説明

Gタンパク質共役型受容体に対する結合性評価用組成物および結合性評価方法

【課題】被検化合物のGタンパク質共役型受容体(GPCR)に対する結合性を簡便かつハイスループットに評価する技術を提供する。
【解決手段】所望のGPCRのN末端側にシャペロニンサブユニット又はシャペロニンサブユニット連結体が連結された融合タンパク質を含む基本溶液に、ジチオジピリジンを添加してなる組成物が、被検物質のGPCRに対する結合性評価に好ましく用いられる。当該組成物においては、シャペロニンリングの脱リング化により、格納されていたGPCRが露出している。当該組成物に被検化合物を添加して前記融合タンパク質内のGPCRに被検物質を接触させる工程を含むGPCRに対する結合性評価方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価用組成物および結合性評価方法に関し、さらに詳細には、シャペロニンサブユニット又はシャペロニンサブユニット連結体と所望のGタンパク質共役型受容体との融合蛋白質を含むGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価用組成物、および当該組成物を用いるGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞表面上の膜受容体タンパク質は、細胞外の情報を細胞内へ伝達する極めて重要な働きをしている。そのため、膜受容タンパク質に結合する物質はアゴニスト型医薬品やアンタゴニスト型医薬として候補物質となり、受容体タンパク質と被検化合物との結合性を解析することは、医薬品開発において極めて重要である。膜受容体タンパク質の中でも特にGタンパク質共役型受容体(G protein−coupled receptor。以下、「GPCR」と略記することがある。)は、現在市販されている低分子医薬品の約半数がこの受容体を標的としているため、医薬品開発において極めて注目を集めている。また、GPCRの約半数が、生体内で機能しているナチュラルリガンドが同定されていないオーファンGPCRであり、ナチュラルリガンドやその類縁化合物が新規医薬品の候補物質として期待されていることから、オーファンGPCRに対するリガンドのスクリーニングが熾烈を極めている。
【0003】
GPCRは細胞膜を貫通して存在する受容体の1つであり、細胞膜を7回貫通し、そのN末端を細胞外に、C末端を細胞内に向けて存在している。GPCRは細胞外からリガンドの刺激を受け取り、細胞内のGタンパク質を活性化する機能を有する。Gタンパク質は、α、β、γの3種のサブユニットからなる3量体タンパク質であり、GPCRからの刺激を受け取ると、αサブユニットに結合していたGDP(グアノシン5’二リン酸)がGTP(グアノシン5’三リン酸)に置換され(GDP−GTP交換反応)、さらにαサブユニットがβ、γサブユニットから遊離する。遊離したGタンパク質αサブユニット−GTP結合体は、セカンドメッセンジャーを制御する細胞内の効果器を活性化すると共に、自分自身のGTPase活性によりGTPを加水分解し、αサブユニット−GDP結合体となり、再びβγサブユニットと会合し不活性型となる。
【0004】
Gタンパク質αサブユニットは、そのGタンパク質の標的分子の種類によってGs、Gi、Gq、G12の4つのファミリーに分類されている。さらに、各ファミリーはメンバーに細分類されている。例えば、Giファミリーはαi-1〜4、αo-1〜2、αt-1〜2、αgust、αZの各メンバーに、G12ファミリーはα12、α13の各メンバーに細分類されている。
【0005】
GPCRをターゲットとするリガンドのスクリーニングは、リガンドの候補となる被検化合物と所望のGPCRとの結合性を評価し、特異的に結合したものを選抜することにより行なわれる。結合性の評価方法は、大きく分けて、生きた動物細胞を用いる方法と、細胞膜画分を用いるインビトロの方法の2種類がある。動物細胞を用いる方法は、CHO細胞やHEK293細胞などの動物細胞に目的とするGPCR遺伝子を導入し、膜表面に発現させた細胞を用いてアッセイする方法である。すなわち、GPCRにリガンドが結合した際に共役するGタンパク質のシグナル伝達を介した細胞内カルシウム濃度変化やcAMPの濃度変化などのシグナル伝達を、蛍光プローブなどで検出する方法である。
【0006】
細胞膜画分を用いるインビトロの方法は、GPCRとリガンドとの結合を検出する手段の違いによって、さらにいくつかに分類される。一つの例は、標識化したリガンド候補物質を用いる方法である。例えば、GPCRを膜表面に発現させた昆虫細胞や動物細胞から調製した細胞膜画分を基板上に固定化させ、リガンドの結合を検出する方法が開発されている。具体例としては、アミノプロピルシランコートしたスライドガラス上にGPCRが発現した膜画分を固定化したGPCRチップが開発されている(非特許文献1)。これは、放射性標識したリガンド候補物質を用いてGPCRとリガンドの結合を検出するものである。
【0007】
リガンド候補物質を標識化しない方法としては、表面プラズモン共鳴法(SPR法)を用いてGPCRとリガンド候補物質との結合を検出する方法もある。
【0008】
リガンド候補物質を標識化しない他の方法としては、GPCRとリガンドとの結合を、Gタンパク質への活性化に基づいて検出する方法が提案されている。例えば、GPCRのC末端にGタンパク質αサブユニットを連結させた融合タンパク質を、昆虫細胞に発現させ、該昆虫細胞から細胞膜画分を調製する。次に、該細胞膜画分を試料とし、リガンド候補物質と細胞膜画分中のGPCRとの結合にともなうGタンパク質αサブユニット上のGDP−GTP交換反応を、放射性標識したGTPを用いることにより検出し、GPCR−Gタンパク質αサブユニット−GTP連結体の形成を検出する方法が報告されている(非特許文献2)。
【0009】
細胞膜画分を用いないインビトロの方法も提案されている。例えば、シャペロニンとGPCRとの融合タンパク質を構築し、該GPCRと被検化合物との結合性をSPR法で評価する方法が提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−85542号公報
【非特許文献1】ファング(Fang)ら,ケムバイオケム(ChemBioChem),2002年,第3巻,p.987−
【非特許文献2】武田ら,ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Journal of Biochemistry),2004年,第135巻,p.597−
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、生きた動物細胞を用いる方法は、GPCRの種類によっては動物細胞内で必要量が発現しないものが少なくなく、また、発現したとしても発現量を安定に制御することが困難という問題がある。また、GPCRの種類によっては共役するGタンパク質の種類が決まっているため、GPCR遺伝子だけでなく、対応するGタンパク質の遺伝子を細胞内に導入し、細胞内でシグナル伝達系を再構築する必要がある。さらに、これらの細胞を培養し、目的のタンパク質群を発現させるためには、費用、時間などがかさみ、培養途中のコンタミネーションの防止など熟練した操作が要求される。
【0011】
また、標識化したリガンド候補物質を用いる方法は、あらかじめリガンド候補の全てに対して、蛍光標識等をする必要があり、操作が煩雑である。また、GPCRと非特異的に結合しているリガンド候補物質も検出してしまうため、リガンド候補物質に対して常に正しい評価ができるとは限らない。
【0012】
また、SPR法を用いる方法は、リガンド候補物質を標識せずにすむ利点はあるものの、やはり、GPCRとリガンド候補物質との結合が特異的なものかどうかを判断することは困難である。これはシャペロニンとGPCRとの融合タンパク質を用いる方法でも同じである。
【0013】
また、GPCR−Gタンパク質αサブユニット−GTPの複合体の形成を検出する方法は、放射性物質を使用するので特別な施設が必要であり、簡便でハイスループットな評価方法とは言えない。また、放射性標識の代わりに蛍光標識されたGTPを使用することも考えられるが、感度を上げるためには高価な細胞膜画分を大量に必要とするため、やはりハイスループット性に欠ける。
以上より、より簡便且つハイスループットなGタンパク質共役型受容体に対する結合性を評価する技術が求められている。
【0014】
このような状況を鑑み、本発明者らは、所望のGPCRのN末端側に折り畳み因子が連結され且つC末端側にGタンパク質αサブユニットが連結された融合タンパク質に被検化合物を接触させる工程を含むGPCRに対する結合性評価方法を開発し、すでに特許出願を行っている(特願2006−131882号)。この方法によれば、従来の技術に比べてより簡便且つハイスループットなGPCRに対する結合性を評価することができる。
【0015】
