説明

GVHDの予防及び治療

移植片対宿主病(GVHD)の臓器傷害を特異的に且つ予防的又は治療的に回避する方法、そのための予防又は治療剤、及び該予防又は治療剤をスクリーニングする方法を提供するものである。フラクタルカインとドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の相互作用を阻害し、CD8 T細胞の腸管等への臓器浸潤を特異的に抑制することにより、GVHDにおける臓器傷害を防止し、選択的なGVHDの治療及び予防が可能である。フラクタルカインとケモカインレセプターCX3CR1の相互作用の阻害には、抗フラクタルカイン抗体を用いる方法を挙げることができる。また本発明は、本発明のCD8 T細胞の腸管等への臓器浸潤を特異的に抑制する機構を用いて、GVHDの臓器傷害予防又は治療作用を有する物質のスクリーニング方法を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移植片対宿主病(graft−versus−host disease:GVHD)の発症を予防的又は治療的に回避する方法、特に、GVHDの臓器傷害を特異的に且つ予防的又は治療的に回避する方法、そのためのGVHD臓器傷害特異的予防又は治療剤、及び該予防又は治療剤の有効成分として用いるGVHDの臓器傷害に特異的な予防又は治療作用を有する物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の移植医学の進展は目覚しく、例えば、骨髄移植は慢性骨髄性白血病をはじめとする多くの血球系疾患に対する代表的治療法として注目されている。この移植医学の分野においては、本来的には、生体の有害な物質や生物からの防御反応であるはずの免疫系が働いて、宿主(レシピエント)に移植された材料に対する防御反応として、移植に対する拒絶反応、或いは移植片による宿主臓器の傷害を発生するという重要な問題がある。この移植片の免疫細胞が宿主の抗原に反応し、移植拒絶反応の逆方向の免疫反応を起こすことにより発症する疾病を、移植片対宿主病(GVHD)と呼んでいる。GVHDを発症すると、免疫反応による宿主臓器細胞の傷害により、体重減少、下痢、嘔吐、落屑性皮膚炎、肝脾腫大などの重篤な症状を呈し、ついには発育停止、宿主の死をも引き起こす。
【0003】
このように、移植医学の分野においては、例えば、骨髄移植のように、慢性骨髄性白血病をはじめとする多くの血球系疾患に対する代表的治療法として細胞の移植が有力な手段として注目されているが,致死的併発疾患であるGVHDを否めないのが現状である。
【0004】
ヒトGVHDは、Matheらによって初めて報告された(Rev.Fr.Etud.Clin.Biol.,15:115−161,1960)。GVHDは、本質的にはドナー細胞と宿主組織との間の免疫学的反応の臨床症状であり、この臨床的症候群は皮疹、胃腸症状、及び肝機能障害等からなり、通常は例えば同種骨髄移植から2週間以内に認められる。該免疫異常の発生には、免疫適格ドナー細胞による宿主抗原の認識、免疫抑制状態にある宿主(レシピエント)、及びドナーとレシピエントとの間に同種抗原の差があることが必要である。免疫適格ドナー細胞は、成熟T細胞であり、疾患の臨床的重症は宿主に移植されたT細胞の数と相関することが報告されている(NEJM 324:667,1991)。
【0005】
臓器移植における移植免疫反応は、初回移植後の感作成立による急性拒絶(acute rejection)、いったん成立した免疫寛容の破綻による慢性拒絶(chronic rejection)、再移植による促進反応及び再移植直後の既存抗体による超急性拒絶(hyperacute rejection)に分けられる。急性GVHDではドナーCD8 T細胞が組織適合抗原不一致のホスト細胞に反応,増殖し,細胞傷害性T細胞に分化した後,標的臓器である皮膚,肝臓,腸管に浸潤し,臓器傷害を引き起こすと考えられている(Nature 411:385−389,2001;Experimental Hematology 29:259−277,2001)。急性GVHDにおける臓器傷害の中でも腸管GVHDは下痢による脱水や,傷害された腸管上皮を越えて消化管内細菌が生体内に転移する事により全身性の炎症の原因となる等,GVHDの重症化に関与していることが報告されている(J.Clin.Invest.104:317−325,1999;J.Immunol.152:1004−1011,1994;Blood 94:825−831,1999;J.Clin.Invest.107:1581−1589,2001)。
【0006】
現在の標準的GVHD予防プロトコールは、免疫細胞の増殖過程を標的としたメトトレキセートやシクロスポリンA(CsA)、FK506等による非特異的免疫抑制であり(「造血細胞移植ガイドライン−GVHDの診断と治療に関するガイドライン」日本造血細胞移植学会ガイドライン委員会),また、コルチコステロイド、シクロホスファミド、及び抗胸腺細胞グロブリン(ATG)のような広く作用する免疫抑制剤もGVHDの予防や治療に用いられている。しかしながら、これらの薬剤は、非特異的及び広範囲な免疫抑制効果をもつが故に、その毒性も強く、一方で免疫力低下に伴う感染症や腫瘍の再発が問題となる。したがって,現在、より選択的にGVHDを回避するのに有効な治療,予防方法及びそのための薬剤の開発が望まれている。
【0007】
