説明

III−V族化合物半導体多結晶の製造装置及び製造方法

【課題】坩堝内の圧力とその外部の圧力とが自動的に調整されるため、制御装置を必要としないIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るIII−V族化合物半導体多結晶製造の装置は、蓋部と本体部とからなる坩堝を備え、本体部の底部にIII族原料を収容し、V族原料を前記III族原料の上方に配置するV族原料収容部に収容してIII−V族化合物半導体多結晶を製造するIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置において、V族原料収容部の周囲に配置して、V族原料を加熱する第1の加熱手段と、該第1の加熱手段の下方に配置して、III族原料を加熱する第2の加熱手段と、坩堝、第1の加熱手段及び第2の加熱手段が収容された加圧容器とを備え、本体部は封止剤が収容される封止剤収容部を具備し、蓋部は前記封止剤収容部に載置され、本体部と連結されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III−V族化合物半導体多結晶の製造装置及び製造方法特に、封管(又は坩堝)内の圧力とその外部の圧力とが自動的に調整されるため、制御装置を必要としないIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaAs等のIII−V族化合物半導体は従来、レーザーダイオード、発光ダイオードのようなオプトデバイスやHEMTのような高速デバイス等の材料に利用されている。
【0003】
III−V族化合物半導体の単結晶は、液体封止引上げ法(LEC法)、垂直温度勾配法(VGF法)、液体封止垂直ブリッジマン法(LE−VB法)等により育成される。垂直温度勾配法(VGF法)、液体封止垂直ブリッジマン法(LE−VB法)は高品質の単結晶が得られる方法であるが、ガリウム(Ga)等のIII族原料と砒素(As)等のV族原料とを直接反応させて単結晶を成長させることが困難なため、III−V族化合物半導体多結晶をまず合成し、次いでこのIII−V族化合物半導体多結晶を用いてIII−V族化合物半導体単結晶を成長させる方法が採られている。
【0004】
特許文献1には、ヒ化ガリウム(GaAs)単結晶の一般的な製造方法である液体封止引き上げ(LEC)法の例が開示されている。単結晶製造方法であるが、原料として金属ガリウムと砒素を用いた直接合成法なので多結晶を成長させる一般的な方法でもある。引き上げの際、液体封止剤は原料融液の表面を覆い、原料融液からの揮発性元素の解離を防止する必要がある。この液体封止剤としては三酸化硼素(B23 )を用いる場合が多い。
【0005】
特許文献2には、引き上げ法による化合物半導体単結晶の製造が目的ではあるが、高解離圧成分原料(例えば、砒素等のV族原料)を密閉容器の下部に配置し、他の成分原料(例えば、ガリウム等のIII族原料)を上部に配置する構成が開示されている。この密閉容器は上部と下部からなり、上部と下部の接合部に液体封止剤が充填されて容器の封止がなされており、液体封止剤として三酸化硼素(B23 )が開示されている。
【0006】
特許文献3には、垂直温度勾配法(VGF法)の例が開示されている。この方法では、原料融液を収容するるつぼを設置し、るつぼ底部に種結晶を配置して、るつぼの周囲にヒータを配置してるつぼ内の原料融液に垂直方向に温度勾配をつけて、下方より徐冷固化して単結晶を成長させる。
特許文献3に開示された化合物半導体単結晶製造装置では、るつぼを支持するサセプタの周囲に液体封止剤を収容する受け皿を設け、るつぼを覆うキャップの下端を液体封止剤に浸漬させて密閉した成長室を形成する方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献4及び5には、III−V族化合物半導体多結晶の製造方法として、図2に示すようにIII原料及びV族原料が充填された石英等から成る封管101を水平(横)にして、横型高圧炉102内に搬入して合成する方法(横型封管法)が開示されている。
この方法では、図2に示すようにGa等のIII族原料103は、円筒型等の黒鉛ルツボ104内に充填されると共に黒鉛ルツボ104全体を封管101の一端に配置され、As等のV族原料105は、石英板等あるいは石英綿等の熱遮蔽物106を介し封管101の他端側に配置される。原料等が充填された封管101は、その後真空にして封じ切られる。
次に、真空にして封じ切られた封管101は中央に高周波コイル107を有し、この高周波コイル107を中央に挟んで、その両側に抵抗ヒーター109を有する高圧容器にて構成された横型高圧炉102内に搬入される。
