I−SceI酵素をコ−ドするヌクレオチド配列、及びその使用
【課題】メガヌクレアーゼI−SceI酵素をコードしたヌクレオチド配列を提供する。
【解決手段】 I−SceI酵素をコ−ドした特定の配列からなる、単離DNAに対して、機能するように連結されたプロモータを具備したDNA配列からなる。該DNA配列は、クロ−ニングベクタ及び発現ベクタ、哺乳類細胞、植物細胞等への形質転換細胞及びトランスジェニック動物へ導入することが可能である。該ベクタは遺伝子マッピングと、遺伝子の部位特異的導入からなる。
【解決手段】 I−SceI酵素をコ−ドした特定の配列からなる、単離DNAに対して、機能するように連結されたプロモータを具備したDNA配列からなる。該DNA配列は、クロ−ニングベクタ及び発現ベクタ、哺乳類細胞、植物細胞等への形質転換細胞及びトランスジェニック動物へ導入することが可能である。該ベクタは遺伝子マッピングと、遺伝子の部位特異的導入からなる。
【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
発明の背景
本発明は、制限酵素I-Sce Iをコ−ドするヌクレオチド配列に関する。本発明はまた、該ヌクレオチド配列を有するベクタ、該ベクタで形質転換した細胞、該ベクタに基づくトランスジェニック動物、及び該動物の細胞由来の細胞株に関する。本発明はまた、真核ゲノムのマッピング、及びin vivoでの部位特異的遺伝的組み換えへのための、I-Sce Iの使用に関する。
【0002】
遺伝子を哺乳類の生殖系列に導入することは、生物学で非常に興味のもたれていることである。外来的に加えたDNAを取り込み、またそのDNA中に含まれている遺伝子を発現するという哺乳類細胞の性向が、長い間知られている。遺伝子操作の結果は、これらの動物の子孫へも遺伝する。これら子孫の細胞全ては、導入遺伝子をゲノムの遺伝的構成の一部として遺伝している。このような動物は、トランスジェニックと呼ばれている。
【0003】
トランスジェニック哺乳類により、胚発生と分化時の遺伝子制御、遺伝子作用、及び免疫系での細胞の相互作用についての研究方法が提供される。該動物全体が、複雑な生物学的プロセスを制御する、操作遺伝子の究極のアッセイ系である。
【0004】
トランスジェニック動物により、種々の遺伝子の、組織特異的な、または発生的制御に関わるDNA配列を機能的に解析する一般的アッセイが提供される。更にトランスジェニック動物は、組み換えタンパク質の発現、及びヒトの遺伝病に関しての正確な動物モデルを作るための有益な媒介物(vehicles)となる。
【0005】
遺伝子クロ−ニングと、動物、及び動物細胞での発現に関する一般的議論は、文献を参照されたし(Old and Primrose, "Principle of Gene Manupilation", Blackwell Scientific Publications, London (1989)255-)。
【0006】
特異的な疾患及び遺伝的障害にかかりやすい性質のあるトランスジェニック株は、これらの状態へ導くイベントの調査において、価値が大きい。遺伝的疾患の処置の有効性は、該疾患の初期的原因である遺伝子欠損の同定に依存する可能性があることがよく知られている。有効な処置の発見は、有効性、安全性、及び処置プロトコ−ルの作用様式(例えば遺伝的組み換え)の研究を可能にする、前記の疾患または前記の障害に導く動物モデルを提供することにより促進される。
【0007】
遺伝的組み換えを理解するための鍵となる問題の一つは、開始工程の性質である。細菌及び真菌を使った相同性組み換えの研究により、二つのタイプの開始機構が提案されるに至った。最初のモデルでは、一本鎖のニックが、鎖の同化と枝の移動(branch migration)とを開始する(Meselson and Radding 1975)。あるいは、二本鎖の切れ目が生じて、次いで開裂していない相同性配列を鋳型として利用する修復機構が働く(Resnick andMartin 1976)。もう一方のモデルは、形質転換用プラスミドを染色体との相同性部分で線状化すると、酵母における組み込み形質転換が劇的に増大するという事実(Orr-Weaver, Szostak and Rothstein 1981)と、酵母の接合型相互変換(mating type interconversion)で現れる二本鎖の切れ目の直接的観察(Strathern et al., 1982)とにより支持されている。最近になって、二本鎖の切れ目が、正常な酵母の減数分裂の組み換え時にも特徴づけられた(Sun et al., 1989; Alani, Padmore and Kleckner 1990)。
【0008】
酵母では、二本鎖エンドヌクレア−ゼ活性が幾つか特徴付けられている:HO及びイントロンにコ−ドされたエンドヌクレア−ゼは、相同性組み換え機能に関連していて、一方、その他のものは、不明の遺伝的機能を有している(Endo-SceI, Endo-SceII)(Shibata et al., 1984; Morishima et al., 1990)。HO部位特異的エンドヌクレア−ゼは、MATのYZジャンクションの近傍で二本鎖の切れ目を入れて、接合型相互変換を開始する(Kostriken et al., 1983)。次いでこの切れ目は、無傷のHMLまたはHMR配列を利用して修復される。HO認識部位は縮重した24bpの非対称的配列である(Nickoloff, Chen, and Heffron 1986; Nickoloff, Singer and Heffron 1990)。この配列は、分子内及び分子間の有糸分裂性、及び減数分裂性の組み換えを促進させるために、人工的構築物中で「組み換え子(recombinator)」として利用されてきた(Nickoloff, Chen, and Heffron 1986; Kolodkin, Klar, and Stahl 1986; Ray et al., 1988, Rudin and Haber 1988; Rudin, Sugarman, and Haber 1989)。
【0009】
ミトコンドリア中でのイントロンの移動性の原因となっている、二つの、部位特異的エンドヌクレア−ゼI-Sce I(Jacquier and Dujon 1985)とI-Sce II(Delahodde et al., 1989; Wenzlau et al., 1989 )は、HO-誘導性変換に似た遺伝子変換を開始する(Dujon 1989をレビュ−として参照されたし)。21S r RNA遺伝子の、オプションイントロンであるSc LSU.1 にコ−ドされているI-Sce Iは、二本鎖の切断をイントロン挿入部位において開始する(Macreadie et al., 1985; Dujon et al., 1985; Colleaux et al., 1986)。I-Sce Iの認識部位は18bpの非対称的配列にわたって伸びている(Colleaux et al., 1988)。 この二つのタンパク質は明らかにその構造により関係していないが(長さに関しては、HOは586アミノ酸であり、一方I-Sce Iは235アミノ酸である)、双方はともに、それぞれの認識部位内に張り出した、4bpのよろめいた(staggered)断片を生成する。ミトコンドリアのイントロンにコ−ドされたエンドヌクレア−ゼは、核内で転写されて、細胞質で翻訳され、核内の部位で二本鎖の切れ目を生成することが分かっている。I-Sce Iに誘導される修復イベントは、HOにより開始されるものと同等である。
【0010】
要約すると当該技術分野では、ヒトの疾患や遺伝的障害の、トランスジェニック動物モデルを提供する方法と試薬とが必要とされている。試薬は制限酵素I-Sce Iと、この酵素をコ−ドする遺伝子をベ−スとすることが可能である。特に、天然の遺伝子を、前記の疾患または前記の障害を軽減する遺伝子で置換するための試薬と方法とが必要である。
【0011】
発明の要約
したがって本発明は、当該技術分野でのこれらの必要性を実現するのを助ける。特には、本発明はI-Sce I酵素をコ−ドする単離されたDNAに関連する。該DNAは以下の配列を有している:
【0012】
【表1】
【0013】
本発明はまた、本発明のI-Sce I酵素をコ−ドしたDNAに対して、機能するように連結されたプロモ−タを具備したDNA配列に関する。
【0014】
本発明は更に、本発明のI-Sce I酵素をコ−ドしているDNA配列と、本願で記載するその他のDNAとに相補的な、単離されたRNAに関する。
【0015】
本発明の一つの態様において、ベクタが提供されている。該ベクタは、本発明のI-Sce I酵素をコ−ドする、プラスミド、バクテリオファ−ジ、またはコスミドベクタを具備している。
【0016】
更に本発明は、本発明のベクタで形質転換された大腸菌(E.coli)、または真核細胞に関する。
【0017】
また本発明は、I-Sce I酵素をコ−ドするDNA配列を有するトランスジェニック動物と、該トランスジェニック動物の細胞由来の培養細胞株とに関する。
【0018】
更に本発明は、酵素I-Sce Iに対する、少なくとも一つの制限部位が生物体の染色体に挿入されていることを特徴とする、トランスジェニック生物体に関する。
【0019】
更に本発明は、酵素I-Sce Iを使用して真核ゲノムを遺伝的にマッピングする方法に関する。
【0020】
本発明は更に、酵素I-Sce Iを利用した、生物体内でのin vivoの部位特異的組み換えの方法に関する。
【0021】
好ましい態様の詳細な記載
真性のミトコンドリア遺伝子(参考文献8)は、ミトコンドリアの遺伝コ−ドの特性のために、大腸菌(E.coli)、酵母、またはその他の生物体で発現することはできない。「ユニバ−サル・コ−ド・エクゥイバレント」が、試験管内部位特異的変異導入により構築された。その配列は図1に示してある。非ユニバ−サルなコドン(二つのCTNは除く)が、大腸菌(E.coli)では非常にまれな、幾つかのコドンとともに置換されていることに注目されたし。
【0022】
ユニバ−サル・コ−ド・エクゥイバレントは大腸菌(E.coli)でうまく発現され、活性酵素の合成が決定された。しかしながら大腸菌(E.coli)内で非常にまれな数多くのコドンのために、発現レベルは低いままであった。「ユニバ−サル・コ−ド・エクゥイバレント」の発現は酵母で検出されている。
【0023】
異種のシステムにおける遺伝子発現を最適化するために、合成遺伝子を設計して、それぞれのコドンに対して大腸菌(E.coli)内で最もよく使用されるものを利用して、I-Sce Iの真のアミノ酸配列によるタンパク質をコ−ドするようにした。この合成遺伝子の配列は、図2に示した。この合成遺伝子は、部分的にオ−バ−ラップした8つのオリゴヌクレオチドにより、in vitroで構築した。オリゴヌクレオチドは、塩基対が形成によるアニ−リング時にクレノウポリメラ−ゼによる第二鎖合成を相互にプライミングするように設計した。次いで伸長した塩基対を、プラスミドへ連結した。所定の配列内で適格に置かれた制限部位により、in vitroでの連結による合成遺伝子の最終的組み立てが可能になった。この合成遺伝子は、大腸菌(E.coli)と酵母内でうまく発現した。
【0024】
1. I-Sce I遺伝子配列
本発明は、酵素I-Sce Iをコ−ドする、単離したDNA配列に関する。酵素I-Sce Iは、エンドヌクレア−ゼである。この酵素の性質は以下の通りである(参考文献14)。
I-Sce Iは認識配列でDNAを開裂させる二本鎖エンドヌクレア−ゼである。I-Sce Iは、3'OHが張り出した4bpのよろめいた(staggered)開裂部を生成する。
基質:二本鎖DNAに作用する。基質DNAは弛緩していても、ネガティブなス−パ−コイルであってもよい。
カチオン:酵素活性には、Mg++(8 mMが最適)が必要である。Mn++は、Mg++の代わりになりえるが、この場合には、認識の厳密度が低下する。
最適な活性条件:高いpH(9から10)、20−40℃の温度、一価のカチオンが存在しないこと。
酵素の安定性:I-Sce Iは室温で不安定である。酵素−基質複合体は酵素のみよりもより安定である(認識部位の存在により、酵素が安定化する)。
【0025】
酵素I-Sce Iは、既知の認識部位を有する(参考文献14)。I-Sce Iの認識部位は、システマティックな変異解析により決定された、18bpを越える非対称的配列である。その配列は、
5’TAGGGATAACAGGGTAAT3’
3’ATCCCTATTGTCCCATTA5’
である(矢印は開裂部分を示す)。この認識部位は、その一部が上流のエクソンに相当し、更にその一部がイントロン付加型の遺伝子の下流エクソンに相当している。
【0026】
認識部位は一部が縮重している:18塩基の長さの配列内での、単一の塩基置換により、その置換の性質に応じて、酵素に対する感受性が全く無くなるか、または低減する結果となる。
【0027】
認識の厳密度は、
−1−部位の変異体、
−2−酵母の全ゲノム(サッカロマイセス・セレビシアエは、ゲノムの複雑さは1.4 X 107bpである)、
で調べる。デ−タは未発表である。
【0028】
結果は以下の通りである:
−1−部位の変異:図3に示してあるように、厳密度の一般的なシフトが起きていて、すなわちMg++で重度に影響を被る変異体は、部分的にMn++で影響を受けるようになり、Mg++で部分的に影響を受ける変異体が、Mn++で影響を受けなくなる。
−2−酵母:マグネシウムの条件では、正常な酵母において開裂は観察されなかった。同じ条件では、トランスジェニックな酵母由来のDNAは、人工的に挿入されたI-Sce I部位で完全に開裂して、その他の開裂部位は全く検出されなかった。マグネシウムをマンガンで置換すると、酵母の全ゲノム中で5つの開裂部位が更に発見されたが、この何れもが完全には開裂しなかった。よって、マンガン存在下ではこの酵素は、ca3百万塩基対(5/1.4 X 107bp)当たり平均して1部位をあらわす。
【0029】
認識部位の定義:重要な塩基を図3に示してある。
【0030】
これらは、重度に影響された変異体が存在している塩基に相当している。。しかし以下のことに注意されたし:
−1−それぞれの部位での可能な変異の全てが決定されてはいない:よって、重度に影響された変異体に相当する塩基は、別の変異体で同じ部位を試験した場合に重要であるかもしれない。
−2−非常に重要な塩基(変異体全てにおいて重度に影響されている)と、中程度に重要な塩基(変異体の幾つかが重度に影響されている)との間のはっきりとした境目はない。酵素に対しての、上等の基質と、悪い基質との間は連続している。
【0031】
ランダムなDNA配列中の、天然のI-Sce I部位の予想される頻度は、故に(0.25)−18、または(1.5 X 10−11)に等しい。言い換えると、ca 20のヒトゲノム中に一つの天然の部位があると予想できるが、縮重した部位の頻度を予想するのはより難しい。
【0032】
I-Sce Iは、二つのドデカペプチドファミリ−の「縮重した」サブファミリ−に属する。このドデカペプチドモチ−フの保存されたアミノ酸は、活性に必須である。特に、この二つのドデカペプチドの9位のアスパラギン酸残基はグルタミン残基でさえも置換することができない。このドデカペプチドは触媒性部位、またはその一部を形成するようである。
【0033】
認識部位が非対称的であるのと一致して、I-Sce Iのエンドヌクレア−ゼ活性には二つの連続する認識工程が必要である:該部位の下流の半分(下流のエクソンに相当)に対しての該酵素の結合;その後の、該部位の上流の半分(上流エクソンに相当)に対しての該酵素の結合。第一の結合は強く、第二の結合はより弱いが、この二つは、DNAの開裂に必要である。In vitroでは、該酵素は下流のエクソンに単独で結合でき、また同様にイントロン−エクソン結合部にも結合するが、開裂は起きない。
【0034】
進化の過程で保存された、I-Sce Iのイントロンにコ−ドされたドデカペプチドモチ−フは、エンドヌクレア−ゼ活性に必要である。このモチ−フの役割は、酵素のDNA配列認識領域に関して酸性のアミノ酸を適切に位置づけて、ホスホジエステル結合の加水分解の触媒作用を引きだすことであると推定された(参考文献P3)。
【0035】
本発明のヌクレオチド配列は、天然のI-Sce I酵素をコ−ドし、図2にそれが示されている。本発明の遺伝子のヌクレオチド配列は、ジデオキシヌクレオチド配列決定法により由来した。該ヌクレオチドの塩基配列は、5’→3’の方向で書かれている。示した文字のそれぞれは、以下のヌクレオチドに対しての、通常の割当である:
A:アデニン
G:グアニン
T:チミン
C:シトシン。
【0036】
酵素I-Sce Iをコ−ドするDNA配列は、精製された形態であることが望ましい。例えば該配列は、ヒト血液由来タンパク質、ヒト血清タンパク質、ウイルスタンパク質、これらのタンパク質をコ−ドしているヌクレオチド配列、ヒトの組織、ヒトの組織の成分、またはこららの物質の組み合わせが混入していないようにすることが可能である。更に本発明のDNA配列は、外来性のタンパク質及び脂質、細菌やウイルスのような外来性微生物を含んでいないことが好ましい。必然的に精製、単離された、I-Sce Iをコ−ドするDNA配列は特に、発現ベクタを調製するのに有益である。
【0037】
プラスミドpSCM525は、pUC12の誘導体であり、本発明のDNA配列をコ−ドした人工的配列を有する。プラスミドpSCM525の一領域のヌクレオチド配列と、推定のアミノ酸配列を図4に示してある。本発明の、I-Sce Iをコ−ドしているヌクレオチド配列は、ボックスで囲ってある。人工遺伝子は、化学的に合成され組み立てられた723塩基対の、BamHI−SalIDNA配列である。これは、tacプロモ−タ制御下に置かれている。人工遺伝子のDNA配列は、天然のコ−ド配列や、文献(Cell, (1986), 44 521-533)に記載のユニバ−サル・コ−ド・エクゥイバレントとは異なっている。しかしながら、該人工遺伝子の翻訳産物は、配列において、純正のオメガ−エンドヌクレア−ゼと、N末端でのMet-Hisの付加以外で一致している。この修飾されたエンドヌクレア−ゼが、本発明の範囲内であることは、理解されるであろう。
【0038】
プラスミドpSCM525を使用して、適切な如何なる大腸菌(E.coli)をも形質転換することが可能であり、形質転換された細胞はアンピシリン抵抗性になる。オメガ−エンドヌクレア−ゼの合成は、I.P.T.G.の添加か、またはラクト−スオペロン系の相当する誘導剤により得られる。
【0039】
pSCM525と同定され、酵素I-Sce Iを含んでいるプラスミドは、大腸菌(E.coli)株TG1内で、CNCM(Collection Nationale de Cultures de Microorganismes of Institute Pasteur in Paris, France)に、1990年11月22日に培養コレクション寄託アクセス番号I-1014のもとに寄託された。よって本発明のヌクレオチド配列は、この寄託物より入手可能である。
【0040】
本発明の遺伝子はまた、通常の化学的合成技術を利用して、ヌクレオシド単位間で3’から5’へのリン酸結合の形成により調製することも可能である。例えば、よく知られたホスホジエステル、ホスホトリエステル、及びホスファイトトリエステル技術と同様に、これらの方法に関する既知の修飾を利用することができる。デオキシリボヌクレオチドは、ホスホロアミダイト法に基づいたもののような自動合成機で調製することができる。オリゴとポリリボヌクレオチドはまた、通常の技術を利用して、RNAリガ−ゼの助けにより得られる。
【0041】
本発明にはもちろん、本発明のDNA配列の変異体であって、本発明の配列と実質的に同じ性質を示すものも含まれる。これは、DNA配列が、本願で開示されたものと必ずしも同じものである必要がないことを意味する。単一、若しくは複数の塩基置換、欠失、または挿入、あるいは、酵素I-Sce Iの開裂の特徴を有する酵素をコ−ドしたDNA配列の特徴を実質的に損ねない、1以上のヌクレオチドの局所的変異というような、変異がある。
【0042】
図5は、I-Sce Iのアミノ酸配列に関しての幾つかの変異体を表示している。以下の部位は、酵素活性に影響せずに変異させることが可能であることが証明されている:
部位−1と−2は天然ではない。この二つのアミノ酸はクロ−ニングにより加えられたものである。
部位1から10:欠失され得る;
部位36:Gを許容する;
部位40:MとVを許容する;
部位41:SかNを許容する;
部位43:Aを許容する;
部位46:VかNを許容する;
部位91:Aを許容する;
部位123及び156:Lを許容する;
部位223:AとSを許容する。
【0043】
これらの修飾を含む酵素は、本発明の範囲内にあることは理解されるであろう。
【0044】
図5のアミノ酸配列の変異で、酵素活性に影響することが示されたものは、以下のものである:
部位19:LからS;
部位38:IからSまたはN;
部位39:GからDまたはR;
部位40:LからO;
部位42:LからR;
部位44:DからE、G、またはH;
部位45:AからEまたはD;
部位46:YからD;
部位47:IからRまたはN;
部位80:LからS;
部位144:DからE;
部位145:DからE;
部位146:GからE;
部位147:GからS。
【0045】
更に、本発明では、精製された形態の、本発明のDNA配列の断片であって、該断片が酵素的に活性なI-Sce Iをコ−ドすることが可能であるものを含むことが理解されるであろう。
【0046】
本発明の、酵素I-Sce Iをコ−ドするDNA配列は、よく知られるポリメラ−ゼ連鎖反応(PCR)により増幅させることが可能であるが、これは、遺伝子の全て、または特異的部分を増幅させるのに有益である(例えば、以下の文献を参照されたし:S. Kwok et al., J. Virol., 61:1690-1694(1987); U.S. Patent 4,683,202; 及びU.S. Patent 4,683,195)。より特異的には、増幅されるDNAのプラス鎖とマイナス鎖に相補的であって、互いに10から300塩基対離れて位置する既知のDNAプライマの組は、よく知られたオリゴヌクレオチド合成技術により調製することが可能である。それぞれのプライマの一方の末端を伸長して、DNAにアニ−リングしたときに制限エンドヌクレア−ゼ部位を創製するよにすることが可能である。PCRの反応混合物には、DNA、DNAプライマ、4種類のデオキシリボヌクレオシド三リン酸、MgCl2、DNAポリメラ−ゼ、及び通常の緩衝液が含まれる。DNAは、何回ものサイクルで増幅させることができる。慨して、検出感度はサイクル数を多くして増大させることができるが、それぞれのサイクルは、上昇された温度での短期間でのDNAの変性と、反応混合物の冷却と、DNAポリメラ−ゼによるポリメライズとからなる。増幅された配列はオリゴマ−制限(oligomer restriction)という技術を使用して検出することができる(参照:R. K. Saiki et al., Bio/Technology 3:1008-1012 (1985))。
【0047】
酵素I-Sce Iは、同様の性質を有する多くのエンドヌクレア−ゼのうちの一つである。以下は関連する酵素とその起源に関するリストである。
【0048】
グル−プIイントロンをコ−ドするエンドヌクレア−ゼと関連する酵素を参考文献とともに以下に記載した。認識部位は図6に記載されている。
【0049】
【表2】
【0050】
推定された新規の酵素(遺伝的には証拠があるが、活性はいまだ証明されていない)は、クラミドモナス・スミチイ(Chlamydomonas smithii)ミトコンドリアのチトクロ−ムbイントロン1に由来するI-CsmI(参考文献15)、ポドスポラ・アンセリナ(Podospora anserina)のミトコンドリアに由来するI-PanI(Jill Salvo)、及びおそらくニュ−ロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)に由来するNc ndl・1及びNc cob・!のイントロンにコ−ドされる酵素である。
【0051】
I-エンドヌクレア−ゼは以下のように分類できる:
クラスI:二つのドデカペプチドモチ−フ、3’OHが張り出している、4bpのよろめいた(staggered)切断部、認識部位に対して内部の切断。
【0052】
【表3】
【0053】
クラスII:GIY-(N10-11)YIGモチ−フ、3’OHが張り出している、2bpのよろめいた(staggered)切断部、認識部位に対して外部の切断:
I-TevI。
【0054】
クラスIII:典型的な構造モチ−フはない、3’OHが張り出している、4bpのよろめいた(staggered)切断部、認識部位に対して内部の切断:
I-PpoI。
【0055】
クラスIV:典型的な構造モチ−フはない、3’OHが張り出している、2bpのよろめいた(staggered)切断部、認識部位に対して外部の切断:
I-TevII。
【0056】
クラスV:典型的な構造モチ−フはない、5’OHが張り出している、2bpのよろめいた(staggered)切断部:
I-TevIII。
【0057】
2.本発明のI-Sce I遺伝子を有するヌクレオチドプロ−ブ。
酵素I-Sce Iをコ−ドする、本発明のDNA配列はまた、組織や体液のような生物学的試料中でのヌクレオチド配列の検出用のプロ−ブにもしようすることができる。このプロ−ブは、原子または無機のラジカル、もっとも普通には放射性核種で標識することが可能であるが、また重金属でもおそらく可能であろう。放射性標識には32P、3H、14C などが含まれる。適切なシグナルと十分な半減期をゆうする、如何なる放射性標識を用いることが可能である。他の標識には、標識済み抗体、蛍光体(fluorescers)、化学蛍光体、酵素、標識済みリガンドに対して、対で特異的に結合する抗体などに特異的に結合できるリガンドがある。標識の選択はプロ−ブの、DNAまたはRNAへのハイブリダイゼーション速度への、標識の影響により決まる。標識は、ハイブリダイゼーションが可能なDNA、またはRNAの量を検出するのに十分な感度を提供することが必要であろう。
【0058】
本発明のヌクレオチド配列を、遺伝子へのハイブリダイゼーション用のプロ−ブとして使用する際には、該ヌクレオチド配列は好ましくは、ニトロセルロ−ス紙のような、水に不溶性の、固体の多孔性支持体に固定されていることが望ましい。ハイブリダイゼーションは、本発明の標識したポリヌクレオチドや、通常のハイブリダイゼーション試薬を使用して行うことが可能である。特別のハイブリダイゼーション技術は、本発明には必要ではない。
【0059】
ハイブリダイゼーション溶液中の、標識されたプロ−ブの量は、標識の性質、該支持体に充分に結合する標識済みプロ−ブの量、そしてハイブリダイゼーションの厳密度に応じて、広い範囲で変わる。慨して、化学量論よりも実質的に過剰なプロ−ブを使用して、固定化されたDNAへのプロ−ブの結合速度を促進させる。
【0060】
ハイブリダイゼーションに関しての、種々の厳密度の程度を用いることができる。より厳密な条件ほど、プロ−ブとポリヌクレオチドとの間の二重鎖形成に必要な相補性が大きくなる。厳密さは温度、プロ−ブ濃度、プロ−ブの長さ、イオン強度、時間等で調節することができる。ハイブリダイゼーションの厳密度は反応溶液の極性を変えることでうまく変化させられる。。使用する温度は経験的に決定することができ、そのために開発されたよく知られる式により決定できる。
【0061】
3.I-Sce Iをコ−ドするヌクレオチド配列を有するヌクレオチド配列。
本発明は更に、本発明の酵素I-Sce Iをコ−ドするDNA配列に関しているが、該ヌクレオチド配列は他の核酸に連結されている。この核酸は、例えばプラスミド、DNA若しくはRNA、原核生物や真核生物が含まれる如何なる起源の天然のDNA若しくはRNA、のような如何なるものよりから得られる。DNAまたはRNAは、文献に記載されるような種々の技術(Maniatis et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York (1982))により、生物学的液体や組織のような、生物学的物質より抽出することができる。慨して核酸は、細菌、酵母、ウイルス、または植物や動物のような高等生物より得られるであろう。該核酸は、ヒトのDNA全体に含まれる遺伝子の一部、または特異的な微生物の核酸配列の一部のような、より複雑な混合物の画分であってもよい。該核酸は、より大きい分子の画分であるか、または遺伝子全体、若しくは遺伝子の集合を構成するものであってもよい。DNAは、一本鎖か、または二本鎖の形態であてもよい。上記の断片が一本鎖の形態である場合には、通常の技術により、DNAポリメラ−ゼを使用して、二本鎖に変換されてもよい。
【0062】
本発明のDNA配列は、構造遺伝子に連結されてもよい。本願で使用する「構造遺伝子」とは、その鋳型、またはmRNAにより、特異的タンパク質またはポリペプチドに特徴的であるアミノ酸配列がコ−ドされているDNA配列を意味する。本発明のヌクレオチド配列は、発現制御配列、すなわち遺伝子に機能するように連結されると該遺伝子の発現を制御及び調節するようなDNA配列とともに、機能することが可能である。
【0063】
4.本発明のヌクレオチド配列を有するベクタ。
本発明は更に、酵素I-Sce Iをコ−ドする本発明のDNA配列を有するクロ−ニング、及び発現用のベクタに関する。
【0064】
より特には、該酵素をコ−ドする該DNA配列は、該配列をクロ−ニングするための担体(vehicle)に連結することが可能である。遺伝子クロ−ニングに関わる主要な工程は、興味ある遺伝子を有するDNAを、原核細胞、または真核細胞より分離すること、得られたDNA断片とクロ−ニングベクタからのDNAとを特異的な部位で切断すること、この二つのDNA断片をともに混合すること、そしてこの断片を連結して組み換えDNA分子を生成させることを具備している。次いで組み換え分子を宿主細胞にいれて、この細胞を複製させ、元のDNA配列のクロ−ンを有する、同等の細胞を産生させる。
【0065】
本発明で使用する担体(vehicle)は、本発明のヌクレオチド配列を宿主細胞へ輸送することが可能であり、またその細胞内で複製することが可能である、任意の二本鎖DNA分子であってもよい。より特には、この担体は、宿主細胞内で複製の起点として機能することが可能な、少なくとも一つのDNA配列を有している必要がある。更に、この担体は、本発明の遺伝子をコ−ドしたDNA配列を挿入するための、2つ以上の部位を有している必要がある。これらの部位は通常は、粘着性の末端を形成することが可能で、更に該担体に連結するプロモ−タ配列の粘着末端に相補的である、制限酵素部位である。慨して、本発明はプラスミド、バクテリオファ−ジ、またはこれらの特徴を有しているコスミド担体で実施することが可能である。
【0066】
本発明のヌクレオチド配列は、該担体中の部位の如何なる組み合わせとも適合する、粘着性末端を有することができる。あるいは、該配列は、該担体のクロ−ニング部位の対応する平滑末端と連結することが可能な、一つ以上の平滑末端を有することが可能である。該ヌクレオチド配列は、望まれるならば、Bal 31によるような、引き続くエンドヌクレア−ゼ欠失により更に処理することが可能である。本発明のヌクレオチド配列が望ましい粘着末端の組み合わせを有さない場合には、リンカ−、アダプタ−、またはホモポリマ−テイリングの付加により、該配列を修飾することが可能である。
【0067】
本発明のヌクレオチド配列のクロ−ニングに使用されるプラスミドは、宿主細胞が表示する選択標識のような有益な特徴を担う、一つ以上の遺伝子を有していることが好ましい。好ましい戦略においては、二つの異なる薬剤に対する抵抗性の遺伝子を有するプラスミドが選択される。例えば、抗生物質遺伝子へのDNA配列の挿入は該遺伝子を不活化して、薬剤耐性を破壊する。第二の耐性遺伝子は、細胞が組換え体で形質転換されて、第二の薬剤に対する抵抗性と第一の薬剤に対する感受性とで選択されるときには影響されない。好ましい抗生物質標識は、宿主細胞に、クロラムフェニコ−ル、アンピシリン、またはテトラサイクリンに対する抵抗性を付与する遺伝子である。
【0068】
種々の制限酵素を使用して、担体を切断することが可能である。慨してこのような制限酵素の同定は、連結するDNA配列の末端と、担体中の制限部位の同定とに依存している。制限酵素は担体中の制限部位に適合し、また該担体は連結する核酸断片の末端に適合している。
【0069】
連結反応は、よく知られる技術と試薬とを用いて設定することができる。連結は、DNA二重鎖中で隣り合う5’リン酸基とフリ−な3’ヒドロキシル基との間にホスホジエステル結合の形成を触媒する、DNAリガ−ゼにより行なわれる。該DNAリガ−ゼは、種々の微生物に由来してもよい。好ましいDNAリガ−ゼは大腸菌(E.coli)、及びバクテリオファ−ジT4に由来する酵素である。T4DNAリガ−ゼは、制限酵素での消化により生じるような、平滑、または粘着性末端のDNA断片を連結することができる。大腸菌(E.coli)のDNAリガ−ゼを使用して、粘着性末端を有する二重鎖DNA分子の末端同士での、ホスホジエステル結合の形成を触媒させることが可能である。
【0070】
クロ−ニングは、原核細胞や真核細胞で行うことができる。クロ−ニング用の担体の複製のための宿主はもちろん、担体と適合するものであって、その中で該担体が複製することが可能なものである。プラスミドを用いるときには、このプラスミドは合成して調製してもよい。宿主の染色体とは独立に複製するプラスミド、または組み込まれるプラスミド(エピソ−ム)を使用することができる。プラスミドの複製に必要な酵素をコ−ドする遺伝子を有するプラスミドを複製するために、該プラスミドは、宿主細胞のDNA複製酵素を利用することが可能である。数多くの異なるプラスミドが、本発明の実施に使用することが可能である。
【0071】
酵素I-Sce Iをコ−ドする、本発明のDNA配列はまた、担体に連結して発現ベクタを形成させることも可能である。この場合に用いられる担体は、適切な宿主細胞内で、機能するようにプロモ−タに連結されている遺伝子を発現できるものである。大腸菌(E.coli)、酵母、または哺乳類細胞内での遺伝子発現用に知られている担体を用いることが好ましい。これらの担体には例えば、以下の大腸菌(E.coli)発現ベクタが含まれる:
pSCM525:tacプロモ−タと、I-Sce Iの合成遺伝子とを挿入したpUC12に由来する、大腸菌(E.coli)の発現ベクタである。発現はIPTGで誘導される。
