説明

CaA型ゼオライト成形体およびその製造法

【構成】Caイオン交換率が40%以上70%未満であり、かつ、結晶含有率が90%以上であるバインダーレスCaA型ゼオライト成形体。結晶含有率90%以上のバインダーレスNaA型成形体を、その中のNaA型ゼオライト100グラムに対し0.25〜1.0モルのCaイオンでイオン交換処理することによって製造することができる。
【効果】本発明のバインダーレスCaA型ゼオライト成形体は、従来のものよりも著しく吸着特性に優れ、かつ成形体の割れおよび崩壊が起こりにくい等機械的特性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、CaA型ゼオライト成形体およびその製造法に関するものである。CaA型ゼオライトは優れた吸着性能を有し、例えば、炭化水素混合物からn−パラフィンの選択的吸着分離、ブタン−ブチレン留分からブタジエン製造原料のn−ブチレンの分離、酸素と窒素の混合ガスから酸素の分離濃縮等に使用されている。
【0002】
【従来の技術】従来のCaA型ゼオライトは、Caイオン交換率が70%以上である細孔径が約5オングストロームの分子ふるいであり、Caイオン交換率が高いほど吸着容量が高く、吸着特性が優れているとされている。一方、特開昭58−196847号公報には1重量%以上の水酸化アルミニウムを加えることによってCaイオン交換率15%以上で低温におけるO2とN2との分離性能の優れた吸着剤となるとしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】CaA型ゼオライト成形体は、製造時に細孔内の水を除去するために300℃以上で熱処理する必要があるが、このように70%以上Caイオン交換されたCaA型ゼオライトは高い温度および高い水分雰囲気による吸着特性の劣化が激しく、かつ、この吸着特性の劣化は従来のCaA型ゼオライトでは事実上抑えることができない。
【0004】また、従来のCaA型ゼオライト成形体はバインダーとゼオライトとを混練成形したものであり、ゼオライト100重量部に対し、バインダーを10重量部以上含む。そのため、CaA型ゼオライト成形体はCaA型ゼオライト結晶自体の吸着性能と比べ吸着容量が劣る。また、成形体中に含まれるバインダーはゼオライト細孔をふさぎ、性能の低下を引起こすことすらある。
【0005】本発明は、このような問題を解決した、すなわち、従来のCaA型ゼオライト成形体よりも耐熱性が高く、かつ、吸着性能の優れたCaA型ゼオライト成形体およびその製造法の提供を目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、■Caイオン交換率が40%以上70%未満であり、かつ、結晶含有率が90%以上であるバインダーレスCaA型ゼオライト成形体、■結晶含有率90%以上のバインダーレスNaA型成形体を、その中のNa型ゼオライト100グラムに対し0.25〜1.0モルのCaイオンでイオン交換処理することによるバインダーレスCaA型ゼオライト成形体の製造法を要旨とするものである。
【0007】以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】本発明のCaA型ゼオライト成形体のCaイオン交換率は40%以上70%未満の範囲である。Caイオン交換率が40%未満であるとガス吸着容量が低すぎ;70%以上でも吸着容量が低く;40%以上70%未満で高いガス吸着容量を有する。とくに、Caイオン交換率は50%以上60%未満の範囲であることが好ましい。
【0009】本発明のゼオライト成形体は、バインダーレス化されたゼオライト結晶含有率90%以上のCaA型ゼオライト成形体である。添加するバインダー量を少なくすることで成形体中のゼオライト含有率を90%以上にすることはもちろん可能であるが、一般的には、バインダー量を低下させると成形性が悪くなり、成形体強度が低下するなど工業的な観点からは好ましくない。一方、添加したバインダーをゼオライト結晶化する、いわゆるバインダレス化は成形体強度を低下させることなく結晶含有率を増加させることができるため好ましい。
【0010】本発明のCaA型ゼオライト成形体のガス吸着容量は、たとえば、温度−10℃、圧力700torrにおいて窒素ガスを用いた場合、30〜45Ncc/gである。
【0011】次に、該CaA型ゼオライト成形体の製造方法を説明する。
【0012】結晶含有率90%以上のバインダレスNaA型ゼオライト成形体をCaイオン交換処理することにより該CaA型ゼオライト成形体を製造する。
