説明

CapGをマーカーとする悪性腫瘍の予後予測検査方法

【課題】悪性腫瘍の予後を予測するためのマーカー及び当該マーカーを用いた悪性腫瘍の検査方法を提供する。より詳しくは、当該マーカーを用いたゲムシタビン治療に関する悪性腫瘍の予後予測検査方法を提供し、又は胆道がんの術後予後予測検査方法を提供する。
【解決手段】CapG(Macrophage-capping protein)を悪性腫瘍の予後を予測するためのマーカーとすることによる。CapGの有無と悪性腫瘍の予後との関係を調べた結果、陽性の場合には陰性の場合に比べて術後5年生存率が有意に低く、CapGは有意な予後予測マーカーとなりうる。悪性腫瘍におけるCapGの検出又は定量により、ゲムシタビン治療に関する悪性腫瘍の予後又は胆道がんの術後の予後を判断することができる。CapGの検出又は定量は免疫学的手法によることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪性腫瘍の予後を予測するためのマーカー及び当該マーカーを用いた悪性腫瘍の予後予測検査方法に関する。より詳しくは、当該マーカーを用いたゲムシタビン治療に関する悪性腫瘍の予後予測又は胆道がんの術後予後予測に係る検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲムシタビン (gemcitabine) とは、抗がん剤として用いられる含フッ素ヌクレオシドの一種である。シチジンのリボース環の2’位がフッ素2個で置換された構造を持つ。ゲムシタビンは、非小細胞肺がん、膵臓がん(膵がん)、胆道がん、尿路上皮がん、手術不能又は再発乳がんを適応症とし、日本では適応外であるが、上記以外の乳がん、膀胱がん、卵巣がんなどに対しても有効性が報告されている。
【0003】
上記のうち、胆道がんは胆道系に発生する悪性腫瘍の総称であり、発生部位により肝外胆管がん(狭義の胆管がん)、胆嚢がん、乳頭部がん、肝内胆管がん(胆管細胞がん)等に分類される。胆道がんならびに膵がんの大部分は胆管や膵管上皮細胞から発生する。厚生労働省の死亡統計では、胆管がんは、胆嚢・その他の胆道がんとしていっかつ統計されており、悪性新生物(がん)の年齢調整死亡率(2003年)では男性では8番目、女性では7番目を占めている。男女とも2000年までは増加傾向を示していたが、2001年以降は横ばい、やや下降傾向を示している。全国胆道がん登録症例(1988〜1997)では、肝門部胆管がん、中部胆管がん、下部胆管がんの5年生存率はそれぞれ21%、23%、32%であった。全国胆道がん登録症例(1999〜2002)で予後が判明している426例の5年生存率は29.7%で1988〜1997年統計より改善がみられた。胆管がんの治療成績は、経時的統計を見ると改善傾向にあるが、その5年生存率は20〜40%であり、他の消化器がんと比較すると、予後の悪いがんであるといえる。
【0004】
がんの診断にはX線CTやMRIなどの画像診断のほか、特定のがんに特異的に発現するがんマーカーや血液、組織中に漏出するがんマーカーなどを検出する方法も汎用されている。なお、がんマーカーにおいては、診断マーカー、予後予測マーカー、治療奏効性予測マーカーなどの種類が挙げられる。例えば、EGFRキナーゼ阻害剤に対する感受性を予測する治療奏効性予測マーカーとして、KCIP-1, CD98, DRF1, LASP-1, APC-binding protein EB1など各種マーカーが開示されている報告がある(特許文献1)。
【0005】
肝内胆管がんに関して、(1) insulin-like growth factor-binding protein 5 (IGFBP5)、(2) Claudin4 (CLDN4)、(3) PDZ and LIM domain 7 (PDLIM7)、及び(4) Biglycan(BGN)の4種類のヒト遺伝子からなる群から選択されるClaudin4を除く1つの遺伝子、又は少なくとも2つの遺伝子の発現レベルをin vitroで測定し、該発現レベルに基づいて肝内胆管がんを検出する方法について開示がある(特許文献2)。特許文献2に示す4種類の遺伝子は、肝内胆管がん(ICC)に罹患した場合に発現が変動し、特に肝細胞がん(HCC)及び転移性肝がん患者との間で、発現が変動することが示されており、当該4種類の遺伝子の発現を解析することにより、肝内胆管がんを検出することができ、さらに肝内胆管がんと肝細胞がん及び転移性肝がんを鑑別診断することができることが開示されている。臨床で使用されている胆道がんの診断マーカーとしては、例えばCEA、CA19-1、CA50、STN、NCC-ST-439、SLX等が挙げられるが、胆道がん特異的、即ち単一の腫瘍マーカーが存在しないため、数種類の腫瘍マーカーを測定することが多くなる。
