説明

DBSリードの初回の正しい配置

本開示は、患者の脳の刺激標的領域内の組織に治療電気刺激を与える遠位端を持つ脳深度刺激(DBS)リードを対象とし、前記リードは、前記リードの遠位端に配置された1以上の刺激素子及び感知素子のアレイを有し、前記1以上の刺激素子の各々が、前記標的領域内の脳組織に電気刺激を与えることができ、前記1以上の感知素子の各々が、脳内の神経細胞により生成された電気信号を検出することができ、非外科的処置により事前に決定された軌道に沿った脳内への前記リードの第1の移植後に、前記刺激素子及び前記感知素子のアレイが、前記第1の移植後に前記リードの追加の移植を要求することなく、前記標的領域の位置特定及び前記刺激素子の各々に対する前記刺激標的領域内の脳組織に前記治療刺激を与えるのに必要とされる所要の刺激パラメータの決定を容易化することができる。前記DBSリード及びパルス生成器を含む刺激システムが開示される。また、前記リードを使用して脳組織に治療DBSを与える方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、患者の脳の刺激標的領域内の組織に治療電気刺激を与える遠位端を持つ脳深部刺激(DBS)リードを対象とし、前記リードは、前記リードの前記遠位端に配置された1以上の刺激素子及び感知素子のアレイを有し、前記1以上の刺激素子の各々は、前記標的領域内の脳組織に電気刺激を与えることができ、前記1以上の感知素子の各々は、前記脳内の神経細胞により生成される電気信号を検出することができ、非外科的処置により事前に決定された軌道に沿った脳内への前記リードの第1の移植後に、前記刺激素子及び感知素子のアレイは、前記第1の移植後に前記リードの追加の移植を必要とすることなく、前記標的領域の位置特定と、前記刺激素子の各々に対する、刺激標的領域内の脳組織に治療刺激を与えることを必要とされる所要の刺激パラメータの決定とを容易化することができる。前記DBSリードを含む刺激システム及びパルス生成器が開示されている。また、前記リードを使用して脳組織に治療DBSを与える方法も開示されている。
【背景技術】
【0002】
成功する脳深度刺激治療は、前記刺激標的領域内での前記刺激電極の正確な配置を要求する。現在の最良の慣例は、慢性刺激電極の移植の前に、外科的処置中の多量の時間は、前記標的領域のマイクロ電極を用いた電気生理学的調査に費やされる。この長い処置は、外科手術を何時間も延ばし、刺激に対する前記標的領域の同じ又はより良い電気生理学的マッピングを可能にする解決法は大いに望まれている。
【0003】
1980年代後半の視床標的の電気刺激直後の振戦の消滅の最初の証明に続いて、脳深部刺激(DBS)は、進行したパーキンソン病の治療に対する認められた技術になった。複数の電極(典型的には、例えばメドトロニックDBS電極3389に見られるような、4つの周囲電極)を持っているリードは、前記刺激標的、例えば視床下核(STN)又は淡蒼球内節(GPi)に外科的に移植される。このリードは、刺激に要求される電気パルスを生成するパルス生成器に延長ワイヤを用いて接続される。いわゆる高周波DBS(HF−DBS)に対する典型的なパラメータは、パルス長60−100μs、パルス反復周波数130−185Hz及びパルス振幅1.5−5Vである。これらの条件下でHF−DBSが前記刺激標的の機能障害の効果を模倣することが一般に認められている。
【0004】
HF−DBSの重要なメリットは、可逆性である。電気刺激が中断される場合、その効果は完全に取り消される。これは、自然には不可逆であるそれぞれの外科手術に対して明確な利点であり、負の結果の場合には治療をやめる又は調節することを可能にする。更に、前記電気刺激の空間的に局所化された供給は、典型的には薬物が広範囲の効果を与えて、しばしば不所望な副作用を引き起こす薬品治療に対する重要な利点である。パーキンソン病に対する前記方法の臨床的に証明された有効性及び他の標的に対するこの技術の臨床的効果の比較的直接的な探査の両方により主張されるように、研究者は、現在、前記治療に対する新しい指標を探している。HF−DBSにより治療されうる未来の疾患は、ジストニア、てんかん、強迫性障害、群発性頭痛、肥満及びうつ病を含む。
【0005】
HS−DBS治療の成功結果に対する重要な要件は、前記刺激標的領域内の前記刺激電極の正確な配置である。前記電極の誤配置は、感覚運動効果、並びにうつ病及び自殺念慮のような情緒の変化を含む不所望な副作用の主な原因であると疑われている。注意深い外科的処置によって、神経外科医は、このような不所望な副作用のリスクを最小化しようと試みる。当技術分野の専門家により支持される一般的な処置は、以下のとおりである。手術前に、おおよその標的領域が位置特定撮像処置を用いて位置特定される。この後に、損傷の最小リスクを持つ移植軌道が計画される。
