説明

Cu−Ga合金スパッタリングターゲット及びその製造方法

【課題】Cu−Ga合金スパッタリングターゲットに不具合が生じることなくナトリウムを含有させる。
【解決手段】Cu−Ga合金粉末と、ナトリウム及びカルコゲン元素からなるナトリウム化合物の粉末の混合粉末をホットプレス焼結し、Cu−Ga合金中にナトリウム化合物粒を島状に含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CIGS(Cu−In−Ga−Se四元系合金)太陽電池の光吸収層の形成等に使用されるアルカリ金属を含有するCu−Ga合金スパッタリングターゲット及びCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンエネルギーの一つとして、太陽光発電が注目されている。主に、結晶系Siの太陽電池が使用されているが、供給面やコストの問題から、変換効率の高いCIGS(Cu−In−Ga−Se四元系合金)太陽電池が注目されている。CIGS太陽電池の基本構造は、ガラス基板の上に形成された裏面電極となるMo電極層と、このMo電極層の上に形成された光吸収層となるCIGS膜(Cu−In−Ga−Se膜、又はCu−In−Ga−S−Se膜)と、光吸収層の上に形成されたZnS、CdS等からなるバッファ層と、このバッファ層の上に形成された透明電極とを備える。このうち、CIGS膜は、I−III−VI族元素から構成されている。
【0003】
CIGS膜の形成方法としては、蒸着法が知られているが、より広い面積で均一な膜を得るためにスパッタリングにより作製された金属プリカーサ膜をセレン化する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
スパッタ法は、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットとInターゲットを使用してスパッタすることにより、金属プリカーサ膜を作製し、これをセレン(Se)又は硫黄(S)雰囲気中で熱処理してCIGS膜を形成する方法である。
【0005】
CIGS膜を備える太陽電池では、ガラス基板にソーダライムガラスを用いると、ガラス基板からNa等のアルカリ金属が拡散して光吸収層に作用し、太陽電池の変換効率が高まることが知られている。
【0006】
しかしながら、ソーダライムガラス基板からのNa拡散は必ずしも均一ではないため、Na導入量の制御が困難という問題がある。太陽電池において、制御性よくNaを導入することは重要な技術課題となっている。
【0007】
光吸収層へ制御性よくNaを導入する方法としては、金属プリカーサ膜にアルカリ金属含有溶液を付着させてセレン化水素ガス雰囲気中で熱処理する方法(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。しかしながら、特許文献2のNa導入方法は、スパッタ工程とセレン化工程の間に新たな工程を追加するため、管理が複雑化するという問題がある。
【0008】
また、金属Naを添加したCu−Ga合金スパッタリングターゲットを用いてNaを含んだ金属プリカーサ膜を形成し、セレン化/硫化する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、金属Naは、極めて反応性が高く、水分と接触すると反応して発火するため、ターゲット作製において、水を使用する平面研削や切断加工を実行することが困難という問題がある。
【0009】
更に、フッ化ナトリウムを添加したCu−Ga合金スパッタリングターゲットを用いて、Naを導入する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
【0010】
しかしながら、フッ素は、VII族のハロゲン元素であって、CIGS膜を構成するI、III、VI族ではない元素であるため、不純物として光吸収層に悪影響を及ぼすことがある。特許文献4では、セレン化における熱処理工程でフッ素を除去することを提案しているが、それは熱処理工程に、セレン化の条件に加えてフッ素除去の条件も要求することであって、本来のセレン化条件を限定してしまうという問題がある。更に、特許文献4では、膜中にフッ素が大量に取り込まれないように、フッ化ナトリウムの添加量を制限している。このため、ナトリウムの添加量が制限されてしまう。
【0011】
また、フッ化ナトリウムを添加したCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、スパッタ時にアーク放電が発生しやすいという問題がある。特許文献4では、フッ化ナトリウムの平均粒径を5μm以下にすることでアーク放電を抑制している。しかしながら、スパッタ条件によっては、5μm以下の小粒径であってもアーク放電が多発してしまうという問題がある。
【0012】
CIGS膜を構成するVI族元素(カルコゲン元素)とナトリウムの化合物としてNaSやNaSeを添加する方法が提案されている(例えば、特許文献5参照。)。しかしながら、NaS、NaSeは、強い腐食性のある物質なので取り扱いが困難という問題がある。更に、特許文献5は、蒸着法であってスパッタターゲットを使用していないので、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットに適用することができない。
【0013】
また、特許文献6には、CIGS膜を構成するI、III及びVI族元素(カルコゲン元素)から構成されるCuInSとNaInSの粉末混合ターゲットを用いたスパッタ法によってNa添加したCIGS膜を製造する方法が実施例に記載されている。しかしながら、特許文献6の製造方法は、Cu−GaとInの金属プリカーサ膜をセレン化するCIGS膜の製造方法でないので、セレン化する製造方法には適用できないという問題がある。したがって、特許文献6に記載されている方法では、金属プリカーサ膜をセレン化する方法のように、より広い面積で均一な膜を形成することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許3249408号公報
【特許文献2】国際公開第2005/109525号
【特許文献3】特開2009−283560号公報
【特許文献4】特開2011−117077号公報
【特許文献5】特開平8−102546号公報
