説明

ABWRプラントの原子炉建屋内でのレイダウン方法及びABWRプラントの原子炉圧力容器の環状シール部材の取替え方法

【課題】原子炉圧力容器上蓋への環状シール部材の取り付けに要する工程を低減できるABWRプラントの原子炉建屋内でのレイダウン方法を提供する。
【解決手段】ABWRプラントの運転が停止された後、原子炉建屋1内に設置された天井クレーンを用いて、原子炉ウェル7を覆っている原子炉ウェルシールドプラグ17A,17B,17Cを順番に運転床6の床面上まで搬送する。原子炉ウェルシールドプラグ17A,17Bは、運転床6の上に置かれる。原子炉格納容器から取り外された原子炉格納容器上蓋5は、原子炉ウェルシールドプラグ17A,17Bの上に重ね置きされる。原子炉圧力容器から取り外された原子炉容器上蓋3は、原子炉格納容器上蓋5に近接して、運転床6上に置かれる。運転床6に形成された大物搬入口11と原子炉容器上蓋3の間に、環状シール部材が広げられる広さを有するスペース21が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ABWRプラントの原子炉建屋内でのレイダウン方法及びABWRプラントの原子炉圧力容器の環状シール部材の取替え方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉圧力容器(以下、RPVという)内の炉心に冷却水を供給する再循環系をコンパクトなインターナルポンプに替えた改良型沸騰水型原子炉プラント(ABWRプラント)が、用いられている。ABWRプラントでは、RPVが、原子炉建屋内に設置された原子炉格納容器(以下、PCVという)内に据え付けられている。運転床が、原子炉建屋内でPCVの上方に形成されている。運転床に囲まれて形成された、機器収容プール、原子炉ウェル及び燃料貯蔵プールが、PCVの上方に配置されている。原子炉ウェルはRPVの真上に位置しており、機器収容プール、原子炉ウェル及び燃料貯蔵プールがこの順に一列に配置されている。ABWRプラントの運転中では、原子炉ウェルが、運転床に設置された、分割された複数の原子炉ウェルシールドプラグで覆われており、機器収容プールが、運転床に設置された、分割された複数の蓋部材で覆われている。RPV内で炉心の上方に、気水分離器及び蒸気乾燥器が設置されている。
【0003】
ABWRプラントは、約1年ごとに運転を停止してプラントの定期検査を行っている。この定期検査に際しては、RPV内の炉心に装荷されている一部の燃料集合体(使用済燃料集合体)が、RPVから取り出され、新燃料集合体と交換される。炉心から燃料集合体を取り出すためには、以下の各作業が実行される。
【0004】
すなわち、原子炉ウェルの上端部を遮へいしている複数の原子炉ウェルシールドプラグ、PCVの上蓋、RPVの上方を覆ってRPVに取り付けられたRPV保温材、RPVの上蓋、原子炉ウェルと機器収容プールとの分離のためのスロットプラグ、内部構造物である蒸気乾燥器及び気水分離器が順に取り外される。これらのうち、蒸気乾燥器及び気水分離器を除いた他の部材は運転床の上に仮置きされる。蒸気乾燥器及び気水分離器は、複数の蓋部材が取り除かれた機器収容プール内に仮置きされる。各蓋部材は、機器収容プールの側で運転床上に重ねて置かれる。その後、炉心内に装荷されている一部の燃料集合体である使用済燃料集合体を、燃料交換機を用いてRPV内から取り出し、燃料貯蔵プールまで移送して燃料貯蔵プール内に置かれた燃料ラック内に収納する。各使用済燃料集合体は、燃料ラック内で水中保管される。
【0005】
交換する使用済燃料集合体を炉心から取り出すためには、原子炉ウェルシールドプラグ、PCV上蓋、RPV保温材、スロットプラグ及びRPV上蓋等を取り外して運転床上に仮置きする必要がある。重量物であるこれらの部材は原子炉建屋内の天井クレーンにて移動されるため、運転床上でのそれらの部材の仮置き場所は、天井クレーンの稼動範囲内とする。
【0006】
ABWRプラントの原子炉建屋は、再循環系の削除等の改良により、再循環系を有する従来型のBWRプラント(ABWRプラント以前に建設されたタイプのBWRプラント)の原子炉建屋に比べて小型化されている。このため、ABWRプラントの原子炉建屋では、運転床が狭くなっており、天井クレーンの稼動範囲内で運転床上での大物機器の仮置き場所が限定され、且つ空きスペースが少なくなっている。