【0006】
依然として、これらの方法は、2つの理由で前記刺激電極の即座の成功する配置に対して必要とされる正確性を欠く。第一に、標的神経核又は脳領域内の正確な機能的生体構造は、しばしば全体的な神経核又は領域内で数mm又はそれ以下しか及ばないので、撮像により捕捉されることがまだできない。第二に、前記電極を移植するために頭蓋骨を外科的に開き、前記電極を刺し入れる場合に、脳内の位置変更が起こりうる。現在の最良の慣例は、したがって、慢性刺激電極の移植の前に、前記標的領域に向かう複数の平行軌道に沿って移植された試験電極を用いて前記標的領域の電気生理学的探査を実行し、最適な刺激標的領域が組織のサンプリングされた体積内で位置特定されることを保証するのに十分に大きなスキャン体積を捕捉することである。神経発火パターンのマイクロレコーディングは、様々な解剖学的構造の詳細な機能的境界を探査するために実行される。試験刺激は、様々な候補位置における刺激の有効性を評価するために実行される。前記マイクロレコーディング及び試験刺激が前記刺激標的領域の正確な位置を発見した後のみに、前記慢性刺激電極が移植される。
【0007】
成功外科手術に対して不可欠であるが、HF−DBS標的領域の電気生理学的探査は、深刻な不利点をもたらす。第一に、手術時間が数時間延ばされ、(手術中に覚醒している)患者に対する増大された負担及びこの処置の高くなったコストを生じる。第二に、前記試験電極の複数の移植軌道及び前記慢性電極の後に続く最終的な移植は、出血に至る血管に当たるリスクを上げる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、最初に、ここに開示された方法論及びシステムが満たす、刺激標的領域内の刺激電極の移植による直接的かつ正確な配置を可能にする改良されたDBSリードシステム及び方法に対する要望が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示によると、患者の脳の刺激標的領域内の組織に治療電気刺激を与える脳深部刺激(DBS)リード及び方法が開示され、これは、第1の移植後に前記リードの追加の移植を必要とせずに、前記標的領域の位置特定及び刺激素子の各々に対する前記刺激標的領域内の脳組織に治療刺激を与えるのに必要とされる所要の刺激パラメータの決定を容易化することができる。
【0010】
特に、本発明の目的は、患者の脳の刺激標的領域内の組織に治療電気刺激を与える遠位端を持つ刺激リードにおいて、前記リードが、
前記リードの前記遠位端に配置された1以上の感知素子及び1以上の刺激素子のアレイを有し、
前記1以上の刺激素子の各々が、前記標的領域内の前記脳組織に電気刺激を与えることができ、
前記1以上の感知素子の各々が、前記脳内の神経細胞により生成された電気信号を検出することができ、
非外科的処置により事前に決定された軌道に沿った前記脳内への前記リードの第1の移植後に、前記刺激素子及び前記感知素子のアレイが、前記第1の移植後に前記リードの追加の移植を要求することなく、前記標的領域の位置特定、前記刺激素子の各々に対する、前記刺激標的領域内の前記脳組織に治療組織刺激を与えるのに必要とされる所要の刺激パラメータの決定を容易化することができる、刺激リードを提供することである。
【0011】
他の目的は、前記刺激素子が金属電極である刺激リードを提供することである。
【0012】
他の目的は、前記感知素子が金属マイクロ電極又は容量性感知素子である刺激リードを提供することである。
【0013】
他の目的は、前記1以上の刺激素子及び前記1以上の感知素子が、前記リードの前記遠位端の近くの前記リードの表面において周囲にアレイに分布される、刺激リードを提供することである。
【0014】
他の目的は、前記感知素子が、各々個別に電気信号、活動電位、電場電位、生化学信号及び神経伝達物質の1以上を検出することができる、刺激リードを提供することである。
【0015】
他の目的は、単一の前記感知素子の面積が、単一の前記刺激素子の面積より小さい、刺激リードを提供することである。
【0016】
他の目的は、複数の前記感知素子が、単一の電気信号を検出するように電気的に結合される、刺激リードを提供することである。
【0017】
他の目的は、前記感知素子の数が前記刺激素子の数より大きい、刺激リードを提供することである。
【0018】
