説明

BT剤の殺虫効果を低減化させる影響を回避する方法及び防除剤

【課題】一部の植物で見られるBT剤の効果を低減させる原因を解明し、その影響を回避する方法及び防除剤を提供する。
【解決手段】バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)が産生する芽胞及び/または結晶性タンパク質を殺虫成分として含有するBT剤の殺虫効果を低減化させる影響を回避する害虫の防除方法及び防除剤であって、BT剤とアルカリ性物質及び/またはタンパク質を混合施用する方法及び防除剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物体に含まれる有機酸類、カテキンまたはフラボノイド配糖体によって発生するBT剤の殺虫効果を低減化させる影響を回避するため、BT剤とアルカリ性物質、BT剤とタンパク質及びBT剤とアルカリ性物質とタンパク質を混合施用する方法及び防除剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis、以下BTと略記することがある。)は、グラム陽性の芽胞形成細菌であり、胞子嚢内に内生胞子と結晶性タンパク質(Crystal Protein)を形成する特徴がある。BTは適当な栄養条件下で胞子が発芽し、栄養細胞へと成長し、次々に細胞分裂を繰り返す。やがて栄養成分の枯渇や環境の変化などにより、細胞内で内生胞子と結晶性タンパク質(Crystal Protein)を形成する胞子嚢に変化する。さらに細胞は崩壊して内生胞子と結晶性タンパク質は菌体外に遊離する。
【0003】
BTの産生する芽胞及び結晶性タンパク質を昆虫が摂食した場合、結晶性タンパク質は中腸内の消化液の強アルカリ条件下で溶解してプロトキシンとなり、ついでタンパク質分解酵素により活性化毒素に変化する。この活性化毒素は中腸上皮細胞の受容体に結合し、その付近の細胞を損傷させる。そして、損傷した部分において消化液と体液が混ざり合い、体内の浸透性やpHが変化する。その結果、昆虫の食物消化機能が乱れ、口器の麻痺を引き起こし、摂食活動が低下する。さらに、芽胞が栄養条件下で発芽し、栄養細胞が増殖すると共に昆虫血体腔内に侵入し、最終的に昆虫は敗血症を起こして死亡する。昆虫以外の例えば哺乳類が摂食した場合は、胃液が酸性であり結晶性タンパク質が分解されないため、毒性を示さない。植物に対しても無害である。
【0004】
このBT並びにBTの産生する殺虫活性を示すタンパク(結晶性タンパク毒素)は、効果はもとより化学農薬に対する抵抗性害虫に対しても効果が高いことや、生態系に与える影響が少ないことなどの利点から、林業、果樹及び野菜等の害虫、特に鱗翅目害虫に対して非常に有用な微生物農薬として、実際に世界各国で使用されてきている。最近では、訪花昆虫や天敵などの有用昆虫を利用する場面で使用しやすいことから、さまざまな種類が開発され、総合的病害虫管理(IPM)に組み入れる主要薬剤の1つとして取り上げられている。
【0005】
しかし、ハスモンヨトウに対するBT剤の殺虫効果は、イチゴなど一部の植物では他の作物と比較して明らかに低く、その原因は薬液の付着むらや本種の系統、もしくは鱗翅目昆虫の種類によるものではなく、植物葉中にBT剤の殺虫活性を低下させる何らかの要因が存在する可能性があることが指摘されている(長岡広行、2000、今月の農業、3月号、p.100〜104;非特許文献1)。
【0006】
これまで、野菜害虫において、昆虫の種類によりBT剤の効果が異なることは多くの報告があるが、植物の違いでBT剤の効果が変動する事例は少ない。海外の一部の事例では、林木の主要害虫であるマイマイガに対する殺虫効果が、ヤナギやモミジバフウでは他の植物の場合より顕著に低下することが示されている。また、モミジバフウなどからの抽出物が、培地上でBTの生育を抑制すること、タンニンが殺虫性結晶タンパクを不活化することも指摘されている(Appel H M, Schultz J C, J. Econ. Entomol.,1994, 87, p.1736〜1742;非特許文献2、Farrar et al.,1996, Environ. Entomol.,25, p.1215〜1223;非特許文献3)。これらの報告などから、イチゴに限らず他の植物でもBT剤の殺虫活性に影響を与える現象が存在することは明らかである。
【非特許文献1】長岡広行、2000、今月の農業、3月号、p.100〜104
【非特許文献2】Appel H M, Schultz J C, J. Econ. Entomol.,1994, 87, p.1736〜1742
【非特許文献3】Farrar et al.,1996, Environ. Entomol.,25, p.1215〜1223
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
BT剤は、野菜類を加害する鱗翅目昆虫であるコナガ、ヨトウムシ類、ウワバ類に対して、安定した高い防除効果を示す。しかし、イチゴ、シソなどの一部の植物では、同じ害虫に対しても著しく殺虫活性が低下する傾向が認められる。これは、薬液の付着むらや昆虫の系統には関連が少なく、植物側にBT剤の効果を低下させる何らかの要因が存在する可能性が指摘されている。
【0008】
BT剤は人畜への安全性が高く、環境汚染が少ないという利点があり、近年消費者に広く受け入れられるようになった有機農産物の生産にも利用できるため、その需要は今後さらに増大することが見込まれる。したがって、これまでBTの効果が低かった植物についても原因を発見し、有効に活用できる方法を提案することは重要である。
従って、本発明の課題は、一部の植物で見られるBT剤の効果を低減させる原因を解明し、その影響を回避する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
BT剤の効果を低下させる原因を解明し、その対策方法を検討する目的で、BT剤の殺虫活性低下が見られるイチゴ葉中に含まれる化学成分を分析した結果、有機酸、カテキン類及びケルセチンがその原因成分であることが判った。その対策方法として、アルカリ性物質とBT、タンパク質とBT、好ましくはアルカリ性物質、タンパク質及びBTの3種を混合施用することで、BT剤の殺虫効果を低減化する影響を回避できることを確認した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(10)に示す、BT剤の殺虫効果を低減化させる影響を回避する方法及び防除剤を提供するものである。
