説明

Crkアダプター分子の発現阻害による癌細胞の転移、浸潤阻害剤

【課題】 癌の浸潤、転移を防止する癌治療剤を提供する。
【解決手段】 GCCUGAAGAGCAGUGGUGG(配列番号1)
AAGCCUGAAGAGCAGUGGUGG(配列番号2)
GCCUGAAGAGCAGUGGUGGAAG(配列番号3)
AAGCCUGAAGAGCAGUGGUGGAAG(配列番号4)
よりなる群から選択されるヌクレオチド鎖およびこれに相補的なヌクレオチド鎖を含むc-Crkの2本鎖siRNA(small interference RNA)を宿主細胞中で発現させる組み替えレトロウイルスを調製する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCrkアダプター分子の発現阻害による癌細胞の転移、浸潤阻害の防止に関する。
【背景技術】
【0002】
Crkアダプター分子ファミリーはトリ肉腫ウイルスがコードする癌遺伝子産物v−Crkにより見出された。v−Crkは1個のSH2ドメインと1個のSH3ドメインからなり、チロシンキナーゼ等の触媒ドメインをもたない。v−Crkは細胞内チロシンキナーゼ等の活性化、リン酸化チロシンの脱リン酸酵素からの保護、およびC3G、Sos等他の蛋白質を介したRasの活性化等の機構で細胞を癌化すると考えられる。
v−Crkの細胞性対応物として、同一遺伝子から別のスプライシングにより生成される2種のc−Crk、c−CrkIとc−CrkIIが同定された(図1、非特許文献1−3)。c−CrkI、c−CrkIIとも過剰発現させることにより培養細胞を癌化させるトランスフォーミング活性を持ち、さらにc−CrkIIの過剰発現により培養細胞の運動能の向上が報告されている(非特許文献2、4、5)。実際にglioblastomaやlung adenocarcinoma等のヒト癌組織においてc−Crkの顕著な発現上昇が報告され、ヒト癌の悪性化、すなわち転移、浸潤能に関わる分子として注目されている(非特許文献6−8)。
【非特許文献1】Mayer, B. J., Hamaguchi, M. & Hanafusa, H. (1988) Nature 332, 272-5.
【非特許文献2】Matsuda, M., Tanaka, S., Nagata, S., Kojima, A., Kurata, T., & Shibuya, M. (1992) Mol. Cell. Biol. 12, 3482-9.
【非特許文献3】Reichman, C.T., Mayer, B.J., Keshav, S. & Hanafusa, H. (1992). Cell Growth Differ., 3, 451-60.
【非特許文献4】Iwahara, T., Akagi, T., Shishido, T. & Hanafusa, H. (2003) Oncogene 22, 5946-57.
【非特許文献5】Klemke, R. L., Leng, J., Molander, R., Brooks, P. C., Vuori, K. & Cheresh, D. A. (1998) J Cell Biol 140, 961-72.
【非特許文献6】Nishihara, H., Tanaka, S., Tsuda, M., Oikawa, S., Maeda, M., Shimizu, M., Shinomiya, H., Tanigami, A., Sawa, H. & Nagashima, K. (2002) Cancer Lett 180, 55-61.
【非特許文献7】Miller, C. T., Chen, G., Gharib, T. G., Wang, H., Thomas, D. G., Misek, D. E., Giordano, T. J., Yee, J., Orringer, M. B., Hanash, S. M. & Beer, D. G. (2003) Oncogene 22, 7950-7.
