説明

C末端エステル転換による化学酵素的ペプチド合成

本発明は、加水分解酵素(E.C.3)の存在下において、アミノ酸のC末端t−アルキルエステルまたはペプチドのC末端t−アルキルエステルをアルコール(エステルのt−アルキル基に相当するt−アルコール以外)でエステル交換するステップを含んでなる、任意にN−保護されるアミノ酸C末端エステルまたは任意にN−保護されるペプチドC末端エステルを調製する方法に関する。本発明は、ペプチド結合形成を触媒する酵素の存在下において、ペプチド結合を通じて、活性化N−保護アミノ酸C末端エステルまたは任意にN−保護されるペプチドC末端エステルと、任意にC末端が保護されるアミノ酸または任意にC末端が保護されるペプチドとをカップリングするステップを含んでなる、ペプチドを調製する方法にさらに関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、活性化N−保護アミノ酸C末端エステルまたは任意にN−保護されるペプチドC末端エステルをカップリングするステップを含んでなる、ペプチドを調製する方法に関する。本発明は、N−保護アミノ酸C末端エステルまたは任意にN−保護されるペプチドC末端エステルを調製する方法にさらに関する。
【0002】
ペプチド、特にオリゴペプチドは、例えば医薬品、食品または飼料成分、農薬または美容の成分としての多数の用途を有する。
【0003】
本発明の目的では、ペプチドとはあらゆる2個以上のアミノ酸の鎖を意味する。本発明の目的では、「オリゴペプチド」とは、2〜200個のアミノ酸ベースの、特に2〜100個のベースの、より特に2〜50個のアミノ酸ベースの、好ましくはあらゆる2〜200個のアミノ酸の、より好ましくは2〜100個のまたは2〜50個のアミノ酸の直鎖ペプチドを意味する。「ポリペプチド」という用語は、オリゴペプチドについて規定されるよりもより多数のアミノ酸をベースとするペプチドについて使用される。
【0004】
化学酵素的ペプチド合成は、本発明の目的では、ペプチド結合が酵素カップリング反応によって形成されるペプチド合成と定義され、化学ペプチド合成に優るいくつかの利点を有する。例えば大規模生産の場合、アミノ酸側鎖保護が皆無または限定的にしか必要でないという事実のために、原価がより低い。また本方法はより環境に優しい。例えばジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)または1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミドメチオジド(EDCI)などの化学量論量の有毒化学試薬が必要でない。さらにこのような方法は、より少ない有機溶剤を使用して実施されてもよい。さらに酵素触媒カップリングはラセミ化を欠いており(例えば、Sewald and H.−D.Jakubke,“Peptides:Chemistry and Biology”,1st reprint,Ed.Wiley−VCH Verlag GmbH,Weinheim 2002,p250を参照されたい)、より純粋な生成物および/またはより容易な単離につながる。
【0005】
化学酵素的カップリング法に関して、ペプチド結合を作り出す2つのオプションがある。いわゆる熱力学的(または平衡状態制御)アプローチでは、カルボキシ構成要素が遊離カルボン酸官能基を保持するのに対し、動力学的制御アプローチでは、好ましくはアルキルエステルの形態、例えばメチルエステル形態の活性化カルボキシ構成要素が使用される。
【0006】
「活性化された」という用語は、アミノ酸またはペプチドがC末端カルボキシ基にカップリングされる動的酵素的カップリング反応において、C末端カルボキシル基がかなりの反応性を示し、特にC末端t−アルキルエステルなどのC末端保護カルボキシル基と比較してより高い反応性を示すことを意味するのに使用される。活性化エステル基としては、特に任意に置換されるメチルエステル、エチルエステル、n−プロピルエステル、n−ブチルエステルなどのC末端が任意に置換されるn−アルキルエステルと、特に任意に置換されるベンジルエステルなどのアラルキルエステルと、特にアミノ酸またはペプチドの任意に置換されるフェニルエステルなどの任意に置換されるアリールエステルとが挙げられる。置換基は、酸素、イオウ、および窒素などの1つ以上のヘテロ原子を含んでなる任意に保護される官能基の群から特に選択されてもよい。その例としては、水酸基、チオール基、およびアミン基が挙げられる。
【0007】
熱力学的アプローチには3つの主要な不都合な点がある。i)平衡状態は通常、ペプチド結合切断の側にあるのでカップリング収率が低い。ii)大量の酵素が通常必要とされる。iii)反応速度が通常非常に低い。動力学的制御アプローチでは、出発原料としてアルキルエステルを必要とするが、必要な酵素ははるかに少なく、反応時間が顕著により短く、何よりも最大入手可能収率が通常相当により高い。したがって産業上の利用では、動的アプローチに基づく、すなわち活性化カルボキシ構成要素を用いた酵素的ペプチド合成の概念は最も魅力的である(例えば、N.Sewald and H.−D.Jakubke,“Peptides:Chemistry and Biology”,1st reprint,Ed.Wiley−VCH Verlag GmbH,Weinheim 2002,section 4.6.2を参照されたい)。
【0008】
化学酵素的ペプチド合成は、C→N末端方向またはN→C末端方向で実施できる。
【0009】
C→N末端方向の化学酵素的ペプチド合成の例をスキーム1に示す。
スキーム1
【化1】



【0010】
スキーム1では、PはN−末端保護基を表す。R、R、およびRは、それぞれ独立してアミノ酸側鎖を表す。スキーム1によって示されるように、C→N末端方向の酵素的合成は、式IIのC末端保護アミノ酸と式IaのN−保護アミノ酸との酵素的カップリングに始まり、後者はこの場合はメチルエステルによってC−活性化される。
【0011】
本明細書において「C末端保護」という用語は、C末端カルボキシル基に保護基を提供して、一般にカルボキシル基が別の分子のアミン基とカップリングされることから実質的に保護することを意味するのに使用される。特にC末端保護基は、使用されるペプチド合成条件下において、C末端カルボキシル基がアミンとカップリングされることから少なくとも実質的に保護する、C末端エステルであってもよい。一般に本発明に従った方法では、t−アルキルが保護基として使用される。
【0012】
本明細書において「N−末端保護」という用語は、N−末端アミン基に保護基を提供して、一般にC末端カルボキシル基のN−末端アミン基へのカップリングに、N−末端アミン基が加わることから少なくとも実質的に保護することを意味するために使用される。
【0013】
式IIIの形成されたペプチドは次にN−脱保護されてもよく、得られた式IVのペプチドは遊離アミノ官能基を保有して、引き続いて別の式IbのN−保護(およびC−活性化)アミノ酸構成単位に酵素的にカップリングされて、式Vのペプチドの形成をもたらしてもよい。このN−脱保護およびカップリングサイクルを所望のペプチド配列が得られるまで反復してもよく、その後NおよびC末端保護基を除去して、所望の(非保護)ペプチドを得てもよい。もちろん式IaのN−保護アミノ酸と、式IIのC末端保護アミノ酸の代わりに、C末端保護ペプチドとをカップリングすることも可能である。
【0014】
C→N末端方向のペプチド合成の主な不都合な点は、各サイクル後にN−保護基が除去され、さらなるN−保護アミノ酸残基が付加されてしまうことである。アミノ酸(エステル)上への(高価な)N−保護基の導入およびペプチドカップリング後のこの同じ(高価な)N−保護基の除去、および通常、廃棄により、C→N方向のペプチド合成は実用的および経済的観点から魅力的ではない。
【0015】
N→C末端方向の酵素的ペプチド合成の例をスキーム2に示す。
スキーム2
【化2】



【0016】
スキーム2では、PはN−末端保護基を表す。R、R、およびRは、それぞれ独立してアミノ酸側鎖を表す。スキーム2によって示されるように、N→C末端方向の酵素的合成はまた、式IIaのC末端保護アミノ酸と式IのN−保護アミノ酸との酵素的カップリングに始まり、後者の化合物はこの場合はメチルエステルによってC−活性化される。形成された式IIIのジペプチドは次にC−脱保護されてもよい(下記参照)。
【0017】
遊離カルボン酸官能基を保有する得られた式VIのジペプチドを次に「再活性化」して、スキーム2の場合はメチルC末端エステルである、式VIIのN−保護ペプチドC末端アルキルエステルを形成してもよい。このエステル化は典型的に、アルコール(例えばメタノール)および硫酸または塩化チオニルなどの試薬を使用して、化学転換によって実施される。式VIIのN−保護ペプチドアルキルエステルは、引き続いて式IIbの別のC末端保護アミノ酸とカップリングしてもよく、これは式VIIIのトリペプチドの形成をもたらす。このC−脱保護およびカップリングサイクルは、所望のアミノ酸配列が得られるまで反復してもよく、その後、N−末端およびC末端保護基を除去して、所望の(非保護)ペプチドを得てもよい。もちろん式IのN−保護アミノ酸と、式IIaのC末端保護アミノ酸の代わりに、C末端保護ペプチドとをカップリングすることもできる。
【0018】
N→C末端方向のペプチド合成は、(高価な)N−保護基の付加と除去の反復を必要としない。しかしさらなるアミノ酸残基を付加できるようにするために、2つの反応ステップが必要である。C−末端は選択的脱保護を必要とし、その後それは例えば形成されたカルボン酸基のエステル化によって、選択的に活性化されなくてはならない。したがってN→C末端方向のペプチド合成では、N−保護ペプチドに1個のアミノ酸残基を付加するために、全部で3つの反応ステップ(脱保護、活性化、およびカップリング)が必要である。
【0019】
式IIIのペプチドに適したC末端脱保護方法は、使用される保護基X次第で選択されもよい。例えばXがt−ブチルまたは別の三級アルキルである場合、t−アルキル基は典型的に強酸、特にトリフルオロ酢酸(TFA)を使用して化学的に切断される。
【0020】
TFAを使用したC末端t−アルキル脱保護は、成長するペプチド鎖において、特に微量の水が存在する場合に、様々な副反応をもたらし得る。このような副反応の例は、側鎖基のt−アルキル化、側鎖基の脱保護、例えばペプチド結合の加水分解である、酸不安定性官能基のN−脱保護および加水分解である。
【0021】
TFAの完全なまたはほぼ完全な除去は、面倒(そして高価)であるが、次のC末端保護アミノ酸との酵素的カップリングで使用するためなど、C末端カルボン酸を再活性化する場合、非常に重要である。
【0022】
したがって当該技術分野で、カルボキシアミドをC末端保護基として使用することは有利であると見なされる(スキーム2におけるX=NH)。保護基としてのカルボキシアミドがある式IIaのアミノ酸構成単位は、例えば調製が単純で対費用効果の高いワンポット工程におけるアミノ酸のメチルエステル化と、それに続くにアンモニアによるアミド化よって調製してもよい。強鉱酸水溶液を使用した、従来の手段によるカルボキシアミド切断は、ペプチド結合の同時部分的切断を引き起こす。しかしペプチド結合切断なしのペプチドのカルボキシアミド保護C−末端の選択的脱保護を酵素的に行うことができる。欧州特許出願公開第A0456138号明細書および欧州特許出願公開第A0759066号明細書は、それぞれオレンジのフラベドからの、またはキサントモナス(ステノトロホモナス)マルトフィリア(Xanthomonas(Stenotrophomonas)maltophilia)からのペプチドアミダーゼを使用する酵素的工程を開示し、N−(非)保護ジペプチドC末端カルボキシアミドのカルボキシアミド基は加水分解されて対応するC末端カルボン酸が形成され、それによってジペプチドのペプチド結合が無傷のまま残る。
