説明

HTLV―3の蛋白質の分離、エイズおよび前エイズ条件を持つ患者の血清中HTLV―3に対する抗体の血清学的検出、およびHTLV―3およびその蛋白質を使用した免疫分析によるHTLV―3感染の検出

【発明の詳細な説明】
技術分野 本発明はエイズ(AIDS)および前エイズ(pre−AIDS)患者の血清中にある抗体の検出並びにHTLV−IIIウイルスおよびその抗原の生化学的および免疫学的分析に関する。更に詳しくは、本発明はエイズを生じさせるウイルスによる感染の検出方法,エイズを生じさせるウイルスによる感染の検出キット及びエイズを生じさせるウイルスによる感染の検出器具に関する。
背景技術 向Tリンパ性レトロウイルスの一群は、このウイルスが感染した人間にT細胞増殖白血病、T細胞欠失および免疫抑制が起る。このようなレトロウイルスは向T4レトロウイルスのHTLV群として知られている。その中でHTLV−I群はT細胞増殖と白血病の原因となり、HTLV−II群は試験管内でT細胞増殖を誘導するが病気における役割は未明である。第三の群でHTLV−IIIと集合的に命名された群が、後天性免疫不全症候群(エイズ AIDS)患者の培養細胞から分離された。HTLV−IIIの生物学的性質およびその蛋白質の免疫学的分析から、このウイルスはHTLVに属することが判った。エイズ患者のほぼ100%および前エイズの同性愛男性の90%近くの血清はHTLV−IIIの抗原に反応性の抗体を含み、異性愛献血者については1%以下の者の血清がこの抗体を含む。主たる免疫反応はウイルスのコア抗原と考えられる分子量24,000の蛋白質であるp24と、ウイルスのエンベロープ抗原と考えられる分子量41,000の蛋白質であるgp41に対するようである。
後天性免疫不全症候群(エイズAIDS)は世界の数個所に見られる比較的最近認められた病気である。複数の性的関係者を持つ同性愛男性、不法な薬剤静脈内投与乱用者、血友病患者、輸血を受けた者および上記の危険度の高い群の者と親密な異性的接触をした者の間で圧倒的な流行が見られることから、この病気が感染性物の伝達によって広がるということが強く示嗟される。人体における害の最初の対象はT細胞の特異的な一群である。患者のリンパ球数中ヘルパーT細胞(T4)が異常に少くなり、そのためB細胞による抗体産生を含む多くのT4ヘルパー機能の利用が低減され、患者に重篤な免疫不全を起す。
レトロウイルス感染は動物系において免疫機能抑制につながることが知られている。この非人体系に人間の反応が類似していることから、T細胞への向性を持つ人間のレトロウイルスが人間のエイズの病源の候補として考えられた。既に述べたように、ヒト向T−リンバ性レトロウイルス(HTLV)の一群の内のいくつかが分離された。これらの内のひとつは、T細胞リンパ腫の進行型にかかったアメリカ黒人から得られた。このウイルスはHTLV−Iと命名され、病源学的に成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)の病源体とされた。試験管内でのHTLV−Iの感染はT細胞の機能を変え、ある場合にはT細胞を死亡させる。HTLV群のもうひとつは毛細胞白血病のT細胞変種を持つ患者から分離され、HTLV−IIと命名された。HTLV−IとHTLV−IIのエイズ患者の培養T細胞からの分離が報告されている。慢性の全身性リンパ節疾患、すなわち、しばしばエイズに先立つ症候群で、そのために「前エイズ(pre−AIDS)」と呼ばれる疾患の同性愛患者から、もうひとつのレトロウイルス分離が報告された。HTLV−IのプロウイルスDNAが2人のエイズ患者の細胞DNAに検出され、何人かの患者の血清はHTLV−Iの抗原と反応することが認められた。エイズとHTLV−I蛋白質に対する抗血清との相関は弱い。本発明は、この症候群の一次的原因は、公知のHTLV亜群と限られた交差反応性を持つヒト向Tリンパ性レトロウイルス変種であることを示している。これらの新しい変種はHTLV−IIIと命名されている。エイズ患者、前エイズ患者およびエイズの危険性の高い人の血清の免疫学的スクリーニングにこのウイルスを使用することを明らかにする。
HTLV−IIIはこの細胞変性ウイルスが連続的に産生するような状態の細胞の上澄液から精製した。これらのHTLV変種(HTLV−III)は正常のT細胞に対する不朽化(形質転換)性は持たず、主にT細胞ヘルパーに対して細胞変性効果を示す。この細胞変性効果はHTLVの細胞変性株に対して高度に感応性で許容性の、したがって、ウイルス感染後永久に生育する能力を保持している細胞を見い出すことによって克服される。このような細胞の培養によりHTLV−IIIウイルスを連続して産生させることができる。
発明の開示 HTLV−IIIウイルスのヒト細胞への感染と関連する抗原はエイズ患者からの抗体により特異的に認められる。特に、エイズ患者から分離されたり、HT細胞株と共培養することによって伝達されたHTLV−IIIまたはその抗原はエイズ患者から採られたヒト血清からの抗体と特異的に反応する。抗体または抗原存在の検出は、望みに応じて、この反応によって行うことができる。この分析は、HTLV−IIIウイルス感染細胞、並びに、一般に、細胞が本当にこのウイルスを産生しているかどうかをたしかめるためにこのウイルスを含む培養物を監視したり、患者の血清中にエイズ抗体を検出するために、非常に有用である。もし未同定の培養物があれば、この抗原はそれがHTLV−IIIウイルスを含んでいるかどうかを示すひとつの方法を与える。HTLV−IIIの精製した抗原を使用して、この抗原の拮抗ラジオイムノアッセイが実施できる。培養物が分析において拮抗すれば、その培養物がこの蛋白質を含むことを意味する。もし、この蛋白質を含んでいれば、ウイルスなしでこの蛋白質を含むことはあり得ないので、それはウイルスを含んでいる。望ましいこの検出方法には、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ELISA(酵素結合イムノソルベントアッセイ)およびELIA(間接螢光分析)、並びにウエスタンブロット法およびウエスタンドット法が含まれる。p24とgp41抗原が特に望ましい。p24抗原はウイルスの主要なコア蛋白質であり、gp41抗原はウイルスの主要なエンベロープ抗原である。
図面の簡単な説明 第1図は実施例2の方法に従った患者の血清によるHTLV−III抗原の同定を表わす。
第2図はHTLV−I、HTLV−IIおよびHTLV−IIIに対するウサギ超免疫血清の反応により得られた蛋白質バンドを表わす。
第3図は125Iによって標識された試料のSDS−ポリアクリルアミドゲル泳動像を表わす。
第4図はエイズまたはエイズ関連条件にある患者の血清によるHTLV−IIIの125I標識p24の免疫沈殿結果を表わす。
第5A図は非標識HTLV−III抽出物による標識p24の沈殿の全拮抗を表わす。
第5B図はHTLV−IIIp24の免疫沈殿を阻害したHTLV−III感染細胞の2株(H4/HTLV−IIIおよびH9/HTLV−III)を示すと共に、相当する非感染細胞は全く効果が無かったことを表わす。