そして本願発明は、当該の方法を基礎としながら、より正確かつ高感度にGPCRに対する結合性を評価する技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、ネイティブ型のシャペロニンにSH基修飾物質の1つである4,4’−ジチオジピリジンを作用させることにより、シャペロニンの四次構造形成を阻害し、脱リング化させることができるとの報告(ボチカレーワ(Bochkareva)ら,ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー,1999年,第274巻,p.20756−)に着目し、GPCRに対する結合性評価に応用することを試みた。その結果、シャペロニンと所望のGPCRとの融合タンパク質にジチオジピリジンを作用させることによって、より正確かつ高感度にGPCRに対する結合性を評価できることを見出した。さらに、この報告では脱リング化に必須とされているヌクレオチドが、GPCRに対する結合性評価を行う際には任意であることが分かった。上記した課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
【0017】
請求項1に記載の発明は、被検化合物のGタンパク質共役型受容体に対する結合性を評価するために用いられる組成物であって、所望のGタンパク質共役型受容体のN末端側にシャペロニンサブユニット又はシャペロニンサブユニット連結体が連結された融合タンパク質を含む基本溶液に、ジチオジピリジンを添加してなるGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価用組成物である。
【0018】
シャペロニンは分子シャペロンの一種であり、分子量約6万のサブユニット(シャペロニンサブユニット)からなる複合タンパク質ある。代表的なシャペロニンは、シャペロニンサブユニット7〜9個からなるリング状構造体が2個重なった、総分子量80万〜100万程度のシリンダー状の巨大な複合タンパク質である。そして、シャペロニンはその内部に他のタンパク質を格納し、正しく折り畳むことができる。そして、本発明は被検化合物のGタンパク質共役型受容体に対する結合性を評価するために用いられる組成物にかかるものであり、所望のGタンパク質共役型受容体のN末端側にシャペロニンサブユニット又はシャペロニンサブユニット連結体が連結された融合タンパク質を含む基本溶液に、ジチオピリジンを添加してなるものである。
【0019】
本発明のGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価用組成物(以下、「本発明の組成物」と略記することがある。)においては、ジチオジピリジンの作用によりシャペロニンの「脱リング化」が起こっており、シャペロニンのリング状構造体内部に格納されていたGタンパク質共役型受容体が外部に露出している。その結果、被検化合物を添加した場合に、被検化合物とGタンパク質共役型受容体とが接触する際のシャペロニンのリング状構造体による立体障害が少ない。したがって、本発明の組成物を用いると、被検化合物とGタンパク質共役型受容体との接触効率がよく、より正確かつ高感度に被検化合物のGタンパク質共役型受容体に対する結合性を評価することができる。さらに、本発明の組成物を用いれば、不溶性の細胞膜画分を用いる必要がないので、Gタンパク質共役型受容体に対する結合性評価における操作性がよくなる。さらに、組換えDNA技術によって当該融合タンパク質を生産することができるので、GPCRを多量に取得することができ、Gタンパク質共役型受容体に対する結合性評価をさらに効率的に行える。
【0020】
ここで「脱リング化」とは、シャペロニンのリング構造が緩み、内部に格納された目的タンパク質がより露出された状態をなることを意味する。「脱リング化」の場合には「変性」とは異なり、露出された目的タンパク質が変性することなく外部に露出する。本発明の組成物においても、シャペロニンのリング状構造体を壊す際に尿素や塩酸グアニジンのようなタンパク質変性剤が添加されないので、露出されたGタンパク質共役型受容体は正しく折り畳まれた状態で保持され、融合タンパク質中のGタンパク質共役型受容体が可溶性タンパク質として存在できる。
【0021】
ここで、「シャペロニンサブユニット」という語は、単独の分子である場合(単独のシャペロニンサブユニット)の他に、融合タンパク質の一部である場合にも用いる。また、「シャペロニンサブユニット連結体」とは、2個以上のシャペロニンサブユニットがタンデムに連結された人工タンパク質をいう。さらに、N個のシャペロニンサブユニットからなるシャペロニンサブユニット連結体を、「シャペロニンサブユニットN回連結体」と呼ぶこととする。つまり、本発明における融合タンパク質には、1個のシャペロニンサブユニットのC末端側とGタンパク質共役型受容体のN末端側とが連結された融合タンパク質と、2個以上のシャペロニンサブユニットがタンデムに連結された人工タンパク質のC末端側とGタンパク質共役型受容体のN末端側とが連結された融合タンパク質の両方が含まれる。
【0022】
なお、天然型のシャペロニンにおける脱リング化にはヌクレオチドの存在が必須とされているが、本発明の組成物においてはヌクレオチドの存在は任意である。すなわち、本発明の組成物を用いれば、ヌクレオチドの非存在下でもGタンパク質共役型受容体に対する結合性を評価することができる。
【0023】
請求項2に記載の発明は、前記基本溶液は、さらに界面活性剤を含む請求項1に記載の組成物である。
【0024】
本発明の組成物では基本溶液がさらに界面活性剤を含むので、露出したGタンパク質共役型受容体がより安定化される。本発明の組成物を用いることにより、より確実にGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価を行うことができる。
【0025】
請求項3に記載の発明は、前記基本溶液は、さらに脂質二重膜を含む請求項1又は2に記載の組成物である。
【0026】
Gタンパク質共役型受容体は生体内においては脂質二重膜からなる細胞膜を貫通する形で存在している。そして、本発明の組成物においては、基本溶液がさらに脂質二重膜を含む。かかる構成により、露出したGタンパク質共役型受容体が生体内と同様に脂質二重膜により保護され、Gタンパク質共役型受容体がより安定化される。本発明の組成物を用いることにより、より確実にGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価を行うことができる。脂質二重膜の例としては、人工的に作成したリン脂質二重膜が挙げられる。また、本発明で用いられる脂質二重膜の形態としては平面構造を有する二重膜の他、ベシクル化したリポソームなどが挙げられる。脂質二重膜を作製する際の具体的な成分としては、各種リン脂質やコレステロールなどのステロール類が挙げられる。
【0027】
請求項4に記載の発明は、前記シャペロニンサブユニット又はシャペロニンサブユニット連結体は、大腸菌由来のシャペロニンサブユニットからなる請求項1〜3のいずれかに記載の組成物である。
【0028】
大腸菌由来のシャペロニンはGroELと呼ばれ、その生化学的・物理化学的性質がよく研究されている。また、そのサブユニットの遺伝子も単離されている。したがって、融合タンパク質をコードする融合遺伝子を容易に構築することができ、融合タンパク質の調製が容易である。その結果、本発明の組成物は、調製が容易である。
【0029】
請求項5に記載の発明は、前記Gタンパク質共役型受容体のC末端側にGタンパク質αサブユニットが連結されている請求項1〜4のいずれかに記載の組成物である。
【0030】
本発明の組成物においては、融合タンパク質中のGタンパク質共役型受容体のC末端側にGタンパク質αサブユニットが連結されている。かかる構成により、被検化合物と融合タンパク質中のGPCRとの結合性を、Gタンパク質αサブユニットとGTP又はGTPアナログとの結合の有無をもって検出することができる。
【0031】
請求項6に記載の発明は、被検化合物のGタンパク質共役型受容体に対する結合性を評価する方法であって、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物に被検化合物を添加して前記融合タンパク質内のGタンパク質共役型受容体に被検物質を接触させる工程を含むGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価方法である。
【0032】
