説明

CZTS系薄膜太陽電池の製造方法

【課題】高い光電変換効率を有するCZTS系薄膜太陽電池を製造するための方法を提供する。
【解決手段】CZTS系薄膜太陽電池は、基板(1)上に金属裏面電極層(2)を形成し、金属裏面電極層(2)上に、p型CZTS系光吸収層(3)を形成し、このp型CZTS系光吸収層(3)上にn型高抵抗バッファ層(4)を形成し、その後、n型高抵抗バッファ層(4)が形成された基板(1)を酸素含有雰囲気中でアニールし、アニール後、n型高抵抗バッファ層(4)上にn型透明導電膜(5)を形成する、各ステップを備えて形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CZTS系薄膜太陽電池の製造方法に関し、特に、光電変換効率の高いCZTS系薄膜太陽電池を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、p型光吸収層として、一般にCZTSと呼ばれるカルコゲナイド系の化合物半導体を用いた薄膜太陽電池が注目されている。このタイプの太陽電池は、材料が比較的安価で、また太陽光に適したバンドギャップエネルギーを有するので、高効率の太陽電池を安価に製造できるとの期待がある。CZTSは、Cu,Zn,Sn,Sを含む、I2−II−IV−VI4族化合物半導体であり、代表的なものとして、Cu2ZnSnS4等がある。
【0003】
CZTS系薄膜太陽電池は、基板上に金属の裏面電極層を形成し、その上にp型CZTS系光吸収層を形成し、さらにn型高抵抗バッファ層、n型透明導電膜を順次積層して形成される。金属の裏面電極層材料としては、モリブデン(Mo)またはチタン(Ti)、クロム(Cr)等の高耐蝕性でかつ高融点金属が用いられる。p型CZTS系光吸収層は、例えば、モリブデン(Mo)の金属裏面電極層を形成した基板上に、Cu−Zn−SnあるいはCu−Zn−Sn−Sのプリカーサ膜をスパッタ法等により形成し、これを硫化水素雰囲気中で硫化することにより、形成される(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−215497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、CZTS系薄膜太陽電池はその潜在的な可能性は高いが、現在のところ実用に耐え得る高い光電変換効率を有する製品は得られておらず、製造技術の一層の進歩が求められている。本発明は係る点に関してなされたもので、特に、優れた結晶品質を有するp型CZTS系光吸収層を形成することによって、高い光電変換効率を有するCZTS系薄膜太陽電池の製造を可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明の第1の態様では、基板上に金属裏面電極層を形成し、前記金属裏面電極層上にp型CZTS系光吸収層を形成し、前記p型CZTS系光吸収層上にn型高抵抗バッファ層を形成し、前記n型高抵抗バッファ層の形成後の前記基板を酸素含有雰囲気中でアニールし、前記アニール後、前記n型高抵抗バッファ層上にn型透明導電膜を形成する、各ステップを備える、CZTS系薄膜太陽電池の製造方法を提供する。
【0007】
上記第1の態様において、前記酸素含有雰囲気を大気としても良い。
【0008】
さらに、前記n型高抵抗バッファ層の形成前の基板に対して、更なるアニールを行っても良い。
【0009】
さらに、前記アニール又は前記更なるアニールを、雰囲気温度130℃以上でかつ30分以上行うようにしても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法では、金属裏面電極層とp型CZTS系光吸収層及びn型高抵抗バッファ層が形成された基板を、酸素含有雰囲気中でアニールする。このアニールによって、雰囲気中の酸素が極薄い薄膜であるn型高抵抗バッファ層を透過してp型CZTS系光吸収層中に導入され、該層中に存在するVI族元素起因の結晶欠陥に捕獲される。その結果、結晶欠陥が不活性化され、p型CZTS系光吸収層の結晶品質が向上するので、製造後の太陽電池の光電変換効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る製造方法によって形成されたCZTS系薄膜太陽電池の断面構造を示す概略図。