寄 託 本発明に関するH9/HTLV−III Bで示す細胞株は1984年4月19日にATCC No.CRL8543としてアメリカン タイプ カルチャー コレクション(American Type Culture Collection)(エイティーシーシー、12301パークローンドライブ、ロックビル、メリーランド20852−1776、アメリカ合衆国ATCC、12301 Parklawn Drive、Rockville、Maryland 20852−1776、USA)に寄託した。H9は本発明において代表的で望ましいクローン化細胞である。更にMolt3/HTLV−III Bを1984年8月15日にATCC No.CRL8602としてATCCに寄託した。これらの寄託により寄託物の永続性が保証され、一般に容易に入手できる。
発明を実施するための最良の形態 エイズからのリンパ球との共培養によりHTLV−IIIが伝達されたH9のような不朽化ヒトT細胞クローンの細胞破砕物をウエスタンブロット法に基くストリップラジオイムノアッセイ(RIA)でヒト血清を使って試験した。この分析に使用した血清も精製HTLV−IIIを使ってELISAによって試験した。エイズ患者、何人かの同性愛者およびヘロイン常用者からの血清には、他のいかなる方法によっても検出されなかった多くの特異的抗原が認められた。すなわち、HT細胞によってつくられたHTLV−IIIウイルスに関連する抗原により、エイズおよび前エイズ患者の血清中の抗体を検出することができる。HTLV−IIIウイルスおよびその抗原も献血された血液のようなヒト血清の他の試料についてエイズおよび前エイズを検出することができる。
また、HTLV−IIIに対し少くとも二種の画分、すなわち、HTLV−III AおよびHTLV−III Bが存在することがDNA融合から結論され、これらは本発明の分析キットの方法に使用できる。更にHTLV−IIIの組換え画分を調製した。このHTLV−IIIに近い誘導物は本発明の範囲に含まれる。著顕な免疫反応または特異性はHTLV−IIIウイルスのエンベロープ抗原である分子量41,000の蛋白質、gp41とHTLV−IIIウイルスのコア抗原である分子量24,000の蛋白質、p24に対している。p24抗原は、ほとんどのウイルスで分子量が約30,000であることからp30ホモログと呼ばれる。ウシ白血病ウイルスおよびHTLVシリーズではその蛋白質の分子量は約24,000である(アミノ酸配列による関係を示す蛋白質の試験において、相同性(ホモロジー)の考えは重要である。二種の蛋白質のアミノ酸配列を決定して、この配列を並べた際に、もし両方の蛋白質について同じアミノ酸が同じ位置にあれば、二種の蛋白質は相同性を持つという。)エイズ患者、何人かの同性愛者およびヘロイン常習者の血清に、正常の血清に見られない多くの他の特異抗原が認められる。これらの抗原はおよその分子量が65,000(p65)、60,000(p60)、および55,000(p55)である。他の抗原も検出されるが、これらが最も意味を持っている。実施例4にこれらの反応の特異性を説明する。
HTLV−IIIウイルスは組織培養液のような不純なウイルス源から下記のようにして精製できる。ウイルスをジャーナル オブ バイロロジー38巻906−915頁1981年6月(J.of Virology、38:906−915、June1981)に記載された方法の蔗糖密度バンド形成法により濃縮し精製する。ウイルスはそれぞれ特定の密度を持ち、HTLV−IIIが属するC型レトロウイルスは蔗糖溶液中で1.16g/ccの密度を持つ(各画分の少量についてHTLV−III特異逆転写酵素活性を測定してウイルス画分の位置を決定できる)。細胞を培地から除いて透明な培養液を得る。この培養液を連続遠心機で遠心分離する。培地を遠心分離機に入れると、ローターの回転により、試料中の粒子は1.08から1.29g/ccの範囲の密度を持つ20〜60%の間の蔗糖勾配を通ってローターの周辺に向って動く。粒子は自身の密度と同じ周辺密度である蔗糖勾配の点まで周辺に向って移動する(約36%−38%蔗糖で、約1.16の同じ密度を持つ)。それ以上遠くへは動くことはできない。すべての透明な培養液をロータに通すと、すべての粒子がその点(バンド)に集められる。ウイルスが平衡に達するまで遠心分離を続け、粒子はそれ以上遠くへ移動しない。ローターの内容物をポンプで出し、それぞれ異った密度の画分を集めることによって各画分を集める。このようにしてウイルスを精製する。細胞は最初に除去しており、またウイルスより密度が高いため、最初の除去段階でもれたものは蔗糖勾配でより遠くに行くので、1.16密度画分には細胞は含まれない。培養液からの遊離蛋白質も軽いためにほとんど混入しない。1.15−1.18g/ccの密度範囲にバンド形成した物質を集めて実験に使用する。
コア蛋白質p24を得るために、NP40またはTritonX100またはTween20のような非イオン性洗剤と塩(塩化ナトリウム)を加える。洗剤は脂質をも含むエンベロープを破壊するために、この組合せは重要である。洗剤が脂質を乳化し、構造から除去する。それによりウイルス粒子が塩化ナトリウムの作用を受けるようになる。塩化ナトリウム添加したことによるイオン化環境がコア蛋白質を含む蛋白質とコアの中の核酸との相互作用を破壊する。このようにして、ウイルスを洗剤と塩とで処理して核酸と遊離蛋白質の懸濁液を得る。核酸は再結合して複合物を形成するので、核酸を除くまで懸濁液のイオン強度を下げない。したがって、塩を0.3Mまでわずかに下げ、陽イオン構造であるイオン交換樹脂、ジエチルアミノエチルセルロース(DEAEセルロース)のカラムを通す。これは正荷電しているので、負荷電物を結合する。ウイルス抽出物を核酸と蛋白質を分離して保つに十分な約0.3M塩濃度でDEAEセルロースカラムを通す。カラムを通る時、DEAEセルロースは核酸を捕捉し、蛋白質をカラムに結合させずに流出させる。
核酸をDEAEセルロースで除去した後に、蛋白質溶液を緩衝液に対して透析する。pHを約6.5に調整した後、ホスホセルロースでクロマトグラフィーを行う。蛋白はカラムに結合し、塩の濃度勾配で溶出される。異った蛋白質が異った塩度で溶出する。p24は0.25モルと0.35モル塩化ナトリウムの間で溶出する。他の方法として、精製を高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)で行うことができる。
要約すると、HTLVのp24ウイルス抗原を精製回収する方法には下記の工程が含まれる:(1) 組織培養液から細胞を除去すること;
(2) 蔗糖密度バンド形成法により不純ウイルスを濃縮、精製すること;
(3) Triton X100のような非イオン性洗剤および塩化ナトリウムを加えてウイルス内部の核酸と蛋白質を遊離させること;および(4) DEAEセルロース(陽性)でクロマトグラフィーを行い、次いでホスホセルロース(セルロースホスフェート樹脂)でクロマトグラフィーを行うこと。
抗体を検出するラジオイムノアッセイ法には、下記の実施例2に例示したウエスタンブロットのようないわゆるブロット手法の放射標識分析が含まれる。