(1)バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)が産生する芽胞及び/または結晶性タンパク質を殺虫成分として含有するBT剤の殺虫効果を低減化させる影響を回避する害虫の防除方法であって、BT剤とアルカリ性物質及び/またはタンパク質を混合施用する方法。
(2)アルカリ性物質が、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びアンモニウムイオンの、水酸化物及び炭酸塩から選ばれる一種または複数種である前項1に記載の方法。
(3)アルカリ性物質が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水酸化マグネシウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、固形かんすい、液体かんすい、希釈粉末かんすい及び植物の灰から選ばれる一種または複数種である前項1に記載の方法。
(4)タンパク質が、乳タンパク質、卵タンパク質、肉タンパク質、穀類、種実類及び豆類等の植物種子の胚乳部に含まれる植物タンパク質、ペプチド、またはアミノ酸である前項1に記載の方法。
(5)タンパク質が、カゼイン、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン、血清アルブミン、プロテオース・ペプトン、オボアルブミン、オボトランスフェリン、オボコムド、オボムチン、リゾチーム、オボインヒビター、オボグリコプロテイン、オボフラボプロテイン、低密度リポタンパク質、リベチン、ホスビチン、高密度リポタンパク質、ミオシン、アクチン、トロポミオシン、トロポニン、α−アクチニン、コネクチン、ミオグロビン、α−コングリシン、β−コングリシン、γ−コングリシン、グリシニン、グロブリンγ1、グロブリンγ2、グロブリンγ3、アルブミン、プロラミン、グルテリン、グリアジンα1、グリアジンα2、グリアジンβ1、グリアジンβ2、グリアジンβ3、グリアジンβ4、13Sグロブリン、19Sグロブリン、コンアラキンI、IIのタンパク質、L−グルタミル−L−グルタミン酸、L−グルタミル−L−セリン、トリ−L−グルタミン酸、L−グルタミル−L−グリシル−L−セリン、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステルから選ばれるペプチド、及びリジン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、スレオニン、セリン、グルタミン酸、プロリン、グリシン、アラニン、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、システイン、トリプトファンのアミノ酸から選ばれる一種または複数種である前項1に記載の方法。
(6)バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)が産生する芽胞及び/または結晶性タンパク質の殺虫効果を低減化させる影響を回避する害虫の防除剤であって、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)、その産生する芽胞及び/または結晶性タンパク質と、アルカリ性物質及び/またはタンパク質を含有する害虫防除剤。
(7)アルカリ性物質が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオンの、水酸化物及び炭酸塩から選ばれる選ばれる一種または複数種である前項6に記載の害虫防除剤。
(8)アルカリ性物質が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水酸化マグネシウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、固形かんすい、液体かんすい、希釈粉末かんすい及び植物の灰から選ばれる一種または複数種である前項8に記載の害虫防除剤。
(9)タンパク質が、乳タンパク質、卵タンパク質、肉タンパク質、穀類、種実類及び豆類等の植物種子の胚乳部に含まれる植物タンパク質、ペプチド、アミノ酸である前項8に記載の害虫防除剤。
(10)タンパク質が、カゼイン、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン、血清アルブミン、プロテオース・ペプトン、オボアルブミン、オボトランスフェリン、オボコムド、オボムチン、リゾチーム、オボインヒビター、オボグリコプロテイン、オボフラボプロテイン、低密度リポタンパク質、リベチン、ホスビチン、高密度リポタンパク質、ミオシン、アクチン、トロポミオシン、トロポニン、α−アクチニン、コネクチン、ミオグロビン、α−コングリシン、β−コングリシン、γ−コングリシン、グリシニン、グロブリンγ1、グロブリンγ2、グロブリンγ3、アルブミン、プロラミン、グルテリン、グリアジンα1、グリアジンα2、グリアジンβ1、グリアジンβ2、グリアジンβ3、グリアジンβ4、13Sグロブリン、19Sグロブリン、コンアラキンI、IIのタンパク質、L−グルタミル−L−グルタミン酸、L−グルタミル−L−セリン、トリ−L−グルタミン酸、L−グルタミル−L−グリシル−L−セリン、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステルから選ばれるペプチド、及びリジン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、スレオニン、セリン、グルタミン酸、プロリン、グリシン、アラニン、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、システイン、トリプトファンのアミノ酸から選ばれる一種または複数種である前項6に記載の害虫防除剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、これまで一部の作物で見られた、植物に含有される物質が原因と考えられるBT剤の効果不全の原因を特定し、その回避方法としてBT剤とアルカリ性物質、BT剤とタンパク質、もしくは3種を混合施用することによって、BT剤の効果を安定化できることが明らかとなった。本発明の方法によれば、これまで実用的、安定的利用が困難であった作物場面でも安全な微生物農薬であるBT剤を広く有効に利用できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
