ないが、指向が完全に中央に指向されたときには、古い値へと上昇する。このエレメントの3次元の図に関しては、図22を参照せよ。
【0149】
図22において、中間値および右および後方の頂点が4.5dB低減されていることに留意されたい。csが増加すると、中央が2つの勾配において1.41の値に増加する。
【0150】
1997年3月のもので使用された中央エレメントが最適でないことは発見されている。ポピュラー音楽レコーディングおよび映画における会話の中央部分は、ステレオ(2チャネル)再生とマトリクスを通じての再生との間での切り替えを行ったときに失われる傾向があることが、実際におけるデコーダを用いての多くの経験により示されている。更に、中央チャネルがレベルを変化させると、前方スピーカから等距離にない傾聴者は、中央音声の見かけ位置の移動に気づくことができる。この問題は、ここに呈示される新しい中央マトリクス・エレメントの開発において更に分析された。後に分かるように、信号が境界に沿って左から中央へまたは右から中央へパンするときには、問題がある。出願番号第08/742460号におけるマトリクス・エレメントは、パンがその途中でなされているときに、中央スピーカからの出力を低くしすぎる。
【0151】
23. 新設計における中央チャネル
指向が正面へ向かっているが左へも右へもバイアスされていないときにはいつでも、強く指向された信号を、マトリクス技術を用いて中央チャネル出力から除去することが可能であるが、中央チャネルは、幾らかの利得要因とともにA入力とB入力との合計を再生しなければならない。言い換えると、相関していない左と右の素材を中央チャネルから除去することは可能ではない。唯一できることは、中央スピーカの音量を調節することである。では、どのような音量にすべきであるか。
【0152】
この質問は、左および右の主出力の性質に依存する。LFLおよびLFRに対しての上述のマトリクスの値は、指向が前方へ動くときの入力信号の中央コンポーネントを除去するように設計されている。我々は、ステレオ幅制御のように、混ミクサを用いて入力信号が前方向から来るようにエンコードされている場合に、上述(1996年のAES論文のエレメント、1997年3月のエレメント、およびこの明細書の最初の方で呈示したもの)のマトリクス・エレメントのすべてが完全に元のセパレーションに修復することを、示すことができる。
【0153】
しかし、デコーダへの入力が、関連していない中央チャネルが付加されている、相関していない左チャネルと右チャネルとから構成される場合、即ち、
【0154】
【数11】
の場合には、CinのレベルがLinおよびRinに相対的に増加すると、デコーダのLおよびRの前方出力のCコンポーネントは、CinがLinおよびRinと比較して大きくない限り、完全に除去されない。一般に、Cin左方のビットがLおよびRの前方出力内にある。傾聴者は何を聞き取るであろうか。
【0155】
傾聴者が聞き取るものを計算する2つの方法がある。傾聴者が左、右および中央のスピーカから等距離にある場合には、傾聴者は、各スピーカからの音圧の合計されたものを聞き取る。これは、3つの前方出力の合計に等しい。このような状況の下では、左スピーカおよび右スピーカの中央コンポーネントが削減されると、中央スピーカの振幅に関わらずに、結果として中央コンポーネントからの音圧が残留損失を生じることを示すのは容易である。これは、中央スピーカが常にA入力とB入力の合計から得られ、その振幅が上げられると、Lin信号およびRin信号の振幅は、Cin信号の振幅に伴って上昇せねばならないからである。
【0156】
しかし、傾聴者が各スピーカから等距離にない場合には、傾聴者は、各スピーカからの音出力の合計を聞き取るようになる傾向があり、これは3つの前方出力の平方の合計と等しい。実際、詳細に傾聴することにより、実際、全スピーカの出力の合計が実際に重要であることが示されており、従って、後方出力を含むデコーダの全ての出力の平方の合計を考慮する必要がある。
【0157】
マトリクスを、ステレオ再生とマトリクス再生との間での切り替えのときにLin、Rin、およびCinの振幅の比率を保つように設計することを望む場合には、中央出力からのCinコンポーネントの音出力が、左出力および右出力からのその音出力における削減、および後方出力におけるその削減に正確に比例して上昇せねばならない。更に複雑なことに、左および右の前方出力は上述の3dBまでのレベル・ブーストを有する。これは、中央のものに、幾らか音量を多くして比率を一定に保つことを要求する。この要求を、音出力に対しての1組の式として書くことができる。これらの式を、中央スピーカに必要な利得関数に対して解くことができる。
【0158】
以前に、種々の状況の下でのドルビー・プロ−ロジック・デコーダのエネルギの関係を示すグラフを示した。プロ−ロジック・デコーダは最適なものではない。我々の新規なデコーダに関しても同様のことを行うことができる。
【0159】
図23は、指向が前方に向かって増加したときに、入力信号の中央コンポーネントのエネルギが前方の3つのチャネルにおいて保たれる場合に必要とされる中央利得(実線の曲線)を示す。理解できるように、中央チャネルのレベルにおいて必要とされる上昇はかなり急勾配であり、その上昇は、指向値のdB当たりに対して多くの振幅dBである。また、標準のデコーダの利得(点線の曲線)を示している。
【0160】
前述のように、この問題の2つの解決法がある。まず、「フィルム(映画)」解決法を説明する。この解決法は完全に数学的ではない。実際、図23に示す関数の上昇は急勾配すぎる。中央チャネルのレベルの変化は明瞭すぎる。我々は、要求される出力を少し緩め、理想よりも約1dB少ない中央にすることを決定した。中央の値を再計算する場合には、図24の実線で示す結果を得る。実際、線形的上昇を曲線の初期部分と置換することができる。実際、これらの中央値を用いた結果、フィルムに対しては最良であった。
【0161】
図24を参照すると、実際、実線の曲線の上昇は急勾配すぎる。破線で示された線形的勾配の方がより良く作用する。
【0162】
音楽は別の解決法を必要とする。以前にLFLおよびLFRに対して与えられたマトリクス・エレメントを仮定すると、図23および図24に示す中央の減衰が得られる。異なるエレメントを使用したとすればどうだろうか。特定的には、中央コンポーネントを左前方出力および右前方出力から除去することに積極的になる必要があるのだろうか。
【0163】
傾聴テストは、以前の左および右の前方マトリクス・エレメントが、音楽の再生の間の中央コンポーネントの除去に不必要に積極的であることを示している。音響学的に、それらがそのようなことを行う必要はない。左および右の前方から除去されたエネルギは、中央のラウドスピーカに与えられる必要がある。このエネルギを除去しなげば、それは左および右の前方スピーカから出され、中央スピーカを強くする必要はない。室内の音出力は同じである。この工夫は、丁度十分なエネルギを中央スピーカに与えて、軸から外れた傾聴者に対して納得のいく前方イメージを生成しつつ、前方左スピーカおよび前方右スピーカから等距離にある傾聴者に対するステレオ幅の削減を最少化することである。
【0164】
出願番号出第08/742460号で説明したように、試行錯誤により、最適の中央音量を見つけることができる。次に、室内におけるCinコンポーネントの出力を保つために前方左および前方右に必要なマトリクス・エレメントについて、回答を求めることができる。以前のように、中央チャネルのレベルが、我々の89年特許のデコーダのレベルより4.5dB下に低減される、または−7.5dBの合計の減衰となると仮定する。なお、−7.5dBは0.42と等しい。中央に対するマトリクス・エレメントは、この係数により乗算することができ、新しい中央ブースト関数(GC)は以下のように定義できる。
【0165】
前方指向に対しては以下のようである。
【0166】
【数12】
【0167】
後方指向に対しては以下のようである。
【0168】
【数13】
幾つかの関数をGC(cs)に対して試みた。以下に示すものは最適ではなかも知れないが、十分であるように思える。これは、度で表した角度csに関して指定されたものであり、何度かの試行錯誤により得られたものである。
【0169】
MATLAB記数法では以下のようである。
【0170】
【数14】
関数(0.42+GC(cs))を図25に示す。値0.42(ドルビー・サラウンドよりも4.5dB低い)からの速い上昇に、緩やかな上昇が続き、最終的に、値1への急な上昇が続くことに留意されたい。
【0171】
LFL、LRLおよびLRRに対しての関数を仮定した場合に、LFRに対しての必要とされる関数を解くことができる。左出力および右出力におけるCinコンポーネントが減少するレートを求め、次に、そのレートで減少させるマトリクス・エレメントを設計することが望まれる。これらのマトリクス・エレメントはまた、LinコンポーネントおよびRinコンポーネントの幾らかのブーストを提供すべきであり、かつ、左から中央の境界および右から中央の境界において現在の形状を有するべきである。
【0172】
ここでは以下のように仮定する。
【0173】
【数15】
前方左および前方右からの出力は以下のように計算できる。
【0174】
【数16】
中央からの出力は以下のようである。
【0175】
【数17】
後方からの出力は、使用するマトリクス・エレメントに依存する。後方チャネルは前方指向の間に3dB減衰され、LRLはcos(cs)であり、LRRはsin(cs)であると仮定する。1つのスピーカからは以下のようである。
【0176】
【数18】
Lin2≒Rin2であると仮定すると、2つのスピーカに対して以下のようである。
【0177】
【数19】
3つの全てのスピーカからの合計出力は、PLR+PC+PREARである。
【0178】
【数20】
Cin出力の、LinおよびRin出力に対する比率は以下のようである(Lin2=Rin2であると仮定)。
【0179】
【数21】
通常のステレオに対しては、GC=0、GP=1、GF=0である。従って、中央対LR出力比は以下のようである。
【0180】
【数22】
アクティブ・マトリックスに対するCin2/Lin2の値に拘わらずこの比が一定である場合、
【0181】
【数23】
上記の方程式は数値的に解くことができる。我々がGCを上記のようにそしてGP=LFLを前のように仮定すると、我々はその結果を図26に見ることができる。
【0182】
図26において、実線の曲線は、新しい「音楽」中央減衰GCを有する一定のエネルギ比にとって必要なGFのグラフである。破線の曲線は、1997年3月のLFRエレメント、即ちsin(cs)*corr1である。点線の曲線は、sin(cs)、即ち補正
項corr1なしのLFRエレメントである。GFは、csが30度に達し次いで急に増大するまでゼロに近いことに注目されたい。我々には、実際にcsの値を約33度に制限することが最良であることが分かった。実際に、これらの曲線から導出されたLFRは負の符号を有する。
【0183】
csがゼロから中央まで増大するにつれ、GFはlr=0軸に沿ったLFRマトリックス・エレメントの形状を与える。我々は、この振る舞いを先のLFRエレメントの振る舞いに混合する方法を必要とし、それは左と中央との間並びに右から中央までの境界に沿って保存されねばならない。cs≦22.5度のときこれを行う方法は、GFとsin(cs)との間の差関数を定義することである。次いで、我々は、この関数を種々の方法で制限する。マトラブ(Matlab)の表記法においては次のとおりである。
【0184】
【数24】
LFRエレメントは、ここにマトラブの表記法で次のとおり書くことができる。
【0185】
【数25】
【0186】
gf_diffの符号が上記の方程式で正であることに注目されたい。こうして、gf_diffはsin(cs)の値をキャンセルし、エレメントの値をlr=0軸の第1の部分に沿ってゼロに低減する。図27を参照のこと。
【0187】
図27において、csが〜30度へlr=0軸に沿って増大するにつれ、値が平面の中間においてゼロであり(操作(steering)なしで)、そしてゼロのままであることに注目されたい。次いで、値は、左から中央まで及び右から中央までの境界に沿って先の値と一致するため低下する。
【0188】
24. 中央出力におけるパンニング・エラー(panning error)
結局のところ、我々が新しい中央関数をこのように書く場合、
[数26]
CL=0.42*(1−G(lr))+GC(cs) (34a)
CR=0.42+GC(cs) (34b)
上記の新しい中央関数は、lr=0軸に沿ってうまく働くが、パンニング・エラーを、左と中央との間及び右と中央との間の境界に沿って生じさせる。参照文献[1]における値(それは決して実行されなかった。)は、左の境界に沿ったcos(2*cs)の平滑関
数を与える。これらの値は、滑らかなパンニングを左と中央との間に生成する。我々は、我々の新しい中央関数がこの境界に沿った類似の振る舞いを有するのを好むであろう。
【0189】
我々は、xyminの追加の関数(マットラブの表記法における)を加えることにより、ジョブを行うであろうマトリックス・エレメントに対して補正をすることができる。
【0190】
[数27]
center_fix_tbl=0.8*(corr1−1)
従って、
[数28]
CL=0.42−0.42*G(lr)+GC(cs)
+center_fix_table(xymin) (35a)
CR=0.42+GC(cs)
+center_fix_table(xymin) (35b)
CLマトリックス・エレメントの3次元表示について図28を参照のこと。完全ではないが、この補正は実際にうまく働く。
【0191】
図28において、全く滑らかである、左と中央との間の境界に沿ったパンニングに対する補正に注目されたい。
【0192】
左前方(点線の曲線)及び中央(実線の曲線)出力のグラフである図29において、中央操作はプロットの左であり、そしてフルの左は右であることに注目されたい。「音楽」戦略において、我々は、現在csの値を約33度(軸上に付された約13)に制限していて、そこにおいて中央は左より約6dB強い。
【0193】
25. エンコーダの技術的詳細
ロジック7エンコーダの2つの主要な目的がある。第1に、それは、エンコードされたバージョンをロジック7デコーダにより最小の主観的変化でもってデコードされるのを可能にする方法で5.1チャネル・テープをエンコードすることができるべきである。第2に、エンコードされた出力はステレオとの互換性があるべきであり、即ちエンコードされた出力は同じ素材の手動の2チャネル混合に出来るだけ近接して鳴るべきである。このステレオ互換性における1つの要因は、エンコーダの出力が標準のステレオ・システムで再生されたとき、そのエンコーダの出力は、オリジナルの5チャネル混合における各音源に対して同一の知覚された音の大きさを与えるべきである。ステレオにおける音源の見かけの位置はまた、5チャネルのオリジナルにおける見かけの位置に出来るだけ近接しているべきである。
【0194】
ミュンヘンにおける放送技術学会(IRT)による議論において、前述したようにステレオ信号のステレオ互換性の目的は、受動的エンコーダによりかなえることができないことが明らかになった。全部のチャネルが等しいフォアグラウンド重要性を有する5チャネル録音は、前述したようにエンコードされねばならない。このエンコードは、サラウンド・チャネルがエンコーダの出力の中にエネルギを保存するように混合されることを必要とする。即ち、エンコーダの出力の全体エネルギは、どの入力が駆動されているかに拘わらず同じであるべきである。この一定エネルギのセッティングは、大部分のフィルム(映画)・ソースに対して、そして楽器(instruments)が5個全部のスピーカに対して等しく割り当てられた5チャネル音楽ソースに対して必要であろう。そのような音楽ソースが現在一般的でないにも拘わらず、それらは将来一般的になるであろうことが著者の意見である。フォアグラウンドの楽器が前方の3チャネルに配置されていて主要な残響を後方チャネルに有する音楽録音は、異なる録音を必要とする。
【0195】
エンコード(IRT及びどこか外の所での)一連のテスト後に、このタイプの音楽録音は、サラウンド・チャネルが他のチャネルより3dB低いパワーで混合されたときステレオ互換性形式で首尾よくエンコードされたことが確認された。この−3dBレベルは、ヨーロッパにおいてサラウンドエンコードの標準として採用されたが、しかしその標準は、他のサラウンド・レベルを特別の目的のため用いることができることを明記している。新しいエンコーダは、サラウンド・チャネルの中の強い信号を検出する能動回路を含む。そのような信号が時折存在するとき、エンコーダはフルのサラウンド・レベルを用いる。サラウンド入力が前方チャネルと比較して一貫して−6dB又はそれより低い場合、サラウンド・ゲイン(suroundgain)はヨーロッパ標準に対応するため徐々に3dB下げられる。
【0196】
これらの能動回路はまた、特許出願No.08/742,460の中のエンコーダに存在していた。しかしながら、ミュンヘンにおける放送技術学会(IRT)での初期のエンコーダによるテストで、私はエンコードされたある音源のその方向がエンコード正しくないことが分かった。新しいアーキテクチャが、これらの問題を解決するため開発された。新しいエンコーダの性能は、広範囲の種々の難しい素材について明らかに優秀である。元のエンコーダは、最初受動エンコーダとして開発された。新しいエンコーダはまた、受動モードで動作するが、しかし主として能動エンコーダとして動作するよう意図されている。能動回路は、設計固有の幾つかの小さいエラーを補正する。しかしながら、能動的補正なしでもその性能は前のエンコーダより良い。
【0197】
広範囲の聴音により最初のエンコーダには幾つかの他の小さい問題が発見された。これらの問題の多く(しかし全部ではない)は、新しいエンコーダにおいて取り組まれた。例えば、ステレオ信号がエンコーダの前方端子及び後方端子の両方に同時に印加されたとき、その結果生じるエンコーダ出力は前方に対して余りに遠くに偏移(バイアス)されすぎる。新しいエンコーダは、後方バイアスを僅かに増大することによりこの影響を補償する。同様に、我々は、フィルムが実質的にサラウンド内容によりエンコードされるとき、会話が時々失われる場合があることが分かった。この問題は、前述したパワー・バランスに対する変更により大きく改善されたが、しかしエンコーダはまた、標準(ドルビー)デコーダと用いられることを意図されている。新しいエンコーダは、これらの条件下でエンコーダへの中央チャネル入力を僅かに高めることによりこの影響を補償する。
【0198】
26. 設計の説明
新しいエンコーダは、中央減衰関数fcnが0.71即ち−3dBに等しい場合、左、中央及び右の信号を先の設計と同一にかつドルビー・エンコーダと同一に処理する。
【0199】
サラウンド・チャネルは、それらが現在あるより一層複雑に見える。関数fc()及びfs()は、サラウンド・チャネルを、前方チャネルに関して90度位相シフトを有する経路へ、又は位相シフトのない経路へのいずれかへ指向させる。エンコーダの基本的動作において、fcは1であり、fsはゼロであり、即ち90度位相シフトを用いる経路のみがアクティブである。
【0200】
値crxは典型的には0.38である。それは、各サラウンド・チャネルに対して負の交差フィード量を制御する。先のエンコーダにおけるように、サラウンド・チャネルの1つに1つの入力のみがあるとき、A及びB出力は、後方の方に22.5度の操作角度を生じる0.38/0.91の振幅比を有する。通常のように、2つの出力チャネルの全体パワーは1(単位元)であり、即ち0.91と0.38の二乗和は1である。
【0201】