酵素結合イムノソルベント分析(ELISA)(実施例1参照)も抗体の検出に使用でき、望ましい。ELISA試験の要点は、HTLV−IIIの抗原を用いた(望ましくは予じめマルチウェルディッシュの穴表面に付着させておく)エイズ患者血清中の特異抗体の反応、および、引き続き、このようにして形成した免疫複合体(望ましくはディッシュ表面で)と、ヒト免疫グロブリンと反応性の二次抗体を用いた反応である。この二次抗体は、適当な基質と反応させると着色した可溶性生成物を生じる好適な酵素で標識しておく。生じる色の濃さが患者血清の抗体タイターの測定値であり、ELISAプレートリーダーを使って測定する。
ELISA試験キットの構成成分は次のものである:1) HTLV−III破砕液で被覆し、抗原−抗体相互反応以外で蛋白質がプレートに更に吸着されることを防ぐために蛋白質溶液で処理したミクロタイタープレート;
2) HTLV−III抗原に対し反応性と抗体タイターの判っている陽性対照のヒト血清;
3) HTLV−III抗原に対する抗体タイターを持たない陰性対照血清;
4) 酵素(例えばペルオキシダーゼ、ホスファターゼ等)で標識したヒト免疫グロブリンに反応性の二次抗体、および二次抗体をつくった動物種の正常血清を含む抗体希釈用の希釈溶液;
5) ペルオキシダーゼの基質混合物(例えば0.05%オルトフェニレンジアミンおよびH2O2);
6) 酵素反応を停止するための溶液(例えばオルトフェニレンジアミンとH2O2のペルオキシダーゼ反応には4NH2SO4);
7) PBSおよび0.02%Tween−20(または他のもの)を含む洗浄用緩衝液;および8) リン酸緩衝化食塩液(PBS)。
試験する血清をミクロタイタープレートの抗原で被覆した穴に入れ、室温で2時間(またはより長時間)置くことにより試験を行う。穴を洗浄用緩衝液で洗い、酵素標識した二次抗体と37℃で1時間反応させる。プレートを洗浄用溶液で再び洗浄し、次いでPBSのみで洗浄する。このプレートを次に基質溶液と反応させ、10−30分間置いて後、適当な溶液を加えることによって反応を停止する。各々の穴に生じた色をELISAプレートリーダーで測定する。
上記のELISA系はHTLV−III破砕液の代りにHTLV−IIIの精製p24を使った変法で行うこともできる。
HTLV−IIIに対する抗体は間接免疫螢光分析によって検出してもよい。この手法の例は実施例3を参照のこと。出発物質として感染T細胞を使用するのでこの方法は意味を持つ。ELISAおよびウエスタンブロット手法はHTLV−IIIウイルスを使って始める。
上記のように、HTLV−IIIに対す抗体はウエスタンブロット法によりエイズまたは前エイズ患者の血清中に検出することもできる(例えば実施例2参照)。HTLV−IIIを破砕し、ポリアクリルアミドスラブゲル上で電気泳動的に分画する。次いで、ゲル上の蛋白質バンドをニトロセルロースシート上に電気泳動的に、例えばトランスバースエレクトロフォレシスにより移す。ニトロセルロースシートの残りの蛋白質結合部位を、ウシアルブミンのような無関係の蛋白質を含む溶液中にシートを置くことによって飽和させ、シートを細片に分割して、各細片が分離したバンドのようなウイルス抗原の代表的な側面を含むようにし、この各細片を構造体結合抗原として血清試料中のそれらと反応する抗体を検出するのに使用する。細片固相ラジオイムノアッセイを行う。エイズにかかったと疑われる人間の患者から得た試験用血清を上記細片を入れた試験管に加える。125I標識ヤギ抗ヒト免疫グロブリンのもうひとつの抗体を反応細片に加えた後、その細片をX線フィルムに暴露する。エイズ抗体存在陽性の細片は分子量41,000の位置の所に広いバンドを示す。
ウエスタンブロット試験キットの構成成分には次のものが含まれる:1) 既にゲル電気泳動によって分画され、上記のようにシートに移されたウイルス蛋白質バンドを持ち、それ以上の非特異的蛋白質結合を防ぐために蛋白質溶液で適当に保護されたニトロセルロース(または他の高分子構造物)シート;
2) 陽性対照ヒト血清;
3) 陰性対照ヒト血清;
4) 適当な動物宿主でつくられ、放射活性標識したヒト免疫グロブリンに対する二次抗体;
5) 希釈用溶液;
6) 洗浄用溶液(0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1M NaCl、0.5%Triton X−100、0.1mMフェニルメチルスルホニルフルオライドおよび10mMリン酸ナトリウム;pH7.5);および7) キャップ付試験管(例えば15cc)。
ウエスタンブロット試験キットを使用するには、各細片を希釈溶液2.5mlを含む15cc試験管に入れ、試験する血清25μ■と反応させて4℃に1夜置く。溶液を除いた後、細片を同じ試験管内で、洗浄用溶液を3回取換えて、洗浄中十分に撹拌しながら洗浄する。希釈溶液2.5mlを各試験管に加え、室温に1時間置く。放射性二次抗体溶液(約2.5×106dpmの125I)20μ■をその試験管内容物に加える。室温に更に30分間置いた後、液体を除いて、細片を上記のように洗浄する。各細片を試験管から取り出し、ペーパータオル上で水気を吸い取らせて乾かし、■紙上に順番に置いて、サラン ラップ(Saran Wrap)のような薄いプラスチックフィルムで包んだ後、暗黒下でX線フィルムに暴露する。フィルムを24−48時間後に現象する。ウイルス抗原と反応性の抗体はX線フィルム上の黒い像によって検出される。分子量40−45,000の抗原および分子量23−25,000の抗原に対して抗体反応陽性がHTLV−III抗体の診断である。
精製p24は125Iにより放射性標識してよい。沃素を先ず蛋白質のチロシン残基に結合させる。放射性標識およびラジオイムノアッセイ(RIA)の方法はカリアナラマン等、ジャーナル オブ バイロロジー38巻3号906−915頁1981年6月(Kalyanaraman et al,J.of Virology 38(3):906−915、June1981)に記載された方法に従って行うことができる。
この試験方法の本質は、抗原(一般に蛋白質性の物質または炭水化物分子または他の高分子物質)と関係する抗原に対する特異抗体(例えばHTLV−IIIに対するウサギIg)間の免疫複合体形成に基いている。この複合体は使用した第1の抗体に対して反応性の第2の抗体(例えばウサギIgに対するヤギIg)と更に反応する。この反応により抗原、一次抗体および二次抗体から成る三元複合体が形成される。更に、常に試験において存在するすべての抗原を複合体にするに必要な量より過剰に使用する一次抗体は、二次抗体と二元複合体をも形成する。この複合体の混合物は目に見える沈殿として表われ、遠心分離によって沈降させることができる。試験に使用する抗原は通常同位体125Iで放射標識されている。したがって、免疫沈殿は、沈殿に結合している放射能を適当な計測(例えば125I−標識抗原にはガンマー線計測)により測定して容易に追跡できる。
HTLV−III p24のための拮抗ラジオイムノアッセイ試験キットの構成成分には次のものが含まれる:(1) 標識p24(例えば125I);
(2) HTLV−III p24と反応性の一次抗体(HTLV−III p24を含む抗原標品を接種した動物にできた超免疫抗体、またはHTLV−III p24に対する沈殿抗体を含むことが判っている患者の血清);
(3) 一次抗体に対する二次抗体(もし使用する一次抗体がウサギ免疫グロブリンであればウサギ免疫グロブリンに対する抗体、または、もし一次抗体がHTLV−III p24に対応性のヒト血清であればヒト免疫グロブリンに対する抗体);
