説明

Bi−CMOS構造を有する半導体装置

【目的】 電源電圧が例えば3V以下の低い電圧になっても、CMOSトランジスタを用いた回路よりも高速動作が可能なBi−CMOS構造を有する半導体装置を提供することができるようにする。
【構成】 プルダウン用のバイポーラトランジスタTr1にベース電流を供給するために設けられているMOSトランジスタTr2のしきい値を、同一チップ上に形成されている他のMOSトランジスタのしきい値よりも低くして、高速動作可能な電源電圧の値が上記しきい値の低下分だけ下がるようにする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はBi−CMOS構造を有する半導体装置に係わり、特に、低電圧で動作させるBi−CMOS構造を有する半導体装置に用いて好適なものである。
【0002】
【従来の技術】高速動作性に優れている等の理由により、Bi−CMOS構造を有する半導体装置が多く用いられるようになってきた。上記Bi−CMOS構造の回路は、バイポーラトランジスタとCMOSトランジスタとの複合によって構成されるデバイスで、例えば入出力等の周辺回路に使用されている。
【0003】Bi−CMOS構造の回路には、プルダウン側に設けられたNPNトランジスタのベースに、上記NPNトランジスタのベース電流を駆動するNMOSトランジスタのソースが接続された形の論理ゲート回路が多く用いられる。ところで、Bi−CMOS構造を有する半導体装置の最大の特徴は、従来の主流として用いられているCMOSトランジスタを用いた回路に対して、その動作速度が格段と優れている点にある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、Bi−CMOS構造の回路の高速動作性が発揮されるのは、電源電圧が3V以上ある場合であり、電源電圧が3V以下に低下すると遅延が急激に大きくなり、CMOSトランジスタを用いた回路に対する優位性が保たれなくなると一般に言われている。
【0005】その理由は、上述のNPNトランジスタが接地電位よりもNPNトランジスタのVBE(略一定)分だけ常に高い電位にあるので、電源電圧が低下した際に上記NMOSトランジスタの電流駆動能力の低下が著しく、この結果、NPNトランジスタの能力も低下するためである。
【0006】このような不都合を解決するために、C−Bi−C構造やBi−NMOS構造が提案されているが、C−Bi−C構造の場合にはPNPトランジスタを必要とする。しかしながら、上記PNPトランジスタは高速性を実現するのに問題があり、また、複雑なプロセスを必要とする不都合があった。一方、Bi−NMOS構造の場合は、プルダウン側にバイポーラトランジスタを使用するのを放棄したものであり、Bi−CMOS構造の回路本来の特徴を生かしているものではなかった。本発明は上述の問題点に鑑み、低い電源電圧で動作させるようになってもCMOS構造に対するBi−CMOS構造を有する半導体装置の高速動作性を保つことができるようにすることを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明のBi−CMOS構造を有する半導体装置は、MOSトランジスタとバイポーラトランジスタとが混在している回路で、プルダウン用に設けられているバイポーラトランジスタにベース電流を供給するMOSトランジスタのしきい値を、同一チップ上に作られている他のMOSトランジスタのしきい値よりも低くしている。また、本発明の他の特徴とするところは、上記バイポーラトランジスタにベース電流を供給するMOSトランジスタにおいては、イオンを注入する領域の不純物濃度を他のMOSトランジスタの不純物濃度と異ならせることにより、同一チップ上に作られている上記他のMOSトランジスタのしきい値よりも低くするようにしている。また、本発明のその他の特徴とするところは、上記バイポーラトランジスタにベース電流を供給するMOSトランジスタのソースと基板とを共通に接続することにより、同一チップ上に作られている他のMOSトランジスタのしきい値よりも低くするようにしている。
【0008】
【作用】プルダウン用のバイポーラトランジスタにベース電流を供給するためのMOSトランジスタのしきい値を、同一チップ上に作られている他のMOSトランジスタのしきい値よりも低くすることにより、最低動作電圧をその分だけ下げることができるようになり、Bi−CMOS構造の回路をより低い電源電圧まで高速に動作させることが可能となる。
【0009】
【実施例】図1は、本発明の一実施例を示すBi−CMOS構造の回路の構成図である。本実施例のBi−CMOS構造の回路は、プルダウン側のバイポーラトランジスタTr1に供給されるベース電流IBNは、数1に示すようになる。
【数1】


