説明

9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジアルコキシフルオレン化合物

【課題】 機械的強度、耐熱性、光学特性、加工性等に優れたポリアミドおよびポリイミドを製造することが可能な、フルオレン骨格を有しハロゲンを含有しない新規なジアミン及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 下記式(1)の9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジアルコキシフルオレン化合物(式中Rは炭素数1〜4のアルキル基)。
【化1】


さらに2,7−ジアルコキシフルオレンとアクリロニトリルを反応させて9,9−ビス(2−シアノエチル)−2,7−ジアルコキシフルオレンとし、これを還元して9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジアルコキシフルオレンを製造する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドやポリイミドの原料として有用な9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジアルコキシフルオレン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族型の高分子化合物において、主鎖中に嵩高い分子構造を導入することにより、溶媒溶解性、耐熱性、光学特性や機械的特性に改善効果を期待する試みがなされている。このような目的のために、嵩高い分子構造を有する芳香族ジアミンとして、カルド構造を有する9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンが知られている。(特許文献1)
【0003】
【化1】

【0004】
また、フルオレン骨格の2位と7位に臭素原子を有する9,9−ビス(4−アミノフェニル)−2,7−ジブロモフルオレンが知られている。(特許文献2、非特許文献1及び2)
【化2】

【0005】
9,9−位に脂肪族アミノ基を有するジアミンとしては、9,9−ビス(3−アミノプロピル)フルオレンが知られている。(特許文献3、非特許文献3)
【化3】

【0006】
ただし、フルオレン骨格の2,7−アルコキシ基を有する9,9−ビス(3−アミノプロピル)フルオレン誘導体は知られていない。高分子材料に対して諸特性の一層の向上要望がますます強くなっており、その要望に応えるベく、新規な樹脂の骨格構造を形成する為の新規なジアミン化合物が求められている。とりわけハロゲンを有するフルオレン骨格のジアミン誘導体は優れた性能を有するが、ハロゲンに由来する欠点も散見されるためハロゲンを代替した化合物が要望されている。
【0007】
【特許文献1】特開平5−31341号公報
【特許文献2】特表2004−500463号公報
【特許文献3】米国特許第2320029号明細書
【非特許文献1】Bo Liら、Polymer Preprints,41[1],105(2000)
【非特許文献2】Chia−Hung Chouら、Macromolecules,38,745(2005)
【非特許文献3】Ralph G.Beamanら、Journal of Applied Polymer Science 9,3949(1965)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、新規な9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジアルコキシフルオレン化合物を提供することにある。
本発明はまた、新規な9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジアルコキシフルオレン化合物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、 下記一般式(1)で表される9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジアルコキシフルオレン化合物を提供する。
【化4】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【0010】
本発明はまた、2,7−ジアルコキシフルオレンとアクリロニトリルを反応させて、下記一般式(2)で表される9,9−ビス(2−シアノエチル)−2,7−ジアルコキシフルオレンとし、次いでこれを還元することにより9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジアルコキシフルオレンを製造する方法を提供する。
【0011】
【化5】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明により、新規な9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジアルコキシフルオレン化合物が提供される。
本発明により提供される9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジアルコキシフルオレン化合物は、ポリアミドやポリイミドの原料として有用な新規化合物である。
また本発明により、新規な9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジアルコキシフルオレン化合物を製造する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、上記一般式(1)で表される9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジアルコキシフルオレン化合物を提供する。
【0014】
式(1)中のRは、炭素数1〜4のアルキル基を表す。
Rの好ましい例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基などを挙げることができる。
【0015】
本発明において、上記一般式(1)で表される9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジアルコキシフルオレン化合物の具体例としては、9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジメトキシフルオレン、9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジエトキシフルオレン、9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジn−プロピルオキシフルオレン、9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジイソプロピルオキシフルオレン、9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジn−ブチルオキシフルオレン、9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジsec−ブチルオキシフルオレン、9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジt−ブチルオキシフルオレンを挙げることができる。
【0016】
本発明の上記一般式(1)で表される9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジアルコキシフルオレン化合物を製造する好適な方法として、以下のような方法を挙げることができる。
【0017】
下記式のように2,7−アルコキシフルオレンをアクリロニトリルと反応させて、9,9−ビス(2−シアノエチル)−2,7−ジアルコキシフルオレンとし、次いでこれを還元する製造方法。
【化6】