BT剤の効果を低下させる原因を解明し、その対策方法を検討する目的で、BT剤の殺虫活性低下が見られるイチゴ葉中に含まれる化学成分を実施例1及び2に示したような条件で分析した。その結果、有機酸(L−リンゴ酸、α−ケトグルタル酸、クエン酸、コハク酸)及びタンパク変性活性が高いカテキン類とケルセチン(フラボノイド配糖体)がその原因成分であることが判った。それぞれ単独での低減効果は弱いが、3種類を混合することによって、高い阻害活性を示した。詳細は実施例2に示す。
【0013】
これらの成分が殺虫活性を低減化するのは、有機酸類による昆虫中腸内の酸性化とカテキン、フラボノイドによる殺虫タンパクの不溶化が原因と考えられた。従って、対策方法として、アルカリ性物質添加による昆虫中腸内酸性化防止とフラボノイド類によるタンパク毒素の不溶化を撹乱するために過剰のタンパク質を添加する方法を検討した。その結果、実施例3に示すように殺虫活性の回復が見られた。さらに、実施例4に示すように炭酸水素ナトリウム及びアルブミンを添加したBT製剤を検討し、効果的な対策方法であることを確認した。
【0014】
すなわち、本発明は、BT剤の殺虫効果を低減化させる影響を回避するため、アルカリ性物質とBT剤、タンパク質とBT剤、好ましくはアルカリ性物質、タンパク質及びBT剤の3種を混合施用する方法に関する。
【0015】
アルカリ性物質とは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水酸化マグネシウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、固形かんすい、液体かんすい、希釈粉末かんすいまたは植物の灰であり、さらに好ましくは、アルカリ性物質が水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水酸化マグネシウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、固形かんすい、希釈粉末かんすいまたは植物の灰であってもよい。
【0016】
タンパク質とは、乳タンパク質、卵タンパク質、肉タンパク質、穀類、種実類及び豆類等の植物種子の胚乳部に含まれる植物タンパク質、ペプチド、アミノ酸であり、好ましくはカゼイン、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン、血清アルブミン、プロテオース・ペプトン、オボアルブミン、オボトランスフェリン、オボコムド、オボムチン、リゾチーム、オボインヒビター、オボグリコプロテイン、オボフラボプロテイン、低密度リポタンパク質、リベチン、ホスビチン、高密度リポタンパク質、ミオシン、アクチン、トロポミオシン、トロポニン、α−アクチニン、コネクチン、ミオグロビン、α−コングリシン、β−コングリシン、γ−コングリシン、グリシニン、グロブリンγ1、グロブリンγ2、グロブリンγ3、アルブミン、プロラミン、グルテリン、グリアジンα1、グリアジンβ1、グリアジンβ2、グリアジンβ3、グリアジンβ4、13Sグロブリン、19Sグロブリン、コンアラキンI、IIのタンパク質、L−グルタミル−L−グルタミン酸、L−グルタミル−L−セリン、トリ−L−グルタミン酸、L−グルタミル−L−グリシル−L−セリン、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステルのペプチド、及びリジン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、スレオニン、セリン、グルタミン酸、プロリン、グリシン、アラニン、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、システイン、トリプトファンのアミノ酸であり、さらに好ましくはカゼイン、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン、血清アルブミン、プロテオース・ペプトン、オボアルブミン、オボトランスフェリン、オボコムド、オボムチン、リゾチーム、オボインヒビター、オボグリコプロテイン、オボフラボプロテイン、低密度リポタンパク質、リベチン、ホスビチン、高密度リポタンパク質、ミオシン、アクチン、トロポミオシン、トロポニン、α−アクチニン、コネクチン、ミオグロビン、α−コングリシン、β−コングリシン、γ−コングリシン、グリシニン、グロブリンγ1、グロブリンγ2、グロブリンγ3、アルブミン、プロラミン、グルテリン、グリアジンα1、グリアジンα2、グリアジンβ1、グリアジンβ2、グリアジンβ3、グリアジンβ4、13Sグロブリン、19Sグロブリン、コンアラキンI、IIのタンパク質であっても良い。
【0017】
この方法を利用して有害生物防除剤を作成する場合、一般農薬と同様に水和剤、粒剤、粉剤、フロアブル剤などの任意の剤型として作成することができる。このような態様は、有効成分であるBTと先述したアルカリ性物質から選ばれる一種または複数種、タンパク質から選ばれる一種または複数種を含み、それぞれの剤型にふさわしい担体類、および所望により、有効成分の分散性や、他の性質の改善のために適当な補助剤(例えば、界面活性剤、展着剤、分散剤、安定剤)や増量剤とともに混合する通常の方法によって得ることができる。
【0018】
担体としては、例えば、ロウ石、タルク、カオリン、炭酸水素カルシウム、ベントナイト、珪石粉、石灰石粉末、酸性白土、珪藻土類粉末、石膏、軽石粉末、貝殻類粉末、雲母粉末、コロイド性含水珪酸ソーダ等の鉱物質粉末、水、緩衝液などの水溶液が挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上の混合物の形で用いてもよい。
