説明

ADP検出に基づく発光ホスホトランスフェラーゼまたはATPヒドロラーゼのアッセイ法

本発明は、基質としてATPを使用しかつ生成物としてADPを形成する酵素の活性を、ADPの変化をモニターすることにより測定または検出するための組成物および方法を提供し、該酵素は、キナーゼ(例えば、タンパク質キナーゼ、脂質キナーゼ、および糖キナーゼ)などのホスホトランスフェラーゼ、およびATPアーゼ、例えばHSP90などのATPヒドロラーゼを含む。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年7月22日に出願された米国特許出願第61/082,775号、および2009年4月17日に出願された米国特許出願第61/170,308号、および2009年5月29日に出願された米国特許出願第61/182,372号の出願日の恩典を主張し、それらの開示は参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
背景
トランスフェラーゼ、特にキナーゼは、生理学的関連性、多様性、および偏在性のために、生化学および医学研究において最も重要でかつ広く研究される酵素ファミリーの1つとなっている。研究により、タンパク質および脂質キナーゼは、シグナル伝達、転写調節、細胞運動性、細胞分裂、ならびに、薬物、毒素、および病原体への細胞の応答を含む多くの細胞機能の主要調節因子であることが示されている。
【0003】
タンパク質キナーゼは、多種多様の細胞事象の調節において重要な役割を果たす。これらの酵素は、細胞内ポリペプチドにおけるある特定のアミノ酸にリン酸残基を転移することにより、これらのタンパク質基質の活性化をもたらすように、かつ細胞の増殖、分化、および分裂を含む事象を制御する活性化のカスケードを始動させるように作用する。タンパク質キナーゼは、腫瘍生物学の分野において広範に研究されている。細胞におけるキナーゼの制御された活性の欠如が、腫瘍の形成を導くと確信されている。製薬産業は、多種多様な腫瘍の処置に役立つこれらのキナーゼを標的とする薬物を常に探索している。細胞機能の調節に関与する500種類を超えるタンパク質キナーゼ(ヒトゲノムの約2〜2.5%)が存在する。それらは膜貫通型および細胞質酵素の両方として存在し、かつセリン、スレオニン、およびチロシンアミノ酸残基をリン酸化する。これらの基質特異性に基づいて、キナーゼはセリン/スレオニンキナーゼおよびチロシンキナーゼの2種類の群に分類される。
【0004】
セリン/スレオニンキナーゼは、サイクリックAMPおよびサイクリックGMP依存性タンパク質キナーゼ、カルシウムおよびリン脂質依存性タンパク質キナーゼ、カルシウムおよびカルモジュリン依存性タンパク質キナーゼ、カゼインキナーゼ、細胞周期タンパク質キナーゼ、ならびに他のものを含む。これらのキナーゼは通常細胞質性であるか、または恐らくタンパク質にアンカリングすることにより細胞の粒子状分画に結合している。
【0005】
チロシンキナーゼはチロシン残基をリン酸化する。これらの特定のキナーゼはかなりより少ない数で存在するが、細胞調節において同等に重要な役割を果たす。これらのキナーゼは、タンパク質キナーゼのsrcファミリーなどのいくつかの可溶性酵素、および上皮成長因子受容体、インスリン受容体、血小板由来成長因子受容体などの成長因子の受容体、および他のものを含む。研究により、多くのチロシンキナーゼは、細胞の外側に位置する受容体ドメインおよび内側のキナーゼドメインを有する膜貫通型タンパク質であることが示されている。
【0006】
脂質キナーゼもまた、細胞内シグナル伝達において重要な役割を果たし、かつ4つの主要なクラスに分類されている。例示的な脂質キナーゼはPI3キナーゼおよびホスファチジルイノシトール4-キナーゼを含む。
【0007】
糖キナーゼおよび他のホスホトランスフェラーゼもまた、細胞代謝、増殖、およびアポトーシスにおいて主要な役割を果たす。
【0008】
実に多くの細胞機能および疾患に関与するリン酸化事象に伴い、キナーゼ活性を同定することは非常に重要である。キナーゼ活性を測定するために使用されるアッセイ法の現在のタイプは、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)アッセイ法、蛍光偏光(FP)アッセイ法、およびシンチレーション近接アッセイ法(SPA)などの放射活性に基づくアッセイ法を含む。キナーゼ活性を検出するために使用されるFRETアッセイ法は、蛍光分子に連結されたタンパク質またはペプチド基質、および別の蛍光で標識されたプローブを用いる。基質がリン酸化され、かつ標識されたプローブにより認識される場合のみ、2つの蛍光分子は近接近する。従って、キナーゼによりリン酸化された場合、標識のエネルギーが共鳴により蛍光分子(アクセプター)に受け渡される。より低いエネルギーのアクセプター分子に直接エネルギーを転移するより高いエネルギーのドナー蛍光体の能力により、アクセプター分子の増感蛍光が引き起こされ、かつ同時にドナー蛍光を消光させる。この場合、ドナーの蛍光がアクセプターへの近接により「消光」され、かつドナーのエネルギーが非放射性様式でアクセプターへ転移される。エネルギー転移の効率は、フォスター(Forster)の方程式に従ってドナーおよびアクセプター発色団の間の距離に依存する。ほとんどの場合、100オングストロームより大きい距離ではFRETは観察されず、かつ従ってFRETの存在は近接近の良好な指標である。従って、蛍光分子に連結されたタンパク質またはペプチド基質、および別の蛍光で標識されたプローブを使用するキナーゼ活性を検出するためのFRETアッセイ法において、キナーゼが阻害された場合、2つの蛍光分子は分離されたままでFRETが起きない。
【0009】
FRETに基づくアッセイ法は、例えば試験される化合物での蛍光干渉による多数の偽性ヒット、狭いダイナミックレンジ、およびアッセイ法において使用される抗体に付随する性能問題を含む多くの欠点を有する。
【0010】
FPアッセイ法は、抗体、キレート原子などのような高親和性結合試薬の蛍光標識分子への結合に基づく。例えば、リン酸化された蛍光標識ペプチドに結合するがリン酸化されていない蛍光標識ペプチドには結合しない抗体をキナーゼアッセイ法のために使用することができる。他の方法は、キナーゼ活性をモニターする段階において他のキナーゼ反応生成物であるADPに結合する蛍光標識抗体を用いる。蛍光標識は平面偏光で励起される場合、蛍光標識が励起状態に渡って定常を保つ限り(励起状態の持続時間は蛍光体と共に変化し、かつフルオレセインについては4ナノ秒である)、同一の偏光面において光を放出する。蛍光体を励起するために偏光を使用する場合、偏光面(励起面)に平行な平面および偏光面に垂直な平面の両方において発光強度をモニターすることができる。FPアッセイ法は、蛍光標識分子に高い特異性で結合することが可能である高親和性結合試薬、例えば抗体を必要とする。抗体を使用する場合、ペプチドなどの特異的な蛍光標識分子と結合する抗体の、時間がかかりかつ高価な最適化が必要とされる。その上、FPアッセイ法においては、リン酸化されたタンパク質および他の反応成分、例えば、脂質および界面活性剤が偏光を干渉する可能性がある。
【0011】
放射性標識を使用するキナーゼアッセイ法はSPAを含む。SPAにおいては、修飾されたリガンド特異的分子またはリガンド捕捉分子が、放射性標識分子により励起された場合にエネルギーを放出する物質で飽和された固相の支持粒子またはビーズである蛍光ミクロスフェアに結合される。リン酸化されていないペプチドとの混合物において放射標識ホスホペプチドなどの修飾されたリガンドへ添加されると、ホスホペプチドのみが蛍光ミクロスフェア上に捕捉され、放出された放射線エネルギーが蛍光ミクロスフェアを活性化し、かつ光エネルギーを放出することを可能にするほど十分近くに任意の結合した放射標識ペプチドを導く。蛍光ミクロスフェアの濃度が最適化された場合、標的に結合した放射標識リガンドからのシグナルのみが検出され、結合したリガンドおよび遊離のリガンドのいかなる分離の必要も排除する。放出された光エネルギーのレベルは液体シンチレーションカウンターにおいて測定され得、かつリガンドが標的に結合した程度を示す。SPAは、重力により沈澱するかまたは遠心分離される蛍光ミクロスフェアを必要とし、アッセイ法に追加的な段階および時間を付加する。加えて、このアッセイ法において使用される32Pの高いエネルギーのために、大部分の放射活性は蛍光ミクロスフェアにより捕捉されることなく通過する。
【0012】
生物発光または化学発光のいずれかによる発光検出に基づく他の方法もまた、キナーゼ活性を検出するために開発されている。一般に、これらの方法は、特異的な基質および抗体、マイクロチップおよび蛍光標識プローブの使用、試料における基質濃度、多数の段階および試薬の使用に依拠し(米国特許第6,599,711号)、または特異的なキナーゼに限定されている(Sala-Newby et al., 1992)。
【0013】
多くの現在利用可能なキナーゼアッセイ法は反応の際に大量のATPを消費する酵素を用いて良好に機能するが、成長因子受容体キナーゼなどの低いATPの代謝回転を有するキナーゼを規定するATP量における小さな変化を検出するのに十分なほどは感度が高くない。一方、このタイプの酵素を解析することができる利用可能なアッセイ法は、キナーゼのサブセットに特異的であり、かつ/または広い範囲のキナーゼで使用するのに十分なほどは感度が高くない。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、基質としてATPを使用しかつ生成物としてADPを形成する酵素の活性を、ADPの変化をモニターすることにより測定または検出するための組成物および方法を提供し、該酵素は、キナーゼ(例えば、タンパク質キナーゼ、脂質キナーゼ、および糖キナーゼ)などのホスホトランスフェラーゼ、およびATPアーゼ、例えばHSP90などのATPヒドロラーゼを含む。ADPの形成をモニターするために、ADPをATPに変換し、かつATPを検出するためにルシフェラーゼ/ルシフェリン反応などのATP依存性生物発光反応を使用する。ATPを必要とする生物発光反応、例えばルシフェラーゼ媒介反応、およびADPからATPへの変換酵素などのヌクレオチドキナーゼによるADPのATPへの変換の前に、キナーゼまたはATPアーゼ反応後に残留するATPを、形成されたADPまたは反応混合物中に最初に存在するATPの量の2%、1%、0.75%、0.5%、0.25%、0.1%、0.075%、0.05%、0.025%、0.02%、0.01%、0.001%、0.0001%未満、もしくはそれより少ない%まで実質的に減少させるかまたは除去する。1つの態様において、ADP変換酵素反応またはATP依存性生物発光反応へ影響を及ぼさないかまたは有意な影響は及ぼさない生成物であるcAMPに残存ATPを変換するために、細菌アデニル酸シクラーゼなどのアデニル酸シクラーゼを使用する。ひとたび残留ATPを最小値へ減少させるかまたは除去すると、アデニル酸キナーゼ(ミオキナーゼ)、クレアチンキナーゼ、またはピルビン酸キナーゼなどのようなADPをATPに変換することが可能である酵素を用いて、キナーゼ反応またはATPアーゼ反応において形成されたADPをATPに変換する。いくつかの態様において、溶液におけるADPをATPに変換する段階または生物発光反応を行う段階の前に、ATPを非ADP生成物に変換する酵素の活性を阻害する。この場合には、ATPを非ADP生成物に変換する酵素は、ADPからのATPの産生、または生物発光反応を用いたATPの検出を干渉しないと考えられる。その後、新たに形成されたATPを、例えばルミノメーターで測定される生物発光反応により生成した光を用いて測定する。一般に、ADPをATPに変換し、かつその後ATPを光に変換する方法は、ルシフェラーゼ、例えばホタルまたはコメツキムシルシフェラーゼなどの天然または組換えルシフェラーゼのような生物発光生成酵素、ルシフェラーゼの基質であるルシフェリンまたはルシフェリン誘導体などの生物発光性(bioluminogenic)基質、キナーゼなどのADPからATPへの変換酵素、および任意で(必要な場合)ADPからATPへの変換酵素のための基質を含む組成物を、キナーゼまたはATPアーゼ反応により生成されたADPを有する反応混合物へ添加する段階を含む。ルシフェラーゼ以外の試薬を含む溶液を凍結乾燥されたルシフェラーゼに添加することにより、使用前に組成物を混合してもよい。別の態様において、ルシフェラーゼおよびルシフェリンまたはルシフェリン誘導体以外の試薬を含む溶液を、凍結乾燥されたルシフェラーゼおよび凍結乾燥されたルシフェリンまたはその誘導体に添加することにより、使用前に組成物を混合してもよい。
【0015】
当業者は、生物発光反応が、溶液におけるADPの有無を示すかまたは溶液におけるADPの測定を提供することを認識する。溶液におけるADPの測定が望ましい場合には、生物発光反応の結果が、1つまたは複数の標準または対照反応に対して比較され得る。
【0016】
本発明はまた、キナーゼ活性などのホスホトランスフェラーゼ活性、またはATPアーゼ活性などのATPヒドロラーゼ活性を試料において検出するために使用される組成物またはキットも提供する。1つの態様において、本発明は、ATPを非ADP基質に変換する単離された酵素、例えばATPをcAMPに変換するアデニル酸シクラーゼ、およびピロホスファターゼを含む組成物またはキットを提供する。キットはさらに、1つまたは複数のキナーゼ酵素、キナーゼ酵素のための基質、ADPをATPに変換する酵素、例えばピルビン酸キナーゼ、ADPをATPに変換する酵素により使用され得るホスフェート供与体、例えばホスホエノールピルビン酸、ルシフェラーゼ酵素および/またはルシフェラーゼ酵素のための基質、例えばルシフェリンまたはその類似体を含み得る。
【0017】
キットは任意で、1つまたは複数の、ATPをADPに変換するホスホトランスフェラーゼもしくはATPヒドロラーゼの阻害剤、または有効量のアデニル酸シクラーゼの活性化剤を含み得る。
【0018】
本明細書において説明される方法、キット、または組成物において使用され得る例示的なアデニル酸シクラーゼは、百日咳菌(Bortedella pertussis)、炭疽菌(Bacillus anthracis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、大腸菌(Escherchia coli)、ブデロビブリオ(Bdellovibrio)種、ビブリオ(Vibrio)種、エルシニア(Yersinia)種、エルウィニア(Erwinia)種、エンテロバクター(Enterobacter)種、もしくはシェワネラ(Shewanella)種由来のものなどの細菌アデニル酸シクラーゼ、またはアデニル酸シクラーゼ活性を有する完全長細菌アデニル酸シクラーゼの断片、例えばアデニル酸シクラーゼ活性を有する細菌アデニル酸シクラーゼの組換え断片(例えば図4参照)、カルモジュリン活性化真核生物アデニル酸シクラーゼなどの真核生物アデニル酸シクラーゼ、スピルリナ・プラテニス(Spirulina platenis)アデニル酸シクラーゼなどの藻類アデニル酸シクラーゼ、ブタ、非ヒト霊長類、イヌ、ウシ、齧歯類、またはヒトアデニル酸シクラーゼ、例えば、ADCY1、ADCY2、ADCY3、ADCY4、ADCY5、ADCY6、ADCY7、ADCY8、ADCY9、もしくはADCY10、またはCa2+/カルモジュリンにより刺激されるアデニル酸シクラーゼアイソフォームI、III、およびVIII、またはカルモジュリン非依存性の様式においてCa2+により阻害されるアイソフォームVおよびVI、またはアデニル酸シクラーゼ活性を有するそれらの断片を含むが、それらに限定されない。