そして、横型高圧炉102内において封管101全体が加熱され、高周波コイル107により黒鉛ルツボ104内のIII族原料103が局所的に更に高温に加熱されると共に、V族原料105から発生した原料ガスが熱遮蔽物106を通り抜け上記III族原料103と反応し、かつ、封管101を矢印a方向へ横型高圧炉102内を移動させるか封管101を固定して横型高圧炉2を逆方向へ移動させる等して(すなわち、高温部を一方向に相対移動させる)III−V族化合物半導体多結晶が合成される。
【0008】
III−V族化合物半導体多結晶の製造方法として、垂直方向に配置する封管の上部側及び下部側に、III原料及びV族原料を離間配置して成長を行う縦型の封管法が知られている(例えば、特許文献6)。
【0009】
図3に、特許文献6に開示されたリン化ガリウム(GaP)多結晶製造装置を示す。
このリン化ガリウム多結晶製造装置は圧力容器111を有し、この圧力容器111内には石英封管112が配置されると共に、石英封管112中には上部側にガリウム114が収容された原料ルツボ113が配置され、下部側にリン115を収容される。
また、石英封管112の外周には、原料ルツボ113の配置位置に対応してガリウム融解用のヒーター116と、リン115の収容位置に対応してリン融解用のヒーター117とが配置されている。さらに、リン115の収容部に対応する石英封管112の底部外には温度モニター用の熱電対等を用いた温度測定器118が設けられており、温度測定器118によるリンの蒸気圧を算定できる。
【0010】
このリン化ガリウム多結晶製造装置を用いてリン化ガリウム多結晶を製造するには、圧力容器11内を不活性ガス雰囲気で加圧後、ガリウム融解用ヒーター116で原料ルツボ113に収容されたガリウム114をリン化ガリウムの融点以上に昇温して溶融し、次いで、温度測定器118による温度測定を基準にした圧力容器111の内圧制御下でリン用ヒーター117でリン115を溶融蒸発させ、石英封管112内を赤リン蒸気で満たすと共に、原料ルツボ113内の溶融されたガリウム114に赤リン蒸気を反応させてリン化ガリウム融液とする。次いで、ガリウム用ヒーター116による加熱温度を次第に降下し、リン化ガリウム融液を固化させてリン化ガリウム多結晶を製造し、その後、リン用ヒーター117による加熱温度をも降下し、圧力容器111内の温度が40℃程度まで降温した時点で圧力容器111内を大気圧とし、リン化ガリウム多結晶を取り出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭62−230695号公報
【特許文献2】特開平3−247582号公報
【特許文献3】特開平3−285886号公報
【特許文献4】特公昭49−15901号公報
【特許文献5】特開2007−84366号公報
【特許文献6】特開平7−257998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1の方法では、液体封止剤が原料と接触しているため、液体封止剤と用いる三酸化硼素(B)の硼素がヒ化ガリウムの中に混入してしまうという問題がある。
特許文献2の方法では、引き上げ軸を用いて単結晶を引き上げる引き上げ法の都合上、高解離圧成分原料(例えば、砒素等のV族原料)を密閉容器の下部に、他の成分原料(例えば、ガリウム等のIII族原料)を上部に配置する必要があり、成分原料の配置に制限がある。
特許文献3の方法は実施例がカドミウムテルル(CdTe)であり、原料は多結晶を用いるもので合成するわけではないので、III族原料、V族原料を分けた配置はない。
特許文献4及び5は横型封管法であり、一般に石英材を用いる封管の耐久性から、容器内の圧力が高くなると封管の変形や破損が起こるという問題があるため、十分に容器内を加圧することが難しい。そのため、合成される多結晶がストイキオメトリーからずれた結晶になり易いという問題を原理的に有している。封管および加熱部を圧力容器に封入するという解決策があるが、その場合、封管の内部と外部の圧力をバランスさせる必要がある。
特許文献6で開示された縦型封管法では、石英封管内の圧力とその外部の圧力容器内圧を精度良くバランスさせる必要があるという不都合がある。
【0013】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、封管(又は坩堝)内の圧力とその外部の圧力とが等しくなるように自動的に調整されるため、制御装置を必要としないIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