(4) HTLV−III p24の存在を調べる被験試料;
(5) pH緩衝液、界面活性剤等。
この試験キットを利用する手順は、非放射標識被験試料を多段階希釈したものを別々の試験管中で一次抗体と1時間反応させ、一定量の放射性抗原を加える。次いで反応混合物を最初は37℃、次に4℃で一夜置く。二次抗体を加え、反応混合物を更に37℃に1時間置いた後、4℃で2時間置く。反応混合物を遠心分離して沈殿を沈降させ、上澄液を吸い出し、沈殿の放射能をガンマー線カウンターを使って測定する。
拮抗する抗原を含まない反応混合物における沈殿の放射能を標識抗原の最大沈殿量とする。非標識抗原と一次抗体との前処理が沈殿の放射能を減少させている場合、結論は、未知試料はHTLV−III p24の抗原活性を含むということである。
図面の詳細な説明 第1図は、実施例2の方法によって患者の血清によりHTLV−III抗原を同定したものを表わす。
第2図は、HTLV−I、HTLV−IIおよびHTLV−IIIの間の抗原的交差反応のウエスタンブロット分析を表わす。HTLV−I、HTLV−IIおよびHTLV−IIIの抽出物をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分画し、蛋白質のバンドをニトロセルロースシートに電気泳動的に吸取らせる。5%ウシ血清アルブミンと反応させて残存する蛋白質結合部位を保護した後、シートを断片に切って、各々がHTLV−I、HTLV−IIおよびHTLV−III蛋白質の帯を含むようにする。セグメントAはHTLV−I抽出物に対して調製したウサギ抗血清と反応させ、セグメントBはHTLV−II抽出物に対するウサギ血清と、セグメントCはHTLV−III抽出物に対するウサギ血清と、セグメントDは正常ウサギ血清と反応させた。洗浄後、セグメントを125Iで標識したウサギ免疫グロブリンに対するヤギIgGと反応させた。シートを十分に洗浄し、水分を吸取って乾燥し、X線フィルムに暴露した。各セグメントのレーン1,2および3はHTLV−I、HTLV−IIおよびHTLV−IIIを表わす。左側の数字はいっしょに電気泳動した標準マーカー蛋白質の分子量を1000で表わす。
第3図はHTLV−I、HTLV−IIおよびHTLV−IIIの125I標識p24の電気泳動図を表わす。HTLV−I(C)、HTLV−II(B)およびHTLV−III(A)の125I標識p24蛋白質はSDS存在下に円筒状12%ポリアクリルアミドゲルでの電気泳動により分析した。ゲルを1mm薄片に分割し、ガンマ線カウンターで計測した。平行したゲルにおけるキモトリプシン(mwt=25,500)の125I標識試料の位置を垂直点線で示す。
第4図はエイズ患者血清による125I標識HTLV−III p24の免疫沈殿を表わす。免疫沈澱はカリアナラマン等、ジャーナル オブ バイロロジー38巻909−915頁(1981年)(Kalyanaraman et al,J.Virol.,38:906−915(1981)の二重抗体法によって行った。血清を段階希釈して標識したHTLV−III p24(約8000cpm)と20mM Tris−HCl(pH7.5)、0.2M NaCl、0.3%Triton X−100、2mg/mlウシ血清アルブミン、1mM EDTAおよび0.1mM PMSFを含む200μ■の反応混液中で37℃、1時間反応し、次いで4℃で1夜置いた。次いで30倍過剰量のヤギ抗ヒトIgGを加え、更に37℃で1時間、4℃で2時間置いた。反応混液を緩衝液で1mlに希釈し、Beckman TJ−6遠心分離機により4000rpmで15分間遠心分離した。ペレットに結合した放射能をガンマー線カウンターにより測定した。
第5図はHTLV−III p24の同族拮抗ラジオイムノアッセイを表わす。この分析には破砕HTLV−IIIに対して調製した超免疫ウサギ血清の1:1500希釈物を使用した。拮抗する非標識−抗原が存在しない場合に、この希釈血清は125I標識p24の20%を沈殿させた。標識抗原(約8000cpm)を加える前に、ウサギ血清を表に示した非標識抗原と37℃で1時間予じめ反応させた。それ以後の分析の詳細は、使用した二次抗体がヤギ抗ウサギ免疫グロブリンであることを除けば、第4図の説明に記載したものと同じである。
A.レトロウイルス抽出物との拮抗







EIAV p26.B.細胞抽出物との拮抗

実施例1エイズおよび前エイズリンパ腺症症候群患者血清中のHTLV−IIIに対する抗体 96穴プレートの穴を、100μ■の50mM重炭酸ナトリウム緩衝液中、穴当り0.5μg蛋白質で密度でバンドを形成させたHTLV−IIIの破砕物で1夜被覆した。穴を水洗し、リン酸緩衝化食塩液(PBS)に溶解した5%ウシ血清アルブミン100μ■で20分間処理した。洗浄後、20%正常ヤギ血清PBS溶液100μ■を各穴に加え、被験血清(ヒト患者が採取した血液)5または10μ■を加えてから、室温で2時間反応させる。結合していない抗体を除くために、穴を0.5%Tween20PBS溶液で3回洗浄し、1%正常ヤギ血清PBS溶液で1:2000に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトIgGと室温で1時間反応させた。ヤギ抗ヒトIgGは、陽性の穴に形成される抗原−抗体複合体と結合する二次抗体である。結合していないヤギ抗体を除去するために、0.05%Tween20PBS溶液で4回、PBSで4回、穴を洗浄し、リン酸−クエン酸緩衝液、pH5.0、の中に0.05%オルトフェニレンジアミンと0.005%過酸化水素を含む基質混液100μ■と反応させた。この基質混液はペルオキシダーゼ標識を検出し、着色生成物を形成する。反応を4NH2SO450μ■を加えて停止し、生じた色を、定量的に色を読みとるELISAリーダーを使って測定した。分析は同じものを2通り行った。4個の正常な陰性対照読み値の平均の3倍以上大きい吸収読み値を陽性とした。結果を第1表に示す。


実施例2 試験域のウエスタンブロット分析は下記のようにして行った。HTLV−IIIを破砕し、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の存在下に12%ポリアクリルアミドスラブゲル上で電気泳動により分画した。ゲル上の蛋白質バンドをトウビン等、プロシーディングズ オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ オブ ザ ユナイテッドステイツ オブ アメリカ、76巻4350頁(1979年)(Towbin et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA、76:4350(1979))の方法に従ってニトロセルロースシートに電気泳動的に移した。次いで、細片固相ラジオイムノアッセイを行った。0.9%NaClを含むpH7.5の10mM Tris−HClに溶解した5%ウシ血清アルブミンとシートを37℃で2時間反応させ、0.5cmの細片に切断した。2.5mlの緩衝液1(20mM Tris−HCl、pH7.5、1mM EDTA、0.2M NaCl、0.3%Triton X−100および2mg/mlウシ血清アルブミンおよび0.2mg/mlヒト抗体画分、Fab)を入れたスクリューキャップ試験管中で、各細片を37゜で2時間および室温で2時間反応させた。