【0072】
pGEXω6:pSCM525内のI-Sce Iの合成遺伝子がグルタチオンSトランスフェラ−ゼに融合しているpGEXに由来し、ハイブリッドタンパク質を産生する、大腸菌(E.coli)発現ベクタ。このハイブリッドタンパク質はエンドヌクレア−ゼ活性を有する。
【0073】
pDIC73:T7プロモ−タ制御下にある、I-Sce Iの合成遺伝子(pSCM525のNdeI−BamHI断片)の挿入により、pET-3Cから得られる大腸菌(E.coli)発現ベクタ。このベクタは、T7RNAポリメラ−ゼをIPTG誘導下で発現する、菌株BL21(DE3)内で使用される。
【0074】
pSCM351:I-Sce Iの合成遺伝子がLacZ遺伝子と融合しているpUR291から得られ、ハイブリッドタンパク質を産生する、大腸菌(E.coli)発現ベクタ。
pSCM353:I-Sce Iの合成遺伝子がCro/LacZ遺伝子と融合しているpEX1から得られ、ハイブリッドタンパク質を産生する、大腸菌(E.coli)発現ベクタ。
【0075】
以下は酵母の発現ベクタの例である:
PEX7:ガラクト−スプロモ−タの制御下に合成遺伝子を挿入したpRP51-Bam O(pLG-SD5のLEU2d誘導体)から得られる、酵母発現ベクタ。発現は、ガラクト−スで誘導される。
pPEX408:ガラクト−スプロモ−タの制御下に合成遺伝子を挿入したpLG-SD5から得られる、酵母発現ベクタ。発現は、ガラクト−スで誘導される。
幾つかの酵母発現ベクタを図7に記載した。
【0076】
以下は、典型的な哺乳類発現ベクタである:
pRSV I-Sce I:合成遺伝子(pSCM525のBamHI−PstI断片)が、ラウス肉腫ウイルスのLTRプロモ−タ制御下にある、pRSV誘導体。この発現ベクタは、図8に記載してある。
チャイニ−ズハムスタ−オバリ−(CHO)細胞での発現ベクタも使用することが可能である。
【0077】
5.本発明のベクタで形質転換した細胞。
本発明のベクタは、通常の技術により宿主生物内へ挿入することが可能である。例えば、ベクタは形質転換、形質移入、電気穿孔、マイクロインジェクション、またはリポソ−ムによる方法(リポフェクション)により挿入することができる。
【0078】
クロ−ニングは、原核細胞、または真核細胞で行うことができる。クロ−ニング用の担体を複製するための宿主は、当然、該担体と適合するものであって、その中で該担体が複製することが可能なものであろう。真菌類、動物、及び植物起源の細胞も使用することが可能であるが、好ましくはクロ−ニングは、細菌、または酵母の細胞で行うことがよい。クロ−ニング作業を行うのに好ましい宿主細胞は大腸菌(E.coli)のような細菌細胞である。大腸菌(E.coli)の使用が特に好ましいのは、細菌プラスミドうやバクテリオファ−ジのような多くのクロ−ニング用担体が、これらの細胞内で複製するからである。
【0079】
本発明の好ましい態様において、本発明のヌクレオチドをコ−ドするDNA配列が、機能するようにしてプロモ−タに連結されているものを有する発現ベクタは、通常の技術により哺乳類細胞へ挿入される。
【0080】
ラ−ジスケ−ルのマッピングのための、I-Sce Iの適用。
1.種々のゲノム内での天然部位の発生度
精製したI-Sce I酵素を使用して、天然、または縮重した部位の発生度を、複数の種の完全なゲノムで調べた。サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)、バシラス・アントラシス(Bacillus anthracis)、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)、レプトスピラ・ビフレキサ(Leptospira biflexa)、及びL.インテロガンス(L. interrogans)では、天然の部位は全く見られなかった。T7ファ−ジDNAで、一つの縮重した部位が見られた。
【0081】
2.人工部位の挿入。
天然のI-Sce I部位がないのであれば、人工部位を形質転換か形質移入により導入することができる。二つの場合を区別する必要がある:相同性組み換えによる部位特異的組み込みと、非相同的組み換え、トランスポゾン移動、またはレトロウイルス感染によるランダムな組み込みである。最初のものは酵母と、2、3の細菌種では容易であるが、高等な真核細胞ではより困難である。第二のものは全ての系で可能である。
【0082】
3.挿入ベクタ。
二つのタイプを区別することができる:
−1−I-Sce I部位を選択標識とともに導入する、特異的カセット;
酵母に対して:標識遺伝子を含む以下のもの、全ては、pAF100の誘導体である(Thierry et al., (1990) YEAST 6:521-534):
pAF101:URA3(Hind III部位に挿入);
pAF103:NeoR(BglII部位に挿入);
pAF104:HIS3(BglII部位に挿入);
pAF105:KanR(BglII部位に挿入);
pAF106:KanR(BglII部位に挿入);
pAF107:LYS2(Hind IIIとEcoRVの間に挿入)。
【0083】
プラスミドpAF100の制限酵素地図を図9に示してある。プラスミドpAF100の領域のヌクレオチド配列と制限部位とを図10Aと図10Bに示してある。
染色体上の種々の既知の部位にI-Sce I部位を有する、多くのトランスジェニック酵母株が入手可能である。
【0084】
−2−転移因子、またはレトロウイルスに由来するベクタ。
【0085】
大腸菌(E.coli)と他の細菌に対して:I-Sce I部位と、
pTSmωStrR
pTKmωKanR (図11を参照)
pTTcωTetR
を有するミニTn5誘導体。
【0086】
酵母に対して:pTYω6は、I-Sce I部位がTyエレメントのLTRに挿入されている、pD123の誘導体である。(図12)
【0087】
ほ乳類細胞に対して:
pMLV LTR SAPLZ:MLVとPhleo-LacZのLTR内にI-Sce I部位を有する(図13)。このベクタはまずΨ2細胞(3T3の誘導体;R. Muliiganより入手)で増殖させる。ゲノム中の未同定の位置にI-Sce I部位を有する、二つのトランスジェニック細胞株が入手可能である。:1009(多能性神経細胞)、及びD3(トランスジェニック動物を産生できるES細胞)。
【0088】
4.入れ子状(nested)染色体断片化方法
真核ゲノムを遺伝的にマッピングするための、入れ子状(nested)染色体断片化方法では、18塩基対の長さの認識のような、制限エンドヌクレア−ゼI-Sce Iのユニ−クな性質をうまく利用している。ほとんどの真核ゲノムには、天然にはI-Sce I認識部位がないこともまた、このマッピング方法ではうまく利用されている。
【0089】
まず上記したようにして、選択性標識を含む特異的カセットを使用した相同性組み換えによるか、またはランダムな挿入により、一つ以上の人工的I-Sce I認識部位をゲノムの種々の位置に挿入する。得られるトランスジェニック株のゲノムを次いで、I-Sce I制限酵素とのインキュベーションにより、該人工的挿入I-Sce Iにおいて完全に開裂する。開裂産物は入れ子状の染色体断片を産生する。
【0090】
染色体断片を次いでパルスフィ−ルドゲル(PFG)電気泳動で精製単離し、染色体内での挿入部位の位置をマッピングするようにする。全DNAを制限酵素で切断すると、人工的に導入された、それぞれのI-Sce I部位はゲノム中でユニ−クな「分子的な印」を提供する。よって、上記の印の間の物理的ゲノム間隔を定義するような、それぞれが単一のI-Sce I部位を有する一連のトランスジェニック株を作りだすことができる。結果的に、ゲノム全体、染色体、または興味あるどのような部分をも、人工的に導入したI-Sce I制限部位を使用してマッピングすることいができる。
【0091】
入れ子状染色体断片は、固相の膜にトランスファ−して該断片のDNAに相補的なDNAを含む、標識済みプロ−ブにハイブリダイズさせることができる。観察されるハイブリダイゼーションのバンディングパタ−ンに基づき、真核ゲノムをマッピングすることができる。適切な「印」を有するトランスジェニックのセットは、新規の遺伝子またはクロ−ンの如何なるものをも直接的にマッピングするレファレンスとして使用される。
【0092】
例1:酵母染色体XIのマッピングへの、入れ子状染色体断片化方法の適用。
この方法を、酵母サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharamyces serevisiae)の染色体XIのマッピングに適用した。I-Sce I部位を二倍体株FY1679の染色体XI上の7つの異なる部位に挿入し、その結果該染色体中に8つの物理的間隔を定義した。相同性組み換えにより、URA3-1I-Sce Iカセットより部位を挿入した。二つの部位を、遺伝的に定義されている遺伝子、TIF1とFAS1内に挿入し、その他のものは発明者が有する、オ−バ−ラップしていない5つのコスミドをランダムに選択して、染色体中の未知の位置に挿入した。7つのトランスジェニック株のそれぞれがアガロ−スに包埋したものを次いでI-Sce Iで消化して、パルスフィ−ルドゲル電気泳動で分析した(図14A)。それぞれのトランスジェニック株の染色体XI上でのI-Sce I部位の位置はまず、断片の左右の向きを考慮に入れずに断片サイズより推定される。向きは、以下のようにして決定する。この株のセットのなかで、最もテロメアに近いI-Sce I部位は、トランスジェニックE40の中にあるが、それは全ての断片の中で最も短いものが50kbであるからである(図15A)。よってここで、トランスジェニックE40にI-Sce Iを導入するのに使用したコスミドクロ−ンpUKGO40を、全ての染色体断片に対するプロ−ブとして使用する。予想したとおり、pUKG040はE40株より二つの断片を明るみにだす(それぞれ50kb及び630kb)。大きい断片はほぼ染色体XI全体であり、長さが38kbであるpUKG040は、その大きい染色体断片内に4kb未満のものを含むという事実により、弱いハイブリダイゼーションシグナルを示す。該トランスジェニック株は、二つの相同物のうち一つの中のみにI-Sce I部位が挿入されている二倍体であるために、染色体XI全体は、I-Sce I消化後も視覚的に認識できることに注目されたし。現在では、pUKG040プロ−ブはその他の全てのトランスジェニック株のうちのたった一つの断片にハイブリダイズして、I-Sce I部位の左右の向きを明瞭にする(図15B)。コスミドベクタと、I-Sce I部位を有する染色体サブ断片との間での顕著な交差ハイブリダイゼーションは見られない。トランスジェニック株は現在では、I-Sce I部位が該染色体のハイブリダイズする末端からの距離が短い順に配置されていて(図15C)、I-Sce Iマップが推定できる(図15D)。マッピングの精度はPFGEの分解能と、最適な補正に依存する。遺伝子地図に関しての、染色体の正確な左右の向きは、この段階では分からない。本方法を可視化し、I-Sce I間のI-Sce I部位の間隔サイズのより正確な測定をするために、新たに並べた、同じトランスジェニック株を新規のパルスフィ−ルドゲル電気泳動にかけた(図16)。トランスファ−後、断片をすぐにコスミドpUKG040とpUKG066にハイブリダイズさせたが、これらはそれぞれが該染色体の反対側の末端全ての断片を明るみに出す(クロ−ンpUKG066は、遺伝子地図に定義される染色体の右末端を定義するが、これはそれにはSIR1遺伝子が含まれているからである)。通常の段階的な染色体断片サイズの列が見られる。プロ−ブUKG066と染色体IIIとの間に幾つかの交差ハイブリダイゼーションがあることに注目されたいが、これはおそらく幾つかのDNA繰り返し配列のためである。
【0093】
まとめると、染色体断片全ては図15dに示したような、物理的間隔を定義する。得られたI-Sce Iマップは、平均して80kbの分解能を有する。
【0094】
例2:酵母人工染色体(YAC)クロ−ンへの、入れ子状染色体断片化方法の適用。
この方法をYACマッピングに適用するのには、二つの可能性が考えられる。
−1−酵母内での相同性組み換えを利用して、興味ある遺伝子内にI-Sce I部位を挿入する。これにより、試験管内でのI-Sce I消化によるYAC挿入物内の遺伝子のマッピングが可能になる。これは実際に行なわれ成功した。
−2−高い反復性の配列(例:マウスのB2や、ヒトのAlu)を使用した、酵母内での相同性組み換えにより、YAC挿入物内にI-Sce I部位をランダムに組み込む。トランスジェニック株を次いで、参考文献P1に記載されているようにして、ライブラリ−またはマップ遺伝子を並べる。
【0095】
現在ではこの方法は、450kbのマウスDNAを含むYACでも行えるようになっている。このため、マウスDNAの繰り返し配列(B2と呼ばれる)をI-Sce Iと、選択性酵母標識(LYS2)とを有するプラスミドへ挿入した。B2配列内で直鎖状にした組み換えYACを有する酵母細胞の形質転換により、I-Sce I部位が、マウスDNA挿入物内の5つの異なる位置に分配されて組み込まれた。酵素による、組み込んだI-Sce I部位の切断は成功し、電気泳動後に精製可能な、入れ子状の断片が産生した。この方法の以下の工程は例1に示した方法と全く一致する。
【0096】
例3:直接的なコスミドライブラリ−の分類への、入れ子状染色体断片化の適用。
入れ子状の、染色体断片は、分離用PFGより精製することができ、染色体XI特異的サブライブラリ−からのクロ−ンに対するプローブとして使用することができる。このサブライブラリ−は138のコスミドクロ−ンよりなっているが(8回カバ−するのに相当する)、これはPFGで精製した染色体XIでコロニ−ハイブリダイゼーションして、出願人の有する完全な酵母ゲノムライブラリ−から、以前に分類しておいたものである。次いで整列させていないクロ−ンのコレクションを、該染色体の左末端からの短い順の染色体断片とハイブリダイズさせた。I-Sce Iマップ上のそれぞれのコスミドの位置はそれぞれのハイブリダイゼーションより明確に決定される。更にこの結果を確認するためと、より正確なマップを提供するため、順番に並べられているコスミドクロ−ン全てのサブセットを、EcoRIで消化して電気泳動にかけ、該染色体の左末端からの短い順番の、入れ子状シリ−ズの染色体断片とハイブリダイズさせた。結果は図17に示してある。
【0097】
一定のプロ−ブに対しては、二つの場合を区別することができる:EcoRI断片全てがプロ−ブとハイブリダイズするコスミドクロ−ン、及びEcoRI断片の一部のみしかハイブリダイズしないコスミドクロ−ン(すなわち図17bにおいて、pEKG100とpEKG098とを比較せよ)。第一の範疇は、挿入部が全部、二つの染色体断片のうちの一つの中に含まれているクロ−ンに相当し、第二のものは挿入部がI-Sce I部位とオ−バ−ラップするクロ−ンに相当する。pEKGシリ−ズのクロ−ンに対しては、8kbのEcoRI断片が全部、該染色体断片とはハイブリダイズしないベクタ配列(pWE15)からなっていることに注意されたし。染色体断片が組み込みベクタを有している場合には、コスミドとの交差ハイブリダイゼーションが見られる(図17e)。
【0098】
図17を調べると、コスミドクロ−ンはI-Sce Iマップに関して整列していることが明確であり(図13E)、それぞれのクロ−ンが定義した間隔内にあるか、またはI-Sce I部位を横切っている。更に、第二の範疇のクロ−ンにより、幾つかのEcoRI断片をI-Sce Iマップ上に配置することが可能となるが、その他のものは配置されないままである。染色体XIに特異的な、完全なコスミドクロ−ンであって、あわせると該染色体の8回分をカバ−するものは、図18に示してあるように、I-Sce Iマップに関して分類されている。
【0099】
5.I-Sce Iを使用したパ−シャル制限マッピング。
この態様においては、人工的に挿入したI-Sce I部位でのDNAの完全消化の後で、選択した細菌性制限エンドヌクレア−ゼによるパ−シャル消化を行う。制限断片を次いで電気泳動により分離してブロットした。間接的末端標識を、左または右のI-Sce Iの半分の部位を使用して行う。この技術は酵母染色体では成功し、またYACに対しても困難なく適用できるはずである。
【0100】
パ−シャル制限マッピングを、商業的な酵素I-Sce Iを使用して、酵母DNA及び哺乳類細胞DNAで行った。人工的に挿入したI-Sce-I部位を含む細胞由来のDNAをまず、I-Sce Iで完全に消化する。次いでDNAを興味ある細菌性制限エンドヌクレア−ゼ(例えばBamHI)を使用するパ−シャル開裂条件下で処理し、サイズ補正マ−カ−にそって、電気泳動する。このDNAをメンブレンにトランスファ−し、続いてI-Sce I部位のどちらか一方の脇の短い配列を使用してハイブリダイゼーションする(これらの配列は、I-Sce Iを挿入するのに使用した元の挿入ベクタであるので、これらの配列は既知である)。オ−トラジオグラフィ−(またはその他の、非放射性プロ−ブを使用する、等価な検出系)により、ラダ−が視覚化され、これはI-Sce I部位に由来する細菌性制限エンドヌクレア−ゼ部位の連続物を直接的に現わす。ラダ−のそれぞれのバンドを使用して細菌性制限エンドヌクレア−ゼ部位の連続物の間の物理的距離を計算する。
【0101】
in vivo部位特異的組み換えへの、I-Sce Iの適用。
1.酵母内でのI-Sce Iの発現。
合成のI-Sce I遺伝子を、マルチコピ−プラスミドであるpPEX7及びpPEX408上の、ガラクト−ス誘導性プロモ−タの制御下に置いた。発現は正常におき、以下に示すような、部位への影響を誘導する。I-Sce Iの合成遺伝子が染色体内の誘導性プロモ−タの制御下に挿入されたトランスジェニック酵母を構築することが可能である。
【0102】
2.酵母内での部位特異的二本鎖開裂の影響(参考文献18及びP4)。
プラスミドの有するI-Sce I部位への影響:分子内効果は、参考文献18に詳細が記載されている。分子間(プラスミドから染色体)組み換えを予想することができる。
【0103】
染色体に組み込まれたI-Sce I部位への影響。
一倍体の細胞では、人工的I-Sce I部位での染色体内単一切断は、細胞増殖の停止とそれに引き続く細胞死を起こす(ほんの数%しか生き延びない)。切断部位に相同性のある無傷の配列が存在すると、修復がおきて、100%細胞が生存する。二倍体細胞では、染色体内の人工的I-Sce I部位の単一の切断は染色体相同部を使用した修飾がおきて、100%細胞が生存する。この両方の場合、誘導された二本鎖切断の修飾により、切断部の脇の非相同性配列の欠失と、ドナ−DNA分子に由来する非相同性配列の挿入を伴った、異型接合性が失われる。
【0104】
3.酵母内での、in vivo組み換えYACへの適用。
クロ−ニング部位の次にI-Sce I認識部位を有するYACベクタの構築により、挿入部が一部オ−バ−ラップしている場合には、別のYACとの相同性組み換えを誘導することができる。これは、保有物(contigs)の構築にも有益である。
【0105】
4.その他の生物体の展望:I-Sce I制限部位の挿入を細菌(大腸菌(E.coli)、エルシニア・エントロコリチカ(Yersinia entorocolitica)、Y. ペスチス(Y. pestis)、Y. シュ−ドツベルクロシス(Y. pseudotuberculosis))と、マウスの細胞に対して行った。人工的I-Sce I部位のin vitroでの開裂は、トランスジェニックマウス細胞に由来するDNAで成功した。哺乳類、または植物細胞内の合成遺伝子に由来するI-Sce Iの発現はうまくいくはずである。
【0106】
I-Sce I部位をマウス細胞及び細菌細胞内へ、以下のようにして導入した:
−1−マウス細胞
−a−マウス細胞(Ψ2)を標準的なリン酸カルシウム形質転換法を利用して、I-Sce I部位を有するベクタpMLV LTR SAPLZで形質転換した。
−b−形質転換済み細胞を、フレオマイシン(phleomysin)と5%ウシ胎児血清を含んだDMEM培地で選択し、12%CO2、100%湿度、37℃でコロニ−が形成されるまで増殖させた。
−c−フレオマイシン抵抗性コロニ−を同じ培地で一回サブクロ−ニングした。
−d−1ml当たり105の力価のウイルス粒子を産生するクロ−ンMLOP014を選択した。 このクロ−ンをCNCMに1992年5月5日に培養物コレクションアクセス番号I-1207の下に寄託した。
−e−10%ウシ胎児血清と5mg/mlの「ポリブレイン(polybrain)」とを有するDMEM培地内で105細胞当たり、このクロ−ンの上清を使用した105のウイルス粒子をまいて、他のマウス細胞(1009)を感染させた。培地は新鮮な同じ培地で、感染6時間後に置き換えた。
−f−感染後24時間で、フレオマイシン抵抗性細胞を、上記と同じ培地内で選択した。
−g−フレオマイシン抵抗性のコロニ−を同じ培地でサブクロ−ニングした。
−h−一つのクロ−ンを取り上げて、分析した。DNAを標準的な方法で精製して、最適な条件下でI-Sce Iで消化した。
【0107】
−2−細菌細胞:
I-Sce I部位を有するミニTn5トランスポゾンを、標準的なDNA組み換え技術により構築した。ミニTn5トランスポゾンを共役プラスミド(conjugative plasmid)上にのせる。大腸菌(E.coli)とエルシニア(Yersinia)との間の細菌共役を使用して、エルシニア内にミニTn5トランスポゾンを組み込む。カナマイシン、ストレプトマイシン、またはテトラサイクリンに対して抵抗性のあるエルシニア細胞を選択する(それぞれ、ベクタpTKM-ω、pTSM-ω、及びpoTTc-ω)。
【0108】
プラスミドに由来するDNAを染色体へ、部位特異的に挿入するための幾つかの方法を行うことが可能である。これにより、骨の折れるスクリ−ニング工程を行わずに、予め決めておいた部位に導入遺伝子を挿入することが可能になるであろう。
この方法は以下のとおりである:
−1−I-Sce I認識部位が染色体のユニ−クな位置に挿入されている、トランスジェニックな細胞を構築する。トランスジェニック細胞を、発現ベクタと、興味ある遺伝子、及びI-Sce Iが内部に挿入されている配列に対して相同性な部分を有しているプラスミドとで共形質転換する。
−2−プラスミド上の興味ある遺伝子内、またはその隣への、I-Sce I認識部位の挿入。正常な細胞を、合成I-Sce I遺伝子を有する発現ベクタと、I-Sce I認識部位を有するプラスミドとで共形質転換する。
−3−I-Sce I遺伝子が、ゲノム中の、誘導性、または構成性の細胞性プロモ−タの制御下に組み込まれた、安定なトランスジェニック細胞株の構築。興味ある遺伝子内、またはその隣にI-Sce I部位を有しているプラスミドによる、細胞株の形質転換。
【0109】
部位特異的相同性組み換え:酵母で成功した実験の図を、図19に示してある。
【参照文献1】
【0110】
【0111】
本願で引用している、参考文献の全ての開示事項全てと要約は、参照することにより本願に組み込む。
【0112】
サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)のI-Sce I系を利用した、哺乳類染色体での相同性組み換え誘導。
【0113】
例4 イントロダクション
染色体と外来性DNAとの間の相同性組み換え(HR)は、ゲノムへの遺伝的変化を導入する方法の基礎である(5B、20B)。組み換えイベントのパラメ−タは、細胞内へ導入されているプラスミド配列の研究と(1B、4B、10B、12B)、in vitro系での研究により決定された。HRは、哺乳類細胞では非効率的であるが、DNA中の二本鎖切断により促進される。
【0114】
これまでは、特定の染色体標的を効果的に開裂することは可能ではなく、よって組み換えに関する理解とその利用には限界があった。エンドヌクレア−ゼの中では、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)のミトコンドリアのエンドヌクレア−ゼI-Sce I(6B)が、特異的な染色体標的を開裂させるための道具として利用できる性質を有していて、よって生きている生物体の染色体を操作できる。I-Sce Iタンパク質は、酵母のミトコンドリアにおける、イントロンホ−ミング(homing)、すなわち予め決めておいた配列が予め決めておいた部位へ挿入される非相反的機構を担うエンドヌクレア−ゼである。エンドヌクレア−ゼI-Sce Iは酵母の核内で、二本鎖切断を開始することにより、組み換えを触媒することが確立されている(17B)。エンドヌクレア−ゼI-Sce Iの認識部位は18bpの長さであり、よってI-Sce Iタンパク質は非常にまれに切断する制限エンドヌクレア−ゼである(22B)。更に、I-Sce Iタンパク質はリコンビナ−ゼではないので、染色体工学への可能性は、宿主とドナ−分子の両方に標的部位が要求されるの系の可能性よりも高い(9B)。
【0115】
出願人らは本願で、酵母I-Sce Iエンドヌクレア−ゼは、哺乳類細胞内の染色体標的内で効果的に二本鎖切断を誘導することが可能であることと、この切断が、該切断に隣り合う領域と相同性を共有するドナ−分子を使用して修復されることを証明している。該酵素は高い効率で組み換えを触媒する。このことは、染色体DNAと外来性DNAとの間の組み換えが、二本鎖切断修復経路により、哺乳類細胞内で起こりえることを証明している(21B)。
【0116】
実験材料と実験方法
プラスミドの構築
pG-MPLは4つの工程により得た:
(I)モロニ−マウス白血病ウイルス(MoMuLV)の3’LTRのU3配列中の、NheI部位−XbaI部位間のSAを有するMoMuLVのenv遺伝子の、0.3kbからなるBgl II−SmaI断片(クレノウ酵素で処置済み)の挿入;
(II)リンカ−アダプタ−を有するこの修飾済みLTR中の、SAの隣のXbaI部位における、PhleoLacZ融合遺伝子(15B)(Cayla laboratoryより入手したpUT65由来)を含む、3.5kbのNcoI−XhoI断片の挿入;
(III)p5’LTRプラスミド(XhoIとEcoRIとの間に、MoMuLVの、ヌクレオチド番号563までの5’LTRを有するプラスミド)の、SalIとEcoRIとの二重消化により回収される、この3’LTR(SAとPhleoLacZを有する)の挿入;
(IV)この3’LTR内のNcoI部位(SAとPhleoLacZとの間)への、合成I-Sce I認識部位の挿入。
【0117】
pG-MtkP1は、1.6kbのtk遺伝子をそのプロモ−タとともにpG-MPLのPstI部位に挿入することにより得られた。pVRneoは、二つの工程で得られた:(I)SAとPhleoLacZとを有する3’LTRを含んだ4.5kbのPstI−EcoRI断片の、PstI−EcoRI二重消化により直鎖状にしたpSP65(プロメガ社)への挿入;(II)G-MPLの3’LTRの一部を有するpSP65のNcoI制限部位(クレノウ酵素で処理済み)への、2.0kbのBgl II−BamHI断片(クレノウ酵素で処理済み)の挿入。
【0118】
pCMV(I-Sce I+)は、二つの工程で得られた:
(I)BamHIとSalIとで開裂させたphCMV1(F. Meyer、個人的に入手)プラスミドへの、I-Sce Iを含有する断片(pSCM525, A. Thierry, 個人的に入手)である0.73kbのBamHI−SalIの挿入;
(II) SV40のポリアデニル化シグナルを有する1.6kbの断片の、phCMV1のPstI部位への挿入。
【0119】
pCMV(I-Sce I−)は、pCMV(I-Sce I+)プラスミドとは逆向きにI-Sce I ORFを含んでいる。NsiI及びSalIとによる二重の切断で直鎖状にし、クレノウ酵素で処理した、phCMV PolAベクタへの、BamHI−PstI I-Sce I ORF断片の挿入により得られた。
【0120】
プラスミドpG-MPL、pG-MtkP1、pG-MtkΔPAPLを記載した。更に上記したプラスミドに加えて、種々のプロモ−タ、遺伝子、ポリA部位、I-Sce I部位を有する如何なるプラスミドベクタをも構築することができる。
【0121】
細胞培養と選択
3T3、PCC7 S、Ψ2は、参考文献(7B)、及び(13B)で参照されている。細胞選択培地:ガンシクロビル(14B、23B)を、組織培養液に2μMの濃度で加えた。ガンシクロビル選択は、6日間、細胞上で行い続けた。G418を適切な培養液に、PCC7-Sに対しては1mg/mlの濃度で、3T3に対しては、400μg/mlの濃度で加えた。選択は、細胞培養中を通して行った。フレオマイシンは10μg/mlの濃度で使用した。
【0122】
細胞株
−Ψ細胞株は、I-Sce I認識部位を有するプロウイルス組み換えベクタを含んでいるプラスミドで形質転換した:pG-MPL、pG-MtkPL、pG-MtkΔPAPL。
−NIH3T3線維芽細胞株を次のもので感染させる:
G-MPL 複数のクロ−ン(30以上)が回収された。1から14のプロウイルス組み込み、及び複数の異なる組み込み点が、分子的解析により確認された。
【0123】
G-MtkPL 4クロ−ンが回収された(そのうち3つが正常なプロウイルス組み換えを有し、もう一つが、二つのLTR間の組み換えを有していて、そのため唯一のI-Sce I認識部位を有していた)。
【0124】
−胚性癌腫 PCC7-S細胞株をG-MPLで感染させる:14クロ−ンを回収、正常なプロウイルスの組み込みがおきていた。
−胚性幹細胞株D3をG-MPLで感染させる:4クロ−ンを回収(3つは正常なプロウイルスの組み込みが起きていて、一つは4つのプロウイルス組み込みが起きていた)。
【0125】
「調製」マウス細胞:
レトロウイルスの組み込み(プロウイルス組み込み)により、I-Sce I含有LTRの複製がおきる。細胞は該部位に関してヘテロ接合である。
【0126】
形質転換、感染、細胞染色、及び核酸ブロット分析
これらの方法は、2B、及び3Bに記載のようにして行った。
【0127】
結果
I-Sce IのHRを検出するために、図20に示した実験系を設計した。欠損した組み換えレトロウイルス(24B)は、I-Sce I認識部位とPhloeLacZ(15B)誘導遺伝子を、3'LTR内に挿入して構築した(図20a)。レトロウイルスの組み込みにより、細胞ゲノム内に、互いに5.8kb、または7.2kb離れた二つのI-Sce I部位の組み込みがおきた(図20b)。これらの部位でのI-Sce I誘導性二本鎖切断(DSB)(図20c)により、DSBの脇の領域との相同性配列を有するドナ−プラスミド(pSVneo, 図20d)とのHRが開始されることと、また非相同性配列でドナ−プラスミドが有するものは、この組み換え中に複製される(図20e)可能性とを推定した。
【0128】
レトロウイルスの組み込みによる、哺乳類細胞ゲノムへの、複製済みI-Sce I認識部位の導入
より特には、二つのプロウイルス配列を本研究で使用した。G-MtkPLプロウイルス配列(G-MtkPLウイルス由来)には、形質移入済み細胞の(フレオマイシン含有培地内での)陽性選択用のPheleoLacZ誘導遺伝子と、(ガンシクロビル含有培地内での)陰性選択用のtk遺伝子が含まれている。G-MPLプロウイルス(G-MPLウイルス由来)はPhleoLacZ配列のみが含まれている。G-MtkPL及びG-MPLはエンハンサ非含有モロニ−マウス白血病プロウイルスより構築された欠損型組み換えウイルス(16B)である。該ウイルスベクタは、プロモ−タトラップとして機能し、故に細胞のフランキング配列により活性化される。
【0129】
ウイルス産生細胞株は、pG-MtkPLまたはG-MPLをΨ−2パッケ−ジ細胞株(13B)へ形質導入して作成した。ウイルス転写産物のノ−ザン分析(図21)は、Ψ−2−G-MPL株がLacZプロ−ブとハイブリダイズする、4.2及び5.8kbの転写産物を発現することを示している。これらの転写産物は、おそらく5’LTRで開始され、3’LTRで終結している。この4.5kbの転写産物は、スプライシングされた伝令に相当し、5.8kbの転写産物はスプライシングされていないゲノムの伝令に相当する(図21A)。このことは、該ウイルス中の5'LTRと、スプライシングドナ−及びアクセプタ−の機能性を確認している。ウイルスは、Ψ−2細胞株の培養液より調製した。
【0130】
NIH3T3線維芽細胞、及びPCC7−S多能性マウス細胞株(7B)を次いで、G-MtkPL及びG-MPLでそれぞれ感染させ、クロ−ンを単離した。このクロ−ンより調製したDNAのサザンブロット分析により、LTR仲介性のI-Sce I PleoLacZ配列の複製が証明された(図22a)。Bcl Iによる消化により、予想した5.8kb(G-MPL)、または7.2kb(G-MtkPL)の断片が産生された。染色体のフランキングDNA内のBclI部位に相当する、二つの付加的断片の存在により、単離したそれぞれのクロ−ンにおいて、プロウイルス標的が単一であることが証明される。クロ−ンごとで変化するそのサイズは、別個の遺伝子座でレトロウイルスの組み込みが起きていることを意味している。I-Sce I消化で5.8kb(G-MPL)断片、または7.2kb(G-MtkPL)が生じていることにより、I-Sce I認識が忠実に複製されていることが示された(図22b)。
【0131】
DNA交換へと導かれる組み換えの、I-Sce Iによる誘導。
G-MtkPLウイルスによりNIH3T3に与えられた表現型は、PhleoR β-gal+ glsSであり、G-MLPによりPCC7-Sに与えられた表現型は、PhleoR、βgal+である(図20b)。I-Sce Iにより誘導される組み換えイベントの直接的選択を可能にするため、pVRneoドナ−プラスミドを構築した。pVRneoにおいては、neo遺伝子は、左側の染色体切断に対して5'である配列に相同性である300bpと、右側の切断に対して3’である配列に対して相同性である2.5kbとで挟まれている(図20d)。ポリアデニレ−ションシグナルはneo遺伝子に対して3’に配置して、組み換え後にPhleoLacZ伝令を阻害するようにした。プロウイルスとプラスミドとの間の誘導性組み換えが起こると、得られる表現型はneoRであり、ドナ−プラスミド内のポリアデニレ−ションシグナルの存在のため、PhleoLacZ遺伝子は発現しないはずであり、phleoSβ-gal―表現型になる。