(1)蓋部と本体部とからなる坩堝を備え、前記本体部の底部にIII族原料を収容し、V族原料を前記III族原料の上方に配置するV族原料収容部に収容してIII−V族化合物半導体多結晶を製造するIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置において、前記V族原料収容部の周囲に配置して、V族原料を加熱する第1の加熱手段と、該第1の加熱手段の下方に配置して、III族原料を加熱する第2の加熱手段と、前記坩堝、前記第1の加熱手段及び前記第2の加熱手段が収容された加圧容器とを備え、前記本体部は封止剤が収容される封止剤収容部を具備し、前記蓋部は前記封止剤収容部に載置され、前記本体部と連結されていることを特徴とするIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置。
(2)前記蓋部が石英または熱分解窒化ホウ素からなることを特徴とする前項(1)に記載のIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置。
(3)前記本体部が石英または熱分解窒化ホウ素からなることを特徴とする前項(1)又は(2)のいずれかに記載のIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置。
(4)前記V族原料収容部が石英または熱分解窒化ホウ素からなることを特徴とする前項(1)から(3)のいずれか一項に記載のIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置。
(5)前記第1の加熱手段の上方に配置して、前記封止剤収容部内の封止剤を加熱する第3の加熱手段をさらに備えた前項(1)から(4)のいずれか一項に記載のIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置。
(6)前項(1)から(5)のいずれか一項に記載のIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置を用いて、前記底部にIII族原料を投入し、前記V族原料収容部にV族原料を投入し、前記封止剤収容部に封止剤を投入してIII−V族化合物半導体多結晶を製造するIII−V族化合物半導体多結晶の製造方法であって、前記加圧容器内に不活性ガスを導入する工程と、前記第2の加熱手段を用いて前記III族原料を前記III−V族化合物半導体の融点以上の温度に加熱する工程と、前記第1の加熱手段を用いて前記V族原料を加熱して、蒸発したV族ガスと前記底部のIII族原子とを反応させてIII−V族化合物半導体を合成する工程と、前記第2の加熱手段の温度を降下して合成されたIII−V族化合物半導体を固化する工程と、を備えたことを特徴とするIII−V族化合物半導体多結晶の製造方法。
(7)前記加圧容器内の前記不活性ガスによる圧力を、蒸発したV族ガスと前記底部のIII族原子とを反応させてIII−V族化合物半導体を合成する工程と、第2の加熱手段の温度を降下して合成されたIII−V族化合物半導体を固化する工程とで、異なる値にすることを特徴とする前項(6)に記載のIII−V族化合物半導体多結晶の製造方法。
(8)蒸発したV族ガスと前記底部のIII族原子とを反応させてIII−V族化合物半導体を合成する工程においては、前記加圧容器内の前記不活性ガスによる圧力は45〜50atmであることを特徴とする前項(7)に記載のIII−V族化合物半導体多結晶の製造方法。
(9)前記第2の加熱手段の温度を降下して合成されたIII−V族化合物半導体を固化する工程においては、前記加圧容器内の前記不活性ガスによる圧力は1.5〜2.5atmであることを特徴とする前項(7)又は(8)のいずれかに記載のIII−V族化合物半導体多結晶の製造方法。
(10)前記封止剤が酸化硼素であることを特徴とする前項(6)から(9)のいずれか一項に記載のIII−V族化合物半導体多結晶の製造方法。
(11)前記酸化硼素が固体酸化硼素であり、該固体酸化硼素を前記第3の加熱手段を用いて融解する工程を含むことを特徴とする前項(10)に記載のIII−V族化合物半導体多結晶の製造方法。
(12)前記III族半導体がガリウムであり、前記V族半導体が砒素であることを特徴とする前項(6)から(11)のいずれか一項に記載のIII−V族化合物半導体多結晶の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置によれば、V族原料収容部の周囲に配置して、V族原料を加熱する第1の加熱手段と、第1の加熱手段の下方に配置して、III族原料を加熱する第2の加熱手段と、坩堝、第1の加熱手段及び第2の加熱手段が収容された加圧容器とを備え、本体部は封止剤が収容される封止剤収容部を具備し、蓋部は封止剤収容部に載置され、本体部と連結されている構成としたので、加圧容器に不活性ガスを充填し、第2の加熱手段によってIII族原料を融液とし、第1の加熱手段によってV族原料を蒸発させることによってヒ化ガリウムの融液を合成する際、加熱手段の加熱によって坩堝内の圧力は上昇するが、坩堝内の圧力が坩堝外(加圧容器内)の圧力より高くなった場合には封止剤を介して坩堝内のガスが坩堝外に排出されるので坩堝内外の圧力が自動的に等しく維持される。