このエンコーダの出力は1つのチャネルのみが駆動されているとき比較的単純であるが、その出力は、両方のサラウンド入力が同時に駆動されているとき問題となる。我々がLS入力及びRS入力を同じ信号(フィルムにおいて通常の発生)により駆動する場合、加算ノードでの全ての信号は同相であり、そのため各出力チャネルの全体レベルは、0.38+0.91、即ち1.29である。この出力は1.29の係数即ち2.2dBだけ強すぎる。2つのサラウンド・チャネルがレベル及び位相において似ているとき関数fcの値を2.2dBまでだけ低減するため、能動回路がエンコーダの中に含まれている。
【0202】
2つのサラウンド・チャネルのレベルが似ていてかつ位相はずれであるとき、別のエラーが生じる。この場合は、2つの減衰係数が減じ、そのためA及びB出力は等しい振幅及び位相、及び0.91−0.38、即ち0.53のレベルを有する。この信号は、中央方向信号としてデコードされるであろう。このエラーは厳しい。先のエンコーダ設計は、操作されてない(unsteered)信号をこれらの条件下で生成したが、その信号は妥当である。後方入力端子に印加される信号が中央に向けられた信号をもたらすのは妥当ではない。従って、2つの後方チャネルがレベルにおいて似ていて反対位相のときfsの値を増大する能動回路が与えられる。後方チャネルのための後方経路と位相シフトされた経路との両方を混合する結果は、出力チャネルAとBとの間の90度位相差である。この結果が操作されてない信号をもたらし、それは我々が望むものである。
【0203】
前述したように、私はミュンヘンにおけるIRTでの議論の間にヨーロッパ標準サラウンド・エンコーダが存在することを発見した。エンコーダは、単純に2つのサラウンド・チャネルを3dBだけ減衰し、次いでそれらを前方チャネルに加える。こうして、左後方チャネルが、減衰されて左前方チャネルに加えられる。このエンコーダは、マルチチャネルフィルム音、又はサラウンド・チャネルの中に特定の楽器を有する録音をエンコードするとき多くの欠点を有する。これらの楽器の音の大きさ及び方向の両方が正しくなくエンコードされるであろう。しかしながら、このエンコーダは、クラシック音楽に対してむしろうまく動作し、そこにおいて2つのサラウンド・チャネルは主要な残響である。3dB減衰は、ステレオ互換性のあるエンコードを生じるため聴音テストを通して注意深く選定された。私は、我々のエンコーダがクラシック音楽がエンコードされつつあったとき3dB減衰を含むべきであり、そして人がこの条件を、エンコーダの中の前方チャネルとサラウンド・チャネルとの相対的レベルを通して検出できると結論を下した。
【0204】
サラウンド・チャネルの中の関数fcの主要機能は、サラウンド・チャネルが前方チャネルより非常にソフトであるとき出力混合の中のサラウンド・チャネルのレベルを低減することである。回路は、前方レベルと後方レベルとを比較するため設けられており、後方が3dBだけ少ないとき、fcの値は最大の3dBまで低減される。最大減衰は、後方チャネルが前方チャネルより強さで8dB小さいとき達成される。この能動回路はうまく動作するように見える。それは、新しいエンコーダがクラシック音楽のためヨーロッパ標準エンコーダと互換性があるようにさせる。能動回路の作用は、後方チャネルにおいて強いことを意図される楽器をフル・レベルでエンコードするようにさせる。
【0205】
サラウンド・チャネルのため実数係数を混合する経路の別の関数fsがある。音が左前方入力から左後方入力へ移動するとき、能動回路は、これら2つの入力がレベル及び位相において似ていることを検出する。これらの条件下で、fcはゼロに低減され、fsは1に増大される。エンコードにおける実数係数に対するこの変更は、このタイプのパン(pan)のより正確なデコードをもたらす。実際には、この機能はおそらく本質的でないが、しかしそれはエレガントな洗練したもの(refinement)に見える。
【0206】
製品でまだ発売されていない追加の能動回路がある。レベル検出回路は、中央チャネルと前方左及び右との間の位相関係を見る。5チャネルを用いるあるポピュラー音楽の録音は、ヴォーカルを3つ全ての前方チャネルの中に混合する。強い信号が3つ全ての入力の中にあるとき、3つの前方チャネルが一緒に同相で加わるので、エンコーダ出力は過剰なヴォーカル・パワーを有するであろう。これが生じるとき、能動回路は、中央チャネルの減衰を3dBだけ増大して、エンコーダ出力におけるパワー・バランスを回復する。
【0207】
要約すると、能動回路は以下のために設けられている。
1. 2つのチャネルが同相であるときサラウンド・チャネルのレベルを2.2dBだけ低減する。
2. 2つの後方チャネルが位相はずれであるとき操作されてない条件を生成するため後方チャネルのための実数係数混合経路を十分に増大する。
3. サラウンド・レベルが前方レベルより非常に小さいときサラウンド・チャネルのレベルを3dBまでだけ低減する。
4. 後方チャネルのレベルが前方チャネルに似ているとき後方チャネルのレベル及び逆の位相を増大する。
5. 音源が前方入力から対応する後方入力へパンニングしているとき、サラウンド・チャネル混合が実数係数を用いるようにする。
6. 中央レベルと前方及びサラウンド入力のレベルとがほぼ等しいとき、エンコーダの中の中央チャネルのレベルを増大する。
7. 共通信号が3つの全ての前方入力の中にあるとき、エンコーダの中の中央チャネルのレベルを低減する。
【0208】
エンコーダに対する将来の改善は、前方チャネルに対する上記特徴2に類似の特徴を含みそうである。現在のエンコーダにおいては、2つの前方チャネルが位相はずれであるとき、エンコードは、エンコーダに音を後方に置くようにさせる。我々は、この条件を検出し、その結果生じる出力を操作されないようになることを意図している。
【0209】
27. エンコーダの中の周波数依存回路
図2は、デコーダの5チャネル・バージョンにおけるマトリックスに従う周波数依存回路のブロック図を示す。3つのセクション、即ち可変低域通過フィルタ、可変シェルフ・フィルタ及びHRTF(ヘッド関連伝達関数(Head Related Transfer Function))フィルタがある。HRTFフィルタは、その特性を後方指向電圧c/sの値に応じて変える。初めの2つのフィルタは、強く指向された信号間の休止中におけるデコーダへの入力信号の平均方向を表すことを意図される信号に応答してそれらの特性を変える。この信号は、バックグラウンド制御信号と呼ばれる。
【0210】
28. バックグラウンド制御信号
現在のデコーダの主要目標の1つは、5チャネル・サラウンド信号を2つの通常のチャネル・ステレオ信号から最適に生成することができることである。また、本出願の一部として記載されたエンコーダにより2つのチャネルの中にエンコードされた5チャネル・サラウンド録音を再生成することがデコーダにとって非常に望ましい。これら2つの出願は、サラウンド・チャネルが知覚される方法において異なる。通常のステレオ入力では、音の大部分が聴音者の前にあるあることが必要である。サラウンド・スピーカは、包囲(envelopment)及び雰囲気の愉快な感じに寄与すべきであるが、しかしそれら自身に注意を引くべきでない。エンコードされたサラウンド録音は、サラウンド・スピーカがより強くかつより積極的であることを必要とする。
【0211】
両方のタイプの入力をユーザからのいずれの調整なしで最適に再生するため、2チャネル録音とエンコードされた5チャネル録音とを弁別することが必要である。バックグラウンド制御信号は、この弁別を行うよう設計されている。バックグラウンド制御信号(BCS)は、後方指向信号csに似ていて、そしてそれから導出される。BCSはcsの負のピーク値を表す。即ち、csがBCSよりより負であるとき、BCSはcsに等しくされる。csがBCSよりより正であるとき、BCSの値はゆっくりと減衰する。しかしながら、BCSの減衰は更なる計算を伴う。
【0212】
多くのタイプの音楽は、一連の強いフォアグラウンド音から、又は歌の場合は一連の歌われた単語から成る。フォアグラウンド音符の中間にバックグラウンドがある。バックグラウンドは他の楽器が演奏する他の音符から成り得て、又はそれは残響から成り得る。BCS信号を導出する回路は、フォアグラウンド音符のピーク・レベルを追跡する。現在のレベルがフォアグラウンドのピーク・レベルより〜7dB低いとき、csのレベルが測定される。フォアグラウンド・ピーク間のこれらの間隙中のcsの値を用いて、BCSの減衰を制御する。音符間の間隙の中の素材が残響である場合、それは、5チャネルのオリジナルをエンコードすることによりなされた録音において正味の後方へのバイアスを有する傾向にある。これは、オリジナルの後方チャネル上の残響が後方へのバイアスによりエンコードされるであろうからである。通常の2チャネル録音における残響は、正味の後方へのバイアスを有しないであろう。この残響のためのcsは、ゼロ又は僅かに前方であろう。
【0213】
このようにして導出されたBCSは、録音のタイプを表す傾向がある。著しい後方指向された素材があるときはいつでも、BCSは常に強く負であるだろう。しかしながら、BCSは、録音の中の残響が正味の後方へのバイアスを有する場合、後方に対する強い指向が無い場合ですら負であり得る。我々は、BCSを用いて、ステレオ入力対サラウンド入力のためデコーダを最適化するフィルタを調整することができる。
【0214】
29. 周波数依存回路:5チャネル・バージョン
図2におけるフィルタの最初のものは、調整可能なカットオフ周波数を有する単純な6dB/オクターブの低域通過フィルタである。BCSが正又はゼロであるとき、このフィルタは、ユーザ調整可能である値にセットされるが、通常は約4kHzである。BCSが負になるにつれ、カットオフ周波数は上昇されて、ついにBCSが22度より後方であるとき、フィルタはアクティブでない。この低周波数フィルタは、通常のステレオ・素材が再生されるとき、後方出力の突出をより少なくする。フィルタは、少なくともV1.11以来デコーダの一部であったが、しかし初期のデコーダにおいては、それは、csにより制御され、そしてBCSによっては制御されなかった。
【0215】
第2のフィルタは、可変シェルフ・フィルタである。このフィルタの低周波数セクション(極)は、500Hzに固定されている。高周波数セクション(ゼロ)は、ユーザ調節及びBCSに応じて変わる。このフィルタは、現在のデコーダの中で「サウンドステージ(サウンドフィルムを制作する防音スタジオ)(soundstage)」制御を実行する。特許出願No.08/742,460において、「サウンドステージ」は、「tvマトリックス」補正を用いて、マトリックス・エレメントを介して実行される。この仕事に基づく往時のデコーダは、指向が中立又は前進であったとき後方チャネルの全体レベルを低減した。ここに示された新しいデコーダにおいては、マトリックス・エレメントは、「tvマトリックス」補正を含まない。
【0216】
新しいデコーダにおいては、サウンドステージ制御が「後方」にセットされるとき、シェルフ・フィルタの高周波数セクションは、低周波数セクションと等しくセットされる。換言すると、シェルフは減衰を有しないで、そしてフィルタは平坦な応答を有する。
【0217】
サウンドステージ制御が「中立」にセットされるとき、高周波数ゼロのセッティングは変わる。BCSが正又はゼロであるとき、ゼロは710Hzに移動し、より高い周波数の3dB減衰をもたらす。高周波数に対して、その結果は、初期のデコーダと同じである。指向が中立又は前進であるとき3dB減衰がある。しかしながら、低周波数は減衰されない。それらは、部屋のサイドからフル・レベルで来る。結果は、後方における高周波数をそらす(distract)ことなしにより大きな低周波数の豊富さ及び包囲である。BCSが負になるにつれ、高周波数ゼロは極の方に移動し、そのためBCSが後方に対して約22度であるとき、シェルフ・フィルタは減衰を有しない。
【0218】
サウンドステージ制御が「前方」にセットされるとき、作用は似ているが、ゼロは、BCSがゼロ又は正であるとき1kHzに移動する。これは、高周波数に6dBの減衰を与える。再度、BCSが負に行くにつれ、減衰は取り除かれる。
【0219】
第3のフィルタは、c/sにより制御され、そしてBCSにより制御されない。このフィルタは、音源が聴音者の前方からの方位角でほぼ150度であるとき、人間の頭部及び耳介の周波数応答をエミュレートするよう設計される。このタイプの周波数応答曲線は、「頭部関連伝達関数」又はHRTFと呼ばれる。これらの周波数応答関数は、多くの異なる人々に対して多くの角度について測定されてきた。一般に、音源が前方から約150度であるとき、周波数応答における強いノッチが約5kHzにある。類似のノッチは、音源が聴音者の前方にあるとき存在し、この場合のみ、ノッチは約8kHzである。聴音者の側方への音源は、これらのノッチを生成しない。人間の頭脳は、それが音源が聴音者の背後であることを検出する方法の1つとしてノッチが5kHzに存在することを用いる。
【0220】
5チャネル音響再生のための現在の標準は、2つの後方スピーカが聴音者の僅かに背後にかつ前方から±110又は120度で配置されることを推奨している。このスピーカ位置は、良好な包囲を低周波数で与える。しかしながら、聴音者の側方からの音は、完全に聴音者の背後にある音と同じレベルの興奮を生成しない。フィルム・ディレクタは、聴音者の背後から来、そして側方から来ない音響効果を欲する場合が非常に多い。
【0221】
また、聴音室がスピーカを完全に聴音者の背後に配置するのに適する大きさと形状を有しないで、そして側方位置が達成することができる最良の所である場合が多い。
【0222】
デコーダの中のHRTFフィルタは、後方音源の周波数ノッチを追加し、そのため聴音者は、音をスピーカの実際の位置の背後の更に遠くに聴く。フィルタはcsと共に変わるよう設計されている。csが正又はゼロであるとき、フィルタは最大である。これが、周囲音響及び残響が聴音者のより背後にあるように思わせる。csが負になるにつれ、フィルタは低減される。csがほぼ−15度であるとき、フィルタは完全に取り除かれ、音源は完全に側方から来るように思われる。csが更に負に行くにつれ、フィルタが再度適用され、従って、音源は聴音者の背後に行くように思われる。csが後方に対して十分であるとき、フィルタは、後方に対して十分である音のためのHRTF関数に対応するため僅かに修正される。
【0223】
30. 周波数依存回路:7チャネル・バージョン
図3は、デコーダの7チャネル・バージョンにおける周波数依存回路を示す。これらは、実際の実行においては、第2の2セクションが1つの回路に組み合わされることができるにも拘わらず、3セクションから成るものとして示されている。
【0224】
第1の2セクションは、5チャネル・デコーダにおける2セクションと同一であり、同じ機能を実行する。第3のセクションは、7チャネル・デコーダに特有である。V1.11及び特許出願No.08/742,460において、側方チャネル及び後方チャネルは、別個のマトリックス・エレメントを有した。エレメントの作用は、csが正又は中立であるとき側方出力及び後方出力が遅延を除いて同一であるようなものであった。2つの出力は、csが22度より負であるまで同一に留まった。指向が後方に更に移動するにつれ、側方出力は6dBだけ減衰され、後方出力は2dBだけブーストされた。これは、音が聴音者の側方から聴音者の後方に移動するように思わせる。
【0225】
現在のデコーダにおいては、側方出力と後方出力との弁別は、側方出力における可変シェルフ・フィルタにより達成される。図3における第3のシェルフ・フィルタは、csが前進又はゼロであるとき減衰を有しない。csが22度よりより負になるとき、シェルフ・フィルタにおけるゼロは、1100Hzの方に迅速に移動し、その結果約7dBの高周波数の減衰をもたらす。シェルフ・フィルタが「サウンドステージ」機能を与えるシェルフ・フィルタとは別個のフィルタとして記載されたが、2つのシェルフ・フィルタの作用は、適切な制御回路を介して単一のシェルフ・フィルタの中に組み合わされることができる。
【0226】
本発明の好適な実施形態が本明細書に記載され説明されたが、多くの他の有り得る実施形態が存在し、そしてこれらの及び他の修正及び変更が本発明の精神から離れることなく当業者には明らかであろう。
【技術分野】
【0001】
(相互引証)
本願は、1997年9月5日出願の米国仮特許出願第60/058,169号「5−2−5マトリックス・エンコーダおよびデコーダ・システム(5−2−5 Matrix Encoder and Decoder System)」に基づく。
【0002】
発明の分野
本発明は、聴取者を包囲するように配置された複数のラウドスピーカによる適切な増幅後の再生のため同数の出力信号への1対のステレオ音響入力信号のデコード、ならびに多チャネル素材の2チャネルへのエンコーディングを含む音響再生システムに関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
本発明は、規定された方向を持つ信号に対する種々の出力間の高いセパレーションを維持しながら、かつ入力音響信号の方向的にエンコードされた成分の方向の如何に拘わらず一定の音響レベルにおける方向性のないエンコード成分を維持しながら、入力信号に対する正味の前方および後方のバイアスが存在するときでさえ、あるいは特定方向における強い音響成分があるときでも、前後の信号間の均衡を改善してシステムの7チャネル・バージョン付近の平滑な音の動きを生じかつ7チャネル・バージョンの音に近い5チャネル・バージョンの音を生成する周波数に依存する回路を含む、エンコードされた多チャネル素材の再生における最適な音響心理学的性能を有するデコーティング・マトリックス、ならびに全ての条件下におけるステレオ信号の左右の成分間の高いセパレーションを維持することを含む標準的な2チャネル素材を生成する設計基準とその解決法の改善されたセットに関する。
【0004】
更に、本発明は、本発明によるデコーダによる標準的な2チャネル受信機において再生するための2チャネルへの多チャネル音のエンコーディングのためのエンコーディング回路を生成する設計基準とその解決法の改善されたセットに関する。
【0005】
本発明は、2つの個々のチャネルへの多チャネル音響信号のエンコーディング手段と、次いで結果として得る2チャネルをこれらが得られた多チャネル信号へ再びセパレーションする手段とを精錬する継続努力の一部である。当該エンコード/デコードプロセスの目標の1つは、できるだけ元の信号をオリジナルと恒久的に同じものとして復元することである。前記デコーダの別の重要な目標は、5チャネルのオリジナルからはエンコードされなかった2チャネル・ソースから5つ以上の個々のチャネルを抽出することである。結果として得る5チャネル表現は、少なくとも元の2チャネル表現と同程度に音楽的に興趣がありかつ鑑賞可能でなければならない。
【0006】
本発明は、適切な可変マトリックス係数の取得に対する改善に関する。かかる改善の理解を助けるため、本文の開示は、1989年米国特許と呼ばれるGriesingerの米国特許第4,862,502号(1989年)、1992米国特許と呼ばれる同第5,136,650号(1992年)、1996年7月米国特許出願と呼ばれる1996年7月のGriesingerの米国特許出願第08/684、948号、および1996年11月の米国特許出願と呼ばれるGriesingerの同第08/742、460号を参照する。前記の最後の米国特許出願に基くデコーダの市販バージョンは、バージョン1.11(即ち、V1.11)と呼ばれる。更なる幾つかの改善が、バージョン1.01(即ち、V2.01)と呼ばれる1997年9月出願の米国仮特許出願第60/058,169号に開示される。これらバージョンV1.11およびV2.01、および本発明は、まとめて「ロジック7」デコーダと呼ぶことにする。
【0007】
引用される更に他の技術的文献は:[1]「両耳の聴取者に対する多チャネル・マトリックス・サラウンド・デコーダ(Multichannel Matrix Surround Decoder for Two−Eared Listeners)」(D.GriesingerのAESプレプリント第4402号、1996年12月、および[2]「5−2−5マトリックス・システムにおけるプロセス」(D.GriesingerのAESプレプリント第4625号、1997年9月)である。