本発明はGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価方法にかかり、本発明の組成物を使用する。すなわち、本発明のGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価方法(以下、「本発明の評価方法」と略記することがある。)は、被検化合物を本発明の組成物に添加して融合タンパク質内のGタンパク質共役型受容体に被検物質を接触させる工程を含む。本発明の評価方法においては、所望のGタンパク質共役型受容体が、シャペロニンの脱リング化により露出し且つ正しく折り畳まれた状態で保持されているので、より正確かつ高感度に行うことができる。さらに、不溶性の細胞膜画分を使用する従来の方法に比べて操作性がよい。さらに、組換えDNA技術によって当該融合タンパク質を生産することができるので、GPCRを多量に取得することができ、さらに効率的である。なお、本発明の評価方法においては、本発明の組成物を準備する段階を前処理段階と捉えることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明のGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価用組成物によれば、被検物質を添加するだけで、より正確かつ高感度に被検化合物のGタンパク質共役型受容体に対する結合性を評価することができる。
【0034】
本発明のGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価方法についても同様であり、より正確かつ高感度に被検化合物のGタンパク質共役型受容体に対する結合性を評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明のGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価用組成物(本発明の組成物)は、所望のGタンパク質共役型受容体(GPCR)のN末端側にシャペロニンサブユニット又はシャペロニンサブユニット連結体が連結された融合タンパク質を含む基本溶液に、ジチオジピリジンを添加してなるものである。
【0036】
本発明の組成物の基本溶液に含まれる融合タンパク質は、所望のGタンパク質共役型受容体のN末端側にシャペロニンサブユニット又はシャペロニンサブユニット連結体(以下、「シャペロニンサブユニット連結体等」と略記することがある。)が連結されたものである。これは、換言すれば、「シャペロニンサブユニット−所望のGPCR」或いは「シャペロニンサブユニット連結体−所望のGPCR」の順で連結された融合タンパク質で、シャペロニンサブユニット又はシャペロニンサブユニット連結体(シャペロニンサブユニット連結体等)側がN末端、GPCR側がC末端となるものである。GPCRは疎水性が高いので単独では不溶性となるが、この融合タンパク質中のGPCRは、隣接するシャペロニンサブユニット連結体等の作用によって可溶性となる。より詳しくは、この融合タンパク質中のGPCRは、シャペロニンリング構造のキャビティー内に発現されることにより可溶性となる。この際、必要に応じて単独のシャペロニンサブユニットが補充されてリング構造が形成される。その結果、本発明の組成物を用いれば従来のように不溶性の細胞膜画分を使用することなく、可溶生蛋白質としてGPCRに対する結合性評価を行なうことができる。GPCRの発現において、シャペロニンサブユニット又はシャペロニンサブユニット連結体と融合発現させることにより、動物細胞や昆虫細胞を用いて単独発現させる場合と比べて大量発現させることが可能となる。
【0037】
一般に、シャペロニンはグループ1型とグループ2型とに大別される。バクテリアや真核生物のオルガネラに存在するシャペロニンはグループ1型に分類され、いずれも分子量60kDaからなるシャペロニンサブユニット7つが環状に連なるリング構造を形成し、さらに2つのリングが2層構造を形成する、14量体のホモオリゴマーを形成する。これらはコシャペロニンと称される分子量約10kDaのタンパク質の環状7量体を補因子とする。一方、グループ2型シャペロニンは、真核生物の細胞質や古細菌にみられ、通常8,9個のシャペロニンサブユニットからなるリングが2層に連なった16〜18量体のホモ、またはヘテロオリゴマーを形成している。本発明の組成物の基本溶液に含まれる融合タンパク質においては、シャペロニンサブユニット連結体等の由来となるシャペロニンはグループ1型及びグループ2型のいずれでもよい。ここで、1型シャペロニンの例として、大腸菌由来のシャペロニンであるGroELのサブユニット(GroELサブユニット)の遺伝子の塩基配列と対応するアミノ酸配列を配列番号1に、対応するアミノ酸配列のみを配列番号2に示す。
【0038】
バクテリア、古細菌由来のシャペロニンは、組換えDNA技術により、大腸菌の細胞質可溶性画分に大量生産させることがすでに可能である。さらに、そのようにして発現させた様々のシャペロニンサブユニットであっても、自己集合し、14〜18量体からなる2層リング構造のシャペロニン複合体を形成できることが、電子顕微鏡による観察でわかっている。
【0039】
前記したシャペロニンサブユニットの数、すなわち、グループ1型シャペロニンの場合の7個、グループ2型シャペロニンの場合の8,9個は、リング状構造体を形成する際の最適数である。そして、シャペロニンサブユニット連結体においても、単独のシャペロニンサブユニットが補充されて最適数となり、天然型シャペロニンと同様にリング構造を構成することがわかっている。そして、シャペロニンサブユニット連結体のC末端側に目的タンパク質を連結させた融合タンパク質において、その目的タンパク質がシャペロニンのキャビティー内に格納された状態で発現できることがわかっている(古谷ら,Protein Science,2005,14,341)。本発明の組成物の基本溶液に含まれる融合タンパク質においても、GPCRがシャペロニンのキャビティー内部に格納される。また、シャペロニンサブユニットN回連結体の連結数(N)は、前記の最適数であれば、単独のシャペロニンサブユニットの補充なしでリング状構造体を形成できる。しかし、組成物に被検物質を添加してGPCRに接触させる際に、脱リング化後の立体障害をより少なくする観点からは、Nの値はより小さい方がよいと考えられる。
【0040】
上記のように、一般的なシャペロニンはリング状構造体が2個重なったダブルリング構造を有しているが、リング状構造体1つからなる「シングルリング」のシャペロニンも知られている。すなわち、近年、遺伝子工学的にアミノ酸変異を導入することにより、上述のような2層のリング構造を形成せず、シングルリングを形成するようなシャペロニンも得られるようになってきた。これらのシングルリングを形成するシャペロニンも、大腸菌の可溶性画分に大量発現することができ、ゲル濾過や電子顕微鏡及び画像解析等によって発現産物の大部分がシングルリングを構成していることが確認されている。そして、かかるシングルリングのシャペロニンでも他のタンパク質を収容できるキャビティーが充分に形成されることが確認されており、他のタンパク質の折り畳みを行うことができる(特開2004−43447号公報)。本発明の組成物においては、シングルリングを形成するシャペロニンも採用できる。この場合には、組成物に添加された被検化合物がGPCRに結合する際の立体的な障害がより少ない可能性がある。なお、真核生物のミトコンドリア由来のシャペロニン60は、通常、シングルリングとして精製されるため、特別の遺伝子操作なしで得ることができる(Viitanen et al.,1992,J.Biol.Chem.,267,695−698)。
【0041】
また、人為的にシングルリングを形成させる手段としては様々な方法があり、いずれの手段を用いてもかまわない。最も一般的に用いられている方法は、リング間の疎水的相互作用や塩橋に寄与するアミノ酸に変異を導入することによって、リング間相互作用を抑制する方法である。例えば、大腸菌由来のシャペロニンGroEL(配列番号2)の場合、結晶構造解析より赤道ドメインの4つの荷電アミノ酸(R452、E461、S463、V464)がリング間の結合に強く寄与していていることが分かっている。そこで、452番目のアミノ酸残基(アルギニン)をグルタミン酸に、461(グルタミン酸)、463(セリン)、464番目(バリン)のアミノ酸残基をアラニンに置換することにより、リング間相互作用が軽減し、シングルリングを構成することが分かっている(Weissmanet al.,1995,Cell,83,577−587)。
【0042】
さらに、様々な組み合わせのキメラシャペロニンを作製することによって、シャペロニンとしての機能を保持した状態のシングルリングシャペロニンを得ることもできる。例えば、大腸菌由来のシャペロニンGroELと根粒菌由来のシャペロニンとを用いてキメラシャペロニンを作製することによって、シングルリングシャペロニンを作製することができる(Jones et al.,1998,J.Mol.Biol.,282,789−800)。
【0043】
