説明

Au−Sn合金はんだ

【課題】非常に高い信頼性を要求される接合においても十分に使用できる、作業温度が400℃未満、望ましくは370℃以下であって、濡れ性に優れ、高い接合強度が得られる高温用鉛フリーのAu−Sn合金はんだを提供する。
【解決手段】Snを18.5質量%以上23.5質量%以下含有し、0.001質量%以上0.5質量%以下のPまたは0.03質量%以上1.5質量%以下のGeのうち少なくとも1種を含有し、残部がAuからなるAu−Sn合金はんだとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだに関するものであり、特に高温用のAu−Sn合金はんだに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に有害な化学物質に対する規制がますます厳しくなってきており、この規制は電子部品などを基板に接合する目的で使用されるはんだ材料に対しても例外ではない。はんだ材料には古くから鉛が主成分として使われ続けてきたが、すでにRohs指令などで規制対象物質になっている。このため、鉛(Pb)を含まないはんだ(鉛フリーはんだ、無鉛はんだ)の開発が盛んに行われている。
【0003】
電子部品を基板に接合する際に使用するはんだは、その使用限界温度によって高温用(約260℃〜400℃)と中低温用(約140℃〜230℃)に大別され、それらのうち、中低温用はんだに関してはSnを主成分とするもので鉛フリーが実用化されている。例えば、Snを主成分とし、Agを1.0〜4.0質量%、Cuを2.0質量%以下、Niを0.5質量%以下、Pを0.2質量%以下含有する無鉛はんだ合金組成が記載されており(例えば、特許文献1参照。)、Agを0.5〜3.5質量%、Cuを0.5〜2.0質量%含有し、残部がSnからなる合金組成の無鉛はんだが記載されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
一方、高温用の鉛フリーはんだ材料に関しても、さまざまな機関で開発が行われている。例えば、Biを30〜80質量%含んだ溶融温度が350〜500℃のBi−Ag系ろう材が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。また、Biを含む共晶合金に2元共晶合金を加え、さらに添加元素を加えたはんだ合金が開示されており(例えば、特許文献4参照。)、このはんだ合金は4元系以上の多元系はんだではあるものの、液相線温度の調整とばらつきの減少が可能となることが示されている。
【0005】
高価な高温用の鉛フリーはんだ材料としては既にAu−Sn合金やAu−Ge合金などがMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等で使用されている。例えば、Auを5〜15質量%含有し、さらにBiを0.1〜10質量%、Inを0.1〜10質量%およびSbを0.1〜10質量%のいずれかを含有し、残りがSnおよび不可避不純物からなる成分組成を有するSn−Au合金はんだ粉末とフラックスとの混合体に関して記載されている(例えば、特許文献4参照。)。また、特許文献5には、Snを15〜25質量%、酸素を100超〜500ppmを含有し、残りがAuおよび不可避不純物からなる組成、並びに粒径が10〜35μmの粉末を全体の30%以上含みかつ粒径が40μm以下の粉末が全体の90%以上を占めるレーザー散乱・解析法により測定した平均粒径が10〜35μmの範囲内の粒度を有する濡れ広がりの少ないはんだペースト用Au−Sn合金粉末について記載されている(例えば、特許文献5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開1999−077366号公報
【特許文献2】特開平8−215880号公報
【特許文献3】特開2002−160089号公報
【特許文献4】特開2008−161913号公報
【特許文献5】特開2003−260588号公報
【0007】
高温用の鉛フリーはんだ材料に関しては、さまざまな機関で開発されているが、未だ低コストで汎用性のあるはんだ材料は見つかっていない。すなわち、一般的に電子部品や基板には熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などの比較的耐熱温度の低い材料が多用されているため、作業温度を400℃未満、望ましくは370℃以下にする必要がある。しかしながら、例えば特許文献3に開示されているBi−Ag系ろう材では、液相線温度が400〜700℃と高いため、接合時の作業温度も400〜700℃以上になると推測され、接合される電子部品や基板の耐熱温度を超えてしまうことになる。