また、従来、ヒ化ガリウムの製造を例にとると、ヒ化ガリウムの融点付近での乖離圧(ヒ化ガリウムの分解が起こり始める砒素分圧)が1atmであるのに対して、1〜1.4atmの砒素分圧下で製造するのに対して、本発明ではそれより高い砒素分圧、例えば、2atm程度の砒素分圧でヒ化ガリウムの融液を合成できるので従来の装置より組成ずれが生じにくく、また、インクルージョンや空孔ができにくく、従来よりも高い収率でヒ化ガリウムを製造することができる。
【0016】
本発明のIII−V族化合物半導体多結晶の製造方法によれば、加圧容器内に不活性ガスを導入する工程と、第2の加熱手段を用いてIII族原料をIII−V族化合物半導体の融点以上の温度に加熱する工程と、第1の加熱手段を用いてV族原料を加熱して、蒸発したV族ガスと底部のIII族原子とを反応させてIII−V族化合物半導体を合成する工程と、第2の加熱手段の温度を降下して合成されたIII−V族化合物半導体を固化する工程と、を備えた構成としたので、ヒ化ガリウムの製造を例にとると、従来法よりも高い砒素分圧、例えば、2atm程度の砒素分圧でヒ化ガリウムの融液を合成できるので従来の製造方法より組成ずれが生じにくく、また、インクルージョンや空孔ができにくく、従来の方法よりも高い収率でヒ化ガリウムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る化合物半導体多結晶の製造装置の断面模式図である。
【図2】従来の化合物半導体多結晶の製造装置の断面模式図である。
【図3】従来の化合物半導体多結晶の製造装置の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を適用した一実施形態であるIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置及びその製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0019】
図1に、本発明の一実施形態であるIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置の断面模式図を示す。
III−V族化合物半導体多結晶の製造装置1は、蓋部2と本体部3とからなる坩堝4を備え、本体部3の底部3aにIII族原料を収容し、V族原料をIII族原料の上方に配置するV族原料収容部5に収容し、V族原料収容部5の周囲に配置して、V族原料を加熱する第1の加熱手段6と、第1の加熱手段6の下方に配置して、III族原料を加熱する第2の加熱手段7と、坩堝4、第1の加熱手段6及び第2の加熱手段7が収容された加圧容器8とを備え、本体部3は封止剤9が収容される封止剤収容部10を具備し、蓋部2は封止剤収容部5に載置され、本体部3と連結されている。
【0020】
蓋部2は石英または熱分解窒化ホウ素からなるのが好ましい。
石英は装置の運転中に蓋部付近が達する温度では融けないからであり、また、透明なので装置の運転中に装置内の様子を観察できるからである。また、窒化ホウ素も装置の運転中に蓋部付近が達する温度では融けないからであり、また、酸化ホウ素が固化しても、蓋は破損しないからである。
【0021】
また、V族原料収容部5も石英または熱分解窒化ホウ素からなるのが好ましい。
V族収納部の温度はヒ化ガリウムの融点より低いが、石英、窒化ホウ素はともに、ヒ化ガリウムの融点付近で安定だからである。
【0022】
III−V族化合物半導体多結晶の製造装置1は、第1の加熱手段6の上方に配置して、封止剤収容部10内の封止剤9を加熱する第3の加熱手段11をさらに備えるのが好ましい。
固体封止剤を加熱して液体封止剤として坩堝の封止に用いることができるからである。
【0023】
封止剤は酸化硼素であるのが好ましい。砒素との反応性が低いからである。
液体の酸化硼素を封止剤に用いる場合には、第3の加熱手段は必要ないが、第3の加熱手段を備えれば、固体の酸化硼素を封止剤として用いることができる。
【0024】
III族原料、V族原料としてはそれぞれ、例えば、ガリウム、砒素を用いることができる。
【0025】
以上のIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置を用いて、本発明の一実施形態であるIII−V族化合物半導体多結晶の製造方法について説明する。
【0026】
本発明に係るIII−V族化合物半導体多結晶の製造方法は、本体部3の底部3aにIII族原料を投入し、V族原料収容部5にV族原料を投入し、封止剤収容部10に封止剤9を投入してIII−V族化合物半導体多結晶を製造するが、加圧容器8内に不活性ガスを導入する工程と、第2の加熱手段7を用いてIII族原料をIII−V族化合物半導体の融点以上の温度に加熱する工程と、第1の加熱手段6を用いてV族原料を加熱して、蒸発したV族ガスと底部3aのIII族原子とを反応させてIII−V族化合物半導体を合成する工程と、第2の加熱手段7の温度を降下して合成されたIII−V族化合物半導体を固化する工程と、を備える。