エイズ患者または前エイズ症状を呈している患者から採った被験血清(25μ■)を細片を入れた各試験管に加え、室温で1時間、冷温で1夜、反応を続ける。0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1M NaCl、0.5%Triton X−100、1mMフェニルメチルスルホニルフルオライドおよび10mMリン酸ナトリウム、pH7.5を含む溶液で細片を3回洗浄した。この細片を緩衝液1.24mlおよび正常ヤギ血清0.1mlと室温で1時間反応させた。親和精製し、125I標識したヤギ抗ヒト免疫グロブリン(μ錯およびFcフラグメント)(1.25×106cpm)を反応混液に加え、室温に30分間置く。細片を上記のようにして洗浄し、乾燥して載せ、X線フィルムに暴露した。第1図にこの実験の結果を図示する。細片1は成人T細胞白血病患者からの被験血清である;細片2は正常の献血者;細片3はエイズの子供の母親;細片4および6−10はエイズ患者;細片5は前エイズ患者である。
実施例3HTLV−IIIに対する抗体の固定細胞および生細胞間接免疫螢光分析 インジケイター細胞:HTLV−III感染陰性細胞;陰性対照:非感染T細胞。
感染細胞をリン酸緩衝食塩液(PBS)で洗浄し、PBSに106細胞/mlに再懸濁した。約50mlの細胞懸濁液をスライド上に置き、風乾し、アセトン中、室温で10分間固定した。スライドを使用するまで−20℃で貯蔵した。PBSで1:10に希釈した被験ヒト血清20mlを固定した細胞に加え、37℃で1時間反応させた。スライドを洗浄し、フルオレッセイン結合ヤギ抗ヒトIgGの希釈液と室温で30分間反応させた。スライドを再び洗浄し、顕微鏡下で螢光を調べた。陰性対照には非感染親細胞を使った。抗原−抗体反応を細胞の内部および外部で調べる固定細胞系を上に記載した。
生細胞免疫螢光分析では、すべての上記の反応はスライド上の代りに試験管中で行うが、細胞の化学的固定は行わない。螢光体結合抗ヒト抗体との反応後、細胞をスライド上に載せ、顕微鏡下で細胞の表面上の抗原−抗体反応を調べる。
これらの分析のそれぞれの結果はエイズおよび前エイズ患者の血清との特異的な強い螢光反応を示している。
実施例4 臨床的に文書で証明されているエイズ、カポジ肉腫の患者、エイズ患者との性的接触者、静脈内薬物常用者、同性愛男性および異性愛献血者の血清についてHTLV−IIIに対する反応を試験した。採用した系はELISAであった。蔗糖密度バンド形成HTLV−IIIの破砕物で96穴ミクロタイタープレートの穴を被覆した。被験血清を正常ヤギ血清の希溶液で希釈し、穴に加え、室温で2時間または一夜反応させた。ヒト血清中の抗体は、一時免疫複合体とペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒト免疫グロブリンとの反応後、着色ペルオキシダーゼ反応生成物の出現によって検出された。得られた結果を第1表に示す。臨床的に診断されたエイズ患者49人について43人(88%)がこの分析で血清の反応を示した。前エイズの同性愛男性14人もHTLV−IIIに対する抗体を試験した。これらの内、11人(79%)が陽性であった。臨床的にエイズの症状を持たない同性愛男性17人の内7人が陽性となった。これらの中で、少くとも1人はエイズと診断された患者と長期間性的関係にあったことが知られていた。1人は永続的疲労がエイズの初期の徴候を示していた。HTLV−IIIに対する血清抗体が陽性であった3人の静脈内薬物常用者の内の1人もまた同性愛者であった。
これに対して、試験した186人の対照の内たヾ1人がこの試験において陽性であった。これらには3人のB型ウイルス肝炎、1人の変形関節炎、6人の全身エリテマトーデス、4人の急性単球増加症および8人の種々な形のリンパ性白血病およびリンパ腫を含み、これらの内何人かがHTLV−Iに対し陽性であった。残りの被験者は、年令22乃至50の範囲の試験室従業員を含む性的嗜好不明の正常献血者であった。
実施例5 反応の特異性を調べるために、HTLV−III感染細胞株の破砕物を、ウイルス感染前の同じ細胞の破砕物と比較して分析した。試験した全てのヒト血清からの抗体には結合するがウサギまたはヤギ血清のものには結合しないH17における分子量80,000のバンド以外には、非感染株に反応性抗体は見られなかった。ウイルス感染後に新たに表現され、この分析で使用したヒト血清によって認められる抗原にはp65,p55,gp41,p39,p32およびp24が含まれる。さらに、分子量約130,000の大きな蛋白質(gp160)および分子量48,000のものが検出された。正常なヒト血清についてはいかなる抗原も検出されなかった。これらの結果により、検出された抗原はウイルスにコードされた蛋白質またはウイルス感染によって特異的に誘導された細胞の抗原であることがわかる。
実施例6 H9/HTLV−III細胞の培養上澄液からの蔗糖密度バンド形成HTLV−IIIを、HTLV−IおよびHTLV−IIとの抗原的類似性を調べるために、ウエスタンブロットによって分析した。HTLV−I、HTLV−IIおよびHTLV−IIIの破砕物をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分画し、ニトロセルロースシートに電気泳動的に吸取った。次いで蛋白質のバンドをHTLV−I、HTLV−IIまたはHTLV−IIIに対するウサギ超免疫血清と反応させた。結果を第2図に示す。p24に対し最も強い免疫反応は同族抗血清(レーンA−1、A−2およびC−3)に見られた。中程度の強さの交差反応性がHTLV−II p24と抗HTLV−I(レーンA2)の間、およびHTLV−III p24と抗HTLV−II(レーンB3)の間に見られた。しかしながら、HTLV−III p24と抗HTLV−II(レーンB3)の間に中程度の反応性があるにもかかわらず、HTLV−II p24と抗HTLV−III(レーンC2)の間の逆反応性は見られなかった。正常ウサギ血清(パネルD)との反応は見られなかった。
主要なHTLV−IIIコア蛋白質、p24、を蔗糖密度バンド形成ウイルス標品の破砕物から精製した。ウイルスを50mM Tris−HCl、pH7.9中の0.5%Triton X−100、0.8M NaCl、20%グリセロールおよび0.1mMフェニルメチルスルホニルフルオライド(PMSF)により可溶化し、その抽出物からDEAE−セルロースへの吸着と0.3M NaClによる溶出により核酸を除いた。この溶出液を1mM EDTAと0.1mM PMSFを含む50mM BES緩衝液、pH6.5に対して透析し、同じ緩衝液で平衡化したホスホセルロースカラムでクロマトグラフィーを行った。0から0.6Mまでの直線NaCl濃度勾配により蛋白質を溶出した。HTLV p24は0.25Mと0.3M NaClの間で溶出された。第3図は125I標識後の試料のSDS−ポリアクリルアミドゲル泳動像を示す。電気泳動度でHTLV−III p24はHTLV−I p24およびHTLV−II p24と非常に類似しており、分子量マーカー(mwT=25,500)として平行ゲルで泳動させた125I標識キモトリプシノーゲン(第2図、垂直の点線)より有意に早い。
