説明

FGFの脈管形成的に有効な単位用量および投与方法

【課題】冠状動脈疾患の間および/または急性心筋梗塞後に、ヒト患者に心臓脈管形成を提供する薬および投与様式を提供すること。
【解決手段】 本発明は、0.2μg/kg〜36μg/kgの組換えFGFあるいはその脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインを含む単位用量に関する。本発明はまた、脈管形成有効用量のFGFあるいはその脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテイン、および薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物に関する。脈管形成有効用量は、配列番号1〜3、5、8〜10もしくは12〜14のいずれか1つの、0.2μg/kg〜36μg/kgのFGF、あるいはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
(A.発明の分野)
本発明は、ヒトにおいて、心臓脈管形成を誘導するためのFGF、あるいはその脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインを含有する単位用量に関する。本発明はまた、FGFの単位用量を含有する薬学的組成物、および患者に対する全身性リスクを最小化しつつ心臓脈管形成を誘導するために、ヒトにこの薬学的組成物を投与するための方法に関する。本発明は、有用である。なぜなら、この単位用量、薬学的組成物およびその投与方法は、冠状動脈疾患(CAD)の処置に対する外科的介入に対する代替を提供し、そしてさらに、ヒトにおける心筋梗塞(MI)後の傷害を低減するための補助剤を提供し得る。
【背景技術】
【0002】
(B.発明の背景)
線維芽細胞増殖因子(FGF)は、プロテオグリカン(例えば、ヘパリン)に対する高程度の親和性によって特徴付けられる少なくとも18個の構造的に関連するポリペプチド(FGF−1〜FGF−18と命名)のファミリーである。種々のFGF分子は、サイズが15〜23kDの範囲であり、そして正常な状態および悪性状態において広範な範囲の生物学的活性(神経細胞接着および分化(Schubertら、J.Cell.Biol.104:635〜643(1987));創傷治癒(特許文献1(Fiddes));多くの中胚葉細胞型および外胚葉細胞型に対するマイトジェンとして、栄養性因子として、分化誘導因子または分化阻害因子として(Clementsら、Oncogene 8:1311〜1316(1993));ならびに脈管形成因子として(Harada,J.Clin.Invest.、94:623〜630(1994))を含む)を示す。従って、FGFファミリーは、種々の程度の線維芽細胞、平滑筋細胞、上皮細胞およびニューロン細胞を刺激する多能性増殖因子のファミリーである。
【0003】
FGFが正常組織によって放出される場合に(例えば、胎児発生または創傷治癒において)、これは、時間的制御および空間的制御に供される。しかし、FGFファミリーの多くのメンバーもまた、癌遺伝子である。従って、時間的制御および空間的制御の非存在下で、これらは、脈管形成を提供することによって腫瘍増殖を刺激する能力を有する。
【0004】
冠状動脈疾患(アテローム性動脈硬化症)は、ヒトにおける進行性の疾患であり、ここでは、1以上の冠状動脈が、班の蓄積を通じて徐々に閉塞性になる。この疾患を有する患者の冠状動脈は、しばしば、バルーン血管形成術または部分的に閉塞した動脈を支えて開かせるステントの挿入によって処置される。究極的には、これらの患者は、高額な費用および高い危険性にて、冠状動脈バイパス手術を受けることが必要とされる。バイパス手術を受ける必要性を除外するように、冠状の血流を増強する薬を、このような患者に提供することが所望される。
【0005】
さらにより重要な状況は、ヒトにおいて患者が心筋梗塞を被る場合に生じ、ここでは、1以上の冠状動脈または細動脈が、完全に閉塞される(例えば、血餅によって)。閉塞した動脈または細動脈により作用される心筋層の部分への循環を回復することがすぐに必要である。失われた冠状循環が、梗塞の発症の数時間以内に回復される場合、閉塞から下流にある心筋層へのほとんどの損傷は、予防され得る。血餅溶解薬物(例えば、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)、ストレプトキナーゼ、およびウロキナーゼ)は、この例において有用であることが証明されている。しかし、血餅溶解剤に対する補助剤として、また、脈管形成によって損傷した心筋層または閉塞した心筋層に対する側副枝循環を得ることもまた、所望される。
【0006】
従って、本発明の目的は、冠状動脈疾患の間および/または急性心筋梗塞後に、ヒト患者に心臓脈管形成を提供する薬および投与様式を提供することである。さらに詳細には、本発明のさらなる目的は、有害な効果を最小にしつつ、心臓脈管形成の所望の特性を提供する、ヒトに対する治療的用量の哺乳動物FGF、および投与様式を提供することである。
【0007】
多くの種々のFGF分子が、単離されており、そして変動する心筋虚血の種々の動物モデルに投与されており、かつしばしば反対の結果を与えている。Battlerらによると、「心筋虚血のイヌモデルは、天然の側副枝循環が相対的に少なく、かつヒト冠状循環に類似している点において「勝る」ブタモデルとは対照的に、天然に存在する側副枝循環が豊富であるために批判されている」。Battlerら、「Intracoronary injection of Basic Fibroblast Growth Factor Enhances Angiogenesis in Infarcted Swine Myocardium」、JACC、22(7):2001〜6(1993年12月)2002頁、1列。しかし、心筋梗塞モデルにおけるブタにウシbFGF(すなわち、FGF−2)を投与したBattlerらは、1つの動物種から別の動物種で得られる結果が変動することを考慮し、そして多様な結果が、「従って、異なる動物モデルからの結果を外挿する際に留意されなければならない注意を強調する」ことを明示的に開示する。Battlerら、2005頁、1列。さらに、Battlerは、「bFGF(すなわち、ウシFGF−2)の投薬および投与様式が、達成される生物学的効果についての顕著な暗示を有し得る」ことを指摘する。Battlerら、2005頁、1列。従って、本発明のさらなる目的は、ヒト患者におけるCADおよび/またはMI後の傷害の安全かつ効果的な処置を提供する線維芽細胞増殖因子の投薬および投与様式を発見することである。さらに一般的には、本発明の目的は、ヒト心臓において、脈管形成を誘導するための薬学的組成物および方法を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許5,439,818号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨) 本出願人らは、例えば、配列番号1〜3、5、8〜9もしくは12〜14の線維芽細胞増殖因子、あるいはその脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインが、冠状脈管形成を必要とするヒト患者の1以上の冠状脈管(IC)中に約0.2μg/kg〜約36μg/kgの単位用量として投与される場合に、手術の介入を回避するに十分な迅速かつ治療的な心臓脈管形成を、ヒト患者に予想外に提供し、そして処置された患者の運動許容時間(ETT)において予想外のより優れた増加を生じる。比較のために、血管形成術は、プラセボと比較して30秒よりも多い、患者のETTの増加を提供する場合に治療的成功とみなされる。用語「心臓脈管形成」または「冠状脈管形成」とは、本明細書中で使用される場合、毛細管から細動脈(これは、冠状循環における側副枝として作用する)のサイズの範囲である、新しい血管の形成を意味する。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1) FGFの単位用量であって、配列番号1〜3、5、8〜10、もしくは12〜14のいずれか1つのアミノ酸配列を有する哺乳動物FGF、あるいはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインを約0.08mg〜約6.1mg含有する、単位用量。
(項目2) 前記FGFあるいはその脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインを0.3μg/kg〜3.5mg含有する、項目1の単位用量。
(項目3) 前記FGFが配列番号1〜3、5、または8〜9のいずれか1つの配列を有する、項目1に記載の単位用量。
(項目4) 前記FGFが配列番号10または12〜14のいずれか1つの配列を有する、項目1に記載の単位用量。
(項目5) 前記FGFが配列番号1の配列を有する、項目3に記載の単位用量。
(項目6) 前記FGFが配列番号2の配列を有する、項目3に記載の単位用量。
(項目7) 前記FGFが配列番号3の配列を有する、項目3に記載の単位用量。
(項目8) 前記FGFが配列番号8の配列を有する、項目3に記載の単位用量。
(項目9) 前記FGFが配列番号9の配列を有する、項目3に記載の単位用量。
(項目10) 前記FGFが配列番号12の配列を有する、項目4に記載の単位用量。
(項目11) 前記FGFが配列番号13の配列を有する、項目4に記載の単位用量。
(項目12) 前記FGFが配列番号14の配列を有する、項目4に記載の単位用量。
(項目13) 薬学的組成物であって、(i)配列番号1〜3、5、8〜10、もしくは12〜14のいずれか1つの配列を有する、治療的有効量の、FGF、あるいはその脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテイン、および(ii)薬学的に受容可能なキャリアを含有し、該組成物が、ヒト患者への投与に適切な形態およびサイズである、薬学的組成物。
(項目14) 前記治療的有効量が、前記FGFあるいはその脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインを0.2μg/kg〜36μg/kg含有する、項目13に記載の薬学的組成物。
(項目15) 前記治療的有効量が、前記FGFを約0.2μg/kg〜約36μg/kg含有する、項目14に記載の薬学的組成物。
(項目16) 前記治療的有効量が、前記FGFを約0.2μg/kg〜2.0μg/kg含有する、項目15に記載の薬学的組成物。
(項目17) 前記治療的有効量が、前記FGFあるいはその脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインを0.008mg〜6.1mg含有する、項目13に記載の薬学的組成物。
(項目18) 前記治療的有効量が、前記FGFあるいはその脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインを0.3mg〜3.5mg含有する、請求項17に記載の薬学的組成物。
(項目19) 前記治療的有効量が、前記FGFの脈管形成的に活性なフラグメントを0.008mg〜6.1mg含有する、項目17に記載の薬学的組成物。
(項目20) 前記治療的有効量が、前記FGFの脈管形成的に活性なムテインを0.008mg〜6.1mg含有する、項目17に記載の薬学的組成物。
(項目21) 冠状動脈疾患についてヒト患者を処置するための方法であって、冠状動脈疾患に対する処置を必要とするヒト患者における1以上の冠状脈管に、配列番号1〜3、5、8〜10、または12〜14のいずれか1つの配列を有する、組換えFGF、あるいはその脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインの治療的有効量を投与する工程を包含する、方法。
(項目22) 前記治療的有効量が、約0.008mg〜約6.1mgの前記組換えFGF、あるいはその脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインである、項目21に記載の方法。
(項目23) 前記治療的有効量が、0.3mg〜3.5mgの前記組換えFGF、あるいはその脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインである、項目22に記載の方法。
(項目24) 項目21に記載の方法であって、前記患者の1以上の冠状脈管に、約0.2μg/kg〜約36μg/kgの、前記組換えFGF、あるいはその脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインを投与する工程を包含する、方法。
(項目25) 項目22に記載の方法であって、前記患者の1以上の冠状脈管に、0.02μg/kg〜2μg/kgの前記組換えFGFを投与する工程を包含する、方法。
(項目26) 項目23に記載の方法であって、前記患者の冠状脈管に、2μg/kg〜20μg/kgの前記組換えFGFを投与する工程を包含する、方法。
(項目27) 項目24に記載の方法であって、前記患者の冠状脈管に、約20μg/kg〜36μg/kgの前記組換えFGFを投与する工程を包含する、方法。
(項目28) 項目21に記載の方法であって、前記患者の冠状脈管に、0.008mg〜6.1mgの、前記組換えFGFの脈管形成的に活性なフラグメントを投与する工程を包含する、方法。
(項目29) 項目21に記載の方法であって、前記患者の冠状脈管に、0.008mg〜6.1mgの、前記組換えFGFの前記脈管形成的に活性なムテインを投与する工程を包含する、方法。
