説明

DANCEタンパク質溶液

【課題】安定性に優れるDANCEタンパク質溶液、DANCEタンパク質(fibulin−5)溶液の安定化方法を提供する。
【解決手段】ゼラチン、アルブミン及びヒドロキシエチルスターチ及び血清からなる群から選択される1種以上の化合物及びDANCEタンパク質を含む、DANCEタンパク質溶液である。DANCEタンパク質溶液は、安定性が良好で、ある一定時間経過後においても、DANCEタンパク質の活性を維持することができ、また、凍結融解を繰り返してもDANCEタンパク質の活性を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定性に優れるDANCEタンパク質溶液に関する。また、本発明はDANCEタンパク質溶液の安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの生体組織の中でも肺や血管、皮膚等の組織は、弾性、伸縮性に富んだ組織であるが、加齢とともに血管が硬くなる、あるいは皮膚がたるむといった生体組織の弾性が失われていく加齢現象が生じる。これは、生体組織に存在する弾性線維という、ゴムのような柔軟性と弾力を有する線維組織が劣化してしまうためであると考えられている。この弾性線維は、劣化・分解しても再生されることはないとされており、このような弾性線維の再生についての研究が数多くなされている。
【0003】
近年、弾性線維の形成能を有する細胞の無血清培養において、DANCE(developmental arteries and neural crest epidermal growth factor(EGF)−like;fibulin−5ともいう)という分泌蛋白質を加えることにより効率よく弾性線維を再生できることが見出された(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、このDANCEタンパク質を溶液にすると、経時的に活性が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/082763パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、安定性に優れるDANCEタンパク質溶液を提供することを目的とする。また、DANCEタンパク質溶液の安定化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、特定の物質が存在することでDANCEタンパク質溶液の安定性が優れることを見いだした。かかる知見に基づき、さらに研究を重ねて本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は下記のDANCEタンパク質溶液及びDANCEタンパク質溶液の安定化方法を提供する。
項1.ゼラチン、アルブミン及びヒドロキシエチルスターチからなる群から選択される1種以上の化合物及びDANCEタンパク質を含む、DANCEタンパク質溶液。
項2.ゼラチンが、アルカリ処理ゼラチンである上記項1に記載のDANCEタンパク質溶液。
項3.DANCEタンパク質溶液のpHが、5〜14である上記項1又は2に記載のDANCEタンパク質溶液。
項4.DANCEタンパク質を含む溶液に、ゼラチン、アルブミン及びヒドロキシエチルスターチからなる群から選択される1種以上の化合物を添加することを特徴とする、DANCEタンパク質溶液の安定化方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のDANCEタンパク質溶液は、安定性が良好で、ある一定時間経過後においても、DANCEタンパク質の活性を維持することができる。また、凍結融解を繰り返してもDANCEタンパク質の活性を維持することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.DANCEタンパク質溶液
「DANCEタンパク質」とは、fibulin−5とも呼ばれる分泌蛋白質であり、弾性線維を構成する分子であることが知られている。
【0011】
本発明で用いるDANCEタンパク質は、ヒト由来のヒトDANCEタンパク質、又は、そのオルソログ、あるいはそれらの変異体(SNP、ハプロタイプを含む)を含む。
【0012】
DANCEタンパク質のオルソログは特に限定されず、例えば任意の動物、好ましくは哺乳動物に由来するものであり得る。哺乳動物としては、例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、サル、ウサギ、ラット、ハムスター、モルモット、マウス等が挙げられる。