【0007】
ABWRプラントの定期検査時に、運転床上に各部材をレイダウンする際、シールドプラグ及びスロットプラグ等の大型の重量物は、運転床において、PCV上蓋、RPV上蓋及びRPV保温材が仮置きされる領域と、原子炉ウェル及び燃料貯蔵プールを挟んで反対側の領域に仮置きされる。
【0008】
特開昭63−250593号公報及び特開昭64−84189号公報には、原子炉建屋内でレイダウンスペースを増加させる対策の例が記載されている。この原子炉建屋では、運転床の床下に補助レイダウンスペースを形成している。運転床上のレイダウンスペース及び階下の補助レイダウンスペースに、原子炉ウェルシールドプラグ等が仮置きされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭63−250593号公報
【特許文献2】特開昭64−84189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ABWRプラントの原子炉建屋では、特開昭63−250593号公報及び特開昭64−84189号公報のように運転床の床下に補助レイダウンスペースを形成することは、運転床の下方に配置されている安全系等の系統の配置換えを伴うために困難である。特に、ABWRプラントの原子炉建屋は、前述したように、小型化されており、運転床の床下に補助レイダウンスペースを形成する空間的な余裕もない。
【0011】
定期検査が終了してRPV内の炉心に新燃料集合体が装荷された後、機器収容プール内に仮置きされている気水分離器及び蒸気乾燥器が、天井クレーンで吊り上げられて、RPV内に搬送され、所定の位置に設置される。RPV上蓋がRPVのフランジに取り付けられる。RPV上蓋とそのフランジの間には、RPVの気密性を保つために、環状シール部材(例えば、Oリング)が配置されている。
【0012】
Oリングは、運転床上に仮置きされたRPV上蓋の下面に取り付ける必要がある。ABWRの原子炉建屋では、運転床が狭いため、原子炉ウェルシールドプラグ、スロットプラグ及びRPV上蓋等を仮置きした運転床上に、直径の大きなそのOリングを広げるためのスペースを確保することができない。このため、気水分離器及び蒸気乾燥器を機器収容プール内に搬送した後、機器収容プールの上端部を前述の各蓋部材で覆い、これらの蓋部材の上にOリングを広げてこのOリングをRPV上蓋の下面に取り付けている。Oリングが取り付けられたRPV上蓋は、運転床上に置かれる。
【0013】
上記したOリングのRPV上蓋への取り付け作業を実施するために、機器収容プール内への気水分離器等の搬入終了後に、機器収容プールを覆った状態での各蓋部材の設置、及び気水分離器等を機器収容プールからRPV内への搬入時における各蓋部材の機器収容プールからの取り外しを行わなければならない。これは、OリングのRPV上蓋への取り付け作業を煩雑なものにしている。
【0014】
本発明の目的は、原子炉圧力容器の蓋への環状シール部材の装着に要する工程を低減できるABWRプラントの原子炉建屋内でのレイダウン方法及びABWRプラントの原子炉圧力容器の環状シール部材の取替え方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、ABWRプラントの運転停止後の検査期間において、ABWRプラントの原子炉建屋内で運転床に形成された原子炉ウェルを覆っている原子炉ウェルシールドプラグを、移送して運転床の床面に置き、
原子炉建屋内に設置されて原子炉圧力容器を取り囲んでいる原子炉格納容器の第1蓋を、取り外して移送し、運転床の床面に置かれた原子炉ウェルシールドプラグの上に重ね置きし、
原子炉圧力容器から取り外されて運転床の床面に置かれている第2蓋が占有している、その床面の第2蓋占有領域に隣接して、第2蓋に装着する環状シール部材が広げられる広さを有するスペースを、運転床の床面に形成することにある。
【0016】
本発明は、原子炉格納容器に取り付けられる第1蓋を、運転床の床面に置かれた原子炉ウェルシールドプラグの上に重ねて置き、原子炉圧力容器から取り外されて運転床の床面に置かれている第2蓋が占有している、その床面の第2蓋占有領域に隣接して、第2蓋に装着する環状シール部材が広げられる広さを有するスペースを、運転床の床面に形成するので、第2蓋に取り付ける前に環状シール部材をそのスペースに広げることができる。このため、原子炉圧力容器の第2蓋への環状シール部材の装着に要する工程を低減できる。
