説明

Cu−Ga合金スラブの製造方法

【課題】 Cu−Ga合金からなるCu−Ga合金スラブを溶解鋳造により製造する方法において、大型のCu−Ga合金スラブを、ひび割れ発生を充分に抑制して製造することができる製造方法を提供する。
【解決手段】 Cu−Ga合金スラブの製造方法では、まず、減圧下、所定の鋳造温度に坩堝1を加熱して、坩堝1内においてCu−Ga合金の溶湯を得る。次に、坩堝1内の溶湯5を、出湯開口12から出湯させる。出湯開口12から出湯された溶湯5は、流入開口32を介して貯留槽3に一時的に貯留され、排出開口33から溢流し、貯留槽3から排出される。そして、貯留槽3の排出開口33から溢流して排出された溶湯5は、注湯開口22を介して鋳型2に注湯される。そして、溶湯の鋳型2に対する注湯量と鋳造温度とは、スラブ熱量Qと鋳型熱量Qとが、Q/Q≦4.7を満たすように調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cu−Ga合金スラブを溶解鋳造により製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Ga(ガリウム)の組成比が比較的大きいCu−Ga合金は、主に、薄膜型太陽電池を構成する光吸収層の薄膜形成用のスパッタリングターゲットとして用いられる。
【0003】
スパッタリングターゲットは、溶解鋳造法によって製造された直方体形状(例えば大きさが、300mm×400mm×1000mmである)の合金インゴット(スラブ)を、旋盤や丸鋸を用いて幾つかに切断し、切断された合金片(スラブ)を圧延、切削することにより製造される。
【0004】
例えば、特許文献1には、溶解鋳造によって、Cu−Ga合金からなるスパッタリングターゲット用のCu−Ga合金スラブを製造する方法が開示されている。しかしながら、特許文献1に開示される技術では、比較的小さなサイズのCu−Ga合金スラブしか製造することができず、また、所望するCu−Ga合金スラブの大きさに合わせたモールドをその都度用意しなければならないので、生産性が極めて低い。
【0005】
スパッタリングターゲット用のCu−Ga合金スラブを製造する他の方法としては、セラミックスなどの成形と同様に、Cu−Ga合金粉末を焼結することによって所望の形状に成形(製造)する方法がある。Cu−Ga合金粉末を焼結することによって製造されたCu−Ga合金スラブは、スパッタリングターゲットに加工したときに、相対密度が95%以下と低密度であり、酸素含有率が数1000ppmと高いため、スパッタ成膜時の異常放電や酸化物による汚染の問題が伴う。
【0006】
そのため、スパッタリングターゲット作製時にCu−Ga合金スラブを用いる場合には、Cu−Ga合金スラブは一般的に溶解鋳造によって製造されていることが望ましい。
【0007】
スパッタリングターゲットとして用いられるGaの組成比が比較的大きいCu−Ga合金は、延性や展性が乏しく、硬度が高くて割れ易い(脆い)。そのため、溶解鋳造により製造されたCu−Ga合金からなるCu−Ga合金スラブには、ひび割れが発生している場合がある。このようなひび割れが発生したCu−Ga合金スラブを製品化するためには、例えばひび割れが発生した部分を切削して除去しなければならない。また、発生した切削屑には切削によって不純物が混入してしまうため、例えばCu−Ga合金スラブをスパッタリングターゲットを作製するときに用いる場合には、当該切削屑をCu−Ga合金スラブを溶解鋳造して製造するときに再利用することができない。そのため、再利用できない多量の切削屑が発生してCu−Ga合金スラブの製品の歩留まりが悪くなる。
【0008】
例えば、非特許文献1には、銅合金鋳物を溶解鋳造により製造するときのひび割れの発生を抑制する方法として、鋳型形状の変更による応力発生源をなくす方法、鋳物各部を一様に冷却して温度勾配を小さくして応力を緩和する方法、鋳型上部などの押し湯部に発熱材や保温材などを設ける方法などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−73163号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「銅合金鋳物の生産技術」、財団法人素形材センター、p.391〜392
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、Gaの組成比が比較的大きいCu−Ga合金は、硬度が高くて脆い硬脆材であるので、Cu−Ga合金スラブを溶解鋳造により製造するときのひび割れ対策として、非特許文献1に開示される技術を適用したとしても、大型のCu−Ga合金スラブを、ひび割れ発生を充分に抑制して製造することができない。
