説明

EMI測定装置及びEMI測定方法

【課題】測定を小型の電波暗室内で短時間に行うことができ、しかも、妨害電磁波の放射源の特定も可能なEMI測定装置及びEMI測定方法を提供する。
【解決手段】EUT1を載せたターンテーブル2とターンテーブルコントローラ3とアンテナ4と回転機構5とアンテナコントローラ6と測定器7とコンピュータ8と演算機構9とを備える。ターンテーブル2がEUT1を回転させ、アンテナ4が妨害電磁波をEUT1近傍で直接受信する。アンテナ4は回転中心軸Mを含む平面PN上の円弧L上で回転する。測定器7はアンテナ4で受信した妨害電磁波の強度を測定し、コンピュータ8は測定器7からの合成振幅値HEと位相値Δと球面座標とを演算機構9に送る。演算機構9は、コンピュータ8からのデータに基づき、仮想の円筒座標上の妨害電磁波強度を演算する。レイトレース法による電界強度の推定演算が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子機器等の被試験物(EUT)から放射される妨害電磁波(EMI)を自動的に測定するためのEMI測定装置及びEMI測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては、例えば、特許文献1に開示のEMI(Electro Magnetic Interference)測定方法がある。
図6は、特許文献1に開示の測定方法を示すブロック図である。
図6に示すように、この方法では、まず、被試験物(EUT:Equipment Under Test)110を、国際無線障害特別委員会(CISPR:Comite International Special des Perturbations Radioelectriques)の規格で規定された電波暗室内等に設置されたターンテーブル100に載置すると共に、垂直昇降式のアンテナ101を、被試験物110からCISPR規格で定められた距離(3m又は10m)だけ離れた位置に配置する。そして、パーソナルコンピュータ(PC)102の制御によって、ターンテーブルコントローラ103でターンテーブル100を回転させると共に、アンテナコントローラ104により、アンテナ101の高さ位置を調整する。これにより、測定器105とPC102とによって、被試験物110を囲む半径3m又は10mの円筒面上の水平及び垂直電磁界を自動測定する。
【0003】
【特許文献1】特開2001−324524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記した従来の技術では、次のような問題がある。
すなわち、上記従来の技術では、図7に示すように、被試験物110を囲む半径3m又は10mで高さ3mの円筒面Sの上の電磁界データを測定する必要があるので、電波暗室111をこの円筒面Sを含む大きさに作らなければ成らず、暗室作成コストが高くつく。
また、アンテナ101による走査範囲が、半径3m又は10mで高さ3mという大きな円筒面Sであるので、測定に長時間を要する。
さらに、被試験物110からの妨害電磁界強度の総量を測定する構成であるので、この方法のみでは、妨害電磁波の放射源を特定することができず、放射源特定用の別の装置や作業が必要となり、その分コストアップに繋がる。
【0005】
この発明は、上述した課題を解決するためになされたもので、測定を小型の電波暗室内で短時間に行うことができ、しかも、妨害電磁波の放射源の特定も可能なEMI測定装置及びEMI測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1の発明に係るEMI測定装置は、載置された被試験物を回転させるためのターンテーブルと、このターンテーブル上の被試験物の近傍に配され被試験物からの妨害電磁波を直接受信するためのアンテナと、被試験物を中心とする円弧であって且つターンテーブルの回転中心軸を含む平面上の円弧に沿って、アンテナを回転させるための回転機構と、ターンテーブルの回転を制御するためのターンテーブルコントローラと、アンテナの回転範囲を回転機構を介して制御するためのアンテナコントローラと、アンテナで受信した妨害電磁波の強度を測定するための測定器と、この測定器からの妨害電磁波の測定強度と、当該測定時における被試験物の回転角度,アンテナの回転角度及び円弧の半径で決定される球面座標点とに基づき、円弧の半径よりも大きな半径上に設定された所定の曲面座標において、球面座標点を通った妨害電磁波が至るであろう曲面座標点と、この曲面座標点における妨害電磁波の強度とを演算する演算機構とを具備する構成とした。
