説明

Azospirillum属細菌の新規用途

【課題】本発明は、生物学的な手段によって農業上有用な植物に種々の好ましい性質を付与することを目的とする。
【解決手段】本発明はAzospirillum属新規エンドファイト細菌(例えば受託番号 NITE BP-194の細菌)をアブラナ科植物、イネ科植物、マメ科植物、又はユリ科植物に人為的に感染させることにより、これらの植物の虫害を抑制し、生長を促進し、或いは収量を増加させる方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンドファイトであるAzospirillum属細菌を植物に人為的に感染させて当該植物体に害虫抵抗性を付与する方法、当該植物体の生長を促進させる方法、当該植物体の収量を増加させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでの化学農薬を中心とした病害虫防除技術は、効率的な食糧確保に貢献してきた。ところが近年、栽培の効率性だけでなく、安心・安全といった領域を含めた無農薬、減農薬による環境保全型農業が望まれ、それに適合した病害虫防除技術(例えば微生物農薬)が必要とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、生物学的な手段によって農業上有用な植物に種々の好ましい性質を付与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は以下の発明を包含する。
(1) Azospirillum属に属し、アブラナ科植物体内に共生して該植物に害虫抵抗性を付与する能力を有する細菌を、アブラナ科植物に人為的に感染させる工程を含む、アブラナ科植物に害虫抵抗性を付与する方法。
(2) Azospirillum属に属し、アブラナ科植物体内に共生して該植物の葉の収量を増加させる能力を有する細菌を、アブラナ科植物に人為的に感染させる工程を含む、アブラナ科植物の葉の収量を増加させる方法。
(3) Azospirillum属に属し、イネ科植物体内に共生して該植物に害虫抵抗性を付与する能力を有する細菌を、イネ科植物に人為的に感染させる工程を含む、イネ科植物に害虫抵抗性を付与する方法。
(4) Azospirillum属に属し、イネ科植物体内に共生して該植物の生長を促進させる能力を有する細菌を、イネ科植物に人為的に感染させる工程を含む、イネ科植物の生長を促進させる方法。
(5) Azospirillum属に属し、イネ科植物体内に共生して該植物における穀物収量を増加させる能力を有する細菌を、イネ科植物に人為的に感染させる工程を含む、イネ科植物における穀物収量を増加させる方法。
(6) Azospirillum属に属し、マメ科植物体内に共生して該植物の生長を促進させる能力を有する細菌を、マメ科植物に人為的に感染させる工程を含む、マメ科植物の生長を促進させる方法。
(7) Azospirillum属に属し、マメ科植物体内に共生して該植物の着莢数を増加させる能力を有する細菌を、マメ科植物に人為的に感染させる工程を含む、マメ科植物の着莢数を増加させる方法。
(8) Azospirillum属に属し、マメ科植物体内に共生して該植物における根粒数を増加させる能力を有する細菌を、マメ科植物に人為的に感染させる工程を含む、マメ科植物における根粒数を増加させる方法。
(9) Azospirillum属に属し、鱗茎を有するユリ科植物体内に共生して該植物における鱗茎の収量を増加させる能力を有する細菌を、鱗茎を有するユリ科植物に人為的に感染させる工程を含む、ユリ科植物における鱗茎の収量を増加させる方法。
(10) 前記細菌がAzospirillum属新規細菌(受託番号 NITE BP-194)、又はその変異株である、(1)〜(9)のいずれか記載の方法。
【0005】
本明細書において「Azospirillum属新規細菌」とは、国際出願PCT/JP2007/054624に開示された、受託番号 NITE BP-194が付与されたAzospirillum属に属する細菌を指す。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、生物学的な手段によって、アブラナ科植物に害虫抵抗性を付与すること、イネ科植物に害虫抵抗性を付与すること、イネ科植物の生長を促進させること、イネ科植物における穀物収量を増加させること、マメ科植物の生長を促進させること、マメ科植物の着莢数を増加させること、マメ科植物における根粒数を増加させること、アブラナ科植物の葉の収量を増加させること、或いは、ユリ科植物における鱗茎の収量を増加させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
1. 細菌
本発明に用いることができる細菌としては、Azospirillum属細菌であって、アブラナ科植物体内に共生して該植物に害虫抵抗性を付与する能力、イネ科植物体内に共生して該植物に害虫抵抗性を付与する能力、イネ科植物体内に共生して該植物の生長を促進させる能力、イネ科植物体内に共生して該植物における穀物収量を増加させる能力、マメ科植物体内に共生して該植物の生長を促進させる能力、マメ科植物体内に共生して該植物の着莢数を増加させる能力、マメ科植物体内に共生して該植物における根粒数を増加させる能力、アブラナ科植物体内に共生して該植物の葉の収量を増加させる能力、及び、鱗茎を有するユリ科植物体内に共生して該植物における鱗茎の収量を増加させる能力、からなる群から選択される少なくとも1つの能力を有する細菌であれば特に限定されない。具体例を挙げれば、Azospirillum属新規細菌(受託番号 NITE BP-194)が挙げられる。
【0008】
Azospirillum属新規細菌(受託番号 NITE BP-194)は本発明者らによりイネから単離された新規細菌であり、国際出願PCT/JP2007/054624に開示されている。Azospirillum属新規細菌は次表に示す基質資化能力を有している。
【0009】
【表1】