2,7−アルコキシフルオレンは、例えば2,7−ジメトキシフルオレンは2,7−ジブロモフルオレンをナトリウムメチラートと反応させる方法、ビス(2−ヨード−5−メトキシフェニル)メタンをウルマンカップリングする方法等で調製することができる。
(Helmut G. Altら、Journal of Organometallic Chemistry,552,39(1996);Alvin Ronlanら、Journal of the American Chemical Society,95,7132(1973)、及び特開2000−297051号公報参照)
【実施例】
【0018】
実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって、何ら制限されるものではない。
実施例における分析は、下記の条件により実施した。
【0019】
(a)高速液体クロマトグラフ分析(HPLC)
機器:日本分光800シリーズ
カラム:Inertsil ODS-2 長さ150mm、内径4.6mm
分析サンプル調整法:約10mgを5mlのジクロロメタンに溶解
注入量:5μL
溶離液:
(ア)実施例1の溶離液
(メタノール65%+0.1%リン酸水溶液35%)で10分保持後、
10分かけてメタノール 100%に変更した。
(イ)実施例2の溶離液
(メタノール10%+0.1%リン酸水溶液90%)で5分保持後、
15分かけて(メタノール45%+0.1%リン酸水溶液 55%)に変更し、
さらに10分かけて(メタノール80%+0.1%リン酸水溶液20%)に変更した。
流量:1ml/分
検出器:UV 波長254nm
定量法:ピーク面積百分率法で算出した。
【0020】
(b)核磁気共鳴分析(H-NMR、13C−NMR)
機器:日本電子製 EX−400型
測定核: H(400MHz)、 13C(100MHz)
溶媒:H;DMSO−d6またはCDCl 13C;DMSO−d6
【0021】
(c)液体クロマトグラフ・質量分析(LC/MS)
機器:島津製作所 LCMS−2010
カラム:Inertsil ODS-80A 長さ150mm、内径2.1mm
溶離液:(メタノール50%+0.5wt%酢酸水溶液50%)
イオン化法:ESI
【0022】
(d)赤外分光分析(IR)
機器:日本分光 FT/IR−410
測定:臭化カリウム(KBr)錠剤法
【0023】
(e)融点 DSC法
機器:リガク Thermo Plus DSC8230
【0024】
(実施例1)
9,9−ビス(2-シアノエチル)−2,7−ジメトキシフルオレンの調製
予めガラス製反応容器を窒素ガスで置換しておき、文献(Helmut G. Altら、Journal of Organometallic Chemistry 552,39(1996))を参考に調製した2,7−ジメトキシフルオレン130.2g(0.575モル)、テトラヒドロフラン663g、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド676mg(2.87ミリモル)を仕込み、そこへ室温下でテトラヒドロフラン642gに溶かしたカリウム-tert-ブトキシド11.7g(0.104モル)を30分かけて滴下し、さらにアクリロニトリル135.1g(2.55モル)を80分かけて滴下した。50分保持後、10%塩酸40gを加えpHを2.9調整にした後、減圧濃縮、その後水400g添加し、メチルイソブチルケトン784gを加えて80℃で抽出した。続いて、抽出液を濾過して不溶分を除去、水500gで洗浄を行い、減圧濃縮後、メタノール364gを加えて懸濁洗浄を行うことで、9,9−ビス(2-シアノエチル)−2,7−ジメトキシフルオレン70.9gを得た。高速液体クロマトグラフ分析による純度は91.1%であった。収率は37%であった。
【0025】
構造は、H-NMRスペクトルにより確認した。
1H-NMR(DMSO-d6):(ppm)1.58(4H, t, J=8Hz, -CH2CH2CN×2)、2.40(4H, t, J=8Hz, -CH2CH2CN×2)、6.92 and 6.93(2H, d, J=8Hz, フルオレン骨格C3,C6-H)、7.18 and 7.19(2H, s, フルオレン骨格C1,C8-H)、7.63(2H, d, J=8Hz, フルオレン骨格C4,C5-H)
【0026】
(実施例2)
9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジメトキシフルオレンの調製
ステンレス製オートクレーブに、メタノール515g、9,9−ビス(2−シアノエチル)−2,7−ジメトキシフルオレン257.4g(706ミリモル)、メタノールで溶媒置換したスポンジコバルト50gを仕込み、窒素置換を繰返した後、水素を仕込み、120℃、10MPaで8時間反応をおこなった。反応終了後冷却し、オートクレーブから取り出し、スポンジコバルト触媒を濾過により除去した。その後メタノールを減圧下で留去し、水添物261.6gを得た。この水添物に水1000g、35%塩酸水溶液298gを添加、クロロホルム680gで抽出した。抽出後、抽残液(水層)を50%水酸化ナトリウム水溶液310gでpHを12.8とし、トルエン720g及び740gにより、70℃で2回抽出した。得られたトルエン溶液を濾過し、不溶分を除去、水600gで3回洗浄した後、減圧濃縮した。得られた粗9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジメトキシフルオレンにイソプロピルアルコール410gを添加し、そこへイソプロピルアルコール420gに溶かした濃硫酸80.0g(811.3ミリモル)を30分かけて滴下し9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジメトキシフルオレン硫酸塩とし、これをメタノール500gおよび1200gで2回懸濁洗浄を行った。得られた洗浄物に水790g添加し、50%水酸化ナトリウム水溶液51gでpHを12.4とし、トルエン522gおよび498gにより、70℃で2回抽出した。このトルエン溶液を、水603g、577g、529g、582gおよび552gにより70℃で5回洗浄した後、減圧濃縮し、残渣を60℃で真空乾燥することにより、9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジメトキシフルオレン83.1gを得た。高速液体クロマトグラフ分析による純度は96.4%であった。収率は33%であった。