かかる構成により、ターンテーブルコントローラの制御で、被試験物を載置したターンテーブルを回転させると共に、アンテナコントローラの制御で、被試験物を中心とする円弧であって且つターンテーブルの回転中心軸を含む平面上の円弧に沿って、アンテナを回転させることができる。そして、被試験物の近傍に配されたアンテナが、被試験物からの妨害電磁波を直接受信し、測定器がアンテナで受信した妨害電磁波の強度を測定する。すると、演算機構が、測定器からの妨害電磁波の測定強度と、当該測定時における被試験物の回転角度,アンテナの回転角度及び円弧の半径で決定される球面座標点とに基づき、円弧の半径よりも大きな半径上に設定された所定の曲面座標において、球面座標点を通った妨害電磁波が至るであろう曲面座標点と、この曲面座標点における妨害電磁波の強度とを演算する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載のEMI測定装置において、所定の曲面座標は、CISPR規格の半径と高さとを有した円筒座標である構成とした。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載のEMI測定装置において、妨害電磁波の強度は、電界成分又は磁界成分のいずれか又は双方の強度である構成とした。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のEMI測定装置において、演算機構は、レイトレース法によって、妨害電磁波が至るであろう曲面座標点と、この曲面座標点における妨害電磁波の強度とを演算する構成とした。
【0010】
また、請求項5の発明に係るEMI測定方法は、被試験物を回転させながら、この被試験物の近傍に配されたアンテナを、被試験物を中心とする円弧であって且つ被試験物の回転中心軸を含む平面上の円弧に沿って回転させる回転過程と、この回転過程実行時に、アンテナによって、被試験物からの妨害電磁波を直接受信する受信過程と、この受信過程で受信した妨害電磁波の強度を測定する測定過程と、この測定過程で得た妨害電磁波の測定強度と、当該測定時における被試験物の回転角度,アンテナの回転角度及び円弧の半径で決定される球面座標点とに基づき、円弧の半径よりも大きな半径上に設定された所定の曲面座標において、球面座標点を通った妨害電磁波が至るであろう曲面座標点と、この曲面座標点における妨害電磁波の強度とを演算する演算過程とを具備する構成とした。
かかる構成により、回転過程の実行により、回転する被試験物の近傍に配されたアンテナが、被試験物を中心とする円弧であって且つ被試験物の回転中心軸を含む平面上の円弧に沿って回転し、受信過程によって、被試験物からの妨害電磁波がアンテナによって直接受信される。そして、測定過程によって、この受信過程で受信した妨害電磁波の強度が測定される。すると、演算過程が実行され、測定過程で得た妨害電磁波の測定強度と、当該測定時における被試験物の回転角度,アンテナの回転角度及び円弧の半径で決定される球面座標点とに基づき、円弧の半径よりも大きな半径上に設定された所定の曲面座標において、球面座標点を通った妨害電磁波が至るであろう曲面座標点と、この曲面座標点における妨害電磁波の強度とが演算される。
【0011】
請求項6の発明は、請求項5に記載のEMI測定方法において、所定の曲面座標は、CISPR規格の半径と高さとを有した円筒座標である構成とした。
【0012】
請求項7の発明は、請求項5又は請求項6に記載のEMI測定方法において、演算過程では、レイトレース法によって、妨害電磁波が至るであろう曲面座標点と、この曲面座標点における妨害電磁波の強度とを演算する構成とした。
【0013】
請求項8の発明は、請求項5ないし請求項7のいずれかに記載のEMI測定方法において、受信過程を実行する際に、被試験物からの妨害電磁波の反射波がほとんど存在しない環境を設定し、又は、妨害電磁波の反射波を除去する手段をとる構成とした。
【発明の効果】
【0014】
以上詳しく説明したように、この発明によれば、被試験物の近傍に配されたアンテナで、被試験物からの妨害電磁波を直接受信するので、大型電波暗室を必要としない。したがって、従来技術のような大型の電波暗室を必要とせず、小型の電波暗室や実験室で測定することができ、この結果、測定試験にかかる費用の大幅なコストダウンを図ることができるという優れた効果がある。
また、アンテナを被試験物の近傍に配した状態で、被試験物を回転させると共に、アンテナを被試験物を中心とする円弧であって且つターンテーブルの回転中心軸を含む平面上の円弧に沿って回転させながら測定するので、アンテナ走査面積(走査範囲)が、従来技術のアンテナ走査面積(走査範囲)に比べて大幅に狭くなり、この結果、測定時間の大幅な短縮が可能となる。
