説明

H5インフルエンザA型ウイルスの複数のクレードを使用する予防接種

2003年以降、動物およびヒトから単離されたH5N1インフルエンザウイルスは、血球凝集素アミノ酸配列に基づいて異なるクレードに分かれている。本発明に従って、多数のクレードをインフルエンザ免疫処置に利用する。これにより、被験体がH5インフルエンザAウイルスの第1クレードのプライミング投与およびH5インフルエンザAウイルスの第2クレードのブースティング投与を受ける、プライム−ブーストスケジュールがある。H5インフルエンザAウイルスの1つより多くのクレードからの血球凝集素抗原を含む免疫原性組成物もある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2007年11月26日に出願された米国仮出願第61/004,334号、および2008年6月5日に出願された英国特許出願第0810305.3号(これらの両方は、全てが本明細書に援用される)の利益を主張する。
【0002】
本発明は、インフルエンザウイルス感染に対する防御のための、および特にインフルエンザパンデミックに対する防御のための、ワクチンの分野に存する。
【背景技術】
【0003】
ワクチンに使用するためのインフルエンザウイルス株は、季節ごとに変わる。数年にわたって、ワクチンは、2つのインフルエンザA株(H1N1およびH3N2)と1つのインフルエンザB株を概して含んでいる。「抗原連続変異」に対処するために、予防接種に使用される正確な株は、年ごとに変わる。
【0004】
抗原連続変異より懸念されるのは、流行するインフルエンザAウイルスのサブタイプがH1N1およびH3N2から変わる「抗原不連続変異」である。特に、インフルエンザAウイルスのH5サブタイプは、近い将来、流行することになると予想される。ヒト集団は、この新しい血球凝集素サブタイプに対して免疫がないので、この抗原不連続変異は、インフルエンザ感染のパンデミック勃発を引き起こすであろう。パンデミック勃発を引き起こす可能性をもたらすインフルエンザ株の特徴は、(a)それが、現在流行しているヒト株における血球凝集素に比べて新しい血球凝集素、すなわち、10年以上にわたってヒト集団において顕性になっていないものまたはヒト集団において以前に見られたことがまったくないもの、を含有すること;(b)それが、ヒト集団において水平伝播され得ること;および(c)それが、ヒトにとって病原性であることである。
【0005】
H5株によって引き起こされるインフルエンザパンデミックに備えて、プレパンデミック予防接種戦略を用いることが提案された[1(非特許文献1)]。患者は、結果として得られる免疫がパンデミック発生時に有益であることを期待して、とかくするうちに発生し得る一切の抗原連続変異にもかかわらず、(トリからの)現行のH5株での免疫処置を受ける。
【0006】
2006年10月に、Sanofi Pasteurは、アジュバント添加およびアジュバント非添加形態で様々な抗原用量で試験したその候補プレパンデミックワクチンに関する結果を公表した。2006年11月に、Novartis Vaccinesは、アジュバント添加プレパンデミックワクチンについて欧州規制当局の認可のために書類を提出したことを公表した。2007年6月に、GlaxoSmithKlineは、50,000,000回分のH5N1アジュバント添加プレパンデミックワクチンをWHOに寄付するその意向を公表し、2008年2月に、そのPREPANDRIX(商標)製品は、EMEA’s Committee for Medicinal Products for Human Useから肯定的意見を受けた。3つの製品すべてが、H5N1/A/Vietnam/1194/04株に基づくものであった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Rileyら、PLoS Med.(2007)4(6):e218
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
2003年以来、動物およびヒトから単離されたH5N1ウイルスは、血球凝集素アミノ酸配列に基づいて近縁ウイルスの多数の異なるクレードに分かれている。H5N1/A/Vietnam/1194/04株は、クレード1に分類される。
【0009】
本発明に従って、多数のクレードをインフルエンザ免疫処置に利用する。
【0010】
本発明の第1の態様では、被験体がH5インフルエンザAウイルスの第1クレードのプライミング量およびH5インフルエンザAウイルスの第2クレードのブースティング量を受ける、プライム−ブースト免疫処置スケジュールを用いる。例えば、患者をクレード1抗原でプライミングし、クレード2でブースティングすることができ、またはその逆もできる。
【0011】
同様に、第1クレード(例えば、クレード1)からのH5ワクチンを既に受けている患者に、異なるクレード(例えば、クレード2)からのH5ワクチンを使用することによってブースター免疫処置を施すことができる。この患者は、第1クレードワクチンの全主要コース(例えば、2用量)を受けていることになる。
【0012】
第2の態様において、免疫原性組成物は、H5インフルエンザAウイルスの多数のクレードからの血球凝集素抗原を含むことができ、それによって多数のH5クレードに対する同時免疫が可能になる。
【0013】
従って、本発明は、インフルエンザウイルスに対して患者を免疫するための方法であって、(i)H5インフルエンザAウイルスの第1クレードからの血球凝集素抗原を含む免疫原性組成物を被験体に投与する工程、およびその後(ii)H5インフルエンザAウイルスの第2クレードからの血球凝集素抗原を含む免疫原性組成物をその被験体に投与する工程を含み、第1クレードと第2クレードとが互いに異なる方法を提供する。
【0014】
本発明は、インフルエンザウイルスに対して患者を免疫するための方法であって、H5インフルエンザAウイルスの第2クレードからの血球凝集素抗原を含む免疫原性組成物を被験体に投与する工程を含み、患者が、H5インフルエンザAウイルスの第1クレードからの血球凝集素抗原を含む免疫原性組成物を以前に受けており、第1クレードと第2クレードとが互いに異なる方法を提供する。
【0015】
本発明は、H5インフルエンザAウイルスの1つより多くのクレード(例えば、2、3、4、5または6つの異なるクレード)からの血球凝集素抗原を含む免疫原性組成物も提供する。
【0016】
本発明は、第1H5株および第2H5株が異なるクレードのものである、H5インフルエンザAウイルスの少なくとも2つの株(例えば、2、3、4、5または6つの異なる株)からの血球凝集素抗原を含む免疫原性組成物も提供する。
【0017】
H5クレード
本発明に伴って使用するウイルスの血球凝集素抗原は、H5サブタイプに分類されるが、H5サブタイプの中でそれらは異なるクレードに分類される。
【0018】
2003年以降、鳥類に流行する大部分のH5N1ウイルスの血球凝集素(HA)配列は、異なる系統発生的クレードに分かれている。カンボジア、タイおよびベトナムにおいて流行するクレード1ウイルスは、2004年および2005年におけるこれらの国での、ならびに2006年におけるタイでのヒト感染の原因である。クレード2ウイルスは、2003年以来、中国およびインドネシアにおいて鳥に流行しており;2005年および2006年には西方に、中東、欧州およびアフリカへと広がった。2005年後半から、クレード2ウイルスが、主としてヒト感染の原因になっている。クレード2については多数のサブクレードが区別されており;これらのうちの3つ−サブクレード1、2および3(図1)−は、地理的分布の点で異なり、今のところ主としてそれらがヒト症例の原因になっている。
【0019】
2006年8月から2007年3月の間、アフリカ、アジアおよび欧州における鳥類において流行し続けてまたは再び出現して散在的なヒト感染を伴ったH5N1ウイルスの大部分のHA配列は、前に指摘した系統発生的クレードおよびサブクレードに分類される。クレード1ウイルスは、タイおよびベトナムにおける鳥でのならびにタイにおけるヒトに対する大発生の原因であった。クレード2.1ウイルスは、インドネシアにおいて家禽に流行し続け、ヒト感染を引き起こしている。クレード2.2ウイルスは、アフリカ、アジアおよび欧州における幾つかの国の鳥において大発生を引き起こし、エジプト、イラクおよびナイジェリアではヒト感染を伴っている。クレード2.3ウイルスは、アジアにおいて散発的に単離されており、中国およびラオスではヒト感染の原因となっている。
【0020】
加えて、これらの分類以外に分類される二、三のウイルスが、アジアにおける局地的発生中に家禽から単離された。これらは、新生クレードに分類され、A/goose/Guiyang/337/2006(クレード4)およびA/chicken/Shanxi/2/2006(クレード7)によって表される。0から9の番号が付与された、合計10のクレードが、現在、定義されている(図2)。
【0021】
本明細書における参照のために、それぞれのクレードについての原型株は、それらの血球凝集素遺伝子のコーディング配列と共に、次のとおりである:
【0022】
【表2】

本明細書において、クレード1 H5ウイルスは、Phylipパッケージに実装されているようなDNADISTアルゴリズム[2]を使用して(例えば、2パラメータ距離および正方行列を使用して)評価すると、系統発生の点から、クレード0および2から9(配列番号2から10)のいずれかからのいずれのコーディング配列とよりA/HongKong/213/03株(配列番号1)からのコーディング配列とのほうが近縁である血球凝集素コーディング配列を有するインフルエンザAウイルスと定義することができる。同様に、クレード2ウイルスは、クレード0、1および3から9(配列番号1および3から10)のいずれかからのいずれのコーディング配列とよりA/Indonesia/5/05株(配列番号2)からのコーディング配列とのほうが近縁である血球凝集素コーディング配列を有する。他のクレードは、系統発生的に、同様に、配列番号1から10における他の配列とより配列番号1から10からのその該当コーディング配列とほうが近縁である血球凝集素コーディング配列を有する−と定義することができる。
【0023】
本明細書において、クレード1ウイルスは、核酸配列の点から、配列番号2から10のいずれのものとよりA/HongKong/213/03株(配列番号1)との配列同一性のほうが大きい血球凝集素コーディング配列を有するインフルエンザAウイルスと定義することができる。他のクレードは、同様に、配列番号1から10における他の配列とより配列番号1から10からのその該当コーディング配列とのほうが近縁である血球凝集素コーディング配列を有する−と定義される。
【0024】
本明細書において、H5ウイルスは、特徴的なHA突然変異[3]を参照することによりアミノ酸配列の点から特定のクレードに存するものと定義することができる。例えば、クレード3ウイルスは、クレード1および2とは異なる、次のアミノ酸残基のうちの1つ以上を有することができる:Asn−45;Ser−84;Asn−94;Asn−124;Leu−138;Ser−144;Glu−212;Ser−223;および/またはArg−325。クレード2ウイルスは、クレード1および3では見られないAsp−124を有することができる。クレード1ウイルスは、クレード2および3とは異なる、次のアミノ酸残基のうちの1つ以上を有することができる:Ser−124;Leu−129。
【0025】
クレード2の中で、少なくとも3つのサブクレードが認知されている:2.1、2.2および2.3(図1)。本明細書において、クレード2.1 H5ウイルスは、系統発生の点から、A/Anhui/1/2005株(配列番号11)またはA/turkey/Turkey/1/05(配列番号12)のいずれかとよりA/Indonesia/5/05株(配列番号2)とのほうが近縁である血球凝集素コーディング配列を有すると定義することができる。同様に、本明細書において、クレード2.2 H5ウイルスは、系統発生の点から、A/Anhui/1/2005株(配列番号11)またはA/Indonesia/5/05株(配列番号2)のいずれかとよりA/turkey/Turkey/1/05(配列番号12)とのほうが近縁である血球凝集素コーディング配列を有すると定義することができる。最後に、クレード2.3 H5株は、本明細書において、系統発生の点から、A/turkey/Turkey/1/05(配列番号12)またはA/Indonesia/5/05株(配列番号2)のいずれかとよりA/Anhui/1/05株(配列番号11)とのほうが近縁である血球凝集素コーディング配列を有すると定義することができる。
【0026】
一部の実施形態において、サブクレード2.2における株は、次の配列:Ile−223;Ile−230;Ser−294;Ile−517;ΔSer−133のうちの1つ以上と、配列REGRRRKR(配列番号13)を有する開裂部位と、配列GERRRRKR(配列番号16)を有する開裂部位とを含むHAを有することがある。前記HA遺伝子は、ヌクレオチド:A−41;A−142;A−209;A−295;G−433;A−467;A−496;C−610;A−627;A−643;C−658;T−661;T−689;T−727;A−754;G−880;C−937;G−1006;T−1012;A−1019;T−1177;A−1235;T−1402;C−1415;T−1480;C−1510;T−1614;C−1615;A−1672;G−1708(これらはいずれも、該当コドンについてのコード化アミノ酸を変えることがない)のうちの1つ以上を含むことがある。前記NA遺伝子は、該当コドンについてのコード化アミノ酸を変えないであろう、ヌクレオチドA−743を含むことがある。
【0027】
本発明の一部の実施形態において、プライミング抗原および/またはブースティング抗原は、クレード0からのものではなく、例えば、A/HongKong/156/97からのものではない。例えば、前記第2抗原がクレード1(例えば、A/Vietnam/1203/2004)からのものである場合には、前記第1抗原は、好ましくは、クレード0(例えば、A/HongKong/156/97)からのものではない。
【0028】
クレードの組み合わせ
本発明は、免疫処置のために1つより多くのH5クレードに由来する抗原を使用する。
【0029】
例えば、患者を第1クレードにおけるH5ウイルスからの抗原でプライミングし、しかしその後、第2クレードにおけるH5ウイルスからの抗原でブースティングすることができる。このプライム/ブースト戦略において有用なクレードの組み合わせとしては、次のものが挙げられるが、それらに限定されない:
【0030】
【表3】

本発明は、第1クレードにおけるH5ウイルスからの抗原で予めプライミングした患者に対するブースター免疫処置も提供し、この場合のブースターは、第2(異なる)クレードからのものである。上の組み合わせは、このプライム/ブーストアプローチにも用いることができる。
【0031】
本発明は、少なくとも2つの異なるクレードにおけるH5ウイルスからの抗原を含む免疫原性組成物も提供する。2つのクレードの有用な組み合わせとしては、次のものが挙げられるが、それらに限定されない:
【0032】
【表4】

