説明

L−リジンの製造法

【課題】L−リジンの生産能が向上したエシェリヒア・コリ及びそれを用いたL−リジンの製造法を提供する。
【解決手段】L−リジン生産能を有するエシェリヒア・コリであって、メソ−α,ε−ジアミノピメリン酸合成経路の1又は2以上の酵素の活性が低下するように改変され、かつ、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が導入されたエシェリヒア・コリを培地中で培養し、該培地からL−リジンを採取することにより、L−リジンを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エシェリヒア・コリを用いたL−リジンの製造法に関する。L−リジンは必須アミノ酸であり、医薬や、動物用飼料添加物のような様々な栄養混合物のコンポーネントとして利用される。
【背景技術】
【0002】
L−リジン等のL−アミノ酸は、これらのL−アミノ酸生産能を有するコリネ型細菌またはエシェリヒア属細菌等のアミノ酸生産菌を用いて発酵法により工業生産されている。これらのアミノ酸生産菌としては、生産性を向上させるために、自然界から分離した菌株または該菌株の人工変異株、あるいは遺伝子組換えによりL−アミノ酸生合成酵素活性が増強された組換え体等が用いられている。L−リジンの製造法としては例えば、特許文献1〜4に記載された方法を挙げることができる。
【0003】
L−リジン等のアミノ酸生産能を向上させる方法として、目的とするアミノ酸に固有の生合成経路の酵素の発現量を強化する方法以外に、呼吸鎖経路を改変してエネルギー効率を改善する方法(特許文献5)、ニコチンアミド・ヌクレオチド・トランスヒドロゲナーゼ遺伝子を増幅してニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチドリン酸生産能を上昇させる方法(特許文献6)が開発されている。
【0004】
また種々のアミノ酸生合成の共通の経路を改変する方法として、ピルビン酸カルボキシラーゼ活性を増加させたコリネ型細菌L−リジン生産菌(特許文献7)、ピルビン酸キナーゼを欠損したエシェリヒア属L−リジン生産菌(特許文献8) 、マレート・キノン・オキシドレダクターゼ(malate quinine oxidoreductase)を欠損したコリネ型細菌L−リジン生産菌(特許文献9)等の、補充経路を改変したL−アミノ酸生産菌が知られている。
【0005】
L−リジンの前駆体としてメソ−α,ε−ジアミノピメリン酸(以下、「meso-DAP」ともいう)が存在する。meso-DAPはL−リジンの前駆体であると同時に、細胞壁の構成成分として細菌の生育に必須な物質である。エシェリヒア属細菌のmeso-DAP合成については、その前駆体である2,3,4,5-テトラヒドロピリジン-2,6-ジカルボン酸(以下、「THDP」ともいう)から、meso-DAP合成経路に属する2,3,4,5-テトラヒドロピリジン-2,6-ジカルボン酸
N-スクシニルトランスフェラーゼ(以下、「DapD」ともいう。非特許文献1)、スクシニルジアミノピメリン酸トランスアミナーゼ(以下、「DapC」ともいう。非特許文献2)、スクシニルジアミノピメリン酸デスクシニラーゼ(以下、「DapE」ともいう。非特許文献3)、ジアミノピメリン酸エピメラーゼ(以下、「DapF」ともいう。非特許文献4)という四つの酵素の機能によりmeso-DAPが合成されることが知られている。コリネ型細菌においては、THDPを前駆体とするmeso-DAP合成経路が別に存在し、meso-DAP脱水素酵素(以下、「ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ」又は「DDH」ともいう)を用いた一段階の反応によってTHDPからmeso-DAPが合成されることが明らかになっており、DDH発現がmeso-DAPの製造に有用であることが知られている(特許文献10)。また、エシェリヒア属細菌のL−リジン生合成の律速段階を調べる過程で、meso-DAP合成経路に属する酵素の活性を増強する代りに、コリネ型細菌のDDHをコードする遺伝子をエシェリヒア属のL−リジン生産菌に導入し、L−リジン生産を行ったことが開示されている(特許文献13)。しかしながら、エシェリヒア属細菌においてDDHを発現させる際に、meso-DAP合成経路に属する酵素の活性を低下させることが、L−リジン生産に有効であることは予想されていなかった。
【特許文献1】特開平10−165180号公報
【特許文献2】特開平11−192088号公報
【特許文献3】特開2000−253879号公報
【特許文献4】特開2001−057896号公報
【特許文献5】特開2002−17363号公報
【特許文献6】特許第2817400号公報
【特許文献7】特表2002−508921号公報
【特許文献8】国際公開第WO03/008600号パンフレット
【特許文献9】米国特許出願公開第2003/0044943号
【特許文献10】特開昭61−289887号公報
【特許文献11】国際公開第WO2006/093322号公報
【特許文献12】米国特許出願公開第2006/0160191号公報
【特許文献13】米国特許第6040160号
【非特許文献1】Richaud, C. et al., J. Biol. Chem., 259(23):14824-14828, 1984
【非特許文献2】Heimberg, H. et al., Gene. 90(1):69-78, 1990
【非特許文献3】Bouvier, J. et al., J. Bacteriol., 174(16):5265-71, 1992
【非特許文献4】Wiseman, J.S. et al., J. Biol. Chem., 259(14):8907-14, 1984
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、L−リジンの生産能が向上したエシェリヒア・コリ及びそれを用いたL−リジンの製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、エシェリヒア・コリを、meso-DAP合成経路に属する酵素の活性が低下するように改変し、かつ、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を導入することによって、L−リジン生産能を向上させることができることを見出し、この知見に基づき本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)L−リジン生産能を有するエシェリヒア・コリであって、メソ−α,ε−ジアミノピメリン酸合成経路の1又は2以上の酵素の活性が低下するように改変され、かつ、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が導入されたことを特徴とするエシェリヒア・コリ。