近年、GVHDを防止又は処置するためのいくつかの方法やそのための薬剤が開示されている。例えば、特開平9−188631号公報には、N−ヒドロキシアミノカルボニル基を有する化合物からなるFasリガンド可溶化抑制剤をGVHDの予防又は治療剤として用いることについて、特表平9−510607号公報には、抗B7−1抗体又は他のB7−1リガンドをGVHDを防止又は処置するために使用することについて、及び、特表平11−508586号公報には、Ctx若しくはEtx、又はCtx及びEtxのBサブユニット以外の、GM−1結合活性を有する薬剤、或いはGM−1結合活性を有さないが、細胞内情報伝達が媒介されるGM−1に影響を及ぼす薬剤をGVHDの予防に用いることについて開示されている。
【0008】
また、特表2002−505097号公報には、T細胞、B細胞及び単球のような特定の細胞で発現される分子CD147が、CVHDのような疾患に用いることができることについて、及び、特表2003−512438号公報には、GVHDを制御するための免疫寛容を誘導するための方法として、抗原の経粘膜投与又は該抗原をコードする核酸の投与と組み合わせて、11β−ヒドロキシステロイド脱水素酵素のインヒビターを用いて免疫寛容を誘導する方法が開示されている。しかしながら、これらはいずれもまだ開発段階のものであり、現在、選択的にGVHDを回避する効果的な治療及び予防法やそのための薬剤は見い出されていない。
【0009】
一方、種々の生物学的過程、例えば免疫細胞の炎症、脈管形成、造血及び器官形成部位への動員を制御する因子、特に、免疫及び炎症中の白血球輸送の過程のレギュレーターであると考えられている因子として、ケモカイン(chemokine)が知られている。ケモカインは、化学走性サイトカインであり、このサイトカインは広汎な種々の細胞により放出され、マクロファージ、T細胞、好酸球、好塩基球及び好中級を炎症部位へと引きつける(Cytokine,3:165−183,1991;Curr.Opin.Immunol.,6:865−873,1994;Rev.Immun.,12:593−633,1994)。ケモカインは、約70〜100個のアミノ酸の単一ポリペプチド鎖を有するタンパク質の大きなファミリーであり、サイトカインファミリーの50以上のメンバーが既に知られている(FASEBJ.,3:2565−2573,1989;Adv.Immunol.,55:97−179,1994;Ann.Rev.Med.,50:425−440,1999;New Eng.J.Med.,338:436−445,1998)。
【0010】
既知のケモカインは、典型的にはシステインモチーフの配置に基づいて4つのサブファミリーのうちの1つに割り当てられる。アルファーケモカインCXC(α)は、4つのシステインのうちの最初の2つが介在性アミノ酸によって分離されることを特徴とし、このケモカインは好中球及びリンパ球に対して主に化学走性である。ベータケモカインCC(β)は、最初の2つのシステインの間に介在性アミノ酸が存在しないことを特徴とし、このケモカインはマクロファージ、T細胞、好酸球及び好塩基球に対して化学走性である。ガンマーケモカインC(γ)は、単一のC残基を特徴とし、リンパ球に対する特異性を示す。デルターケモカインCX3C(δ)は、3つの残基で分離されたシステインの対を特徴とし、リンパ球及び単球について特異性を示す。ケモカインは、Gタンパク質共役7回膜貫通ドメインタンパク質に属する特異的細胞表面レセプターに結合し、該ケモカインレセプターとの相互作用により生物学的役割を果たす。
【0011】
ケモカインのレセプターは、特定のケモカインのサブファミリーに結合することができ、レセプターの名称はケモカインのサブファミリーに限定された結合特性を反映する。例えば、CXCケモカインに結合するレセプターは、CXCRとして表示され、CCケモカインに結合するレセプターはCCRと表示される。サブファミリー特異的レセプターの表示の後に、該特定のレセプターの発見順序を示す数値が表示される。例えば、CXCR4は、CXCRとして4番目に発見されたことを示している。
【0012】
近年、ケモカインスーパーファミリーにおいて、新たなケモカインとしてフラクタルカイン(FKN)が単離・報告された(Nature,385(6617):640−644,1997)。フラクタルカインは、CX3Cケモカインモチーフとムチン様領域を有するムチン−ケモカインハイブリッド型構造を有し、膜結合型と分泌型の二つのタイプが存在する。膜結合型のフラクタルカインは、炎症性サイトカインの刺激により血管内皮前駆細胞の細胞表面に強く発現誘導され、NK細胞とCD8陽性T細胞の細胞接着を促進する。一方、フラクタルカインタンパク質の細胞膜膜貫通領域基部に存在する切断部位でプロテアーゼによって切断されることにより分泌型となったフラクタルカインは、これらの白血球細胞の遊走を誘導する。
【0013】
CX3CR1は、他のケモカイン受容体と同様に7回膜貫通Gタンパク質共役型受容体であり、フラクタルカイン受容体として単離された(Cell,91(4):521−530,1997)。CX3CR1は、NK細胞やCD8陽性T細胞の細胞表面に発現しており、フラクタルカインの結合を介してこれらの白血球細胞の遊走と接着の両方を仲介する。
【0014】
本発明の課題は、移植片対宿主病(GVHD)の発症を予防的又は治療的に回避する方法、特に、GVHDの臓器傷害を特異的に且つ予防的又は治療的に回避する方法、そのためのGVHD臓器傷害特異的予防又は治療剤、及び該予防又は治療剤の有効成分として用いるGVHDの臓器傷害に特異的な予防又は治療作用を有する物質のスクリーニング方法を提供することにある。