インフルエンザウイルス抗原
本発明に伴って使用するワクチンは、H5血球凝集素サブタイプを有するインフルエンザAウイルスからの抗原を含む。前記ワクチンは、少なくとも1つのH5血球凝集素エピトープを含むタンパク質を含むであろう。例えば、前記ワクチンは、H5ウイルスからのウイルス性血球凝集素を含むであろう。
【0033】
本発明の好ましいワクチンは、少なくとも1つのインフルエンザウイルスノイラミニダーゼエピトープを含むタンパク質も含む。例えば、前記ワクチンは、H5ウイルスからのウイルスノイラミニダーゼを含むであろう。本発明は、インフルエンザAウイルスNAサブタイプN1、N2、N3、N4、N5、N6、N7、N8またはN9のうちの1つ以上に対して防御することができるが、通常、それは、N1(すなわち、H5N1ウイルス)またはN3(すなわち、H5N3ウイルス)に対してであろう。前記第1クレードおよび第2クレードは、同じNAサブタイプを有することがあり(例えば、両方ともN1もしくは両方ともN3)、または異なるNAサブタイプを有することがある(例えば、N1それからN3、もしくはN3それからN1、など)。前記プライミングおよびブースティング量の少なくとも一方がノイラミニダーゼを含む場合、それは、プライミング量であろう。
【0034】
抗原は、概してインフルエンザウイルスから調製されるであろうが、代案として、血球凝集素およびノイラミニダーゼなどの抗原を組換え宿主において(例えば、バキュロウイルスベクターを使用して昆虫細胞系において)発現させ、精製された形態で[4、5、6]またはウイルス様粒子(VLP;例えば、参考文献7および8を参照のこと)の形態で使用することができる。しかし、一般に、抗原はビリオンからのものであろう。
【0035】
抗原は、生ウイルスまたは、さらに好ましくは、不活化ウイルスの形態をとり得る。ウイルスを不活化するための化学的手段としては、次の作用因子のうちの1つ以上の有効量での処理が挙げられる:洗剤、ホルムアルデヒド、ホルマリン、β−ピロピオラクトン、またはUV線。不活化のための追加の化学的手段としては、メチレンブルー、ソラレン、カルボキシフラーレン(C60)またはこれらのいずれかのものの組み合わせでの処理が挙げられる。他のウイルス不活化方法は、例えば二成分系エチルアミン、アセチルエチレンイミン、またはガンマ線など、当該技術分野では公知である。
【0036】
不活化ウイルスを使用する場合、そのワクチンは、全ビリオン、スプリットビリオン、または精製表面抗原(血球凝集素を含み、通常はノイラミニダーゼも含む)を含むことがある。DARONRIX(商標)H5N1製品は、全ビリオン不活化ワクチンである。PREPANDRIX(商標)H5N1製品は、スプリットビリオン不活化ワクチンである。スプリットビリオンおよび精製表面抗原(すなわち、サブビリオンワクチン)は、本発明にとって特に有用である。
【0037】
様々な方法によってウイルス含有流体からウイルスを回収することができる。例えば、精製プロセスは、ビリオンを分解するために洗剤を含む線形スクロース勾配溶液を使用するゾーン遠心法を含むことがある。その後、抗原を、最適に希釈した後、ダイアフィルトレーションによって精製してもよい。
【0038】
スプリットビリオンは、「Tween−エーテル」分割プロセスを含めて、洗剤(例えば、エチルエーテル、ポリソルベート80、デオキシコール酸塩、トリ−N−ブチルホスファート、Triton X−100、Triton N101、臭化セチルトリメチルアンモニウム、Tergitol NP9、など)でビリオンを処理してサブビリオン製剤を生成することにより、得られる。インフルエンザウイルスの分割方法は、当該技術分野において周知であり、例えば、参考文献9−14などを参照のこと。概して、ウイルスの分割は、感染性であろうとまたは非感染性であろうと完全ウイルスを分解濃度の分割剤で分解または分画することによって行われる。この分解は、ウイルスタンパク質の完全または部分可溶化を生じさせる結果となり、それによってそのウイルスの完全性が改変される。好ましい分割剤は、非イオン性およびイオン性(例えば、カチオン性)界面活性剤、例えば、アルキルグリコシド、アルキルチオグリコシド、アシル糖、スルホベタイン、ベタイン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、N,N−ジアルキル−グルカミド、Hecameg、アルキルフェノキシ−ポリエトキシエタノール、第四級アンモニウム化合物、サルコシル、CTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム)、トリ−N−ブチルホスファート、Cetavlon、ミリスチルトリメチルアンモニウム塩、リポフェクチン、リポフェクタミン、およびDOT−MA、オクチル−またはノニルフェノキシポリオキシエタノール(例えば、Triton界面活性剤、例えばTriton X−100またはTriton N101)、ポリオキシエチレンソルビタンエステル(Tween界面活性剤)、ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンエステル、などである。1つの有用な分割手順は、デオキシコール酸ナトリウムとホルムアルデヒドの逐次作用を利用し、最初のビリオン精製中に(例えば、スクロース密度勾配溶液中で)分割を行うことができる。従って、分割プロセスは、(非ビリオン材料を除去するための)ビリオン含有材料の浄化、(例えば、CaHPO吸着などの吸着法を使用する)回収したビリオンの濃縮、全ビリオンの非ビリオン材料からの分離、密度勾配遠心工程における分割剤を使用する(例えば、デオキシコール酸ナトリウムなどの分割剤を含有するスクロース勾配を使用する)ビリオンの分割、そしてその後、望まない材料を除去するための濾過(例えば、限外濾過)を含むだろう。スプリットビリオンは、リン酸ナトリウム緩衝等張塩化ナトリウム溶液に有効に再懸濁することができる。BEGRIVAC(商標)、FLUARIX(商標)、FLUZONE(商標)およびFLUSHIELD(商標)製品は、スプリットワクチンである。
【0039】
精製表面抗原ワクチンは、インフルエンザ表面抗原血球凝集素および概してノイラミニダーゼも含む。精製形態のこれらのタンパク質を調製するためのプロセスは、当該技術分野において周知である。FLUVIRIN(商標)、AGRIPPAL(商標)、FOCETRIA(商標)およびINFLUVAC(商標)製品は、サブユニットワクチンである。
【0040】
インフルエンザ抗原は、INFLEXAL V(商標)およびINVAVAC(商標)製品の場合のように、ビロソーム[15](核酸不含ウイルス様リポソーム粒子)の形態で提供することもできるが、本発明に関してはビロソームを使用しないほうが好ましい。従って、一部の実施形態において、前記インフルエンザ抗原は、ビロソームの形態ではない。
【0041】
ウイルスを調製する株は、概して、トリインフルエンザウイルスまたはヒトインフルエンザウイルスであろう。通常、それはヒトを感染させることができるであろうが、場合によっては、ヒトを感染させることができない株、例えばヒトを感染させる能力を後に獲得し得るトリ株、を使用することもある。この株は、HPAI(抗病原性トリインフルエンザ)株[16]であり得る。
【0042】
インフルエンザウイルスを弱毒化することができる。インフルエンザウイルスは、温度感受性であり得る。前記インフルエンザウイルスを、低温馴化させることができる。これら3つの特徴は、生ウイルスを抗原として使用するとき、特に有用である。
【0043】
インフルエンザウイルスは、抗ウイルス療法に対して耐性(例えば、オセルタビル[17]および/またはザナミビルに対して耐性)である場合がある。
【0044】
本発明の組成物は、インフルエンザAウイルスおよび/またはインフルエンザBウイルスを含めて、1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つまたはそれ以上)のインフルエンザウイルス株からの抗原を含むことがあるが、但し、少なくとも1つのH5株からの抗原を含むことを条件とする。従って、組成物は、通常の季節型ワクチンに加えて少なくとも1つのH5株を特徴とする1つ以上の株からの抗原、例えば、3つのインフルエンザA株(H1N1およびH3N2に加えて、H5株、例えばH5N1)と1つのインフルエンザB株とを有する4価ワクチンを含むことがある。他の実施形態において、それは、少なくとも2つのH5株と、場合によりH1株および/またはH3株および/またはインフルエンザBウイルス株からの抗原とを含むことがある。ワクチンが、1つより多くのインフルエンザの株を含む場合、それらの異なる株は、一般に、別々に増殖させ、ウイルスを回収して抗原を調製した後に混合する。従って、本発明のプロセスは、1つより多くのインフルエンザ株からの抗原を混合する工程を含むことがある。
【0045】
インフルエンザウイルスは、リアソータント株である場合もあり、逆遺伝学的技法によって得られたものである場合もある。逆遺伝学技術[例えば、18−22]は、プラスミドを使用して所望のゲノムセグメントを有するインフルエンザウイルスのインビトロで調製を可能にする。概して、それは、(a)例えばpolIプロモーターからの、所望のウイルスRNA分子をコードするDNA分子、および(b)例えばpolIIプロモーターからの、ウイルスタンパク質をコードするDNA分子を発現させることを含むので、細胞における両方のタイプのDNAの発現が、完全無傷の感染性ビリオンのアセンブリをもたらす。前記DNAは、好ましくは、ウイルスRNAおよびタンパク質のすべてを生じさせるが、ヘルパーウイルスを使用して該RNAおよびタンパク質の一部を生じさせることもできる。それぞれのウイルスRNAを生産するために別々のプラスミドを使用するプラスミドベースの方法が好ましく[23−25]、これらの方法は、プラスミドを使用して、一部の方法では12以下のプラスミドを用いて、ウイルスタンパク質のすべてまたは一部(例えば、PB1、PB2、PAおよびNPタンパク質のみ)を発現させることも含むであろう。イヌ細胞を用いる場合には、イヌpolIプロモーターを使用することができる[26]。
【0046】
必要とされるプラスミドの数を減少させるために、1つのアプローチ[27]は、同じプレスミド上の(ウイルスRNA合成のための)多数のRNAポリメラーゼI転写カセット(例えば、1、2、3、4、5、6、7または8つすべてのインフルエンザA vRNAセグメントをコードする配列)と、別のプラスミド上のRNAポリメラーゼIIプロモーターを有する多数のタンパク質コーディング領域(例えば、1、2、3、4、5、6、7または8つすべてのインフルエンザA mRNA転写産物をコードする配列)を併用する。参考文献27の方法の好ましい態様は、(a)単一プラスミド上のPB1、PB2およびPA mRNAをコードする領域;ならびに(b)単一プラスミド上の8つすべてのvRNAをコードするセグメントを必要とする。1つのプラスミド上のNAおよびHAセグメントと別のプラスミド上の6つの他のセグメントとを含めることによっても問題を容易にすることができる。
【0047】
ウイルスRNAセグメントをコードするためのpolIプロモーターの使用の代案として、バクテリオファージポリメラーゼプロモーター[28]を使用することもできる。例えば、SP6、T3またはT7ポリメラーゼのためのプロモーターを至便に使用することができる。polIプロモーターの種特異性のため、バクテリオファージポリメラーゼプロモーターは、多くの細胞タイプ(例えば、MDCK)に、より至便であり得るが、外因性ポリメラーゼ酵素をコードするプラスミドで細胞をさらにトランスフェクトしなければならない。
【0048】
他の技法では、二重polIおよびpolIIプロモーターを使用して、ウイルスRNAと単一テンプレートからの発現可能なmRNAとを同時にコードすることができる[29、30]。
【0049】
インフルエンザAウイルスは、特にウイルスを卵の中で増殖させるとき、A/PR/8/34ウイルスからの1つ以上のRNAセグメント(典型的には、A/PR/8/34からの6つのセグメントと、ワクチン株からのものであるHAおよびNセグメント、すなわち、6:2リアソータント)を含むことがある。A/WSN/33ウイルスからの、またはワクチン製剤のためのリアソータントウイルスの産生に有用な任意の他のウイルス株からの、1つ以上のRNAセグメントを含むこともある。概して、本発明は、ヒト対ヒト伝播が可能である株に対して防御するものであり、そのため、その株のゲノムは、通常、哺乳動物(例えば、ヒト)インフルエンザウイルスに由来する少なくとも1つのRNAセグメントを含むであろう。それは、トリインフルエンザウイルスに由来するNSセグメントを含むこともある。
【0050】
抗原源として使用するウイルスは、卵または細胞培養のいずれか上で増殖させることができる。インフルエンザウイルス増殖のための現行の標準的方法は、特定病原体不在(SPF)孵化鶏卵を使用し、それらの卵の内容物(尿膜腔液)からウイルスを精製する。しかし、さらに最近では、ウイルスは動物細胞培養で増殖されており、速度および患者アレルギーの理由で、この増殖方法が好まれる。卵ベースのウイルス増殖を用いる場合には、1つ以上のアミノ酸をその卵の尿膜腔液にウイルスと共に導入することができる[14]。
【0051】
細胞培養を用いるとき、ウイルス増殖基質は、概して、哺乳動物由来の細胞系であろう。元になる適する哺乳動物細胞としては、ハムスター、ウシ、霊長類(ヒトおよびサルを含む)およびイヌ細胞が挙げられるが、これらに限定されない。様々な細胞タイプ、例えば、腎細胞、線維芽細胞、網膜細胞、肺細胞などを使用することができる。適するハムスター細胞の例は、名称BHK21またはHKCCを有する細胞系である。適するサル細胞は、例えば、アフリカミドリザル細胞、例えばVero細胞系におけるような腎細胞である。適するイヌ細胞は、例えば、MDCK細胞系におけるような、腎細胞である。従って、適する細胞系としては、MDCK;CHO;293T;BHK;Vero;MRC−5;PER.C6;WI−38などが挙げられるが、これらに限定されない。インフルエンザウイルスを増殖させるために好ましい哺乳動物細胞系としては、Madin Darbyイヌ腎臓に由来する、MDCK細胞[31−34];アフリカミドリザルに由来する、Vero細胞[35−37];またはヒト胚網膜芽細胞に由来する、PER.C6細胞[38]が挙げられる。これらの細胞系は、広範に、例えば、American Type Cell Culture(ATCC)コレクションから、the Coriell Cell Repositoriesから、またはthe European Collection of Cell Cultures(ECACC)から入手することができる。例えば、ATCCは、カタログ番号CCL−81、CCL−81.2、CRL−1586およびCRL−1587で様々な異なるVero細胞を供給しており、ならびにカタログ番号CCL−34でMDCK細胞を供給している。PER.C6は、寄託番号96022940でECACCから入手できる。哺乳動物細胞系のあまり好ましくない代案として、カモ(例えば、カモ網膜)または雌鶏に由来する細胞系をはじめとするトリ細胞系を用いてウイルスを増殖させることができる[例えば、参考文献39−41]。トリ細胞系の例としては、トリ胚性幹細胞[39、42]およびカモ網膜細胞[40]が挙げられる。適するトリ胚性幹細胞としては、ニワトリ胚性幹細胞に由来するEBx細胞系、EB45、EB14、およびEB14−074[43]が挙げられる。ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)も使用することができる。
【0052】
インフルエンザウイルスを増殖させるために最も好ましい細胞系は、MDCK細胞系である。原MDCK細胞系は、ATCCからCCL−34として入手できるが、この細胞系の誘導体も使用することができる。例えば、参考文献31には、懸濁培養での増殖に順応させたMDCK細胞系(DSM ACC 2219として寄託されている、「MDCK 33016」)が開示されている。同様に、参考文献44には、無血清培養で懸濁状態で増殖するMDCK由来細胞系(FERM BP−7449として寄託されている、「B−702」)が開示されている。参考文献45には、「MDCK−S」(ATCC PTA−6500)、「MDCK−SF101」(ATCC PTA−6501)、「MDCK−SF102」(ATCC PTA−6502)および「MDCK−SF103」(PTA−6503)をはじめとする、非腫瘍形成性MDCK細胞が開示されている。参考文献46には、「MDCK.5F1」細胞(ATCC CRL−12042)をはじめとする、感染に対して高感受性であるMDCK細胞系が開示されている。これらのMDCK細胞系は、いずれも使用することができる。
【0053】
ウイルスを哺乳動物細胞系で増殖させた場合には、有利なことに、その組成物には、卵タンパク質(例えば、オボアルブミンおよびオボムコイド)およびニワトリDNAが無く、その結果、アレルゲン性が低減されるであろう。
【0054】
ウイルスを細胞系で増殖させた場合には、増殖のための培地、およびまた、培養を開始させるために用いるウイルス接種材料には、好ましくは、単純疱疹ウイルス、呼吸性シンシチウムウイルス、パラインフルエンザウイルス3、SARSコロナウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス、レオウイルス、ポリオーマウイルス、ビルナウイルス、サーコウイルス、および/またはパルボウイルスがないであろう(すなわち、それらの混入について試験し、陰性の結果を得ているであろう)[47]。単純疱疹ウイルスの不在は、特に好ましい。
【0055】
MDCK細胞を用いるものなどの細胞系を用いる増殖については、懸濁状態の細胞を用いて[48−50]または付着培養での細胞を用いてウイルスを増殖させることができる。懸濁培養のための1つの適するMDCK細胞系は、(DSM ACC 2219で寄託されている)MDCK 33016である。代案として、マイクロキャリア培養を用いることができる。
【0056】
インフルエンザウイルス複製を支持する細胞系は、好ましくは、無血清培養基および/または無タンパク質培地で増殖させる。本発明に関連して、ヒトまたは動物由来の血清からの添加物がない培地を無血清培地と呼ぶ。無タンパク質は、ウイルス増殖に必要であり得るトリプシンまたは他のプロテアーゼなどのタンパク質を場合によっては含むことがあるが、タンパク質、増殖因子、他のタンパク質添加剤および無血清タンパク質を除外して細胞の増殖が行われる培養を意味すると解釈する。そのような培養で増殖する細胞は、自然に、タンパク質それら自体を含有するであろう。
【0057】
インフルエンザウイルス複製を支持する細胞系は、好ましくは、ウイルス複製中、37℃未満[51]、例えば、30〜36℃で増殖させる。
【0058】
培養細胞でのウイルス増殖方法は、培養すべき株を培養細胞に接種する工程、例えばウイルス力価または抗原発現などによって決定されるような、ウイルス増殖のために望ましい期間(例えば、接種後24時間と168時間との間)、感染細胞を培養する工程、および増殖したウイルスを回収する工程を一般に含む。1:500から1:1、好ましくは1:100から1:5、さらに好ましくは1:50から1:10のウイルス(PFUまたはTCID50によって測定)対細胞比で培養細胞に接種する。ウイルスを細胞の懸濁液に添加するか、細胞の単層に塗布し、ウイルスを少なくとも60分間、しかし通常は300分未満、好ましくは90分と240分との間、25℃から40℃、好ましくは28℃から37℃で細胞に吸着させる。感染細胞培養物(例えば、単層)は、冷凍−解凍または酵素的作用、いずれかによって除去して、回収する細胞上清のウイルス含有量を増加させることができる。その後、回収した流体を不活化するか、冷凍保存する。培養細胞は、約0.0001から10、好ましくは0.002から5、さらに好ましくは0.001から2の感染多重度(「m.o.i」)で感染させることができる。さらにいっそう好ましくは、細胞を約0.01のm.o.i.で感染させる。感染細胞は、感染の30から60時間後に回収することができる。好ましくは、感染の34から48時間後に細胞を回収する。さらにいっそう好ましくは、感染の38から40時間後に細胞を回収する。一般に、細胞培養中にプロテアーゼ(典型的にはトリプシン)を添加してウイルスを放出させ、それらのプロテアーゼは、培養中の任意の適する工程で添加することができる。
【0059】
血球凝集素(HA)は、不活化インフルエンザワクチンにおける主免疫原であり、および概して単純放射免疫拡散(SRID)アッセイによって測定して、HAレベルを参照することによりワクチン用量を標準化する。現行のワクチンは、1株につき約15μgのHAを概して含有するが、例えば、子供のために、またはパンデミック状況下では、より低い用量も用いられる。より高い用量(例えば、3xまたは9x用量[54、55])を有する場合には、1/2(すなわち、FOCETRIA(商標)の場合のように、1株につき7.5μg HA)、1/4(すなわち、PREPANDRIX(商標)の場合のように、1株につき3.75μg)および1/8などの分割量が用いられている[52、53]。従って、ワクチンは、インフルエンザ株1つにつき0.1μgと150μgとの間、好ましくは0.1μgと50μgとの間、例えば、0.1〜20μg、0.1〜15μg、0.1〜10μg、0.1〜7.5μg、0.5〜5μgなどのHAを含むことがある。特定の用量としては、例えば、1株につき約45μg、約30μg、約15μg、約10μg、約7.5μg、約5μg、約3.8μg、約3.75μg、約1.9μg、約1.5μgなどが挙げられる。1株につき等しいHA質量が一般的である。異なるH5クレードにおける株からのHAを含む組成物については、1株につき3.75μg、7.5μg、または15μg(例えば、概して水中スクアレンエマルジョンなどのアジュバントと併用して、合計7.5μgのHAを与えるように、2×3.75μg)を含むのが有用である。本発明に関してのように、アジュバントがワクチン中に存在するときには、より低い用量(すなわち、<15μg/用量)がさらに有用である。90μgほどもの高い用量が一部の研究(例えば、参考文献56)では使用されているが、本発明の組成物(特に、ブースティング量の場合)は、通常、15μg/用量以下であろう。
【0060】
生ワクチンについては、HA含有量ではなく50%組織培養感染量(TCID50)によって投薬を測定し、1株につき10と10との間(好ましくは、106.5〜107.5の間)のTCID50が一般的である。
【0061】
本発明に伴って使用するHAは、ウイルスにおいて見つけられるような天然HAである場合もあり、または修飾されている場合もある。例えば、鳥類においてウイルスを高病原性にさせる決定基(例えば、HA1とHA2との間の開裂部位周辺の高塩基性領域)を除去するようにHAを修飾することは公知である。そうしなければ、これらの決定基は、卵内でのウイルスの成長を妨げることがあるからである。
【0062】
本発明の組成物は、特に、スプリットまたは表面抗原ワクチンについては、洗剤、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤(「Tween」、例えばポリソルベート80、として公知)、オクトキシノール(例えば、オクトキシノール−9(Triton X−100)もしくは10、またはt−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール)、臭化セチルトリメチルアンモニウム(「CTAB」)、またはデオキシコール酸ナトリウムを含むことがある。前記洗剤は、ほんのわずかな量でしか存在しない。従って、前記ワクチンは、オクトキシノール−10、コハク酸水素α−トコフェリルおよびポリソルベート80のそれぞれの1mg/mL未満を含むことがある。微量での他の残留成分は、抗生物質(例えば、ネオマイシン、カナマイシン、ポリミキシンB)であり得る。
【0063】
宿主細胞DNA
細胞系を用いてウイルスを増殖させる場合には、最終ワクチン中の残留細胞系DNAの量を最小にして、そのDNAの一切の発癌活性を最小にするのが一般的慣例である。従って、細胞系を用いてウイルスを増殖させた場合、たとえ微量の宿主細胞DNAが存在することがあったとしても、その組成物は、好ましくは、1用量につき10ng未満(好ましくは、1ng未満、およびさらに好ましくは、100pg未満)の残留宿主細胞DNAしか含有しない。いずれの残留宿主細胞DNAの平均長も、500bp未満、例えば、400bp未満、300bp未満、200bp未満、100bp未満などであることが好ましい。一般に、本発明の組成物から排除することが望ましい宿主細胞DNAは、100bpより長いDNAである。
【0064】
残留宿主細胞DNAの測定は、今では、生物学的製剤の常例的規定要件であり、当業者の通常能力の範囲内である。DNAを測定するために用いられるアッセイは、概して検証済アッセイ[57、58]であろう。検証済アッセイの性能特性は、数学的で定量可能な用語で記述することができ、およびその可能性ある誤差源が同定されていることであろう。このアッセイは、一般に、確度、精度、特異性などの特性について試験されているであろう。アッセイが(例えば、宿主細胞DNAの既知標準量に対して)較正され、試験されていれば、定量的DNA測定を常例的に行うことができる。DNA定量のために3つの原則技術を用いることができる:ハイブリダイゼーション法、例えば、サザンブロットまたはスロットブロット[59];イムノアッセイ法、例えば、Threshold(商標)System[60];および定量的PCR[61]。これらの方法は、すべて、当業者によく知られているが、それぞれの方法の正確な特徴は、問題となる宿主細胞、例えば、ハイブリダイゼーションのためのプローブの選択、増幅のためのプライマーおよび/またはプローブの選択などに依存し得る。Molecular DeviceからのThreshold(商標)システムは、ピコグラムレベルの全DNAについての定量的アッセイであり、バイオ製剤中の混入DNAレベルをモニターするために用いられている[60]。典型的なアッセイは、ビオチン化ssDNA結合タンパク質、ウレアーゼコンジュゲート型抗ssDNA抗体、とDNAとの反応複合体の非配列特異的形成を必要とする。前記製造業者から入手できる完全Total DNA Assay Kitには、すべてのアッセイ成分が含まれている。様々な商業製造業者は、残留宿主細胞DNAを検出するための定量的PCRアッセイを提供している;例えば、AppTec(商標)Laboratory Services、BioReliance(商標)、Althea Technologies、など。ヒトウイルスワクチンの宿主細胞DNA混入を測定するための化学発光ハイブリダイゼーションアッセイとtotal DNA Threshold(商標)システムの比較は、参考文献62において見つけることができる。
【0065】
混入DNAは、ワクチン調製中に標準的な精製手順、例えばクロマトグラフィーなどを用いて除去することができる。残留宿主細胞の除去は、ヌクレアーゼ処理によって、例えば、DNアーゼを使用することによって、増進することができる。宿主細胞DNA混入を減少させるための至便な方法は、参考文献63および64に開示されており、これは、先ず、ウイルス増殖中に使用することができるDNアーゼ(例えば、ベンゾナーゼ)を使用、そして次に、ビリオン分解中に使用することができるカチオン性洗剤(例えば、CTAB)を使用する、二工程処理を含む。アルキル化剤、例えばβ−ピロピオラクトン、での処理は、宿主細胞DNAを除去するために用いることもでき、および有利には、ビリオンを不活化するために用いることもできる[65]。
【0066】
血球凝集素15μgにつき宿主細胞を<10ng(例えば、<1ng、<100pg)含有するワクチンが好ましく、容量0.25mLにつき宿主細胞DNAを<10ng(例えば、<1ng、<100pg)含有するワクチンも好ましい。血球凝集素50μgにつき宿主細胞DNAを<10ng(例えば、<1ng、<100pg)含有するワクチンは、さらに好ましく、容量0.5mLにつき宿主細胞DNAを<10ng(例えば、<1ng、<100pg)含有するワクチンもさらに好ましい。
【0067】
アジュバント(単数または複数)
本発明の組成物は、その組成物を受ける患者において惹起される免疫応答(ホルモンおよび/または細胞応答)を強化するためにアジュバントを含むことがある。
【0068】
第1クレードワクチンおよび第2クレードワクチンは、両方ともアジュバント添加ワクチンであることが好ましい。それらは、同じアジュバントを利用する場合もあり、または異なるアジュバントを利用する場合もある。2つのワクチンのうち一方だけにアジュバントが添加される場合には、好ましくはそれは第2のものである。
【0069】
本発明に伴って使用するために適するアジュバントとしては、以下のものが挙げられるが、それらに限定されない:
● カルシウム塩およびアルミニウム塩(またはそれらの混合物)を含む、無機塩類含有組成物。カルシウム塩としては、リン酸カルシウム(例えば、参考文献66に開示されている「CAP」粒子)が挙げられる。アルミニウム塩としては、水酸化物、リン酸塩、硫酸塩などが挙げられ、これらの塩は、任意の適する形態(例えば、ゲル、結晶質、非晶質など)を呈する。これらの塩への吸着が好ましい。前記無機塩類含有組成物は、金属塩の粒子として調合することもできる[67]。アルミニウム塩アジュバントは、下でさらに詳細に説明する。
【0070】
● 下でさらに詳細に説明するような、水中油型エマルジョン。
【0071】
● 下でさらに詳細に説明するような、免疫賦活性オリゴヌクレオチド。
【0072】
● 下でさらに詳細に説明するような、3−O−脱アシル化モノホスホリル脂質A(「3dMPL」;「MPL(商標)」としても公知)。
【0073】
● イミダゾキノリン化合物、例えば、イミキモド(「R−837」)[68、69]、レシキモド(「R−848」)[70]、およびそれらの類似体;ならびにそれらの塩(例えば、塩酸塩)。免疫賦活性イミダゾキノリンについてのさらなる詳説は、参考文献71から75において見つけることができる。
【0074】
● チオセミカルバゾン化合物、例えば、参考文献76に開示されているもの。活性化合物の調合、製造およびスクリーニングの方法も参考文献76に記載されている。前記チオセミカルバゾンは、TNF−αなどのサイトカインの生産のためのヒト末梢血単核細胞の刺激に特に有効である。
【0075】
● ヌクレオシド類似体、例えば:(a)イサトラビン(ANA−245;7−チア−8−オキソグアノシン):
【0076】
【化1】