(2)前記メソ−α,ε−ジアミノピメリン酸合成経路の酵素が、2,3,4,5−テトラヒドロピリジン−2,6−ジカルボン酸 N−スクシニルトランスフェラーゼ、スクシニルジアミノピメリン酸トランスアミナーゼ、スクシニルジアミノピメリン酸デスクシニラーゼ、及びジアミノピメリン酸エピメラーゼから選ばれる、前記エシェリヒア・コリ。(3)前記2,3,4,5−テトラヒドロピリジン−2,6−ジカルボン酸 N−スクシニルトランスフェラーゼ、スクシニルジアミノピメリン酸トランスアミナーゼ、スクシニルジアミノピメリン酸デスクシニラーゼ、及びジアミノピメリン酸エピメラーゼが、それぞれdapD遺伝子、dapC遺伝子、dapE遺伝子及びdapF遺伝子によりコードされる、前記エシェリヒア・コリ。
(4)前記遺伝子の発現量を低下させること、又はこれらの遺伝子を破壊することにより、メソ−α,ε−ジアミノピメリン酸合成経路の酵素の活性が低下した、前記エシェリヒア・コリ。
(5)少なくとも2,3,4,5−テトラヒドロピリジン−2,6−ジカルボン酸 N−スクシニルトランスフェラーゼ活性が低下するように改変された、前記エシェリヒア・コリ。
(6)前記ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が、コリネ型細菌のddh遺伝子である、前記エシェリヒア・コリ。
(7)前記2,3,4,5−テトラヒドロピリジン−2,6−ジカルボン酸 N−スクシニルトランスフェラーゼが、下記(A)または(B)に記載のタンパク質である前記エシェリヒア・コリ。
(A)配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ、2,3,4,5−テトラヒドロピリジン−2,6−ジカルボン酸 N-スクシニルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
(8)前記スクシニルジアミノピメリン酸トランスアミナーゼが、下記(C)または(D)に記載のタンパク質である前記エシェリヒア・コリ。
(C)配列番号4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質。
(D)配列番号4に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ、スクシニルジアミノピメリン酸トランスアミナーゼ活性を有するタンパク質。
(9)前記スクシニルジアミノピメリン酸デスクシニラーゼが、下記(E)または(F)に記載のタンパク質である前記エシェリヒア・コリ。
(E)配列番号6に示すアミノ酸配列を有するタンパク質。
(F)配列番号6に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ、スクシニルジアミノピメリン酸デスクシニラーゼ活性を有するタンパク質。
(10)前記ジアミノピメリン酸エピメラーゼが、下記(G)または(H)に記載のタンパク質である前記エシェリヒア・コリ。
(G)配列番号8に示すアミノ酸配列を有するタンパク質。
(H)配列番号8に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ、ジアミノピメリン酸エピメラーゼ活性を有するタンパク質。
(11)前記dapD遺伝子が、下記(a)または(b)に記載のDNAである、前記エシェリヒア・コリ。
(a)配列番号1の塩基配列を含むDNA、または
(b)配列番号1の塩基配列または同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、2,3,4,5−テトラヒドロピリジン−2,6−ジカルボン酸 N−スクシニルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(12)前記dapC遺伝子が、下記(c)または(d)に記載のDNAである、前記エシェリヒア・コリ。
(c)配列番号3の塩基配列を含むDNA、または
(d)配列番号3の塩基配列または同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、スクシニルジアミノピメリン酸トランスアミナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(13)前記dapE遺伝子が、下記(e)または(f)に記載のDNAである、前記エシェリヒア・コリ。
(e)配列番号5の塩基配列を含むDNA、または
(f)配列番号5の塩基配列または同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、スクシニルジアミノピメリン酸デスクシニラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(14)
前記dapF遺伝子が、下記(g)または(h)に記載のDNAである、前記エシェリヒア・コリ。
(g)配列番号7の塩基配列を含むDNA、または
(h)配列番号7の塩基配列または同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジ
ェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ジアミノピメリン酸エピメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(15)前記ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼが、下記(I)または(J)に記載のタンパク質である前記エシェリヒア・コリ。
(I)配列番号10、12、14、16、または18に示すアミノ酸配列を有するタンパク質。
(J)配列番号10、12、14、16、または18に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
(16)前記ddh遺伝子が、下記(i)または(j)に記載のDNAである、前記エシェリヒア・コリ。
(i)配列番号9、11、13、15、または17の塩基配列を含むDNA、または
(j)配列番号9、11、13、15、または17の塩基配列または同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(17)さらに、L−リジンによるフィードバック阻害が解除されたジヒドロジピコリン酸合成酵素、及びL−リジンによるフィードバック阻害が解除されたアスパルトキナーゼを保持し、かつ、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ活性が増強された、前記エシェリヒア・コリ。
