説明

CNT分散剤、及びCNT分散液

【課題】CNTの特性を低下させず、分散媒中でCNTを安定に分散させることができるCNT分散剤、及びCNT分散液を提供すること。
【解決手段】シリカコロイド、及び/又は遷移金属の酸化物のコロイドを含むことを特徴とするCNT分散剤。前記遷移金属の酸化物は、ジルコニア、セリア、チタニア、及び酸化亜鉛から成る群から選ばれる1種以上であることが好ましい。上述したCNT分散剤と、CNTとを含むことを特徴とするCNT分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CNT(カーボンナノチューブ)を液中で分散させるために用いられるCNT分散剤、及びCNT分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
CNTは、電界放出特性、機械的強度、電気伝導性、熱伝導性、化学的安定性等において優れた特性を有する。そのため、CNTを含む材料は、電界放出型ディスプレイ(FED)、透明電極、燃料電池、導電性樹脂、ヒートシンク、宇宙エレベータ、化学センサ等、様々な用途において期待されている。
【0003】
CNTを含む材料を製造するとき、CNTが分散媒中で安定に分散している分散液(CNT分散液)を調製する必要がある。CNTを分散媒中で安定に分散させるために、CNTを酸で処理する方法(非特許文献1参照)、CNTをプラズマで処理する方法(特許文献1参照)、界面活性剤を添加する方法(特許文献2参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-300715号公報
【特許文献2】特開2010-13312号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Carbon46(2008)、p833-840
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、CNTを酸やプラズマで処理すると、CNT表面に欠陥を形成し、CNTが元来有している優れた特性(電気伝導性、熱伝導性、機械強度等)を低下させてしまう。
【0007】
また、従来の界面活性剤(通常、ドデシル硫酸ナトリウム等の有機系材料)を添加する方法では、分散媒中におけるCNT濃度が高い場合、CNTを安定に分散できず、CNTの凝集や沈降が生じてしまう。
【0008】
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、CNTの特性を低下させず、分散媒中でCNTを安定に分散させることができるCNT分散剤、及びCNT分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のCNT分散剤は、シリカコロイド、及び/又は遷移金属の酸化物のコロイドを含むことを特徴とする。
本発明のCNT分散剤を用いれば、CNTを分散媒中で安定に分散させることができる。また、CNTを酸やプラズマで処理する方法のように、CNT表面に欠陥を形成してしまうことがない。
【0010】
本発明のCNT分散剤の使用方法としては、例えば、本発明のCNT分散剤と、CNTの粉末とを混合する方法がある。また、本発明のCNT分散剤と、CNTを含む分散液とを混合してもよい。
【0011】
本発明のCNT分散剤におけるコロイド粒子の粒径は、1〜110nmの範囲が好適である。この範囲内であることにより、CNTの分散性が一層向上する。
また、CNT分散剤におけるコロイド粒子の濃度は、0.05〜30重量%の範囲が好適である。0.05重量%以上であることにより、CNTの分散性が一層向上する。また、30重量%以下であることにより、コロイド粒子がゲル化しにくい。イオン交換により作製したシリカコロイドを含むCNT分散剤の場合は、0.05〜5重量%の範囲が好適である。
【0012】
前記遷移金属の酸化物としては、例えば、ジルコニア、セリア、チタニア、及び酸化亜鉛から成る群から選ばれる1種以上が挙げられる。これらのコロイド粒子は、アルミナのコロイド粒子よりも、CNTの分散性が一層高い。
【0013】
本発明のCNT分散剤におけるpHは、7以下であることが好ましい。この範囲内であることにより、CNTの分散性が一層向上する。
本発明のCNT分散剤に含まれる分散媒としては、例えば、水、IPA、エチレングリコール等が挙げられる。
【0014】