【0006】
また、ゲムシタビンの奏功率(腫瘍がある程度小さくなる確率)は10〜20%程度であるといわれている。ゲムシタビンの効果は症状の緩和と生存期間の延長であり、がんを完全に消し去るには至らない。がんの化学療法においては、他の薬物とは異なり、薬効量と副作用量とが近接する治療域の狭い抗がん剤を、最大の薬効を得ることを目的として最大耐用量近傍で投与せざるを得ない。しかしながら、薬物動態や薬効及び毒性の発現には大きな個人差が存在し、重篤な毒性が発現したり、十分な効果が得られない場合が生じる原因となっている。そのため、有効かつ安全な治療を行うためには、抗がん剤感受性因子を考慮した治療計画が重要であり、がんの化学療法には、未だ大きな改善および進歩が期待されている。
【0007】
患者、例えばがん患者の、治療、例えば化学療法剤などの化合物、又は放射線を用いる治療反応に対する感受性若しくは抵抗性を推定するための方法および装置について開示がある。例えば、化合物、薬剤、又は放射線による治療反応に対する感受性若しくは抵抗性を推定するためのバイオマーカーを同定するための方法および装置、並びに治療効果を推定するためのマーカーについて開示されている(特許文献3)。特許文献3に開示する装置及び方法は、がん患者(例えば、肺がん、リンパ腫、および脳腫瘍の患者)における治療効果を正確に推定するために使用され、並びに任意のがんであると診断された患者における治療効果の推定に使用可能であることが開示されている。ここでは、多くのマーカーや抗腫瘍治療薬が列挙して示されているが、個々のマーカーと腫瘍の種類、薬剤との関係については十分には示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】US2007/0212738米国出願
【特許文献2】特開2008-72952号公報
【特許文献3】特表2009-523011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、悪性腫瘍の予後を予測するためのマーカー及び当該マーカーを用いた悪性腫瘍の検査方法を提供することを課題とする。より詳しくは、当該マーカーを用いたゲムシタビン治療に関する悪性腫瘍の予後予測検査方法を提供することを課題とし、又は胆道がんの術後予後予測検査方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために、鋭意研究を重ね、生体検体から取得した悪性腫瘍を含む組織から、レーザーマイクロダイセクションを用いて細胞を回収し、タンパク質を抽出した後、蛍光二次元電気泳動法と質量分析装置にて予後に関係するタンパク質を解析した。解析の結果、CapG(Macrophage-capping protein)に着目し、CapGと予後との関係を調べた結果、CapGが陽性の場合には陰性の場合に比べて5年生存率が有意に低いことが確認され、有意な予後予測マーカーとなりうることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下よりなる。
1.CapG(Macrophage-capping protein)をマーカーとして検出する悪性腫瘍の予後予測検査方法。
2.悪性腫瘍の予後予測が、悪性腫瘍に対するゲムシタビン治療効果の予測である前項1に記載の予後予測検査方法。
3.悪性腫瘍が、非小細胞肺がん、膵がん、胆道がん、尿路上皮がん及び乳がんから選択されるいずれかである前項1又は2に記載の予後予測検査方法。
4.悪性腫瘍が、胆道がんである前項3に記載の予後予測検査方法。
5.悪性腫瘍の予後予測が、胆道がんの術後予後予測である前項1に記載の予後予測検査方法。
6.以下の工程を含む、前項1〜5のいずれか1に記載の予後予測検査方法:
(1)生体から採取した生体検体中のCapGを検出又は定量する工程;
(2)検出又は定量したCapGにより、悪性腫瘍の予後を予測する工程。
7.生体検体が、非小細胞肺がん、膵がん、胆道がん、尿路上皮がん及び乳がんから選択されるいずれかの悪性腫瘍組織を含む生体検体である前項6に記載の予後予測検査方法。
8.生体検体が、胆道がんからなる悪性腫瘍組織を含む生体検体である前項6に記載の予後予測検査方法。
9.CapGの検出又は定量を、免疫学的手法により行う前項6〜8のいずれか1に記載の予後予測検査方法。
10.免疫学的手法が、免疫組織染色である前項9に記載の予後予測検査方法。
11.前項1〜10のいずれか1に記載の予後予測検査方法に使用する、CapGからなる悪性腫瘍の予後予測マーカー。