精製したp24の特異性は患者血清を使った免疫沈殿および超免疫ウサギ血清を使った拮抗ラジオイムノアッセイによって分析した。
第4図はHTLV−IIIの125I標識p24とエイズおよびエイズ関連条件下の患者の血清との免疫沈殿の結果を示す。広範囲の抗体タイターがこれらの実験から認められ、p24の免疫反応性は広範囲に変り、何人かのエイズ患者の血清はp24と有意な抗体反応を示さなかったウエスタンブロットの結果とこの結果は一致した。
同族拮抗ラジオイムノアッセイを125I標識HTLV−III p24と破砕HTLV−IIIに対してつくったウサギ抗体を使用して設定した。第5A図は非標識HTLV−III抽出物による標識p24の沈殿の全拮抗を示す。HTLV−IとHTLV−IIの抽出物はHTLV−IIIより約100倍高い蛋白質濃度において最少の拮抗を示すにすぎない。一方、多くの他の哺乳類レトロウイルス(Feline白血病ウイルス(FeLV)、Rauscherネズミ白血病ウイルス(R−MuLV)、サル肉腫ウイルス(SSV)、ヒヒ内在性ウイルス(BaEV)、リスザルレトロウイルス(SMRV)、Mason−Pfizerサルウイルス(MPMV)、およびウシ白血病ウイルス(BLV)はこの免疫沈殿において拮抗しなかった。同様に、HTLV−III感染した二種の細胞株(H4/HTLV−IIIおよびH9/HTLV−III)はHTLV−III p24の免疫沈殿を阻害したが、相当する非感染細胞は全く効果がなかった(第5B図)。HTLV−IおよびHTLV−II産生細胞は比較的高い蛋白質濃度においてこの拮抗にわずかな効果を示した。したがって、上記の反応はHTLV−IIIおよびHTLV−III産生細胞に特異的であった。HTLV−III p24とHTLV−IおよびHTLV−IIのp24の間に低レベルであるが検出可能な交差反応があった。この交差反応はウエスタンブロット(第2図)のような厳密さの低い系で容易に認められるようになった。ウマ感染性貧血ウイルス(EIAV)の精製p26はHTLV−III p24の同族ラジオイムノアッセイでほとんど交差反応を示さなかった(第5A図)。HTLV−IIIの効果をHTLV−I p24およびHTLV−II p24の同族拮抗ラジオイムノアッセイで調べた。これらの系ではHTLV−IとHTLV−IIの間にかなりの交差反応が見られたが、HTLV−IIIとの拮抗はいずれの分析においても最少見られたにすぎなかった。
この結果から、HTLV−IIIは他のほとんどのレトロウイルスに関連のない主要なコア蛋白質、p24を持つ特異なレトロウイルスということがわかった。しかし、HTLV−IIIのp24はHTLV−IおよびHTLV−IIと低いが検出可能なレベルの抗原的交差反応性を共有するものの、他のレトロウイルスとは共有しない。HTLV−IおよびHTLV−IIとのこれらの交差反応は通常の拮抗ラジオイムノアッセイにおけるよりウエスタンブロット分析でより明白に認められる。これはウエスタンブロットによるHTLV−I p24とBLV p24の間の交差反応の検出と同様であって、拮抗ラジオイムノアッセイを使うとこの二種のウイルスの間にこのような交差反応を示すことはできない。HTLV−IとHTLV−IIは、HTLV−IIIがHTLV−IまたはHTLV−IIに対するより、たがいに近い関係にあることは明らかであった。これらの結果は、HTLV−IIとHTLV−IおよびHTLV−IIの間に限られた核酸配列相同性が、特にゲノムのgag−pol域に検出されることと一致した。
実施例7 治療のために用い得るエイズ感染の有無を特異的に検出するための試験キット(治療的エイズ特異性試験キット)を、いくつかの異った検出法を使って抗体を検出するために組立した。抗体検出試験キットのひとつは、複数の穴、使用前にHTLV−III p24によって被覆されたプレートおよび正常ヤギ血清およびペルオキシダーゼ標識、ヤギ抗ヒトIgGおよびオルトフェニレンジアミンと過酸化水素をリン酸−クエン酸緩衝液中に含む変色指示剤から成る酵素検出のためのELISA材料を含む区分された容器を含んでいた。
ドットブロット手法を使った抗体検出のための第2の試験キットは、“ドットプロッティング”によって付けられたHTLV p24を持つニトロセルロースシートおよび、さらに界面活性剤、pH調整剤、ウシ血清アルブミンおよびヒトFabをその中に含む容器とふたを含んでいた。このドットブロット分析容器は希釈した正常ヤギ血清および125I標識ヤギ抗ヒト免疫グロブリンの供給をも含んでいた。
最後に、拮抗ラジオイムノアッセイを使用するHTLV−III検出のための異ったエイズ感染の有無を特異的に検出するための試験キット(エイズ特異性試験キット)は、区分された容器、HTLV−IIIの125I標識p24、ウサギ(またはヤギ)抗HTLV−p24、および界面活性剤の溶液、pH緩衝液、ウシ血清アルブミン、ウサギ免疫グロブリンに対するヤギ抗血清(またはヤギ免疫グロブリンに対するウサギ抗血清)を含んでいた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】試料を、p24,p32,p39,gp41,p48,p55,p60,p65およびgp160から選ばれたひとつまたはそれより多くのHTLV−III蛋白質に対して特異的な免疫分析法および/またはウエスタンブロット分析法に供して、試料中のHTLV−IIIウイルス,HTLV−IIIウイルスに近い誘導物,HTLV−IIIウイルスに対する抗体またはHTLV−IIIウイルスの抗原を検出することを特徴とする、エイズを生じさせるウイルスによる感染の検出方法。
【請求項2】前記HTLV−III蛋白質がp24であることを特徴とする請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項3】前記HTLV−III蛋白質がgp41であることを特徴とする請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項4】前記HTLV−III蛋白質がgp160であることを特徴とする請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項5】前記試料中のHTLV−IIIに対する抗体を検出するためにHTLV−IIIウイルスを使用することを特徴とする請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項6】前記試料中のHTLV−IIIウイルスに対する抗体を検出するためにHTLV−IIIウイルスの単離した抗原を使用することを特徴とする請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項7】前記方法において、標識したHTLV−IIIウイルス,HTLV−IIIウイルスの標識した近い誘導体またはHTLV−IIIウイルスの標識した抗原を使用することを特徴とする請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項8】前記試料中のHTLV−IIIウイルス,HTLV−IIIウイルスの近い誘導体またはHTLV−IIIウイルスの抗原を、前記方法により検出することを特徴とする請求の範囲第7項記載の方法。