およびそのプロドラッグ;(b)ANA975;(c)ANA−025−1;(d)ANA380;(e)参考文献77から79に開示されている化合物;(f)式:
【0077】
【化2】

(式中、
およびRは、それぞれ独立して、H、ハロ、−NR、−OH、C1−6アルコキシ、置換C1−6アルコキシ、ヘテロシクリル、置換ヘテロシクリル、C6−10アリール、置換C6−10アリール、C1−6アルキル、または置換C1−6アルキルであり;
は、不在、H、C1−6アルキル、置換C1−6アルキル、C6−10アリール、置換C6−10アリール、ヘテロシクリル、または置換ヘテロシクリルであり;
およびRは、それぞれ独立して、H、ハロ、ヘテロシクリル、置換ヘテロシクリル、−C(O)−R、C1−6アルキル、置換C1−6アルキルであり、またはR4−5
【0078】
【化3−1】

(この結合は、
【0079】
【化3−2】

によって示す結合で達成される)
におけるように互いに結合して5員環を形成し;
およびXは、それぞれ独立して、N、C、OまたはSであり;
は、H、ハロ、−OH、C1−6アルキル、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、−OH、−NR、−(CH−O−R、−O−(C1−6アルキル)、−S(O)、または−C(O)−Rであり;
は、H、C1−6アルキル、置換C1−6アルキル、ヘテロシクリル、置換ヘテロシクリルまたはR9aであり、この場合のR9aは、
【0080】
【化4−1】