【0019】
固着剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホネート、アルキルスルホネートが挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上の混合物の形で用いてもよい。
【0020】
湿潤剤としては、例えばエチレングリコール、ポリオキシエチレン(POE)アルキルエーテル、POEアルキルフェニルエーテル、POEジアルキルフェニルエーテル、POEアルキルアルミン、ジアルキルスルホサクシネート、硫酸ナトリウム、スルホン化ナフタレンナトリウム塩縮合物、ホルムアルデヒドが挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上の混合物の形で用いてもよい。
【0021】
分散剤としては,例えばアルキルサルフェート、POEアルキルエーテルサルフェート、POEアルキルフェニルエーテルサルフェート、POEベンジル化(あるいはサルチル化)フェニル(またはフェニルフェニル)エーテルサルフェート、パラフィン(アルカン)スルホネート、アルファオレフィンスルホネート(AOS)、アルキルベンゼンスルホネート、モノまたはジアルキルナフタレンスルホネート、ナフタレンスルホネート・ホルマリン縮合物、アルキルジフェニルエーテルジスルホネート、リグニンスルホネート、POEアルキルエーテルスルホコハク酸ハーフエステル、POEベンジル(あるいはスリチル化)フェニル(またはフェニルフェニル)エーテルフォスフェートが挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上の混合物の形で用いてもよい。
【0022】
増量剤としては、例えばパラオキシ安息香酸誘導体、サリチルアニライド、1,2−ベンゾイソチアジリン−3−オン、テトラフタロニトリル(TPN)、2−ニトロブロモ等の防黴剤、硫酸アンモニウムが挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上の混合物の形で用いてもよい。
【0023】
本発明による有害生物防除剤は他の除草剤、各種殺虫剤、殺菌剤、植物生長調整剤、または効果を増長させる共力剤、誘引剤、さらには他の効用を目的とする植物栄養剤、肥料等を混合することも可能である。
【0024】
本発明の方法で有効に防除しうる害虫としては以下の鱗翅目(Lepidoptera)および鞘翅目(Coleoptera)、双翅目(Diptera)が挙げられる。
【0025】
すなわち、鱗翅目害虫である、コナガ(Plutella xylostella)、オオタバコガ(Helicoverpa armigera)、ベニモンアオリンガ(Earias roseifera)、タマナギンウワバ(Autographa nigrisigna)シロイチモジヨトウ(Spodoptera exigua)、ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)スジキリヨトウ(Spodoptera depravata)、タマナヤガ(Agrotis ipsilon)等のヤガ類、カキノヘタムシガ(Stathmopoda masinissa)等のニセマイコガ類、ネギコガ(Acrolepiopsis sapporensis)、ヤマノイモコガ(A. suzukiella)等のアトヒゲコガ類、ヨモギエダシャク(Ascotis selenaria)、トビモンオオエダシャク(Biston robustum)、等のシャクガ類、アメリカシロヒトリ(Hyphantria cunea)等のヒトリガ類、チャノホソガ(Caloptilia theivora)等のホソガ類、モンクロシャチホコ(Phalera flavescens)等のシャチホコガ類、シバツトガ(Parapediasia teterrella)等のメイガ類、シイタケオオヒロズコガ(Morophagoides moriutii)等のヒロズコガ類、ヒメシロモンドクガ(Orgyia thyellina)、チャドクガ(Euproctis pseudoconspersa)等のドクガ類、チャハマキ(Homona magnanima)、チャノコカクモンハマキ(Adoxophyes sp.)等のハマキガ類、イラガ(Monema flavescens)等のイラガ類、鞘翅目害虫であるドウガネブイブイ(Anomala cuprea)、ウスチャコガネ(Anomala diversa)、ヒラタアオコガネ(Anomala octiescostata)、アシナガコガネ(Hoplia communis)、ヒメアシナガコガネ(Ectinohoplia obducta)、セマダラコガネ(Anomala orientalis)、オオサカスジコガネ(Anomala osakana)、スジコガネ(Anomala taceipes)、チビサクラコガネ(Anomala schonfeldti)、ヒメコガネ(Anomala rufocuprea)、アオドウガネ(Anomala albopilosa)、アカビロウドコガネ(Maladera castanea )、コフキコガネ(Melolontha japonica)、コイチャコガネ(Adoretus tenuimaculatus)、マメコガネ(Popillia japonica)等のコガネムシ類、ニジュウヤホシテントウ(Epilachna vigintioctopunctata)、オオニジュウヤホシテントウ(Epilachna vigintioctomaculata)等のテントウムシ類、イネミズゾウムシ(Lissorhoptrus oryzophilus)、サビヒョウタンゾウムシ(Scepticus griseus)、アリモドキゾウムシ(Cylas formicarius)、シバオサゾウムシ(Sphenophrus venatus vestius)、コクゾウムシ(Sitophilus zeamaise)等のゾウムシ類、キスジノミハムシ(Phyllotreta striolata)、ウリハムシ(Aulacophora femoralis)等のハムシ類、オキナワカンシャクシコメツキ(Melanotus okinawaensis)等のコメツキムシ類、マツノマダラカミキリ(Monochamus alternatus)、ゴマフカミキリ(Mesosa myops)等のカミキリムシ類、ニホンキクイムシ(Scolytus japonicus)、ハンノキキクイムシ(Xylosandrus germanus)等のキクイムシ類、及びチャイロコメンゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)、コクヌストモドキ(Tribolium castaneum)等のゴミムシダマシ類である。