他の目的は、前記刺激パラメータが、刺激振幅、極性、持続時間、反復周波数、波形、及び刺激デューティサイクル内の相対位相の1以上から選択される、刺激リードを提供することである。
【0019】
他の目的は、前記リードが、前記1以上の感知素子から信号を受信し、前記標的領域の位置を決定し、前記刺激素子のいずれが前記標的領域に又は近くに配置され、前記標的領域内の前記脳組織に前記治療刺激を与えるように選択されるべきかを決定するコントローラを更に有する、刺激リードを提供することである。
【0020】
他の目的は、前記コントローラが、選択された前記刺激素子の各々に対して、前記標的領域内の前記脳組織に前記治療刺激を与えるのに必要とされる前記所要の刺激パラメータを決定することができる、刺激リードを提供することである。
【0021】
他の目的は、前記コントローラが、1以上の特定の感知素子から受信された前記信号を使用して1以上の特定の刺激素子の相対的な刺激振幅及び/又はタイミングを制御することができる、刺激リードを提供することである。
【0022】
他の目的は、移植後に患者の脳の刺激標的領域内の組織に治療電気刺激を与える刺激システムにおいて、前記システムが、
前記刺激に対して要求される電気パルスを生成及び送信するパルス生成器と、
移植後に患者の脳の刺激標的領域内の組織に治療電気刺激を与える遠位端を持つ脳深度刺激リードであって、
前記リードの前記遠位端に配置された1以上の刺激素子及び1以上の感知素子のアレイを有する当該刺激リードと、
を有し、
前記1以上の刺激素子の各々が、前記標的領域内の脳組織に電気刺激を与えることができ、
前記1以上の感知素子の各々が、前記脳内の神経細胞により生成された電気信号を検出することができ、
非外科的処置により事前に決定された軌道に沿った前記脳への前記リードの第1の移植後に、前記刺激素子及び前記感知素子のアレイが、前記第1の移植の後に前記リードの追加の移植を要求することなく、前記標的領域の位置特定と、前記標的領域における又は近くの刺激素子の関連付け及び/又は選択と、前記選択された刺激素子の各々に対する、前記刺激標的領域内の前記脳組織に治療刺激を与えるのに必要とされる所要の刺激パラメータの決定とを容易化することができる、刺激システムを提供することである。
【0023】
他の目的は、患者の脳の刺激標的領域内の組織に治療脳深度電気刺激を与える方法において、
非外科的撮像処置により、刺激に対する近似的標的領域及び前記近似的標的領域に対する脳深度刺激リードの移植に対する軌道を決定するステップと、
前記軌道に沿って前記近似的標的領域内に前記脳深度刺激リードを移植するステップであって、前記刺激リードが、
前記リードの前記遠位端に配置された1以上の刺激素子及び1以上の感知素子のアレイを有し、
前記1以上の刺激素子の各々が、前記標的領域内の脳組織に電気刺激を与えることができ、
前記1以上の感知素子の各々が、前記脳内の神経細胞により生成された電気信号を検出することができ、前記非外科的処置により事前に決定された軌道に沿った前記脳内への前記リードの第1の移植後に、前記刺激素子及び前記感知素子のアレイが、前記第1の移植後に前記リードの追加の移植を要求することなく、前記標的領域の位置特定と、前記標的領域における又は近い刺激素子の関連付け及び/又は選択と、前記選択された刺激素子の各々に対する、前記刺激標的領域内の前記脳組織に前記治療刺激を与えるのに必要とされる所要の刺激パラメータの決定とを容易化することができる、当該移植するステップと、
前記1以上の感知素子により前記脳内の神経細胞により生成された前記電気信号を検出するステップと、
前記脳内の神経細胞により生成された前記検出された電気信号から、前記近似的な標的領域内の刺激標的領域の3次元空間的位置及び境界を決定するステップと、
前記1以上の刺激素子のいずれが前記刺激標的領域内の前記脳組織に刺激を与えるように選択されるか及び前記刺激中に使用されるべき前記1以上の選択された刺激素子の各々に対する特定の刺激パラメータを決定するステップと、
前記選択された刺激素子の各々に対する前記特定の刺激パラメータを使用して前記選択された刺激素子内の前記脳の前記刺激標的領域内の組織の刺激を実行するステップと、
を有する方法を提供することである。
【0024】
他の目的は、前記1以上の感知素子により、前記脳内の神経細胞により生成された前記電気信号を検出するステップが、
前記1以上の感知素子により検出された前記脳内の前記神経細胞により生成された電気信号特徴を読み出すステップと、
前記刺激標的領域に対応する信号特徴を検出する特定の感知素子を決定するステップと、
を更に有する、方法を提供することである。
【0025】