(この結合は、
【0081】
【化4−2】

によって示す結合で達成される)
であり;
10およびR11は、それぞれ独立して、H、ハロ、C1−6アルコキシ、置換C1−6アルコキシ、−NR、または−OHであり;
それぞれのRおよびRは、独立して、H、C1−6アルキル、置換C1−6アルキル、−C(O)−R、C6−10アリールであり;
それぞれのRは、独立して、H、ホスファート、ジホスファート、トリホスファート、C1−6アルキル、または置換C1−6アルキルであり;
それぞれのRは、独立して、H、ハロ、C1−6アルキル、置換C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、置換C1−6アルコキシ、−NH、−NH(C1−6アルキル)、−NH(置換C1−6アルキル)、−N(C1−6アルキル)、−N(置換C1−6アルキル)、C6−10アリール、またはヘテロシクリルであり;
それぞれのRは、独立して、H、C1−6アルキル、置換C1−6アルキル、C6−10アリール、置換C6−10アリール、ヘテロシクリル、または置換ヘテロシクリルであり;
それぞれのRは、独立して、H、C1−6アルキル、置換C1−6アルキル、−C(O)R、ホスファート、ジホスファート、またはトリホスファートであり;
それぞれのnは、独立して、0、1、2、または3であり;
それぞれのpは、独立して、0、1、または2である)
を有する化合物;または(g)(a)から(f)のいずれかのものの医薬的に許容される塩、(a)から(f)のいずれかのものの互変異性体、もしくはその互変異性体の医薬的に許容される塩。
【0082】
● トリプタントリン化合物、例えば、参考文献80に開示されているもの。活性化合物についての調合、製造およびスクリーニングの方法も参考文献80に記載されている。前記トリセミカルバゾンは、TNF−αなどのサイトカインの生産のためのヒト末梢血単核細胞の刺激に特に有効である。
【0083】
● ロキソリビン(7−アリル−8−オキソグアノシン)[81]。
【0084】
● アシルピペラジン化合物、インドールジオン化合物、テトラヒドロイソキノリン(THIQ)化合物、ベンゾシクロジオン化合物、アミノアザビニル化合物、アミノベンズイミダゾールキノリノン(ABIQ)化合物[83、84]、ヒドラフタラミド化合物、ベンゾフェノン化合物、イソオキサゾール化合物、ステロール化合物、キナジリノン化合物、ピロール化合物[85]、アントラキノン化合物、キノキサリン化合物、トリアジン化合物、ピラザロピリミジン化合物、およびベンザゾール化合物[86]をはじめとする、参考文献82に開示されている化合物。
【0085】
● 3,4−ジ(1H−インドール−3−イル)−1H−ピロール−2,5−ジオン、スタウロスポリン類似体、誘導体化ピリダジン、クロメン−4−オン、インドリノン、キナゾリン、およびヌクレオシド類似体をはじめとする、参考文献87に開示されている化合物。
【0086】
● リン酸アミノアルキルグルコサミニド誘導体、例えば、RC−529[88、89]。
【0087】
● ホスファゼン、例えば、参考文献90および91に例えば記載されているような、ポリ[ジ(カルボキシラトフェノキシ)ホスファゼン](「PCPP」)。
【0088】
● 小分子免疫増強物質(SMIP)、例えば:
N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2,N2−ジメチル−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−エチル−N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−N2−プロピル−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
1−(2−メチルプロピル)−N2−プロピル−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−ブチル−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−ブチル−N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−N2−ペンチル−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−N2−プロプ−2−エニル−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
1−(2−メチルプロピル)−2−[(フェニルメチル)チオ]−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−4−アミン
1−(2−メチルプロピル)−2−(プロピルチオ)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−4−アミン
2−[[4−アミノ−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2−イル](メチル)アミノ]エタノール
酢酸2−[[4−アミノ−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2−イル](メチル)アミノ]エチル
4−アミノ−1−(2−メチルプロピル)−1,3−ジヒドロ−2H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2−オン
N2−ブチル−1−(2−メチルプロピル)−N4,N4−ビス(フェニルメチル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−ブチル−N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−N4,N4−ビス(フェニルメチル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−N4,N4−ビス(フェニルメチル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2,N2−ジメチル−1−(2−メチルプロピル)−N4,N4−ビス(フェニルメチル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
1−{4−アミノ−2−[メチル(プロピル)アミノ]−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−1−イル}−2−メチルプロパン−2−オール
1−[4−アミノ−2−(プロピルアミノ)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−1−イル]−2−メチルプロパン−2−オール
N4,N4−ジベンジル−1−(2−メトキシ−2−メチルプロピル)−N2−プロピル−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン。
【0089】
● サポニン[参考文献133のチャプター22]、これは、広範な植物種の樹皮、葉、茎、根およびさらに花において見つけられる、ステロールグリコシドおよびトリテルペノイドグリコシドの異種群である。シャボンの木の樹皮からのサポニンは、アジュバントとして広く研究されている。サポニンは、商業的には、サルサパリラSmilax ornata(サルサパリラ)、宿根カスミソウ(ブライダルベール)、およびサボンソウ(サボンソウ根)から得られることもある。サポニンアジュバント調合剤としては、QS21などの精製調合剤、ならびにISCOMなどの脂質調合剤が挙げられる。QS21は、Stimulon(商標)として市販されている。サポニン組成物は、HPLCおよびRP−HPLCを用いて精製されている。これらの技術を用いて、QS7、QS17、QS18、QS21、QH−A、QH−BおよびQH−Cをはじめとする特定の精製画分が、同定されている。好ましくは、サポニンは、QS21である。QS21の生産方法は、参考文献92に開示されている。サポニン調合剤は、コレステロールなどのステロールも含むことがある[93]。サポニンとコレステロールを併用して、免疫刺激複合体(ISCOM)と呼ばれるユニークな粒子を形成することができる[参考文献133のチャプター23]。ISCOMは、ホスファチジルエタノールアミンまたはホスファチジルコリンなどのリン脂質も概して含む。任意の公知サポニンをISCOMに使用することができる。好ましくは、ISCOMは、QuilA、QHAおよびQHCのうちの1つ以上を含む。ISCOMは、さらに参考文献93−95に記載されている。場合によっては、ISCOMには追加の洗剤がまったくない[96]。サポニン系アジュバントの開発についての総説は、参考文献97および98において見つけることができる。
【0090】
● 細菌ADP−リボシル化毒素(例えば、E.coli易熱性エンテロトキシン「LT」、コレラ毒素「CT」、または百日咳毒素「PT」)ならびにそれらの無毒化誘導体、例えば、LT−K63およびLT−R72として公知の突然変異毒素[99]。無毒化ADP−リボシル化毒素の粘膜アジュバントとして使用は、参考文献100に、および非経口アジュバントとしての使用は、参考文献101に記載されている。
【0091】
● 生体接着剤および粘膜接着剤、例えば、エステル化ヒアルロン酸マイクロスフェア[102]またはキトサンおよびその誘導体[103]。
【0092】
● 生体分解性で非毒性である材料(例えば、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリカプロラクトンなど。ポリ(ラクチド−co−グリコリド)が好ましい)から形成され、場合によっては、(例えばSDSで)負電荷表面を有するようにまたは(例えば、CTABなどのカチオン性洗剤で)正電荷表面を有するように処理された、微粒子(すなわち、直径が〜100nmから〜150μm、さらに好ましくは直径が〜200nmから〜30μm、または直径が〜500nmから〜10μmの粒子)。
【0093】
● リポソーム(参考文献133のチャプター13および14)。アジュバントとしての使用に適するリポソーム調合剤の例は、参考文献104〜106に記載されている。
【0094】
● ポリオキシエチレンエーテルおよびポリオキシエチレンエステル[107]。そのような調合剤は、オクトキシノールと併用でのポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤[108]、ならびに少なくとも1つの追加の非イオン性界面活性剤、例えばオクトキシノール、と併用でのポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはエステル界面活性剤[109]をさらに含む。好ましいポリオキシエチレンエーテルは、次の群より選択される:ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル(ラウレス9)、ポリオキシエチレン−9−ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン−8−ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン−4−ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン−35−ラウリルエーテル、およびポリオキシエチレン−23−ラウリルエーテル。
【0095】
● ムラミルペプチド、例えば、N−アセチルムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(「thr−MDP」)、N−アセチル−ノルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(nor−MDP)、N−アセチルグルコサミニル−N−アセチルムラミル−L−Al−D−イソglu−L−Ala−ジパルミトキシプロピルアミド(「DTP−DPP」、または「Theramide(商標)」)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン(「MTP−PE」)。
【0096】
● 第2のグラム陰性菌由来のリポサッカリド(LPS)製剤と併用で、第1のグラム陰性菌から調製された外膜タンパク質プロテオソーム製剤(この場合、前記外膜タンパク質プロテオソームとLPS製剤は、安定な非共有結合性アジュバント複合体を形成する)。そのような複合体としては、「IVX−908」、Neisseria meningitidis外膜とLPSとから成る複合体、が挙げられる。それらは、インフルエンザワクチンのためのアジュバントとして使用されている[110]。
【0097】
● ポリオキシヨードニウムポリマー[111、112]または他のN−酸化ポリエチレン−ピペラジン誘導体。
【0098】
● メチルイノシン5’−一リン酸(「MIMP」)[113]。
【0099】
● ポリヒドロキシル化ピロリジジン化合物[114]、例えば、式:
【0100】
【化5】

[式中、Rは、水素、直線状もしくは分岐、非置換もしくは置換、飽和もしくは不飽和アシル、アルキル(例えば、シクロアルキル)、アルケニル、アルキニルおよびアリール基を含む群より選択される]を有するもの、またはその医薬的に許容される塩もしくは誘導体。例としては、カスアリン、カスアリン−6−α−D−グルコピラノース、3−エピ−カスアリン、7−エピ−カスアリン、3,7−ジエピ−カスアリン、などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0101】
● CD1dリガンド、例えば、α−グリコシルセラミド[115−122](例えば、α−ガラクトシルセラミド)、フィトスフィンゴシン含有α−グリコシルセラミド、OCH、KRN7000[(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトピラノシル)−2−(N−ヘキサコサノイルアミノ)−1,3,4−オクタデカントリオール]、CRONY−101、3’’−O−スルホ−ガラクトシルセラミド、など。
【0102】
● ガンマイヌリン[123]またはその誘導体、例えばアルガムリン。
【0103】
● 参考文献124において定義されているとおりの、式I、IIもしくはIIIの化合物、またはその塩:
【0104】
【化6】

例えば、「ER803058」、「ER803732」、「ER804053」、「ER804058」、「ER804059」、「ER804442」、「ER804680」、「ER804764」、「ER803022」または「ER804057」、例えば:
【0105】
【化7】

● Escherichia coliからの脂質Aの誘導体、例えば、OM−174(参考文献125および126に記載されている)。
【0106】
● カチオン性脂質と(通常は中性の)共脂質との調合剤、例えば、アミノプロピル−ジメチル−ミリストレイルオキシ−プロパナミウムブロミド−ジフィタノイルホスファチジル−エタノールアミン(「Vaxfectin(商標)」)またはアミノプロピル−ジメチル−ビス−ドデシルオキシ−プロパナミウムブロミド−ジオレイルホスファチジル−エタノールアミン(「GAP−DLRIE:DOPE」)。(±)−N−(3−アミノプロピル)−N,N−ジメチル−2,3−ビス(syn−9−テトラデセネイルオキシ)−1−プロパナミウム塩を含有する調合剤が好ましい[127]。
【0107】
● ホスファート含有非環式骨格に連結された脂質を含有する化合物、例えば、TLR4アンタゴニストE5564[128、129]:
【0108】
【化8】