【0017】
上記した目的を達成する他の発明の特徴は、ABWRプラントの運転停止後の検査期間において、ABWRプラントの原子炉建屋内で運転床に形成された原子炉ウェルを覆っている原子炉ウェルシールドプラグを、移送して運転床の床面に置き、
原子炉建屋内に設置されて原子炉圧力容器を取り囲んでいる原子炉格納容器の第1蓋を、取り外して移送し、運転床の床面に置かれた原子炉ウェルシールドプラグの上に重ね置きし、
原子炉圧力容器から取り外されて運転床の床面に置かれている第2蓋が占有している、床面の第2蓋占有領域に隣接して、第2蓋に装着する環状シール部材を広げる広さを有するスペースを、運転床の床面に形成し、
床面に置かれている第2蓋に装着されている環状シール部材を取り外し、
新しい環状シール部材をそのスペースに広げ、
広げられた新しい環状シール部材を、環状シール部材が取り外された第2蓋に装着することにある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ABWRプラントの原子炉建屋内で行われる、原子炉圧力容器上蓋への環状シール部材の装着に要する工程を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1のABWRプラントの原子炉建屋内でのレイダウン方法が適用されるABWRプラントの原子炉建屋の縦断面図である。
【図2】図1のII−II断面図であって、実施例1のレイダウン方法が実行された後での、運転床上における各部材の配置状態を示す説明図である。
【図3】図2に示された原子炉ウェルシールドプラグとPCV上蓋との重ね置きの状態を示す拡大図である。
【図4】図3に示された重ね置きの状態の平面図である。
【図5】実施例1のレイダウン方法が適用されるABWRプラントの原子炉建屋の、ABWRプラントの運転中における縦断面図である。
【図6】図5のVI−VI断面図である。
【図7】ABWRプラントの原子炉建屋内で従来のレイダウン方法が実行された後での、運転床上における各部材の配置状態を示す説明図である。
【図8】本発明の他の実施例である実施例2のABWRプラントの原子炉建屋内でのレイダウン方法が適用されるABWRプラントの原子炉建屋の縦断面図である。
【図9】図8のIX−IX断面図であって、実施例2のレイダウン方法が実行された後での、運転床上における各部材の配置状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0021】
本発明の好適な一実施例であるABWRプラントの原子炉建屋内でのレイダウン方法を、図1及び図2を用いて説明する。
【0022】
まず、ABWRプラントの運転中における原子炉建屋1内の状態を、図5及び図6を用いて説明する。ABWRプラントは、原子炉格納容器(PCV)4を原子炉建屋1内に配置しており、原子炉圧力容器(RPV)2をPCV4内に設置している。原子炉圧力容器上蓋(RPV上蓋)(第2蓋)3が、RPV2の上端部に配置され、RPV2のフランジに着脱可能に取り付けられている。原子炉圧力容器保温材(RPV保温材)がRPV2の周囲に取り付けられる。原子炉格納容器上蓋(PCV上蓋)(第1蓋)5が、PCV4の上端部に配置され、取り外し可能にPCV4の本体に取り付けられる。ABWRプラントに用いられるPCV4は、鉄筋コンクリート製原子炉格納容器である。運転床6が、原子炉建屋1内でPCV4の上方に形成されている。運転床6に囲まれて形成された機器収容プール8、原子炉ウェル7及び燃料貯蔵プール9が、PCV4の上方に配置されている。原子炉ウェル7はRPV2の真上に位置しており、機器収容プール8、原子炉ウェル7及び燃料貯蔵プール9がこの順に一列に配置されている。
【0023】
キャスクピット10が燃料貯蔵プール9の側に配置される。運転床6の床面が、機器収容プール8、原子炉ウェル7及び燃料貯蔵プール9を間に挟んで、第1領域と第2領域に分かれている。運転床6の第1領域には大物搬出口11が形成されており、この大物搬入口11が燃料貯蔵プール9の側に存在する。新燃料集合体貯蔵庫12が、運転床6の第2領域に設けられ、燃料貯蔵プール9の側に配置されている。