また、かかる走査により、球面座標上の各座標点とその座標点における妨害電磁波強度の測定が可能となるので、いわゆる3次元の放射パターンの解読が可能となる。この結果、妨害電磁波の被試験物における放射源を特定することができる。この結果、妨害電磁波放射の減少対策を容易且つ安価に行うことができ、妨害電磁波を減少させる作業の円滑化と更なるコストダウンとを図ることができる。
また、アンテナ走査面積が、従来技術に比べて大幅に狭くなるので、同じ測定時間における測定サンプル数の増加を図ることができ、この結果、測定精度の向上を図ることができる。
さらに、着目した周波数毎に放射パターン特性を得ることもできる。
【0015】
特に、請求項2及び請求項6の発明によれば、所定の曲面座標を、CISPR規格の半径と高さとを有した円筒座標に設定したので、CISPR規格に準じた妨害電磁波の予備測定が可能となる。
また、請求項8の発明によれば、測定に不要な反射妨害電磁波がなくなるので、さらに測定精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の最良の形態について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、この発明の第1実施例に係るEMI測定装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、このEMI測定装置は、被試験物(以下、「EUT」と記す。)1が載置されたターンテーブル2とターンテーブルコントローラ3とアンテナ4と回転機構5とアンテナコントローラ6と測定器7とコンピュータ8と演算機構9とを備えている。
【0018】
ターンテーブル2は、EUT1を回転中心軸Mの周りで回転させるためのテーブルであり、電波暗室10の床部11とほぼ面一に配されている。なお、この実施例では、EUT1を、ターンテーブル2上に固定された高さhの台座20上に載置した。
ターンテーブルコントローラ3は、ターンテーブル2の回転を制御する部分であり、コンピュータ8の指令に従って動作する。
【0019】
アンテナ4は、ターンテーブル2上のEUT1から放射される妨害電磁波を直接受信するためのアンテナである。具体的には、アンテナ4は、EUT1の妨害電磁波の電界及び磁界の合成振幅と位相とを測定可能なプローブ状のアンテナであり、回転機構5の回転シャフト50の先端部に取り付けられている。
回転機構5は、回転シャフト50を用いてアンテナ4を回転させる機構である。そして、アンテナコントローラ6は、この回転機構5の動作を制御して、アンテナ4の回転範囲を決定する部分であり、コンピュータ8の指令に従って動作する。
【0020】
上記のように、EUT1やアンテナ4の回転制御は、コンピュータ8の指令によって、ターンテーブルコントローラ3やアンテナコントローラ6がターンテーブル2や回転機構5を介して行うようになっている。ここで、このEUT1とアンテナ4の回転制御について、具体的に説明しておく。
図2は、ターンテーブル2とアンテナ4の回転を示す平面図であり、図3は、図2の矢視A−A側面図である。
ターンテーブルコントローラ3は、図2に示すように、ターンテーブル2を連続的に回転させ、EUT1をターンテーブル2の回転中心軸Mの周りで360°回転させる。
一方、回転機構5は、アンテナ4をEUT1を中心とする円上に回転させる。すなわち、回転機構5は、図3に示すように、回転中心軸Mを含む平面PN上の円Cに沿って、アンテナ4を回転させる機構である。
アンテナコントローラ6は、アンテナ4の回転範囲に制限を加えるように回転機構5を制御する。すなわち、EUT1の中心水平線L′から角φ1だけ上の位置に上端を有し且つ中心水平線L′から角φ2だけ下の位置に下端を有した円弧であって、EUT1の近傍に位置した円弧L上を、アンテナ4が回転するように、アンテナ4を制御する。この結果、アンテナ4は、EUT1を中心とする円弧Lであって且つターンテーブル2の回転中心軸Mを含む平面PN上の円弧L上だけを動くこととなる。
【0021】
図1において、測定器7は、アンテナ4で受信したEUT1の妨害電磁波の強度を測定するための機器である。具体的には、測定器7は、ネットワークアナライザであり、アンテナ4で受信した妨害電磁波の電界及び磁界の合成振幅HEと位相Δとを数値化してコンピュータ8に送る機能を有する。
【0022】