【0015】
本発明者は、移植片対宿主病(GVHD)の発症を予防的又は治療的に回避し、GVHDの臓器傷害を特異的に回避する方法について鋭意研究する中で、フラクタルカインとドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の相互作用を阻害し、CD8 T細胞の腸管等への臓器浸潤を特異的に抑制することにより、GVHDにおける臓器傷害を防止し、選択的なGVHDの治療及び予防が可能であることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明者は急性GVHDにおける臓器傷害が皮膚,肝臓,腸管に限定されていることに注目し,その機構としてGVHD後期において細胞傷害性を獲得したドナーCD8 T細胞の臓器特異的浸潤を考え,この浸潤過程を抑制することにより,選択的なGVHDの治療,予防が可能になると考えた。そこで、今回本発明者は急性GVHDモデル(J.Immunology,155:2396−2406,1995;J.Immunology,161:2848−2855,1998)を用い,抗フラクタルカイン抗体投与によりフラクタルカインとドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の相互作用を阻害する試験を行った結果、GVHD後期におけるドナーCD8 T細胞の腸管浸潤に,腸管上皮および血管内皮に発現するフラクタルカインとドナーCD8 T細胞に発現するCX3CR1の相互作用が重要な役割を果たしており,この相互作用を阻害することで腸管GVHDを軽減できることを見い出した。
【0017】
本発明において、CD8 T細胞の臓器浸潤の特異的抑制のために、フラクタルカインとドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の相互作用を阻害するには、フラクタルカイン及び/又はドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の機能を阻害することにより行うことができる。フラクタルカイン及び/又はケモカインレセプターCX3CR1の機能を阻害する方法としては、例えば、フラクタルカイン或いはケモカインレセプターCX3CR1の発現を遺伝子操作によって阻止する方法、或いは、ケモカインレセプターCX3CR1の拮抗阻害剤を用いる方法等を挙げることができる。フラクタルカインとドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の相互作用の阻害に、抗フラクタルカイン抗体を用いる方法は、特に、好ましい方法として挙げることができる。
【0018】
本発明は、また、ドナーCD8 T細胞移入移植片対宿主病発症モデル動物に、被検物質を投与し、ドナーCD8 T細胞の臓器への浸潤を検知・評価することにより、移植片対宿主病の臓器傷害特異的予防又は治療作用を有する物質をスクリーニングする方法を包含する。該スクリーニング方法において、ドナーCD8 T細胞の臓器への浸潤を、ドナーCD8 T細胞におけるケモカインレセプターCX3CR1及び/又はフラクタルカインの発現の検知・評価により行うことができる。
【発明の開示】
【0019】
すなわち具体的には本発明は、(1)CD8 T細胞の臓器浸潤を特異的に抑制することにより移植片対宿主病の発症又は進行を予防的又は治療的に回避する方法や、(2)CD8 T細胞の臓器浸潤の特異的抑制が、フラクタルカインとドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の相互作用の阻害であることを特徴とする(1)記載の移植片対宿主病の発症又は進行を予防的又は治療的に回避する方法や、(3)フラクタルカインとドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の相互作用の阻害が、フラクタルカイン及び/又はドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の機能の阻害であることを特徴とする(2)記載の移植片対宿主病の発症又は進行を予防的又は治療的に回避する方法や、(4)フラクタルカインとドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の相互作用の阻害が、抗フラクタルカイン抗体を用いた相互作用の阻害であることを特徴とする(2)又は(3)記載の移植片対宿主病の発症又は進行を予防的又は治療的に回避する方法や、(5)抗フラクタルカイン抗体が、モノクローナル抗体であることを特徴とする(4)記載の移植片対宿主病の発症又は進行を予防的又は治療的に回避する方法や、(6)CD8 T細胞の臓器浸潤の特異的抑制が、腸管への細胞傷害性CD8 T細胞の浸潤であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか記載の移植片対宿主病の発症又は進行を予防的又は治療的に回避する方法からなる。
【0020】