【非特許文献8】Takino, T., Nakada, M., Miyamori, H., Yamashita, J., Yamada, K. M. & Sato, H. (2003) Cancer Res 63, 2335-7.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は癌治療を目的とする、更に詳しくは、2本鎖RNA(dsRNA)を細胞内に導入することによるRNA干渉(RNAi)の技術を用いてc−Crkの発現を阻害し、癌細胞の転移、浸潤を防止する薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
c−CrkのmRNA配列の内、次の配列のdsRNAの導入により、c−CrkII蛋白質の発現が顕著に阻害できることを発見した(図2)。
即ち、本発明は、
GCCUGAAGAGCAGUGGUGG(配列番号1)
AAGCCUGAAGAGCAGUGGUGG(配列番号2)
GCCUGAAGAGCAGUGGUGGAAG(配列番号3)
AAGCCUGAAGAGCAGUGGUGGAAG(配列番号4)
よりなる群から選択されるヌクレオチド鎖およびこれに相補的なヌクレオチド鎖を含むc−Crkの2本鎖siRNA(small interference RNA) に関する。
【0005】
癌細胞においてc−Crkを恒常的に阻害させるためには、siRNAの細胞内への導入を容易にさせ、また、siRNAを恒常的に発現させなければならない。組み替えレトロウイルスベクターを用いれば、上記配列番号1〜4のsiRNAを細胞内で恒常的に発現させ得ることを確認した。
本発明は
1)5’側から、配列番号1〜4のいずれかのヌクレオチド鎖のセンス鎖、スペース配列、アンチセンス鎖および転写終結シグナルが結合したオリゴDNA、および
2)5’側から、配列番号1〜4のいずれかのヌクレオチド鎖のアンチセンス鎖、スペース配列、センス鎖および転写終結シグナルが結合したオリゴDNA、
よりなる群から選択されるオリゴDNAに関する。
スペース配列は,1〜50個、好ましくは7〜20個のヌクレオチドよりなる。好ましいスペース配列の例はgtgtgctgtccである。転写終結シグナルの例は、tttt、ttttt、またはttttttである
このオリゴDNAが転写されるとセンス鎖とそれに相補的なアンチセンス鎖が対となり、それをスペース配列がつないでステム−ループ構造をとるRNAが生成すると予測される(図3)。こうしたステム−ループ転写産物は細胞内でDicer(Paddison, P.J., Caudy, A.A., Bernstein, E., Hannon, G.J.& Conklin, D.S. (2002) Genes Dev., 16, 948-958)によって切断され、2本鎖構造のsiRNAが生成する。
【0006】
本発明者は上記オリゴDNAを転写し、上記ステム−ループ構造をとるRNAを恒常的に生成させるためにレトロウイルスベクタープラスミドDNAを利用した。
従って本発明は、上記オリゴDNA配列およびこれに作動可能に結合したRNA ポリメラーゼIII系のプロモーターを含むレトロウイルスベクタープラスミドDNAにも関する。
【0007】
上記オリゴDNA配列を含むレトロウイルスベクタープラスミドDNAをパッケージング細胞に一過性に導入すると、上記RNA ポリメラーゼIIIプロモーター配列下流に結合したオリゴDNA配列をゲノムとして持つ組み替えレトロウイルスが産生される。この組み替えレトロウイルスを宿主細胞に感染させると、ウイルスゲノムを宿主細胞の染色体に組み込むことができる。この細胞中ではRNA ポリメラーゼIIIプロモーターによりステム−ループ構造をとるRNA、したがって2本鎖構造のsiRNAが産生される。
従って本発明はさらに、上記オリゴDNA配列を含む該レトロウイルスベクタープラスミドDNAをパッケージング細胞に導入し、培養して得た組み替えレトロウイルスにも関する。
【0008】
本発明はまた、このようにして得た組み替えレトロウイルスを有効成分として含んでなるヒト癌の転移・浸潤防止剤にも関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の組み替えウイルスを用いれば、細胞内でc−CrkのsiRNAを恒常的に発現し、ヒトc−CrkI、c−CrkIIの発現を阻害し、癌細胞の運動能を低下させるので癌の治療、癌の転移、浸潤の防止に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