【0024】
燃料交換機13が、原子炉ウェル7を跨ぐように配置されて、運転床6上に設けられたレール(図示せず)上に移動可能に設置される。この燃料交換機13は、原子炉ウェル7及び燃料貯蔵プール9の上方を運転床6に設けられたレールに沿って移動する。天井クレーン14が、燃料交換機13の上方に配置されて、原子炉建屋1内で原子炉建屋1の天井付近に設置される。天井クレーン14は、原子炉建屋1内に敷設されたレール上を移動する走行台車28、及び走行台車28に設置されて走行台車28上を移動する横行台車29を有する。
【0025】
ABWRプラントの運転中、原子炉ウェル7は、運転床7上に置かれた複数の原子炉ウェルシールドプラグ17で覆われている。本実施例では、原子炉ウェルシールドプラグ17が5個存在する。機器収容プール8は、両端部が運転床6の上に置かれた複数の蓋部材16によって覆われている。原子炉ウェル7と機器収容プール8を連絡する通路は、この内部に配置された複数のスロットプラグ18によって仕切られている。
【0026】
定期検査を行うためにABWRプラントの運転が停止された後、本実施例のレイダウン方法が実行される(図1及び図2参照)。このレイダウン方法の詳細を以下に説明する。
【0027】
原子炉ウェル7を覆っている原子炉ウェルシールドプラグ17のうち、機器収容プール8側に位置する原子炉ウェルシールドプラグ17A、及び燃料貯蔵プール9側に位置する原子炉ウェルシールドプラグ17Bが、順番に天井クレーン14によって吊り上げられて運転床6まで移動される。原子炉ウェルシールドプラグ17A,17Bは、機器収容プール8の側で運転床6の第1領域の床面上に、側面が対向するように近接して置かれる。原子炉ウェルシールドプラグ17のうち、残りの3個の原子炉ウェルシールドプラグ17Cは、原子炉ウェル7の側で運転床6の第2領域の床面上に置かれる。天井クレーン14に設けられた運転室15が運転床6の第2領域の上方を移動する。ちなみに、その運転室15は運転床6の第1領域の上方を移動しない。機器収容プール8を覆っているそれぞれの蓋部材16も取り外される。これらの蓋部材16は、機器収容プール8と原子炉建屋1の側壁との間の運転床6の上に重ねて置かれる。
【0028】
取り外されたPCV上蓋5は、天井クレーン14に吊り下げられたストロングバック(吊り天秤)24に吊り下げられる(図3及び図4参照)。PCV上蓋5を、天井クレーン14がPCV上蓋5を吊り上げる。PCV上蓋5は、原子炉ウェル7内を上昇し、運転床6の床面の上方に到達する。このPCV上蓋5は、天井クレーン14によって水平方向に移動され、運転床6の第1領域の床面上に置かれている原子炉ウェルシールドプラグ17A,17Bの上に重ねて置かれる(図1及び図3参照)。原子炉ウェルシールドプラグ17A,17Bの上方に配置されたPCV上蓋5は、原子炉ウェルシールドプラグ17A,17Bの上面に直接接触していなく、6個の支持架台27によって支持される(図4及び図4参照)。各支持架台27は運転床6の床面に置かれている。作業員が乗る作業架台22がPCV上蓋5の上面に設置される。手摺り23が作業架台22の周囲に設置される。
【0029】
原子炉ウェル7と機器収容プール8を連絡する通路を仕切っている複数のスロットプラグ18が、順番に天井クレーン14によって吊り上げられ、運転床6の第2領域の床面上に置かれる。1つのスロットプラグ18が原子炉ウェルシールドプラグ17Cの上に置かれる。
【0030】
PCV上蓋3を覆ってPCV上蓋3に取り付けられているRPV保温材19が、PCV上蓋3から取り外される。このRPV保温材19が、天井クレーン14によって吊り上げられ、機器収容プール8の側で運転床6の第2領域の床面上に置かれる。RPV保温材19は、運転床6の第2領域の床面上に置かれた原子炉ウェルシールドプラグ17Cの隣りで機器収容プール8の側に置かれる。PCV上蓋3が、RPV2のフランジから取り外され、天井クレーン14によって吊り上げられる。吊り上げられたRPV上蓋3が、大物搬入口11側で既に置かれているPCV上蓋5に近接して、運転床6の第1領域の床面上に置かれる。運転床6の第1領域の床面上に置かれたRPV上蓋3が占有している、この床面の蓋占有領域と、大物搬入口11との間に、後述するように、RPV上蓋3に取り付けられるOリング(環状シール部材)30を広げて置くことが可能な広さを有するスペース21が形成される。