また本発明は、(7)フラクタルカインとドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の相互作用を阻害する物質を有効成分とすることを特徴とする移植片対宿主病の臓器傷害特異的予防又は治療剤や、(8)フラクタルカインとドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の相互作用を阻害する物質が、フラクタルカイン及び/又はドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の機能の阻害物質であることを特徴とする(7)記載の移植片対宿主病の臓器傷害特異的予防又は治療剤や、(9)フラクタルカインとドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の相互作用を阻害する物質が、抗フラクタルカイン抗体であることを特徴とする(7)又は(8)記載の移植片対宿主病の臓器傷害特異的予防又は治療剤や、(10)抗フラクタルカイン抗体が、モノクローナル抗体であることを特徴とする(9)記載の移植片対宿主病の臓器傷害特異的予防又は治療剤からなる。
【0021】
さらに本発明は、(11)ドナーCD8 T細胞移入移植片対宿主病発症モデル動物に、被検物質を投与し、ドナーCD8 T細胞の臓器への浸潤を検知・評価することを特徴とする移植片対宿主病の臓器傷害特異的予防又は治療作用を有する物質のスクリーニング方法や、(12)ドナーCD8 T細胞の臓器への浸潤を、ドナーCD8 T細胞におけるケモカインレセプターCX3CR1及び/又はフラクタルカインの発現の検知・評価により行うことを特徴とする(11)記載の移植片対宿主病の臓器傷害特異的予防又は治療作用を有する物質のスクリーニング方法や、(13)ドナーCD8 T細胞の臓器への浸潤が、ドナーCD8 T細胞の腸管への浸潤であることを特徴とする(11)又は(12)記載の移植片対宿主病の臓器傷害特異的予防又は治療作用を有する物質のスクリーニング方法や、(14)ドナーCD8 T細胞移入移植片対宿主病発症モデル動物が、ドナーCD8 T細胞移入移植片対宿主病発症モデルマウスであることを特徴とする(11)〜(13)のいずれか記載の移植片対宿主病の臓器傷害特異的予防又は治療作用を有する物質のスクリーニング方法や、(15)(11)〜(14)のいずれか記載の移植片対宿主病の臓器傷害特異的予防又は治療作用を有する物質のスクリーニング方法により得られた物質を有効成分とする移植片対宿主病の臓器傷害特異的予防又は治療剤からなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1図は、本発明の実施例において、ドナーCD8 T細胞の腸管浸潤と腸管傷害の相関について試験した結果を示す図である。Aは、脾臓、腸管膜リンパ節、小腸におけるドナーCD8 T細胞の浸潤、Bは、正常BDF1及びGVHD誘導後8日目、12日目の腸管組織像(HE染色)、Cは、正常BDF1及びGVHD誘導後8日目、12日目の腸管におけるアポトーシス細胞の検出について示す。
【図2】第2図は、本発明の実施例において、腸管GVHDにおけるフラクタルカイン/CX3CR1の関与について試験した結果を示す図である。Aは、移入前及びGVHD誘導後10日目に腸管、肝臓に浸潤したドナーCD8 T細胞におけるケモカインレセプターの遺伝子発現、Bは、移入及びGVHD誘導後10日目の腸管、肝臓におけるケモカインの遺伝子発現、Cは、GVHD誘導後10日目の腸管におけるフラクタルカイン発現とドナーリンパ球の浸潤について示す。
【図3】第3図は、本発明の実施例において、抗フラクタルカイン抗体投与によるドナーCD8T細胞の腸管浸潤の抑制について試験した結果を示す図である。
【図4】第4図は、本発明の実施例において、抗フラクタルカイン抗体投与による腸管GVHDの軽減について試験した結果を示す図である。Aは、Tunel法による腸管陰窩部におけるアポトーシス細胞の検出、Bは、腸管陰窩20個あたりのアポトーシス細胞数について示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、ケモカインのフラクタルカインとドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の相互作用を阻害すること等により、CD8 T細胞の臓器浸潤を特異的に抑制し、GVHDの発症又は進行を予防的又は治療的に回避する方法よりなる。
【0024】
フラクタルカイン及びケモカインレセプターCX3CR1は、既知のタンパク質であり(Nature,385(6617):640−644,1997;Cell,91(4):521−530,1997)、その遺伝子及びタンパク質の配列は、GenBankのデーターベースでアクセッションナンバー、NM_001337及びNM_002996によってアクセスすることができる。
【0025】
フラクタルカインとドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の相互作用の阻害方法としては、フラクタルカイン及びケモカインレセプターCX3CR1のそれぞれの機能の阻害によって行うことができ、該機能の阻害には、既知の方法を利用することができる。該方法としては、フラクタルカイン或いはドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の遺伝子の発現を遺伝子操作により制御し、フラクタルカイン及びケモカインレセプターCX3CR1のそれぞれの機能を阻害することができる。該遺伝子の発現の制御には、アンチセンス法等、既知の遺伝子操作による発現の制御方法を用いることができる。すなわち、フラクタルカイン及びケモカインレセプターCX3CR1の既知の配列に基づいて、該配列のアンチセンス鎖を構築し、該配列を細胞に導入して、遺伝子の発現を制御することができる。
