説明

DMP1の測定方法

【課題】既存の測定方法に比較してより簡便、かつ正確な、精度や再現性のよいDMP1の測定方法を提供する。
【解決手段】骨細胞が産生するタンパク質であるDMP1の特定部位に対する複数の特異抗体の組み合わせを用いて、血液(血清及び血漿)又は尿検体中のDMP1をサンドイッチ法により定量化し、DMP1を指標として非侵襲的に骨質を定量化する方法、上記方法による骨・関節関連疾患の診断方法、骨・関節関連疾患の治療に対する早期からの反応性確認方法及び当該方法に使用するためのキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨細胞の産生するDentin Matrix Protein 1(通常
、「DMP1」とも略記されている。)の濃度を測定する方法、及びその測定キットに関
するものである。当該測定方法及びキットは、骨質の評価、骨・関節関連疾患の診断、骨
・関節関連疾患の治療に対する早期からの反応性確認において有用である。
【背景技術】
【0002】
骨・関節疾患の罹患により骨の強度低下が引き起こされる。骨の強度が低下すると、骨
折が発症しやすくなり、その結果、QOLの低下や寝たきりが発生し、ひいては死亡の原
因となることが社会問題となっている。
【0003】
従来、骨の強度は骨量によって規定されることが報告されてきたが、近年ではそれ以外
の指標として骨質が骨強度に影響することが報告されている(非特許文献1)。また、当
該骨質を評価する指標としては、骨の代謝回転の程度、骨の石灰化度及び微小骨折数
があるが、それを測定・検査するための技術はいずれも、骨組織を侵襲的に採取すること
に依らざるを得ない。
【0004】
或いは、骨関連細胞も上記骨質の評価に関連する別の指標と認識されるようになってき
ており、当該骨関連細胞のうちで骨細胞が着目されている。とりわけ、骨細胞の数と微小
骨折数との関連性が確認されているが、その確認方法も侵襲的検査によるものである(非
特許文献2)。
【0005】
他方で、骨細胞が特異的に産生するタンパク質等を指標として骨細胞の数及び骨質を把
握する方法が先行特許に提示されており、当該タンパク質の1つとしてDentin M
atrix Protein 1(DMP1)が挙げられている(特許文献1)。DMP
1遺伝子は公知の遺伝子であり、ヒトを含む10種の動物からDMP1の配列が報告され
ている。DMP1はアミノ酸数400〜550個の細胞外マトリックスタンパク質であっ
て、かつ酸性タンパク質であり、そのアミノ酸配列及び遺伝子配列は豊澤等による非特許
文献3乃至非特許文献5に開示されている。
【0006】
加えて、DMP1の非侵襲的測定方法として、TaKaRa Code M176(抗
DMP1ペプチド抗体、タカラバイオ社製:非特許文献6参照)抗体を用いることや、測
定手法として(1)ウェスタンブロット分析、(2)ELISA法、(3)放射免疫測定
法、(4)タンパク質に結合している糖鎖を測定する方法なども先行文献(特許文献1)
に提示されている。しかしながら、当該文献に提示されている抗体はラットDMP1に対
する抗体であるし、実際のヒトの生体材料を用いた測定の成績は報告されていなかった。
そのため、当該抗体が実際にヒトの生体材料の測定に利用可能かどうか、また、骨質の実
態や、骨・関節関連疾患の評価能及び治療薬の効果判定も可能かどうかは明らかとなって
いなかった。更に、特許文献1には、タンパク質の測定精度の点ではELISA法が望ま
しいとの記載もあるが、該文献記載の前記TaKaRa Code M176(以下、「
M176抗体」ともいう。)といった唯1種類の抗体を用いたELISA法は、サンドイ
ッチ法よりも理論的に感度や特異性が低い等の理由により、測定に問題があると思われる

【0007】
しかるに、DMP1の免疫抗原性を維持したペプチドに対する抗体を用いた免疫学的測
定方法についても先行文献(特許文献2)に記載がある。その中では、DMP1に対する
抗体を取得するための免疫原アミノ酸配列として「DAYHNKPIGDQDDND」(
配列番号6)が特定されており、このペプチドでニュージーランドホワイトラビットを感
作して得られた精製抗DMP1抗体を用い、且つ当該精製抗DMP1抗体で免疫染色する
ことにより病理組織切片中のDMP1の陽性反応を確認する方法が示されている。しかし
ながら、免疫染色法では、組織断中のDMP1の存在を示すことは可能であるものの、生
体材料から非侵襲的に採取される血清、血漿、尿中等のDMP1濃度を定量することは不
可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−178356号公報
【特許文献2】特開2004−292321号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版」骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会,ライフサイエンス出版(2006)
【非特許文献2】Bone,2002;30:201−206
【非特許文献3】J.Mol.Evol.,1999;48:160−167
【非特許文献4】Gene,1999;234:307−314
【非特許文献5】J.Mol.Evol.,2000;50:31−38
【非特許文献6】BIO VIEW 2003;43:18−20 (タカラバイオ株式会社発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、より正確で高い検出感度の得られるDMP1の測定方法が求められている
。すなわち、前述のとおり、特許文献1には、骨細胞が特異的に産生するタンパク質等を
指標として骨細胞の数及び骨質を把握する方法が提示されており、且つ当該タンパク質の
1つとしてDMP1が挙げられているものの、該文献中でDMP1測定用抗体として唯一
例示された抗ラットDMP1ペプチド抗体(M176抗体)ではヒトのDMP1の測定が
不可能であることが、後記参考例のとおりに、明らかとなった。
【0011】
更に、特許文献2においてDMP1に対する抗体を取得するための免疫原として用いら
れたアミノ酸配列「DAYHNKPIGDQDDND」(配列番号6)は、本願における
配列番号5のアミノ酸配列に近似するところ、後述のとおり、本発明者は配列番号5のア
ミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を有する抗体を作製し、当該抗体を
用いてサンドイッチELISA法によりDMP1濃度の測定を試みたものの、その感度は
更なる改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記問題に鑑み種々研究した結果、ヒトDMP1の特定の配列部位に対