1)c−CrkのsiRNAの合成
siRNAは2本鎖のオリゴリボヌクレオチドである。先ず配列番号1〜4のいずれかのヌクレオチド鎖およびこれに相補的なヌクレオチド鎖をそれぞれ合成する。一般的に、保護基のついた4種類のリボヌクレオチドを用い、合成機を使用した有機合成で合成する。RNAは、4種類のヌクレオシド(アデノシン、グアノシン、シチジン、ウリジン)がホスホジエステル結合によって連なったポリマー分子で、合成はアミダイドに、バックボーンを形成する糖の2’末端に2’−ビス(アセトキシエトキシ)−メチルエーテル(2’−ACE)保護基をつけ、1塩基ずつリン酸結合(カップリング)させる。生成された一本鎖RNAは、100mM TEMED−Acetate(pH3.8)バッファーで、60℃、30分反応させることにより脱保護を行い、HPLCを用いて品質チェックを行う。高い純度のRNAを必要とする場合は、さらに変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動後、ゲルからRNAを精製し、またはHPLCで精製を行う。
また、T7 RNA ポリメラーゼとT7プロモーターを用いて鋳型DNAからアンチセンスとセンスRNAをin vitroで合成することもできる。そのために既製のキット(siRNA Construction Kit Ambion社)を用いることができる。
【0011】
次に両鎖をアニーリングさせる。濃度約50μM(50pmol/μL)の両鎖の水溶液を調製し、各々の水溶液と5xアニーリング用緩衝液(500mM 酢酸カリウム,150mM HEPES−KOH pH7.4,10mM 酢酸マグネシウム)を混合した溶液を90℃で1分間加熱し、その後、37℃60分間保温する。このことにより、センスオリゴヌクレオチドとアンチセンスオリゴヌクレオチドは互いにアニーリングし2本鎖となる。
【0012】
2)オリゴDNAの合成・アニーリング
5’側から、配列番号1〜4のいずれかのヌクレオチド鎖のセンス鎖、スペース配列、アンチセンス鎖および転写終結シグナルが結合したオリゴDNA、およびこれに相補的な配列を有するオリゴDNAを合成してアニーリングさせる。
オリゴDNAは、一般的に、保護基のついた4種類のデオキシリボヌクレオチドを用い、合成機を使用した有機合成で合成する。DNAは、4種類のデオキシヌクレオシド(アデノシン、グアノシン、シチジン、チミジン)がホスホジエステル結合によって連なったポリマー分子で、合成はアミダイドに、バックボーンを形成する糖の2’末端に2’−ビス(アセトキシエトキシ)−メチルエーテル(2’−ACE)保護基をつけ、1塩基ずつリン酸結合(カップリング)させる。生成された一本鎖DNAは、100mM TEMED−Acetate(pH3.8)バッファーで、60℃、30分反応させることにより脱保護を行い、HPLCを用いて品質チェックを行う。高い純度のDNAを必要とする場合は、さらに変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動後、ゲルからDNAを精製し、またはHPLCで精製を行う。
【0013】
アニーリング条件は以下のようにして行う。濃度約50μM(50pmol/μL)の両鎖の水溶液を調製し、各々の水溶液2μLとアニーリング用緩衝液(100mM 酢酸カリウム,30mM HEPES−KOH pH7.4,2mM 酢酸マグネシウム)46μLを混合した溶液を90℃で3分間加熱し、その後、70℃10分間保温、さらに37℃60分間保温する。このことにより、センスオリゴヌクレオチドとアンチセンスオリゴヌクレオチドは互いにアニーリングし2本鎖となる。
5’側から、配列番号1〜4のいずれかのヌクレオチド鎖のアンチセンス鎖、スペース配列、センス鎖および転写終結シグナルが結合したオリゴDNAおよびこれに相補的な配列を有するオリゴDNAも同様にして合成してアニーリングさせる
【0014】
3)レトロウイルスベクタープラスミドDNAの調製
上記アニーリングしたオリゴDNA2本鎖をRNA ポリメラーゼIII系のプロモーターに作動可能に連結しレトロウイルスベクタープラスミドDNAに挿入する。