【0019】
1つの態様において、組成物またはキットは1つまたは複数のキナーゼの阻害剤を含む。1つの態様において、組成物またはキットは1つまたは複数のATPアーゼの阻害剤を含む。別の態様において、組成物が、キナーゼなどのホスホトランスフェラーゼまたはATPアーゼなどのATPヒドロラーゼの阻害剤を含まない場合、ホスホトランスフェラーゼまたはATPヒドロラーゼの活性は、アデニル酸シクラーゼを添加する段階の前に、他の手段により、例えば熱を使用して不活性化されてもよい。しかしながら、ホスホトランスフェラーゼまたはATPヒドロラーゼの不活性化は、本発明を実行するために必要とされなくてもよい。1つの態様において、組成物またはキットは、例えばカルモジュリンなどの活性化剤により活性化可能であるもののような、単離された細菌アデニル酸シクラーゼを含む。1つの態様において、組成物またはキットは、単離されたカルモジュリンで刺激可能な細菌アデニル酸シクラーゼ、スタウロスポリン、ピロホスファターゼ、および任意でカルモジュリンを含む。適当なピロホスファターゼは酵母ピロホスファターゼを含む。別の態様において、組成物またはキットは、1つまたは複数のキナーゼまたはATPアーゼの阻害剤、ピロホスファターゼ、およびアデニル酸シクラーゼの活性化剤を含む。1つの態様において、キットは、1つまたは複数のキナーゼまたはATPアーゼの阻害剤、ピロホスファターゼ、およびアデニル酸シクラーゼの活性化剤の1つまたは複数を含む第1の組成物、ならびにアデニル酸シクラーゼを含む第2の組成物を含んでもよい。キットは、別々の容器において各試薬を含んでもよいか、または容器において2つまたはそれ以上の試薬を組み合わせてもよい。
【0020】
アデニル酸シクラーゼの阻害剤(すなわち、ATP結合部位競合剤、例えばATP類似体、またはPMEA(9-(2-ホスホリルメトキシエチル)-アデニン)もしくはPMEApp類似体などの触媒ドメイン阻害剤)、および任意でADPをATPに変換する単離されたADPからATPへの変換酵素を含む組成物またはキットもまた提供される。1つの態様において、組成物またはキットは、活性化された細菌アデニル酸シクラーゼの阻害剤、例えば、カルモジュリンで活性化された細菌アデニル酸シクラーゼまたはアデニル酸シクラーゼ活性を有するその断片の阻害剤、および、アデニル酸キナーゼ、クレアチンキナーゼ、またはピルビン酸キナーゼなどの少なくとも1つのADPからATPへの変換酵素を含む。1つの態様において、組成物またはキットは、アデニル酸シクラーゼの阻害剤、および単離されたADPからATPへの変換酵素のための基質を含む。1つの態様において、組成物またはキットは、単離されたADPからATPへの変換酵素をさらに含む。1つの態様において、組成物またはキットは、ルシフェラーゼなどの生物発光酵素、および生物発光酵素のための基質、例えばD-ルシフェリンをさらに含む。
【0021】
加えて、本発明は、ADPからATPへの変換酵素、アデニル酸シクラーゼを不活性化する量の界面活性剤を含む生物発光酵素媒介反応のための剤、および任意でADPからATPへの変換酵素のための基質を含む組成物を提供する。
【0022】
さらに、ADPおよびATPを含む混合物におけるATPを、cAMPおよびPPiにまたはcAMPおよびPiに変換する方法が提供される。1つの態様において、方法は、ATPをADPに変換するホスホトランスフェラーゼ、例えばキナーゼ、またはATPヒドロラーゼ、例えばATPアーゼのための第1の反応混合物であって、ATPおよびホスホトランスフェラーゼまたはATPヒドロラーゼを有することが推測される試料を含む第1の反応混合物を提供する段階、ならびにcAMP、Pi、および試料にホスホトランスフェラーゼまたはATPヒドロラーゼが存在する場合はADPを含む第2の反応混合物を生じるのに有効な量の、単離された活性アデニル酸シクラーゼ、およびピロホスファターゼ、および任意で1つまたは複数のホスホトランスフェラーゼまたはATPヒドロラーゼの阻害剤と、第1の反応混合物を接触させる段階を含む。1つの態様において、方法は、ATPをADPに変換するキナーゼまたはATPアーゼのための第1の反応混合物であって、ATPおよびキナーゼまたはATPアーゼを有することが推測される試料を含む第1の反応混合物を提供する段階、ならびに第1の反応混合物を、cAMP、PPi、および試料にキナーゼまたはATPアーゼが存在する場合はADPを含む第2の反応混合物を生じるのに有効な量の、単離された活性アデニル酸シクラーゼ、および任意で1つまたは複数のキナーゼまたはATPアーゼの阻害剤と接触させる段階を含む。生成されるPiまたはPPiの該量は、ADPからATPへの変換酵素反応またはATP依存性生物発光酵素反応を実質的に阻害しない。1つの態様において、第2の反応混合物を、第3の反応混合物を生じるように、アデニル酸シクラーゼの阻害剤、ADPからATPへの変換酵素、任意でADPからATPへの変換酵素のための基質、ならびにまた任意で生物発光酵素およびそのための基質と接触させる。ルシフェラーゼおよびルシフェリンなどの生物発光酵素およびそのための基質の添加後、アデニル酸シクラーゼの阻害剤およびADPからATPへの変換酵素と同時またはアデニル酸シクラーゼの阻害剤およびADPからATPへの変換酵素の添加後のいずれかに、第3の反応混合物における発光を検出する。1つの態様において、ADPをATPに変換するための反応混合物および生物発光酵素を1つの溶液において組み合わせる。対照反応は、ホスホトランスフェラーゼまたはATPヒドロラーゼを含まない反応を含む。
【0023】
加えて、本発明は、ATPをADPに変換するキナーゼなどのホスホトランスフェラーゼまたはATPヒドロラーゼ、例えばATPアーゼの調節因子を同定するための方法を提供する。方法は、1つまたは複数の試験剤、ATPをADPに変換する1つまたは複数のホスホトランスフェラーゼまたはATPヒドロラーゼ、例えば、1つまたは複数の単離されたキナーゼまたは組換えキナーゼを発現する細胞もしくはその溶解物、およびATPを含む、第1の反応混合物を提供する段階、第1の反応混合物を、cAMP、Pi、およびADPを含む第2の反応混合物を生じる量の、少なくとも1つの単離された活性アデニル酸シクラーゼおよび少なくとも1つのピロホスファターゼ、ならびに任意で1つまたは複数のホスホトランスフェラーゼまたはATPヒドロラーゼの1つまたは複数の阻害剤と接触させる段階を含む。第3の反応混合物を生じるように、第2の反応混合物を、1つまたは複数のアデニル酸シクラーゼの阻害剤、1つまたは複数のADPからATPへの変換酵素、ルシフェラーゼおよびルシフェリンなどの生物発光酵素およびそのための基質と接触させる。生物発光酵素およびそのための基質の添加後、アデニル酸シクラーゼの阻害剤およびADPからATPへの変換酵素と同時またはアデニル酸シクラーゼの阻害剤およびADPからATPへの変換酵素の添加後のいずれかに、第3の反応混合物における発光を検出する。1つの態様において、ADPをATPに変換するための反応混合物および生物発光酵素反応を1つの溶液において組み合わせる。対照反応はホスホトランスフェラーゼまたはATPヒドロラーゼを含まない反応を含むか、またはホスホトランスフェラーゼまたはATPヒドロラーゼの公知の阻害剤または活性化剤を含み得る。
【0024】
例えば、方法において試験される剤は、剤の存在下におけるキナーゼまたはATPアーゼの活性が、剤の非存在下におけるキナーゼまたはATPアーゼの活性よりも低い場合に、キナーゼまたはATPアーゼの阻害剤として同定され得る。1つの態様において、試験される剤は、剤の存在下におけるキナーゼまたはATPアーゼの活性が、剤の非存在下におけるキナーゼまたはATPアーゼの活性の95%未満である場合に、キナーゼまたはATPアーゼの阻害剤として同定される。1つの態様において、試験される剤は、剤の存在下におけるキナーゼまたはATPアーゼの活性が、剤の非存在下におけるキナーゼまたはATPアーゼの活性の80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%、5%、2%、1%未満、またはより少ない場合に、キナーゼまたはATPアーゼの阻害剤として同定される。さらに別の態様において、試験される剤は、剤の存在下におけるキナーゼまたはATPアーゼの活性が、剤の非存在下におけるキナーゼまたはATPアーゼの活性の50%未満である場合に、キナーゼまたはATPアーゼの阻害剤として同定される。
【0025】
別の例において、試験される剤は、剤の存在下におけるキナーゼまたはATPアーゼの活性が剤の非存在下におけるキナーゼまたはATPアーゼの活性よりも高い場合に、キナーゼまたはATPアーゼの活性化剤として同定される。1つの態様において、試験される剤は、剤の存在下におけるキナーゼまたはATPアーゼの活性が、剤の非存在下におけるキナーゼまたはATPアーゼの活性より10%を上回って大きい場合に、キナーゼまたはATPアーゼの活性化剤として同定される。1つの態様において、試験される剤は、剤の存在下におけるキナーゼまたはATPアーゼの活性が、剤の非存在下におけるキナーゼまたはATPアーゼの活性よりも20%、30%、40%、50%、75%、100%、または200%を上回って大きい場合に、キナーゼまたはATPアーゼの活性化剤として同定される。さらなる態様において、試験される剤は、剤の存在下におけるキナーゼまたはATPアーゼの活性が、剤の非存在下におけるキナーゼまたはATPアーゼの活性よりも少なくとも50%大きい場合に、キナーゼまたはATPアーゼの活性化剤として同定される。
【0026】
本発明は従って、ホスホトランスフェラーゼ、例えばキナーゼ、またはATPヒドロラーゼ、例えばATPアーゼの試料における活性の検出のために使用される方法、組成物、およびキットを提供する。いくつかの態様において、方法、組成物、およびキットは抗体を含まず、かつ本明細書において説明される同種の方法は、迅速で、感度が高く、単純で、かつ非放射性である。方法は簡便であり、かつ任意の器具使用のプラットホームで使用され得る。必要とされる試薬は比較的楽に設計することができ、かつ容易に合成され得る。試薬は、発光性(luminogenic)反応により生成される高いシグナルの安定性のために、長期間に渡ってハイスループットフォーマットで多くの試料における活性の測定を容易にすることができ、そのため、試薬インジェクターを有するルミノメーターの必要を排除し、および多数の試料のバッチモード処理を可能にする。
【0027】
1つの態様において、本方法は、ハイスループットスクリーニング法としての使用に適合させるように、マルチウェルプレート中の単一のウェルにおいて行われ得る。方法は、種々の量のATP、キナーゼもしくはATPアーゼ、試験剤、またはそれらの任意の組み合わせを用いて、および様々な反応温度で使用され得る。本発明の方法は、広範な範囲のADPまたはATP濃度に渡って、一般に約1μMまたはそれ以下から約5 mMまたはそれ以上のADPまたはATPの活性を検出するために使用され得る。いくつかの態様において、0.5μM、0.25μM、0.1μM、0.01μM、1 nM、0.1 nM、0.01 nM、1ピコM、またはより少ないような低いADPまたはATP濃度が、本明細書において説明される方法、組成物、またはキットを用いて検出され得る。いくつかの態様において、10マイクロリットルの溶液における20 nMのADP(0.2 pM ADP)が検出できる。例えば、低い濃度レベルのATP、一般に5μMより下のATPが、および約1 mM〜約5 mMのATPの範囲においてキナーゼ活性を検出するために方法が使用され得る。しかし、本発明の方法は事実上任意の量のADPまたはATPを含有する試料と共に使用され得る。
【0028】
本発明のキットは、ホスホトランスフェラーゼ、例えばキナーゼ、またはATPヒドロラーゼ、例えばATPアーゼの試料における活性を検出および定量化するために、または、ホスホトランスフェラーゼ、例えばキナーゼ、またはATPヒドロラーゼ、例えばATPアーゼの活性への試験剤、例えば組み合わせライブラリーなどのライブラリー中のものの効果を測定するために設計される。1つの態様において、試料におけるキナーゼまたはATPアーゼ活性を検出するために使用されるキットは、1つの容器中に凍結乾燥されたルシフェラーゼ、または凍結乾燥されたルシフェラーゼおよびルシフェリンを含み得、一方でもう1つの容器は、1つもしくは複数のADPからATPへの変換酵素もしくはそのための基質、またはアデニル酸シクラーゼの阻害剤、またはそれらの組み合わせを有する再構成緩衝液を含有する。キットはまた、マグネシウム、またはマンガンもしくはカルシウムなどの他の陽イオンも供給し得る。公知の濃度のADPもしくはATP、またはキナーゼもしくはATPアーゼを用いた対照実験の使用を容易にするために、ADP、ATP、単離されたキナーゼまたは単離されたATPアーゼを有する容器もまたそのようなキットにおいて供給され得る。キットはまた、例えば溶液においてキナーゼまたはATPアーゼ活性を阻害する化合物(例えばスタウロスポリン)も供給し得る。キナーゼまたはATPアーゼ阻害剤を含む組成物は、複数の阻害剤を含み得る。キットは、1つまたは複数の単離されたADPからATPへの変換酵素、および任意でリン酸基供与体であるそのための基質(例えば、ホスホクレアチン、ホスホエノールピルビン酸、もしくはポリホスフェート)、または、単離されたアデニル酸シクラーゼ、もしくはピロホスファターゼなどの他の単離された酵素を供給し得る。
【0029】
1つの態様において、キットは、単離されたアデニル酸シクラーゼ、任意で1つまたは複数のキナーゼまたはATPアーゼ阻害剤、および任意でピロホスファターゼを有する緩衝溶液、例えば約pH 6.0〜約pH 8.0を含む容器を含む。キットは追加的に、凍結乾燥されたルシフェラーゼを含む別々の容器を含み得、または任意で、アデニル酸シクラーゼの阻害剤、キナーゼ、および任意でADPからATPへの変換酵素のための基質を含む別々の容器を含み得る。1つの態様において、凍結乾燥されたルシフェラーゼを含む容器は、ルシフェラーゼの基質である凍結乾燥されたルシフェリンまたはその誘導体をさらに含む。任意で、キットは、ADPを測定する目的のためのキットの使用説明書をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】ADP形成反応後に残留するATPを除去するために、検出段階の前にアデニル酸シクラーゼ(AC)を使用するADP検出アッセイ法の模式図である。
【図2】反応において存在するすべてのATPを枯渇させるACの効力を示す。
【図3】百日咳菌(Bordetella pertussis)および炭疽菌の2種類の細菌ACを用いたATPの枯渇を示す。
【図4】組換え完全長AC(170 Kd)および触媒ドメイン(43 Kd)が同様の活性を有することを示す。
【図5】4種類のカルモジュリンアンタゴニストによるACの阻害を示す。
【図6】ACのカルミダゾリウム阻害の結果を示す。
【図7】ATPの存在下において様々な濃度のADPを検出するアッセイ法の感度を示す。
【図8】PKAキナーゼ反応後のADP検出アッセイ法において2種類の異なる細菌由来のACを使用した場合に得られた結果を示す。
【図9】キナーゼまたはATPアーゼ反応を停止するためのキナーゼまたはATPアーゼ阻害剤の任意の使用を示す。
【図10】本発明の組成物を使用したタンパク質キナーゼPKA価測定の結果を示す。
【図11】本発明の組成物を使用したPKA基質(ケンプチド)価測定の結果を示す。
【図12】本発明の組成物を用いたPKAキナーゼ反応におけるATP価測定の結果を示す。
【図13】PKA活性に対する様々な阻害剤の効果の結果を示す。
【図14】本発明の組成物を使用した脂質キナーゼPI3価測定の結果を示す。