【0013】バインダレスNaA型ゼオライト成形体は、特開平2−157119号公報に提案された方法によって製造することができる。すなわち、合成NaA型ゼオライト粉末に対しバインダーとしてカオリン系粘土20〜30重量%とカオリン系粘土をNaA型ゼオライトに転化させるための化学量論量の25%以下の水酸化ナトリウムからなる混合物に少量の成形助剤を加え混練、成形し、えられた成形体を焼成した後、濃度1.6〜3.0mol/lの水酸化ナトリウム水溶液中でバインダーをNaA型ゼオライトに転化させる。成形体の形状としては柱状、球状等の種類があるが特に制限はない。バインダー中のSiとAlの組成比が1からずれている場合、バインダレス化による不純物の生成を防ぐために不足のSi成分あるいはAl成分をバインダー中に加えて混練、成形するのは効果的である。あらかじめ混練されたSi成分あるいはAl成分はバインダレス化処理の段階でバインダー成分と反応し、NaA型ゼオライトに転化して効率的にバインダレス化が促進され、バインダーのSiとAlの組成の片寄りに起因する不純物の生成が防がれ、結晶含有率を更に高めることができる。Si成分あるいはAl成分の添加は組成の不足分を補う程度に止めるのが好ましく、過剰の添加は逆に不純物を生成し、バインダレス化を妨げることになる。例えば、Si成分としては水酸化珪素や固体反応性シリカ等があり、Al成分としては水酸化アルミニウムや酸化アルミニウム等を挙げることができる。
【0014】このような処理によって、バインダーはほぼ100%ゼオライトに転化し、ほぼ100%ゼオライト純分のバインダレスNaA型ゼオライトがえられる。
【0015】本発明のCaA型ゼオライト成形体は、以上のようにしてえられたバインダーレスNaA型ゼオライト成形体をCaCl2,Ca(OH)2,Ca(NO32などのCaイオンを含む溶液と接触させることにより40%以上70%未満の交換率でイオン交換して得られる。
【0016】Caイオン交換時の溶液のpHは7以上が好ましい。pH7未満すなわち酸性雰囲気ではゼオライト結晶が不安定となり結晶構造に欠陥が生じたり結晶構造自体が崩壊したりして成形体の吸着容量が著しく低下するからである。
【0017】ここで、イオン交換されるNaA型ゼオライト成形体のNaA型ゼオライト純分100グラムに対し0.25〜1.0モルのCaイオンを含む溶液中で3時間以上イオン交換すれば該CaA型ゼオライト成形体が得られる。ただし、このバインダレス法で製造されたNaA型ゼオライト成形体はほぼ100%のゼオライト純分であるからNaA型ゼオライト成形体100グラムに対し0.25〜1.0モルのCaイオンを含む溶液中で3時間以上イオン交換すれば該CaA型ゼオライト成形体が得られる。この時間が短すぎると、Caイオン交換が平衡状態に達せず、えられるものの組成が不均一となりがちである。
【0018】イオン交換されCaA型ゼオライト成形体は水洗して付着しているNaイオンとCaイオンを含む水溶液を取除く。このようにして、得られたCaA型ゼオライトを活性化するには乾燥後、たとえば400℃で焼成すればよい。この際、乾燥および焼成雰囲気の水蒸気分圧は、なるべく低くするほうが好ましい。
【0019】本発明のCaA型ゼオライト成形体は、バインダーレス化されたものすなわちバインダーを結晶化したものをイオン交換してえられるものであるので、ゼオライトとバインダーとの間の結合よりも強固なゼオライトとゼオライト間の結晶性結合により構成されるようになる。そのため、本発明の成形体はゼオライトとバインダーを混ぜて作ったCaA型ゼオライト成形体には見られない優れた機械的特性を有する。
【0020】
【作用】CaA型ゼオライトは、Caイオン交換率が高いほどCaイオン吸着サイトが増えるので吸着量の増加が期待される。一方、CaA型ゼオライトはイオン交換時に構造水を形成し、乾燥してもなかなか除去できない。この構造水は吸着サイトのCaイオンに配位するため、Caイオン交換率が高いほど増加する。通常は、この水を除去するため、300℃以上700℃以下でCaA型ゼオライトを焼成して活性化を行なっている。この段階で、ゼオライト骨格のアルミノシリケイトと構造水の反応が進行し、脱Al反応等を引き起こし、吸着量を著しく低下させると推定される。Caイオン交換率が70%以上であると、事実上この構造水の形成およびゼオライト骨格との反応をおさえることが困難であり、したがって吸着容量が低くなるものと考えられる。
【0021】しかし、本発明のようにCaイオン交換率が低いと、通常の乾燥方法と焼成方法によりこの構造水を取除くことができ、それによって吸着容量が向上するものと認められる。
【0022】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明のバインダーレスCaA型ゼオライト成形体は、従来のものよりも著しく吸着特性に優れ、かつ成形体の割れおよび崩壊が起こりにくい等機械的特性に著しく優れている。従って、たとえば酸素PSA等の吸着分離効率の向上に役立つ。