【0010】数1において、Vthn (−VBE)はVBE分だけバックゲート効果のかかったスレッシホールドVthであり、このVthn (−VBE)を下げれば、その分最低動作電圧を下げることができる。このMOSトランジスタは、図1中においてトランジスタTr2であるが、このMOSトランジスタTr2のスレッシホールドVthのみ下げればよいことになる。上記MOSトランジスタのスレッシホールドVthを下げるための具体的な手段は種々あるが、例えばプロセス条件を変更することにより、所定のMOSトランジスタのスレッシホールドVthのみを選択的にを下げることができる。
【0011】具体的には、スレッシホールドVthアジャストI2 を、マスクを追加することによって他のMOSトランジスタを打ち分けること等が考えられる。ところで、実際のBi−CMOS構造の回路は図2に示すように、バイポーラトランジスタTr1の蓄積時間を減少させる目的で、MOSトランジスタTr3を接続しているのが一般的である。この時、MOSトランジスタTr2のスレッシホールドVthが低すぎると、入力電圧が“L”でトランジスタTr2がオフしている場合、トランジスタTr3を通してリーク電流(図中Ilk)が流れてしまう。
【0012】このリーク電流Ilkは、スタンバイ電流等を増加させる要因となるので、むやみにスレッシホールドVthを下げられない。そこで、図3の回路図に示すようにトランジスタTr4を設け、このトランジスタTr4をチップセレクト出力CSにより選択的に動作させてスタンバイ時のリーク電流を遮断するようにすれば、この不都合を解決することができる。
【0013】次に、図4〜図6の回路図に従って本発明の第2実施例を詳述する。図4は、Bi−CMOSインバータに本発明を適用した例を示している。図4から明らかなように、本実施例のBi−CMOSインバータはNMOSトランジスタQ1のソースと基板とを共通に接続している。このように接続すると、ソース−基板間が逆バイアスされることがなくなるので、基板効果を無くすことができる。
【0014】すなわち、図4に示した本実施例のBi−CMOSインバータと、図7に示す従来のBi−CMOSインバータとを比較してみる。図7のBi−CMOSインバータは、出力端子が高レベルのときに入力端子が高レベルになると、NMOSトランジスタQ1aがオンしてNPNトランジスタTr10にベース電流を流す。すると、NPNトランジスタTr10がオンするが、このNPNトランジスタTr10の電流増幅率hFEは一般的に非常に大きいため、負荷容量Cの電荷を急速に引き抜き、出力端子は、低レベルとなる。
【0015】一方、出力端子が低レベルのときに入力端子が低レベルになると、PMOSトランジスタQ2aがオンしてNPNトランジスタTr20にベース電流を流す。これにより、上記NPNトランジスタTr20がオンして負荷容量Cを急速に充電するので、出力端子は高レベルとなる。以上のようにしてインバータ動作が行われる。
【0016】このような回路の欠点は、低電圧になると出力端子の高レベル→低レベルの遷移が急速に遅くなることである。何故ならば、出力端子電圧がVccで、入力端子がVccとなった瞬間のNMOSトランジスタQ2を流れる電流Idsは、数2に示すようになる。
【数2】


【0017】したがって、NPNトランジスタTr1を流れる電流はこのhFE倍である。ここで、VBE=0.7〔v〕、Vth=ΔVth=0.8〔v〕として、Vccが5vから3vに下がった場合、ドレイン−ソース電流Idsの減少の割合は、数3に示すようになる。ただし、ΔVthはNMOSのソースが基板接地電位よりも高いことに起因する基板バイアス効果によるVthの実効的な増加分であり、Idsの低下要因である。
【数3】