【0027】
構造は、H-NMR、13C−NMR、LC/MSおよびIRより確認した。
1H-NMR(CDCl3):(ppm)0.73〜0.81(4H, m, J=8Hz, J=8Hz, -CH2CH2CH2NH2×2)、1.25(4H, brs, -CH2CH2CH2NH2×2)、1.95(4H, t, J=8Hz, -CH2CH2CH2NH2×2)、2.43(4H, t, J=8Hz, -CH2CH2CH2NH2×2)、6.83〜6.86(4H, d, J=4Hz, フルオレン骨格-C3,C4,C5,C6-H)、7.48 and 7.51(2H, s, フルオレン骨格-C1,C8-H)、
13C-NMR (DMSO-d6):(ppm) 28.00(-CH2CH2CH2NH2)、37.08(-CH2CH2CH2NH2)、41.90(-CH2CH2CH2NH2)、54.08(四級炭素) 55.04(-OCH3)
108.70、111.74、119.25、151.25、158.09(フルオレン骨格の炭素)
LC/MS (ESI) : 341(M+H+)
IR(KBr): υ=3362cm-1(アミン)、υ=2936、1579、1469、1431、1271、809 cm-1 (フルオレン由来)
融点(DSC):99.1℃
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明により、ポリアミド、ポリイミドの原料として有用な新規な9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジアルコキシフルオレン化合物が提供される。
本発明により機械的強度、耐熱性、光学特性、加工性等に優れたポリアミドおよびポリイミドを製造することが可能な、フルオレン骨格を持ちハロゲンを含有しない新規なジアミンが提供される。
また本発明により、新規な9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジアルコキシフルオレン化合物を製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1で得られた9,9−ビス(2-シアノエチル)−2,7−ジメトキシフルオレンのH−NMRスペクトルである。
【図2】実施例2で得られた9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジメトキシフルオレンのH−NMRスペクトルである。
【図3】実施例2で得られた9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジメトキシフルオレンの13C−NMRスペクトルである。
【図4】実施例2で得られた9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジメトキシフルオレンの液体クロマトグラムである。
【図5】実施例2で得られた9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジメトキシフルオレンの質量分析クロマトグラムである。
【図6】実施例2で得られた9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジメトキシフルオレンの質量分析スペクトルである。
【図7】実施例2で得られた9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジメトキシフルオレンのIRスペクトルである。
【図8】実施例2で得られた9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジメトキシフルオレンのDSCチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジアルコキシフルオレン化合物。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【請求項2】
2,7−ジアルコキシフルオレンとアクリロニトリルを反応させて、下記一般式(2)で表される9,9−ビス(2−シアノエチル)−2,7−ジアルコキシフルオレンとし、次いでこれを還元することにより9,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,7−ジアルコキシフルオレンを製造する方法。
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−127362(P2008−127362A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316339(P2006−316339)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)
【Fターム(参考)】