【特許文献6】特開平10−125941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、割れやアーク放電等の不具合が生じることなく、スパッタ膜にナトリウム(Na)を添加することが可能なナトリウムを含有する高品質なCu−Ga合金スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを目的とする。特に、本発明は、スパッタ膜により形成される太陽電池の光吸収層に影響を及ぼさずに、光吸収層にナトリウムを制御良く添加することが可能なナトリウムを含有するCu−Ga合金スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した目的を達成する本発明に係るCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、Cu−Ga合金中にナトリウム化合物粒を島状に含有し、このナトリウム化合物粒は、ナトリウム以外の元素がカルコゲン元素であることを特徴とする。
【0017】
また、上述した目的を達成する本発明に係るCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法は、Cu−Ga合金粉末と、ナトリウム及びカルコゲン元素からなるナトリウム化合物の混合粉末をホットプレス焼結して製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、ナトリウム化合物粒を島状に含有させることによって、割れやアーク放電等の不具合が生じることなく、スパッタ膜にナトリウムを添加することができる。また、本発明では、ナトリウム化合物のうちNa以外の構成元素をカルコゲン元素とし、ナトリウム化合物粒を島状に含有させることによって、ナトリウム化合物粒による太陽電池の光吸収層への影響を抑制し、制御良くナトリウムを光吸収層に添加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るCu−Ga合金スパッタリングターゲットの光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明を適用したCu−Ga合金スパッタリングターゲットについて詳細に説明する。なお、本発明は、特に限定がない限り、以下の詳細な説明に限定されるものではない。
【0021】
<Cu−Ga合金スパッタリングターゲット>
先ず、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットについて説明する。なお、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットは、平面研削やボンディング等のターゲット仕上げ工程前のターゲット材(焼結体)の状態も含むものである。Cu−Ga合金スパッタリングターゲットは、後述するようにCu−Ga合金粉末を原料として粉末焼結法により製造することができる。
【0022】
Cu−Ga合金スパッタリングターゲットは、図1に示すように、ターゲット中、即ちターゲットの表面及び内部に島状にナトリウム化合物粒(Na化合物粒)が含有されている。図1中の黒い斑点で示された部分がNa化合物粒であり、その他の部分が主にCu−Ga合金である。
【0023】
Cu−Ga合金は、ガリウム(Ga)を10〜45質量%含有し、残部が銅(Cu)及び不可避不純物からなる。Cu−Ga合金は、ガリウムの割合が45質量%より多い場合、後に行うCu−Ga合金粉末とNa化合物の混合粉末を焼結する際に融点が低いガリウムが溶けて、一部に液相が発生し、均一な組織のCu−Ga合金スパッタリングターゲットを得ることができなくなる。したがって、Gaの濃度を10〜45質量%とすることによって、均一組成の高品質のCu−Ga合金スパッタリングターゲットとなる。
【0024】
Na化合物粒は、Naと、Na以外の元素としてカルコゲン元素とを含有するNa化合物からなる。Cu−Ga合金スパッタリングターゲットは、Na化合物粒がCu−Ga合金と島状に孤立することで、機械強度の低下やNa成分の溶出が効果的に抑制されている。
【0025】
一方で、Na化合物粒が島状に孤立しないでCu−Ga合金と連続した形態で存在する場合には、連続部分は機械強度が強くないのでターゲットが欠けたり割れやすくなってしまう。また、Na化合物は、水溶性であることが多く、平面研削や切断等のターゲット加工工程で水と接触した際に、連続部分を通じてNa化合物が溶出してしまい、機械強度が低下してターゲットが割れたり欠けたり、ターゲット中のNa濃度が低下してしまう。したがって、ターゲットの機械強度を低下させず、Na成分の溶出を抑え、Na濃度が低下することを防止するために、Na化合物粒が島状に孤立していることが好ましい。
【0026】
Na化合物粒は、Na以外の元素がカルコゲン元素である。カルコゲン元素としては、Se、S以外にTeやOがある。Na化合物としては、酸化ナトリウム、過酸化ナトリウム、硫化ナトリウム、セレン化ナトリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、過硫酸ナトリウム、亜セレン酸ナトリウム、亜テルル酸ナトリウム等の無機化合物である。カルコゲン元素以外の元素は、例えば太陽電池の光吸収層に取り込まれると不純物となってバンドギャップ中に局在準位を形成しやすい。太陽電池では、局在準位が形成されると電子やホールの流れを阻害して太陽電池特性が低下してしまう。したがって、Na以外の元素としては、カルコゲン元素以外の元素を使用することは好ましくない。
【0027】
例えば、カルコゲン元素以外の炭素や水素を含む有機化合物を用いた場合には、ナトリウムと共に炭素や水素がCu−Ga合金スパッタリングターゲットに含有されてしまい、この炭素や水素を揮発除去する処理を行っても、完全に炭素や水素を除去することができない。このため、有機化合物を用いた場合には、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットに炭素や水素が残ってしまい、光吸収層に不純物として含まれてしまうため、太陽電池特性が低下してしまう。また、有機化合物を用いた場合には、炭素や水素を揮発除去する処理により、Cu−Ga合金粉末の周囲にNa成分が連続的に付着してしまうため、島状にならず、NaがCu−Ga合金粉末と連続した形態で存在することになる。したがって、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットにNaを添加するにあたって、Naとカルコゲン元素とからなる無機化合物を用いることによって、不純物が含有されることなく、Naを島状に添加することができる。