【0023】
しかし欧州特許出願公開第A0456138号明細書および欧州特許出願公開第A0759066号明細書に記載されている方法の不都合な点は、アミノ酸によるペプチド鎖のさらなる各延長のために、(カルボン酸基を活性化するための)形成された対応するカルボン酸の別個のエステル化が必要なことである。別の不都合な点は、硫酸または塩化チオニルなどの試薬の存在下におけるこのカルボン酸のエステル化が本質的に非水性条件を必要とする一方、C末端カルボキシアミドの酵素的脱保護反応は水溶液中で実施されることである。したがって徹底的な抽出および乾燥操作が必要である。
【0024】
国際公開第2007/045470号パンフレットで開示される改善された方法では、ペプチドアミダーゼの存在下において、ペプチドC末端カルボキシアミドとアルキルアルコールとを反応させる特異的酵素を使用することで、このような不都合が克服される。ペプチドアミダーゼは特に柑橘類からのフラベドからのものであってもよく、一般に容易に大量には入手できない。ペプチドアミダーゼが活性であるためには、反応は好ましくは一般に0.5重量%を超え、最も好ましくは少なくとも5重量%の水の存在下において実施される。さらにアンモニアが形成される。アンモニア錯化剤は、主に反応中にアンモニアを除去して、反応の平衡状態をエステル合成側に偏らせるために必要とされる。反応を実施するための追加試薬または助剤の添加は、反応系をより複雑にし、および/または製品に不純物を導入するかもしれない。
【0025】
ペプチドを合成するための、および/またはペプチド合成のために使用できる中間体化合物を調製するための代案の方法に対する必要性が残る。このような方法は、例えばペプチド合成における柔軟性を増大させ、および/または既知の方法を使用して得られない、または得ることが比較的困難な特定ペプチドの合成を可能にする、追加的方法を提供してもよい。
【0026】
特に比較的環境に優しい、比較的単純な方法に対する必要性が残る。
【0027】
転換するC末端エステルを化学的に加水分解する必要なしに、アミノ酸またはペプチドのC末端t−アルキルエステル、特にそのペプチドC末端t−ブチルエステルを別のC末端エステルに変換できる、比較的単純な方法を提供することもまた望ましいであろう。
【0028】
特に調製される各アミノ酸エステルおよびペプチドエステルとは異なるアミノ酸C末端エステルまたはペプチドC末端エステルから、アミノ酸C末端エステルまたはペプチドC末端エステルを(許容可能な反応時間内に)高収率および/または良好な選択性で調製できる方法を提供することが望ましいであろう。特に医薬品、食品または飼料成分、農薬または美容成分として使用されるペプチド、または医薬品、食品または飼料成分、農薬または美容成分の製造において使用されるペプチドの調製において、このような方法を使用することが特に望ましいであろう。
【0029】
C末端カルボキシル基がt−アルキル基で保護されているN−保護アミノ酸または任意にN−保護されるペプチドを特異的酵素存在下において反応させることで、N−保護アミノ酸C末端エステルまたはペプチドC末端エステル、特にC−活性化N−保護アミノ酸または(任意にN−保護される)C−活性化ペプチドを得ることができることがここで見出された。
【0030】
アミノ酸またはペプチドと別のアミノ酸またはペプチドとをN→C末端方向にカップリングすることで、化学的C末端脱保護および引き続くカルボン酸官能基の化学的活性化を必要とせず、ペプチドを合成できることもまたさらに見出された。
【0031】
したがって本発明は、
加水分解酵素の存在下において、第1のN−保護アミノ酸のC末端エステルまたは第1の任意にN−保護されるペプチドのC末端エステルを活性化アルコールでエステル交換し、それによって第2のN−保護アミノ酸C末端エステルまたは第2の任意にN−保護されるペプチドC末端エステルを形成するステップと、
エステル交換に使用される酵素と同一であってもまたは異なってもよい、ペプチド結合形成を触媒する加水分解酵素の存在下において第2のエステルと任意にC末端が保護されるアミノ酸または任意にC末端が保護されるペプチドとをカップリングして、ペプチド結合を形成するステップと
を含んでなる、活性化N−保護アミノ酸C末端エステルまたは活性化任意にN−保護されるペプチドC末端エステルをカップリングするステップを含んでなる、ペプチドを調製する方法に関する。
【0032】
通常、第1のアミノ酸または第1のペプチドのC末端エステルは、t−アルキルエステルである。
【0033】
本発明は、加水分解酵素存在下において、活性化アルコールによって、N−保護アミノ酸のC末端カルボン酸基またはその塩、または任意にN−保護されるペプチドのC末端カルボン酸基またはその塩を活性化するステップと、活性化のために使用される酵素と同一であってもまたは異なってもよい加水分解酵素の存在下において、任意にC末端が保護されるアミノ酸または任意にC末端が保護されるペプチドと、活性化アミノ酸またはペプチドとをカップリングするステップとを含んでなる、ペプチドを調製する方法にさらに関する。
【0034】
本明細書において「活性化アルコール」という用語は、エステル化(エステル交換)後に活性化C末端カルボキシエステル基を提供するアルコールについて使用される。
【0035】
C末端保護アミノ酸またはペプチドは通常、t−アルキルエステルであるが、特に最終製品がジペプチドである場合、C末端基は原則として別の保護基によって保護されてもよい。
【0036】
ペプチド結合形成を触媒する酵素は、エステル交換のために使用される酵素と異なってもよく、酵素がペプチド結合形成を触媒できれば同一であってもよい。
【0037】
本発明は、加水分解酵素の存在下において、第1のエステルのt−アルキル基に相当するt−アルキルアルコール以外のアルコールで、N−保護アミノ酸のC末端t−アルキルエステルまたは任意にN−保護されるペプチドのC末端t−アルキルエステルをエステル交換するステップを含んでなる、N−保護アミノ酸C末端エステルまたは任意にN−保護されるペプチドC末端エステルを調製する方法にさらに関する。
【0038】
特に断りのない限り、酵素的に活性化され、エステル化またはエステル交換される化合物は、下文において「基質」と称されることもある。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1A】(A)85:15v/vのCHCN:MeOH、(B)9:1v/vのBuOH:MeOHを使用した、Alcalase(登録商標)によるZ−Phe−OBuからZ−Phe−OMeへのエステル交換の反応時間の関数として変換を示す。
【図1B】(A)85:15v/vのCHCN:MeOH、(B)9:1v/vのBuOH:MeOHを使用した、Alcalase(登録商標)によるZ−Phe−OBuからZ−Phe−OMeへのエステル交換の反応時間の関数として変換を示す。
【図2】Alcalase(登録商標)によるZ−Phe−OBuからZ−Phe−OEtへのエステル交換の反応時間の関数として変換を示す。
【図3】Alcalase(登録商標)によるZ−Phe−OBuからZ−Phe−OBnへのエステル交換の反応時間の関数として変換を示す。
【図4】Alcalase(登録商標)によるモデルジペプチドのエステル化、エステル交換、および加水分解を図示する、反応スキーム、各ペプチド結合切断を示す。
【図5A】A)共沸性水除去によるAlcalase(登録商標)による、Z−Phe−OHからZ−Phe−OBuへの経時的変換、およびB)対応する反応の経時的含水量を示す。
【図5B】A)共沸性水除去によるAlcalase(登録商標)による、Z−Phe−OHからZ−Phe−OBuへの経時的変換、およびB)対応する反応の経時的含水量を示す。
【0040】
「Organic Letters,2001,Vol3,No.26,p4157−4159」において、LiuおよびTamは、サブチリシンカールスバーグ(Carlsberg)が、1,3−プロパンジオール中および1,4−ブタンジオール中で、そのC末端カルボン酸官能基が保護されていない特定のBoc−アミノ酸およびペプチドのC−αカルボニル3ヒドロキシプロピルまたは4ヒドロキシブチルエステルの形成を触媒できることを報告した。アミノ酸C末端t−アルキルエステルまたはペプチドC末端t−アルキルエステルを活性化し、次に別のアミノ酸またはペプチドとカップリングする方法によって、ペプチドを調製することは開示されていない。
【0041】
意外にもt−アルキルエステル(t−アルキル基はカルボン酸官能基の適切な保護基であり、したがってペプチド合成で特に有用である)を異なるエステル基、特に活性化エステル基でエステル交換するのに、加水分解酵素が使用できることが分かった。
【0042】
特に活性化エステルへの保護エステルのエステル交換、および活性化アミノ酸またはペプチドと別のアミノ酸またはペプチドとのカップリングの双方で、加水分解酵素、より具体的には単一加水分解酵素を使用してもよいことは意外である。エステル交換収率が、本発明に従って加水分解酵素を利用した、ペプチドの効率的合成を可能にするのに、十分高いことは特に意外である。
【0043】
したがって本発明に従ったエステル交換は、特に上で述べた理由から不利であるTFAなどの強酸の必要なしに、良好な保護特性がある保護基であるt−アルキル保護末端カルボキシル基を脱保護する方法を提供する利点を提供するだけでなく、さらにt−アルキル保護末端カルボキシル基のC−脱保護とC−活性化が、本質的に一段階に組み合わされ、または少なくとも単一酵素によって触媒されて起きる。特に高い収率(すなわち反応終結時の活性化エステルのモル数/初期のC末端保護エステルのモル数)で、一段階で脱保護および活性化の双方を実現できることが分かった。
【0044】
さらに本発明を工業規模で実施できることが分かった。
【0045】
有利な実施態様では、本発明の方法は、特に少なくとも70%、より特に少なくとも80%、なおもより特に少なくとも90%の高収率で、第1のエステルを第2のエステルにエステル交換できるようにする。
【0046】
t−アルキルは、原則としてあらゆる保護三級アルキル基であってもよい。好ましくはt−アルキルは、t−ブチル(2−メチル−2−プロピル)、t−ペンチル(2−メチル−2−ブチル)、およびt−ヘキシル(2,3−ジメチル−2−ブチル)の群から選択される。特にt−ブチルで良好な結果が達成されている。
【0047】
本明細書において「加水分解酵素」という用語は、分類グループE.C.3からの酵素のために使用される。好ましくはカルボン酸エステル加水分解酵素(E.C.3.1.1)、チオールエステル加水分解酵素(E.C.3.1.2)、およびペプチダーゼ(E.C.3.4)の群から選択される1つ以上の加水分解酵素が使用される。
【0048】
特にペプチダーゼ(E.C.3.4)を使用してもよい。好ましいペプチダーゼは、セリン型カルボキシペプチダーゼ(E.C.3.4.16)、メタロカルボキシペプチダーゼ(E.C.3.4.17)、システイン型カルボキシペプチダーゼ(E.C.3.4.18)、セリンエンドペプチダーゼ(E.C.3.4.21)、システインエンドペプチダーゼ(E.C.3.4.22)、アスパラギン酸エンドペプチダーゼ(E.C.3.4.23)、およびメタロエンドペプチダーゼ(E.C.3.4.24)の群から、特にセリンエンドペプチダーゼ(E.C.3.4.21)から選択されるペプチダーゼである。サブチリシンカールスバーグ(Carlsberg)などのサブチリシン(E.C.3.4.21.62)で、特に良好な結果が達成されている。