【0012】
したがって本発明の目的は、Cu−Ga合金からなるCu−Ga合金スラブを溶解鋳造により製造する方法において、大型のCu−Ga合金スラブを、ひび割れ発生を充分に抑制して製造することができる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、Cu−Ga合金からなるCu−Ga合金スラブを溶解鋳造により製造する方法であって、
坩堝内に銅(Cu)およびガリウム(Ga)を仕込む仕込み工程と、
減圧下、所定の鋳造温度に坩堝を加熱して、坩堝内においてCu−Ga合金の溶湯を得る溶湯作製工程と、
坩堝内の溶湯を、所定の注湯量となるように鋳型に注湯する注湯工程と、
鋳型に注湯された溶湯を、鋳型内において室温まで冷却して凝固させてスラブの形状に成形する成形工程と、を含み、
下記式(1)で算出されるスラブ熱量Qと、下記式(2)で算出される鋳型熱量Qとが、Q/Q≦4.7を満たすように、前記溶湯作製工程における鋳造温度と、前記注湯工程における注湯量とが調整されることを特徴とするCu−Ga合金スラブの製造方法である。
【0014】
スラブ熱量Q[J]=
Cu−Ga合金の比熱[J/g・K]×注湯量[g]×鋳造温度[K]…(1)
鋳型熱量Q[J]=
鋳型の比熱[J/g・K]×鋳型の重量[g]×鋳型温度[K] …(2)
[式中、鋳型温度は、溶湯が注湯される直前の鋳型の温度である。]
【0015】
また本発明のCu−Ga合金スラブの製造方法は、前記成形工程においてスラブの形状に成形された成形物を鋳型から取出し、該成形物を450℃以上700℃未満で1時間以上12時間以下加熱する熱処理工程をさらに含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、Cu−Ga合金スラブの製造方法は、仕込み工程と、溶湯作製工程と、注湯工程と、成形工程とを含む。仕込み工程では、坩堝内に銅(Cu)およびガリウム(Ga)を仕込む。溶湯作製工程では、減圧下、所定の鋳造温度に坩堝を加熱して、坩堝内においてCu−Ga合金の溶湯を得る。注湯工程では、坩堝内の溶湯を、所定の注湯量となるように鋳型に注湯する。成形工程では、鋳型に注湯された溶湯を、鋳型内において室温まで冷却して凝固させてスラブの形状に成形する。そして、上記式(1)で算出されるスラブ熱量Qと、上記式(2)で算出される鋳型熱量Qとが、Q/Q≦4.7を満たすように、溶湯作製工程における鋳造温度と、注湯工程における注湯量、使用する鋳型の種類、重量などが調整される。
【0017】
Cu−Ga合金スラブの製造方法において、溶湯の鋳型に対する注湯量と鋳造温度とが、スラブ熱量Qと鋳型熱量Qとに基づいて、Q/Q≦4.7を満たすように調整されるので、鋳型内において溶湯を一様に凝固させることができ、そのため、大型のCu−Ga合金スラブを、ひび割れ発生を充分に抑制して製造することができる。
【0018】
また本発明によれば、Cu−Ga合金スラブの製造方法は、熱処理工程をさらに含む。この熱処理工程では、成形工程においてスラブの形状に成形された成形物を鋳型から取出し、該成形物を450℃以上700℃未満で1時間以上12時間以下加熱する。これによって、鋳型内において溶湯が凝固されて得られたCu−Ga合金スラブにおいて、Cu中にGaが偏析するのを抑制した上で、成型時にCu−Ga合金スラブの内部に発生した応力を解放することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のCu−Ga合金スラブの製造方法において用いる鋳造装置100の構成を示す斜視図である。
【図2】鋳型2および貯留槽3の構成を示す斜視図である。
【図3】鋳型2に対する貯留槽3の配置位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明のCu−Ga合金スラブの製造方法において用いる鋳造装置100の構成を示す斜視図である。図2は、鋳型2および貯留槽3の構成を示す斜視図である。図3は、鋳型2に対する貯留槽3の配置位置を示す図である。本発明のCu−Ga合金スラブの製造方法は、鋳造装置100を用いて実施することができる。鋳造装置100は、Cu−Ga合金からなるCu−Ga合金スラブを溶解鋳造により作製するための装置である。
【0021】