【0027】
III族半導体、V族半導体がそれぞれ、ガリウム、砒素であり、封止剤として固体の酸化硼素を用いた場合を例として具体的に説明する。
【0028】
本体部3の底部3aに液体ガリウムを投入し、V族原料収容部5に砒素(粒)を投入する。封止剤収容部10に固体の酸化硼素を投入する。
【0029】
次いで、加圧容器8内に不活性ガスを導入する。このとき、不活性ガスの導入と真空引きを繰り返すことにより、炉内のガス置換を行うことができる。
本実施形態では、封止材として、室温で固体の酸化硼素を用いているので、昇温前(室温・封止材溶解前)にルツボ内のガス置換を容易に行うことができるという利点がある。
また、このとき、酸化硼素が溶解しない程度の低温で加熱し、原料に付着した不要な水分を飛ばすことも可能である。
昇温前に、不活性ガスは、昇降中のV族元素の蒸発による組成ずれを抑制する程度、例えば、20atm程度以上充填するのが好ましい。
【0030】
次いで、第3の加熱手段によって固体の酸化硼素を600〜800℃に加熱して融解して液体封止剤とする。固体の酸化硼素が融解したら、加熱を停止する。
【0031】
次いで、第2の加熱手段によってガリウム液体を加熱してその温度をヒ化ガリウムの融点1235℃以上にする。
ガリウム液体の温度を1235℃以上の温度に維持した状態で、第1の加熱手段によって粒状の砒素を600〜700℃に加熱して砒素を蒸発させる。このとき、加圧容器内の圧力を45〜50atmとする。
蒸発した砒素はガリウムと反応して、ヒ化ガリウム融液が合成される。この圧力で保持することにより、効率的にヒ化ガリウムが合成される。
【0032】
次いで、第1の加熱手段による加熱を停止し、第2の加熱手段による加熱温度を徐々に下げ、ヒ化ガリウムを固化させる。このとき、加圧容器内の圧力を1.5〜2.5atmとする。
こうして、ヒ化ガリウムを固化する工程をこの圧力で保持することにより、ストイキオメトリー的に良質なヒ化ガリウム多結晶を得ることができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明のIII−V族化合物半導体多結晶の製造方法の効果について実施例を用いて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例)
本実施例では、III族半導体としてガリウムを用い、V族半導体として砒素を用い、封止剤として固体の酸化硼素を用いてヒ化ガリウムを製造した。
まず、加圧容器内に不活性ガスとしてアルゴンを導入して加圧容器内の圧力を45atmとした。
この圧力の下で、第1の加熱手段によって本体部の底部に収容されたガリウム液体をヒ化ガリウムの融点1235℃まで加熱し、その温度を維持した状態で、第2の加熱手段によってV族原料収容部に収容された粒状の砒素を650℃まで加熱し、その温度を維持した状態で砒素を蒸発させ、ヒ化ガリウム融液を合成した。
次に、加圧容器内の圧力を2.0atmに下げ、この圧力の下で、第1の加熱手段による加熱を停止し、第2の加熱手段による加熱温度を徐々に下げ、ヒ化ガリウムを固化してヒ化ガリウム多結晶を製造した。
【0035】
こうして製造したヒ化ガリウム多結晶を本体部から分離し、得られたヒ化ガリウム多結晶インゴット中の良品部分(Gaのインクルージョンや空孔などの不良がない部分)の重量を測定し、収率を計算した。
10個のサンプルの収率の平均は、96%であった。
本発明の製造方法を用いることにより、良品部分の割合の高いヒ化ガリウム多結晶を製造できることがわかった。
【0036】
(比較例1)
比較例1として、図2で示した横型封管法を用いて製造したヒ化ガリウム多結晶10サンプルについて、上記実施例と同様の収率を計算したところ、その収率の平均は、92%であった。
【0037】
本発明の製造方法は、従来の製造方法よりも良い収率でヒ化ガリウム多結晶を製造できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置及びその製造方法は、封管(又は坩堝)内の圧力とその外部の圧力とを等しくなるように調整するIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置及び製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 III−V族化合物半導体多結晶の製造装置
2 蓋部
3 本体部
3a 底部
4 坩堝
5 V族原料収容部
6 第1の加熱手段
7 第2の加熱手段
8 加圧容器
9 封止剤
10 封止剤収容部