【0049】
加水分解酵素はあらゆる形態で使用してもよい。例えば粗製酵素として、市販の酵素として、市販の製剤からさらに精製された酵素として、天然にまたは遺伝子改変を通じて加水分解活性を有する(任意に透過化されるおよび/または固定化される)細胞全体中で、またはこのような活性がある細胞溶解産物中で既知の精製方法の組み合わせによってその原料から得られる酵素として、分散体、エマルジョン、溶液の形態のまたは固定化形態の(例えば微粒子または一体化した担体材料である支持体に装填された)加水分解酵素を使用してもよい。
【0050】
加水分解酵素は、あらゆる生物から、特に動物、植物、細菌、カビ、酵母または真菌から得られ、またはそれに由来してもよい。
【0051】
本発明に従った方法において、加水分解活性がある天然(野性型)酵素の変異体もまた利用できることは、平均的な当業者にとって明らかであろう。野生型酵素の変異体は、例えば当業者に知られている変異誘発技術(ランダム変異誘発、部位特異的変異誘発、定方向進化、遺伝子シャフリングなど)を使用して、DNAが野生型酵素と少なくとも1つのアミノ酸が異なる酵素をコードするように、またはそれが野生型と比較してより短い酵素をコードするように、野生型酵素をコードするDNAを修飾することで、およびこのように修飾されたDNAの発現を適切な(宿主)細胞中でもたらすことで作成できる。加水分解酵素の変異体は、例えば基質選択性、活性、安定性、溶剤抵抗性、pHプロフィール、温度プロフィール、基質プロフィールの側面の1つ以上に関して改善された特性を有してもよい。
【0052】
特定起源からの酵素について述べる際、第1の生物に源を発するが、第2の(遺伝子改変)生物中で生成される組み換え酵素は、特に第1の生物からの酵素に含めることが意図される。
【0053】
加水分解酵素を得てもよい生物の例としては、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)などのトリコデルマ(Trichoderma)種;リゾプス・オリゼー(Rhizopus oryzae)などのクモノスカビ(Rhizopus)種;バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、枯草菌(Bacillus subtilis)バシラス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バシラス・クラウシイ(Bacillus clausii)、バシラス・レンツス(Bacillus lentus)、バシラス・アルカロフィルス(Bacillus alcalophilus)、バシラス・ハロデュランス(Bacillus halodurans)などのバシラス(Bacillus)種;コウジカビ(Aspergillus oryzae)またはアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)などのアスペルギルス(Aspergillus)種;ストレプトミセス・カエスピトーサス(Streptomyces caespitosus)またはストレプトミセス・グリセウス(Streptomyces griseus)などのストレプトミセス(Streptomyces)種;カンジダ(Candida)種;真菌;フミコラ(Humicola)種;リゾクトニア(Rhizoctonia)種;シトファジア(Cytophagia);ケカビ(Mucor)種;および動物組織、特にブタ膵臓、ウシ膵臓またはヒツジ膵臓などの膵臓が挙げられる。
【0054】
上述したように好ましい酵素はサブチリシンである。様々なサブチリシンが当該技術分野で知られており、例えば米国特許第5,316,935号明細書およびそこで引用されている参考文献を参照されたい。サブチリシンAは、ノボザイムズ(Novozymes)から市販されるサブチリシンである。
【0055】
特に好ましいのはサブチリシンカールスバーグ(Carlsberg)である。
【0056】
Alcalase(登録商標)は、特に本発明の方法で使用するのに適することが分かっている。この製品はデンマーク国バウスベア(Bagsvaerd,Denmark)のノボザイムズから入手できる。Alcalase(登録商標)は、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)によって生成される、安価で工業的に入手できるタンパク質分解酵素混合物である(主要酵素構成要素としてサブチリシンカールスバーグ(Carlsberg)を含有する)。精製されたサブチリシンを用いた実験では、サブチリシンがエステル交換、活性化、およびペプチド結合形成を触媒することが確認された。
【0057】
Alcalase(登録商標)などの市販される酵素は、液体、特に水性液として供給元によって提供され得る。このような場合、酵素は好ましくは、例えば望まれない副反応、特に望まれないエステル交換などを引き起こす過剰な水、アルコールなどの望まれない液体から最初に単離される。これは適切には沈殿によって達成されてもよく、通常の固体の液体からの分離、および/または乾燥がそれに続く。沈殿は、t−ブタノールなどのアルコールまたは本発明の方法で使用されるアルコールを使用して達成されてもよい。別のアルコールを使用する場合、このようなアルコールがC末端エステル交換または別の反応ステップを妨げないようにする注意が必要である。
【0058】
その後、酵素は、t−ブタノールなどのアルコールまたは本発明の方法で使用されるアルコールに溶解されてもおよび/または再懸濁されてもよい。
【0059】
ペプチドのC末端t−ブチルエステルの酵素的加水分解については既知である。例えば国際公開第2007/082890号パンフレットは、このようなエステルを加水分解するためのBsubpNBE、CAL−Aまたはサブチリシンの使用に言及する。しかしt−アルキルエステルの一級または二級アルキルエステルまたは任意に置換されるアラルキルエステルまたは任意に置換されるアリールエステルへの、熱力学的に好ましくない逆エステル化反応またはエステル交換が、加水分解活性酵素によって効率的に達成できることは意外である。80%を超える収率が可能であることは、特に意外である。
【0060】
その他の適切な加水分解酵素は、以下の市販製品の群、およびこのような酵素の機能的類似体から選択されてもよい。機能的類似体とは、類似体が本発明の方法において、ペプチド結合のエステル交換、活性化、および形成(ペプチドカップリング)機能の少なくとも1つ、好ましくはこれらの機能の2つまたは3つ全部を触媒できることを意味する。
【0061】
デンマーク国バウスベアのノボザイムズは、ovozyme、liquanase、Alcalase(登録商標)、Alcalase−ultra(登録商標)(特にアルカリ性pHで効果的)、duramyl、esperase、kannase、savinase、savinase ultra、termamyl、termamyl ultra、novobate、polarzyme、neutrase、novoline、pyrase、novocor(細菌アルカリ性プロテアーゼ)を提供する。
【0062】
プロテイナーゼ−Kは、米国マサチューセッツ州イプスウィッチのニュー・イングランド・バイオラボ(New England Biolabs(Ipswich,MA,USA))から入手できる。
【0063】
米国ノースカロライナ州フランクリントンのノボ・ノルディスク・バイオテック(Novo Nordisk Biochem North America Inc.(Franklinton,NC,USA))は、バシラス(Bacillus)種プロテアーゼ(Esperase 6.0T;Savinase 6.0T)、枯草菌(Bacillus subtilis)プロテアーゼ(Neutrase 1.5MG)、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)プロテアーゼ(Alcalase 3.0T)を提供する。
【0064】
米国バージニア州トロイのアマノ・インターナショナル・エンザイム株式会社(Amano International Enzyme Co.(Troy,Va,USA))は、枯草菌プロテアーゼ(Bacillus subtilis)(Proleather;プロテアーゼN)およびコウジカビ(Aspergillus oryzae)プロテアーゼ(Prozyme 6)を提供する。
【0065】
エステル化(エステル交換)または活性化のためのアルコール、および任意に例えばアセトニトリル、またはメチル−t−ブチルエーテル(MTBE)などのエーテルのような不活性有機溶剤を含んでなる混合物中で、反応を実施することができる。
【0066】
前記アルコールおよび不活性溶剤を含んでなる混合物中でエステル化(エステル交換)または活性化を実施することは、アルコールが酵素の安定性または活性に悪影響を及ぼす場合に特に有利である。エステル化(エステル交換)または活性化のためのアルコール濃度は、(全液体を基準にして)特に99.9重量%以下、99重量%以下、95重量%以下、75重量%以下、50重量%以下、30重量%以下20重量%以下または10重量%以下であってもよい。
【0067】
特にメタノールについては、良好な酵素安定性のために、すなわち調製されるエステルを所望の収率で得るのに十分な時間にわたって相当な酵素活性を保つために、主要溶剤としての別の(不活性)有機溶剤との混合物中におけるメタノールの使用が有利であることが分かった。
【0068】
通常、エステル化(エステル交換)または活性化のためのアルコール濃度は、有利な反応速度のために、少なくとも0.1重量%、特に少なくとも0.5重量%、好ましくは少なくとも1重量%、少なくとも2重量%、または少なくとも4重量%である。
【0069】
本発明の方法は、エステル化、エステル交換、または活性化のためのアルコールが主要溶剤である、反応媒体を使用して実施してもよい。主要溶剤として、濃度は全液体を基準にして通常50〜100重量%であり、特に最大99.5重量%である。反応媒体は通常、(前記アルコール、およびエステル交換の場合はC末端エステルから置換されたt−アルコールを除いて)反応に有害であり得る(反応中のアルコールと競合し得る)その他のアルコールを本質的に含まない。実際には、例えば5重量%未満、特に2重量%未満、より特には0.5重量%未満の少量のその他のアルコールが存在してもよい。
【0070】
本発明の方法は、通常、実質的に非水性条件下で実施される。当業者は理解するであろうように、酵素次第で、酵素がその触媒作用を適切に果たせるように少量の水が所望され得る。良好な触媒活性のために、例えば液相を基準にして少なくとも0.01重量%の微量の水の存在が所望され得る。特に水濃度は、少なくとも0.02重量%または少なくとも0.05重量%であってもよい。
【0071】
水濃度の所望の上限は、特定の酵素、ペプチドの性質(例えばサイズ、ペプチドがそれをベースとするアミノ酸)、所望の最終変換、および所望のエステル交換または活性化反応速度に左右される。
【0072】
反応媒体は、通常、反応媒体中の液体の重量を基準として、少なくとも活性化またはエステル化(エステル交換)の始めに、10重量%未満の水を含有する。反応媒体は第2の液相中に分散してもよく、または反応媒体中に別の液相が分散してもよい。二相系または多相系の場合、指定される含水量は相中の液体重量を基準とし、エステル化(エステル交換)または活性化反応は(少なくとも大部分は)、その中にアミノ酸またはペプチドが溶解する液相ベースで起きる。
【0073】