【0132】
G-mtkPL及びG-MtkDPQPLにより、tk遺伝子を使用した陰性選択(ガンシクロビル使用)によるギャップのための選択と、neo遺伝子を使用した陽性選択(ジェニティシン使用)によるドナ−プラスミドの交換のための選択を同時に行うことが可能である。G-MLPを使用して、陽性選択のみをジェニティシン含有培地に適用することができる。よって、活性な内在性プロモ−タ近傍における、ドナ−プラスミドのHRと組み込みイベントとの両方に関しての選択を期待した。誘導されたHRは、表現型がneoR β-gal―になり、またドナ−プラスミドのランダムな組み込みにより表現型がneoR βgal+になることより、上記の二つのイベントは区別することができる。
【0133】
二つの異なるNIH3T3/G-MtkPLと、3つの異なるPCC7-S/G-MPLを次いで、I-Sce I用の発現ベクタ、pCMV(I-Sce I+)と、ドナ−プラスミドpVRneoで共形質転換した。I-Sce Iの一過性発現により、I-Sce I部位でのDSBがおき、よってpVRneoとのHRが促進される。対照は、I-Sce Iを発現しないプラスミドであるpCMV(I-Sce I−)と、pVRneoである。
【0134】
NIH3T3/G-MtkPLクロ−ンを、プロウイルス配列の喪失及びneoR表現型の獲得(ガンシクロビルとジェネティシン使用)、またはneoR表現型のみの獲得の何れかに関して選択した(表1)。第一の場合においては、neoRglsRコロニ−が一連の実験では10−4の頻度で回収され、一連の対照ではコロニ−は全く回収されなかった。更にneoRglsRコロニ−全てはβ-gal―であって、これはプロウイルス部位でのHRより得られたことと一貫性がある。第二の場合においては、neoRコロニ−は、一連の実験で10−3の頻度で回収されたが、一連の対照実験では10から100分の1の低頻度であった。さらにneoRコロニ−の90%は、(pCMV(I-Sce I+)のシリ−ズでは)β-gal―であることが判明した。これは、I-Sce Iの発現により、pVRneoとプロウイルスとの間のHRが誘導されることと、部位特異的HRは、細胞プロモ−タ近傍でのpVRneoのランダムな組み込みよりも10倍、自発的HRよりも少なくとも500倍、より頻繁に起きることを示している。
【0135】
【表4】
【0136】
表1:I-Sce I仲介性の二本鎖切断の影響。
A. 106のNIH3T3/G-MtkPL細胞のクロ−ン1および2、並びに5.106のPCC7-S/G-MPL細胞のクロ−ン3から5を、pVRneoとpCMV(I-Sce I+)若しくはpCMV(I-Sce I−)とで共形質転換した。細胞を表示の培地で選択した:ジェニティシン(G418)、またはジェネティシン+ガンシクロビル(G418_Gls)。βgal発現表現型は、X-gal組織化学的染色により決定した。プロウイルスとpVRneoとの間の誘導性組み換えがおきるならば、細胞はneoRβ-gal-表現型を獲得する。 B.組み換えクロ−ンサンプルの分子的分析。RI:親ウイルス構造pVRneoのランダムな組み込み。DsHR:二重部位HR。SsHR:単一部位HR。Del:プロウイルスの欠失(図20、及び図23も参照されたし)。
【0137】
サザンブロット、及びノ−ザンブロット分析による、組み換えの確認。
neoR組換え体の分子的構造をサザンブロット分析で調べた(図23、及び表1)。I-Sce I部位でのHRからは、組み換えDNAは、4.2kbの親断片の代わりに6.4kbのLacZ断片が産生されることが予想される。NIH3T3細胞からのneoR glsR β-gal―の15の組換え体全ては6.4kbのKpnI断片のみを示した。よって、二重の選択方法により、予想した遺伝子置換(二重部位相同性組み換え:DsHR)による組み換え体のみ産生された。
【0138】
単一選択により産生された25のβ-gal―組換え体は4つのクラスに分類できる:(a)上記のようにしてI-Sce Iで誘導されるDsHR(19クロ−ン);(b)6.4kbの断片(図23、表1、単一部位相同性組み換え:SsHE;クロ−ン3からは3つの独立したβ-gal-組換え体)に加えて存在する、4.2kbのKpnI断片(残りのLTR内のPhleoLacZに相当する)により証明される、左側のLTR内へのpVRneoの組み込み。これらのクロ−ンは、左のDSBのみのI-Sce I-IHRか、(より可能性は低いが)LTRとpVRneoとの間の二重の交差に相当する;(c):ランダムなpVRneoの組み込み(表1、ランダムな組み込み:IR)、及び同時のHR(表1、欠失:Del)(1つのβ−gal―組換え体);及び(d):ランダムなpVRneoの組み込みと、同時のプロウイルスの欠失(1つのβ-gal―組換え体)。この四番目のクラスは、相同性染色体を使用したDSBの修復に相当していると思われる。予期したとおり、ジェニティシン選択のみによるβ-gal+組換え体の全ては、一連の実験に由来するもの(8クロ−ンを分析)も、一連の対照に由来するもの(6クロ−ンを分析)も、ランダムなpVRneo組み込みに相当している。
【0139】
親細胞と、組換え体で産生されたRNAを分析して、PCC7-S/G-MPLのI-Sce I部位で組み換えが起きたことを証明する、付加的な証拠を得た(図24)。親PCC7-S/G-MPL1細胞は、細胞プロモ−タのトラッピングによって細胞−ウイルス融合RNAが発現していることを示す、7.0kbのLacZ RNAを発現する。組み換えクロ−ンはこのLacZRNAを発現しないが、5.0kbのneo RNAを発現する。このneo RNAのサイズは、neo遺伝子によるPhleoLacZの正確な交換と、細胞性スプライシング部位とウイルス性スプライシング部位との交換の使用から予期されるサイズと正確に一致する(LTR内のウイルス性のPhleoLacZ RNAは3.7kbであり、pVRneo中のneo RNAは1.7kbである)。
【0140】
考察
本願で示された結果は、二本鎖切断が、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerebisiae)のI-Sce I系により、ほ乳類細胞中で誘導されることと、標的染色体配列中の切断は、使用したドナ−プラスミドDNAとの部位特異的組み換えを誘導することを証明している。
【0141】
哺乳類細胞内で操作するために、この系においては、内在性のI-Sce I様活性が哺乳類細胞内ではないことと、I-Sce Iタンパク質が哺乳類細胞内で中性であることが必要である。I-Sce I認識部位の導入は、インプットしたDNA配列内での再構成や変異を起こさないようであるので、内在性のI-Sce I様活性は、哺乳類細胞内で作用しないであろう。例えば、I-Sce I認識部位を有するレトロウイルスで感染させたNIH3T3及びPCC7-Sクロ−ンの全ては、安定にウイルスを増殖させた。I-Sce I遺伝子産物の毒性を試験するために、I-Sce I発現プラスミドをNIH3T3細胞株へ導入した(デ−タ非掲載)。機能性のI-Sce I遺伝子のコ・トランスファ−が、高い割合で起きることが判明し、これは該遺伝子に関しての選択が全く起きていないことを示唆している。I-Sce I遺伝子の機能性は、遺伝子産物と生物学的機能の転写分析、免疫蛍光検出で証明した(Choulika et al., 投稿準備中)。
【0142】
次にエンドヌクレア−ゼが、染色体上の認識部位を開裂するかどうかを試験した。これは、プロウイルス構造のそれぞれのLTR内の、染色体上で5.8kb、または7.2kb離れた二つのI-Sce I認識部位を配置することと、I-Sce I遺伝子産物の存在下での標的ベクタとの組み換え反応の産物の分析により成し遂げられた。得られた結果は、I-Sce Iの存在下ではドナ−ベクタが非常に効率的に二つのLTRと組み換えを起こして、機能性のneoを産生することを示している。これにより、I-Sce Iが非常に効率的に、両方のI-Sce I部位で二本鎖切断を誘導することが示唆される。更に、二本鎖切断は少なくとも5つの離れたプロウイルス挿入部内で起こるので、I-Sce Iタンパク質がI-Sce I認識部位を消化する能力は周囲の構造にはほとんど依存していない。
【0143】
I-Sce Iメガヌクレア−ゼが、哺乳類細胞の染色体部位での生物学的機能を有する能力を証明することにより、生物体のゲノムの種々の操作に関しての道が開かれる。部位特異的リコンビナ−ゼ(9B、18B)との比較において、I-Sce I系は非可逆である。部位特異的リコンビナ−ゼはDNAの切断用の部位のみならず、二つのパ−トナ−同士を一緒に連結するための部位をつきとめる。対照的に、I-Sce I系での唯一の必須事項はドナ−分子と、I-Sce Iタンパク質により誘導される切断を挟む領域との相同性である。
【0144】
これは、染色体標的内での二本鎖DNA切断は、哺乳類細胞内の導入されたDNAでのHRを刺激することを示す最初の結果である。染色体側の受取DNA中の二本鎖切断(DSB)と、スパ−コイル型のドナ−DNAとの組み合わせを使用したので、二本鎖切断修復経路による組み換えの、I-Sce Iエンドヌクレア−ゼによる刺激を調査した(21B)。よって、誘導された切断部は、5’から3’へのエキソヌクレア−ゼ消化による一本鎖領域の創製後に侵入してドナ−コピ−からDNAをコピ−する、開裂した両末端が協調して関わる遺伝子変換イベントにより、おそらく修復される。しかしながら、哺乳類細胞と酵母細胞での数多くの組み換えの研究(10B、11B、19B)は、一本鎖アニ−リング(SSA)と呼ばれる、オルタナティブな経路が存在することを示唆している。SSA経路においては二本鎖切断が、相同性の一本鎖DNAを受容側及びドナ−側のDNAに露出させるエクソヌクレア−ゼの作用の基質である。次いで相補鎖のアニ−リングの後には、組換え体を産生する修復工程が続く。I-Sce I系は、この二つの経路の相対的重要性を評価するのに使用することができる。
【0145】
例5
この例は、I-Sce Iメガヌクレア−ゼ(サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)のミトコンドリアのイントロンホ−ミングに関わる)(6B、28B)を使用して、DSBを誘導して哺乳類細胞での組み換えを仲介することを記載している。I-Sce Iは、18bpの長さの認識部位を有する(29B、22B)、非常にまれに切断する制限エンドヌクレア−ゼである。in vivoでは、I-Sce Iエンドヌクレア−ゼは、特異的DSBを開始して細胞によるギャップ修復を導くことにより、修飾した酵母の核での組み換えを誘導することができる(30B、17B、21B)。よってこの方法は、生細胞中での染色体の操作を目指して、特異的DSBを染色体標的DNAに導入する方法として使用することが潜在的には可能である。I-Sce I仲介性組み換えは、染色体工学に関してリコンビナ−ゼ系[11]よりも優れているが、それは後者では宿主とドナ−のDNA分子の両方に標的部位が存在する必要があり、可逆的な反応に至るからである。
【0146】
I-Sce Iエンドヌクレア−ゼの発現には、組み換えイベントが関わる。よってI-Sce I活性は、部位特異的二重鎖切断(DSB)を哺乳類細胞中で起こす。少なくとも二つのイベントが、DSBの修復で起きて、一つは染色体内相同性組み換えにいたり、もう一方は導入遺伝子の欠失に至る。これらのI-Sce I仲介性組み換えは、バックグラウンドのものよりも顕著に高い頻度でおきる。
【0147】
実験材料と実験方法
プラスミドの構築
pG-MtkPL は、5つの工程により得た:(I)NheIとXbaI部位(クレノウ酵素で処理済み)との間にスプライシングの受容部(SA)を有している、モロニ−マウス白血病ウイルス(MoMuLV)のenv遺伝子の、0.3kbのBgl II-SmaI断片(クレノウ酵素で処理済み)を、中間体プラスミド中にある、MoMuLVの3’LTRのU3配列中に挿入する;(II)この修飾済みLTR内に、PhleoLacZ融合遺伝子([13], pUT65由来;Cayla Loratory, Zone Commercial du Gros , Toulouse, France)を含む3.5kbのNcoI-XhoI断片を、SAの隣のXbaI部位で挿入する;(III)Sal I-EcoRIの二重消化で回収したこの3’LTR(SAとPhleoLacZとを含む)を、p5'LTRプラスミド(MoMuLVのヌクレオチド番号563までの5'LTRを含むプラスミド)のXhoI部位とEcoRI部位との間に挿入する;(IV)合成I-Sce I認識部位を、3'LTR内のNcoI部位へ挿入する;(V)pG-MPLのPstI部位に、リンカ−アダプタ−を有している1.6kbのtk遺伝子を挿入する(レトロウイルスゲノムとはアンチセンスで)。
【0148】
pCMV(I-Sce I+)は、二つの工程で得られた:(I)I-Sce Iを含有する、0.73kbのBamHI−Sal I断片(pSCM525由来、A. Thierryにより寄贈)を、BamHI及びSal Iで開裂済みのphCMV1プラスミドへ挿入する;(II)SV40のポリアデニレ−ションシグナルを有する、1.6kbの断片(SV40のヌクレオチド番号の3204から1988)をphCMV1のPstIに挿入する。
【0149】
pCMV(I-Sce I−)には、pCMV(I-Sce I+)プラスミド内の逆向きでI-Sce IORFを含んでいる。これは、NsiIとSalIの二重消化により線状化され、クレノウ酵素の処理を受けた、phCMV PolyAベクタへ、BamHI−PstIのI-Sce IORF断片を挿入することで得られた。
【0150】
細胞培養と選択
T3及びΨ2は、参考文献(7B)と(13B)のものである。細胞選択培地:ガンシクロビル(14B、23B)を2μMの濃度で組織培養培地へ加えた。ガンシクロビル選択を6日間続けた。フレオマイシンを10μg/mlの濃度で使用した。同じ条件で二重の選択を行った。
【0151】
形質転換、感染、細胞染色、及び核酸ブロット分析。
これらのプロトコ−ルは、記載されているものである(2B、3B)。
【0152】
ウイルス産生細胞株
ウイルス産生細胞株は、pG-MtkPLをΨ2パッケ−ジング細胞株へ形質導入して得られる。ウイルスは、形質転換済みΨ2細胞株の培養液の濾過により調製され、クロ−ンはフレオマイシン含有培地で単離した。
【0153】
結果
哺乳類細胞でのI-Sce Iエンドヌクレア−ゼ活性をアッセイするために、G-MtkPLプロウイルスを含むNIH3T3細胞を使用した。G-MtkPLプロウイルス(図25a)は、ガンシクロビル含有培地での陰性選択用のtk遺伝子を含み、また二つのLTR内にI-Sce I認識部位とPhleoLacZ融合遺伝子とを含む。このPhleoLacZ遺伝子はフレオマイシン含有培地での、形質導入済み細胞の陽性選択に使用することが可能である。
【0154】
これらの細胞でのI-Sce Iエンドヌクレア−ゼの発現は、以下の機構(図25に例示されている)のうちの一つにより修復されるI-Sce I認識部位での二本鎖切断(DSB)を誘導すると仮定した:
(a)仮にI-Sce Iエンドヌクレア−ゼが二つのLTR(図1−bの1と2)のうちの一つのみで切断を誘導するならば、二つのLTRの間で相同性である配列は対を形成し、組み換えを起こして染色体内相同性組み換え(すなわち一本鎖アニ−リング(SSA )(12B、10B)または交差)を起こす;
(b)仮にI-Sce Iエンドヌクレア−ゼが、二つのLTRのそれぞれにおいて切断を誘導するならば、二つのフリ−な末端は再連結することが可能であり(末端結合機構(31B))染色体内組み換え(図25−b 3)がおきる;または、
(c)二つのDSBにより作られるギャップは、相同性染色体かその他の染色体断片上の配列を使用したギャップ修復機構により修復されて、プロウイルス配列の喪失がおきる(32B)(図25−c)。
【0155】
G-MtkPLによりNIH3T3細胞に与えられた表現型は、PhleoRβGal+ Gls-sである。第一の実験系においては、tk遺伝子の喪失での選択により、組み換えを検索した。NIH3T3/G-MtkPL1及び2(コロナルプロウイルス組み込み部位を有する二つの独立したクロ−ン)を、I-Sce I発現ベクタであるpCMV(I-Sce I+)、またはI-Sce Iエンドヌクレア−ゼを発現しない対照プラスミドであるpCMV(I-Sce I−)で形質転換した。次いで細胞をガンシクロビル含有培地で増殖させて、tk活性の喪失で選択した。得られたGlsRクロ−ンもまた、組織化学的染色(X-galを使用)して、βガラクトシダ−ゼ活性に関してアッセイした(表1)。
【0156】
【表5】
【0157】
表1: 組み換え頻度に与える、I-Sce I発現の効果。1X106のNIH3T3/G-MtkPL1細胞と、2X106のNIH3T3/G-MtkPL1細胞を、pCMV(I-Sce I+)またはpCMV(I-Sce I−)で形質転換した。細胞をガンシクロビル含有培地で培養した。GlsRクロ−ンの、βガラクトシダ−ゼ表現型を、X-gal組織化学的染色で決定した。
【0158】
pCMV(I-Sce I−)で形質転換した対照の実験系では、GlsR抵抗性クロ−ンが低頻度で見られ(3X10−6の処置済み細胞当たり2クロ−ン)、またこの二つはβ-gal+であった。pCMV(I-Sce I+)で形質転換した実験系では、I-Sce I遺伝子の発現により、GlsRクロ−ンの頻度を100倍上昇させた。これらのクロ−ンは、β-gal―(93%)、またはβ-gal+(7%)の何れかであった。NIH3T3/G-MtkPL1に由来する5つのβ-gal―クロ−ンと、NIH3T3/G-MtkPL2に由来する6クロ−ンとを、PstIを使用したサザンブロッティングにより分析した(図26)。親DNAにおいて、PstIエンドヌクレア−ゼは、プロウイルスのtk遺伝子内で二回切断した(図26a)。二つのPhleoLacZ含有断片のサイズを、フランキング細胞DNAの内のPstI部位の位置で決定した。NIH3T3/-MtkPL1では、これら二つのPhleoLacZ断片は10kbpであり、NIH3T3/G-MtkPL2では、それらは7kbpと9kbpである。NIH3T3/G-MtkPL1に由来する、5つのGlsR β-gal-抵抗性クロ−ンと、NIH3T3/G-MtkPL2に由来する6クロ−ンでは、tk遺伝子と二つのPhleoLacZ 配列が欠失していた(図26bとc)。
【0159】
この実験系では、対照系と比較すると、GlsRβ-gal+クロ−ンの数が、I-Sce I発現により、約10倍上昇した。これらはこれ以上の分析を行わなかった。
【0160】
回収される、GlsR β-gal+クロ−ンの数を増大させるため、第二実験系では細胞をガンシクロビルとフレオマイシンの両方を含む培地で増殖させた。ガンシクロビルはtk活性を喪失した細胞を選択し、またフレオマイシンは、PhleoLacZ遺伝子を保持している細胞を選択する。NIH3T3/G-MtkPL1及び2を、pCMV(I-Sce I+)、またはpCMV(I-Sce I−)で形質転換した(表2)。
【0161】
表2.Phleo、及びGls抵抗性クローンの数
【表6】
【0162】
表2:染色体内組み換え頻度に与える、I-Sce I発現の影響。2X106のNIH3T3/G-MtkPL1細胞と、9X10(6)のNIH3T3/G-MtkPL2細胞とを、pCMV(I-Sce I+)、若しくはpCMV(I-Sce I−)で形質転換した。細胞は、フレオマイシン及びガンシクロビル含有培地で培養した。
【0163】
対照実験系では、PhleoR GlsR抵抗性クロ−ン回収頻度は1X10−6であった。この結果は、tk活性を自発的に喪失するが、一方ではPhleoLacZ遺伝子活性を保持している細胞を反映している。この実験系ではこの頻度は20から30倍上昇されたが、これは第一実験系とも一致する(表1)。
【0164】
PhleoRβ-gal+glsRクロ−ンの分子構造を、サザンブロットで分析した(図27)。NIH3T3/G-MtkPL1に由来する4クロ−ンを分析したが、二つは実験系からで、二つは対照からであった。これらのDNAをPstIエンドヌクレア−ゼで消化した。染色体内のイベントが起きると、13.6kbp(親DNAの3つのPstI断片の合計からI-Sce I断片を差し引いたもの、す27aを参照)の単一の断片が得られることが期待された。4つのPhleoRglsR抵抗性クロ−ン全ては、13.6kbpのPstI断片を示したで、これは忠実な分子内組み換えを示唆している(図27b)。
【0165】
NIH3T3/G-MtkPL2細胞に由来する8クロ−ンからのDNAを、BclI消化を使用してサザンブロットで分析した(6つは実験系より、二つは対照系より)。親DNAのBcl I消化により、プロウイルス配列を含む7.2kbpの断片一つと、6kbpと9.2kbpのフランキング断片二つとが得られる。染色体内組み換えにより、7.2kbpの断片が喪失されるはずであるが、他の二つのバンド(6kbpと9.2kbp)は変化しないままである(図27a)。8つのクロ−ン(2.7から2.16)では、7.2kbp断片を含むtkが消えていたが、これは二つのLTR間での染色体内組み換えを示している(図27c)。
【0166】
考察
ここに示した結果は、酵母のI-Sce Iエンドヌクレア−ゼが、哺乳類細胞中で染色体組み換えを誘導することを証明している。これは、I-Sce Iがin vivoにおいて、予め決めておいた標的で染色体を切断することが可能であることを強く示唆している。
【0167】
種々の種におけるゲノム配列中の二本鎖切断は組み換えを刺激する(21B、19B)。二倍体の酵母では、染色体DSBにより同質対立遺伝子の遺伝子座を修復マトリクスとして使用することが可能になる。これにより、遺伝子変換イベントが起きて、該遺伝子座が同型接合型になる(30B)。染色体DSBはまた、異所性の遺伝子座の相同性配列をマトリックスとして使用して修復されることが可能である(32B)。この結果は、DSBギャップ修復機構の結果としては顕著なレベルで観察される。DSBが二つの直接的反復染色体配列の間で起きると、組み換えの機構は一本鎖アニ−リング(SSA)経路を使用する(11B、10B)。SSA経路には3つの工程が関わる:1)切断部分でエクソヌクレオリシスが開始されて、3'に突出した一本鎖DNAを残す;2)二つの一本鎖DNAの間での、相同性配列による対形成;3)修復複合体と、非相同性配列を別ける変異導入遺伝子とによる、DNAの修復(33B)。HOまたはI-Sce Iエンドヌクレア−ゼに誘導される染色体内でのDSBが、末端連結によって、切断の修復を起こすことが示された一倍体酵母に関しての特別の問題がある(34B)。これは実際に起こるが低効率である(30B、35B)。
【0168】
得られた結果は、二つのI-Sce I部位がプロウイルス標的内に存在することにより、またI-Sce Iエンドヌクレア−ゼが発現することにより、チミジンキナ−ゼ遺伝子の欠失が、少なくとも自発的に起きる場合よりも100倍大きい頻度で起きることを示している。I-Sce I仲介性の組み換えにより二つのtk欠失クロ−ンが得られる:PhleoLacZ配列を保持しているクロ−ン(7%)と、喪失したクロ−ン(93%)。
【0169】
tk-PhleoLacZ+の創製はおそらく染色体内組み換えの結果である。LTR内にI-Sce I認識部位を有する組み換えプロウイルスにおいて、I-Sce Iエンドヌクレア−ゼは、20%の場合においてプロウイルスの一つのみのI-Sce I部位を切断し、また80%の場合においてプロウイルスの2つのI-Sce I部位を切断することが、研究により示されている。2つのI-Sce I部位の内一つのみが該エンドヌクレア−ゼにより切断されるならば、染色体内組み換えはSSA経路により起こりえる。二つのI-Sce I部位がともに切断されるならば、tk-PhleoLacZ+細胞が末端連結により創製されて、染色体内組み換えが可能になる(図1を参照)。二倍体酵母においては、この経路は好ましくないが(切断部は相同性の染色体配列を使用して修復される)(2B)、この経路が哺乳類細胞内で使用される可能性はある。
【0170】
tk-/PhleoLacZ-細胞の創製はおそらく、同型遺伝子型、及び/または異所的遺伝子変換イベントの結果である(36B)。プロウイルスの組み換え部位の単離と分子的分析により、当該細胞による、染色体DSBのレゾル−ションのイベントそれぞれの相対的頻度に関する情報が提供される。哺乳類細胞においては、ゲノム配列の高重複性が、異所的相同性配列によるDSBの修復の可能性を上昇させるので、上記の定量的情報は重要である。DSB修復のための異所的組み換えは、進化におけるゲノムの形成と多様性に関わってきた可能性がある[29]。
【0171】
予め決めておいたゲノムの部位において、染色体を特異的に消化する能力には、ゲノム操作に関しての幾つかの潜在的適用性がある。
【0172】
本願に記載の遺伝子置換のプロトコ−ルは、以下のように変化させてもよい:
ドナ−ベクタの多様性:
ドナ−プラスミド中のI-Sce I部位のフランキング領域のサイズと配列(左側300bpと、右側2.5kbpに関して):I-Sce I部位の左右のフランキング領域が最高で、合計11kbまでの種々のサイズである、異なる構築物が存在する。配列は、構築したものに依存している(LTR、遺伝子)。300bpから11kbの間の、如何なる配列も使用可能である。
【0173】
・挿入部(neo, phleo, phleo-LacZ, 及びPytk-neoが構築された)。抗生物質抵抗性:ネオマイシン、フレオマイシン;レポ−タ−遺伝子(LacZ);HSV1チミジンキナ−ゼ遺伝子:ガンシクロビルに対する感受性。10kbまでの如何なる遺伝子配列を挿入することや、それを置換することは不可能である。該遺伝子はレトロウイルスの誘導性、または構成性プロモ−タ制御下、または遺伝子トラップと相同性組み換え(すなわちインスリン、Hbs、ILs、及び種々のタンパク質)により発現させることが可能である。
【0174】
酵素I-Sce Iを発現するために、種々の方法を使用することが可能である:一過性の形質転換(プラスミド)、またはタンパク質の直接的インジェクション(胚の核内へ);安定な形質転換(種々のプロモ−タ、例:CMV, RSV, MoMuLV);欠失性組み換えレトロウイルス(MoMuLVプロモ−タ制御下で、染色体内に ORFを組み込む);およびエピソ−ム。
【0175】
I-Sce I部位を組み込む、宿主域の変化:
I-Sce I部位を有する組み換えのレトロウイルス(すなわち、pG-MPL, pG-MtkPL, pG-MtkΔPAPL)は、種々のパッケ−ジング細胞株(両種向性、または異種栄養性)で産生させてもよい。
【0176】
I-Sce Iを発現する安定な細胞株の構築と、レトロウイルス感染に対する細胞の保護。
【0177】
I-SceIを発現する安定な細胞株は、I-Sce I部位を有するレトロウイルスベクタでの感染に対して保護される(すなわち、I-Sce Iエンドヌクレア−ゼをCMVプロモ−タ制御下で産生するNIH3T3細胞株は、pG-MPLや、pG-MtkPLによる感染や、Ψ2細胞でのMoMuLVプロモ−タ下のI-Sce Iに対して抵抗性である)。
【0178】
I-Sce I部位を含む、細胞株とトランスジェニック動物の構築。
I-Sce I部位の挿入は、所望の遺伝子座、及び適切な位置での、古典的な遺伝子置換により行う。次いで、細胞中(人工的に挿入したI-Sce I部位へのドナ−遺伝子の挿入)、またはトランスジェニック動物中の同じ位置での異なる遺伝子の発現を、スクリ−ニングすることが可能である。複数の薬剤、リガンド、医用タンパク質等の効果は、組織特異的な方法で試験することが可能である。遺伝子は一貫して、染色体内の同じ位置に挿入されるであろう。
【0179】
「無調整」のマウス細胞と全ての真核細胞に対しては、以下のようにして、ワンステップの遺伝子置換/組み込みを行う:
・I-Sce I部位を有するベクタ(種々のドナ−プラスミド):該遺伝子内(またはその脇)に一つの部位、あるいはドナ−遺伝子の脇に二つの部位。
【0180】
・酵素の発現方法
一過性発現:同じプラスミド上、または別のもの(コ・トランスフェクション)の上のORF。
【0181】
行った方法の特異的詳細は上記してある。以下の付加的な詳細により、以下の構築を可能にする:
高力価である、種々の感染性レトロウイルス粒子を産生することが可能な細胞株;
I-Sce I部位、レポ−タ−セレクタ−遺伝子、活性LTR、及び他のレトロウイルスの必須配列を有する、欠失レトロウイルスを有するプラスミド;上記の改変したレトロウイルス中のI-Sce I部位のフランキング領域に対して相同性な配列を含み、またマルチプルなクロ−ニング部位を含む、プラスミド;並びに、I-Sce Iエンドヌクレア−ゼの発現を可能にし、特異的適用に順応させたベクタ。
【0182】
マウスの線維芽細胞Ψ2細胞株を使用して、I-Sce I部位を有する、異所性欠失組み換えレトロウイルスベクタを産生させた。pG-MPL、pG-MtkPL、PG-MtkΔPAPLのようなプラスミドを産生する細胞株もまた入手可能である。更に、マウス両種向性細胞株(PA12のような)、または異種栄養性細胞株のような、高力価の感染性粒子を産生する如何なる細胞をも、I-Sce I部位を有する組み換えレトロウイルス(すなわち、pG-MPL, pG-MtkPL, pG-MtkΔPA PL)の、種々のパッケ−ジング細胞株(両種向性、同種指向性(ectropic)、または異種栄養性)での産生に使用することが可能である。
【0183】
I-Sce Iを有する種々のプラスミドを、レトロウイルスの構築に使用することが可能であるが、これにはpG-MPL, pG-MtkPL,およびpG-MtkΔPA PLが含まれる。種々のプロモ−タ、遺伝子、ポリA部位、及びI-Sce I部位を有する、その他のプラスミドベクタを構築することが可能である。I-Sce Iのフランキング領域に相同性である配列を有する、種々のプラスミドを構築することが可能である。ドナ−プラスミド中のI-Sce I部位のフランキング領域のサイズと配列は、左に300bp、右に2.5kbとなるように調製される。I-Sce I認識部位の左右に、最高で約11kbの、種々のサイズのフランキング領域を有する、他の構築物を使用することが可能である。
【0184】
ネオマイシン、フレオマイシン、及びPhleo-LacZを有する挿入部を構築した。薬剤抵抗性または、LacZ、HSV1、若しくはチミジンキナ−ゼ遺伝子(ガンシクロビルに対しての感受性)、インシュリン、CFTR、IL2及び種々のタンパク質が含まれるリポ−タ−遺伝子のような他の配列を挿入することができる。通常は、最高で12kbまでの如何なる配列をも挿入することが可能であるが、ここでサイズはカプシド形成するウイルスの容量に依存する。該遺伝子は、レトロウイルスの誘導性、または構成性のプロモ−タ下、または相同性組み換え後の遺伝子トラップにより、発現させることが可能である。
【0185】
I-Sce Iを含み、エンドヌクレア−ゼを産生する種々のプラスミドを構築することが可能である。pCMV-SceI(+)のような発現ベクタ、またはORFを含む同様の構築物は、一過性形質転換、電気穿孔、またはリポフェクションにより、細胞内で導入することが可能である。タンパク質はまた、インジェクション、またはリポソ−ムにより細胞へ直接的に導入することも可能である。
【0186】
I-Sce I部位が組み込まれた種々の細胞株を産生することが可能である。好ましくは、レトロウイルスの挿入(プロウイルスの組み込み)が、I-Sce I部位を含むLTRの複製を誘導する。細胞はこの部位に関して半接合体である。適切な細胞株には以下のものが含まれる:
1.G-MPLのプロウイルス組み込みを、1から14個有している、マウス線維芽細胞株、NIH3T3。複数のクロ−ン(30よりも多い)を回収した。個となるゲノム組み込み(未解析)の存在と多重度を分子的分析により確認した。
2.ゲノムに1コピ−のG-MPLが組み込まれたマウス線維芽細胞株、NIH3T3。4クロ−ンが含まれる。
3.1から4コピ−の、ゲノムへのG-MPLプロウイルス組み込みを有する、マウス胚性癌腫細胞株、PCC7-S。14クロ−ンが含まれる。
4.1コピ−のG-MtkPLがゲノムに組み込まれている、マウス胚性癌腫細胞株、PCC4。
5.1から4コピ−のG-MPLをゲノムの種々の位置に有する(未解析)マウス胚性癌腫細胞株、D3。4クロ−ンが含まれる。
【0187】
I-Sce I部位を有する、他の細胞株とトランスジェニック動物の構築は、I-Sce I部位を古典的な遺伝子置換により所望の遺伝子座の適切な場所に挿入することにより行える。如何なる動物または植物も先験的に使用して、I-Sce I部位を順応させる細胞株中の、ゲノムの種々の位置に挿入することができる。本発明は以下のようにして使用することができる:
【0188】
1.部位特異的遺伝子挿入
I-Sce I部位を前もって組み込んでおくことにより、予め決めた位置に、種々の遺伝子若しくはある遺伝子の変異体が挿入されている、限定されない数の細胞株を産生することが、この方法により可能になる。よってこのような細胞株は、表現型、リガンド、薬剤のスクリ−ニングに対して有益であり、また、該細胞株がレトロウイルス産生に関してのトランス相補細胞株であるならば、組み換えレトロウイルスベクタの発現を、非常に高レベルで行うのに有益である。
【0189】
上記のマウス細胞、またはヒトを含む、その他の脊椎動物由来の同等のものを使用することが可能である。如何なる植物細胞も、その再生能力の有無に関わらず、また繁殖性植物になるかどうかには関わらず培養して維持することが可能である。本方法はまた、トランスジェニック細胞にも使用可能である。
【0190】
2.部位特異的遺伝子発現
同様の細胞株と、導入遺伝子、種々の、プロモ−タ、制御因子、及び/または構造遺伝子とを使用して、タンパク質、代謝物、またはその他の、生物学的もしくは生物工学的に興味ある化合物を産生することが可能である。遺伝子は常に、染色体内の同じ位置に挿入される。トランスジェニック動物においては、複数の薬剤、リガンド、または医用タンパク質の効果を組織特異的方法により試験することを可能にする。
【0191】
3.ゲノム遺伝子中のCFTR遺伝子を挟む、相同性配列を利用した、I-Sce I認識部位の、DFTR遺伝子座への挿入。I-Sce I部位は、二重交差(double-crossing over)(Le Mouellin et al., PNAS, 1990, Vol. 87, 4712-4716)による自発的遺伝子置換により挿入することが可能である。