する免疫学的特異抗体を用いると、他の抗体の組合せを用いた場合に比較して、顕著な測
定感度の向上が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明によれば、D
MP1の存在を正確且つ感度よく非侵襲的に同定することができ、及びその濃度を測定す
ることも可能になる。更に、本発明によれば優れたDMP1測定キットも提供される。当
該キットは、例えば、骨質の評価方法、骨・関節関連疾患を診断する方法、骨・関節関連
疾患の治療に対する早期からの反応性を確認する方法に利用できることも見出された。す
なわち、本発明は以下の側面を含む。
【0013】
(1) 試料中のDMP1又はその断片の測定方法であって、配列番号1で表されるア
ミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を有する抗体と、配列番号2で表さ
れるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を有する抗体との組み合わせ
を用いて該試料中のDMP1又はその断片を測定することを特徴とする、前記方法。
(2) 前記測定方法がサンドイッチELISA法である、上記(1)に記載の方法。
(3) 配列番号2で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性
を有する抗体を固相化した固相と、配列番号1で表されるアミノ酸配列から成るペプチド
に対して免疫学的特異性を有する抗体を標識した標識化抗体とを用いることを特徴とする
、上記(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 前記標識が西洋ワサビパーオキシダーゼ(HRP)である、上記(3)に記載
の方法。
(5) 配列番号1で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性
を有する抗体及び配列番号2で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的
特異性を有する抗体の少なくとも一方がポリクローナル抗体である上記(1)乃至(4)
のいずれかに記載の方法。
(6) 配列番号1で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性
を有する抗体及び配列番号2で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的
特異性を有する抗体の少なくとも一方がモノクローナル抗体である上記(1)乃至(4)
のいずれかに記載の方法。
(7) 前記試料が、尿、血液、血清及び血漿からなる群から選択される、上記(1)
乃至(6)のいずれかに記載の方法。
【0014】
(8) 配列番号1で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性
を有する抗体及び配列番号2で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的
特異性を有する抗体を含む、DMP1又はその断片の測定キット。
(9) 上記(1)乃至(7)のいずれかに記載された測定方法に用いるための、列番
号1で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を有する抗体及び
配列番号2で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を有する抗
体を含む、DMP1又はその断片の測定キット。
(10) 患者由来の試料中のDMP1又はその断片を測定することにより、該患者が
骨粗鬆症、変形性関節症又は関節リウマチであるか否かを診断するために用いる、上記(
8)又は(9)に記載の測定キット。
(11) 前記診断が、健常人並びに骨粗鬆症、変形性関節症及び関節リウマチと診断
された患者におけるそれぞれの平均的なDMP1又はその断片の検出程度を予め測定して
おき、それらの検出程度と対象とする患者の当該検出程度を比較することを含む、上記(
10)に記載の測定キット。
(12) 骨粗鬆症、変形性関節症又は関節リウマチが疑われる患者由来の試料中のD
MP1又はその断片を測定することにより、該患者に骨形成促進剤を投与した際の前記疾
患に対する治療効果を予測するために用いる、上記(8)又は(9)に記載の測定キット

(13) 前記予測が、健常人並びに骨粗鬆症、変形性関節症及び関節リウマチと診断
された患者におけるそれぞれの平均的なDMP1又はその断片の検出程度を予め測定して
おき、それらの検出程度と対象とする患者の当該検出程度を比較することを含む、上記(
12)に記載の測定キット。
(14) 前記骨形成促進剤がPTH又はカルシウムセンシング受容体拮抗剤である上
記(12)又は(13)に記載の測定キット。
(15) 更に、配列番号3、配列番号4又は配列番号5で表されるアミノ酸配列から
成るペプチドに対して免疫学的特異性を有する抗体、或いはそのうちの二つ以上を含む、
上記(8)乃至(14)のいずれかに記載の測定キット。
【0015】
(16) 骨粗鬆症、変形性関節症又は関節リウマチが疑われる患者の試料に対して、
配列番号1で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を有する抗
体と、配列番号2で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を有
する抗体とを用いて、該試料中のDMP1又はその断片、或いはそれらに対応して変化す
る指標のいずれかの測定指標を検出し、該測定指標について予め健常人や骨粗鬆症、変形
性関節症又は関節リウマチと診断された患者におけるそれぞれの平均的な検出程度を確認
し、それらの検出程度と検討対象とする患者の検出程度を比較することにより、該患者が
骨粗鬆症、変形性関節症又は関節リウマチであるか否かを診断する方法。
(17) 上記(1)乃至(7)のいずれかの測定方法を用いることを特徴とする上記
(16)に記載の方法。
(18) 骨粗鬆症、変形性関節症又は関節リウマチが疑われる患者に骨形成促進剤を
投与した場合の該疾患に対する治療効果を予測する方法であって、該患者の試料に対して
、配列番号1で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を有する
抗体と、配列番号2で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を
有する抗体とを用いて、該試料中のDMP1又はその断片、或いはそれらに対応して変化
する指標のいずれかを検出し、その検出程度を別途確認した健常人や当該患者における平