特に水濃度は、少なくとも活性化またはエステル化(エステル交換)の始めには、4重量%未満であってもよい。有利には本方法は、依然として少なくとも相当な所望の酵素活性を保ち、かつ望まれない加水分解が少ないかあるいは検出不能でさえある間、反応の始めには、2重量%未満の水、特に1重量%以下の水、より特には0.5重量%以下の水、例えば約0.2重量%以下の水などを含有する媒体中で実施されてもよい。
【0074】
有利な方法では、特にエステル化(エステル交換)中に形成されるアルコールまたは水を連続的にまたは断続的に除去してもよい。原則として除去は、当該技術分野で知られている様式で達成されてもよい。良好な結果は、特に分子篩を使用して達成されている。真空または蒸留を使用した共沸性除去などの蒸発もまた、除去に非常に良く適する。
【0075】
(少なくともエステル交換反応中はN−保護される)アミノ酸C末端エステルまたは任意にN−保護されるペプチドC末端アルキルエステルは、特に式IXの化合物によって表してもよい。
【化3】



【0076】
式中、PはHまたはN−末端保護基を表し、nは少なくとも1の整数である。nが1である場合、使用される酵素次第で、N−末端保護基の不在下では1つのエステルから別のエステルへの転換を達成するのは困難かもしれないので、Pは通常、N−末端保護基である。
【0077】
nは、特に少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも8、少なくとも9または少なくとも10であってもよい。nは、特に100以下、75以下、50以下、25以下、20以下15以下または10以下、例えば5以下であってもよい。
【0078】
各Rおよび各Rは、独立してH、または好ましくはアミノ酸側鎖である有機部分を表す。したがってRがn個の全アミノ酸単位で同じである必要はない。同様に、Rがn個の全アミノ酸単位で同じである必要はない。
【0079】
式IXがエステル交換されるエステルを表す場合、Rは典型的に任意に置換されるt−アルキル、好ましくはt−ブチルを表す。アルキルは特にヘテロ原子、より特にはN、O、およびSの群から選択されるヘテロ原子を含有する置換基を含んでなってもよい。例えば置換基は、任意に保護されるヒドロキシル、チオールまたはアミンであってもよい。
【0080】
適切なN−保護基は、(オリゴ)ペプチドの合成のために使用できるN−保護基である。このような基は当業者に知られている。適切なN−保護基の例としては、例えば「Z」(すなわちベンジルオキシカルボニル)、「Boc」(すなわちt−ブチルオキシカルボニル)、「For」(すなわちホルミル)、および「PhAc」(すなわちフェナセチル)、およびFMOC(9−フルオレニルメトキシカルボニル)などのカルボニルタイプの保護基が挙げられる。ForまたはPhAc基を導入して、ペプチド脱ホルミル酵素またはPenGアシラーゼ酵素をそれぞれ使用して酵素的に切断してもよい。化学開裂方法は一般に当該技術分野で周知である。
【0081】
本発明の文脈で「アミノ酸側鎖」とは、あらゆるタンパク新生または非タンパク新生アミノ酸側鎖を意味する。アミノ酸側鎖中の反応性基は、アミノ酸側鎖保護基によって保護されていてもまたは非保護であってもよい。タンパク新生アミノ酸は、遺伝コードによってコードされるアミノ酸である。タンパク新生アミノ酸としては、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、メチオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、トリプトファン、グリシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン、アルギニン、プロリン、およびフェニルアラニンが挙げられる。
【0082】
非タンパク新生アミノ酸の例は、フェニルグリシンおよび4−フルオロ−フェニルアラニンである。
【0083】
原則として使用されるpHは、酵素が十分な活性を示すpHを選択しさえすれば、広い範囲内で選択されてもよい。このようなpHは通常、使用される酵素について知られており、水溶液中でのその既知の加水分解活性に基づいてもよく、または既知の反応条件下で酵素の既知の基質を利用して慣例的に判定できる。それは特に、ほぼ中性になるように選択されてもよい。所望ならば、酵素次第でアルカリ性または酸性条件を使用してもよい。所望ならば酸および/または塩基を使用してpHを調節してもよく、または酸と塩基の適切な組み合わせによって緩衝してもよい。適切な酸および塩基は特に反応媒体に可溶性の例えばアンモニアや、例えば酢酸およびギ酸などのアルコール可溶性酸の群からのものである。反応のpHは、自動化pHスタットシステムを使用して制御されてもよい。当業者は通例の実験法を通じて、最適pH条件を容易に同定できる。
【0084】
酵素が十分な活性および安定性を示す温度を選択しさえすれば、原則として使用される温度は重要でない。このような温度は、通常、使用される酵素について知られており、または既知の反応条件下で酵素の既知の基質を利用して慣例的に判定できる。一般に温度は、少なくとも0℃、特に少なくとも15℃または少なくとも25℃であってもよい。特に好熱性生物起源の酵素が使用されるのならば、温度は好ましくは少なくとも40℃である。所望の最大温度は酵素に左右される。一般にこのような最大温度は当該技術分野で知られており、例えば市販される酵素の場合は製品データシートに表示され、または一般常識および本明細書で開示される情報に基づいて慣例的に判定できる。温度は通常70℃以下、特に60℃以下または45℃以下である。しかし特に好熱性生物からの酵素を使用するのであれば、温度は例えば最高90℃などより高くあるように選択されてもよい。
【0085】
最適温度条件は、一般常識と本明細書で開示される情報に基づき通例の実験法を通じて、当業者によって特定の酵素について容易に同定できる。例えばサブチリシン、特に(例えばAlcalase(登録商標)中の)サブチリシンカールスバーグ(Carlsberg)では、温度は有利には25〜60℃の範囲である。
【0086】
上述の通り本発明はまた、ペプチドを調製する方法も提供し、このような方法は以下のステップを含んでなる。触媒として加水分解酵素を使用して、アミノ酸またはペプチドを活性化C末端カルボキシ基を有するアミノ酸エステルまたはペプチドエステルに変換することで、遊離末端カルボン酸基またはC末端t−アルキルエステルを含んでなるN−保護アミノ酸または任意にN−保護されるペプチドを活性化する。その結果、アミノ酸C末端エステルまたはペプチドC末端エステルは、動的ペプチドカップリング(「ペプチドカップリング」という用語はペプチド結合形成によるカップリングを意味する)に加わるのに適するようになる。活性化は、特にメタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノールなどのn−アルキルアルコールや、フェノールなどの任意に置換されるアリールアルコール、またはベンジルアルコールなどの任意に置換されるアラルキルアルコールを用いて実施できる。
【0087】
その後、通常(活性化のために使用される酵素と同一であってもまたは異なってもよい)ペプチドカップリングを触媒する酵素の存在下において、活性化C末端カルボキシ基を含んでなるアミノ酸C末端エステルまたはペプチドC末端エステルと、任意にC末端が保護されるアミノ酸またはペプチドとを接触させ、それによって任意にC末端が保護されるアミノ酸またはペプチドのN−末端アミノ基を活性化C末端カルボキシ基にカップリングさせて、ペプチド結合を形成する。C末端保護アミノ酸またはペプチドの保護基は、特に得られたペプチドを1つ以上のさらなるアミノ酸またはペプチドによって延長する場合は、好ましくはt−アルキル、より好ましくはt−ブチルである。所望ならば本明細書で開示されるように、エステル交換によってC末端t−アルキルを活性化基によって置換でき、その後さらなる任意にC末端が保護されるアミノ酸またはペプチドをカップリングできる。これらの反応は必要に応じて何度でも繰り返して、所望のアミノ酸配列のペプチドを得ることができる。
【0088】
したがって本発明はまた、C末端t−アルキル、好ましくはt−ブチル保護アミノ酸またはペプチドを使用して、N→C末端方向にペプチド合成ができるようにするペプチド合成法も提供する。C−末端は化学(非酵素的)脱保護工程を要することなく、酵素の存在下において効果的に同時に脱保護および活性化されるので、本方法には、脱保護ステップおよび別個の活性化ステップを要する既知の方法よりも少ない反応ステップが必要である。このような従来の化学工程は、通常、C末端カルボン酸中間体のための大規模な抽出および脱水手順などの精製をさらに必要とするので、それはさらに不利である。したがって本発明は、有利には、ペプチド鎖伸長およびN−末端アミノ官能基の保護と脱保護の双方もまた、完全に酵素的に実施されてもよいことから、N→C末端方向のペプチド合成のための完全に酵素的な工程を可能にする。したがって本発明の方法は、例えば手順の簡素化および/または環境保護の観点の理由から、カルボン酸基を保護するのにt−アルキルを利用する前述の方法よりもさらに魅力的である。
【0089】
ペプチド結合形成に関しては、それがペプチド結合形成を触媒しさえすれば、同一加水分解酵素を使用してもよい。カップリングのためにエステル交換と同一の酵素を使用することは、このような酵素がペプチド結合形成を触媒できれば、保護ペプチドを最初に単離する必要なしに、エステル交換を実施してペプチド結合形成後に形成されたペプチドのC末端を活性化してもよいので、有利である。これは第1タイプの反応から第2タイプの反応に変わる際に、単に溶剤を変えることで達成される(溶剤交換)。例えば活性化アミノ酸C末端エステルとC末端保護アミノ酸t−アルキルエステルとのカップリングは、t−ブチルアルコールなどの三級アルコール中で起きてもよい。カップリング後、溶剤を水性液によって置換して、保護基の加水分解を容易にしてもよい。得られた遊離酸性団は、溶剤をアルコールに切り替えた後に活性化されてもよく、それはエステル化に際して活性化C末端エステル基を形成する。好ましくはその中でカップリングが起きた溶剤は直接アルコールによって置換され、それはエステル交換に際して活性化C末端エステル基を形成する。
【0090】
しかしペプチド結合形成のために異なる酵素を使用してもよい。ペプチド結合形成を触媒するのに適切な酵素は当業者に知られており、タンパク質分解酵素が挙げられる。タンパク質分解酵素(別名:プロテアーゼ、ペプチダーゼ、ペプチド加水分解酵素、E.C.3.4)は、本質的にペプチド結合を加水分解する酵素である。これらの酵素は、タンパク質分解、血液凝固、アポトーシス(細胞死)、および免疫系などの様々な生理学的過程において重要な役割を果たす。これらの酵素はまた、ペプチドホルモンの、および酵素前駆物質の生理学的または触媒的活性形態への加工において、活性化因子としての役割も果たす。
【0091】
プロテアーゼは、ペプチド末端近辺のみに作用するエキソペプチダーゼと、ペプチド内部で作用するエンドペプチダーゼの2つのサブクラスにさらに分類できる。
【0092】
エキソペプチダーゼはペプチドのN−末端に作用して、単一アミノ酸(アミノペプチダーゼE.C.3.4.11)またはジペプチド(ジペプチダーゼ、E.C.3.4.13)またはジペプチドおよびトリペプチドの双方(ジペプチジル−ペプチダーゼまたはトリペプチジル−ペプチダーゼ、E.C.3.4.14)を放出する。ペプチドのC末端で作用するペプチダーゼは、カルボキシペプチダーゼと称され、単一アミノ酸(カルボキシペプチダーゼ、E.C.3.4.16〜18)またはジペプチド(ペプチジル−ジペプチダーゼ、E.C.3.4.15)を解放する。カルボキシペプチダーゼは、例えばセリン型カルボキシペプチダーゼ(E.C.3.4.16)、メタロカルボキシペプチダーゼ(E.C.3.4.17)、システイン型カルボキシペプチダーゼ(E.C.3.4.18)または末端アミノ酸を切断してそれが置換、環化、またはイソペプチド結合(側鎖が関与するペプチド結合)される(ω−ペプチダーゼ、E.C.3.4.19)など、それらの触媒機序に従って分類される。