【0192】
4.バイオメディカルの適用
A.遺伝子治療では、患者由来の細胞をI-Sce I含有レトロウイルスで感染させ、欠失レトロウイルスの組み込みでスクリ−ニングし、次いでI-Sce I産生ベクタとドナ−配列とによる共形質転換が可能である。
【0193】
適切な細胞の例には、造血組織、幹細胞、皮膚細胞、血管の内皮細胞、または如何なる幹細胞が含まれる。
【0194】
I-Sce I含有レトロウイルスには、pG-MPL, pGMtkPL, または少なくとも一つのI-Sce I部位を含んでいる、如何なるレトロウイルスベクタが含まれる。
【0195】
I-Sce I産生ベクタには、pCMVI-Sce I(+)、またはI-Sce Iエンドヌクレア−ゼの一過性発現を可能にする如何なるプラスミドが含まれる。
【0196】
ドナ−配列には、(a)完全なIL2遺伝子を含んだゲノム配列;(b)プレ−プロインスリン遺伝子を含んだゲノム配列;(c)ヒトを含む、大部分の脊椎動物のゲノム配列で、遺伝子発現用のシス作用性配列を含むもの。修飾した細胞を次いで、遺伝子治療に関して確立されたプロトコ−ルにそって、患者に再導入する。
【0197】
B.I-Sce I部位を有するプロモ−タ(すなわちCMV)を、幹細胞(すなわちリンパ球)へ挿入する。リンカ−(マルチクロ−ニング部位)を含むギャップ修復分子を、CMVプロモ−タと下流の配列との間に挿入することができる。ドナ−プラスミド中に存在する遺伝子(すなわちIL-2遺伝子)の挿入は、I-Sce Iメガヌクレア−ゼの発現(すなわちI-Sce Iネガヌクレア−ゼ発現ベクタとの共形質転換)により効率的に行える。CMVプロモ−タ制御下にあるIL-2遺伝子の直接的挿入により、IL-2を過剰に発現している幹細胞が直接的に選択される。
【0198】
現在可能な系では、トランスジェニック細胞株の構築のため、レトロウイルス感染を使用している。I-Sce Iをゲノム内に導入する他の方法も使用可能であり、これらにはDNAのマイクロインジェクション、リン酸カルシウム誘導形質転換、電気穿孔、リポフェクション、プロトプラスト若しくは細胞の融合、及び細菌細胞接合が含まれる。
【0199】
異型接合型の喪失は、次のようにして証明される:
I-Sce I部位を遺伝子座に導入し(外来配列とともに、または外来配列なしで)、細胞内で異型接合型を作りだす。修復DNAがないと、誘導される二本鎖切断部は、非特異的エクソヌクレア−ゼにより伸長されて、娘染色分体の無傷の配列によりギャップ修復され、よって、該細胞はこの遺伝子座に関して同型接合型になる。
【0200】
遺伝子治療の特異的例には、免疫調節(すなわちIL遺伝子に関して、変化する範囲と発現);欠失遺伝子の置換;及びタンパク質の分泌(すなわち種々の分泌タンパク質の、細胞小器官内での発現)が含まれる。
【0201】
I-Sce I誘導性の組み換えにより、in vivoで特異的遺伝子を活性化することが可能である。I-Sce I開裂部位は、遺伝子のタンデムな繰り返しでの二重化部分の間に導入されていて、機能を喪失させている。エンドヌクレア−ゼI-Sce Iの発現は、二つのコピ−の間の開裂を誘導する。組み換えによる補償が刺激され、機能性遺伝子が生じる。
【0202】
細胞株、または生物体の染色体の、部位特異的な遺伝的マクロ再構成
染色体の特異的転座、または欠失が、I-Sce I開裂により誘導される。遺伝子座挿入は、「古典的な遺伝子置換」により、染色体中の特異的な位置に一つ組み込むことにより得られる。認識配列の、I-Sce Iエンドヌクレア−ゼによる開裂は、非致命的転座、または欠失とその後の末端連結により修復可能である。染色体断片の欠失はまた、二つ以上のI-Sce-I部位を遺伝子座のフランキング領域内に挿入することにより得られる(図32を参照)。開裂は、組み換えにより修復することが可能であり、上記の二つの部位の間の完全な領域が欠失する(図32を参照)。
【参照文献2】
【0203】
【図面の簡単な説明】
【0204】
【図1】ミトコンドリアのI-Sce I遺伝子に対応するユニバ−サルコ−ド(universal code)である。
【図2】酵素I-Sce Iをコ−ドするヌクレオチドと、天然のI-Sce I酵素のアミノ酸配列である。1及び2:これらのアミノ酸は触媒活性を得るためには必ず必要である。その他の置換(例えば初めの10アミノ酸の欠失)が可能である。
【図3】I-Sce I認識配列を示し、該認識部位の可能な変異と、その変異の認識厳密度への影響とを示している。
【図4A】プラスミドpSCM525の領域のヌクレオチド配列と、推定のアミノ酸配列である。本発明のI-Sce I酵素のヌクレオチド配列は、ボックスで囲ってある。該遺伝子の正規のものと比較してN末端にアミノ酸が二つ伸長していることに注意されたし。
【図4B】プラスミドpSCM525の領域のヌクレオチド配列と、推定のアミノ酸配列である。本発明のI-Sce I酵素のヌクレオチド配列は、ボックスで囲ってある。該遺伝子の正規のものと比較してN末端にアミノ酸が二つ伸長していることに注意されたし。
【図5】I-Sce I酵素のアミノ酸配列の多様性を示している。酵素活性に影響せずに、変異させることが可能な部位(証明済み):1及び2位は非天然型である。この二つのアミノ酸はクロ−ニング戦略のために加えられたものである。1から10位まで:欠失させることが可能である;36位:Gは許容される;40位:MまたはVは許容される;41位:SまたはNは許容される;43位:Aは許容される;46位:VまたはNは許容される;91位:Aは許容される;123及び156位:L は許容される;23位:A及びSは許容される; 酵素活性に影響する変異(証明済み)19位:LからS;38位:IからSまたはN;39位:GからDまたはR;40位:LからQ;42位:LからR;44位:DからE, G,またはH;45位:AからEまたはD;46位:YからD;47位:IからRまたはN;80位:LからS;144位:DからE;145位:DからE;146位:GからE;147位:GからS。
【図6】エンドヌクレア−ゼと、関連するエンドヌクレア−ゼとをコ−ドしている、グル−プIイントロンを示す。
【図7】I-Sce Iの合成遺伝子を有する酵母発現ベクタである。
【図8】哺乳類発現ベクタPRSV I-SceIである。
【図9】プラスミドpAF100の制限酵素地図である(YEAST, 6:521-534, 1990も参照されたし;これはこの文献に基づいていて、これを本願に組み込む)。
【図10A】図10A及び10Bは、プラスミドpAF100の領域のヌクレオチド配列と制限部位とを示す。
【図10B】図10A及び10Bは、プラスミドpAF100の領域のヌクレオチド配列と制限部位とを示す。
【図10C】図10A及び10Bは、プラスミドpAF100の領域のヌクレオチド配列と制限部位とを示す。
【図11】大腸菌(E.coli)とその他の細菌に対するI-Sce I部位を含んだ、挿入ベクタpTSMω、pTKMω、及びpTTcωである。構築:トランスポザーゼ遺伝子を有し、ユニ−クなNotI部位のリンカ(I-Sce I)が挿入された、pGP704は、デロレンツォ(De Lorenzo)より入手した。
【図12】酵母に対するI-Sce I部位を有した、挿入ベクタpTYW6である。構築:BamHIにリンカ(I-Sce I−NptI)を有している挿入ベクタpTYW6は、J.D.ボエク(Boeke)より入手した。
【図13A】哺乳類に対するI-Sce Iを有する挿入ベクタPMLV LTR SAPLZである。
【図13B】哺乳類に対するI-Sce Iを有する挿入ベクタPMLV LTR SAPLZである。
【図14】I-Sce Iで開裂した、7つのトランスジェニック酵母株のセットである。FY1679(対照)由来の染色体、及び染色体XIの種々の部位に挿入されたI-Sce I部位を有する7つのトランスジェニック株由来の染色体をI-Sce Iで処理した。DNAを、0.25 X TBE緩衝液中で一つのアガロ−スゲル(SeaKem)で電気泳動した(130V、12℃、Rotaphor装置(Biometra)で70時間、100から40秒の減少パルス時間)。(A)DNAを臭化エチジウム(0.2μg/ml)で染色して、ハイブリダイゼーション用にHybond N膜(Amersham社)にトランスファ−した。(B)セット中の最も短い断片にハイブリダイズする、32Pで標識したコスミドpUKG040をプロ−ブとして使用した。染色体XIの位置及び最小の染色体を示してある。
【図15】遺伝子マッピング用の合理的な入れ子状(nested)染色体断片化戦略である。(A)I-Sce Iの位置を、左/右の方向性に関わらずにマップ上に配置してある(より短い断片を人為的に左に配置してある)。PFGEで測定した断片のサイズ(図14A)をkbで示してある(それぞれの測定の精度の限界のため、二つの断片の大きさの合計には、幾分の多様性がある)。(B)セット中の最小断片とハイブリダイズするプロ−ブを使用したハイブリダイゼーションにより、それぞれの断片の方向性が決定される(図14B)。プロ−ブとハイブリダイズする断片(実線)を、人為的に左に配置した。(C)トランスジェニック酵母株を、ハイブリダイズする染色体断片の長さの短いほうから順に配置した。(D)最小及び最大の間隔を有する、推定のI-Sce Iマップをkbで示してある(幾つかの間隔の多様性はPFGE測定の限界のためである)。(E)染色体のサブ断片をプロ−ブとして使用して、それぞれのコスミドクロ−ンをマップ上の間隔またはI-Sce I部位へ割り当てた。
【図16】染色体XIの左右末端プロ−ブを使用したハイブリダイゼーションによる、トランスジェニック酵母株のI-Sce I部位のマッピングである。FY1679由来の染色体(対照)、及び7つのトランスジェニック酵母株由来の染色体をI-Sce Iで処理した。トランスジェニック酵母株を図15で説明したようにして順に並べた。電気泳動の条件は、図14と同様であった。32Pで標識したコスミドpUKG040とpUKG066を、それぞれ左、及び右の末端プロ−ブとして使用した。
【図17A】入れ子状(nested)染色体断片をプロ−ブとして使用した、コスミドのコレクションである。コスミドDNAをEcoRIで消化して、0.9%のアガロ−スゲル電気泳動にかけて(SeaKem, 1.5V/cm, 14時間)、臭化エチジウムで染色しHybond N膜へトランスファ−した。コスミドを前のハイブリダイゼーションの順で配置して、戦略を可視化すのに役立てた。ハイブリダイゼーションは、PFGEで精製した(図16を参照)左末端の入れ子状(nested)染色体断片をプロ−ブとして使用して、3つの同じ膜上で連続して行った。A:臭化エチジウム染色(ラダ−はBRLの1kbラダ−である)。B:膜#1, プロ−ブ:左側のtelからA302まで、C:膜#1, プロ−ブ:左側のtelからM57部位まで、D:膜#2, プロ−ブ:左側のtelからH81部位まで、E:膜#2, プロ−ブ:左側のtelからT62部位まで、F:膜#3, プロ−ブ:左のtelからG41部位まで、G:膜#3, プロ−ブ:左側のtelからD304部位まで、H:膜#3, プロ−ブ:染色体XI全体。
【図17B】入れ子状(nested)染色体断片をプロ−ブとして使用した、コスミドのコレクションである。コスミドDNAをEcoRIで消化して、0.9%のアガロ−スゲル電気泳動にかけて(SeaKem, 1.5V/cm, 14時間)、臭化エチジウムで染色しHybond N膜へトランスファ−した。コスミドを前のハイブリダイゼーションの順で配置して、戦略を可視化すのに役立てた。ハイブリダイゼーションは、PFGEで精製した(図16を参照)左末端の入れ子状(nested)染色体断片をプロ−ブとして使用して、3つの同じ膜上で連続して行った。A:臭化エチジウム染色(ラダ−はBRLの1kbラダ−である)。B:膜#1, プロ−ブ:左側のtelからA302まで、C:膜#1, プロ−ブ:左側のtelからM57部位まで、D:膜#2, プロ−ブ:左側のtelからH81部位まで、E:膜#2, プロ−ブ:左側のtelからT62部位まで、F:膜#3, プロ−ブ:左のtelからG41部位まで、G:膜#3, プロ−ブ:左側のtelからD304部位まで、H:膜#3, プロ−ブ:染色体XI全体。
【図18】入れ子状(nested)染色体断片戦略で決定した、酵母染色体XIのマップである。染色体を7つのI-Sce I部位(E40, A302, ・・・)で離して、8つの間隔に分けた(サイズはkbで表示、図15Dを参照)。間隔内に含まれるか、またはI-Sce I部位を横切るコスミドクロ−ンを、間隔の下、または間隔の境界の下にそれぞれ示した。プロ−ブとして使用した遺伝子とハイブリダイズするコスミドクロ−ンを、文字(a-i)で表示してある。それらは、I-Sce Iマップに関しての遺伝子の位置を示し、遺伝子地図(最上)との比較を可能にする。
【図19】酵母で成功した部位特異的相同性組み換えの図である。
【図20A】I-Sce Iによって誘導されるHRの検出のための実験の計画である。a)7.5kbのPheleoLacZレトロウイルス(G-MtkPL)と、6.0kbのPheleoLacZレトロウイルス(G-MPL)のマップである;SAはスプライシング受容部位である;G-MtkPL配列(G-MtkPLウイルス由来)は、感染陽性細胞選択のためのPheleoLacZ融合遺伝子(フレオマイシン(Phelemycin)含有培地での選択)、及び陰性選択のためのtk遺伝子(ガンシクロビル含有培地での選択)を含む;G-MPL配列(G-MPLウイルス由来)にはPheleoLacZ配列のみが含まれる。b)G-MtkPL、及びG-MPLのレトロウイルス性組み込み後のプロウイルス構造のマップ;I-Sce I PheleoLacZ LTRは、I-Sce I PheleoLacZ配列を5’LTRに置いて複製する; ウイルスベクタ(プロモ−タトラップ(trap)として機能する)が隣り合う細胞性プロモ−タ(P)により転写される(矢印)。c)I-Sce Iは、宿主DNA中に二本鎖の切れ目(DSBs)を生じさせて、中心の断片を遊離させ、ドナ−プラスミド、pVRneo(d)と対を形成することが可能な、開裂染色体末端を残す。e)HR後に期待される組み換え遺伝子座。
【図20B】I-Sce Iによって誘導されるHRの検出のための実験の計画である。a)7.5kbのPheleoLacZレトロウイルス(G-MtkPL)と、6.0kbのPheleoLacZレトロウイルス(G-MPL)のマップである;SAはスプライシング受容部位である;G-MtkPL配列(G-MtkPLウイルス由来)は、感染陽性細胞選択のためのPheleoLacZ融合遺伝子(フレオマイシン(Phelemycin)含有培地での選択)、及び陰性選択のためのtk遺伝子(ガンシクロビル含有培地での選択)を含む;G-MPL配列(G-MPLウイルス由来)にはPheleoLacZ配列のみが含まれる。b)G-MtkPL、及びG-MPLのレトロウイルス性組み込み後のプロウイルス構造のマップ;I-Sce I PheleoLacZ LTRは、I-Sce I PheleoLacZ配列を5’LTRに置いて複製する; ウイルスベクタ(プロモ−タトラップ(trap)として機能する)が隣り合う細胞性プロモ−タ(P)により転写される(矢印)。c)I-Sce Iは、宿主DNA中に二本鎖の切れ目(DSBs)を生じさせて、中心の断片を遊離させ、ドナ−プラスミド、pVRneo(d)と対を形成することが可能な、開裂染色体末端を残す。e)HR後に期待される組み換え遺伝子座。
【図21】A. pG-MPLの図。SD及びSAは、スプライシングの供与(ドナ−)部位と受容(アクセプタ−)部位である。スプライシングされていない5.8kb(ゲノミック)の転写物、及びスプライシングされた4.2kbの転写産物を示してある。太線は32Pで放射性標識したLacZプロ−ブ(P)である。B.ポリアデニル化RNAを使用して行った、pG MLPで形質転換したΨ−2産生クロ−ンのRNAノ−ザンブロット分析;ゲノミック、及びスプライシングされたmRNAは、同程度の高いレベルで産生された。
【図22A】A.レトロウイルス性の組み込みによる、哺乳類細胞ゲノム内への、複製したI-Sce I認識部位の導入;二つのLTRと関連する制限認識部位の位置を表すG-MPL及びG-tkMPLプロウイルスの図である;Bcl I断片、及びI-Sce I断片のサイズを示している;太線は32Pで放射性標識したLacZプロ−ブ(P)である。
【図22B】B. G-MtkPLで感染したNIH3T3線維芽細胞と、G-MPLで感染したPCC7-S多能性細胞由来の、細胞性DNAのサザンブロット分析;Bcl I消化物は、LTR仲介性PheloLacZ複製を証明している;I-Sce I消化物は、I-Sce Iの忠実な複製を証明している。
【図23A】サザンによる、組み換えの確認。A. :組み換え遺伝子座におけるプロウイルスの、期待される断片のサイズ(キロ塩基対、kb)、1)親プロウイルス遺伝子座;太線(P)は、ハイブリダイゼーション用の、32Pで放射性標識したプロ−ブである。2)pVRneoを使用して、二つのI-Sce Iで開裂し、次いでギャップ修復することで由来した組み換え体(二重の部位相同性組み換え、DsHR)。3)左側のLTR内のI-Sce I部位で開裂することで開始される組み換えイベント(一重の部位相同性組み換え、SsHR)。
【図23B】B. :pCMV(I-Sce I+)と、pVRneo(1a, 1b, 2a, 3a, 3b, 及び4a)を利用して行った、NIH3T3/G-MtkPLのクロ−ン1及び2から由来したDNAのサザン分析;親DNAをKpnIで消化すると4.2kbのLacZ断片を有する断片を生じる;組み換え体1aと3aは、DsHRの例である;組み換え体1b, 2a, 3b, 及び4aは、SsHRの例である。
【図24】ノ−ザン分析による、組み換えの確認。A.: PCC7-S/G-MPLのクロ−ン3細胞由来のRNAの予想される構造と、サイズ(kb)[(上):pVRneo.1に関しての、I-Sce I誘導性HR前; (下):pVRneo.1に関しての、I-Sce I誘導性HR後];太線P1及びP2は、32Pで放射性標識したプロ−ブである。B.: PCC7-S/G-MPLのクロ−ン3組み換え体の、ノ−ザン分析(全RNA);レ−ン3は親細胞であり、レ−ン3aは組み換え細胞である;最初の2レ−ンはLacZ P1でプロ−ブし、最後の2レ−ンはneo P2でプロ−ブした。PCC7-S/G-MPLのクロ−ン3親細胞は、細胞−ウイルス融合RNAの発現が引き起こされる、細胞性プロモ−タのトラッピングにより予想される、7.0kbのLacZ RNAを発現する;組み換え体クロ−ンはこのLacZRNAを発現しないが、5.0kbのneo RNAを発現し、これはneoによるPhloeLacZの正確な置換に対して予想されるサイズである。
【図25】I-Sce I DSBsで誘導される組み換えイベントのタイプ、a)組み換え基質の構造の概略図;G-MtkPLには二つのLTRがあり、それぞれには一つのI-Sce I認識部位とPhleoLacZ遺伝子がある;LTRはtk遺伝子を含むウイルスの配列で分離されている;G-MtkPLを含んでいる細胞の表現型はPhleoR, GisS, β−gal±である。b)染色体内組み換えの可能な様式。1)I-Sce Iエンドヌクレア−ゼは5’LTR内のI-Sce I部位を切断する。5’LTRのU3の5’部分は、3’LTR内にあるその相同性配列と対を形成して組み換えを起こす(SSAにより)。2)I-Sce Iエンドヌクレア−ゼは3’LTR内のI-Sce I部位を切断する;3’LTRのU3の3’部分は、5’LTR内にあるその相同性配列と対を形成して組み換えを起こす(SSAにより)。3)I-Sce Iエンドヌクレア−ゼは二つのLTR内のI-Sce I部位を切断する。二つのフリ−末端は(末端結合機構により)、再結合(relegate)が可能である;これら3つのモデルのそれぞれで得られる組み換え産物は単生のLTRである(右側を参照)。組み換え部位の脇の細胞配列には、なんら修飾が起きない。c)I-Sce Iエンドヌクレア−ゼは、二つのLTR内のI-Sce I部位を切断する。この二つのフリ−末端は(ギャップ修復機構により)、相同性染色体を利用して修復可能である。右側の得られる組み換え産物は、プロウイルス組み込み遺伝子座が欠損したものである。
【図26A】NIH3T3/G-MtkPL1及び2、並びにpCMV(I-Sce I+)で形質転換してガンシクロビル含有培地で選択したもの由来のPheleoLacZ―から由来したDNAに関する、サザンブロットでの分析。a)PstIエンドヌクレア−ゼで消化した後の親プロウイルスに関する、断片の予想サイズ(kbp);親NIH3T3/G-MtkPL1をPstIで消化すると、10kbpの二つの断片が生じ、また親NIH3T3/G-MtkPL2をPstIで消化すると、7kbpと9kbpの二つの断片が生じる。b)NIH3T3/G-MtkPL1、及びpCMV(I-Sce I+)での形質転換由来の組み換え体の、PstI消化によるDNAのサザンブロット分析(1.1から1.5)。c)NIH3T3/G-MtkPL2、及びpCMV(I-Sce I+)での形質転換由来の組み換え体の、PstI消化によるDNAのサザンブロット分析(2.1から2.6)。太線は32Pの放射性標識したLacZプロ−ブ(P)である。
【図26B】NIH3T3/G-MtkPL1及び2、並びにpCMV(I-Sce I+)で形質転換してガンシクロビル含有培地で選択したもの由来のPheleoLacZ―から由来したDNAに関する、サザンブロットでの分析。a)PstIエンドヌクレア−ゼで消化した後の親プロウイルスに関する、断片の予想サイズ(kbp);親NIH3T3/G-MtkPL1をPstIで消化すると、10kbpの二つの断片が生じ、また親NIH3T3/G-MtkPL2をPstIで消化すると、7kbpと9kbpの二つの断片が生じる。b)NIH3T3/G-MtkPL1、及びpCMV(I-Sce I+)での形質転換由来の組み換え体の、PstI消化によるDNAのサザンブロット分析(1.1から1.5)。c)NIH3T3/G-MtkPL2、及びpCMV(I-Sce I+)での形質転換由来の組み換え体の、PstI消化によるDNAのサザンブロット分析(2.1から2.6)。太線は32Pの放射性標識したLacZプロ−ブ(P)である。
【図27A】NIH3T3/G-MtkPL1及び2、並びにpCMV(I-Sce I+)とpCMV(I-Sce I−)での形質転換、フレオマイシン(Phleomycin)及びガンシクロビル含有培地での選択から由来した、PhleoLacZ+組み換え体に関する、サザンブロット分析。a)PstIまたはBcl Iエンドヌクレア−ゼでの消化後に予想される、親プロウイルスの断片のサイズ(kbp);親DNA NIH3T3/G-MtkPL1のPstI消化により、10kbpの二つの断片が生じる。親DNA NIH3T3/G-MtkPL2のBcl I消化により、9.2kbp、7.2kbp、及び6.0kbpの3つの断片が生じる。a2)PstI、またはBcl Iエンドヌクレア−ゼでの消化後の、予想される組み換え体断片のサイズ(kbp);NIH3T3/G-MtkPL1由来の組換え体のDNAに関するPstI消化により、13.6kbpの一つの断片が生じる。NIH3T3/G-MtkPL2由来の組換え体のDNAに関するBcl I消化により、9.2kbpと6.0kbpの二つの断片が生じる。b)NIH3T3/G-MtkPL1由来のDNA、及びpCMV(I-Sce I+)とpCMV(I-Sce I―)での形質転換由来組み換え体のDNAに関する、サザンブロット分析(1c, 1d)。c)NIH3T3/G-MtkPL2由来のDNA、並びにpCMV(I-Sce I-)(2a, 2b)、及びpCMV(I-Sce I+)(2cから2h)での形質転換由来組み換え体からのDNAに関する、サザンブロット分析。太線は32Pで放射性標識したLacZプロ−ブ(P)である。
【図27B】NIH3T3/G-MtkPL1及び2、並びにpCMV(I-Sce I+)とpCMV(I-Sce I−)での形質転換、フレオマイシン(Phleomycin)及びガンシクロビル含有培地での選択から由来した、PhleoLacZ+組み換え体に関する、サザンブロット分析。a)PstIまたはBcl Iエンドヌクレア−ゼでの消化後に予想される、親プロウイルスの断片のサイズ(kbp);親DNA NIH3T3/G-MtkPL1のPstI消化により、10kbpの二つの断片が生じる。親DNA NIH3T3/G-MtkPL2のBcl I消化により、9.2kbp、7.2kbp、及び6.0kbpの3つの断片が生じる。a2)PstI、またはBcl Iエンドヌクレア−ゼでの消化後の、予想される組み換え体断片のサイズ(kbp);NIH3T3/G-MtkPL1由来の組換え体のDNAに関するPstI消化により、13.6kbpの一つの断片が生じる。NIH3T3/G-MtkPL2由来の組換え体のDNAに関するBcl I消化により、9.2kbpと6.0kbpの二つの断片が生じる。b)NIH3T3/G-MtkPL1由来のDNA、及びpCMV(I-Sce I+)とpCMV(I-Sce I―)での形質転換由来組み換え体のDNAに関する、サザンブロット分析(1c, 1d)。c)NIH3T3/G-MtkPL2由来のDNA、並びにpCMV(I-Sce I-)(2a, 2b)、及びpCMV(I-Sce I+)(2cから2h)での形質転換由来組み換え体からのDNAに関する、サザンブロット分析。太線は32Pで放射性標識したLacZプロ−ブ(P)である。
【図28】I-Sce I部位の挿入または存在、酵素I-Sce Iの発現、該部位での切断、及び対応する染色分体での、該部位の二本鎖の切れ目の修復による異型接合性の喪失を示す図である。
【図29】遺伝子の条件付き活性化を示す図である。I-Sce I部位が、タンデムな繰り返しの間に組み込まれいて、酵素I-Sce Iが発現する。該酵素がI-Sce I部位で二本鎖DNAを開裂する。二本鎖の切れ目が、一本鎖アニ−リングにより修復されて、活性遺伝子を生じる。
【図30】I-Sce I部位の組み込み、または遺伝子内に存在するI-Sce I部位の使用による、遺伝子のワンステップ再編成を示す図である。活性遺伝子内に一つのI-Sce I部位、またはプロモ−タを有さない活性遺伝子のどちらかの末端にある二つのI-Sce I部位、の何れかを有するプラスミドを細胞内へ導入する。該細胞は、対応する遺伝子の不活性型を有する。酵素I-Sce Iは該プラスミドをI-Sce I部位で切断し、染色体と該プラスミドとの間での組み換えにより前記の不活性遺伝子を置換する、活性遺伝子を生じる。
【図31】遺伝子座の複製を示す図である。一つのI-Sce I部位、及びその遺伝子から離れた部分を、古典的な遺伝子置換により遺伝子に挿入する。このI-Sce I部位を酵素I-Sce Iで切断し、切れ目を相同性配列で修復する。これにより、遺伝子座全体が複製する。
【図32】遺伝子座の複製を示す図である。二つのI-Sce I部位を、欠失させる遺伝子座を挟むようにして加える。I-Sce I酵素が発現し、該部位が切断される。残りの二つの末端が組み換えを起こし、二つのI-Sce I部位間の遺伝子座が欠失する。
【図33】プラスミドpG-MtkΔPAPLの図で、制限部位を示している。このプラスミドはpGMtkPLプラスミドのtk遺伝子からポリアデニレ−ション領域を欠失させて構築したものである。
【発明の開示】
【0001】
発明の背景
本発明は、制限酵素I-Sce Iをコ−ドするヌクレオチド配列に関する。本発明はまた、該ヌクレオチド配列を有するベクタ、該ベクタで形質転換した細胞、該ベクタに基づくトランスジェニック動物、及び該動物の細胞由来の細胞株に関する。本発明はまた、真核ゲノムのマッピング、及びin vivoでの部位特異的遺伝的組み換えへのための、I-Sce Iの使用に関する。
【0002】
遺伝子を哺乳類の生殖系列に導入することは、生物学で非常に興味のもたれていることである。外来的に加えたDNAを取り込み、またそのDNA中に含まれている遺伝子を発現するという哺乳類細胞の性向が、長い間知られている。遺伝子操作の結果は、これらの動物の子孫へも遺伝する。これら子孫の細胞全ては、導入遺伝子をゲノムの遺伝的構成の一部として遺伝している。このような動物は、トランスジェニックと呼ばれている。
【0003】
トランスジェニック哺乳類により、胚発生と分化時の遺伝子制御、遺伝子作用、及び免疫系での細胞の相互作用についての研究方法が提供される。該動物全体が、複雑な生物学的プロセスを制御する、操作遺伝子の究極のアッセイ系である。
【0004】
トランスジェニック動物により、種々の遺伝子の、組織特異的な、または発生的制御に関わるDNA配列を機能的に解析する一般的アッセイが提供される。更にトランスジェニック動物は、組み換えタンパク質の発現、及びヒトの遺伝病に関しての正確な動物モデルを作るための有益な媒介物(vehicles)となる。
【0005】
遺伝子クロ−ニングと、動物、及び動物細胞での発現に関する一般的議論は、文献を参照されたし(Old and Primrose, "Principle of Gene Manupilation", Blackwell Scientific Publications, London (1989)255-)。
【0006】
特異的な疾患及び遺伝的障害にかかりやすい性質のあるトランスジェニック株は、これらの状態へ導くイベントの調査において、価値が大きい。遺伝的疾患の処置の有効性は、該疾患の初期的原因である遺伝子欠損の同定に依存する可能性があることがよく知られている。有効な処置の発見は、有効性、安全性、及び処置プロトコ−ルの作用様式(例えば遺伝的組み換え)の研究を可能にする、前記の疾患または前記の障害に導く動物モデルを提供することにより促進される。
【0007】
遺伝的組み換えを理解するための鍵となる問題の一つは、開始工程の性質である。細菌及び真菌を使った相同性組み換えの研究により、二つのタイプの開始機構が提案されるに至った。最初のモデルでは、一本鎖のニックが、鎖の同化と枝の移動(branch migration)とを開始する(Meselson and Radding 1975)。あるいは、二本鎖の切れ目が生じて、次いで開裂していない相同性配列を鋳型として利用する修復機構が働く(Resnick andMartin 1976)。もう一方のモデルは、形質転換用プラスミドを染色体との相同性部分で線状化すると、酵母における組み込み形質転換が劇的に増大するという事実(Orr-Weaver, Szostak and Rothstein 1981)と、酵母の接合型相互変換(mating type interconversion)で現れる二本鎖の切れ目の直接的観察(Strathern et al., 1982)とにより支持されている。最近になって、二本鎖の切れ目が、正常な酵母の減数分裂の組み換え時にも特徴づけられた(Sun et al., 1989; Alani, Padmore and Kleckner 1990)。
【0008】
酵母では、二本鎖エンドヌクレア−ゼ活性が幾つか特徴付けられている:HO及びイントロンにコ−ドされたエンドヌクレア−ゼは、相同性組み換え機能に関連していて、一方、その他のものは、不明の遺伝的機能を有している(Endo-SceI, Endo-SceII)(Shibata et al., 1984; Morishima et al., 1990)。HO部位特異的エンドヌクレア−ゼは、MATのYZジャンクションの近傍で二本鎖の切れ目を入れて、接合型相互変換を開始する(Kostriken et al., 1983)。次いでこの切れ目は、無傷のHMLまたはHMR配列を利用して修復される。HO認識部位は縮重した24bpの非対称的配列である(Nickoloff, Chen, and Heffron 1986; Nickoloff, Singer and Heffron 1990)。この配列は、分子内及び分子間の有糸分裂性、及び減数分裂性の組み換えを促進させるために、人工的構築物中で「組み換え子(recombinator)」として利用されてきた(Nickoloff, Chen, and Heffron 1986; Kolodkin, Klar, and Stahl 1986; Ray et al., 1988, Rudin and Haber 1988; Rudin, Sugarman, and Haber 1989)。
【0009】
ミトコンドリア中でのイントロンの移動性の原因となっている、二つの、部位特異的エンドヌクレア−ゼI-Sce I(Jacquier and Dujon 1985)とI-Sce II(Delahodde et al., 1989; Wenzlau et al., 1989 )は、HO-誘導性変換に似た遺伝子変換を開始する(Dujon 1989をレビュ−として参照されたし)。21S r RNA遺伝子の、オプションイントロンであるSc LSU.1 にコ−ドされているI-Sce Iは、二本鎖の切断をイントロン挿入部位において開始する(Macreadie et al., 1985; Dujon et al., 1985; Colleaux et al., 1986)。I-Sce Iの認識部位は18bpの非対称的配列にわたって伸びている(Colleaux et al., 1988)。 この二つのタンパク質は明らかにその構造により関係していないが(長さに関しては、HOは586アミノ酸であり、一方I-Sce Iは235アミノ酸である)、双方はともに、それぞれの認識部位内に張り出した、4bpのよろめいた(staggered)断片を生成する。ミトコンドリアのイントロンにコ−ドされたエンドヌクレア−ゼは、核内で転写されて、細胞質で翻訳され、核内の部位で二本鎖の切れ目を生成することが分かっている。I-Sce Iに誘導される修復イベントは、HOにより開始されるものと同等である。
【0010】
要約すると当該技術分野では、ヒトの疾患や遺伝的障害の、トランスジェニック動物モデルを提供する方法と試薬とが必要とされている。試薬は制限酵素I-Sce Iと、この酵素をコ−ドする遺伝子をベ−スとすることが可能である。特に、天然の遺伝子を、前記の疾患または前記の障害を軽減する遺伝子で置換するための試薬と方法とが必要である。
【0011】
発明の要約
したがって本発明は、当該技術分野でのこれらの必要性を実現するのを助ける。特には、本発明はI-Sce I酵素をコ−ドする単離されたDNAに関連する。該DNAは以下の配列を有している:
【0012】
【表1】
【0013】
本発明はまた、本発明のI-Sce I酵素をコ−ドしたDNAに対して、機能するように連結されたプロモ−タを具備したDNA配列に関する。
【0014】
本発明は更に、本発明のI-Sce I酵素をコ−ドしているDNA配列と、本願で記載するその他のDNAとに相補的な、単離されたRNAに関する。
【0015】
本発明の一つの態様において、ベクタが提供されている。該ベクタは、本発明のI-Sce I酵素をコ−ドする、プラスミド、バクテリオファ−ジ、またはコスミドベクタを具備している。
【0016】
更に本発明は、本発明のベクタで形質転換された大腸菌(E.coli)、または真核細胞に関する。
【0017】
また本発明は、I-Sce I酵素をコ−ドするDNA配列を有するトランスジェニック動物と、該トランスジェニック動物の細胞由来の培養細胞株とに関する。
【0018】
更に本発明は、酵素I-Sce Iに対する、少なくとも一つの制限部位が生物体の染色体に挿入されていることを特徴とする、トランスジェニック生物体に関する。
【0019】
更に本発明は、酵素I-Sce Iを使用して真核ゲノムを遺伝的にマッピングする方法に関する。
【0020】
本発明は更に、酵素I-Sce Iを利用した、生物体内でのin vivoの部位特異的組み換えの方法に関する。
【0021】
好ましい態様の詳細な記載
真性のミトコンドリア遺伝子(参考文献8)は、ミトコンドリアの遺伝コ−ドの特性のために、大腸菌(E.coli)、酵母、またはその他の生物体で発現することはできない。「ユニバ−サル・コ−ド・エクゥイバレント」が、試験管内部位特異的変異導入により構築された。その配列は図1に示してある。非ユニバ−サルなコドン(二つのCTNは除く)が、大腸菌(E.coli)では非常にまれな、幾つかのコドンとともに置換されていることに注目されたし。
【0022】
ユニバ−サル・コ−ド・エクゥイバレントは大腸菌(E.coli)でうまく発現され、活性酵素の合成が決定された。しかしながら大腸菌(E.coli)内で非常にまれな数多くのコドンのために、発現レベルは低いままであった。「ユニバ−サル・コ−ド・エクゥイバレント」の発現は酵母で検出されている。
【0023】
異種のシステムにおける遺伝子発現を最適化するために、合成遺伝子を設計して、それぞれのコドンに対して大腸菌(E.coli)内で最もよく使用されるものを利用して、I-Sce Iの真のアミノ酸配列によるタンパク質をコ−ドするようにした。この合成遺伝子の配列は、図2に示した。この合成遺伝子は、部分的にオ−バ−ラップした8つのオリゴヌクレオチドにより、in vitroで構築した。オリゴヌクレオチドは、塩基対が形成によるアニ−リング時にクレノウポリメラ−ゼによる第二鎖合成を相互にプライミングするように設計した。次いで伸長した塩基対を、プラスミドへ連結した。所定の配列内で適格に置かれた制限部位により、in vitroでの連結による合成遺伝子の最終的組み立てが可能になった。この合成遺伝子は、大腸菌(E.coli)と酵母内でうまく発現した。
【0024】
1. I-Sce I遺伝子配列
本発明は、酵素I-Sce Iをコ−ドする、単離したDNA配列に関する。酵素I-Sce Iは、エンドヌクレア−ゼである。この酵素の性質は以下の通りである(参考文献14)。
I-Sce Iは認識配列でDNAを開裂させる二本鎖エンドヌクレア−ゼである。I-Sce Iは、3'OHが張り出した4bpのよろめいた(staggered)開裂部を生成する。
基質:二本鎖DNAに作用する。基質DNAは弛緩していても、ネガティブなス−パ−コイルであってもよい。
カチオン:酵素活性には、Mg++(8 mMが最適)が必要である。Mn++は、Mg++の代わりになりえるが、この場合には、認識の厳密度が低下する。
最適な活性条件:高いpH(9から10)、20−40℃の温度、一価のカチオンが存在しないこと。
酵素の安定性:I-Sce Iは室温で不安定である。酵素−基質複合体は酵素のみよりもより安定である(認識部位の存在により、酵素が安定化する)。
【0025】
酵素I-Sce Iは、既知の認識部位を有する(参考文献14)。I-Sce Iの認識部位は、システマティックな変異解析により決定された、18bpを越える非対称的配列である。その配列は、
5’TAGGGATAACAGGGTAAT3’
3’ATCCCTATTGTCCCATTA5’
である(矢印は開裂部分を示す)。この認識部位は、その一部が上流のエクソンに相当し、更にその一部がイントロン付加型の遺伝子の下流エクソンに相当している。
【0026】
認識部位は一部が縮重している:18塩基の長さの配列内での、単一の塩基置換により、その置換の性質に応じて、酵素に対する感受性が全く無くなるか、または低減する結果となる。
【0027】
認識の厳密度は、
−1−部位の変異体、
−2−酵母の全ゲノム(サッカロマイセス・セレビシアエは、ゲノムの複雑さは1.4 X 107bpである)、
で調べる。デ−タは未発表である。
【0028】
結果は以下の通りである:
−1−部位の変異:図3に示してあるように、厳密度の一般的なシフトが起きていて、すなわちMg++で重度に影響を被る変異体は、部分的にMn++で影響を受けるようになり、Mg++で部分的に影響を受ける変異体が、Mn++で影響を受けなくなる。
−2−酵母:マグネシウムの条件では、正常な酵母において開裂は観察されなかった。同じ条件では、トランスジェニックな酵母由来のDNAは、人工的に挿入されたI-Sce I部位で完全に開裂して、その他の開裂部位は全く検出されなかった。マグネシウムをマンガンで置換すると、酵母の全ゲノム中で5つの開裂部位が更に発見されたが、この何れもが完全には開裂しなかった。よって、マンガン存在下ではこの酵素は、ca3百万塩基対(5/1.4 X 107bp)当たり平均して1部位をあらわす。
【0029】
認識部位の定義:重要な塩基を図3に示してある。
【0030】
これらは、重度に影響された変異体が存在している塩基に相当している。。しかし以下のことに注意されたし:
−1−それぞれの部位での可能な変異の全てが決定されてはいない:よって、重度に影響された変異体に相当する塩基は、別の変異体で同じ部位を試験した場合に重要であるかもしれない。
−2−非常に重要な塩基(変異体全てにおいて重度に影響されている)と、中程度に重要な塩基(変異体の幾つかが重度に影響されている)との間のはっきりとした境目はない。酵素に対しての、上等の基質と、悪い基質との間は連続している。
【0031】
ランダムなDNA配列中の、天然のI-Sce I部位の予想される頻度は、故に(0.25)−18、または(1.5 X 10−11)に等しい。言い換えると、ca 20のヒトゲノム中に一つの天然の部位があると予想できるが、縮重した部位の頻度を予想するのはより難しい。
【0032】
I-Sce Iは、二つのドデカペプチドファミリ−の「縮重した」サブファミリ−に属する。このドデカペプチドモチ−フの保存されたアミノ酸は、活性に必須である。特に、この二つのドデカペプチドの9位のアスパラギン酸残基はグルタミン残基でさえも置換することができない。このドデカペプチドは触媒性部位、またはその一部を形成するようである。
【0033】
認識部位が非対称的であるのと一致して、I-Sce Iのエンドヌクレア−ゼ活性には二つの連続する認識工程が必要である:該部位の下流の半分(下流のエクソンに相当)に対しての該酵素の結合;その後の、該部位の上流の半分(上流エクソンに相当)に対しての該酵素の結合。第一の結合は強く、第二の結合はより弱いが、この二つは、DNAの開裂に必要である。In vitroでは、該酵素は下流のエクソンに単独で結合でき、また同様にイントロン−エクソン結合部にも結合するが、開裂は起きない。
【0034】
進化の過程で保存された、I-Sce Iのイントロンにコ−ドされたドデカペプチドモチ−フは、エンドヌクレア−ゼ活性に必要である。このモチ−フの役割は、酵素のDNA配列認識領域に関して酸性のアミノ酸を適切に位置づけて、ホスホジエステル結合の加水分解の触媒作用を引きだすことであると推定された(参考文献P3)。
【0035】
本発明のヌクレオチド配列は、天然のI-Sce I酵素をコ−ドし、図2にそれが示されている。本発明の遺伝子のヌクレオチド配列は、ジデオキシヌクレオチド配列決定法により由来した。該ヌクレオチドの塩基配列は、5’→3’の方向で書かれている。示した文字のそれぞれは、以下のヌクレオチドに対しての、通常の割当である:
A:アデニン
G:グアニン
T:チミン
C:シトシン。
【0036】
酵素I-Sce Iをコ−ドするDNA配列は、精製された形態であることが望ましい。例えば該配列は、ヒト血液由来タンパク質、ヒト血清タンパク質、ウイルスタンパク質、これらのタンパク質をコ−ドしているヌクレオチド配列、ヒトの組織、ヒトの組織の成分、またはこららの物質の組み合わせが混入していないようにすることが可能である。更に本発明のDNA配列は、外来性のタンパク質及び脂質、細菌やウイルスのような外来性微生物を含んでいないことが好ましい。必然的に精製、単離された、I-Sce Iをコ−ドするDNA配列は特に、発現ベクタを調製するのに有益である。
【0037】
プラスミドpSCM525は、pUC12の誘導体であり、本発明のDNA配列をコ−ドした人工的配列を有する。プラスミドpSCM525の一領域のヌクレオチド配列と、推定のアミノ酸配列を図4に示してある。本発明の、I-Sce Iをコ−ドしているヌクレオチド配列は、ボックスで囲ってある。人工遺伝子は、化学的に合成され組み立てられた723塩基対の、BamHI−SalIDNA配列である。これは、tacプロモ−タ制御下に置かれている。人工遺伝子のDNA配列は、天然のコ−ド配列や、文献(Cell, (1986), 44 521-533)に記載のユニバ−サル・コ−ド・エクゥイバレントとは異なっている。しかしながら、該人工遺伝子の翻訳産物は、配列において、純正のオメガ−エンドヌクレア−ゼと、N末端でのMet-Hisの付加以外で一致している。この修飾されたエンドヌクレア−ゼが、本発明の範囲内であることは、理解されるであろう。
【0038】
プラスミドpSCM525を使用して、適切な如何なる大腸菌(E.coli)をも形質転換することが可能であり、形質転換された細胞はアンピシリン抵抗性になる。オメガ−エンドヌクレア−ゼの合成は、I.P.T.G.の添加か、またはラクト−スオペロン系の相当する誘導剤により得られる。
【0039】
pSCM525と同定され、酵素I-Sce Iを含んでいるプラスミドは、大腸菌(E.coli)株TG1内で、CNCM(Collection Nationale de Cultures de Microorganismes of Institute Pasteur in Paris, France)に、1990年11月22日に培養コレクション寄託アクセス番号I-1014のもとに寄託された。よって本発明のヌクレオチド配列は、この寄託物より入手可能である。
【0040】
本発明の遺伝子はまた、通常の化学的合成技術を利用して、ヌクレオシド単位間で3’から5’へのリン酸結合の形成により調製することも可能である。例えば、よく知られたホスホジエステル、ホスホトリエステル、及びホスファイトトリエステル技術と同様に、これらの方法に関する既知の修飾を利用することができる。デオキシリボヌクレオチドは、ホスホロアミダイト法に基づいたもののような自動合成機で調製することができる。オリゴとポリリボヌクレオチドはまた、通常の技術を利用して、RNAリガ−ゼの助けにより得られる。
【0041】
本発明にはもちろん、本発明のDNA配列の変異体であって、本発明の配列と実質的に同じ性質を示すものも含まれる。これは、DNA配列が、本願で開示されたものと必ずしも同じものである必要がないことを意味する。単一、若しくは複数の塩基置換、欠失、または挿入、あるいは、酵素I-Sce Iの開裂の特徴を有する酵素をコ−ドしたDNA配列の特徴を実質的に損ねない、1以上のヌクレオチドの局所的変異というような、変異がある。
【0042】
図5は、I-Sce Iのアミノ酸配列に関しての幾つかの変異体を表示している。以下の部位は、酵素活性に影響せずに変異させることが可能であることが証明されている:
部位−1と−2は天然ではない。この二つのアミノ酸はクロ−ニングにより加えられたものである。
部位1から10:欠失され得る;
部位36:Gを許容する;
部位40:MとVを許容する;
部位41:SかNを許容する;
部位43:Aを許容する;
部位46:VかNを許容する;
部位91:Aを許容する;
部位123及び156:Lを許容する;
部位223:AとSを許容する。
【0043】
これらの修飾を含む酵素は、本発明の範囲内にあることは理解されるであろう。
【0044】
図5のアミノ酸配列の変異で、酵素活性に影響することが示されたものは、以下のものである:
部位19:LからS;
部位38:IからSまたはN;
部位39:GからDまたはR;
部位40:LからO;
部位42:LからR;
部位44:DからE、G、またはH;
部位45:AからEまたはD;
部位46:YからD;
部位47:IからRまたはN;
部位80:LからS;
部位144:DからE;
部位145:DからE;
部位146:GからE;
部位147:GからS。
【0045】
更に、本発明では、精製された形態の、本発明のDNA配列の断片であって、該断片が酵素的に活性なI-Sce Iをコ−ドすることが可能であるものを含むことが理解されるであろう。
【0046】
本発明の、酵素I-Sce Iをコ−ドするDNA配列は、よく知られるポリメラ−ゼ連鎖反応(PCR)により増幅させることが可能であるが、これは、遺伝子の全て、または特異的部分を増幅させるのに有益である(例えば、以下の文献を参照されたし:S. Kwok et al., J. Virol., 61:1690-1694(1987); U.S. Patent 4,683,202; 及びU.S. Patent 4,683,195)。より特異的には、増幅されるDNAのプラス鎖とマイナス鎖に相補的であって、互いに10から300塩基対離れて位置する既知のDNAプライマの組は、よく知られたオリゴヌクレオチド合成技術により調製することが可能である。それぞれのプライマの一方の末端を伸長して、DNAにアニ−リングしたときに制限エンドヌクレア−ゼ部位を創製するよにすることが可能である。PCRの反応混合物には、DNA、DNAプライマ、4種類のデオキシリボヌクレオシド三リン酸、MgCl2、DNAポリメラ−ゼ、及び通常の緩衝液が含まれる。DNAは、何回ものサイクルで増幅させることができる。慨して、検出感度はサイクル数を多くして増大させることができるが、それぞれのサイクルは、上昇された温度での短期間でのDNAの変性と、反応混合物の冷却と、DNAポリメラ−ゼによるポリメライズとからなる。増幅された配列はオリゴマ−制限(oligomer restriction)という技術を使用して検出することができる(参照:R. K. Saiki et al., Bio/Technology 3:1008-1012 (1985))。
【0047】
酵素I-Sce Iは、同様の性質を有する多くのエンドヌクレア−ゼのうちの一つである。以下は関連する酵素とその起源に関するリストである。
【0048】
グル−プIイントロンをコ−ドするエンドヌクレア−ゼと関連する酵素を参考文献とともに以下に記載した。認識部位は図6に記載されている。
【0049】
【表2】
【0050】
推定された新規の酵素(遺伝的には証拠があるが、活性はいまだ証明されていない)は、クラミドモナス・スミチイ(Chlamydomonas smithii)ミトコンドリアのチトクロ−ムbイントロン1に由来するI-CsmI(参考文献15)、ポドスポラ・アンセリナ(Podospora anserina)のミトコンドリアに由来するI-PanI(Jill Salvo)、及びおそらくニュ−ロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)に由来するNc ndl・1及びNc cob・!のイントロンにコ−ドされる酵素である。
【0051】
I-エンドヌクレア−ゼは以下のように分類できる:
クラスI:二つのドデカペプチドモチ−フ、3’OHが張り出している、4bpのよろめいた(staggered)切断部、認識部位に対して内部の切断。
【0052】
【表3】
【0053】
クラスII:GIY-(N10-11)YIGモチ−フ、3’OHが張り出している、2bpのよろめいた(staggered)切断部、認識部位に対して外部の切断:
I-TevI。
【0054】
クラスIII:典型的な構造モチ−フはない、3’OHが張り出している、4bpのよろめいた(staggered)切断部、認識部位に対して内部の切断:
I-PpoI。
【0055】
クラスIV:典型的な構造モチ−フはない、3’OHが張り出している、2bpのよろめいた(staggered)切断部、認識部位に対して外部の切断:
I-TevII。
【0056】
クラスV:典型的な構造モチ−フはない、5’OHが張り出している、2bpのよろめいた(staggered)切断部:
I-TevIII。
【0057】
2.本発明のI-Sce I遺伝子を有するヌクレオチドプロ−ブ。
酵素I-Sce Iをコ−ドする、本発明のDNA配列はまた、組織や体液のような生物学的試料中でのヌクレオチド配列の検出用のプロ−ブにもしようすることができる。このプロ−ブは、原子または無機のラジカル、もっとも普通には放射性核種で標識することが可能であるが、また重金属でもおそらく可能であろう。放射性標識には32P、3H、14C などが含まれる。適切なシグナルと十分な半減期をゆうする、如何なる放射性標識を用いることが可能である。他の標識には、標識済み抗体、蛍光体(fluorescers)、化学蛍光体、酵素、標識済みリガンドに対して、対で特異的に結合する抗体などに特異的に結合できるリガンドがある。標識の選択はプロ−ブの、DNAまたはRNAへのハイブリダイゼーション速度への、標識の影響により決まる。標識は、ハイブリダイゼーションが可能なDNA、またはRNAの量を検出するのに十分な感度を提供することが必要であろう。
【0058】
本発明のヌクレオチド配列を、遺伝子へのハイブリダイゼーション用のプロ−ブとして使用する際には、該ヌクレオチド配列は好ましくは、ニトロセルロ−ス紙のような、水に不溶性の、固体の多孔性支持体に固定されていることが望ましい。ハイブリダイゼーションは、本発明の標識したポリヌクレオチドや、通常のハイブリダイゼーション試薬を使用して行うことが可能である。特別のハイブリダイゼーション技術は、本発明には必要ではない。
【0059】
ハイブリダイゼーション溶液中の、標識されたプロ−ブの量は、標識の性質、該支持体に充分に結合する標識済みプロ−ブの量、そしてハイブリダイゼーションの厳密度に応じて、広い範囲で変わる。慨して、化学量論よりも実質的に過剰なプロ−ブを使用して、固定化されたDNAへのプロ−ブの結合速度を促進させる。
【0060】
ハイブリダイゼーションに関しての、種々の厳密度の程度を用いることができる。より厳密な条件ほど、プロ−ブとポリヌクレオチドとの間の二重鎖形成に必要な相補性が大きくなる。厳密さは温度、プロ−ブ濃度、プロ−ブの長さ、イオン強度、時間等で調節することができる。ハイブリダイゼーションの厳密度は反応溶液の極性を変えることでうまく変化させられる。。使用する温度は経験的に決定することができ、そのために開発されたよく知られる式により決定できる。
【0061】
3.I-Sce Iをコ−ドするヌクレオチド配列を有するヌクレオチド配列。
本発明は更に、本発明の酵素I-Sce Iをコ−ドするDNA配列に関しているが、該ヌクレオチド配列は他の核酸に連結されている。この核酸は、例えばプラスミド、DNA若しくはRNA、原核生物や真核生物が含まれる如何なる起源の天然のDNA若しくはRNA、のような如何なるものよりから得られる。DNAまたはRNAは、文献に記載されるような種々の技術(Maniatis et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York (1982))により、生物学的液体や組織のような、生物学的物質より抽出することができる。慨して核酸は、細菌、酵母、ウイルス、または植物や動物のような高等生物より得られるであろう。該核酸は、ヒトのDNA全体に含まれる遺伝子の一部、または特異的な微生物の核酸配列の一部のような、より複雑な混合物の画分であってもよい。該核酸は、より大きい分子の画分であるか、または遺伝子全体、若しくは遺伝子の集合を構成するものであってもよい。DNAは、一本鎖か、または二本鎖の形態であてもよい。上記の断片が一本鎖の形態である場合には、通常の技術により、DNAポリメラ−ゼを使用して、二本鎖に変換されてもよい。
【0062】
本発明のDNA配列は、構造遺伝子に連結されてもよい。本願で使用する「構造遺伝子」とは、その鋳型、またはmRNAにより、特異的タンパク質またはポリペプチドに特徴的であるアミノ酸配列がコ−ドされているDNA配列を意味する。本発明のヌクレオチド配列は、発現制御配列、すなわち遺伝子に機能するように連結されると該遺伝子の発現を制御及び調節するようなDNA配列とともに、機能することが可能である。
【0063】
4.本発明のヌクレオチド配列を有するベクタ。
本発明は更に、酵素I-Sce Iをコ−ドする本発明のDNA配列を有するクロ−ニング、及び発現用のベクタに関する。
【0064】
より特には、該酵素をコ−ドする該DNA配列は、該配列をクロ−ニングするための担体(vehicle)に連結することが可能である。遺伝子クロ−ニングに関わる主要な工程は、興味ある遺伝子を有するDNAを、原核細胞、または真核細胞より分離すること、得られたDNA断片とクロ−ニングベクタからのDNAとを特異的な部位で切断すること、この二つのDNA断片をともに混合すること、そしてこの断片を連結して組み換えDNA分子を生成させることを具備している。次いで組み換え分子を宿主細胞にいれて、この細胞を複製させ、元のDNA配列のクロ−ンを有する、同等の細胞を産生させる。
【0065】
本発明で使用する担体(vehicle)は、本発明のヌクレオチド配列を宿主細胞へ輸送することが可能であり、またその細胞内で複製することが可能である、任意の二本鎖DNA分子であってもよい。より特には、この担体は、宿主細胞内で複製の起点として機能することが可能な、少なくとも一つのDNA配列を有している必要がある。更に、この担体は、本発明の遺伝子をコ−ドしたDNA配列を挿入するための、2つ以上の部位を有している必要がある。これらの部位は通常は、粘着性の末端を形成することが可能で、更に該担体に連結するプロモ−タ配列の粘着末端に相補的である、制限酵素部位である。慨して、本発明はプラスミド、バクテリオファ−ジ、またはこれらの特徴を有しているコスミド担体で実施することが可能である。
【0066】
本発明のヌクレオチド配列は、該担体中の部位の如何なる組み合わせとも適合する、粘着性末端を有することができる。あるいは、該配列は、該担体のクロ−ニング部位の対応する平滑末端と連結することが可能な、一つ以上の平滑末端を有することが可能である。該ヌクレオチド配列は、望まれるならば、Bal 31によるような、引き続くエンドヌクレア−ゼ欠失により更に処理することが可能である。本発明のヌクレオチド配列が望ましい粘着末端の組み合わせを有さない場合には、リンカ−、アダプタ−、またはホモポリマ−テイリングの付加により、該配列を修飾することが可能である。
【0067】
本発明のヌクレオチド配列のクロ−ニングに使用されるプラスミドは、宿主細胞が表示する選択標識のような有益な特徴を担う、一つ以上の遺伝子を有していることが好ましい。好ましい戦略においては、二つの異なる薬剤に対する抵抗性の遺伝子を有するプラスミドが選択される。例えば、抗生物質遺伝子へのDNA配列の挿入は該遺伝子を不活化して、薬剤耐性を破壊する。第二の耐性遺伝子は、細胞が組換え体で形質転換されて、第二の薬剤に対する抵抗性と第一の薬剤に対する感受性とで選択されるときには影響されない。好ましい抗生物質標識は、宿主細胞に、クロラムフェニコ−ル、アンピシリン、またはテトラサイクリンに対する抵抗性を付与する遺伝子である。
【0068】
種々の制限酵素を使用して、担体を切断することが可能である。慨してこのような制限酵素の同定は、連結するDNA配列の末端と、担体中の制限部位の同定とに依存している。制限酵素は担体中の制限部位に適合し、また該担体は連結する核酸断片の末端に適合している。
【0069】
連結反応は、よく知られる技術と試薬とを用いて設定することができる。連結は、DNA二重鎖中で隣り合う5’リン酸基とフリ−な3’ヒドロキシル基との間にホスホジエステル結合の形成を触媒する、DNAリガ−ゼにより行なわれる。該DNAリガ−ゼは、種々の微生物に由来してもよい。好ましいDNAリガ−ゼは大腸菌(E.coli)、及びバクテリオファ−ジT4に由来する酵素である。T4DNAリガ−ゼは、制限酵素での消化により生じるような、平滑、または粘着性末端のDNA断片を連結することができる。大腸菌(E.coli)のDNAリガ−ゼを使用して、粘着性末端を有する二重鎖DNA分子の末端同士での、ホスホジエステル結合の形成を触媒させることが可能である。
【0070】
クロ−ニングは、原核細胞や真核細胞で行うことができる。クロ−ニング用の担体の複製のための宿主はもちろん、担体と適合するものであって、その中で該担体が複製することが可能なものである。プラスミドを用いるときには、このプラスミドは合成して調製してもよい。宿主の染色体とは独立に複製するプラスミド、または組み込まれるプラスミド(エピソ−ム)を使用することができる。プラスミドの複製に必要な酵素をコ−ドする遺伝子を有するプラスミドを複製するために、該プラスミドは、宿主細胞のDNA複製酵素を利用することが可能である。数多くの異なるプラスミドが、本発明の実施に使用することが可能である。
【0071】
酵素I-Sce Iをコ−ドする、本発明のDNA配列はまた、担体に連結して発現ベクタを形成させることも可能である。この場合に用いられる担体は、適切な宿主細胞内で、機能するようにプロモ−タに連結されている遺伝子を発現できるものである。大腸菌(E.coli)、酵母、または哺乳類細胞内での遺伝子発現用に知られている担体を用いることが好ましい。これらの担体には例えば、以下の大腸菌(E.coli)発現ベクタが含まれる:
pSCM525:tacプロモ−タと、I-Sce Iの合成遺伝子とを挿入したpUC12に由来する、大腸菌(E.coli)の発現ベクタである。発現はIPTGで誘導される。
【0072】
pGEXω6:pSCM525内のI-Sce Iの合成遺伝子がグルタチオンSトランスフェラ−ゼに融合しているpGEXに由来し、ハイブリッドタンパク質を産生する、大腸菌(E.coli)発現ベクタ。このハイブリッドタンパク質はエンドヌクレア−ゼ活性を有する。
【0073】
pDIC73:T7プロモ−タ制御下にある、I-Sce Iの合成遺伝子(pSCM525のNdeI−BamHI断片)の挿入により、pET-3Cから得られる大腸菌(E.coli)発現ベクタ。このベクタは、T7RNAポリメラ−ゼをIPTG誘導下で発現する、菌株BL21(DE3)内で使用される。
【0074】
pSCM351:I-Sce Iの合成遺伝子がLacZ遺伝子と融合しているpUR291から得られ、ハイブリッドタンパク質を産生する、大腸菌(E.coli)発現ベクタ。
pSCM353:I-Sce Iの合成遺伝子がCro/LacZ遺伝子と融合しているpEX1から得られ、ハイブリッドタンパク質を産生する、大腸菌(E.coli)発現ベクタ。
【0075】
以下は酵母の発現ベクタの例である:
PEX7:ガラクト−スプロモ−タの制御下に合成遺伝子を挿入したpRP51-Bam O(pLG-SD5のLEU2d誘導体)から得られる、酵母発現ベクタ。発現は、ガラクト−スで誘導される。
pPEX408:ガラクト−スプロモ−タの制御下に合成遺伝子を挿入したpLG-SD5から得られる、酵母発現ベクタ。発現は、ガラクト−スで誘導される。
幾つかの酵母発現ベクタを図7に記載した。
【0076】
以下は、典型的な哺乳類発現ベクタである:
pRSV I-Sce I:合成遺伝子(pSCM525のBamHI−PstI断片)が、ラウス肉腫ウイルスのLTRプロモ−タ制御下にある、pRSV誘導体。この発現ベクタは、図8に記載してある。
チャイニ−ズハムスタ−オバリ−(CHO)細胞での発現ベクタも使用することが可能である。
【0077】
5.本発明のベクタで形質転換した細胞。
本発明のベクタは、通常の技術により宿主生物内へ挿入することが可能である。例えば、ベクタは形質転換、形質移入、電気穿孔、マイクロインジェクション、またはリポソ−ムによる方法(リポフェクション)により挿入することができる。
【0078】
クロ−ニングは、原核細胞、または真核細胞で行うことができる。クロ−ニング用の担体を複製するための宿主は、当然、該担体と適合するものであって、その中で該担体が複製することが可能なものであろう。真菌類、動物、及び植物起源の細胞も使用することが可能であるが、好ましくはクロ−ニングは、細菌、または酵母の細胞で行うことがよい。クロ−ニング作業を行うのに好ましい宿主細胞は大腸菌(E.coli)のような細菌細胞である。大腸菌(E.coli)の使用が特に好ましいのは、細菌プラスミドうやバクテリオファ−ジのような多くのクロ−ニング用担体が、これらの細胞内で複製するからである。
【0079】
本発明の好ましい態様において、本発明のヌクレオチドをコ−ドするDNA配列が、機能するようにしてプロモ−タに連結されているものを有する発現ベクタは、通常の技術により哺乳類細胞へ挿入される。
【0080】
ラ−ジスケ−ルのマッピングのための、I-Sce Iの適用。
1.種々のゲノム内での天然部位の発生度
精製したI-Sce I酵素を使用して、天然、または縮重した部位の発生度を、複数の種の完全なゲノムで調べた。サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)、バシラス・アントラシス(Bacillus anthracis)、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)、レプトスピラ・ビフレキサ(Leptospira biflexa)、及びL.インテロガンス(L. interrogans)では、天然の部位は全く見られなかった。T7ファ−ジDNAで、一つの縮重した部位が見られた。
【0081】
2.人工部位の挿入。
天然のI-Sce I部位がないのであれば、人工部位を形質転換か形質移入により導入することができる。二つの場合を区別する必要がある:相同性組み換えによる部位特異的組み込みと、非相同的組み換え、トランスポゾン移動、またはレトロウイルス感染によるランダムな組み込みである。最初のものは酵母と、2、3の細菌種では容易であるが、高等な真核細胞ではより困難である。第二のものは全ての系で可能である。
【0082】
3.挿入ベクタ。
二つのタイプを区別することができる:
−1−I-Sce I部位を選択標識とともに導入する、特異的カセット;
酵母に対して:標識遺伝子を含む以下のもの、全ては、pAF100の誘導体である(Thierry et al., (1990) YEAST 6:521-534):
pAF101:URA3(Hind III部位に挿入);
pAF103:NeoR(BglII部位に挿入);
pAF104:HIS3(BglII部位に挿入);
pAF105:KanR(BglII部位に挿入);
pAF106:KanR(BglII部位に挿入);
pAF107:LYS2(Hind IIIとEcoRVの間に挿入)。
【0083】
プラスミドpAF100の制限酵素地図を図9に示してある。プラスミドpAF100の領域のヌクレオチド配列と制限部位とを図10Aと図10Bに示してある。
染色体上の種々の既知の部位にI-Sce I部位を有する、多くのトランスジェニック酵母株が入手可能である。
【0084】
−2−転移因子、またはレトロウイルスに由来するベクタ。
【0085】
大腸菌(E.coli)と他の細菌に対して:I-Sce I部位と、
pTSmωStrR
pTKmωKanR (図11を参照)
pTTcωTetR
を有するミニTn5誘導体。
【0086】
酵母に対して:pTYω6は、I-Sce I部位がTyエレメントのLTRに挿入されている、pD123の誘導体である。(図12)
【0087】
ほ乳類細胞に対して:
pMLV LTR SAPLZ:MLVとPhleo-LacZのLTR内にI-Sce I部位を有する(図13)。このベクタはまずΨ2細胞(3T3の誘導体;R. Muliiganより入手)で増殖させる。ゲノム中の未同定の位置にI-Sce I部位を有する、二つのトランスジェニック細胞株が入手可能である。:1009(多能性神経細胞)、及びD3(トランスジェニック動物を産生できるES細胞)。
【0088】
4.入れ子状(nested)染色体断片化方法
真核ゲノムを遺伝的にマッピングするための、入れ子状(nested)染色体断片化方法では、18塩基対の長さの認識のような、制限エンドヌクレア−ゼI-Sce Iのユニ−クな性質をうまく利用している。ほとんどの真核ゲノムには、天然にはI-Sce I認識部位がないこともまた、このマッピング方法ではうまく利用されている。
【0089】
まず上記したようにして、選択性標識を含む特異的カセットを使用した相同性組み換えによるか、またはランダムな挿入により、一つ以上の人工的I-Sce I認識部位をゲノムの種々の位置に挿入する。得られるトランスジェニック株のゲノムを次いで、I-Sce I制限酵素とのインキュベーションにより、該人工的挿入I-Sce Iにおいて完全に開裂する。開裂産物は入れ子状の染色体断片を産生する。
【0090】
染色体断片を次いでパルスフィ−ルドゲル(PFG)電気泳動で精製単離し、染色体内での挿入部位の位置をマッピングするようにする。全DNAを制限酵素で切断すると、人工的に導入された、それぞれのI-Sce I部位はゲノム中でユニ−クな「分子的な印」を提供する。よって、上記の印の間の物理的ゲノム間隔を定義するような、それぞれが単一のI-Sce I部位を有する一連のトランスジェニック株を作りだすことができる。結果的に、ゲノム全体、染色体、または興味あるどのような部分をも、人工的に導入したI-Sce I制限部位を使用してマッピングすることいができる。
【0091】