12.生体検体中のCapGを検出又は定量するための抗CapG抗体を含む、前項1〜10のいずれか1に記載の予後予測検査方法に用いる検査用試薬。
13.生体検体中のCapGを検出又は定量するための抗CapG抗体と、CapGと抗CapG抗体の反応を検出しうる標識を含む、前項1〜10のいずれか1に記載の予後予測検査方法に用いる検査用試薬キット。
【発明の効果】
【0012】
本発明の予後予測検査方法、具体的には蛍光二次元電気泳動によるスポットの濃度又は免疫組織染色によると、悪性腫瘍、例えば胆道がんについて、CapG陽性例ではゲムシタビンの治療に関する予後が良好でなく、CapG陰性例では同ゲムシタビンの治療に関する予後が良好であり、CapG発現の陽性と陰性を比較した場合、陰性のほうが陽性よりも良好であった。
【0013】
また、本発明の予後予測検査方法によると、例えば肝内肝胆がんではCapG陽性症例での術後5年生存率は17.2%であったのに対し、CapG陰性症例では34.0%であり、肝外肝胆がんではCapG陽性症例での術後5年生存率は29.5%であったのに対し、CapG陰性症例では54.7%であり、陽性症例は陰性症例に比べて有意に予後不良であった。更に、多変量解析により解析した結果、CapGと肝胆がんの予後に相関される他の臨床病理学因子について、術後生存及び術後再発ともに相関することが確認され、CapGは悪性腫瘍の予後判断のための強力なマーカーとなることが確認された。
【0014】
CapGを単一のマーカーとして用いる本発明の予後予測検査方法によると、胆管がんなどの患者の予後を予測することが可能になる。悪性腫瘍、例えば胆管がんと診断された患者について、生検などで悪性腫瘍組織を採取した際や、手術で切除されたがん検体を、本発明の予後予測検査方法により検査することで予後を判断することができ、適切な治療方法を選択することができる。また、ゲムシタビンの治療に関する予後も予測することができる。つまり、CapGを単一のマーカーとして用いることにより、技術的に簡便に迅速に低いコストで実用的に悪性腫瘍患者の予後を予測し、治療方針を立てることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】蛍光二次元電気泳動による約3500のタンパク質スポットを示す図である。(参考例)
【図2】ウエスタンブロット法により、胆道がん細胞株とマウス移植組織でのCapGの発現を確認した図である。(実施例1)
【図3】ウエスタンブロット法と蛍光二次元電気泳動による、胆道がん細胞株とマウス移植組織でのCapGの発現を確認した図である。(実施例2)
【図4】免疫組織染色により、マウス移植組織でのCapGの発現を確認した図である。(実施例3)
【図5】肝内胆管がん(A)及び肝外胆管がん(B)におけるCapG発現の陽性及び陰性の場合の生存率の違いを示す図である。(実施例4)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、CapG(Macrophage-capping protein)をマーカーとして検出する悪性腫瘍の予後予測検査方法に関する。本発明におけるCapGのアミノ酸配列は、出願時において、Swissprot detabase Accession No. P40121に掲載されているものを一例としてあげることができるが、いわゆるCapGタンパク質であれば、上記掲載されている配列からなるタンパク質に限定されるものではない。
【0017】
本発明において、悪性腫瘍の予後予測とは、悪性腫瘍に対するゲムシタビン治療効果の予測又は術後の予後予測をいう。ゲムシタビン治療効果の予測は、臨床においてはゲムシタビンの治療奏功性を意味し、動物や培養系などの実験レベルで確認する場合は、ゲムシタビンの反応性によりゲムシタビンの効果を確認し、予測ゲムシタビン治療効果の予測することができる。予測の対象となる悪性腫瘍は、ゲムシタビンが効果を奏する、若しくは反応性を有する可能性のある悪性腫瘍であればよく、特に限定されないが、具体的には現時点でゲムシタビンの適応症として認可されている悪性腫瘍、例えば非小細胞肺がん、膵がん、胆道がん、尿路上皮がん及び乳がんから選択されるいずれかの悪性腫瘍が挙げられ、特に好適には胆道がんが挙げられる。また、術後の予後予測の対象となる腫瘍としては、胆道がんが挙げられる。本発明において、胆道がんとは、胆道系に発生する悪性腫瘍全般をいい、肝外胆管がん、胆嚢がん、乳頭部がん、肝内胆管がん等が含まれる。特に好適には肝外胆管がん及び肝内胆管がんをいう。
【0018】