(18)前記細菌を培地中で培養し、該培地からL−リジンを採取することを特徴とする、L−リジンの製造法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エシェリヒア・コリを用いた発酵法によるL−リジンの製造において、L−リジンの生産量及び/又は発酵収率を向上させることが出来る。また、本発明は、エシェリヒア・コリのL−リジン生産菌の育種に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
<1>本発明のエシェリヒア・コリ
本発明のエシェリヒア・コリは、L−リジン生産能を有するエシェリヒア・コリであって、meso-DAP合成経路に属する酵素の活性が低下するように改変され、かつ、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が導入されたことを特徴とする、エシェリヒア・コリである。
【0012】
また、本発明の好ましい細菌は、上記性質に加えて、さらに、L−リジンによるフィードバック阻害が解除されたジヒドロジピコリン酸合成酵素、及びL−リジンによるフィードバック阻害が解除されたアスパルトキナーゼを保持し、かつ、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ活性が増強された細菌である。
【0013】
本発明の細菌は、L−リジン生産能を有するエシェリヒア・コリを親株とし、meso-DAP合成経路に属する酵素の活性が低下するように改変し、さらにジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を導入することによって得ることができる。meso-DAP合成経路に属する酵素の活性を低下させる改変と、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の導入の順序は問わない。また、L−リジン生産の付与は、前記改変及び遺伝子の導入の間に行われてもよく、最後に行われてもよい。
【0014】
本発明の細菌を得るために用いる、エシェリヒア・コリの親株としては、特に限定されないが、具体的にはナイトハルトらの著書(Neidhardt, F.C. et al., Escherichia coli
and Salmonella Typhimurium, American Society for Microbiology, Washington D.C.,
1029 table 1)に挙げられるものが利用できる。具体的には、プロトタイプの野生株K12株由来のエシェリヒア・コリ W3110(ATCC 27325)、エシェリヒア・コリ MG1655 (ATCC 47076)等が挙げられる。
【0015】
これらを入手するには、例えばアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所12301 Parklawn Drive, Rockville, Maryland 20852, United States of America)より分譲を受けることが出来る。すなわち各菌株に対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して分譲を受けることが出来る。各菌株に対応する登録番号は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。
【0016】
<1−1>L−リジン生産能の付与及びL−リジン生産能を有するエシェリヒア・コリ
エシェリヒア・コリのL−リジン生産菌の例としては、L−リジンアナログに耐性を有する変異株が挙げられる。L−リジンアナログはエシェリヒア・コリの生育を阻害するが、この阻害は、L−リジンが培地に共存するときには完全にまたは部分的に解除される。L−リジンアナログの例としては、オキサリジン、リジンヒドロキサメート、S−(2−アミノエチル)−L−システイン(AEC)、γ−メチルリジン、α−クロロカプロラクタムなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらのリジンアナログに対して耐性を有する変異株は、エシェリヒア・コリを通常の人工変異処理に付すことによって得ることができる。L−リジンの生産に有用な細菌株の具体例としては、E. coli AJ11442(FERM BP-1543, NRRL B-12185; 米国特許第4,346,170号参照)及びE. coli VL611が挙げられる。これらの微生物では、アスパルトキナーゼのL−リジンによるフィードバック阻害が解除されている。
【0017】
WC196株は、E. coliのL−リジン生産菌として使用できる。この菌株は、E. coli K-12に由来するW3110株にAEC耐性を付与することにより育種された。同株は、Escherichia coli AJ13069と命名され、1994年12月6日、工業技術院生命工学工業技術研究所(現 独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受託番号FERM P-14690として寄託され、1995年9月29日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-5252が付与されている(米国特許第5,827,698号)。
【0018】
L−リジン生産菌を誘導するための親株の例としては、L−リジン生合成系酵素をコードする遺伝子の1種又はそれ以上の発現が増大している株も挙げられる。かかる遺伝子の例としては、ジヒドロジピコリン酸シンターゼ(dapA)、アスパルトキナーゼ(lysC)、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ(dapB)、ジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼ(lysA)、、フォスフォエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(ppc)、アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(asd)及びアスパルターゼ(aspA) (EP 1253195 A)をコードする遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。また、親株は、エネルギー効率に関与する遺伝子(cyo) (EP 1170376 A)、ニコチンアミドヌクレオチドトランスヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(pntAB) (米国特許第5,830,716号)、ybjE遺伝子(WO2005/073390)、グルタミン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(gdhA)(Gene23:199-209(1983))または、これらの組み合わせの発現レベルが増大していてもよい。なお、カッコ内は、その遺伝子の略記号である。