Cu(銅)およびGa(ガリウム)からなるCu−Ga合金中のGaの組成比については、特に限定されるものではないが、10at%以上50at%以下が好ましく、より好ましくは20at%以上40at%以下である。なお、本発明においては、「at%」を「モル%」と類義の語句として扱うこととする。Ga濃度が低い場合には、Cu中へのGa固溶が起こるため、ひび割れの発生が少ない。Ga濃度が高すぎる場合には、固溶限界を超えるため、金属間化合物が形成され、ひび割れの発生が多くなり、かつ鋳造時に偏析が起こりやすくなる。
【0022】
鋳造装置100は、減圧下での溶解鋳造が可能となるように、チャンバ内に配置されている。鋳造装置100は、坩堝1と鋳型2と貯留槽3とを備える。
【0023】
坩堝1は、Cu−Ga合金の溶湯5を収容するものであり、その収容した溶湯5を出湯するための出湯開口12が設けられている。
【0024】
坩堝1を構成する材料としては、溶解撹拌できるものであれば特に限定はされないが、Cu−Ga合金中への金属汚染源にならないことを考慮すると、セラミックス、黒鉛などが好ましい。
【0025】
坩堝1は、有底円筒状に形成される坩堝本体11を有し、その坩堝本体11の側壁の上端部近傍に、側壁を厚み方向に貫通する出湯開口12が形成されている。また、坩堝本体11の側壁には、前記出湯開口12を取囲むように、前記側壁から外方に突出する漏斗状の出湯案内部13が形成されている。この出湯案内部13は、坩堝本体11内に収容された溶湯5が、多方向に飛散しながら出湯開口12から出湯されないように、出湯開口12から出湯される溶湯5を一方向に案内する。
【0026】
坩堝1の大きさとしては特に限定はされないが、坩堝本体11の高さH1が300mm以上1000mm以下、開口部の開口直径D1が150mm以上500mm以下である。また、本実施形態では、出湯開口12は、開口直径が10mm以上20mm以下の円形状に形成される。
【0027】
鋳型2は、有底筒状に形成され、後述の貯留槽3の排出開口33から排出された溶湯5が流入する注湯開口22が設けられ、該注湯開口22から流入して注湯された溶湯5をスラブの形状に成形する。
【0028】
鋳型2を構成する材料としては、砂、金属、セラミックス、黒鉛(カーボン)などを挙げることができるが、Cu−Ga合金中への金属汚染源にならないことを考慮すると、砂、セラミックス、黒鉛などが好ましく、熱容量および熱伝導率が高く、冷却効率が高いという点で、黒鉛が特に好ましい。
【0029】
鋳型2は、有底筒状に形成される鋳型本体21を有する。この鋳型本体21は、鉛直方向Z上方に開口した中空の直方体であって、長方形平板状の底部と、底部の各辺から底部に対して垂直に立上がる複数(本実施形態では4)の側壁(長方形平板状)とを有する。鋳型2において、注湯開口22は、前記複数の側壁の上端部が連なって長方形状に形成され、鉛直方向Z上方に臨んで開口している。また、鋳型2において、複数の側壁の上端部、すなわち、注湯開口22を形成する開口部の上端部には、図3に示すように、鉛直方向Zの上方から下方に進むにつれて内方側に傾斜して面取りされた面取り部23が形成されている。
【0030】
鋳型2の大きさは、鋳型本体21の内側における鉛直方向Zの長さ、すなわち、鋳型本体21の内側における高さZ1が20mm以上1000mm以下、好ましくは50mm以上900mm以下であり、注湯開口22の短辺に平行な方向(以下、「短辺方向」という)Xの長さ、すなわち、注湯開口22の短辺の長さX1が20mm以上1000mm以下、好ましくは30mm以上150mm以下であり、注湯開口22の長辺に平行な方向(以下、「長辺方向」という)Yの長さ、すなわち、注湯開口22の長辺の長さY1が100mm以上1000mm以下、好ましくは150mm以上800mm以下である。さらに、鋳型本体21において、注湯開口22の短辺の長さX1と、注湯開口22の長辺の長さY1と、鋳型本体21の内側における高さZ1との関係は、Z1>Y1>X1であることが好ましい。
【0031】
鋳型本体21の大きさが小さすぎると、Cu−Ga合金スラブの生産性が低下し、さらにCu−Ga合金の溶湯5の急冷が起こるため、脆性割れの原因ともなりえる。また、鋳型本体21の大きさが大きくなりすぎると、鋳造後のCu−Ga合金スラブの内部に応力がたまって脆性割れの原因となるばかりではなく、Cu−Ga合金の溶湯5の最終凝固位置が中央部となるため内部欠陥発生の原因となる。
【0032】