入れ子状染色体断片は、固相の膜にトランスファ−して該断片のDNAに相補的なDNAを含む、標識済みプロ−ブにハイブリダイズさせることができる。観察されるハイブリダイゼーションのバンディングパタ−ンに基づき、真核ゲノムをマッピングすることができる。適切な「印」を有するトランスジェニックのセットは、新規の遺伝子またはクロ−ンの如何なるものをも直接的にマッピングするレファレンスとして使用される。
【0092】
例1:酵母染色体XIのマッピングへの、入れ子状染色体断片化方法の適用。
この方法を、酵母サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharamyces serevisiae)の染色体XIのマッピングに適用した。I-Sce I部位を二倍体株FY1679の染色体XI上の7つの異なる部位に挿入し、その結果該染色体中に8つの物理的間隔を定義した。相同性組み換えにより、URA3-1I-Sce Iカセットより部位を挿入した。二つの部位を、遺伝的に定義されている遺伝子、TIF1とFAS1内に挿入し、その他のものは発明者が有する、オ−バ−ラップしていない5つのコスミドをランダムに選択して、染色体中の未知の位置に挿入した。7つのトランスジェニック株のそれぞれがアガロ−スに包埋したものを次いでI-Sce Iで消化して、パルスフィ−ルドゲル電気泳動で分析した(図14A)。それぞれのトランスジェニック株の染色体XI上でのI-Sce I部位の位置はまず、断片の左右の向きを考慮に入れずに断片サイズより推定される。向きは、以下のようにして決定する。この株のセットのなかで、最もテロメアに近いI-Sce I部位は、トランスジェニックE40の中にあるが、それは全ての断片の中で最も短いものが50kbであるからである(図15A)。よってここで、トランスジェニックE40にI-Sce Iを導入するのに使用したコスミドクロ−ンpUKGO40を、全ての染色体断片に対するプロ−ブとして使用する。予想したとおり、pUKG040はE40株より二つの断片を明るみにだす(それぞれ50kb及び630kb)。大きい断片はほぼ染色体XI全体であり、長さが38kbであるpUKG040は、その大きい染色体断片内に4kb未満のものを含むという事実により、弱いハイブリダイゼーションシグナルを示す。該トランスジェニック株は、二つの相同物のうち一つの中のみにI-Sce I部位が挿入されている二倍体であるために、染色体XI全体は、I-Sce I消化後も視覚的に認識できることに注目されたし。現在では、pUKG040プロ−ブはその他の全てのトランスジェニック株のうちのたった一つの断片にハイブリダイズして、I-Sce I部位の左右の向きを明瞭にする(図15B)。コスミドベクタと、I-Sce I部位を有する染色体サブ断片との間での顕著な交差ハイブリダイゼーションは見られない。トランスジェニック株は現在では、I-Sce I部位が該染色体のハイブリダイズする末端からの距離が短い順に配置されていて(図15C)、I-Sce Iマップが推定できる(図15D)。マッピングの精度はPFGEの分解能と、最適な補正に依存する。遺伝子地図に関しての、染色体の正確な左右の向きは、この段階では分からない。本方法を可視化し、I-Sce I間のI-Sce I部位の間隔サイズのより正確な測定をするために、新たに並べた、同じトランスジェニック株を新規のパルスフィ−ルドゲル電気泳動にかけた(図16)。トランスファ−後、断片をすぐにコスミドpUKG040とpUKG066にハイブリダイズさせたが、これらはそれぞれが該染色体の反対側の末端全ての断片を明るみに出す(クロ−ンpUKG066は、遺伝子地図に定義される染色体の右末端を定義するが、これはそれにはSIR1遺伝子が含まれているからである)。通常の段階的な染色体断片サイズの列が見られる。プロ−ブUKG066と染色体IIIとの間に幾つかの交差ハイブリダイゼーションがあることに注目されたいが、これはおそらく幾つかのDNA繰り返し配列のためである。
【0093】
まとめると、染色体断片全ては図15dに示したような、物理的間隔を定義する。得られたI-Sce Iマップは、平均して80kbの分解能を有する。
【0094】
例2:酵母人工染色体(YAC)クロ−ンへの、入れ子状染色体断片化方法の適用。
この方法をYACマッピングに適用するのには、二つの可能性が考えられる。
−1−酵母内での相同性組み換えを利用して、興味ある遺伝子内にI-Sce I部位を挿入する。これにより、試験管内でのI-Sce I消化によるYAC挿入物内の遺伝子のマッピングが可能になる。これは実際に行なわれ成功した。
−2−高い反復性の配列(例:マウスのB2や、ヒトのAlu)を使用した、酵母内での相同性組み換えにより、YAC挿入物内にI-Sce I部位をランダムに組み込む。トランスジェニック株を次いで、参考文献P1に記載されているようにして、ライブラリ−またはマップ遺伝子を並べる。
【0095】
現在ではこの方法は、450kbのマウスDNAを含むYACでも行えるようになっている。このため、マウスDNAの繰り返し配列(B2と呼ばれる)をI-Sce Iと、選択性酵母標識(LYS2)とを有するプラスミドへ挿入した。B2配列内で直鎖状にした組み換えYACを有する酵母細胞の形質転換により、I-Sce I部位が、マウスDNA挿入物内の5つの異なる位置に分配されて組み込まれた。酵素による、組み込んだI-Sce I部位の切断は成功し、電気泳動後に精製可能な、入れ子状の断片が産生した。この方法の以下の工程は例1に示した方法と全く一致する。
【0096】
例3:直接的なコスミドライブラリ−の分類への、入れ子状染色体断片化の適用。
入れ子状の、染色体断片は、分離用PFGより精製することができ、染色体XI特異的サブライブラリ−からのクロ−ンに対するプローブとして使用することができる。このサブライブラリ−は138のコスミドクロ−ンよりなっているが(8回カバ−するのに相当する)、これはPFGで精製した染色体XIでコロニ−ハイブリダイゼーションして、出願人の有する完全な酵母ゲノムライブラリ−から、以前に分類しておいたものである。次いで整列させていないクロ−ンのコレクションを、該染色体の左末端からの短い順の染色体断片とハイブリダイズさせた。I-Sce Iマップ上のそれぞれのコスミドの位置はそれぞれのハイブリダイゼーションより明確に決定される。更にこの結果を確認するためと、より正確なマップを提供するため、順番に並べられているコスミドクロ−ン全てのサブセットを、EcoRIで消化して電気泳動にかけ、該染色体の左末端からの短い順番の、入れ子状シリ−ズの染色体断片とハイブリダイズさせた。結果は図17に示してある。
【0097】
一定のプロ−ブに対しては、二つの場合を区別することができる:EcoRI断片全てがプロ−ブとハイブリダイズするコスミドクロ−ン、及びEcoRI断片の一部のみしかハイブリダイズしないコスミドクロ−ン(すなわち図17bにおいて、pEKG100とpEKG098とを比較せよ)。第一の範疇は、挿入部が全部、二つの染色体断片のうちの一つの中に含まれているクロ−ンに相当し、第二のものは挿入部がI-Sce I部位とオ−バ−ラップするクロ−ンに相当する。pEKGシリ−ズのクロ−ンに対しては、8kbのEcoRI断片が全部、該染色体断片とはハイブリダイズしないベクタ配列(pWE15)からなっていることに注意されたし。染色体断片が組み込みベクタを有している場合には、コスミドとの交差ハイブリダイゼーションが見られる(図17e)。
【0098】
図17を調べると、コスミドクロ−ンはI-Sce Iマップに関して整列していることが明確であり(図13E)、それぞれのクロ−ンが定義した間隔内にあるか、またはI-Sce I部位を横切っている。更に、第二の範疇のクロ−ンにより、幾つかのEcoRI断片をI-Sce Iマップ上に配置することが可能となるが、その他のものは配置されないままである。染色体XIに特異的な、完全なコスミドクロ−ンであって、あわせると該染色体の8回分をカバ−するものは、図18に示してあるように、I-Sce Iマップに関して分類されている。
【0099】
5.I-Sce Iを使用したパ−シャル制限マッピング。
この態様においては、人工的に挿入したI-Sce I部位でのDNAの完全消化の後で、選択した細菌性制限エンドヌクレア−ゼによるパ−シャル消化を行う。制限断片を次いで電気泳動により分離してブロットした。間接的末端標識を、左または右のI-Sce Iの半分の部位を使用して行う。この技術は酵母染色体では成功し、またYACに対しても困難なく適用できるはずである。
【0100】
パ−シャル制限マッピングを、商業的な酵素I-Sce Iを使用して、酵母DNA及び哺乳類細胞DNAで行った。人工的に挿入したI-Sce-I部位を含む細胞由来のDNAをまず、I-Sce Iで完全に消化する。次いでDNAを興味ある細菌性制限エンドヌクレア−ゼ(例えばBamHI)を使用するパ−シャル開裂条件下で処理し、サイズ補正マ−カ−にそって、電気泳動する。このDNAをメンブレンにトランスファ−し、続いてI-Sce I部位のどちらか一方の脇の短い配列を使用してハイブリダイゼーションする(これらの配列は、I-Sce Iを挿入するのに使用した元の挿入ベクタであるので、これらの配列は既知である)。オ−トラジオグラフィ−(またはその他の、非放射性プロ−ブを使用する、等価な検出系)により、ラダ−が視覚化され、これはI-Sce I部位に由来する細菌性制限エンドヌクレア−ゼ部位の連続物を直接的に現わす。ラダ−のそれぞれのバンドを使用して細菌性制限エンドヌクレア−ゼ部位の連続物の間の物理的距離を計算する。
【0101】
in vivo部位特異的組み換えへの、I-Sce Iの適用。
1.酵母内でのI-Sce Iの発現。
合成のI-Sce I遺伝子を、マルチコピ−プラスミドであるpPEX7及びpPEX408上の、ガラクト−ス誘導性プロモ−タの制御下に置いた。発現は正常におき、以下に示すような、部位への影響を誘導する。I-Sce Iの合成遺伝子が染色体内の誘導性プロモ−タの制御下に挿入されたトランスジェニック酵母を構築することが可能である。
【0102】
2.酵母内での部位特異的二本鎖開裂の影響(参考文献18及びP4)。
プラスミドの有するI-Sce I部位への影響:分子内効果は、参考文献18に詳細が記載されている。分子間(プラスミドから染色体)組み換えを予想することができる。
【0103】
染色体に組み込まれたI-Sce I部位への影響。
一倍体の細胞では、人工的I-Sce I部位での染色体内単一切断は、細胞増殖の停止とそれに引き続く細胞死を起こす(ほんの数%しか生き延びない)。切断部位に相同性のある無傷の配列が存在すると、修復がおきて、100%細胞が生存する。二倍体細胞では、染色体内の人工的I-Sce I部位の単一の切断は染色体相同部を使用した修飾がおきて、100%細胞が生存する。この両方の場合、誘導された二本鎖切断の修飾により、切断部の脇の非相同性配列の欠失と、ドナ−DNA分子に由来する非相同性配列の挿入を伴った、異型接合性が失われる。
【0104】
3.酵母内での、in vivo組み換えYACへの適用。
クロ−ニング部位の次にI-Sce I認識部位を有するYACベクタの構築により、挿入部が一部オ−バ−ラップしている場合には、別のYACとの相同性組み換えを誘導することができる。これは、保有物(contigs)の構築にも有益である。
【0105】
4.その他の生物体の展望:I-Sce I制限部位の挿入を細菌(大腸菌(E.coli)、エルシニア・エントロコリチカ(Yersinia entorocolitica)、Y. ペスチス(Y. pestis)、Y. シュ−ドツベルクロシス(Y. pseudotuberculosis))と、マウスの細胞に対して行った。人工的I-Sce I部位のin vitroでの開裂は、トランスジェニックマウス細胞に由来するDNAで成功した。哺乳類、または植物細胞内の合成遺伝子に由来するI-Sce Iの発現はうまくいくはずである。
【0106】
I-Sce I部位をマウス細胞及び細菌細胞内へ、以下のようにして導入した:
−1−マウス細胞
−a−マウス細胞(Ψ2)を標準的なリン酸カルシウム形質転換法を利用して、I-Sce I部位を有するベクタpMLV LTR SAPLZで形質転換した。
−b−形質転換済み細胞を、フレオマイシン(phleomysin)と5%ウシ胎児血清を含んだDMEM培地で選択し、12%CO2、100%湿度、37℃でコロニ−が形成されるまで増殖させた。
−c−フレオマイシン抵抗性コロニ−を同じ培地で一回サブクロ−ニングした。
−d−1ml当たり105の力価のウイルス粒子を産生するクロ−ンMLOP014を選択した。 このクロ−ンをCNCMに1992年5月5日に培養物コレクションアクセス番号I-1207の下に寄託した。
−e−10%ウシ胎児血清と5mg/mlの「ポリブレイン(polybrain)」とを有するDMEM培地内で105細胞当たり、このクロ−ンの上清を使用した105のウイルス粒子をまいて、他のマウス細胞(1009)を感染させた。培地は新鮮な同じ培地で、感染6時間後に置き換えた。
−f−感染後24時間で、フレオマイシン抵抗性細胞を、上記と同じ培地内で選択した。
−g−フレオマイシン抵抗性のコロニ−を同じ培地でサブクロ−ニングした。
−h−一つのクロ−ンを取り上げて、分析した。DNAを標準的な方法で精製して、最適な条件下でI-Sce Iで消化した。
【0107】
−2−細菌細胞:
I-Sce I部位を有するミニTn5トランスポゾンを、標準的なDNA組み換え技術により構築した。ミニTn5トランスポゾンを共役プラスミド(conjugative plasmid)上にのせる。大腸菌(E.coli)とエルシニア(Yersinia)との間の細菌共役を使用して、エルシニア内にミニTn5トランスポゾンを組み込む。カナマイシン、ストレプトマイシン、またはテトラサイクリンに対して抵抗性のあるエルシニア細胞を選択する(それぞれ、ベクタpTKM-ω、pTSM-ω、及びpoTTc-ω)。
【0108】
プラスミドに由来するDNAを染色体へ、部位特異的に挿入するための幾つかの方法を行うことが可能である。これにより、骨の折れるスクリ−ニング工程を行わずに、予め決めておいた部位に導入遺伝子を挿入することが可能になるであろう。
この方法は以下のとおりである:
−1−I-Sce I認識部位が染色体のユニ−クな位置に挿入されている、トランスジェニックな細胞を構築する。トランスジェニック細胞を、発現ベクタと、興味ある遺伝子、及びI-Sce Iが内部に挿入されている配列に対して相同性な部分を有しているプラスミドとで共形質転換する。
−2−プラスミド上の興味ある遺伝子内、またはその隣への、I-Sce I認識部位の挿入。正常な細胞を、合成I-Sce I遺伝子を有する発現ベクタと、I-Sce I認識部位を有するプラスミドとで共形質転換する。
−3−I-Sce I遺伝子が、ゲノム中の、誘導性、または構成性の細胞性プロモ−タの制御下に組み込まれた、安定なトランスジェニック細胞株の構築。興味ある遺伝子内、またはその隣にI-Sce I部位を有しているプラスミドによる、細胞株の形質転換。
【0109】
部位特異的相同性組み換え:酵母で成功した実験の図を、図19に示してある。
【参照文献1】
【0110】
【0111】
本願で引用している、参考文献の全ての開示事項全てと要約は、参照することにより本願に組み込む。
【0112】
サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)のI-Sce I系を利用した、哺乳類染色体での相同性組み換え誘導。
【0113】
例4 イントロダクション
染色体と外来性DNAとの間の相同性組み換え(HR)は、ゲノムへの遺伝的変化を導入する方法の基礎である(5B、20B)。組み換えイベントのパラメ−タは、細胞内へ導入されているプラスミド配列の研究と(1B、4B、10B、12B)、in vitro系での研究により決定された。HRは、哺乳類細胞では非効率的であるが、DNA中の二本鎖切断により促進される。
【0114】
これまでは、特定の染色体標的を効果的に開裂することは可能ではなく、よって組み換えに関する理解とその利用には限界があった。エンドヌクレア−ゼの中では、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)のミトコンドリアのエンドヌクレア−ゼI-Sce I(6B)が、特異的な染色体標的を開裂させるための道具として利用できる性質を有していて、よって生きている生物体の染色体を操作できる。I-Sce Iタンパク質は、酵母のミトコンドリアにおける、イントロンホ−ミング(homing)、すなわち予め決めておいた配列が予め決めておいた部位へ挿入される非相反的機構を担うエンドヌクレア−ゼである。エンドヌクレア−ゼI-Sce Iは酵母の核内で、二本鎖切断を開始することにより、組み換えを触媒することが確立されている(17B)。エンドヌクレア−ゼI-Sce Iの認識部位は18bpの長さであり、よってI-Sce Iタンパク質は非常にまれに切断する制限エンドヌクレア−ゼである(22B)。更に、I-Sce Iタンパク質はリコンビナ−ゼではないので、染色体工学への可能性は、宿主とドナ−分子の両方に標的部位が要求されるの系の可能性よりも高い(9B)。
【0115】
出願人らは本願で、酵母I-Sce Iエンドヌクレア−ゼは、哺乳類細胞内の染色体標的内で効果的に二本鎖切断を誘導することが可能であることと、この切断が、該切断に隣り合う領域と相同性を共有するドナ−分子を使用して修復されることを証明している。該酵素は高い効率で組み換えを触媒する。このことは、染色体DNAと外来性DNAとの間の組み換えが、二本鎖切断修復経路により、哺乳類細胞内で起こりえることを証明している(21B)。
【0116】
実験材料と実験方法
プラスミドの構築
pG-MPLは4つの工程により得た:
(I)モロニ−マウス白血病ウイルス(MoMuLV)の3’LTRのU3配列中の、NheI部位−XbaI部位間のSAを有するMoMuLVのenv遺伝子の、0.3kbからなるBgl II−SmaI断片(クレノウ酵素で処置済み)の挿入;
(II)リンカ−アダプタ−を有するこの修飾済みLTR中の、SAの隣のXbaI部位における、PhleoLacZ融合遺伝子(15B)(Cayla laboratoryより入手したpUT65由来)を含む、3.5kbのNcoI−XhoI断片の挿入;
(III)p5’LTRプラスミド(XhoIとEcoRIとの間に、MoMuLVの、ヌクレオチド番号563までの5’LTRを有するプラスミド)の、SalIとEcoRIとの二重消化により回収される、この3’LTR(SAとPhleoLacZを有する)の挿入;
(IV)この3’LTR内のNcoI部位(SAとPhleoLacZとの間)への、合成I-Sce I認識部位の挿入。
【0117】
pG-MtkP1は、1.6kbのtk遺伝子をそのプロモ−タとともにpG-MPLのPstI部位に挿入することにより得られた。pVRneoは、二つの工程で得られた:(I)SAとPhleoLacZとを有する3’LTRを含んだ4.5kbのPstI−EcoRI断片の、PstI−EcoRI二重消化により直鎖状にしたpSP65(プロメガ社)への挿入;(II)G-MPLの3’LTRの一部を有するpSP65のNcoI制限部位(クレノウ酵素で処理済み)への、2.0kbのBgl II−BamHI断片(クレノウ酵素で処理済み)の挿入。
【0118】
pCMV(I-Sce I+)は、二つの工程で得られた:
(I)BamHIとSalIとで開裂させたphCMV1(F. Meyer、個人的に入手)プラスミドへの、I-Sce Iを含有する断片(pSCM525, A. Thierry, 個人的に入手)である0.73kbのBamHI−SalIの挿入;
(II) SV40のポリアデニル化シグナルを有する1.6kbの断片の、phCMV1のPstI部位への挿入。
【0119】
pCMV(I-Sce I−)は、pCMV(I-Sce I+)プラスミドとは逆向きにI-Sce I ORFを含んでいる。NsiI及びSalIとによる二重の切断で直鎖状にし、クレノウ酵素で処理した、phCMV PolAベクタへの、BamHI−PstI I-Sce I ORF断片の挿入により得られた。
【0120】
プラスミドpG-MPL、pG-MtkP1、pG-MtkΔPAPLを記載した。更に上記したプラスミドに加えて、種々のプロモ−タ、遺伝子、ポリA部位、I-Sce I部位を有する如何なるプラスミドベクタをも構築することができる。
【0121】
細胞培養と選択
3T3、PCC7 S、Ψ2は、参考文献(7B)、及び(13B)で参照されている。細胞選択培地:ガンシクロビル(14B、23B)を、組織培養液に2μMの濃度で加えた。ガンシクロビル選択は、6日間、細胞上で行い続けた。G418を適切な培養液に、PCC7-Sに対しては1mg/mlの濃度で、3T3に対しては、400μg/mlの濃度で加えた。選択は、細胞培養中を通して行った。フレオマイシンは10μg/mlの濃度で使用した。
【0122】
細胞株
−Ψ細胞株は、I-Sce I認識部位を有するプロウイルス組み換えベクタを含んでいるプラスミドで形質転換した:pG-MPL、pG-MtkPL、pG-MtkΔPAPL。
−NIH3T3線維芽細胞株を次のもので感染させる:
G-MPL 複数のクロ−ン(30以上)が回収された。1から14のプロウイルス組み込み、及び複数の異なる組み込み点が、分子的解析により確認された。
【0123】
G-MtkPL 4クロ−ンが回収された(そのうち3つが正常なプロウイルス組み換えを有し、もう一つが、二つのLTR間の組み換えを有していて、そのため唯一のI-Sce I認識部位を有していた)。
【0124】
−胚性癌腫 PCC7-S細胞株をG-MPLで感染させる:14クロ−ンを回収、正常なプロウイルスの組み込みがおきていた。
−胚性幹細胞株D3をG-MPLで感染させる:4クロ−ンを回収(3つは正常なプロウイルスの組み込みが起きていて、一つは4つのプロウイルス組み込みが起きていた)。
【0125】
「調製」マウス細胞:
レトロウイルスの組み込み(プロウイルス組み込み)により、I-Sce I含有LTRの複製がおきる。細胞は該部位に関してヘテロ接合である。
【0126】
形質転換、感染、細胞染色、及び核酸ブロット分析
これらの方法は、2B、及び3Bに記載のようにして行った。
【0127】
結果
I-Sce IのHRを検出するために、図20に示した実験系を設計した。欠損した組み換えレトロウイルス(24B)は、I-Sce I認識部位とPhloeLacZ(15B)誘導遺伝子を、3'LTR内に挿入して構築した(図20a)。レトロウイルスの組み込みにより、細胞ゲノム内に、互いに5.8kb、または7.2kb離れた二つのI-Sce I部位の組み込みがおきた(図20b)。これらの部位でのI-Sce I誘導性二本鎖切断(DSB)(図20c)により、DSBの脇の領域との相同性配列を有するドナ−プラスミド(pSVneo, 図20d)とのHRが開始されることと、また非相同性配列でドナ−プラスミドが有するものは、この組み換え中に複製される(図20e)可能性とを推定した。
【0128】
レトロウイルスの組み込みによる、哺乳類細胞ゲノムへの、複製済みI-Sce I認識部位の導入
より特には、二つのプロウイルス配列を本研究で使用した。G-MtkPLプロウイルス配列(G-MtkPLウイルス由来)には、形質移入済み細胞の(フレオマイシン含有培地内での)陽性選択用のPheleoLacZ誘導遺伝子と、(ガンシクロビル含有培地内での)陰性選択用のtk遺伝子が含まれている。G-MPLプロウイルス(G-MPLウイルス由来)はPhleoLacZ配列のみが含まれている。G-MtkPL及びG-MPLはエンハンサ非含有モロニ−マウス白血病プロウイルスより構築された欠損型組み換えウイルス(16B)である。該ウイルスベクタは、プロモ−タトラップとして機能し、故に細胞のフランキング配列により活性化される。
【0129】
ウイルス産生細胞株は、pG-MtkPLまたはG-MPLをΨ−2パッケ−ジ細胞株(13B)へ形質導入して作成した。ウイルス転写産物のノ−ザン分析(図21)は、Ψ−2−G-MPL株がLacZプロ−ブとハイブリダイズする、4.2及び5.8kbの転写産物を発現することを示している。これらの転写産物は、おそらく5’LTRで開始され、3’LTRで終結している。この4.5kbの転写産物は、スプライシングされた伝令に相当し、5.8kbの転写産物はスプライシングされていないゲノムの伝令に相当する(図21A)。このことは、該ウイルス中の5'LTRと、スプライシングドナ−及びアクセプタ−の機能性を確認している。ウイルスは、Ψ−2細胞株の培養液より調製した。
【0130】
NIH3T3線維芽細胞、及びPCC7−S多能性マウス細胞株(7B)を次いで、G-MtkPL及びG-MPLでそれぞれ感染させ、クロ−ンを単離した。このクロ−ンより調製したDNAのサザンブロット分析により、LTR仲介性のI-Sce I PleoLacZ配列の複製が証明された(図22a)。Bcl Iによる消化により、予想した5.8kb(G-MPL)、または7.2kb(G-MtkPL)の断片が産生された。染色体のフランキングDNA内のBclI部位に相当する、二つの付加的断片の存在により、単離したそれぞれのクロ−ンにおいて、プロウイルス標的が単一であることが証明される。クロ−ンごとで変化するそのサイズは、別個の遺伝子座でレトロウイルスの組み込みが起きていることを意味している。I-Sce I消化で5.8kb(G-MPL)断片、または7.2kb(G-MtkPL)が生じていることにより、I-Sce I認識が忠実に複製されていることが示された(図22b)。
【0131】
DNA交換へと導かれる組み換えの、I-Sce Iによる誘導。
G-MtkPLウイルスによりNIH3T3に与えられた表現型は、PhleoR β-gal+ glsSであり、G-MLPによりPCC7-Sに与えられた表現型は、PhleoR、βgal+である(図20b)。I-Sce Iにより誘導される組み換えイベントの直接的選択を可能にするため、pVRneoドナ−プラスミドを構築した。pVRneoにおいては、neo遺伝子は、左側の染色体切断に対して5'である配列に相同性である300bpと、右側の切断に対して3’である配列に対して相同性である2.5kbとで挟まれている(図20d)。ポリアデニレ−ションシグナルはneo遺伝子に対して3’に配置して、組み換え後にPhleoLacZ伝令を阻害するようにした。プロウイルスとプラスミドとの間の誘導性組み換えが起こると、得られる表現型はneoRであり、ドナ−プラスミド内のポリアデニレ−ションシグナルの存在のため、PhleoLacZ遺伝子は発現しないはずであり、phleoSβ-gal―表現型になる。
【0132】
G-mtkPL及びG-MtkDPQPLにより、tk遺伝子を使用した陰性選択(ガンシクロビル使用)によるギャップのための選択と、neo遺伝子を使用した陽性選択(ジェニティシン使用)によるドナ−プラスミドの交換のための選択を同時に行うことが可能である。G-MLPを使用して、陽性選択のみをジェニティシン含有培地に適用することができる。よって、活性な内在性プロモ−タ近傍における、ドナ−プラスミドのHRと組み込みイベントとの両方に関しての選択を期待した。誘導されたHRは、表現型がneoR β-gal―になり、またドナ−プラスミドのランダムな組み込みにより表現型がneoR βgal+になることより、上記の二つのイベントは区別することができる。
【0133】
二つの異なるNIH3T3/G-MtkPLと、3つの異なるPCC7-S/G-MPLを次いで、I-Sce I用の発現ベクタ、pCMV(I-Sce I+)と、ドナ−プラスミドpVRneoで共形質転換した。I-Sce Iの一過性発現により、I-Sce I部位でのDSBがおき、よってpVRneoとのHRが促進される。対照は、I-Sce Iを発現しないプラスミドであるpCMV(I-Sce I−)と、pVRneoである。
【0134】
NIH3T3/G-MtkPLクロ−ンを、プロウイルス配列の喪失及びneoR表現型の獲得(ガンシクロビルとジェネティシン使用)、またはneoR表現型のみの獲得の何れかに関して選択した(表1)。第一の場合においては、neoRglsRコロニ−が一連の実験では10−4の頻度で回収され、一連の対照ではコロニ−は全く回収されなかった。更にneoRglsRコロニ−全てはβ-gal―であって、これはプロウイルス部位でのHRより得られたことと一貫性がある。第二の場合においては、neoRコロニ−は、一連の実験で10−3の頻度で回収されたが、一連の対照実験では10から100分の1の低頻度であった。さらにneoRコロニ−の90%は、(pCMV(I-Sce I+)のシリ−ズでは)β-gal―であることが判明した。これは、I-Sce Iの発現により、pVRneoとプロウイルスとの間のHRが誘導されることと、部位特異的HRは、細胞プロモ−タ近傍でのpVRneoのランダムな組み込みよりも10倍、自発的HRよりも少なくとも500倍、より頻繁に起きることを示している。
【0135】
【表4】
【0136】
表1:I-Sce I仲介性の二本鎖切断の影響。
A. 106のNIH3T3/G-MtkPL細胞のクロ−ン1および2、並びに5.106のPCC7-S/G-MPL細胞のクロ−ン3から5を、pVRneoとpCMV(I-Sce I+)若しくはpCMV(I-Sce I−)とで共形質転換した。細胞を表示の培地で選択した:ジェニティシン(G418)、またはジェネティシン+ガンシクロビル(G418_Gls)。βgal発現表現型は、X-gal組織化学的染色により決定した。プロウイルスとpVRneoとの間の誘導性組み換えがおきるならば、細胞はneoRβ-gal-表現型を獲得する。 B.組み換えクロ−ンサンプルの分子的分析。RI:親ウイルス構造pVRneoのランダムな組み込み。DsHR:二重部位HR。SsHR:単一部位HR。Del:プロウイルスの欠失(図20、及び図23も参照されたし)。
【0137】
サザンブロット、及びノ−ザンブロット分析による、組み換えの確認。
neoR組換え体の分子的構造をサザンブロット分析で調べた(図23、及び表1)。I-Sce I部位でのHRからは、組み換えDNAは、4.2kbの親断片の代わりに6.4kbのLacZ断片が産生されることが予想される。NIH3T3細胞からのneoR glsR β-gal―の15の組換え体全ては6.4kbのKpnI断片のみを示した。よって、二重の選択方法により、予想した遺伝子置換(二重部位相同性組み換え:DsHR)による組み換え体のみ産生された。
【0138】
単一選択により産生された25のβ-gal―組換え体は4つのクラスに分類できる:(a)上記のようにしてI-Sce Iで誘導されるDsHR(19クロ−ン);(b)6.4kbの断片(図23、表1、単一部位相同性組み換え:SsHE;クロ−ン3からは3つの独立したβ-gal-組換え体)に加えて存在する、4.2kbのKpnI断片(残りのLTR内のPhleoLacZに相当する)により証明される、左側のLTR内へのpVRneoの組み込み。これらのクロ−ンは、左のDSBのみのI-Sce I-IHRか、(より可能性は低いが)LTRとpVRneoとの間の二重の交差に相当する;(c):ランダムなpVRneoの組み込み(表1、ランダムな組み込み:IR)、及び同時のHR(表1、欠失:Del)(1つのβ−gal―組換え体);及び(d):ランダムなpVRneoの組み込みと、同時のプロウイルスの欠失(1つのβ-gal―組換え体)。この四番目のクラスは、相同性染色体を使用したDSBの修復に相当していると思われる。予期したとおり、ジェニティシン選択のみによるβ-gal+組換え体の全ては、一連の実験に由来するもの(8クロ−ンを分析)も、一連の対照に由来するもの(6クロ−ンを分析)も、ランダムなpVRneo組み込みに相当している。
【0139】
親細胞と、組換え体で産生されたRNAを分析して、PCC7-S/G-MPLのI-Sce I部位で組み換えが起きたことを証明する、付加的な証拠を得た(図24)。親PCC7-S/G-MPL1細胞は、細胞プロモ−タのトラッピングによって細胞−ウイルス融合RNAが発現していることを示す、7.0kbのLacZ RNAを発現する。組み換えクロ−ンはこのLacZRNAを発現しないが、5.0kbのneo RNAを発現する。このneo RNAのサイズは、neo遺伝子によるPhleoLacZの正確な交換と、細胞性スプライシング部位とウイルス性スプライシング部位との交換の使用から予期されるサイズと正確に一致する(LTR内のウイルス性のPhleoLacZ RNAは3.7kbであり、pVRneo中のneo RNAは1.7kbである)。
【0140】
考察
本願で示された結果は、二本鎖切断が、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerebisiae)のI-Sce I系により、ほ乳類細胞中で誘導されることと、標的染色体配列中の切断は、使用したドナ−プラスミドDNAとの部位特異的組み換えを誘導することを証明している。
【0141】
哺乳類細胞内で操作するために、この系においては、内在性のI-Sce I様活性が哺乳類細胞内ではないことと、I-Sce Iタンパク質が哺乳類細胞内で中性であることが必要である。I-Sce I認識部位の導入は、インプットしたDNA配列内での再構成や変異を起こさないようであるので、内在性のI-Sce I様活性は、哺乳類細胞内で作用しないであろう。例えば、I-Sce I認識部位を有するレトロウイルスで感染させたNIH3T3及びPCC7-Sクロ−ンの全ては、安定にウイルスを増殖させた。I-Sce I遺伝子産物の毒性を試験するために、I-Sce I発現プラスミドをNIH3T3細胞株へ導入した(デ−タ非掲載)。機能性のI-Sce I遺伝子のコ・トランスファ−が、高い割合で起きることが判明し、これは該遺伝子に関しての選択が全く起きていないことを示唆している。I-Sce I遺伝子の機能性は、遺伝子産物と生物学的機能の転写分析、免疫蛍光検出で証明した(Choulika et al., 投稿準備中)。
【0142】
次にエンドヌクレア−ゼが、染色体上の認識部位を開裂するかどうかを試験した。これは、プロウイルス構造のそれぞれのLTR内の、染色体上で5.8kb、または7.2kb離れた二つのI-Sce I認識部位を配置することと、I-Sce I遺伝子産物の存在下での標的ベクタとの組み換え反応の産物の分析により成し遂げられた。得られた結果は、I-Sce Iの存在下ではドナ−ベクタが非常に効率的に二つのLTRと組み換えを起こして、機能性のneoを産生することを示している。これにより、I-Sce Iが非常に効率的に、両方のI-Sce I部位で二本鎖切断を誘導することが示唆される。更に、二本鎖切断は少なくとも5つの離れたプロウイルス挿入部内で起こるので、I-Sce Iタンパク質がI-Sce I認識部位を消化する能力は周囲の構造にはほとんど依存していない。