上記の融合タンパク質を製造する方法としては、シャペロニンサブユニット又はシャペロニンサブユニット連結体の遺伝子とGPCR遺伝子とを連結した融合遺伝子を作製し、該融合遺伝子を転写・翻訳させる方法が代表的である。各GPCRの遺伝子は米国Mammalian Gene Collection(MGC)などの遺伝資源保存機関で入手可能である。例えば、該融合遺伝子を発現ベクターに組み込み、該組換えベクターを適宜の宿主に導入して形質転換体を作製し、該形質転換体内で発現させる。このときに用いる宿主としては特に限定はなく、例えば、バクテリア、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞等の細胞の他、動物個体、植物個体又は昆虫個体等も用いることができる。この中でも、培養コストが安価であり、培養日数が短く、培養操作が簡便な点から、バクテリア又は酵母が好ましく、特に、大腸菌が取り扱いの容易さの面でより好ましい。また、宿主として大腸菌を使用すると、シャペロニンとして大腸菌由来GroELを採用し、Nが最適数(GroELの場合は一般的に「7」)に満たないシャペロニンサブユニットN回連結体を発現させる場合でも、宿主由来のシャペロニンサブユニット(GroELサブユニット)が補充されてリング状構造体を形成することができる。
【0044】
ただし、一般的に、大腸菌では10kb以上の発現ベクター(プラスミド)を保有すると、プラスミドのコピー数が減少し、結果的に組換えタンパク質の生産量が低下することがある。シャペロニンサブユニットが8個連結したシャペロニンサブユニット8回連結体の場合、その遺伝子をプラスミドに組み込むと、プラスミドのサイズは15kbp以上になる。しかし、このサイズのプラスミドは、大腸菌内で安定に保持されない可能性がある。したがって、大腸菌を宿主として用いる場合は、プラスミドに導入する融合遺伝子の大きさ、すなわち、シャペロニンサブユニット又はシャペロニンサブユニット連結体をコードする遺伝子の大きさ(連結数)やGPCR遺伝子の大きさを考慮し、大腸菌内で安定に保持されるようサイズを選択すべきである。
【0045】
また、大腸菌などの宿主で発現される融合タンパク質が巨大な場合は、転写されたmRNAの特定のリボヌクレアーゼによる分解、翻訳された融合タンパク質のプロテアーゼによる分解と、2段階の切断を受ける可能性がある。かかる場合には、例えば、mRNAの分解に関与するリボヌクレアーゼをコードするRNaseE遺伝子を欠損させた宿主を用いることでmRNAの分解を抑制することが可能である。また、翻訳後のプロテーゼによる分解を抑制するために、宿主細胞を15〜25℃の低温で培養したり、lon、ompT等のプロテアーゼの構造遺伝子を欠損させた大腸菌を宿主として用いることができる。
【0046】
また、シャペロニンサブユニット連結体の遺伝子には、シャペロニンサブユニット遺伝子が繰り返し含まれるため、それを含むプラスミドが不安定となり、特に宿主とシャペロニンの由来生物が同じであるときには、プラスミドDNAとゲノムDNAの相同組換えが起こる可能性がある。宿主として大腸菌を用いる場合は、遺伝子の相同組換えに関する遺伝子であるrecAを欠損させた宿主を用いることで、プラスミドの安定性を向上させ、相同組換えを抑制することができる。
【0047】
形質転換体内で融合タンパク質を発現させる方法としては特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、薬剤耐性遺伝子を有する発現ベクターを用いる場合は、対応の薬剤を含有する培地を用いて、形質転換体を培養することができる。このようにして、形質転換体内で融合タンパク質を発現させた後、該形質転換体を回収する。さらに回収した形質転換体を破砕して菌体抽出液を調製し、該菌体抽出液から融合タンパク質を精製する。
【0048】
精製の手順としては、例えば、硫安塩析によって菌体抽出液中の融合タンパク質を沈殿させ、沈殿を回収した後、適当な緩衝液に溶解し、疎水クロマトグラフィーやイオン交換クロマトグラフィーによって融合タンパク質の存在するフラクションを回収する。これらを限外ろ過によって濃縮した後、濃縮液を5〜50mM程度の塩化マグネシウム及び50〜300mM程度の塩化ナトリウム又は塩化カリウムが含有された緩衝液を展開液としてゲルろ過を行い、排除限界直後のピークを回収することによって融合タンパク質を精製することができる。
【0049】
さらに高度な精製が必要な場合は、融合タンパク質のN末端及びC末端にそれぞれ異なる2種類のタグをペプチド結合を介して付加しておくことが好ましい。例えば、融合タンパク質のN末端に6〜10個のヒスチジンが並んだヒスチジンタグを連結し、さらに、C末端に配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるFLAGタグを連結する。この場合、精製のファーストステップとしてニッケル等の金属キレートカラムを用いれば、N末端にヒスチジンタグの付加されていないタンパク質は除去され、さらにセカンドステップとして抗FLAG抗体を用いたアフィニティクロマトグラフィーによってC末端側にFLAGタッグの付加されていないタンパク質は除去される。したがって、N末端及びC末端にそれぞれヒスチジンタグ及びFLAGタグが付加された融合タンパク質のみが精製されることになる。N末端及びC末端に付加されるタグとしてはヒスチジンタグ、FLAGタグ以外でもよく、他のタグとしては、例えば、Strepタグ、Sタグ等が挙げられる。
【0050】
また、宿主を用いない方法として、バクテリア、真核生物抽出液等を用いた無細胞翻訳系(例えば、Spirin, A.S., 1991, Science 11, 2656−2664: Falcone, D. et al., 1991, Mol. Cell. Biol. 11, 2656−2664)でも、融合タンパク質を可溶性タンパク質として発現させることが可能である。
【0051】
また、前記融合タンパク質においては、シャペロニンと所望のGPCRとが、リンカーとなるオリゴペプチドを介して連結されていてもよい。該オリゴペプチドの長さは2〜50アミノ酸程度が好ましい。
【0052】
本発明の組成物における基本溶液は上記の融合タンパク質を含むものである。当該基本溶液としては、例えば、生化学分野で一般的に用いられている緩衝液に上記の融合タンパク質溶解させたものが採用できる。本発明の組成物における融合タンパク質の濃度としては、例えば終濃度0.02μM〜4μM程度であればよい。
【0053】
本発明の組成物は、前記の基本溶液、すなわち所望のGPCRのN末端側にシャペロニンサブユニット又はシャペロニンサブユニット連結体が連結された融合タンパク質を含む基本溶液に、ジチオジピリジンを添加してなるものである。本発明の組成物においては、ジチオジピリジンの作用によってシャペロニンリングが「脱リング化」し、内部に格納されていたGPCRが外部に露出している。さらに、当該GPCRは正しい立体構造を保った状態で露出しており、変性していない。本発明の組成物におけるジチオジピリジンの濃度としては、例えば終濃度0.1mM〜5mM程度であればよい。
【0054】
基本溶液には、さらに界面活性剤が含まれていてもよい。界面活性剤の作用により、露出したGタンパク質共役型受容体がより安定化される。界面活性剤の例としては、GPCRやシャペロニンを不活性化させない程度の親水性部分/疎水性部分のバランスを有するものが好ましく、HLB値が12〜16程度のものが好ましい。当該界面活性剤の例としては、N−ラウリルサルコシン酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤;塩化セチルピリジニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム等の陽イオン性界面活性剤;3−〔(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)、3−〔(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(CHAPSO)、スルフォベタイン系界面活性剤(商品名:SB8、SB10、SB12、SB14、SB16など)等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンドデシルエーテル(商品名:Brij35など)、ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェニルエーテル(商品名:Triton X−100、Triton X−114、Nonidet P40など)、ポリオキシエチレンモノラウリン酸ソルビタン(商品名:Tween 20など)、ポリオキシエチレンモノオレイン酸ソルビタン(商品名:Tween 80など)、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体(商品名:Pluronic F−68など)、n−オクタノイル−N−メチルグルカミド(商品名:MEGA−8など)、n−ノナノイル−N−メチルグルカミド(商品名:MEGA−9など)、n−オクチル−β−D−グルコピラノシド(オクチルグルコシド)、6−O−(N−ヘプチルカルバモイル)メチル−α−D−グルコピラノシド(商品名:HECAMEGなど)、スクロースモノラウレート、ジギトニン等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤については、1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の組成物における界面活性剤の濃度としては、個々の界面活性剤の臨界ミセル濃度等にも依存するが、例えば終濃度0.01%〜7%程度であればよい。