均的な検出程度と比較することからなる、前記方法。
(19) 上記(1)乃至(7)のいずれかの測定方法を用いることを特徴とする上記
(18)に記載の方法。
(20) 前記骨形成促進剤がPTH又はカルシウムセンシング受容体拮抗剤である上
記18)又は(19)に記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のDMP1又はその断片の測定方法は、非侵襲的測定であるにもかかわらず正確
な測定を可能とするから、例えば血清、血漿、尿のいずれかの試料を採取するだけで十分
であり、よって患者の負担が低下する。更に、本発明のDMP1又はその断片の測定方法
及び測定キットを用いることによって、ヒトの骨細胞数、骨小腔数、及び骨質の正確な評
価が可能となるから、その測定結果に基づく骨・関節関連疾患の診断や治療薬の薬効の早
期からの判定等も可能になり、よって本発明の意義は極めて大きい。加えて、健常人にお
いても、DMP1の測定値の特徴的加齢変化を解析することにより、暦年齢ではない、個
々の肉体年齢を評価することが可能になると予想されるので、これまでにない肉体年齢評
価法として、メタボリックシンドロームやロコモティブシンドロームなどを防止し、国民
の健康寿命を保つ上でも、大きな利用価値が予想される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】DMP1の各抗原ペプチド配列を示した図である。
【図2】各DMP1抗体を1次及び2次抗体として用いたDMP1サンドイッチELISAの標準曲線である。
【図3】健常成人男性の血清試料中のDMP1濃度を年齢別にプロットした結果を示す。
【図4】健常成人女性の血清試料中のDMP1濃度を年齢別にプロットした結果を示す。
【図5】健常成人男性と関節リウマチ(RA)男性患者の血清中DMP1濃度の平均値を示す。
【図6】健常成人女性と関節リウマチ(RA)女性患者の血清中DMP1濃度の平均値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(DMP1)
本明細書において、特段の記載がない限りDMP1はヒトDMP1を意味する。Den
tin Matrix Protein 1(DMP1)遺伝子は公知の遺伝子であり、
またそのアミノ酸配列及び遺伝子配列は、豊澤等による「J.Mol.Evol.199
9;48:160−167、Gene 1999;234:307−314、J.Mol
.Evol.2000;50:31−38」(非特許文献3乃至5)に開示されている。
従って、例えば試験動物を免疫するための免疫原として用い得るDMP1タンパク質の任
意のペプチド断片は、上記の文献に記載された配列に基づいて、例えばペプチド合成機(
ペプチドシンセサイザー430A型、パーキンエルマージャパン製等)を使用した化学合
成法により調製することができる。
【0019】
(DMP1の特定の配列部位に対する免疫学的特異抗体)
本発明の好適な態様で用いられる抗体は、各配列番号のアミノ酸配列(配列番号1:ヒ
トDMP1のうち22個;SGDDTFGDDDSGPGPKDRQEGG、配列番号2
:同じく18個;LDNEDRVDSKPEGGDSTQ及び配列番号4:同じく19個
;ENSNSRDTGLSQPRRDSKG)から成るペプチドに対する免疫学的特異性
を有する抗体である(以下、それぞれをDMP1−1抗体、DMP1−2抗体、DMP1
−4抗体と略記することがある)。
【0020】
なお、本明細書において、「配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するペプチドに対
して免疫学的特異性を有する抗体」というときには、当該配列番号1で表されるアミノ酸
配列を有するペプチドに含まれるいずれかのエピトープを特異的に認識することにより、
該ペプチド部分を含むタンパク質又は任意の断片と結合するが、該ペプチドを含まないそ
の他のタンパク質及びその他の断片とは実質的に結合しない抗体を意味する。従って、本
発明における、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するペプチドに対して免疫学的特
異性を有する抗体には、当該、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するペプチドに存
在するいずれかのエピトープに対して特異的なモノクローナル抗体及び配列番号1で表さ
れるアミノ酸配列を有するペプチドを免疫原として接種した実験動物の体内で惹起された
特異的ポリクローナル抗体も含まれる。その他の配列番号で表されるアミノ酸配列を有す
るペプチドに対して免疫学的特異性を有する抗体についても同様である。
【0021】
なお、本発明の更なる好適態様では、上記のDMP1−1抗体、DMP1−2抗体、D
MP1−4抗体3種のうちのいずれか2種の抗体を用いることが好ましい。また、別の態
様においては、次の配列番号のアミノ酸配列(配列番号3:FRKSRISEEDDRS
EL、配列番号5;VDAYHNKPIGDQDDNDC)から成るペプチドに対する免
疫学的特異性を有する抗体(それぞれDMP1−3抗体、DMP1−5抗体と略記するこ
とがある)を同様に、或いは対比して用いることができる。
【0022】
既知のアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的に特異的な抗体を作製する方法
は公知である。具体的には、まず所望によりアジュバントを含む免疫原、例えば上記配列
番号1乃至5のいずれかのアミノ酸配列を含むペプチドを免疫動物に皮下投与し、それを
適当な間隔(例えば1週間)で所定の回数(例えば5回)繰り返して最終免疫後に全血を
採集し、これを分離することで抗血清を得る。そのような方法は、例えば、CURREN
T PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY、第2.4章、John Wil
ey & Sons,Inc.,New York等に記載されている。次いで、前記抗
血清からのポリクローナル抗体の精製は、動物の免疫に用いた配列番号1乃至5のいずれ
かのアミノ酸配列を有するペプチドをクロマトグラフィー用の樹脂、例えば、CNBr活
性化セファロースやHiTrap NHS−activated(ともにAmersha
m Pharmacia社製)に共有結合で固相化し、該固相化樹脂に上記抗血清を供し
て当該抗血清中の抗体を特異的に樹脂上に吸着させ、ついで、該樹脂上に吸着した抗体を
適切な緩衝液やカオトロピックイオン等を用いて溶出させて回収することでも達成できる
が、これに限定されない。その他、ポリクローナルな抗血清を生産し加工処理する方法は
、例えばMayer及びWalker(1987):IMMUNOCHEMICAL M