(項目30) ヒト患者の心臓における脈管形成を誘導するための方法であって、冠状脈管形成を必要とするヒト患者の1以上の冠状脈管中に、配列番号1〜3、5、8〜10もしくは12〜14のいずれか1つの配列を有する組換えFGF、あるいはその脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインの治療的有効量を、単位用量として投与する工程を包含する、方法。
(項目31) 前記単位用量が前記患者の2つの冠状脈管に投与される、項目30に記載の方法。
(項目32) 前記組換えFGFの投与が20分以内であり、有効量のグリコサミノグリカンをさらに投与する、項目30に記載の方法。
【0010】
本発明における使用に適切であるFGFは、ヒトFGF−1(配列番号1)、ウシFGF−1(配列番号2)、ヒトFGF−2(配列番号3)、ウシFGF−2(配列番号5)、ヒトFGF−4(配列番号8)、ヒトFGF−5(配列番号9)、ヒトFGF−6(配列番号10)、ヒトFGF−8(配列番号12)、ヒトFGF−9(配列番号13)およびヒトFGF−98(配列番号14)を含む。1つの実施態様において、このFGF分子は、ヒトFGF−1(配列番号1)、ウシFGF−1(配列番号2)、ヒトFGF−2(配列番号3)、ウシFGF−2(配列番号5)、ヒトFGF−4(配列番号8)およびヒトFGF−5(配列番号9)である。代替の実施態様では、このFGF分子は、ヒトFGF−6(配列番号10)、マウスFGF−8(配列番号12)、ヒトFGF−9(配列番号13)またはヒトFGF−98(配列番号14)である。
【0011】
代表的には、本発明の脈管形成的に活性なフラグメントは、成熟FGF分子の遠位の2/3(すなわち、細胞結合部位を有するカルボキシ末端でのこの分子の2/3)を保持する。簡便性のために、用語「ヒトFGF」、「ウシFGF」およびマウスFGFは、それぞれ、「hFGF」、「bFGF」および「mFGF」として略語形態において本明細書中で使用される。
【0012】
本出願人らはまた、FGFまたはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントの単回単位用量が、冠状脈管形成が必要なヒト患者(例えば、任意の医学的管理にもかかわらず任意の冠状動脈疾患を有するヒト患者)の1以上の冠状脈管(IC)に単位用量として投与される場合に、このヒト患者に、治療学的利益を予想外に提供することを発見し、この治療学的利益は、この単回単位用量が投与された後(症状において反映されるように)2週間ほどの早さで見られ、そしてこの単回単位用量が投与された後(ETTおよび「Seattle Angina Questionnaire」(SAQ)として反映されるように)少なくとも60日間持続する。例えば、CADを有すると診断された28人のヒト患者が、配列番号5のFGF−2の0.33μg/kg〜48μg/kgの単位用量をIC投与される前およびその57日後の両方においてSAQによって評価され、13〜36ポイントの範囲で評価された5つの診断基準におけるそれらのスコアの平均的な増加が、処置の代替の様式における「臨床的に重要である」と考えられる8ポイント変化よりも約1.6〜4.5倍大きい。表2を参照のこと。15人の第1の患者のスコアが、配列番号5のFGF−2の低用量(2μg/kg未満)を受容する患者と高用量(2μg/kg以上)を受容する患者との間で分析され、そしてSAQによって評価された場合、両方の用量が、それぞれ12.3〜58.1および10.9〜32.1の範囲の「臨床的に重要な」増加を有するスコアを提供することが見出された。従って、これらの患者が、本発明の低用量または高用量を投与されるかどうかにかかわらず、それらの増加したスコアは、処置の代替の様式において「臨床的に重要である」と考えられる8ポイント変化よりも約1.4〜7.2倍大きかった。表3を参照のこと。
【0013】
本研究の一部として、MRIが、駆出率、領域心筋機能および灌流(遅延された到達帯(delayed arrival zone))を評価するために、CADであると診断された23人のヒト患者において実施された。患者らに、配列番号5のFGF−2の0.33μg/kg〜12μg/kgの単回単位用量をIC投与した。患者らの心臓機能および冠状機能を、処置の前後に、磁気共鳴画像法(MRI)によって客観的に評価した。MRI結果は、収縮の間の領域壁運動(regional wall motion)(%)および壁厚化(wall thickening)(%)における有意な改善を実証した。これらの結果はまた、遅延された到達帯(%LV)の有意な減少を示した。これらの結果は、駆出率(EF)のいずれの有意な変化を実証しなかった。従って、本出願人らは、本発明に従ってIC投与された場合、FGFの単回単位用量の、ヒトにおける臨床的効力を実証した。
【0014】
従って、1つの局面において、本出願人らの発明は、配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14のいずれか1つの安全かつ治療学的に有効な量のFGF、あるいはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインを含む単位用量のFGFに関する。典型的に、この安全かつ治療学的に有効な量は、約0.2μg/kg〜約36μg/kgの、配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14のいずれか1つのFGFあるいはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインを含む。他の実施態様において、この単位用量のこの安全かつ治療学的に有効な量は、0.2μg/kg〜2.0μg/kg、2.0μg/kg〜20μg/kg、または20μg/kg〜約36μg/kgの、配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14のいずれか1つのFGFあるいはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインを含む。多数のヒトCAD患者について絶対項で表現されると、本発明の単位用量は、0.008mg〜6.1mg、より典型的には0.3mg〜3.5mgの、配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14のいずれか1つのFGFあるいはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインを含む。
【0015】
別の局面において、本発明は、安全かつ治療学的に有効な量のFGFまたはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテイン、および薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物に関する。典型的に、安全かつ治療学的に有効な量のFGFは、約0.2μg/kg〜約36μg/kgの、配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14のいずれか1つのFGFあるいはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテイン、および薬学的に受容可能なキャリアを含む。薬学的組成物の他の実施態様において、安全かつ治療学的に有効な量のFGFは、0.2μg/kg〜2μg/kg、2μg/kg〜20μg/kg、または20μg/kg〜36μg/kgの、配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14のいずれか1つのFGFのようなFGFあるいはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテイン、および薬学的に受容可能なキャリアを含む。
【0016】
なお別の局面において、本発明は、CADについてのヒト患者を処置するため、またはそれにおける冠状脈管形成を誘導するために、上述の単位用量または薬学的組成物を使用する方法に関する。この方法は、冠状動脈疾患についての処置の必要な(または脈管形成の必要な)ヒト患者の1以上の冠状脈管に、安全かつ治療学的に有効な量の組換えFGFまたはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインを投与する工程を包含する。典型的に、この安全かつ治療学的に有効な量の一部が、2つの冠状脈管の各々へ投与される。より典型的には、この安全かつ治療学的に有効な量は、薬学的に受容可能なキャリア中に、約0.2μg/kg〜約36μg/kgの、配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14のいずれか1つのFGFあるいはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインを含む。他の実施態様において、この安全かつ治療学的に有効な量は、薬学的に受容可能なキャリア中に、0.2μg/kg〜2μg/kg、2μg/kg〜20μg/kg、または20μg/kg〜36μg/kgの、配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14のいずれか1つのFGFあるいはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインを含む。
FGFは、グリコサミノグリカン(glycosoaminoglycan)(例えば、ヘパリン)結合タンパク質であり、そしてグリコサミノグリカン(「プロテオグリカン」または「ムコポリサッカリド」としても公知)の存在が、活性およびAUCを最適化し、本発明のFGFのIC投薬量は、典型的に、ヘパリンのようなグリコサミノグリカンのIV投与の20分以内に投与される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、20分間にわたって、ヒトにおいてIC注入によって投与された6つの異なる用量のrFGF−2(配列番号5)についての、時間(時間)に対する平均rFGF−2血漿濃度のプロットである。図1における6つの用量のrFGF−2は、0.33μg/kg、0.65μg/kg、2μg/kg、6μg/kg、12μg/kgおよび24μg/kg(除脂肪体重(LBM))である。
【図2】図2は、6つの用量のrFGF−2についての図1に関しての、pg・時間/mlでの曲線下の各々の個々の患者のrFGF−2領域(AUC)のプロットであり、そしてIC注入に続く全身性rFGF−2暴露の用量直線性を示す。
【図3】図3は、「rFGF−2注入前の分」における、ヘパリン投与の時間関数としての、個々のヒト患者のrFGF−2用量を正規化したAUCのプロットであり、そしてrFGF−2 AUCにおけるヘパリン投与のタイミングの影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(発明の詳細な説明)
本出願人らは、FGFまたはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインの1用量が、安全かつ治療学的に有効な量で、CADと診断されたヒト患者の1以上の冠状脈管へ投与される場合に、この患者に、この患者の冠状動脈疾患についての安全かつ治療学的に有効な処置を提供し、この処置が、さらなる処置が必要とされるより前に少なくとも6ヶ月持続することを発見した。実際、CADを処置するための本出願人らの方法は、当該分野で使用される標準的な客観的診断基準(すなわち、ETT)によって評価される場合に、処置された患者のETTにおける1/2〜2分間の予想外の優れた増加を提供した。これは、現在の様式の処置(すなわち、脈管形成術)について臨床的に有意であると考えられる30秒の増加と比較される場合、例外的に十分に匹敵する。
【0019】
FGFに関して本明細書中で使用される句「安全かつ治療学的に有効な量」は、本発明によって投与される場合に、医学的に管理し得ない主要な合併症がなく、かつ最適な医学的管理にもかかわらずCADの症状を有する患者において客観的な心臓改善を提供する、FGFまたはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインの量を意味する。従って、他の副作用を有さず、流体の投与によって管理され得る急性低血圧は、本発明の目的について「安全」であると考えられる。典型的に、FGFの安全かつ治療学的に有効な量は、約0.2μg/kg〜約36μg/kgの、配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14のいずれか1つのFGFあるいはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインを含む。
【0020】