【0055】
基本溶液には、さらに脂質二重膜が含まれていてもよい。当該脂質二重膜は、組換えDNA技術により発現させたシャペロニンサブユニット連結体等とGPCRとの融合タンパク質を、脱リング化と併せて脂質膜に埋め込まれる必要があるので、人工的に作成したリン脂質二重膜であることが好ましい。脂質二重膜の形態としては、平面構造を有する二重膜やベシクル化したリポソームが挙げられる。平面構造を有する脂質二重膜の一例としてBlack lipid filmがある。Black lipid filmの一般的な作製方法としては、まず水槽をテフロン(登録商標)板などで2つの槽に仕切り、その側面に0.1mm〜0.5mm程度の小穴を開けておく。この小穴にデカンなどの有機溶媒に溶かしたリン脂質を塗りつけ、水溶液中に放置すると自然に薄くなり、最終的にリン脂質の2分子の厚さに相当する脂質二重膜が形成される。一方、リポソームの作製方法としては、例えばリン脂質成分とコレステロールを適宜有機溶剤に溶解させ、乾燥後、水に分散させる。その後、超音波処理により均一な粒径を持つリポソームを得ることができる。
【0056】
脂質二重膜を作製する際の具体的な成分としては、各種リン脂質やコレステロールなどのステロール類が挙げられる。リン脂質の例としては、1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(1,2-Dilauroyl-sn-Glycero-3-Phosphocholine、DLPC)、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(1,2-Dimyristoyl-sn-Glycero-3-Phosphocholine、DMPC)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(1,2-Dipalmitoyl-sn-Glycero-3-Phosphocholine、DPPC)、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(1,2-Distearoyl-sn-Glycero-3-Phosphocholine、DSPC)、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(1,2-Dioleoyl-sn-Glycero-3-Phosphocholine、DOPC)などが挙げられる。
【0057】
リン脂質の例としては、さらに、1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルエタノールアミン(1- Palmitoyl-2-Oleoyl-Phosphatydylethanolamine)、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(1,2-Dimyristoyl-sn-Glycero-3-Phosphoethanolamine、DMPE)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(1,2-Dipalmitoyl-sn-Glycero-3-Phosphoethanolamine、DPPE)、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(1,2-Dioleoyl-sn-Glycero-3-Phosphoethanolamine、DOPE)、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスフェート(1ナトリウム塩)(1,2-Dimyristoyl-sn-Glycero-3-Phosphate (Monosodium Salt)、DMPA)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスフェート(1ナトリウム塩)(1,2-Dipalmitoyl-sn-Glycero-3-Phosphate (Monosodium Salt)、DPPA)、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスフェート(1ナトリウム塩)(1,2-Dioleoyl-sn-Glycero-3-Phosphate (Monosodium Salt)、DOPA)、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−[ホスホ−rac−(1−グリセロール)](ナトリウム塩)(1,2-Dimyristoyl-sn-Glycero-3-[Phospho-rac-(1-glycerol)] (Sodium Salt)、DMPG)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−[ホスホ−rac−(1−グリセロール)](ナトリウム塩)(1,2-Dipalmitoyl-sn-Glycero-3-[Phospho-rac-(1-glycerol)] (Sodium Salt)、DPPG)、1,2−ジオレイル−sn−グリセロ−3−[ホスホ−rac−(1−グリセロール)](ナトリウム塩)(1,2-Dioleoyl-sn-Glycero-3-[Phospho-rac-(1-glycerol)] (Sodium Salt)、DOPG)、などが挙げられる。
【0058】
リン脂質の例としては、さらに、ホスファチジルセリン(Phosphatydyl-Serine)、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−[ホスホ−L−セリン](ナトリウム塩)(1,2-Dimyristoyl-sn-Glycero-3-[Phospho-L-Serine] (Sodium Salt)、DMPS)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−[ホスホ−L−セリン](ナトリウム塩)(1,2-Dipalmitoyl-sn-Glycero-3-[Phospho-L-Serine] (Sodium Salt)、DPPS)、1,2−ジオレイル−sn−グリセロ−3−[ホスホ−L−セリン](ナトリウム塩)(1,2-Dioleoyl-sn-Glycero-3-[Phospho-L-Serine] (Sodium Salt)、DOPS)、1,2−ジオレイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−(グルタリル)(ナトリウム塩)(1,2-Dioleoyl-sn-Glycero-3-Phosphoethanolamine-N-(glutaryl) (Sodium Salt))、1,1’,2,2’−テトラミリストイルカルディオリピン(アンモニウム塩)(1,1',2,2'-Tetramyristoyl Cardiolipin (Ammonium Salt))、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−2000](アンモニウム塩)(1,2-Dipalmitoyl-sn-Glycero-3-Phosphoethanolamine-N-[Methoxy(Polyethylene glycol)-2000] (Ammonium Salt))、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−5000](アンモニウム塩)(1,2-Dipalmitoyl-sn-Glycero-3-Phosphoethanolamine-N-[Methoxy(Polyethylene glycol)-5000] (Ammonium Salt))、1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(塩化物塩)(1,2-Dioleoyl-3-Trimethylammonium-Propane (Chloride Salt)、DOTAP)、などが挙げられる。これらのリン脂質については、1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。一方、ステロール類としてはコレステロールの他、コレステリル−ヘミサクシネートなどが好適に用いられる。本発明の組成物における脂質二重膜の濃度としては、例えば終濃度0.01mg/mL〜2mg/mL程度であればよい。
【0059】