【図15】本発明の組成物を用いたPI3脂質キナーゼ反応におけるATP価測定の結果を示す。
【図16】本発明の組成物を用いたPI3脂質キナーゼ基質(ホスファチジルイノシトール)価測定の結果を示す。
【図17】本発明の組成物を用いたPI3脂質キナーゼのワートマニンにより誘導される阻害の結果を示す。
【図18】本発明の組成物を用いたスフィンゴシンキナーゼ(SPHK)価測定の結果を示す。
【図19】本発明の組成物を用いた受容体チロシンキナーゼEGFR価測定の結果を示す。
【図20】本発明の組成物を用いたEGFRキナーゼ反応におけるATP価測定の結果を示す。
【図21】タンパク質基質(MBP)および本発明の組成物を用いたMAPキナーゼERK2価測定の結果を示す。
【図22】基質としてのグルコースおよび本発明の組成物を用いた糖キナーゼヘキソキナーゼ価測定の結果を示す。
【図23】本発明の組成物を使用したHsp70 ATPアーゼ反応におけるATP価測定および酵素価測定の結果を示す。
【図24】本発明の組成物を用いたATP依存性DNアーゼ反応における直鎖DNA基質価測定研究の結果を示す。
【図25】本発明の組成物を用いたNa+/K+ ATPアーゼ価測定研究の結果を示す。
【図26】本発明の組成物を用いた、阻害剤および活性化剤薬物の存在下におけるP-糖タンパク質(Pgp)活性価測定研究の結果を示す。
【図27】本発明の組成物を用いた、阻害剤および活性化剤薬物の存在下におけるP-糖タンパク質(Pgp)活性価測定研究の結果を示す。
【図28】本発明の組成物を用いたSV40ラージT抗原内因性ヘリカーゼ活性価測定の結果を示す。
【図29】同様の結果である2または3段階において行われるアッセイ法の可能性を示す。
【図30】ADPからATPへの変換段階におけるクレアチンホスホキナーゼの使用を示す。
【図31】ADPからATPへの変換段階におけるアデニル酸キナーゼ(ミオキナーゼ)の代替的な使用を示す。
【図32】細胞ATP含量の検出の前に混入している遊離のATPを溶液から枯渇させるための本発明の代替的な使用を示す。
【図33】アデニル酸シクラーゼ(SEQ ID NO: 1〜9;NCBIアクセッション番号Y00545、M24074、YP016473、NP652900、AP003604、AA01202、P15318、およびQ57506)ならびにADPからATPへの変換酵素(SEQ ID NO: 10〜15;NP_067248、NP_031736、AAC31758、AAF06820、およびNP_077352)についての例示的な配列を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明
定義
特に定義されない限り、すべての専門用語および科学用語は、本発明が属する当業者により一般に理解されるのと同一の意味を有する。すべての引用された特許および刊行物は、特に言及されない限り全体として参照により組み入れられる。
【0032】
アデニル酸シクラーゼ、キナーゼ、ATPアーゼ、またはルシフェラーゼなどの「単離された」または「精製された」酵素は、自然環境の成分から同定され、かつ分離され、かつ/または回収されているものである。
【0033】
本明細書において使用される「試料」という用語は、その最も広範な意味において使用される。試料は、本発明を用いて解析されるキナーゼまたはATPアーゼ活性が推測される組成物である。しばしば試料は、任意で増殖培地において、または細胞溶解物において、キナーゼまたはATPアーゼ活性を含有することが公知であるかまたは含有することが推測されるが、試料はまた、キナーゼまたはATPアーゼ活性を含有することが推測される固体表面(例えば、スワブ、膜、フィルター、粒子)であってもよい。そのような固体試料については、本発明の試薬組成物、または本発明の試薬組成物が添加された別の水溶液に固体を添加することにより水性試料が作製されることが企図される。
【0034】
本明細書において使用される「検出」という用語は、試料内の成分の有無を定量的にまたは定性的に測定する段階を指す。
【0035】
「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、2つの配列を最適にアラインメントした場合に重複部分の領域において、第2の配列中のアミノ酸残基に対し、第2の配列中のアミノ酸残基とまたは第2の配列中のアミノ酸残基に対して同一である、1つの配列中のアミノ残基のパーセンテージとして定義される。パーセントアミノ酸同一性を決定するために、配列を局所的にアラインメントし、かつ必要な場合、最大のパーセント配列同一性を達成するためにギャップを導入する;配列同一性を計算する場合には保存的置換は計数しない。パーセント同一性を決定するためのアミノ酸配列アラインメント手順は、当業者に周知である。BLASTソフトウェア(NCBI、www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/において)などの公的に利用可能なコンピューターソフトウェアを、ペプチド配列をアラインメントするために使用してもよい。当業者は、2つのアミノ酸配列の最適なアライメントを達成するために必要とされる任意のアルゴリズムおよびパラメーターを含み、アラインメントを測定するための適切なアルゴリズムおよびパラメーターを決定することができる。
【0036】
アミノ酸配列をアラインメントした場合に、与えられたアミノ酸配列Bへの、与えられたアミノ酸配列Bとの、または与えられたアミノ酸配列Bに対する与えられたアミノ酸配列Aのパーセントアミノ酸配列同一性(あるいは、与えられたアミノ酸配列Bへの、与えられたアミノ酸配列Bとの、または与えられたアミノ酸配列Bに対する、ある特定のパーセントアミノ酸配列同一性を有するかまたは含む与えられたアミノ酸配列Aと表現することができる)は、以下のように計算することができる。
アミノ酸配列同一性%=(X/Y)・100
式中、Xは配列アラインメントプログラムまたはアルゴリズムによるAおよびBの最適なアラインメントにおいて同一のマッチとして点数化されるアミノ酸残基の数であり、かつYはアラインメントされたアミノ酸位置の総数である。
【0037】
本明細書において使用される「発光」という用語は、生物発光(すなわち、生きている生物により産生される光)、化学発光(化学反応が進行する際に産生される光)、および電気化学発光を含む。関与する酵素が光を生成する目的のために自然選択により生物において進化してきた場合、または関与する酵素がそのような酵素の変異した誘導体である場合、発光反応は「生物発光反応」とも呼ばれ、かつ関与する酵素は「生物発光酵素」とも呼ばれる。生物発光酵素の例は、非限定的に、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケ(Renilla)ルシフェラーゼ、ウミホタル(Cypridina)ルシフェラーゼ、エクオリン(Aequorin)発光タンパク質、ガウシア(Gaussia)ルシフェラーゼ、オプロホルス(Oplophorus)ルシフェラーゼ、オベリン(Obelin)発光タンパク質などを含む。
【0038】
本明細書において使用される「発光性分子」という用語は、化学または生化学反応を介して光を作り出すことが可能である分子(例えば、ルシフェリン、セレンテラジン、またはそれらの機能的類似体)を指す。ルシフェラーゼ酵素のための適当な発光性分子または基質は、ルシフェリン、セレンテラジン、ならびに、ルシフェリンおよびセレンテラジンの機能的類似体を含む。いくつかの態様において、ルシフェリンおよびセレンテラジンの機能的類似体は、これらの化合物の誘導体を含む修飾されたルシフェリンおよびセレンテラジンを含む。例示的な化合物は、国際公開公報第03/040100号、国際公開公報第2004/027378号、および米国特許出願公開第2009-0075309号において開示されているものを含む。
【0039】
一般に、発光性分子は、高エネルギー分子種(例えば、安定化されたジオキセタン)であるか、または化学反応により高エネルギー分子種に変換されるかいずれかである。化学反応は通常、酸素、スーパーオキシド、またはペルオキシドによる酸化である。各場合において、発光性分子内のエネルギーは化学反応により放出される。このエネルギーの少なくともいくらかは光の光子として放出されるが、エネルギーはまた熱などの他の形態においても放出され得る。光を生じない発光性分子は、しばしば「暗経路」と呼ばれる代替的な様式を通してそのエネルギーを分散させる。
【0040】
本明細書において使用される「ルシフェリン誘導体」という用語は、D-ルシフェリンの実質的な構造を有する一種の発光性分子または化合物を指し、かつルシフェラーゼ基質、例えばアミノルシフェリン、または、米国特許出願第11/444,145号、Branchini et al. (1989)において開示されているルシフェラーゼ基質、例えば、ナフチルおよびキノリル誘導体、Branchini et al. (2002)、およびBranchini (2000)であり、これらの開示は参照により本明細書に組み入れられる。
【0041】
「阻害剤」という用語は、直接的もしくは間接的不活性化、阻害、変性、または隔離を非限定的に含む任意の機構により、試料において酵素活性を実質的に減少させるかまたは停止させることが可能である分子、化合物、または物質を指す。
【0042】
本明細書において使用される「溶液における実質的にすべてのATPを減少させて非ADP基質にする」という句は、溶液におけるATPの量を、溶液においてADPから産生されるATPの有無を検出することまたはATPの量を測定することを可能にする量へ減少させることを意味する。いくつかの態様において、溶液におけるATPの量を、溶液におけるATPの最初の量の2%未満、例えば、1%、0.75%、0.5%、0.25%、0.1%、0.075%、0.05%、0.025%、0.02%、0.01%、0.001%、または0.0001%、またはそれより少ない%まで減少させる。
【0043】
本明細書において使用される「実質的にすべてのPPiを除去する」という句は、溶液におけるPPiの量を、生物発光反応が溶液においてADPから産生されるATPの有無を検出することができるかまたはATPの量を測定することができるような量へ減少させることを意味する。いくつかの態様において、溶液におけるPPiの量を、溶液におけるPPiの最初の量の5%未満、例えば、4%、3%、2%、1%、0.75%、0.5%、0.25%、0.1%、0.075%、0.05%、0.025%、0.02%、0.01%、0.001%、または0.0001%、またはそれより少ない%まで減少させる。いくつかの態様において、PPiはピロホスファターゼなどの酵素を用いて除去されると考えられる。
【0044】
本発明の例示的な組成物および方法
本発明は、キナーゼまたはATPアーゼを阻害する段階および任意の残留するATPをcAMPに変換する段階の後にキナーゼまたはATPアーゼによるADPの形成を検出することにより、試料におけるキナーゼまたはATPアーゼの活性を測定するための組成物およびこれらの組成物を用いる方法を提供する。形成されたADPはその後、任意で単一の段階において、生物発光反応で例えばルシフェラーゼ媒介反応と共に使用されるATPに変換され、その後続いて結果として生じる発光の検出がなされる。1つの態様において、本発明の組成物の試料との使用に起因する発光は延長された持続時間を有し、すなわち、最後の組成物が試料と混合された直後の発光を基準として1時間あたり約50%未満が減少する。
【0045】
方法における使用のための試料は、細胞、細胞溶解物、膜画分などの溶解物の細胞内画分または無細胞試料を含んでもよく、かつ生理学的試料を含む。本発明の範囲内の細胞は、原核細胞、ならびに植物細胞および脊椎動物細胞を含む真核細胞、例えば、ヒト、非霊長類ヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ネコ、イヌ、ミンク、齧歯類、または鳥類細胞を含むがそれらに限定されない哺乳動物細胞を含む。細胞を含む試料は、試料において細胞を透過させるかまたは溶解するように処理されてもよい。細胞またはその細胞内画分の透過、溶解、または破砕のための方法は当技術分野において周知である。ソニケーター(超音波発生装置)、ダウンス(dounce)、乳鉢および乳棒、またはフレンチプレスを含み、多種多様の機器が機械的破砕のために利用可能である。細胞は、浸透圧ショックにより、一連の凍結溶解サイクルもしくは環境のイオン強度の急速な変化などの処置により、または、リゾチームのような酵素、または両性イオン性および非イオン性界面活性剤、または陽イオン性界面活性剤DTABもしくはCTABなどの界面活性剤または表面活性剤、ならびにポリミキシンBおよびクロルヘキシジンなどの抗菌薬のような化学剤などの、細胞膜を直接的に破砕する作用物質の使用により、破砕する(細胞溶解物を産生する)ことができる。
【0046】
試料、例えば、酵母、鳥類、植物、昆虫、または、ヒト、サル、マウス、イヌ、ウシ、ウマ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、もしくはブタ細胞を含むがそれらに限定されない哺乳動物細胞などの真核細胞、原核細胞、2種類もしくはそれ以上の異なる生物由来の細胞、または細胞溶解物を含む試料における細胞は、組換え技術により遺伝学的に修飾されていなくてもよいか(非組換え細胞)、あるいは組換えDNAが一過的にトランスフェクションされているか、かつ/またはゲノムが組換えDNAで安定的に増強されているか、または遺伝子を破壊するように、例えばプロモーター、イントロン、もしくはオープンリーディングフレームを破壊するように、もしくは1つのDNA断片を別のものと置換するようにゲノムが修飾されている組換え細胞であってもよい。組換えDNAまたは置換DNA断片は、本発明の方法により検出されるキナーゼもしくはATPアーゼ、検出されるキナーゼもしくはATPアーゼのレベルもしくは活性を変化させる部分、および/またはキナーゼもしくはATPアーゼのレベルもしくは活性を変化させる分子もしくは部分とは関連の無い遺伝子産物をコードし得る。
【0047】
1つの態様において、本発明は、発光測定の前に試料においてキナーゼまたはATPアーゼ活性を測定するために必要とされる操作を2段階に減少させる。そのような方法においては、キナーゼ反応またはATPアーゼ反応の後に残留するATPをcAMPに変換しかつピロホスフェートを分解する、アデニル酸シクラーゼおよびピロホスファターゼ反応のために必要な成分と、キナーゼ反応またはATPアーゼ反応の生成物の少なくとも一部を混合する。cAMPを有する反応混合物の生成物の少なくとも一部を、ADPからATPへの変換酵素反応および生物発光反応のために必要な成分、例えば、アデニル酸シクラーゼの阻害剤、1つまたは複数のADPからATPへの変換酵素および任意でそのための基質、ならびにATP依存性生物発光生成酵素(例えばルシフェラーゼ)および対応する発光性分子を含む成分のすべてと混合する。
【0048】
3段階の方法においては、ADPおよびATPを含むキナーゼまたはATPアーゼ反応の生成物の少なくとも一部を、cAMPおよびホスフェートを生成するアデニル酸シクラーゼ反応およびピロホスファターゼ反応のために必要な成分と混合する。その反応の生成物の少なくとも一部を、ADPからATPへの変換酵素反応のために必要な成分と混合する。ADPからATPへの変換酵素反応の生成物の少なくとも一部を、ATP依存性生物発光酵素媒介反応のために必要な成分と混合する。
【0049】
検出のためのまたはキナーゼもしくはATPアーゼの調節因子のスクリーニングにおける使用のための、例示的なキナーゼおよびATPアーゼを以下に提供する。
【0050】
【表1】