ゲムシタビンの効果があるとは、治療奏功性や生存期間に及ぼす効果が挙げられる。治療奏功性とは、治療縮小効果をいい、RECISTという評価基準に基づいて、画像診断で判断される。例えば全ての標的病変の消失などの完全奏効や、ベースライン長径和と比較して標的病変の最長径の和が30%以上減少する部分奏効などが挙げられる。また生存期間については、治療開始から原因は問わずに死亡にいたる全生存期間、寛解(例えば術後)から病気が再発するまでの無病生存期間が挙げられる。本明細書における生存期間は、特に好適には、5年の術後全生存期間をいう。また、本明細書において予後良好とは、CapGの発現の陽性と陰性とを比較した場合、陰性の方が陽性よりも良好であることを意味し、特に再発の有無や予後が改善されるなどに限定されるものではない。
【0019】
本発明の予後予測検査は、以下の工程を含む方法により行うことができる。
(1)生体から採取した生体検体中のCapGを検出又は定量する工程;
(2)検出又は定量したCapGにより、悪性腫瘍の予後を予測する工程。
【0020】
本明細書において、生体検体とは、生体から取得した検体をいい、各種検査や試験に供するために前処理された検体を試料ということとする。本発明の予後予測検査方法に供するための生体検体は、悪性腫瘍患者の組織や血液に由来するものであればよく、特に限定されないが、好ましくは悪性腫瘍細胞を含む検体であれば良い。生体検体は、生体、例えば患者から取得した検体であり、本発明の予後予測検査方法のために取得した検体であってもよく、他の検査に供するために取得した検体や、手術により採取した検体であってもよい。例えば検体を免疫組織染色検査に供する場合、検査に供する試料として、患者から得られた検体から調製したパラフィン切片を用いることができる。また、例えば検体をウエスタンブロット法又はRT−PCRに供する場合、試験に供する試料として、患者から得られた検体から調製したタンパク質抽出液又はmRNA抽出液を用いることができる。
【0021】
本発明の予後予測検査方法において、CapGをマーカーとして検出又は定量する方法は、生体検体中のCapGを確認可能な方法であれば良く、特に限定されない。各生体検体におけるCapGは、以下に例示する任意の方法で検出又は定量することができる。なお、CapGの検出又は定量は、単にCapGの有無を検出するものであってもよく、またCapGの発現量を相対的又は絶対的に決定するものであってもよい。CapG発現は、タンパク質レベルで検出又は定量してもよく、またmRNAレベルで検出又は定量してもよい。
【0022】
CapG発現のタンパク質レベルでの検出又は定量は、免疫学的手法によるのが簡便であり、好適である。例えば、免疫染色法(蛍光抗体法、酵素抗体法、重金属標識抗体法、放射性同位元素標識抗体法を含む)、電気泳動法による分離と蛍光、酵素、放射性同位元素などによる検出又は定量との組み合わせ(ウエスタンブロット法、蛍光二次元電気泳動法を含む)、酵素免疫測定吸着法(ELISA)、ドット・ブロッティング法等により行うことができる。また、mRNAレベルでの検出又は定量は、例えば、RT−PCR(好ましくはリアルタイムRT−PCR)、ノーザン・ブロッティング法、Branched DNAアッセイ等により行うことができる。
【0023】
免疫組織染色法は自体公知の方法を採用することができ、特に限定されないが、その具体例を以下に示す。悪性患者から分離した生体検体を常法によりホルマリン固定をした後、パラフィンに包埋をしてミクロトームにて厚さ4μm程度の組織片に薄切し、スライドガラスに貼り付けたものを切片試料として使用する。切片試料はキシレン処理で完全にパラフィンを除き、100%から徐々に濃度を下げたアルコール溶液にくぐらせ親水化し、水洗する。その後、抗体の浸透性を高めるために耐熱ガラス容器に入れたpH6.0のクエン酸緩衝液中に切片試料を漬け、オートクレーブにて121℃で10分間熱処理し抗原を賦活化する。室温まで放置して冷却し、流水で緩衝液を水洗後、免疫組織染色を行う。内因性ペルオキシダーゼ活性、非特異的反応をブロッキングした後、切片試料に抗CapG抗体を滴下し常温で一晩反応させる。洗浄後、HRP標識抗ウサギ抗体(DAKO社)を用いてそれぞれ30分間反応させる。洗浄後、DAB溶液 (3,3'-diaminobenzidine tetrahydrochloride)(DAKO社)を用いて発色を行う。なお洗浄にはTBST(DAKO社)を用いる。流水にて洗浄後、ヘマトキシリン液にて検体の細胞核を染色する。流水にて水洗後、アルコール溶液、次いでキシレン溶液をくぐらせ脱水し、検体上に封入剤を滴下しカバーグラスを被せて顕微鏡にて観察する。顕微鏡下では肝細胞がんの細胞のCapGタンパク質は茶褐色の発色として観察される。以下に説明するように、その発色により陽性陰性の判定を行うことができる。
