説明

L−アスコルビン酸誘導体の製造方法

【課題】医薬品や化粧品、食品の配合剤、添加物として有用な3−O−エチル−L−アスコルビン酸の新規な製造方法であって、経済性及び操作性に優れ、工業的に優れた上記製造方法を提供すること。
【解決手段】塩基及び触媒量のセシウム塩の存在下に、L−アスコルビン酸とハロゲン化エチルとを反応させることからなる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品や化粧品、食品の配合剤、添加物として有用なL−アスコルビン酸の3位水酸基をO−エチル化した3−O−エチル−L−アスコルビン酸の製造方法に関する。さらに詳しくは、経済性及び操作性に優れ、工業的に優れた上記L−アスコルビン酸誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L−アスコルビン酸の3位水酸基をO−エチル化した3−O−エチル−L−アスコルビン酸は、水溶液中でL−アスコルビン酸よりきわめて安定であり、医薬品や化粧品、食品用としての使用に適している。
従来、L−アスコルビン酸の3位水酸基をO−アルキル化したL−アスコルビン酸誘導体の製造法としては、L−アスコルビン酸の5,6位の水酸基をイソプロピリデンで保護した後3−O−アルキル化し、次いで5,6−O−イソプロピデリン保護基を脱離させる方法(特許文献1,3,5)、また、直接3位の水酸基をO−アルキル化して3−O−L−アスコルビン酸誘導体を製造する方法(特許文献2,4,5)が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開昭58−57373号公報
【特許文献2】特開平02−237983号公報
【特許文献3】特開平08−134055号公報
【特許文献4】特開2005−320310号公報
【特許文献5】特開2002−509926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
L−アスコルビン酸の3位水酸基に置換基を導入しようとする場合には、5位,6位の水酸基を保護した後に3位の水酸基に置換基を導入する方法がL−アスコルビン酸の誘導体の一般的製造法としてあるが、目的とする3位の水酸基に置換基を導入して得られるL−アスコルビン酸誘導体の収率が悪く、且つ副生成物も多い。製造工程に於いても保護基の導入及び脱離の工程を含み煩雑な操作となる。また、反応時に用いられる有機溶媒は、工業的に大量に使用され、製造後の廃棄処理の観点から考慮すれば、地球環境への負荷が大きく問題がある。
一方、直接3位の水酸基をO−アルキル化してL−アスコルビン酸誘導体を製造する方法に於いても収率は改善されておらず、上記製造方法を工業的見地から考察すれば、経済性、操作性、安全性等の観点から問題がある。
【0005】
即ち、かかる従来技術の問題点に鑑み、本発明はL−アスコルビン酸の3位水酸基をO−エチル化したL−アスコルビン酸誘導体の新規製造方法に関する。さらに詳しくは、経済性及び操作性に優れ、工業的に優れた上記製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等が鋭意検討を重ねた結果、塩基の存在下セシウム塩を触媒量使用するのみで、L−アスコルビン酸の3位水酸基の位置に選択的にアルキル基を導入できることを見出し、本発明の3位水酸基をO−エチル化した3−O−エチル−L−アスコルビン酸の工業的製造方法を完成するに至った。即ち、本発明はL−アスコルビン酸とハロゲン化エチルを塩基及び触媒量のセシウム塩の存在下に反応させることを特徴とする3−O−エチル−L−アスコルビン酸の製造方法である。本発明の方法によれば3−O−エチル−L−アスコルビン酸を経済性、操作性の点で有利に工業的に製造することが可能である。
【0007】
尚、アスコルビン酸の2位又は3位水酸基にポリエチレングリコール残基を導入したアスコルビン酸誘導体の製造方法に係る特表2002−509926号公報(特許文献5)には、アスコルビン酸の3位誘導体の製造方法として、炭酸セシウムを用いてアスコルビン酸の3位水酸基をセシウムオキシ基に変換してアスコルビン酸セシウムとした後、これにポリエチレングリコールのハロゲン化物を反応させる方法が開示されているが、上記の製造工程からも明らかな通り、該製造法の場合には、炭酸セシウムをアスコルビン酸1モル当量に対して等量(1モル当量)用いることが必要或いは一般的であり、本発明とはセシウム塩の使用量、ひいては使用目的に於いて大きく相違している。