【0051】
1つの態様において、検出されるキナーゼ、またはその調節因子を検出するアッセイ法において使用されるキナーゼは、ABL1、ABL2/ARG、AKT1、AKT2、AKT3、ALK、ALK4、ALK5、TGFBR1、ARAF、ARK5、ASK1、オーロラA、オーロラB、オーロラC、AXL、BLK、BMX、BRAF、BRK、BRSK1、BRSK2、BTK、CAMK1aα、CAMK1d、CAMKIIaα、CAMKIIbβ、CAMKIIdδ、CAMKIIgγ、CAMK4、CAMKK2、CDK1/サイクリンB、CDK2/サイクリンA、CDK2/サイクリンE、CDK3/サイクリンE、CDK4-サイクリンD1、CDK5/p25、CDK5/p35、CDK6/サイクリンD1、CDK6/サイクリンD3、CDK7/サイクリンH/MNAT1、CDK9/サイクリンK、CDK9/サイクリンT1、CHK1、CHK2、CK1(酵母)、CK1d(ラット)、CK1a1α、CK1d、CK1e、CK1g1/CSNK1G1、CK1g2、CK1g3/CSNK1G3、CK2α、CK2a2、c-KIT、CLK1 CD、CLK3、c-MER、c-MET、COT1/MAP3K8、CSK、c-SRC、CTK/MATK/HYL、DAPK1、DAPK2、DCAMKL2、DDR2、DMPK、DNA-PK、DRAK1、DYRK1/DYRK1A、DYRK1B、DYRK2、DYRK3、DYRK4、EEF2K、EGFR、EPHA1、EPHA2、EPHA3、EPHA4、EPHA5、EPHA7、EPHA8、EPHB1、EPHB2、EPHB3、EPHB4、ErbB2/HER2、ErbB4/HER4、ERK1、FAK、FER、FES/FPS、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、FGR、FLT1/VEGFR-1、FLT3、FLT4、FMS、FRK_PTK5、FYN、GCK/MAP4K2、GRK2、GRK3、GRK4、GRK5、GRK6、GRK7、GSK3a、GSK3B、HCK、HGK/MAP4K4、HIPK1、HIPK2、HIPK3、HIPK4、IGF1R、IKKα、IKKβ、IR、IRAK1、IRAK4、IRR、ITK、JAK1、JAK3、JNK1α1、JNK2α2、JNK3、KDR/VEGFR-2、LCK、LKB1 (STK11)、LIMK1、LOK/STK10、LYN、MAPKAPK2、MAPKAPK3、MAPKAPK5/PRAK、MARK1、MARK2、MARK3、MEK1、MELK、MINK、MLCK/MYLK、MLCK2/MYLK2、MLK1、MNK2、MRCKA/CDC42BPA、MRCKB/CDC42BPB、MSK1、MSK2、MSSK1/STK23、MST1、MST2、MST3/STK24、MST4、mTOR、MUSK、NEK1、NEK2、NEK3、NEK4、NEK6、NEK9、NEK11、NIK MAP3K14、NLK、P38α、P38β、P38δ、P38γ、P70s6k、PAK1、PAK2、PAK3、PAK4、PAK5、PAK6、PASK、PBK/TOPK、PDGFRα、PDGFRβ、PDPK1、PHKγ2、P13Ka (p110a/p85a)、P13Kb (p110b/p85a)、(p110d/p85a)、P13Kg (p120g)、PIM1、PIM2、PKA、PKCα、PKCβ1、PKCβ2、PKCδ、PKCε、PKCη、PKCγ、PKCι、PKCμ、PKCθ、PKCζ(PKCz)、PKD2、PKG1α、PCG1β、PKG2/PRKG2、PKN2/PRK2、PLK1、PLK2、PLK3、PRKD3/PKCν、PRKX、PYK2、RAF1、RET、RIPK2、ROCK1、ROCK2、RON、ROS、RSK1、RSK2、RSK3、RSK4/RPS6KA6、SGK1、SGK2、SGK3/SGKL、SIK2/SNF1LK2、STK22D、STK33、SRPK1、SRPK2、SYK、TAK1、TAOK2/TAO1、TAOK3/JIK、TBK1、TEC、TIE2、TRKA、TRKB、TRKC、TSSK2、TTK、TYK1/LTK、TYK2、TYRO3_SKY、VRK1、WEE1、WNK2、WNK3、YES、ZAK/MLTK、ZAP70、およびZIPK/DAPK3を含むが、それらに限定されない。
【0052】
例えば、本発明の方法における使用のための例示的なキナーゼ/酵素の組み合わせは、JNK-1/c-jun、JNK-2/c-jun、MAPキナーゼ-1 (ERK-1)/ミエリン塩基性タンパク質、MAPキナーゼ-2 (ERK-2)/ミエリン塩基性タンパク質、PKA/ケンプチド、MEK-1/不活性MAPキナーゼ-2 (ERK-2)、JNK2α2/ATF-2、JNK2α2/c-jun、SAPK-3/ミエリン塩基性タンパク質、SAPK-4/ミエリン塩基性タンパク質、およびraf-1/不活性MEK-1を含む。
【0053】
検出のためのまたはスクリーニング法における使用のための例示的なATPアーゼは、F-ATPアーゼ(F1F0-ATPアーゼ)、V-ATPアーゼ(V1V0-ATPアーゼ)、A-ATPアーゼ(A1A0-ATPアーゼ)、P-ATPアーゼ(E1E2-ATPアーゼ)、およびE-ATPアーゼを含むが、それらに限定されない。例示的なヒトATPアーゼは、ATP1A1、ATP1A2、ATP1A3、ATP1A4、ATP1B1、ATP1B2、ATP1B3、またはATP1B4によりコードされるものなどのNa+/K+輸送酵素;ATP2A1、ATP2A2、ATP2A3、ATP2B1、ATP2B2、ATP2B3、ATP2B4、またはATP2C1によりコードされるものなどのCa++輸送酵素;ATP3によりコードされるものなどのMg++輸送酵素;ATP4A、またはATP4BによりコードされるものなどのH+/K+交換酵素;ATP5A1、ATP5B、ATP5C1、ATP5C2、ATP5D、ATP5E、ATP5F1、ATP5G1、ATP5G2、ATP5G3、ATP5H、ATP5I、ATP5J、ATP5J2、ATP5L、ATP5L2、ATP5O、またはATPATP5SによりコードされるものなどのH+輸送ミトコンドリア酵素; ATP6AP1、ATP6AP2、ATP6V1A、ATP6V1B1、ATP6V1B2、ATP6V1C1、ATP6V1C2、ATP6V1D、ATP6V1E1、ATP6V1E2、ATP6V1F、ATP6V1G1、ATP6V1G2、ATP6V1G3、ATP6V1H、ATP6V0A1、ATP6V0A2、ATP6V0A4、ATP6V0B、ATP6V0C、ATP6V0D1、ATP6V0D2、またはATP6V0EによりコードされるものなどのH+輸送リソソーム酵素;ATP7AまたはATP7BによりコードされるものなどのCu++輸送酵素;ATP8A1、ATP8B1、ATP8B2、ATP8B3、またはATP8B4によりコードされるものなどのクラス1、タイプ8酵素;ATP9AまたはATP9BによりコードされるものなどのクラスII、タイプ9酵素;ATP10A、ATP10B、またはATP10DによりコードされるものなどのクラスV、タイプ10酵素;ATP11A、ATP11B、またはATP11CによりコードされるものなどのクラスIV、タイプ11酵素;ATP12AによりコードされるものなどのH+/K+輸送非胃型(nongastric)酵素;およびATP13A1、ATP13A2、ATP13A3、ATP13A4、またはATP13A5によりコードされるものなどのタイプ13酵素である。
【0054】
例えば、ATPアーゼ活性を有する任意の熱ショックタンパク質、例えば、HSP70またはHSP90が、本発明の方法において検出されるかまたは使用されてもよい。HSP90 ATPアーゼ活性の阻害は、タンパク質およびそのクライアントキナーゼの分解をもたらす。従って、HSP90の阻害剤を開発することは製薬産業において研究の活発な領域である。
【0055】
本発明の1つの態様において、キナーゼ活性を検出する方法は、キナーゼを有することが推測される試料を、キナーゼがキナーゼ基質と相互作用するのに十分な機会を可能にするための第1の設定された期間、キナーゼ基質およびATPと接触させる段階を含む。方法は、アミノ酸、ペプチド、タンパク質(融合タンパク質および他のキナーゼを含む)、糖、ならびに脂質などの多種多様の基質を用いて使用することができる。結果として生じたキナーゼ反応混合物をその後、第2の設定された期間、第2の組成物と接触させる。第2の組成物は、活性化されたアデニル酸シクラーゼおよびピロホスファターゼ、ならびに任意でキナーゼ阻害剤を含む。結果として生じた第2の反応混合物をその後、ADPからATPへの変換酵素、生物発光生成酵素、発光性分子、ならびに任意でアデニル酸シクラーゼ阻害剤および/またはADPからATPへの変換酵素のための基質を含む第3の組成物と接触させる。その後、結果として生じた第3の反応混合物において産生された生物発光を検出する。生物発光は、ルシフェラーゼなどの生物発光生成酵素による発光性分子の発光化合物への変換により産生される。本方法は、キナーゼまたはATPアーゼ反応の明確な終点を測定するために使用することができる。1つの態様において、試薬組成物は、アデニル酸シクラーゼ活性の同時阻害、および存在するADPの量に正比例する発光シグナルの生成を可能にする。
【0056】
ルシフェラーゼ反応により生成された発光は、他の検出手段が使用されてもよいが、典型的にルミノメーターを用いて検出される。バックグラウンドレベルより大きい光の存在が、試料におけるATPの存在を示す。発光のバックグラウンドレベルは典型的に、同一のマトリックスにおいて、しかし試料の非存在下で測定される。適当な対照反応が当業者により容易に設計される。ルシフェラーゼは、ある期間に渡る試料の多数解析、またはある期間に渡る多くの試料の解析を可能にし得る。任意で、本方法の組成物および方法において使用されるルシフェラーゼは、増強された熱安定性特性を有する。
【0057】
放出された光の量を定量化する段階はまた、ATPの量を定量化し、および従って試料においてキナーゼまたはATPアーゼにより産生されたADPの量を定量化する。従って、ATPの定量化はキナーゼまたはATPアーゼ活性の定量化を可能にする。定量的なATP値は、例えば、ADPをATPに変換することによりADP形成をモニターする本発明の方法によってADPがATPに変換された試験試料から放出された光の量を、対照試料から放出された光の量、または公知の量のATPならびに同一のルシフェラーゼおよび反応条件(すなわち、温度、pHなど)を用いて測定された標準曲線と比較した場合に実現される。定量化はバックグラウンド値の減算を含むことが理解される。定性的なATP値は、試料に存在するADPから変換されたATPの絶対量を知る必要なく、1つの試料から放出された発光を別の試料から放出された発光と比較した場合に、例えば、試験剤の存在下または非存在下における試料の比較により実現される。多くのそのような実験が、当業者により容易に設計され得る。
【0058】
キナーゼもしくはATPアーゼの任意の阻害剤、または阻害剤の組み合わせが、阻害剤を含まない対応する反応と比較して少なくとも約5%、例えば、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、もしくはより多く、またはその中の任意の増分、試料を含む反応混合物におけるキナーゼまたはATPアーゼ活性を阻害するのに十分な量において使用され得る。ATPアーゼ阻害剤は、局所的麻酔薬、コンドロプシン(chondropsin)、ニコチンアミド誘導体、バフィロマイシン、インドールクラス(indole-clase)、アルカゾリド、アピクラレン、大環状亜酸化炭素因子、置換されたチエノ[3,4-d]イミダゾール、およびゲルダナマイシン、ならびにそれらの誘導体を含むが、それらに限定されない。例えば、ゲルダナマイシンはHSP90の阻害剤であるが、17-アリルアミノ-ゲルダナマイシン(17-AAG)の誘導体などのゲルダナマイシンの誘導体がより良好な溶解性、経口送達、強力な活性、および薬物動態特性を有する。
【0059】
例示的なキナーゼ阻害剤は、AMP、DAPP、ジクロロ酢酸、スタウロスポリン、UCN-01、およびカルフォスチンC、4-アニリノ-3-キノルムカルボニトリル(4-anilino-3-quinolmecarbonitrile)、AC220、複素環尿素、NaF、陽イオン性界面活性剤(例えば、DTAB(ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド)、CTAB(セチルトリメチルアンモニウム)、およびBDDABr(ベンジルジメチルドデシルアンモニウムブロミド))、陰イオン性界面活性剤(例えば、SDSおよびデオキシコレート)、両性イオン性界面活性剤(例えば、スルホベタイン3-10)などの荷電した基を有する界面活性剤、イミダゾール誘導体、AMG706、zactima、MP-412、BAY43-9006、CEP-701(レスタウルチニブ)、XL647、XL999、MLN518(以前はCT53518として公知であった)、PKC412、ST1571、AMN107、AEE 788、OSI-930、OSI-817、SU11248、およびAG-013736を含むが、それらに限定されない。キナーゼまたはATPアーゼを阻害するのに有用な他の阻害剤は、SU11248、ソラフェニブ、zactima、ラパチニブ、イマチニブ、ゲフィチニブ、スニチニブ、エルロチニブ、ニロチニブ、ラパチニブ、STI571、ダサチニブ、スタウロスポリン、Ro31-8220、GW5074、H-89、ワートマニン、ケルセチン、LY294002、グルコース6-リン酸(ヘキソキナーゼについて)、またはD-エリスロ-N,N-ジメチルスフィンゴシン(スフィンゴシンキナーゼについて)を含むが、それらに限定されない。
【0060】