他の目的は、前記脳の刺激を実行するステップの前に、
前記選択された1以上の刺激素子により前記刺激標的領域内の前記脳組織に試験電気刺激を供給することにより前記刺激標的領域を試験するステップと、機能的に効率的な刺激標的領域の確認が得られるまで必要に応じて前記方法のステップを反復するステップと、
を更に有する方法を提供することである。
【0026】
他の目的は、前記刺激パラメータが、刺激振幅、極性、持続時間、反復周波数、波形及び刺激デューティサイクル内の相対位相の1以上から選択される、方法を提供することである。
【0027】
本発明のこれらの及び他の態様は、図を参照して以下の実施例を参照してより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】大脳基底核経路に関連する構造の解剖学的位置を示す脳を通る概略的な冠状断面を描く。パーキンソン病の治療におけるHF−DBSに対する標的は、視床下核及び淡蒼球内節である。
【図2】延長ワイヤを用いて移植されたパルス生成器に接続され、周囲刺激電極を持っている移植されたリードからなる到達水準のDBSシステムの概略的なレイアウトを描く。
【図3】刺激素子(円)及び感知素子(三角形)のアレイを持つDBSリードの実施例を示す。
【図4】刺激素子(正方形)及び感知素子(円)の3次元分布の実施例を示す。
【図5】脳神経細胞の特徴的な信号パターンに基づく刺激標的領域の決定を示す。
【図6】選択された刺激素子1−6における単極同期刺激の例を示す。
【図7】選択された刺激素子1−6における振幅及び極性介在刺激フィールド操縦を用いる同期刺激の例を示す。
【図8】選択された刺激素子1−6における複雑な刺激パターンの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
視床又は大脳基底核のような高周波脳深度刺激(DBS)は、本態性振戦又はパーキンソン病のような運動障害の治療に使用される。図1は、大脳基底核経路に関連する構造の解剖学的位置を含む脳の冠状断面を描く概略図を示す。
【0030】
典型的な電気脳刺激システムは、リードにより脳に動作的に接続されたパルス生成器を有する。前記リードは、遠位端において1以上の刺激電極を持ち、前記電極のシステムが刺激標的領域サイトにおける脳組織の所望の刺激に対して最適かつ安全に配置されるように前記患者の脳内に移植されるように設計される。図2は、刺激電極又は素子を持つ移植された刺激電極及びそれに接続された移植されたパルス生成器を含む到達水準のDBSシステムの概略的なレイアウトを示す。
【0031】
典型的なDBS処置において、効果的な脳刺激に対する最初のステップは、機能的脳構造の位置特定又はマッピングを含む。特に前記標的が新しい場合、前記標的位置を確実に識別する統計データがほとんど又は全く存在しないという意味で、機能的標的領域の境界内のどこで効果的かつ安全な刺激が供給されることができるかを決定することが必要である。
【0032】
脳損傷及び慢性神経変調の両方の治療的利益及び不所望な効果は、この位置決め処置に決定的に依存する。この処置は、3つの主要なステップを含む。第一に、脳標的の解剖学的位置決めは、定位固定条件下で陽性造影X線、CT又はMRIを用いて撮像する解剖学的脳地図を使用して達成される。このような標準的な周知の撮像技術が、前記リードが向けられる標的に対する位置座標の最初の決定を行うのに使用される。
【0033】
第二に、脳構造間の機能的境界の電気生理学的識別が、単一若しくはマルチ細胞又は特徴的細胞の放電パターンのマルチレコーディングを用いて実行される。このような処置は、マイクロレコーディング又はセミマイクロレコーディングとも称されうる。マイクロレコーディング及びセミマイクロレコーディングは、単一の細胞活動又は複数の細胞の活動を区別するのに十分に小さい電極の使用を要求し、したがって、非常に小さな表面積、例えばセミマイクロ電極に対して1ないし1000平方マイクロメートル及びマイクロ電極に対して1平方マイクロメートル以下を持つマイクロ電極を要求する。
【0034】
第3のステップは、配置された前記機能的脳構造内の電気試験刺激を含む。選択された脳構造の試験刺激は、(1)識別された機能的脳構造内の刺激の有効性及び(2)この領域内の脳の刺激により引き起こされた副作用を決定することを必要とする。前記刺激電極が前記識別された脳構造の境界に近すぎる場合、隣接した脳構造の機能が変調されるかもしれず、これは、不所望な副作用を引き起こす可能性がある。試験刺激は、慢性移植可能電極の表面積と同等、例えば約1−20平方ミリメートルの範囲内の表面積を持つ電極を用いて実行される場合に臨床的に最も関連する。