【0143】
I-Sce Iメガヌクレア−ゼが、哺乳類細胞の染色体部位での生物学的機能を有する能力を証明することにより、生物体のゲノムの種々の操作に関しての道が開かれる。部位特異的リコンビナ−ゼ(9B、18B)との比較において、I-Sce I系は非可逆である。部位特異的リコンビナ−ゼはDNAの切断用の部位のみならず、二つのパ−トナ−同士を一緒に連結するための部位をつきとめる。対照的に、I-Sce I系での唯一の必須事項はドナ−分子と、I-Sce Iタンパク質により誘導される切断を挟む領域との相同性である。
【0144】
これは、染色体標的内での二本鎖DNA切断は、哺乳類細胞内の導入されたDNAでのHRを刺激することを示す最初の結果である。染色体側の受取DNA中の二本鎖切断(DSB)と、スパ−コイル型のドナ−DNAとの組み合わせを使用したので、二本鎖切断修復経路による組み換えの、I-Sce Iエンドヌクレア−ゼによる刺激を調査した(21B)。よって、誘導された切断部は、5’から3’へのエキソヌクレア−ゼ消化による一本鎖領域の創製後に侵入してドナ−コピ−からDNAをコピ−する、開裂した両末端が協調して関わる遺伝子変換イベントにより、おそらく修復される。しかしながら、哺乳類細胞と酵母細胞での数多くの組み換えの研究(10B、11B、19B)は、一本鎖アニ−リング(SSA)と呼ばれる、オルタナティブな経路が存在することを示唆している。SSA経路においては二本鎖切断が、相同性の一本鎖DNAを受容側及びドナ−側のDNAに露出させるエクソヌクレア−ゼの作用の基質である。次いで相補鎖のアニ−リングの後には、組換え体を産生する修復工程が続く。I-Sce I系は、この二つの経路の相対的重要性を評価するのに使用することができる。
【0145】
例5
この例は、I-Sce Iメガヌクレア−ゼ(サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)のミトコンドリアのイントロンホ−ミングに関わる)(6B、28B)を使用して、DSBを誘導して哺乳類細胞での組み換えを仲介することを記載している。I-Sce Iは、18bpの長さの認識部位を有する(29B、22B)、非常にまれに切断する制限エンドヌクレア−ゼである。in vivoでは、I-Sce Iエンドヌクレア−ゼは、特異的DSBを開始して細胞によるギャップ修復を導くことにより、修飾した酵母の核での組み換えを誘導することができる(30B、17B、21B)。よってこの方法は、生細胞中での染色体の操作を目指して、特異的DSBを染色体標的DNAに導入する方法として使用することが潜在的には可能である。I-Sce I仲介性組み換えは、染色体工学に関してリコンビナ−ゼ系[11]よりも優れているが、それは後者では宿主とドナ−のDNA分子の両方に標的部位が存在する必要があり、可逆的な反応に至るからである。
【0146】
I-Sce Iエンドヌクレア−ゼの発現には、組み換えイベントが関わる。よってI-Sce I活性は、部位特異的二重鎖切断(DSB)を哺乳類細胞中で起こす。少なくとも二つのイベントが、DSBの修復で起きて、一つは染色体内相同性組み換えにいたり、もう一方は導入遺伝子の欠失に至る。これらのI-Sce I仲介性組み換えは、バックグラウンドのものよりも顕著に高い頻度でおきる。
【0147】
実験材料と実験方法
プラスミドの構築
pG-MtkPL は、5つの工程により得た:(I)NheIとXbaI部位(クレノウ酵素で処理済み)との間にスプライシングの受容部(SA)を有している、モロニ−マウス白血病ウイルス(MoMuLV)のenv遺伝子の、0.3kbのBgl II-SmaI断片(クレノウ酵素で処理済み)を、中間体プラスミド中にある、MoMuLVの3’LTRのU3配列中に挿入する;(II)この修飾済みLTR内に、PhleoLacZ融合遺伝子([13], pUT65由来;Cayla Loratory, Zone Commercial du Gros , Toulouse, France)を含む3.5kbのNcoI-XhoI断片を、SAの隣のXbaI部位で挿入する;(III)Sal I-EcoRIの二重消化で回収したこの3’LTR(SAとPhleoLacZとを含む)を、p5'LTRプラスミド(MoMuLVのヌクレオチド番号563までの5'LTRを含むプラスミド)のXhoI部位とEcoRI部位との間に挿入する;(IV)合成I-Sce I認識部位を、3'LTR内のNcoI部位へ挿入する;(V)pG-MPLのPstI部位に、リンカ−アダプタ−を有している1.6kbのtk遺伝子を挿入する(レトロウイルスゲノムとはアンチセンスで)。
【0148】
pCMV(I-Sce I+)は、二つの工程で得られた:(I)I-Sce Iを含有する、0.73kbのBamHI−Sal I断片(pSCM525由来、A. Thierryにより寄贈)を、BamHI及びSal Iで開裂済みのphCMV1プラスミドへ挿入する;(II)SV40のポリアデニレ−ションシグナルを有する、1.6kbの断片(SV40のヌクレオチド番号の3204から1988)をphCMV1のPstIに挿入する。
【0149】
pCMV(I-Sce I−)には、pCMV(I-Sce I+)プラスミド内の逆向きでI-Sce IORFを含んでいる。これは、NsiIとSalIの二重消化により線状化され、クレノウ酵素の処理を受けた、phCMV PolyAベクタへ、BamHI−PstIのI-Sce IORF断片を挿入することで得られた。
【0150】
細胞培養と選択
T3及びΨ2は、参考文献(7B)と(13B)のものである。細胞選択培地:ガンシクロビル(14B、23B)を2μMの濃度で組織培養培地へ加えた。ガンシクロビル選択を6日間続けた。フレオマイシンを10μg/mlの濃度で使用した。同じ条件で二重の選択を行った。
【0151】
形質転換、感染、細胞染色、及び核酸ブロット分析。
これらのプロトコ−ルは、記載されているものである(2B、3B)。
【0152】
ウイルス産生細胞株
ウイルス産生細胞株は、pG-MtkPLをΨ2パッケ−ジング細胞株へ形質導入して得られる。ウイルスは、形質転換済みΨ2細胞株の培養液の濾過により調製され、クロ−ンはフレオマイシン含有培地で単離した。
【0153】
結果
哺乳類細胞でのI-Sce Iエンドヌクレア−ゼ活性をアッセイするために、G-MtkPLプロウイルスを含むNIH3T3細胞を使用した。G-MtkPLプロウイルス(図25a)は、ガンシクロビル含有培地での陰性選択用のtk遺伝子を含み、また二つのLTR内にI-Sce I認識部位とPhleoLacZ融合遺伝子とを含む。このPhleoLacZ遺伝子はフレオマイシン含有培地での、形質導入済み細胞の陽性選択に使用することが可能である。
【0154】
これらの細胞でのI-Sce Iエンドヌクレア−ゼの発現は、以下の機構(図25に例示されている)のうちの一つにより修復されるI-Sce I認識部位での二本鎖切断(DSB)を誘導すると仮定した:
(a)仮にI-Sce Iエンドヌクレア−ゼが二つのLTR(図1−bの1と2)のうちの一つのみで切断を誘導するならば、二つのLTRの間で相同性である配列は対を形成し、組み換えを起こして染色体内相同性組み換え(すなわち一本鎖アニ−リング(SSA )(12B、10B)または交差)を起こす;
(b)仮にI-Sce Iエンドヌクレア−ゼが、二つのLTRのそれぞれにおいて切断を誘導するならば、二つのフリ−な末端は再連結することが可能であり(末端結合機構(31B))染色体内組み換え(図25−b 3)がおきる;または、
(c)二つのDSBにより作られるギャップは、相同性染色体かその他の染色体断片上の配列を使用したギャップ修復機構により修復されて、プロウイルス配列の喪失がおきる(32B)(図25−c)。
【0155】
G-MtkPLによりNIH3T3細胞に与えられた表現型は、PhleoRβGal+ Gls-sである。第一の実験系においては、tk遺伝子の喪失での選択により、組み換えを検索した。NIH3T3/G-MtkPL1及び2(コロナルプロウイルス組み込み部位を有する二つの独立したクロ−ン)を、I-Sce I発現ベクタであるpCMV(I-Sce I+)、またはI-Sce Iエンドヌクレア−ゼを発現しない対照プラスミドであるpCMV(I-Sce I−)で形質転換した。次いで細胞をガンシクロビル含有培地で増殖させて、tk活性の喪失で選択した。得られたGlsRクロ−ンもまた、組織化学的染色(X-galを使用)して、βガラクトシダ−ゼ活性に関してアッセイした(表1)。
【0156】
【表5】
【0157】
表1: 組み換え頻度に与える、I-Sce I発現の効果。1X106のNIH3T3/G-MtkPL1細胞と、2X106のNIH3T3/G-MtkPL1細胞を、pCMV(I-Sce I+)またはpCMV(I-Sce I−)で形質転換した。細胞をガンシクロビル含有培地で培養した。GlsRクロ−ンの、βガラクトシダ−ゼ表現型を、X-gal組織化学的染色で決定した。
【0158】
pCMV(I-Sce I−)で形質転換した対照の実験系では、GlsR抵抗性クロ−ンが低頻度で見られ(3X10−6の処置済み細胞当たり2クロ−ン)、またこの二つはβ-gal+であった。pCMV(I-Sce I+)で形質転換した実験系では、I-Sce I遺伝子の発現により、GlsRクロ−ンの頻度を100倍上昇させた。これらのクロ−ンは、β-gal―(93%)、またはβ-gal+(7%)の何れかであった。NIH3T3/G-MtkPL1に由来する5つのβ-gal―クロ−ンと、NIH3T3/G-MtkPL2に由来する6クロ−ンとを、PstIを使用したサザンブロッティングにより分析した(図26)。親DNAにおいて、PstIエンドヌクレア−ゼは、プロウイルスのtk遺伝子内で二回切断した(図26a)。二つのPhleoLacZ含有断片のサイズを、フランキング細胞DNAの内のPstI部位の位置で決定した。NIH3T3/-MtkPL1では、これら二つのPhleoLacZ断片は10kbpであり、NIH3T3/G-MtkPL2では、それらは7kbpと9kbpである。NIH3T3/G-MtkPL1に由来する、5つのGlsR β-gal-抵抗性クロ−ンと、NIH3T3/G-MtkPL2に由来する6クロ−ンでは、tk遺伝子と二つのPhleoLacZ 配列が欠失していた(図26bとc)。
【0159】
この実験系では、対照系と比較すると、GlsRβ-gal+クロ−ンの数が、I-Sce I発現により、約10倍上昇した。これらはこれ以上の分析を行わなかった。
【0160】
回収される、GlsR β-gal+クロ−ンの数を増大させるため、第二実験系では細胞をガンシクロビルとフレオマイシンの両方を含む培地で増殖させた。ガンシクロビルはtk活性を喪失した細胞を選択し、またフレオマイシンは、PhleoLacZ遺伝子を保持している細胞を選択する。NIH3T3/G-MtkPL1及び2を、pCMV(I-Sce I+)、またはpCMV(I-Sce I−)で形質転換した(表2)。
【0161】
表2.Phleo、及びGls抵抗性クローンの数
【表6】
【0162】
表2:染色体内組み換え頻度に与える、I-Sce I発現の影響。2X106のNIH3T3/G-MtkPL1細胞と、9X10(6)のNIH3T3/G-MtkPL2細胞とを、pCMV(I-Sce I+)、若しくはpCMV(I-Sce I−)で形質転換した。細胞は、フレオマイシン及びガンシクロビル含有培地で培養した。
【0163】
対照実験系では、PhleoR GlsR抵抗性クロ−ン回収頻度は1X10−6であった。この結果は、tk活性を自発的に喪失するが、一方ではPhleoLacZ遺伝子活性を保持している細胞を反映している。この実験系ではこの頻度は20から30倍上昇されたが、これは第一実験系とも一致する(表1)。
【0164】
PhleoRβ-gal+glsRクロ−ンの分子構造を、サザンブロットで分析した(図27)。NIH3T3/G-MtkPL1に由来する4クロ−ンを分析したが、二つは実験系からで、二つは対照からであった。これらのDNAをPstIエンドヌクレア−ゼで消化した。染色体内のイベントが起きると、13.6kbp(親DNAの3つのPstI断片の合計からI-Sce I断片を差し引いたもの、す27aを参照)の単一の断片が得られることが期待された。4つのPhleoRglsR抵抗性クロ−ン全ては、13.6kbpのPstI断片を示したで、これは忠実な分子内組み換えを示唆している(図27b)。
【0165】
NIH3T3/G-MtkPL2細胞に由来する8クロ−ンからのDNAを、BclI消化を使用してサザンブロットで分析した(6つは実験系より、二つは対照系より)。親DNAのBcl I消化により、プロウイルス配列を含む7.2kbpの断片一つと、6kbpと9.2kbpのフランキング断片二つとが得られる。染色体内組み換えにより、7.2kbpの断片が喪失されるはずであるが、他の二つのバンド(6kbpと9.2kbp)は変化しないままである(図27a)。8つのクロ−ン(2.7から2.16)では、7.2kbp断片を含むtkが消えていたが、これは二つのLTR間での染色体内組み換えを示している(図27c)。
【0166】
考察
ここに示した結果は、酵母のI-Sce Iエンドヌクレア−ゼが、哺乳類細胞中で染色体組み換えを誘導することを証明している。これは、I-Sce Iがin vivoにおいて、予め決めておいた標的で染色体を切断することが可能であることを強く示唆している。
【0167】
種々の種におけるゲノム配列中の二本鎖切断は組み換えを刺激する(21B、19B)。二倍体の酵母では、染色体DSBにより同質対立遺伝子の遺伝子座を修復マトリクスとして使用することが可能になる。これにより、遺伝子変換イベントが起きて、該遺伝子座が同型接合型になる(30B)。染色体DSBはまた、異所性の遺伝子座の相同性配列をマトリックスとして使用して修復されることが可能である(32B)。この結果は、DSBギャップ修復機構の結果としては顕著なレベルで観察される。DSBが二つの直接的反復染色体配列の間で起きると、組み換えの機構は一本鎖アニ−リング(SSA)経路を使用する(11B、10B)。SSA経路には3つの工程が関わる:1)切断部分でエクソヌクレオリシスが開始されて、3'に突出した一本鎖DNAを残す;2)二つの一本鎖DNAの間での、相同性配列による対形成;3)修復複合体と、非相同性配列を別ける変異導入遺伝子とによる、DNAの修復(33B)。HOまたはI-Sce Iエンドヌクレア−ゼに誘導される染色体内でのDSBが、末端連結によって、切断の修復を起こすことが示された一倍体酵母に関しての特別の問題がある(34B)。これは実際に起こるが低効率である(30B、35B)。
【0168】
得られた結果は、二つのI-Sce I部位がプロウイルス標的内に存在することにより、またI-Sce Iエンドヌクレア−ゼが発現することにより、チミジンキナ−ゼ遺伝子の欠失が、少なくとも自発的に起きる場合よりも100倍大きい頻度で起きることを示している。I-Sce I仲介性の組み換えにより二つのtk欠失クロ−ンが得られる:PhleoLacZ配列を保持しているクロ−ン(7%)と、喪失したクロ−ン(93%)。
【0169】
tk-PhleoLacZ+の創製はおそらく染色体内組み換えの結果である。LTR内にI-Sce I認識部位を有する組み換えプロウイルスにおいて、I-Sce Iエンドヌクレア−ゼは、20%の場合においてプロウイルスの一つのみのI-Sce I部位を切断し、また80%の場合においてプロウイルスの2つのI-Sce I部位を切断することが、研究により示されている。2つのI-Sce I部位の内一つのみが該エンドヌクレア−ゼにより切断されるならば、染色体内組み換えはSSA経路により起こりえる。二つのI-Sce I部位がともに切断されるならば、tk-PhleoLacZ+細胞が末端連結により創製されて、染色体内組み換えが可能になる(図1を参照)。二倍体酵母においては、この経路は好ましくないが(切断部は相同性の染色体配列を使用して修復される)(2B)、この経路が哺乳類細胞内で使用される可能性はある。
【0170】
tk-/PhleoLacZ-細胞の創製はおそらく、同型遺伝子型、及び/または異所的遺伝子変換イベントの結果である(36B)。プロウイルスの組み換え部位の単離と分子的分析により、当該細胞による、染色体DSBのレゾル−ションのイベントそれぞれの相対的頻度に関する情報が提供される。哺乳類細胞においては、ゲノム配列の高重複性が、異所的相同性配列によるDSBの修復の可能性を上昇させるので、上記の定量的情報は重要である。DSB修復のための異所的組み換えは、進化におけるゲノムの形成と多様性に関わってきた可能性がある[29]。
【0171】
予め決めておいたゲノムの部位において、染色体を特異的に消化する能力には、ゲノム操作に関しての幾つかの潜在的適用性がある。
【0172】
本願に記載の遺伝子置換のプロトコ−ルは、以下のように変化させてもよい:
ドナ−ベクタの多様性:
ドナ−プラスミド中のI-Sce I部位のフランキング領域のサイズと配列(左側300bpと、右側2.5kbpに関して):I-Sce I部位の左右のフランキング領域が最高で、合計11kbまでの種々のサイズである、異なる構築物が存在する。配列は、構築したものに依存している(LTR、遺伝子)。300bpから11kbの間の、如何なる配列も使用可能である。
【0173】
・挿入部(neo, phleo, phleo-LacZ, 及びPytk-neoが構築された)。抗生物質抵抗性:ネオマイシン、フレオマイシン;レポ−タ−遺伝子(LacZ);HSV1チミジンキナ−ゼ遺伝子:ガンシクロビルに対する感受性。10kbまでの如何なる遺伝子配列を挿入することや、それを置換することは不可能である。該遺伝子はレトロウイルスの誘導性、または構成性プロモ−タ制御下、または遺伝子トラップと相同性組み換え(すなわちインスリン、Hbs、ILs、及び種々のタンパク質)により発現させることが可能である。
【0174】
酵素I-Sce Iを発現するために、種々の方法を使用することが可能である:一過性の形質転換(プラスミド)、またはタンパク質の直接的インジェクション(胚の核内へ);安定な形質転換(種々のプロモ−タ、例:CMV, RSV, MoMuLV);欠失性組み換えレトロウイルス(MoMuLVプロモ−タ制御下で、染色体内に ORFを組み込む);およびエピソ−ム。
【0175】
I-Sce I部位を組み込む、宿主域の変化:
I-Sce I部位を有する組み換えのレトロウイルス(すなわち、pG-MPL, pG-MtkPL, pG-MtkΔPAPL)は、種々のパッケ−ジング細胞株(両種向性、または異種栄養性)で産生させてもよい。
【0176】
I-Sce Iを発現する安定な細胞株の構築と、レトロウイルス感染に対する細胞の保護。
【0177】
I-SceIを発現する安定な細胞株は、I-Sce I部位を有するレトロウイルスベクタでの感染に対して保護される(すなわち、I-Sce Iエンドヌクレア−ゼをCMVプロモ−タ制御下で産生するNIH3T3細胞株は、pG-MPLや、pG-MtkPLによる感染や、Ψ2細胞でのMoMuLVプロモ−タ下のI-Sce Iに対して抵抗性である)。
【0178】
I-Sce I部位を含む、細胞株とトランスジェニック動物の構築。
I-Sce I部位の挿入は、所望の遺伝子座、及び適切な位置での、古典的な遺伝子置換により行う。次いで、細胞中(人工的に挿入したI-Sce I部位へのドナ−遺伝子の挿入)、またはトランスジェニック動物中の同じ位置での異なる遺伝子の発現を、スクリ−ニングすることが可能である。複数の薬剤、リガンド、医用タンパク質等の効果は、組織特異的な方法で試験することが可能である。遺伝子は一貫して、染色体内の同じ位置に挿入されるであろう。
【0179】
「無調整」のマウス細胞と全ての真核細胞に対しては、以下のようにして、ワンステップの遺伝子置換/組み込みを行う:
・I-Sce I部位を有するベクタ(種々のドナ−プラスミド):該遺伝子内(またはその脇)に一つの部位、あるいはドナ−遺伝子の脇に二つの部位。
【0180】
・酵素の発現方法
一過性発現:同じプラスミド上、または別のもの(コ・トランスフェクション)の上のORF。
【0181】
行った方法の特異的詳細は上記してある。以下の付加的な詳細により、以下の構築を可能にする:
高力価である、種々の感染性レトロウイルス粒子を産生することが可能な細胞株;
I-Sce I部位、レポ−タ−セレクタ−遺伝子、活性LTR、及び他のレトロウイルスの必須配列を有する、欠失レトロウイルスを有するプラスミド;上記の改変したレトロウイルス中のI-Sce I部位のフランキング領域に対して相同性な配列を含み、またマルチプルなクロ−ニング部位を含む、プラスミド;並びに、I-Sce Iエンドヌクレア−ゼの発現を可能にし、特異的適用に順応させたベクタ。
【0182】
マウスの線維芽細胞Ψ2細胞株を使用して、I-Sce I部位を有する、異所性欠失組み換えレトロウイルスベクタを産生させた。pG-MPL、pG-MtkPL、PG-MtkΔPAPLのようなプラスミドを産生する細胞株もまた入手可能である。更に、マウス両種向性細胞株(PA12のような)、または異種栄養性細胞株のような、高力価の感染性粒子を産生する如何なる細胞をも、I-Sce I部位を有する組み換えレトロウイルス(すなわち、pG-MPL, pG-MtkPL, pG-MtkΔPA PL)の、種々のパッケ−ジング細胞株(両種向性、同種指向性(ectropic)、または異種栄養性)での産生に使用することが可能である。
【0183】
I-Sce Iを有する種々のプラスミドを、レトロウイルスの構築に使用することが可能であるが、これにはpG-MPL, pG-MtkPL,およびpG-MtkΔPA PLが含まれる。種々のプロモ−タ、遺伝子、ポリA部位、及びI-Sce I部位を有する、その他のプラスミドベクタを構築することが可能である。I-Sce Iのフランキング領域に相同性である配列を有する、種々のプラスミドを構築することが可能である。ドナ−プラスミド中のI-Sce I部位のフランキング領域のサイズと配列は、左に300bp、右に2.5kbとなるように調製される。I-Sce I認識部位の左右に、最高で約11kbの、種々のサイズのフランキング領域を有する、他の構築物を使用することが可能である。
【0184】
ネオマイシン、フレオマイシン、及びPhleo-LacZを有する挿入部を構築した。薬剤抵抗性または、LacZ、HSV1、若しくはチミジンキナ−ゼ遺伝子(ガンシクロビルに対しての感受性)、インシュリン、CFTR、IL2及び種々のタンパク質が含まれるリポ−タ−遺伝子のような他の配列を挿入することができる。通常は、最高で12kbまでの如何なる配列をも挿入することが可能であるが、ここでサイズはカプシド形成するウイルスの容量に依存する。該遺伝子は、レトロウイルスの誘導性、または構成性のプロモ−タ下、または相同性組み換え後の遺伝子トラップにより、発現させることが可能である。
【0185】
I-Sce Iを含み、エンドヌクレア−ゼを産生する種々のプラスミドを構築することが可能である。pCMV-SceI(+)のような発現ベクタ、またはORFを含む同様の構築物は、一過性形質転換、電気穿孔、またはリポフェクションにより、細胞内で導入することが可能である。タンパク質はまた、インジェクション、またはリポソ−ムにより細胞へ直接的に導入することも可能である。
【0186】
I-Sce I部位が組み込まれた種々の細胞株を産生することが可能である。好ましくは、レトロウイルスの挿入(プロウイルスの組み込み)が、I-Sce I部位を含むLTRの複製を誘導する。細胞はこの部位に関して半接合体である。適切な細胞株には以下のものが含まれる:
1.G-MPLのプロウイルス組み込みを、1から14個有している、マウス線維芽細胞株、NIH3T3。複数のクロ−ン(30よりも多い)を回収した。個となるゲノム組み込み(未解析)の存在と多重度を分子的分析により確認した。
2.ゲノムに1コピ−のG-MPLが組み込まれたマウス線維芽細胞株、NIH3T3。4クロ−ンが含まれる。
3.1から4コピ−の、ゲノムへのG-MPLプロウイルス組み込みを有する、マウス胚性癌腫細胞株、PCC7-S。14クロ−ンが含まれる。
4.1コピ−のG-MtkPLがゲノムに組み込まれている、マウス胚性癌腫細胞株、PCC4。
5.1から4コピ−のG-MPLをゲノムの種々の位置に有する(未解析)マウス胚性癌腫細胞株、D3。4クロ−ンが含まれる。
【0187】
I-Sce I部位を有する、他の細胞株とトランスジェニック動物の構築は、I-Sce I部位を古典的な遺伝子置換により所望の遺伝子座の適切な場所に挿入することにより行える。如何なる動物または植物も先験的に使用して、I-Sce I部位を順応させる細胞株中の、ゲノムの種々の位置に挿入することができる。本発明は以下のようにして使用することができる:
【0188】
1.部位特異的遺伝子挿入
I-Sce I部位を前もって組み込んでおくことにより、予め決めた位置に、種々の遺伝子若しくはある遺伝子の変異体が挿入されている、限定されない数の細胞株を産生することが、この方法により可能になる。よってこのような細胞株は、表現型、リガンド、薬剤のスクリ−ニングに対して有益であり、また、該細胞株がレトロウイルス産生に関してのトランス相補細胞株であるならば、組み換えレトロウイルスベクタの発現を、非常に高レベルで行うのに有益である。
【0189】
上記のマウス細胞、またはヒトを含む、その他の脊椎動物由来の同等のものを使用することが可能である。如何なる植物細胞も、その再生能力の有無に関わらず、また繁殖性植物になるかどうかには関わらず培養して維持することが可能である。本方法はまた、トランスジェニック細胞にも使用可能である。
【0190】
2.部位特異的遺伝子発現
同様の細胞株と、導入遺伝子、種々の、プロモ−タ、制御因子、及び/または構造遺伝子とを使用して、タンパク質、代謝物、またはその他の、生物学的もしくは生物工学的に興味ある化合物を産生することが可能である。遺伝子は常に、染色体内の同じ位置に挿入される。トランスジェニック動物においては、複数の薬剤、リガンド、または医用タンパク質の効果を組織特異的方法により試験することを可能にする。
【0191】
3.ゲノム遺伝子中のCFTR遺伝子を挟む、相同性配列を利用した、I-Sce I認識部位の、DFTR遺伝子座への挿入。I-Sce I部位は、二重交差(double-crossing over)(Le Mouellin et al., PNAS, 1990, Vol. 87, 4712-4716)による自発的遺伝子置換により挿入することが可能である。
【0192】
4.バイオメディカルの適用
A.遺伝子治療では、患者由来の細胞をI-Sce I含有レトロウイルスで感染させ、欠失レトロウイルスの組み込みでスクリ−ニングし、次いでI-Sce I産生ベクタとドナ−配列とによる共形質転換が可能である。
【0193】
適切な細胞の例には、造血組織、幹細胞、皮膚細胞、血管の内皮細胞、または如何なる幹細胞が含まれる。
【0194】
I-Sce I含有レトロウイルスには、pG-MPL, pGMtkPL, または少なくとも一つのI-Sce I部位を含んでいる、如何なるレトロウイルスベクタが含まれる。
【0195】
I-Sce I産生ベクタには、pCMVI-Sce I(+)、またはI-Sce Iエンドヌクレア−ゼの一過性発現を可能にする如何なるプラスミドが含まれる。
【0196】
ドナ−配列には、(a)完全なIL2遺伝子を含んだゲノム配列;(b)プレ−プロインスリン遺伝子を含んだゲノム配列;(c)ヒトを含む、大部分の脊椎動物のゲノム配列で、遺伝子発現用のシス作用性配列を含むもの。修飾した細胞を次いで、遺伝子治療に関して確立されたプロトコ−ルにそって、患者に再導入する。
【0197】
B.I-Sce I部位を有するプロモ−タ(すなわちCMV)を、幹細胞(すなわちリンパ球)へ挿入する。リンカ−(マルチクロ−ニング部位)を含むギャップ修復分子を、CMVプロモ−タと下流の配列との間に挿入することができる。ドナ−プラスミド中に存在する遺伝子(すなわちIL-2遺伝子)の挿入は、I-Sce Iメガヌクレア−ゼの発現(すなわちI-Sce Iネガヌクレア−ゼ発現ベクタとの共形質転換)により効率的に行える。CMVプロモ−タ制御下にあるIL-2遺伝子の直接的挿入により、IL-2を過剰に発現している幹細胞が直接的に選択される。
【0198】
現在可能な系では、トランスジェニック細胞株の構築のため、レトロウイルス感染を使用している。I-Sce Iをゲノム内に導入する他の方法も使用可能であり、これらにはDNAのマイクロインジェクション、リン酸カルシウム誘導形質転換、電気穿孔、リポフェクション、プロトプラスト若しくは細胞の融合、及び細菌細胞接合が含まれる。
【0199】
異型接合型の喪失は、次のようにして証明される:
I-Sce I部位を遺伝子座に導入し(外来配列とともに、または外来配列なしで)、細胞内で異型接合型を作りだす。修復DNAがないと、誘導される二本鎖切断部は、非特異的エクソヌクレア−ゼにより伸長されて、娘染色分体の無傷の配列によりギャップ修復され、よって、該細胞はこの遺伝子座に関して同型接合型になる。
【0200】
遺伝子治療の特異的例には、免疫調節(すなわちIL遺伝子に関して、変化する範囲と発現);欠失遺伝子の置換;及びタンパク質の分泌(すなわち種々の分泌タンパク質の、細胞小器官内での発現)が含まれる。
【0201】
I-Sce I誘導性の組み換えにより、in vivoで特異的遺伝子を活性化することが可能である。I-Sce I開裂部位は、遺伝子のタンデムな繰り返しでの二重化部分の間に導入されていて、機能を喪失させている。エンドヌクレア−ゼI-Sce Iの発現は、二つのコピ−の間の開裂を誘導する。組み換えによる補償が刺激され、機能性遺伝子が生じる。
【0202】
細胞株、または生物体の染色体の、部位特異的な遺伝的マクロ再構成
染色体の特異的転座、または欠失が、I-Sce I開裂により誘導される。遺伝子座挿入は、「古典的な遺伝子置換」により、染色体中の特異的な位置に一つ組み込むことにより得られる。認識配列の、I-Sce Iエンドヌクレア−ゼによる開裂は、非致命的転座、または欠失とその後の末端連結により修復可能である。染色体断片の欠失はまた、二つ以上のI-Sce-I部位を遺伝子座のフランキング領域内に挿入することにより得られる(図32を参照)。開裂は、組み換えにより修復することが可能であり、上記の二つの部位の間の完全な領域が欠失する(図32を参照)。
【参照文献2】
【0203】
【図面の簡単な説明】
【0204】
【図1】ミトコンドリアのI-Sce I遺伝子に対応するユニバ−サルコ−ド(universal code)である。
【図2】酵素I-Sce Iをコ−ドするヌクレオチドと、天然のI-Sce I酵素のアミノ酸配列である。1及び2:これらのアミノ酸は触媒活性を得るためには必ず必要である。その他の置換(例えば初めの10アミノ酸の欠失)が可能である。
【図3】I-Sce I認識配列を示し、該認識部位の可能な変異と、その変異の認識厳密度への影響とを示している。
【図4A】プラスミドpSCM525の領域のヌクレオチド配列と、推定のアミノ酸配列である。本発明のI-Sce I酵素のヌクレオチド配列は、ボックスで囲ってある。該遺伝子の正規のものと比較してN末端にアミノ酸が二つ伸長していることに注意されたし。
【図4B】プラスミドpSCM525の領域のヌクレオチド配列と、推定のアミノ酸配列である。本発明のI-Sce I酵素のヌクレオチド配列は、ボックスで囲ってある。該遺伝子の正規のものと比較してN末端にアミノ酸が二つ伸長していることに注意されたし。
【図5】I-Sce I酵素のアミノ酸配列の多様性を示している。酵素活性に影響せずに、変異させることが可能な部位(証明済み):1及び2位は非天然型である。この二つのアミノ酸はクロ−ニング戦略のために加えられたものである。1から10位まで:欠失させることが可能である;36位:Gは許容される;40位:MまたはVは許容される;41位:SまたはNは許容される;43位:Aは許容される;46位:VまたはNは許容される;91位:Aは許容される;123及び156位:L は許容される;23位:A及びSは許容される; 酵素活性に影響する変異(証明済み)19位:LからS;38位:IからSまたはN;39位:GからDまたはR;40位:LからQ;42位:LからR;44位:DからE, G,またはH;45位:AからEまたはD;46位:YからD;47位:IからRまたはN;80位:LからS;144位:DからE;145位:DからE;146位:GからE;147位:GからS。
【図6】エンドヌクレア−ゼと、関連するエンドヌクレア−ゼとをコ−ドしている、グル−プIイントロンを示す。
【図7】I-Sce Iの合成遺伝子を有する酵母発現ベクタである。
【図8】哺乳類発現ベクタPRSV I-SceIである。
【図9】プラスミドpAF100の制限酵素地図である(YEAST, 6:521-534, 1990も参照されたし;これはこの文献に基づいていて、これを本願に組み込む)。
【図10A】図10A及び10Bは、プラスミドpAF100の領域のヌクレオチド配列と制限部位とを示す。
【図10B】図10A及び10Bは、プラスミドpAF100の領域のヌクレオチド配列と制限部位とを示す。
【図10C】図10A及び10Bは、プラスミドpAF100の領域のヌクレオチド配列と制限部位とを示す。
【図11】大腸菌(E.coli)とその他の細菌に対するI-Sce I部位を含んだ、挿入ベクタpTSMω、pTKMω、及びpTTcωである。構築:トランスポザーゼ遺伝子を有し、ユニ−クなNotI部位のリンカ(I-Sce I)が挿入された、pGP704は、デロレンツォ(De Lorenzo)より入手した。
【図12】酵母に対するI-Sce I部位を有した、挿入ベクタpTYW6である。構築:BamHIにリンカ(I-Sce I−NptI)を有している挿入ベクタpTYW6は、J.D.ボエク(Boeke)より入手した。
【図13A】哺乳類に対するI-Sce Iを有する挿入ベクタPMLV LTR SAPLZである。
【図13B】哺乳類に対するI-Sce Iを有する挿入ベクタPMLV LTR SAPLZである。