【0013】
DANCEタンパク質については、例えば、国際公開第2006/082763パンフレット等に記載されている。
【0014】
本発明のDANCEタンパク質溶液におけるDANCEタンパク質濃度は、特に限定されるものではなく、所望の濃度にすることができるが、例えば、1〜10μg/mL程度であることが好ましく、9〜10μg/mL程度であることがより好ましい。DANCEタンパク質濃度が前記範囲内にあることで、希釈しすぎることによって生じるDANCEタンパク質の変性や、活性再現性の低下を防ぐことができるため好ましい。
【0015】
本発明のDANCEタンパク質溶液は、DANCEタンパク質以外に、ゼラチン、アルブミン及びヒドロキシエチルスターチからなる群から選択される1種以上の化合物を含むものである。
【0016】
ゼラチンは、酸性、塩基性両アミノ酸を含む両性電解質であり、等電点4〜6程度のアルカリ処理ゼラチンであることが、DANCEタンパク質溶液の安定性の点から好ましい。より好ましいゼラチンの等電点は、5〜6程度である。
【0017】
このようなアルカリ処理ゼラチンとしては、市販のものを好適に用いることができ、例えば、ゼラチン粉末(♯250、新田ゼラチン(株)製、等電点:5)、ニワトリゼラチン(ニッポンハム(株)製)等を挙げることができる。
【0018】
本発明のDANCEタンパク質溶液のpHは特に限定はされないが、5〜14の弱酸性〜アルカリ性であることが好ましく、6〜11がより好ましい。pHがこの範囲にあることで、DANCEタンパク質溶液の安定性に優れるため好ましい。
【0019】
アルブミンは、卵白アルブミン、乳中のラクトアルブミン、血清アルブミン等を挙げることができるが、これらの中でも、血清アルブミンが好ましい。
【0020】
また、ゼラチン、アルブミン等のタンパク質の由来は特に限定されるものではなく、牛、豚、魚、植物および遺伝子組み換え体のいずれも用いることができる。
【0021】
ゼラチン、アルブミン及びヒドロキシエチルスターチからなる群から選択される1種以上の化合物の濃度としては特に限定されるものではないが、例えば、0.05〜10重量%程度であることが好ましく、0.1〜5重量%程度であることがより好ましい。
【0022】
また、本発明のDANCEタンパク質溶液に用いる溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、水(蒸留水)、PBS、Carmody緩衝液、Tris緩衝液等を挙げることができる。これらの中でも、不純物が混入していない点から水(蒸留水)が好ましい。
【0023】
2.DANCEタンパク質溶液の製造方法
本発明のDANCEタンパク質溶液の製造方法は特に限定されるものではなく、DANCEタンパク質、ゼラチン、アルブミン及びヒドロキシエチルスターチからなる群から選択される1種以上の化合物、及び溶媒を所定量混合することで製造することができる。
【0024】
本発明のDANCEタンパク質溶液を作製するにあたり、DANCEタンパク質を粉末のまま用いてもよいが、一旦溶媒等に溶かしてDANCEタンパク質を溶液とした後、本発明のDANCEタンパク質溶液とすることができる。
【0025】
その際に用いる溶媒としては、特に限定されるものではなく、例えば、水(蒸留水)、PBS、Carmody緩衝液、Tris緩衝液等を挙げることができる。これらの中でも、不純物が混入していない点から水(蒸留水)が好ましい。
【0026】
その場合の濃度は、特に限定されるものではないが、1〜30μg/mL程度が好ましく、1〜20μg/mL程度が好ましい。濃度をこの範囲にすることで、DANCEタンパク質の活性を低下させることなく本発明のDANCEタンパク質溶液とするための希釈をすることができるため好ましい。
【0027】
3.DANCEタンパク質溶液の安定化方法
本発明は、DANCEタンパク質溶液の安定化方法に関する。
【0028】
本発明の安定化方法は、DANCEタンパク質を含む溶液に、ゼラチン、アルブミン及びヒドロキシエチルスターチからなる群から選択される1種以上の化合物を添加するという極めて簡単な方法により、DANCEタンパク質溶液を安定に保存することができるものである。
【0029】
DANCEタンパク質や、ゼラチン、アルブミン及びヒドロキシエチルスターチからなる群から選択される1種以上の化合物、又は溶媒等の種類や添加量等については、前述の通りである。