エシェリヒア・コリのlysC遺伝子の塩基配列を配列番号21に、コードされるアスパルトキナーゼのアミノ酸配列を配列番号22に示す。エシェリヒア・コリのdapA遺伝子の塩基配列を配列番号23に、コードされるジヒドロジピコリン酸シンターゼのアミノ酸配列を配列番号24に示す。また、エシェリヒア・コリの dapB遺伝子の塩基配列を配列番号25に、コードされるジヒドロジピコリン酸レダクターゼのアミノ酸配列を配列番号26に示す。
【0019】
エシェリヒア・コリ由来の野生型ジヒドロジピコリン酸合成酵素はL−リジンによるフィードバック阻害を受けることが知られており、エシェリヒア・コリ由来の野生型アスパルトキナーゼはL−リジンによる抑制及びフィードバック阻害を受けることが知られている。したがって、dapA遺伝子及びlysC遺伝子を用いる場合、これらの遺伝子は、L−リジンによるフィードバック阻害を受けない変異型酵素をコードする変異型遺伝子であることが好ましい。
【0020】
L−リジンによるフィードバック阻害を受けない変異型ジヒドロジピコリン酸合成酵素をコードするDNAとしては、配列番号24の118位のヒスチジン残基がチロシン残基に置換された配列を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。また、L−リジンによるフィードバック阻害を受けない変異型アスパルトキナーゼをコードするDNAとしては、配列番号22の352位のスレオニン残基がイソロイシン残基に置換、323位のグリシン残基がアスパラギン残基に置換、318位のメチオニンがイソロイシンに置換された配列を有するAKIIIをコードするDNAが挙げられる(これらの変異体については米国特許第5661012号及び第6040160号参照)。変異型DNAはPCRなどによる部位特異的変異法により取得することができる。
【0021】
なお、上記のような変異を有するエシェリヒア・コリの変異型ジヒドロジピコリン酸合成酵素をコードする変異型dapA及び変異型アスパルトキナーゼをコードする変異型lysCを含むプラスミドとして、RSF1010由来の広宿主域プラスミドRSFD80、pCAB1、pCABD2が知られている(米国特許第6040160号)。RSFD80で形質転換されたエシェリヒア・コリ JM109株(米国特許第6040160号)は、AJ12396と命名され、同株は1993年10月28日に通産省工業技術院生命工学工業技術研究所(現 独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター)に受託番号FERM P-13936として寄託され、1994年11月1日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、FERM BP-4859の受託番号のもとで寄託されている。RSFD80は、AJ12396株から、公知の方法によって取得することができる。pCAB1は、前記RSFD80に、さらにエシェリヒア・コリのdapB遺伝子を挿入することによって作製された。また、pCABD2は、このpCAB1に、さらにブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)2256株(ATCC13869)のddh遺伝子を挿入することによって作製された(米国特許第6040160号)。
【0022】
L−リジン生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、L−リジンの生合成経路から分岐してL−リジン以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性が低下または欠損している株も挙げられる。L−リジンの生合成経路から分岐してL−リジン以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素の例としては、ホモセリンデヒドロゲナーゼ、リジンデカルボキシラーゼ(米国特許第5,827,698号)、及び、リンゴ酸酵素(WO2005/010175)が挙げられる。ここで、リジンデカルボキシラーゼ活性を低下または欠損させるためには、リジンデカルボキシラーゼをコードするcadA遺伝子とldcC遺伝子の両方の発現を低下させることが好ましい(国際公開第WO2006/038695号パンフレット)。
【0023】
本発明に用いる細菌は、グリセロールの資化性を高めるために、glpR遺伝子(EP1715056)の発現が弱化されているか、glpA、glpB、glpC、glpD、glpE、glpF、glpG、glpK、glpQ、glpT、glpX、tpiA、gldA、dhaK、dhaL、dhaM、dhaR、fsa及びtalC遺伝子等のグリセロール代謝遺伝子(EP1715055A)の発現が強化されていてもよい。
【0024】
<1−2>本発明のエシェリヒア・コリの構築
次に、meso-DAP合成経路に属する酵素の活性を低下させる改変と、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の導入について説明する。
【0025】
エシェリヒア・コリが有するmeso-DAP合成経路とは、(S)-2,3,4,5-tetrahydropyridine-2,6-dicarboxylate((S)-2,3,4,5-tetrahydrodipicolinate)から、meso-DAP(meso-2,6-diaminopimalate、meso−α,ε−diaminopimelate、又はmeso-diaminoheptanedioate)を生成する経路であり、以下の4段階の反応によって触媒される。エシェリヒア・コリでは、meso-DAP合成経路はDapDCEF経路とも呼ばれる。
1)DapD(2,3,4,5-テトラヒドロピリジン-2,6-ジカルボン酸 N-スクシニルトランスフェラーゼ)(EC 2.3.1.117)
succinyl-CoA + (S)-2,3,4,5-tetrahydropyridine-2,6-dicarboxylate + H2O = CoA + N-succinyl-L-2-amino-6-oxoheptanedioate
【0026】
DapDは、dapD遺伝子がコードしている。エシェリヒア・コリのdapD遺伝子の配列を配列番号1に、DapDのアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0027】