【0035】
現在、標的位置を決定する第1のステップの後に、マイクロ電極を含むリードが、単一細胞レコーディングを用いて機能的境界を識別するために脳内に配置される。次いで、前記マイクロ電極を含む前記リードは、脳組織から引き抜かれる。このステップの後に、前記マイクロリードを引き抜き、前記マイクロリードをマクロリード又は第3の慢性脳刺激リードで置き換える他のステップも生じることができる。これらの置き換えは、典型的には、最も好ましくは全て同じ軌道経路に沿った、前記リードの複数の挿入を要求し、したがって、潜在的な結果として深刻な永久的な障害を伴う頭蓋内出血のリスクを増大させる。更に、一度リードが配置され、刺激の結果が満足であると決定するように試験されると、間違った方向における1ミリメートルの電極変位でさえ不満足な結果又は脳に対する損傷を引き起こしうるので、前記リードが同じ位置に留まることは重大である。前記マイクロリードの除去及び1以上の他のリードとの置き換えは、前記リードがもはやマイクロレコーディングにより識別される機能的標的内に又は十分に近く配置されないリスクをも増大させる。したがって、前記患者の脳に対する前記リードの1回の移植のみを要求することができ、脳組織の治療的電気刺激を可能にする前記刺激標的領域及び特定の刺激素子及び刺激パラメータの決定を容易化するリード及び方法を作成することが望ましい。
【0036】
これは、ここに開示された本発明によるリードを使用してDBS刺激を与える刺激リード、システム及び方法を用いて達成される。本発明による刺激リードは、前記リードの遠位端において1以上の刺激素子及び1以上の感知素子のアレイを含み、前記1以上の刺激素子の各々は、前記標的領域内の脳組織に電気刺激を与えることができ、前記1以上の感知素子の各々は、前記脳内の神経細胞により生成された電気信号を検出することができる。非外科的処置により事前に決定された軌道に沿った脳に対する前記リードの第1の移植後に、前記刺激素子及び前記感知素子のアレイは、前記第1の移植後に前記リードの追加の移植を要求することなく、前記標的領域の位置特定及び前記刺激素子の各々に対する前記刺激標的領域内の脳組織に治療刺激を与えるのに必要とされる所要の刺激パラメータの決定を容易化することができる。
【0037】
前記刺激リードは、患者の脳に対する移植中に前記リードの遠位端又は前進端に配置された1以上の感知素子及び1以上の刺激素子のアレイを有し、これは、前記刺激標的領域において治療的に電気刺激されるべき脳組織に最終的に接近する。前記感知素子及び前記刺激素子のアレイは、多くの幾何学的パターンを取ることができ、前記リードについて3次元分布であることができ、前記感知及び/又は刺激素子の少なくとも1つを持っている単一より多いリードを使用することにより実施されることができる。例えば、図3は、刺激素子(円)及び感知素子(三角形)のアレイを持つDBSリードの実施例を示す。図4は、刺激素子(正方形)及び感知素子(円)の3次元分布の実施例を示す。
【0038】
前記刺激素子は、本発明の一実施例において、金属電極である。他の実施例において、前記刺激素子は、例えば、前記リードに沿った周囲に、例えば前記リードの周囲に沿ったアレイに分布されることができる。
【0039】
前記感知素子も、例えば、前記リードに沿った周囲に、例えば、前記リードの周囲に沿ったアレイに分布されることができる。前記感知素子は、例えば、金属マイクロ電極又は容量性感知素子であることができる。前記感知素子は、各々独立に電気信号、活動電位、電場電位、(生)化学信号及び神経伝達物質の1以上を検出することができる。一実施例において、複数の感知素子は、単一の電気信号を検出するために電気的に結合される。他の実施例において、単一の感知素子の面積は、単一の刺激素子の面積より小さい。
【0040】
脳神経細胞により生成された電気信号又は上述の他の信号のような、前記感知素子により提供される検出された情報は、図5に示されるように、脳内の前記刺激標的領域の空間的位置特定及び境界を容易化するために前記感知素子及び前記刺激素子と通信するコントローラ又は処理ユニットにより使用される。また、このような検出された情報は、いずれの特定の刺激素子が前記刺激標的領域内の脳組織に治療電気刺激を与えるのに使用されるか、及び各刺激素子に対して使用される刺激パラメータの決定を容易化する。このような刺激パラメータは、例えば、刺激振幅、極性、持続時間、反復周波数、波形及び刺激デューティサイクル内の相対位相の1以上を含む。図6−8は、例えば、番号1−6として識別される刺激素子に対する複数の可能な刺激パターンを示す。