【実施例】
【0030】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
製造例1(DANCE水溶液の調整方法)
凍結乾燥されたDANCEタンパク質(ヒト由来)の粉末4μgを蒸留水で溶解し、10μg/mLのDANCEタンパク質の水溶液Aを作製した。
【0032】
実施例1
等電点が5(pI5)のゼラチン粉末(♯250、新田ゼラチン(株)製)を蒸留水で溶解して、0.3重量%ゼラチン水溶液(pH7)を作製した。
【0033】
前記pI5ゼラチン水溶液(pH7)3mL中に、製造例1で調整したDANCEタンパク質の水溶液A30μLを添加し、37℃のインキュベーターで静置した。
【0034】
実施例2
アルブミン(商品名:アルブミン牛血清製、コーンフラクションV、pH7.0、和光純薬工業(株)製)を蒸留水で溶解して、0.3重量%アルブミン水溶液を作製した。
【0035】
pI5ゼラチン水溶液(pH7)に代えて、前記アルブミン水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてDACNEタンパク質溶液を作製した。
【0036】
実施例3
ヒドロキシエチルスターチ(SIGMA製)の粉末を蒸留水に溶解して、0.3重量%ヒドロキシエチルスターチ水溶液を作製した。
【0037】
pI5ゼラチン水溶液(pH7)に代えて、前記ヒドロキシエチルスターチ水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてDACNEタンパク質溶液を作製した。
【0038】
実施例4
等電点が5(pI5)のゼラチン粉末(♯250、新田ゼラチン(株)製)を蒸留水で溶解して、0.3重量%ゼラチン水溶液(pH7)を作製した。
【0039】
前記pI5ゼラチン水溶液(pH7)1mL中に、製造例1で調製したDANCEタンパク質の水溶液A 10μLを添加した。この溶液を−20℃で0.5時間凍結し、その後37℃で融解させ、この操作を10回繰り返した。
【0040】
比較例1
0.3重量%コラーゲン水溶液(Cellmatrix TypeI−P、新田ゼラチン(株)製)を用いた以外は、実施例1と同様にしてDACNEタンパク質溶液を作製した。
【0041】
比較例2
0.3重量%コラーゲン水溶液(Cellmatrix TypeI−P、新田ゼラチン(株)製)を蒸留水で希釈し、0.03重量%コラーゲン水溶液を作製した。
【0042】
pI5ゼラチン水溶液(pH7)に代えて、0.03重量%コラーゲン水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてDACNEタンパク質溶液を作製した。
【0043】
比較例3
デキストラン200,000(和光純薬工業(株)製:平均分子量180,000〜210,000)の粉末を蒸留水に溶解して、0.3重量%デキストラン水溶液を作製した。
【0044】
pI5ゼラチン水溶液(pH7)に代えて、0.3重量%デキストラン水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてDACNEタンパク質溶液を作製した。
【0045】
比較例4
鶏冠由来ヒアルロン酸ナトリウム(和光純薬工業(株)製)を蒸留水に溶解して、0.3重量%ヒアルロン酸ナトリウム水溶液を作製した。
【0046】
pI5ゼラチン水溶液(pH7)に代えて、0.3重量%ヒアルロン酸ナトリウム水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてDACNEタンパク質溶液を作製した。
【0047】
比較例5
ヘパリン(和光純薬工業(株)製:100,000units)の粉末を蒸留水に溶解して、0.3重量%ヘパリン水溶液を作製した。
【0048】
pI5ゼラチン水溶液(pH7)に代えて、0.3重量%ヘパリン水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてDACNEタンパク質溶液を作製した。
【0049】
比較例6
コンドロイチン硫酸Cナトリウム(和光純薬工業(株)製)の粉末を蒸留水に溶解して、0.3重量%コンドロイチン硫酸Cナトリウム水溶液を作製した。
【0050】
pI5ゼラチン水溶液(pH7)に代えて、0.3重量%コンドロイチン硫酸Cナトリウム水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてDACNEタンパク質溶液を作製した。
【0051】