【0026】
また、ケモカインレセプターCX3CR1の拮抗薬(アンタゴニスト)を用いて、リガンドであるフラクタルカインのCX3CR1受容体への結合を拮抗的に阻害し、フラクタルカインとケモカインレセプターCX3CR1との相互作用を阻害することができる。フラクタルカインとケモカインレセプターCX3CR1の相互作用の阻害の特に好ましい方法として、抗フラクタルカイン抗体を用いる方法を挙げることができる。該抗体には、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体を用いることができる。該抗体の作製は、フラクタルカインタンパク質を用いて、哺乳動物(マウス、ハムスター、ウサギ等)を感さし、それ自体既知の方法で作製することができる(特開2002−345454号公報)。
【0027】
更に、本発明は、本発明で見い出したGVHDにおいて臓器傷害を発症する機構を利用して、臓器傷害特異的予防又は治療作用を有する物質のスクリーニングを行う方法を包含する。本発明のスクリーニング方法を行うには、ドナーCD8 T細胞移入GVHD発症モデル動物に、被検物質を投与し、ドナーCD8 T細胞の臓器への浸潤を検知・評価することにより、被検物質の作用を評価して行うことができる。GVHD発症モデル動物に被検物質を投与し、ドナーCD8 T細胞の臓器への浸潤を検知・評価するには、該モデル動物に被検物質を投与した後、組織を切開し、抗体を用いた蛍光免疫組織染色等を用いて、直接、組織学的にドナーCD8 T細胞の組織への浸潤を検出・測定することにより行うことができる。
【0028】
また、ドナーCD8 T細胞の臓器への浸潤を、ドナーCD8 T細胞におけるケモカインレセプターCX3CR1及び/又はフラクタルカインの発現の検知・評価により行うことができる。ドナーCD8 T細胞におけるケモカインレセプターCX3CR1及び/又はフラクタルカインの発現の検知・評価には、既知の遺伝子工学的操作による遺伝子発現の検知方法により行うことができる。例えば、ケモカインレセプターCX3CR1及びフラクタルカインの既知の遺伝子配列からプローブを構築し、該プローブを用いて、ケモカインレセプターCX3CR1の遺伝子及びフラクタルカインの遺伝子の発現を検知することができる。また、ケモカインレセプターCX3CR1及び/又はフラクタルカインの発現の検知・評価を、該タンパク質に対する抗体を用いて、抗原抗体法により検知・評価することができる。該抗原抗体法における望ましい例としては、蛍光抗体法を挙げることができる。
【0029】
本発明のGVHDの臓器傷害特異的予防又は治療剤を生体に投与するには、本発明の予防又は治療剤の有効成分を、それ自体公知の薬理学的に許容される担体又は希釈剤等からなる補助成分を用いて製剤化し、経口的或いは非経口的に投与することができる。非経口的に投与する場合には、例えば静脈内、筋肉内又は皮下経路によって投与するため、製剤を注射可能な形態に形成する。また、粘膜投与可能な状態に製剤化し、粘膜を通して投与を行うことができる。
【0030】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
[材料と方法]
(マウス)
C57BL/6マウス(B6:H2b):日本クレアより購入した。
(C57BL/6×DBA/2)F1マウス(BDF1:Ly5.2、H2b×d):日本クレアより購入した。GFPトランスジェニックB6マウス(GFP−B6):岡部博士(大阪大学)より分与された。Ly5.1コンジェニックB6マウス(Ly5.1−B6):石川博士(慶応大学)より分与された。全ての動物実験は東京大学動物実験ガイドラインに従って行い、実験には8週齢から12週齢の雌を用いた。
(抗体)
biotin標識マウスモノクローナル抗Ly5.1抗体、PE標識ラットモノクローナル抗マウスCD8抗体、精製ラットモノクローナル抗マウスCD16/32抗体はBD PharMingenから、精製ヤギポリクローナル抗マウスフラクタルカイン抗体はR&Dから、精製ウサギポリクローナル抗サイトケラチン抗体はBiomedical Technologies Incから、Alexa 546標識抗ヤギIgG抗体、Alexa 488標識StreptavidinはMolecular probeから購入した。精製ハムスターモノクローナル抗フラクタルカイン抗体(5H8−4,特開2002−345454号公報)は今井博士((株)カン研究所)より譲渡された。
(リンパ球の調整)
脾臓リンパ球:頸椎脱臼により屠殺したマウスより脾臓を摘出後、PBS中ですり潰し、細胞浮遊液を調整した。遠心洗浄後、ペレットをACK buffer(0.15M NH4Cl、1mM KHCO3、0.1mM Na2EDTA pH7.4,1ml/マウス)に再懸濁し、赤血球を溶血させ、除去した。PBSにより遠心洗浄後、ナイロンメッシュ(孔径70μm)を通して細胞塊を除いた物を脾臓リンパ球とした。
【0032】
腸管膜リンパ節リンパ球:腸管膜リンパ節を摘出後、脂肪組織を除去し、PBS中ですり潰し、細胞浮遊液を調整した。遠心洗浄後、ナイロンメッシュ(孔径70μm)を通して細胞塊を除いた物を腸管膜リンパ節リンパ球とした。
【0033】