【0041】
前記コントローラ又は処理ユニットは、信号データを処理する、信号データを受信する、信号データ又は新しいコマンドを送信する、1以上の前記感知及び/又は刺激素子、外部プロセッサ、コンピュータ、観察モニタ等のような前記リードシステムの他の構成要素又は技術者若しくは医師と通信するような1以上の機能に対して使用されることができる。したがって、例えば、前記コントローラは、プローブ又はDBSユニットに一体化されることができる。代替的には、前記コントローラは、刺激標的領域決定を含むDBS刺激の方法を実施するのに必要とされる大規模な計算を実行するために前記DBSリード又はシステム、例えばワークステーションの外部に配置されてもよい。また、前記1以上の感知素子により得られた脳信号は、例えば、観察可能な形、例えばグラフでユーザに提示され、前記ユーザが、場合により前記信号/データのコンピュータ分析/処理の助けで、最適な刺激標的領域及び刺激に対する前記DBSリードの配置に対する最初の提案をすることを可能にすることができる。この後者のアプローチは、現在の慣例に最も近く対応し、特に、神経外科医は、感知された信号に基づいて前記DBSリードに対する標的位置を決定する。
【0042】
一実施例において、前記刺激素子は、前記感知素子に直接的に関連付けられる。この関連付けは、前記感知素子の位置と前記刺激素子の位置との間の幾何学的関係に基づく。例えば、各刺激素子は、単一の感知素子若しくは感知素子の組み合わせに関連付けられることができるか、又は各刺激素子は、他のユニークな感知素子、例えば、電気信号の1つのタイプを検出する感知素子に関連付けられることができるか、又は前記感知素子の数が前記刺激素子の数より大きい。前記感知素子の数が前記刺激素子の数より大きい場合、"重心"アプローチが前記感知及び刺激素子を関連付けるのに使用されることができ、例えば、刺激素子を囲む複数の感知素子が正しい信号を取り出す場合、この刺激素子は、刺激に対する標的領域内にあると推測されることができる。前記感知素子は、例えば、神経の発火パターンを取り出し、これらの信号の特徴を使用して異なる脳領域を区別することができる。代替的には、前記感知素子は、灰白質及び白質を区別するのに局所インピーダンスを測定し、したがって前記プローブの周りの局所神経生体構造に関する追加の情報を得ることもできる。複数の測定タイプを組み合わせることにより、異なる組織タイプ、解剖学的/機能的構造等の区別はより正確になる。他の実施例において、フィールド操縦(field steering)技術が、前記標的刺激領域又はフィールドを細かく配置するのに使用される。他の実施例において、刺激素子の相対的刺激振幅及び/又はタイミングは、感知素子と関連付けられる。また、前記感知素子による前記検出された信号情報は、並列に又は連続して読み出されることができる。
【0043】
前記刺激リードは、移植後に患者の脳の刺激標的領域に治療電気刺激を与える刺激システムに組み込まれることができる。このようなシステムは、前記刺激素子に対する刺激に必要とされる電気パルスを生成及び送信するパルス生成器を含む。
【0044】
本発明の他の実施例において、患者の脳の刺激標的領域内の組織に脳深度電気刺激を与える方法が開示され、前記方法は、非外科的撮像処置により刺激に対する近似的標的領域及び前記近似的標的領域に対する脳深度刺激リードの移植に対する軌道を決定するステップと、前記軌道に沿って前記近似的標的領域内に前記脳深度刺激リード、上で開示された刺激リードを移植するステップと、前記1以上の感知素子により、脳内の神経細胞により生成された電気信号を検出するステップと、前記脳内の神経細胞により生成された前記検出された電気信号から前記近似的標的領域内の刺激標的領域の3次元空間的位置及び境界を決定するステップと、前記1以上の特定の刺激素子のいずれが前記刺激標的領域内の脳組織に刺激を与えるのに使用されるか及び前記刺激中に使用されるべき前記1以上の刺激素子の各々に対する特定の刺激パラメータを決定するステップと、前記特定の刺激素子の各々に対して前記特定の刺激パラメータを使用して前記特定の刺激素子を用いて前記脳内の前記刺激標的領域内の組織の刺激を実行するステップとを有する。
【0045】
他の実施例は、前記1以上の感知素子により、脳内の神経細胞により生成された電気信号を検出するステップが、前記1以上の感知素子により検出された前記脳内の神経細胞の電気信号特徴を読み出すステップと、前記刺激標的領域に対応する信号特徴を検出する特定の感知素子を決定するステップとを更に有すると定める。
【0046】