本発明のCNT分散剤(シリカコロイドを含むもの)は、例えば、以下のように製造することができる。まず、ケイ酸ソーダ(1〜5号ケイ酸ソーダ、高純度ケイ酸ソーダ)を、SiO2濃度が1〜5重量%となるように希釈する。この希釈したケイ酸ソーダを、強酸性陽イオン交換樹脂に通す。このとき、ケイ酸ソーダのNaイオンがHイオンに置換される。その結果、シリカゾル(活性ケイ酸)が得られる。このシリカゾルを、シリカコロイドを含むCNT分散剤とすることができる。また、硫酸とケイ酸ソーダとから調製した酸性シリカゾル等も、シリカコロイドを含むCNT分散剤とすることができる。
【0015】
本発明のCNT分散液は、上述したCNT分散剤と、CNTとを含むことを特徴とする。本発明のCNT分散液は、上述したCNT分散剤を含むことにより、CNTを分散媒中で安定に分散させることができる。
【0016】
CNT分散液におけるコロイド粒子の濃度は、0.05〜30重量%の範囲が好適である。0.05重量%以上であることにより、CNTの分散性が一層向上する。また、30重量%以下であることにより、コロイド粒子がゲル化しにくい。イオン交換により作製したシリカコロイドを含むCNT分散液の場合は、0.05〜5重量%の範囲が好適である。
【0017】
本発明のCNT分散液におけるpHは、7以下であることが好ましい。この範囲内であることにより、CNTの分散性が一層向上する。
本発明のCNT分散液における分散媒は、CNT分散剤に含まれていた分散媒であってもよいし、それとは別に加えられた分散媒であってもよいし、CNT分散剤に含まれていた分散媒と他の分散剤との混合物であってもよい。
【0018】
本発明のCNT分散液は、例えば、CNT分散剤と、CNTとを混合させることで製造できる。混合後、分散処理(例えば、超音波処理、機械的な攪拌処理等)を行うことが好ましい。分散処理を行うことにより、CNTの分散性が一層向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】CNTを表す電子顕微鏡写真であって、(a)はVGCF−Hを表し、(b)はVGCF−Xを表す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0021】
1.CNT分散剤の製造
5号ケイ酸ナトリウム水溶液(SiO2濃度25.6重量%、モル比3.7)を、SiO2濃度が1重量%となるようにイオン交換水で希釈した。この希釈したケイ酸ナトリウム溶液を、カラムに充てんした強酸性陽イオン交換樹脂に通液することで、SiO2濃度1重量%のシリカコロイド溶液(pH3.9)を調製した。このシリカコロイド溶液を、CNT分散剤1Aとする。
【0022】
また、3gのCNT分散剤1Aに、イオン交換水27gを加えて希釈することにより、SiO2濃度0.1重量%のシリカコロイド溶液(pH5.2)を調製した。このシリカコロイド溶液を、CNT分散剤1Bとする。
【0023】
また、0.3gのCNT分散剤1Aに、イオン交換水29.7gを加えて希釈することにより、SiO2濃度0.01重量%のシリカコロイド溶液(pH5.6)を調製した。このシリカコロイド溶液を、CNT分散剤1Cとする。
【0024】
また、CNT分散剤1AのpHを、1mol/lの塩酸を加えることで、1.5、2.5、3.4にそれぞれ調整した。pHが1.5であるシリカコロイド溶液をCNT分散剤1Dとし、pHが2.5であるシリカコロイド溶液をCNT分散剤1Eとし、pHが3.4であるシリカコロイド溶液をCNT分散剤1Fとする。また、CNT分散剤1AのpHを、0.1mol/lのアンモニア水を用いて、4.5、5.5、6.4にそれぞれ調整した。pHが4.5であるシリカコロイド溶液をCNT分散剤1Gとし、pHが5.5であるシリカコロイド溶液をCNT分散剤1Hとし、pHが6.4であるシリカコロイド溶液をCNT分散剤1Iとする。
【0025】
また、市販のシリカコロイド溶液である、日産化学工業製のシリカゾルスノーテックスOXS(pH2〜4、粒径4〜6nm、SiO2濃度10重量%)、スノーテックスOS(pH2〜4、粒径8〜11nm、SiO2濃度20重量%)、スノーテックスOUP(pH2〜4、粒径40〜100nm、SiO2濃度15重量%)を、それぞれ、CNT分散剤1J、1K、1Lとする。
【0026】
なお、本実施例における各CNT分散剤の概略を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