従って、本発明は、複数の局面を有する。その第1の局面において、本発明は、脈管形成術と比較した場合、ヒトにおけるCADを処置する際に予想外に優れた結果を生じた単位用量のFGF医薬に関する。詳細には、この単位用量は、安全かつ治療学的に有効な量の、FGFあるいはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインを含む。典型的に、この単位用量は、約0.2μg/kg〜約36μg/kgの、配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14のいずれか1つのFGFあるいはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインを含む。この単位用量の他の実施態様において、この安全かつ治療学的に有効な量は、約0.2μg/kg〜約2.0μg/kg、約2.0μg/kg〜約20μg/kg、または約20μg/kg〜約36μg/kgの、配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14のいずれか1つのFGFあるいはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインを含む。0.008mg〜6.1mgの絶対項で、配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14のいずれか1つのFGFあるいはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインを含む処方物で、本発明の単位用量を提供することが、都合がよい。この実施態様において、この単位用量は、多数のCAD患者の任意の1人へ投薬することに適応するに十分な量のFGFを含み、多数のCAD患者は、最も低い投薬量(約0.2μg/kg)での最も小さな患者(例えば、40kg)から、最も高い投薬量(約36μg/kg)でのより大きな患者(例えば、170kg)までの範囲に及ぶ。より典型的には、この単位用量は、0.3mg〜3.5mgの、配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14のいずれか1つのFGFあるいはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインを含む。この単位用量は、典型的に、上記で参照される量のFGF、ならびに有効な量の1以上の薬学的に受容可能な緩衝液、安定化剤および/または本明細書中で後に記載される他の賦形剤を含む、溶液形態または凍結乾燥された形態で提供される。
【0021】
上述の単位用量の活性薬剤は、組換えFGFあるいはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインである。典型的に、この単位用量の活性薬剤は、配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14のいずれか1つのFGFである。より典型的には、この単位用量の活性薬剤は、hFGF−1(配列番号1)、bFGF−1(配列番号2)、hFGF−2(配列番号3)、bFGF−2(配列番号5)、hFGF−4(配列番号8)またはhFGF−5(配列番号9)である。代替の実施態様において、この単位用量の活性薬剤は、hFGF−6(配列番号10)、mFGF−8(配列番号12)、hFGF−9(配列番号13)またはhFGF−98(配列番号14)である。
【0022】
本発明の単位用量、薬学的組成物および方法において利用される多数の哺乳動物FGFのアミノ酸配列およびそれを作製するための方法は、当該分野において周知である。詳細には、哺乳動物FGF1−9およびFGF−98のアミノ酸配列および組換え発現を開示する参照が、以下で連続して議論される。
【0023】
FGF−1:hFGF−1(配列番号1)のアミノ酸配列およびその組換え発現が、「Recombinant Human Basic Fibroblast Growth Factor」という題名の米国特許第5,604,293号(Fiddes)(これは、1997年2月18日に発行された)に開示される。’293患者の図2dを参照のこと。この参考文献および本明細書における他の全ての参考文献は、この文章の前後に引用されるにかかわらず、その全体が本明細書中で参考として明示的に援用される。bFGF−1(配列番号2)のアミノ酸配列および組換え発現がまた、米国特許第5,604,293号(Fiddes)に開示され、これは、参考として本明細書中で援用された。’293患者の図1bを参照のこと。hFGF−1(配列番号1)およびbFGF−1(配列番号2)の両方が、140個のアミノ酸残基を有する。bFGF−1は、hFGF−1と、19個の残基位置が異なる:5(Pro→Leu)、21(His→Tyr)、31(Try→Val)、35(Arg→Lys)、40(Gln→Gly)、45(Gln→Phe)、47(Ser→Cys)、51(Try→Ile)、54(Try→Val)、64(Try→Phe)、80(Asn→Asp)、106(Asn→His)、109(Tyr→Val)、116(Ser→Arg)、117(Cys→Ser)、119(Arg→Leu)、120(Gly→Glu)、125(Tyr→Phes)および137(Try→Val)。ほとんどの場合において、これらの差異が保存される。さらに、残基の116位および119位のこれらの差異は、Argの位置を交換するのみである。
【0024】
FGF−2:hFGF−2(配列番号3)のアミノ酸配列およびその組換え発現のための方法が、「DNA Encoding Human Recombinant Basic Fibroblast Growth Factor」との題名の米国特許第5,439,818号(Fiddes)(これは、1995年8月08日に発行された)(その中の図4を参照のこと)において、および「Methods of Producing Recombinant Fibroblast Growth Factors」との題名の米国特許第5,514,566号(Fiddes)(これは、1996年5月07日に発行された)(その中の図4を参照のこと)において開示される。bFGF−2のアミノ酸配列(配列番号5)およびその組換え発現のための種々の方法が、「Basic Fibroblast Growth Factor」との題名の米国特許第5,155,214号(これは、1992年10月13日に発行された)において開示される。hFGF−2およびbFGF−2の146個の残基形態が比較される場合、それらのアミノ酸配列は、ほぼ同一であり、2つの残基のみが異なる。詳細には、hFGF−2からbFGF−2への変化では、唯一の差異は、残基112位(Thr→Ser)および128位(Ser→Pro)で生じる。
【0025】
FGF−3:FGF−3(配列番号7)は、まず、マウスint−2乳房腫瘍の発現産生物として同定され、そしてそのアミノ酸配列は、Dicksonらの「Potenitial Oncogene Product Related to Growth Factors」、Nature 326:833(1987年4月30日)において開示される。N末端Metが排除される場合に234個の残基を有するFGF−3(配列番号7)は、実質的に、FGF−1(ヒトおよびウシ)およびFGF−2(ヒトおよびウシ)の両方よりも長い。bFGF−1(配列番号2)およびbFGF−2(配列番号5)に対するmFGF−3(配列番号7)についてアミノ酸残基の比較が、Dicksonら(1987)の重複様式で示される。mFGF−3(配列番号7)のアミノ酸配列がbFGF−1(配列番号2)およびbFGF−2(配列番号5)と比較される場合、FGF−3は、FGF−1およびFGF−2の両方に対して5つの残基挿入物を含む5つの位置を有する。これらの挿入物のうちの最も重要なものは、FGF−2およびFGF−1に対するそれぞれ、12および14残基の挿入物であり、FGF−3の残基135位で始まる。これらの挿入物を考慮に入れて、Dicksonは、mFGF−3がFGF−1に対して53個の残基同一性を有し、そしてFGF−2に対して69個の残基同一性を有することを開示する。さらに、FGF−3は、FGF−1およびFGF−2の両方におけるシグナル配列のN末端に対して、10個の残基の疎水性N末端の伸張を含む。bFGF−1およびbFGF−2のC末端に対して、mFGF−3は、約60個の残基伸張を含む。mFGF−3のC末端伸張は活性のために必要でなさそうである。よりおそらく、それは、FGFにレセプター特異性を与えることによる活性のモデレーター(moderator)である。
【0026】
FGF−4:hFGF−4(配列番号8)として現在公知である、hstタンパク質についてのアミノ酸配列が、まず、Yoshidaら「Genomic Sequence of hst,a Transforming Gene Encoding a Protein Homologous to Fibroblast Growth Factors and the int−2−Encoded Protein」、PNAS USA、84:7305−7309(1987年10月)によって開示された。そのリーダー配列を含んで、hFGF−4(配列番号8)は、206個のアミノ酸残基を有する。hFGF−4(配列番号7)、hFGF−1(配列番号1)、hFGF−2(配列番号3)およびmFGF−3(配列番号5)のアミノ酸配列が比較される場合;hFGF−4の残基72〜204が、hFGF−2(配列番号5)に対して43%の相同性を有し;残基79〜204が、hFGF−1(配列番号1)に対して38%相同性を有し;そして残基72〜174が、mFGF−3(配列番号7)に対して40%の相同性を有する。重複形態でのこれらの4つの配列の比較が、Yoshida(1987)の図3で示される。さらに、hFGF−4の残基88位および155位でのCysが、hFGF−1、hFGF−2、mFGF−3およびhFGF−4の中で高度に保存され、そして相同領域において見出される。
【0027】
hFGF−2(配列番号3)の2つの推定細胞結合部位が、その残基36位〜39位および77位〜81位で生じる。Yoshida(1987)の図3を参照のこと。hFGF−2の2つの推定ヘパリン結合部位が、その残基18位〜22位および107位〜111位で生じる。Yoshida(1987)の図3を参照のこと。ヒトおよびウシのFGF−2についてのアミノ酸配列の間の実質的な類似性を考慮すると、本発明者らは、bFGF−2(配列番号5)についてのこの細胞結合部位がその残基36位〜39位および77位〜81位にあること、ならびにこのヘパリン結合部位がその残基18位〜22位および107位〜111位にあることを予想する。hFGF−1(配列番号1)に関して、この推定細胞結合部位が、残基27位〜30位および69位〜72位で生じ、そしてこの推定ヘパリン結合部位が、残基9位〜13位および98位〜102位で生じる。bFGF−1(配列番号2)が、残基9位〜13位、27位〜30位、69位〜72位および98位〜102位において、hFGF−1(配列番号1)が有するのと同一のアミノ酸を有する限り、bFGF−1は、hFGF−1が有するのと同一の細胞およびヘパリン結合部位を有することが予想される。
【0028】
FGF−5:hFGF−5(配列番号15)をクローニングするためのアミ酸配列および方法が、Zhanらの「The Human FGF−5 Oncogene Encodes a Novel Protein Related to Fibroblast Growth Factor」、Molec.and Cell.Biol.,8(8):3487〜3495(1988年8月)において開示される。本出願人らはまた、FGF−5を配列決定し、そして配列番号9のアミノ酸配列を得た。このアミノ酸配列は、残基236位において(ZhanのAsnの代わりにLysを有する)および残基243位において(ZhanのSerの代わりにProを有する)、Zhanの配列と異なる。hFGF−5(配列番号9)およびhFGF−5(配列番号15)の両方は、配列番号5のFGF−2の第1残基の上流の67個の残基のリーダー配列、およびhFGF−2のC末端を超えて約47個の残基だけ延びるテイル配列を含む、266個のアミノ酸残基を有する。hFGF−1(配列番号1)、hFGF−2(配列番号3)、mFGF−3(配列番号7)、hFGF−4(配列番号8)およびFGF−5(配列番号9)のアミノ酸配列の間の比較が、Zhan(1988)の図2に示される。Zhanの図2において、hFGF−1、hFGF−2、mFGF−3およびhFGF−4が、それぞれ、aFGF(すなわち、酸性FGF)、bFGF(すなわち、塩基性FGF)、int−2、およびhstKS3として、すなわちそれらの本来の名称によって同定される。上記で参照される比較において、FGF−5アミノ酸残基の2つのブロック(90〜180および187〜207)が、FGF1−4に対して実質的な相同性、すなわち、FGF−4と50.4%、FGF−3と47.5%、FGF−2と43.3%およびhFGF−1と40.2%を示した。Zhan(1988)の図2を参照のこと。米国特許第5,155,217号(Goldfarb)および同第5,238,916号(Goldfarb)(こららは、Zhan公開に対応する)は、FGF−3としてZhanのFGF−5を参照する。しかし、当該分野(Coulierによって以下に実証されるように)は、Zhan(およびGoldfarb)のhFGFを、FGF−3としてでなく、FGF−5として認識するようになった。これらの2つのGoldfarbの特許は、Zhanによって上記で報告されたのと同一のhFGF−5(配列番号15)のアミノ酸配列を含む。
【0029】
(FGF−6:) hFGF−6(配列番号10)のアミノ酸配列およびクローニングのための方法は、Coulierら、「Putative Structure of the FGF−6 Gene Product and Role of the Signal Peptide」、Oncogene 6:1437〜1444(1991)に開示される。hFGF−6は、FGFの中で最も大きなものの一つで、208アミノ酸残基を有する。ヒトFGF−1、FGF−2、FGF−3、FGF−4、FGF−5、FGF−6およびFGF−7のアミノ酸配列が比較される場合、分子のカルボキシ末端2/3において強い類似性が存在する(例えば、hFGF−6(配列番号10)の78〜208残基に対応する)。特に、2つのシステインを含む23残基(配列番号10のhFGF−6の90〜157の位置)は、このファミリーの7つのメンバーの間で同一である。このメンバーは、保存されたアミノ酸残基が考慮される場合、33残基に増加する。これら7つのヒトFGFの間の全体の類似性は、これらの分子のカルボキシ末端2/3に関して32%〜70%の同一残基および48%〜79%の保存残基に及ぶ。FGF−6と比較したこの配列比較を、本明細書中の表1に示す。
【0030】
【表1】