【0010】
Azospirillum属新規細菌の16SrDNAの部分塩基配列を配列表の配列番号1に示す。
また本発明に使用できる細菌としては、Azospirillum属新規細菌(受託番号 NITE BP-194)と同等の能力を有する細菌、例えば、Azospirillum属に属し、上述の、Azospirillum属新規細菌と同一の炭素源の資化能力を有する細菌や、Azospirillum属に属し、配列番号1に示す塩基配列を少なくとも一部分に含む16S rDNAを有する細菌が挙げられるがこれらには限定されない。更にまた、Azospirillum属新規細菌(受託番号 NITE BP-194)が変異誘発処理されて作出された変異株であって、アブラナ科植物体内に共生して該植物に害虫抵抗性を付与する能力、イネ科植物体内に共生して該植物に害虫抵抗性を付与する能力、イネ科植物体内に共生して該植物の生長を促進させる能力、イネ科植物体内に共生して該植物における穀物収量を増加させる能力、マメ科植物体内に共生して該植物の生長を促進させる能力、マメ科植物体内に共生して該植物の着莢数を増加させる能力、マメ科植物体内に共生して該植物における根粒数を増加させる能力、アブラナ科植物体内に共生して該植物の葉の収量を増加させる能力、及び、鱗茎を有するユリ科植物体内に共生して該植物における鱗茎の収量を増加させる能力、からなる群から選択される少なくとも1つの能力を有する変異株もまた、本発明に好適に使用することができる。このような変異株のなかでも、Azospirillum属に属し、上述の、Azospirillum属新規細菌と同一の炭素源の資化能力を有する細菌や、Azospirillum属に属し、配列番号1に示す塩基配列を少なくとも一部分に含む16S rDNAを有する細菌が好ましい。変異誘発処理は任意の適当な変異原を用いて行われ得る。ここで、「変異原」なる語は広義の意味を有し、例えば変異原効果を有する薬剤のみならずUV照射のごとき変異原効果を有する処理をも含むものと理解すべきである。適当な変異原の例としてエチルメタンスルホネート、UV照射、N−メチル−N′−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、ブロモウラシルのようなヌクレオチド塩基類似体及びアクリジン類が挙げられるが、他の任意の効果的な変異原もまた使用され得る。
【0011】
本発明に用いられる細菌は、振とう培養等の通常の培養法により、通常の条件下で培養されうる。培養に用いる培地としては炭素源としてグルコース、シュークロース、デンプン、デキストリンなどの糖類を、窒素源として硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等のアンモニウム塩、硝酸塩等の無機窒素源、または、酵母エキス、コーン・スティープ・リーカー、肉エキス、小麦胚芽、ポリペプトン、サトウキビ絞り粕(バカス)、ビールカス、大豆粉、米糠、魚粉等の有機窒素源を、無機塩としてリン酸一カリ、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、硫酸第一鉄等の、リン、カリウム、マンガン、マグネシウム、鉄等を含む塩類を、それぞれ含有する合成または天然の培地が挙げられる。
【0012】
本発明の方法には、細菌の培養液をそのまま使用することができるが、細菌の培養液を膜分離、遠心分離、濾過分離等の方法により分離した、細菌の高濃度物を用いることもできる。
【0013】
本発明の方法ではまた、細菌の培養液を乾燥させたものを使用することができる。また、細菌の培養液を活性炭粉末、珪藻土、タルク等の多孔吸着体に吸着させ乾燥させたものを使用することができる。乾燥方法は通常の方法でよく、例えば凍結乾燥、減圧乾燥でよい。これらの乾燥物は乾燥後さらにボールミル等の粉砕手段で粉砕されてもよい。
【0014】
細菌は上述の培養液、高濃度物または乾燥物としてそれ自体単独で本発明の用途に用いることができるが、更なる他の任意成分と組み合わせて通常の微生物製剤と同様の形態(例えば粉剤、水和剤、乳剤、液剤、フロアブル剤、塗布剤等の形態)に製剤化して用いることもできる。組み合わせて使用することができる任意成分としては例えば固体担体、補助剤のような植物への適用が許容される材料が挙げられる。
【0015】
2. アブラナ科植物への害虫抵抗性の付与、アブラナ科植物の葉の収量の増加