ETHOD SINCELLAND MOLECULARBIOLOGY(Academ
ic Press.London)においても詳述されている。なお、免疫動物を免疫す
る際に、免疫原の免疫原性を高めることが望まれる場合には、例えば上記配列番号1乃至
5のいずれかのアミノ酸配列を有するペプチド等を、ウシサイログロブリン又はキーホー
ルリンペットヘモシアニン(KLH)等のキャリアと結合させて抗原として使用すればよ
い。
【0023】
また、本発明の抗体をモノクローナル抗体として得る場合は、当業者に周知の手法を用
いて、上記と同様にして調製した免疫原で免疫した実験動物、好ましくはマウス・ラット
・ハムスター等のげっ歯類動物の脾細胞とミエローマ細胞株等の細胞融合用のペアレント
セルを融合させ、得られたハイブリドーマの中から好適なものを選択してクローン化し、
次いで、その融合細胞を生体外又は生体内で培養し、この培養混合物より特異性の高いモ
ノクローナル抗体を採取する。加えて、上記のとおり永久増殖性の抗体産生細胞系は細胞
融合によって調製することができるが、その他に当該永久増殖性の抗体産生細胞系はまた
、腫瘍原性DNAを用いたBリンパ球の直接形質転換、或いはEpstein−Barr
ウイルスを用いたトランスフェクションのような他の方法によってもまた調製することが
できる。例えば、J.Virol.,60:1153,Schreier.M.ら(19
80)、Virology 162:167,Hammerlingら(1981)、B
ritish Medical J.,295:946,Kennettら(1980)
を参照されたい。
【0024】
また、本発明の抗体には上記の抗体を酵素消化処理して得られるような当該抗体の抗原
結合性フラグメントも含まれる。当該フラグメントの例には、Fabフラグメント、Fa
b’フラグメント、F(ab’)フラグメント、F(v)フラグメント、H鎖モノマー
又はダイマー、L鎖モノマー又はダイマー、1個のH鎖及び1個のL鎖からなるダイマー
等が含まれる。該フラグメントは、例えばペプシンやパパイン等のプロテアーゼにより完
全な抗体を消化するか、消化後、必要に応じて還元剤で処理することにより得ることがで
きる。H鎖及びL鎖モノマーは、完全な抗体をジチオスレイトール等の還元剤で処理した
後、精製した鎖状体を分離することにより得ることもできる。更に、ヒトの疾患の診断・
治療に使用可能なようにするためには、これらの抗体をヒト化することも可能である。
【0025】
(試料中のDMP1又はその断片の測定方法)
本発明の上記DMP1の特定の配列部位に対する免疫学的特異抗体は、検査対象者から
採取した生物学的試料、好ましくは非侵襲的に採集した試料におけるDMP1又はその断
片の検出及び/又は定量において有利に利用できる。本発明における非侵襲的な採集とは
、例えば尿、血液、血清又は血漿等の、生物学的流体試料の採集を含む。
【0026】
後述のごとく、本発明の方法及びキットを利用することにより可能となる前記試料中の
DMP1又はその断片の検出・定量結果は、骨細胞が関与する骨質(骨の石灰化の程度、
微小骨折の程度等)の評価、骨・関節関連疾患の診断、又は骨・関節関連疾患の治療に対
する早期からの反応性確認における極めて重要な指標となり得るので、限定的ではないが
、それらの用途において有用である。
【0027】
本発明のDMP1又はその断片の検出・定量は、例えば、競合分析法、直接反応タイプ
分析法、或いはサンドイッチタイプ分析法を基本とするプロトコールに従うことができる
。これらのプロトコールは、典型的には固体支持体を用いるか、或いは免疫沈澱法を利用
することもできる。当該検出のための代表的な手法の1つであるサンドウイッチタイプ分
析法を例にとれば、まず標識化された本発明のいずれかの抗体が用意される。例えば、抗
体は、放射性物質、金コロイド等の着色粒子、蛍光又は化学発光標識、或いは酵素で標識
することができる。抗体の標識の方法としては当業者にとって周知のいかなる方法も採用
することができ、例えば、J.Biochem.vol.11、395〜399頁(19
79)、J.Biochem.vol.14、41〜57頁(1982)、Immuno
fluorescence and Related Techniques、Else
vier/North Holland Biomedical Press、215〜
225頁(1978)に記載の方法を利用することができる。
【0028】
また、サンドウイッチタイプ分析法においては、本発明のいずれかの抗体、好適には上
記の標識化抗体と異なる抗体が固体支持体に固相化される。固相化は、例えば、炭酸緩衝
液(pH8.6前後)に抗体を溶解し、該溶液をマイクロプレートのウェルに添加して所
定時間インキュベートすることで達成できる。要すれば、本発明のいずれかの抗体がウェ
ル底面等の固相支持体のコーティングに用いられてキャプチャー側抗体を提供し、本発明
のいずれかの抗体(好ましくはキャプチャー側抗体と別の抗体)が放射性物質や着色粒子
又は酵素で標識されて検出側抗体を提供する。キャプチャー側抗体を有するウェル内に検
査対象者からの生物学的試料が添加され所定時間インキュベートされた後、該試料がウェ
ルから取り除かれる。好適な緩衝液等によりウェル内を充分に洗浄後、検出側の抗体がウ
ェルに添加される。所定のインキュベーションの後、ウェル内を洗浄し、キャプチャー側
抗体−測定対象物−検出側抗体複合体の生成を検出する。
【0029】
検出は、検出側抗体に標識された標識物質の性質に依存し、放射性標識であれば放射線
量が、着色粒子標識であれば発色量や吸光度が、また酵素標識(ELISA法)であれば
、更に適当な基質をウェルに添加し、所定のインキュベーション後の吸光度が検出される
。なお、ELISA法の例において、用いる酵素には特に制限がなく、例えば西洋ワサビ
ペルオキシダーゼ(HRP)やアルカリ性フォスファターゼ等の酵素が有利に使用される
。西洋ワサビペルオキシダーゼで標識する場合は、当該酵素の基質として3,3’,5,5
’−テトラメチルベンチジン等が利用可能である。アルカリ性フォスファターゼを使用す
る場合は、基質としてp−ニトロフェニル燐酸があげられる。
【0030】
本発明の好適な態様をより具体的に説明すると、本発明のDMP1−1抗体、DMP1
−2抗体又はDMP1−4抗体、或いはそれらの組合せを利用するのが有利である。例え
ば、同一のDMP1のエピトープに対する1種の抗体、異なるDMP1エピトープに対す
る複数の抗体、及びこれらの組合せが使用され得る。
【0031】
本発明の好適な態様の1つであるELISA法では、検出及び/又は定量の結果が酵素
と抗原もしくは抗体との結合に依存し、当該検出・定量の標識として、結合した酵素の活