【0031】
RPV上蓋3が運転床6の第1領域の床面上に置かれた後、RPV2内の蒸気乾燥器が、取り外されて天井クレーン14によって吊り上げられ、原子炉ウェル7を介して機器収容プール8内に搬送される。RPV2内の気水分離器も、取り外されて天井クレーン14によって吊り上げられ、原子炉ウェル7を介して機器収容プール8内に搬送される。蒸気乾燥器及び気水分離器は、ABWRプラントの定期検査が行われる間、機器収容プール8内に保管される。
【0032】
以上の各作業を行うことによって、ABWRプラントの原子炉建屋1内でのレイダウン方法が終了する。その後、RPV2内の炉心に装荷されている一部の燃料集合体である使用済燃料集合体が燃料交換機13によってRPV2から取り出され、原子炉ウェル7を介して燃料貯蔵プール9まで移送される。
【0033】
各機器の定期検査が行われている間に、運転床6の大領域の床面上に置かれたRPV上蓋3に取り付けられているOリングの交換作業が実施される。RPV2のフランジから取り外されたRPV上蓋3のフランジ(図示せず)の下面(RPV2のフランジと対向する面)に、Oリングが装着されている。このOリングを取り外して、新しいOリング30をRPV上蓋3のフランジの下面に取り付ける。この新しいOリング30の取り付け作業の概要を説明する。
【0034】
運転床6に置かれたRPV上蓋3を天井クレーン14で吊り上げ、RPV上蓋3のフランジの外縁部を、周方向に間隔を置いて運転床6上に置かれた複数の支持部材の上に載せる。RPV上蓋3は、これらの支持部材によって運転床6から所定の高さに保持される。この状態で、RPV上蓋3のフランジ下面の環状溝内に装着されているOリングが、作業員によって取り外される。
【0035】
折り畳まれた新しいOリング30を収納したシール部材保管箱20が、スペース21付近に存在する原子炉建屋1の壁に面して、前回の定期検査の時点から運転床6上に置かれている。複数の作業員が、このシール部材保管箱20から折り畳んである新しいOリング30を取り出し、スペース21に広げる。大勢の作業員が、広げられたOリング(直径が約8m)30を持ち、このOリング30をRPV上蓋3のフランジの下方の位置まで運ぶ。Oリング30をRPV上蓋3の下方で運転床6上に置く際には、RPV上蓋3が、一旦、天井クレーン14によって各支持部材の上面から吊り上げられる。RPV上蓋3が各支持部材の上に置かれた状態で、Oリング30を、大勢の作業員によって、RPV上蓋3のフランジの下面に形成された環状溝内に装着する。
【0036】
燃料集合体の交換が終了した後、機器収容プール8内の気水分離器及び蒸気乾燥器が、天井クレーン14によって、原子炉ウェル7を通してRPV2内まで順次搬送され、RPV2内の所定の位置に設置される。新しいOリング30が装着されたRPV上蓋3が、天井クレーン14によって運転床6上から搬送され、RPV2のフランジの上面に置かれる。その後、新しいOリング30が装着されたRPV上蓋3が、RPV2のフランジに取り付けられる。運転床6に置かれたRPV保温材19が、天井クレーン14によって搬送され、RPV上蓋3の上に取り付けられる。原子炉ウェルシールドプラグ17A,17Bの上方に置かれているPCV上蓋5が、天井クレーン14によって搬送され、PCV4に取り付けられる。運転床6上に置かれた原子炉ウェルシールドプラグ17A,17B,17Cが、順次、天井クレーン14によって原子炉ウェル7の上まで搬送され、原子炉ウェル7を覆うように運転床6に設置される。さらに、各蓋部材16が、順次、天井クレーン14によって機器収容プール8の上まで搬送され、機器収容プール8を覆うように運転床6に設置される。ABWRプラントの定期検査が終了した後、ABWRプラントが起動される。
【0037】