コンピュータ8は、ターンテーブルコントローラ3とアンテナコントローラ6とに指令を与えると共に、現時点でのEUT1とアンテナ4の回転角度をそれぞれターンテーブルコントローラ3とアンテナコントローラ6とから受け、これらの回転角度とアンテナ4の回転半径とに基づいて、座標データを作成する機能を有する。具体的には、この座標データは、EUT1の回転中心軸M周りの回転角θとアンテナ4のEUT1周りの回転角φとアンテナ4の既知回転半径r(図3参照)とを成分とする球面座標B(r,θ,φ)である。そして、コンピュータ8は、現時点での合成振幅HEと位相Δとの各数値を測定器7から受け、これら合成振幅値HEと位相値Δと作成した球面座標B(r,θ,φ)とを演算機構9に入力する機能を有している。
【0023】
演算機構9は、コンピュータ8からの合成振幅値HEと位相値Δと作成した球面座標B(r,θ,φ)とに基づいて、仮想の曲面座標上における妨害電磁波の強度を演算する機能を有する。
図4は、演算機構9の演算機能を説明するための概略図である。
この実施例のEMI測定装置は、CISPR規格の条件下で、EUT1の妨害電磁波の強度を予備測定する装置であるので、仮想の曲面座標は、円筒座標Sであり、その半径R,高さHは、CISPR規格の3m(又は10m),3mにそれぞれ設定されている。
かかる条件下においては、図4に示すように、球面座標Bの点P1,P2を通る妨害電磁波Vは、円筒座標Sの点P12,P20にそれぞれ至るものと推定される。また、球面座標点P3,P4を通る妨害電磁波Vは、それぞれ電波暗室10の床部11で反射して、円筒座標点P30,P12に至るものと推定される。
演算機構9は、仮想の円筒座標S上の点P12,P20,P30の座標と各点における電界の強さを、点P1〜P4の座標と各点の合成振幅値HEと位相値Δとに基づいて演算するもので、レイトレース法を用いて推定演算する機能を有する。
レイトレース法は、幾何光学的理論に基づき、送信点から受信点へ到達する電波を追跡することにより、受信点の電界強度等を推定する技術である。演算機構9は、上記球面座標B上の点P1〜P4等を送信点とし、円筒座標S上の点P12等を受信点として、かかるレイトレース法を用いるが、レイトレース法は周知の技術であるので、その説明は省略する。
なお、図1において、符号40は、位相基準用のアンテナである。
【0024】
次に、この実施例のEMI測定装置が示す作用及び効果について説明する。
なお、このEMI測定装置が示す作用は、この発明のEMI測定方法を具体的に実行するものでもある。
この実施例では、CISPR規格に従い、図4に示す台座20の高さhを80cmに設定すると共に、アンテナ4の回転半径r(図3参照)を1mに設定した。また、高さHが3mの円筒座標Sを床部11からの高さ1mの位置に設定すると共に、EUT1からの半径Rを3mに設定した。そして、アンテナ4の回転軌跡である円弧Lの角φ1を+46.5°に設定する共に、角φ2を−58°に設定した(図3参照)。なお、台座20の高さhは、CISPR規格の80cmである必要はなく、80cm未満の高さでもよい。
【0025】
このEMI測定装置を用いた測定は、回転過程と受信過程との実行によって始まる。すなわち、図3において、例えば、アンテナ4を円弧Lの最上端に位置させた状態で、EUT1からの妨害電磁波Vをアンテナ4で受信させながら、図1に示すコンピュータ8の指令によるターンテーブルコントローラ3の制御によって、ターンテーブル2を360°回転させ、EUT1を回転中心軸Mの周りに360°回転させる。そして、EUT1を360°回転させた後、アンテナコントローラ6の制御による回転機構5によって、アンテナ4を円弧Lに沿って所定角φだけ下方に回転させる。しかる後、アンテナ4をかかる位置に維持した状態で、EUT1からの妨害電磁波Vをアンテナ4で受信させながら、EUT1を回転中心軸Mの周りにさらに360°回転させる。このように、EUT1の360°回転と円弧Lに沿ったアンテナ4の回転移動とを、アンテナ4が円弧Lの最下端に位置するまで繰り返す。
【0026】
図5は、アンテナ4が走査する球面座標Bと推定される円筒座標Sとの関係を示す概略斜視図である。
上記のように、EUT1とアンテナ4との回転を制御することで、アンテナ4は、図5に示すように半径rが1mで円弧Lの幅の球面座標B全体を相対的に走査することとなる。そして、半径1mというEUT1近傍で受信した妨害電磁波Vの電界及び磁界の合成振幅HEと位相Δとがアンテナ4から測定器7に送られる。すると、測定過程が実行され、測定器7が合成振幅HEと位相Δとを数値化して、その合成振幅値HEと位相値Δとをコンピュータ8に送る。
これと平行して、各球面座標点を示すEUT1の回転角θとアンテナ4の回転角φとがターンテーブルコントローラ3とアンテナコントローラ6からコンピュータ8に送られるので、コンピュータ8は、これらの回転角に基づいて、各球面座標点P(r,θ,φ)を作成し、測定器7からの合成振幅値HEと位相値Δと球面座標点P(r,θ,φ)とを演算機構9に入力する。