【0024】
CapG発現の検出又は定量の結果は、2種類の段階(陽性及び陰性)に分類することができる。CapG発現の分類は、検出又は定量方法に応じて、十分な経験を有する病理医、臨床医、検査技師又は検査施設が行うことが好ましい。例えば、CapG発現の分類は、免疫組織染色法を用いる場合は病理医が行うことができ、RT−PCRを用いる場合は検査技師が行うことができる。
【0025】
なお、CapG発現の分類は、患者からの生体検体におけるCapGの発現量を、コントロールにおけるCapGの発現量と比較することにより行うことが好ましい。CapG発現の結果を分類する段階の数に応じて、複数のコントロールを用いることが好ましい。例えば、CapG発現の結果を2種類の段階(陽性及び陰性)に分類する場合は、それぞれの段階に対応した2種類のコントロール(CapG陽性コントロール及びCapG陰性コントロール)を用いることが好ましい。また、コントロールの1つとして、健常者又は予後良好な悪性腫瘍患者に由来するコントロールを用いることが好ましい。
【0026】
免疫組織染色法により、CapG発現の結果を陽性及び陰性の2種類の段階に分類する場合、免疫組織染色の結果を例えば以下のように判定することができる。
a.「核染色性あるもの、もしくは胞体が強く染色される、もしくはその両方」
b.「胞体が弱く染色される」
c.「染色なし」
とし、悪性細胞全体に対するa,b,cの割合を測定する。aが悪性細胞の30%以上に認められる場合を2+、aが30%未満の場合、bが50%以上であれば1+、50%未満であれば0と分類する。その結果2+と1+をCapG陽性、0をCapG陰性と判定することができる。
【0027】
本発明は、生体検体中のCapGを検出又は定量するため検査用試薬及び検査用キットにも及ぶ。当該キットにより、患者から得られた生体検体におけるCapGの発現を検出又は定量することができる。すなわち、タンパク質レベルでCapGの発現を検出又は定量するための検査用試薬キットとして、免疫学的手法、例えば免疫組織染色やウエスタンブロット法などに使用される検査用キットが挙げられる。免疫学的手法により検査を行う場合には、少なくとも抗CapG抗体が検査用試薬に含まれる。抗CapG抗体は、CapGの発現を検出しうる抗体であればよく、特に限定されないが、例えばモノクローナル及びポリクローナル抗体、標識化抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体ならびにこれらの結合活性断片などが挙げられる。また検査用試薬キットには、上記抗体のほか検出用に用いる標識を含んでいてもよい。キットには、緩衝液、発色基質、二次抗体、ブロッキング剤等の試薬、試験に必要な器具やコントロール等を含むことができる。
【実施例】
【0028】
以下本発明を完成するに至った経緯を参考例に、本発明の内容を実施例において示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0029】
(参考例)二次元電気泳動によるタンパク質の解析
本発明において、CapGに着目した経緯は、以下の検討による。胆管がんの細胞株、マウス異種移植モデルにおける胆管がん組織、胆管がんの手術検体について、レーザーマイクロダイセクションを用いて細胞を回収し、タンパク質を抽出した。その後、蛍光二次元電気泳動(2D-DIGE)(図1参照)と質量分析装置にてゲムシタビンの反応性に関係するタンパク質を解析した。臨床病理学的因子は、国立がんセンター病院から倫理委員会の承諾を得て取得した肝内胆管がん73症例、肝外胆管がん123例の手術検体の臨床病理学的因子と臨床経過から胆管がんとの予後との関係を解析した。肝内胆管がん73例と肝外胆管がん123例を用いた検討では、CapGの陽性陰性とこれら症例の臨床病理学的因子を解析した結果、胆管がんの予後因子との相関が認められたため、CapGと胆管がんの予後についても検討した結果、相関が認められた。
【0030】
1)試料調製