また、鋳型本体21において、注湯開口22の短辺の長さX1と、注湯開口22の長辺の長さY1との長さ比率は、X1を「1」とした場合、X1:Y1が、1:2〜1:15であることが好ましい。より好ましくは、X1:Y1が、1:3〜1:10である。この「X1:Y1」においてY1の値が小さすぎる場合、Cu−Ga合金の溶湯5の鋳型本体21内における凝固形態が変化し、鉛直方向Zの中央部に応力が溜まるため、脆性割れの原因となり、また応力発生を軽減するため、徐冷を行った場合でも、偏析が起こる原因となりえる。また、「X1:Y1」においてY1の値が大きすぎる場合、鋳造後に得られるCu−Ga合金スラブを持ち上げて加工するなどの際に、長辺方向Yの中央部に多くの力がかかり、その部分で割れが発生する可能性が高くなる。
【0033】
また、鋳型本体21の内容積は、鋳型2を構成する材料の比熱、密度、熱伝導率などの条件から、鋳造時の鋳造温度、鋳型本体21の調整温度などの条件と照らし合わせて、適宜選定すればよい。
【0034】
貯留槽3は、坩堝1と鋳型2との間において、坩堝1の鉛直方向Z下方に配置され、坩堝1の出湯開口12から出湯された溶湯5を貯留する有底筒状の部材である。
【0035】
貯留槽3を構成する材料としては、砂、金属、セラミックス、黒鉛(カーボン)などを挙げることができるが、Cu−Ga合金中への金属汚染源にならないことを考慮すると、砂、セラミックス、黒鉛などが好ましい。
【0036】
貯留槽3は、坩堝1の出湯開口12から出湯された溶湯5が流入する流入開口32と、該流入開口32よりも鉛直方向Z下方に設けられ、流入開口32から流入して貯留される溶湯5を、溢流させて排出可能な排出開口33とが設けられている。
【0037】
具体的には、貯留槽3は、有底筒状に形成される貯留槽本体31を有する。この貯留槽本体31は、鉛直方向Z上方に開口した中空の直方体であって、長方形平板状の底部311と、底部311の各辺から底部311に対して垂直に立上がる複数(本実施形態では4)の側壁312(長方形平板状)とを有する。貯留槽3において、流入開口32は、前記複数の側壁312の上端部が連なって長方形状に形成され、鉛直方向Z上方に臨んで開口している。また、排出開口33は、複数の側壁312のうちの1つの側壁312、具体的には、底部311の長辺から垂直に立上がる1つの側壁312を厚み方向に貫通して形成される。この排出開口33は、底部311の長辺に平行に延びるスリット状(長方形状)に形成される。
【0038】
貯留槽3の大きさは、貯留槽本体31の鉛直方向Zの長さ、すなわち、貯留槽本体31の高さZ2が65mm以上1130mm以下、好ましくは80mm以上200mm以下であり、流入開口32の短辺に平行な方向Xの長さ、すなわち、流入開口32の短辺の長さX2が50mm以上1000mm以下、好ましくは100mm以上200mm以下であり、流入開口32の長辺に平行な方向Yの長さ、すなわち、流入開口32の長辺の長さY2が100mm以上1000mm以下、好ましくは150mm以上800mm以下である。さらに、貯留槽本体31において、排出開口33は、底部311から排出開口33を形成する開口部の鉛直方向Z下端部までの距離Z4が、30mm以上100mm以下、好ましくは40mm以上60mm以下の高さ位置に形成される。また、排出開口33の長辺に平行な方向Yの長さ、すなわち、排出開口33の長辺の長さY3が10mm以上1000mm以下、好ましくは15mm以上800mm以下であり、排出開口33の鉛直方向Zの長さ、すなわち、排出開口33の短辺の長さZ3が0mmを超えて100mm以下、好ましくは5mm以上50mm以下である。
【0039】
貯留槽3において、底部311から排出開口33を形成する開口部の鉛直方向Z下端部までの距離Z4が大きくなりすぎ、かつ、流入開口32の短辺の長さX2および長辺の長さY2が大きくなりすぎると、排出開口33から溢流して排出されずに貯留槽3に貯留される溶湯5の量が多くなりすぎるので、Cu−Ga合金スラブの生産効率が低下するおそれがある。
【0040】
また、貯留槽3において、底部311から排出開口33を形成する開口部の鉛直方向Z下端部までの距離Z4が小さくなりすぎ、かつ、流入開口32の短辺の長さX2および長辺の長さY2が小さくなりすぎると、坩堝1の出湯開口12から出湯された溶湯5を、貯留槽3を介して鋳型2に注湯するときの、溶湯5の運動エネルギーの低減効果が低下するおそれがある。
【0041】