【0023】
【実施例】以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】実施例、比較例における各測定方法は以下の通りである。
【0025】<窒素吸着容量測定方法>窒素吸着容量の測定は容量法で行った。ゼオライト成形体を0.01mmHg以下の圧力下で350℃で120分間活性化し、冷却後、窒素ガスを導入し、吸着温度−10℃、吸着圧700mmHgに保ち、吸着が十分平衡に達した後に吸着容量(Ncc/g)を測定した。
【0026】<成形体強度測定方法>成形体強度の測定は木屋式硬度計を用いて行った。100個の成形体の測定値の平均値を成形体強度とした。
【0027】以下の具体例における「部」は、重量による。
【0028】実施例1NaA型合成ゼオライト粉末(東ソー株式会社製ゼオラムA−4粉末品、以下同じ)100部にカオリン型粘土25部、水酸化ナトリウム1.75部および押出し潤滑剤としてCMC(カルボキシメチルセルロース)粉末3部とを混合し、造粒器(muller mixer、以下同じ)中で水分の調製を行いながら混練捏和した。次に、この捏和物を直径1.5mmのダイスプレートを備えた押し出し成形器に供給しペレット状に押し出し成形した。
【0029】120℃で乾燥した後、長さ5〜10mmに調製しマッフル炉を用いて650℃で4時間焼成した。
【0030】冷却後、この焼成ペレット1000gを水和し脱ガスし、1.6mol/lの水酸化ナトリウム水溶液10リットルに入れ、40℃で1時間エージングを行い、更に80℃に3時間保ってバインダーの結晶化を行った。このものを洗浄し、余分な水酸化ナトリウム水溶液を洗い流し、乾燥させ、そして350℃で1時間、焼成活性化を行った。
【0031】X線回折測定では、NaA型ゼオライト以外の相は全く観測されず、25℃における水分吸着容量は成形体乾燥重量に対し27.5wt%であった。100%純分のNaA型ゼオライト粉末の水分吸着容量が乾燥重量に対し28.1wt%であること、および100%純分のNaA型ゼオライト粉末のX線回折強度と成形体回折強度の比較から結晶含有率98%であることがわかった。よって、ほぼ完全なバインダレスNaA型ゼオライトである。
【0032】この成形体100gを水和し脱ガスした後、Caイオン0.35モル含む塩化カルシウム水溶液1000ml、60℃で3時間、回分式イオン交換を行った。その後、よく洗浄し、付着水を取り除いた成形体を120℃で乾燥し、400℃で1時間焼成活性化した。このようにしてえられたゼオライト成形体のイオン交換率は原子吸光により調べたところ51%であり、残りのイオンはナトリウムイオンであった。
【0033】このものの窒素吸着容量、耐圧強度を上述の方法で評価したところ、38.2Ncc/g、6.1kgfであった。
【0034】実施例2〜4 比較例1〜3Caイオン量を変化させたこと以外、実施例1とまったく同じ操作によって、表1に示す各々のCaイオン交換率のA型ゼオライト成形体をそれぞれ調製した。それらの物性を実施例1と同じ方法で評価した結果を表1に示す。
【0035】比較例4NaA型合成ゼオライト粉末100gをCaイオン0.48モル含む塩化カルシウム水溶液1000ml、60℃で3時間イオン交換を行った。洗浄し、付着水を取り除いたゼオライトのイオン交換率を原子吸光により調べたところ58%であり、残りはナトリウムイオンであった。
【0036】このものの窒素吸着容量を上述の方法で評価したところ、41.9Ncc/gであった。
【0037】このゼオライト粉末100部にカオリナイト型粘土25部を混合し、造粒器中で水分の調製を行いながら混練捏和した。次に、この捏和物を直径1.5mmのダイスプレートを備えた押し出し成形器に供給し柱状に押し出し成形した。120℃で乾燥した後、長さ5〜10mmに調製しマッフル炉を用いて650℃で4時間焼成した。
【0038】このものの窒素吸着容量、耐圧強度を上述の方法で評価したところ、33.2Ncc/g,3.3kgであった。
【0039】比較例5〜7比較例4と同じ操作によって、表1に示すバインダー量,Caイオン交換率のCa−NaA型ゼオライト成形体をそれぞれ調整した。それらの物性を前述と同じ方法で評価した結果を表1に示す。
【0040】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】Caイオン交換率が40%以上70%未満であり、かつ、結晶含有率が90%以上であるバインダーレスCaA型ゼオライト成形体。
【請求項2】結晶含有率90%以上のバインダーレスNaA型成形体を、その中のNaA型ゼオライト100グラムに対し0.25〜1.0モルのCaイオンでイオン交換処理することを特徴とするバインダーレスCaA型ゼオライト成形体の製造法。