【0008】
発明の概要
5ないし2チャネルからエンコードされた元の信号を再生成し、5チャネル・フォーマットにおける2チャネル素材の感覚的に良好な再生を行うという2つの目標を具現するため用いられる手段が、関与する物理的および音響心理学的な事象を当方がよく理解するかぎりに体現した。前述の米国特許および米国特許出願は、有効なデコーダ装置を作り出した設計のフィロソフィを提示していた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、音響心理学的性能を最大化する幾つかの特性を有するアクティブ・マトリックスの実現に関する。別の特質において、本発明は、アクティブ・マトリックスからの出力の一部の周波数に依存する修正を開示する。更に他の特質において、本発明は、ともに標準的な2チャネル装置である本発明によるデコーダと産業規格「ドルビー・プロ・ロジック」デコーダとを用いて、最適な性能を発揮する5入力チャネルを2チャネル出力へエンコードする本発明によるアクティブ回路を提供する。
【0010】
本発明は、一部は、到来する信号の方向成分に依存して変化するマトリックス要素を有するアクティブ・マトリックス・デコーダである。このマトリックス要素は、入力に同時に存在する他の信号の左右のセパレーションをつねに保持しながら、意図された方向の再生に含まれる方向における信号のラウドネスを強調しながら、意図された方向に含まれない出力における方向的にエンコードされた信号のラウドネスを減じるように変動する。更に、本発明によるマトリックス要素は、例えばステレオ幅の制御により、2つの入力間の混合を増加あるいは低減することによって方向的にエンコードされた相関性のない2チャネル素材の左右のセパレーションを復元する。更に、本発明によるマトリックス要素は、音声と伴奏間の均衡がデコーダ出力に保存されるように、入力信号の色々な成分間のエネルギ均衡をできるだけ多く保存するよう設計される。結果として、本発明によるマトリックス要素は、入力音の方向的にエンコードれない要素のラウドネスとこれら要素の左右のセパレーションの両方を保存する。
【0011】
更に、本発明によるデコーダは、音の方向が7チャネル・デコーダからの音の方向に更によく似たように感じるよう、5チャネル・デコーダに対する2つから7チャネル・デコーダに対する4つへ戻しかつ5チャネル・デコーダにおける後方チャネルのスペクトルを修正する標準的な2チャネル素材が演奏されるとき、デコーダ出力の互換性を改善する周波数に依存する回路を含む。
【0012】
本発明によるエンコーダは、特定の入力の入力レベルが強いときこの入力に存在するエネルギが出力に保存されるように、強い入力の方向が出力信号の位相/振幅の比でエンコードされるように、強い信号がエンコーダの任意の2つの入力間でパンできかつ出力が適正に方向的にエンコードされるように、5つ(あるいは、5つの全レンジに1つの低周波をプラスするもの)の入力チャネルを2つの出力チャネルへ混合する。更に、エンコーダの2つの後方入力へ印加される相関性のない素材は、エンコーダの2つの後方チャネルに対する同相の入力が本発明によるデコーダおよびドルビー規格によるデコーダの後方チャネルへデコードする2チャネルの出力を生じるよう、かつエンコーダの2つの後方チャネルに対する逆相の入力が本発明によるデコーダとドルビー規格によるデコーダとに対する非方向性信号に対応する出力を生じるように、かつエンコーダの2つの後方入力へ印加される低レベルの残響信号が2チャネル出力におけるレベルで3dBの低減でエンコードされるように、エンコーダ出力が本発明によるデコーダによってデコードされるとき、入力の左右のセパレーションが保存されるような方法で2チャネルにエンコードされることになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
発明の新規な特徴と信じられる特性は、頭書の特許請求の範囲に記載される。本発明自体ならびに本発明の他の特徴および利点は、添付図面に関して実施の形態の以降の詳細な記述を参照することにより最もよく理解されよう。
【図1】図1は、本発明のデコーダの2から5へのチャネルマトリクッスセクションおよび方向検出セクションのブロック図。
【図2】図2は、図1のマトリクッスセクションの出力とデコーダ出力の間に接続される5チャネル周波数依存型アクティブ信号プロセッサ回路のブロック図。
【図3】図3は、図1のマトリクッスセクションの出力とデコーダ出力との間のどれかに接続される5から7へのチャネル周波数依存型アクティブ信号プロセッサのブロック図。
【図4】図4は、本発明のアクティブ5チャネルから2チャネルエンコ−ダのブロック図
【図5】図5は、マトリクッス値が1になるようにスケールした、1998年の米国特許およびドルビー プロ・ロジック(Dolby Pro−Logic)からの従来技術の左前方左(LFL)マトリックス・エレメントの三次元グラフを示す。
【図6】図6は、最小値が−0.5で最大値が+0.5であるように0.71までスケールした、1998年の米国特許およびドルビー プロ・ロジック(Dolby Pro−Logic)からの従来技術の左前方右(LFL)マトリックス エレメントの三次元グラフを示す。
【図7】図7は、最大値が1であるようにスケールされた、1989年米国特許からのLFLおよびLFR従来技術の平方和の二乗平方根の三次元グラフを示す。
【図8】最大値が1であるようにスケールされた、出願番号08/42、460からのLFLおよびLFRの和の二乗平方根の三次元グラフを示す。
【図9】図9は、V1.11の左前方左(LFL)マトリクッスの三次元グラフを示す。
【図10】図10は、本願発明の左前方左マトリックス要素の特に完全な三次元グラフを示す。
【図11】図11は、左と前後方間の後方境界に沿った本願発明のLFLとLFRの作用を示すグラフ。
【図12】図12は、左後方からの図として本願発明の完全な左前方左(LFL)マトリックス エレメントの三次元グラフを示す。
【図13】図13は、本願発明の完全な左前方右(LFR)マトリックス エレメントの三次元グラフを示す。
【図14】図14は、本願発明のLFLとLFRの和を平方する乗根(root)手段の三次元グラフを示す。
【図15】図15は、左後部から見た後方レベルに対する補正中の本願発明のLFLとLFRの平方の和の二乗根を表す三次元グラフを示す。
【図16】図16は、DB単位のCS関数としての従来のドルビー プロ・ロジクで使用されるべき中央マトリックスエレメントの実線カーブと、ドルビー プロ・ロジク デコーダの中央マトリックス エレメントの実際の値の点線カーブを示すグラフ。
【図17】図17は、中央マトリックスエレメントの理想値の実線カーブと、従来のドルビー プロ・ロジクの中央マトリックス エレメントの実際の値の点線カーブとを示すグラフ。
【図18】図18は、V1.11の従来エレメントに使用されている、LRLとLRRの平方の和の二乗根を表す三次元グラフを示す。
【図19】図19は、cs=0軸に沿った一定パワーレベルに対するGS(lr)とGR(lr)と、および左と中央間の境界に沿ったゼロ出力の数字的な解法を表すグラフ。
【図20】図20は、本願発明のGRとGSに対する値を用いるLRLとLRRの平方の和の二乗根を表す三次元グラフを示す。
【図21】図21は、左と右とが交換された中央右(CR)マトリック スエレメントを表す1989年米国特許の4チャネルデコーダ(およびドルビー プロ・ロジク デコーダ)の従来の中央左(CL)マトリックス エレメントを表す三次元グラフを示す。
【図22】図22は、ロジック7V1.11デコーダの中央左(CL)マトリックス エレメントを表す三次元グラフを示す。
【図23】図23は、新しいLFLとLFRとに対して必要とされる中央出力チャネル減衰の実線カーブと、標準のドルビー プロ・ロジク デコーダに対する中央減衰の点線カーブとを示すグラフ。
【図24】図24は、本願発明の“フィルム”戦略に対する理想中央減衰の実線カーブと、著しく良く動作する値の長点カーブと、比較のための標準ドルビー デコーダに対する減衰の点線カーブとを示すグラフ。
【図25】図25は、本願発明の“音楽”戦略に使用された中央減衰を示す。
【図26】図26は、本願本発明の“音楽”中央減衰GCを伴う一定エネルギー比を必要とするGFの値の実線カーブと、sin(cs)の値の点線カーブとを示すグラフ。
【図27】図27は、lr=0軸に沿った中央レベルの補正中の、新しい発明の左前方右(LFR)マトリックス エレメントを表す三次元グラフを示す。
【図28】図28は、新しい中央ブースト関数による中央左(CL)マトリックス エレメントを表す三次元グラフを示す。
【図29】図29は、出力レベルを左前方出力から(点線)プロットし、中央から左に強い信号として中央出力(実線)をプロットしたグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
望ましい実施の形態の詳細な記述
本文に提示する設計は、実際の設計が多くの方法において変更した前掲の開示の設計フィロソフィの多くを保持している。読み得る長さの文書の範囲内ではこのような設計の発展を完全に記述することは不可能である。文書の一貫性を保持するため、本文において前記設計フィロソフィの最も重要な要素を提起される問題に対する数学的な解決を示し、当該出願ではオリジナルである解決法について請求を行うため記述する。かかる主題について当方の前の出願を考察することは有用であるが、必須のものではない。
【0015】
1996年7月および1996年11月の米国特許出願、および1997年9月の米国仮特許出願に記載された如きデコーダおよびエンコーダにおける経歴が、まだ開示されていなかった更なる改善を導くものであった。本願は、本発明の改善されたエンコーダとデコーダの最も重要な特徴を記述し、米国特許出願第08/742,460号以来付加されてきた新規な特徴について請求を行うものである。
【0016】
・ デコーダの一般的記述
本願におけるデコーダについては、2つの個々の部分からなるものとして記述される。第1の部分は、2つの入力チャネルを中央、左前方、右前方、左後方および右後方として通常識別される5つの出力チャネルへ分割するマトリックスである。第2の部分は、2つの後方出力のスペクトルおよびレベルを修正する一連の遅延要素およびフィルタからなる。第2の部分の機能の1つは、デコーダの7チャネル・バージョンが望ましいとき左側と右側の付加的な対の出力を得ることである。米国特許出願第08/742,460号においては、前記第2の部分は明瞭ではなく、2つの付加的なチャネルが元のマトリックスにおける更なる1対のマトリックス要素から得たものである。
【0017】
デコーダとエンコーダとを記述する数学式において、ベクトル量はボールド字体の大文字活字でありマトリックスはボールドの小文字活字によって表わされるが、簡単な変数がイタリックで示される大半の変数については標準的な活字的な変換を用いることにする。名前を付した入力チャネルから結果として得る名前を付した出力チャネルからの係数であるマトリックス要素は、通常の大文字活字で示される。lrおよびcsのような簡単な変数は、2つの個々の簡単な変数の積は表わさない2文字の名前によって記述される。他の変数l/rおよびc/sは、ある意味では、左/右と中央/サラウンドの比の値を表わすが、このような比から得た制御信号電圧に関するものである。これらの変換は、本文に引用される前述の米国特許および米国特許出願において用いられたものである。マトラブ(Matlab)言語におけるプログラム・セグメントもまた、異なるタイプの活字面とポイント・サイズの使用により、かつこれらの行を引っ込めることによって弁別される。式は、マトラブ割当てステートメントから弁別して本文に述べる特定の特徴に対する基準を与えるため番号が付される。
【0018】
米国特許出願第08/742,460号における図4と同じものである図1は、デコーダの第1の部分、即ち5チャネル・マトリックス90に対する2チャネルのブロック図を示している。縦方向の鎖線により区切られた図1の左半分は、2つの指向(steering)電圧l/rおよびc/sを取得する手段を示す。これらの指向電圧は、左方/右方あるいは前方/後方の方向における固有の、即ちエンコードされた方向成分をそれぞれ有する。同図のこの部分は、参考のため本文に援用される前述の米国特許出願に詳細に記載されているので、本願においては明確に論述されない。
【0019】
図1において、要素92ないし138を含むデコーダ90の方向検出手段の後には縦方向の鎖線の右まで5×2マトリックスが続く。このマトリックス140ないし158の要素は、他の入力チャネルと直線的に組み合わされて各出力チャネルを形成する各入力チャネルの量を決定する.これらのマトリックス要素は、実際のものであると仮定される。(複合マトリックス要素の場合は米国特許出願第08/742,460号に記載されており、ここでは論述されない。)このマトリックス要素は、2つの指向電圧l/rおよびc/sの関数である。米国特許出願第08/742,460号がこれら関数に対する数学式を示している。本願における新規性の一部は、これら数式に対する改善にある。これらの数式をグラフにより示し、なぜこれらの式がそのような形態をとるかについて説明を行うことにする。
【0020】
2.指向電圧の簡単な記述
図1に示されるように、指向電圧c/sおよびl/rは、端子94における右入力振幅に対する端子92における左入力振幅の比の対数と、異なる振幅に対する和の振幅の比の対数とから得られる。指向電圧マトリックス要素の記述において、l/rおよびc/sを+45度から−45度まで変化する角度として表わすのが便利である。V1.11およびV2.01のデコーダにおいては、これら電圧はデシベルの単位を有する。下記において、指向電圧パラメータを角度へ変換することができる。
【0021】
lr=90-arctan(10^((l/r)/20)) (1a)
cs=90-arctan(10^((c/s)/20)) (1b)
角度lrおよびcsは、入力信号が有する方向成分に対する角度を決定する。例えば、デコーダに対する入力が相関されないとき、lrおよびcsはともにゼロである。中央のみから到達する信号の場合はlrはゼロであり、csは45度の値を有する。後方からくる信号の場合はlrはゼロでありcsは−45度である。同様に、左からくる信号は45度のlr値とゼロのcs右からの信号は−45度のlr値とゼロのcs値とを有する。弊設計においては、エンコード信号を生じるデコーダが、左後方信号をエンコードするときlr=22.5度でありかつcs=22.5度である特性を有するものと仮定する。同様に、エンコーダに対する右後方入力へ印加される信号はlr=22.5度とcs=22.5度の値を生じる。
【0022】
lrおよびcsの定義とlrおよびcsの誘導から、lrおよびcsの絶対値の和が45度より大きくはあり得ないことが判る。lrおよびcsの許容値は、絶対値(lr)−絶対値(cs)=45度の軌跡によって囲まれる面を形成する。この面の境界に沿って存在するlrおよびcsの値を生じる任意の入力信号は全く局在化される−即ち、特定方向から達するようにエンコードされた1つの音からなる。
【0023】
本願においては、このような2次元の面における関数としてマトリックス要素のグラフを広く利用する。一般に、マトリックス要素の誘導は、このような面の4つの象限において異なる。換言すれば、マトリックス要素は、指向が前方か後方かに従って、かつ指向が左か右かに従って、異なって記述される。前記面が象限間の境界に跨がって連続的であることを保証することに対して多くの研究がなされた。このような連続性の偶発的な欠如が、本願が目的とするV1.11のデコーダにおける問題の1つである。
【0024】
3.周波数に依存する要素
図1に示されたマトリックス要素は、実際のものであり、従って周波数に依存する。入力における全ての信号は、誘導される角度lrおよびcsに応じて出力へ誘導される。(今日の技術では、低周波および超高周波が図1には示されないフィルタによって入力信号からのlrおよびcsの誘導において減衰される。しかし、マトリックス自体は広帯域である。)
【0025】
実施において、マトリックス後の信号に対して周波数依存回路を適用することの幾つかの利点があることが発見された。これらの周波数依存回路の1つ─図1における右側出力180の移相ネットワーク170─については、米国特許出願第08/742,460号に記載されており、本文ではこれ以上論述しない。
【0026】
図2は、更に他の周波数依存回路の5チャネル・バージョンを示す。これらの回路は、固定されたパラメータを持たない。周波数およびレベルの挙動は、指向値lrおよびcsに依存する。これら回路は、幾つかの目的を達成する。第一に、5チャネルと7チャネルの両デコーダにおいて、指向が中立(lrおよびcsが0)であるかあるいは前方(cs>0)であるとき、更なる要素が後方チャネルの明瞭なラウドネスを調整することを可能にする。米国特許出願第08/742,460号において、このような減衰がマトリックス自体の一部として行われ、周波数に依存するものであった。理論的研究およびリスニング・テストによって、低周波が聴取者の場所から再生されることが非常に望ましいことを発見した。このように、ここで述べたデコーダにかぎり、高周波が可変低域通過フィルタ182、184、188および190によって減衰される。
【0027】
これは、指向が略々つねに中立であるかあるいは前方であるとき、本願で後に定義されるバックグラウンド制御信号186を用いて、後方チャネルにおける500Hzより高い
周波数を要素188、190により、また4KHzより高い周波数を要素182、184
によって減衰することによって達成される。後方へ指向される音が偶発的に存在すると、通常の2チャネル素材からのサラウンドエンコード素材を自動的に弁別する特徴である減衰を低減させる。
【0028】
5チャネル・バージョンにおける要素192、194は、ラウドスピーカの実際の位置が側方にあってさえラウドスピーカが聴取者の背後に置かれるものと思われるように、指向が後方に対するとき(cs<0)、c/s信号196を用いて音のスペクトルを修正する。修正された左サラウンド信号および右サラウンド信号がそれぞれ端子198および200に現れる。この回路の更なる詳細については本文の開示の後半部分に示される。
【0029】
図3は、周波数依存要素の7チャネル・バージョンを示す。前のように、指向がバックグラウンド制御信号186により再び制御される中立あるいは前方であるとき、フィルタ182、184、188、190の第1の組が側方出力および後方出力の高い周波数を減衰する。このような減衰もまた、更に前方の音像を生じる結果となり、聴取者の好みに調整することができる。c/s信号196により表わされる指向が後方へ移動するとき、更に他の回路202、204、206、208が後方出力から側方出力を弁別するように働く。指向が後方へ動くとき、側方スピーカにおいて先に述べた減衰は、側方に向けられる音を生じるように要素204、206によって最初に除去される。指向が更に後方へ動くとき、要素204、206の減衰が復旧され増加される。結果は、音が前方ラウドスピーカから側方ラウドスピーカ(複数)へ平滑に移動し、次いで遅延要素202、208により生じる約10msの遅延を生じる後方ラウドスピーカへ移動することである。低周波がこれら回路によって影響を受けないので、側方スピーカ(広がりの認識の役割をもつ)における低周波ラウドネスは音の動きによって影響を受けない。本文の以降の章で、図3における回路について更に詳細を述べる。
【0030】
4.エンコーダの全般的記述