また、表1には、後述する実施例2〜7で調製する各CNT分散剤の概略も示す。
2. CNT分散液の製造
30gのCNT分散剤1Aに、0.15gのCNTを添加し、20分間の超音波処理を行い、CNT分散液を得た。CNTとしては、図1(a)に示すVGCF−H(Vapor Grown Carbon Fiber、昭和電工製)と図1(b)に示すVGCF−X(Vapor Grown Carbon Fiber、昭和電工製)を、それぞれ用いた。VGCF−Hは直径150nm、長さ6μmのCNTである。また、VGCF−Xは、直径15nm、長さ3μmのCNTである。なお、後述する実施例2以降でも、同様のCNTを用いた。
【0029】
また、CNT分散剤1Aの代わりに、CNT分散剤1B〜1Lをそれぞれ用いて、上と同様に、CNT分散液を得た。
得られた各CNT分散液を、超音波処理後、24時間静置し、凝集や沈降が生じたかを確認した。その結果を上記表1に示す。表1において「○」は凝集や沈降が生じないことを表し、「×」は凝集や沈降が生じたことを表す。
【0030】
また、30gのCNT分散剤1Aに、1.5gのCNTを添加し、20分間の超音波処理を行い、CNT分散液を得た。このCNT分散液を、超音波処理後、24時間静置しても、凝集や沈降がないことを確認した。
【0031】
また、30gのCNT分散剤1Aに、0.15gのCNTを添加し、20分間の超音波処理を行い、CNT分散液を得た後、アンモニア水を用いて、このCNT分散液のpHを9.5に調整した。その後、24時間静置しても、凝集や沈降は生じなかった。
【0032】
以上のように、本実施例のCNT分散液は、CNTを安定に分散させることができた。また、CNTを酸やプラズマで処理する方法のように、CNT表面に欠陥を形成してしまうことがない。
【0033】
なお、CNT分散剤1AのpHを、0.1mol/Lのアンモニア水を用いて、7.4、8.6、9.5としてから、上と同様にCNTを添加し、20分間の超音波処理を行ったところ、pHが酸性である場合に比べて、凝集や沈降が生じ易かった。
【実施例2】
【0034】
日産化学工業製のジルコニアコロイド溶液(pH2.9、粒径80〜110nm、ZrO2濃度30重量%)を、CNT分散剤2とする。
30gのCNT分散剤2に、0.15gのCNTを添加し、20分間の超音波処理を行い、CNT分散液を得た。得られたCNT分散液を、超音波処理後、24時間静置しても、凝集や沈降は生じなかった。
【0035】
以上のように、本実施例のCNT分散液は、CNTを安定に分散させることができた。また、CNTを酸やプラズマで処理する方法のように、CNT表面に欠陥を形成してしまうことがない。
【実施例3】
【0036】
日産化学工業製のセリアコロイド溶液(pH3.1、粒径30〜80nm、CeO2濃度20重量%)を、CNT分散剤3とする。
30gのCNT分散剤3に、0.15gのCNTを添加し、20分間の超音波処理を行い、CNT分散液を得た。得られたCNT分散液を、超音波処理後、24時間静置しても、凝集や沈降は生じなかった。
【0037】
以上のように、本実施例のCNT分散液は、CNTを安定に分散させることができた。また、CNTを酸やプラズマで処理する方法のように、CNT表面に欠陥を形成してしまうことがない。
【実施例4】
【0038】
0.2mol/lの硝酸亜鉛水溶液とアンモニア水とを、それぞれ100ml調製した後に混合した。この結果得られた沈殿物を3000rpmで10分間遠心分離させ、未反応成分を除去した。これにエチレングリコール(EG)を溶媒として添加して、40℃で24時間静置して酸化亜鉛コロイド溶液を得た。この酸化亜鉛コロイド溶液をCNT分散剤4とする。CNT分散剤4における酸化亜鉛の濃度は8重量%であり、CNT分散剤4のpHは5.7である。
【0039】
30gのCNT分散剤4に、0.15gのCNTを添加し、20分間の超音波処理を行い、CNT分散液を得た。得られたCNT分散液を、超音波処理後、24時間静置しても、凝集や沈降は生じなかった。
【0040】
以上のように、本実施例のCNT分散液は、CNTを安定に分散させることができた。また、CNTを酸やプラズマで処理する方法のように、CNT表面に欠陥を形成してしまうことがない。
【実施例5】
【0041】
シリカコロイド粒子が、分散媒であるイソプロピルアルコール(IPA)中に分散しているコロイド溶液を、CNT分散剤5とする。シリカコロイド粒子は、CNT分散剤1Aにおけるシリカコロイド粒子と同様のものである。また、CNT分散剤5におけるシリカ濃度は30重量%である。