例示的なアデニル酸シクラーゼは、コレラ菌(Vibrio cholerae)由来のもの、例えばcya、炭疽菌由来のもの、または百日咳菌由来のもの、例えば百日咳毒素を含むが、それらに限定されない。アデニル酸シクラーゼのカルモジュリン依存性画分は、フェノチアジンおよびブチロフェノン(LevinおよびWeiss, 1976;Gietzen et al., 1980)、ナフタレンスルホンアミド(Kobayashi et al., 1979)、ビンカアルカロイド(Watanabe et al., 1979;GietzenおよびBader, 1980)、局所的麻酔薬(Volpi et al., 1981)、以前はR 24571と称されたカルミダゾリウム(Gietzen et al., 1981)、ならびに化合物48/80(Gietzen et al., 1983)により阻害することができる(WolffおよびBrostrom (1976)ならびにGietzen et al. (1982a)もまた参照されたい)。一般に、カルモジュリン依存性酵素の活性化剤(カルモジュリン、オレイン酸、またはホスファチジルセリン)は陰イオン性両親媒性物質と考えることができ、他方でカルモジュリンアンタゴニストは生理学的pHで陽イオン性両親媒性物質である。酵素のカルモジュリン刺激は、イオン性および疎水性相互作用を介し、その相補的な構造の特徴の結果として陽イオン性両親媒性アンタゴニストと複合体を形成するカルモジュリンにより起こる可能性があり(Weiss et al., 1980)、および加えて、いくつかのカルモジュリンアンタゴニストは、カルモジュリンエフェクター酵素との直接の相互作用を介してその阻害効果を発揮する(Gietzen et al., 1982a,b)。さらに、ほぼすべての記載された阻害剤は、カルモジュリン依存性酵素の基礎活性もまた阻害する点において多かれ少なかれ非特異的である。
【0061】
例示的なアデニル酸シクラーゼ活性化剤は、カルモジュリン、アデノシン、またはカルバサイクリンを含むが、それらに限定されない。
【0062】
例示的なアデニル酸シクラーゼ阻害剤は、カルミダゾリウムなどのカルモジュリンアンタゴニスト、N6-シクロヘキシルアデノシン、アデノシン、2',5'ジデオキシアデノシン、E6 ベルバミン、トリフルオロペラジン、化合物48/80、MDL-12、330A、SQ 22536、9-シクロペンチルアデニン、ピロカテコール、2',5'-ジデオキシアデノシン3'-一リン酸、2',5'-ジデオキシアデノシン3'-二リン酸、2',5'-ジデオキシアデノシン3'-三リン酸、2',5'-ジデオキシアデノシン、または2'/3'-O-(N-メチルアントラニロイル)グアノシン-5'-(γ-チオ)トリホスフェートトリエチルアンモニウム塩を含むが、それらに限定されない。
【0063】
1つまたは複数の酵素を含有する本発明の組成物はまた、酵素安定化剤を含んでもよい。酵素安定化剤は、例えば分解から酵素を安定化する任意の化合物であり得る。適当な酵素安定化剤は、タンパク質(ウシ血清アルブミン、ゼラチン、もしくはPrionex(登録商標)など)、または界面活性剤(非イオン性界面活性剤、例えばTHESITなど)を含む。
【0064】
さらに、本発明は、キナーゼまたはATPアーゼ活性への低分子(有機および無機分子、ならびに合成および天然の分子を含む)の効果を測定するのに有用であり、次に低分子が薬学的薬物として機能し得るか否かの評価を可能にする。方法は、キナーゼまたはATPアーゼ活性への効果が公知である対照物質と試料を接触させる対照を含み得る。また、対照は、アデニル酸シクラーゼ、ADPからATPへの変換酵素、またはATP依存性生物発光酵素、および試験剤が、剤がアデニル酸シクラーゼ、ADPからATPへの変換酵素、およびATP依存性生物発光酵素活性に直接影響を及ぼさないことを保証するために一緒に存在する試料も含み得る。
【0065】
当業者は、本明細書において説明される方法、組成物、およびキットが、キナーゼまたはATPヒドロラーゼなどのATPをADPに変換する酵素の活性を測定するために使用され得ることを認識する。追加的に、説明される方法は、特にそのような反応の結果を1つまたは複数の標準または対照反応に対して比較する場合に、酵素が公知の阻害剤または推定阻害剤によりどれほど阻害されるかを測定するために使用され得る。従って、本方法、組成物、およびキットは、酵素の阻害剤を同定するために使用され得る。
【0066】
従って、本発明は、第1の試料をある濃度の1つまたは複数の試験剤と接触させる段階、およびその後に第1の試料を本発明の試薬組成物と接触させる段階、第1の試料における発光の量を検出し、かつキナーゼまたはATPアーゼを含有する第2の試料における発光の量と比較する段階により、キナーゼまたはATPアーゼ酵素を含有する第1の試料への1つまたは複数の試験剤の効果を測定する方法に指向される。第2の試料は、第1の試料を接触させた濃度よりも少ない濃度の1つまたは複数の試験剤と接触させてもよいか、または、1つまたは複数の試験剤を含有してももしくは含有しなくてもよい。第1の試料から検出された発光の第2の試料と比較してより少ない量が、1つまたは複数の試験剤が阻害性の剤を含むことを示し得る。このようにして阻害性試薬が発見され得る。同様に、本発明はキナーゼまたはATPアーゼ活性増強試薬を発見するために有用である。上記の例を用いて、第2の試料から検出された発光の第1の試料と比較してより少ない量が、1つまたは複数の試験剤がキナーゼまたはATPアーゼ活性増強剤を含むことを示し得る。本発明は、キナーゼまたはATPアーゼ活性への異なる試験剤の効果を同一の濃度で比較するために有用である。本発明はまた、異なるタイプのキナーゼまたはATPアーゼへの1つまたは複数の試験剤の効果を比較するためにも有用である。当業者は、本発明が有用である多くの他のそのようなアッセイ法を開発し得る。
【0067】
1つの態様において、本発明は、1つまたは複数の試験剤をそのキナーゼまたはATPアーゼ活性への効果についてスクリーニングするための方法を提供する。方法は、1つまたは複数の試験剤をスクリーニングに提供する段階、ならびに1つまたは複数のキナーゼまたはATPアーゼ、ATP、および1つまたは複数の試験剤を含む第1の反応混合物を、1つまたは複数のキナーゼまたはATPアーゼによるATPのADPへの変換を可能にするのに有効な条件の下で、第1の設定された期間インキュベーションする段階を含む。第1の反応混合物をその後、第2の反応混合物を形成するように、ある量の単離された活性を有するアデニル酸シクラーゼおよびピロホスファターゼ、ならびに任意である量のキナーゼまたはATPアーゼの1つまたは複数の阻害剤を有する第1の試薬と接触させ、第2の反応混合物をATPのcAMPへの変換を可能にするのに有効な条件の下で、第2の設定された期間インキュベーションする。第2の反応混合物を、第3の反応混合物を生じるように、アデニル酸シクラーゼの1つまたは複数の阻害剤、1つまたは複数のADPからATPへの変換酵素、発光性分子、および生物発光生成酵素を含む第2の試薬と、生物発光反応を可能にするのに有効な条件の下で第3の設定された期間接触させる。その後、キナーゼまたはATPアーゼ活性への1つまたは複数の試験剤の効果を、試験剤を含まない対照混合物を基準として第3の反応混合物の発光を測定しかつ比較することにより測定する。1つの態様において、キナーゼ活性、例えば、タンパク質キナーゼ活性、脂質キナーゼ活性、ポリヌクレオチドキナーゼ活性、または糖キナーゼ活性への1つまたは複数の試験剤の効果を測定する。1つの態様において、発光性分子はD-ルシフェリンまたはルシフェリン誘導体を含み、かつ生物発光酵素はルシフェラーゼを含む。
【0068】
1つの態様において、最適な酵素反応条件の下でのキナーゼまたはATPアーゼ反応のための反応混合物は、試験剤、例えば、キナーゼまたはATPアーゼを阻害し得るものを含む。例えば百日咳菌由来の活性を有するアデニル酸シクラーゼを含有する緩衝液を、残留するATPをcAMPおよびピロホスフェートに変換するために、反応混合物に添加する。任意で、緩衝液は、キナーゼまたはATPアーゼ反応を終結させるためにキナーゼまたはATPアーゼの阻害剤を含有し得る。また任意で、緩衝液はピロホスファターゼを含有し得る。1つの態様において、ピロホスファターゼは、ATPをcAMPに変換する反応のための溶液中に存在し、かつ生物発光生成酵素はルシフェラーゼである。ピロホスフェートはルシフェラーゼの公知の阻害剤であるため、そのような反応において、ルシフェラーゼ反応より生成された光は影響を受けない。キナーゼまたはATPアーゼ反応において形成されたADPは、アデニル酸キナーゼ、クレアチンキナーゼ、ピルビン酸キナーゼなどのようなADPからATPへの変換酵素を用いてATPに変換される。新たに形成されたATPをアデニル酸シクラーゼが用いることを防ぐために、ADPからATPへの変換反応は、アデニル酸シクラーゼの阻害剤、例えばカルモジュリンアンタゴニストの存在下で行う。任意で、ADPからATPへの変換反応は、アデニル酸キナーゼ、クレアチンキナーゼ、またはピルビン酸キナーゼのための基質などの、ADPからATPへの変換酵素のための基質を含有し得る。形成されたATPを、ATP依存性生物発光酵素媒介反応(例えば、ルシフェラーゼ/ルシフェリン反応)のための試薬の添加により測定する。生成されたRLUは、キナーゼまたはATPアーゼ反応において産生されたADP濃度に比例し、かつ従ってそれらの酵素活性の基準である。
【0069】
本発明の1つの組成物は、1つまたは複数のアデニル酸シクラーゼ阻害剤、例えば、米国特許出願公開第2004/0101922号において開示されたものなどの1つまたは複数の界面活性剤、および1つまたは複数のADPからATPへの変換酵素を含み、任意でADPからATPへの変換酵素のための基質、ならびにまた任意で非内因性のATP依存性生物発光生成酵素およびそのための基質を含む。組成物は、少なくとも約1時間、例えば少なくとも約2時間、約4時間まで少なくとも約30%の酵素活性を維持することが可能である。1つの態様において、非内因性ATP依存性酵素はルシフェラーゼである。
【0070】
ルシフェラーゼ酵素は、検出可能な光生成物、感度を提供する触媒生成物を産生し、かつATPの容易な測定を可能にする。しかしながら、ATP依存性である任意の生物発光生成酵素が本発明の方法および組成物において使用され得る。
【0071】
ルシフェラーゼは、その最も基本的なレベルで、発光を産生する能力により定義される。より具体的には、ルシフェラーゼは、オキシルシフェリンおよび光子を産生するように、基質であるルシフェリンの酸化を触媒する酵素である。
【0072】
現在のところ、5つのクラスのルシフェラーゼが同定されている。これらのうち、一般的なホタル(ホタル(Lampyridae)科)のものなどの甲虫ルシフェラーゼは、独特の進化的起源を有する別個のクラスを形成する。甲虫ルシフェラーゼはしばしば文献においてホタルルシフェラーゼと称される。しかしながら、ホタルルシフェラーゼは実際には甲虫ルシフェラーゼクラスの部分群である。甲虫ルシフェラーゼは、甲虫自体のランタン(lantern)より、または当技術分野において周知であるタンパク質発現系より精製され得る。
【0073】
甲虫ルシフェラーゼ、特に北アメリカのホタルフォチナス・ピラリス(Photinus pyralis)由来のホタルルシフェラーゼが当技術分野において周知である。P.ピラリスルシフェラーゼ(LucPpy)は、遺伝子のヌクレオチド配列によりコードされるタンパク質から計算されるようにMr 61 kDaの約550アミノ酸からなる。しかしながら、フォチュリス・ペンシルバニカ(Photuris pennsylvanica)ホタルルシフェラーゼ(LucPpe2;545アミノ酸残基;GenBank 2190534)などの他のホタルルシフェラーゼが公知である。LucPpe2由来の変異体ルシフェラーゼ(例えば、LucPpe2m78(78-0B10としても公知である);LucPpe2m90(90-1B5としても公知である);LucPpe2m133(133-1B2としても公知である);LucPpe2m146(146-1H2としても公知である))が使用され得るが、本明細書において示される限定を満たす任意のルシフェラーゼが本発明の組成物、方法、およびキットにおいて使用され得る。LucPpeから変異体ルシフェラーゼを作製する方法は、PCT/US99/30925において開示されている。
【0074】
単離されたおよび/または精製されたルシフェラーゼが典型的に本発明において使用される。本明細書において説明される方法、組成物、およびキットにおいて使用され得るルシフェラーゼは、国際公開公報第1999/14336号、国際公開公報第2001/20002号、国際公開公報第2004/027378号、欧州特許第1 124 944号、欧州特許第1 224 294号、米国特許第5,837,465号、同第6,171,808号、同第6,132,983号、および同第6,265,177号において見出されるものを含む。
【0075】
ルシフェラーゼは、ルシフェラーゼを産生する生物学的検体より、または所望のルシフェラーゼをコードする外因性ポリヌクレオチドを発現する細胞より単離することができる。そのような技術は当業者に周知である(米国特許第6,602,677号を参照されたい)。
【0076】
甲虫ルシフェラーゼのための天然の基質は、ホタルルシフェリン、ポリテロサイクリック(polytherocyclic)有機酸、D-(-)-2-(6'-ヒドロキシ-2'-ベンゾチアゾリル)-Δ2-チアゾリン-4-カルボン酸(ルシフェリン)である。ルシフェリンは、天然より(例えば、ホタルより)単離されても、または合成されてもよい。合成ルシフェリンは、天然のルシフェリンと同一の構造を有し得るか、または、類似的に機能する限り誘導体化することができる。ルシフェリンの誘導体の例は、ルシフェリンを生じるように試料において加水分解されるかまたはエステラーゼの作用を受ける、D-ルシフェリンメチルエステルおよびルシフェラーゼの他のエステル、ならびに、ナフチル-およびキノリル-ルシフェリンを含む(Branchini et al., 1989)。ルシフェリンのための多数の商業的供給源がある(例えば、Promega Corp. Madison, Wis.;Molecular Probes, Eugene, Oreg.)。
【0077】
発光を生じる甲虫ルシフェラーゼが触媒する反応(ルシフェラーゼ-ルシフェリン反応)は、ホタルルシフェリン、アデノシン三リン酸(ATP)、マグネシウム、および分子状酸素を含む。最初の反応において、ホタルルシフェリンおよびATPが、無機ピロホスフェートの消失と共にルシフェリルアデニレートを形成するように反応する。ルシフェリルアデニレートはルシフェラーゼの触媒部位に堅く結合したままである。酵素のこの形態が分子状酸素に曝露された場合に、酵素に結合したルシフェリルアデニレートが酸化され、電気的に励起された状態にあるオキシルシフェリンを生じる。励起された酸化型のルシフェリンが基底状態に戻ると同時に光を放出する。