レーザーマイクロダイセクション(mmi CellCutTM、NIPPN TechnoCluster社)を用いて細胞を回収し、タンパク質抽出用緩衝液(6M ウレア、2M チオウレア、3% CHAPS、1% TritonX-100)を加えてタンパク質を抽出した。抽出したタンパク質を蛍光色素(サチュレーションダイCy5TM、GE Healthcare Biosciences社)で標識した。標識は以下のように行った。(1)終濃度30mMとなるようにpH 8.0のトリス緩衝液を加え、次に(2)1nmolのTECP(トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィンヒドロクロライド、Sigma社)を加え、(3)37℃で60分間処理した。次に、(4)Cy5蛍光色素を4nmol加えて、37℃で30分間処理した。今回の実験に用いたタンパク質試料から等量ずつタンパク質試料を集めて混合し、内部コントロール試料とした。内部コントロール試料を蛍光色素(サチュレーションダイCy3TM、GE Healthcare Biosciences社)で上記と同様に標識した。Cy5で標識した個別のサンプルとCy3で標識した内部コントロール試料を混合し、ウレア可溶化液で最終容量420μlとした。その際、終濃度が65mMとなるようにジチオスレイトール(DDT)を、2%となるようにとアンフォラインTM(GE Healthcare Biosciences社)を加えた。Cy5で標識した個別試料とCy3で標識した内部コントロール試料を混合したサンプルを一枚の二次元電気泳動ゲルで泳動した。
【0031】
2)二次元電気泳動
まず、一次元目の泳動はイモビラインゲル(24cm、pI 4-7、GE Healthcare Biosciences社)と、Multiphor IITM(GE Healthcare Biosciences社)を使用した。泳動するタンパク質試料でイモビラインゲルを室温にて一晩膨潤させた。泳動は40000Vhで行った。二次元目の泳動は9−15%のポリアクリルアミドのグラジエントゲルと、二次元泳動装置を使用した。泳動は泳動装置一台につき18Wで10時間、15℃で行った。
【0032】
3)タンパク質検出
泳動終了後は、タンパク質を検出する目的で、ガラス板に挟んだままの状態のゲルをレーザースキャナー(Typhoon TrioTM、GE Healthcare Biosciences社)に載せてスキャンした。
【0033】
4)発現解析
読み込んだ画像を画像解析ソフトProgenesis SameSpots software (Nonlinear Dynamics, Newcastle, UK)で解析した。
【0034】
5)タンパク質同定
a.ゲル内消化法
全自動スポット回収装置ProHunterTM(AsOne社)を用いて、ゲルから96穴プレートにスポットを回収した。ゲルをメタノールで十分洗浄し、タンパク質分解酵素(トリプシン)で37℃にて一晩処理した。この処理によってタンパク質はペプチド化される。得られたペプチドは、60%アセトニトリルにてゲルを洗浄することで回収した。
b.質量分析
ペプチドの質量を測定するためにLTQTM(サーモエレクトロン社)を使用した。タンパク質同定のためのデータベース検索にはMasCotTMを使用した。
【0035】
6)結果
上記方法により二次元電気泳動を行った結果、約3500個のタンパク質スポットから、各群間の比較において、(1)Wilcoxon検定p<0.05、(2)平均値の値が2倍以上の差、という基準でタンパク質スポット172個を選別した。質量分析装置を用いたタンパク質同定の結果、CapG(GenBank Accession No. P40121)に由来するタンパク質スポットが、172個のスポット中に含まれていた。
【0036】
(実施例1)ウエスタンブロッティングによるCapGの確認
参考例を検証する目的で、胆管がん患者由来の胆管がん細胞株、及び胆管がん細胞株を移植したマウス異種移植モデルにおける胆管がん組織(移植組織)を用い、ウエスタンブロッティングによりCapGの発現を調べた(図2参照)。マウス異種移植モデルは、SCIDマウス(5-7週齢)の皮下へ、ヒト胆管がん細胞(2−4mm)を移植し、1−2カ月日経過後のものを用いた。
【0037】
用いた胆管がん細胞株は、TGBC24TKB、Hucct1、TKKK、OZ、NCC-CC1、NCC-BD1、NCC-CC3-2、NCC-CC4-1、NCC-BD2、NCC-CC3-1の10種類である。胆管がん細胞株では、TGBC24TKB、Hucct1、NCC-BD1、NCC-CC3-1、NCC-CC3-2、NCC-CC4-1についてはゲムシタビンに対して反応性が良く、TKKK、OZ、NCC-CC1、NCC-BD2については反応性が悪かった。
【0038】
1)タンパク質の回収
各細胞又は異種移植組織をマルチビーズショッカーTM(安井機器、大阪)にて破砕して粉末状にした。粉末状にした組織に、参考例と同手法によりタンパク質抽出用緩衝液を加えてタンパク質を抽出した。
【0039】
2)ウエスタンブロット法