【0018】これに対して、通常のCMOSインバータにおけるドレイン−ソース電流Idsは、数4のようになる。
【数4】


したがって、この場合のドレイン−ソース電流Idsは数5に示すようになる。
【数5】


【0019】スイッチング時間は、ドレイン−ソース電流Idsに反比例すると考えられるから、Bi−CMOSトランジスタのCMOSトランジスタに対する優位性は、低い電源電圧でははっきりしなくなる(或いは逆転する)。
【0020】これに対し、図4に示した本実施例のBi−CMOSインバータは、ソース−基板間が逆バイアスされることがなくなるので、ΔVthを0にすることができる。この場合、NMOSトランジスタQ1を流れる電流Idsは、数6となる。
【数6】


そこで、Vcc=3vにおけるIdsを従来例および本発明とで比較すると、数7に示すように本発明の回路が約4.6倍の高速性を実現することができる。
【数7】


【0021】以上はNMOSトランジスタQ1、Q1aが飽和領域であるとして説明したが、非飽和領域においても本発明の有効性は同様に発揮される。また、図5に示すBi−CMOSの2入力ナンド回路や、図6に示す2入力ノア回路等に対しても本発明は有効であり、とりわけナンドゲートの場合にはNMOSトランジスタQ1,Q2が直列に接続されるために、本発明による改善効果は非常に大きくなる。
【0022】
【発明の効果】本発明は上述したように、プルダウン用のバイポーラトランジスタにベース電流を供給するために設けられているMOSトランジスタのしきい値を、同一チップ上に形成されている他のMOSトランジスタのしきい値よりも低くするようにしたので、高速動作可能な電源電圧の値を上記しきい値の低下分だけ下げることができる。したがって、より低い電源電圧までBi−CMOS構造の回路をCMOS構造の回路よりも高速に動作させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示すBi−CMOS構造を有する半導体装置の回路図である。
【図2】Bi−CMOS構造のゲート回路の一般構成を示す回路図である。
【図3】スタンバイ時のリーク電流を遮断する例を示す回路図である。
【図4】Bi−CMOS構造のインバータの構成を示す回路図である。
【図5】Bi−CMOS構造のインバータの2入力ナンド回路の構成を示す回路図である。
【図6】Bi−CMOS構造のインバータの2入力ノア回路の構成を示す回路図である。
【図7】従来のBi−CMOS構造のインバータの一例を示す回路図である。
【符号の説明】
Tr1 プルダウン用バイポーラトランジスタ
Tr10 プルダウン用バイポーラトランジスタ
Tr2 電流供給用MOSトランジスタ
Tr3 蓄積時間減少用MOSトランジスタ
Tr4 リーク電流遮断用MOSトランジスタ
Q1 電流供給用MOSトランジスタ
C 負荷容量

【特許請求の範囲】
【請求項1】 MOSトランジスタとバイポーラトランジスタとが混在している回路で、プルダウン用に設けられているバイポーラトランジスタにベース電流を供給するMOSトランジスタのしきい値を、同一チップ上に作られている他のMOSトランジスタのしきい値よりも低くしたことを特徴とするBi−CMOS構造を有する半導体装置。
【請求項2】 上記バイポーラトランジスタにベース電流を供給するMOSトランジスタにおいては、イオンを注入する領域の不純物濃度を他のMOSトランジスタの不純物濃度と異ならせることにより、同一チップ上に作られている上記他のMOSトランジスタのしきい値よりも低くするようにしたことを特徴とする請求項1に記載のBi−CMOS構造を有する半導体装置。
【請求項3】 上記バイポーラトランジスタにベース電流を供給するMOSトランジスタのソースと基板とを共通に接続することにより、同一チップ上に作られている他のMOSトランジスタのしきい値よりも低くするようにしたことを特徴とする請求項1に記載のBi−CMOS構造を有する半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開平5−55901
【公開日】平成5年(1993)3月5日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−237215
【出願日】平成3年(1991)8月22日
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)