図4は、5つの入力チャネルを2つの出力チャネルへ自動的にミックスするように設計されたエンコーダのブロック図を示す。このアーキテクチャは、米国特許出願第08/742,460号に記載されたエンコーダとは全く異なる。この新規な設計の目的は、デコーダにより元の5チャネルを抽出することを可能にする位相/振幅キューを提供しながら、2つの出力チャネルにおいて5チャネル・オリジナルの音楽的均衡を保持することである。従前のエンコーダは同様な目標を持っていたが、これらの目標を達成するため用いられた方法における改善がなされた。音楽的均衡の保存は、エンコーダにおいて非常に重要である。エンコーダの主な目的の1つは、通常の2チャネル・システムにおいて5チャネル・オリジナルと同じ芸術的品質で演奏する5チャネル・レコーディングの2チャネル・ミックスを自動的に生じることである。この新規なエンコーダ設計は、音楽的均衡が保存されることを保証するアクティブな要素を含んでいる。
【0031】
1997年11月の米国特許出願のエンコーダとは異なり、この新規な設計は、入力信号をエンコーダの5つの入力間にパンすることを可能にする。例えば、音を左前方入力から右後方入力へパンすることができる。結果として得る2チャネル信号が本願に述べたデコーダによってデコードされるとき、結果はオリジナルの音に非常に近づくことになる。往時のサラウンド・デコーダによるデコーディングもまたオリジナルと類似することになる。
【0032】
当該エンコーダの詳細な記述については、以降の章で述べる。
【0033】
5.デコーダのアクティブ・マトリックス要素の設計目標
本発明の最も基本的な目標は、従前のデコーダ、特に米国特許出願第08/742,460号に記載されたデコーダの目標と同じである。即ち、「本発明は、意図された方向における再生に直接には関与しない出力における方向的にエンコードされたオーディオ成分を減じ、前記信号に対する一定の全出力を維持するように意図された方向における出力の再生に直接に関与する出力における方向的にエンコードされたオーディオ成分を強調し、指向性信号の如何に拘わらず非方向性信号の左右のチャネル成分間の高いセパレーションを保持しながら、方向的にエンコードされた信号が存在するかどうかに拘わらず、かつこれらの意図された方向があってもその如何に拘わらず、非方向性信号の全オーディオ出力レベルとして定義されるラウドネスを有効に一定に維持するように構成された可変マトリックス値を有するサラウンド音響デコーダである。」
【0034】
これらの目標の大部分は、全てのマトリックス・デコーダにより明白に共有される。本願における新規性は、一部は上記の法則をどのように更に正確に実現するかを知ることに、また一部は上記法則を適用しないときを知ることに存在する。しかし、米国特許出願第08/742,460号の方法論の多くは保存される。前述の目標の最も重要なものの1つは、全ての条件下でデコーダの左右のチャネル間の高いセパレーションの明確な保持である。前述の4つのチャネルは、1つの後方チャネルのみを提供するため、後方におけるセパレーションを維持することはできない。他の製造者による5チャネル・デコーダは、多くの方法においてセパレーションの折り合いをつけている。本願に述べるデコーダは、V1.11の方法と類似した方法でこのような目標を満たしているが、更なる目標もまた満たすものである。
【0035】
米国特許出願第08/742,460号はまた、指向信号の精度を改善する回路および強い後方指向中に後方チャネルの1つの位相を切換える可変移相ネットワークのような設計に対する多くの比較的小さな改善も記載している。デコーダV1.11のこれらの特徴は、新たな設計に保持されるが、本文には包含されない。
【0036】
図4において、前方の入力信号L、CおよびRが入力端子50、52および54へそれぞれ印加される。C信号は両加算器278、282の入力へ印加される前に減衰器372において係数fcnだけ最初に減衰されるが、L信号およびR信号は加算器278、282へそれぞれ直接入る。低周波効果信号LFEは、要素374における利得2.0で通過し、次いで両加算器278、282へ印加される。
【0037】
サラウンド入力信号LSおよびRSは、2つの入力端子62、64を介してそれぞれが2つの個々の経路へ印加され、LS信号に対しては、減衰器378を経由する経路が利得fs(l,ls)を持ち、RS信号は利得fs(r,rs)を持つ対応する減衰器380を通過する。これら減衰器の出力は、利得係数−crxを有する交差結合要素384、386へ送られる(ここで、crxは公称的に0.383である)。これらの要素からの交差結合信号は、これもまた0.91の減衰器388、392から減衰されたLSおよびRS信号を受取る加算器392、394へ送られる。加算器392、394の出力は、加算器278、282の入力へ印加される。これは、これら要素をデコードされた空間中の中央後方の45度左および右にそれぞれ配置させる。
【0038】
他の信号分岐はそれぞれ、利得fc(l,ls)を持つ減衰器376および利得fc(r,rs)を持つ減衰器382を通るように、次いで交差結合要素396、398、402、404、406および408の類似の構成を通るように、LS信号およびRS信号を送り、加算器406、408は前のように中央後方の45度左右における左後方および右後方の入力を表わす出力を有する。しかし、加算器278、282からの左右の信号はそれぞれ移相要素286、288を通過するが、前記信号は各々移相要素234および246をそれぞれ通過する。これらの移相要素の各々は、全通過型フィルタであり、位相応答は要素286、288に対してはφ(f)であり、要素234、246に対してはφ(f)−90°である。これらのフィルタにおいて要求される成分値の計算は当技術において周知であり、本文ではこれ以上論述しない。その結果は、加算器406、408の出力が図4に示される如き全通過フィルタ・ネットワークの通過後は全ての周波数において加算器278、282の出力より90度だけ遅らせられることである。フィルタ246、288の出力は加算器280により組み合わされて端子46にB(即ち、右)出力信号を生じるが、全通過フィルタ・ネットワーク234、286の出力はこの時加算器276によって組み合わされて端子44にA(即ち、左)出力信号を生じる。
【0039】
弱いサラウンド信号は90度位相がずれた経路を通過して相関性のない「音楽」信号に対する一定出力を保持するが、利得関数fsおよびfcは強いサラウンド信号を他の音と同位相にさせるように設計される。値crxはまた、サラウンド信号が聴こえる角度を変化させ得る。
【0040】
6.米国特許出願第08/742,460号以来の設計の改善
米国特許出願第08/742,460号と関連する本発明における最も顕著な改善の1つは、信号が中央方向に指向されるときの、中央のマトリックス要素と左右の前方マトリックス要素における変化である。前にエンコードされデコードされた如き中央チャネルに2つの問題があることが判った。最も明らかな問題は、5チャネル・マトリックス・システムでは、中央チャネルの使用はできるだけ多くの左右のセパレーションを維持しようとする目標と本質的に相い入ないことである。2つの入力チャネルが左右の成分を持たないとき、マトリックスが従来の2チャネル・ステレオ素材から認識し得る出力を生じるならば、中央チャネルは左右の入力チャネルの和で駆動されねばならない。このように、左のデコーダと右のデコーダの両入力が中央スピーカにより再生され、最初は左(または、右)のチャネルだけであった音もまた中央から再生されることになる。その結果は、これらの音の明瞭な位置が部屋の中間へ引き寄せられることである。このことが生じる程度は、中央チャネルのラウドネスに依存する。
【0041】
米国特許出願第4,862,502号および同第5,136,650号は、左右のチャネルに比して3dBの最小値を持つマトリックス要素を使用した。デコーダに対する入力が相関性がないとき、中央チャネルのラウドネスは左右のチャネルのラウドネスと等しかった。指向が中央マトリックス要素へ動くに従って、更に3dBだけ増加した。このような高いラウドネスの効果は、前方音像の幅を著しく低減することである。音像の左右において鳴奏されるべき楽器は、つねに音像の中央に向けて引き寄せられる。
【0042】
米国特許出願第08/742,460号は、往時の値より4.5dB少ない最小値を持った中央マトリックス要素を用いた。この最小値は、リスニング・テストに基づいて選定された。このような減衰は、入力素材がオーケストラ音楽におけるように相関性のないときに、前方の音像へ快い広がりを生じた。前方の音像が著しく狭められることはなかった。米国特許出願第08/742,460号においては、指向が前方へ移動するときこれらマトリックス要素が増加し、最後にはドルビー・マトリックスにおいて用いられる値に達した。
【0043】
V1.11デコーダにおける経験が、中央チャネルのラウドネスにおける低減が空間的な問題は解明したが、入力信号における出力均衡はマトリックスにおいて保存されなかったことを示した。数学的な分析は、誤りに関してはV1.11のみでなく、ドルビー・デコーダおよび他の従前のデコーダもまた誤りであることを明らかにした。逆説的には、中央チャネルが前方の音像の幅を再生する観点からは強すぎたが、出力のバランスを保存するには弱過ぎた。この問題は、マンデル(Mandel)のデコーダ─標準的なドルビー・デコーダに対しては特に厳しい。標準的なドルビー・デコーダにおいては、後方チャネルが米国特許第4,862,502号の弊方のデコーダにおけるよりも強い。結果として、中央チャネルは、出力バランスを保持するために強くなければならない。中央チャネルにおける出力バランスの欠如は、ドルビー・デコーダに対しては引き続き問題であった。ドルビーは、音響ミックス技術者がつねにマトリックスを介するバランスを聴きとるべきことを推奨しており、従って、マトリックスにおける出力バランスの欠如がミキシング・プロセスにおいて補償することができる。不都合にも、最近のフィルムは5チャネル・リリース用にミックスされ、2チャネルに対する自動的なエンコーディングは対話レベルにおける問題を招来しがちである。
【0044】
更に多くの分析およびリスニング・テストは、フィルムおよび音楽がバランス問題に対する異なる解決法を必要とすることを示した。フィルムの場合は、米国特許出願第08/742,460号から、左右の前方マトリックス要素を保存することが最も有効であることが判った。これらの要素は、左右の前方チャネルから中央チャネルの情報をでき得るかぎり除去する。このことは、前方の左右のチャネルへの対話の漏れを最小限に抑える。新規な「フィルム」設計においては、指向が前方へ移動する(csがゼロより大きくなる)に伴って中央チャネルのラウドネスが標準的デコーダよりも急激に増加するように、出力バランスが中央マトリックス要素の変更によって補正される。実際には、中央チャネルがアクティブであるときにのみこのような条件に達するので、中央マトリックス要素の最終値が標準的デコーダにおける最終値より高いことは必要でない。中央チャネルおよび左右のチャネルにおいて略々等しいレベルが存在するときに中央のレベルが標準的デコーダより強いことのみが必要である。
【0045】
前記の「フィルム」方策により、他の全ての出力における中央チャネル成分を最小化しながら、入力信号における出力バランスを保持するように中央チャネルのラウドネスが増加される。このような方策がフィルムに対して理想的であると思われ、この場合中央チャネルは主として対話に対して用い、中央以外の位置からの対話は予期されない。このような方策の主な欠点は、多くの種類の大衆音楽において生じるような著しい中央指向があるとき前方の音像が狭められることである。しかし、フィルムに対する利点─前方チャネルに対する最小限の対話の漏れと、優れた出力バランスを含む─がこのような短所を補って余りある。
【0046】
音楽の場合は、別の方策を用いる。この場合は、中央チャネルのラウドネスを米国特許出願第08/742,460号と同じ比率で指向の中間値まで増加させ、この時cs≧22.5度である。音楽バランスを復元するため、入力信号の中央成分が完全に除去されないように左右の前方マトリックス要素を変化させる。デコーダの全ての出力からの音響出力が入力信号における音響出力と一致するように、中央において過度のラウドネスもなく、左右の前方チャネルにおける中央チャネル成分の量が調整される。
【0047】
このような方策により、3つ全ての前方スピーカが元のエンコードされた素材に存在する中央チャネルの情報を再生する。かかる方策の最も有効なバージョンは、入力の中央成分が中央出力において他の2つの前方出力のいずれよりも6dB強いときに指向作用を制限する。これは、csの正の値を単に制限することによって行われる。
【0048】
中央チャネル成分を3つ全てのスピーカから来させかつ前方の左右より中央が6dB高いとき指向作用を制限するような新規な方策が、全ての種類の音楽を優れたものにする。エンコードされた5チャネルと通常の2チャネルの両方のミックスが安定した中央、および中央チャネルと左右チャネルとの間の充分なセパレーションをもってデコードする。従前のデコーダとは異なり、中央と左右との間のセパレーションが厳密に完全ではないことに注目されたい。左からくるように意図された信号は中央チャネルから除去されるが、他の方向については除去されない。音楽の場合、当該方策が提供する高い側方セパレーションと安定した前方音像とは、このような完全なセパレーションの欠如を重視する。フィルムにおけるこのような設定によるリスニング・テストは、左右の前方スピーカから対話が存在したとしても、結果として得る音像の安定度が非常に良好であることを明らかにする。この結果は快く、煩くない。このような聴取者が音楽に対して設定されたデコーダによりフィルムを聴く場合、フィルムの芸術的品質を殺ぐことはない。フィルムに対して設定されたデコーダにより音楽レコーディングを聴くことは更に問題が多い。
【0049】
おそらくは、本願における改善の次の最も明らかなことは、信号が左前方から左後方の方向へ指向されるとき、前方チャネルと後方チャネルとの間のセパレーションの増加である。V1.11のデコーダは、このような条件下で前方チャネルに対して米国特許第4,862,502号のマトリックス要素を使用した。これらのマトリックス要素は、後方指向信号が全後方位置─左右の後方の中間へ指向されなかったならば、この後方指向信号を完全には除去することがない。指向が左後方あるいは右後方(完全に後方ではない)に対するときは、左または右の前方出力は対応する後方出力より9dB少ない出力を生じた。本発明においては、指向が左後方および右後方の間のどこかであるとき前方からの音を除去するように前方マトリックス要素が修正される。
【0050】
7.後方マトリックス要素に対する改善
後方マトリックス要素に対する改善は、典型的な聴取者にとって直ちに明らかなものではない。これらの改善は、象限間の境界に跨がるマトリックス要素の連続性における種々の誤りを補正する。これら改善はまた、様々な条件下で指向された信号と指向されない信号間の出力バランスをも改善する。後で述べるマトリックス要素の数学的記述は、これらの改善を含んでいる。
【0051】
8.アクティブ・マトリックスelの詳細な記述マトラブ言語
マトリックス要素を記述するため用いられる数学は、変数csおよびlrの連続関数に基くものではない。一般に、数式に対する条件、絶対値および他の非リニア修正がある。このような理由から、プログラミング言語を用いてマトリックス要素について記述する。マトラブ(Matlab)言語は、数式をグラフにより調べる簡単な方法を提供する。マトラブは、フォートランあるいはC言語に非常に類似する。主な相違は、マトラブにおける変数がベクトルであり得、即ち、各変数が一連の数列を表わすことができる。例えば、下記のように変数xを定義することができる。
【0052】
x=1:10;
マトラブにおけるこのような規定は、1から10までの値を持つ10個の数字のストリングを生成する。変数xは全てが10の値を含む。これは、1*10マトリックスであるベクトルとして記述される。各ベクトル内の個々の数字をアクセス即ち操作することができる。例えば、式
x(4)=4;
は、ベクトルxの4番目の項を値4に設定する。変数はまた、2次元のマトリックスを表わすこともできる。マトリックスにおける個々の要素は、同様に割当てることができる。
【0053】
X(2,3)=10;
は、値10をマトリックスXの2番目の行と3番目の列に割当てる。
【0054】
下記のマトリックス要素の詳細な記述は、文献[2]において刊行された記述と略々同じである。テキストはやや改善された。主な相違は、1.文献[2]は、「tvマトリックス」の特徴を含んでいる。この特徴は、指向が前方あるいは中立であるとき後方出力のレベルを低減する。本願では、この関数はマトリックスに続く周波数依存回路によって得られる。従って、「tvマトリックス」の補正を除外した。2.中央マトリックス要素における部分は、「フィルム」方式、「音楽」方式および「音楽」の設定作用を制限する方式に対する参照を含むように修正された。文献[2]は、制限なしに「音楽」設定についてのみ記載している。
【0055】
9.式およびグラフィックスにおけるマトリックス・デコーダ
文献[1]では、n×2マトリックの要素により記述することができるマトリックス・デコーダの設計を述べた。nは出力チャネル数である。各出力は、2つの入力の線形結合として示すことができ、ここで線形結合の係数はマトリックスにおける要素によって与えられる。この論文では、要素は文字の単純な組合組合せによって識別される。文献[1]は、5チャネルと7チャネルのデコーダについて記載する。5チャネルから7チャネルへの変換は、デコーダの周波数依存部分において行われ、従って本文では5チャネル・デコーダについてのみ記述する。
【0056】
対称性から、僅かに6つの要素、─中央要素、2つの左前方要素、および2つの左後方要素の挙動について述べる必要があることが明らかである。右要素は、左右の識別を切換えるだけで左から見出すことができる。これらの要素とは、
CL:中央出力への左入力チャネルに対するマトリックス要素
CR:中央出力への右入力チャネルに対するマトリックス要素
LFL:左前方出力に対する左入力チャネル
LFR:左前方出力に対する右入力チャネル
LRL:左後方出力に対する左入力チャネル
LRR:左後方出力に対する右入力チャネル
である。
【0057】
これらの要素は一定ではない。その値は、入力音の明瞭な方向の2次元関数として変化する。大部分の位相/振幅デコーダが、入力信号の振幅の比を比較することにより入力の明瞭な方向を決定する。例えば、左右の方向における指向度は、右の入力チャネルの振幅に対する左入力チャネルの振幅の比から決定される。同様に、前後の方向における指向度は、入力チャネルの和と差の振幅の比から決定される。ロジック7デコーダは指向方向の決定方法において標準的デコーダとは著しく異なるが、本文ではこれらの指向方向の決定のための方法については論述しない。指向方向が決定されたものと仮定する。本文では、これらの方向を角度として、即ち、左右の方向に対して1つの角度(lr)、および前後の(中央/サラウンド)方向に対して1つの角度(cs)として表わすことを仮定する。2つの指向方向は符号を付した変数である。lrとcsの両方がゼロであるとき、入力信号は指向されない─即ち、2つの入力チャネルが相関付けられない。
【0058】
入力が方向的にエンコードされた単一の信号からなるとき、2つの指向方向がそれらの最大値を有する。しかし、このような条件下では、これらは独立的でない。指向値を角度として表わすことに対する利点は、1つの信号しかないとき2つの指向値の絶対値が45度まで加算しなければならないことである。入力が強く指向された信号と共に相関しない素材を含むとき、指向値の絶対値の和は45度より小さくなければならない。
【0059】
|lr|+|cs|≦45 (2)