DapDの酵素活性は、S.A, Simmsらの方法(J. Biol. Chem., 1984, Mar 10;259(5):2734-2741)を参考に測定することができる。
【0028】
2)DapC(スクシニルジアミノピメリン酸トランスアミナーゼ)(SDAPアミノ基転移酵素ともいう)(EC 2.6.1.17)
N-succinyl-LL-2,6-diaminoheptanedioate + 2-oxoglutarate = N-succinyl-L-2-amino-6-oxoheptanedioate + L-glutamate
【0029】
DapCは、dapC遺伝子がコードしている。エシェリヒア・コリのdapC遺伝子の配列を配列番号3に、アミノ酸配列を配列番号4に示す。
【0030】
DapCの酵素活性は、Thilo, M.らの方法(J. Bacteriol., 2000, Jul;182(13):3626-3631)で測定することが出来る。
3)DapE(スクシニルジアミノピメリン酸 デスクシニラーゼ )(SDAP脱スクシニル化酵素ともいう)(EC 3.5.1.18)
N-succinyl-LL-2,6-diaminoheptanedioate + H2O = succinate + LL-2,6-diaminoheptanedioate
【0031】
DapEは、dapE遺伝子がコードしている。エシェリヒア・コリのdapE遺伝子の配列を配列番号5に、アミノ酸配列を配列番号6に示す。
【0032】
DapEの酵素活性は、Lin, Y.K.らの方法(J. Biol. Chem., 1988, Feb 5;263(4):1622-1627)によって測定することができる。
4)DapF(ジアミノピメリン酸エピメラーゼ(EC5.1.1.7)
LL-2,6-diaminoheptanedioate = meso-2,6-diaminopimalate
【0033】
DapFは、dapF遺伝子がコードしている。エシェリヒア・コリの、dapF遺伝子の配列を配列番号7に、アミノ酸配列を配列番号8に示す。
【0034】
DapFの酵素活性は、Wiseman, J.S.らの方法(J. Biol. Chem., 1984, Jul 25;259(14):8907-8914)を参考にして測定することが出来る。
【0035】
また、本発明において、DDH(ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ)(EC1.4.1.16)は、meso-2,6-diaminopimalateから(S)-2,3,4,5-tetrahydropyridine-2,6-dicarboxylateを可逆的に生成する酵素で、以下の反応を触媒する。
meso-2,6-diaminopimalate + H2O + NADP+ = (S)-2,3,4,5-tetrahydropyridine-2,6-dicarboxylate + NH3 + NADPH + H+
【0036】
DDHの酵素活性は、Misono, H.らの方法(J. Biol. Chem., 255, 10599-10605, 1980)を参考にして測定することができる。
【0037】
DDHをコードするddh遺伝子は、エシェリヒア属細菌は有していないが、コリネバクテリウム・グルタミカム(配列番号9)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(配列番号11)、コリネバクテリウム・エフィッシエンス(配列番号13)等のコリネ型細菌が有しているddh遺伝子を使用することができる。
【0038】
コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032のddh遺伝子(NCgl2528)はGenbank NP_601818.2 GI:23308957に、コリネバクテリウム・エフィッシエンスのddh遺伝子(CE2498)は、NP_739108.1 GI:25029054に登録されている。
【0039】
その他、コリネ型細菌以外では、ヘルミニイモナス・アーセニクオキシダンス(Herminiimonas arsenicoxydans)のddh遺伝子(配列番号15)、バクテロイデス・セタイオタオミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)のddh遺伝子(配列番号17)が利用できる。Herminiimonas arsenicoxydansのddh遺伝子は、Genbank YP_001100730.1 GI:134095655に、Bacteroides thetaiotaomicronのddh遺伝子はNP_810892.1 GI:29347389に登録されている。
【0040】
上記各遺伝子、及び前記のL−リジン生合成系酵素遺伝子は、上述した遺伝子情報を持つ遺伝子や、公知の配列を有する遺伝子に限られず、コードされるタンパク質の機能が損なわれない限り、その遺伝子のホモログや人為的な改変体等、保存的変異を有する遺伝子であってもよい。すなわち、公知のタンパク質のアミノ酸配列において、1若しくは数個の位置での1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加等を含む配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。
【0041】
ここで、「1若しくは数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、具体的には好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個を意味する。また、保存的変異とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的変異の代表的なものは、保存的置換であり、保存的置換とみなされる置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、または逆位等には、遺伝子が由来する微生物の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。このような遺伝子は、例えば、部位特異的変異法によって、コードされるタンパク質の特定の部位のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入または付加を含むように公知の遺伝子の塩基配列を改変することによって取得することができる。
【0042】