【0028】
具体的に、Na化合物粒としては、無水硫酸ナトリウムが好ましい。硫酸ナトリウムは、NaSOと記述されるように、Na以外の構成元素はカルコゲン元素のSとOだけである。硫酸ナトリウムは、硫化ナトリウム、亜セレン酸ナトリウムのような強い腐食性や毒性がないので取り扱いが極めて容易である。また、ターゲット製造中の平面研削や切断加工中に、水と接触しても発火することはない。また、硫酸ナトリウムと接触した水は中性のままであるので加工装置の防錆等に特別な用意をする必要がない。
【0029】
硫酸ナトリウムには、無水と水和物があるが、ターゲット中には無水の形態で存在する。ターゲット中の硫酸ナトリウムが無水であることは、熱重量分析装置(TG)にターゲット片を入れ、不活性ガス中で昇温しても水の離脱による重量減少が生じないことから確認することができる。硫酸ナトリウム水和物の粒子をターゲット中に含有させようとしても、ターゲット焼結工程の高温で脱水するので、水和物の形態でターゲット中に含有させることは難しい。
【0030】
Na化合物粒を除いたCu−Ga合金ターゲットのGa濃度が10〜45質量%であって、カルコゲン元素を除いたCu−Ga合金ターゲットのNa濃度が0.1〜5質量%である。Ga濃度とNa濃度は、それぞれ下記の(1)式と(2)式で与えられる濃度とする。Cu含有量、Ga含有量、Na含有量は、原子吸光分析装置やICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置、あるいはEPMA装置等によって測定することができる。
Ga濃度={Ga含有量/(Cu含有量+Ga含有量)}×100 ・・・(1)式
Na濃度={Na含有量/(Cu含有量+Ga含有量+Na含有量)}×100 ・・・(2)式
【0031】
Cu−Ga合金スパッタリングターゲットは、ガリウムの割合が45質量%を上回ると、後に行うCu−Ga合金粉末とNa化合物粒の混合粉末を焼結する工程で融点が低いガリウムが溶けて、一部に液相が発生し、均一な組織のCu−Ga合金スパッタリングターゲットとならない。また、Ga濃度が10〜45質量%の範囲を外れると光吸収層の特性が不適になる。
【0032】
Na濃度が0.1質量%よりも低いと、スパッタ膜中のNa濃度が不足するため、光吸収層を形成する場合、Naの光吸収層への拡散が不十分となり、太陽電池の変換効率が十分に高まらず、Na添加効果が得られなくなってしまう。Na濃度が5質量%よりも高いと、ターゲット強度が不足して製造中やスパッタ中にターゲットが割れたり、欠けたりしてしまう。
【0033】
ターゲット中のNa化合物粒の平均粒径は、1〜200μmであることが好ましい。平均粒径が200μmよりも大きい場合には、アーク放電が多発してスパッタ成膜が不安定になる。このような状態になると、スパッタ膜厚にスプラッシュ等の欠陥が生じたり、成膜速度が低下して膜厚が薄くなってしまう。また、平均粒径が200μmよりも大きい場合には、無水硫酸ナトリウム粒の分散が不均一になってしまい、スパッタ膜のNa濃度にばらつきが生じてしまう。無水硫酸ナトリウム粒の平均粒径が1μmよりも小さい場合には、無水硫酸ナトリウム粒が島状に孤立した分布状態でなくなってしまう。平均粒径が1μmよりも小さい場合には、Na濃度を0.1〜5質量%とするためにNa化合物の添加量が多くなり粒子数が極めて多量になるので、粒子同士が互いに隣接して連続し繋がった状態が形成されやくなるためと考えられる。このような連続部分は、機械強度が不足してターゲットの欠けや割れが生じやすくなってしまう。また、平面研削や切断加工時に水と接触すると、連続部分を通じて硫酸ナトリウムが溶出してしまう。したがって、ターゲット中のNa化合物粒の平均粒径は、1〜200μmとすることが好ましい。
【0034】
ターゲット中のNa化合物粒の平均粒径は、ターゲット断面の顕微鏡又はSEM画像から画像解析ソフトを使用して求めることができる。画像解析ソフトとしては、例えば、ImageJを使用することができる。即ち、Na化合物粒、例えば無水硫酸ナトリウム粒の色調や濃淡コントラストを持つ画素だけを抽出して、個々の粒子面積を円直径に換算した粒度分布を算出する。小径側から積算した粒子面積が全粒子面積の半分になる粒径を平均粒径とする。また、ターゲット断面の空隙率も同様に画像解析から求めることができる。
【0035】
以上のように、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットでは、Cu−Ga合金中にナトリウムとカルコゲン元素とからなるNa化合物粒が島状に含有されていることによって、機械強度が高く、製造時やスパッタ時にターゲットの割れや欠けが生じず、アーク放電の発生等の不具合が生じることを防止できる。また、このCu−Ga合金スパッタリングターゲットでは、Cu−Ga合金中にNa化合物粒が島状に含有されていることによって、Na成分の溶出が抑制され、スパッタ膜に適切且つ制御よくNaを含有させることができる。
【0036】
したがって、このCu−Ga合金スパッタリングターゲットで太陽電池の光吸収層を形成した場合には、スパッタの際にターゲットの割れや欠け、アーク放電等が発生せず、またNa化合物がNaとカルコゲン元素とからなるため、影響を与えることなく光吸収層にNaを制御よく拡散させることができる。
【0037】
<Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法>
Cu−Ga合金スパッタリングターゲットは、Cu−Ga合金粉末と無水硫酸ナトリウム粉末の混合粉末をホットプレス焼結することで製造できる。このCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法では、アルカリ金属を使用することなく、製造することができる。
【0038】