表1を参照して、FGF−6は、FGF−4と最も高い一致(91の同一残基/103の保存残基)を有する。これは、合計70%の同一残基および79%の保存残基になる。hFGF−6(配列番号10)は、hFGF−3(配列番号2)、hFGF−2(配列番号3)、hFGF−7(配列番号11)およびhFGF−1(配列番号1)と最も異なり、それぞれに42、42、36および32の同一残基を有する。
【0031】
FGF1〜7のアミノ酸配列のオーバーレイした比較が、援用されるCoulier(1991)の図3に示される。Coulierの図3は、FGF分子のC末端2/3が整列される場合、全ての7つのFGFメンバー由来の残基が同一である23残基の位置が存在することを示す。全ての7つのFGFメンバー由来の残基が保存された10残基の位置もまた存在する。Coulier(1991)の図3。組合せて、これら同一残基および保存残基は、FGF1〜7の各々の末端2/3上に約6箇所の3〜5残基を形成し、ここで3〜5残基は、ヒトFGF全ての7つの種(すなわちhFGF1〜7)において共にグループ化される。
【0032】
(FGF−7:)
hFGF−7(配列番号11)のアミノ酸配列は、Miyamotoら、「Molecular Cloning of a Novel Cytokine cDNA Encoding the Ninth Member of the Fibroblast Growth Factor Family,Which Has a Unique Secretion Property」、Mol.and Cell.Biol.13(7):4251〜4259(1993)に開示される。Miyamotoにおいて、このhFGF−7は、その昔の名称KGFによって言及された。配列番号11に示されるように、FGF−7は、191アミノ酸残基を有する。hFGF−7(配列番号11)をhFGF1〜6およびhFGF−9と比較したMiyamotoは、FGF−7のカルボキシ末端2/3がこの群の他のメンバーの末端2/3と比較可能な相同性を有することを示す。Miyamoto(1993)の4254頁(図2)を参照のこと。
【0033】
(FGF−8:)
mFGF−8(配列番号12)のアミノ酸配列およびその組換え体発現のための方法は、Tanakaら、「Cloning and Characterization of an Androgen−induced Growth Factor Essential for the Growth of Mouse Mammary Carcinoma Cells」、PNAS USA、89:8928〜8932(1992)に開示される。TanakaのmFGF−8は、215アミノ酸残基を有する。MacArthurら、「FGF−8 isoforms activate receptor splice forms that are expressed in mesenchymal regions of mouse development」、Development、121:3603〜3613(1995)は、FGF−8が成熟したN末端において異なるがC末端領域に渡って同一であるという8つの異なるアイソフォームを有することを開示する。この8つのアイソフォームは、FGF−8が、最初の4つ(ほとんどの他のFGF遺伝子の第一エキソンに対応する)は選択的スプライシングが生じる6つのエキソンを有することに起因して生じる。
【0034】
(FGF−9:)
hFGF−9のアミノ酸配列およびその組換え発現のための方法は、Santos−Ocampoら、「Expression and Biological Activity of Mouse Fibroblast Growth Factor」、J.Biol.Chem.、271(3):1726〜1731(1996)に開示される。この表題にもかかわらず、Ocampoは、hFGF−9(配列番号13)およびmFGF−9の両方のアミノ酸配列を開示する。ヒトおよびマウスのFGF−9分子は、わずか2つの残基で異なる208アミノ酸残基および配列を有する。特に、hFGF−9は、AsnおよびSerを、それぞれ残基9および34に有し、一方、mFGF−9は、それぞれSerおよびAsnを有する。FGF−9は、FGFファミリーを定義する保存されたアミノ酸の完全な保存を有する。Santos−Ocampo(1996)の1726頁。FGF−9の最大半減活性は、185ng/mlヘパリンにおいて見られ、一方、FGF−1の最大半減活性は、670ng/mlヘパリンにおいて見られる。Santos−Ocampo(1996)の1730頁。FGF−1と比較する場合、FGF−2およびFGF−9の両方は、最適な活性のためのより低いヘパリン濃度を要求する。
【0035】
(FGF−98:)
hFGF−98(配列番号14)のアミノ酸配列およびその組換え発現のための方法は、ここにおいてその全体を本明細書中に参考として援用する米国特許仮出願番号第60/083,553号に開示される。hFGF−18としても公知のhFGF−98は、207アミノ酸残基を有する。従って,hFGF−6(207残基)、hFGF−9(208残基)およびhFGF−98(207残基)は、大きさにおいて類似する。
【0036】
FGFは、順々に生物学的な応答を媒介する4つの関連した膜貫通型レセプターの1つ以上と差示的に結合しそしてこれらを活性化する。FGFレセプター(「FGFR」)は、チロシンキナーゼレセプタースーパーファミリーのメンバーである。FGFRの細胞外ドメインは,選択的スプライシングの結果として差示的に発現する2〜3の免疫グロブリン様(「IG様」)ドメインを含む。別の選択的スプライシング事象はまた,Ig様ドメインIIIのカルボキシ末端半分の配列をリーディングフレームを変化することなく改変し得る。Santos−Ocampo(1996)。「b」および「c」として言及される2つのスプライス型は、FGFRの1、2、3を生じるが,4を生じない。FGFRのより詳細な記述は,Mathieuら、「Receptor Binding and Mitogenic Properties of Mouse Fibroblast Growth Factor 3」、J.Biol.Chem.、270(41):24197〜24203(1995)に見出される。差示的にFGFRを刺激するFGF1〜9の能力は、Ornitzら、J.Biol.Chem.、271(25):15292〜15297(1996)により報告されたようにレセプター依存的であった。Ornitzにおいて、細胞株BaF3は、画分に分割され,そして各々の画分は,以下のFGFレセプターの1つを発現するようにトランスフェクトされた:FGFR1b、FGFR1c、FGFR2b、FGFR2c、FGFR3b、FGFR3cおよび(1つのIg様ドメインを除いた)FGF4。その後,形質転換された細胞株は,FGF1〜9(5nM)の1つおよび補因子としてのヘパリン(2μg/ml)に暴露された。次いでマイトジェン応答が、[3H]チミジンの取りこみによって計測された。cpmでの結果は,以下の通りである。
【0037】
1.FGFR1b:類似のマイトジェン応答が、hFGF−1(32,000cpm)およびhFGF−2(28,000cpm)によって、次に高い応答は、mFGF−3(約16,000cpm)およびhFGF−4(15,000cpm)により産生された;
2.FGFR1c:類似のマイトジェン応答が、hFGF−1、hFGF−2、hFGF−4、hFGF−5およびhFGF−6(約36,000cpm)によって産生され、mFGF−9は唯一、他の有意な応答(約19,000cpm)を産生した;
3.FGFR2b:最大のマイトジェン応答は、hFGF−7(14,000cpm)、hFGF−1(12,500cpm)およびmFGF−3(9,500cpm)によってであった;
4.FGFR2c:最大のマイトジェン応答は、hFGF−4(21,000cpm)、mFGF−9(20,000cpm)、hFGF−6(16,500cpm)、hFGF−1(16,000cpm)、hFGF−2(14,500cpm)、hFGF−5(9,500cpm)およびmFGF−8(9,000cpm)によってであった;
5.FGFR3b:マイトジェン応答は、hFGF−1(37,000cpm)およびmFGF−9(26,000cpm)によってのみであった;
6.FGFR3c:最大のマイトジェン応答は、hFGF−1(39,000cpm)、hFGF−2(34,000cpm)、hFGF−4(33,000cpm)、mFGF−8(32,500cpm)、mFGF−9(31,000cpm)、hFGF−5(16,000cpm)およびhFGF−6(13,000cpm)による;
7.FGFR4Δ:最大のマイトジェン応答は、hFGF−2(29,000cpm)、hFGF−4およびhFGF−6(27,000cpm)、mFGF−8(25,000cpm)、mFGF−1(24,000cpm)ならびにhFGF−9(20,000cpm)により、他の全ては6,000cpm以下であった。
【0038】
上述に示されるように,FGF−1のみが、試験されたレセプター全てにおいて有意なマイトジェン応答を誘導する。従って、FGF−1は,他のFGFと関連するレセプター特異性を生じさせる分子へのN末端付加およびC末端付加を伴う万能なリガンド(universal ligand)として考えられ得る。全身的に投与されたFGFによるインビボでの多様な応答に関する可能性を考慮すると、局所的な投与によって、そして局所的な投与のために好適な投薬量を発見することによって(すなわち、CADに関する処置の必要な患者の少なくとも1つの冠状動脈への哺乳動物FGFの治療的有効量の投与によって)、本発明は、全身的な応答についての可能性を最小化する。
【0039】
以下に続く実施例において、bFGF−2(配列番号5)を、ラット、ブタおよびヒトにインビボで投与し、新脈管形成の活性に関して試験した。実施例のbFGF−2を、米国特許第5,155,214号に記載されたように作製した。この‘214特許においては、配列番号5のbFGF(本明細書中で以降、「FGF−2」)をコードする配列番号4のDNAが、pBR322、pMB9、Col E1、pCRI、RP4またはλファージのようなクローニングベクターに挿入され、そしてこのクローニングベクターは、原核生物細胞または真核生物細胞のいずれかを形質転換するのに用いられ、この形質転換された細胞は、FGF−2を発現する。1つの実施態様において、宿主細胞は、Saccharomyces cerevisiaeのような酵母細胞である。結果的に発現した全長FGF−2は、配列番号5に従う146アミノ酸を有する。配列番号5のFGF−2は4つのシステイン(すなわち、残基位置25、69、87および92)を有するが、内部のジスフィルド結合は存在しない[‘214 第6欄、59〜61行]。しかし、酸化的な条件下で架橋が生じる事象において、それは、残基位置25および69でおそらく生じ得る。
【0040】
ヒトFGF−2に対応するようなウシ起源の配列番号5の哺乳動物FGF−2は、最初インビボで155アミノ酸残基を有するポリペプチドとして合成される。Abrahamら、「Human Basic Fibroblast Growth Factor:Nucleotide Sequence and Genomic Organization」EMBO J.、5(10):2523〜2528(1986)。Abrahamの全長155残基のウシFGF−2と比較する場合、出願人らの配列番号5のFGF−2は、対応する全長分子のN末端の最初の9つのアミノ酸残基であるMet Ala Ala Gly Ser Ile Thr Thr Leu(配列番号6)を欠く。上で論じたように、配列番号5のFGF−2は、2つの残基の位置においてヒトFGF−2とは異なる。特に、配列番号5のbFGF−2の残基位置112および128のアミノ酸は、それぞれSerおよびProであり、一方、hFGF−2においては、それらはそれぞれThrおよびSerである。この実質的な構造的同一性を考慮すると、実施例に提供され、そしてbFGF−2(配列番号5)について本明細書中の他で論じたインビボの臨床結果は、hFGF−2(配列番号3)に直接適用可能であるはずである。
【0041】
実施例の組換え体bFGF−2(配列番号5)は、「Bovine Fibroblast Growth Factor」と表題付けられた09/11/90に発行され、本明細書中にその全体が参考として援用された米国特許第4,956,455号に詳細に記載された技術を用いて、製薬品質(98%以上の純度)に精製された。特に、出願人らの単位用量の組換えbFGF−2の精製において利用された最初の2つの工程は、「以前に記載されたような慣習的なイオン交換精製手順および逆相HPLC精製手順」である。[Bolenら、PNAS USA 81:5364〜5368(1984)を引用した米国特許第4,956,455号]。‘455特許が「重要な精製工程」と呼ぶ第3の工程[‘455 第7欄、5〜6行]は、heparin−SEPHAROSE(登録商標)アフィニティクロマトグラフィーであり、FGF−2の強力なヘパリン結合親和性は、約1.4Mおよび1.95M NaClで溶出される場合、数千倍の精製を達成するのに使用される[‘455 第9欄、20〜25行]。ポリペプチド均一性は、逆相高圧液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)によって確認される。緩衝液交換は、SEPHADEX(登録商標)G−25(M)ゲル濾過クロマトグラフィーによって達成された。
【0042】
配列番号1〜3、5,8〜10または12〜14の任意の哺乳動物FGFに加えて、本発明の単位用量における活性薬剤はまた、「その新脈管形成的に活性なフラグメント」を含む。用語「その新脈管形成的に活性なフラグメント」は、配列番号5の残基配列の約80%を有し、かつ対応する成熟した哺乳動物FGFの新脈管形成効果を保持する配列番号1〜3、5,8〜10または12〜14の任意のFGFのフラグメントを意味する。共通の短縮化(trancation)は、メチオニンアミノペプチダーゼを用いる処理のような周知の技術を用いたN末端のメチオニンの除去である。2番目の所望される短縮化は、そのリーダー配列のない哺乳動物FGFを含む。当業者は、このリーダー配列を、細胞膜の通過を容易にするが、活性に必須でなくかつ成熟タンパク質においては見出されないタンパク質のN末端の一連疎水性残基として認識する。
【0043】
好ましい短縮化は、hFGF−2(または類似のbFGF−2)に関して決定される。一般則として、哺乳動物FGFのアミノ酸配列は、最大の相同性を得るためにFGF−2と整列される。整列したFGF−2(配列番号3または5)の対応するN末端を超えて伸長する哺乳動物FGFの部位はまた、有害な効果を伴わない欠失のために適切である。同様に、整列されたFGF−2(配列番号3または5)のC末端を超えて伸長する哺乳動物FGFの部分もまた、有害な効果なく欠失され得る。
【0044】
上記のものよりも短いFGFのフラグメントはまた、FGFの細胞結合部位およびヘパリン結合セグメントの少なくとも一つが残存する限り、本発明の範囲内である。先に既に議論されたように、FGF−2(ヒトまたはウシ)のヘパリン結合セグメントは、残基18〜22および107〜111に生じる。一方、細胞結合部分は、残基36〜39および77〜81に生じる。例えば、bFGF−2のN末端短縮化がウシにおける新脈管形成活性を排除しないということは、当該分野において周知である。特に、この技術は、配列番号5のbFGF−2に関してN末端短縮化を有する配列番号5のbFGF−2のいくつかの天然に生じるフラグメントおよび生物学的に活性なフラグメントを開示する。配列番号5の残基12〜146を有する活性かつ短縮化されたbFGF−2は、ウシの肝臓に見出され、そして配列番号5の残基16〜146を有する別の活性かつ短縮化されたbFGF−2は、ウシの腎臓、副腎および精巣に見出された。[Uenoら、Biochem and Biophys Res.Comm.、138:580〜588(1986)を引用する米国特許第5,155,214 第6欄、41〜46行を参照のこと]。同様に、FGF活性を有することが公知の配列番号5のbFGF−2の他のフラグメントは、FGF−2(24〜120)−OHおよびFGF−2(30〜110)−NH2である。[米国特許第5,155,214 第6欄、48〜52行]。これらの後者のフラグメントは、bFGF−2(配列番号5)の細胞結合部位およびヘパリン結合セグメントの一つ(残基107〜111)の両方が残存する。従って、哺乳動物FGFの新脈管形成的に活性なフラグメントは、代表的にFGF−2と相同性を最大にするように整列される場合、少なくとも配列番号5のbFGF−2(または配列番号3のhFGF−2)の残基30〜110に対応する残基、より代表的に、少なくとも配列番号5のbFGF−2の残基18〜146に対応する残基を有するこれらの末端短縮化フラグメントを含む。