【0093】
エンドペプチダーゼ(E.C.3.4.21〜25およびE.C.3.4.99)は以下のサブクラスに分類できる。セリンエンドペプチダーゼ(E.C.3.4.21)、システインエンドペプチダーゼ(E.C.3.4.22)、アスパラギン酸エンドペプチダーゼ(E.C.3.4.23)、およびメタロエンドペプチダーゼ(E.C.3.4.24)。E.C.3.4.99は、触媒機序が未知のプロテアーゼである。
【0094】
文献でもまた、例えばブタ膵臓(PPL)からのリパーゼなどのリパーゼ(トリアシルグリセロール加水分解酵素E.C.3.1.1.1)がペプチド結合形成を触媒することが報告されている。
【0095】
所望ならば、所望のアミノ酸配列の任意にN−保護される(オリゴ)ペプチドC末端t−アルキル−エステルをC−末端および/またはN−末端で、および/または(少なくとも1つのアミノ酸側鎖保護基が存在するのならば)アミノ酸側鎖の少なくとも1つで脱保護してもよく、その後保護または非保護ペプチドを回収してもよい。
【0096】
形成されたN−保護ペプチドC末端t−アルキルエステルまたはN−保護C末端脱保護ペプチドのN−末端保護基の脱保護は、当業者に知られている方法によって実施されてもよい。
【0097】
実施態様ではN−末端保護基が酵素的に除去される。
【0098】
ペプチドのN−末端保護基を導入して除去できる酵素は当業者に知られており、このような酵素の例としては、penGアシラーゼまたはペプチド脱ホルミル酵素が挙げられる。
【0099】
例えば炭素水素付加触媒上のPdの存在下においてHを使用して水素付加によって、または適切な酸によって、N−末端保護基を化学的に除去することもまた可能である。適切な条件は当該技術分野で知られている。
【0100】
C末端t−アルキルエステル官能基は、原則として例えばTFAなどの強酸によって除去されてもよいが、それは厄介かもしれない(上記参照)。したがって形成された任意にN−保護されるペプチドC末端t−アルキルエステルのC末端t−アルキルエステル官能基の脱保護は、好ましくは例えば上で同定された加水分解酵素などの加水分解酵素を使用して実施されてもよい。
【0101】
最後のペプチドカップリングステップ後に得られる、1つまたはいくつかのアミノ酸側鎖保護基を伴うかまたは伴わない、N−保護ペプチドC末端t−アルキル−エステルが所望の最終産物であるならば、これは例えば当業者に知られている抽出または結晶化方法を使用して直接回収できる。部分的に保護されるペプチドが所望の最終産物である場合、1つ以上の所望の脱保護反応を実施でき、任意にワークアップ手順後に、所望の部分的に保護される最終産物を回収できる。
【0102】
完全脱保護ペプチドが所望の最終産物である場合、このペプチドは、連続的N−、C−、および(最後のペプチドカップリングステップ後に、1つまたはいくつかのアミノ酸側鎖保護基が存在するならば)アミノ酸側鎖脱保護ステップによって得ることができる。完全に脱保護されたペプチドを最終的に回収する手順は、慣例的に当業者によって同定されることができる。例えば抽出、クロマトグラフィー分離、および結晶化の群から選択される1つ以上の精製技術を使用してもよい。
【0103】
好ましくはペプチドは、(最終)カップリング反応後に反応混合物から回収される。
【0104】
本発明の方法は、直線型合成によってN→C末端方向にペプチドを合成するのに特に適している。直線型合成ではペプチドは段階的な延長によって調製され、所望の長さとアミノ酸組成のペプチドが形成されるまで、段階的に単一アミノ酸がペプチド鎖に付加される(例えば上のスキーム2を参照されたい)。本発明の方法によって生成されるペプチドは、好ましくは2〜50個のアミノ酸の直鎖、特に2〜20個のアミノ酸の直鎖、より特には2〜10個のアミノ酸の直鎖を含んでなる。
【0105】
所望ならば、直線型合成によって調製された2個以上のペプチドをその後カップリングしてもよい。カップリングは、化学的手法、酵素的方法またはその組み合わせによって達成されてもよい。例えば天然化学ライゲーションなどの化学ライゲーションを使用してもよい。
【0106】
適切な化学ライゲーションの方法については、例えばDawson,P.E.,Muir,T.W.,Clark−Lewis,I.and Kent,S.B.H.,Science,1994,266,p.776;Dawson,P.E.and Kent,S.B.,Annu.Rev.Biochem.,2000,69,p.923;またはHacken,T.M.,Griffin,J.H.,Dawson,P.E.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1999,10068に記載されている。
【0107】
本発明をここで以下の実施例によって例示する。
【0108】
[実施例]
[一般]
特に断りのない限り、化学薬品は商業的供給元から得られ、さらなる精製なしに使用した。H NMRスペクトルは、ブルカー(Bruker)Avance 300MHz NMR(300.1MHz)分光計上で記録し、化学シフトはCDCl(7.26ppm)またはDO(4.79ppm)と比較してppm(δ)で示す。含水量はカール・フィッシャー滴定によって判定した。
【0109】
薄層クロマトグラフィー(TLC)は、メルク(Merck)からのプレコートされたシリカゲル60 F254プレート上で実施した。UV光、ニンヒドリンまたはCl/TDM(N,N,N’,N’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン)を使用してスポットを可視化した。
【0110】
特に断りのない限り、200℃、減圧下で、Acrosからの3Å分子篩(8〜12メッシュ)を活性化して、t−ブタノール(BuOH)をこれらの分子篩上で保存した。BuOHは使用前に予熱して液体(45℃)にした。
【0111】
Merck等級9385 60Åのシリカゲルを使用して、カラムクロマトグラフィーを実施した。40℃で逆相カラム(Inertsil ODS−3、C18、5μm、150×4.6mm内径)を使用して、分析的HPLCダイアグラムをHP1090液体クロマトグラフ上で記録した。UV−VIS 204線形分光計を使用して、UV検出を220nmで実施した。勾配プログラムは、0〜25分は5%から98%の溶出剤Bへの、25.1〜30分は5%の溶出剤Bへの直線濃度勾配であった(溶出剤AはHO中の0.5mL/Lメタンスルホン酸(MSA)、溶出剤Bはアセトニトリル中の0.5mL/L MSA)。流量は0〜25.1分までは1mL/分、25.2〜29.8分までは2mL/分、次に30分で停止するまで1mL/分に戻した。注入量は20μLであった。
【0112】
分析的HPLCと同一条件下において、同一カラムを装着した陽イオン化モードで操作されるアジレント(Agilent)1100シリーズシステム上で、液体クロマトグラフィーエレクトロスプレーイオン化質量分析法を実施した。
【0113】
t−ブタノール中のAlcalase懸濁液を以下のように調製した。ノボザイムズからの12.5mLのAlcalase(Alcalase(登録商標)2.5L、タイプDX、PLN04810)を10mLのBuOHで沈殿させ、5分間ボルテックスして4500rpmで10分間遠心分離した。上清を廃棄して前述の手順を2回繰り返した。最後に5分間ボルテックスして、ペレットを10mLのBuOHに再懸濁した。BuOHの代わりにAmOHを使用して、t−アミルアルコール(AmOH)中のAlcalase懸濁液を同様に調製した。
【0114】
t−ブタノール中のEsperase、EverlaseまたはSavinase懸濁液を以下のように調製した。ノボザイムズからの10.0mLの酵素溶液(Esperase(登録商標)8.0L、PEN00103またはEverlase(登録商標)、16L、タイプEX、RCN00042またはSavinase(登録商標)、16L、タイプEX、PXN09325)を50mLのBuOHで沈殿させ、5分間ボルテックスして4500rpmで10分間遠心した。上清を廃棄して前述の手順を2回繰り返した。最後に5分間ボルテックスして、ペレットを10mLのBuOHに再懸濁した。
【0115】
Alcalase−CLEA懸濁液を次のように調製した。CLEA−technologiesからの1gの架橋Alcalase−CLEA(650 AGEU/g、3.5重量%の水)を10mLのBuOHに懸濁して、スパチュラで粉砕した。濾過後、使用に先だって酵素を10mLのBuOHに再懸濁した。
【0116】
Polarzyme懸濁液を以下のように調製した。ノボザイムズからの1gのPolarzyme(Polarzyme(登録商標)、12T、PGVG000905)を10mLのBuOHに懸濁した。濾過後、使用に先だって酵素を10mLのBuOHに再懸濁した。
【0117】
[実施例1:対応するN−保護アミノ酸カルボン酸からのN−保護アミノ酸C末端BuおよびAmエステルの調製]
以下のプロトコル1〜3の1つを使用して、いくつかのアミノ酸t−ブチル(Bu)およびt−アミル(Am)エステルを調製した。
【0118】
[プロトコル1:Z−保護アミノ酸からのZ−保護アミノ酸C末端Buエステルの合成]
上述のように調製された3mLのAlcalase懸濁液を0.167mmolのZ−保護アミノ酸および1gの(非活性化)3Å分子篩に添加した。混合物を50℃、150rpmで24時間振盪した。引き続いて3mLのMeOHを添加し、濾過により固形物を除去して10mLの酢酸エチル(EtOAc)で洗浄した。合わせた有機相を4500rpmで10分間遠心分離し、上清を真空内で濃縮した。
【0119】
粗生成物を50mLジクロロメタンに再溶解し、25mLの飽和水性NaHCO溶液(3x)、25mLの飽和水性NaCl溶液で洗浄し、乾燥させて(NaSO)真空内で濃縮し、10mLのCHCl(2×)および10mLのトルエン(2×)を用いて共蒸発させた。
【0120】
[プロトコル2:Z−保護アミノ酸からのZ−保護アミノ酸C末端Buエステルの合成]
上述のように(しかし活性化分子篩上に保存されたBuOHを用いて)調製された1mLのAlcalase懸濁液を0.167mmolのZ−保護アミノ酸、0.5gの3Å分子篩に添加して、2mLのBuOHで希釈した。この混合物を50℃、150rpmで24時間振盪した。
【0121】
[プロトコル3:Alcalase−CLEAを使用したN−保護−PheからのN−保護−PheBuエステルの合成]
上述のように調製された3mLのAlcalase−CLEA懸濁液を0.167mmolのX−Phe−OHおよび0.1gの活性化3Å分子篩に添加した(XはN−末端保護基を表す)。混合物を50℃、150rpmで24時間振盪した。
【0122】
固形物を濾過によって除去した後、濾液を真空内で蒸発させ、粗生成物を20mLのEtOAcに再溶解して、10mLの飽和水性NaHCO溶液、10mLの鹹水で洗浄し、乾燥させて(NaSO)真空内で濃縮し、10mLのCHCl(2×)を用いて共蒸発させた。
【0123】
[Z−Phe−OBu]
Z−Phe−OBuは、プロトコル2に従って調製した。HPLC分析は24時間後に88%のBuエステルへの変換を示した。H−NMR(CDCl,300MHz):δ7.28−7.05(m,10H),5.22(d,1H,J=7.9Hz),5.01(s,2H),4.45(m,1H),2.98(d,2H,J=6.0Hz),1.30(s,9H).