本発明の一形態は、Azospirillum属に属し、アブラナ科植物体内に共生して該植物に害虫抵抗性を付与する能力を有する細菌を、アブラナ科植物に人為的に感染させる工程を含む、アブラナ科植物に害虫抵抗性を付与する方法に関する。
【0016】
本発明の他の一形態は、Azospirillum属に属し、アブラナ科植物体内に共生して該植物の葉の収量を増加させる能力を有する細菌を、アブラナ科植物に人為的に感染させる工程を含む、アブラナ科植物の葉の収量を増加させる方法に関する。
【0017】
これらの形態においてアブラナ科植物としてはアブラナ、カブ、チンゲンサイ、ノザワナ、カラシナ、タカナ、コブタカナ、水菜、コールラビー、ルッコラ、クレソン、タアサイ、カリフラワー、キャベツ、ケール、ハクサイ、コマツナ、ダイコン、ハツカダイコン、ブロッコリー、メキャベツ、ワサビ、セイヨウワサビ、シロイヌナズナが挙げられる。
【0018】
虫害としてはコナガ、モンシロチョウ、オオモンシロチョウ、ハイマダラノメイガ、カブラヤガ、タマナヤガ、ヨトウムシ類、ハモグリバエ類、カブラハバチ類、キスジノミハムシ、ヤサイゾウムシによる摂食、アブラムシ類、アザミウマ類による吸汁が挙げられる。
【0019】
これらの実施形態における細菌またはそれを含有する組成物のアブラナ科植物への施用方法としては、種子コート、幼植物への潅注、塗布、または噴霧処理する方法などが挙げられる。特に、種子または植物体に人為的に傷を付け菌液の噴霧処理、塗布する方法が好ましい。その他の施用条件としては播種時、育苗期など圃場定植前に施用する事が望ましい。また、さらに圃場栽培中に植物に噴霧処理する事で効果の高発現が期待出来る。
【0020】
3. イネ科植物への害虫抵抗性の付与、生長促進、穀物収量の増加
本発明の一形態は、Azospirillum属に属し、イネ科植物体内に共生して該植物に害虫抵抗性を付与する能力を有する細菌を、イネ科植物に人為的に感染させる工程を含む、イネ科植物に害虫抵抗性を付与する方法に関する。
【0021】
本発明の他の一形態は、Azospirillum属に属し、イネ科植物体内に共生して該植物の生長を促進させる能力を有する細菌を、イネ科植物に人為的に感染させる工程を含む、イネ科植物の生長を促進させる方法に関する。
【0022】
本発明の他の一形態は、Azospirillum属に属し、イネ科植物体内に共生して該植物における穀物収量を増加させる能力を有する細菌を、イネ科植物に人為的に感染させる工程を含む、イネ科植物における穀物収量を増加させる方法に関する。
【0023】
これらの形態においてイネ科植物としてはイネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、ライコムギ、ハトムギ、ソルガム、エンバク、トウモロコシ、サトウキビ、アワ、ヒエなどの穀類が挙げられる。イネ科植物としてはさらに、シバ、バッファローグラス、バミューダグラス、ウィーピンググラス、センチピードグラス、カーペットグラス、ダリスグラス、キクユグラス、セントオーガスチングラスなどの飼料または牧草が挙げられる。最も好ましいものはイネである。
【0024】
イネ科植物における虫害としてはドロオイムシ、ニカメイガ、イチモンジセセリ、コブノメイガ、イネヨトウ、アワヨトウ、スジキリヨトウ、フタオビコヤガ、イネクビボソハムシ、その他ハムシ類、イネカラバエ、イネハモグリバエ、イネヒメハモグリバエ、コウモリガ、ミノガ、イネシンガレセンチュウ、その他センチュウ類、イネミズゾウムシ、コメツキムシ類、コガネムシ類、バッタ類、スクミリンゴガイ、シロトビムシ類、ガガンボ類、タマバエ類、による摂食、セジロウンカ、トビイロウンカ、ヒメトビウンカ、その他ウンカ類、ヨコバイ類、フキムシ類、アブラムシ類、アザミウマ類、カメムシ類による吸汁が挙げられる。
【0025】
この実施形態における細菌またはそれを含有する組成物のイネ科植物への施用方法としては、種子コート、幼植物への潅注、塗布、または噴霧処理する方法などが挙げられる。特に、種子または植物体に人為的に傷を付け菌液の噴霧処理、塗布する方法が好ましい。その他の施用条件としては播種時、育苗期など圃場定植前に施用する事が望ましい。また、さらに圃場栽培中に植物に噴霧処理する事で効果の高発現が期待出来る。
【0026】
4. マメ科植物の生長促進、着莢数の増加、根粒数の増加
本発明の一形態は、Azospirillum属に属し、マメ科植物体内に共生して該植物の生長を促進させる能力を有する細菌を、マメ科植物に人為的に感染させる工程を含む、マメ科植物の生長を促進させる方法に関する。
【0027】