更に貯留槽3は、注湯前に加熱しても構わない。加熱温度は50℃以上1000℃以下が好ましく、100℃以上600℃以下が更に好ましい。加熱温度が高すぎる場合、加熱に要するエネルギーの使用により製造コストの増加につながる。また加熱温度が低すぎる場合には、溶湯5の温度低下に伴い溶湯5の粘度が上昇し、鋳型2内における溶湯5の湯周り不足の原因となりえる。さらには貯留槽3中で溶湯5の凝固が起こり、溶湯5を鋳型2へ注湯できないおそれがある。
【0042】
貯留槽3の加熱方法としては、貯留槽3を昇温できれば特に限定されるものではないが、電磁誘導、ヒーター、赤外線などで貯留槽3を加熱する方法が挙げられる。その中でも使用方法が簡易であり、微細な温度調整も可能であるヒーターが好ましい。
【0043】
鋳造装置100を用いてCu−Ga合金スラブを溶解鋳造により作製する場合には、坩堝1に収容されたCu−Ga合金の溶湯5が、出湯開口12から出湯されて、流入開口32を介して貯留槽3に一時的に貯留される。このようにして貯留槽3に貯留された溶湯5は、その湯面51が排出開口33を形成する開口部の下面33aよりも上方に超えると、排出開口33から溢流し、貯留槽3から排出されることになる。貯留槽3の排出開口33から溢流して排出された溶湯5は、注湯開口22を介して鋳型2に注湯される。
【0044】
また、図3に示すように、貯留槽3は、排出開口33が形成される側壁312の外面が、鋳型2の内面(鋳型本体21の内面)の上方に連なる位置に配置される。
【0045】
このような貯留槽3を備える鋳造装置100において、貯留槽3に貯留された溶湯5は、その湯面51が排出開口33を形成する開口部の下面33aよりも上方に超えると、排出開口33から溢流し、排出開口33が形成される側壁312の外面に沿って流過し、さらに、前記側壁312の外面に連なる鋳型2の内面に沿って面取り部23を介して流過して、鋳型2に注湯される。これによって、鋳型2内に注湯されるときの溶湯5の対流を抑制することができるので、鋳型2内において溶湯5を一様に凝固させることができ、そのため、大型のCu−Ga合金スラブを、ひび割れ発生を充分に抑制して製造することができる。
【0046】
次に、鋳造装置100を用いて実施されるCu−Ga合金スラブの製造方法について説明する。
【0047】
鋳造装置100を用いてCu−Ga合金スラブを製造する場合、まず、仕込み工程において、坩堝1内に銅(Cu)およびガリウム(Ga)の必要量を仕込む。その後、坩堝1が投入されたチャンバ内を10−1Torr以下まで減圧する。
【0048】
次に、溶湯作製工程では、チャンバ内が10−1Torr以下まで減圧されたことを確認後、昇温速度5〜20℃/分、好ましくは7〜18℃/分で800℃から1100℃に昇温する。昇温速度が速すぎる場合、突沸が起こる可能性があり、昇温速度が遅すぎる場合、生産性が下がる。昇温後の保持温度(鋳造温度)は、合金組成の融点、鋳型2の材料、体積、比熱、密度などによって変化する。例えば、合金組成の融点が850℃である場合には、昇温後の保持温度(鋳造温度)は、900℃以上1000℃以下が好ましく、920℃以上980℃以下がより好ましい。昇温後の保持温度が高すぎる場合、電力消費等が増加するので、製品コストの増加につながる。昇温後の保持温度が低すぎる場合、注湯時に溶湯5が出湯開口12で固まり、出湯開口12が詰まるおそれがある。なお、大気中で昇温した場合、原料の酸化などの問題が起こり、歩留まりの低下につながる。
【0049】
その後、昇温後の温度(鋳造温度)で30分間〜12時間、好ましくは1時間〜5時間保持し、CuとGaの混合物を溶湯5(合金液体)にする。保持時間が短すぎる場合、合金が完全に混ざり合わない、または溶湯5中に残存する気体が除ききらず、後のさらに高真空化する工程で、突沸が起こる原因となり得る。保持時間が長すぎる場合、やはり生産性の低下を招き好ましくない。
【0050】
さらにその後、8×10−4Torr以下、好ましくは5×10−4Torrまで減圧し、30分間以上12時間以下、好ましくは1時間以上5時間以下保持する。鋳造時のチャンバ内圧力が高い場合、鋳造後のCu−Ga合金スラブ内への気体の巻き込みが起こり、内部欠陥の原因となる。また低すぎる場合には、ポンプ性能をあげる必要性があり、製造機器の高コスト化につながる。さらに昇温前に減圧しすぎると、突沸の原因となるため、避けたほうがよい。保持時間が短い場合、溶湯5中に存在する気体が除ききれず、内部欠陥の原因となる。逆に長すぎる場合には、やはり生産性の低下を招き好ましくない。
【0051】