レトロウイルスベクタープラスミドDNAとしてはpSUPER.retro (OligoEngine社)、pSIREN-RetroQ (BD Biosciences 社)を用いることができる。用いるプロモーターとしてはヒトH1プロモーター、ヒトU6プロモーター、マウスU6プロモーター(Hannon, G.J., Chubb, A., Maroney, P.A., Hannon, G., Altman, S.& Nilsen T.W. (1991) J.Biol.Chem., 266, 22796-22799. )(Kawasaki H.& Taira K. (2003) Nucleic Acids Res., 31, 700-707.)を用いることができる。
オリゴDNA2本鎖のレトロウイルスベクターベクタープラスミドDNAへの挿入は以下のようにして行う。オリゴDNA2本鎖の5’端及び3’端には適当なDNA制限酵素の切断端が形成されるようにデザインし、これに対応する制限酵素で切断したレトロウイルスベクタープラスミドDNAとT4DNA リガーゼと反応させることによる。このライゲーションには既製のキットを用いることができる(ligation kit TaKaRa社))
【0015】
4)パッケージング細胞から組み替えレトロウイルスを得る方法
3)で得られたオリゴDNA2本鎖を有するレトロウイルスベクタープラスミドDNAをパッケージング細胞に導入する。パッケージング細胞としては、Plat−E 細胞株(Morita, S., Kojima, T., & Kitamura, T., (2000) Gene Ther. 7, 1063-1066.)を用いることができる。パッケージング細胞へのレトロウイルスベクターの導入は、FuGENE6(Roche社)を用いて一過性に導入することができる。
得られた細胞は37℃、5%COの条件下で、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM SIGMA社)に10%牛胎仔血清(HyClone社)及び抗生物質(Antibiotic-Antimyotic GIBCO社)を添加した培地(DMEM/10%FCS)にて培養し、12時間以内に新しい培養液に交換し、さらに12時間以上培養する。このようにして組み替えレトロウイルスを含んだ培養上清を得る。この組み替えレトロウイルスは宿主細胞に感染させるとc−CrkのsiRNAを発現させる。レトロウイルスが感染によりそのゲノムを宿主細胞の染色体DNAに組み込ませた後に、その宿主のDNA上でH1やU6下流に繋いだ配列がRNAとして転写されて、それがステム−ループを形成し、ダイサーによる切断をうけて始めてsiRNAとなる。
【0016】
5)ウイルスの癌への応用
4)で得た組み替えレトロウイルスを癌細胞に投与するとc−CrkのsiRNAによりc−Crkタンパク質の発現を顕著に阻害する。また4)で得た組み替えレトロウイルスを癌細胞に投与すると癌細胞の運動能が大きく低下する。癌細胞の転移、浸潤は細胞の運動能に相関することが知られている。従って本発明のc−CrkのsiRNA、それを宿主細胞中で発現しうる組み替えレトロウイルスは癌細胞の転移、浸潤の防止等の癌の治療に用いる事ができる。
【実施例】
【0017】
実施例1
【0018】
siRNAの選定
c−CrkI、c−CrkIIに共通な遺伝子配列から、RNAiに適当なsmall interfering RNA (siRNA)配列を選ぶため、次の4種類の21−23ヌクレオチドの配列
A: AACUUCGACUCGGAGGAGCGG(配列番号5)
B: AAUUCUACAAAAUACACUAUU(配列番号6)
C: AAGAUCUUCCCUUUAAGAAAG(配列番号7)
D: AAGCCUGAAGAGCAGUGGUGG(配列番号2)
を選定した。次にそれぞれの配列及びそれぞれに相補な配列を有するRNAを既製キットを用いてin vitro合成し、相補的なRNA同士をハイブリダイズさせることによりdsRNAを合成した(siRNA Construction Kit Ambion社)。
それぞれのdsRNAをヒト癌細胞株であるHeLa 細胞にリポフェクタミン2000(Invitrogen社)を用いて一過性に導入した。それぞれの細胞を溶解後、4μgのサンプルをSDS−PAGEで分離し、c−CrkII蛋白質の発現量を抗Crk抗体用いるwestern blot法により比較した(図2)。配列番号2のsiRNAがCrkの発現を効果的に抑制することがわかる。

実施例2
【0019】