マトリックス要素の値を指向値により形成される2次元面上にプロットするならば、この面の中心は値(0,0)を持ち、指向値の和に対する適正値は45を越えることがない。実際に、非線形フィルタの挙動により和が45を越えることはあり得ない─米国特許出願第08/742,460号に請求されたlrとcsの小さい方を制限する回路─従って、その和が45度を越えなかった。この請求の範囲については本文ではこれ以上論述しない。マトリックス要素に対する数学的関係はオーバーランの間は良好な挙動となるものとする。マトリックス要素をグラフ表示するとき、入力変数の適正値を越えるときは値を任意にゼロにする。このことは、境界の射影に沿った要素の挙動を直接見ることを可能にし、─射影後に強く指向された信号が続く。グラフィックスは、マトラブ言語により生成された。マトラブ言語においては、マトラブ言語が角度変数が実際の角度値より1大きいことを要求するので、指向されなかった位置は(46,46)となる。このことは過度に混乱しないことが望ましい。
【0060】
マトリックス・デコーダに対する以前の設計は、強く指向された信号に対するマトリックスの挙動、即ち、当該面の境界周囲におけるマトリックス要素の挙動のみを考察しようとする。これは、展望における基本的な誤りである。フィルムあるいは音楽のいずれでも実際の信号を検討すると、面の境界にはほとんど達しないからである。ほとんどの場合、信号は面の中間付近、即ち、中央の僅かに前方で揺動する。これらの条件下のマトリックスの挙動は、音にとって非常に重要である。これら要素を前の要素に比較するとき、中間領域における面の複合性における著しい増加を見出すことができる。音における改善に役割を担うのはこのような複合性である。
【0061】
このような複合性が価値を有する。当方の元の1987年の設計─1989年の米国特許参照─は、アナログ成分による構成は簡単なものであった。新しい要素は、ディジタル構成では些細なものである1次元の索引テーブルによってほとんど完全に記述されるように設計される。同様な性能を有するアナログ・バージョンの設計は可能であるが、些細なものではない。
【0062】
本願においては、マトリックス要素の幾つかの異なるバージョンを対照する。最も古いものは、1989年の弊米国特許からの要素である。これらの要素は、当方の最初のサラウンド・プロセッサにおいて用いられ、(サラウンド・チャネルにおける同じものではない)左、中央および右のチャネルにおける標準的な(ドルビー)サラウンド・プロセッサの要素と同じものである。当方の設計では、サラウンド・チャネルは中央チャネルに対して対称的に取扱われる。標準的な(ドルビー)デコーダにおいては、サラウンド・チャネルは別様に取扱われ、この問題は本願において後で詳細に論述される。
【0063】
ここで述べる要素は、つねに正しくスケールされるとはかぎらない。一般に、これら要素は、任意の所与のチャネルに対するゼロでないマトリックス要素の指向されない値が1であるように示される。実際には、これらの要素は通常、各要素の最大値が1以下であるようにスケールされる。いずれの場合も、最終的な製品においては、要素のスケーリングは較正手順において更に変更される。本明細書で示すマトリックス要素は、適切な定数によりスケール付け可能であると見なすことができる。
【0064】
10.1989年米国特許における左前方マトリックス要素
csおよびlrがそれぞれ中央/サラウンドおよび左/右の軸における度単位の指向方向であるとする。
【0065】
1989年の米国特許において、前方マトリックス要素に対する式は下記のように与えられる。
【0066】
左前方象限では、
LFL=1-0.5*G(cs)+0.41*G(lr) (3a)
LFR=-0.5*G(cs) (3b)
右前方象限では、
LFL=1-0.5*G(cs) (3c)
LFR=-0.5*G(cs) (3d)
左後方象限(csが負であることを想起されたい)では、
LFL=1-0.5*G(cs)+0.41*G(lr) (3e)
LFR=-0.5*G(cs) (3f)
右後方象限では、
LFL=1-0.5*G(cs) (3g)
LFR=-0.5*G(cs) (3h)
関数G(x)は、1989年の米国特許において実験的に決定され、1991年の米国特許においては数学的に規定されている。この関数は、xが0から45度まで変化するとき0から1へ変化する。指向が左前方象限(lrおよびcsがともに正である)にあるとき、G(x)は1−|r|/|l|に等しく示すことができ、ここで|r|および|l|は左右の入力振幅である。G(x)はまた、色々な数式を用いて指向角度に関して記述することができる。これら数式の1つは1991年の米国特許において示され、別の数式は本文において後で示される。lr軸およびcs軸に対して3次元でプロットされたLFLおよびLFRのマトリックス要素のグラフについては図5および図6を参照されたい。
【0067】
文献[1]において、これらのマトリックス要素は、指向されない素材のラウドネスが指向方向の如何に拘わらず一定でなければならないという要件を加えることにより改善された。このことは、数学的には、LFLおよびLFRのマトリックス要素の平均2乗平方根の和が一定でなければならないことを意味する。前記論文において、この目標が指向の方向において変更されるべきこと、すなわち、指向が全左方であるときこれらマトリックス要素の平方和が3dBだけ増加すべきことが指摘された。図7は、これらのマトリックス要素の平方和を示し、上記マトリックス要素が一定のラウドネスの要件を満たさないことを示している。図7において、この値が指向されない位置から右へ軸に沿った0.71で一定であることに注目されたい。左に対して指向されない素材は値1まで3dB増加し、中央あるいは後方へ指向されないと値0.5まで3dBだけ低減する。グラフの当該部分は、左におけるピークによって隠される。後方向のレベルは、中央方向におけるレベルに等しい。
【0068】
米国特許出願第08/742,460号および文献[1]において、正弦および余弦によりマトリックス式における関数G(x)を置換することにより、図7における振幅誤差を補正した。式(4a)ないし式(4h)により以下に記述された補正要素LFLおよびLFRの平方和の結果として得るグラフについては図8参照。
【0069】
面の全右半部における一定の値0.71が左の頂点に向けて1まで増加することに注目されたい。左前方象限については、
LFL=cos(cs)+0.41*G(lr) (4a)
LFR=-sin(cs) (4b)
右前方象限については、
LFL=cos(cs) (4c)
LFR=-sin(cs) (4d)
左後方象限については、
LFL=cos(-cs)+0.41*G(lr) (4e)
LFR=sin(-cs) (4f)
右後方象限については、
LFL=cos(-cs) (4g)
LFR=sin(-cs) (4h)
【0070】
11.左前方マトリックス要素に対する改善
セパレーション1996年3月に、これらマトリックス要素に対して幾つかの変更を行った。基本的な関数の依存性は保持したが、前方ではcs軸に沿って更なるブーストを付加し、後方においてはcs軸に沿ってカットを付加した。ブーストの理由は、前方へパンされたステレオ音楽による演奏を改善することであった。後方におけるカットの目的は、ステレオ音楽が後方へパンされるとき前方チャネルと後方チャネル間のセパレーションを増すことであった。
【0071】
前方左象限については、
LFL=(cos(cs)+0.41*G(lr))*boost1(cs) (5a)
LFR=(-sin(cs))*boost1(cs) (5b)
右前方象限については、
LFL=(cos(cs))*boost1(cs) (5c)
LFR=(-sin(cs))*boost1(cs) (5d)
左後方象限については、
LFL=(cos(-cs))+0.41*G(lr))/boost1(cs) (5e)
LFR=(sin(cs))/boost(cs) (5f)
右後方象限については、
LFL=(cos(cs))/boost(cs) (5g)
LFR=(sin(cs))/boost(cs) (5h)
関数G(x)は、1989年の米国特許における関数と同じものである。入力として角度で表わされるとき、前記関数は下式に等しく示すことができる。
【0072】
G(x)=1-tan(45-x) (6)
1997年3月において用いられた如き関数boost1(cs)は、最初の22.5度の指向にわたり印加される合計3dBの線形ブーストであり、次の22.5度では0dBまで再び低減する。Boost1(cs)は、下記のマトラブ・コードのcorr(x)により示される(コメント行はパーセント記号%が先頭にある)。
【0073】
%22.5度で+3dBのブースト関数を計算
%corr(x)を3dBに上昇して保持する、corrl(x)を上昇しその後に再度下降する
forx=1:24x;%xは0から23度を表す1から24の値をもつ
corr(x)=10∧(3*(x−1)/(23*20)9;%3dBに上昇しこの範囲を越える
corrl(x)=corr(x);
endfor
x=25:46%corrlに対して下降このレンジ24から25度を越える
corr(x)=1.41:
corrl(x)=cor(48−x);
end
式(5a)ないし(5h)から結果として得るLFLのプロットについては図9を参照されたい。指向が中央に向けて移動するときブーストがともにlr=0軸および左から中央の境界に沿って印加されることに注目されたい。また、指向が後方へ移動するときのレベルにおける低下にも注目されたい。
【0074】
1997年3月の回路の性能は改善することができる。第1の問題は、左および中央間と右および中央間との境界に沿った指向の挙動にある。強い1つの信号が左から中央へパンするとき、図9においてLFLマトリックス要素の車両が左および中央間の最大半分まで増加することが判る。このような値の増加は、中央信号がステレオ音楽に加えられるとき、左および右の主出力に対するレベルにおける計画的な増加の意図しない結果である。
【0075】
ステレオ信号が前方へパンされるとき、これら出力からの相関成分のマトリックスによる除去を補償するため左右の前方出力がレベルにおいて増加すべきことが望ましい。しかし、これらの条件下でレベルを増加するため用いられる方法は、入力のlr成分が最小であるとき、即ち、左あるいは右の正味の指向がないときにのみ生じるべきである。1997年3月におけるこのような増加を実現するため選択された方法は、値lrには依存せず、強い信号が境界に跨がってパンされたときレベルの増加を結果として生じた。
【0076】
ブーストは、lr=0軸に沿ってのみ必要である。lrがゼロでないとき、マトリックス要素はブーストされるべきでない。この問題は、マトリックス要素に対して掛算の代わりに、加算項を用いることにより解決することができる。下記のマトラブ・コードにより境界制限cs値である新たな指向指数を定義する。
【0077】
lrおよびcsの両方が>0であること、─即ち、左前方象限にあるものとする(csおよびlrが1から46まで変化するマトラブ規約に従うものとする)
【0078】
【数1】
cs<22.5およびlr=0(マトラブ規約では、cs<24およびlr=1)であるならば、bcsはcsに等しい。しかし、lrが増加すると、bcsはゼロに低減する。cs>22.5ならば、lrが増加するときbcsもまた低減する。
【0079】
次に、必要な補正関数を見出すために、lr=0軸に沿った、ブーストされたマトリックス要素とブーストされないマトリックス要素との間の差異を見出す。この差異をcos_tbl_plusおよびsin_tbl_plusと呼ぶ。マトラブ・コードを用いて、
【0080】
【数2】
ベクトルsin_tbl_plusおよびcos_tbl_plusは、平坦な正弦および余弦と、ブーストされた正弦および余弦との間の差異である。次に、下記のように定義する。
【0081】
LFL=cos(cs)+0.41*G(lr)+cos_tbl_plus(bcs) (7a)
LFR=-sin(cs)-sin_tbl_plus(bcs) (7b)
前方右象限におけるLFLおよびLFRは類似するが、+0.41*G項はない。これらの新たな定義は、図10のグラフに示されるマトリックス要素を導く。
【0082】
図10において、新たな要素が左から中央の境界に沿って、ならびに中央から右の境界に沿って適正な振幅を有することに注目されたい。
【0083】
後方象限における指向もまた最適ではない。指向が後方へのものであるとき、上記マトリックス要素は下式により与えられる。
【0084】
LFL=cos_tbl_minus(-cs)+0.41*G(-cs) (8a)
LFR=sin_tbl_minus(-cs) (8b)
これらのマトリックス要素は、1989年の米国特許における要素とほとんど同じものである。強い信号が左から後方へパンする場合について考察しよう。1989年の米国特許のマトリックス要素は、この信号が完全に後方に対するものである(cs=−45,lr=0)ときにのみ、前方左出力からの出力の完全な打ち消しとなるように設計された。しかし、ロジック7デコーダにおいては、エンコードされた信号が左後方の方向に達する(cs=−22.5およびlr=22.5)ときに左前方出力からの出力がゼロであることが望ましい。左前方出力は、信号が更に全後方へパンするときゼロのままでなければならない。1997年3月において用いられたマトリックス要素─先に述べた─は、信号が左後方位置へパンされるとき前方左チャネルにおける出力が結果として約−9dBとなる。このレベル差は、マトリックスの優れた性能に対して充分なものであっても、これがあり得るほどは良好ではない。
【0085】
当該性能は、左後方象限におけるLFLおよびLFRのマトリックス要素を変更することによって改善することができる。ここでは、マトリックス要素が左と後方間の境界に沿ってどのように変化するかが関心事であることに注目されたい。前記境界に沿ったマトリックス要素の挙動を見出すため、文献[1]に示された数学的方法を用いることができる。tが0(左方)から−22.5度(左後方)へ変化するとき、左前方出力の振幅が関数F(t)で低減するものと仮定しよう。この方法は、下記のマトリックス要素を与える。
【0086】
LFL=cos(t)*F(t)-/+sin(t)*(sqrt(1-F(t)^2)) (9a)
LFR=(sin(t)*F(t)+/-cos(t)*(sqrt(1-F(t)^2))) (9b)
F(t)=cos(4*t)を選択し正しい信号を選択するならば、これらは下式へ簡単にする。
【0087】
LFL=cos(t)*cos(4*t)+sin(t)*sin(4*t) (9c)
LFR=(sin(t)*cos(4*t)-cos(t)*sin(4*t) (9d)
これら係数LFL(実線カーブ)とLFR(点線カーブ)のtに対するプロットについては図11を参照されたい。(マトラブ・コードでの全ての角度が整数であるため、中間における僅かな欠陥は22.5度における点の欠如によるものである) これらマトリックス要素は良好に働く─tが0度から22.5度まで変化するとき前方左出力がゼロまで平滑に低減される。指向が22.5度から45度(全後方)まで継続するとき出力がゼロに止まることが求められる。境界のこの部分に沿って、
LFL=-sin(t) (10a)
LFR=cos(t) (10b)
これらのマトリックス要素がlr=0の境界に沿ってマトリックス要素から遠くにあることに注目されたい。ここで、文献[1]では、この値は
LFL=cos(cs) (10c)
LFR=sin(cs) (10d)
であった。
【0088】
これらのマトリックス要素が強い指向信号により適正に挙動するように設計されことに注目されたい─ここで、csとlrの両方が最大値を持つ。lrが略々ゼロである場合─即ち、後方へパンされたステレオ信号がある場合、以前のマトリックス要素は信号に対して良好であった。lrおよびcsが境界に近づくとき往時のマトリックス要素をより新しいマトリックス要素へ平滑に変形する方法を必要とする。線形補間法を用いることができる。数が多くなると高価になるレキシコン社の製品で用いられたプロセッサにおいては、優れた方策は、下記のマトラブ・セグメントにより定義される如き新たな変数─lrおよびcsの最小値を定義することである。即ち、
【0089】
【数3】
そして、bpに依存する新たな補正関数
【0090】
【数4】
次いで、当該象限におけるLFLおよびLFRを下記のように定義する。即ち、
LFL=cos(cs)/(cos(cs)+sin(cs))-front_boundary_tbl(bp)+0.41*G(lr)(11a)
LFR=sin(cs)/(cos(cs)+sin(cs))+front_boundary_tbl(bp) (11b)
cos(cs)+sin(cs)の補正に注目されたい。cos(cs)をこの係数で除すと、関数1−0.5*G(cs)を得るが、これは当該象限におけるドルビー・マトリックスと同じものである。sin(cs)をこの係数で除すと、往時の関数+0.5*G(cs)を得る。
【0091】
同様に、右後方象限においては、
LFL=cos(cs)/(cos(cs)+sin(cs))=1-0.5*G(cs) (12a)
LFR=sin(cs)/(cos(cs)+sin(cs))=0.5*G(cs) (12b)
これらの値のグラフ表示については、図12および図13を参照されたい。
【0092】
左後方からの係数のグラフを示す図12において、左後方の境界に沿った大きな補正に注目されたい。これは、指向が左から左後方になるとき前方左出力をゼロにさせる。指向が全後方へ進むとき、この出力はゼロに止まる。lr=0軸に沿ってかつ右後方象限においては、当該関数はドルビー・マトリックスと同じである。
【0093】
図13において、左から後方の境界における大きなピークに注目されたい。これは、指向が左後方から全後方になるとき、LFLマトリックス要素に関して働いて前記境界に沿って前方出力をゼロに保持する。再び、lr=0軸に沿って後方向にかつ後方象限において、マトリックス要素はドルビー・マトリックスと同じものである。
【0094】
ロジック7マトリックスの設計の主な設計目標の1つは、デコーダの出力に存在した指向されない素材の任意の所与の出力におけるラウドネスが同時に存在する指向信号の方向の如何に拘わらず一定でなければならないことである。前に説明したように、これは、指向方向の如何に拘わらず、各出力に対するマトリックス要素の平方和が1でなければならないことを意味する。前に説明したように、この要件は、問題の出力の方向に強い指向があるとき変更されねばならない。すなわち、左前方出力に向いているならば、指向が全左になるときマトリックス要素の平方和が3dBだけ増加しなければならない。上記のマトリックス要素もまた、指向がlr=0軸に沿って前後方向に移動するとき、前記要件をやや変更する。
【0095】
しかし、マトリックス要素の平方和の平方根をプロットすることにより、当方の設計の成功を依然として検証することができる。改変された設計に対するこれらのプロットについては図14および図15を参照されたい。
【0096】
図14において、左方向における3dBのピークと中央方向において信号が指向されない状態から22.5度になるときのやや弱いピークとに注目されたい。(このプロットについては、後方の象限における1/(sin(cs))の補正を削除し、その結果結果として得る和がどのように正確に1になったかを知ることができる。)このピークは、半分前方の指向における左右の出力の慎重なブーストの結果である。他の象限では、設計意図であったように、rmsの和が1に非常に近いことに注目されたい。後方左象限における値は、マトリックス要素を生じるため用いられる方法が近似するが整合がやや良好であるとき、1にそれほど近くない。
【0097】
図15において、右方へは指向されない(中間の)軸が値1を持ち、中央の頂点が値0.71を持ち、後方の頂点が値0.5を持ち、左方の頂点が値1.41を持つ。中央軸に対して中間に沿ったピークに注目されたい。
【0098】
12.前方指向における後方マトリックス要素
1989年の米国特許における後方のマトリックス要素(標準的な較正較正手順の効果を示すためここでは0.71だけのスケーリングを導入したことを除いて)は、下式により与えられる。即ち、