これらおよび他のアジュバント活性物質は、参考文献133および134においてさらに詳細に論じられている。
【0109】
本発明において使用するためのアジュバント(単数または複数)は、Toll様受容体(TLR)のモジュレーターおよび/またはアゴニストである場合がある。例えば、それらは、ヒトTLR1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR7、TLR8、および/またはTLR9タンパク質のうちの1つ以上のもののアゴニストである場合がある。好ましい薬剤は、TLR7のアゴニスト(例えば、イミダゾキノリン)および/またはTLR9のアゴニスト(例えば、CpGオリゴヌクレオチド)である。これらの薬剤は、先天免疫経路の活性化に有用である。
【0110】
単一のワクチンが、前記アジュバントのうちの2つ以上を含むことがある。
【0111】
組成物中の抗原およびアジュバントは、概して混合状態であろう。
【0112】
アルミニウム塩アジュバント
水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウムのような公知のアジュバントを使用することができる。これらの名は、どちらも存在する実際の化合物の正確な記述でないので、単に便宜上、用いるが、慣例的なものである(例えば、参考文献133のチャプター9を参照のこと)。本発明は、一般にアジュバントとして使用されているいずれの「水酸化物」または「リン酸塩」も使用することができる。
【0113】
「水酸化アルミニウム」として公知のアジュバントは、概してオキシ水酸化アルミニウム塩であり、これは、通常、少なくとも部分的に結晶質である。式AlO(OH)によって表すことができるオキシ水酸化アルミニウムは、赤外(IR)分光法によって、特に、1070cm−1の吸収バンドおよび3090−3100cm−1の強いショルダーの存在によって、他のアルミニウム化合物、例えば水酸化アルミニウム Al(OH)、と区別することができる[参考文献133のチャプター9]。水酸化アルミニウムアジュバントの結晶度は、回折バンドの半値幅(WHH)によって表され、あまり結晶質でない粒子は、より小さい晶子のため、より大きな線の広がりを示す。WHHが増すにつれて表面積が増加し、ならびに高いWHH値を有するアジュバントほど大きな抗原吸着能力を有すると見られている。(例えば、透過電子顕微鏡において見られるような)繊維状の形態は、水酸化アルミニウムアジュバントに特有である。水酸化アルミニウムアジュバントのpIは、概して約11であり、すなわち、このアジュバントそれ自体は、生理pHで正の表面電荷を有する。pH7.4で1mgのAl+++につき1.8〜2.6mgの間の吸着能力が、水酸化アルミニウムアジュバントについて報告されている。
【0114】
「リン酸アルミニウム」として公知のアジュバントは、概して、少量の硫酸塩も多くの場合含有するヒドロキシリン酸アルミニウム(すなわち、ヒドロキシリン酸硫酸アルミニウム)である。それらは、沈殿によって得ることができ、沈殿中の反応条件および濃度がその塩の中のヒドロキシルに対するリン酸塩の置換度に影響を及ぼす。ヒドロキシリン酸塩は、一般に、0.3と1.2との間のPO/Alモル比を有する。ヒドロキシリン酸塩は、ヒドロキシル基の存在により完全なAlPOと区別することができる。例えば、(例えば、200℃に加熱したときの)3164cm−1のIRスペクトルバンドは、構造ヒドロキシルの存在を示す[参考文献133のチャプター9]。
【0115】
リン酸アルミニウムアジュバントのPO/Al3+モル比は、一般に、0.3と1.2との間、好ましくは0.8と1.2との間、およびさらに好ましくは0.95±0.1であろう。一般に、前記リン酸アルミニウムは、特にヒドロキシリン酸塩については、非晶質であろう。代表的なアジュバントは、0.6mg Al3+/mLで含まれる、0.84と0.92との間のPO/Alモル比を有する非晶質ヒドロキシリン酸アルミニウムである。前記リン酸アルミニウムは、一般に、粒状(例えば、透過電子顕微鏡で見ると粒子様形態)であろう。前記粒子の典型的な直径は、任意の抗原吸着後、0.5〜20μm(例えば、約5−10μm)の範囲内である。pH7.4で1mgのAl+++につき0.7〜1.5mgの間の吸着能力が、リン酸アルミニウムアジュバントについて報告されている。
【0116】
リン酸アルミニウムのゼロ電荷点(PZC)は、ヒドロキシルに対するリン酸塩の置換度に逆比例し、この置換度は、沈殿による塩の調製に用いられる反応条件および反応物の濃度に依存して変わり得る。PZCは、溶液中の遊離リン酸イオンの濃度を変えることによって(より多くのリン酸塩=より酸性のPZC)も、またはヒスチジン緩衝剤などの緩衝剤を添加する(PZCをより塩基性にする)ことによっても、変えられる。本発明に従って使用するリン酸アルミニウムは、一般に、4.0と7.0との間、さらに好ましくは、5.0と6.5との間、例えば約5.7のPZCを有するであろう。
【0117】
本発明の組成物を調製するために使用するアルミニウム塩の懸濁液は、緩衝剤(例えば、リン酸またはヒスチジンまたはトリス緩衝剤)を含有することがあるが、これは必ずしも必須でない。前記懸濁液は、好ましくは、無菌であり、発熱物質不含である。懸濁液は、遊離水性リン酸イオンを含むことがあり、これは、例えば、1.0mMと20mMとの間、好ましくは5mMと15mMとの間、およびさらに好ましくは約10mMで存在する。懸濁液は、塩化ナトリウムも含むことがある。
【0118】
本発明は、DARONRIX(商標)の場合のような、水酸化アルミニウムとリン酸アルミニウムの両方の混合物を使用することができる。この場合、リン酸アルミニウムのほうが水酸化アルミニウムより多く存在し得る、例えば、少なくとも2:1、例えば、≧5:1、≧6:1、≧7:1、≧8:1、≧9:1などの重量比であり得る。
【0119】
患者に投与するための組成物中のAl+++濃度は、好ましくは、10mg/mL未満、例えば、≦5mg/mL、≦4mg/mL、≦3mg/mL、≦2mg/mL、≦1mg/mLなどである。好ましい範囲は、0.3mg/mLと1mg/mLとの間である。最大0.85mg/用量が好ましい。
【0120】
水中油型エマルジョンアジュバント
水中油型エマルジョンは、インフルエンザウイルスワクチンへのアジュバント添加の際の使用に特に適することが判明した。様々なそのようなエマルジョンは公知であり、それらは、少なくとも1つの油と少なくとも1つの界面活性剤を概して含み、前記油(単数または複数)および界面活性剤(単数または複数)は、生体分解性(代謝性)であり、生体適合性である。エマルジョン中の油滴は、一般に、直径が5μm未満であり、サブミクロン直径を有することさえあり、マイクロフルイダイザーを用いてこれらの小さなサイズを実現して安定なエマルジョンを生じさせる。220nm未満のサイズを有する小滴は、濾過滅菌に付すことができるので、好ましい。
【0121】
本発明は、動物(例えば、魚)または植物源からのものなどの油で用いることができる。植物油源としては、堅果、種子および穀物が挙げられる。ピーナッツ油、ダイズ油、ヤシ油、およびオリーブ油は、最も一般的に利用でき、堅果油のよい例となる。例えばホホバビーンから得られる、ホホバ油を使用することができる。種子油としては、ベニバナ油、綿実油、ヒマワリ種子油、ゴマ油およびこれらに類するものが挙げられる。穀物群では、トウモロコシ油が最も容易に入手できるが、他の穀粒、例えばコムギ、オートムギ、ライムギ、コメ、テフ、ライコムギおよびこれらに類するもの、の油も使用することができる。種子油中に自然には存在しないが、堅実および種子油から出発して適する材料の加水分解、分離およびエステル化により、グリセロールと1,2−プロパンジオールの6−10炭素脂肪酸エステルを調製することができる。哺乳動物のミルクからの脂肪および油は、代謝可能であり、従って、本発明の実施の際に使用することができる。動物源から純粋な油を得るために必要な分離、精製、鹸化および他の手段についての手順は、当該技術分野において周知である。大部分の魚は、容易に回収することができる代謝性油を含有する。例えば、タラ肝油、サメ肝油、および鯨油、例えば鯨ろうは、ここで用いることができる幾つかの魚油のよい例となる。多数の分岐鎖油が、5炭素イソプレン単位で生化学的に合成されており、それらは一般にテルペノイドと呼ばれる。サメ肝油は、スクアレン、2,6,10,15,19,23−ヘキサメチル−2,6,10,14,18,22−テトラコサへキサエン、として公知の分岐、不飽和テルペノイドを含有し、これは、ここでは特に好ましい。スクアラン、スクアレンの飽和類似体、も好ましい油である。スクアレンおよびスクアランを含む魚油は、市場の供給業者から容易に入手することができ、または当該技術分野において公知の方法によって得ることができる。他の好ましい油は、トコフェロール(下記参照)である。油の混合物を使用してもよい。
【0122】
界面活性剤は、それらの「HLB」(親水性/疎水性バランス)によって分類することができる。本発明の好ましい界面活性剤は、少なくとも10、好ましくは少なくとも15、およびさらに好ましくは少なくとも16のHLBを有する。本発明は、次のものを含む(しかし、これらに限定されない)界面活性剤と共に用いることができる:ポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤(一般に、Tweenと呼ばれる)、特に、ポリソルベート20およびポリソルベート80;商標DOWFAX(商標)で販売されている、エチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド(PO)、および/またはブチレンオキシド(BO)のコポリマー、例えば、線状EO/POブロックコポリマー;オクトキシノール、これは、エトキシ(オキシ−1,2−エタンジイル)基の反復数が様々であり得、オクトキシノール−9(Triton X−100、またはt−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール)が特に興味深い;(オクチルフェノキシ)ポリエトキシエタノール(IGEPAL CA−630/NP−40);リン脂質、例えば、ホスファチジルコリン(レシチン);ノニルフェノールエトキシラート、例えば、Tergitol(商標)NPシリーズ;ラウリル、セチル、ステアリルおよびオレイルアルコール由来のポリオキシエチレン脂肪エーテル(Brij界面活性剤として公知)、例えば、トリエチレングリコールモノラウリルエーテル(Brij30);ならびにソルビタンエスエル(一般に、SPANとして公知)、例えば、トリオレイン酸ソルビタン(Span85)およびモノラウリン酸ソルビタン。非イオン性界面活性剤が好ましい。前記エマルジョンに含めるための好ましい界面活性剤は、Tween80(モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン)、Span85(トリオレイン酸ソルビタン)、レシチンおよびTriton X−100である。
【0123】
界面活性剤の混合物、例えば、Tween80/Span85混合物を使用することができる。モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(Tween80)などのポリオキシエチレンソルビタンエステルと、t−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(Triton X−100)などのオクトキシノールの併用も適する。もう1つの有用な併用は、ラウレス9と、ポリオキシエチレンソルビタンエステルおよび/またはオクトキシノールを含む。
【0124】
界面活性剤の好ましい量(重量%)は:ポリオキシエチレンソルビタンエステル(例えば、Tween80)0.01から1%、特に約0.1%;オクチル−またはノニルフェノキシポリオキシエタノール(例えば、Triton X−100、またはTritonシリーズの他の洗剤)0.001から0.1%、特に0.005から0.02%;ポリオキシエチレンエーテル(例えば、ラウレス9)0.1%から20%、好ましくは0.1から10%、および特に0.1から1%または約0.5%である。
【0125】
本発明に関して有用な具体的な水中油型エマルジョンアジュバントとしては、以下のものが挙げられるが、それらに限定されない:
● スクアレン、Tween80およびSpan85のサブミクロンエマルジョン。容量でのこのエマルジョンの組成は、約5%スクアレン、約0.5%ポリソルベート80および約0.5%Span85であり得る。重量に置き換えると、これらの比は、4.3%スクアレン、0.5%ポリソルベート80および約0.48%Span85となる。このアジュバントは、「MF59」[130−132]として公知であり、例えば、参考文献133のチャプター10および参考文献134のチャプター12にさらに詳細に記載されている。前記MF59エマルジョンは、有利には、クエン酸イオン、例えば、10mM クエン酸ナトリウム緩衝剤を含む。
【0126】
● スクアレン、トコフェロールおよびTween80のエマルジョン。このエマルジョンは、リン酸緩衝食塩水を含むことがある。Span85(例えば1%で)および/またはレシチンを含むこともある。これらのエマルジョンは、2から10%スクアレン、2から10%トコフェロールおよび0.3から3%Tween80を有することがあり、スクアレン:トコフェロールの重量比は、好ましくは、≦1(例えば、0.90)である。これがより安定なエマルジョンをもたらすからである。スクアレンおよびTween80は、約5:2の容量比、または約11:5の重量比で存在し得る。1つのそのようなエマルジョンは、Tween80をPBSに溶解して2%溶液を得ること、その後、90mLのこの溶液と、(5gのDL−α−トコフェロールおよび5mLのスクアレン)の混合物とを混合すること、その後、その混合物をミクロ流体化することによって作ることができる。結果として生ずるエマルジョンは、例えば100nmと250nmとの間、好ましくは約180nmの平均径を伴う、サブミクロン油滴を有することができる。
【0127】
● スクアレン、トコフェロール、およびTriton洗剤(例えば、Triton X−100)のエマルジョン。このエマルジョンは、3d−MPL(下記参照)も含むことがある。このエマルジョンは、リン酸緩衝剤も含有することがある。
【0128】
● ポリソルベート(例えば、ポリソルベート80)、Triton洗剤(例えば、Triton X−100)およびトコフェロール(例えば、コハク酸α−トコフェロール)を含むエマルジョン。このエマルジョンは、これら三成分を約75:11:10の重量比(例えば、750μg/mL ポリソルベート80、110μg/mL Triton X−100、および100μg/mL コハク酸α−トコフェロール)で含むことができ、これらの濃度は、抗原からのこれらの成分のなんらかの寄与を含むであろう。このエマルジョンは、スクアレンも含むことがある。このエマルジョンは、3d−MPL(下記参照)も含むことがある。その水性相は、リン酸緩衝剤を含有することがある。
【0129】
● スクアレン、ポリソルベート80およびポロキサマー401(「Pluronic(商標)L121」)のエマルジョン。このエマルジョンは、リン酸緩衝食塩水、pH7.4中で調合することができる。このエマルジョンは、ムラミルジペプチドのための有用な送達ビヒクルであり、および「SAF−1」アジュバント[135]ではトレオニルーMDPと共に使用されている(0.05−1% Thr−MDP、5% スクアレン、2.5% Pluronic L121および0.2% ポリソルベート80)。「AF」アジュバント[136](5% スクアレン、1.25% Pluronic L121および0.2% ポリソルベート80)の場合のように、Thr−MDP無しで使用することもできる。ミクロ流体化が好ましい。
【0130】
● スクアレン、水性溶媒、ポリオキシエチレンアルキルエーテル親水性非イオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレン(12)セトステアリルエーテル)および疎水性非イオン性界面活性剤(例えば、ソルビタンエステルまたはマンニドエステル、例えば、モノオレイン酸ソルビタンまたは「Span80」)を含むエマルジョン。このエマルジョンは、好ましくは、熱可逆性であり、および/または200nm未満のサイズを有する油滴を(容量で)少なくとも90%を有する[137]。このエマルジョンは、次のもののうちの1つ以上も含むことがある:アルジトール;凍結防止剤(例えば、糖、例えばドデシルマルトシドおよび/またはスクロース);および/またはアルキルポリグリコシド。そのようなエマルジョンを凍結乾燥させることができる。
【0131】
● 0.5〜50%の油、0.1〜10%のリン脂質および0.05〜5%の非イオン性界面活性剤を有するエマルジョン。参考文献138に記載されているように、好ましいリン脂質成分は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、スフィンゴミエリンおよびカルジオリピンである。サブミクロン小滴サイズが有利である。
【0132】
● 非代謝性油(例えば、軽油)および少なくとも1つの界面活性剤(例えば、レシチン、Tween80またはSpan80)のサブミクロン水中油型エマルジョン。QuilAサポニン、コレステロール、サポニン−親油性コンジュゲート(例えば、グルクロン酸のカルボキシル基による脱アシルサポニンへの脂肪族アミンの付加によって製造される、参考文献139に記載されている、GPI−0100)、臭化ジメチルジオクタデシルアンモニウム(dimethyidioctadecylammonium bromide)および/またはN,N−ジオクタデシル−N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)プロパンジアミンなどの添加剤を含むことがある。
【0133】
● サポニン(例えば、QuilAまたはQS21)およびステロール(例えば、コレステロール)がヘリカルミセルとして会合しているエマルジョン[140]。
【0134】
● 鉱油、非イオン性親油性エトキシル化脂肪アルコールおよび非イオン性親水性界面活性剤(例えば、エトキシル化脂肪アルコールおよび/またはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー)を含むエマルジョン[141]。
【0135】
● 鉱油、非イオン性親水性エトキシル化脂肪アルコールおよび非イオン性親油性界面活性剤(例えば、エトキシル化脂肪アルコールおよび/またはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー)を含むエマルジョン[141]。
【0136】
本発明の好ましい水中油型エマルジョンは、スクアレンを含む。
【0137】
前記エマルジョンを、送達時に抗原と即時混合することができる。従って、前記アジュバントおよび抗原は、使用時の最終調合の準備が整っている、包装されたまたは配給されるワクチンの中に別々に保持されることがある。一般に、前記抗原は、二液を混合することによってワクチンが最終調製されるように、水性形態であろう。混合するための二液の容量比は、様々(例えば、5:1と1:5との間で)であり得るが、一般には約1:1である。エマルジョンおよび抗原を反復投与用キットに別々に保管する場合には、混合して5mL、例えば10×0.5mL用量、のアジュバント添加ワクチンを生じさせるために、2.5mLのエマルジョンを収容しているバイアルおよび2.5mLの水性抗原を収容しているバイアルとして製品を提供することができる。
【0138】
抗原とアジュバントを混合した後、血球凝集素抗原は、一般には水溶液中に残存するが、それ自体、油/水海面付近に分布し得る。一般に、あったとしても少しの血球凝集素しかそのエマルジョンの油相に侵入しないであろう。
【0139】
組成物がトコフェロールを含む場合、α、β、γ、δ、εまたはζトコフェロールのいずれを使用してもよいが、α−トコフェロールが好ましい。前記トコフェロールは、幾つかの形態、例えば異なる塩および/または異性体、を呈することがある。塩としては、有機塩、例えば、コハク酸塩、酢酸塩、ニコチン酸塩などが挙げられる。D−α−トコフェロールおよびDL−α−トコフェロールは、両方とも、使用することができる。有利には、老人患者(例えば、60歳以上の年齢の患者)において使用するためのワクチンにはトコフェロールを含める。ビタミンEは、この患者群における免疫応答に対してプラスの効果を及ぼすと報告されているためである[142]。それらは、前記エマルジョンを安定させるために役立ち得る抗酸化特性も有する[143]。好ましいα−トコフェロールは、DL−α−トコフェロールであり、このトコフェロールの好ましい塩は、コハク酸塩である。コハク酸塩は、インビボでTNF関連リガンドと協働することが判明した。さらに、コハク酸α−トコフェロールが、インフルエンザワクチンと相溶性であることおよび水銀化合物の代替として有用な保存薬であることは公知である[13]。
【0140】
免疫賦活性オリゴヌクレオチド
免疫賦活性オリゴヌクレオチドとしては、ヌクレオチド修飾体/類似体、例えば、ホスホロチオアート修飾体を挙げることができ、および2本鎖である場合もあり、または(RNAを除き)1本鎖である場合もある。参考文献144、145および146には、可能な類似体置換、例えば、2’−デオキシ−7−デアザグアノシンでの置換が開示されている。CpGオリゴヌクレオチドのアジュバント効果は、参考文献147−152においてさらに論じられている。CpG配列を、TLR9、例えば、モチーフGTCGTTまたはTTCGTTに向けることができる[153]。CpG配列、例えばCpG−A ODN(オリゴデオキシヌクレオチド)は、Th1免疫応答の誘導にとって特異的であり得、または例えばCpG−B ODNは、B細胞応答の誘導にとってより特異的である。CpG−AおよびCpG−B ODNは、参考文献154−156において論じられている。好ましくは、CpGは、CpG−A ODNである。好ましくは、CpGオリゴヌクレオチドは、5’末端が受容体認識に利用できるように構築される。場合によっては、2つのCpGオリゴヌクレオチド配列をそれらの3’末端で結合させて「イムノマー」を形成することができる。例えば、参考文献153および157−159を参照のこと。有用なCpGアジュバントは、ProMune(商標)(Coley Pharmaceutical Group,Inc.)としても公知のCpG7909である。
【0141】
CpG配列の使用の代案として、またはそれに加えて、TpG配列を使用することができる[160]。これらのオリゴヌクレオチドには、非メチル化CpGモチーフがない場合がある。
【0142】
免疫賦活性オリゴヌクレオチドは、ピリミジンリッチである場合がある。例えば、それは、1つより多くの連続チミジンヌクレオチド(例えば、参考文献160に開示されているような、TTTT)を含むことがあり、および/またはチミジンを>25%(例えば、>35%、>40%、>50%、>60%、>80%など)有するヌクレオチド組成を有することがある。例えば、それは、1つより多くの連続シトシンヌクレオチド(参考文献160に開示されているような、CCCC)を含むことがあり、および/またはシトシンを>25%(例えば、>35%、>40%、>50%、>60%、>80%など)有するヌクレオチド組成を有することがある。これらのオリゴヌクレオチドには、非メチル化CpGモチーフがない場合がある。
【0143】
免疫賦活性オリゴヌクレオチドは、少なくとも20のヌクレオチドを概して含むであろう。それらは、100より少ないヌクレオチドを含むことができる。
【0144】
免疫賦活性オリゴヌクレオチドに基づく特に有用なアジュバントは、IC31(商標)[161]として公知である。従って、本発明に伴って使用するアジュバントは、(i)少なくとも1つの(および好ましくは多数の)CpIモチーフを含むオリゴヌクレオチド(例えば、15−40の間のヌクレオチド)と、(ii)少なくとも1つの(および好ましくは多数の)Lys−Arg−Lysトリペプチド配列を含むポリカチオン性ポリマー、例えば、オリゴペプチド(例えば、5〜20の間のアミノ酸)との混合物を含むことがある。前記オリゴヌクレオチドは、26−mer配列5’−(IC)13−3’(配列番号14)を含むデオキシヌクレオチドであり得る。前記ポリカチオン性ポリマーは、11−merアミノ酸配列KLKLLLLLKLK(配列番号15)を含むペプチドであり得る。
【0145】
3脱−O−アシル化モノホスホリル脂質A
3dMPL(3脱−O−アシル化モノホスホリル脂質Aまたは3−O−脱アシル−4’−モノホスホリル脂質Aとしても公知)は、モノホスホリル脂質A中の還元末端グルコサミンの位置3が脱アシル化されているアジュバントである。3dMPLは、Salmonella minnesotaのヘプトース欠損突然変異体から調製されたものであり、脂質Aに化学的に類似しているが、酸不安定性ホスホリル基および塩基不安定性アシル基を欠く。それは、単球/マクロファージ系統の細胞を活性化し、ならびにIL−1、IL−12、TNF−αおよびGM−CSFをはじめとする幾つかのサイトカインの放出を刺激する(参考文献162も参照のこと)。3dMPLの調製は、初めに参考文献163に記載された。
【0146】
3dMPLは、それらのアシル化によって変わる(例えば、異なる長さのものであり得る3、4、5または6個のアシル鎖を有する)、関連分子の混合物の形態をとり得る。2つのグルコサミン(2−デオキシ−2−アミノ−グルコースとしても公知)単糖類が、それらの2位炭素(すなわち、位置2および2’)でN−アシル化され、3’位にO−アシル化も存在する。炭素2に結合している基は、式−NH−CO−CH−CR1’を有する。炭素2’に結合している基は、式−NH−CO−CH−CR2’を有する。炭素3’に結合している基は、式−O−CO−CH−CR3’を有する。代表的な構造は、
【0147】
【化9】