11 第3の加熱手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓋部と本体部とからなる坩堝を備え、前記本体部の底部にIII族原料を収容し、V族原料を前記III族原料の上方に配置するV族原料収容部に収容してIII−V族化合物半導体多結晶を製造するIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置において、
前記V族原料収容部の周囲に配置して、V族原料を加熱する第1の加熱手段と、
該第1の加熱手段の下方に配置して、III族原料を加熱する第2の加熱手段と、
前記坩堝、前記第1の加熱手段及び前記第2の加熱手段が収容された加圧容器とを備え、
前記本体部は封止剤が収容される封止剤収容部を具備し、
前記蓋部は前記封止剤収容部に載置され、前記本体部と連結されていることを特徴とするIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置。
【請求項2】
前記蓋部が石英または熱分解窒化ホウ素からなることを特徴とする請求項1に記載のIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置。
【請求項3】
前記本体部が石英または熱分解窒化ホウ素からなることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載のIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置。
【請求項4】
前記V族原料収容部が石英または熱分解窒化ホウ素からなることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置。
【請求項5】
前記第1の加熱手段の上方に配置して、前記封止剤収容部内の封止剤を加熱する第3の加熱手段をさらに備えた請求項1から4のいずれか一項に記載のIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のIII−V族化合物半導体多結晶の製造装置を用いて、前記底部にIII族原料を投入し、前記V族原料収容部にV族原料を投入し、前記封止剤収容部に封止剤を投入してIII−V族化合物半導体多結晶を製造するIII−V族化合物半導体多結晶の製造方法であって、
前記加圧容器内に不活性ガスを導入する工程と、
前記第2の加熱手段を用いて前記III族原料を前記III−V族化合物半導体の融点以上の温度に加熱する工程と、
前記第1の加熱手段を用いて前記V族原料を加熱して、蒸発したV族ガスと前記底部のIII族原子とを反応させてIII−V族化合物半導体を合成する工程と、
前記第2の加熱手段の温度を降下して合成されたIII−V族化合物半導体を固化する工程と、を備えたことを特徴とするIII−V族化合物半導体多結晶の製造方法。
【請求項7】
前記加圧容器内の前記不活性ガスによる圧力を、蒸発したV族ガスと前記底部のIII族原子とを反応させてIII−V族化合物半導体を合成する工程と、第2の加熱手段の温度を降下して合成されたIII−V族化合物半導体を固化する工程とで、異なる値にすることを特徴とする請求項6に記載のIII−V族化合物半導体多結晶の製造方法。
【請求項8】
蒸発したV族ガスと前記底部のIII族原子とを反応させてIII−V族化合物半導体を合成する工程においては、前記加圧容器内の前記不活性ガスによる圧力は45〜50atmであることを特徴とする請求項7に記載のIII−V族化合物半導体多結晶の製造方法。
【請求項9】
前記第2の加熱手段の温度を降下して合成されたIII−V族化合物半導体を固化する工程においては、前記加圧容器内の前記不活性ガスによる圧力は1.5〜2.5atmであることを特徴とする請求項7又は8のいずれかに記載のIII−V族化合物半導体多結晶の製造方法。
【請求項10】
前記封止剤が酸化硼素であることを特徴とする請求項6から9のいずれか一項に記載のIII−V族化合物半導体多結晶の製造方法。
【請求項11】
前記酸化硼素が固体酸化硼素であり、該固体酸化硼素を前記第3の加熱手段を用いて融解する工程を含むことを特徴とする請求項10に記載のIII−V族化合物半導体多結晶の製造方法。
【請求項12】
前記III族半導体がガリウムであり、前記V族半導体が砒素であることを特徴とする請求項6から11のいずれか一項に記載のIII−V族化合物半導体多結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−46367(P2012−46367A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188235(P2010−188235)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】