比較例7〜9
pI5ゼラチン水溶液(pH7)に代えて、蒸留水、リン酸緩衝食塩水(PBS(−))、血清を用いた以外は、実施例1と同様にしてDACNEタンパク質溶液を作製した。
【0052】
比較例10
pI5ゼラチン水溶液(pH7)に代えて、リン酸緩衝食塩水(PBS(−))を用いた以外は、実施例1と同様にしてDACNEタンパク質溶液を作製し、実施例4と同様に凍結、融解させた。また、実施例4と同様にこの操作を10回繰り返した。
【0053】
試験方法
実施例1〜3、比較例1〜9で得られたDANCEタンパク質溶液について、DANCEタンパク質添加0時間、1日、3日、7日後に溶液を500μLずつ採取し、下記方法によりDANCEタンパク質濃度を測定した。
【0054】
また、参考実験として、上記実施例、比較例で用いた各種溶液について、DANCEタンパク質なしのブランク試料についても、同様の測定をした。
【0055】
実施例4および比較例10で得られたDANCEタンパク質溶液について、溶液を500μLずつ採取し、下記方法によりDANCEタンパク質濃度を測定した。
(測定方法)
抗体は、マウス抗DANCEタンパク質IgGを用いた。測定キット(製造元:エヌビィ健康研究所)を用い、実施例1〜4、比較例1〜10のDANCEタンパク質溶液のDANCEタンパク質濃度をELISA法により測定した。
(測定結果1)
実施例1〜3および比較例1〜9の測定結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
(測定結果2)
実施例4で得られた溶液中のDANCEタンパク質の濃度は、凍結と融解を1回ずつ行った場合には22.4ng/ml、10回繰り返した場合には16.7ng/mlであった。これに対して比較例10で得られた溶液中のDANCEタンパク質の濃度は、凍結と融解を1回ずつ行った場合には2.6ng/ml、10回繰り返した場合には0.0ng/mlであった。
【0058】
実施例1〜3より、本発明のDANCEタンパク質溶液は、DANCE添加後7日を経過しても、充分なDANCEタンパク質濃度を有しており、DANCEタンパク質溶液の安定性が非常に高いことがわかる。
【0059】
一方、比較例1〜8では、いずれもDANCEタンパク質濃度が10ng/mL以下にまで減少しており、DANCEタンパク質の活性が経時的に低下していることがわかる。
【0060】
また、比較例9の血清については、そのブランク試験結果からも明らかなように、もともと血清中にDANCEタンパク質が存在するため、このような結果になったと考えられる。
【0061】
実施例4と比較例10から、ゼラチン溶液中にDANCEタンパク質を保持することによって、凍結、融解の繰り返しに対しても安定的に保存できることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチン、アルブミン、ヒドロキシエチルスターチ及び血清からなる群から選択される1種以上の化合物及びDANCEタンパク質を含む、DANCEタンパク質溶液。
【請求項2】
ゼラチンが、アルカリ処理ゼラチンである請求項1に記載のDANCEタンパク質溶液。
【請求項3】
DANCEタンパク質溶液のpHが、5〜14である請求項1又は2に記載のDANCEタンパク質溶液。
【請求項4】
DANCEタンパク質を含む溶液に、ゼラチン、アルブミン、ヒドロキシエチルスターチ及び血清からなる群から選択される1種以上の化合物を添加することを特徴とする、DANCEタンパク質溶液の安定化方法。

【公開番号】特開2011−195475(P2011−195475A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61468(P2010−61468)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 第9回日本再生医療学会総会 刊行物名 日本再生医療学会雑誌 再生医療 2010 Vol.9 増刊号 発行年月日 2010年2月5日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18−21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「三次元複合臓器構造体研究開発/体表臓器の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(500409219)学校法人関西医科大学 (36)
【Fターム(参考)】