pSUPER.retro/CrksiRNAレトロウイルスベクタープラスミドDNAの調製
5’gatccccGCCTGAAGAGCAGTGGTGGAATgtgtgctgtccATTCCACCACTGCTCTTCAGGCtttttggaaa3'
のヌクレオチド配列(配列番号8)を有するオリゴDNA、および、
5’agcttttccaaaaaGCCTGAAGAGCAGTGGTGGAATggacagcacacATTCCACCACTGCTCTTCAGGCggg3’
のヌクレオチド配列(配列番号9)を有するオリゴDNAをそれぞれ合成した。
このオリゴDNAの合成は株式会社ジーンデザインにより行われた。
この2つのオリゴDNAを次の条件でアニーリングさせた。濃度約50μM(50pmol/μL)の両鎖の水溶液を調製し、各々の水溶液2μLとアニーリング用緩衝液(100mM 酢酸カリウム,30mM HEPES−KOH pH7.4,2mM 酢酸マグネシウム)46μLを混合した溶液を90℃で3分間加熱し、その後、70℃10分間保温、さらに37℃60分間保温する。このことにより、センスオリゴヌクレオチドとアンチセンスオリゴヌクレオチドは互いにアニーリングし2本鎖となる。)。得られた2本鎖オリゴDNAを、宿主細胞中でヒトH1プロモーターによりRNAを発現させるためのレトロウイルスベクタープラスミドDNA、pSUPER.retro(OligoEngine社)のBamHI-HindIII siteにライゲーションした。このプラスミドDNAベクターをpSUPER.retro/CrksiRNAと呼ぶ。
配列番号8および9のオリゴDNAは、配列番号1の22−ヌクレオチドのtarget配列:GCCUGAAGAGCAGUGGUGGAAUのセンス鎖とアンチセンス鎖を11−ヌクレオチドのスペース配列ではさんだもので、pSUPER.retro/CrksiRNAによるRNA転写産物は22−塩基対のステム−ループ構造をとると予測される。こうしたステム−ループ転写産物は細胞内で切断され、2本鎖構造のsiRNAが生成する(図3)
実施例3
【0020】
c-CrkII蛋白質の発現阻害
pSUPER.retro/CrksiRNAをレトロウイルスパッケージング細胞、Plat−E細胞株(東京大学医科学研究所 北村俊雄教授より供与をうけた)FuGENE6(Roche社)を用いて一過性に導入し、37℃、5%COの条件下でDMEM/10%FCS 培地にて培養し、組み替えレトロウイルスを含んだ培養上清を得た。上記組み替えレトロウイルスを含んだ培養上清をHeLa細胞の培養dishに添加し、3時間以上37℃、5%COの条件下で、DMEM/10%FCS培地にて培養することによりHeLa細胞にウイルスを感染させ)、ピューロマイシンによる薬剤選択を行った。
得られた細胞(HeLa-CrksiRNA)と空ベクターのみを感染させたコントロール細胞(HeLa-mock)を溶解し、4μgのサンプルをSDS−PAGEで分離し、それぞれの細胞におけるc−CrkII蛋白質の発現を、抗Crk抗体と抗FAK(FAKは細胞の運動能に関わるチロシンキナーゼである)抗体を用いるウエスタンブロット法により比較した。HeLa-CrksiRNAにおいてc−CrkII蛋白質の顕著な発現阻害が認められた(図4)。
実施例4
【0021】
Hela細胞の運動能
癌細胞の転移、浸潤は細胞の運動能に相関することが知られている。そこで、HeLa-CrksiRNAとHeLa-mockの運動能を比較した。Transwell Chamber (Costar社、ポリカーボネート膜、孔径8.0μm)にHela-mock(mock)、Hela-CrksiRNA)、それぞれの細胞を播き、フィブロネクチンで被覆したポリカーボネート膜の裏側に移動した細胞をクリスタルバイオレットで染色した(図5A)。実験は3回行い、Hela−mock細胞の移動数を100%とした。HeLa-CrksiRNAでは70%の運動能低下が観察された(図5B)。以上の結果、我々の見出したc−Crk mRNAの配列をtargetとしたRNAiは癌細胞の運動能を低下させるのに有用であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明のCrksiRNA、これを宿主細胞中で発現させる組み替えレトロウイルスは癌細胞の転移、浸潤の防止等癌の治療に用いる事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】Crkファミリータンパク質の構造を示す模式図である。