である。
【0148】
基R、RおよびRは、それぞれ独立して、−(CH−CHである。nの値は、好ましくは8と16との間、さらに好ましくは9と12との間であり、および最も好ましくは10である。
【0149】
基R1’、R2’およびR3’は、それぞれ独立して、(a)−H;(b)−OH;または(c)−O−CO−Rであり得、この場合のRは、−Hまたは−(CH−CHであり、mの値は、好ましくは8と16との間、およびさらに好ましくは10、12または14である。2位におけるmは、好ましくは14である。2’位におけるmは、好ましくは10である。3’位におけるmは、好ましくは12である。従って、基R1’、R2’およびR3’は、好ましくは、ドデカン酸、テトラデカン酸またはヘキサデカン酸からの−O−アシル基である。
【0150】
1’、R2’およびR3’のすべてが−Hであるときには、その3dMPLは、アシル鎖を3つ(位置2、2’および3’のそれぞれに1つ)しか有さない。R1’、R2’およびR3’のうちの2つだけが−Hであるときには、その3dMPLは、4つのアシル鎖を有することができる。R1’、R2’およびR3’のうちの1つだけが−Hであるときには、その3dMPLは、5つのアシル鎖を有することができる。R1’、R2’およびR3’がいずれも−Hでないときには、その3dMPLは、6つのアシル鎖を有することができる。本発明に従って使用する3dMPLアジュバントは、3つから6つのアシル鎖を有するこれらの形態の混合物であり得るが、その混合物中に6つのアシル鎖を有する3dMPLを含むこと、および特に、ヘキサアシル鎖形態が、全3dMPLの少なくとも10重量%、例えば、≧20%、≧30%、≧40%、≧50%またはそれ以上、を確実に構成することが好ましい。6つのアシル鎖を有する3dMPLは、最もアジュバント活性が大きい形態であることが判明した。
【0151】
従って、本発明の組成物に含めるための3dMPLの最も好ましい形態は、
【0152】
【化10】