【0045】
本発明の単位用量はまた、配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14の任意の哺乳動物FGFの「新脈管形成的に活性な...ムテイン」を含む。用語「新脈管形成的に活性な...ムテイン」は、これらの個々の部位において配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14の任意の残基の少なくとも80%、好ましくは90%を構造的に残存し、そして配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14の任意のFGFの新脈管形成的な活性を機能的に残存する、配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14の任意の哺乳動物FGFの変異型を意味する。好ましくは、この変異は、L−アミノ酸を用いる「保存的な置換」であり、1つのアミノ酸が別の生物学的に類似のアミノ酸によって置換される。保存的な置換の例は、Ile、Val、Leu、Pro、またはGlyのような疎水性の残基の1つの他への置換、もしくはPhe⇔Tyr、Ser⇔Thr、またはArgとLysとの間、GluとAspとの間、またはGlnとAsnとの間などのような1つの極性の残基の他への置換を含む。概して、変化されたアミノ酸は、お互いに交換可能とみなされる。しかし、より保存的に置換を作製するために、側鎖についての大きさおよび電荷(もしあれば)の類似の両方を考慮する。他の適切な置換は、ジスフィルド形成に含まれない残基位置のシステイン(hFGF−2(配列番号3)またはbFGF−2(配列番号5)中の残基87および92のような)の一方または両方へのセリンの置換を含む。好ましくは、置換は、新脈管形成的な活性に関与しないN末端に導入される。しかし、上記のように、保存的な置換は、分子を通じて導入されるのに適切である。
【0046】
当業者は、当該分野に公知の技術を用いて、本発明の単位用量、組成物および方法における使用のための新脈管形成的な活性を有するFGFポリペプチドムテイン(またはフラグメントムテイン)の発現を得るために、配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14の任意の哺乳動物FGFをコードするDNA中に1つ以上の点変異を作成することが可能である。配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14の任意のFGFの新脈管形成的に活性なムテインを調製するために、当業者は、当該分野において公知のおよび/またはGilmanら、Gene、8:81(1979)またはRobertsら、Nature、328:731(1987)に教示されるような部位特異的変異誘発の標準的技術を、1つ以上の点変異を配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14の任意のFGFをコードするcDNAに導入するために使用する。
【0047】
第二の局面において、本発明は、安全性および配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14の任意の哺乳動物FGFまたは新脈管形成的に活性なそのフラグメントもしくはそのムテインの脈管形成的に有効な用量、ならびに薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的な組成物に関する。代表的には、本発明の薬学的組成物の安全性かつ新脈管形成的に有効な用量は、形態および大きさにおいてヒト患者への投与に適切であり、以下を含む:(i)0.2μg/kg〜36μg/kgの配列番号1〜3、5、8〜10もしくは12〜14の任意のFGFまたは新脈管形成的に活性なそのフラグメントもしくはそのムテイン;(ii)および薬学的に受容可能なキャリア。他の実施形態において、安全かつ新脈管形成的に効果的な用量は、0.2μg/kg〜2μg/kg、2μg/kg〜20μg/kgまたは20μg/kg〜36μg/kgの配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14の任意のFGFあるいは新脈管形成的に活性なそのフラグメントもしくはそのムテイン、および薬学的に受容可能なキャリアを含む。
【0048】
本明細書中で用いられる場合、用語「薬学的に受容可能なキャリア」は、タンパク質様医薬(例えば、本明細書中に開示された配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14の任意の哺乳動物FGF)の安定化および/または投与のために当該分野において公知の任意のキャリアまたは希釈液を意味し、これは、この組成物を受け入れる個体に有害な抗体の産生を自身で誘導せず、そして過度の毒性なしに投与され得る。本発明の他の局面において、薬学的組成物が提供され、これは薬学的に受容可能なキャリアまたは希釈液の組合せで、配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14の任意の組換えFGFあるいは新脈管形成的に活性なそのフラグメントもしくはそのムテインを含む。このような薬学的組成物は、投与の前に溶液に溶解される溶液として、または固形(例えば、凍結乾燥した)としてのいずれかに調製され得る。さらに、この組成物は、適切なキャリアまたは希釈液を用いてIC注射または投与のために調製され得る。薬学的に受容可能なキャリアまたは希釈液は、利用される用量および濃度においてヒトレシピエントに無毒性である。注射可能または注入可能な溶液のための適切なキャリアまたは希釈液の代表的な例は、滅菌水または等張性生理食塩水溶液を含む。これらは、好ましくは、適切なpHで緩衝化され(例えば、リン酸緩衝化生理食塩水またはTris緩衝化生理食塩水)、そして必要に応じてマンニトール、ブドウ糖、グリセリン、エタノール、および/または1つ以上のポリペプチドまたはタンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン(HSA))を含む。トレハロース、チオグリセロールおよびジチオトレイトール(DTT)のような安定剤もまた、添加され得る。
【0049】
代表的な薬学的組成物は、0.001〜10mg/ml、より代表的には0.03〜0.5mg/mlの配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14の任意のrFGFまたは新脈管形成的に活性なそのフラグメントもしくはそのムテイン、10mM チオグリセロール、135mM NaCl、10mM クエン酸ナトリウムおよび1mM EDTA(pH5)を含む。上記の組成物に適切な希釈液または洗浄(flushing)薬は、上記の任意のキャリアである。代表的には、この希釈液は、10mM チオグリセロール、135mM NaCl、10mM クエン酸ナトリウムおよび1mM EDTA(pH5)を含むキャリア溶液自身である。配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14の任意のrFGFまたは新脈管形成的に活性なそのフラグメントもしくはそのムテインは、液状形態で長時間では不安定である。安定性および有効期限を最大限にするために、配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14の任意のrFGFまたは新脈管形成的に活性なそのフラグメントもしくはそのムテインの有効量を薬学的に受容可能な水性のキャリア中に含む本発明の薬学的な組成物は、−60℃で冷凍貯蔵されるべきである。融解した場合、この溶液は、冷蔵された条件で6ヶ月間安定である。代表的な単位用量は、1.5〜8mgの配列番号1〜3、5、8〜10または12〜14の任意のFGFを有する上記の組成物の約5〜10mlを含む。
【0050】
別の実施態様において、薬学的組成物は、凍結乾燥(フリーズドライ)形態で、配列番号1〜3、5、8〜10、もしくは12〜14の任意の1つのFGF、またはその脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインの、単位用量を含む。この形態において、FGFの単位用量は、治療的効果の損失なく、実質的に6ヶ月より長く、凍結温度で保存され得る。凍結乾燥は、複数のバイアルの、減圧下での急速凍結乾燥により達成される。それぞれのバイアルは、その中に、本発明のFGFの単位用量を含有する。上記の凍結乾燥を実行する凍結乾燥機は、市販されており、そして当業者により容易に操作可能である。患者への投与の前に、この凍結乾燥製品は、好ましくはそれ自身のバイアル中で、適切な滅菌水性希釈液(代表的には、0.9%(または以下)の滅菌生理食塩水、または適合する滅菌緩衝液、または滅菌脱イオン水でさえ)を用いて、既知の濃度に再構成される。患者のKg体重に依存して、配列番号1〜3、5、8〜10、もしくは12〜14のうちのいずれかの1つのFGFまたはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインの0.2μg/kg〜36μg/kgを含む単回用量を、患者への投与のための再構成産物としてバイアルから吸引する。従って、24μg/kgが投与される平均70kgの男性は、1680μg(すなわち、1.680mg)(70kg×24μg/kg)のIC注入を受けるに十分な容量の再構成製品をバイアルから吸引される。
【0051】
その第3の局面において、本発明は、冠動脈疾患(CAD)についてヒト患者を処置するために上記の単位用量または薬学的組成物を用いる、CADまたはMIについての処置が必要な患者を処置するための方法に関する。特に、本発明は、冠動脈疾患についてヒト患者を処置するための方法に関する。この方法は、配列番号1〜3、5、8〜10、もしくは12〜14の任意の1つの組換えFGF、またはその脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインの安全かつ治療上有効な量を、冠動脈疾患の処置の必要なヒト患者の1つ以上(代表的には2つ)の冠状脈管へ投与する工程を包含する。好ましい冠状脈管は冠動脈であるが、冠状血管形成術により提供される場合、移植伏在血管および移植内胸動脈もまた、適切である。
【0052】
本発明の方法は、硝酸塩により提供されるような単に症状の処置でなく、基礎的条件(すなわち、CADまたはMI)の臨床的処置を提供する。代表的に、本発明の方法の安全かつ治療上有効な量は、薬学的に受容可能なキャリア中に配列番号1〜3、5、8〜10、もしくは12〜14の任意の1つのFGF、またはその脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインの0.2μg/kg〜36μg/kgを含む。他の実施態様において、この安全かつ治療上有効な量は、薬学的に受容可能なキャリア中に、配列番号1〜3、5、8〜10、もしくは12〜14の任意の1つのFGF、またはその脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインの0.2μg/kg〜2μg/kg、2μg/kg〜20μg/kg、または20μg/kg〜36μg/kgを含む。絶対的用語では、この安全かつ治療上有効な量は、配列番号1〜3、5、8〜10、もしくは12〜14の任意の1つのFGF、またはその脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインの約0.008mg〜約6.1mg、より代表的には、配列番号1〜3、5、8〜10、もしくは12〜14の任意の1つのFGF、またはその脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインの0.3mg〜3.5mgである。
【0053】
本発明の治療上有効な量のrFGF−2は、最適な医学管理にかかわらず、CAD症状と診断されたヒト患者の少なくとも1つの冠状脈管に、医薬(例えば、血栓溶解剤、ストレプトキナーゼ、または冠動脈を可視化するために用いられる放射性不透明性色素もしくは磁気粒子)の冠状脈管内投与のための当該分野で既に公知であり、かつ用いられている標準的心臓カテーテル技術を用いて、投与される。例えば、冠動脈カテーテルは、処置の必要な患者の動脈(例えば、大腿動脈または鎖骨下動脈)に挿入され、そしてこのカテーテルは、処置される患者の適切な冠状脈管に位置するまで、目で見ながら前方に押される。明白なラインを維持するための標準的注意を用いて、10〜30分の間隔にわたって、実質的に連続して単位用量を注入することにより、可溶性形態の薬学的組成物が投与される。本発明の薬学的組成物は長時間投与され得るが、そのような投与において利点がなく、そして血栓症の潜在的に増加する危険性があることを本出願人は認識している。 代表的には、単位用量の一部(例えば、1/2)が、第1の冠状脈管に投与される。次いで、このカテーテルは、第2の二次性冠状脈管に再配置され、そして単位用量の残りがカテーテルのフラッシングによって投与される。上記の再配置手順を用いて、単位用量の一部は、単位用量全体が投与されるまで、複数の冠状脈管に投与され得る。投与後、このカテーテルは、従来技術で公知のプロトコールを用いて抜去される。冠状脈管形成の徴候は、単位用量のIC投与後、数日で明白になる。治療上の利点は、IC FGF投与後、2週間程度のはやさで観察される。臨床的に重大な改善は、単位用量のIC投与後30日で客観的基準(ETTおよび/またはSAQ)により容易に実証され得る。進行性CAD疾患を有する特定の患者において、単位用量のFGFを、例えば、6ヶ月ごとまたは毎年、投与することが、その期間の間、CADの進行を克服するために、必要または適切であり得る。
【0054】
本発明の方法の1つの利点は、心臓脈管形成である。従って、別の局面において、本発明は、ヒト患者の心臓の脈管形成を誘導する方法に関する。この方法は、配列番号1〜3、5、8〜10、もしくは12〜14の任意の1つの組換え哺乳動物FGF、またはその脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインの約0.2μg/kg〜約36μg/kg(または絶対的用語では、約0.008mg〜約6.1mg)を、冠状脈管形成の必要なヒト患者の1つ以上の冠状脈管に単位用量として投与する工程を包含する。
【0055】
本明細書の実施例2の基準を満たす、CADと診断された52例のヒト患者に、配列番号5のFGF−2の0.33μg/kg〜48μg/kgの単位用量を、約20分間にわたるIC注入によって投与した。次いで、この52例の処置患者をSeattle Angina Questinnaireにより評価した。これは、客観的基準および主観的基準の組み合わせに基づく評価を提供する。表2を参照のこと。Seattle Angina Questinnaireは、処置の前および後の両方に評価される以下の5つのサブスケールを有する、確証された、疾患特異的装置である:1)「運動能力(exertional capacity)」=身体活動の限界;2)「疾患の認知」=MIについて心配する;3)「処置の満足度」;4)「アンギナ頻度」=発症(エピソード)および舌下ニトログリセリン使用の回数;ならびに5)「アンギナ安定性」=最も激しい身体的活動での発症(エピソード)の回数。5つのサブスケールの各々の可能性のある範囲は、0〜100であり、スコアが高いほどより良好なクオリティーオブライフ(生活の質)を示す。さらに、平均ベースラインスコア(処置前)と処置後スコアとの間の8ポイント以上の平均変化が、「臨床的に有意」であると認識される。表2は、事前試験され、次いで配列番号5のFGF−2の0.33μg/kg〜24μg/kgの一単位用量を、IC注入により投与された28例の患者が、「Seattle Angina Questionnaire」によって評価された5つの「クオリティーオブライフ(quality of life)」の基準について13から36ポイントへの平均スコアの上昇を示したことを報告する。本明細書における表2を参照のこと。これらの13から36ポイントの平均の上昇は、別の方法の処置において、「臨床的に有意」であると当該分野で認識されている8ポイントの変化よりも約1.6〜4.5倍大きかった。本明細書において、表2を参照のこと。
【0056】
【表2】