【0124】
[Z−Phe−OBu]
Z−Phe−OBuは、Alcalase懸濁液の代わりにEsperase懸濁液を使用したこと以外は、プロトコル1に従って調製した。HPLC分析は24時間後に38%のBu−エステルへの変換を示した。
【0125】
[Z−Phe−OBu]
Z−Phe−OBuは、Alcalase懸濁液の代わりにSavinase懸濁液を使用したこと以外は、プロトコル1に従って調製した。HPLC分析は24時間後に43%のBu−エステルへの変換を示した。
【0126】
[Z−Phe−OBu]
Z−Phe−OBuはAlcalase懸濁液の代わりにEverlase懸濁液を使用したこと以外は、プロトコル1に従って調製した。HPLC分析は24時間後に24%のBu−エステルへの変換を示した。
【0127】
[Z−Phe−OBu]
Z−Phe−OBuは、Alcalase懸濁液の代わりにPolarzyme懸濁液を使用したこと以外は、プロトコル1に従って調製した。HPLC分析は24時間後に17%のBu−エステルへの変換を示した。
【0128】
[Z−Phe−OAm]
Z−Phe−OAmは、BuOHの代わりにAmOHを使用したこと以外はプロトコル2に従って調製した。HPLC分析は24時間後に93%のAm−エステルへの変換を示した。H−NMR(CDCl,300MHz):δ7.30−7.01(m,10H),5.20(d,1H,J=7.8Hz),5.00(s,2H),4.46(m,1H),3.04−2.92(m,2H)1.72−1.49(m,2H),1.31(s,3H),1.28(s,3H),0.74(t,3H,J=7.5Hz).
【0129】
[Z,Z−Lys−OBu]
Z,Z−Lys−OBuはプロトコル1に従って調製した。HPLCは24時間後に>90%のBuエステルへの変換を示した。H−NMR(CDCl,300MHz):δ7.25−7.16(m,10H),5.31(d,1H,J=5.6Hz),5.01(s,4H),4.81(s,1H),4.15(d,1H,J=5.1Hz),3.08(m,2H),1.72(m,2H),1.57(m,2H),1.43(m,2H),1.37(s,9H).
【0130】
[Z−Leu−OBu]
Z−Leu−OBuはプロトコル1に従って調製した。HPLCは24時間後に>90%のBuエステルへの変換を示した。H−NMR(CDCl,300MHz):δ7.27−7.19(m,5H),5.10(d,1H,J=8.1Hz),5.03(s,2H),4.19(m,1H),1.60(m,2H),1.45(m,1H),1.38(s,9H),0.88(m,6H)。
【0131】
[Z−Ala−OBu]
Z−Ala−OBuはプロトコル1に従って調製した。HPLCは、24時間後に>90%のBuエステルへの変換を示した。H−NMR(CDCl,300MHz):δ7.31−7.18(m,5H),5.29(d,1H,J=6.0Hz),5.03(s,2H),4.18(t,1H,J=7.2Hz),1.38(s,9H),1.29(d,3H,J=7.1Hz).
【0132】
[Z−Met−OBu]
Z−Met−OBuはプロトコル1に従って調製した。HPLCは24時間後に>90%のBuエステルへの変換を示した。H−NMR(CDCl,300MHz):δ7.30−7.19(m,5H),5.33(d,1H,J=7.60Hz),5.04(s,2H),4.29(m,1H),2.45(m,2H),2.01(s,3H),1.87(m,2H),1.39(s,9H).
【0133】
[Z−Ser−OBu]
Z−Ser−OBuはプロトコル1に従って調製した。HPLCは24時間後に82%のBuエステルへの変換を示した。最終精製のためには追加的カラムクロマトグラフィー(n−ヘプタン/EtOAc、1/1)が必要であった。H−NMR(CDCl,300MHz):δ7.30−7.19(m,5H),5.57(s,1H),5.06(s,2H),4.25(m,1H),3.86(m,2H),2.09(s,1H),1.41(s,9H).
【0134】
[Z−DOPA−OBu]
上のように調製された10mLのAlcalase溶液を3g(9.1mmol)のZ−DOPA−OHおよび10gの3Å分子篩に添加して、20mLのBuOHで希釈した。この混合物を50℃、150rpmで振盪し、市販されるZ−DOPA−OBuを参照として使用してHPLCによって分析したところ、24時間後に>90%のBuエステルへの変換を示した。
【0135】
[For−Phe−OBu]
For−Phe−OBuはプロトコル3に従って調製した。HPLCは24時間後に98%のBuエステルへの変換を示した。H−NMR(CDCl,300MHz):δ8.04(s,1H),7.22−7.07(m,5H),4.99(d,1H,1H,J=7.3Hz),4.75(m,1H),3.02(d,2H,J=5.6Hz),1.33(s,9H).
【0136】
[Boc−Phe−OBu]
Boc−Phe−OBuはプロトコル3に従って調製した。HPLCは24時間後に98%のBuエステルへの変換を示した。H−NMR(CDCl,300MHz):δ7.28−7.16(m,5H),4.99(d,1H,J=7.8Hz),4.45(m,1H),3.04(d,2H,J=6.0Hz),1.42(s,9H),1.40(s,9H).
【0137】
[PhAc−Phe−OBu]
PhAc−Phe−OBuはプロトコル3に従って調製した。HPLCは24時間後に94%のBuエステルへの変換を示した。H−NMR(CDCl、300MHz):δ7.29−6.87(m,10H),5.77(d,1H,J=7.8Hz),4.66(m,1H)3.53(s,2H),3.45(d,2H,J=6.1),1.30(s,9H).
【0138】
[実施例2:Z−Phe−OBuの対応するメチル(Me)、エチル(Et)、およびベンジル(Bn)エステルへのエステル交換]
[Z−Phe−OBuからZ−Phe−OMeへのエステル交換]
【化4】



【0139】
Alcalaseは、ペレットをBuOHでなく10mLのCHCN:MeOH 85:15v/vまたはBuOH:MeOH 9:1v/vに再懸濁したこと以外は、一般セクションに記載されているようにして調製した。この懸濁液の3mLを50mgのZ−Phe−OBuおよび0.5gの3Å分子篩に添加した。
【0140】
混合物を50℃、150rpmで振盪し、対応する化学合成基準化合物を使用してHPLCによって分析した。
【0141】
結果を図1Aおよび1Bに示す。ここで共溶媒としてアセトニトリルでなくBuOHを使用して、より高い収率およびより早い変換が得られることが示される(120時間後に77%の変換)。
【0142】
[Z−Phe−OBuのZ−Phe−OEtへのエステル交換]
【化5】



【0143】
Alcalaseは、ペレットをBuOHでなく10mLエタノール(EtOH)に再懸濁したこと以外は、一般セクションに記載されているようにして調製した。この懸濁液の3mLを50mgのZ−Phe−OBuに添加した(分子篩は使用しなかった)。混合物を50℃、150rpmで振盪し、対応する化学合成基準化合物を使用してHPLCによって分析した。
【0144】
結果を図2に示す。96時間の反応時間後に73%のZ−Phe−OBuが対応するエチルエステルに変換された。
【0145】
[Z−Phe−OBuからZ−Phe−OBnへのエステル交換]
【化6】



【0146】
Alcalaseは、ペレットをBuOHでなく10mLベンジルアルコール(BnOH)に再懸濁したこと以外は、一般セクションに記載されているようにして調製した。この懸濁液の3mLを50mgのZ−Phe−OBuおよび0.5gの3Å分子篩に添加した。混合物を50℃、150rpmで振盪し、対応する化学合成基準化合物を使用してHPLCによって分析した。
【0147】
結果を図3に示す。反応速度は対応するMeおよびEtエステル(上記参照)へのエステル交換反応と比較して、相当により高かった(72時間で87%変換)。
【0148】
[実施例3:ジペプチドレベル(Z−Phe−Leu)に対するエステル交換反応]
特定例では、基質がペプチドである場合、特に加水分解酵素がペプチダーゼである場合に、エステル交換または活性化中に、ペプチド結合の加水分解が同時に起きることが予期される。これが起きるかどうか。したがって下述の実験を実施して、本発明の方法において、この有害な効果が起きるかどうかを調べた。
【0149】
サブチリシンカールスバーグ(Carlsberg)はペプチド結合形成によって、Z−Phe−Leu誘導体の合成を触媒でき、これらのペプチドはまた、あらゆるペプチド結合切断を観察するための良好なモデル基質でもあるので、サブチリシンカールスバーグ(Carlsberg)と組み合わせて、モデル基質としてZ−Phe−Leu誘導体を使用した。最初に溶液相化学ペプチド合成によって、全ての基準化合物を合成した。
【0150】
反応経路を図4に図示するが、R、Rは図に示すどの反応が実施されるのかに応じて、H、活性化基またはt−アルキルであり、例えばエステル交換の場合はR=HおよびRは活性化基またはt−ブチルであり;エステル化の場合はR=t−ブチルおよびRは活性化基であり;R基を加水分解する場合はRは活性化基またはt−ブチルでRは水素である。
【0151】
[Z−Phe−Leu−OBu(基準化合物の化学合成)]
500mg(1.7mmol)のZ−Phe−OHを10mLのCHClに溶解した。引き続いて415mgのN−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド、HCl(EDCI、2.2mmol、1.3eq)、250mgの7−アザ−N−ヒドロキシベンザトリアゾール(HOAt、1.8mmol、1.1eq)、478μLのトリエチルアミン(TEA、1.8mmol、1.1eq)、および344mgのH−Leu−OBu(1.8mmol、1.1eq)を添加した。反応混合物を周囲温度で20時間撹拌した。引き続いて20mLのEtOAcを添加し、有機混合物を15mLの飽和水性NaCO(2×)、15mLの飽和水性NaHCO(2×)、15mLの鹹水で洗浄して乾燥させ(NaSO)、真空内で濃縮して10mLトルエン(2×)を用いて共蒸発させ、765mg(98%)のZ−Phe−Leu−OBuを得た。H−NMR(CDCl,300MHz):δ7.09−7.31(m,10H),6.13(d,1H,J=8.0Hz),5.23(d,1H,J=6.8),5.01(s,2H),4.36(m,2H),3.02(m,2H),1.45(m,3H),1.37(s,9H),0.84(m,6H).