である。
【0153】
3dMPLを混合物の形態で使用する場合、本発明の組成物中の3dMPLの量または濃度への言及は、その混合物中の併用3dMPL種を指す。
【0154】
水性条件では、3dMPLは、異なるサイズを有する、例えば直径<150nmまたは>500nmを有する、ミセル状凝集体または粒子を形成することがある。これらのいずれかまたは両方を本発明に伴って使用することができ、常例的アッセイによってよりよい粒子を選択することができる。本発明に従って使用するには、より小さい粒子(例えば、3dMPLの透明水性懸濁液を生じさせられるほど小さいもの)が、それらの優れた活性のため、好ましい[164]。好ましい粒子は、220nm未満、さらに好ましくは200nm未満または150nm未満または120nm未満の平均径を有し、および100nm未満の平均径を有することさえある。しかし、ほとんどの場合、前記平均径は、50nmより小さくはないであろう。これらの粒子は、濾過滅菌に適する十分な小ささである。粒径は、平均粒径を明らかにする常例的な動的光散乱技術によって評定することができる。粒子がxnmの直径を有すると言われる場合、一般に、この平均値付近に粒径分布があるであろうが、数で少なくとも50%(例えば、≧60%、≧70%、≧80%、≧90%、またはそれ以上)の粒子が、x±25%範囲内の直径を有するであろう。
【0155】
3dMPLは、有利には、水中油型エマルジョンと併用することができる。実質的にすべての3dMPLが、そのエマルジョンの水性相に位置するだろう。
【0156】
3dMPLは、それ自体で使用することができ、または1つ以上のさらなる化合物と併用することができる。例えば、QS21サポニン[165](水中油型エマルジョン[166]を含む)との、免疫賦活性オリゴヌクレオチドとの、QS21と免疫賦活性オリゴヌクレオチドの両方との、リン酸アルミニウム[167]との、水酸化アルミニウム[168]との、またはリン酸アルミニウムと水酸化アルミニウムの両方との、3dMPLの併用は、公知である。
【0157】
医薬組成物
本発明の組成物は、医薬的に許容され、および概して水性形態である。それらは、抗原(および、適用可能な場合にはアジュバント)に加えて成分を含むことがあり、例えば、それらは、1つ以上の製薬用担体(単数または複数)および/または賦形剤(単数または複数)を概して含む。そのような成分の論考は、参考文献169において入手できる。
【0158】
前記組成物は、保存薬、例えば、チオメルサール(例えば、10μg/mLで)または2−フェノキシエタノールを含むことがある。しかし、前記ワクチンには、水銀材料が実質的にない(すなわち、5μg/mL未満)、例えば、チオメルサール不含であるべきことが好ましい[13、170]。水銀を含有しないワクチンは、さらに好ましい。保存薬不含ワクチンは、特に好ましい。
【0159】
張度を制御するために、生理的塩、例えばナトリウム塩を含めることが好ましい。1mg/mLと20mg/mLとの間で存在し得る、塩化ナトリウム(NaCl)が好ましい。存在し得る他の塩としては、塩化カリウム、リン酸二水素カリウム、無水リン酸二ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。
【0160】
組成物は、一般に、200mOsm/kgと400mOsm/kgとの間、好ましくは240〜360mOsm/kgの間の、および好ましくは290〜310mOsm/kgの範囲内に入る、重量オスモル濃度有するであろう。重量オスモル濃度は、予防接種によって引き起こされる疼痛に影響を及ぼさないと以前に報告されている[117]が、それでもやはり、この範囲内でオスモル濃度を保持することが好ましい。
【0161】
組成物は、1つ以上の緩衝剤を含むことがある。典型的な緩衝剤としては、リン酸緩衝剤;トリス緩衝剤;ホウ酸緩衝剤;コハク酸緩衝剤;ヒスチジン緩衝剤(特に、水酸化アルミニウムアジュバントを伴う);またはクエン酸緩衝剤が挙げられる。緩衝剤は、5−20mM範囲内で含まれるであろう。
【0162】
組成物のpHは、一般には5.0と8.1との間、より典型的には6.0と8.0との間、例えば、6.5と7.5との間、7.0と7.8との間であろう。従って、本発明のプロセスは、包装前にバルクワクチンのpHを調整する工程を含むことがある。
【0163】
前記組成物は、好ましくは、無菌である。前記組成物は、好ましくは、非発熱性であり、例えば、1用量につき<1のEU(エンドトキシンユニット、標準測度)、および好ましくは1用量につき<0.1 EUを含有している。前記組成物は、好ましくはグルテン不含である。
【0164】
前記組成物は、単回免疫処置用の材料を含むことがあり、または多回免疫処置用の材料を含むことがある(すなわち、「反復投与」キット、例えば10回分用のもの)。反復投与構成の場合は保存薬を含めることが好ましい。反復投与用組成物に保存薬を含めることの代案として(またはそれに加えて)、材料取り出し用の無菌アダプターを有する容器の中に前記組成物を収容することができる。
【0165】
インフルエンザワクチンは、約0.5mLの投薬量で概して投与されるが、例えば、(例えば月齢36ヶ月以下の)子供には、半分の用量(すなわち、約0.25mL)が投与されることがある。
【0166】
組成物およびキットは、好ましくは、2℃と8℃との間で保管する。それらを冷凍すべきではない。理想的には、直射光を避けてそれらを保存すべきである。
【0167】
本発明のキット
本発明は、本発明の1つより多くの組成物、例えばプライミング組成物およびブースティング組成物、を収容しているキットを含む。前記2つのキット成分は、実質的に異なる時に患者に投与されるので、別々に保持されるであろう。
【0168】
キット内のそれぞれの個々のワクチンは、すぐに使用できるようになっている場合もあり、または送達時に即時調製できるようになっている場合もある。この即時用の構成は、アジュバントと抗原を使用するときまで別々に保持することができ、これは、水中油型エマルジョンアジュバントを使用するときに特に有用である。
【0169】
ワクチンを即時調製する場合、その成分は、キットの中で互いに物理的に離れており、様々な方法でこの分離を達成することができる。例えば、2つの成分は、2つの別々の容器、例えば、バイアル、例えば抗原バイアルおよびエマルジョンバイアル、の中にある場合がある。その後、それら2つのバイアルの内容物を、例えば、一方のバイアルの内容物を取り出し、それらを他方のバイアルに添加することによって、または両方のバイアルの内容物を別々に取り出し、それらを第三の容器の中で混合することによって、混合することができる。好ましい構成では、前記キット成分の一方が注射器の中にあり、他方がバイアルなどの容器の中にある。前記注射器を(例えば、針と共に)使用して、混合のためにその内容物を前記第2の容器に挿入し、その後、その混合物をその注射器の中に引き取ることができる。その後、その注射器の混合内容物を、一般には新たな滅菌針によって、患者に投与することができる。注射器に一方の成分を充填することにより、患者投与のために別の注射器を使用する必要が無くなる。
【0170】
別の好ましい構成では、ワクチンの2つの成分が一緒に保持されるが、同じ注射器、例えば二室シリンジ、例えば参考文献172〜179などに開示されているものなどの中に別々に保持される。その注射器を(例えば、患者への投与中に)動かすと、それら二室の内容物が混合される。この構成により、使用時の別個の混合工程の必要が回避される。
【0171】
ワクチンを即時調製する場合、その成分は、一般に水性形態であろう。一部の構成では、成分(概して、アジュバント成分ではなく抗原成分)は、乾燥形態で(例えば、凍結乾燥形態で)あり、他方の成分は、水性形態である。それら2つの成分を混合して、乾燥成分を再び活性化し、患者への投与のための水性組成物を生じさせることができる。概して、凍結乾燥成分は、注射器ではなくバイアルの中に配置されるだろう。乾燥成分は、安定剤、例えばラクトース、スクロースまたはマンニトール、ならびにそれらの混合物、例えばラクトース/スクロース混合物、スクロース/マンニトール混合物などを含むことがある。1つの可能性のある構成は、プレフィルド注射器内の水性アジュバントとバイアル内の凍結乾燥抗原成分とを使用する。
【0172】
組成物またはキット成分の包装
本発明の組成物(またはキット成分)に適する容器としては、バイアル、注射器(例えば、使い捨て注射器)、鼻スプレーなどが挙げられる。これらの容器は、無菌でなければならない。
【0173】
組成物/成分をバイアルの中に配置する場合、そのバイアルは、好ましくは、ガラスまたはプラスチック材料製である。バイアルは、好ましくは、それに組成物を添加する前に滅菌する。ラテックス感受性患者での問題を避けるために、バイアルを、好ましくは、ラテックス不含ストッパーで密封し、また、すべての包装材料中にラテックスがないことが好ましい。前記バイアルは、1回量のワクチンを含む場合もあり、または1回分より多い用量、例えば、10回分の用量を含む場合もある(「反復投与」バイアル)。好ましいバイアルは、無色ガラス製である。
【0174】
バイアルは、プレフィルド注射器をそのキャップに挿入できる、その注射器の内容物をそのバイアルに放出(して、例えば、凍結乾燥材料をその中で再構成)することができる、およびそのバイアルの内容物を取り出してその注射器に戻すことができるように改造されたキャップ(例えば、ルアーロック)を有することがある。前記バイアルから前記注射器を外した後、針を取り付けることができ、前記組成物を患者に投与することができる。前記キャップは、好ましくは、シールまたはカバーの内側に配置されるので、そのキャップに接触できるようにする前にそのシールまたはカバーを取り外さなければならない。バイアルは、特に反復投与用バイアルについては、その内容物の無菌除去を可能にするキャップを有することがある。
【0175】
組成物/成分を注射器に包装する場合、その注射器は、それに付いた針を有することがある。針が付いていない場合には、組み立てて使用するためにその注射器に別の針を備えさせることができる。そのような針は、さや付きである場合がある。安全針が好ましい。1インチ23ゲージ、1インチ25ゲージおよび5/8インチ25ゲージ針が典型的である。ロット番号、インフルエンザシーズンおよび内容物の使用期限を印刷することができるはぎとり式ラベルを注射器に備えさせて、記録保持を助長することができる。注射器におけるプランジャーは、吸引中にそのプランジャーが偶発的にはずれないようにするために、好ましくは、ストッパーを有する。それらの注射器は、ラテックスゴムキャップおよび/またはプランジャーを有することがある。使い捨て注射器には1回量のワクチンが入っている。この注射器は、針の取り付け前はその先端を密封するために先端キャップを一般に有するであろう。この先端キャップは、好ましくは、ブチルゴム製である。注射器と針を別々に包装する場合には、好ましくは、その針にブチルゴムシールドを装着する。好ましい注射器は、商品名「Tip−Lok」(商標)で市販されている。ブチルゴムは、例えば反復投与キットにおける、バイアルのストッパーに適する材料でもある。
【0176】
例えば子供への送達を助長するために、半分の用量の容積を示すマークを容器につけることができる。例えば、用量0.5mLが入っている注射器は、容積0.25mLを示すマークを有することがある。
【0177】
ガラス容器(例えば、注射器またはバイアル)を使用する場合には、ソーダ石灰ガラス製ではなくホウケイ酸ガラス製の容器を使用することが好ましい。
【0178】
キットまたは組成物は、そのワクチンの詳説、例えば、投与についての説示、そのワクチン中の抗原の詳説などを含むリーフレットと共に(例えば、同じ箱の中に)包装することができる。前記説示は、例えば、予防接種後のアナフィラキシー反応の場合などに容易に利用できるアドレナリンの溶液を保持するための、警告を含むこともある。
【0179】
処置方法およびワクチンの投与
本発明の組成物は、ヒト患者への投与に適し、および本発明は、患者における免疫応答を惹起する方法であって、本発明の組成物をその患者に投与する工程を含む方法を提供する。
【0180】
本発明は、医療において使用するための、例えば患者における免疫応答を惹起する際に使用するための、本発明のキットまたは組成物も提供する。
【0181】
本発明は、同時投与、別投与または逐次投与のための、H5インフルエンザAウイルスの第1クレードからのインフルエンザウイルス抗原およびH5インフルエンザAウイルスの第2クレードからのインフルエンザウイルス抗原であって、第1クレードと第2クレードとが互いに異なるインフルエンザウイルス抗原も提供する。
【0182】
本発明は、療法において併用するための、H5インフルエンザAウイルスの第1クレードからのインフルエンザウイルス抗原およびH5インフルエンザAウイルスの第2クレードからのインフルエンザウイルス抗原であって、第1クレードと第2クレードとが互いに異なるインフルエンザウイルス抗原も提供する。
【0183】
本発明は、療法において使用するための、H5インフルエンザAウイルスの第1クレードからのインフルエンザウイルス抗原とH5インフルエンザAウイルスの第2クレードからのインフルエンザウイルス抗原との組み合わせであって、第1クレードと第2クレードとが互いに異なる組み合わせも提供する。
【0184】
本発明は、患者における免疫応答を惹起するための医薬品の製造における、H5インフルエンザAウイルスの第1クレードからのインフルエンザウイルス抗原の使用であって、医薬品が、H5インフルエンザAウイルスの第2クレードからのインフルエンザウイルス抗原と共に投与するために調製され(または、と共に投与され)、第1クレードと第2クレードとが互いに異なる使用も提供する。
【0185】
本発明は、患者における免疫応答を惹起するための医薬品の製造における(i)H5インフルエンザAウイルスの第1クレードからのインフルエンザウイルス抗原および(ii)H5インフルエンザAウイルスの第2クレードからのインフルエンザウイルス抗原の使用であって、第1クレードと第2クレードとが互いに異なる使用も提供する。
【0186】
本発明は、H5インフルエンザAウイルスの第1クレードからのインフルエンザウイルス抗原で予め免疫されている患者における免疫応答を惹起するための医薬品の製造における、H5インフルエンザAウイルスの第2クレードからのインフルエンザウイルス抗原の使用であって、第1クレードと第2クレードとが互いに異なる使用も提供する。これらの予め免疫されている患者は、様々な方法で、例えば、H5血球凝集素での再免疫処置に応答するであろうメモリーB細胞の存在により、一般集団と区別される。
【0187】
本発明は、患者における免疫応答を惹起するための医薬品の製造における、H5インフルエンザAウイルスの第1クレードからのインフルエンザウイルス抗原の使用であって、患者が、後に、H5インフルエンザAウイルスの第2クレードからのインフルエンザウイルス抗原で免疫されることとなり、第1クレードと第2クレードとが互いに異なる使用も提供する。
【0188】
本発明に従って惹起される免疫応答は、一般に、抗体応答、好ましくは、防御的抗体応答を含むであろう。インフルエンザウイルス予防接種後の抗体応答、中和能力および防御を評定する方法は、当該技術分野において周知である。人間に関する研究により、ヒトインフルエンザウイルスの血球凝集素に対する抗体力価が防御と相関する(約30−40の血清サンプル血球凝集阻害力価が相同ウイルスによる感染からの50%防御を生じさせる)ことが証明された[180]。概して、抗体応答は、血球凝集阻害によって、マイクロ中和によって、単純放射免疫拡散(SRID)によって、および/または一元放射溶血(SRH)によって測定される。これらのアッセイ技術は、当該技術分野において周知である。
【0189】
本発明組成物は、様々な方法で投与することができる。最も好ましい免疫処置経路は、(例えば、腕または下肢への)筋肉内注射による経路であるが、他の利用できる経路としては、皮下注射経路、鼻腔内経路[181−183]、経口経路[184]、皮内経路[185、186]、皮膚を通した経路、経皮経路[187]などが挙げられる。
【0190】
本発明のワクチンは、子供および大人の両方を処置するために使用することができる。インフルエンザワクチンは、月齢6ヶ月からの小児および成人免疫処置における使用に現在推奨されている。従って、患者は、1歳未満、1−5歳、5−15歳、15−55歳、または少なくとも55歳である場合がある。前記ワクチンを受けることが好ましい患者は、老人(例えば、≧50歳、≧60歳、好ましくは、≧65歳)、若年(例えば、≦5歳)、入院患者、ヘルスケア従事者、軍人および軍職員、妊婦、慢性病、免疫不全患者、ワクチンを受ける前の7日間に抗ウイルス化合物(例えば、オセルタミビルまたはザナミビル化合物;下記参照)を摂取した患者、卵アレルギーを有する人および海外旅行をする人である。しかし、前記ワクチンは、これらの群のみに適するのではなく、より一般的に人々に使用することができる。パンデミック株については、すべての年齢群に投与することが好ましい。
【0191】
本発明の好ましい組成物は、CPMP有効度基準の1、2または3を満たす。成人(18−60歳)の場合、これらの基準は、(1)≧70% 抗体保有率;(2)≧40% 抗体陽転率;および/または(3)≧2.5倍のGMT増加である。老人(≧60歳)の場合、これらの基準は、(1)≧60% 抗体保有率;(2)≧30% 抗体陽転率;および/または(3)≧2倍のGMT増加である。これらの基準は、少なくとも50人の患者での非盲検研究に基づく。
【0192】
本発明のプライム−ブースト実施形態では、患者を反復投与スケジュールに付す。反復投与スケジュールでは、同じまたは異なる経路、例えば、非経口的プライムおよび粘膜的ブースト、粘膜的プライムおよび非経口的ブーストなどによって、様々な用量を与えることができる。反復投与量は、概して、少なくとも1週間(例えば、約2週間、約3週間、約4週間、約6週間、約8週間、約10週間、約12週間、約16週間など)離して投与することとなる。
【0193】
本発明が、異なるH5クレードに対して予め免疫されている患者を免疫すること(ブースティング)を含む場合、そのブースター量は、以前の投与の数ヵ月後、例えば、少なくとも6ヶ月、9ヶ月、12ヶ月、18ヶ月、24ヶ月、36ヶ月、48ヶ月、60ヶ月またはそれ以上後に投与することができる。
【0194】
組成物が、H5インフルエンザAウイルスの1つより多くのクレードからのHAを含む実施形態において、この組成物は、単回投与スケジュールによって投与される場合もあり、または反復投与スケジュールによって投与される場合もある。1用量以上(概して2用量)の投与は、免疫がない患者において、例えば、以前にインフルエンザワクチンを受けたことが全くない人に、またはH5などの新たなHAサブタイプに対する予防接種に、特に有用である。上と同様に、反復投与量は、概して、少なくとも1週間(例えば、約2週間、約3週間、約4週間、約6週間、約8週間、約10週間、約12週間、約16週間など)離して投与することとなる。
【0195】
本発明の組成物は、他のワクチンと実質的に同時に(例えば、ヘルスケア専門家または予防接種センターへの同じ医療相談または訪問中に)、例えば、麻疹ワクチン、耳下腺炎ワクチン、風疹ワクチン、MMRワクチン、水痘ワクチン、MMRVワクチン、ジフテリアワクチン、破傷風ワクチン、百日咳ワクチン、DTPワクチン、複合H.influenzae B型ワクチン、不活化ポリオウイルスワクチン、B型肝炎ウイルスワクチン、髄膜炎菌複合ワクチン(例えば、四価A−C−W135−Yワクチン)、呼吸器性シンシチウムウイルスワクチン、肺炎球菌複合ワクチンなどと実質的に同時に、患者に投与することができる。肺炎球菌ワクチンまたは髄膜炎菌ワクチンと実質的に同時の投与は、老人患者では特に有用である。
【0196】
同様に、本発明の組成物は、抗ウイルス化合物、および特に、インフルエンザウイルスに対して活性の抗ウイルス化合物(例えば、オセルタミビルおよび/またはザナミビル)と実質的に同時に(例えば、ヘルスケア専門家または予防接種センターへの同じ医療相談または訪問中に)患者に投与することができる。これらの抗ウイルス剤としては、ノイラミニダーゼ阻害剤、例えば、(3R,4R,5S)−4−アセチルアミノ−5−アミノ−3(1−エチルプロポキシ)−1−シクロヘキセン−1−カルボン酸または5−(アセチルアミノ)−4−[(アミノイミノメチル)−アミノ]−2,6−アンヒドロ−3,4,5−トリデオキシ−D−グリセロ−D−ガラクトノン−2−エン酸[これらのエステル(例えば、エチルエステル)およびこれらの塩(例えば、リン酸塩)を含む]が挙げられる。好ましい抗ウイルス剤は、オセルタミビルリン酸塩(TAMIFLU(商標))としても公知の、(3R,4R,5S)−4−アセチルアミノ−5−アミノ3(1−エチルプロポキシ)−1−シクロヘキセン−1−カルボン酸、エチルエステル、リン酸塩(1:1)である。
【0197】
さらなる実施形態
上の実施形態に加えて、本発明は、(a)H5インフルエンザAウイルスの少なくとも1つの株(例えば、1、2、3、4、5または6の異なる株)からの血球凝集素抗原と、(b)(i)H7インフルエンザAウイルスの少なくとも1つの株および/または(ii)H9インフルエンザAウイルスの少なくとも1つの株からの血球凝集素抗原とを含む、免疫原性組成物も提供する。従って、ワクチンは、血球凝集素H5+H7、H5+H9またはH5+H7+H9を含むことがある。H5インフルエンザAウイルスの少なくとも2つの株(例えば、2、3、4、5または6の異なる株)からの血球凝集素抗原を含むことが好ましく、この場合、これらの株は、好ましくは、本明細書に記載するような、異なるクレードのものである。1つのH5株と1つのH7株のみからの血球凝集素を有する二価の組み合わせは、好ましくない[188]。
【0198】
本発明は、(a)H5インフルエンザAウイルスの少なくとも1つの株(例えば、1、2、3、4、5または6の異なる株)からの血球凝集素抗原と、(b)インフルエンザAウイルスサブタイプH2、H4、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15および/またはH16のうちの少なくとも2つからの血球凝集素抗原とを含む、免疫原性組成物も提供する。1つより多くのH5株からの血球凝集素を含む場合には、これらの株は、好ましくは、本明細書に記載するような、異なるクレードのものである。
【0199】
総論
用語「含むこと(comprising)」は、「含むこと(including)」ならびに「から成ること(consisting)」を包含し、例えば、Xを含むこと(comprising)は、Xから排他的に成る(consist)ことがあり、または何らかの追加のもの、例えばX+Y、を含む(include)ことがある。
【0200】
「実質的に」という語は、「完全に」を除外せず、例えば、Yが「実質的にない」組成物は、Yが完全にないこともある。必要な場合には、「実質的に」という語を本発明の定義から省略することがある。
【0201】
数値xに関して、用語「約」は、例えば、x±10%を意味する。
【0202】
特に述べていない限り、2つ以上の成分を混合する工程を含むプロセスは、いずれの特定の混合順序も必要としない。従って、成分をいずれの順序で混合してもよい。3つの成分がある場合には、2つの成分を互いに併せることができ、その後、その併せたものを第三の成分と併せることなどができる。
【0203】
動物の(および特にウシの)材料を細胞の培養に使用する場合、それらは、伝搬性海綿状脳症(TSE)がない、および特に、ウシ海綿状脳症(BSE)がない源から得るべきである。全体的にみて、動物由来の材料が完全にない状態で細胞を培養することが好ましい。
【0204】
化合物を組成物の一部として身体に投与する場合には、その化合物の代わりに適するプロドラッグを代替的に用いることができる。
【0205】
細胞基質を再集合または逆遺伝学的手順に用いる場合、好ましくは、それは、例えばヨーロッパ連合医薬品質原料管理規格(Ph Eur)のgeneral chapter5.2.3におけるような、ヒト用ワクチン生産における使用に認可されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0206】
【図1】参考文献3および189から取った、H5株の系統樹である。
【図2】参考文献3および189から取った、H5株の系統樹である。
【発明を実施するための形態】
【0207】
ヒトに関する研究I
H5N3株A/duck/Singapore/1997(クレード0)から調製したインフルエンザワクチンで患者を免疫した。前記ワクチンは、アジュバント非添加型のもの(第2群)であるか、MF59水中油型エマルジョンをアジュバントとして添加したもの(第1群)であった。第三の患者群(第3群)は、H5N3ワクチンを受けなかった。
【0208】
インフルエンザシーズン後(少なくとも6年後)、患者を、H5N1株(A/Vietnam/1194/2004=クレード1;クレード2を用いてもよい)から調製したインフルエンザワクチンで免疫した。第0日および第21日に、2用量を投与し、これらは、両方とも、7.5μgの血球凝集素およびMF59アジュバントを含有した。抗原的に異なるH5ウイルスに対する予防接種前および後の抗体を、血球凝集阻害(HAI)、抗体中和(MN)および一元放射溶血(SRH)によって測定した。
【0209】
結果を表Iに示す。簡単に言うと、クレード0ワクチンによって予めプライミングした患者は、この新たなクレードに対して、プライミングしていない患者より良好で迅速な免疫応答を見せた。プライミングした群の中で、アジュバント添加プライミング量を受けた患者は、アジュバント非添加プライミング量を受けた患者より良好な免疫応答を見せた。
【0210】
幾何平均抗体力価および血清応答は、プライミングしていない被験体よりプライミングした被験体のほうが有意に高かった。ワクチンの1回投与後、第7日までに、第1群の患者の≧80%が、原A/duck/Singapore/97クレード0抗原に対してばかりでなく、試験したクレード1、2.1、2.2および2.3トリH5ウイルス変異体すべてに対して、≧1:40の抗体保有HAI力価を達成した。さらに、プライミングした被験体が、それらの原プライミング抗原に優先的に応答したことを示唆する証拠はなく、これは、「抗原原罪」[190]に関する懸念を和らげた。
【0211】
従って、抗原的におよび遺伝的に遠い、異なるH5クレード内の株から調製したワクチンで数年前にプライミングされた被験体において、1回のワクチン投与に従って異なるインフルエンザH5N1ウイルスに対する防御的抗体応答を迅速に誘導することができる。
【0212】
この臨床研究のさらなる詳説は、参考文献191において入手できる。そこに述べられているように、クレード1株またはクレード2.2株に対する抗体の幾何平均力価は、プライミングされていない被験体(群0)の中でよりプライミングされた被験体(第1群および第2群)の中でのほうが有意に高かった。第14日以後、両方のウイルスに対する抗体の力価は、プレーン−プライミングされた群(第2群)におけるよりアジュバント−プライミングされた群(第1群)におけるほうが有意に高かった。最高力価は、第1群において第14日に観察された。予防接種後力価とH5N3ワクチンの以前の投与回数またはそれらの抗原含有量との関係は、観察されなかった。第7日までに、第1群の患者の少なくとも80%は、血球凝集阻害アッセイで試験したすべての野生型ウイルスについて少なくとも1:40の力価を有した。
【0213】
パンデミック蔓延のモデリングは、ウイルス伝播の最大減少が、パンデミックの勃発後2週間以内の応答の誘導によって達成されることを示す。ワクチンの2回投与を必要とするため、迅速なワクチン配備が難しくなる。しかし、このヒトに関する研究は、H5抗原(特に、アジュバント添加H5抗原)での被験体のプライミングが、低用量での抗原的に異なる(異なるH5 HAクレード)ワクチンの投与後に迅速に起動し長期間続く免疫メモリーを誘導することを示している。
【0214】
さらなる研究において、A/Vietnam/1194/2004クレード1 H5N1に対して交差反応性のメモリーB細胞が、ベースラインでの3つすべての患者群の血液において同等の頻度で検出された。それにもかかわらず、第1ブースター投与の三週間後、第1群における患者は、第2群および第3群より有意に多いH5N1特異的メモリーB細胞を提示した。これは、アジュバント添加H5N3ワクチンでの先行プライミングが、H5N1に対する交差反応性がより高いメモリーB細胞のプールを誘導したことを示唆している。一貫して、第1群における患者は、第2群または第3群における患者より速いおよび高い抗体応答を有し、ならびに第1群および第2群における患者は、第3群における患者より有意に良好におよび速く応答した。1回のクレード1ワクチン投与後、第7日までに、第1群におけるすべての患者は、クレード0、1、2.1.3、2.2および2.3.4からの幾つかの抗原的に異なる高病原性野生型ウイルスへの抗体陽転を果たしたが、第2群では、第14日までにしか同等の抗体陽転率が観察されなかった。逆に、クレード0およびクレード1ウイルスへの80%の抗体陽転率を果たすために、第3群患者については2回のクレード1ワクチン投与を必要とした。
【0215】
ヒトに関する研究II
MF59をアジュバントとして添加したH5N1ワクチンの2回のプライミング投与(第0日および第21日)を成人および老人患者に施した。前記ウイルス株は、クレード1に分類されるA/Vietnam/1194/2004であった。第43日に免疫応答を評定し、3つすべてのCPMP基準を満たした:抗体保有率および抗体陽転率は、両方とも少なくとも80%であり、GMT増加は、少なくとも5倍であった。
【0216】
2回のプライミング投与の約18ヶ月後、クレード2に分類される株A/turkey/Turkey/1/05に基づくがMF59をアジュバントとして添加したH5N1を、60人を超える患者にさらに投与した。この投与の直後、およびその7日後と21日後の両方に、血清サンプルを採取した。それらの血清サンプルでのHI、SRHおよびMN試験によって免疫原性を評価した。
【0217】
ヒトに関する研究IIIおよびIV
試験NCT00703053は、クレード1ワクチン(A/Vietnam/1203/04)および/またはクレード2ワクチン(A/Indonesia/05/05)を使用する。H5株に以前に曝露されていない成人に、(a)第0日にクレード1ワクチンおよび第28日にクレード2ワクチン;(b)第0日にクレード1ワクチンおよび第180日にクレード2ワクチン;または(c)第0日および第28日にクレード1ワクチンとクレード2ワクチンの合剤を施す。両方ではなくクレード1ワクチンまたはクレード2ワクチンのみを施す、適切な対照も含める。各時点での合計抗原用量は、90μg HAであり、これは、群(a)および(b)については単一の株からの90μg、または群(c)についてはそれぞれの株からの2x45μgであった。この研究は、アジュバント非添加型不活化サブビリオンワクチンを使用する。この研究は、2010年まで完了しないであろう。
【0218】
試験NCT00680069は、クレード1ワクチン(A/Vietnam/1203/04)を以前に受けた患者にクレード2ワクチン(A/Indonesia/05/05)の1回量を投与することを含む。前記抗原用量は、不活化サブビリオンワクチン15μgまたは90μgのいずれかである。この研究は、2009年まで完了しないであろう。
【0219】
マウスに関する研究IおよびII(DNA免疫処置:参照のため)
関連のない実験[192]で、A/VietNam/1203/04(クレード1)およびA/Indonesia/05/05(クレード2)ウイルスからのHAを発現するアデノウイルスベクターを構築した。
【0220】
これらのベクター両方を別々に使用して、および併用して、BALB/cマウスを免疫した。合計用量は、ベクター10pfuであり、併用群にはそれぞれのベクターを5x10pfu施した。4週間後、同じワクチン構築物(単数または複数)を含有するブースターをマウスに施し、3週間後、中和抗体および血球凝集阻害抗体の検出のために採血した。
【0221】
いずれか一方のベクターのみで予防接種したマウスは、血球凝集阻害および中和抗体を生産したが、交差反応性は検出されなかった。しかし、両方のベクターで予防接種したマウスは、両方のクレードからのウイルスに対する防御的中和抗体力価を惹起した。
【0222】
同様の研究[193]において、5または10いずれかの血球凝集素DNA免疫原の合剤をプラスミド発現ベクターとしてマウスに施した。5つのHAの第1の合剤は、クレード0、2.2(3株)および2.5における株からのものであった。5つのHAの第2の合剤は、クレード0、1、2.1.3、2.2および2.3.4からのものであった。前記10価は、これら10株の合剤であった。これらのワクチンは、HPAI H5N1の多数の数を中和する抗体を惹起した。
【0223】
このタイプの3価DNAワクチン[193]を使用して、ニワトリも試験した。これらの株は、A/Vietnam/1203/04(クレード1)、A/Anhui/1/05(クレード2.3.4)およびA/Indonesia/05/05(クレード2.1.3)であった。これらのニワトリは、疾病に対して防御された。
【0224】
マウスに関する研究III
参考文献8に詳細に記載されているように、A/Vietnam/1203/2004(クレード1)またはA/Indonesia/05/2005(クレード2)からのH5血球凝集素を含む二価ワクチンをマウスに施した。2つのタイプの二価ワクチンを試験した:組換えH5血球凝集素に基づくものと、VLPに基づくもの。いずれのワクチンも外因性アジュバントを含まなかったが、組換えタンパク質と比較して、VLPは、その特別な性質のため、内因性アジュバント効果を生じさせることができる。それぞれの一価VLPを対照として使用した。bacmidからのSf9昆虫細胞において抗原を発現させた。前記二価ワクチン中の抗原は、1:1 HA重量比で混合した。
【0225】
定量的ELISAおよびHAIによって免疫応答を評定した。二価VLP混合物で予防接種したすべてのマウスは、VietNam/1203/2004ウイルス(GMT 115±36)とIndonesia/05/2005ウイルス(80±0)の両方に対するHAI抗体を惹起した。対照的に、アジュバント非添加組換えタンパク質の混合物で予防接種したマウスの33%しか、Indonesia/05/2005ウイルスに対するHAI力価(36±12)を有さなかった。
【0226】
致死的攻撃研究においても免疫応答を評定した。攻撃株は、2つのワクチン株のPR8/34リアソータントであった。いずれかのウイルスで攻撃した非予防接種マウスは、感染後、第6日までに原体重の≧20%を失った。組換えHAタンパク質の二価混合物で予防接種したマウスは、クレード1またはクレード2いずれかの攻撃株によって攻撃したとき、それらの原体重の〜15%を失った。クレード1 VLP、クレード2 VLP、またはVLP混合物で予防接種し、その後、クレード1ウイルスで攻撃したマウスは、体重減少も、感染の臨床徴候も有さなかった。クレード1 VLPで予防接種し、その後、クレード2ウイルスで攻撃したマウスは、攻撃から防御されず、攻撃後、第6日までに死亡した。クレード2 VLPまたはVLP混合物で予防接種したマウスは、すべて、クレード2ウイルス攻撃から防御された。
【0227】
従って、クレード1およびクレード2 VLPは、両方とも、マウスにおいて免疫原性であり、相同株でのウイルス攻撃に対して防御した。VLPの二価混合物を使用した場合、免疫原性は保持された。さらに、二価VLPを受けていたマウスは、クレード1またはクレード2ウイルスいずれかによる攻撃に対して防御された。参考文献8に報告されているように:「これらの結果は、非常に有意であり、ならびにH5N1に対する多価ワクチンが、H5N1インフルエンザのクレードおよびサブクレードの多様性に立ち向かうための妥当な戦略であるようであることを明示している。」
単なる例として本発明を説明したこと、ならびに本発明の範囲および精神から逸脱することなく本発明に変更を加えることができることは、理解されるであろう。
【0228】
【表1】