【請求項9】前記識別法がELISA,免疫沈澱分析法および免疫蛍光分析法から選ばれることを特徴とする請求の範囲第1ないし6項のうちのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】免疫複合体を形成させるためにHTLV−IIIに対する抗体をHTLV−IIIウイルスの抗原と反応させ、次いで容易に定量できる生成物を形成させるために前記免疫複合体を標識した二次抗体と反応させることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第4項のうちのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】前記二次抗体に着色生成物を生成し得る酵素が付加されていることを特徴とする請求の範囲第10項記載の方法。
【請求項12】前記二次抗体に放射性125Iが付加されていることを特徴とする請求の範囲第10項記載の方法。
【請求項13】前記識別法が、HTLV−IIIウイルスの蛋白質バンドをドデシル硫酸ナトリウム存在下のポリアクリルアミドゲルでのHTLV−IIIウイルスの電気泳動によって形成させ、そのゲルの蛋白質バンドをニトロセルロースシートに移し、シートを無関係の蛋白質で飽和させ、そのシートをHTLV−IIIウイルスの抗原の輪郭を表わす細片に分離し、次いでその抗原を試料中の抗体を検出するために使用するウエスタンブロット型のものであることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第4項のうちのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】HTLV−IIIウイルスをウイルス培養上澄液から超遠心分離により濃縮し、TNE緩衝液中20%(w/w)蔗糖を通して遠心分離して蔗糖勾配を形成させることにより脂質を除去し、その蔗糖勾配を画分に分画し、次いで各画分の一部についてHTLV−IIIウイルス特異逆転写酵素活性を測定することにより抗原バンドを分離することによって前記抗原を得ることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第4項のうちのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】前記試料が体液の組織培養物または一次細胞を含むことを特徴とする請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項16】前記試料が合成血液生成物を含むことを特徴とする請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項17】前記gp41が標識されていることを特徴とする請求の範囲第3項記載の方法。
【請求項18】前記p24が標識されていることを特徴とする請求の範囲第2項記載の方法。
【請求項19】HTLV−IIIウイルスの標識したコア抗原p24を分析法に使用し、そのp24抗原はa) ウイルス培養上澄液を得、次いで細胞を除くために遠心分離すること;
b) 蔗糖中でウイルスを遠心分離すること;
c) ウイルス内部の核酸を遊離させるために非イオン性洗剤および塩化ナトリウムを加えること;
d) p24コア抗原を回収するためにDEAEセルロースを使ってクロマトグラフィーを行い、次いでホスホセルロースを使ってクロマトグラフィーを行うこと;およびe) 125Iのような沃素同位体を使って蛋白質を標識することによって精製され、標識されることを特徴とする請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項20】試料を、p24,p32,p39,gp41,p48,p55,p60,p65およびgp160から選ばれたひとつまたはそれより多くのHTLV−III蛋白質に対して特異的な免疫分析法および/またはウエスタンブロット分析法に供して、試料中のHTLV−IIIウイルス,HTLV−IIIウイルスに近い誘導物,HTLV−IIIウイルスに対する抗体またはHTLV−IIIウイルスの抗原を検出するための、区分された容器を含む、エイズを生じさせるウイルスの検出方法に使用する、エイズを生じさせるウイルスによる感染の検出キットであって、容器の少くともひとつの区分がHTLV−IIIウイルス,HTLV−IIIウイルスの近い誘導体,HTLV−IIIウイルスに対する抗体およびHTLV−IIIウイルスの抗原の少くともひとつを含み;
更に前記容器の少くともひとつの区分がp24,p32,p39,gp41,p48,p55,p60,p65およびgp160から選ばれた少くともひとつのHTLV−III蛋白質を含むことを特徴とするキット。
【請求項21】前記HTLV−III蛋白質が単離されたp24であることを特徴とする請求の範囲第20項記載の検出キット。
【請求項22】前記容器の第二区分が正常な非ヒト血清を含み、且つ前記容器の第三区分がパーオキシダーゼで標識化された抗ヒトIgGを含むことを特徴とする請求の範囲第21項記載の検出キット。
【請求項23】前記抗ヒトIgGが山羊から得られることを特徴とする請求の範囲第22項記載の検出キット。
【請求項24】前記HTLV−III蛋白質が単離されたgp41であることを特徴とする請求の範囲第20項記載の検出キット。
【請求項25】前記HTLV−III蛋白質が単離されたgp160であることを特徴とする請求の範囲第20項記載の検出キット。
【請求項26】前記少くともひとつの区分がHTLV−IIIウイルスを含むことを特徴とする請求の範囲第20項記載の検出キット。
【請求項27】前記少くともひとつの区分がHTLV−IIIウイルスの単離された抗原を含むことを特徴とする請求の範囲第20項記載の検出キット。
【請求項28】前記少くともひとつの区分がHTLV−IIIウイルス破砕物を含むことを特徴とする請求の範囲第20項記載の検出キット。
【請求項29】前記容器が、HTLV−IIIの125I標識p24抗原,ウサギまたはヤギ抗HTLV−IIIp24,界面活性剤の溶液,pH緩衝液,ウシ血清アルブミンおよびウサギ免疫グロブリンに対するヤギ抗血清またはヤギ免疫グロブリンに対するウサギ抗血清を含むことを特徴とする請求の範囲第20項記載の検出キット。
【請求項30】a) HTLV−IIIウイルス破砕物で被覆され、且つ抗原−抗体反応以外の手段によって蛋白質がプレートに更に吸着しないように蛋白質溶液を用いて処理されたマイクロタイタープレート;
b) HTLV−IIIウイルスの抗原に対して反応性および抗体タイターの判った陽性対照ヒト血清;
c) HTLV−IIIウイルスの抗原に対する抗体タイターの無い陰性対照ヒト血清;
d) ヒト免疫グロブリンに対して反応性の酵素標識二次抗体、および二次抗体が作られる動物種の正常血清からなる二次抗体のための希釈溶液;
e) オルトフェニレンジアミンおよびH2O2の基質混合物;
f) 酵素反応を停止するための溶液;
g) 洗浄用緩衝液;およびh) リン酸緩衝化食塩液を含むことを特徴とする請求の範囲第20項記載の検出キット。