前方左象限については、
LRL=0.71*(1-G(lr)) (13a)
LRR=0.71*(-1) (13b)
後方左象限については、
LRL=0.71*(1-G(lx)+0.41*G(-cs)) (13c)
LRR=-0.71*(1+0.41*G(-cs)) (13d)
(面の右半分が同じであるが、LRLおよびLRRを切換える)
ドルビー・プロ・ロジックにおける後方マトリックス要素は、(同様な較正較正後)
前方左象限については、
LRL=1-G(lx) (14a)
LRR=-1 (14b)
後方左象限については、
LRL=1-G(lr) (14c)
LRR=-1 (14d)
(面の右半分は同じであるが、LRLおよびLRRを切換える)
cs=−45度であるとき、ドルビーの要素および1989年の米国特許の要素が後方左象限において等しくなるように較正されることに注目されたい。
【0099】
13.ドルビー・プロ・ロジックにおけるサラウンド・レベルの小さな逸脱
このドルビー要素は、1989年の弊米国特許に類似するが、後方においてcsに依存するブーストはない。このような差異は、標準的な較正手順後に要素が指向されない信号に対して非常に異なる値を持つときは、実際に非常に重要である。一般に、このマトリックス要素の記述は3個のデコーダに対する較正手順を考察するものではない。比較的任意のスケーリングを有する全てのマトリックス要素を得る。ほとんどの場合、要素はあたかも最大値1.41を持つかのように提供される。実際に、技術的な理由から、マトリックス要素は全て1より小さい最大値を持つように最終的にスケールされる。更に、デコーダが最終的に使用に供されるときは、ラウドスピーカに対する各出力の利得が調整される。マトリックス要素を調整するために、等しい音響出力を持つ4つの主な方向─左、中央、右およびサラウンドからエンコードされた信号が再生され、各出力の利得は音響出力が聴取位置において等しくなるまで調整される。このことは、実際には、デコーダの4つの出力が全指向の条件下で等しくなるように、マトリックス要素の実際のレベルがスケールされることを意味する。明らかに、このような較正を前述の後方要素に対する式に含めた。
【0100】
前方に指向されあるいは指向されない条件における要素の3dBの差は無意味ではない。指向されない条件においては、1989年の米国特許からの要素が値0.71を持ち、要素の平方和は値1を有する。このことは、較正されたときはドルビー要素には妥当しない。LRLは指向されない値1を持ち、平方和は1989年の米国特許の出力より2ないし3dB高くなる。マトリックスが指向されないときは、較正手順が「ドルビー・サラウンド」パッシブ・マトリックスには対応しないマトリックスを生じる結果となることに注目されたい。ドルビー・サラウンド・パッシブ・マトリックスは、後方出力が0.71*(Ain−Bin)の値を持たねばならず、ドルビー・プロ・ロジックのマトリックスはこのような仕様は満たさないことを規定する。結果は、入力AおよびBが相関性のないとき後方出力が他の出力より3dB強くなることである。後方出力を分担する2個のスピーカがあるならば、デコーダ入力が相関されないときは、各々が単一の後方スピーカより3dBソフトになるように調整され、これが5個全てのスピーカに略々等しい音響出力を持たせる。1989年の米国特許からのマトリックス要素が用いられるとき、デコーダ入力が相関されないとき、同じ較正手順が3dB少ない後方からの音響出力を生じる結果となる。
【0101】
入力が相関性のないときは、後方チャネルがどれだけの音量であるべきかの問題は結局は好みの問題である。サラウンドエンコードレコーディングが演奏されるときは、レコーディングがミックスされるときプロジューサが聴いたバランスを再生したいものである。このようなバランスの達成は、組合組合せにおけるデコーダおよびエンコーダに対する設計目標である。しかし、標準的なステレオ素材の場合は、目標は、興趣があり耳障りでないサラウンドを生じながら元のレコーディングにおける出力バランスを再生することである。ドルビー・マトリックス要素における問題は、従来の2チャネル・レコーディングにおける出力バランスがマトリックスに保存されないことである。サラウンド・チャネルは強すぎ、中央チャネルは弱すぎる。
【0102】
このような問題の重要性を知るために、3つの成分、即ち相関されない左右の成分および別個の相関されない中央成分からなるデコーダに対する入力があるときになにが生じるかを考察しよう。
【0103】
Ain=Lin-0.71*Cin (15a)
Bin=Rin+0.71*Cin (15b)
AinおよびBinが従来のステレオ・システムにより演奏されるとき、室内の音響出力はLin2+Rin2+Cin2に比例する。3つ全ての成分が略々等しい振幅を持つならば、中央
成分の左に右を加えた成分に対する出力比は1:2となる。
【0104】
LinおよびRinに対するCinの出力比の如何に拘わらず、デコーダがステレオと略々同じ出力比で音響出力を室内で再生したいと思う。このことを数学的に表わすことができる。他の全てのマトリックス要素が所与のとおり用いられるならば、実質的に等しい出力比の要件がcs軸に沿う中央マトリックスの関数形態を規定する。マトリックスが完全に指向されるとき、即ち標準的な較正より3dB少ないとき、後方の音響出力が他の3出力より3dB少ないように較正されたドルビー・マトリックス要素を前提とすると、中央マトリックス要素は図16に示される形状を持つべきである。標準的な較正に対しては、同じことを行うことができ、図17における結果となる。
【0105】
図16において、デコーダ出力における出力比がステレオにおける出力比と同じであるべきことを前提とし、後方のドルビー・マトリックス要素が典型的に使用されるレベルにおいて3dB低く較正されると、実際の値が指向されない信号および完全に指向された信号に対して妥当な結果を生じるが、この実際の値は中間においては約1.5dB低い。
【0106】
図17において、ステレオ出力に対する等しい出力比がドルビー・プロ・ロジックにおいて実際に使用されるマトリックス要素と較正を生じることを前提とすると、実際の値がcsの全ての値に対して低すぎる3dBより高いことに注目されたい。
【0107】
これら2つの図は、ミックス技術者がしばしば気が付くなにか─即ち、ドルビー・プロ・ロジック・システムにおける再現のため調製されるミックスがステレオでの再現のため調製されるミックスより多くの中央ラウドネスを必要とし得ることを示す。反対に、プロ・ロジック・デコーダで再生されたときはステレオのため調製されたミックスが音声の鮮明度を失うことになる。皮肉にも、これは受動ドルビー・サラウンド・デコーダでは真実でない。中央マトリックス要素について論議するとき、再びこのような問題に対処することにする。
【0108】
14.2つの独立的な後方出力の生成
1989年の米国特許の要素とドルビー要素の双方における主な問題は、1つの後方出力しかないことである。1991年の米国特許が2つの独立的な側方出力を生成する方法を開示しており、この特許における数学的処理が1996年の文献[1]および米国特許出願第08/742,460号において前方左象限に包含されていた。当該象限における要素の目標は、同時に存在する指向されないZARに対する左後方チャネルからの一部の出力を維持しながら、左から中央へ指向される信号の出力を除去することであった。このような目標を達成するため、LRLマトリックス要素が下記の形態を持つものとした。
【0109】
左前方象限については、
LRL=1-GS(lr)-0.5*G(cs) (16a)
LRR=-0.5*G(cs)-G(lr) (16b)
明らかなように、これらのマトリックス要素は1989年の米国特許の要素に非常に類似しているが、LRRにG(lr)項を、またLRLにGS項を付加したものである。G(lr)は、デコーダのB入力チャネルからの信号を左後方出力へ追加し、指向された信号が除去されつつあるとき一部の指向されない信号出力を提供するため含まれた。次に、完全に指向された信号が左から中央へ移動するとき信号出力があってはならないという基準を用いて、関数GS(lr)に対する解を得た。数式の更に複雑な表現が1991年の米国特許に示されるが、GS(lr)に対する数式がG2(lr)と等しくなった。この
2つの表現は同じものとして示すことができる。
【0110】
文献[1]においては、これらの要素は、自らを指向されない素材に対する一定のラウドネスに近づけるため(sin(cs)+cos(cs))のブーストが与えられることによって補正される。右前方象限においては全く良好であるが、かかる補正は左前方象限においてはそれほど良好ではない。図18を参照されたい。(右前方象限に対しては、マトリックス要素は1989年の米国特許におけるLRLおよびLRRの要素と同じである。)
【0111】
図18において、前方左象限においては、中間から左の頂点に対する線に沿って3dBの弛みがあり、左と中央間の境界に沿って略々3dBのレベルにおけるブーストがあることに注目されたい。後方象限における山の範囲については後で論述する。同図では、図20における本発明に対する良好な対比を可能にするため、V1.11における「tvマトリックス」の補正が除去された。
【0112】
図18は、音響出力における幾つかの問題を示している。最初に、cs=0軸に沿った平方和における弛みについて考察しよう。この弛みは、LRRにおけるG(lr)の関数形態が最適でないゆえに存在する。G(lr)の選択は任意であり、往時の設計ではこの関数はデコーダに既に存在しており、アナログ回路におけるその実現は容易である。
【0113】
理想的には、当該式に関数GR(lr)を含み、かつLRLとLRRの平方和をcs=0軸に沿って一定に保持し、かつ左と中央間の境界に沿って出力をゼロに保持するようにGS(lr)およびGR(lr)を選択することを欲する。これは可能である。また、マトリックス要素がlr=0軸に沿って右前方象限におけるマトリックス要素と同じものであることを確証したいとも欲する。このため、下記のとおり仮定する。即ち、
LRL=cos(cs)-GS(lr) (17a)
LRR=-sin(cs)-GR(lr) (17b)
平方和がcs=0軸に沿って1となることを欲する。
【0114】
(1-GS(lr))2+(GR(lr))2=1 (18)
かつ、出力が指向された信号に対してゼロである、即ち、tがゼロから45度へ変化することを欲する。
【0115】
LRL*cos(t)+LRR*sin(t)=0 (19)
式18および式19は、GRおよびGSに対するめんどうな象限式を生じる結果となり、これは数学的に解かれ図19においてグラフ化される。図示のようなGSおよびGRの使用は、cs=0軸に沿った出力和に所期の大きな改善をもたらす結果となる。しかし、左と中央間の境界に沿った平方和におけるピークが残る。
【0116】
実際の設計においては、このような誤差を補償することはおそらくはそれほど重要ではないが、下記の方策により発見的にこれを行うことを決断した。lrおよびcsに基く新たな変数の組合せに依存する係数により両方のマトリックス要素を除す。この新たな変数をxyminと呼ぶ。(実際には、除算を用いずに、以下に述べる係数の逆数で乗じる。)マトラブ表記では、%xまたはyの最小を見つける
xymin=x;
if(xymin>y)
xymin=y;
end
if(xymin>23)
xymin=23;
end
%は、xyminがゼロから22.5度まで変化することを示す。
【0117】
次に、xyminを用いて境界に沿ったマトリックス要素に対する補正を知る。
前方左象限においては、
LRL=(cos(cs)-GS(lr))/(1+0.29*sin(4*xymin)) (20a)
LRR=(-sin(cs)-GR(lr))/(1+0.29*sin(4*xymin)) (20b)
前方右象限においては、
LRL=cos(cs) (20c)
LRR=-sin(cs) (20d)
文献[2]においては、これらの要素は更に「tvマトリックス」補正により乗じられる。本文における図20は、「tvマトリックス」補正を行わないマトリックス要素を示す。本願においては、このような補正は、マトリックスに後続する周波数依存回路によって処理されるもので、後で記述する。
【0118】
図20において、平方和が1に近くかつ後方におけるレベルの意図的な増加を除いて連続的であることに注目されたい。
【0119】
15.後方指向における後方マトリックス要素
1991年の米国特許に示された後方マトリックス要素は、5チャネル・デコーダには適さず、当方のCP−3製品においては実践的にに修正された。文献[1]および米国特許出願第08/742,460号は、左後方象限の境界に沿ってこれら要素を得る数学的方法が示された。当該方法は、境界に沿っては働くが、lr=0軸に沿って、かつcs=0軸に沿って不連続を生じる結果となった。1997年3月の米国特許では、これらの不連続は、マトリックス要素に対する更なる補正によって(ほとんど)修復され、これが指向の境界に沿って当該マトリックス要素の挙動を保持した。
【0120】
本願に述べる要素については、これらの誤りは補間法によって補正された。最初の補間がLRLに対するcs=0の境界に沿って不連続を固定する。この補間法は、csがゼロであるとき値をGS(lr)の値に一致させ、またcsが後方に向けて負の方向に増加するとき、この値を前の一致により与えられる値へ平滑に増加させる。第2の補間法は、LRRをcs=0軸に沿ってGR(lr)の値へ補間させる。
【0121】
16.右から右後方への後方指向における左側方/後方出力
最初に、指向が中立であるか全右および右後方間のどこかであるときの左後方左および左後方右のマトリックス要素について考察しよう。即ち、lrは0度から−45度まで変化し得、csは0度から−22.5度まで変化し得る。
【0122】
これらの条件下では、入力の指向成分は左出力から除去されねばならず─指向が右または右後方に対するときに後方左チャネルから出力があってはならない。
【0123】
1991年の米国特許に記載されたマトリックス要素が当該目標を達成する。これらの要素は、指向されないラウドネスに対するsin(cs)+cos(cs)の補正を付加した4チャネル・デコーダにおける後方マトリックス要素と実質的に同じものである。これが行われると、マトリックス要素は単純な正弦および余弦である。即ち、
LRL=cos(-cs)=sri(-cs) (21a)
LRR=sin(-cs)=sric(-cs) (21b)
0度から22.5度までの範囲にわたるsin(x)に等しい新たな関数sri(x)と、cos(x)に等しいsri(x)とを定義したことに注目されたい。左の指向における左後方のマトリックス要素の定義においてこれらの関数を再び用いることになろう。
【0124】
17.右後方から後方への後方指向における左側方/後方出力
次に、csが−22.5度より大きくなるときの同じマトリックス要素について考察しよう。文献[1]および前述の2つの米国特許出願において述べたように、LRLは前記範囲にわたって1以上に増加すべきであり、LRRはゼロに低減すべきである。簡単な関数がこのことを満たす(csが負であり、次の式において−22.5度から−45度まで変化することを想起されたい)。
【0125】
LRL=(cos(45+cs)+rboost(-cs))=(sri(-cs)+rboost(-cs)) (22a)
LRR=sin(45+cs)=sric(-cs) (22b)
Rboost(cs)は、文献[1]および米国特許出願第08/742,460号において定義される。これは、rboost(cs)が0>cs>−22.5に対してゼロであることを除いて、往時のマトリックス要素における関数0.41*G(cs)に非常に近く、またcsが−22.5度から−45度へ変化するときゼロから0.41まで変化する。その正確な関数形態は、音響が左後方から全後方へパンされるとき後方出力のラウドネスを一定に保持する要求によって決定される。
【0126】
右指向の間における左後方マトリックス要素がこの時完了する。
【0127】
18.左から左後方への指向における左後方要素
左後左および左後方右の要素の挙動は、更に非常に複雑である。lrが45度から22.5度まであるいはゼロ度まで低減するとき、左後方左要素はゼロから略々最大値まで急速に増加する。文献[1]に示されたマトリックス要素はこれを行うが、先に示したように、cs=0の境界における連続による問題がある。
【0128】
1997年3月リリースの場合は、1つの変数と幾つかの条件項の関数を用いる解決法が見出された。文献[1]においては、境界の前方側(cs≧0)ではLRLマトリックス要素がGS(lr)により与えられるので、cs=0の境界における問題が生じる。後方側(cs<0)では、文献[1]により示された関数は同じ終端点を持つが、lrがゼロあるいは45度でないときは異なる。
【0129】
文献[1]における数学的方法は、範囲22.5<lr<45の範囲にわたる左後方マトリックス要素に対する下式を提供する(文献[1]からのこれらの式を書き換えるとき、t=45−lrであることを想起されたい)。
LRL=cos(45-lr)*sin(4*(45-lr))-sin(45-lr)*cos(4*(45-lr))
=sra(lr) (23a)
LRR=-(sin(45-lr)*sin(4*(45-lr))+cos(45-lr)*cos(4*(45-lr)))=-srac(lr) (23
b)
この範囲にわたり、2つの新たな関数、即ち、sra(lr)およびsrac(lr)を有することに注目されたい。
【0130】
cs≧22.5ならば、lrは依然として0から45まで変化し得る。文献[1]は、(lrが範囲0<lr<22.5を持つとき)LRLおよびLRRを下式のように定義する(文献[1]における図6参照)。
LRL=cos(lr)=sra(lr) (23c)
LRR=-sin(lr)=-srac(lr) (23d)
2つの関数sra(x)およびsrac(x)は、この時0<lr<45に対して定義される。
【0131】
19. 1997年3月バージョン
1997年3月バージョンは、補間技術を用いて、境界に沿ったLRRを修正する。ここでは、2つの不連続がある。cs=0の境界に沿って、後方のLRRは、cs=0の境界に沿ってLRR=−G(lr)を示す前方向に対してのLRRと整合する必要がある。
【0132】
1997年3月に使用された選択肢は、計算的には幾らか強調的ではあるが、0ないし15度の範囲にわたってのcsの値に基づく補間を用いることである。言い換えると、csが零のときに、G(lr)を用いてLRRを見出だす。csが15度に増加すると、srac(lr)の値に補間を行う。
【0133】
また、lr=0の軸に沿っての不連続の可能性もある。1997年3月において、この不連続は、新しい変数cs_boundedを用いて求めた項をLRRに付加することにより、(幾らかではあるが)修正された。修正項は、単にsric(cs_bounded)になる。この項は、lr=0の軸を横切っての連続性を保証する。
【0134】
最初に、cs_boundedを以下のMatlab(マトラブ)記数法で定める。
【0135】
【数5】
【0136】
20. 97年8月のロジック7において実施されたLRL
本発明において、LRLは、LRRのように補間法を用いて計算される。マトラブ記数法では以下のようである。
【0137】
【数6】
【0138】
21. 左後方から完全な後方への指向の間の後方出力
指向が左後方から完全な後方へと進むと、エレメントは、リファレンス[1]に示されたものに従い、後方音量に対しての修正の付加を伴う。マトラブ記数法では以下のようである。
【0139】
【数7】
これにより、左指向の間に、LRLおよびLRRのマトリクス・エレメントが完成される。右指向に対する値は、定義における左と右とを交換することによって求めることができる。
【0140】
22. センタ・マトリクス・エレメント