本発明の他の一形態は、Azospirillum属に属し、マメ科植物体内に共生して該植物の着莢数を増加させる能力を有する細菌を、マメ科植物に人為的に感染させる工程を含む、マメ科植物の着莢数を増加させる方法に関する。
【0028】
本発明の他の一形態は、Azospirillum属に属し、マメ科植物体内に共生して該植物における根粒数を増加させる能力を有する細菌を、マメ科植物に人為的に感染させる工程を含む、マメ科植物における根粒数を増加させる方法に関する。
【0029】
これらの形態においてマメ科植物としてはダイズ、アズキ、ラッカセイ、インゲンマメ、エンドウマメ、ハナマメ、ソラマメ、ササゲ、ヒヨコマメ、リョクトウ、レンズマメ、ライマメ、バンバラマメが挙げられる。最も好ましいものはダイズである。
【0030】
この実施形態における細菌またはそれを含有する組成物のマメ科植物への施用方法としては、種子コート、幼植物への潅注、塗布、または噴霧処理する方法などが挙げられる。特に、種子または植物体に人為的に傷を付け菌液の噴霧処理、塗布する方法が好ましい。その他の施用条件としては播種時、育苗期など圃場定植前に施用する事が望ましい。また、さらに圃場栽培中に植物に噴霧処理する事で効果の高発現が期待出来る。
【0031】
5.ユリ科植物における鱗茎の収量の増加
本発明の一形態は、Azospirillum属に属し、鱗茎を有するユリ科植物体内に共生して該植物における鱗茎の収量を増加させる能力を有する細菌を、鱗茎を有するユリ科植物に人為的に感染させる工程を含む、ユリ科植物における鱗茎の収量を増加させる方法に関する。
【0032】
この形態において鱗茎を有するユリ科植物としてはタマネギ、ラッキョウ、ニンニク、ニラ、アサツキ、ユリが挙げられる。最も好ましいものはタマネギである。
【0033】
この実施形態における細菌またはそれを含有する組成物のユリ科植物への施用方法としては、種子コート、幼植物への潅注、塗布、または噴霧処理する方法などが挙げられる。特に、種子または植物体に人為的に傷を付け菌液の噴霧処理、塗布する方法が好ましい。その他の施用条件としては播種時、育苗期など圃場定植前に施用する事が望ましい。また、さらに圃場栽培中に植物に噴霧処理する事で効果の高発現が期待出来る。
【実施例1】
【0034】
コナガ摂食試験
1.目的
エンドファイトが誘導する害虫抵抗性誘導機構を解明するため、病害抵抗性のモデル植物であるシロイヌナズナを用い、Azospirillum sp. NITE BP-194 株の抵抗性を明らかにする。
【0035】
2.方法
供試菌株:NITE BP-194 株
接種濃度:5×106cell/seed(1×108cell/ml換算) 対照区:無接種
対象植物:シロイヌナズナ(Arabidopsis Col-0)
対象害虫:コナガ
摂食時間:4時間
処理検体数:各処理区15検体
【0036】
3.実験方法
シロイヌナズナの種子を70%エタノールで20秒間、1%次亜塩素酸水溶液で5分間処理して滅菌後、滅菌した蒸留水で20分、3回洗浄した。オートクレーブ滅菌(121℃、40分)した園芸培土(Kureha)を入れたプラスティック容器(5×5×5cm)に滅菌した種子を約20粒ずつ播種し、人工気象器内で、温度21度、温度60%、16時間明/8時間暗の条件下で栽培した。その後、10日目に供試菌株を1×108cell/mlになるように接種し、その20日後に植物体の切葉をコナガ3齢幼虫に摂食させ、摂食率を測定した。
また、このときの植物体のエンドファイト感染率を測定した。感染が確認された個体で摂食試験を行った。
【0037】
4.結果
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
エンドファイト処理区で感染の確認されない個体があった(上記表)。
今回の試験より、Azospirillum sp. NITE BP-194 株をシロイヌナズナに接種することにより、害虫(コナガ)の摂食を抑制することが明らかになった。
【実施例2】
【0040】
イネ虫害抵抗性について
イネの圃場栽培における接種効果の検討
1.1) 試験1: ドロオイムシ被害、試験方法
イネ品種:ほしのゆめ
エンドファイト菌株: NITE BP-194 株
接種日:平成17年5月26日
定植日:平成17年5月28日
圃場:無農薬栽培
試験規模: 57.7 m2、苗箱3箱分 (6条植え、約1,340株)
【0041】
1.2) 試験1: 結果と考察
【0042】
【表4】