腸管リンパ球:腸管を胃幽門部から回腸末端にかけて摘出し、腸管膜を除去後反転した。腸管をパイエル板をさけて4等分し、45mlのRPMI−1640/5%FBS/20mM HEPESを満たした50mlコニカルチューブに移した。37℃、160rpm、45分間水平に振盪し、得られた上清をナイロンウールカラムを通すことにより細胞塊を除去し、細胞浮遊液を調整した。遠心洗浄後、45%(Amersham Bioscience)に再懸濁し、75%Percolを下層後、RT、2000rpm、20分間遠心した。45%/75% percolの中間層からリンパ球画分を回収し、これを腸管リンパ球とした。
【0034】
肝臓リンパ球:脱血屠殺したマウスより肝臓を摘出後、RPMI−1640/5% FBS中ですり潰し、ステンレスメッシュ(孔径70μm)を通して細胞浮遊液を調整した。遠心洗浄後ペレットを33%Percolに再懸濁し、RT,2000rpm、10分間遠心した。肝細胞を含む上清を除去した後、ペレットを1mlのACK bufferに再懸濁し、赤血球を溶血させた。遠心洗浄後、得られたペレットをPBSに再懸濁しこれを肝臓リンパ球とした。
(急性GVHDモデル)
非放射線照射BDF1マウスに、GFP−B6(FCM解析時)またはLy5.1−B6(組織染色時)の脾臓細胞(6×10)を静脈注射により移入した。ドナーリンパ球の臓器浸潤を経時的に解析するため、ドナー細胞移入後5、8、10、12、14日のBDF1マウスの脾臓、腸管膜リンパ節、小腸よりリンパ球を調整した。トリパンブルー染色法により生細胞数を計測後、Flow−cytometry(FCM)解析を行い、GFP陽性 CD8陽性細胞の割合からドナーCD8 T細胞の数を算出した。
(FCM解析)
細胞懸濁液に抗マウスCD16/32抗体(0.01μg/2×10cells)を加え、4℃、10分間インキュベートし、FC受容体を介した非特異的結合を阻害した。次いでPE標識抗マウスCD8抗体(0.05μg/2×10cells)を加え、4℃、20分間インキュベートした後PBSを加え、遠心洗浄した。FCM解析はEPICS ELITE(Beckman coulter)により行い、また死細胞はPI染色(終濃度0.5μg/ml)により除去した。
(腸管GVHDの評価)
腸管組織を長軸方向に切り開き、5μm四方のシート状にトリミングした状態でOCT compound(Tissue−teck)に包埋し、液体窒素中で凍結した。クリオスタットにより厚さ6μmの凍結切片を作成し、HE染色により腸管陰窩部の組織像を評価した。またin situ cell death detection kit(Roche)を用いた。Tunel法と抗サイトケラチン抗体および抗Ly5.1抗体を用いた蛍光免疫組織染色を組み合わせ、腸管陰窩部における上皮細胞のアポトーシスおよびドナー細胞の浸潤を検出した。さらに腸管傷害を定量するため、陰窩20個あたりのアポトーシス細胞数を計数した。
(RT−PCR)
移入前のドナーCD8 T細胞およびGVHD誘導後10日目に腸管または肝臓に浸潤したドナーCD8 T細胞(1−10×10個)をセルソーターにより分取後、TRIzol reagent(Invitrogen)を用いてtotal RNAを調整した。また、正常及びGVHD誘導後10日目のBDF1マウスより肝臓、小腸を採取しTRIzol reagent(Invitrogen)を用いてtotal RNAを調整した。得られたRNA(200ng)をPowerScript Reverse Transcrpitase(Clontch)およびRandom hexamers(Promega)を用いてcDNAに逆転写した。cDNAの一部をテンプレートとして各種プライマー及びTaqMan probe、Platinum quantitative PCR PuperMix−UDG(Invitrogen)を混合し、反応溶液を調整した。添付の説明書にリアルタイムPCRはABI PRISM 7700(Applied biosystems)により行った。反応液の組成及びPCRの条件はPlatinum quantitative PCR PuperMix−UDGに添付の説明書に従った。ケモカインレセプター・ケモカイン遺伝子の発現はGAPDHを内部標準とした相対値で示した。使用した各種プライマー及びTaqMan probeは表1に示した。
【0035】
【表1】

(フラクタルカインの蛍光免疫組織染色)
GVHD誘導後10日目の腸管より厚さ6μmの凍結切片を作成した。1次抗体にヤギ抗フラクタルカイン抗体(終濃度5μg/ml)及びbiotin標識抗Ly5.1抗体(終濃度5μg/ml)、2次抗体にAlexa 546標識抗ヤギIgG抗体(終濃度0.5μg/ml)およびAlexa 488標識Streptavidin(終濃度0.5μg/ml)を用いて蛍光2重染色を行った。また、抗フラクタルカイン抗体のコントロールとしてヤギIgG(Chemicon international)を用いた。共焦点レーザー顕微鏡(Olympus)を用いてフラクタルカインの発現および腸管に浸潤したドナー細胞との位置関係を解析した。
(抗フラクタルカイン抗体実験)
200μgの抗フラクタルカイン抗体またはハムスターIgG(Jackson Immuno Research)を100μlのPBSに溶解し、GVHD誘導後6、8、10日目に腹腔内投与した。14日目に小腸、肝臓に浸潤したドナーCD8 T細胞の数を測定し、抗フラクタルカイン抗体投与がドナーCD8 T細胞の臓器浸潤に及ぼす影響を評価した。また、Tunel法により小腸におけるアポトーシス細胞数を測定し、抗フラクタルカイン抗体処理が腸管傷害に及ぼす影響を評価した。