先ず、Cu−Ga合金粉末とNa化合物粒との混合粉末を作製する。Cu−Ga合金粉末は、原料としてCu粉末及びGaが用いられる。Cu粉末及びGaの純度は、光吸収層を形成した場合に光吸収層の特性に影響を与えないような純度が適宜選択される。
【0039】
Cu粉末は、例えば、電解法又はアトマイズ法により製造される電解Cu粉又はアトマイズCu粉を使用することができる。電解Cu粉は、硫酸銅溶液等の電解液中で電気分解により陰極に海綿状又は樹枝状の形状のCuを析出させて製造される。アトマイズCu粉は、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、遠心アトマイズ法、メルトエクストラクション法等により球状又は不定形の形状のCu粉末が製造される。なお、Cu粉末は、これらの方法以外で製造されたものを使用してもよい。
【0040】
Gaは、融点が低い金属(融点:29.78℃)であり、加熱により容易に融解する。融解したGaは、Cu粉末を被覆して二元系合金化する。Gaの形状には、制限はないが、小片であると秤量が容易である。小片は、Gaを室温近傍で溶解して鋳造し、鋳造物を砕いて得ることができる。
【0041】
原料となるCu−Ga合金粉末は、ガリウム(Ga)を10〜45質量%含有し、残部が銅(Cu)及び不可避不純物からなり、平均粒径が1〜200μm程度であることが好ましい。Cu−Ga合金粉末は、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、鋳塊粉砕法等で製造したものを使用できる。また、Cu粉末とGaとを加熱しながら混合して直接にCu−Ga合金粉末を製造したものを使用してもよい。
【0042】
Cu−Ga合金粉末は、ガリウムの割合が45質量%を上回る場合、上述したように、焼結工程において融点が低いガリウムが溶けて、一部に液相が発生し、均一な組織のスパッタリングターゲットを得ることができなくなる。
【0043】
Cu−Ga合金粉末の平均粒径が1μmより小さい場合には、混合粉末を焼結する工程で黒鉛型に混合粉末を充填するが、黒鉛型の隙間から粉末が漏れやすくなり適当ではない。一方、平均粒径が200μmより大きい場合には、混合粉末を焼結しても高密度の焼結体が得られない状態となる。したがって、Cu−Ga合金粉末の平均粒径は、1μm〜200μmであることが好ましい。
【0044】
また、原料となるNa化合物の粉末は、ナトリウムと、Se、S、Te、O等のカルコゲン元素とからなる。Na化合物としては、酸化ナトリウム、過酸化ナトリウム、硫化ナトリウム、セレン化ナトリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、過硫酸ナトリウム、亜セレン酸ナトリウム、亜テルル酸ナトリウム等の無機化合物である。
【0045】
このNa化合物の粉末は、平均粒径1〜200μmであることが好ましい。Na化合物の粉末の平均粒径が200μmよりも大きい場合には、Cu−Ga合金粉末と均質に混合することができない。Na化合物の平均粒径が1μmよりも小さい場合には、粉末が舞い上がりやすくなってターゲット製造工程でハンドリングに特別な注意が必要となってコストが高くなってしまう。
【0046】
一方、原料として有機化合物を用いた場合には、有機化合物にはカルコゲン元素以外の炭素や水素が含まれているため、これらを揮発して除去する工程が必要となる。一方、Naとカルコゲン元素とからなる無機化合物は、カルコゲン元素が太陽電池の光吸収層を構成するものであることから、カルコゲン元素を除去する必要がなく、除去工程を必要としない。
【0047】
上述した原料のCu−Ga合金粉末とNa化合物とを、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットに含有されるNaの濃度が所定の濃度となるように、混合して混合粉末を作製する。この混合には、ボールミル、2軸遊星攪拌機、V型混合機等を使用できる。
【0048】
次に、得られた混合粉末をホットプレス装置にて焼結を行い、Cu−Ga合金中にNa化合物粒が島状に含有された焼結体を作製する。
【0049】
ホットプレス装置による焼結は、真空又は不活性雰囲気中で、温度250〜880℃、圧力5〜50MPaの条件で行うことが好ましい。このような条件で焼結を行うことにより、空孔の少ない緻密な焼結体を製造することができる。
【0050】
焼結の温度が250℃よりも低い場合には、焼結が進まず空隙の多い焼結体になってしまう。空隙が多いと、機械強度が低下して割れや欠けが生じやすくなる。また、ターゲット製造工程において、焼結体の平面研削や切断加工時に水と接触すると、空隙部分を通じて硫酸ナトリウムが溶出してしまう。焼結の温度が880℃よりも高い場合には、硫酸ナトリウムの融点(884℃)に近い高温なので、硫酸ナトリウムが融解したり分解したりして焼結体が割れたり欠けたりしてしまう。
【0051】
焼結の圧力が5MPaよりも小さい場合には、空隙の多い焼結体になってしまう。焼結の圧力が50MPaよりも高い場合には、ホットプレス装置の黒鉛型が割れやすくなってしまう。Cu−Ga合金粉末にCu粉末とGaとを加熱しながら混合して直接に合金粉末を製造したものを使用した場合は、ホットプレス装置内で圧力をかけない状態(0MPa)で250〜880℃の温度で合金粉末を熱処理してから5〜50MPaの圧力をかけてもよい。熱処理をすることによって、Gaの液相が出現することをより抑制できる。ホットプレス装置内で圧力をかけない状態(0MPa)とは、ホットプレス装置の上パンチまたは下パンチによる圧力をかけない状態である。
【0052】
最後に、得られた焼結体を機械加工し、バッキングプレートへボンディングする。以上の工程により、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法では、Cu−Ga合金中に島状にNaとカルコゲン元素とからなるNa化合物粒を含有するCu−Ga合金スパッタリングターゲットを得ることができる。
【0053】