さらに、上記のような保存的変異を有する遺伝子は、コードされるアミノ酸配列全体に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の相同性を有し、かつ、野生型タンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。
【0043】
また、遺伝子の配列におけるそれぞれのコドンは、遺伝子が導入される宿主で使用しやすいコドンに置換したものでもよい。
保存的変異を有する遺伝子は、変異剤処理等、通常変異処理に用いられる方法によって取得されたものであってもよい。
【0044】
また、遺伝子は、公知の遺伝子配列から調製され得るプローブ、例えば前記遺伝子配列又はその相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、公知の遺伝子産物と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1% SDS、さらに好ましくは、68℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度、温度で、1回、より好ましくは2〜3回洗浄する条件が挙げられる。
【0045】
プローブとしては、遺伝子の相補配列の一部を用いることもできる。そのようなプローブは、公知の遺伝子配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、これらの塩基配列を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。例えば、プローブとして、300 bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件は、50℃、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。
【0046】
「meso-DAP合成経路の酵素活性が低下するように改変された」とは、meso-DAP合成経路(以下、「DapDCEF経路」ともいう)に属する酵素、具体的にはDapD、DapC、DapE及びDapFの4酵素の少なくともいずれかの活性が全く消失するか、あるいは、エシェリヒア・コリの非改変株、例えば野生株に比べて活性が低下するように改変されたことを意味する。
活性を低下させる酵素は、DapD、DapC、DapE及びDapFのいずれであってもよく、また、1種又は2種以上であってもよい。DapDCEF経路の上流側の酵素の活性を低下させることが好ましく、少なくともDapDの活性が低下するように改変されていることが特に好ましい。
【0047】
DapDCEF経路の酵素活性が低下したとは、例えば、DapDCEF経路のそれぞれの酵素活性が非改変株、例えば野生株と比較して、菌体当たり50%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは10%以下に低下されていることが好ましい。
【0048】
ここで、対照となるエシェリヒア・コリとしては、例えば、野生株として、プロトタイプの野生株K12株由来のエシェリヒア・コリ W3110(ATCC 27325)、エシェリヒア・コリ MG1655 (ATCC 47076)等が挙げられる。
【0049】
DapDCEF経路の酵素活性が低下するような改変は、具体的には、染色体上のDapDCEF経路の酵素をコードする遺伝子、具体的にはdapD、dapC、dapE又はdapF遺伝子のコード領域の一部又は全部を欠損させたり、プロモーターやシャインダルガルノ(SD)配列等の発現調節配列を改変したりすることなどによって達成される。また、発現調節配列以外の非翻訳領域の改変によっても、遺伝子の発現量を低下させることができる。さらには、染色体上の遺伝子の前後の配列を含めて、遺伝子全体を欠失させてもよい。また、遺伝子組換えに
より、染色体上の酵素をコードする領域にアミノ酸置換(ミスセンス変異)を導入すること、また終始コドンを導入すること(ナンセンス変異)、あるいは一〜二塩基付加・欠失するフレームシフト変異を導入することによっても達成出来る(Journal of Biological Chemistry 272:8611-8617(1997) Proceedings of the National Academy of Sciences,USA 95 5511-5515(1998), Journal of Biological Chemistry 266, 20833-20839(1991))。
【0050】
本発明においては、相同組換えを利用して、染色体上の遺伝子の発現調節配列、例えばプロモーター領域、又はコード領域、もしくは非コード領域の一部又は全部を欠損させること、又はこれらの領域に他の配列を挿入することによって、細胞内の酵素活性を低下させることが好ましい。しかしながら、DapDCEF経路の酵素活性が低下するような改変であれば、X線もしくは紫外線を照射、またはN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン等の変異剤による通常の変異処理による改変であってもよい。
【0051】
発現調節配列の改変は、好ましくは1塩基以上、より好ましくは2塩基以上、特に好ましくは3塩基以上である。また、コード領域を欠失させる場合は、産生する酵素タンパク質の機能が低下又は欠失するのであれば、欠失させる領域は、N末端領域、内部領域、C末端領域のいずれの領域であってもよく、コード領域全体であってよい。通常、欠失させる領域は長い方が確実に遺伝子を不活化することができる。また、欠失させる領域の上流と下流のリーディングフレームは一致しないことが好ましい。
【0052】
コード領域に他の配列を挿入する場合も、遺伝子のいずれの領域であってもよいが、挿入する配列は長い方が、確実に酵素をコードする遺伝子を不活化することができる。挿入部位の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。他の配列としては、酵素タンパク質の機能を低下又は欠損させるものであれば特に制限されないが、例えば、抗生物質耐性遺伝子やL−リジン生産に有用な遺伝子を搭載したトランスポゾン等が挙げられる。
【0053】