【図2】CZTS系薄膜太陽電池のn型高抵抗バッファ層及びn型透明導電膜の一般的な製造工程を説明するための図。
【図3】本発明の一実施形態に係るn型高抵抗バッファ層及びn型透明導電膜の製造工程を説明するための図。
【図4】本発明の他の実施形態に係るn型高抵抗バッファ層及びn型透明導電膜の製造工程を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して本発明の種々の実施形態を説明するが、これらの実施形態は単に一例であって本発明を限定するものでは無い。また、全図面を通して、同じ符号は同一または類似の構成要素を示すので、重複した説明は行わない。更に、各図は本発明の説明のみを目的としており、従って各層の図面上の大きさが実際の縮尺に対応するものではない。
【0013】
図1は、本発明の方法で製造したCZTS系薄膜太陽電池の構造を示す概略断面図である。図1において、1はガラス基板、2はMo等の金属を材料とする金属裏面電極層、3はp型CZTS系光吸収層、4はn型高抵抗バッファ層、5はn型透明導電膜を示す。p型CZTS系光吸収層3は、Cu、Zn、Snを含む金属プリカーサ膜を金属裏面電極層2上に形成した後、これを500℃〜650℃の硫化水素および/またはセレン化水素雰囲気中で硫化および/またはセレン化して形成される。
【0014】
少なくともCu、Zn、Snを含む金属プリカーサ膜を硫化水素雰囲気中で硫化することによって、Cu2ZnSnS4からなるp型CZTS系光吸収層3が形成される。一方、この金属プリカーサ膜をセレン化水素雰囲気中でセレン化することによって、Cu2ZnSnSe4からなるp型CZTS系光吸収層3が形成される。或いは、同じ金属プリカーサ膜をセレン化しかつ硫化することによって、Cu2ZnSn(S,Se)4からなるp型CZTS系光吸収層3が形成される。
【0015】
図2の(a)及び(b)は、p型CZTS系光吸収層3上に、n型高抵抗バッファ層4及びn型透明導電膜5を形成してCZTS系薄膜太陽電池を完成する、一般的な工程を示す。図2(a)に示すように、金属裏面電極層2上にp型CZTS系光吸収層3が形成されると、その上に、n型高抵抗バッファ層4を形成する。n型高抵抗バッファ層4は、例えば、Cd、Zn、Inを含む化合物の薄膜(膜厚3nm〜50nm程度)であり、代表的にはCdS、ZnO、ZnS、Zn(OH)2、In23、In23、あるいはこれらの混晶であるZn(O、S、OH)で形成される。この層は、一般的には溶液成長法(CBD法)により製膜されるが、ドライプロセスとして有機金属気相成長法(MOCVD法)、原子層堆積法(ALD法)も適用可能である。なお、CBD法とは、プリカーサとなる化学種を含む溶液に基材を浸し、溶液と基材表面との間で不均一反応を進行させることによって薄膜を基材上に析出させるものである。
【0016】
n型高抵抗バッファ層4の形成後、図2(b)に示すように、n型透明導電膜5が形成されてCZTS系薄膜太陽電池が構成される。n型透明導電膜5としては、n型の導電性を有し、禁制帯幅が広く透明でかつ低抵抗の材料によって、膜厚0.05から2.5μm程度に形成される。代表的には酸化亜鉛系薄膜(ZnO)あるいはITO薄膜がある。ZnO膜の場合、III族元素(例えばAl、Ga、B)をドーパントとして添加することで低抵抗膜とすることができる。n型透明導電膜5は、MOCVD法以外に、スパッタ法(DC、RF)等で形成することもできる。
【0017】
以上の工程を経て完成されたCZTS系薄膜太陽電池では、一般に、あまり高い光電変換効率を得ることが出来ない。本発明者等は、その原因がp型CZTS系光吸収層3の結晶品質にあるのではないかと考えた。p型CZTS系光吸収層3には、一般に、VI族元素(S、Se等)に起因する多くの結晶欠陥が存在し、その結晶品質を低下させている。そこで、p型CZTS系光吸収層3中に形成された、VI族元素起因の結晶欠陥を効果的に不活性化することが出来れば、その結晶品質を改善し、太陽電池の光電変換効率を向上させることが可能となる。本発明は、このような知見に基づいて、以下のような方法を提案する。
【0018】