さらに、表2の最初の15例の患者についての結果の組み合わせが配列番号5のFGF−2の低用量(2μg/kg以下)と高用量(2μg/kgより多い)との間で分類され、そして「Seattle Angina Questionnaire」により評価された場合、両方の用量は、それぞれ、約12.3〜58.1および約10.9〜32.1にわたるスコアの上昇を提供することが見出された。本明細書における表3を参照のこと。このスコアの上昇は、別の様式の処置において「臨床的に有意である」と考えられている8ポイントの変化より、約1.4〜7.2倍大きかった。
【0057】
同じ第I相試験において、CADと診断され、そして本明細書における実施例2の基準を満たす52例のヒト患者に、配列番号5のFGF−2の0.33μg/kg〜48μg/kgの単回単位用量をIC投与した。ヒトにおける最大耐容用量(MTD)は、48μg/kgでの2/10例の患者における重篤だが一過性の低血圧の発症に基づいて、36μg/kgと規定された。(対照的に、ブタにおけるMTDは、6.5μg/mlと規定された)。1つの部位で、23例のヒト患者の心臓を、改善した冠の満足度の客観的徴候について磁気共鳴画像(MRI)によって、処置の前(「ベースライン」)ならびに30日後および60日後の両方で評価した。MRIによって評価した客観的基準のうちにあるのは以下である:1)左室(LV)駆出率(EF);2)正常壁厚(normal wall thickness:NWT);3)正常壁運動(normal wall motion:NWM);4)側副枝程度(collateral extent);5)虚血領域帯;6)標的化壁厚(TWT);7)標的化壁運動(TWM);および8)灌流帯または遅延到達帯(%LV)。患者はまた、アンギナ、トレッドミル運動期間、休息/運動 核灌流について評価された。結果を表4にまとめる。表4は、ベースラインのアンギナのクラスが、それぞれIC FGF−2の後30日目および60日目に、2.6から1.4および1.2に減少したことを反映する。平均のトレッドミル運動時間は、処置後、それぞれ30日目および60日目に、ベースラインの8.5分から9.4分および10.0分に延長した。左室駆出率(LVEF)には有意な変化は観察されなかった。しかし、標的壁運動は有意に増大し、FGF−2処置後、ベースラインの15.4%から23.5%(30日目)および24.1%(60日目)に動いた。同様に、標的壁厚は、FGF−2処置後、ベースラインの28.7%から34.7%(30日目)および45.9%(60日目)へと有意に上昇した。灌流においても、遅延到達帯(%LV)における減少により測定した場合、有意な増大が存在した。ここで、遅延到達帯はFGF−2処置後、ベースラインの18.9%から7.1%(30日目)および1.82%(60日目)に減少した。
【0058】
【表3】