【0043】
NITE BP-194処理区においてドロオイムシによる被害葉数が減少しており、ドロオイムシに対する抵抗性が確認された。
【0044】
2.1) 試験2: ドロオイムシ被害、試験方法
イネ品種:きらら397
エンドファイト菌株:NITE BP-194 株
接種日:平成18年5月23日(1 X 108 個 / ml の菌懸濁液を 500ml / 育苗箱潅注処理)
定植日:平成18年5月30日
圃場:有機肥料、無農薬栽培
試験規模:各処理区約 60 株
【0045】
2.2) 試験2: 結果と考察
試験区イネの各処理区 20 株を計測した。括弧内の数値は、無接種区を 100 としたときの相対数である。
【0046】
【表5】

【0047】
NITE BP-194処理区においてドロオイムシによる被害葉数が減少しており、ドロオイムシに対する抵抗性が確認された。この圃場のドロオイムシの発生は多く、全ての処理区で被害株率は 100 % であった。
【0048】
3.1) 試験3: ドロオイムシ被害、試験方法
イネ品種:ななつぼし、きらら397
エンドファイト菌株:NITE BP-194株
接種日:ななつぼし 平成18年5月21日、きらら397 平成18年5月23日 (1 X 108 個 / ml の菌懸濁液を 500ml / 育苗箱潅注処理)
定植日:ななつぼし 平成18年5月24日、きらら397 平成18年5月26日
圃場:無農薬栽培
試験規模:各処理区 4箱分 (8条)
無接種区は2区用意した。
【0049】
3.2) 試験3: 結果と考察
【表6】