染色体上の遺伝子を上記のように改変するには、例えば、遺伝子の部分配列を欠失し、正常に機能する酵素タンパク質を産生しないように改変した欠失型遺伝子を作製し、該遺伝子を含むDNAで細菌を形質転換して、欠失型遺伝子と染色体上の遺伝子とで相同組換えを起こさせることにより、染色体上の遺伝子を欠失型遺伝子に置換することによって達成できる。欠失型遺伝子によってコードされる酵素タンパク質は、生成したとしても、野生型酵素タンパク質とは異なる立体構造を有し、機能が低下又は消失する。このような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子破壊は既に確立しており、「Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)」と呼ばれる方法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))、Redドリブンインテグレーション法とλファージ由来の切り出しシステム(Cho, E. H., Gumport, R. I., Gardner, J. F. J. Bacteriol. 184: 5200-5203 (2002))とを組合わせた方法(WO2005/010175号参照)等の直鎖状DNAを用いる方法や、温度感受性複製起点を含むプラスミド、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で複製起点を持たないスイサイドベクターを利用する方法などがある(米国特許第6303383号、または特開平05-007491号)。
【0054】
遺伝子の転写量が低下したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を野生株、あるいは非改変株と比較することによって行うことが出来る。mRNAの量を評価する方法としては、ノーザンハイブリダイゼーション、RT−PCR等が挙げられる(Molecular cloning(Cold spring Harbor Laboratory Press, Cold spring Harbor (USA), 2001))。
【0055】
遺伝子がコードするタンパク質の量が低下したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことが出来る(Molecular cloning(Cold spring Harbor Laborato
ry Press, Cold spring Harbor (USA), 2001))。
【0056】
エシェリヒア・コリにDDHをコードする遺伝子(ddh)を導入するには、例えば、ddh遺伝子をプラスミドやファージ等のベクターを用いてエシェリヒア・コリを形質転換すればよい。このようなベクターとしては、pUC19、pUC18、pBR322、pHSG299、pHSG298、pHSG399、pHSG398、RSF1010、pMW119、pMW118、pMW219、pMW218等が挙げられる。DDH遺伝子は、エシェリヒア・コリで発現可能であれば、同遺伝子固有のプロモーターを用いてもよいが、エシェリヒア・コリで効率よく機能するプロモーターを用いてもよい。そのようなプロモーターとしては、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージのPRプロモーター、PLプロモーター、tetプロモーター等が挙げられる。
【0057】
また、ddh遺伝子を、トランスダクション、トランスポゾン(Berg,D.E. and Berg,C.M.,Bio/Technol.,1,417(1983))、Muファージ(特開平2−109985)または相同性組換え(Experiments in Molecular Genetics, Cold Spring Harbor Lab.(1972))を用いた方法でエシェリヒア・コリの染色体に組み込んでもよい。さらには、染色体上に組込まれたddh遺伝子を転移させて、コピー数を上昇させてもよい。
【0058】
ddh遺伝子が導入されたことの確認は、例えばサザン・ハイブリダイゼーションより行うことができる。また、ddh遺伝子が導入されたエシェリヒア・コリがDDH活性を有することは、例えば味園春雄 発酵と工業 45,964(1987)に記載された方法でDDH活性を測定することにより確認することができる。また、抗体を用いてウェスタンブロットによってもDDHを検出することが出来る。
【0059】
<2>L−リジンの製造法
本発明のL−リジンの製造法は、本発明の細菌を培地で培養して、L−リジンを該培地中又は菌体内に生成蓄積させ、該培地又は菌体よりL−リジンを採取することを特徴とする。
【0060】
使用する培地は、微生物を用いたL−リジンの発酵生産において従来より用いられてきた培地を用いることができる。すなわち、炭素源、窒素源、無機イオン及び必要に応じその他の有機成分を含有する通常の培地を用いることができる。ここで、炭素源としては、グルコース、シュクロース、ラクトース、ガラクトース、フラクトースやでんぷんの加水分解物などの糖類、グリセロールやソルビトールなどのアルコール類、フマール酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類を用いることができる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。有機微量栄養源としては、ビタミンB1、L−ホモセリンなどの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。これらの他に、必要に応じて、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。なお、本発明で用いる培地は、炭素源、窒素源、無機イオン及び必要に応じてその他の有機微量成分を含む培地であれば、天然培地、合成培地のいずれでもよい。
【0061】
特に本発明においてはグリセロールを炭素源として用いることが好ましい。グリセロールは、試薬のグリセロールでもよいが、工業的に生産される不純物を含むグリセロールを用いることが望ましい。たとえば、バイオディーゼル燃料生産のためのエステル化反応によって、工業的に生産されるグリセロールを使用することが望ましい(Mu Y, et al, Biotechnol Lett., 28, 1755-91759 (2006), Haas MJ,et al; Bioresour Technol. 97, 4, 671-8678 (2006))。
【0062】
本発明の培地に含まれるグリセロールは、単独の炭素源であってもよいし、グリセロールに加え、他の炭素源を添加した混合培地を用いてもよい。他の炭素源として好ましいのは、グルコース、フラクトース、スクロース、ラクトース、ガラクトース、廃糖蜜、澱粉加水分解物やバイオマスの加水分解により得られた糖液などの糖類、エタノールなどのアルコール類、フマール酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類である。混合培地を用いる場合、培地中の全炭素源に対するグリセロールの比率は50%以上、60%以上、望ましくは70%以上、さらに望ましくは80%以上、特に望ましくは90%以上であることが望ましい。
【0063】