基本溶液には、さらに他の成分が含まれていてもよい。例えば、ヌクレオチドは本発明の組成物に必須ではないが、ヌクレオチドを含めると、より速くシャペロニンの脱リング化が進む。ヌクレオチドの例としては、ATP、ADP、AMP−PNP、ATPγS、GTP、CTP、TTP等が挙げられる。これらのヌクレオチドについては、1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の組成物におけるヌクレオチドの濃度としては、例えば終濃度0.1mM〜5mM程度であればよい。
【0060】
基本溶液に含まれる融合タンパク質においては、Gタンパク質共役型受容体のC末端側にGタンパク質αサブユニットが連結されていてもよい。すなわち、融合タンパク質として、所望のGタンパク質共役型受容体のN末端側にシャペロニンサブユニット連結体等が連結され且つC末端側にGタンパク質αサブユニットが連結されたものを採用することができる。当該融合タンパク質は、換言すれば、「シャペロニンサブユニット連結体等−所望のGPCR−Gタンパク質αサブユニット」の順で連結された融合タンパク質で、シャペロニンサブユニット連結体等側がN末端、Gタンパク質αサブユニット側がC末端となるものである。この際、所望のGPCRとGタンパク質αサブユニットとがリンカーとなるオリゴペプチドを介して連結されていてもよい。該オリゴペプチドの長さは1〜25アミノ酸程度が好ましい。
【0061】
本発明のGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価方法(本発明の評価方法)は、本発明の組成物に被検化合物を添加して前記融合タンパク質内のGタンパク質共役型受容体(GPCR)に被検物質を接触させる工程を含むものである。本発明の評価方法では、被検物質を添加すべき本発明の組成物内においてシャペロニンリングの脱リング化により所望のGPCRが正しい立体構造を保った状態で露出している。その結果、被検物質と当該GPCRとの結合性評価をより正確かつ高感度に行うことができる。
【0062】
本発明の評価方法は、融合タンパク質内のGPCRに被検物質を接触させる工程を含む。その後、被検物質とGPCRとの結合性、具体的には被検物質と当該GPCRとの結合の有無や結合の度合い等を適宜の方法で検出すればよい。被検物質とGPCRとの結合性の検出については、例えば、GPCRにおけるGTP−GDP交換反応を利用して行うことができる。この例につき、以下に具体的な手順を挙げる。この方法は、特願2006−131882号明細書に記載の方法を基本とするものである。
【0063】
まず前段階として、Gタンパク質共役型受容体に対する結合性評価用組成物を調製する。具体的には、「所望のGタンパク質共役型受容体のN末端側にシャペロニンサブユニット連結体等が連結され且つC末端側にGタンパク質αサブユニットが連結された融合タンパク質」を適宜の緩衝液等に溶解し、さらにGTP又はGTPアナログ並びにGDPを加えて基本溶液を調製する。この基本溶液にジチオジピリジンを添加し、Gタンパク質共役型受容体に対する結合性評価用組成物を調製する。このとき、当該組成物中では、融合タンパク質中のGタンパク質αサブユニットとGTP又はGTPアナログとは結合せず、GTP又はGTPアナログが遊離状態で存在する。一方GDPは、融合タンパク質中のGタンパク質αサブユニットに結合している。
【0064】
次に、調製した組成物に被検化合物を添加し、上記融合タンパク質内のGPCRに被検物質を接触させる。このとき、被検化合物が目的のリガンドであれば、該被検化合物が融合タンパク質中のGPCRに結合し、該GPCRに構造変化が起こる。その結果、融合タンパク質中のGタンパク質αサブユニットに結合していたGDPが、GTP又はGTPアナログと置き換わる(GDP−GTP交換反応)。一方、被検化合物が目的のリガンドでない場合はGPCRに結合しないので、GTP又はGTPアナログはGPCRに結合しない。
【0065】
続いて、Gタンパク質αサブユニットに結合したGTP又はGTPアナログの量を測定し、Gタンパク質αサブユニットとGTP又はGTPアナログとの結合の有無を検出する。換言すれば、Gタンパク質αサブユニットに結合したGTP又はGTPアナログと、遊離状態のGTP又はGTPアナログとを区別し、Gタンパク質αサブユニットに結合したGTP又はGTPアナログのみを選択的に測定する。そして、この測定結果をもってGタンパク質αサブユニットとGTP又はGTPアナログとの結合の有無を検出する。この際、Gタンパク質αサブユニットに結合したGTP又はGTPアナログのみを選択的に測定する方法として、後述する様々の方法が採用可能である。
【0066】
最後に、前記Gタンパク質αサブユニットとGTP又はGTPアナログとの結合が検出された場合に、上記被検化合物は上記Gタンパク質共役型受容体に対する結合性を有すると評価する。このようにしてGタンパク質共役型受容体に結合すると評価された被検化合物は、特定のGPCRに対するリガンドである可能性が高く、医薬品開発等に有用と考えられる。なお、Gタンパク質αサブユニットとGTP又はGTPアナログとの結合を検出する方法としては、例えば、蛍光標識されたGTP又はGTPアナログを用いて、反応前後における蛍光強度の変化を捉えることにより行うことができる。蛍光標識の代わりに放射性標識を採用してもよい。
【0067】
GTP又はGTPアナログとして加水分解が制限されたGTPアナログを用いてもよい。すなわち、そのようなGTPアナログは、Gタンパク質αサブユニットが有するGTPase活性により加水分解されにくい。該GTPアナログの例としては、GTPγSとGMP−PNP(GppNHp)が挙げられる。GTPγSは、GTPのγ位のPがSに置換されたGTPアナログである。またGMP−PNPは、GTPのγ位のリン酸結合に2級アミンが導入されたGTPアナログである。その他、GTPアナログとしては、トリニトロ基を有するGTPアナログなども用いることができる。
【0068】
なお、上記の例において、融合タンパク質からGタンパク質αサブユニットが遊離されていてもよい。すなわち、前段階で用いる本発明の組成物において、基本溶液として「所望のGPCRとシャペロニンサブユニット連結体等との融合タンパク質」と遊離のGタンパク質αサブユニットを含むものを使用することができる。
【0069】
被検化合物とGPCRとの結合を検出する手段の他の例としては、上記の例のようにGタンパク質を介さず、直接GPCRと被検化合物の結合を検出する方法が挙げられる。例えば、本発明の組成物をセンサーチップ上に固定化しておき、被検化合物との相互作用を表面プラズモン共鳴法(SPR法)により検出することも可能である。また、アンタゴニスト候補物質のスクリーニング方法として、本発明の組成物をシンチレーションビーズ等に固定化しておき、放射性同位元素によりラベル化した既知のナチュラルリガンドと被検化合物との拮抗作用をシンチレーターで検出する(SPA法)などの手段により被検化合物とGPCRとの結合を検出することができる。
【0070】
本発明のGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価方法は、全てのGPCRに適用可能である。例えば、クラスAに分類されるロドプシン型のGPCR、クラスBに分類されるセクレチンレセプター型のGPCR、クラスCに分類される代謝共役型GPCRまたはホルモンレセプター型GPCR、クラスDの真菌ホルモンレセプター型GPCR、クラスEのcAMPレセプター型GPCRなどに適用できる。また、本発明のGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価方法は、リガンドや、分類が未同定のオーファンレセプターにも適用できる。
【0071】
本発明のGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価方法で用いる融合タンパク質に含まれるGタンパク質αサブユニットとしては、Gsファミリー、Giファミリー、Gqファミリー、及び、G12ファミリーに属する全てのαサブユニットが適用可能である。すなわち、Gsファミリーに属するαs-1〜4、αolf;Giファミリーに属するαi-1〜4、αo-1〜2、αt-1〜2、αgust、αZ;Gqファミリーに属するαq、α11、α14、α15、α16;G12ファミリーに属するα12、α13のいずれもが、本発明のGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価方法に適用可能である。ただし、GPCRとGタンパク質αサブユニットとの組み合わせは、リガンドの結合によるGPCRの構造変化に伴い、活性化することのできる(GDP及びGTPの親和性が変化するなど)Gタンパク質αサブユニットとの組み合わせであることが好ましい。その点において、Gqファミリーに属するα15及びα16は幅広く様々なGPCRと共役するためより好ましい。