【0050】
NITE BP-194処理区においてドロオイムシによる被害葉数が減少しており、ドロオイムシに対する抵抗性が確認された。
【0051】
4.1) 試験4: カメムシ被害、試験方法
イネ品種:きらら397
エンドファイト菌株: NITE BP-194 株
接種日:平成18年5月23日 (1 X 108 個 / ml の菌懸濁液を 500ml / 育苗箱潅注処理)
定植日:平成18年5月26日
圃場:無農薬栽培
試験規模:各処理区76.8 m2、 4箱分 (8条植え、約1,790株)
【0052】
4.2) 試験4: 結果と考察
【表7】

【0053】
カメムシによる着色被害粒数はNITE BP-194試験区で減少傾向を示した。
【実施例3】
【0054】
イネ生育促進、収量増加について
1. 細菌エンドファイト接種イネの圃場栽培試験
1) 方法
イネ品種:きらら397
エンドファイト菌株: NITE BP-194 株
接種日:平成18年5月23日(1 X 108 個 / ml の菌懸濁液を 500ml / 育苗箱潅注処理)
定植日:平成18年5月30日
圃場:有機肥料、無農薬栽培
試験規模:各処理区約 60 株
【0055】
2) 結果と考察
試験区イネの各処理区 20 株を計測した。括弧内の数値は、無接種区を 100 としたときの相対数である。
【0056】
【表8】

【0057】
【表9】

【0058】
【表10】

【0059】
イネの生育については、NITE BP-194 接種区で生育途中の茎数、穂数が増加しており、生育が促進されていた。収穫に関してはNITE BP-194 接種区で籾重が増加していた。
【0060】
2. エンドファイト接種イネの圃場栽培における接種効果の検討
1) 方法
イネ品種:ななつぼし、きらら397
エンドファイト菌株: NITE BP-194 株
接種日:ななつぼし 平成18年5月21日、きらら397 平成18年5月23日 (1 X 108 個 / ml の菌懸濁液を 500ml / 育苗箱潅注処理)
定植日:ななつぼし 平成18年5月24日、きらら397 平成18年5月26日
圃場:無農薬栽培
試験規模:各処理区76.8 m2、 4箱分 (8条植え、約1,790株)
無接種区は2区用意し、その平均を求めた。
【0061】
2) 結果と考察
【表11】

【0062】
【表12】

【0063】
移植 10 日目の初期成育は、きらら397のエンドファイトNITE BP-194 接種区で草丈がやや低い傾向が認められたが、茎数は増加していた。その後も成育中の茎数は、NITE BP-194接種区で無接種区より多い傾向が認められ、分げつを促進していることが確認された。
収量は、ななつぼし及びきらら397ともにNITE BP-194接種区で増加していた。
【実施例4】
【0064】
ダイズ生育促進と収量の増加、根粒着生増加について
1. 目的
栽培イネから分離されたAzospirillum属新規細菌NITE BP-194のダイズに対する生育促進と収量増加に対する効果について調査することを目的とした。
【0065】
2. 実験方法
2−1.供試作物
ダイズ品種:トヨホマレ 各処理区200本
2−2.圃場
水田転換初年目圃場
2−3.供試菌
NITE BP-194(Azospirillum属新規細菌)
【0066】
2−4.試験方法
ダイズは種子を圃場に蒔き、路地栽培を行った。本葉が1〜3枚程度になったところで、108CFU/mlになるように調製した菌液を噴霧器を用いて噴霧した。通常の管理を行い、栽培途中(播種後57日目)および収穫期(播種後135日目)に生育調査および収量調査を行った。生育調査項目は、葉数及び茎長、株立数を、収量調査では着莢数を測定した。また根粒の数を測定した。
【0067】
3. 結果
3−1.生育調査結果
播種後57日目及び、135日目の生育調査結果を表13に示した。57日目の結果より、葉数および茎長はNITE BP-194接種区で対照区より生育促進が見られた。また、135日目の収穫期調査結果でも、NITE BP-194処理区で全ての項目に関して対照区よりも生育促進が見られた。
【0068】
また、根粒数と着莢数を表14に示した。NITE BP-194処理区の着莢数および根粒数は対照区よりも多かった。
【0069】
【表13】