【0059】
【表4】


従って、本発明に従うFGF−2の単回IC注入をCAD患者に提供すれば、MRIおよび他の従来基準により客観的に測定した場合、患者に有意な身体的改善を提供した。
【0060】
(薬物動態および代謝)
FGF−2の分子構造は、血管系の細胞表面および内皮壁上のプロテオグリカン鎖(ヘパリンおよびヘパリン様構造)に結合することが既知である正に荷電したテイル(tail)を含む。Moscatelli、ら「Interaction of Basic Fibroblast Growth Factor with Extracellular Matrix and Receptors」Ann. NY Acad.Sci.,638:177〜181(1981)を参照のこと。内皮がFGF−2結合の原因であり、注射後、受け手(sink:流し)として働くので、本発明者らは、rFGF−2が、投与直後に速い生体分布相を受けると考えた。従って、本発明者らは静脈経路の投与と異なって冠状脈管内に標的した。
【0061】
腎臓および肝臓は、rFGF−2の排泄のための主要な器官である。特に、腎臓は、約60kDのタンパク質カットオフを有し、これにより血清アルブミン(MW 60kD)を保持する。しかし、配列番号5のFGF−2は、約16kDの分子量を有する。従って、腎排泄が期待される。市販のウシFGF−2(bFGF−2)の放射線標識した生体分布研究において、肝臓および腎臓の両方が、IV注射またはIC注射後1時間で、放射線標識bFGF−2の高いカウントを含むことが示された。同じ研究において、FGF−2は、赤血球に結合するようであった、しかし、これらの結果は、全血のインビトロ分析では確認されなかった。発表された研究では、bFGF−2の別の組換えヨウ化形態がラットに与えられた場合、肝臓が、排泄の主要な器官として同定された。Whalenら「The Fate of Intravenously Administered bFGF and the Effect of Heparin」Growth Factor、1:157〜164(1989)。より詳細には、FGF−2は、全身循環においてα2マクログロブリンに結合すること、およびこの複合体がクッファー細胞上のレセプターによりインターナリゼーションされることが知られている。Whalenら(1989)およびLaMarreら「Cytokine Binding and Clearance Properties of Proteinase−Activated Alpha−2−Macroglobulins」Lab.Invest.,65:3〜14(1991)。標識したFGF−2フラグメントは、血漿中には見出されなかったが、それらは尿中に見出され、そしてサイズは細胞内の分解産物に対応した。FGF−2がヘパリンと組み合わせて投与された場合、FGF−2の腎排泄が増加した。Whalenら(1989)。ヘパリンと複合体化されない場合カチオン性であるFGF−2分子は、糸球体基底膜のカチオン性硫酸ヘパリンにより反発されるようである。FGF−2/ヘパリン複合体は、より中性に荷電され、従って腎臓により容易に濾過され、そして排出される。
【0062】
本発明者らは、家畜のヨークシャー(Yorkshire)ブタにおいて静脈内(IV)および冠状脈管内(IC)投与後、Sprague Dawley(「SD」)ラットにおけるIV投薬後、およびCADのヒト患者におけるIC投与後に、rFGF−2(配列番号5)の薬物動態を決定した。全ての種において、IV注射および/またはIC注射後のrFGF−2血漿濃度は、最初の1時間に、初期の急激な勾配およびいくつかの対数目盛にわたるかなりの減少(分布相)その後、より緩やかな低下(排泄相)を有するバイエクスポネンシャル曲線に従った。図1は、以下の用量後の関数として、配列番号5のrFGF−2のIC投与後のヒトにおけるこれらの相を示す、血漿濃度対時間の曲線を提供する:除脂肪体重(LBM)に対して、0.33μg/kg、0.65μg/kg、2μg/kg、6μg/kg、12μg/kgおよび24μg/kg。配列番号5のrFGF−2の血漿濃度は、ヒトFGF−2の分析のために上市された市販のELISA(R&D Systems、Minneapolis MN)により決定された。このELISAアッセイは、配列番号5のrFGF−2との100%の交差反応性を示した。FGFファミリーの他のメンバーおよび多数の他のサイトカインは、このアッセイにより検出されなかった。さらにヘパリンは、このアッセイを妨害しない。
【0063】
薬物動態学研究の設計、薬物動態学的パラメータ、および結論が、ブタおよびラットにおける研究についてそれぞれ表5および6に列挙される。読者は、特定の詳細について、これらの表を参照する。しかし、とりわけ注目されるべきポイントは、702±311〜609±350ml/時間/kgのクリアランス(CL)を有する動物についての単一コンポーネントモデルについての単回IC注入に続いて、半減期(T1/2)が2.8±0.8〜3.5時間であったことである。これらの研究の結果は、配列番号5の組換えbFGF−2の薬物動態学は、これらの動物がIC経路またはIV経路のいずれを通して投薬されたかにかかわらず、実質的に同一であったことを示す。表5を参照のこと。ブタにおいて、組換えbFGF−2の最大耐容用量は、6.5μg/kgであった。とりわけこれらの研究の表5および6から引き出されるべき他の薬物動態学的結果は、迅速な分布相それに続く中度の排泄相、およびヒトについて図1で報告されるような用量線形性があることである。また、性別差がなかった。さらに、スリーコンパートメントモデルを、70U/kgのヘパリンを約15分投与され、その後5〜10分のIC注入によって0.65〜6.5μg/kgを投与されるブタについて分析した。これらのスリーコンパートメントについての半減期
【0064】
【数1】


は、それぞれ、1.5分、17分、および6.6.時間であった。これらの動物において、初期容量(「V1」)はおよそ血漿容量であり、そして定常容量(「VSS」)は血漿容量の約10倍であった。表5を参照のこと。ブタにおいて、配列番号5の組換えbFGF−2の循環ヘパリンへの結合は、生体分布および排出を減少させるようである。同様に、ラットにおいて、rFGF−2の分布およびクリアランスの両方の容量は、ヘパリンが投与される場合、より少なかった。表6を参照のこと。さらに、FGF−2のクリアランスにおける最大かつ最も好ましい変化が、ヘパリンが±15分以内に、好ましくはrFGF−2 IC注入の直前に投与される場合に、見られた。表6を参照のこと。
【0065】
【表5】

【0066】
【表6】


配列番号5のrFGF−2の薬物動態学を、本出願を支持する第I相臨床研究において最適な医学的管理にもかかららずCADと診断されたヒトにおいて、研究した。この第I相研究において利用されるrFGF−2の用量は、除脂肪体重(LBM)で、0.33μg/kg、0.65μg/kg、2μg/kg、6μg/kg、12μg/kg、および24μg/kgであり、そして全ての用量を、40U/kgヘパリン(これは、rFGF−2注入(2例の患者の冠状脈管のそれぞれに10分)の1〜95分前にIVまたはIC投与された)でこの患者を前処置した後、20分IC注入によって投与した。本明細書中の図1〜3は、これらの結果を基礎とするデータを要約する。詳細には、図1は、上記のように20分間にわたってIC注入によって投与されるrFGF−2(配列番号5)の6つの異なる用量についての、時間(時間)に対する平均rFGF−2血漿濃度のプロットである。図1は、用量線形性および二相性の血漿レベル減少、すなわち、最初1時間の迅速な分布相、続いて1.9±2.2時間のT1/2を有する排出相を示す。用量線形性は、図2においてより容易に見られ、この図2は、投与された6つの用量のrFGF−2の各々についての図1に関しての、pg・時間/mlでの個々の患者のrFGF−2の曲線下面積(AUC)のプロットである。図3は、「rFGF−2注入前の分」でのヘパリン用量の時間に対しての、個々のヒト患者rFGF−2用量の正規化したAUCプロットであり、そしてrFGF−2 AUCにおけるヘパリン投与のタイミングの影響を示す。図3は、最大のAUC/用量は、有効量のグルコサミノグリカン(例えば、ヘパリン)が、IC rFGF−2注入の30分以内で、より好ましくはIC rFGF−2注入の20分以内で前投与された場合に、達成されたことを示す。典型的には、有効量のグルコサミノグリカンは、40〜70U/kgヘパリンである。これらの薬物動態学的結果を、本明細書中の表7に要約する。
【0067】
【表7】