以上のようなCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法は、Cu−Ga合金粉末と、無水硫酸ナトリウム等のNa化合物とを混合して、ホットプレス装置にて所定の温度、圧力条件の下で焼結することによって、Cu−Ga合金中に島状にNaとカルコゲン元素からなるナトリウム化合物粒を含有するCu−Ga合金スパッタリングターゲットを製造することができる。また、このCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法では、硫酸ナトリウム等の化合物を用いていることによって、金属Na単体よりも取り扱いが容易である。また、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法では、金属Na単体を用いていないため、機械加工の際に水分と接触しても発熱することなく、ターゲットにアルカリ金属を容易に含有させることができる。
【0054】
更に、このCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法では、太陽電池の光吸収層に用いられるI、VI族に含まれるNaとカルコゲン元素とからなるNa化合物を用いているため、光吸収層に含有させることができないような不純物が含有されておらず、このような不純物を除去する工程を設ける必要がなく、製造工程が複雑化することがない。
【0055】
このCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法により得られたCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、Na化合物粒が島状に含有されていることで、機械強度の低下やNa成分の溶出が抑制されている。これにより、このCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、加工時やスパッタ時に割れたり欠けたりせず、スパッタ時にアーク放電が発生することが抑制され、またNa濃度が低下せず、必要な量のNaが含有されている。
【0056】
そして、得られたCu−Ga合金スパッタリングターゲットを用いて太陽電池の光吸収層を形成した場合には、Na化合物がNaとカルコゲン元素とからなるため太陽電池の光吸収層に影響を及ぼさずに、またNaを光吸収層に制御良く添加することができる。
【0057】
また、このCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法では、原料のNa化合物に含まれているカルコゲン元素が光吸収層を構成するものであるから、カルコゲン元素を除去する必要がなく、有機化合物を用いた場合のように、炭素や水素を揮発して除去する工程が不要となり、スパッタリングターゲットの製造工程を簡略化することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、焼結体とターゲットは同じとする。
【0059】
(実施例1)
実施例1では、先ず、平均粒径21μmの無水硫酸ナトリウム粉末(純度99.0%以上)と平均粒径100μmのCu−10質量%Ga合金粉末を用意した。Cu−Ga合金粉末は、Cu粉末とGaとをAr中で200℃に加熱しながら混合して直接に合金粉末を作製したものである。
【0060】
次に、無水硫酸ナトリウム粉末6.4gとCu−10質量%Ga合金粉末200gを、ポリエチレン製1000mL容器に直径φ10mmジルコニアボール500gと共に投入して、2時間ボールミル混合を行った。この混合粉末中のカルコゲン元素を除いたNa仕込み濃度は1.0質量%である。
【0061】
次に、得られた混合粉末から100gを取り、直径φ60mmのホットプレス用黒鉛型に投入し、プレス圧力をかけない状態で真空中880℃1時間の無負荷加熱を行った後、引き続いて圧力30MPa、温度880℃で1時間ホットプレス焼結を行って直径φ60mmの焼結体を作製した。焼結体には、割れや欠けがなかった。
【0062】
作製した焼結体をICP(Inductively Coupled Plasma)分析し、Cu含有量、Ga含有量及びNa含有量から求めたNa濃度は0.9質量%であった。作製した焼結体を油中で研磨し、断面組織をSEM観察したところ、焼結体中に無水硫酸ナトリウム粒が島状に孤立して分散した状態であり、連続した分布状態は認められなかった。無水硫酸ナトリウムの平均粒径は、画像解析ソフトImageJを使用して求めたところ20μmであった。焼結体の空隙率は、画像解析ソフトImageJを使用して求めたところ0.01面積%未満であり、緻密であるとわかった。焼結体から小片を取り出し、熱重量分析装置(TG−DTA2000SA、ブルーカー社製)で分析したところ、重量減少は0.01質量%未満であったことから、硫酸ナトリウムは無水の状態で含有されているとわかった。この焼結体を、水を使いながら平面研削したが割れや欠けは生じなかった。
【0063】
そして、この焼結体をCu製バッキングプレートに接合してターゲットを作製し、スパッタ装置(SH−450アルバック社製)に取り付けた。スパッタ電源はDC電源(MDX1.5K、アドバンスドテクノロジー社製)を用いた。基板は、25×76mmのNaフリーガラス基板とした。到達真空度5×10−4Pa、Arガス圧0.5Pa、DC100Wの条件で30分間スパッタ成膜した。スパッタ中のアーク放電は、マイクロアークモニター(アドバンスドテクノロジー社製)で計測した。通常、スパッタ開始直後は、ターゲット面の加工汚れ等の影響でアークが発生するので、スパッタ開始5分間はターゲット直上のシャッターを閉めたままで基板に成膜しない状態とし、その後シャッターを開いて5〜30分の25分間に基板上にスパッタ成膜した。アーク計測もシャター開の25分間とした。その結果のアーク放電は発生しなかった。スパッタ装置からガラス基板を取り出したところCu−Ga膜が成膜できているとわかった。この膜を顕微鏡観察したところスパラッシュ等による異物は認められなかった。次に、膜をICP分析した結果、Na濃度は0.6質量%であった。
【0064】
(実施例2)
実施例2では、Cu−25質量%Ga合金粉末を使用し、無負荷加熱温度及びホットプレス焼結温度を800℃とした以外は実施例1と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体のNa濃度は1.0質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体の空隙率は0.01面積%未満であり緻密であった。焼結体中に硫酸ナトリウム粒が島状に孤立して分散した状態であり、平均粒径は22μmであった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体を、水を使いながら平面研削しても割れや欠けは生じなかった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、アーク放電は1回だけであった。スパッタ膜にスパラッシュ等による異物は認められなかった。膜のNa濃度は0.6質量%であった。