【0072】
本発明のGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価方法は、種々の用途に使用することができる。一つの用途は、オーファンGPCRに対するリガンドのスクリーニングである。例えば、アゴニスト型リガンドをスクリーニングする場合は、被検化合物とGPCRとの結合の有無を検出し、結合した候補化合物を所望のリガンドと判定することができる。一方、アンタゴニスト型リガンドをスクリーニングする場合は、既知のアゴニスト型リガンドと被検化合物とを反応系に共存させて競合的に結合させ、被検化合物とGPCRとの結合の有無を検出し、結合した候補化合物を所望のリガンドと判定することができる。本発明の評価方法を用いたリガンドのスクリーニングによれば、より効率的に薬物候補となるリガンドをスクリーニングすることができる。
【0073】
本発明のGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価方法の他の用途としては、ターゲットバリデーションが挙げられる。これは、既知又は未知の複数のGPCRに対して、ある目的のリガンドを用いて本方法を適用し、リガンドが結合したGPCRを選抜するものである。本方法を用いたターゲットバリデーションによれば、リガンドの作用機序の解明を効率的に行なうことができる。
【0074】
以下に実施例を掲げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0075】
1.シングルリングGroEL2回連結−ETAR融合タンパク質の発現
大腸菌K12株ゲノムを鋳型とし、配列番号4に示されるプライマーGro−F1と配列番号5に示されるプライマーGro−R1をプライマー対としてPCRを行い、大腸菌シャペロニンGroELサブユニット遺伝子を含むDNA断片を増幅した。さらに、該増幅DNA断片をpT7blueTベクター(ノバジェン社)に導入した。次に、GroEL遺伝子中のDraIII−BamHI部分(1328〜1487番)を同制限酵素で切り出した後、配列番号6で表される塩基配列からなる2本鎖DNAを代わりに組み込み、GroELの452番目のアルギニン(R)をグルタミン酸(E)に、461番目のグルタミン酸(E)をアラニン(A)に、463番目のセリン(S)をアラニン(A)に、及び464番目のバリン(V)をアラニン(A)に置換する変異を導入した。これにより、シングルリングを形成する変異型GroELのサブユニットをコードする遺伝子SRIIをpT7blueTベクター中にクローニングできた。
【0076】
pTrc99A発現ベクター(アマシャムファルマシア社)のNcoI/HindIIIサイトに配列番号7で表される塩基配列からなる2本鎖DNAを挿入し、pTrc99ALTCFベクターを構築した。これにより、NcoI、XbaI、ペプチドリンカーサイト(トロンビン翻訳サイト)、BglIIサイト、スペーサー配列、XhoIサイト、ペプチドリンカーサイト(エンテロキナーゼ(Ek)翻訳サイト)、その下流に、転写翻訳されてFLAGタグとなる塩基配列(FLAGサイト)及び終始コドン、さらにその下流にHindIIIサイトが導入された。すなわち、pTrc99ALTCFベクターによれば、NcoIサイトのATGが開始コドンとなった場合、各制限酵素サイトにORFを導入したときに、正しい読み枠となる。
【0077】
上記で得られたSRII遺伝子をSpeI/XbaIで処理し、あらかじめXbaI処理しておいたpTrc99ALTCFベクターに、SRII遺伝子が正しい方向に翻訳されるように導入した。さらに、得られたベクターをXbaI処理し、同様にSpeI/XbaI処理して得られたSRII遺伝子を正しく翻訳されるように導入することにより、変異型GroELサブユニット遺伝子が2回連結された発現ベクターpTrc(SRII)2TCFを構築した。発現ベクターpTrc(SRII)2TCFの構成を図1に示す。図中、「groEL」はSRII遺伝子、「PS」はペプチドリンカーサイト、「CS」はクローニングサイト、「FLAG」はFLAGペプチドサイトを表す。すなわち、発現ベクターpTrc(SRII)2TCFはtrcプロモーターの下流に、順に、2個のSRII遺伝子((SRII)2)、ペプチドリンカーサイト(トロンビン翻訳サイト)、BglIIサイト、スペーサー配列、XhoIサイト、ペプチドリンカーサイト(Ek翻訳サイト)、FLAGペプチドサイト、終始コドン、及びターミネーターを有する。そして、BglII−XhoIサイトに目的タンパク質の遺伝子を挿入することにより、変異型GroELサブユニット2回連結体と目的タンパク質との融合タンパク質を発現することができる。なお、2つのペプチドリンカーサイトはいずれもプロテアーゼ(トロンビンとエンテロキナーゼ)の認識アミノ酸配列をコードするものであるが、本実施例では単なるペプチドリンカーをコードする塩基配列として機能する。
【0078】
2.融合タンパク質の発現
ヒトエンドセリンA受容体(ヒトETAR)をモデルGPCRとし、ヒトETARのN末端側に変異型GroELサブユニット2回連結体が連結された融合タンパク質を、以下の手順で調製した。
【0079】
ヒトETAR遺伝子のcDNAクローンを、OriGene社より入手した(アクセッションナンバー NM_001957、配列番号8)。このcDNAクローンを鋳型とし、配列番号9で表されるプライマーと配列番号10で表されるプライマーをプライマー対としてPCRを行い、ヒトETAR遺伝子を含むDNA断片を増幅した。この増幅DNA断片の両端にはプライマーに由来するBglIIサイト(5’末端)とXhoIサイト(3’末端)が導入された。この増幅DNA断片を、あらかじめBglII及びXhoIで消化したpTrc(SRII)2ベクターに導入し、pTrc(SRII)2ETARFベクターを作製した。
【0080】
pTrc(SRII)2ETARFベクターを大腸菌BLR(DE3)株に導入し、形質転換体を得た。この形質転換体を、カルベニシリン(100μg/mL)を含む2×Y.T.培地(16g/L バクトトリプトン、10g/L 酵母エキス、5g/L NaCl)で25℃、110rpmで24時間回転培養した。培養後、菌体を回収し、超音波処理により菌体を破砕した。菌体破砕液を遠心分離して上清を回収した。この上清をSDS−PAGEに供し、クマシーブリリアントブルーにてゲルを染色した。結果を図2(a)に示す。その結果、「変異型GroELサブユニット2回連結体−ヒトETAR」の融合タンパク質(SR−ETAR)の分子量に相当する160kDa付近の位置にバンドが検出された。これにより、目的の融合タンパク質(SR−ETAR)が大腸菌可溶性画分に発現されることが確認された。
【0081】
3.融合タンパク質の精製
上記2の上清に対して、抗FLAG抗体固定化ビーズ(シグマ社製)を用いて免疫沈降反応を行った。ビーズ洗浄後FLAGペプチドで溶出される画分を10% 硫酸アンモニウム/10mM リン酸ナトリウム緩衝液で平衡化したHiTrap Butyl FFカラム 5mL(アマシャムファルマシア社)に供した。次に、10mM リン酸ナトリウム緩衝液で溶出し、融合タンパク質を含む画分を回収した。この画分を、50mMTris(pH7.4)/150mM NaCl、10mM MgCl2、1mM EDTAを含む緩衝液であらかじめ平衡化したTSKgel G4000SWXLを用いたゲル濾過に供し、目的の融合タンパク質を精製した。得られた画分をSDS−PAGE及びに供し、クマシーブリリアントブルーにてゲルを染色した。結果を図2(b)に示す。その結果、SRIIの2回連結体とETARとの融合タンパク質(SR−ETAR)と共に、シャペロニンモノマー(単独のシャペロニンサブユニット)が確認できた。
【0082】
得られた画分についてNative−PAGEで分析した。結果を図3(a)に示す。その結果、SR−ETARがシングルリングとして存在していることが確認できた。このことは、得られたSR−ETARが、宿主大腸菌由来のシャペロニンモノマーと共に、シャペロニンリング構造を形成していることを示していた。
【0083】
4.Gタンパク質共役型受容体に対する結合性評価用組成物の調製
上記3で得られたSR−ETAR溶液に0.3%濃度となるようにCHAPSを添加して、基本溶液を調製した。この基本溶液に終濃度が1mMとなるように4,4’−ジメチルジピリジンを添加し、室温で30分間インキュベートした(Gタンパク質共役型受容体に対する結合性評価用組成物)。得られた組成物をSDS−PAGEで分析した結果、図2(b)と同様のバンドが検出された。さらに、得られた組成物をNative−PAGEで分析した。結果を図3(b)に示す。その結果、シャペロニンモノマーとSR−ETARの双方が検出され、シャペロニンが脱リング化されることが確認された。
【実施例2】
【0084】
1.シングルリングGroEL2回連結−ETAR−G蛋白質α融合タンパク質の発現