【0078】
反応のATP機能がATP類似体(例えば、dATP)により行われ得ることが企図される。他のイオンがマグネシウムイオンの代用として役立ち得ることも企図される(例えば、Mn2+またはCa2+)。追加的に、酸素は反応の反応物である。そのため、反応は無気的条件の下で行われるべきではない。しかしながら、空気中に存在するものに加えて酸素を提供することは、本発明を実践する段階において一般的に必要ない。反応は、反応溶液中に十分な酸素が存在するとの条件で、閉鎖性の器において起こり得る。
【0079】
ほとんどのルシフェラーゼ-ルシフェリン反応は、短命である光の閃光を生成する。しかしながら、本発明での使用のためのルシフェラーゼのいくつか、例えば、LucPpe2m146およびLucPpe2m90ルシフェラーゼなどのLucPpe2の変異体は、本発明の条件の下で、試薬組成物を試料と混合した後、1時間あたり50%未満の発光の損失を伴う「グロータイプ」の発光シグナルを生成する。
【0080】
本発明の試薬組成物において使用される場合に発光を生成する能力を保持する任意のルシフェラーゼが、本発明において使用され得る。
【0081】
当業者により理解されるように、添付の特許請求の範囲を含んで本明細書において説明されるすべての酵素反応は、特に具体的に述べられない限り、酵素反応が起きるために必要であるすべての酵素、基質、および条件を特別にまたは本質的に含む。
【0082】
変種酵素
完全長ルシフェラーゼ、キナーゼなどのホスホトランスフェラーゼまたはATPアーゼなどのATPヒドロラーゼ、アデニル酸シクラーゼまたはADPからATPへの変換酵素の変種は、対応する完全長天然ルシフェラーゼ、ホスホトランスフェラーゼまたはATPヒドロラーゼ、アデニル酸シクラーゼ、例えばアクセッション番号Y00545またはM24074と少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するものまたはADPからATPへの変換酵素配列と、少なくとも約82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%のアミノ酸配列同一性などの、少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性、少なくとも約81%のアミノ酸配列同一性を有し、および、発光を生成する能力、リン酸基を転移する能力、ATPからcAMPを形成する能力、またはADPからATPを形成する能力をそれぞれ保持すると考えられる。通常、変種断片は、少なくとも約50アミノ酸の長さ、しばしば少なくとも約60アミノ酸の長さ、よりしばしば少なくとも約70、80、90、100、150、200、300、400、500、もしくは550アミノ酸の長さであるかまたはそれより長く、および、発光を生成する能力、リン酸基を転移する能力、ATPからcAMPを形成する能力、またはADPからATPを形成する能力を保持する。完全長ルシフェラーゼ、ホスホトランスフェラーゼ、ATPヒドロラーゼ、アデニル酸シクラーゼ、もしくはADPからATPへの変換酵素、それらの断片、またはそれらの変種は、異種のアミノ酸配列と融合され得、かつ本発明において依然として機能的であり得る。
【0083】
例えば、本発明の組成物および方法において使用される完全長甲虫ルシフェラーゼ、キナーゼ、ATPアーゼ、アデニル酸シクラーゼ、もしくはADPからATPへの変換酵素、それらの断片、またはそれらの変種は、天然供給源より精製されてもよいか、または、(1)化学合成、(2)ルシフェラーゼの酵素(プロテアーゼ)消化、および(3)組換えDNA法を含む多数の技術により調製されてもよい。化学合成法は、特異的部位を切断するためにプロテアーゼを使用する方法のように、当技術分野において周知である。酵素、変種酵素、またはそれらの断片を産生するために、酵素、変種、および断片をコードするDNAを調製し、かつその後大腸菌(E. coli)などの宿主生物において発現させることができる。エンドヌクレアーゼ消化またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの方法により、当業者は明確に定義された断片の無限の供給をもたらすことが可能になる。変種または断片の活性は、天然の酵素の活性と異なってもよい。
【0084】
アミノ酸置換、挿入もしくは欠失、またはそれらの組み合わせの任意のタイプが、変種のルシフェラーゼ、アデニル酸シクラーゼ、キナーゼ、ATPアーゼ、またはADPからATPへの変換酵素を生成するために使用され得る。しかしながら、保存的アミノ酸置換を有するルシフェラーゼ、アデニル酸シクラーゼ、キナーゼ、ATPアーゼ、またはADP変換酵素は活性を保持する可能性がより高い。有用な保存的置換を表Aの「例示的置換」において示す。置換が酵素活性を損なわない場合には、1つのクラスのアミノ酸が同一のタイプの別のアミノ酸と置き換えられる保存的置換は本発明の範囲内に入る。
【0085】
【表A】