図3の(a)〜(c)は、本発明の一実施形態に係るCZTS系薄膜太陽電池の製造方法における、p型光吸収層3上にn型高抵抗バッファ層4を形成した後の工程を示す。即ち、図3(a)に示すように、金属裏面電極2上に形成されたp型CZTS系光吸収層3に、例えば、図2を参照して説明した方法によりn型高抵抗バッファ層4を形成した後、図3(b)に示すように、基板を、酸素含有雰囲気中、例えば大気中でアニールを行うことを特徴とする。n型高抵抗バッファ層4は、3nm〜50nm程度の極薄い薄膜であるため、このアニールによって、雰囲気中に含まれる酸素ガスが比較的容易にこれを透過し、p型CZTS系光吸収層3中に達する。
【0019】
このようにして、p型CZTS系光吸収層3中に導入された酸素は、VI族元素に起因する結晶欠陥に捕獲されこれを不活性化する。その結果、p型CZTS系光吸収層3の結晶品質が改善される。その後、図3(c)に示すように、n型高抵抗バッファ層4上に、例えば、図2を参照して説明した方法により、n型透明導電膜5を形成する。
【0020】
以下の表1に、上記第1の実施形態によって製造されたCZTS系薄膜太陽電池サンプルの光電変換効率を示す。実験1サンプルはアニール時間を30分とし、実験2サンプルはアニール時間を120分としている。何れのサンプルも、アニール温度は130℃であり、アニール雰囲気は大気とした。比較のために、従来例1サンプルとしてアニールを行わないCZTS系薄膜太陽電池の光電変換効率を示してある。なお、従来例1サンプル、実験1サンプル及び実験2サンプルとも、アニール工程以外は同じ製造工程を経て形成されており、p型CZTS系光吸収層3はCu2ZnSnS4で形成され、n型高抵抗バッファ層4はCdSで形成されている。その他の製造条件については、表3を参照して後述する。
【表1】

【0021】
表1より明らかなように、本発明に従ってアニール後のn型高抵抗バッファ層4上にn型透明導電膜5を形成した実験1サンプル、実験2サンプルでは、アニールを行わない従来例1サンプルに比べて光電変換効率が20%程度、向上している。また、実験1サンプルと実験2サンプルとの比較から、アニール時間は30分以上が望ましいと推定される。この実験結果から、本発明に係るn型高抵抗バッファ層4の形成後のアニールが、光電変換効率の向上に効果のあることが実証された。
【0022】
図4の(a)〜(d)は、本発明の他の実施形態に係る製造工程の一部を示し、この実施形態では、図4(a)に示すように、p型CZTS系光吸収層3を形成した後であってn型高抵抗バッファ層4を形成する前に、基板に対し、酸素含有雰囲気中での第1回目のアニールを行う。その後、図4(b)に示すように、アニール後のp型CZTS系光吸収層3上に、例えば図2を参照して説明した方法により、n型高抵抗バッファ層4を形成する。
【0023】
本実施形態では、n型高抵抗バッファ層4の形成後、図4(c)に示すように第2回目のアニールを行い、その後、図4(d)に示すようにn型高抵抗バッファ層5を形成する。第2回目のアニールも第1回目のアニールと同様に、酸素含有雰囲気中、例えば大気中で行う。本実施形態では、このように、n型高抵抗バッファ層4の製膜の前後に2回のアニールを行うことにより、p型CZTS系光吸収層3中にさらに効果的に酸素を導入することを特徴とする。
【0024】
表2に、実験3サンプルの光電変換効率の測定結果を示す。実験3サンプルは、第2の実施形態に従って、n型高抵抗バッファ層4の形成前と形成後の2回、アニールを行ったものであり、その他の製造条件については、従来例1サンプル、実験1サンプル及び実験2サンプルと同じとしている。第1回目(n型高抵抗バッファ層4の形成前)と第2回目(n型高抵抗バッファ層4の形成後)のアニールは、温度130℃の大気中で30分間に亘って行われた。
【表2】

【0025】
表2から明らかなように、n型高抵抗バッファ層4を形成する前後で2回のアニールを実施した実験3サンプルでは、従来例1サンプル、実験1サンプル及び実験2サンプルに比べてさらに光電変換効率が改善されている。従って、n型高抵抗バッファ層4を形成する前後の2回のアニールが、光電変換効率の向上に効果のあることが実証された。
【0026】
以下の表3に、従来例1サンプル、実験1サンプル、実験2サンプル及び実験3サンプルの製造方法を要約する。
【表3】

【0027】