【図14】I-Sce Iで開裂した、7つのトランスジェニック酵母株のセットである。FY1679(対照)由来の染色体、及び染色体XIの種々の部位に挿入されたI-Sce I部位を有する7つのトランスジェニック株由来の染色体をI-Sce Iで処理した。DNAを、0.25 X TBE緩衝液中で一つのアガロ−スゲル(SeaKem)で電気泳動した(130V、12℃、Rotaphor装置(Biometra)で70時間、100から40秒の減少パルス時間)。(A)DNAを臭化エチジウム(0.2μg/ml)で染色して、ハイブリダイゼーション用にHybond N膜(Amersham社)にトランスファ−した。(B)セット中の最も短い断片にハイブリダイズする、32Pで標識したコスミドpUKG040をプロ−ブとして使用した。染色体XIの位置及び最小の染色体を示してある。
【図15】遺伝子マッピング用の合理的な入れ子状(nested)染色体断片化戦略である。(A)I-Sce Iの位置を、左/右の方向性に関わらずにマップ上に配置してある(より短い断片を人為的に左に配置してある)。PFGEで測定した断片のサイズ(図14A)をkbで示してある(それぞれの測定の精度の限界のため、二つの断片の大きさの合計には、幾分の多様性がある)。(B)セット中の最小断片とハイブリダイズするプロ−ブを使用したハイブリダイゼーションにより、それぞれの断片の方向性が決定される(図14B)。プロ−ブとハイブリダイズする断片(実線)を、人為的に左に配置した。(C)トランスジェニック酵母株を、ハイブリダイズする染色体断片の長さの短いほうから順に配置した。(D)最小及び最大の間隔を有する、推定のI-Sce Iマップをkbで示してある(幾つかの間隔の多様性はPFGE測定の限界のためである)。(E)染色体のサブ断片をプロ−ブとして使用して、それぞれのコスミドクロ−ンをマップ上の間隔またはI-Sce I部位へ割り当てた。
【図16】染色体XIの左右末端プロ−ブを使用したハイブリダイゼーションによる、トランスジェニック酵母株のI-Sce I部位のマッピングである。FY1679由来の染色体(対照)、及び7つのトランスジェニック酵母株由来の染色体をI-Sce Iで処理した。トランスジェニック酵母株を図15で説明したようにして順に並べた。電気泳動の条件は、図14と同様であった。32Pで標識したコスミドpUKG040とpUKG066を、それぞれ左、及び右の末端プロ−ブとして使用した。
【図17A】入れ子状(nested)染色体断片をプロ−ブとして使用した、コスミドのコレクションである。コスミドDNAをEcoRIで消化して、0.9%のアガロ−スゲル電気泳動にかけて(SeaKem, 1.5V/cm, 14時間)、臭化エチジウムで染色しHybond N膜へトランスファ−した。コスミドを前のハイブリダイゼーションの順で配置して、戦略を可視化すのに役立てた。ハイブリダイゼーションは、PFGEで精製した(図16を参照)左末端の入れ子状(nested)染色体断片をプロ−ブとして使用して、3つの同じ膜上で連続して行った。A:臭化エチジウム染色(ラダ−はBRLの1kbラダ−である)。B:膜#1, プロ−ブ:左側のtelからA302まで、C:膜#1, プロ−ブ:左側のtelからM57部位まで、D:膜#2, プロ−ブ:左側のtelからH81部位まで、E:膜#2, プロ−ブ:左側のtelからT62部位まで、F:膜#3, プロ−ブ:左のtelからG41部位まで、G:膜#3, プロ−ブ:左側のtelからD304部位まで、H:膜#3, プロ−ブ:染色体XI全体。
【図17B】入れ子状(nested)染色体断片をプロ−ブとして使用した、コスミドのコレクションである。コスミドDNAをEcoRIで消化して、0.9%のアガロ−スゲル電気泳動にかけて(SeaKem, 1.5V/cm, 14時間)、臭化エチジウムで染色しHybond N膜へトランスファ−した。コスミドを前のハイブリダイゼーションの順で配置して、戦略を可視化すのに役立てた。ハイブリダイゼーションは、PFGEで精製した(図16を参照)左末端の入れ子状(nested)染色体断片をプロ−ブとして使用して、3つの同じ膜上で連続して行った。A:臭化エチジウム染色(ラダ−はBRLの1kbラダ−である)。B:膜#1, プロ−ブ:左側のtelからA302まで、C:膜#1, プロ−ブ:左側のtelからM57部位まで、D:膜#2, プロ−ブ:左側のtelからH81部位まで、E:膜#2, プロ−ブ:左側のtelからT62部位まで、F:膜#3, プロ−ブ:左のtelからG41部位まで、G:膜#3, プロ−ブ:左側のtelからD304部位まで、H:膜#3, プロ−ブ:染色体XI全体。
【図18】入れ子状(nested)染色体断片戦略で決定した、酵母染色体XIのマップである。染色体を7つのI-Sce I部位(E40, A302, ・・・)で離して、8つの間隔に分けた(サイズはkbで表示、図15Dを参照)。間隔内に含まれるか、またはI-Sce I部位を横切るコスミドクロ−ンを、間隔の下、または間隔の境界の下にそれぞれ示した。プロ−ブとして使用した遺伝子とハイブリダイズするコスミドクロ−ンを、文字(a-i)で表示してある。それらは、I-Sce Iマップに関しての遺伝子の位置を示し、遺伝子地図(最上)との比較を可能にする。
【図19】酵母で成功した部位特異的相同性組み換えの図である。
【図20A】I-Sce Iによって誘導されるHRの検出のための実験の計画である。a)7.5kbのPheleoLacZレトロウイルス(G-MtkPL)と、6.0kbのPheleoLacZレトロウイルス(G-MPL)のマップである;SAはスプライシング受容部位である;G-MtkPL配列(G-MtkPLウイルス由来)は、感染陽性細胞選択のためのPheleoLacZ融合遺伝子(フレオマイシン(Phelemycin)含有培地での選択)、及び陰性選択のためのtk遺伝子(ガンシクロビル含有培地での選択)を含む;G-MPL配列(G-MPLウイルス由来)にはPheleoLacZ配列のみが含まれる。b)G-MtkPL、及びG-MPLのレトロウイルス性組み込み後のプロウイルス構造のマップ;I-Sce I PheleoLacZ LTRは、I-Sce I PheleoLacZ配列を5’LTRに置いて複製する; ウイルスベクタ(プロモ−タトラップ(trap)として機能する)が隣り合う細胞性プロモ−タ(P)により転写される(矢印)。c)I-Sce Iは、宿主DNA中に二本鎖の切れ目(DSBs)を生じさせて、中心の断片を遊離させ、ドナ−プラスミド、pVRneo(d)と対を形成することが可能な、開裂染色体末端を残す。e)HR後に期待される組み換え遺伝子座。
【図20B】I-Sce Iによって誘導されるHRの検出のための実験の計画である。a)7.5kbのPheleoLacZレトロウイルス(G-MtkPL)と、6.0kbのPheleoLacZレトロウイルス(G-MPL)のマップである;SAはスプライシング受容部位である;G-MtkPL配列(G-MtkPLウイルス由来)は、感染陽性細胞選択のためのPheleoLacZ融合遺伝子(フレオマイシン(Phelemycin)含有培地での選択)、及び陰性選択のためのtk遺伝子(ガンシクロビル含有培地での選択)を含む;G-MPL配列(G-MPLウイルス由来)にはPheleoLacZ配列のみが含まれる。b)G-MtkPL、及びG-MPLのレトロウイルス性組み込み後のプロウイルス構造のマップ;I-Sce I PheleoLacZ LTRは、I-Sce I PheleoLacZ配列を5’LTRに置いて複製する; ウイルスベクタ(プロモ−タトラップ(trap)として機能する)が隣り合う細胞性プロモ−タ(P)により転写される(矢印)。c)I-Sce Iは、宿主DNA中に二本鎖の切れ目(DSBs)を生じさせて、中心の断片を遊離させ、ドナ−プラスミド、pVRneo(d)と対を形成することが可能な、開裂染色体末端を残す。e)HR後に期待される組み換え遺伝子座。
【図21】A. pG-MPLの図。SD及びSAは、スプライシングの供与(ドナ−)部位と受容(アクセプタ−)部位である。スプライシングされていない5.8kb(ゲノミック)の転写物、及びスプライシングされた4.2kbの転写産物を示してある。太線は32Pで放射性標識したLacZプロ−ブ(P)である。B.ポリアデニル化RNAを使用して行った、pG MLPで形質転換したΨ−2産生クロ−ンのRNAノ−ザンブロット分析;ゲノミック、及びスプライシングされたmRNAは、同程度の高いレベルで産生された。
【図22A】A.レトロウイルス性の組み込みによる、哺乳類細胞ゲノム内への、複製したI-Sce I認識部位の導入;二つのLTRと関連する制限認識部位の位置を表すG-MPL及びG-tkMPLプロウイルスの図である;Bcl I断片、及びI-Sce I断片のサイズを示している;太線は32Pで放射性標識したLacZプロ−ブ(P)である。
【図22B】B. G-MtkPLで感染したNIH3T3線維芽細胞と、G-MPLで感染したPCC7-S多能性細胞由来の、細胞性DNAのサザンブロット分析;Bcl I消化物は、LTR仲介性PheloLacZ複製を証明している;I-Sce I消化物は、I-Sce Iの忠実な複製を証明している。
【図23A】サザンによる、組み換えの確認。A. :組み換え遺伝子座におけるプロウイルスの、期待される断片のサイズ(キロ塩基対、kb)、1)親プロウイルス遺伝子座;太線(P)は、ハイブリダイゼーション用の、32Pで放射性標識したプロ−ブである。2)pVRneoを使用して、二つのI-Sce Iで開裂し、次いでギャップ修復することで由来した組み換え体(二重の部位相同性組み換え、DsHR)。3)左側のLTR内のI-Sce I部位で開裂することで開始される組み換えイベント(一重の部位相同性組み換え、SsHR)。
【図23B】B. :pCMV(I-Sce I+)と、pVRneo(1a, 1b, 2a, 3a, 3b, 及び4a)を利用して行った、NIH3T3/G-MtkPLのクロ−ン1及び2から由来したDNAのサザン分析;親DNAをKpnIで消化すると4.2kbのLacZ断片を有する断片を生じる;組み換え体1aと3aは、DsHRの例である;組み換え体1b, 2a, 3b, 及び4aは、SsHRの例である。
【図24】ノ−ザン分析による、組み換えの確認。A.: PCC7-S/G-MPLのクロ−ン3細胞由来のRNAの予想される構造と、サイズ(kb)[(上):pVRneo.1に関しての、I-Sce I誘導性HR前; (下):pVRneo.1に関しての、I-Sce I誘導性HR後];太線P1及びP2は、32Pで放射性標識したプロ−ブである。B.: PCC7-S/G-MPLのクロ−ン3組み換え体の、ノ−ザン分析(全RNA);レ−ン3は親細胞であり、レ−ン3aは組み換え細胞である;最初の2レ−ンはLacZ P1でプロ−ブし、最後の2レ−ンはneo P2でプロ−ブした。PCC7-S/G-MPLのクロ−ン3親細胞は、細胞−ウイルス融合RNAの発現が引き起こされる、細胞性プロモ−タのトラッピングにより予想される、7.0kbのLacZ RNAを発現する;組み換え体クロ−ンはこのLacZRNAを発現しないが、5.0kbのneo RNAを発現し、これはneoによるPhloeLacZの正確な置換に対して予想されるサイズである。
【図25】I-Sce I DSBsで誘導される組み換えイベントのタイプ、a)組み換え基質の構造の概略図;G-MtkPLには二つのLTRがあり、それぞれには一つのI-Sce I認識部位とPhleoLacZ遺伝子がある;LTRはtk遺伝子を含むウイルスの配列で分離されている;G-MtkPLを含んでいる細胞の表現型はPhleoR, GisS, β−gal±である。b)染色体内組み換えの可能な様式。1)I-Sce Iエンドヌクレア−ゼは5’LTR内のI-Sce I部位を切断する。5’LTRのU3の5’部分は、3’LTR内にあるその相同性配列と対を形成して組み換えを起こす(SSAにより)。2)I-Sce Iエンドヌクレア−ゼは3’LTR内のI-Sce I部位を切断する;3’LTRのU3の3’部分は、5’LTR内にあるその相同性配列と対を形成して組み換えを起こす(SSAにより)。3)I-Sce Iエンドヌクレア−ゼは二つのLTR内のI-Sce I部位を切断する。二つのフリ−末端は(末端結合機構により)、再結合(relegate)が可能である;これら3つのモデルのそれぞれで得られる組み換え産物は単生のLTRである(右側を参照)。組み換え部位の脇の細胞配列には、なんら修飾が起きない。c)I-Sce Iエンドヌクレア−ゼは、二つのLTR内のI-Sce I部位を切断する。この二つのフリ−末端は(ギャップ修復機構により)、相同性染色体を利用して修復可能である。右側の得られる組み換え産物は、プロウイルス組み込み遺伝子座が欠損したものである。
【図26A】NIH3T3/G-MtkPL1及び2、並びにpCMV(I-Sce I+)で形質転換してガンシクロビル含有培地で選択したもの由来のPheleoLacZ―から由来したDNAに関する、サザンブロットでの分析。a)PstIエンドヌクレア−ゼで消化した後の親プロウイルスに関する、断片の予想サイズ(kbp);親NIH3T3/G-MtkPL1をPstIで消化すると、10kbpの二つの断片が生じ、また親NIH3T3/G-MtkPL2をPstIで消化すると、7kbpと9kbpの二つの断片が生じる。b)NIH3T3/G-MtkPL1、及びpCMV(I-Sce I+)での形質転換由来の組み換え体の、PstI消化によるDNAのサザンブロット分析(1.1から1.5)。c)NIH3T3/G-MtkPL2、及びpCMV(I-Sce I+)での形質転換由来の組み換え体の、PstI消化によるDNAのサザンブロット分析(2.1から2.6)。太線は32Pの放射性標識したLacZプロ−ブ(P)である。
【図26B】NIH3T3/G-MtkPL1及び2、並びにpCMV(I-Sce I+)で形質転換してガンシクロビル含有培地で選択したもの由来のPheleoLacZ―から由来したDNAに関する、サザンブロットでの分析。a)PstIエンドヌクレア−ゼで消化した後の親プロウイルスに関する、断片の予想サイズ(kbp);親NIH3T3/G-MtkPL1をPstIで消化すると、10kbpの二つの断片が生じ、また親NIH3T3/G-MtkPL2をPstIで消化すると、7kbpと9kbpの二つの断片が生じる。b)NIH3T3/G-MtkPL1、及びpCMV(I-Sce I+)での形質転換由来の組み換え体の、PstI消化によるDNAのサザンブロット分析(1.1から1.5)。c)NIH3T3/G-MtkPL2、及びpCMV(I-Sce I+)での形質転換由来の組み換え体の、PstI消化によるDNAのサザンブロット分析(2.1から2.6)。太線は32Pの放射性標識したLacZプロ−ブ(P)である。
【図27A】NIH3T3/G-MtkPL1及び2、並びにpCMV(I-Sce I+)とpCMV(I-Sce I−)での形質転換、フレオマイシン(Phleomycin)及びガンシクロビル含有培地での選択から由来した、PhleoLacZ+組み換え体に関する、サザンブロット分析。a)PstIまたはBcl Iエンドヌクレア−ゼでの消化後に予想される、親プロウイルスの断片のサイズ(kbp);親DNA NIH3T3/G-MtkPL1のPstI消化により、10kbpの二つの断片が生じる。親DNA NIH3T3/G-MtkPL2のBcl I消化により、9.2kbp、7.2kbp、及び6.0kbpの3つの断片が生じる。a2)PstI、またはBcl Iエンドヌクレア−ゼでの消化後の、予想される組み換え体断片のサイズ(kbp);NIH3T3/G-MtkPL1由来の組換え体のDNAに関するPstI消化により、13.6kbpの一つの断片が生じる。NIH3T3/G-MtkPL2由来の組換え体のDNAに関するBcl I消化により、9.2kbpと6.0kbpの二つの断片が生じる。b)NIH3T3/G-MtkPL1由来のDNA、及びpCMV(I-Sce I+)とpCMV(I-Sce I―)での形質転換由来組み換え体のDNAに関する、サザンブロット分析(1c, 1d)。c)NIH3T3/G-MtkPL2由来のDNA、並びにpCMV(I-Sce I-)(2a, 2b)、及びpCMV(I-Sce I+)(2cから2h)での形質転換由来組み換え体からのDNAに関する、サザンブロット分析。太線は32Pで放射性標識したLacZプロ−ブ(P)である。
【図27B】NIH3T3/G-MtkPL1及び2、並びにpCMV(I-Sce I+)とpCMV(I-Sce I−)での形質転換、フレオマイシン(Phleomycin)及びガンシクロビル含有培地での選択から由来した、PhleoLacZ+組み換え体に関する、サザンブロット分析。a)PstIまたはBcl Iエンドヌクレア−ゼでの消化後に予想される、親プロウイルスの断片のサイズ(kbp);親DNA NIH3T3/G-MtkPL1のPstI消化により、10kbpの二つの断片が生じる。親DNA NIH3T3/G-MtkPL2のBcl I消化により、9.2kbp、7.2kbp、及び6.0kbpの3つの断片が生じる。a2)PstI、またはBcl Iエンドヌクレア−ゼでの消化後の、予想される組み換え体断片のサイズ(kbp);NIH3T3/G-MtkPL1由来の組換え体のDNAに関するPstI消化により、13.6kbpの一つの断片が生じる。NIH3T3/G-MtkPL2由来の組換え体のDNAに関するBcl I消化により、9.2kbpと6.0kbpの二つの断片が生じる。b)NIH3T3/G-MtkPL1由来のDNA、及びpCMV(I-Sce I+)とpCMV(I-Sce I―)での形質転換由来組み換え体のDNAに関する、サザンブロット分析(1c, 1d)。c)NIH3T3/G-MtkPL2由来のDNA、並びにpCMV(I-Sce I-)(2a, 2b)、及びpCMV(I-Sce I+)(2cから2h)での形質転換由来組み換え体からのDNAに関する、サザンブロット分析。太線は32Pで放射性標識したLacZプロ−ブ(P)である。
【図28】I-Sce I部位の挿入または存在、酵素I-Sce Iの発現、該部位での切断、及び対応する染色分体での、該部位の二本鎖の切れ目の修復による異型接合性の喪失を示す図である。
【図29】遺伝子の条件付き活性化を示す図である。I-Sce I部位が、タンデムな繰り返しの間に組み込まれいて、酵素I-Sce Iが発現する。該酵素がI-Sce I部位で二本鎖DNAを開裂する。二本鎖の切れ目が、一本鎖アニ−リングにより修復されて、活性遺伝子を生じる。
【図30】I-Sce I部位の組み込み、または遺伝子内に存在するI-Sce I部位の使用による、遺伝子のワンステップ再編成を示す図である。活性遺伝子内に一つのI-Sce I部位、またはプロモ−タを有さない活性遺伝子のどちらかの末端にある二つのI-Sce I部位、の何れかを有するプラスミドを細胞内へ導入する。該細胞は、対応する遺伝子の不活性型を有する。酵素I-Sce Iは該プラスミドをI-Sce I部位で切断し、染色体と該プラスミドとの間での組み換えにより前記の不活性遺伝子を置換する、活性遺伝子を生じる。
【図31】遺伝子座の複製を示す図である。一つのI-Sce I部位、及びその遺伝子から離れた部分を、古典的な遺伝子置換により遺伝子に挿入する。このI-Sce I部位を酵素I-Sce Iで切断し、切れ目を相同性配列で修復する。これにより、遺伝子座全体が複製する。
【図32】遺伝子座の複製を示す図である。二つのI-Sce I部位を、欠失させる遺伝子座を挟むようにして加える。I-Sce I酵素が発現し、該部位が切断される。残りの二つの末端が組み換えを起こし、二つのI-Sce I部位間の遺伝子座が欠失する。
【図33】プラスミドpG-MtkΔPAPLの図で、制限部位を示している。このプラスミドはpGMtkPLプラスミドのtk遺伝子からポリアデニレ−ション領域を欠失させて構築したものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞中のDNAに部位特異的に、二本鎖の切れ目を少なくとも一つ誘導する、以下の工程を具備した方法:
(a)少なくとも一つのI-Sce I制限部位を具備した二本鎖DNAを有する細胞を用意すること;
(b)メガヌクレア−ゼ(meganuclease)I-Sce Iをコ−ドするDNAを具備した、少なくとも一つのプラスミドで前記の細胞を形質転換すること;および、
(c)少なくとも一つの、二本鎖の切れ目が誘導された細胞を選択すること。
【請求項2】
前記の細胞が、哺乳類細胞、酵母細胞、及び植物細胞からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記の細胞が、G-MtkPLウイルスを有するNIH3T3細胞であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記のプラスミドがpCMV(I-Sce I+)であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
細胞の染色体DNAと、該細胞へ加えた外来DNAとの間での相同性組み換えを誘導する、以下の工程を具備した方法:
(a)少なくとも一つのI-Sce I制限部位を具備した染色体DNAを有する細胞を用意すること;
(b)外来性DNAを具備したプラスミドと、メガヌクレア−ゼ(meganuclease)I-Sce Iをコ−ドするDNAを具備したプラスミドとで、前記の細胞を形質転換すること;および、
(c)前記の外来DNAが、前記の染色体DNAに挿入された細胞を選択すること。
【請求項6】
前記の細胞が、哺乳類細胞、酵母細胞、及び植物細胞からなる群より選択されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記の細胞が、G-MtkPLウイルスを有するNIH3T3細胞であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記のプラスミドがpCMV(I-Sce I+)であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
細胞の染色体DNAと、該細胞へ加えた外来DNAとの間での相同性組み換えを誘導する、以下の工程を具備した方法:
(a)染色体DNAを具備した細胞を用意すること;
(b)少なくとも一つのI-Sce I制限部位を前記の染色体DNA内へ挿入すること;
(c)外来DNAを具備した第一プラスミドと、I-Sce Iメガヌクレ−ゼをコ−ドするDNAを具備した第二プラスミドとで、前記の細胞を形質転換すること;および、
(d)前記の外来DNAが前記の染色体DNAに挿入されている細胞を選択すること。
【請求項10】
前記の細胞が、哺乳類細胞、酵母細胞、及び植物細胞よりなる群より選択されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記の第一プラスミドがpCMV(I-Sce I+)であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記の第二のプラスミドがpVRneoであることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも一つの、部位特異的な切れ目をDNAへ誘導し、ポリペプチドをコ−ドするDNAを挿入する、以下の工程を具備した方法:
(a)I-Sce I制限部位を具備したDNAと、前記のポリペプチドとを具備したDNAとで形質転換することが可能であり、二本鎖DNAを有する細胞を用意すること;
(b)Sce-I酵素を加えるか、またはSce-I酵素をコ−ドするDNAで前記の細胞を形質転換すること;
(c)前記のポリペプチドをコ−ドする前記のDNA、または前記のDNAを有するベクタで、前記の細胞を形質転換すること;および
(d)前記のDNA、または前記のベクタで形質転換されていて、前記のポリペプチドを発現する細胞を選択すること。
【請求項14】
請求項1または13の何れかに記載の方法で形質転換した、組み換え真核細胞。
【請求項15】
請求項1または13の何れかに記載の方法で形質転換した細胞を具備する、トランスジェニック動物。
【請求項16】
I-Sce I制限部位を具備したDNAと、前記のポリペプチドをコードするDNAとで、胚幹細胞を形質転換する工程、及び、該胚幹細胞より得られたトランスジェニック動物内で、前記ポリペプチドの発現を検出する工程、を具備したトランスジェニック動物内でポリペプチドを発現させる方法。
【請求項17】
ポリペプチドを発現する組み換え幹細胞であって、該細胞はI-Sce I制限部位を具備したDNAと、前記のポリペプチドをコードするDNAとで、以下の工程により形質転換される組み換え幹細胞:
(a)前記の細胞へSceI酵素を加えるか、または前記の細胞を、SceI酵素をコ−ドする遺伝子を有するベクタで形質転換すること;
(b)前記の細胞を前記のポリペプチドをコ−ドする前記DNAで形質転換すること;および
(c)前記のDNAで形質転換され、前記のポリペプチドを発現している細胞を選択すること。
【請求項18】
前記のポリペプチドが細胞に対して外来抗原であることを特徴とする、請求項4または7の何れかに記載の、組み換え真核細胞。
【請求項19】
前記の細胞が、哺乳類細胞株であることを特徴とする、請求項14に記載の組み換え真核細胞。
【請求項20】
前記の細胞が酵母であることを特徴する、請求項14に記載の組み換え真核細胞。
【請求項21】
少なくとも一つのタンパク質産物を発現する細胞のDNA中に少なくとも一つの、部位特異的な切れ目を誘導し、ポリペプチドをコ−ドするDNAを挿入する、以下の工程を具備した方法:
(a)I-Sce I制限部位を具備したDNA、及び前記のポリペプチドをコ−ドするDNAにより形質転換することが可能である、二本鎖DNAを有した細胞を用意すること;
(b)前記の細胞へSceI酵素を加えるか、またはSceI酵素をコ−ドしたDNAで該細胞を形質転換すること;
(c)前記のポリペプチドをコ−ドした前記DNA、または該DNAを有するベクタで前記の細胞を形質転換すること;および
(d)前記のDNA、または前記のベクタで形質転換され、前記のポリペプチドを発現するが前記のタンパク産物は発現しないことを特徴とする細胞を選択すること。
【請求項22】
請求項21に記載の方法により形質転換した組み換え細胞。
【請求項1】
細胞中のDNAに部位特異的に、二本鎖の切れ目を少なくとも一つ誘導する、以下の工程を具備した方法:
(a)少なくとも一つのI-Sce I制限部位を具備した二本鎖DNAを有する細胞を用意すること;
(b)メガヌクレア−ゼ(meganuclease)I-Sce Iをコ−ドするDNAを具備した、少なくとも一つのプラスミドで前記の細胞を形質転換すること;および、
(c)少なくとも一つの、二本鎖の切れ目が誘導された細胞を選択すること。
【請求項2】
前記の細胞が、哺乳類細胞、酵母細胞、及び植物細胞からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記の細胞が、G-MtkPLウイルスを有するNIH3T3細胞であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記のプラスミドがpCMV(I-Sce I+)であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
細胞の染色体DNAと、該細胞へ加えた外来DNAとの間での相同性組み換えを誘導する、以下の工程を具備した方法:
(a)少なくとも一つのI-Sce I制限部位を具備した染色体DNAを有する細胞を用意すること;
(b)外来性DNAを具備したプラスミドと、メガヌクレア−ゼ(meganuclease)I-Sce Iをコ−ドするDNAを具備したプラスミドとで、前記の細胞を形質転換すること;および、
(c)前記の外来DNAが、前記の染色体DNAに挿入された細胞を選択すること。
【請求項6】
前記の細胞が、哺乳類細胞、酵母細胞、及び植物細胞からなる群より選択されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記の細胞が、G-MtkPLウイルスを有するNIH3T3細胞であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記のプラスミドがpCMV(I-Sce I+)であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
細胞の染色体DNAと、該細胞へ加えた外来DNAとの間での相同性組み換えを誘導する、以下の工程を具備した方法:
(a)染色体DNAを具備した細胞を用意すること;
(b)少なくとも一つのI-Sce I制限部位を前記の染色体DNA内へ挿入すること;
(c)外来DNAを具備した第一プラスミドと、I-Sce Iメガヌクレ−ゼをコ−ドするDNAを具備した第二プラスミドとで、前記の細胞を形質転換すること;および、
(d)前記の外来DNAが前記の染色体DNAに挿入されている細胞を選択すること。
【請求項10】
前記の細胞が、哺乳類細胞、酵母細胞、及び植物細胞よりなる群より選択されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記の第一プラスミドがpCMV(I-Sce I+)であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記の第二のプラスミドがpVRneoであることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも一つの、部位特異的な切れ目をDNAへ誘導し、ポリペプチドをコ−ドするDNAを挿入する、以下の工程を具備した方法:
(a)I-Sce I制限部位を具備したDNAと、前記のポリペプチドとを具備したDNAとで形質転換することが可能であり、二本鎖DNAを有する細胞を用意すること;
(b)Sce-I酵素を加えるか、またはSce-I酵素をコ−ドするDNAで前記の細胞を形質転換すること;
(c)前記のポリペプチドをコ−ドする前記のDNA、または前記のDNAを有するベクタで、前記の細胞を形質転換すること;および
(d)前記のDNA、または前記のベクタで形質転換されていて、前記のポリペプチドを発現する細胞を選択すること。
【請求項14】
請求項1または13の何れかに記載の方法で形質転換した、組み換え真核細胞。
【請求項15】
請求項1または13の何れかに記載の方法で形質転換した細胞を具備する、トランスジェニック動物。
【請求項16】
I-Sce I制限部位を具備したDNAと、前記のポリペプチドをコードするDNAとで、胚幹細胞を形質転換する工程、及び、該胚幹細胞より得られたトランスジェニック動物内で、前記ポリペプチドの発現を検出する工程、を具備したトランスジェニック動物内でポリペプチドを発現させる方法。
【請求項17】
ポリペプチドを発現する組み換え幹細胞であって、該細胞はI-Sce I制限部位を具備したDNAと、前記のポリペプチドをコードするDNAとで、以下の工程により形質転換される組み換え幹細胞:
(a)前記の細胞へSceI酵素を加えるか、または前記の細胞を、SceI酵素をコ−ドする遺伝子を有するベクタで形質転換すること;
(b)前記の細胞を前記のポリペプチドをコ−ドする前記DNAで形質転換すること;および
(c)前記のDNAで形質転換され、前記のポリペプチドを発現している細胞を選択すること。
【請求項18】
前記のポリペプチドが細胞に対して外来抗原であることを特徴とする、請求項4または7の何れかに記載の、組み換え真核細胞。
【請求項19】
前記の細胞が、哺乳類細胞株であることを特徴とする、請求項14に記載の組み換え真核細胞。
【請求項20】
前記の細胞が酵母であることを特徴する、請求項14に記載の組み換え真核細胞。
【請求項21】
少なくとも一つのタンパク質産物を発現する細胞のDNA中に少なくとも一つの、部位特異的な切れ目を誘導し、ポリペプチドをコ−ドするDNAを挿入する、以下の工程を具備した方法:
(a)I-Sce I制限部位を具備したDNA、及び前記のポリペプチドをコ−ドするDNAにより形質転換することが可能である、二本鎖DNAを有した細胞を用意すること;
(b)前記の細胞へSceI酵素を加えるか、またはSceI酵素をコ−ドしたDNAで該細胞を形質転換すること;
(c)前記のポリペプチドをコ−ドした前記DNA、または該DNAを有するベクタで前記の細胞を形質転換すること;および
(d)前記のDNA、または前記のベクタで形質転換され、前記のポリペプチドを発現するが前記のタンパク産物は発現しないことを特徴とする細胞を選択すること。
【請求項22】
請求項21に記載の方法により形質転換した組み換え細胞。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図18】
【図19】
【図20A】
【図20B】
【図21】
【図22A】
【図22B】
【図23A】
【図23B】
【図24】
【図25】
【図26A】
【図26B】
【図27A】
【図27B】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図18】
【図19】
【図20A】
【図20B】
【図21】
【図22A】
【図22B】
【図23A】
【図23B】
【図24】
【図25】
【図26A】
【図26B】
【図27A】
【図27B】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【公開番号】特開2007−14347(P2007−14347A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−246100(P2006−246100)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【分割の表示】特願平8−515058の分割
【原出願日】平成7年11月6日(1995.11.6)
【出願人】(596009674)アンスティテュ・パストゥール (23)
【出願人】(505302306)ユニベルシテ・ピエール・エ・マリー・キュリー(パリ・ザ・シックスス) (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−246100(P2006−246100)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【分割の表示】特願平8−515058の分割
【原出願日】平成7年11月6日(1995.11.6)
【出願人】(596009674)アンスティテュ・パストゥール (23)
【出願人】(505302306)ユニベルシテ・ピエール・エ・マリー・キュリー(パリ・ザ・シックスス) (2)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]