以上のような溶湯作製工程を経て、坩堝1内においてCu−Ga合金の溶湯5を得る。次に、注湯工程では、坩堝1を傾けることで、坩堝1内の溶湯を、所定の注湯量となるように鋳型2に注湯する。具体的には、まず、坩堝1内の溶湯5を、出湯開口12から出湯させる。出湯開口12から出湯された溶湯5は、流入開口32を介して貯留槽3に一時的に貯留される。このようにして貯留槽3に貯留された溶湯5は、その湯面51が排出開口33を形成する開口部の下面33aよりも上方に超えると、排出開口33から溢流し、貯留槽3から排出される。そして、貯留槽3の排出開口33から溢流して排出された溶湯5は、注湯開口22を介して鋳型2に注湯される。
【0052】
本実施形態のCu−Ga合金スラブの製造方法では、下記式(1)で算出されるスラブ熱量Qと、下記式(2)で算出される鋳型熱量Qとが、Q/Q≦4.7を満たすように、前記溶湯作製工程における鋳造温度と、前記注湯工程における注湯量、鋳型重量とが調整される。
【0053】
スラブ熱量Q[J]=
Cu−Ga合金の比熱[J/g・K]×注湯量[g]×鋳造温度[K]…(1)
鋳型熱量Q[J]=
鋳型の比熱[J/g・K]×鋳型の重量[g]×鋳型温度[K] …(2)
[式中、鋳型温度は、溶湯が注湯される直前の鋳型の温度である。]
【0054】
Cu−Ga合金の比熱は、合金の組成比によって変化するが、たとえば、Cu−Ga合金中のGaの組成比が30at%である場合、比熱は0.570(J/g・K)となる。また、鋳型2の比熱は、材質によって異なるが、たとえば、黒鉛(カーボン)からなる鋳型2の場合、比熱は0.721(J/g・K)となる。
【0055】
Cu−Ga合金スラブの製造方法において、溶湯の鋳型2に対する注湯量と鋳造温度とが、スラブ熱量Qと鋳型熱量Qとに基づいて、Q/Q≦4.7を満たすように調整されるので、鋳型2内において溶湯を一様に凝固させることができ、そのため、大型のCu−Ga合金スラブを、ひび割れ発生を充分に抑制して製造することができる。
【0056】
また、スラブ熱量Qと鋳型熱量Qとに基づくQ/Qは、3.0≦Q/Q≦4.7であることが好ましい。Q/Qが3.0以上であることによって、急冷による割れを防ぐという効果が発揮され、かつ鋳型サイズと重量が小さくなるため、Cu−Ga合金スラブの製造時の取り扱いが容易になる。
【0057】
なお、鋳型2および貯留槽3を複数個並べて、一度に鋳造することも可能である。次に、成形工程では、鋳型2内で鋳造されたCu−Ga合金を室温まで自然冷却した後、鋳型2からCu−Ga合金を取出す。
【0058】
次に、熱処理工程では、鋳型2から取出したCu−Ga合金を大気圧下または真空下(好ましくは大気圧下)で加熱処理を行う。加熱処理時の温度としては、450℃以上700℃未満、より好ましくは500℃以上600℃以下である。Cu−Ga合金に加熱処理を施すことによって、鋳型2内において溶湯5が凝固されて得られたCu−Ga合金において、Cu中にGaが偏析するのを抑制した上で、Cu−Ga合金の内部に発生した応力を解放することができる。加熱処理時の温度が低すぎる場合、凝固時に発生した応力を解放できず、高すぎる場合は偏析が起こる。加熱処理の時間は、1時間以上12時間以下が好ましく、より好ましくは2時間以上8時間以下である。加熱処理の時間が短すぎる場合、Cu−Ga合金の内部応力の解放ができず、長すぎる場合生産性の低下につながる。
【0059】
以上のようにして、Cu−Ga合金からなるCu−Ga合金スラブを得ることができる。得られたCu−Ga合金スラブは、スパッタリングターゲットを作製するときのスラブとして、好適に用いることができる。
【0060】
Cu−Ga合金スラブをスパッタリングターゲットへと加工する方法としては、ワイヤー放電加工、放電加工、レーザー加工、研削機によるダイヤモンド切断加工、ダイヤモンドバンドソーを用いた切断加工、切削加工、ウォータージェット加工、ワイヤーソー、ブレードソーなど一般的な方法を採用することができる。これらの加工方法の中でも、Cu−Ga合金が硬脆材であることを考慮すると、ワイヤー放電加工、放電加工、レーザー加工、ワイヤーソー、ダイヤモンドバンドソー、ウォータージェット加工などが好ましく、ワイヤー放電加工、ダイヤモンドバンドソー、ワイヤーソーがより好ましい。
【0061】
Cu−Ga合金スラブを、ワイヤー放電加工にてスパッタリングターゲットへと加工する場合、0.1mm以上0.4mm以下のワイヤー線を用いることが好ましく、より好ましくは0.2mm以上0.4mm以下のワイヤー線を使用する。また、ワイヤー放電加工における切断速度(加工速度)は、0.1mm/分以上8mm/分以下が好ましく、より好ましくは0.1mm/分以上3mm/分以下である。ワイヤー線の太さは、細すぎるとワイヤー線が加工中に切れる原因になり、また加工速度においては、遅すぎると生産性の低下につながり、早すぎると割れる原因になる。