性を用いる。例えば、本発明の抗体を固相(マイクロプレート又はプラスチック製カップ
等)に固定し、血清等の検体の希釈物とともにインキュベートした後に該固相を洗浄し、
酵素で標識した抗体を加えてインキュベートし、再び該固相を洗浄する。標識化するため
に好適な酵素は、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼである。固相に結合した当該酵素
の活性は、上記で例示した該酵素に特異的な基質を添加し、そして生成物の生成又は基質
の利用率を比色法で測定し抗原濃度に換算される。
【0032】
上記の固相は、好適には、本発明の配列番号2で表されるアミノ酸配列から成るペプチ
ドに対して免疫学的特異性を有する抗体又は配列番号4で表されるアミノ酸配列から成る
ペプチドに対して免疫学的特異性を有する抗体を各プレートに固定し、固相化第1抗体(
キャプチャー側抗体)として準備する。いっぽう、標識化は、本発明の配列番号1で表さ
れるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を有する抗体をHRP標識化
し、標識化第2抗体(検出側抗体)として準備する。DMP1の存在が疑われる試料と該
固相化第1抗体とを接触させ、洗浄の後、標識化第2抗体と接触させ、試料中のDMP1
濃度を測定する。
【0033】
(DMP1又はその断片の測定キット)
免疫診断用に標識された試薬を有するキットは、適切な材料を適当な容器中に包装する
ことによって得られる。この適切な材料には、少なくとも本発明の配列番号1で表される
アミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を有する抗体(DMP1−1抗体
)が含まれ得る。又は、この適切な材料には、少なくとも本発明の配列番号2で表される
アミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を有する抗体(DMP1−2抗体
)が含まれ得る。或いは、この適切な材料には、少なくとも本発明の配列番号1で表され
るアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を有する抗体(DMP1−1抗
体)及び本発明の配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免
疫学的特異性を有する抗体(DMP1−2抗体又はDMP1−4抗体)が組み合わせて含
まれ得る。複数の抗体が組み合わせて含まれる場合、それぞれの抗体が別の容器に入れら
れることが好ましい。また、上記の抗体(複数の抗体が含まれる場合にはそのうちの1つ
抗体)は標識化されていてもよい。
【0034】
更に、適当な場合には、測定キットの適切な材料として、標準DMP1、或いは配列番
号3又は5で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を有する抗
体(DMP1−3抗体又はDMP1−5抗体)が含まれ得る。DMP1−3抗体又はDM
P1−5抗体は、例えば検出結果の比較に用いてもよい。特に好適な本発明のキットの態
様は、配列番号1で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を有
する抗体及び配列番号2で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異
性を有する抗体を組み合わせて含み得る。
【0035】
本発明のキットは、更に所望のアッセイを実施するのに必要な残りの試薬及び材料と、
さらにアッセイの指示書の適当なセットとを含んでよい。ELISA法のためのキットで
は、必要な残りの試薬として、希釈用緩衝液、標識酵素に特異的な基質などが含まれてい
てもよい。
【0036】
(DMP1又はその断片の測定結果の利用)
1.骨・関節関連疾患の診断(予備的判断を含む)への利用
本発明により、試料中、特に検査対象者から採取した生物学的試料中に存在する、骨細
胞が産生したDMP1が検出及び/又は定量されて、その検出・定量結果が、例えば骨細
胞が関与する骨質(骨の石灰化の程度、微小骨折の程度等)の評価、骨・関節関連疾患の
診断、或いは骨・関節関連疾患の治療に対する早期からの反応性確認に利用することがで
きる。
【0037】
本発明により診断される骨・関節関連疾患の非限定的な例には、骨の吸収・形成のバラ
ンスが崩れた疾患である骨粗鬆症、変形性関節症、関節リウマチ、腫瘍誘導性骨軟化症及
びその他の代謝性骨・関節疾患が含まれる。
【0038】
2.骨・関節関連疾患が疑われる患者への骨形成促進剤投与の効果予測
DMP1は骨細胞から産生される物質であり、骨細胞にはPTH受容体が存在すること
から、PTH投与によりDMP1の産生量が変化する可能性がある。したがって、骨・関
節関連疾患、例えば骨粗鬆症、変形性関節症又は関節リウマチが疑われる患者に対して骨
形成促進剤を投与する際に、本発明の測定方法を用いて当該患者由来の試料中のDMP1
又はその断片を検出乃至定量し、又はそれらに対応して変化する指標(例えば骨密度や骨
代謝マーカー等)の変化量を検出して、骨粗鬆症、変形性関節症又は関節リウマチの治療
効果指標と対比することで、骨形成促進剤の治療効果の判断能を確認できる。
【0039】
ここで、骨形成促進剤とは骨芽細胞に作用して骨形成機能を促進する物質の総称であり
、副甲状腺ホルモン(PTH)並びにカルシウムセンシング受容体拮抗剤、例えばACS
Med.Chem.Lett.,2011;2:238−242に記載のJTT−30
5やBone,2010;46:534−542に記載のSB−423557などの化合
物を例示できるが、当業者において、骨芽細胞に作用して骨形成機能を促進する作用を有
することが知られている物質であれば当該例示のものに何ら限定されない。
【0040】
なお、本発明のPTHは、天然型のPTH、遺伝子工学的手法で製造されたPTH、化
学的に合成されたPTHを包含し、好ましくは84個のアミノ酸から成るヒトPTH(ヒ
トPTH(1−84))を含む。また、本発明におけるPTHの用語には生物学的に活性
なその誘導体も含まれる。すなわち、当該誘導体は生理学上活性なPTHフラグメントや
それらの改変体であり得、例えば前記のPTHの部分ペプチドや、PTHそのもの若しく
はその部分ペプチドの構成アミノ酸を一部他のアミノ酸に置換したもの、PTHそのもの
若しくはその部分ペプチドの構成アミノ酸の一部を欠失したもの、およびPTHそのもの
若しくはその部分ペプチドに1種以上のアミノ酸を付加したペプチドなどで、天然型PT
Hの持つ全ての生物活性または一部の生物活性を有するペプチドであり得る。当該PTH
誘導体のより具体的な例としては、例えばヒトPTH(1−34)、ヒトPTH(1−3