上記抽出したタンパク質5μgをSDS-PAGEにて分離し、ニトロセルロース膜に転写した。1次抗体としては、ウサギ抗CapG抗体(Proteintech Group,Inc.社)を用い、2次抗体としてはペルオキシダーゼで標識した抗ウサギ抗体 (GE Healthcare Biosciences社)を用いた。1次抗体は500倍希釈し、2次抗体は1000倍希釈した。検出にはECL Plusキット(GE Healthcare Biosciences社)を使用した。検出したバンドの強度は、ルミノ・イメージアナライザーLAS-3000TM (富士フィルム社)及び ImageQuantTM software (GE Healthcare社)により解析した。
【0040】
3)結果
ウエスタンブロット法による解析の結果、ゲムシタビン反応性で分けたグループ間で発現強度に差が認められ、細胞株では、3(TKKK)、4(OZ)、5(NCC-CC1)のいずれもゲムシタビンへの反応性が悪い細胞株であって、CapGの強い発現が確認された。異種移植組織では、すべてにおいてCapGの検出が認められた(図2)。
【0041】
(実施例2)蛍光二次元電気泳動とウエスタンブロッティングによるCapGの確認
実施例1で用いた胆管がん由来細胞株及びマウス異種移植モデルにおける胆管がん組織から回収したタンパク質について、参考例及び実施例1と同手法によりタンパク質を抽出した後、蛍光二次元電気泳動(2D-DIGE)と質量分析装置にて、CapGに由来するタンパク質スポットを解析した。細胞株については、スポットNo.447が、異種移植組織についてはスポットNo.255及び2113が、CapGタンパク質に由来するスポットであった。このCapGに由来するスポットの濃度は、ゲムシタビンの反応性がよいがんでは低かったが、反応性が悪いがんでは高い傾向であった。
【0042】
上記実施例1及び実施例2により得られた結果を、図3に示した。細胞株については、CapGに対するウエスタンブロッティングの結果及び蛍光二次元電気泳動は、ほぼ一致していた。異種移植組織については、ウエスタンブロッティングでは、すべての組織について、CapGの検出が認められたが、蛍光二次元電気泳動の結果とは必ずしも一致していなかった。蛍光二次元電気泳動によるスポットの濃度は、ゲムシタビン反応性と相関していると考えられた。
【0043】
(実施例3)免疫組織染色によるCapGの確認
マウス異種移植モデル(サンプル30、31)における胆管がん組織検体について、抗CapG抗体を用いた免疫組織染色を行った。サンプル30は、ゲムシタビンに対して反応性の良いNCC-CC3-2細胞株を、サンプル31は、ゲムシタビンに対して反応性の悪いTKKK細胞株を、それぞれ移植したマウス異種移植モデルから得たサンプルである。
【0044】
パラフィン包埋組織切片試料について、免疫組織染色を行った。通常の方法に従い脱パラフィン処理した切片試料を、10mMクエン酸塩緩衝液(pH 6.0)中で10分間121℃オートクレーブ滅菌した。切片試料を、500倍希釈のウサギ抗CapGポリクローナル抗体(Proteintech Group,Inc.社)、HRP標識抗ウサギ抗体(DAKO社)を用いて標識した。DAB溶液 (3,3'-diaminobenzidine tetrahydrochloride)(DAKO社)を用いて発色を行い、洗浄にはTBST(DAKO社)を用いた。流水にて洗浄後、ヘマトキシリン液にて検体の細胞核を染色した。
【0045】
免疫組織染色によるCapG染色の結果を図4に示した。その結果、蛍光二次元電気泳動法によるスポットの検出結果と同様に、ゲムシタビン反応性の悪い胆管がん細胞株から得たサンプル31では、CapG染色は陽性であり、ゲムシタビン反応性の良い胆管がん細胞株から得たサンプル30では、CapG染色は陰性であった。
【0046】
(実施例4)CapGをマーカーとする胆管がん患者の予後
CapGの予後予測能を検証する目的で、参考例で示した肝内胆管がん73症例、肝外胆管がん123症例について、これらの患者から得た切除腫瘍組織について、実施例3と同手法により免疫組織染色を行った。CapG陽性症例は、肝内胆管がんで29例、肝外胆管がんで70例であった。CapG陽性症例は、肝外胆管がんでは乳頭結節型、リンパ管浸潤陽性に多い傾向にあったが、肝内胆管がんでは特に傾向を認めなかった。
【0047】
CapGと、予後との関連を検討した結果、術後5年生存率はCapG陽性症例では肝内胆管がん17.2%、肝外胆管がん29.5%であったのに対し、CapG陰性症例では肝内胆管がん34.0%、肝外胆管がん54.7%であり、陽性症例は陰性症例よりも有意に予後不良であった(p<0.05)。
【0048】