【請求項31】前記容器が複数の穴,使用に先立ってHTLV−IIIによって被覆したプレートおよび正常ヤギ血清およびペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトIgGおよび変色指示剤からなる酵素検出のためのELISA材料を含むことを特徴とする請求の範囲第20項記載の検出キット。
【請求項32】前記変色指示剤がリン酸−クエン酸緩衝液中のオルトフェニレンジアミンおよび過酸化水素からなることを特徴とする請求の範囲第31項記載の検出キット。
【請求項33】前記HTLV−IIIが破砕物の形で存在することを特徴とする請求の範囲第32項記載の検出キット。
【請求項34】前記容器が更にリン酸緩衝化食塩液およびフルオレッセイン結合ヤギ抗血清IgGを含むことを特徴とする請求の範囲第26項記載の検出キット。
【請求項35】前記容器が更にニトロセルロースシートおよびドデシル硫酸ナトリウム存在下のポリアクリルアミドスラブゲル,界面活性剤,pH調整剤,ウシ血清アルブミン,ヒトFab,および正常ヤギ血清および125I標識ヤギ抗ヒト免疫グロブリンの供給を含むことを特徴とする請求の範囲第26項記載の検出キット。
【請求項36】前記容器がa) ゲル電気泳動により既に分離されたHTLV−III蛋白質バンドを持ち、且つそれ以上の非特異的蛋白質結合を防ぐために蛋白質溶液によって適当に保護されたニトロセルロース シート;
b) 陽性対照ヒト血清;
c) 陰性対照ヒト血清;
d) 適当な動物宿主中で作られ且つ放射能標識を付加されたヒト免疫グロブリンに対する二次抗体;
e) 希釈用溶液;
f) 洗浄用溶液;
g) キャップ付試験管を含むことを特徴とする請求の範囲第27項記載の検出キット。
【請求項37】前記洗浄用溶液が、下記の組成:0.5%デオキシコール酸ナトリウム,0.1M NaCl,0.5%Triton X−100,0.1mMフェニルメチルスルホニル フルオライドおよび10mMリン酸ナトリウムを有し、pH7.5の溶液であることを特徴とする請求の範囲第36項記載の検出キット。
【請求項38】前記容器の少くともひとつの区分がエンベロープ抗原gp41を含むことを特徴とする請求の範囲第20項記載の検出キット。
【請求項39】前記容器がa) ゲル電気泳動により既に分離されたHTLV−III蛋白質バンドを持ち、且つそれ以上の非特異的蛋白質結合を防ぐために蛋白質溶液によって適当に保護されたニトロセルロース シート;
b) 陽性対照ヒト血清;
c) 陰性対照ヒト血清;
d) 適当な動物宿主中で作られ且つ放射能標識を付加されたヒト免疫グロブリンに対する二次抗体;
e) 希釈用溶液;
f) 洗浄用溶液;
g) キャップ付試験管を含むことを特徴とする請求の範囲第20項記載の検出キット。
【請求項40】前記洗浄用溶液が、下記の組成:0.5%デオキシコール酸ナトリウム,0.1M NaCl,0.5%Triton X−100,0.1mMフェニルメチルスルホニルフルオライドおよび10mMリン酸ナトリウムを有し、pH7.5であることを特徴とする請求の範囲第39項記載の検出キット。
【請求項41】前記容器が更にエンベロープ抗原gp41またはコア抗原p24と反応性の一次抗体;該一次抗体に対する二次抗体,pH緩衝液および界面活性剤を含むことを特徴とする請求の範囲第39項記載の検出キット。
【請求項42】前記一次抗体が、HTLV−IIIウイルス コア抗原p24またはエンベロープ抗原gp41を含む抗原製剤を接種することによって動物中に作られた超免疫抗体であることを特徴とする請求の範囲第41項記載の検出キット。
【請求項43】前記一次抗体がウサギ免疫グロブリンであり、且つ二次抗体がウサギ免疫グロブリンに対する抗体であることを特徴とする請求の範囲第42項記載の検出キット。
【請求項44】前記一次抗体がHTLV−IIIコア抗原p24またはエンベロープ抗原gp41に対する沈澱抗体を含むことが判っている患者血清に含まれていることを特徴とする請求の範囲第41項記載の検出キット。
【請求項45】前記二次抗体がヒト免疫グロブリンに対する抗体であることを特徴とする請求の範囲第44項記載の検出キット。
【請求項46】前記容器がエンベロープ抗原gp41,またはコア抗原p24に対して評価されるべき試験材料を添加するための反応容器を含むことを特徴とする請求の範囲第41項記載の検出キット。
【請求項47】試料を、p24,p32,p39,gp41,p48,p55,p60,p65およびgp160から選ばれたひとつまたはそれより多くのHTLV−III蛋白質に対して特異的な免疫分析法および/またはウエスタンブロット分析法に供して、試料中のHTLV−IIIウイルス,HTLV−IIIウイルスに近い誘導物,HTLV−IIIウイルスに対する抗体またはHTLV−IIIウイルスの抗原を検出する、エイズを生じさせるウイルスの検出方法に使用する、エイズを生じさせるウイルスによる感染の検出器具であって、p24,p32,p39,gp41,p48,p55,p60,p65およびgp160から選ばれたひとつまたはそれより多くのHTLV−III蛋白質が固体支持体に結合されていることを特徴とする器具。
【請求項48】前記HTLV−III蛋白質がp24またはgp41であることを特徴とする請求の範囲第47項記載の器具。
【請求項49】更に固体支持体に結合した非ヒトIgGを有することを特徴とする請求の範囲第48項記載の器具。

【第1図】
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【第2図】
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【第3図】
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【第4図】
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【第5図】
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【特許番号】第2626721号
【登録日】平成9年(1997)4月18日
【発行日】平成9年(1997)7月2日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭60−502099
【出願日】昭和60年(1985)4月23日
【公表番号】特表昭61−500987
【公表日】昭和61年(1986)5月15日
【国際出願番号】PCT/US85/00762
【国際公開番号】WO85/04903
【国際公開日】昭和60年(1985)11月7日
【審判番号】平6−19802
【微生物の受託番号】 ATCC CRL8543
【出願人】(999999999)アメリカ合衆国
【合議体】
【参考文献】
【文献】特開 昭48−75719(JP,A)
【文献】特開 昭58−146512(JP,A)
【文献】F.BARRE−SINOUSSI ETAL.SCIENCE VOL.220(4599)1983 P.868−871”ISOLATION OF A T−LYMPHOTROPIC RETROVIRUS FROM A PATIENT ATRISK FOR ACQUIRED IMMUNE DEFICIENCY SYNDROME(AIDS)”