表4に、図3に示す本発明の実施形態、即ち、n型高抵抗バッファ層4の形成後にのみ1回のアニールを行う製造方法に従って製造された他のサンプル、即ち、従来例2サンプルと実験例4サンプルについて、その光電変換効率の測定結果を示す。従来例2サンプルと実験4サンプルは、n型高抵抗バッファ層4の形成後のアニール工程を除いて同一の製造条件で形成されており、従来例1サンプル、実験1〜実験3サンプルとは異なってn型高抵抗バッファ層4の組成をZn(S,O,OH)としている。なお、従来例2サンプル及び実験4サンプルは、n型高抵抗バッファ層4をZn(S,O,OH)で形成したこと以外、表3に記載する製造条件に基づいて製造されたものであるが、CZTS系化合物Cu2ZnSnS4におけるZnとSnの組成比が、従来例1サンプル、実験1サンプル、実験2サンプル及び実験3サンプルの場合とは異なる。
【表4】

【0028】
表4から明らかなように、n型高抵抗バッファ層4をZn(S,O,OH)で構成した場合であっても、従来例2サンプルに対して実験4サンプルの光電変換効率がかなり向上している。このことからも、n型高抵抗バッファ層4の形成後のアニールに、光電変換効率を改善する効果を認めることが出来る。
【0029】
実験1〜実験4サンプルは、組成がCu2ZnSnS4のp型CZTS系光吸収層3を有するが、本発明はこの事例に限定されるものではなく、Cu2ZnSnSe4又はCu2ZnSn(S,Se)4であっても、同様の効果が得られることは明らかである。さらに、p型CZTS系光吸収層3を形成するための金属プリカーサ膜も、表3に示すZnSの代わりにZnを用いても良く、Snの代わりにSnSであっても良い。さらに、Zn、Sn、Cuを順次製膜する以外に、ZnとSnを予め合金化した蒸着源を用いても良い。製膜方法として、EB蒸着以外にスパッタ法を用いても良い。
【0030】
さらに、基板1、金属裏面電極層2、n型高抵抗バッファ層4及びn型透明導電膜5も、表3に記載する事例に限定されない。例えば、基板1として、青板ガラス、低アルカリガラス等のガラス基板の他に、ステンレス板等の金属基板、ポリイミド樹脂基板等を用いることができる。金属裏面電極層2の形成方法としては、表2に記載するDCスパッタ法以外に、電子ビーム蒸着法、電子層堆積法(ALD法)等がある。金属裏面電極層2の材料としては、高耐蝕性でかつ高融点金属、例えばクロム(Cr)、チタン(Ti)等を用いても良い。
【0031】
n型透明導電膜5としては、n型の導電性を有し、禁制帯幅が広く透明でかつ低抵抗の材料を用いて、膜厚0.05から2.5μm程度に形成される。代表的には酸化亜鉛系薄膜(ZnO)あるいはITO薄膜がある。ZnO膜の場合、III族元素(例えばAl、Ga、B)をドーパントとして添加することで低抵抗膜とする。n型透明導電膜5は、MOCVD法以外に、スパッタ法(DC、RF)等で形成することもできる。
【符号の説明】
【0032】
1 ガラス基板
2 金属裏面電極層
3 p型CZTS系光吸収層
4 n型高抵抗バッファ層
5 n型透明導電膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に金属裏面電極層を形成し、
前記金属裏面電極層上に、p型CZTS系光吸収層を形成し、
前記p型CZTS系光吸収層上にn型高抵抗バッファ層を形成し、
前記n型高抵抗バッファ層の形成後前記基板を酸素含有雰囲気中でアニールし、
前記アニール後、前記n型高抵抗バッファ層上にn型透明導電膜を形成する、各ステップを備える、CZTS系薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記酸素含有雰囲気は大気であることを特徴とする、CZTS系薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、前記n型高抵抗バッファ層の形成前の基板に対して更なるアニールを行うことを特徴とする、CZTS系薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の方法において、前記アニール又は前記更なるアニールは、雰囲気温度130℃以上でかつ30分以上に亘って行うことを特徴とする、CZTS系薄膜太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−253239(P2012−253239A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125620(P2011−125620)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】