【0027】
すると、演算機構9において、演算過程が実行される。
すなわち、レイトレース法によって、球面座標の各座標点P(r,θ,φ)を通る妨害電磁波Vは、円筒座標Sの座標点P′(R,θ,z)(zは高さ)に至るものと推定されると共に、この座標点P′(R,θ,z)における妨害電磁波Vの電界強度が推定演算される。
【0028】
このように、この実施例のEMI測定装置によれば、妨害電磁波Vを半径1mというEUT1近傍で直接受信する構成であるので、電波暗室10の体積も小さくて済み、装置のコストダウンを図ることができる。
また、アンテナ4は、半径1mで円弧Lの幅の球面座標Bを走査するので、円筒座標Sを走査する場合に比べて、アンテナ走査面積(走査範囲)を狭くすることができる。この結果、測定時間の大幅な短縮が可能である。さらに、アンテナ走査面積が、大幅に狭くなることで、短時間で多くの測定サンプルを採ることができる。
また、球面座標B上の各座標点P(r,θ,φ)とこの座標点における妨害電磁波Vの合成振幅値HEとの測定が可能となるので、妨害電磁波Vの3次元放射パターンを解読することができる。この結果、妨害電磁波VのEUT1における放射源を容易に特定することができる。
さらに、測定器7としてネットワークアナライサを用いているので、放射パターン特性を着目した周波数毎に得ることができる。
【実施例2】
【0029】
次に、この発明の第2実施例について説明する。
この実施例は、妨害電磁波Vの反射波を除去する手段を有する点が、上記第1実施例と異なる。
すなわち、電波暗室10内において、EUT1からの妨害電磁波Vが円筒座標Sの部位を通過し、電波暗室10の壁で反射する場合がある。かかる場合には、反射波がアンテナ4に受信され、正確な測定を行うことができない。
したがって、この実施例では、かかる反射波が存在する場合には、測定器7のタイムドメイン機能とフーリエ変換機能とを用いて、反射波の成分を取り除くことができる。
これにより、さらなる測定精度の向上を図ることができる。
その他の構成、作用及び効果は、上記第1実施例と同様であるので、その記載は省略する。
【実施例3】
【0030】
次に、この発明の第3実施例について説明する。
この実施例は、受信過程を実行する際に、EUT1からの妨害電磁波Vの反射波がほとんど存在しない環境を設定した点が、上記第1実施例と異なる。
すなわち、電波暗室10の壁等からの反射波をアンテナ4が受信しない構成とした。
具体的には、アンテナ4に極めて狭い指向性を持たせ、アンテナ4が不要な反射波を検知しないようにした。
かかる構成により、電波暗室10として、高特性の暗室を用いることなく、簡易なフェライトの電波暗室や実験室等を用いることができ、この結果、装置のコストダウンを図ることができる。
その他の構成、作用及び効果は、上記第2実施例と同様であるので、その記載は省略する。
【0031】
なお、この発明は、上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内において種々の変形や変更が可能である。
例えば、上記実施例では、アンテナ4の回転軌跡である円弧Lの角φ1を+46.5°、角φ2を−58°にそれぞれ設定したが、これらの角度は、円筒座標Sの大きさに対応させて設定したものであり、角φ1,φ2は、円筒座標Sの大きさに対応して設定するものであり、実施例の角度値の限定されるものではない。
上記第実施例では、推定する円筒座標S上での妨害電磁波Vの強度を、妨害電磁波Vの電界成分としたが、これに限らず、磁界成分や電界成分と磁界成分の双方の強度を円筒座標S上で推定演算することもできる。
また、上記実施例では、測定器7としてネットワークアナライザを用いたが、自励式の場合には、ネットワークアナライザでなく、スペクトラムアナライザを用いることもできる。
さらに、上記実施例では、コンピュータ8と演算機構9とを別体にして、推定演算専用の演算機構9を設けたが、演算機構9をアプリケーションとしてコンピュータ8に組み込んだ装置も、この発明の範囲に含まれることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の第1実施例に係るEMI測定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】ターンテーブルとアンテナの回転を示す平面図である。
【図3】図2の矢視A−A側面図である。
【図4】演算機構の演算機能を説明するための概略図である。