【0152】
[Z−Phe−Leu−OH(基準化合物の化学合成)]
100mgのZ−Phe−Leu−OBuを1滴の水を添加した5mLのCFCOOHに添加した。混合物を周囲温度で2時間撹拌し、真空内で濃縮して10mLトルエン(2×)を用いて共蒸発させ、Z−Phe−Leu−OHを定量的収率で得た。H−NMR(CDCl,300 MHz):δ7.31−7.04(m,10H),6.82(d,1H,J=6.6Hz),5.79(d,1H,J=7.3Hz),4.93(s,2H),4.44(m,2H),2.94(m,2H),1.51(m,3H),0.77(m,6H).
【0153】
[Z−Phe−Leu−OMe(基準化合物の化学合成)]
364mg(2.0mmol)のHCl・H−Leu−OMeを20mLのCHClおよび699μLのジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、4mmol、2eq)に溶解した。この溶液を20mLのCHCl中の599mg(2mmol、1eq)のZ−Phe−OH、403mgのEDCI(2.1mmol、1.05eq)、および300mgのHOAt(2.2mmol、1.2eq)の溶液(0℃)に添加した。混合物を周囲温度で16時間撹拌した。溶液を真空内で濃縮し、残留物を20mLのEtOAc中に再溶解し、15mLの水性HCl(pH=3)、15mLの鹹水、15mLの飽和水性NaCO、15mLの鹹水で洗浄し、乾燥させて(NaSO)真空内で濃縮した。
【0154】
追加的カラムクロマトグラフィー(EtOAc/n−ヘプタン、1/1)から625mg(80%)のZ−Phe−Leu−OMeが得られた。H−NMR(CDCl,300MHz):δ7.32−7.11(m,10H),6.06(d,1H,J=8.0Hz),5.22(d,1H,J=11.7Hz),5.02(s,2H),4.50(m,1H),4.36(m,1H),3.62(s,3H)3.04(m,2H),1.47(m,3H),0.80(m,6H).
【0155】
[Z−Phe−Leu−OBn(基準化合物の化学合成)]
1.57g(4mmol)のp−トシレート・H−Leu−OBnを20mLのCHClおよび1.4mLのDIPEA(8mmol、2eq)に溶解した。この溶液を20mLのCHCl中の1.20g(2mmol、1eq)のZ−Phe−OH、805mgのEDCI(4.2mmol、1.05eq)、および599mgのHOAt(4.4mmol、1.2eq)の溶液(0℃)に添加した。混合物を周囲温度で16時間撹拌した。溶液を真空内で濃縮し、残留物を40mLのEtOAcに再溶解して、25mLの水性HCl(pH=3、2×)、25mL鹹水、25mLの飽和水性NaCO(2×)、25mLの鹹水で洗浄し、乾燥させて(NaSO)真空内で濃縮した。
【0156】
追加的カラムクロマトグラフィー(EtOAc/n−ヘプタン、1/1)から2.0g(100%)のZ−Phe−Leu−OBnが得られた。H−NMR(CDCl,300MHz):δ7.42−7.17(m,10H),6.15(d,1H,J=8.1Hz),5.29(d,1H,J=4.3),5.14(s,2H),5.09(s,2H),4.61(m,1H),4.41(m,1H),3.07(m,2H),1.57(m,1H)1.46(m,2H),0.87(m,6H).
【0157】
[Z−Phe−Leu−OBuのZ−Phe−Leu−OHへの加水分解]
300mgのAlcalase−CLEAを1.5mLの50mM水性Tris/HCl緩衝液(pH=8)、1.5mLのBuOH、および100mgのZ−Phe−Leu−OBuの混合物に添加した。反応混合物を37℃、100rpmで16時間振盪し、対応する基準化合物(上述のように調製された)を用いてHPLCによって分析した。
【0158】
HPLC分析は検出可能なペプチド結合切断なしに、98%のBuエステルが加水分解されたことを示した。
【0159】
[Z−Phe−Leu−OHのZ−Phe−Leu−OMeへのエステル化]
酵素を10mLのMTBE中の5容積%MeOHに再懸濁したこと以外は、先に述べたようにしてAlcalase−CLEAを調製した。この懸濁液の3mLを100mgのZ−Phe−Leu−OHおよび0.1gの3Å分子篩に添加した。混合物を37℃、100rpmで16時間振盪し、対応する基準化合物(上述のように調製された)を用いてHPLCによって分析した。
【0160】
HPLC分析は検出可能なペプチド結合切断なしに、エステル化が本質的に完全であった(98%のMeエステル)ことを示した。
【0161】
[Z−Phe−Leu−OMeのZ−Phe−Leu−OBnへのエステル交換]
酵素を10mLのBnOHに再懸濁したこと以外は、先に述べたようにしてAlcalase−CLEAを調製した。この懸濁液の3mLを100mgのZ−Phe−Leu−OMeおよび0.1gの3Å分子篩に添加した。混合物を37℃、100rpmで24時間振盪し、対応する基準化合物(上述のように調製された)を用いてHPLCによって分析した。
【0162】
HPLC分析は検出可能なペプチド結合切断なしに、Bnエステル変換が84%であったことを示した。
【0163】
Z−Phe−Leu−OBuのZ−Phe−Leu−OMeへのエステル交換
酵素を10mLのMTBE中の5容積%MeOHに再懸濁したこと以外は、先に述べたようにしてAlcalase−CLEAを調製した。この懸濁液の3mLを100mgのZ−Phe−Leu−OBuおよび0.1gの3Å分子篩に添加した。混合物を37℃、100rpmで24時間振盪し、対応する基準化合物(上述のように調製された)を用いてHPLCによって分析した。
【0164】
HPLC分析はペプチド結合切断なしに、Z−Phe−Leu−OBuがZ−Phe−Leu−OMe(81%)に変換されたことを示した。
【0165】
[実施例4:水およびアルコールの共沸性除去によるエステル化]
(共沸性水除去を達成するために)減圧下で反応を実施することによって、水を除去しながらZ−Phe−OHをZ−Phe−OBuに変換した。
【0166】
したがって丸底フラスコ内で、7.5gのAlcalase−CLEA(BuOHで1回洗浄された)、75mLのBuOH、および1.25gのZ−Phe−OHを用いて反応を実施した。1時間おきに(例えばt=20〜21時間および22〜23時間の間、図5B)、真空(沸騰するまで、P約600mbar)にしながら混合物を50℃で撹拌した。蒸発した溶剤をガス捕集装置内に収集した。
【0167】
毎時間、サンプル(2mL)を採取し、HPLCによってエステル化反応の進行をモニターし(図5A)、反応混合物の含水量を測定した(図5B)。1時間真空にした後、反応混合物を窒素下で(50℃で)1時間撹拌し、生成物形成のために含水量が上昇するかどうかを調べた(例えばt=21〜22時間および23〜24時間の間、図5B)。蒸発および試料採取のために反応容積が減少したので、新鮮なBuOHを必要に応じて(容積が50mLになるよう)添加した(例えばt=24〜25時間の間、図5B)。明らかに含水量と真空の間(真空にした際の含水量の低下、図5B)、また含水量と生成物収率の間にも強い相関があった(含水量低下後の急激な収率上昇、図5A)。
【0168】
したがって真空にすることは、水除去のための成功裡の方法であることが立証され、3Å分子篩(96%)と比較できるZ−Phe−OBuエステルの収率が得られた(92%、図5A)。
【0169】
[実施例5:酵素の再利用]
30mLのBuOHで1回洗浄した1gのAlcalase−CLEAを10mLのBuOHおよび150mgのZ−Phe−OHに添加した。混合物を50℃、150rpmで24時間振盪した。HPLCは、Z−PheのZ−Phe−OBuへの変換が60%であることを示した。引き続いて反応混合物を濾過して、Alcalase−CLEAを10mLのBuOHおよび150mgのZ−Phe−OHに再懸濁した。混合物を50℃、150rpmで24時間振盪した。HPLCはZ−PheのZ−Phe−OBuへの変換が77%であることを示した。この手順を2回繰り返した(それぞれ77%および76%のZ−Phe−OBuへのエステル化)。濾過後、酵素を4℃で2日間保存し、10mLのBuOHおよび150mgのZ−Phe−OHへの再懸濁がそれに続いた。混合物を50℃、150rpmで振盪し、24時間後にHPLCはZ−PheのZ−Phe−OBuへの変換が75%であることを示した。これは再利用中に酵素の不活性化がほとんどなかったことを立証する。
【0170】
[実施例6:C末端t−ブチルエステルエステル交換を使用したトリペプチド合成]
【化7】



【0171】
[Z−Phe−Leu−OBu]
ノボザイムズからの10mLのAlcalase溶液(Alcalase 2.5L、タイプDX)を撹拌によって無水tert−BuOH(25mL)に懸濁した。得られた混合物を遠心分離し、デカンテーションによって溶剤を除去した。tert−BuOHを使用して2回、MTBEを使用して2回手順を繰り返した。最後に酵素をMTBE(30mL)に懸濁し、得られた混合物の6mLをZ−Phe−OMe(94mg、0.3mmol)とH−Leu−OBu(169mg、0.9mmol)との混合物に添加した。
【0172】
分析的HPLC分析がジペプチドへの変換が完全であることを示すまで、反応混合物を50℃で3日間撹拌した。酵素を濾過によって除去し、溶剤を真空内で除去した。残留物をEtOAc(20mL)に再溶解し、引き続いて水性HCl(10mL、pH=3、2×)、鹹水(10mL)、飽和水性NaHCO(10mL、2×)、および鹹水(10mL)で洗浄し、乾燥させて(NaSO)濃縮した。
【0173】
フラッシュカラムクロマトグラフィー(溶出剤は1:1v/vのEtOAc/n−ヘプタン)によって、粗生成物(115mg、82%)からZ−Phe−Leu−OBu(55mg、39%)を放置すると凝固する透明な油として単離した。
【0174】
=0.53(溶出剤は1:1v/vのEtOAc/n−ヘプタン),R=24.17分,H−NMR(CDCl)δ7.30−7.10(m,10H),6.11(d,J=8.03Hz,1H),5.21(br s,1H),5.01(s,2H),4.36(m,2H),3.02(m,2H),1.50(m,3H),1.37(s,9H),0.82(dd,J=2.23Hz,J=3.82Hz,6H).