本実施例によれば、PCV上蓋5を、運転床6の床面上に置かれた原子炉ウェルシールドプラグ17A,17Bの上に重ねて置き、運転床6の第1領域の床面上に置かれたRPV上蓋3が占有している、この床面の蓋占有領域に隣接して、RPV上蓋3に装着されるOリング(環状シール部材)30を広げた状態で置くことができる広さを有するスペースを運転床6上に形成するので、ABWRプラントの原子炉建屋1内の運転床6上でOリングを広げることができる。このため、ABWRプラントで従来行われていた、機器収容プール8を覆った多数の蓋部材16の上で、Oリングを広げる必要がなくなる。これは、機器収容プール8からの各蓋部材17の撤去、及び機器収容プール8を覆うための各蓋部材17の設置のそれぞれの作業回数を低減させることができる。したがって、ABWRプラントの原子炉建屋1内で行われる、RPV上蓋3へのOリング30の装着に要する工程を低減することができる。特に、スペース21が、運転床6の第1領域の床面上に置かれたRPV上蓋3が占有している、この床面の蓋占有領域に隣接して形成されるので、RPV上蓋3へのOリング30の装着も容易に行うことができる。
【0038】
図7は、ABWRプラントの原子炉建屋1内で従来のレイダウン方法が実行された後における、原子炉ウェルシールドプラグ17A,17B,17C及びPCV上蓋5等の各部材が運転床6の床面上に配置された状態を示している。各部材が運転床6の第1及び第2領域の各床面上に所狭しと置かれており、RPV上蓋3に装着するOリングを広げるスペースが、運転床6上に確保することができない。このため、前述したように、機器収容プール8を覆って各蓋部材を設置し、これらの蓋部材の上でOリングが広げられている。ABWRプラントの原子炉建屋1内での従来のレイダウン方法では、定期検査のためにABWRプラントの運転が停止されてからその運転が再開されるまでの期間において、機器収容プール8からの各蓋部材の撤去作業、及び機器収容プール8への各蓋部材の設置作業が、それぞれ2回ずつ行われる。すなわち、蒸気乾燥器等を機器収容プール8に収納する前における各蓋部材の撤去作業、Oリングを広げる前における各蓋部材の設置作業、機器収容プール8から蒸気乾燥器等を搬出する前における各蓋部材の撤去作業、及びABWRプラントの運転を開始する前における各蓋部材の設置作業である。
【0039】
上記した本実施例によれば、Oリングを広げる前における各蓋部材の設置作業、及び機器収容プール8から蒸気乾燥器等を搬出する前における各蓋部材の撤去作業が不要になる。
【0040】
本実施例では、運転床6の床面上にスペース21を形成するので、新しいOリング30を収納したシール部材保管箱20を、前述したように、スペース21付近で運転床6上に置くことができる。このため、シール部材保管箱20の移送が不要になり、シール部材保管箱20から取り出した新しいOリング30を、シール部材保管箱20の設置場所の側に形成されたスペース21に短時間に広げることができる。RPV上蓋3へのOリング30の装着も短時間行うことができる。スペース21は、天井クレーン14(走行台車28及び横行台車29)の稼動範囲内に形成される。
【0041】
ABWRプラントの原子炉建屋1内で従来のレイダウン方法を実行した場合には、図7に示すように、運転床6上に空きスペースがなく、運転床6上にシール部材保管箱20の設置場所を確保することができない。このため、RPV上蓋3へのOリングの装着時期に合せて、別建屋に保管していた新しいOリングを収納しているシール部材保管箱を、別建屋内で移送箱内に収納し、この移送箱を別建屋から運転床6まで搬入している。さらに、この収納箱を、機器収容プール8を覆っている複数の蓋部材16上まで運び、これらの蓋部材16の上で新しいOリングをシール部材保管箱から取り出して広げている。本実施例によれば、現時点の定期検査期間において使用する新しいOリングを収納したシール部材保管箱20を、その定期検査の期間中に外部から運転床6まで搬送する必要がない。本実施例によれば、定期検査の期間中に、次回の定期検査の期間においてRPV上蓋3に装着する新しいOリングを収納したシール部材保管箱20を、現時点の定期検査の期間中において、外部から運転床6まで搬入し、次回の定期検査まで保管することができる。
【0042】
運転床6上に置かれた原子炉ウェルシールドプラグ17A,17Bの上にPCV上蓋5を重ね置きしたとき、原子炉建屋1内で天井付近に設けられて機器収容プール8、原子炉ウェル7及び燃料貯蔵プール9の一連の並びと実質的に平行に伸びている梁25(図3参照)と、上に置かれたPCV上蓋5との干渉を避けるために、梁25のサイズを小さくしている。梁25のサイズを小さくしても、PCV上蓋5の上面に設けられた作業架台22及び手摺り23が梁25と干渉する場合には、作業架台22及び手摺り23の、梁25に面する部分をPCV上蓋5から取り外せるように構成してもよい。