[結果と考察]
(図1)
ドナーCD8 T細胞の腸管浸潤と腸管傷害の相関について図1に示す。Aは、脾臓、腸管膜リンパ節、小腸におけるドナーCD8 T細胞の浸潤、Bは、正常BDF1及びGVHD誘導後8日目、12日目の腸管組織像(HE染色)、Cは、正常BDF1及びGVHD誘導後8日目、12日目の腸管におけるアポトーシス細胞の検出について示す。
【0036】
FCM解析により、脾臓、腸管膜リンパ節においてドナーCD8 T細胞浸潤のピークが10日目であるのに対し、小腸におけるドナーCD8 T細胞の浸潤は10日目から始まり、腸管GVHDの極期である14日目にかけて急速に進行するという異なった動態を示した(図1−A)。また、HE染色およびTunel法により、ドナーCD8 T細胞の浸潤に伴い腸管陰窩部の過形成、アポトーシス細胞の増加、陰窩部の破壊といった腸管GVHDに特有の症状が認められた(図1−B,C)。
【0037】
以上の結果から、ドナーCD8 T細胞が腸管への浸潤能を獲得するのはGVHD後期であること、また急激なドナーCD8 T細胞の腸管浸潤が腸管GVHDの発症と深く関連していることが明らかとなった。
(図2)
腸管GVHDにおけるフラクタルカイン/CX3CR1の関与について図2に示す。Aは、移入前及びGVHD誘導後10日目に腸管、肝臓に浸潤したドナーCD8 T細胞におけるケモカインレセプターの遺伝子発現、Bは、移入及びGVHD誘導後10日目の腸管、肝臓におけるケモカインの遺伝子発現、Cは、GVHD誘導後10日目の腸管におけるフラクタルカイン発現とドナーリンパ球の浸潤について示す。
【0038】
GVHD後期におけるドナーCD8 T細胞の腸管浸潤に関与する分子をリアルタイムPCRにより検索したところ、移入後10日目に腸管に浸潤したドナーCD8 T細胞においてケモカインレセプターCX3CR1の発現が特徴的に上昇しており、また腸管組織においてCX3CR1のリガンドであるフラクタルカインが発現していることが明らかとなった(図2−A,B)。抗フラクタルカイン抗体を用いた蛍光免疫組織染色により、腸管上皮細胞および血管内皮細胞に特異的な染色が認められ、またLy5.1陽性ドナーリンパ球がフラクタルカイン陽性腸管上皮細胞の基底側に接着している像も認められた(図2−C)。
【0039】
以上の結果から、GVHD後期にドナーCD8 T細胞がCX3CR1の発現を上昇させ、フラクタルカインを発現する腸管への浸潤能を獲得することにより、ドナーCD8 T細胞の腸管浸潤および腸管GVHDが引き起こされる事が示唆された。
(図3)
抗フラクタルカイン抗体投与によるドナーCD8 T細胞の腸管浸潤の抑制について、図3に表す。
【0040】
抗フラクタルカイン抗体をGVHD後期である6、8、10日目に投与したところ、コントロール抗体投与群と比較し腸管に浸潤するドナーCD8 T細胞の数が有意に減少した。一方で肝臓に浸潤するドナーCD8 T細胞の数には有意な差は認められなかった。
【0041】
以上の結果より、ドナーCD8 T細胞の腸管浸潤にフラクタルカイン/CX3CR1の相互作用が重要な役割をはたしていることが明らかとなった。
(図4)
抗フラクタルカイン抗体投与による腸管GVHDの軽減について図4に示す。Aは、Tunel法による腸管陰窩部におけるアポトーシス細胞の検出、Bは、腸管陰窩20個あたりのアポトーシス細胞数について示す。
【0042】
抗フラクタルカイン抗体投与の腸管組織傷害への影響をTunel法によるアポトーシス細胞数の測定で評価したところ、抗フラクタルカイン抗体投与群において腸管陰窩部におけるアポトーシス細胞が減少した。
【0043】
以上の結果より、抗フラクタルカイン抗体投与によりGVHDにおける腸管傷害が改善されることが明らかになった。
(図1−4)
図1−図4の結果から急性GVHDにおける腸管傷害は、GVHD後期に腸管へ浸潤するドナーCD8 T細胞によって引き起こされること、更にドナーCD8 T細胞の腸管浸潤にはフラクタルカイン/CX3CR1の相互作用が関与しており、この相互作用を阻害することによりGVHDにおける腸管傷害を軽減できることが明らかとなった。フラクタルカインを標的とする予防・治療法は免疫抑制剤を用いる従来法に比較し、ドナーCD8 T細胞の腸管浸潤を選択的に抑制する方法であり、またGVHDにおける生死に関わる最も重篤な腸管傷害をGVHD後期においても治療可能とするものである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
骨髄移植が慢性骨髄性白血病をはじめとする多くの血球系疾患に対する代表的な治療法であるように、細胞移植は医術の分野において有力な治療の手段であるが、移植片対宿主病(GVHD)は、これらの移植による治療を行う際に重大な障害となる。現在、標準的GVHD予防プロトコールは、免疫細胞の増殖過程を標的とした非特異的免疫抑制剤や広く作用する免疫抑制剤が用いられているが、しかし、これらの薬剤は、非特異的及び広範囲な免疫抑制効果をもつが故に、その毒性も強く、一方で免疫力低下に伴う感染症や腫瘍の再発が問題となっている。本発明のGVHD予防、治療剤、及びGVHDの予防、治療方法は、GVHDにおいて臓器傷害を発症する機構を特異的に阻害して、臓器傷害を防止又は治療効果を発揮するため、より選択的にGVHDを回避することが可能となる。特に、本発明のGVHD治療剤及びGVHDの治療方法は、フラクタルカインを標的とすることによって、GVHD発症後においても効果が期待でき、従来の免疫抑制剤にない特徴を有している。また、本発明においては、本発明で見い出されたGVHDにおける臓器傷害の発症機構を利用して、臓器傷害に対して特異的な予防又は治療作用を有する物質のスクリーニングを行う方法を提供でき、より選択的にGVHDを回避する予防及び治療剤の開発を可能とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD8 T細胞の臓器浸潤を特異的に抑制することにより移植片対宿主病の発症又は進行を予防的又は治療的に回避する方法。