1)、ヒトPTH(1−36)、ヒトPTH(1−64)、ヒトPTH(35−84)、
ヒトPTH(1−14)、ウシPTH(1−34)などが挙げられる。
【0041】
特に、PTH(1−34)は、副甲状腺ホルモンのN末端から34アミノ酸までの34
個のアミノ酸から成る副甲状腺ホルモンフラグメントに対応するものであるが、天然型P
THの生物活性は、このPTH(1−34)によって再現されることが知られており(生
化学辞典、東京化学同人、1984)、臨床的にも副甲状腺機能の診断薬や骨粗鬆症に対
する治療薬として使用されている。従って、本発明におけるPTHの好ましい例としては
、ヒトPTH(1−84)、ヒトPTH(1−34)、ヒトPTH(1−37)、ヒトP
TH(1−38)、ヒトPTH(1−34)−NHなどが挙げられ、さらに好ましくは
ヒトPTH(1−84)またはヒトPTH(1−34)が挙げられる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例をあげて、本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例により本
発明は限定されるものではない。
【0043】
(特異抗体の取得)
1.DMP1の作製
ヒトDMP1は、手術により摘出された骨組織の一部からRNAを抽出して、逆転写酵
素によりcDNAを合成し、得られたcDNAを用いた組換細胞技術に基づき生産及び精
製した。具体的には、ヒトDMP1cDNAの停止コドンを除きHis tag配列を付
加したcDNAをpGEX−6p−1(ファルマシア社)に挿入した。常法にもとづき大
腸菌にてGST及びHis−tag融合ヒトDMP1タンパクを発現させた。GST及び
His−tag融合ヒトDMP1タンパクはグルタチオンセファロース4B(ファルマシ
ア社)、Ni−NTAアガロース(Qiagen社)を用いた製造元マニュアルに準じた
方法で精製した。
【0044】
2.抗原の調製
配列番号1、2、3、4及び5のアミノ酸配列からなるペプチドを、公知のヒトDMP
−1配列に基づきアメリカンペプチド社へ合成依頼した(但し、以下で説明するサイログ
ロブリンとの結合体を作製する際には、配列番号1、3及び4のN末端、並びに配列番号
2のC末端にシステイン残基を付加した。)。
得られたペプチドとウシサイログロブリンとの結合体を常法に従いEMCS法によって
以下のように作製した。各ペプチドを、それぞれ1mlの蒸留水に溶解した。一方、リン
酸緩衝液で溶解したウシサイログロブリン5mg/mlとジメチルホルムアミドで溶解し
たEMCSとをそれぞれ上記モル相当量になるように混合し、サイログロブリン−EMC
S複合体溶液を作製した。この複合体溶液を上記ペプチド溶液に上記モル相当量加えるこ
とにより、EMCSで架橋された各ペプチドとウシサイログロブリンとの結合体を作製し
た。得られた結合体を抗原として以下の実験に用いた。
【0045】
3.抗体の作製
調製した抗原で、JW系ウサギ各3羽を免疫した。免疫は約2週間おきにペプチド10
0μg相当量の抗原を投与することにより行った。抗原は初回免疫のみフロイント完全ア
ジュバントと混合し、2回目からはフロイント不完全アジュバントと混合した。8回免疫
後、全採血を行い、血清を分離した。得られたウサギ抗血清を、前記の合成ペプチドを特
異抗原として固定化させたチオールセファロースゲルと4℃で1晩混合し、反応させた。
ゲルをカラムに充填した後、PBSで未反応の成分を洗浄し除去した。280nmにてタ
ンパク質の溶出位置をモニターしながら、0.2Mクエン酸緩衝液にて抗体をカラムから
溶出した。溶離した抗体溶液に対して、トリス緩衝液を添加して中和した。得られた各抗
体DMP1−1、DMP1−2、DMP1−3、DMP1−4及びDMP1−5を精製抗
体とした。
【0046】
4.抗体の特異性の確認
得られた各精製抗体の抗原特異性を以下の方法によって確認した。DMP1を96穴プ
レートに濃度1μg/mL(50ng/well)で4℃、一晩放置し、ブロッキング液
(BSA)を加えたプレートとDMP1を加えずにブロッキング液のみを加えたプレート
を調製した。各プレートを洗浄し、10μg/mlから2倍連続希釈した精製抗体を加え
0.5時間反応させた後、0.05%Tween20含有PBで洗浄した。さらにHRP
標識抗ウサギ二次抗体を各ウェルに添加し反応させた後、0.05%Tween20含有
PBで洗浄した。この各ウェルに基質(OPD)を加え発色させ、490nmで吸光度を
測定し、DMP1吸着ウェルと非吸着ウェルの吸光度を比較した。その結果、いずれの抗
体もDMP1抗原に特異的に結合することが確認された。
【0047】
5.サンドイッチELISA
取得された特異的抗体のうち、DMP1−2、DMP1−3、DMP1−4及びDMP
1−5を0.1M炭酸緩衝液で20μg/mlに調製して96穴のELISA用プレート
に0.1ml分注し、4℃で一晩静置して固相化抗体を作製した。プレートをPBSで2
回洗浄した後、1%BSA含有PBSを0.2ml加え4℃で16時間静置して非特異吸
着のブロッキングを行った。再度洗浄液で2回洗浄した後、1%BSA,0.05%Tw
een20含有PBSに溶解した320pMのDMP1溶液を、1%BSA,0.05%
Tween20含有PBSで160pMから2.5pMに希釈し、0.1mlを添加して
37℃で1時間反応させた。洗浄液で7回洗浄した後、1%BSA,0.05%Twee
n20含有PBSに溶解した西洋ワサビパーオキシダーゼ(HRP)標識化DMP1−1
抗体を0.1mlづつ分注し、4℃で30分間反応させた。洗浄液で9回洗浄後、TMB
基質液(発色液)を0.1ml加え、室温暗所にて30分間酵素反応を行った。停止液(
1N HSO)を加えて反応を停止し、450nmの吸光度を測定した(図2参照)

【0048】
いずれの組み合わせにおいても吸光度とDMP1濃度の間で直線性が認められたことか
ら、両者の相関性が確認された。一方、吸光度の値から、測定感度はDMP1−1及びD
MP1−2抗体の組合せが最も高く、以下DMP1−1及びDMP1−4抗体の組合せ、
DMP1−1及びDMP1−3抗体の組合せの順であり、DMP1−1及びDMP1−5
抗体の組合せは最も感度が低かった。
【0049】
6.添加回収率
次に、血清、血漿(EDTA処理、Heparin処理)、尿に異なる濃度のDMP1
を添加した試料を用い、上記のサンドイッチELISAによってDMP1濃度を測定し、
理論値との対比から回収率を算出した(表1参照)。回収率はDMP1−1及びDMP1
−2抗体の組合せが最も高かった。DMP1−1及びDMP1−5抗体の組合せは最も回
収率が悪く、DMP1−1及びDMP1−3抗体の組合せ、DMP1−1及びDMP1−
4抗体の組合せはその中間に位置していた。
【0050】