【0043】
PCV上蓋5を吊り下げているとき、天井クレーン14から吊り下げられたストロングバック24が、天井クレーンガーダ26と干渉する恐れがある。このため、図4に示すようにストロングバック24を水平方向においてある角度だけ回転させることによって、天井クレーンガーダ26とストロングバック24の干渉を回避できる。天井クレーンガーダ26は原子炉建屋1内の天井部に設けられており、走行台車28の走行レールを支持する支持部材である。
【0044】
原子炉ウェルシールドプラグ17A,17BとPCV上蓋5との重ね置きは、天井クレーン14の運転室15が移動する運転床6の第2領域ではなく、その運転室15が移動しない運転床6の第1領域で行われるので、重ね置きされたPCV上蓋5が天井クレーン14の走行台車28の移動の障害にはならない。
【0045】
スペース21が大物搬入口11の側に形成されるので、大物搬入口11から運転床6に搬入された機器をスペース21に置くことができる。このため、搬入作業の安全性向上及び予定外の搬入作業に対する柔軟な対応が可能となる。
【実施例2】
【0046】
本発明の他の実施例であるABWRプラントの原子炉建屋内でのレイダウン方法を、図8及び図9を用いて説明する。
【0047】
実施例1は、天井クレーン14の運転室15が、大物搬入口11が形成されていない、運転床6の第2領域の床面上方を、機器収容プール8、原子炉ウェル7及び燃料貯蔵プール9の並びに沿って移動する場合におけるレイダウン方法の実施例である。これに対して、本実施例は、天井クレーン14の運転室15が、大物搬入口11が形成されている、運転床6の第1領域の床面上方を、機器収容プール8、原子炉ウェル7及び燃料貯蔵プール9の並びに沿って移動する場合におけるレイダウン方法の実施例である。
【0048】
本実施例では、原子炉ウェルシールドプラグ17A,17BとPCV上蓋5との重ね置きが運転床6の第2領域の床面上で行われ、RPV保温材19が運転床6の第1領域の床面上に置かれる。このような配置が、実施例1のレイダウン方法を適用した場合と異なっている。本実施例では、RPV上蓋3がRPV保温材19に近接して運転床6の第1領域の床面上に置かれる。このRPV上蓋3が置かれた、第1領域の部分と大物搬入口11の間で運転床6の床面にスペース21が、実施例1と同様に形成される。本実施例でも、原子炉ウェルシールドプラグ17C及び複数のスロットプラグ18が、実施例1と同様に、運転床6の第2領域の床面上に置かれる。
【0049】
本実施例も、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、ABWRプラントの適用できる。
【符号の説明】
【0051】
1…原子炉建屋、2…原子炉圧力容器、3…原子炉圧力容器上蓋、4…原子炉格納容器、5…原子炉格納容器上蓋、6…運転床、7…原子炉ウェル、8…機器収容プール、9…燃料貯蔵プール、11…大物搬入口、13…燃料交換機、14…天井クレーン、15…運転室、16…蓋部材、17A,17B,17C…原子炉ウェルシールドプラグ、18…スロットプラグ、19…原子炉圧力容器保温材、20…シール部材保管箱、21…スペース、24…ストロングバック、27…支持架台。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ABWRプラントの運転停止後の検査期間において、前記ABWRプラントの原子炉建屋内で運転床に形成された原子炉ウェルを覆っている原子炉ウェルシールドプラグを、移送して前記運転床の床面に置き、
前記原子炉建屋内に設置されて原子炉圧力容器を取り囲んでいる原子炉格納容器の第1蓋を、取り外して移送し、前記運転床の前記床面に置かれた前記原子炉ウェルシールドプラグの上に重ね置きし、
前記原子炉圧力容器から取り外されて前記運転床の床面に置かれている第2蓋が占有している、前記床面の第2蓋占有領域に隣接して、前記第2蓋に装着する環状シール部材が広げられる広さを有するスペースを、前記運転床の床面に形成することを特徴とするABWRプラントの原子炉建屋内でのレイダウン方法。
【請求項2】
前記スペースが、前記運転床に形成された大物搬入口と前記第2蓋占有領域との間に形成される請求項1に記載のABWRプラントの原子炉建屋内でのレイダウン方法。