【0086】
(1)β-シートまたはa-へリックスコンホメーションなどのポリペプチドバックボーンの構造、(2)電荷、または(3)疎水性、または(4)標的部位の側鎖のバルクをもたらす非保存的置換は、ルシフェラーゼ機能を修飾する可能性がある。表Bに示されるように、残基は共通の側鎖特性に基づいて群に分類される。非保存的置換は、これらのクラスの1つのメンバーを他のクラスと交換する段階を必要とする。
【0087】
【表B】

【0088】
変種ルシフェラーゼ、アデニル酸シクラーゼ、キナーゼ、ATPアーゼ、またはADP変換酵素の遺伝子または遺伝子断片は、オリゴヌクレオチド媒介(部位特異的)突然変異誘発、アラニンスキャニング、およびPCR突然変異誘発などの当技術分野において公知である方法を用いて作製することができる。部位特異的突然変異誘発、カセット突然変異誘発、制限選択(restriction selection)突然変異誘発、PCR突然変異誘発、または他の公知の技術を、変種DNAを産生するためにクローニングされたDNAに対して行うことができる。
【0089】
キット
本発明をキットとして供給する場合、本明細書において説明されるように、組成物の異なる成分を別々の容器にパッケージし、かつ使用の前に混合してもよい。成分のそのような別々のパッケージングにより、酵素活性の損失無く長期保存が可能になる。キットの種々の部分を混合する場合に、それらは、「試薬組成物」を形成し、1つの態様において、増強された安定性を有する(すなわち、反応組成物は、最初に作製された場合の、すなわち最初の1〜5分以内の試薬組成物の活性を基準として、少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも1時間の間少なくとも約60%の活性、いっそうより好ましくは少なくとも2時間およびまたは少なくとも4時間の間などの少なくとも1時間の間、少なくとも70%、80%、90%、95%、99%、またはより多い活性を維持することが可能である)。キットの目的に依存して、取扱説明用材料、および標準または対照として作用し得る材料もまたキットに同封されてもよい。
【0090】
試薬組成物
1つの態様において、本発明の試薬組成物の以下の成分が、使用の直前に混合される別々の部分として供給され得る:1)ルシフェラーゼ、2)1つまたは複数のADPからATPへの変換酵素、3)任意でアデニル酸シクラーゼ阻害剤、4)任意でADPからATPへの変換酵素のための基質、および5)ルシフェラーゼのための基質。1つの態様において、反応組成物の以下の成分が、使用の直前に混合される別々の部分として供給され得る:1)1つまたは複数のADPからATPへの変換酵素、2)アデニル酸シクラーゼ阻害剤、および3)任意でADPからATPへの変換酵素のための基質。1つの態様において、試薬組成物の以下の成分が、使用の直前に混合される別々の部分として供給され得る:1)アデニル酸シクラーゼ、2)ピロホスファターゼ、3)任意で1つまたは複数のキナーゼまたはATPアーゼの阻害剤、および4)任意でアデニル酸シクラーゼの活性化剤。ルシフェラーゼ成分はさらにルシフェリンを含み得、かつ1つの態様において凍結乾燥されている。ルシフェラーゼ成分は任意で、凍結乾燥のための賦形剤、タンパク質(ルシフェラーゼ)安定化剤、マグネシウム(または代替的な陽イオン)、およびマグネシウムキレート剤(または代替的な陽イオンキレート剤)を含む。組成物はさらに、緩衝液、二価陽イオン金属キレート剤、マグネシウム(または代替的な陽イオン)、消泡剤、および酵素安定化剤(例えばTHESIT)を含み得る。説明される方法において使用され得る適当なキット成分、組成物、および緩衝液はまた、商業的に取得することもできる。例えば、Kinase-Glo(登録商標)、Kinase-Glo(登録商標)Plus、またはKinase-Glo(登録商標)Max Luminesecent Kinase AssayキットにおいてPromega(登録商標)から入手可能であるKinase-Glo(登録商標)、Kinase-Glo(登録商標)Plus、もしくはKinase-Glo(登録商標)Max緩衝液および/またはKinase-Glo(登録商標)、Kinase-Glo(登録商標)Plus、もしくはKinase-Glo(登録商標)Max基質が、本明細書において説明されるように使用され得る。キット成分、組成物、および緩衝液はまた、ピルビン酸キナーゼなどの酵素、ホスホエノールピルビン酸などの成分、塩、キレート剤などを含む適当な成分の添加により修飾され得る。様々な成分は、これらの部分のサブセットを含み得、かつ、本発明の適用を容易にするかまたは保存寿命を延長するかのいずれかの任意の方法において組み合わせられ得る。
【0091】
他のキット成分
キットはまた、細胞生存率、細胞傷害性、または細胞増殖などの特定の試験の実行を容易にする試薬を別々の容器において含み得る。例えば、ATPまたはADPは、標準曲線が測定され得るように、または内部対照として使用されるように供給され得る。キナーゼまたはATPアーゼの阻害剤または活性化剤であることが公知の物質が、キナーゼもしくはATPアーゼ活性の検出における陽性対照としての使用のために、またはキナーゼもしくはATPアーゼ活性への試験剤の効果を測定するために含まれ得る。キットは、マルチウェルプレート、および/または、1つもしくは複数のキナーゼもしくはATPアーゼ、アデニル酸シクラーゼ、またはADPからATPへの変換酵素を供給し得る。キットは任意で、キナーゼまたはATPアーゼのための基質、緩衝液、およびアデニル酸シクラーゼの活性化剤または阻害剤を含み得る。
【0092】
容器または器
キットに含まれる試薬は、様々な成分の寿命が保存されるように、任意の種類の容器において供給することができ、かつ容器の材料により吸着されることまたは変化することはない。例えば、密封されたガラスアンプルが、窒素などの中性の非反応ガスの下でパッケージングされた、凍結乾燥されたルシフェラーゼまたは緩衝液を含有し得る。アンプルは、ガラス、ポリカーボネート、ポリスチレンなどのような有機ポリマー、セラミック、金属などの任意の適当な材料、または試薬を保持するために典型的に使用される任意の他の材料からなり得る。適当な容器の他の例は、アンプルと同様の物質から製作され得る単純な瓶、およびアルミニウムまたは合金などの箔で裏打ちされた内部からなり得る封筒を含む。他の容器は、試験管、バイアル、フラスコ、瓶、注射器などを含む。容器は、皮下注射針により穴を開けることができる栓を有する瓶のような無菌の接触口を有し得る。他の容器は、除去されると成分の混合を可能にする容易に除去可能な膜により分離されている、2つの区画を有し得る。除去可能な膜は、ガラス、プラスチック、ゴムなどであり得る。
【0093】
取扱説明用材料
キットはまた、取扱説明用材料と共に供給され得る。取扱説明書は、紙もしくは他の基板上に印刷されてもよく、かつ/または、フロッピーディスク、CD-ROM、DVD-ROM、ジップディスク、ビデオテープ、オーディオテープなどのような電子的に可読の媒体として供給されてもよい。詳細な取扱説明書は、物理的にキットに付随していなくてもよい。その代わりに、使用者は、キットの製造者または販売者により特定されたインターネットウェブサイトを指示されてもよいか、または電子メールとして供給されてもよい。1つの態様において、取扱説明書は使用者に、結果として生じる試薬組成物を試料に添加する前に、ルシフェラーゼをADP変換酵素およびアデニル酸シクラーゼの阻害剤と混合することを指示する。
【0094】
ATP依存性ルシフェラーゼ-ルシフェリン反応の使用
甲虫ルシフェラーゼ-ルシフェリン反応はATP依存性であるため、ATPについてアッセイするためにルシフェラーゼを使用することができる。反応は著しく感度が高く、わずか10-16モルのATPまたはそれより少ない量を含有する試料においてATPを検出することを可能にする。
【0095】
本発明の方法、組成物、およびキットは、その後のATP形成を介して、キナーゼまたはATPアーゼ反応より生成したADPの単純な定性的検出または定量的検出を提供する。1つの態様において、試料において発光が生成される単純な定性的実験が、キナーゼまたはATPアーゼの存在を示す。発光は、LucPpe2の変異体などのルシフェラーゼを含む試薬組成物を用いて生成される。加えて、試薬組成物はさらに、1つまたは複数の以下の成分を含み得る:凍結乾燥された調製物から再構成され得るルシフェリン(あるいは、適切なルシフェリン類似体基質)、ADPからATPへの変換酵素の阻害剤、二価陽イオン(例えばマグネシウム)、酵素安定化剤、および緩衝液。
【0096】
本発明の組成物、方法、およびキットは、使用者が、ADPをATPに変換する段階、およびATP依存性生物発光酵素を添加した後に産生される発光の量を定量化する段階により、試料においてキナーゼもしくはATPアーゼにより産生されたADPの量、またはキナーゼもしくはATPアーゼの存在を定量化することを可能にする。本発明は、関心対象の試料に適用され、かつまた公知の量のADP、キナーゼ、またはATPアーゼを含有する試料(対照)にも適用される。本発明を未知のADP、キナーゼ、またはATPアーゼ濃度の試料に適用することより生成されたシグナルを、内部対照(公知の量のADP、キナーゼ、またはATPアーゼの試料への添加、およびその後の発光の測定)により生成されたシグナル、または、公知のADP、キナーゼ、もしくはATPアーゼ濃度のいくつかの試料の発光を測定する段階およびそれらをグラフにプロットする段階により生成された外部標準曲線のいずれかに対応させる。そのような方法は当業者に公知である。
【0097】
本発明は、以下の非限定的な実施例によりさらに説明される。
【実施例】
【0098】
材料
ウサギ筋肉由来のピルビン酸キナーゼ(Sigmaカタログ番号P9136)、ニワトリ筋肉由来のミオキナーゼ(Sigmaカタログ番号M5520)、ウサギ筋肉由来のミオキナーゼ(Sigmaカタログ番号M3003)、ウシ心臓由来のクレアチンホスホキナーゼ(Sigmaカタログ番号C7886)、ウサギ脳由来のクレアチンホスホキナーゼ(Sigmaカタログ番号C6638)、およびウサギ筋肉由来のクレアチンホスホキナーゼ(Sigmaカタログ番号C3755)はSigmaより取得した。
【0099】
方法
アデニル酸シクラーゼアッセイ法および阻害
種々のアデニリルシクラーゼ(AC)の活性を、30℃で30分間、60 mMトリスpH 7.5、10 mM MgCl2、40 nMカルモジュリン、および可変のATP濃度の存在下で測定した。AC価測定に関する実験以外では、100 ngのACを使用した。使用時、製造者の推奨に従ってカルモジュリンアンタゴニストは調製され、かつ直接阻害を評価する場合はAC反応へ直接添加されたかまたはATP形成の間のAC阻害を評価するためにADPをATPに変換する反応へ添加された。
【0100】
キナーゼおよびATPアーゼの反応
他の方法で示されない限り、キナーゼまたはATPアーゼ反応は、40μLの緩衝液A(40 mMトリスpH 7.5、20 mM MgCl2、および0.1 mg/mL BSA)において、キナーゼまたはATPアーゼ、ATP、およびキナーゼまたはATPアーゼのための基質の存在下で行った。使用した基質濃度および反応時間は示されている通りである。チロシンキナーゼ反応は、2 mM DTT、2 mM MnCl2、および100μMオルソバナジン酸ナトリウムを追加した緩衝液Aにおいて行った。スフィンゴシンキナーゼ反応は、0.5 mM DTTを追加した緩衝液Aにおいて行った。Hsp70 ATPアーゼ反応は、7.5 mM KClおよび100μM DTTを追加した緩衝液Aにおいて行った。Na+/K+ ATPアーゼ反応は、20 mMトリスpH 7.8、0.56 mM EDTA、5 mM MgCl2、3 mM KCl、および133 mM NaClを含有する緩衝液において行った。PgpATPアーゼ反応は、Pgp緩衝液(Promega Corp)において行った。SV40ラージT抗原ヘリカーゼ反応は、20 mMトリスpH 7.8、10 mM MgCl2、50 mM NaCl、および1 mM DTTを含有する緩衝液において行った。ATP依存性DNアーゼ反応は、33 mMトリス酢酸(pH 7.8)、66 mM酢酸カリウム、10 mM酢酸マグネシウム、および0.5 mM DTTを含有する緩衝液において行った。
【0101】
ADP検出アッセイ法
アッセイ法はマルチウェルプレートにおいて一般に2段階で行った。
【0102】
1)ATP枯渇
40μLの試薬1(120 mMトリスpH 7.5、40 nMカルモジュリン、20 U/mLピロホスファターゼ、100 ngアデニル酸シクラーゼ、および任意で300〜500 nMスタウロスポリン)をキナーゼ反応に添加し、および30分間インキュベーションした。PI3脂質キナーゼ、ATPアーゼ、スフィンゴシンキナーゼ、またはヘキソキナーゼ活性をアッセイする場合には、反応を停止するために、試薬1におけるスタウロスポリンを任意で、それぞれ500 nMワートマニン、75μMケルセチン、150μM D-エリスロ-N,N-ジメチルスフィンゴシン、または2 mMグルコース-6-リン酸に置き換えた。ATP枯渇アッセイ法はまた、該アッセイ法において百日咳菌完全長AC毒素、AC断片のみ、または炭疽菌浮腫因子を用いて、行われた(図3および4)。
【0103】
2)ADPからATPへの変換および検出
80μLの試薬2(80μL Kinase-Glo(登録商標)Max(Promega Corp.)中の800μMホスホエノールピルビン酸および800 mUピルビン酸キナーゼ)をキナーゼ反応またはATPアーゼ反応に同時に添加し、かつ室温で30〜60分間インキュベーションした。プレートリーディングルミノメーター(GloMax(登録商標)Microplate Luminometer)を用いてデータを収集した。
【0104】
アッセイ法を3段階で行う場合には、以下の修飾を導入した。ATP枯渇段階の後、20μLのピルビン酸キナーゼ(PK)試薬(40 mMトリスpH 7.0、335 mM KCl、500μMカルミダゾリウム、500μMホスホエノールピルビン酸、15 mM EDTA、0.3 mg/mL BSA、および300〜600 mUピルビン酸キナーゼ)を添加し、反応物を5〜10分間インキュベーションし、および産生されたATPを検出するために100μL Kinase-Glo(登録商標)Max(Promega Corp.)を添加した。10分のインキュベーションの後、プレートをプレートリーディングルミノメーター(GloMax 96 Microplate Luminometer;Promega Corp.)で読み取った。
【0105】
ADPをATPに変換するためにピルビン酸キナーゼを用いるのに加えて、この変換を行うためにアデニル酸キナーゼおよびホスホクレアチンキナーゼもまた使用した(図29および30)。これらの反応については、125 mUアデニル酸キナーゼまたは500 mUクレアチンホスホキナーゼ/250μMホスホクレアチンのいずれかを緩衝液B(50 mMトリスpH 7.5、10 mM MgCl2、および500μMカルミダゾリウム)において使用し、かつ30分間室温でADP枯渇混合物とインキュベーションした。
【0106】
遊離ATPの枯渇アッセイ法
2倍の連続ATP希釈物を、25μLのLB培地単独または大腸菌細菌を含有するLB培地において作製した。100 ng ACを添加したかまたは添加していない25μLのATP枯渇緩衝液をATP-細菌混合物に添加し、かつ40分間インキュベーションした。残留する細胞性ATPまたは遊離のATPを検出するため、50μLのBacTiter-Glo(Promega)を混合物に添加し、かつ製造者の手順に従って発光を記録した。ATP枯渇緩衝液は、80 mMトリス、pH 7.5、40 nMカルモジュリン、10 mM MgCl2、2 U/mLピロホスファターゼ、および0.1 mg/mL BSAを含有した。
【0107】
例示的なアッセイ法は以下のように実施した。ATPを含むキナーゼまたはATPアーゼ反応を提供または実施した後、活性を有するアデニル酸シクラーゼ酵素(AC)、キナーゼ反応またはATPアーゼ反応を停止するための1つまたは複数のキナーゼ阻害剤またはATPアーゼ阻害剤(例えばスタウロスポリン)、緩衝液、および任意でピロホスファターゼ(ピロホスフェートがその後の反応に適合しない場合、任意の産生されたピロホスフェートを除去するため、例えば、ピロホスフェートはルシフェラーゼに基づく反応を阻害する)を含む第1の試薬(例えば試薬1)を添加する段階、ならびに例えば約30分間反応物をインキュベーションする段階により、残留するATPを除去する。任意で、ACの活性化剤、例えばカルモジュリンを、第1の試薬へまたは第1の試薬と共に添加してもよい。
【0108】
次に、第2の試薬(例えば、緩衝液、ACの阻害剤(カルミダゾリウムまたは別のカルモジュリンアンタゴニストなどの)、および1つまたは複数のADPからATPへの変換酵素を含む試薬2)を添加する段階、ならびに反応物をインキュベーションする段階により、キナーゼ反応またはATPアーゼ反応によって産生されたADPをATPに変換する。任意で、第2の試薬は、ADPからATPへの変換酵素のための基質、例えばホスホエノールピルビン酸(PEP)またはホスホクレアチン(PC)を含んでもよい。1つの態様において、ADPからATPへの変換酵素は、それぞれPEPまたはPCを使用するピルビン酸キナーゼまたはクレアチンホスホキナーゼを含む。または、ホスフェート供与体の必要無くADPをATPに変換するために、アデニル酸キナーゼを使用することができる。
【0109】
新たに形成されたATPを測定するために、ルシフェラーゼ/ルシフェリン反応のための成分を含む第3の試薬を添加する(例えば試薬3)。この反応により産生される相対発光単位(RLU)は、測定されるキナーゼまたはATPアーゼ活性に比例する。第2および第3の試薬を組み合わせると、ハイスループットスクリーニング手順に高度に適合するアッセイ法をもたらすことができる。
【0110】
結果
図2は、本発明の組成物を用いて、百日咳菌由来のACがキナーゼまたはATPアーゼ反応由来のATPをバックグラウンドレベルまで枯渇できることを示す。
【0111】
図3は、百日咳菌および炭疽菌などの様々な供給源のアデニル酸シクラーゼを用いてATP枯渇が行われ得ることを示す。
【0112】
図4は、百日咳菌アデニル酸シクラーゼの完全長(170 kD)または触媒ドメイン(43 kD)のみを用いてATP枯渇が行われ得ることを示す。
【0113】
図5は、ADPをATPに変換する場合にアデニル酸シクラーゼの阻害剤として、様々なカルモジュリンアンタゴニスト(例えば、カルミダゾリウム、B6バルバミン(barbamine)、トリフルオロペラジン、および化合物48/80)が使用され得ることを示す。
【0114】
図6は、ACがカルモジュリンアンタゴニストであるカルミダゾリウムにより阻害されることを示す。ピルビン酸キナーゼは、高いカルミダゾリウム濃度においてさえも、カルミダゾリウムからのいかなる有意な干渉も無くADPをATPに変換することができた。
【0115】
図7は、ATPの存在下において様々な濃度のADPを検出するアッセイ法の感度および直線性を示す。
【0116】
図8は、キナーゼ反応後、ADP変換および検出の前にACを用いるATP枯渇が行われる場合に、発光を用いる有意義なADP検出が行われ得ることを示す。
【0117】
図9は、ATP枯渇の間にその後の反応への影響なく反応を停止するために、キナーゼまたはATPアーゼの阻害剤が任意で使用できることを示す。
【0118】
図9〜22は、本発明の組成物および方法を用いて、種々のキナーゼ酵素およびATPアーゼ酵素の活性が検出できることを示す。
【0119】
図10〜12は、タンパク質キナーゼPKAの活性を検出するために本発明が使用できることを示す。PKAキナーゼ反応におけるATPについてのKMは以前に報告されたものと同様の値をもたらした。
【0120】
図13は、種々のキナーゼ阻害剤のタンパク質キナーゼPKAに対するIC50値を測定するために本発明が使用できることを示す。さらに、図13において、キナーゼ反応を阻害するための本発明の組成物におけるスタウロスポリンの使用は、ピルビン酸キナーゼ反応を有意に干渉しなかった。さらに、図13において、試験されたキナーゼ阻害剤は、アデニル酸シクラーゼ、クレアチンホスホキナーゼ、またはピルビン酸キナーゼ反応を干渉しなかった。
【0121】
図14〜18は、脂質キナーゼ(PI3キナーゼおよびスフィンゴシンキナーゼ)由来の活性を検出するために本発明が使用され得ることを示す。
【0122】
図19〜20は、受容体チロシンキナーゼ(EGFR)由来の活性を検出するために本発明が使用され得ることを示す。
【0123】
図21は、基質としてタンパク質(MBP)を用いてMAPキナーゼ由来の活性を検出するための本発明の使用を示す。
【0124】
図22は、糖キナーゼ(ヘキソキナーゼ)由来の活性を検出するための本発明の使用を示す。
【0125】
図23〜28は、ATPアーゼドメインを含有する酵素の活性を検出するための本発明の使用を示す。
【0126】
図23は、熱ショックタンパク質Hsp70のATPアーゼ活性を検出するための本発明の使用を示す。
【0127】
図24は、ATP依存性DNアーゼの活性をモニターすることにより直鎖DNAのレベルを検出するために、本発明が使用されることを示す。図24は、プラスミドDNAベースのワクチンについてプラスミド調製物の直鎖DNA混入のモニタリングが必要とされる場合に、本発明が使用できることを示す。
【0128】
図25〜26は、Na+/K+ ATPアーゼの活性を検出するための本発明の使用を示す。
【0129】
図27は、薬物流出ポンプ活性がATP依存性であるP-糖タンパク質の活性を検出するために、本発明が使用できることを示す。これは、疾患処置の間の薬物有効性および多剤耐性に関して重要である。
【0130】
図28は、ヘリカーゼ(SV40ラージT抗原)の内因性ATPアーゼ活性を検出するための本発明の使用を示す。図28は、ウイルスヘリカーゼ活性をモニターすることによりウイルス感染の診断において本発明が使用できることを示す。
【0131】
図29は、本発明が2段階(ATP枯渇反応、およびADPからATPへの変換/生物発光酵素反応)または3段階(ATP枯渇反応、ADPからATPへの変換反応、および生物発光酵素反応)で行われ得、かつ同様の結果を達成することを示す。
【0132】
図30および31は、種々のADPからATPへの変換酵素、クレアチンホスホキナーゼ、およびアデニル酸キナーゼが、それぞれADPをATPに変換でき、かつそのために本発明において使用され得ることを示す。さらに、ADPをATPに変換するための当技術分野において公知である任意の酵素が、本発明において使用され得ることを示す。
【0133】
PKAキナーゼ(高いATPを消費する酵素)およびEGFRキナーゼ(低いATPを消費する)の活性が、ピルビン酸キナーゼ、アデニル酸キナーゼ、およびクレアチンホスホキナーゼを用いて検出された。本データは、高いまたは低いレベルのADPを検出するために本発明が使用できることを示す。
【0134】
図32は、例えば溶解後のATPの細胞内レベルの検出およびルシフェラーゼ媒介反応の使用の前に、細胞を含有する培地からの遊離ATPの除染において、アデニル酸シクラーゼが使用できることを示す。
【0135】
本明細書において説明される任意の態様は、追加的な態様を提供するために本明細書において説明される任意の他の適当な態様と組み合わせることができる。
【0136】
本明細書において使用される場合、「1つの(a)」または「ある(an)」への言及は「1つまたは複数の」を意味する。全体を通して、複数形および単数形は、数の表示以外では交換可能として扱われるべきである。
【0137】
当業者により理解されるように、任意およびすべての目的のために、特に記載された説明を提供する観点より、本明細書において開示されるすべての範囲はまた、任意およびすべての可能な部分範囲(subrange)、およびそれらの部分範囲の組み合わせ、ならびに範囲を作り上げる個々の値、特に整数値も包含する。任意の列挙される範囲は、同一の範囲が少なくとも同等の2分の1、3分の1、4分の1、5分の1、10分の1などに分解されるのを十分に説明しかつ可能にするとして、容易に認識され得る。非限定的な例として、本明細書において議論される各範囲は、下部の3分の1、中間の3分の1、および上部の3分の1などに容易に分解され得る。また当業者により理解されるように、「まで」、「少なくとも」、「より大きい」、「より小さい」、「より多い」、「またはそれ以上」などのようなすべての言語は、引用された数字を含み、かつ上記で議論された部分範囲にその後分解され得る範囲に言及する。同一の様式で、本明細書において開示されるすべての比はまた、より広い比の中に入るすべての部分比(subratio)も含む。
【0138】
当業者はまた、マーカッシュ群におけるなどの共通の様式において、要素が一緒に群化される場合、本発明は、全体として列挙される群全体だけでなく、個々に群の各要素、および主要な群のすべての可能な部分群も包含することも容易に認識する。さらに、すべての目的のために、本発明は主要な群だけでなく、1つまたは複数の群要素が存在しない主要な群も包含する。本発明はまた、主張された発明における1つまたは複数の任意の群要素の明確な排除も想定する。
【0139】
当業者により理解されるように、原材料の量、分子量などの特性、反応条件などを表現するものを含むすべての数は近似値であり、かつすべての事例において「約」という用語により修飾されるとして理解される。これらの値は、本発明の本教示を用いる当業者により取得されようとする所望の特性に依存して変化し得る。そのような値は、それぞれの試験測定において見出される標準偏差に必然的に由来する可変性を固有に含有することも理解される。
【0140】
本出願における「段階」への言及または文字もしくは数字による表示は、本明細書において示される場合、便宜の目的のみのために使用され、かつ本発明を分類、定義、または限定しない。本明細書において開示されるすべての参照文献は、具体的に全体として参照により組み入れられる。
【0141】
参照文献