又、極性非プロトン溶媒と炭酸アルカリ金属塩との存在下で、アスコルビン酸とハロゲン化物とを反応させて、アスコルビン酸の3位水酸基のエーテル型誘導体を製造する方法に係る特開平02−237983号公報(特許文献2)には、炭酸アルカリ金属塩として炭酸カリウムや炭酸ナトリウムは例示されているものの、炭酸セシウムについては、具体的な例示はもとよりその使用可能性を示唆するものさえ一切記載されていない。さらに、特許文献2の製造法はハロゲン化物に対してアスコルビン酸をモル数で過剰に添加することから、ハロゲン化物のモル数に対応した量のアスコルビン酸は誘導体に転換されるが、過剰に添加されたアスコルビン酸については、この反応系からすると合成に用いられない副産物もしくは廃棄物となることが想定される為、経済性及び生産性の点で問題がある。
従って、L−アスコルビン酸の3位水酸基を選択的にO−エチル化して3−O−エチル−L−アスコルビン酸を製造する方法に於いて、セシウム塩が上記選択的置換反応に触媒的な作用を示すことについては、従来何らの知見も存在せず本発明を俟って初めて明らかとなったところである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造法によると、セシウム塩を触媒量使用するのみで、選択的にL−アスコルビン酸の3位水酸基をO−エチル化することができ、且つ、L−アスコルビン酸を大過剰に用いる必要もなく、3−O−エチル−L−アスコルビン酸の大量合成に適した精製純度の高い産業上極めて有用な方法であり、また、経済性、操作性の点で有利に工業的に製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の方法による3−O−エチル−L−アスコルビン酸の製造は、反応溶媒中にL−アスコルビン酸、塩基及び触媒量のセシウム塩を溶解した後、これにハロゲン化エチルを添加し反応せしめることによって行うことができる。
反応装置は特に限定されず循環式であってもバッチ式であっても良い。
【0010】
本発明で用いられる反応溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール等のアルコール類、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、アセトニトリルなどのニトリル類、トルエンなどの芳香族炭化水素類、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルキシド、ジエチルスルホキシドなどが挙げられる。これらの有機溶媒は単独または2種以上を混合して用いる。 それらの溶媒のうちでも反応性の高さからジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドが好ましい。
【0011】
本発明で用いられる塩基としては特に限定はないが、無機塩基としては、リチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩又は重炭酸塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩又は重炭酸塩、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム等が挙げられ、それらのうちでも炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸アンモニウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウムが特に好ましい。 有機塩基としては、トリエチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、ピリジン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、プロカイン、ベンジルアミン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、ジエチルアニリン等の有機アミンが好ましい。これらの塩基は単独でまたは2種以上を混合して用いる。
【0012】
本発明に用いるセシウム塩としては、特にセシウムの対イオンを限定する必要は無く、炭酸セシウム、重炭酸セシウム、塩化セシウム、酢酸セシウム、硫酸セシウム、硫酸水素セシウム等が用いられ、好ましくは炭酸セシウムが用いられる。
【0013】
ハロゲン化エチルとしては、臭化エチル、ヨウ化エチル、塩化エチル等が用いられる。好ましくは臭化エチルが用いられる。
【0014】
反応に際してハロゲン化エチルは、L−アスコルビン酸1モル当量に対して一般に1〜2.5モル当量、好ましくは1〜1.2モル当量用いられる。又、塩基は、同じくアスコルビン酸1モル当量に対して、1〜2.5モル当量、好ましくは1〜1.2モル当量用いられる。
【0015】