以上の結果から、DMP1−1及びDMP1−5の組み合わせは他の組み合わせに比較
して血清、血漿及び尿成分の影響をより強く受け、定量性が劣ることが示唆される。
【表1】

【0051】
次に、健常人から得られた血清、血漿(EDTA処理又はHeparin処理)、尿を
試料とし、DMP1の組合せ別の吸光度を測定した(表2参照)。吸光度の高さから、D
MP1−1及びDMP1−2抗体の組合せが最も感度が高く、以下DMP1−1及びDM
P1−4抗体の組合せ、DMP1−1及びDMP1−3抗体の組合せの順であり、DMP
1−1及びDMP1−5抗体の組合せは吸光度の反応性が最も低かった。また、DMP1
−1及びDMP1−5の組合せでは全ての採取試料において希釈倍率に応じた吸光度の変
化の直線性も認められなかった。
【表2】

【0052】
上記の結果から、DMP1−1抗体とDMP1−2抗体、DMP1−3抗体又はDMP
1−4抗体との組合せによりDMP1が測定され、DMP1−1とDMP1−2抗体の組
合せにおいて特に高感度で測定し得ることが確認された。またDMP1−1抗体とDMP
1−2抗体の組合せでは、血清、血漿及び尿成分の影響を受けず、この点においても当該
抗体の組合せが、検体中のDMP1の測定に最も適した組合せと考えられた。
【0053】
7.参考例 −抗ラットDMP1抗体による測定−
特許文献1に記載された抗ラットDMP1抗体(M176抗体)の同等品を作製し、ヒ
トDMP1の測定を実施した。
方法として、抗ラットDMP1並びに抗ヒトDMP1の1−2及び1−4抗体(ウサギ
IgG 1μg/well/100μL)をプレートに固定し(固相プレート)、標準
品としてラット又はヒトDMP1の0.156〜10ng/mLを添加し、標識抗体とし
て、Biotin化抗ラットDMP1−1抗体(Takara市販Code.M716同
等品、ウサギ IgG)を用い、発色の有無を確認した。なお、実験条件は下記の通りと
した。
1)標準品を固相抗体プレートに100μl/well添加(37℃ 30min)
2)Biotin化抗体を1μg/wellに調整し100μl/well添加(37
℃ 30min)
3)Avidin−HRP 100μl/well添加 (37℃ 30min)
4)TMB(発色基質)100μl/well添加 遮光(室温 30min)
5)吸光度(A450)測定
その結果、以下の表3の通り、固相プレートに抗ラットDMP1抗体を用い、標識抗体
に抗ラットDMP1−1抗体用いると、ラットのDMP1標準品での発色は確認されたも
のの、ヒトのDMP1標準品での発色は確認されず、サンドイッチELISAは成立しな
かった。また、固相プレートに抗ヒトDMP1抗体を用いても、標識抗体に抗ラットDM
P1−1抗体用いると、ヒトのDMP1標準品での発色は確認されず、サンドイッチEL
ISAは成立しなかった。そして、前記「4.抗体の特異性の確認」の実験結果のとおり
、固相プレートが抗ヒトDMP1抗体で、標識抗体が抗ヒトDMP1−1抗体であった場
合には、ヒトDMP1標準品でのサンドイッチELISAが成立することが確認されてい
るから、ラットDMP1抗体でヒトDMP1は検出できないことが確認された。
【表3】

【0054】
8.健常人の加齢変化確認
本発明のDMP1−1及びDMP1−2抗体の組合せによるサンドイッチELISA法
で、健常成人男性の血清試料中のDMP1濃度を測定し、年齢別にプロットした結果を図
3に示した。健常男性におけるDMP1濃度は、20歳から40歳に向けて低下し、その
後、低下状態が持続していた。この加齢変化はD.VashishthらのBone,V
ol.26,No.4,2000:375−380、及びS.QiuらのBone,Vo
l.31,No.2,2002:313−318に示された、侵襲的に採取された骨で確
認された、骨細胞数及び骨細胞が存在する骨小腔密度の加齢変化と近似しており、DMP
1測定によりこれらを近似的に測定しうることが確認された。
【0055】
次に、DMP1−1及びDMP1−2抗体の組合せによるサンドイッチELISA法で
測定した、健常成人女性におけるDMP1濃度の年齢別のプロットを図4に示した。DM
P1濃度は20歳から40歳までは、健常成人男性と同様に低下したものの、45歳以降
では経時的に上昇した。これは女性特有の現象である、閉経後の急速な骨吸収の増加を反
映しているものと考えられた。この加齢変化は、M.IkiらのOsteoporos
Int.,15,2004:981−991における、骨の破壊(骨吸収)に伴って放出
されるマーカーの加齢変動の成績と一致しているものの、その変化率はDMP1がより大
きかった。その理由として、骨に蓄積されたDMP1が骨の吸収に伴って放出されるとと
もに、骨細胞そのものの数や質が変化することでDMP1の血中濃度がより高く上昇して
いると考えている。
【0056】
上記で、健常成人女性で確認された、加齢に伴うDMP1の上昇状態が骨吸収の亢進に
よる骨基質タンパクの分解産物(骨の破壊(骨吸収)に伴って放出されるマーカー)の変
動に比較して大きく変動する要因として骨細胞の存在部位が影響している可能性がある。
すなわち、骨細胞の多くは海綿骨ではなく皮質骨に存在する。また全身の骨の90%以上
は皮質骨であり、海綿骨の量的比率は小さい。閉経後に骨代謝回転が亢進した際に、海綿
骨も皮質骨も骨吸収亢進により骨基質タンパクの分解産物は血中、尿中に増加する。骨基
質タンパクの存在に海綿骨も皮質骨の差はないが、骨細胞は皮質骨に極めて密度高く存在
する。全身骨の量としては皮質骨が比率として多いことより、皮質骨の吸収に伴う多数の
骨細胞の破壊に伴う上昇を強く反映していることが影響していることが示唆される。
【0057】
よってDMP1の測定の臨床的有用性は、従来のマーカーよりも鋭敏に骨吸収の変化を
とらえ、さらに、これまで知られていなかった加齢に伴う骨特性を反映する診断マーカー
となることが期待できる。さらに、骨を介して、暦年齢ではない、個々の肉体年齢を評価
することが可能となり、国民の健康寿命を保つ予防医学に利用できる。
【0058】
9.骨・関節関連疾患罹患状態の確認
DMP1−1及びDMP1−2抗体の組合せによるサンドイッチELISA法で、関節
リウマチ患者の血清中DMP1濃度を測定し、健常男性及び健常女性の血清試料中のDM
P1濃度との対比を行った結果を図5及び図6に示した。関節リウマチ患者の血清中DM
P1濃度は、健常人に比し、男性、女性とも有意に低値であった(P<0.001)。
【0059】
10.骨・関節関連疾患罹患の診断
関節リウマチ患者をケース、健常者を非ケースとして、DMP1−1及びDMP1−2
抗体の組合せによるサンドイッチELISA法で得られたDMP1濃度を用い、感度・特
異度分析を行った(表4参照)。各男性、女性ともDMP1によるAUCはいずれも0.