【0062】
本実施形態の鋳造装置100を用いて製造することで、ひび割れ発生および内部欠陥の発生が抑制されたCu−Ga合金スラブを用いて作製されるスパッタリングターゲットは、例えば、薄膜型太陽電池を構成する光吸収層の薄膜形成用のスパッタリングターゲットとして好適に用いることができる。
【0063】
(実施例)
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、実施例は本発明の一実施態様であり、本発明を限定するものではない。
【0064】
(実施例1)
<鋳造装置>
鋳造装置として、図1に示した、貯留槽を備える鋳造装置を用いた。
【0065】
[坩堝]
・材質:高純度黒鉛(カーボン)
・出湯開口の開口直径:15mm
【0066】
[鋳型]
・材質:高純度黒鉛(カーボン)
・比熱:0.721(J/g・K)
・鋳型重量:57.01kg
・溶湯が注湯される直前の鋳型温度:39.0℃
・鋳型熱量Q:12.8×10
・鋳型本体の内側における高さZ1:650mm
・注湯開口の短辺の長さX1:70mm
・注湯開口の長辺の長さY1:350mm
【0067】
[貯留槽]
・材質:高純度黒鉛(カーボン)
・溶湯が注湯される直前の貯留槽温度:200℃
・貯留槽本体の高さZ2:120mm
・流入開口の短辺の長さX2:128mm
・流入開口の長辺の長さY2:251mm
・底部から排出開口を形成する開口部の下端部までの距離Z4:45mm
・排出開口の長辺の長さY3:200mm
・排出開口の短辺の長さZ3:30mm
【0068】
<Cu−Ga合金スラブの製造>
坩堝内に銅(Cu)68000g、ガリウム(Ga)32000gを仕込み、坩堝が投入されたチャンバ内を1×10−1Torr台まで減圧した後、980℃(鋳造温度)で1時間保持し、その後、2×10−4Torr台まで減圧して2時間保持して、Cu−Ga合金の溶湯を得た。
【0069】
次に、坩堝内の溶湯を、出湯開口から出湯させる。出湯開口から出湯された溶湯は、流入開口を介して貯留槽に一時的に貯留される。このようにして貯留槽に貯留された溶湯は、その湯面が排出開口を形成する開口部の下面よりも上方に超えると、排出開口から溢流し、排出開口が形成される側壁の外面に沿って流過し、さらに、前記側壁の外面に連なる鋳型の内面に沿って面取り部を介して流過して、鋳型に注湯される。このとき、注湯開口から流入して鋳型に注湯される注湯量は、83.52kgであり、残りは貯留槽への残留と呼び鋳型への注湯で消費した。Cu−Ga合金の比熱が0.570(J/g・K)であるので、上記式(1)より、スラブ熱量Qは59.7×10Jである。したがって、鋳型熱量Qが12.8×10Jであるので、Q/Q=4.66であった。
【0070】
次に、鋳型内で鋳造されたCu−Ga合金を室温まで自然冷却した後、鋳型からCu−Ga合金を取出して、熱風循環炉を用い、570℃で2時間の熱処理を行い、340mm×428mm×69mm(t)の直方体形状のCu−Ga合金スラブを得た。
【0071】
(実施例2)
鋳型として、溶湯が注湯される直前の鋳型温度が46.4℃、鋳型重量が57.01kg、鋳型熱量Qが13.1×10Jである鋳型を用い、鋳造温度を940℃、鋳型に注湯される溶湯の注湯量を83.12kgとしてスラブ熱量Qが57.5×10Jであること以外は、実施例1と同様にして340mm×427mm×69mm(t)の直方体形状のCu−Ga合金スラブを得た。なお、実施例2において、Q/Q=4.39であった。
【0072】
(実施例3)
[鋳型]
・材質:高純度黒鉛(カーボン)
・比熱:0.721(J/g・K)
・鋳型重量:29.12kg
・溶湯が注湯される直前の鋳型温度:48.1℃
・鋳型熱量Q:6.74×10
・鋳型本体の内側における高さZ1:650mm
・注湯開口の短辺の長さX1:50mm
・注湯開口の長辺の長さY1:250mm
【0073】
鋳型として上記鋳型を用い、鋳造温度を950℃、鋳型に注湯される溶湯の注湯量を40.62kgとしてスラブ熱量Qが28.3×10Jであること以外は、実施例1と同様にして245mm×417mm×50mm(t)の直方体形状のCu−Ga合金スラブを得た。なお、実施例3において、Q/Q=4.20であった。
【0074】
(比較例1)