セシウム塩は、本発明の製造方法に於いては触媒量だけ用いられ、また触媒量使用するだけでL−アスコルビン酸の3位水酸基を選択的にかつ高効率でO−エチル化することができる。ここで触媒量とは、L−アスコルビン酸1モル当量に対するセシウム塩の使用量が一般に0.001〜0.5モル当量の範囲、好適には0.005〜0.1モル当量の範囲にあることを意味する。
【0016】
反応温度としては、特に制限はないが、好ましくは0〜80℃、より好ましくは15〜60℃、更に好ましくは25〜50℃である。 反応時間は反応溶媒、反応温度により異なるが、1〜24時間が好ましく、より好ましくは1〜18時間、更に好ましくは2〜4時間である。また、反応溶媒を還流させる迄加熱することにより、反応時間が短縮される。
【0017】
反応終了後反応液からの3−O−エチル−L−アスコルビン酸の分離、精製は、例えば、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー、活性炭処理、抽出、濃縮、再結晶、デカンテーション等の公知の方法により行うことができる。
【0018】
結晶化による精製法としては、反応後の液より溶媒を留去し、反応物を酢酸エチルで加温溶解し、冷却して結晶を得る方法や酢酸エチルに溶解した状態からヘキサンによる再結晶の方法などがある。
【0019】
[実施例1]3-O-エチルアスコルビン酸の合成(1)
L−アスコルビン酸(352mg, 2mmol)をジメチルスルホキシド(2.5mL)に溶解し、炭酸水素カリウム(200.2mg, 2mmol)および炭酸セシウム(6.5mg, 20μmol)を加え室温で30分攪拌した。次いで、臭化エチル(218mg, 2mmol)を加えて18時間40℃で還流を行った。反応液にジクロロメタン(6.3mL)を加え、ろ過した。ろ液を減圧下留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:AcOEt/MeOH=5:1)に付し標記化合物(367.8mg)を得た。
1H-NMR (CD3OD) δ1.37 (t, J= 6.9Hz, 3H), δ3.64 (d, J=6.8Hz, 2H), δ3.84Hz (m, 2H), δ4.76 (s,1H)
EI-MS m/z 204 (M+, 20.29). 144 (100)
【0020】
[実施例2]3-O-エチルアスコルビン酸の合成(2)
L−アスコルビン酸(352mg, 2mmol)をジメチルホルムアミド(3.0mL)に溶解し、炭酸カリウム(276.4mg, 2mmol)および炭酸セシウム(13mg, 40μmol)を加え室温で30分攪拌した。次いで、臭化エチル(218mg, 2mmol)を加えて24時間40℃で還流を行った。反応液に酢酸エチル(7 mL)を加え、ろ過した。ろ液を減圧下留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:AcOEt/MeOH=5:1)に付し標記化合物(286.9mg)を得た。
【0021】
[実施例3]3-O-エチルアスコルビン酸の合成(3)
L−アスコルビン酸(352mg, 2mmol)をジメチルスルホキシド(2.5mL)に溶解し、炭酸カリウム(276.4mg, 2mmol)および炭酸セシウム(13mg, 40μmol)を加え室温で30分攪拌した。次いで、ヨウ化エチル(218mg, 2mmol)を加えて24時間40℃で還流を行った。反応液に酢酸エチル(7 mL)を加え、ろ過した。ろ液を減圧下留去した。残渣を酢酸エチル(9mL)に加熱溶解、4℃に冷却し再結晶を行った。結晶を濾取し標記化合物(325.2mg)を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
L−アスコルビン酸とハロゲン化エチルを塩基及び触媒量のセシウム塩の存在下に反応させることを特徴とする3−O−エチル−L−アスコルビン酸の製造方法。
【請求項2】
セシウム塩として炭酸セシウムを用いる請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
L−アスコルビン酸1モル当量に対してセシウム塩を0.001〜0.5モル当量用いる請求項1又は請求項2記載の3−O−エチル−L−アスコルビン酸の製造方法。
【請求項4】
L−アスコルビン酸1モル当量に対してセシウム塩を0.005〜0.1モル当量用いる請求項3記載の3−O−エチル−L−アスコルビン酸の製造方法。

【公開番号】特開2010−64966(P2010−64966A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230647(P2008−230647)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000162021)共栄化学工業株式会社 (42)
【Fターム(参考)】