【0070】
【表14】

【実施例5】
【0071】
ケール収穫物増加について
1. エンドファイト接種ケールの圃場栽培における接種効果の検討
1) 方法
品種:自家採取品種
エンドファイト菌株: NITE BP-194 株
接種日:平成18年5月18日 (1 X 108 個 / ml の菌懸濁液を 500ml / 育苗箱潅注処理)
定植日:平成18年6月15日、手植え
圃場:砂地、有機肥料、無農薬栽培
試験規模:各処理区100 株以上
【0072】
2) 結果と考察
【表15】

NITE BP-194接種区で無接種区と比較してより生育が促進され、収量が増加した。
【実施例6】
【0073】
タマネギ収量増加
1. エンドファイト接種タマネギの圃場栽培における接種効果の検討
1, 方法
タマネギ品種:北もみじ2000
エンドファイト菌株: NITE BP-194 株
接種日:平成18年5月2日 (1 X 108 個 / ml の菌懸濁液を 500ml / 育苗箱潅注処理)
定植日:平成18年5月4 〜7日
圃場:慣行栽培
試験規模:各処理区 448 株 (224 株 × 2条)
【0074】
2) 結果と考察
【表16】

【0075】
【表17】

【0076】
北もみじ2000では、NITE BP-194接種区で葉鞘径が大きくなる傾向がみられた。草丈については、NITE BP-194 接種区でやや大きい傾向が見られたが、ほぼ差はないレベルであった。
収穫物については、NITE BP-194接種区で収量が増加した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Azospirillum属に属し、アブラナ科植物体内に共生して該植物に害虫抵抗性を付与する能力を有する細菌を、アブラナ科植物に人為的に感染させる工程を含む、アブラナ科植物に害虫抵抗性を付与する方法。
【請求項2】
Azospirillum属に属し、アブラナ科植物体内に共生して該植物の葉の収量を増加させる能力を有する細菌を、アブラナ科植物に人為的に感染させる工程を含む、アブラナ科植物の葉の収量を増加させる方法。
【請求項3】
Azospirillum属に属し、イネ科植物体内に共生して該植物に害虫抵抗性を付与する能力を有する細菌を、イネ科植物に人為的に感染させる工程を含む、イネ科植物に害虫抵抗性を付与する方法。
【請求項4】
Azospirillum属に属し、イネ科植物体内に共生して該植物の生長を促進させる能力を有する細菌を、イネ科植物に人為的に感染させる工程を含む、イネ科植物の生長を促進させる方法。
【請求項5】
Azospirillum属に属し、イネ科植物体内に共生して該植物における穀物収量を増加させる能力を有する細菌を、イネ科植物に人為的に感染させる工程を含む、イネ科植物における穀物収量を増加させる方法。
【請求項6】
Azospirillum属に属し、マメ科植物体内に共生して該植物の生長を促進させる能力を有する細菌を、マメ科植物に人為的に感染させる工程を含む、マメ科植物の生長を促進させる方法。
【請求項7】
Azospirillum属に属し、マメ科植物体内に共生して該植物の着莢数を増加させる能力を有する細菌を、マメ科植物に人為的に感染させる工程を含む、マメ科植物の着莢数を増加させる方法。
【請求項8】
Azospirillum属に属し、マメ科植物体内に共生して該植物における根粒数を増加させる能力を有する細菌を、マメ科植物に人為的に感染させる工程を含む、マメ科植物における根粒数を増加させる方法。
【請求項9】
Azospirillum属に属し、鱗茎を有するユリ科植物体内に共生して該植物における鱗茎の収量を増加させる能力を有する細菌を、鱗茎を有するユリ科植物に人為的に感染させる工程を含む、ユリ科植物における鱗茎の収量を増加させる方法。
【請求項10】
前記細菌がAzospirillum属新規細菌(受託番号 NITE BP-194)、又はその変異株である、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。

【公開番号】特開2009−51771(P2009−51771A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220100(P2007−220100)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000148357)株式会社前川製作所 (267)
【Fターム(参考)】