【0026】
そして、本発明の方法は、鱗翅目、鞘翅目および双翅目害虫が加害する広範囲の植物を保護する為に使用することができ、対象となる植物の具体例としては、なばな、ケール、こまつな、チンゲンサイ、オクラ、ほうれんそう、かぶ、カリフラワー、キャベツ、はくさい、ブロッコリー、食用ストック、わさびだいこん、かいわれだいこん、だいこん、きゅうり、メロン、すいか、にがうり、レタス、きく、しゅんぎく、食用ぎく、ふき、しそ、しょうが、パセリ、にんじん、みつば、ピーマン、トマト、なす、いちご、さくら葉、アスパラガス、にんにく、ねぎさやえんどう等の野菜類、水稲等の稲類、小麦等の麦類、だいず等の豆類、かんしょ、やまのいも、サツマイモ、里芋等のいも類、かき、おうとう、もも、なし、りんご等の果樹類、とうもろこし等の雑穀類、しいたけ等のきのこ類、サトウキビ、茶、たばこ等の特用作物、ゴルフ場、庭園等における芝生、さくら、つばき、さざんか、プラタナス、さつき、つつじ、宿根かすみそう等の観賞用植物、スダジイ、ヒサカキ、フェニックス・ロベレニー等の植林地及び公園等の非農耕地の樹木等や、森林の樹木及び苗木等にも使用可能である。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は下記の例に何等限定されるものではない。
【0028】
実施例1:イチゴ生葉の水層およびエーテル層のハスモンヨトウ3齢幼虫に対する生物検定試験
図1に示したような方法でイチゴ生葉から各画分を得た。まず、イチゴ生葉2kgを80%メタノール/水に完全に浸漬させた。室温、暗所で3日間静置した後、綿ろ過し、メタノール抽出液を得た。その操作を再度繰り返し、合一したメタノール抽出液を濃縮乾固してメタノール抽出物(162.5g)を得た。得られた粗抽出物のうち、イチゴ生葉500g相当量(41.3g)を水に懸濁し、分液漏斗を用いてエーテルで5回分液した。得られた両画分をそれぞれ濃縮乾固し、水層(38.3g)とエーテル層(31.5g)を得た。イチゴ生葉100g相当量の水層(76.2g)を以下に示した分析条件で逆層系のODSカラムを用いた中圧LCに供し、水、20%メタノール/水、40%メタノール/水、およびメタノールで順次溶出し、水画分(4.12g)、20%メタノール/水画分(0.56g)、40%メタノール/水画分(0.67g)、メタノール画分(0.36g)を得た。
【0029】
中圧LC条件
Pump:YAMAZEN PUMP、
Column:(ODS:230g, Size:30mmΦ×50mm)、
Flow Rate :20mL/min、
【0030】
イチゴ生葉粗抽出物をエーテルで分液し、得られた水層およびエーテル層をハスモンヨトウ生物検定に供した。供試試料溶液は2gイチゴ生葉相当量/ml(以後2g eq./mlと表記した)に調整した。
【0031】
生物検定に使用したハスモンヨトウ(Spodoptera litura FABRICIUS)は、日本植物防疫協会から分与を受けたものと、南国市のサトイモ畑および高知大学農学部の圃場より採取したものを温度25℃、16時間照明8時間暗黒下で人工試料インセクターを与えて飼育した。供試植物のナス葉(品種:千両)は、高知大学農学部内で栽培したものを用いた。供試BT剤には、市販のシュードモナス・フルオルエッセンス菌(Pseudomonas fluorescens)の産生するBT由来の結晶性蛋白毒素7.0%を含有するBT水和剤(レピタームフロアブル:日本曹達株式会社)を用いた。
【0032】
生物検定は試料溶液にBT剤を最終的に2,000倍希釈されるように加え、さらに展着剤を10,000倍希釈されるように加えた。この溶液にナス生葉のリーフディスク(直径20mm)を20秒間浸漬させた。風乾後、このリーフディスク一枚を市販のポリプロピレン製のカップ(直径50mm、深さ30mm)内に置き、ハスモンヨトウ3齢幼虫10頭を放飼した。室温25℃、16時間照明8時間暗黒下で24時間毎に5日間の生存率を調べた。ポジティブコントロールとして、展着剤のみを加えた水(以降水のみと表記した)を、ネガティブコントロールとしてBTおよび展着剤を加えた水(以降BTのみと表記した)を用いた。なお、リーフディスクは毎日交換した。生存率(%)=[(放虫数−死亡虫数)/放虫数]×100とし、共食いによる死亡と判断される個体数は死亡個体数として数えなかった。
【0033】
生物検定の結果を図2に示した。図2が示すように、2日目までは水層およびエーテル層ともにBTのみと同程度の生存率であった。しかし、3日目以降では、エーテル層はBTのみと共に生存率が急激に低下したのに対し、水層では生存率の低下は比較的緩やかであった。5日目の生存率はエーテル層で15.6%であるのに対し、水層では69.8%と高かった。以上のことから水層にBT剤感受性を低下させる化学成分が含まれていることが考察された。
【0034】
水層にBT剤感受性低下活性があったことから、水層を図1に示したようにODSカラムを用いて水画分、20%メタノール/水画分、40%メタノール/水画分、メタノール画分に分画し、これらの各画分を上記と同様な方法で生物検定試験を行った。その結果を図3に示した。図3が示すように、5日目の生存率は最も低かった水画分でも39.4%、最も高かった20%メタノール/水画分では50.0%あり、いずれの画分においても、ほぼ同等の活性が見られた。
【0035】
実施例2:イチゴ生葉ODS各画分に含まれるBT阻害活性物質の特定、定量およびハスモンヨトウ3齢幼虫に対する生物検定試験