【0042】
30gのCNT分散剤5に、0.15gのCNTを添加し、20分間の超音波処理を行い、CNT分散液を得た。得られたCNT分散液を、超音波処理後、24時間静置しても、凝集や沈降は生じなかった。
【0043】
以上のように、本実施例のCNT分散液は、CNTを安定に分散させることができた。また、CNTを酸やプラズマで処理する方法のように、CNT表面に欠陥を形成してしまうことがない。
【実施例6】
【0044】
酸化チタン(TiO2)コロイド粒子が、分散媒であるIPA中に分散しているコロイド溶液を、CNT分散剤6とする。CNT分散剤6における酸化チタン濃度は10重量%である。
【0045】
30gのCNT分散剤6に、0.15gのCNTを添加し、20分間の超音波処理を行い、CNT分散液を得た。得られたCNT分散液を、超音波処理後、24時間静置しても、凝集や沈降は生じなかった。
【0046】
以上のように、本実施例のCNT分散液は、CNTを安定に分散させることができた。また、CNTを酸やプラズマで処理する方法のように、CNT表面に欠陥を形成しまうことがない。
【実施例7】
【0047】
まず、前記実施例1と同様にして、SiO2濃度1重量%のシリカコロイド溶液を調製した。次に、このSiO2濃度1重量%のシリカコロイド溶液をイオン交換水で希釈して、SiO2濃度0.25重量%のシリカコロイド溶液を調製した。このSiO2濃度0.25重量%のシリカコロイド溶液を、CNT分散剤7とする。なお、CNT分散剤7におけるシリカ濃度は、後述する比較例4におけるアルミナ濃度と同じである。
【0048】
上記のように調製したCNT分散剤7の30gに、0.15gのCNTを添加し、分散処理(超音波処理)を行った。分散処理後、24時間静置しても、凝集や沈降は生じなかった。
(比較例1)
30gの塩酸水溶液(pH2.5)に、0.15gのCNTを添加し、20分間の超音波処理を行った。その後24時間静置すると、凝集や沈降が生じた。
【0049】
(比較例2)
30gのIPAに、0.15gのCNTを添加し、20分間の超音波処理を行った。その後24時間静置すると、凝集や沈降が生じた。
【0050】
(比較例3)
ドデシル硫酸ナトリウムの(SDS)の1重量%溶液40gに、2gのCNTを添加し、20分間の超音波処理を行った。その後24時間静置すると、凝集や沈降が生じた。また、SDS溶液は、超音波処理時に、泡を発生させた。
【0051】
(比較例4)
Al2O3濃度0.25重量%のアルミナコロイド溶液を調製した。このアルミナ濃度は、前記実施例7におけるシリカ濃度と同じである。上記のアルミナコロイド溶液30gに、0.15gのCNTを添加し、分散処理(超音波処理)を行った。その後24時間静置すると、凝集や沈降が生じた。
【0052】
尚、本発明は前記実施形態になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカコロイド、及び/又は遷移金属の酸化物のコロイドを含むことを特徴とするCNT分散剤。
【請求項2】
前記遷移金属の酸化物は、ジルコニア、セリア、チタニア、及び酸化亜鉛から成る群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1記載のCNT分散剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載のCNT分散剤と、CNTとを含むことを特徴とするCNT分散液。
【請求項4】
前記シリカコロイド、及び/又は前記遷移金属の酸化物のコロイドの濃度が0.05〜30重量%であることを特徴とする請求項3記載のCNT分散液。
【請求項5】
pHが7以下であることを特徴とする請求項3又は4記載のCNT分散液。

【図1】
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【公開番号】特開2012−224521(P2012−224521A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94925(P2011−94925)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(391003598)富士化学株式会社 (40)
【Fターム(参考)】