89年の特許およびドルビープロ・ロジック(Dolby Pro−Logic)の両方が、以下のマトリクス・エレメントを有する。
【0141】
前方指向に対しては以下のようである。
【0142】
【数8】
後方指向に対しては以下のようである。
【0143】
【数9】
マトリクス・エレメントは、左右軸について対称であるので、右指向に対するCLおよびCRの値は、CLとCRとを交換することにより求めることができる。このエレメントの図式表現に関しては、図21を参照せよ。
【0144】
図21において、グラフの中間、および右および後方の頂点の値は1である。中央の頂点の値は1.41である。実際には、このエレメントはスケーリングされているので最大値が1である。
【0145】
出願番号第08/742460号およびリファレンス[1]において、これらのエレメントはサインおよびコサインにより置き換えられる。
【0146】
前方指向に対しては以下のようである。
【0147】
【数10】
これらの式は実施されなかった。1997年3月の製品は89年の特許におけるエレメントを使用したが、異なるスケーリングおよびG(cs)と異なるブースト関数を用いている。我々は中央出力の指向されないレベルを低減させることが重要であったことを発見し、プロ−ロジックのレベルよりも4.5dB小さい値を選択した。ブースト関数(0.41*G(cs))は、csが中央方向に増加するにつれてプロ−ロジックの値に戻すようにマトリクス・エレメントの値を増加するように、変更された。1997年3月バージョンにおけるブースト関数は、傾聴テストを通じて発見的に選択された。
【0148】
1997年3月バージョンにおいて、csのブースト関数は、以前のように、0から開始し、csが0から22.5度になるにつれて、CLおよびCRが4.5dB増加するような様式で、csとともに上昇する。この増加は、csにおける各dBの増加に対して定数のdBである。次に、ブースト関数は、次の20度において、マトリクス・エレメントが更に3dB上昇し、それから一定を保つ様式で、勾配を変化させる。即ち、指向が「ハーフ・フロント(半前方)」(8dBまたは23度)であるときに、新しいマトリクス・エレメントは、古いマトリクス・エレメントのニュートラル値に等しい。指向が前方に進み続けると、新しいマトリクス・エレメントと古いマトリクス・エレメントとは等しくなる。従って、中央チャネルの出力は、ニュートラルに指向されたときには、古い出力よりも4.5dB少ないが、指向が完全に中央に指向されたときには、古い値へと上昇する。このエレメントの3次元の図に関しては、図22を参照せよ。
【0149】
図22において、中間値および右および後方の頂点が4.5dB低減されていることに留意されたい。csが増加すると、中央が2つの勾配において1.41の値に増加する。
【0150】
1997年3月のもので使用された中央エレメントが最適でないことは発見されている。ポピュラー音楽レコーディングおよび映画における会話の中央部分は、ステレオ(2チャネル)再生とマトリクスを通じての再生との間での切り替えを行ったときに失われる傾向があることが、実際におけるデコーダを用いての多くの経験により示されている。更に、中央チャネルがレベルを変化させると、前方スピーカから等距離にない傾聴者は、中央音声の見かけ位置の移動に気づくことができる。この問題は、ここに呈示される新しい中央マトリクス・エレメントの開発において更に分析された。後に分かるように、信号が境界に沿って左から中央へまたは右から中央へパンするときには、問題がある。出願番号第08/742460号におけるマトリクス・エレメントは、パンがその途中でなされているときに、中央スピーカからの出力を低くしすぎる。
【0151】
23. 新設計における中央チャネル
指向が正面へ向かっているが左へも右へもバイアスされていないときにはいつでも、強く指向された信号を、マトリクス技術を用いて中央チャネル出力から除去することが可能であるが、中央チャネルは、幾らかの利得要因とともにA入力とB入力との合計を再生しなければならない。言い換えると、相関していない左と右の素材を中央チャネルから除去することは可能ではない。唯一できることは、中央スピーカの音量を調節することである。では、どのような音量にすべきであるか。
【0152】
この質問は、左および右の主出力の性質に依存する。LFLおよびLFRに対しての上述のマトリクスの値は、指向が前方へ動くときの入力信号の中央コンポーネントを除去するように設計されている。我々は、ステレオ幅制御のように、混ミクサを用いて入力信号が前方向から来るようにエンコードされている場合に、上述(1996年のAES論文のエレメント、1997年3月のエレメント、およびこの明細書の最初の方で呈示したもの)のマトリクス・エレメントのすべてが完全に元のセパレーションに修復することを、示すことができる。
【0153】
しかし、デコーダへの入力が、関連していない中央チャネルが付加されている、相関していない左チャネルと右チャネルとから構成される場合、即ち、
【0154】
【数11】
の場合には、CinのレベルがLinおよびRinに相対的に増加すると、デコーダのLおよびRの前方出力のCコンポーネントは、CinがLinおよびRinと比較して大きくない限り、完全に除去されない。一般に、Cin左方のビットがLおよびRの前方出力内にある。傾聴者は何を聞き取るであろうか。
【0155】
傾聴者が聞き取るものを計算する2つの方法がある。傾聴者が左、右および中央のスピーカから等距離にある場合には、傾聴者は、各スピーカからの音圧の合計されたものを聞き取る。これは、3つの前方出力の合計に等しい。このような状況の下では、左スピーカおよび右スピーカの中央コンポーネントが削減されると、中央スピーカの振幅に関わらずに、結果として中央コンポーネントからの音圧が残留損失を生じることを示すのは容易である。これは、中央スピーカが常にA入力とB入力の合計から得られ、その振幅が上げられると、Lin信号およびRin信号の振幅は、Cin信号の振幅に伴って上昇せねばならないからである。
【0156】
しかし、傾聴者が各スピーカから等距離にない場合には、傾聴者は、各スピーカからの音出力の合計を聞き取るようになる傾向があり、これは3つの前方出力の平方の合計と等しい。実際、詳細に傾聴することにより、実際、全スピーカの出力の合計が実際に重要であることが示されており、従って、後方出力を含むデコーダの全ての出力の平方の合計を考慮する必要がある。
【0157】
マトリクスを、ステレオ再生とマトリクス再生との間での切り替えのときにLin、Rin、およびCinの振幅の比率を保つように設計することを望む場合には、中央出力からのCinコンポーネントの音出力が、左出力および右出力からのその音出力における削減、および後方出力におけるその削減に正確に比例して上昇せねばならない。更に複雑なことに、左および右の前方出力は上述の3dBまでのレベル・ブーストを有する。これは、中央のものに、幾らか音量を多くして比率を一定に保つことを要求する。この要求を、音出力に対しての1組の式として書くことができる。これらの式を、中央スピーカに必要な利得関数に対して解くことができる。
【0158】
以前に、種々の状況の下でのドルビー・プロ−ロジック・デコーダのエネルギの関係を示すグラフを示した。プロ−ロジック・デコーダは最適なものではない。我々の新規なデコーダに関しても同様のことを行うことができる。
【0159】
図23は、指向が前方に向かって増加したときに、入力信号の中央コンポーネントのエネルギが前方の3つのチャネルにおいて保たれる場合に必要とされる中央利得(実線の曲線)を示す。理解できるように、中央チャネルのレベルにおいて必要とされる上昇はかなり急勾配であり、その上昇は、指向値のdB当たりに対して多くの振幅dBである。また、標準のデコーダの利得(点線の曲線)を示している。
【0160】
前述のように、この問題の2つの解決法がある。まず、「フィルム(映画)」解決法を説明する。この解決法は完全に数学的ではない。実際、図23に示す関数の上昇は急勾配すぎる。中央チャネルのレベルの変化は明瞭すぎる。我々は、要求される出力を少し緩め、理想よりも約1dB少ない中央にすることを決定した。中央の値を再計算する場合には、図24の実線で示す結果を得る。実際、線形的上昇を曲線の初期部分と置換することができる。実際、これらの中央値を用いた結果、フィルムに対しては最良であった。
【0161】
図24を参照すると、実際、実線の曲線の上昇は急勾配すぎる。破線で示された線形的勾配の方がより良く作用する。
【0162】
音楽は別の解決法を必要とする。以前にLFLおよびLFRに対して与えられたマトリクス・エレメントを仮定すると、図23および図24に示す中央の減衰が得られる。異なるエレメントを使用したとすればどうだろうか。特定的には、中央コンポーネントを左前方出力および右前方出力から除去することに積極的になる必要があるのだろうか。
【0163】
傾聴テストは、以前の左および右の前方マトリクス・エレメントが、音楽の再生の間の中央コンポーネントの除去に不必要に積極的であることを示している。音響学的に、それらがそのようなことを行う必要はない。左および右の前方から除去されたエネルギは、中央のラウドスピーカに与えられる必要がある。このエネルギを除去しなげば、それは左および右の前方スピーカから出され、中央スピーカを強くする必要はない。室内の音出力は同じである。この工夫は、丁度十分なエネルギを中央スピーカに与えて、軸から外れた傾聴者に対して納得のいく前方イメージを生成しつつ、前方左スピーカおよび前方右スピーカから等距離にある傾聴者に対するステレオ幅の削減を最少化することである。
【0164】
出願番号出第08/742460号で説明したように、試行錯誤により、最適の中央音量を見つけることができる。次に、室内におけるCinコンポーネントの出力を保つために前方左および前方右に必要なマトリクス・エレメントについて、回答を求めることができる。以前のように、中央チャネルのレベルが、我々の89年特許のデコーダのレベルより4.5dB下に低減される、または−7.5dBの合計の減衰となると仮定する。なお、−7.5dBは0.42と等しい。中央に対するマトリクス・エレメントは、この係数により乗算することができ、新しい中央ブースト関数(GC)は以下のように定義できる。
【0165】
前方指向に対しては以下のようである。
【0166】
【数12】
【0167】
後方指向に対しては以下のようである。
【0168】
【数13】
幾つかの関数をGC(cs)に対して試みた。以下に示すものは最適ではなかも知れないが、十分であるように思える。これは、度で表した角度csに関して指定されたものであり、何度かの試行錯誤により得られたものである。
【0169】
MATLAB記数法では以下のようである。
【0170】
【数14】
関数(0.42+GC(cs))を図25に示す。値0.42(ドルビー・サラウンドよりも4.5dB低い)からの速い上昇に、緩やかな上昇が続き、最終的に、値1への急な上昇が続くことに留意されたい。
【0171】
LFL、LRLおよびLRRに対しての関数を仮定した場合に、LFRに対しての必要とされる関数を解くことができる。左出力および右出力におけるCinコンポーネントが減少するレートを求め、次に、そのレートで減少させるマトリクス・エレメントを設計することが望まれる。これらのマトリクス・エレメントはまた、LinコンポーネントおよびRinコンポーネントの幾らかのブーストを提供すべきであり、かつ、左から中央の境界および右から中央の境界において現在の形状を有するべきである。
【0172】
ここでは以下のように仮定する。
【0173】
【数15】
前方左および前方右からの出力は以下のように計算できる。
【0174】
【数16】
中央からの出力は以下のようである。
【0175】
【数17】
後方からの出力は、使用するマトリクス・エレメントに依存する。後方チャネルは前方指向の間に3dB減衰され、LRLはcos(cs)であり、LRRはsin(cs)であると仮定する。1つのスピーカからは以下のようである。
【0176】
【数18】
Lin2≒Rin2であると仮定すると、2つのスピーカに対して以下のようである。
【0177】
【数19】
3つの全てのスピーカからの合計出力は、PLR+PC+PREARである。
【0178】
【数20】
Cin出力の、LinおよびRin出力に対する比率は以下のようである(Lin2=Rin2であると仮定)。
【0179】
【数21】
通常のステレオに対しては、GC=0、GP=1、GF=0である。従って、中央対LR出力比は以下のようである。
【0180】
【数22】
アクティブ・マトリックスに対するCin2/Lin2の値に拘わらずこの比が一定である場合、
【0181】
【数23】
上記の方程式は数値的に解くことができる。我々がGCを上記のようにそしてGP=LFLを前のように仮定すると、我々はその結果を図26に見ることができる。
【0182】
図26において、実線の曲線は、新しい「音楽」中央減衰GCを有する一定のエネルギ比にとって必要なGFのグラフである。破線の曲線は、1997年3月のLFRエレメント、即ちsin(cs)*corr1である。点線の曲線は、sin(cs)、即ち補正
項corr1なしのLFRエレメントである。GFは、csが30度に達し次いで急に増大するまでゼロに近いことに注目されたい。我々には、実際にcsの値を約33度に制限することが最良であることが分かった。実際に、これらの曲線から導出されたLFRは負の符号を有する。
【0183】
csがゼロから中央まで増大するにつれ、GFはlr=0軸に沿ったLFRマトリックス・エレメントの形状を与える。我々は、この振る舞いを先のLFRエレメントの振る舞いに混合する方法を必要とし、それは左と中央との間並びに右から中央までの境界に沿って保存されねばならない。cs≦22.5度のときこれを行う方法は、GFとsin(cs)との間の差関数を定義することである。次いで、我々は、この関数を種々の方法で制限する。マトラブ(Matlab)の表記法においては次のとおりである。
【0184】
【数24】
LFRエレメントは、ここにマトラブの表記法で次のとおり書くことができる。
【0185】
【数25】
【0186】
gf_diffの符号が上記の方程式で正であることに注目されたい。こうして、gf_diffはsin(cs)の値をキャンセルし、エレメントの値をlr=0軸の第1の部分に沿ってゼロに低減する。図27を参照のこと。
【0187】
図27において、csが〜30度へlr=0軸に沿って増大するにつれ、値が平面の中間においてゼロであり(操作(steering)なしで)、そしてゼロのままであることに注目されたい。次いで、値は、左から中央まで及び右から中央までの境界に沿って先の値と一致するため低下する。
【0188】
24. 中央出力におけるパンニング・エラー(panning error)
結局のところ、我々が新しい中央関数をこのように書く場合、
[数26]
CL=0.42*(1−G(lr))+GC(cs) (34a)
CR=0.42+GC(cs) (34b)
上記の新しい中央関数は、lr=0軸に沿ってうまく働くが、パンニング・エラーを、左と中央との間及び右と中央との間の境界に沿って生じさせる。参照文献[1]における値(それは決して実行されなかった。)は、左の境界に沿ったcos(2*cs)の平滑関
数を与える。これらの値は、滑らかなパンニングを左と中央との間に生成する。我々は、我々の新しい中央関数がこの境界に沿った類似の振る舞いを有するのを好むであろう。
【0189】
我々は、xyminの追加の関数(マットラブの表記法における)を加えることにより、ジョブを行うであろうマトリックス・エレメントに対して補正をすることができる。
【0190】
[数27]
center_fix_tbl=0.8*(corr1−1)
従って、
[数28]
CL=0.42−0.42*G(lr)+GC(cs)
+center_fix_table(xymin) (35a)
CR=0.42+GC(cs)
+center_fix_table(xymin) (35b)
CLマトリックス・エレメントの3次元表示について図28を参照のこと。完全ではないが、この補正は実際にうまく働く。
【0191】
図28において、全く滑らかである、左と中央との間の境界に沿ったパンニングに対する補正に注目されたい。
【0192】
左前方(点線の曲線)及び中央(実線の曲線)出力のグラフである図29において、中央操作はプロットの左であり、そしてフルの左は右であることに注目されたい。「音楽」戦略において、我々は、現在csの値を約33度(軸上に付された約13)に制限していて、そこにおいて中央は左より約6dB強い。
【0193】
25. エンコーダの技術的詳細
ロジック7エンコーダの2つの主要な目的がある。第1に、それは、エンコードされたバージョンをロジック7デコーダにより最小の主観的変化でもってデコードされるのを可能にする方法で5.1チャネル・テープをエンコードすることができるべきである。第2に、エンコードされた出力はステレオとの互換性があるべきであり、即ちエンコードされた出力は同じ素材の手動の2チャネル混合に出来るだけ近接して鳴るべきである。このステレオ互換性における1つの要因は、エンコーダの出力が標準のステレオ・システムで再生されたとき、そのエンコーダの出力は、オリジナルの5チャネル混合における各音源に対して同一の知覚された音の大きさを与えるべきである。ステレオにおける音源の見かけの位置はまた、5チャネルのオリジナルにおける見かけの位置に出来るだけ近接しているべきである。
【0194】
ミュンヘンにおける放送技術学会(IRT)による議論において、前述したようにステレオ信号のステレオ互換性の目的は、受動的エンコーダによりかなえることができないことが明らかになった。全部のチャネルが等しいフォアグラウンド重要性を有する5チャネル録音は、前述したようにエンコードされねばならない。このエンコードは、サラウンド・チャネルがエンコーダの出力の中にエネルギを保存するように混合されることを必要とする。即ち、エンコーダの出力の全体エネルギは、どの入力が駆動されているかに拘わらず同じであるべきである。この一定エネルギのセッティングは、大部分のフィルム(映画)・ソースに対して、そして楽器(instruments)が5個全部のスピーカに対して等しく割り当てられた5チャネル音楽ソースに対して必要であろう。そのような音楽ソースが現在一般的でないにも拘わらず、それらは将来一般的になるであろうことが著者の意見である。フォアグラウンドの楽器が前方の3チャネルに配置されていて主要な残響を後方チャネルに有する音楽録音は、異なる録音を必要とする。
【0195】
エンコード(IRT及びどこか外の所での)一連のテスト後に、このタイプの音楽録音は、サラウンド・チャネルが他のチャネルより3dB低いパワーで混合されたときステレオ互換性形式で首尾よくエンコードされたことが確認された。この−3dBレベルは、ヨーロッパにおいてサラウンドエンコードの標準として採用されたが、しかしその標準は、他のサラウンド・レベルを特別の目的のため用いることができることを明記している。新しいエンコーダは、サラウンド・チャネルの中の強い信号を検出する能動回路を含む。そのような信号が時折存在するとき、エンコーダはフルのサラウンド・レベルを用いる。サラウンド入力が前方チャネルと比較して一貫して−6dB又はそれより低い場合、サラウンド・ゲイン(suroundgain)はヨーロッパ標準に対応するため徐々に3dB下げられる。
【0196】
これらの能動回路はまた、特許出願No.08/742,460の中のエンコーダに存在していた。しかしながら、ミュンヘンにおける放送技術学会(IRT)での初期のエンコーダによるテストで、私はエンコードされたある音源のその方向がエンコード正しくないことが分かった。新しいアーキテクチャが、これらの問題を解決するため開発された。新しいエンコーダの性能は、広範囲の種々の難しい素材について明らかに優秀である。元のエンコーダは、最初受動エンコーダとして開発された。新しいエンコーダはまた、受動モードで動作するが、しかし主として能動エンコーダとして動作するよう意図されている。能動回路は、設計固有の幾つかの小さいエラーを補正する。しかしながら、能動的補正なしでもその性能は前のエンコーダより良い。