【0008】
そして、高価なAu−Sn系はんだの場合、実用化されているもののMEMSなどの特に信頼性を必要とする箇所のはんだ付けに使用されるため、より一層の信頼性が要求されている。特許文献4では表面張力を低下させる点からBi、In、Sbを添加し、濡れ性を向上させている。この場合のはんだの形態はペーストであるため、フラックスによる還元効果が期待できることから、はんだ表面張力を低下させ濡れ性を向上させられると考えられる。しかし、はんだシートやワイヤなど、はんだ合金単体のみ、つまりはフラックスなどの還元剤がない場合、InはAu、Snより酸化しやすく、Bi、SbはAuよりも酸化しやすい。従って、これらの元素の添加量が1%以下など微量である場合はともかく、熱力学的にははんだ表面が酸化してしまい濡れ性を低下させてしまうことになる。
【0009】
当然、特許文献5のように故意にはんだの酸素量を増加させた場合、還元剤がなくはんだ合金単体で用いれば濡れ性が極端に低下し、場合によっては電子部品等の接合ができないことも容易に想像できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、MEMS等の非常に高い信頼性を要求される接合においても十分に使用できる、作業温度が400℃未満、望ましくは370℃以下であって、濡れ性に優れ、高い接合強度が得られる高温用鉛フリーのAu−Sn合金はんだを提供することを目的としている。
ここで十分な濡れ性とは、接合作業の際にボイド(空孔)を生じることなくはんだ合金が溶融して、接合面に適度な面積に拡がることを意味し、これにより被接合物との接触面積が確保され、被接合物を強固に固着して信頼性の高い接合を達成できることとなる。また、高信頼性とは、強固な接合の結果、使用環境の温度変化にも耐えて長寿命で安定した接合を維持できることを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のAu−Sn合金はんだは、Au−Sn共晶組成付近、具体的にはSnの含有量が18.5質量%以上23.5質量%以下含有し、PまたはGeの1種以上を所定量含有し、残部がAuから構成されることにより、濡れ性に優れこれに起因し接合強度、信頼性に優れた接合が得られるAu−Sn合金はんだである。
すなわち本発明のAu−Sn合金はんだは、Snを18.5質量%以上23.5質量%以下含有し、0.001質量%以上0.5質量%以下のPまたは0.03質量%以上1.5質量%以下のGeのうち少なくとも1種を含有し、残部がAuからなるAu−Sn合金はんだである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、電子部品と基板の接合に必要な強度を有する高温用の鉛フリーはんだを提供することができる。すなわち、Au−Sn共晶組成付近にPまたはGeの金属元素を所定の含有率となるように添加することによって、濡れ性に優れ、これに起因して高い接合強度、高信頼性を有するはんだ接合を可能にするAu−Sn合金はんだを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、濡れ性試験片の断面構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
接合性が良く接合強度等に優れた信頼性の高い接合を得るためには、はんだが溶融した時に基板との間に適度な濡れ性を有することが重要である。はんだ溶融時に十分な濡れ性が確保できれば接合面積も十分確保でき、接合強度も高まり耐久性にも富んだ高信頼性のはんだ接合が得られる。適度な濡れ性とは、はんだ溶融時に接合面積の110%以上に広がることが目安となる。また、強固で確実な接合を得るためには、溶融はんだ内部にボイドを生じないようにしなければならない。ボイドの発生率は5%以下に抑える必要がある。
【0015】
本発明のAu−Sn合金はんだの組成は、Snを18.5質量%以上23.5質量%以下含有し、PまたはGeの少なくとも1種以上を含有し、Pを含有する場合は0.001質量%以上0.5質量%以下含有し、Geを含有する場合は0.03質量%以上1.5質量%以下含有し、残部がAuからなる。