【請求項3】
機器収容プール、前記原子炉ウェル及び燃料貯蔵プールが、この順に一列に配置されて、前記原子炉建屋内で前記運転床に形成され、及び前記機器収容プール、前記前記原子炉ウェル及び前記燃料貯蔵プールの並びに沿って移動して運転室を有し、且つ前記原子炉ウェルシールドプラグ、前記第1蓋及び前記第2蓋を吊り上げる天井クレーンが、前記原子炉建屋の天井部に設置されているとき、さらに、前記運転床の床面を、前記機器収容プール、前記原子炉ウェル及び前記燃料貯蔵プールを間に挟んで、前記大物搬出口が形成された第1領域と、前記大物搬出口が形成されていない第2領域とに分割されたとき、前記天井クレーンの移動時に前記運転室が前記第2領域の上方を移動し、前記第1蓋が重ね置きされる前記原子炉ウェルシールドプラグが、前記スペースとは反対側で前記第2蓋と隣り合わせになって、前記第1領域に置かれている請求項2に記載のABWRプラントの原子炉建屋内でのレイダウン方法。
【請求項4】
前記原子炉圧力容器の前記第2蓋を覆っている原子炉圧力容器保温材を、前記第2蓋から取り外して移送し、前記第2領域に置く請求項3に記載のABWRプラントの原子炉建屋内でのレイダウン方法。
【請求項5】
機器収容プール、前記原子炉ウェル及び燃料貯蔵プールが、この順に一列に配置されて、前記原子炉建屋内で前記運転床に形成され、及び前記機器収容プール、前記原子炉ウェル及び前記燃料貯蔵プールの並びに沿って移動して運転室を有し、且つ前記原子炉ウェルシールドプラグ、前記第1蓋及び前記第2蓋を吊り上げる天井クレーンが、前記原子炉建屋の天井部に設置されているとき、さらに、前記運転床の床面を、前記機器収容プール、前記前記原子炉ウェル及び前記燃料貯蔵プールを間に挟んで、前記大物搬出口が形成された第1領域と、前記大物搬出口が形成されていない第2領域とに分割されたとき、前記天井クレーンの移動時に前記運転室が前記第1領域の上方を移動し、前記第1蓋が重ね置きされる前記原子炉ウェルシールドプラグが、前記第2領域に置かれ、前記第2蓋が前記第1領域に置かれている請求項2に記載のABWRプラントの原子炉建屋内でのレイダウン方法。
【請求項6】
前記原子炉圧力容器の前記第2蓋を覆っている原子炉圧力容器保温材を、前記第2蓋から取り外して移送し、前記第1領域に置き、前記第2蓋を前記原子炉圧力容器保温材と隣り合わせに置き、前記原子炉圧力容器保温材が前記スペースとは反対側で前記第2蓋と隣り合わせになっている請求項5に記載のABWRプラントの原子炉建屋内でのレイダウン方法。
【請求項7】
ABWRプラントの運転停止後の検査期間において、前記ABWRプラントの原子炉建屋内で運転床に形成された原子炉ウェルを覆っている原子炉ウェルシールドプラグを、移送して前記運転床の床面に置き、
前記原子炉建屋内に設置されて原子炉圧力容器を取り囲んでいる原子炉格納容器の第1蓋を、取り外して移送し、前記運転床の前記床面に置かれた前記原子炉ウェルシールドプラグの上に重ね置きし、
前記原子炉圧力容器から取り外されて前記運転床の床面に置かれている第2蓋が占有している、前記床面の第2蓋占有領域に隣接して、前記第2蓋に装着する環状シール部材が広げられる広さを有するスペースを、前記運転床の床面に形成し、
前記床面に置かれている前記第2蓋に装着されている前記環状シール部材を取り外し、
新しい前記環状シール部材を前記スペースに広げ、
広げられた前記新しい環状シール部材を、前記環状シール部材が取り外された前記第2蓋に装着することを特徴とするABWRプラントの原子炉圧力容器の環状シール部材の取替え方法。
【請求項8】
前記新しい環状シール部材は、前記運転床において前記スペースの側に前回の前記検査時点から保管されていた収納容器から取り出され、前記スペースに広げられる請求項7に記載のABWRプラントの原子炉圧力容器の環状シール部材の取替え方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−27665(P2011−27665A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176012(P2009−176012)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)