【0065】
(実施例3)
実施例3では、Cu−35質量%Ga合金粉末を使用し、無負荷加熱温度及びホットプレス焼結温度を700℃とした以外は実施例1と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体のNa濃度は1.0質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体の空隙率は0.01面積%未満であり緻密であった。焼結体中に硫酸ナトリウム粒が島状に孤立して分散した状態であり、平均粒径は19μmであった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体を、水を使いながら平面研削しても割れや欠けは生じなかった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、アーク放電は発生しなかった。スパッタ膜にスパラッシュ等による異物は認められなかった。膜のNa濃度は0.6質量%であった。
【0066】
(実施例4)
実施例4では、Cu−45質量%Ga合金粉末を使用し、無負荷加熱温度及びホットプレス焼結温度を250℃、ホットプレス圧力を5MPaとした以外は実施例1と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体のNa濃度は1.0質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体の空隙率は0.01面積%未満であり緻密であった。焼結体中に硫酸ナトリウム粒が島状に孤立して分散した状態であり、平均粒径は20μmであった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体を、水を使いながら平面研削しても割れや欠けは生じなかった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、アーク放電は発生しなかった。スパッタ膜にスパラッシュなどによる異物は認められなかった。膜のNa濃度は0.6質量%であった。
【0067】
(実施例5)
実施例5では、無水硫酸ナトリウム粉末を0.6gとした以外は実施例3と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体のNa濃度は0.1質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体の空隙率は0.01面積%未満であり緻密であった。焼結体中に硫酸ナトリウム粒が島状に孤立して分散した状態であり、平均粒径は21μmであった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体を、水を使いながら平面研削しても割れや欠けは生じなかった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、アーク放電は発生しなかった。スパッタ膜にスパラッシュ等による異物は認められなかった。膜のNa濃度は0.1質量%であった。
【0068】
(実施例6)
実施例6では、無水硫酸ナトリウム粉末を2.5gとした以外は実施例3と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体のNa濃度は0.4質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体の空隙率は0.01面積%未満であり緻密であった。焼結体中に硫酸ナトリウム粒が島状に孤立して分散した状態であり、平均粒径は19μmであった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体を、水を使いながら平面研削しても割れや欠けは生じなかった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、アーク放電は発生しなかった。スパッタ膜にスパラッシュ等による異物は認められなかった。膜のNa濃度は0.3質量%であった。
【0069】
(実施例7)
実施例7では、無水硫酸ナトリウム粉末を36.5gとした以外は実施例3と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体のNa濃度は4.9質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体の空隙率は、0.01面積%未満であり緻密であった。焼結体中に硫酸ナトリウム粒が島状に孤立して分散した状態であり、平均粒径は19μmであった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体を、水を使いながら平面研削しても割れや欠けは生じなかった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、アーク放電の発生は3回だけであった。スパッタ膜にスパラッシュ等による異物は認められなかった。膜のNa濃度は3.4質量%であった。
【0070】
(実施例8)
実施例8では、平均粒径1μmの無水硫酸ナトリウム粉末を用いた以外は実施例3と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体のNa濃度は1.0質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体の空隙率は0.01面積%未満であり緻密であった。焼結体中に硫酸ナトリウム粒が島状に孤立して分散した状態であり、平均粒径は1μmであった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体を、水を使いながら平面研削しても割れや欠けは生じなかった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、アーク放電は発生しなかった。スパッタ膜にスパラッシュ等による異物は認められなかった。膜のNa濃度は0.6質量%であった。