【0197】
広範囲の聴音により最初のエンコーダには幾つかの他の小さい問題が発見された。これらの問題の多く(しかし全部ではない)は、新しいエンコーダにおいて取り組まれた。例えば、ステレオ信号がエンコーダの前方端子及び後方端子の両方に同時に印加されたとき、その結果生じるエンコーダ出力は前方に対して余りに遠くに偏移(バイアス)されすぎる。新しいエンコーダは、後方バイアスを僅かに増大することによりこの影響を補償する。同様に、我々は、フィルムが実質的にサラウンド内容によりエンコードされるとき、会話が時々失われる場合があることが分かった。この問題は、前述したパワー・バランスに対する変更により大きく改善されたが、しかしエンコーダはまた、標準(ドルビー)デコーダと用いられることを意図されている。新しいエンコーダは、これらの条件下でエンコーダへの中央チャネル入力を僅かに高めることによりこの影響を補償する。
【0198】
26. 設計の説明
新しいエンコーダは、中央減衰関数fcnが0.71即ち−3dBに等しい場合、左、中央及び右の信号を先の設計と同一にかつドルビー・エンコーダと同一に処理する。
【0199】
サラウンド・チャネルは、それらが現在あるより一層複雑に見える。関数fc()及びfs()は、サラウンド・チャネルを、前方チャネルに関して90度位相シフトを有する経路へ、又は位相シフトのない経路へのいずれかへ指向させる。エンコーダの基本的動作において、fcは1であり、fsはゼロであり、即ち90度位相シフトを用いる経路のみがアクティブである。
【0200】
値crxは典型的には0.38である。それは、各サラウンド・チャネルに対して負の交差フィード量を制御する。先のエンコーダにおけるように、サラウンド・チャネルの1つに1つの入力のみがあるとき、A及びB出力は、後方の方に22.5度の操作角度を生じる0.38/0.91の振幅比を有する。通常のように、2つの出力チャネルの全体パワーは1(単位元)であり、即ち0.91と0.38の二乗和は1である。
【0201】
このエンコーダの出力は1つのチャネルのみが駆動されているとき比較的単純であるが、その出力は、両方のサラウンド入力が同時に駆動されているとき問題となる。我々がLS入力及びRS入力を同じ信号(フィルムにおいて通常の発生)により駆動する場合、加算ノードでの全ての信号は同相であり、そのため各出力チャネルの全体レベルは、0.38+0.91、即ち1.29である。この出力は1.29の係数即ち2.2dBだけ強すぎる。2つのサラウンド・チャネルがレベル及び位相において似ているとき関数fcの値を2.2dBまでだけ低減するため、能動回路がエンコーダの中に含まれている。
【0202】
2つのサラウンド・チャネルのレベルが似ていてかつ位相はずれであるとき、別のエラーが生じる。この場合は、2つの減衰係数が減じ、そのためA及びB出力は等しい振幅及び位相、及び0.91−0.38、即ち0.53のレベルを有する。この信号は、中央方向信号としてデコードされるであろう。このエラーは厳しい。先のエンコーダ設計は、操作されてない(unsteered)信号をこれらの条件下で生成したが、その信号は妥当である。後方入力端子に印加される信号が中央に向けられた信号をもたらすのは妥当ではない。従って、2つの後方チャネルがレベルにおいて似ていて反対位相のときfsの値を増大する能動回路が与えられる。後方チャネルのための後方経路と位相シフトされた経路との両方を混合する結果は、出力チャネルAとBとの間の90度位相差である。この結果が操作されてない信号をもたらし、それは我々が望むものである。
【0203】
前述したように、私はミュンヘンにおけるIRTでの議論の間にヨーロッパ標準サラウンド・エンコーダが存在することを発見した。エンコーダは、単純に2つのサラウンド・チャネルを3dBだけ減衰し、次いでそれらを前方チャネルに加える。こうして、左後方チャネルが、減衰されて左前方チャネルに加えられる。このエンコーダは、マルチチャネルフィルム音、又はサラウンド・チャネルの中に特定の楽器を有する録音をエンコードするとき多くの欠点を有する。これらの楽器の音の大きさ及び方向の両方が正しくなくエンコードされるであろう。しかしながら、このエンコーダは、クラシック音楽に対してむしろうまく動作し、そこにおいて2つのサラウンド・チャネルは主要な残響である。3dB減衰は、ステレオ互換性のあるエンコードを生じるため聴音テストを通して注意深く選定された。私は、我々のエンコーダがクラシック音楽がエンコードされつつあったとき3dB減衰を含むべきであり、そして人がこの条件を、エンコーダの中の前方チャネルとサラウンド・チャネルとの相対的レベルを通して検出できると結論を下した。
【0204】
サラウンド・チャネルの中の関数fcの主要機能は、サラウンド・チャネルが前方チャネルより非常にソフトであるとき出力混合の中のサラウンド・チャネルのレベルを低減することである。回路は、前方レベルと後方レベルとを比較するため設けられており、後方が3dBだけ少ないとき、fcの値は最大の3dBまで低減される。最大減衰は、後方チャネルが前方チャネルより強さで8dB小さいとき達成される。この能動回路はうまく動作するように見える。それは、新しいエンコーダがクラシック音楽のためヨーロッパ標準エンコーダと互換性があるようにさせる。能動回路の作用は、後方チャネルにおいて強いことを意図される楽器をフル・レベルでエンコードするようにさせる。
【0205】
サラウンド・チャネルのため実数係数を混合する経路の別の関数fsがある。音が左前方入力から左後方入力へ移動するとき、能動回路は、これら2つの入力がレベル及び位相において似ていることを検出する。これらの条件下で、fcはゼロに低減され、fsは1に増大される。エンコードにおける実数係数に対するこの変更は、このタイプのパン(pan)のより正確なデコードをもたらす。実際には、この機能はおそらく本質的でないが、しかしそれはエレガントな洗練したもの(refinement)に見える。
【0206】
製品でまだ発売されていない追加の能動回路がある。レベル検出回路は、中央チャネルと前方左及び右との間の位相関係を見る。5チャネルを用いるあるポピュラー音楽の録音は、ヴォーカルを3つ全ての前方チャネルの中に混合する。強い信号が3つ全ての入力の中にあるとき、3つの前方チャネルが一緒に同相で加わるので、エンコーダ出力は過剰なヴォーカル・パワーを有するであろう。これが生じるとき、能動回路は、中央チャネルの減衰を3dBだけ増大して、エンコーダ出力におけるパワー・バランスを回復する。
【0207】
要約すると、能動回路は以下のために設けられている。
1. 2つのチャネルが同相であるときサラウンド・チャネルのレベルを2.2dBだけ低減する。
2. 2つの後方チャネルが位相はずれであるとき操作されてない条件を生成するため後方チャネルのための実数係数混合経路を十分に増大する。
3. サラウンド・レベルが前方レベルより非常に小さいときサラウンド・チャネルのレベルを3dBまでだけ低減する。
4. 後方チャネルのレベルが前方チャネルに似ているとき後方チャネルのレベル及び逆の位相を増大する。
5. 音源が前方入力から対応する後方入力へパンニングしているとき、サラウンド・チャネル混合が実数係数を用いるようにする。
6. 中央レベルと前方及びサラウンド入力のレベルとがほぼ等しいとき、エンコーダの中の中央チャネルのレベルを増大する。
7. 共通信号が3つの全ての前方入力の中にあるとき、エンコーダの中の中央チャネルのレベルを低減する。
【0208】
エンコーダに対する将来の改善は、前方チャネルに対する上記特徴2に類似の特徴を含みそうである。現在のエンコーダにおいては、2つの前方チャネルが位相はずれであるとき、エンコードは、エンコーダに音を後方に置くようにさせる。我々は、この条件を検出し、その結果生じる出力を操作されないようになることを意図している。
【0209】
27. エンコーダの中の周波数依存回路
図2は、デコーダの5チャネル・バージョンにおけるマトリックスに従う周波数依存回路のブロック図を示す。3つのセクション、即ち可変低域通過フィルタ、可変シェルフ・フィルタ及びHRTF(ヘッド関連伝達関数(Head Related Transfer Function))フィルタがある。HRTFフィルタは、その特性を後方指向電圧c/sの値に応じて変える。初めの2つのフィルタは、強く指向された信号間の休止中におけるデコーダへの入力信号の平均方向を表すことを意図される信号に応答してそれらの特性を変える。この信号は、バックグラウンド制御信号と呼ばれる。
【0210】
28. バックグラウンド制御信号
現在のデコーダの主要目標の1つは、5チャネル・サラウンド信号を2つの通常のチャネル・ステレオ信号から最適に生成することができることである。また、本出願の一部として記載されたエンコーダにより2つのチャネルの中にエンコードされた5チャネル・サラウンド録音を再生成することがデコーダにとって非常に望ましい。これら2つの出願は、サラウンド・チャネルが知覚される方法において異なる。通常のステレオ入力では、音の大部分が聴音者の前にあるあることが必要である。サラウンド・スピーカは、包囲(envelopment)及び雰囲気の愉快な感じに寄与すべきであるが、しかしそれら自身に注意を引くべきでない。エンコードされたサラウンド録音は、サラウンド・スピーカがより強くかつより積極的であることを必要とする。
【0211】
両方のタイプの入力をユーザからのいずれの調整なしで最適に再生するため、2チャネル録音とエンコードされた5チャネル録音とを弁別することが必要である。バックグラウンド制御信号は、この弁別を行うよう設計されている。バックグラウンド制御信号(BCS)は、後方指向信号csに似ていて、そしてそれから導出される。BCSはcsの負のピーク値を表す。即ち、csがBCSよりより負であるとき、BCSはcsに等しくされる。csがBCSよりより正であるとき、BCSの値はゆっくりと減衰する。しかしながら、BCSの減衰は更なる計算を伴う。
【0212】
多くのタイプの音楽は、一連の強いフォアグラウンド音から、又は歌の場合は一連の歌われた単語から成る。フォアグラウンド音符の中間にバックグラウンドがある。バックグラウンドは他の楽器が演奏する他の音符から成り得て、又はそれは残響から成り得る。BCS信号を導出する回路は、フォアグラウンド音符のピーク・レベルを追跡する。現在のレベルがフォアグラウンドのピーク・レベルより〜7dB低いとき、csのレベルが測定される。フォアグラウンド・ピーク間のこれらの間隙中のcsの値を用いて、BCSの減衰を制御する。音符間の間隙の中の素材が残響である場合、それは、5チャネルのオリジナルをエンコードすることによりなされた録音において正味の後方へのバイアスを有する傾向にある。これは、オリジナルの後方チャネル上の残響が後方へのバイアスによりエンコードされるであろうからである。通常の2チャネル録音における残響は、正味の後方へのバイアスを有しないであろう。この残響のためのcsは、ゼロ又は僅かに前方であろう。
【0213】
このようにして導出されたBCSは、録音のタイプを表す傾向がある。著しい後方指向された素材があるときはいつでも、BCSは常に強く負であるだろう。しかしながら、BCSは、録音の中の残響が正味の後方へのバイアスを有する場合、後方に対する強い指向が無い場合ですら負であり得る。我々は、BCSを用いて、ステレオ入力対サラウンド入力のためデコーダを最適化するフィルタを調整することができる。
【0214】
29. 周波数依存回路:5チャネル・バージョン
図2におけるフィルタの最初のものは、調整可能なカットオフ周波数を有する単純な6dB/オクターブの低域通過フィルタである。BCSが正又はゼロであるとき、このフィルタは、ユーザ調整可能である値にセットされるが、通常は約4kHzである。BCSが負になるにつれ、カットオフ周波数は上昇されて、ついにBCSが22度より後方であるとき、フィルタはアクティブでない。この低周波数フィルタは、通常のステレオ・素材が再生されるとき、後方出力の突出をより少なくする。フィルタは、少なくともV1.11以来デコーダの一部であったが、しかし初期のデコーダにおいては、それは、csにより制御され、そしてBCSによっては制御されなかった。
【0215】
第2のフィルタは、可変シェルフ・フィルタである。このフィルタの低周波数セクション(極)は、500Hzに固定されている。高周波数セクション(ゼロ)は、ユーザ調節及びBCSに応じて変わる。このフィルタは、現在のデコーダの中で「サウンドステージ(サウンドフィルムを制作する防音スタジオ)(soundstage)」制御を実行する。特許出願No.08/742,460において、「サウンドステージ」は、「tvマトリックス」補正を用いて、マトリックス・エレメントを介して実行される。この仕事に基づく往時のデコーダは、指向が中立又は前進であったとき後方チャネルの全体レベルを低減した。ここに示された新しいデコーダにおいては、マトリックス・エレメントは、「tvマトリックス」補正を含まない。
【0216】
新しいデコーダにおいては、サウンドステージ制御が「後方」にセットされるとき、シェルフ・フィルタの高周波数セクションは、低周波数セクションと等しくセットされる。換言すると、シェルフは減衰を有しないで、そしてフィルタは平坦な応答を有する。
【0217】
サウンドステージ制御が「中立」にセットされるとき、高周波数ゼロのセッティングは変わる。BCSが正又はゼロであるとき、ゼロは710Hzに移動し、より高い周波数の3dB減衰をもたらす。高周波数に対して、その結果は、初期のデコーダと同じである。指向が中立又は前進であるとき3dB減衰がある。しかしながら、低周波数は減衰されない。それらは、部屋のサイドからフル・レベルで来る。結果は、後方における高周波数をそらす(distract)ことなしにより大きな低周波数の豊富さ及び包囲である。BCSが負になるにつれ、高周波数ゼロは極の方に移動し、そのためBCSが後方に対して約22度であるとき、シェルフ・フィルタは減衰を有しない。
【0218】
サウンドステージ制御が「前方」にセットされるとき、作用は似ているが、ゼロは、BCSがゼロ又は正であるとき1kHzに移動する。これは、高周波数に6dBの減衰を与える。再度、BCSが負に行くにつれ、減衰は取り除かれる。
【0219】
第3のフィルタは、c/sにより制御され、そしてBCSにより制御されない。このフィルタは、音源が聴音者の前方からの方位角でほぼ150度であるとき、人間の頭部及び耳介の周波数応答をエミュレートするよう設計される。このタイプの周波数応答曲線は、「頭部関連伝達関数」又はHRTFと呼ばれる。これらの周波数応答関数は、多くの異なる人々に対して多くの角度について測定されてきた。一般に、音源が前方から約150度であるとき、周波数応答における強いノッチが約5kHzにある。類似のノッチは、音源が聴音者の前方にあるとき存在し、この場合のみ、ノッチは約8kHzである。聴音者の側方への音源は、これらのノッチを生成しない。人間の頭脳は、それが音源が聴音者の背後であることを検出する方法の1つとしてノッチが5kHzに存在することを用いる。
【0220】
5チャネル音響再生のための現在の標準は、2つの後方スピーカが聴音者の僅かに背後にかつ前方から±110又は120度で配置されることを推奨している。このスピーカ位置は、良好な包囲を低周波数で与える。しかしながら、聴音者の側方からの音は、完全に聴音者の背後にある音と同じレベルの興奮を生成しない。フィルム・ディレクタは、聴音者の背後から来、そして側方から来ない音響効果を欲する場合が非常に多い。
【0221】
また、聴音室がスピーカを完全に聴音者の背後に配置するのに適する大きさと形状を有しないで、そして側方位置が達成することができる最良の所である場合が多い。
【0222】
デコーダの中のHRTFフィルタは、後方音源の周波数ノッチを追加し、そのため聴音者は、音をスピーカの実際の位置の背後の更に遠くに聴く。フィルタはcsと共に変わるよう設計されている。csが正又はゼロであるとき、フィルタは最大である。これが、周囲音響及び残響が聴音者のより背後にあるように思わせる。csが負になるにつれ、フィルタは低減される。csがほぼ−15度であるとき、フィルタは完全に取り除かれ、音源は完全に側方から来るように思われる。csが更に負に行くにつれ、フィルタが再度適用され、従って、音源は聴音者の背後に行くように思われる。csが後方に対して十分であるとき、フィルタは、後方に対して十分である音のためのHRTF関数に対応するため僅かに修正される。
【0223】
30. 周波数依存回路:7チャネル・バージョン
図3は、デコーダの7チャネル・バージョンにおける周波数依存回路を示す。これらは、実際の実行においては、第2の2セクションが1つの回路に組み合わされることができるにも拘わらず、3セクションから成るものとして示されている。
【0224】
第1の2セクションは、5チャネル・デコーダにおける2セクションと同一であり、同じ機能を実行する。第3のセクションは、7チャネル・デコーダに特有である。V1.11及び特許出願No.08/742,460において、側方チャネル及び後方チャネルは、別個のマトリックス・エレメントを有した。エレメントの作用は、csが正又は中立であるとき側方出力及び後方出力が遅延を除いて同一であるようなものであった。2つの出力は、csが22度より負であるまで同一に留まった。指向が後方に更に移動するにつれ、側方出力は6dBだけ減衰され、後方出力は2dBだけブーストされた。これは、音が聴音者の側方から聴音者の後方に移動するように思わせる。
【0225】
現在のデコーダにおいては、側方出力と後方出力との弁別は、側方出力における可変シェルフ・フィルタにより達成される。図3における第3のシェルフ・フィルタは、csが前進又はゼロであるとき減衰を有しない。csが22度よりより負になるとき、シェルフ・フィルタにおけるゼロは、1100Hzの方に迅速に移動し、その結果約7dBの高周波数の減衰をもたらす。シェルフ・フィルタが「サウンドステージ」機能を与えるシェルフ・フィルタとは別個のフィルタとして記載されたが、2つのシェルフ・フィルタの作用は、適切な制御回路を介して単一のシェルフ・フィルタの中に組み合わされることができる。
【0226】
本発明の好適な実施形態が本明細書に記載され説明されたが、多くの他の有り得る実施形態が存在し、そしてこれらの及び他の修正及び変更が本発明の精神から離れることなく当業者には明らかであろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載のサラウンド音響デコーダ。
【請求項1】
本願明細書に記載のサラウンド音響デコーダ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公開番号】特開2010−178375(P2010−178375A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89901(P2010−89901)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【分割の表示】特願2006−149032(P2006−149032)の分割
【原出願日】平成10年9月3日(1998.9.3)
【出願人】(592051453)ハーマン インターナショナル インダストリーズ インコーポレイテッド (91)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【分割の表示】特願2006−149032(P2006−149032)の分割
【原出願日】平成10年9月3日(1998.9.3)
【出願人】(592051453)ハーマン インターナショナル インダストリーズ インコーポレイテッド (91)
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