【0142】
開示される態様および実施例に関して具体的な態様が上記で説明されているが、これらの態様および実施例は単に例証となるだけであり、および本発明の範囲を限定しない。添付の特許請求の範囲において定義されるようにより広い局面で、本発明から逸脱することなく当分野における通常の技術に従って変化および修飾がなされ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、溶液においてアデノシン二リン酸(ADP)の有無を検出するかまたはADPの量を測定するための方法:
(a)ATPを非ADP生成物に変換する酵素を用いて、該溶液における実質的にすべてのATPを減少させて非ADP生成物にする段階;
(b)ADPをATPおよびリン酸基供与体に変換することが可能である酵素を用いて、該溶液におけるADPをATPに変換する段階;および
(c)生物発光反応を用いて、(a)において産生されたATPの有無を検出するかまたはATPの量を測定する段階。
【請求項2】
(d)(b)または(c)の前に、(a)において産生された実質的にすべてのピロホスフェート(PPi)を除去する段階
をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
(e)(b)または(c)の前に、前記ATPを前記非ADP生成物に変換する前記酵素を阻害する段階
をさらに含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記溶液における前記ADPが、ADPを産生する酵素により産生され、かつ前記生物発光反応が、ADPを産生する該酵素の測定を提供する、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
ADPを産生する前記酵素が、ATPをADPに変換する酵素である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
ATPをADPに変換する前記酵素が、キナーゼまたはATPヒドロラーゼである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
(f)(a)の前に、キナーゼ反応またはATPヒドロラーゼ反応の公知の阻害剤または推定阻害剤の存在下または非存在下で、該キナーゼ反応または該ATPヒドロラーゼ反応を行う段階
をさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記ATPを前記非ADP生成物に変換する前記酵素が、アデニル酸シクラーゼである、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記ADPをATPに変換することが可能である前記酵素が、ピルビン酸キナーゼである、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
前記生物発光反応が、ルシフェラーゼ酵素および該ルシフェラーゼ酵素のための基質を含む、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
(d)がピロホスファターゼ酵素を用いて行われる、請求項2〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
(i)ATPを非ADP生成物に変換する酵素;
(ii)ADPをATPに変換することが可能である酵素;
(iii)リン酸基供与体;
(iv)ルシフェラーゼ酵素;および
(v)該ルシフェラーゼ酵素のための基質
を含む、溶液におけるADPを検出するためのキット。
【請求項13】
(vi)ピロホスファターゼ酵素;
(vii)1つまたは複数の界面活性剤;
(viii)1つまたは複数の緩衝溶液;および/または
(ix)1つまたは複数の塩
のうちの1つまたは複数をさらに含む、請求項12記載のキット。
【請求項14】
ATPを非ADP生成物に変換する前記酵素がアデニル酸シクラーゼであり、前記ADPをATPに変換することが可能である前記酵素がピルビン酸キナーゼであり、かつ/または前記リン酸基供与体がホスホエノールピルビン酸である、請求項12または13記載のキット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33−1】
image rotate

【図33−2】
image rotate

【図33−3】
image rotate

【図33−4】
image rotate

【図33−5】
image rotate

【図33−6】
image rotate

【図33−7】
image rotate

【図33−8】
image rotate


【公表番号】特表2011−528906(P2011−528906A)
【公表日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−520122(P2011−520122)
【出願日】平成21年7月20日(2009.7.20)
【国際出願番号】PCT/US2009/051170
【国際公開番号】WO2010/011607
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(500430084)プロメガ・コーポレーション (18)
【Fターム(参考)】