他の実施例は、前記脳組織に対する前記刺激を実行するステップの前に、前記特定の1以上の刺激素子により前記刺激標的領域内の脳組織に試験電気刺激を供給することにより前記刺激標的領域を試験するステップと、機能的に効率的な刺激標的領域の確認が得られるまで必要に応じて前記方法のステップを反復するステップとを更に有する方法を定める。
【0047】
他の実施例において、DBSリードの"初回の正しい配置"に対する方法が提供される。これは、刺激素子のアレイ及び感知素子の一体化されたアレイを持っている本発明による刺激リードを使用することにより達成される。前記方法は、以下のステップ、すなわち、
1.刺激されるべき組織に対する前記刺激標的領域が位置特定されるべきである脳の前記近似的標的領域内で良好に定位固定撮像処置(及び/又は他の外科計画ツール)により決定される軌道に沿って新規のDBSリードを移植するステップと、
2.前記DBSリード内に一体化された様々な感知素子により検出された信号特徴を読み出すステップと、
3.意図された前記刺激標的領域に対応する信号特徴を検出する感知素子を決定するステップと、
4.前記刺激標的領域の空間的位置及び境界範囲を前記意図された刺激標的領域に対応する信号を検出する前記感知素子に関連付けるステップと、
5.前記刺激標的領域を覆うのに必要とされる所要の刺激フィールドの形状を前記刺激標的の得られた空間的位置に関連付けるステップと、
6.特定の刺激素子のグループを前記所要の刺激フィールドに関連付けるステップと、
7.オプションとして前記特定の刺激素子のグループを使用して試験刺激を供給することにより識別された前記意図された刺激標的領域を試験し、オプションとして機能的に効率的な刺激標的領域の確認が得られるまで前記ステップ2ないし7を反復するステップと、
a.更にオプションとしてターゲッティングをサポートするのに利用可能な追加の診断ツール、例えば手術中の機能的撮像、合成撮像等を使用するステップと、
8.前記特定の刺激素子の各々に対して、刺激振幅、極性、持続時間、反復周波数、波形及び刺激デューティサイクル内の相対位相のような所要の刺激パラメータを決定するステップと、
9.前記得られた刺激パラメータによって前記関連付けられた特定の刺激素子を用いて前記刺激標的領域内の脳組織に対する刺激を実行するステップと、
からなる。
【0048】
本発明は特定の実施例に関して記載されているが、多くの修正、改良及び/又は変更が本発明の精神及び範囲から逸脱することなく達成されることができると当業者により認識される。したがって、本発明が請求項及び同等物の範囲によってのみ限定されることが明白に意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的領域内の組織に治療電気刺激を与える遠位端を持つ刺激リードにおいて、前記リードが、
前記リードの前記遠位端に配置された1以上の感知素子を持つ1以上の刺激素子のアレイを有し、
前記1以上の刺激素子の各々が、前記標的領域内の前記組織に電気刺激を与えることができ、
前記1以上の感知素子の各々が、電気信号を検出することができ、
非外科的処置により事前に決定された軌道に沿った前記リードの第1の移植後に、前記刺激素子及び前記感知素子のアレイが、前記リードの追加の移植を要求することなく、前記標的領域を位置特定し、前記刺激素子の各々に対して、治療組織刺激に必要とされる所要の刺激パラメータを決定することを容易化する、刺激リード。
【請求項2】
前記刺激素子が金属電極である、請求項1に記載の刺激リード。
【請求項3】
前記感知素子が金属マイクロ電極又は容量性感知素子である、請求項1に記載の刺激リード。
【請求項4】
前記1以上の刺激素子及び前記1以上の感知素子が、前記リードの表面において周囲にアレイに分布される、請求項1に記載の刺激リード。
【請求項5】
前記感知素子が、各々個別に電気信号、活動電位、電場電位、生化学信号及び神経伝達物質の1以上を検出することができる、請求項1に記載の刺激リード。
【請求項6】
単一の前記感知素子の面積が、単一の前記刺激素子の面積より小さい、請求項1に記載の刺激リード。
【請求項7】
複数の前記感知素子が、単一の電気信号を検出するように電気的に結合される、請求項1に記載の刺激リード。
【請求項8】
前記感知素子の数が前記刺激素子の数より大きい、請求項1に記載の刺激リード。
【請求項9】
前記刺激パラメータが、刺激振幅、極性、持続時間、反復周波数、波形、及び刺激デューティサイクル内の相対位相の1以上から選択される、請求項1に記載の刺激リード。
【請求項10】