【0175】
[Z−Phe−Leu−OMe]
MTBE/MeOH(6mL、97:3v/v)中のZ−Phe−Leu−OBu(30mg)の溶液に添加する前に、750mgのAlcalase−CLEAをBuOH(25mL)で1回洗浄した。HPLC分析が>97%のメチルエステルへの変換を示すまで、反応混合物を50℃で16時間振盪した。酵素を濾過によって除去し、溶剤を真空内での濃縮によって除去した。
【0176】
=0.39(溶出剤は1:1v/vのEtOAc/n−ヘプタン),R=20.67分,H−NMR(CDCl)δ7.32-7.11(m,10H),6.08(d,J=8.03Hz,1H),5.22(br s,1H),5.02(s,2H),4.49(m,1H),4.36(m,1H),3.62(s,3H),3.01(m,2H),1.47(m,3H),0.81(m,6H).
【0177】
[Z−Phe−Leu−Gly−OBu]
ノボザイムズからの10mLのAlcalase溶液(Alcalase 2.5L、タイプDX)を撹拌によって無水BuOH(25mL)に懸濁した。得られた混合物を遠心分離してデカンテーションによって溶剤を除去した。BuOHを使用して2回、MTBEを使用して2回手順を繰り返した。最後に酵素をMTBE(30mL)に懸濁し、得られた混合物の6mLをZ−Phe−Leu−OMe(128mg、0.3mmol)とH−Gly−OBu(118mg、0.9mmol)との混合物に添加した。
【0178】
反応混合物を50℃で撹拌した。2日後にHPLC分析は、トリペプチドへのおよそ50%の変換を示し、反応は停止した。酵素を濾過によって除去し、溶液を真空内で濃縮した。フラッシュカラムクロマトグラフィー(溶出剤:勾配EtOAc/n−ヘプタン1:3v/v→EtOAc/n−ヘプタン1:1v/v)によって、生成物(43mg、28%)を放置すると凝固する透明な油として単離した。R=0.28(溶出剤は1:1v/vのEtOAc/n−ヘプタン)、R=22.02分,H−NMR(CDCl)δ7.30−7.10(m,10H),6.46(br s,1H),6.32(d,J=8.03Hz,1H),5.29(d,J=7.27Hz,1H),5.00(s,2H),4.39(m,2H),3.77(m,2H),3.01(m,2H),1.61(m,3H),1.39(s,9H),0.83(m,6H).
【0179】
[TFA.H−Phe−Leu−Gly−OH]
パラジウム(活性炭上に10%)の存在下において、THF/HO(4mL、1:1v/v)中のZ−Phe−Leu−Gly−OBu(59mg、0.11mmol)の溶液を水素ガス(1bar)で処理することにより、最初にZ−保護基を除去した。反応混合物を周囲温度で16時間撹拌し、Dicalite上での濾過によって触媒を除去した。得られた溶液を真空内で濃縮し、残留物を引き続いてトルエンおよびクロロホルムを用いて共蒸発させた。HPLC分析によって、Z−保護基の完全な除去を確認した。
【0180】
引き続いて残留物を周囲温度でTFA/CHCl(6mL、1:1v/v)によって3時間処理して、Buエステルを除去した。混合物を真空内で濃縮し、残留物を引き続いてクロロホルムを用いて共蒸発させ、EtOで倍散して白色固体としてトリペプチド生成物を得た(41mg、80%)。
【0181】
TFA.H−Phe−Leu−Gly−OHのアイデンティティは、HPLC−MSおよびH−NMR分光法によって確認された。R=6.39分,ESMS計算値C1725335.18,実測値336[M+H]H−NMR(DO)δ7.35−7.20(m,5H),4.34(m,1H),4.20(m,1H),3.86(m,2H),3.15(m,2H),1.53(m,3H),0.82(m,6H).
【0182】
[実施例7:サブチリシン−AによるN−保護アミノ酸のエステル化]
ノボザイムズからの凍結乾燥サブチリシン−A(1g)を10mLのTris/HCl緩衝液(pH=8)に溶解し、20mLのBuOHで沈殿させた。遠心分離(10分間、4500rpm)後に上清を廃棄し、ペレットを20mLのBuOHに再懸濁した。この手順を2回繰り返した。最終デカンテーション後、200mgのペレットを3mLのBuOHおよび50mgのZ−Phe−OHに再懸濁し、100mgの3Å分子篩を添加した。この混合物を50℃、150rpmで振盪した。16時間後のHPLC分析は、Buエステルへの>60%の変換を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のN−保護アミノ酸のt−アルキルC末端エステルまたは第1の任意にN−保護されるペプチドのt−アルキルC末端エステルを活性化アルコールでのエステル交換によって活性化し、活性化が加水分解酵素によって触媒され、それによって第2のN−保護アミノ酸C末端エステルまたは第2の任意にN−保護されるペプチドC末端エステルを形成するステップと、
第2のエステルと任意にC末端が保護されるアミノ酸または任意にC末端が保護されるペプチドとをカップリングしてペプチド結合を形成し、カップリングがペプチド結合形成を触媒する酵素によって触媒され、酵素がエステル交換を触媒するのに使用される酵素と同一でもまたは異なってもよいステップと
を含んでなる、活性化N−保護アミノ酸C末端エステルまたは活性化任意にN−保護されるペプチドC末端エステルをカップリングするステップを含んでなる、ペプチドを調製する方法。
【請求項2】
アミノ酸またはペプチドのC末端t−アルキルエステルが、t−ブチルエステル、t−ペンチルエステル、およびt−ヘキシルエステルの群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
所望のアミノ酸配列のペプチドが得られるまで、連続的に1つ以上のさらなるエステル交換ステップおよびカップリングステップが実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
所望のアミノ酸配列のペプチドが得られるまで、連続的に1つ以上のさらなる活性化ステップおよびカップリングステップが実施される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
各エステル交換活性化が活性化アルコールを含んでなる液相中で起き、液相が液相総重量を基準にして4重量%未満の水、特に2重量%以下の水、より特には1重量%以下の水を含んでなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
活性化アルコールが、任意に置換されるn−アルキルアルコール、任意に置換されるアラルキルアルコール、および任意に置換されるアリールアルコールの群から、特にC〜Cn−アルキルアルコール、C〜C12アリールアルコール、およびC〜C18アラルキルアルコールから、好ましくはメタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、およびベンジルアルコールから選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
加水分解酵素の存在下において、N−保護アミノ酸のC末端t−アルキルエステルまたは任意にN−保護されるペプチドのC末端t−アルキルエステルを第1のエステルのt−アルキル基に対応するt−アルキルアルコール以外のアルコールでエステル交換するステップを含んでなる、N−保護アミノ酸C末端エステルまたは任意にN−保護されるペプチドC末端エステルを調製する方法。
【請求項8】
エステル交換がアルコールを含んでなる液相中で実施され、液相が4重量%未満の水、特に2重量%以下の水、より特には1重量%以下の水を含んでなる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
アルコールが、一級アルキルアルコール、二級アルキルアルコール、任意に置換されるアリールアルコール、および任意に置換されるアラルキルアルコールの群から、特にC1〜C6一級または二級アルキルアルコール、C6〜C12アリールアルコール、およびC7〜C18アラルキルアルコールから選択される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
調製されるC末端エステルが、動的ペプチドカップリングによって、別のアミノ酸またはペプチドをアミノ酸またはペプチドにカップリングするのに適した活性化エステルであり、好ましくはメチルエステル、エチルエステル、n−プロピルエステル、n−ブチルエステル、任意に置換されるフェニルエステルまたは任意に置換されるベンジルエステルである、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
エステル交換が、エステル交換されるC末端t−アルキルエステルの少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%に対して行われる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
加水分解酵素の存在下において、N−保護アミノ酸のC末端カルボン酸基または任意にN−保護されるペプチドのC末端カルボン酸基をt−アルキルアルコールでエステル化するステップを含んでなる、N−保護アミノ酸C末端t−アルキルエステルまたは任意にN−保護されるペプチドC末端t−アルキルエステルを調製する方法。
【請求項13】
エステル化がアルコールを含んでなる液相を使用して起き、液相が液相の総重量を基準にして4重量%未満の水、特に2重量%以下の水、より特には1重量%以下の水を含んでなる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
t−アルキルが、t−ブチル、t−ペンチル、およびt−ヘキシルの群から選択される、請求項7〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
カルボン酸エステル加水分解酵素、チオールエステル加水分解酵素、リパーゼ、およびペプチダーゼの群から、特にリパーゼおよびペプチダーゼから選択される加水分解酵素が使用される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
酵素が、セリン型カルボキシペプチダーゼ、メタロカルボキシペプチダーゼ、システイン型カルボキシペプチダーゼ、セリンエンドペプチダーゼ、システインエンドペプチダーゼ、アスパラギン酸エンドペプチダーゼ、およびメタロエンドペプチダーゼの群、特にセリンエンドペプチダーゼから選択されるペプチダーゼである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
セリンエンドペプチダーゼがサブチリシン、好ましくはサブチリシンカールスバーグ(Carlsberg)である、請求項16に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公表番号】特表2011−500010(P2011−500010A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528402(P2010−528402)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際出願番号】PCT/EP2008/063574
【国際公開番号】WO2009/047311
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】