BT剤中の結晶蛋白毒素は昆虫の中腸内のアルカリ性条件下で分解されて殺虫活性を発現する。したがって、イチゴ葉中の有機酸がBT剤感受性低下に関与しているのではないかと推察された。そこで、以下の条件でHPLCを実施し、水画分の各種有機酸の定量を行った。次に、クエン酸、α−ケトグルタル酸、コハク酸、L−リンゴ酸、マロン酸、酒石酸の各種有機酸標品についても同じ条件で分析した。これらの内、ODS水溶出部において検出された有機酸について、積分値により最小二乗法を用いて検量線を作成し、イチゴ生葉1g中の含有量を定量した。
【0036】
水画分のHPLC分析
Pump:DHIMADZU LC −10AD VP、
Detector:SHIMADZU SPD−10A VP、
Column:COSMOSIL5C18 −AR−II(Size:4.6mmΦ×250mm)、
Flow Rate :1.0mL/min、
Solvent :20mM−H3PO4
Wavelength:210nm。
【0037】
分析の結果、図4に示すようにODS水溶出部には、L−リンゴ酸、α−ケトグルタル酸、クエン酸、コハク酸が含まれていると分かった。これらの有機酸の定量の結果を表1に示した。表1が示すように、イチゴ葉中には有機酸が高濃度で存在することが分かった。したがって、ハスモンヨトウがイチゴ葉を食べた際、高濃度の有機酸により中腸内のpHが局部的に酸性となり、BT剤の殺虫活性発現を阻害する可能性が推察された。
【0038】
【表1】

【0039】
次に、20%メタノ−ル/水画分について以下の条件でHPLCを行い、標品とのリテンションタイムの比較の結果、(+)−カテキンの存在を確認した。(+)−カテキンはイチゴ生葉1g当たりに1.10mg含まれていた。結果を図5に示した。
【0040】
20%メタノール/水画分のHPLC分析
Pump:DHIMADZU LC −10AD VP、
Detector:SHIMADZU SPD−10A VP、
Column:CAPCELL PAK C18(Size :4. 6mmΦ×250mm)、
Flow Rate:1.0mL/min、
Solvent:MeCN:H2O:AcOH=10:90:1、
Wavelength:254nm。
【0041】
(+)−カテキンなどのフラボノイドはタンニンの一種である。タンニンはタンパク質と不可逆的に縮合することにより、複合体を形成することが知られている。したがって、(+)−カテキンもBT剤中の結晶性タンパク毒素と縮合し、複合体を形成することで昆虫体内での分解が阻害され、これによりBT剤の殺虫活性発現を阻害する可能性が推察された。
続いて、40%メタノール/水画分ついて以下の条件でHPLC分析を行った結果、40%メタノール/水画分は図6に示したようにほぼ単一のピークからなり、あらかじめ単離精製されていたクエルセチン3−O−β−D−グルクロノピラノイド(Quercetin 3−O−β−D−glucuronopyranoide)とのリテンションタイムの比較から、クエルセチン3−O−β−D−グルクロノピラノイド(Quercetin 3−O−β−D−glucuronopyranoide)が40%メタノール/水画分の活性成分であることが考えられた。クエルセチン3−O−β−D−グルクロノピラノイド(Quercetin 3−O−β−D−glucuronopyranoide)はイチゴ生葉1g当たりに1.59mg含まれていた。
【0042】
40%メタノール/ 水画分のHPLC分析
Pump:DHIMADZU LC −10AD VP、
Detector:SHIMADZU SPD−10A VP、
Column:CAPCELL PAK C18(Size:4.6mmΦ×250mm)、
Flow Rate:1.0mL/min、
Solvent:MeCN:H2O:AcOH=17:83:1、
Wavelength:254nm。
【0043】
クエルセチン(Quercetin)もタンニンの一種であり、(+)−カテキンと同様に、結晶性タンパク毒素と縮合し、複合体を形成することで昆虫体内での分解が阻害され、これによりBT剤の殺虫活性発現を阻害することが推察された。
【0044】
最後に、メタノール画分に含まれる化学成分については解明されていないものの、40%メタノール/水画分の主成分であったクエルセチン3−O−β−D−グルクロノピラノイド(Quercetin 3−O−β−D−glucuronopyranoide)が含まれていることが考えられたため、下記の条件でHPLCを用いて分析した。次に単離精製したクエルセチン3−O−β−D−グルクロノピラノイド(Quercetin 3−O−β−D−glucuronopyranoide9をHPLCに供し、リテンションタイムを比較した。
【0045】
メタノール画分のHPLC分析
Pump:DHIMADZU LC −10AD VP、
Detector:SHIMADZU SPD−10A VP、
Column:CAPCELL PAK C18(Size :4.6mmΦ×250mm)、
Flow Rate:1.0mL/min、
Solvent:MeCN:H2O:AcOH=17:83:1、
Wavelength:254nm。
【0046】
図7に示したように、メタノール画分もほぼ単一のピークからなることが明らかになった。そのリテンションタイムはクエルセチン3−O−β−D−グルクロノピラノイド(Quercetin 3−O−β−D−glucuronopyranoide)のものとは異なることから、異なる化合物であることが明らかとなった。
【0047】
上述した方法において同定されたイチゴ生葉ODS各画分の成分についてBT剤のハスモンヨトウ殺虫阻害活性を調べるため、有機酸、(+)−カテキン標品、単離精製したクエルセチン3−O−β−D−グルクロノピラノイド(Quercetin 3−O−β−D−glucuronopyranoide)、およびこれら3つの混合物(図にはMixと表記)を実施例1と同様な方法でハスモンヨトウ3齢幼虫を用いた生物検定に供した。供試試料溶液は2g eq./mlに調整し、BT剤を最終的に2,000倍希釈と展着剤を10,000倍希釈されるように加え、ナス生葉リーフディスクを用いた。
【0048】