以上よりCapGは胆管がん術後のゲムシタビンの効果予測および予後を予測するバイオマーカーとして有用であり、術前あるいは術後に腫瘍組織中のCapGの発現量を測定することによって胆管がん患者の予後を予測し、的確な治療法を選択する補助となると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上詳述したように、本発明の予後予測検査方法、具体的には蛍光二次元電気泳動によるスポットの濃度又は免疫組織染色によると、悪性腫瘍、例えば胆道がんについて、CapG陽性例ではゲムシタビンの治療に関する予後が良好でなく、CapG陰性例では同ゲムシタビンの治療に関する予後が良好であり、CapG発現の陽性と陰性を比較した場合、陰性のほうが陽性よりも良好であった。
【0050】
また、本発明の予後予測検査方法によると、例えば肝内肝胆がんではCapG陽性症例での術後5年生存率は17.2%であったのに対し、CapG陰性症例では34.0%であり、肝外肝胆がんではCapG陽性症例での術後5年生存率は29.5%であったのに対し、CapG陰性症例では54.7%であり、陽性症例は陰性症例に比べて有意に予後不良であった。更に、多変量解析により解析した結果、CapGと肝胆がんの予後に相関される他の臨床病理学因子について、術後生存及び術後再発ともに相関することが確認され、CapGは悪性腫瘍の予後判断のための強力なマーカーとなることが確認された。
【0051】
CapGを単一のマーカーとして用いる本発明の予後予測検査方法によると、胆管がんなどの患者の予後を予測することが可能になる。悪性腫瘍、例えば胆管がんと診断された患者について、生検などで悪性腫瘍組織を採取した際や、手術で切除されたがん検体を、本発明の予後予測検査方法により検査することで予後を判断することができ、適切な治療方法を選択することができる。また、ゲムシタビンの治療に関する予後も予測することができる。つまり、CapGを単一のマーカーとして用いることにより、技術的に簡便に迅速に低いコストで実用的に悪性腫瘍患者の予後を予測し、治療方針を立てることが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CapG(Macrophage-capping protein)をマーカーとして検出する悪性腫瘍の予後予測検査方法。
【請求項2】
悪性腫瘍の予後予測が、悪性腫瘍に対するゲムシタビン治療効果の予測である請求項1に記載の予後予測検査方法。
【請求項3】
悪性腫瘍が、非小細胞肺がん、膵がん、胆道がん、尿路上皮がん及び乳がんから選択されるいずれかである請求項1又は2に記載の予後予測検査方法。
【請求項4】
悪性腫瘍が、胆道がんである請求項3に記載の予後予測検査方法。
【請求項5】
悪性腫瘍の予後予測が、胆道がんの術後予後予測である請求項1に記載の予後予測検査方法。
【請求項6】
以下の工程を含む、請求項1〜5のいずれか1に記載の予後予測検査方法:
(1)生体から採取した生体検体中のCapGを検出又は定量する工程;
(2)検出又は定量したCapGにより、悪性腫瘍の予後を予測する工程。
【請求項7】
生体検体が、非小細胞肺がん、膵がん、胆道がん、尿路上皮がん及び乳がんから選択されるいずれかの悪性腫瘍組織を含む生体検体である請求項6に記載の予後予測検査方法。
【請求項8】
生体検体が、胆道がんからなる悪性腫瘍組織を含む生体検体である請求項6に記載の予後予測検査方法。
【請求項9】
CapGの検出又は定量を、免疫学的手法により行う請求項6〜8のいずれか1に記載の予後予測検査方法。
【請求項10】
免疫学的手法が、免疫組織染色である請求項9に記載の予後予測検査方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1に記載の予後予測検査方法に使用する、CapGからなる悪性腫瘍の予後予測マーカー。
【請求項12】
生体検体中のCapGを検出又は定量するための抗CapG抗体を含む、請求項1〜10のいずれか1に記載の予後予測検査方法に用いる検査用試薬。
【請求項13】
生体検体中のCapGを検出又は定量するための抗CapG抗体と、CapGと抗CapG抗体の反応を検出しうる標識を含む、請求項1〜10のいずれか1に記載の予後予測検査方法に用いる検査用試薬キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−209101(P2011−209101A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76804(P2010−76804)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】