【図2】Hela細胞にA〜C、配列番号1、対照(無関係な配列)のdsRNAを一過性に導入した後、それぞれの細胞を溶解し、SDA−OPAGEで分離し、抗Crk抗体によるウエスタンブロットを行った結果を示す図である。
【図3】pSUPER.retro/CrksiRNA中のヒトH1プロモーターから転写されたRNAを示す。転写されたRNAは図に示すようにステム−ループ構造をとると考えられる。
【図4】Hela-mock(mock)細胞、Hela-CrksiRNA(CrksiRNA)細胞、それぞれの細胞を溶解し、SDS-PAGEで分離し、抗Crk抗体と抗FAK抗体でウエスタンブロットを行った結果を示す。
【図5】Hela-mock(mock)細胞、Hela-CrksiRNA(CrksiRNA)細胞のフィブロネクチン中の移動を示す図である。Bは移動した細胞をクリスタルバイオ レットで染色したものであり、Aはこれをグラフで示した。実験は3回行い平均値±SDで表している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GCCUGAAGAGCAGUGGUGG(配列番号1)
AAGCCUGAAGAGCAGUGGUGG(配列番号2)
GCCUGAAGAGCAGUGGUGGAAG(配列番号3)
AAGCCUGAAGAGCAGUGGUGGAAG(配列番号4)
よりなる群から選択されるヌクレオチド鎖およびこれに相補的なヌクレオチド鎖を含むc-Crkの2本鎖siRNA(small interference RNA)。
【請求項2】
1)5’側から、請求項1に記載のヌクレオチド鎖のセンス鎖、スペース配列、アンチセンス鎖および転写終結シグナルが結合したオリゴDNA、および
2)5’側から、請求項1に記載のヌクレオチド鎖のアンチセンス鎖、スペース配列、センス鎖および転写終結シグナルが結合したオリゴDNA、
よりなる群から選択されるオリゴDNAであって、スペース配列はヌクレオチドの数が1〜50個であるオリゴDNA。
【請求項3】
スペース配列が7〜20個のヌクレオチドよりなる請求項2に記載のオリゴDNA。
【請求項4】
転写終結シグナルがtttt、ttttt、またはttttttである請求項2又は3に記載のオリゴDNA。
【請求項5】
5’GCCTGAAGAGCAGTGGTGGAATgtgtgctgtccATTCCACCACTGCTCTTCAGGCttttt3'
のヌクレオチド配列(配列番号10)を含む請求項2〜4のいずれかに記載のオリゴDNA。
【請求項6】
5'ATTCCACCACTGCTCTTCAGGgtgtgctgtccGCCTGAAGAGCAGTGGTGGAAT ttttt3'
のヌクレオチド配列(配列番号11)を含む請求項2に記載のオリゴDNA。
【請求項7】
請求項2〜6に記載のオリゴDNAおよびこれに作動可能に結合したRNA ポリメラーゼIIIプロモーターを含むレトロウイルスベクタープラスミドDNA。
【請求項8】
レトロウイルスベクタープラスミドDNAが、pSUPER.retro、またはpSIREN-RetroQである請求項7に記載のレトロウイルスベクタープラスミドDNA。
【請求項9】
レトロウイルスベクタープラスミドDNAのRNA ポリメラーゼIIIプロモーターが、ヒトH1プロモーター、ヒトU6プロモーター、マウスU6プロモーターよりなる群から選択される請求項7に記載のレトロウイルスベクタープラスミドDNA。
【請求項10】
請求項7〜9に記載のレトロウイルスベクタープラスミドDNAをレトロウイルスパッケージング細胞に導入し、培養して得た、Crkの2本鎖siRNAを宿主細胞中で発現させる組み替えレトロウイルス。
【請求項11】
請求項10に記載の組み替えレトロウイルスを有効成分として含んでなるヒト癌の転移・浸潤防止剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−166727(P2006−166727A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−360111(P2004−360111)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(390000745)財団法人大阪バイオサイエンス研究所 (32)
【Fターム(参考)】