生物検定の結果を図8及び9に示した。有機酸、(+)−カテキンおよびクエルセチン3−O−β−D−グルクロノピラノイド(Quercetin 3−O−β−D−glucuronopyranoide)の5日目の生存率はそれぞれ23.4、20.4、17.0%前後であり、低いながらも活性が見られた。Mixにおいても生存率は22.9%であった。しかし、図10では、Mixは5日目の生存率は59.5%と高い活性を示した。一方、イチゴ生葉粗抽出物をエーテルで分液し得られた水層の生存率は69.8%であり、Mixは水層ほどではないものの、比較的近い殺虫阻害活性があることが判明した。また、図8及び9に示した2つの実験結果に大きな差が出た原因は餌の摂食量の差によるものと推察された。以上より、有機酸、(+)−カテキン、およびクエルセチン3−O−β−D−グルクロノピラノイド(Quercetin 3−O−β−D−glucuronopyranoide)の3種類の化合物を混合することで水層に近い殺虫阻害活性を示すことが判明した。これら3種類の化合物に更に未同定であるメタノール画分に含まれる活性成分を混合することで、より水層での殺虫阻害活性に近づく可能性がある。
【0049】
実施例3:炭酸水素ナトリウム、アルブミンおよびカゼイン添加による、イチゴ葉におけるBT剤殺虫活性低下の対策方法検討試験
実施例2の結果より、BT剤感受性低下のメカニズムの可能性として、有機酸により昆虫の中腸内が酸性化し、BT剤の殺虫活性発現が阻害されることと、(+)−カテキンおよびクエルセチン3−O−β−D−グルクロノピラノイド(Quercetin 3−O−β−D−glucuronopyranoide)のフラボノイドにより、BT剤中の結晶性タンパク毒素が不溶化し、BT剤の殺虫活性発現が阻害されることの2つが考えられた。そこで、その対策方法として、アルカリ性物質を添加することにより腸内の酸性化を防止する方法と、過剰のタンパク質を添加することによりフラボノイド類とBT剤中の結晶性タンパク毒素の結合を阻害し、結晶性タンパク毒素の不溶化を防止する方法の2つを考えた。
【0050】
そこで、アルカリ性物質として炭酸水素ナトリウムを、タンパク質として卵白アルブミンおよびカゼインを用い、実施例1と同様な方法で生物検定に供した。ただし、供試試料溶液は10,000ppmLに調整し、イチゴ生葉リーフディスクを用いた。供試植物として用いたイチゴ葉(品種:レッドパール)は、香美郡香北町のイチゴ農家から分譲され、高知大学農学部内で栽培したものである。加えて、炭酸水素ナトリウム(10,000ppm)のハスモンヨトウに対する毒性も調べた(以降は炭酸水素ナトリウムのみと表記した。)。
【0051】
生物検定の結果を図10に示した。イチゴ生葉リーフディスクを用いたため、BTのみの生存率は5日目においても高く、水のみとほとんど差は見られなかった。また、炭酸水素ナトリウムのみでも生存率は水のみとほとんど差はないことから、炭酸水素ナトリウムのハスモンヨトウに対する毒性は低いと考えられた。これに対して、炭酸水素ナトリウム+BTの生存率は、BTのみや炭酸水素ナトリウムなどと比較して低下した。また、アルブミン+BTおよびカゼイン+BTにおいても、生存率はBTのみよりも低かったが、カゼイン+BTの場合で、より生存率の低下が大きかった。
【0052】
以上のことから、BT剤にアルカリ性物質またはタンパク質を添加することは、イチゴ葉におけるBT剤殺虫活性回復に有効であると考えられた。さらに、炭酸水素ナトリウムとアルブミンを混合した場合は、それら単独の場合よりもさらに生存率が下がった(5日目の生存率は約50%)ことから、アルカリ性物質またはタンパク質を混合することの有効性も見出した。
【0053】
実施例4:炭酸水素ナトリウムおよびアルブミンを添加したBT製剤の検討
実施例3の生物検定の結果、アルカリ性物質またはタンパク質を混合することの有効性を見出した。そこで、アルカリ性物質として炭酸水素ナトリウム、タンパク質としてアルブミンを添加したBT製剤を作成し、実施例3と同様な方法でイチゴ生葉リーフディスクを用いたハスモンヨトウ生物検定に供した。製剤は表2に示す様に、炭酸水素ナトリウムおよびアルブミンを各々(1)0.5、(2)1.0、(3)2.5、(4)5.0%の割合で添加した4種類を作成した。
【0054】
【表2】

【0055】
生物検定の結果を図11に示した。イチゴ生葉リーフディスクを用いたため、実施例3と同様にBTのみの生存率は5日目においても水のみとほとんど差がなく高かった。これに対して、炭酸水素ナトリウムとアルブミンを添加した製剤の場合は、0.5〜2.5%では添加割合が増えるほど阻害活性の軽減効果が高く、2.5%では5日目に40%まで生存率が低下した。しかし、5.0%では2.5%と殆ど生存率が変わらなかった。
【0056】
以上のことから、炭酸水素ナトリウムとアルブミンを添加したBT製剤はこれまで効果が低かったイチゴなどの植物を加害するハスモンヨトウ等の鱗翅目昆虫に対しても効果を示すことが確認された。また、混合する場合には各々1.0〜2.5%の間の混合割合が好ましいことが推察された。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】分画方法の工程を示すフロー図である。
【図2】水層及びエーテル層を投与したときのハスモンヨトウの生存率を示すグラフである。
【図3】ODS画分を投与したときのハスモンヨトウの生存率を示すグラフである。
【図4】水画分のHPLCプロフィールである。
【図5】20%メタノール/水画分のHPLCプロフィールである。
【図6】40%メタノール/水画分のHPLCプロフィールである。
【図7】メタノール画分中のHPLCプロフィールである。
【図8】各標品を投与したときのハスモンヨトウの生存率を示すグラフである。
【図9】水層及び標品混合物を投与したときのハスモンヨトウの生存率を示すグラフである。
【図10】アルカリ性物質及びタンパク質を用いたハスモンヨトウ生物検定結果を示すグラフである。
【図11】炭酸水素ナトリウム及びアルブミンを添加したBT製剤のハスモンヨトウ生物検定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)が産生する芽胞及び/または結晶性タンパク質を殺虫成分として含有するBT剤の殺虫効果を低減化させる影響を回避する害虫の防除方法であって、BT剤とアルカリ性物質及び/またはタンパク質を混合施用する方法。
【請求項2】