rFGF−2分布相は、ヘパリン無しのrFGF−2と比較した場合、ヘパリン有りの場合、より急激でなく、分布容量はより少なく、そしてクリアランスはより少なかった。循環ヘパリンとのrFGF−2の複合体は、rFGF−2の生体分布および排出を減少させるようである。FGF−2のヘパリン様構造への結合は強力である(解離定数約2×10-9M)が、FGF−2のFGF−2レセプターへの結合は約2倍のオーダーの大きさだけ高い(解離定数約2×10-11M)。Moscatelliら(1991)。さらに、配列番号5のrFGF−2のグルコサミノグリカン(例えば、ヘパリン)との複合体化は、シグナル形質導入および有糸分裂誘発を増加し得、そして/または酵素的分解からrFGF−2を保護する。
【0068】
以下に続く例は、選択基準および上記で議論されたデータのもとである第I相臨床試験に関するより詳細を提供する。
【実施例】
【0069】
(実施例1)
(第I相臨床試験において使用される単位用量のrFGF−2)
配列番号5のrFGF−2を、単位用量および薬学的組成物として処方し、そ
して、本明細書中で参照される第I相臨床試験において、ラット、ブタおよび最
終的にはヒトへ投与した。種々の処方物を以下に記載する。
【0070】
(rFGF−2単位用量)を、積層した灰色ブチルゴム栓(laminate
d gray butyl rubber stopper)および赤色フリッ
プオフオーバーシール(red flip−off overseal)を備え
る3ccI型ガラスバイアル中に、液体として提供した。このrFGF−2単位
用量は、10mMのクエン酸ナトリウム、10mMモノチオグリセロール、1m
MのEDTA二ナトリウム二水和物(分子量372.2)、135mMの塩化ナ
トリウム、pH5.0中に、1.2mlの0.3mg/mlの配列番号5のrF
GF−2を含んだ。従って、絶対的条件として、各バイアル(および単位用量)
は、0.36mgのrFGF−2を含んだ。液体形態でこの単位用量を含むバイ
アルを、2℃〜8℃で保存した。
【0071】
(rFGF希釈剤)を、積層した灰色ブチルゴム栓および赤色フリップオフオ
バーシールを備える5ccI型バイアル中に供給した。rFGF−2希釈剤は、
10mMのクエン酸ナトリウム、10mMモノチオグリセロール、135mMの
塩化ナトリウム、pH5.0中を含んだ。各バイアルは、5.2mlのrFGF
−2希釈剤溶液を含み、これを2℃〜8℃で保存した。
【0072】
注入される(rFGF−2薬学的組成物)を、注入容量が10mlになるよう
に、rFGF−2単位用量をrFGF希釈剤で希釈することによって調製した。
EDTA濃度を100μg/mlの限界未満に保持するために、この全注入容量
を、高体重を有する患者へ比例してより高いFGF−2の絶対量が投与される場
合には、20mlに増加させた。
【0073】
(実施例2)
(rFGF−2での処置に関する、冠状動脈疾患を有する患者についての選択
基準)
以下の選択基準を、冠状動脈疾患を有する第I相患者へ適用した。これらの患
者の活性は、最適な医学的管理にもかかわらずそれらの活性が冠状虚血によって
制限され、そしてこれらの患者は、承認された脈管再生治療についての候補でな
かった。
【0074】
(包含基準:)被験体は、以下である場合に適格である:
・18歳以上の男性または女性
・冠状動脈疾患(CAD)の診断
・承認された脈管再生治療(例えば、脈管形成術、ステント、冠状動脈バイパ
スグラフト(CABG))についての準最適な候補(またはこれらの処置を拒否
する)
・改変されたBruceプロトコルを使用して少なくとも3分間運動し、そし
て冠状虚血によって制限され得る
・薬理学的に圧迫されたタリウムセスタミビ(sestamibi)スキャン
における少なくとも20%心筋の誘導性の欠陥および可逆性の欠陥
・必要な心臓カテーテル挿入について臨床的に受容可能である範囲内のCBC
、血小板、血清化学
・正常INR、またはCoumadinで抗凝固である場合、INR<2.0
・全ての必要な研究手順および追跡訪問を含むこの研究に参加するための、意
志および書面でのインフォームドコンセントを提供し得る
(除外基準:)被験体は、以下である場合に適格でない:
・悪性腫瘍:治癒的に処置された基底細胞がんを除く過去十年内の悪性腫瘍の
何らかの病歴、
・眼の状態:増殖性未熟児網膜症、重篤な非増殖性未熟児網膜症、網膜静脈閉
塞、Eales病、または黄斑浮腫、あるいは眼科医による眼底検査:6ヶ月以
内の眼内手術の病歴
・腎臓機能:年齢について適合される正常範囲未満のクレアチンクリアランス
;タンパク質>250mgまたはミクロアルブミン>30mg/24時間 尿
・IVクラス心不全(New York Heart Associatio
n)
・超音波心臓診断図、タリウムスキャン、MRIまたはゲートされプールされ
た血液スキャン(gated pooled blood scan)(MUG
A)により駆逐率<20%
・血流力学的関連不整脈(例えば、心室細動、持続性心室性頻脈)
・重篤な弁狭窄(大動脈領域<1.0cm2、僧帽弁領域<1.2cm2)、ま
たは重篤な弁不全
・3週間以内のアンギナまたは不安定アンギナの顕著な増加
・3ヶ月以内の心筋梗塞(MI)の病歴
・6ヶ月以内の一過性虚血発作(TIA)または発作(stroke)の病歴
・6ヶ月以内のCABG、脈管形成術またはステントの病歴
・6ヶ月以内の経心筋レーザー脈管再生、rFGF−2、または脈管上皮増殖
因子(VEGF)での処置の病歴
・妊娠の可能性または保育中の(nursing)母の女性
・任意の病理学的線維症、例えば、肺の線維症、強皮症
・公知の脈管奇形、例えば、AV奇形、血管腫
・CADの症状の評価を干渉し得る任意の疾患、例えば、心膜炎、脇軟骨炎、
食道炎症、全身性血管炎、鎌状赤血球症の合併
・改変Bruceプロトコル運動ストレス試験の実行を制限する任意の疾患、
例えば、肢の麻痺または切断、重篤な関節炎または肢、重篤な慢性妨害肺性疾患
(COPD)
・30日以内(または、研究薬物の60日以内に計画される)の調査の薬剤、
デバイスまたは手順の臨床試験への参加関与
・rFGF−2または関連化合物に対する公知の過敏症
・調査員の意見において本研究における参加のために不適切な被験体を作る任
意の条件、例えば、精神病、重篤な精神遅滞、研究員とコミュニケーションが取
れないこと、薬物またはアルコール乱用。
【0075】
(実施例3)
(ヒトへ投与される組換えFGF−2(配列番号5)についての第I相臨床試
験)
配列番号5の組換えbFGF−2を、重篤なCADを有する52人のヒト患者
(これは、最適な医学的管理にもかかわらず症状を残し、そして第I相オープン
ラベル、単回投与、用量増大、2部位トライアルにおいて外科または経皮的脈管
再生を拒絶するかまたはそののための準最適な候補である)へ投与した。上記薬
物を、患者の冠状動脈へのカテーテル配置のための標準的技法(脈管形成術にお
いて既に利用されたような)を使用して、冠状血液供給の2つの主要な源(IC
)の間に分割された単回20分注入として投与した。rFGF−2の用量(μg
/kg)は、配列番号5のrFGF−2の、0.33(n=4)、0.65(n
=4)、2.0(n=8)、6.0(n=4)、12.0(n=4)、24(n
=8)、36(n=10)および48(n=10)であった。アンギナ頻度およ
びクオリティーオブライフを、ベースラインで(rFGF−2投与前)およびr
fFGF−2投与後約60日で、Seattlle Angina Quest
ionnaire(SAQ)によって評価した。運動耐容時間(ETT)を、ス
レッドミル試験によって評価した。安静/運動核灌流およびゲートされたセスタ
ミビ−決定される(sestamibi−determined)安静時駆出率
(EF)、および磁気共鳴画像法(MRI)を、ベースラインで、およびFGF
−2投与後30日および60日で評価した。評価した他の終点は、MRI(駆逐
率(EF)、正常壁運動(NWM)、標的化壁運動(TWM)、正常壁厚み(N
WT)、標的化壁厚み(TWT)、虚血領域帯および側副枝程度を客観的に測定
するため)を含んだ。表2〜4をそれぞれ参照のこと。
【0076】
予備的安全性結果は、重大な事象は用量関連しなかったことを示す。今までの
ところは、8つの投薬量群の中で、最低の投薬量群、すなわち、0.65μg/
kg(23日目)、2.0μg/kg(57日目)および6.0μg/kg(6
3日目)で、3つの死亡が存在した。3人の患者、すなわち、1群(0.33μ
g/kg)、3群(2.0μg/kg)および4群(6.0μg/kg)の各々
から1例における急性心筋梗塞(MI)についての6つの入院が存在した。これ
らの3人の患者のうちの1人は、急性MIについての6つの入院のうちの4つを
占めた。4群の患者において投薬後3週間で診断された1例の大きなB細胞リン
パ腫もまた存在した。この患者は、投薬後2ヶ月で死んだ。注入の間または注入
直後により高い用量でみられる急性低血圧は、昇圧薬の必要がない輸液の投与に
よって管理された。rFGF−2(配列番号5)の最大耐容用量は、36μg/
kgとして定義された。48μg/kg ICまでのrFGF−2の用量は、積
極的な輸液管理を用いて患者において管理された。しかし、彼らは、10人の患
者のうちの2人において急性および/または起立性の低血圧に起因して耐容性を
示さなかった。IC注入されたrFGF−2のヒトにおける半減期は、約1時間
であった。
【0077】
配列番号5のrFGF−2の単回IC注入で処置した、この研究におけるヒト
患者は、1.5〜2分のETTの平均増加を示した。これは、30秒を超えるE
TTの増加が、重要であり、かつ代替の治療(例えば、脈管形成術)を評価する
ための基準と考えられるので、特に重要である。SAQによって測定される、ア
ンギナ頻度およびクオリティーオブライフは、試験した28人の患者(n=28
)について5つの全てのサブスケールにおいて57日で有意な改善を示した。表
2および3を参照のこと。特に、SAQによって評価される5つの診断基準につ
いてのスコアの平均変化は、13〜36であり、「臨床的に重要である」と考え
られる8以上の平均変化を有した。表2を参照のこと。
【0078】
磁気共鳴画像法(MRI)は、配列番号5のbFGF−2の単回単位用量の投
与に従う目的の改善を示し、この改善は、30日および60日での増加した標的
化壁運動(p<0.05)、および60日での増加した標的化壁厚化(p<0.
01)を含む。MRIはさらに、改善した領域壁運動、ならびに低用量(0.3
3μg/kgおよび0.65μg/kg)および高用量(2.0μg/kgおよ
び12.0μg/kg)の両方についての標的化領域における増加した心筋灌流
および側副枝発達を示した。
【0079】
28人の患者の部位の1つで評価した異常灌流帯は、30日および60日で有
意に減少した(p<0.001)。
【0080】
上記の診断基準(すなわち、ETT SAQ、MRI)に加えて、処置は、脈
管形成効果が少なくとも6ヶ月持続する場合に、非常に成功であると考えられる
。本第I相研究において、予想外に優れた脈管形成効果が、全ての投薬群におい
て57〜60日間持続したことが観察された。[表2〜4を参照のこと。]既に
得られた結果に基づいて、脈管形成効果が12ヶ月以上、しかし少なくとも6ヶ
月(この時点で必要ならば上記手順が繰り返される)持続することが予想される

【0081】
(実施例4)
(冠状動脈疾患を処置するためにヒトに投与される組換えFGF−2(配列番
号5)に関して提案される第II相臨床試験)
冠状動脈疾患についてヒト患者を処置するためにrFGF−2の第II相臨床
試験を、以下の4つのアームを有するダブルブラインド/プラシーボ(doub
le blind/placebo)コントロールド研究として実施した:IC
投与される、プラシーボ、0.3μg/kg、3μg/kgおよび30μg/k
g。
【0082】
(実施例5)
(第II相ヒト臨床試験についてのrFGF−2の単位用量および薬学的組成
物)
配列番号5のrFGF−2を、本明細書中で参照される第II相臨床試験にお
いけるヒトへの投与のための単位用量および薬学的組成物として処方した。種々
の処方物を以下に記載する。
【0083】
(rFGF−2単位用量)を、積層した灰色ブチルゴム栓および赤色フリップ
オフオバーシールを備える5ccI型ガラスバイアル中に、液体として調製した
。このrFGF−2処方物は、10mMのクエン酸ナトリウム、10mMモノチ
オグリセロール、0.3mMのEDTA二ナトリウム二水和物(分子量372.
2)、135mMの塩化ナトリウム、pH5.0中に、0.3mg/mlの配列
番号2のrFGF−2を含む。各バイアルは、3.7mlのrFGF−2薬物産
物溶液(1バイアル当たり1.11mgのrFGF−2)を含んだ。液体形態の
得られた単位用量を、−60℃未満で保存した。上述の単位用量を、「rFGF
−2プラシーボ」を用いて希釈する。患者のサイズに依存して、いくつかのバイ
アルの内容物は、第II相研究のために3.6μg/kgの単位用量を産生する
ように合わせられ得る。
【0084】
(rFGF−2プラシーボ)を、積層した灰色ブチルゴム栓および赤色フリッ
プオフオーバーシールを備える5ccI型ガラスバイアル中に、透明無色液体と
して提供する。このrFGF−2プラシーボは、上記薬物製品と、外観において
識別不可能であり、そして以下の処方を有する:10mMのクエン酸ナトリウム
、10mMモノチオグリセロール、0.3mMのEDTA二ナトリウム二水和物
(分子量372.2)、135mMの塩化ナトリウム、pH5.0。各バイアル
は、5.2mlのrFGF−2プラシーボ溶液を含む。単位用量と異なり、この
rFGF−2プラシーボを2℃〜8℃で保存する。
【0085】
注入される(rFGF−2薬学的組成物)を、注入容量が第II相について2
0mlになるように、rFGF希釈剤でrFGF−2単位用量を希釈することに
よって調製する。
【0086】
(配列表)
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【数5】

【数6】

【数7】

【数8】

【数9】

【数10】

【数11】

【数12】

【数13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−174017(P2010−174017A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43385(P2010−43385)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【分割の表示】特願2000−575522(P2000−575522)の分割
【原出願日】平成11年10月13日(1999.10.13)
【出願人】(591076811)ノバルティス バクシンズ アンド ダイアグノスティックス,インコーポレーテッド (265)
【出願人】(501089221)
【Fターム(参考)】