鋳型として、溶湯が注湯される直前の鋳造温度が40.4℃、鋳型重量が57.01kg、鋳型熱量Qが12.9×10Jである鋳型を用い、鋳造温度を960℃、鋳型に注湯される溶湯の注湯量を88.08kgとしてスラブ熱量Qが61.9×10Jであること以外は、実施例1と同様にして340mm×424mm×69mm(t)の直方体形状のCu−Ga合金スラブを得た。なお、比較例1において、Q/Q=4.80であった。
【0075】
(比較例2)
鋳型として、溶湯が注湯される直前の鋳型温度が42.3℃、鋳型重量が57.01kg、鋳型熱量Qが13.0×10Jである鋳型を用い、鋳造温度を940℃、鋳型に注湯される溶湯の注湯量を90.68kgとしてスラブ熱量Qが62.7×10Jであること以外は、実施例1と同様にして340mm×424mm×69mm(t)の直方体形状のCu−Ga合金スラブを得た。なお、比較例2において、Q/Q=4.82であった。
【0076】
(比較例3)
鋳型として実施例3と同様のサイズの鋳型を用い、溶湯が注湯される直前の鋳型温度が38.9℃、鋳型重量が29.12kg、鋳型熱量Qが6.55×10Jである鋳型を用い、鋳造温度を1040℃、鋳型に注湯される溶湯の注湯量を51.34kgとしてスラブ熱量Qが38.4×10Jであること以外は、実施例1と同様にして245mm×523mm×50mmtの直方体形状のCu−Ga合金スラブを得た。なお、比較例3において、Q/Q=5.86であった。
【0077】
実施例1〜3および比較例1〜3で得られたCu−Ga合金スラブについて、以下の評価を行った。
【0078】
<ひび割れの評価>
実施例1〜3および比較例1〜3で得られたCu−Ga合金スラブを、平面研削盤にダイヤモンド砥粒を電着した外周刃ブレードを装着し、240mm×400mmの大きさへ切断し、切断後のスラブをワイヤー放電加工機(0.3mmのワイヤー線)を用いて、加工速度0.7mm/minで、250mm×400mm×10mm(t)のスライス板に加工した。
【0079】
得られたスライス板を、染色浸透探傷剤(株式会社タセト製)に浸漬した。この染色浸透探傷剤は、深さ30μm以上、幅1μm以上の欠陥を染色することができる。染色浸透探傷剤に浸漬した後のスライス板について、染色状態を目視にて確認し、ひび割れが発生しているか否かを評価した。評価結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
実施例1〜3では、ひび割れの発生がなかった。このように、実施例1〜3においてひび割れの発生を抑制できたのは、スラブ熱量Qと鋳型熱量Qとに基づくQ/Qが4.7以下に設定されることによって、鋳型内において溶湯を一様に凝固させることができたためである。
【符号の説明】
【0082】
1 坩堝
2 鋳型
3 貯留槽
11 坩堝本体
12 出湯開口
13 出湯案内部
21 鋳型本体
22 注湯開口
31 貯留槽本体
32 流入開口
33 排出開口
100 鋳造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu−Ga合金からなるCu−Ga合金スラブを溶解鋳造により製造する方法であって、
坩堝内に銅(Cu)およびガリウム(Ga)を仕込む仕込み工程と、
減圧下、所定の鋳造温度に坩堝を加熱して、坩堝内においてCu−Ga合金の溶湯を得る溶湯作製工程と、
坩堝内の溶湯を、所定の注湯量となるように鋳型に注湯する注湯工程と、
鋳型に注湯された溶湯を、鋳型内において室温まで冷却して凝固させてスラブの形状に成形する成形工程と、を含み、
下記式(1)で算出されるスラブ熱量Qと、下記式(2)で算出される鋳型熱量Qとが、Q/Q≦4.7を満たすように、前記溶湯作製工程における鋳造温度と、前記注湯工程における注湯量とが調整されることを特徴とするCu−Ga合金スラブの製造方法。
スラブ熱量Q[J]=
Cu−Ga合金の比熱[J/g・K]×注湯量[g]×鋳造温度[K] …(1)
鋳型熱量Q[J]=
鋳型の比熱[J/g・K]×鋳型の重量[g]×鋳型温度[K] …(2)
[式中、鋳型温度は、溶湯が注湯される直前の鋳型の温度である。]
【請求項2】
前記成形工程においてスラブの形状に成形された成形物を鋳型から取出し、該成形物を450℃以上700℃未満で1時間以上12時間以下加熱する熱処理工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のCu−Ga合金スラブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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