Au−Sn共晶組成付近をベースとして、PまたはGeを所定量添加することにより濡れ性が格段に向上し、Au−Sn二元系合金より接合部の信頼性を従来よりも増して高めることが可能となる。
つまり、P、Geは還元性が強く、Au−Sn二元系はんだ合金表面が酸化した場合や電子部品等の酸化膜を還元し除去する性質を有する。
【0016】
まず、Pの効果について述べる。Pは特に還元性が強く、酸化膜除去の効果は大きい。更に、Pの添加は接合時にボイドの発生を低減させる効果がある。すなわち、Pは還元性が強く自らが酸化しやすいため、接合時にはんだ成分よりも優先的に酸化が進む。その結果、はんだ母相の酸化を防ぎ、濡れ性を確保することができる。これにより良好な接合が可能となり、ボイドの生成も起こりにくくなる。
【0017】
還元性が強いPは、微量の添加でも濡れ性向上の効果を発揮する。逆にある量以上では添加しても濡れ性向上の効果は変わらず、過剰な添加はPの酸化物がはんだ表面に生成されたり、Pが脆弱な相を作り脆化したりするおそれがある。したがって、Pは微量添加が好ましい。
具体的には、Pの還元効果を得るには0.001質量%以上の添加が必要であり、Pの添加量の上限は0.500質量%以下である。Pがこの上限値を超えると、その酸化物がはんだ表面を覆い、逆に濡れ性を落とすおそれがある。さらに、Pは添加量が多いと脆いP酸化物が偏析するなどして信頼性を低下させる。とくにシートやワイヤなどを加工する場合に、クラックや断線、または欠陥の原因になりやすいことを確認している。
【0018】
次にGeについて述べる。GeもP同様に還元効果を有する。しかし、その効果は熱力学的観点から容易に推測でき、Pに劣る。しかし、GeはSnやCuを還元することは可能であるため、接合条件によって少量のGe添加で大きな濡れ性改善効果を示す。さらにGeにはPにはない優れた特性を有する。つまり、GeはAuと共晶合金を作るため、加工性や信頼性を向上させ、加えてその添加量によって融点を調整できるのである。このGeの最適な添加量は0.03質量%以上1.5質量%以下である。0.03質量%以下では添加量が少なすぎて、優れたGeの効果が発揮できない。一方、1.5質量%を越えるとSnと低融点相(Ge−Sn二元合金の固相温度:231℃よりも低い)を作ってしまいリフロー時に電子部品等の固定を維持できなくなってしまうなどの問題が生じる。
【実施例】
【0019】
まず、原料として純度99.9質量%以上のAu、Sn、P、およびGeを準備した。大きな薄片やバルク状の原料については、溶解後の合金においてサンプリング場所による組成のバラツキがなく均一になるように留意しながら切断、粉砕等を行い、3mm以下の大きさに細かくした。次に、高周波溶解炉用グラファイトるつぼに、これら原料から所定量を秤量して入れた。
原料の入ったるつぼを高周波溶解炉に入れ、酸化を抑制するために窒素を原料1kg当たり0.7L/分以上の流量で流した。この状態で溶解炉の電源を入れ、原料を加熱溶融させた。金属が溶融しはじめたら混合棒でよく攪拌し、局所的な組成のばらつきが起きないように均一に混ぜた。十分溶融したことを確認した後、高周波電源を切り、速やかにるつぼを取り出し、るつぼ内の溶湯をはんだ母合金の鋳型に流し込んだ。鋳型には、はんだ合金の製造の際に一般的に使用している形状(厚さ5mmの板状)と同様のものを使用した。
【0020】
このようにして試料1のはんだ母合金を作製した。原料の混合比率を変えた以外は試料1と同様にして試料2〜13のはんだ母合金を作製した。これら試料1〜13のはんだ母合金の組成をICP発光分光分析器(SHIMAZU製S−8100)を用いて分析した。その分析結果を下記の表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
次に、上記試料1〜13の各はんだ母合金について、圧延機でシート状に加工した。また、シート状に加工した各Au−Sn系はんだ合金について、濡れ性の評価、ボイド率の評価及びヒートサイクル試験による信頼性の評価を行った。尚、はんだの濡れ性ないし接合性等の評価は、はんだ形状に依存しないためワイヤ、ボール、ペーストなどの形状で評価してもよいが、シートの形状で評価した。得られた結果を下記表2に示す。
【0023】