前記リードが、前記1以上の感知素子から信号を受信し、前記標的領域の位置を決定し、前記刺激素子のいずれが前記標的領域の少なくとも近くに配置され、前記治療刺激を与えるべきかを決定するコントローラを持つ、請求項1に記載の刺激リード。
【請求項11】
前記コントローラが、選択された前記刺激素子の各々に対して、前記治療刺激に必要とされる前記所要の刺激パラメータを決定することができる、請求項10に記載の刺激リード。
【請求項12】
前記コントローラが、1以上の特定の感知素子から受信された前記信号を使用して1以上の特定の刺激素子の相対的な刺激振幅及び/又はタイミングを制御することができる、請求項10に記載の刺激リード。
【請求項13】
移植後に組織に治療電気刺激を与える刺激システムにおいて、前記システムが、
前記刺激に対して要求される電気パルスを生成及び送信するパルス生成器と、
遠位端に配置された1以上の刺激素子及び1以上の感知素子のアレイを持つ刺激リードであって、前記1以上の刺激素子の各々が標的領域内の組織に電気刺激を与えることができ、前記1以上の感知素子の各々が電気信号を検出することができる、当該刺激リードと、
を有し、
軌道に沿った前記リードの第1の移植後に、前記刺激素子及び前記感知素子のアレイが、前記第1の移植の後に前記リードの追加の移植を要求することなく、前記標的領域を位置特定し、前記標的領域に少なくとも近い刺激素子を関連付け及び/又は選択し、各選択された刺激素子に対して、治療組織刺激を与えるのに必要とされる所要の刺激パラメータを決定することを容易化する、刺激システム。
【請求項14】
標的領域内の組織に治療電気刺激を与える方法において、
非外科的撮像処置により、刺激に対する近似的標的領域及び前記近似的標的領域に対する刺激リードの移植に対する軌道を決定するステップと、
前記軌道に沿って前記刺激リードを移植するステップであって、前記刺激リードが、遠位端に配置された1以上の刺激素子及び1以上の感知素子のアレイを持ち、前記1以上の刺激素子の各々が、組織に電気刺激を与えることができ、前記1以上の感知素子の各々が、電気信号を検出することができ、これにより、前記非外科的処置により事前に決定された軌道に沿った前記リードの第1の移植後に、前記刺激素子及び前記感知素子のアレイが、前記第1の移植後に前記リードの追加の移植を要求することなく、前記標的領域を位置特定し、前記標的領域の少なくとも近くの刺激素子を関連付け及び/又は選択し、各選択された刺激素子に対して、前記治療刺激に必要とされる所要の刺激パラメータを決定することを容易化する、当該移植するステップと、
前記1以上の感知素子により前記脳内の神経細胞により生成された前記電気信号を検出するステップと、
前記検出された電気信号から、前記近似的標的領域内の刺激標的領域に対する3次元空間的位置及び境界を決定するステップと、
前記刺激標的領域に刺激を与える1以上の刺激素子及び刺激中に使用されるべき各刺激素子に対する前記刺激パラメータを決定するステップと、
前記特定の刺激パラメータを使用して前記刺激標的領域内の組織を刺激するステップと、
を有する方法。
【請求項15】
前記1以上の感知素子により前記電気信号を検出するステップが、
電気信号特徴を読み出すステップと、
前記刺激標的領域に対応する前記電気信号特徴を検出する特定の感知素子を決定するステップと、
を更に有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記組織を刺激するステップの前に、
選択された1以上の刺激素子を介して試験電気刺激を供給することにより前記刺激標的領域を試験するステップと、機能的に効率的な刺激標的領域の確認が得られるまで必要に応じて前記方法のステップを反復するステップと、
を更に有する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記刺激パラメータが、刺激振幅、極性、持続時間、反復周波数、波形及び刺激デューティサイクル内の相対位相の1以上から選択される、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−512823(P2010−512823A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540903(P2009−540903)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【国際出願番号】PCT/IB2007/054684
【国際公開番号】WO2008/072125
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】