【0071】
(実施例9)
実施例9では、平均粒径200μmの無水硫酸ナトリウム粉末を用いた以外は実施例3と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体のNa濃度は1.1質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体の空隙率は0.01面積%未満であり緻密であった。焼結体中に硫酸ナトリウム粒が島状に孤立して分散した状態であり、平均粒径は190μmであった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体を、水を使いながら平面研削しても割れや欠けは生じなかった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、アーク放電の発生は1回だけであった。スパッタ膜にスパラッシュ等による異物は認められなかった。膜のNa濃度は0.6質量%であった。
【0072】
(実施例10)
実施例10では、Cu−35質量%Ga合金粉末を3750g、無水硫酸ナトリウム粉末を120gとし、2軸遊星混合機(小平製作所製)を用いた以外は実施例3と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体のNa濃度は1.0質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体の空隙率は0.01面積%未満であり緻密であった。焼結体中に硫酸ナトリウム粒が島状に孤立して分散した状態であり、平均粒径は21μmであった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体を、水を使いながら平面研削しても割れや欠けは生じなかった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、アーク放電の発生は1回だけであった。スパッタ膜にスパラッシュ等による異物は認められなかった。膜のNa濃度は0.6質量%であった。
【0073】
(実施例11)
実施例11は、V型混合機(筒井理化学器械製)を用いた以外は実施例10と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体のNa濃度は0.9質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体の空隙率は0.01面積%未満であり緻密であった。焼結体中に硫酸ナトリウム粒が島状に孤立して分散した状態であり、平均粒径は20μmであった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体を、水を使いながら平面研削しても割れや欠けは生じなかった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、アーク放電の発生は1回だけであった。スパッタ膜にスパラッシュ等による異物は認められなかった。膜のNa濃度は0.6質量%であった。
【0074】
(比較例1)
比較例1では、平均粒径400μmの無水硫酸ナトリウム粉末を用いた以外は実施例3と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体のNa濃度は1.0質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体の空隙率は0.01面積%未満であり緻密であった。焼結体中に硫酸ナトリウム粒が島状に孤立して分散した状態であり、平均粒径は280μmであった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体を、水を使いながら平面研削しても割れや欠けは生じなかった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、アーク放電は197回と多数発生した。またスパッタ膜にスパラッシュなどによる異物が多数認められた。膜のNa濃度は0.6質量%であった。
【0075】
(比較例2)
比較例2では、無水硫酸ナトリウム粉末を50gとした以外は実施例3と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体を取り出したところ一部欠けが生じていた。焼結体のNa濃度は6.5質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体の空隙率は0.01面積%未満であり緻密であったが、焼結体中に硫酸ナトリウム粒が繋がって連続した分布状態であった。平均粒径は、粒子が連続しているため求めることができなかった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体を、水を使いながら平面研削したところ割れてしまい、ターゲットを作製することができなった。このためスパッタ特性は測定できなかった。
【0076】
(比較例3)
比較例3では、平均粒径0.3μmの無水硫酸ナトリウム粉末を用いた以外は実施例3と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体を取り出したところ一部欠けが生じていた。焼結体のNa濃度は1.0質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体の空隙率は0.01面積%未満であり緻密であったが、焼結体中に硫酸ナトリウム粒が繋がって連続した分布状態であった。平均粒径は、粒子が連続しているため求めることができなかった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体を、水を使いながら平面研削したところ割れてしまい、ターゲットを作製することができなった。このためスパッタ特性は測定できなかった。
【0077】
(比較例4)