ヒトETARをモデルGPCRとし、ヒトETARのN末端側に変異型GroELサブユニット2回連結体が連結され、且つC末端側にGタンパク質α15サブユニット(Gタンパク質αサブユニット)が連結された融合タンパク質を、以下の手順で調製した。
ヒトGタンパク質α15サブユニット(以下、単に「ヒトGタンパク質α15」、「α15」等と略記する。)のcDNAクローンを、OriGene社より入手した(アクセッションナンバー NM_002068、配列番号11)。このcDNAクローンを鋳型とし、配列番号12で表されるプライマーと配列番号13で表されるプライマーをプライマー対としてPCRを行い、ヒトGタンパク質α15遺伝子を含むDNA断片を増幅した。この増幅DNA断片の両端にはプライマーに由来するXhoIサイトが導入された。
【0085】
この増幅DNA断片を、あらかじめXhoIで消化した実施例1のpTrc(SRII)2ETARFベクターに導入し、pTrc(SRII)2ETARG15Fベクターを作製した。本ベクターに含まれる融合遺伝子の構成の概略を図4に、対応する融合タンパク質の構成の概略を図5に示す。図4で、「groEL」は変異型GroELサブユニット遺伝子、「etar」はヒトETAR遺伝子、「g15」はヒトGタンパク質α15遺伝子を表す。また、図5で、「GroEL」は変異型GroELサブユニット、「ETAR」はヒトETAR,「G15」はヒトGタンパク質α15を表す。すなわち、pTrc(SRII)2ETARG15Fベクターは、変異型GroELサブユニット2回連結体遺伝子(SRII)2の下流に、ヒトETAR遺伝子、さらに下流にヒトGタンパク質α15遺伝子が連結された融合遺伝子を有する。そして、該融合遺伝子が発現することにより、「ヒトETARのN末端側に変異型GroELサブユニット2回連結体が連結され且つC末端側にヒトGタンパク質α15が連結された融合タンパク質」(以下、「SR−ETAR−G15」と略記することがある。)が生産される。なお、該融合遺伝子においては、(SRII)2とヒトETAR遺伝子との間にペプチドリンカーサイト(トロンビン翻訳サイト)があり、さらに、ヒトGタンパク質α15遺伝子の下流にペプチドリンカーサイト(エンテロキナーゼ翻訳サイト)及びFLAGペプチドサイトが連結されている。
【0086】
pTrc(SRII)2ETARG15Fベクターを大腸菌BLR(DE3)株に導入し、形質転換体を得た。この形質転換体を実施例1と同様にして培養し、菌体破砕後、上清を回収した。
【0087】
2.融合タンパク質の精製
実施例1と同様の方法で、抗FLAG抗体固定化ビーズでの免疫沈降、HiTrap Butyl FFカラムを用いる疎水クロマトグラフィー、及び、TSKgel G4000SWXLを用いるゲル濾過クロマトグラフィーにより、目的の融合タンパク質を精製した。
【0088】
3.Gタンパク質共役型受容体に対する結合性評価用組成物の調製
上記2で精製した100μMのSR−ETAR−G15(50mM Tris(pH7.4)/150mM NaCl、10mM MgCl2、1mM EDTA溶液)に0.1%ジギトニン(界面活性剤)を加え、0.6mg/mLの1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルエタノールアミン(リン脂質)、0.4mMのホスファチジルセリン(リン脂質)、0.03mg/mLのコレステリル−ヘミサクシネート(ステロール類)、及び0.7%CHAPS(界面活性剤)を含む脂質液を混合した(基本溶液)。この基本溶液に終濃度が1mMとなるように4,4’−ジメチルピリジンを加え、室温、3時間撹拌することにより、脂質二重膜を含むGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価用組成物を調製した。
【実施例3】
【0089】
1.融合タンパク質を用いたリガンドの結合性評価とスクリーニング
1mM EDTA、100mM NaCl、5mM MgCl2、1μM RI標識−GTPγS(パーキンエルマー社)、及び100μM GDPを含む10mM Tris−HCl(pH8.0)緩衝液165μLに、実施例2で調製した脂質二重膜を含むGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価用組成物(変異型GroELサブユニット2回連結体−ヒトETAR−ヒトGタンパク質α15融合タンパク質含む脂質膜画分)を終濃度が200nMとなるように添加した。この組成物に、エンドセリンA(被検化合物)を終濃度0(対照)又は1000nMとなるように添加し、37℃で3時間インキュベートした。インキュベート後、1mM EDTA、100mM NaCl、5mM MgCl2を含む10mM Tris−HCl(pH8.0)緩衝液で脂質膜を洗浄後、膜画分に残存するRI標識−GTPγSの量をシンチレーション法にて定量した。その結果、エンドセリンAを添加しなかった対照の実験区(終濃度0)に対し、1000nMのエンドセリンAを添加した実験区では優位にRI標識−GTPγSが結合していることが検出された。これにより、エンドセリンAがヒトETARに対する結合性を有すると評価した。
以上より、実施例2のGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価用組成物を用いて、ヒトETARに対するリガンドがスクリーニングできることが示された。
【0090】
なお、前述のジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー,1999年,第274巻,p.20756−では、ネイティブ型のシャペロニンに対し、ジチオピリジンを作用させることにより、シャペロニンの四次構造形成を阻害し、脱リング化させることができると報告されている。しかしながら本報告では、30分間程度の短時間内の脱リング化においてはATPなどのヌクレオチドが必須であることされている。一方、融合タンパク質を用いた本実施例では、ATPなどのヌクレオチドが無くとも30分といった短時間の中で脱リング化することが可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】発現ベクターpTrc(SRII)2TCFの主要部の構成を表す模式図である。
【図2】(a)は菌体破砕液上清のSDS−PAGEの結果を表す写真、(b)は精製画分のSDS−PAGEの結果を表す写真である。
【図3】(a)は精製画分のNative−PAGEの結果を表す写真、(b)は4,4’−ジメチルジピリジンを添加した後のNative−PAGEの結果を表す写真である。
【図4】実施例2で構築したpTrc(SRII)2ETARG15Fべクターに含まれる融合遺伝子の構造の概略を表す模式図である。
【図5】図4の融合遺伝子に対応する融合タンパク質の構造の概略を表す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検化合物のGタンパク質共役型受容体に対する結合性を評価するために用いられる組成物であって、所望のGタンパク質共役型受容体のN末端側にシャペロニンサブユニット又はシャペロニンサブユニット連結体が連結された融合タンパク質を含む基本溶液に、ジチオジピリジンを添加してなるGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価用組成物。
【請求項2】
前記基本溶液は、さらに界面活性剤を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記基本溶液は、さらに脂質二重膜を含む請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記シャペロニンサブユニット又はシャペロニンサブユニット連結体は、大腸菌由来のシャペロニンサブユニットからなる請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記Gタンパク質共役型受容体のC末端側にGタンパク質αサブユニットが連結されている請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
被検化合物のGタンパク質共役型受容体に対する結合性を評価する方法であって、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物に被検化合物を添加して前記融合タンパク質内のGタンパク質共役型受容体に被検物質を接触させる工程を含むGタンパク質共役型受容体に対する結合性評価方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−58104(P2008−58104A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−234467(P2006−234467)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】