【0229】
【数1】

【0230】
【数2】

【0231】
【数3】

【0232】
【数4】

【0233】
【数5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフルエンザウイルスに対して患者を免疫するための方法であって、(i)H5インフルエンザAウイルスの第1クレードからの血球凝集素抗原を含む免疫原性組成物を被験体に投与する工程、およびその後(ii)H5インフルエンザAウイルスの第2クレードからの血球凝集素抗原を含む免疫原性組成物を該被験体に投与する工程を含み、該第1クレードと該第2クレードとが互いに異なり、該免疫原性組成物の一方または両方が、アジュバントを添加したものである、方法。
【請求項2】
インフルエンザウイルスに対して患者を免疫するための方法であって、(i)H5インフルエンザAウイルスの第1クレードからの血球凝集素抗原を含む免疫原性組成物を被験体に投与する工程、およびその後(ii)H5インフルエンザAウイルスの第2クレードからの血球凝集素抗原を含む免疫原性組成物を該被験体に投与する工程を含み、第1クレードと第2クレードとが互いに異なり、該免疫原性組成物の一方または両方が、インフルエンザAウイルスノイラミニダーゼ抗原を含む、方法。
【請求項3】
インフルエンザウイルスに対して患者を免疫するための方法であって、H5インフルエンザAウイルスの第2クレードからの血球凝集素抗原を含む免疫原性組成物を被験体に投与する工程を含み、該患者は、H5インフルエンザAウイルスの第1クレードからの血球凝集素抗原を含む免疫原性組成物を以前に受けており、該第1クレードと該第2クレードとが互いに異なり、ならびに、該第2クレードの抗原を含む組成物が、アジュバントを添加したものであり、および/またはインフルエンザAウイルスノイラミニダーゼ抗原を含む、方法。
【請求項4】
インフルエンザウイルスに対して患者を免疫するための方法であって、(i)H5インフルエンザAウイルスの第1クレードからの血球凝集素抗原を含む免疫原性組成物を被験体に投与する工程、およびその後(ii)H5インフルエンザAウイルスの第2クレードからの血球凝集素抗原を含む免疫原性組成物を該被験体に投与する工程を含み、該第1クレードと該第2クレードとが互いに異なり、該第1クレードが、クレード0ではない、方法。
【請求項5】
インフルエンザウイルスに対して患者を免疫するための方法であって、(i)H5インフルエンザAウイルスの第1クレードからの血球凝集素抗原を含む免疫原性組成物を被験体に投与する工程、およびその後(ii)H5インフルエンザAウイルスの第2クレードからの血球凝集素抗原を含む免疫原性組成物を該被験体に投与する工程を含み、該第1クレードと該第2クレードとが互いに異なり、ならびに該組成物の一方または両方が、1用量につき≦15μgのH5の血球凝集素を含有する、方法。
【請求項6】
前記第1クレードが、クレード1であり、前記第2クレードが、クレード2である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記第1クレードが、クレード2であり、前記第2クレードが、クレード1である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記第1クレードが、クレード1であり、前記第2クレードが、クレード2ではない、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記第1クレードが、クレード2であり、前記第2クレードが、クレード1ではない、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記免疫原性組成物の少なくとも1つが、スプリットビリオンウイルスである、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記免疫原性組成物の少なくとも1つが、インフルエンザAウイルスノイラミニダーゼを含む、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記第1クレードの抗原を含む組成物が、アジュバントを添加したものである、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記第2クレードの抗原を含む組成物が、アジュバントを添加したものである、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記第1クレードの抗原を含む組成物が、アジュバントを添加したものであり、かつ前記第2クレードの抗原を含む組成物が、アジュバントを添加したものである、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
H5インフルエンザAウイルスの1つより多くのクレードからの血球凝集素抗原を含む免疫原性組成物。
【請求項16】
H5インフルエンザAウイルスのクレード1および2からの血球凝集素を含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
アジュバントを添加した(例えば、サブミクロン水中油型エマルジョンを伴う)ものである、請求項15または請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
1クレードにつき45μg未満のH5血球凝集素を含有する、請求項15から17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
1クレードにつき15μg未満、例えば1クレードにつき7.5μgまたは1クレードにつき3.75μgのH5血球凝集素を含有する、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
全ビリオン抗原およびアルミニウム塩アジュバント(例えば、水酸化アルミニウムおよび/またはリン酸アルミニウム)を含有する、請求項17から19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記抗原の供給源として使用されるウイルスが細胞培養(例えば、Vero細胞)上で増殖され、かつオボアルブミンおよびオボムコイドが含まれていない、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
スプリットビリオン抗原または精製表面抗原、およびサブミクロン水中油型エマルジョンアジュバントを含有する、請求項17から19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
前記エマルジョンが、スクアレンを含む、請求項17または請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
1つのH5クレードにつき7.5μgのHAを含有する、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
1つのH5クレードにつき3.75μgのHAを含有する、請求項23に記載の組成物。
【請求項26】
2価ワクチン組成物である、請求項15〜25のいずれか一項に記載の組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2011−504486(P2011−504486A)
【公表日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534564(P2010−534564)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【国際出願番号】PCT/IB2008/003580
【国際公開番号】WO2009/068992
【国際公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】