<シート形状への加工>
表1に示す試料1〜13の各はんだ母合金(厚さ5mmの板状インゴット)を、圧延機を用いて厚さ0.1mmまで圧延した。その際、インゴットの送り速度を調整しながら圧延し、その後スリッター加工により25mmの幅に裁断した。このようにシート形状にした試料をプレス機に設置した金型を用いて、10mm角の形状に打ち抜き、評価用試料として用いた。なお、一般的にAu−Snはんだが使用される場合、はんだ厚みは0.020〜0.050mm程度で使用されることが多いが、ここでは濡れ広がりの評価を行う際、濡れ性が濡れ広がり面積に反映され易いようにはんだ厚みを故意に厚くした。
【0024】
<濡れ性評価(濡れ広がり性)>
まず、濡れ性試験機(装置名:雰囲気制御式濡れ性試験機)を起動し、加熱するヒーター部分に2重のカバーをしてヒーター部の周囲4箇所から窒素を流した(窒素流量:各12L/分)。その後、ヒーター設定温度を340℃にして加熱した。
340℃に設定したヒーター温度が安定した後、図1に示すようなNiめっき膜(2)(膜厚:2.0μm)、さらに最上層にAuめっき膜(3)(膜厚:1.0μm)を施したCu基板(1)(板厚:0.3mm)をヒーター部にセッティング後、25秒加熱した。次に、試料のはんだ(4)をCu基板(1)の上に載せ、25秒加熱した。加熱が完了した後はCu基板(1)をヒーター部から取り上げてその横の窒素雰囲気が保たれている場所に一旦設置して冷却した。十分に冷却した後、大気中に取り出して接合部分を確認した。溶融前の面積を100%として、溶融・冷却後の面積を光学顕微鏡(キーエンス社製VHX−900)の面積測定機能を用いて測定した。その結果を表2に示す。
【0025】
<ボイド率の評価>
接合性を確認するため、上記濡れ性評価と同様にして得たはんだが接合されたCu基板のボイド率を、X線透過装置(株式会社東芝製TOSMICRON−6125)を用いて測定した。試料のはんだとCu基板接合面をはんだ上部から垂直にX線を透過し、取り込んだ画像データを処理して以下の計算式(1)を用いてボイド率を算出した。その結果を表2に示す。
【0026】
【数1】

【0027】
<ヒートサイクル試験>
はんだ接合の信頼性を評価するためにヒートサイクル試験を行った。なお、この試験は、上記濡れ性評価と同様にして得たはんだが接合されたCu基板を用いて行った。まず、はんだが接合されたCu基板に対して、−40℃の冷却と150℃の加熱を1サイクルとして、これを所定のサイクル繰り返した。その後、はんだが接合されたCu基板を樹脂に埋め込み、断面研磨を行い、SEM(日立製作所株式会社製 S−4800)により接合面の観察を行った。接合面にはがれやはんだにクラックが入っていた場合を「×」、そのような不良がなく、初期状態と同様の接合面を保っていた場合を「○」とした。その結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2から分かるように、本発明の要件を満たしている試料1〜8のはんだ母合金は、各評価項目において良好な特性を示している。つまり、Au層が形成されているCu基板への濡れ性は非常に良好であり、とくにPを多く添加した試料5、PとGeの両方を添加した試料8は非常に濡れ広がり方が早く、はんだの濡れ広がり面積は35%も増加した。信頼性に関する試験であるヒートサイクル試験においても良好な結果が得られており、ヒートサイクル試験では500回経過後も不良が現れなかった。
一方、本発明の要件を満たしていない比較例の試料9〜13のはんだ母合金は、少なくともいずれかの特性において好ましくない結果となった。つまり、試料9〜13は試料1〜8に比較しボイド率が高く、全て4%以上であった。さらに試料9、10、12、13はヒートサイクル試験において300回で不良が発生した。
【符号の説明】
【0030】
1 Cu基板
2 Niめっき膜
3 Auめっき膜
4 はんだ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Snを18.5質量%以上23.5質量%以下含有し、0.001質量%以上0.5質量%以下のPまたは0.03質量%以上1.5質量%以下のGeのうち少なくとも1種を含有し、残部がAuからなることを特徴とするAu−Sn合金はんだ。

【図1】
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