9を超えており、かつそれぞれのカットオフ値において感度・特異度とも0.8を超える
ことから、DMP1による関節リウマチの診断能は極めて高いことが確認された。
【表4】

【0060】
以上より、本発明の測定方法にて患者の試料を測定することにより、患者が関節リウマ
チか否かが判断できた。同様に実施すれば、骨粗鬆症や変形性関節症であるか否かの判断
ができると当業者は容易に理解できる。
【0061】
11.骨・関節関連疾患罹患治療剤の効果の予測
DMP1は骨細胞から産生される物質であり、骨細胞にはPTH受容体が存在すること
から、PTH投与によりDMP1の産生量が変化する可能性がある。骨粗鬆症、変形性関
節症または関節リウマチが疑われる患者に対し、PTH及び/又はカルシウムセンシング
受容体拮抗剤等の骨形成促進剤を投与した場合に、配列番号1のアミノ酸配列を認識する
抗体と、配列番号2のアミノ酸配列を認識する抗体とを用いて、該試料中のDMP1及び
/またはその断片、またはそれらに対応して変化する指標の変化量検出し、骨粗鬆症、変
形性関節症または関節リウマチの治療効果指標と対比することで、骨形成促進剤の治療効
果の判断能を確認できる。
以上の実験を行うことにより、骨粗鬆症、変形性関節症または関節リウマチのそれぞれ
の患者において、骨形成促進剤を投与した場合のそれぞれの疾患に対する治療効果の程度
が予測されることが確認されると考えられる。
なお、本発明の測定方法や判断においては、DMP1の濃度を直接に算出する方法を上
記に例示したが、DMP1及び/又はその断片に対応する何らかの他の指標(例えば、吸
光度など)により判断しても同様に実施できることは言うまでもないことである。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のDMP1又はその断片の測定方法及びキットを用いることで、非侵襲的なヒト
の骨質の正確な評価が可能となることなどから、本発明は、医療機器産業分野等において
利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のDMP1又はその断片の測定方法であって、配列番号1で表されるアミノ酸配
列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を有する抗体と、配列番号2で表されるアミ
ノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を有する抗体との組み合わせを用いて
該試料中のDMP1又はその断片を測定することを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記測定方法がサンドイッチELISA法である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
配列番号2で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を有する
抗体を固相化した固相と、配列番号1で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して
免疫学的特異性を有する抗体を標識した標識化抗体とを用いることを特徴とする、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記標識が西洋ワサビパーオキシダーゼである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
配列番号1で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を有する
抗体及び配列番号2で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を
有する抗体の少なくとも一方がポリクローナル抗体である請求項1乃至4のいずれかに記
載の方法。
【請求項6】
配列番号1で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を有する
抗体及び配列番号2で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を
有する抗体の少なくとも一方がモノクローナル抗体である請求項1乃至4のいずれかに記
載の方法。
【請求項7】
前記試料が、尿、血液、血清及び血漿からなる群から選択される、請求項1乃至6のい
ずれかに記載の方法。
【請求項8】
配列番号1で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を有する
抗体及び配列番号2で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を
有する抗体を含む、DMP1又はその断片の測定キット。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれかに記載された測定方法に用いるための、列番号1で表される
アミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を有する抗体及び/又は配列番号
2で表されるアミノ酸配列から成るペプチドに対して免疫学的特異性を有する抗体を含む
、DMP1又はその断片の測定キット。
【請求項10】
患者由来の試料中のDMP1又はその断片を測定することにより、該患者が骨粗鬆症、
変形性関節症又は関節リウマチであるか否かを診断するために用いる、請求項8又は9に
記載の測定キット。
【請求項11】
前記診断が、健常人並びに骨粗鬆症、変形性関節症及び関節リウマチと診断された患者
におけるそれぞれの平均的なDMP1又はその断片の検出程度を予め測定しておき、それ
らの検出程度と対象とする患者の当該検出程度を比較することを含む、請求項10に記載
の測定キット。
【請求項12】
骨粗鬆症、変形性関節症又は関節リウマチが疑われる患者由来の試料中のDMP1又は
その断片を測定することにより、該患者に骨形成促進剤を投与した際の前記疾患に対する
治療効果を予測するために用いる、請求項8又は9に記載の測定キット。
【請求項13】
前記予測が、健常人並びに骨粗鬆症、変形性関節症及び関節リウマチと診断された患者
におけるそれぞれの平均的なDMP1又はその断片の検出程度を予め測定しておき、それ
らの検出程度と対象とする患者の当該検出程度を比較することを含む、請求項12に記載
の測定キット。
【請求項14】
前記骨形成促進剤がPTH又はカルシウムセンシング受容体拮抗剤である請求項12又
は13に記載の測定キット。
【請求項15】
更に、配列番号3、配列番号4又は配列番号5で表されるアミノ酸配列から成るペプチ
ドに対して免疫学的特異性を有する抗体、或いはそのうちの二つ以上を含む、請求項8乃
至14のいずれかに記載の測定キット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−3066(P2013−3066A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136885(P2011−136885)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(303046299)旭化成ファーマ株式会社 (105)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】