比較例4では、Cu−45質量%Ga合金粉末を使用し、ホットプレス焼結の無負荷加熱温度及び加圧加熱温度を200℃とした以外は実施例3と同様にしてホットプレス焼結した。焼結体を取り出したところ一部欠けが生じていた。焼結体のNa濃度は1.0質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体の空隙率は8面積%未満であり緻密ではなかった。焼結体断面に空隙が多量に存在したため、硫酸ナトリウム粒を特定することが困難となり、分布状態を確認できず、また平均粒径を求めることができなかった。焼結体の熱重量測定は実施していない。この焼結体を、水を使いながら平面研削したところ割れてしまい、ターゲットを作製することができなった。このためスパッタ特性は測定できなかった。
【0078】
(比較例5)
比較例5では、Cu−10質量%Ga合金粉末を使用し、ホットプレス焼結の無負荷加熱温度及び加圧加熱温度を1000℃とした以外は実施例3と同様にしてホットプレス焼結した。比較例5では、黒鉛型とともに焼結体が割れていた。これは硫酸ナトリウムが融解して黒鉛に固着したため、熱膨張差や圧力不均一などが生じて割れたと考えられる。
【0079】
以上、実施例及び比較例の原料、ホットプレス焼結条件について表1にまとめ、焼結体及びスパッタの評価について表2にまとめた。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
表2に示す結果から、実施例1〜実施例11の平均粒径が200μmよりも小さく、無水硫酸ナトリウム粒が島状に孤立して分散したターゲットは、緻密で割れ欠けがなく、スパッタ中のアーク放電も極めて少ないターゲットなっている。実施例1〜実施例11のターゲットを用いたスパッタした場合、所定量のNaが含有されたスパッタ膜を形成できることがわかる。また、実施例1〜実施例11では、アーク放電は発生しなかった又は殆ど発生せず、異物も認められなかった。また、実施例1〜実施例11では、Cu−Ga合金粉末と無水硫酸ナトリウム粉末の混合粉末をホットプレス焼結することで、割れたり欠けたりすることなく、Naが含有されたCu−Ga合金スパッタリングターゲットを作製することができた。
【0083】
一方、比較例1では、焼結体中の無水硫酸ナトリウムの平均粒径が200μmよりも大きい280μmであるため、アーク放電が多数発生した。
【0084】
比較例2では、原料に無水硫酸ナトリウムを50g用いたため、焼結体中のNa濃度が高くなり、粒子同士が互いに隣接して連続し繋がった状態となった。このため、ターゲットの機械的強度が低下して、割れが発生した。同様に、比較例3では、無水硫酸ナトリウム粒の平均粒径が小さく、無水硫酸ナトリウム粒が連続して繋がった状態となったため、ターゲットの機械的強度が低下して、割れが発生した。
【0085】
比較例4では、ホットプレス焼結の際に、無負荷加熱温度及び加圧加熱温度が250℃よりも低く200℃であったため、焼結が進まず、空隙が8面積%にもなるターゲットとなった。このため、比較例4では、焼結体が割れてしまい、スパッタリングターゲットとして使用することができなかった。
【0086】
比較例5では、ホットプレス焼結の際に、無負荷加熱温度及び加圧加熱温度が880℃よりも高く1000℃であったため、硫酸ナトリウムが融解したり分解してしまった。これにより、比較例5では、焼結体が割れてしまった。
【0087】
以上の結果から、実施例のように、Naを含有するCu−Ga合金スパッタリングターゲットを作製するにあたって、無水硫酸ナトリウムのようにナトリウムとカルコゲン元素とを含むナトリウム化合物粒と、Cu−Ga合金粉とを原料に用い、Cu−Ga合金中にナトリウム化合物粒を島状に含有させることによって、ターゲットの機械的強度が高まり、製造時やスパッタ時に割れや欠けが生じず、またNaの溶出が抑えられる。したがって、実施例のターゲットにより形成されたスパッタ膜には、所定量のNaを含有させることができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu−Ga合金中にナトリウム化合物粒を島状に含有し、該ナトリウム化合物粒は、ナトリウム以外の元素がカルコゲン元素であることを特徴とするCu−Ga合金スパッタリングターゲット。
【請求項2】
上記ナトリウム化合物粒は、無水硫酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲット。
【請求項3】
上記ナトリウム化合物粒の平均粒径は、1〜200μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲット。
【請求項4】
上記ナトリウム化合物粒を除いた当該Cu−Ga合金スパッタリングターゲット中のGa濃度が10〜45質量%であり、
上記カルコゲン元素を除いた当該Cu−Ga合金スパッタリングターゲット中のNa濃度が0.1〜5質量%であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲット。
【請求項5】
Cu−Ga合金粉末と、ナトリウム及びカルコゲン元素からなるナトリウム化合物の粉末の混合粉末をホットプレス焼結して製造することを特徴とするCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項6】
上記ナトリウム化合物の平均粒径は、1〜200μmであることを特徴とする請求項5記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項7】
上記ホットプレス焼結が、真空又は不活性雰囲気中で、温度250〜880℃、圧力0〜50MPaの条件で行うことを特徴とする請求項5又は請求項6記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項8】
上記ナトリウム化合物は、無水硫酸ナトリウムであることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか1項記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−105885(P2013−105885A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248711(P2011−248711)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】