【請求項2】
CD8 T細胞の臓器浸潤の特異的抑制が、フラクタルカインとドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の相互作用の阻害であることを特徴とする請求項1記載の移植片対宿主病の発症又は進行を予防的又は治療的に回避する方法。
【請求項3】
フラクタルカインとドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の相互作用の阻害が、フラクタルカイン及び/又はドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の機能の阻害であることを特徴とする請求項2記載の移植片対宿主病の発症又は進行を予防的又は治療的に回避する方法。
【請求項4】
フラクタルカインとドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の相互作用の阻害が、抗フラクタルカイン抗体を用いた相互作用の阻害であることを特徴とする請求項2又は3記載の移植片対宿主病の発症又は進行を予防的又は治療的に回避する方法。
【請求項5】
抗フラクタルカイン抗体が、モノクローナル抗体であることを特徴とする請求項4記載の移植片対宿主病の発症又は進行を予防的又は治療的に回避する方法。
【請求項6】
CD8 T細胞の臓器浸潤の特異的抑制が、腸管への細胞傷害性CD8 T細胞の浸潤であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の移植片対宿主病の発症又は進行を予防的又は治療的に回避する方法。
【請求項7】
フラクタルカインとドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の相互作用を阻害する物質を有効成分とすることを特徴とする移植片対宿主病の臓器傷害特異的予防又は治療剤。
【請求項8】
フラクタルカインとドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の相互作用を阻害する物質が、フラクタルカイン及び/又はドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の機能の阻害物質であることを特徴とする請求項7記載の移植片対宿主病の臓器傷害特異的予防又は治療剤。
【請求項9】
フラクタルカインとドナーCD8 T細胞に発現するケモカインレセプターCX3CR1の相互作用を阻害する物質が、抗フラクタルカイン抗体であることを特徴とする請求項7又は8記載の移植片対宿主病の臓器傷害特異的予防又は治療剤。
【請求項10】
抗フラクタルカイン抗体が、モノクローナル抗体であることを特徴とする請求項9記載の移植片対宿主病の臓器傷害特異的予防又は治療剤。
【請求項11】
ドナーCD8 T細胞移入移植片対宿主病発症モデル動物に、被検物質を投与し、ドナーCD8 T細胞の臓器への浸潤を検知・評価することを特徴とする移植片対宿主病の臓器傷害特異的予防又は治療作用を有する物質のスクリーニング方法。
【請求項12】
ドナーCD8 T細胞の臓器への浸潤を、ドナーCD8 T細胞におけるケモカインレセプターCX3CR1及び/又はフラクタルカインの発現の検知・評価により行うことを特徴とする請求項11記載の移植片対宿主病の臓器傷害特異的予防又は治療作用を有する物質のスクリーニング方法。
【請求項13】
ドナーCD8 T細胞の臓器への浸潤が、ドナーCD8 T細胞の腸管への浸潤であることを特徴とする請求項11又は12記載の移植片対宿主病の臓器傷害特異的予防又は治療作用を有する物質のスクリーニング方法。
【請求項14】
ドナーCD8 T細胞移入移植片対宿主病発症モデル動物が、ドナーCD8 T細胞移入移植片対宿主病発症モデルマウスであることを特徴とする請求項11〜13のいずれか記載の移植片対宿主病の臓器傷害特異的予防又は治療作用を有する物質のスクリーニング方法。
【請求項15】
請求項11〜14のいずれか記載の移植片対宿主病の臓器傷害特異的予防又は治療作用を有する物質のスクリーニング方法により得られた物質を有効成分とする移植片対宿主病の臓器傷害特異的予防又は治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【国際公開番号】WO2005/032589
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514440(P2005−514440)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014277
【国際出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】