【図5】アンテナが走査する球面座標と推定される円筒座標との関係を示す概略斜視図である。
【図6】従来の測定方法を示すブロック図である。
【図7】測定範囲を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0033】
1…EUT、 2…ターンテーブル、 3…ターンテーブルコントローラ、 4…アンテナ、 5…回転機構、 6…アンテナコントローラ、 7…測定器、 8…コンピュータ、 9…演算機構、 10…電波暗室、 11…床部、 20…台座、 50…回転シャフト、 B…球面座標、 L…円弧、 M…回転中心軸、 PN…平面、 S…円筒座標、 V…妨害電磁波。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
載置された被試験物を回転させるためのターンテーブルと、
このターンテーブル上の被試験物の近傍に配されこの被試験物からの妨害電磁波を直接受信するためのアンテナと、
上記被試験物を中心とする円弧であって且つ上記ターンテーブルの回転中心軸を含む平面上の円弧に沿って、上記アンテナを回転させるための回転機構と、
上記ターンテーブルの回転を制御するためのターンテーブルコントローラと、
上記アンテナの回転範囲を上記回転機構を介して制御するためのアンテナコントローラと、
上記アンテナで受信した妨害電磁波の強度を測定するための測定器と、
この測定器からの妨害電磁波の測定強度と、当該測定時における被試験物の回転角度,アンテナの回転角度及び上記円弧の半径で決定される球面座標点とに基づき、上記円弧の半径よりも大きな半径上に設定された所定の曲面座標において、上記球面座標点を通った上記妨害電磁波が至るであろう曲面座標点と、この曲面座標点における上記妨害電磁波の強度とを演算する演算機構と
を具備することを特徴とするEMI測定装置。
【請求項2】
上記所定の曲面座標は、CISPR規格の半径と高さとを有した円筒座標である、
ことを特徴とする請求項1に記載のEMI測定装置。
【請求項3】
上記妨害電磁波の強度は、電界成分又は磁界成分のいずれか又は双方の強度である、 ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のEMI測定装置。
【請求項4】
上記演算機構は、レイトレース法によって、上記妨害電磁波が至るであろう曲面座標点と、この曲面座標点における上記妨害電磁波の強度とを演算する、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のEMI測定装置。
【請求項5】
被試験物を回転させながら、この被試験物の近傍に配されたアンテナを、被試験物を中心とする円弧であって且つ上記被試験物の回転中心軸を含む平面上の円弧に沿って回転させる回転過程と、
この回転過程実行時に、上記アンテナによって、被試験物からの妨害電磁波を直接受信する受信過程と、
この受信過程で受信した上記妨害電磁波の強度を測定する測定過程と、
この測定過程で得た上記妨害電磁波の測定強度と、当該測定時における被試験物の回転角度,アンテナの回転角度及び上記円弧の半径で決定される球面座標点とに基づき、上記円弧の半径よりも大きな半径上に設定された所定の曲面座標において、上記球面座標点を通った上記妨害電磁波が至るであろう曲面座標点と、この曲面座標点における上記妨害電磁波の強度とを演算する演算過程と
を具備することを特徴とするEMI測定方法。
【請求項6】
上記所定の曲面座標は、CISPR規格の半径と高さとを有した円筒座標である、
ことを特徴とする請求項5に記載のEMI測定方法。
【請求項7】
上記演算過程では、レイトレース法によって、上記妨害電磁波が至るであろう曲面座標点と、この曲面座標点における上記妨害電磁波の強度とを演算する、
ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のEMI測定方法。
【請求項8】
上記受信過程を実行する際に、上記被試験物からの妨害電磁波の反射波がほとんど存在しない環境を設定し、又は、妨害電磁波の反射波を除去する手段をとる、
ことを特徴とする請求項5ないし請求項7のいずれかに記載のEMI測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−271317(P2007−271317A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−94240(P2006−94240)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)