アルカリ性物質が、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びアンモニウムイオンの、水酸化物及び炭酸塩から選ばれる一種または複数種である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルカリ性物質が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水酸化マグネシウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、固形かんすい、液体かんすい、希釈粉末かんすい及び植物の灰から選ばれる一種または複数種である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
タンパク質が、乳タンパク質、卵タンパク質、肉タンパク質、穀類、種実類及び豆類等の植物種子の胚乳部に含まれる植物タンパク質、ペプチド、またはアミノ酸である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
タンパク質が、カゼイン、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン、血清アルブミン、プロテオース・ペプトン、オボアルブミン、オボトランスフェリン、オボコムド、オボムチン、リゾチーム、オボインヒビター、オボグリコプロテイン、オボフラボプロテイン、低密度リポタンパク質、リベチン、ホスビチン、高密度リポタンパク質、ミオシン、アクチン、トロポミオシン、トロポニン、α−アクチニン、コネクチン、ミオグロビン、α−コングリシン、β−コングリシン、γ−コングリシン、グリシニン、グロブリンγ1、グロブリンγ2、グロブリンγ3、アルブミン、プロラミン、グルテリン、グリアジンα1、グリアジンα2、グリアジンβ1、グリアジンβ2、グリアジンβ3、グリアジンβ4、13Sグロブリン、19Sグロブリン、コンアラキンI、IIのタンパク質、L−グルタミル−L−グルタミン酸、L−グルタミル−L−セリン、トリ−L−グルタミン酸、L−グルタミル−L−グリシル−L−セリン、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステルから選ばれるペプチド、及びリジン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、スレオニン、セリン、グルタミン酸、プロリン、グリシン、アラニン、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、システイン、トリプトファンのアミノ酸から選ばれる一種または複数種である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)が産生する芽胞及び/または結晶性タンパク質の殺虫効果を低減化させる影響を回避する害虫の防除剤であって、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)、その産生する芽胞及び/または結晶性タンパク質と、アルカリ性物質及び/またはタンパク質を含有する害虫防除剤。
【請求項7】
アルカリ性物質が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオンの、水酸化物及び炭酸塩から選ばれる選ばれる一種または複数種である請求項6に記載の害虫防除剤。
【請求項8】
アルカリ性物質が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水酸化マグネシウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、固形かんすい、液体かんすい、希釈粉末かんすい及び植物の灰から選ばれる一種または複数種である請求項8に記載の害虫防除剤。
【請求項9】
タンパク質が、乳タンパク質、卵タンパク質、肉タンパク質、穀類、種実類及び豆類等の植物種子の胚乳部に含まれる植物タンパク質、ペプチド、アミノ酸である請求項8に記載の害虫防除剤。
【請求項10】
タンパク質が、カゼイン、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン、血清アルブミン、プロテオース・ペプトン、オボアルブミン、オボトランスフェリン、オボコムド、オボムチン、リゾチーム、オボインヒビター、オボグリコプロテイン、オボフラボプロテイン、低密度リポタンパク質、リベチン、ホスビチン、高密度リポタンパク質、ミオシン、アクチン、トロポミオシン、トロポニン、α−アクチニン、コネクチン、ミオグロビン、α−コングリシン、β−コングリシン、γ−コングリシン、グリシニン、グロブリンγ1、グロブリンγ2、グロブリンγ3、アルブミン、プロラミン、グルテリン、グリアジンα1、グリアジンα2、グリアジンβ1、グリアジンβ2、グリアジンβ3、グリアジンβ4、13Sグロブリン、19Sグロブリン、コンアラキンI、IIのタンパク質、L−グルタミル−L−グルタミン酸、L−グルタミル−L−セリン、トリ−L−グルタミン酸、L−グルタミル−L−グリシル−L−セリン、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステルから選ばれるペプチド、及びリジン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、スレオニン、セリン、グルタミン酸、プロリン、グリシン、アラニン、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、システイン、トリプトファンのアミノ酸から選ばれる一種または複数種である請求項6に記載の害虫防除剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−1237(P2010−1237A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160585(P2008−160585)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)
【出願人】(000127879)株式会社エス・ディー・エス バイオテック (23)
【Fターム(参考)】