培養は好気的条件下で1〜7日間実施するのがよく、培養温度は24℃〜37℃、培養中のpHは5〜9がよい。尚、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、更にアンモニアガス等を使用することができる。発酵液からのL−リジンの回収は通常イオン交換樹脂法、沈殿法その他の公知の方法を組み合わせることにより実施できる。なお、菌体内にL−リジンが蓄積する場合には、例えば菌体を超音波などにより破砕し、遠心分離によって菌体を除去して得られる上清からイオン交換樹脂法などによって、L−リジンを回収することができる。
【0064】
なお、培養中のpHが6.5〜9.0、培養終了時の培地のpHが7.2〜9.0となるように制御し、発酵中の発酵槽内圧力が正となるように制御するか、又は、炭酸ガスもしくは炭酸ガスを含む混合ガスを培地に供給して、培地中の重炭酸イオン及び/または炭酸イオンが少なくとも2g/L以上存在する培養期があるようにし、前記重炭酸イオン及び/または炭酸イオンを塩基性アミノ酸を主とするカチオンのカウンタイオンとする方法で発酵を行い、リジンを回収する方法で製造を行ってもよい(特開2002-065287号参照、米国特許出願公開第2002025564号)。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
〔実施例1〕dapDが破壊されたL−リジン生産菌の構築
<1−1>dapD遺伝子破壊株の構築
まず、エシェリヒア・コリ野生型株MG1655株を用いて、dapD破壊株の構築を行った。
【0066】
pMW118(λattL-Kmr-λattR) (国際公開第WO2006093322号公報参照)プラスミドを鋳型として、λファージのアタッチメントサイトの配列attLとattRの両端に対応する配列をプライマーの3’末端に、目的遺伝子であるdapD遺伝子の一部に対応するプライマーの5’末端に有する配列番号19及び20に示す合成オリゴヌクレオチドをプライマーに用いてPCRを行い、米国特許出願公開第2006/0160191号公報及びWO2005/010175に記載のλ-red法を用いてMG1655ΔdapD::att-Km株を構築した。λ-red法におけるKm耐性組換え体の取得は、37℃でKm(カナマイシン)(50mg/L)を含むL−寒天培地上で平板培養し、Km耐性組換え体を選択することにより行った。
【0067】
<1−2>ΔdapD::att-kanのL−リジン生産菌WC196LC/pCABD2株への形質導入
<1−1>にて得られたMG1655ΔdapD::att-Km株から、常法に従いP1ライセートを取得し、米国特許出願公開第2006/0160191号公報に記載の方法で構築したL−リジン生産菌WC196ΔcadAΔldcC/pCABD2株を宿主としてP1形質導入法を用いてWC196ΔcadAΔldcCΔdapD::att-Km/pCABD2株を構築した。WC196ΔcadAΔldc株は、エシェリヒア・コリWC196のリジンデカルボキシラーゼ遺伝子cadA及びldcを、Red-driven integration法(Datsenko, K. A. and Wanner, B. L., 2000. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 97: 6640-6645)とλファージ由来の切り出しシステム(Cho, E. H., Gumport, R. I., Gardner, J. F. J. Bacteriol. 184: 5200-5203 (2002))とを組合わせた方法(WO2005/010175号参照)により、破壊した株である。この株に、pCABD2を導入したのがWC196ΔcadAΔldcC/pCABD2である。
【0068】
目的の形質導入株は、37℃でKm(カナマイシン)(50mg/L)とSm(ストレプトマイシン)
(20mg/L)を含むL−寒天培地上で平板培養し、Km耐性かつSm耐性組換え体を選択することにより取得した。
【0069】
また、これらの株を20mg/Lのストレプトマイシンを含むL培地にて終OD600≒0.6となるように37℃にて培養した後、培養液と等量の40%グリセロール溶液を加えて攪拌した後、適当量ずつ分注し-80℃に保存した。これをグリセロールストックと呼ぶ。
【0070】
〔実施例2〕dapDが破壊されたL−リジン生産菌L−リジン生産能の評価
実施例1で得られた株のグリセロールストックを融解し、100μLを、20 mg/Lのストレプトマイシンを含むLプレートに均一に塗布し、37℃にて24時間培養した。得られたプレートのおよそ1/8量の菌体を、0.5mLの生理食塩水にけん濁し、分光光度計U-2000(日立)で波長600nmの濁度を測定した。得られた菌を含むけん濁液を、500mL坂口フラスコの、20mg/Lのストレプトマイシンを含む発酵培地(MS培地。組成は下記に示す)20mLに、波長600nmの濁度が0.15になるような液量を接種し、往復振とう培養装置で攪拌速度114rpm、温度37℃において約24時間培養した。培養後、培地中に蓄積したL−リジンの量、及び残存しているグルコースをバイオテックアナライザーAS210(サクラ精機)を用いて測定した。また、培地中に蓄積しているグリセロールをバイオテックアナライザーBF-5(王子計測機器)で測定した。
【0071】
〔発酵培地組成、g/L〕
グルコース又はグリセロール 40
(NH4)2SO4 24
K2HPO4 11.0
MgSO4・7H2O 1.0
FeSO4・7H2O 0.01
MnSO4・5H2O 0.01
イーストエキストラクト 2.0
KOHでpH7.0に調整し、115℃で10分オートクレーブ(但しグルコース又はグリセロール、及びMgSO4・7H2Oは別殺菌)後、局方CaCO3 30g/L(180℃で2時間乾熱滅菌したもの)を入れる。20mg/Lのストレプトマイシンを添加した。
【0072】
結果を表1に示す(ODは吸光度660nmで26倍希釈して測定して得られた菌体量、Lys(g/L)はフラスコに蓄積したL−リジン蓄積量、Glucose(g/L)、Glycerol(g/L)は培地中に残存したグルコース、グリセロールの量、yield(%)は基質からのL−リジン収率を示す)。表1から分かるように、WC196ΔcadAΔldcCΔdapD::att-Km/pCABD2株は、dapD遺伝子を欠損していないWC196ΔcadAΔldcC/pCABD2株と比較して多量のL−リジンを蓄積した。
【0073】
【表1】

【0074】
〔配列表の説明〕
配列番号1:E. coli dapDの塩基配列
配列番号2:E. coli DapDのアミノ酸配列
配列番号3:E. coli dapCの塩基配列
配列番号4:E. coli DapCのアミノ酸配列
配列番号5:E. coli dapEの塩基配列
配列番号6:E. coli DapEのアミノ酸配列
配列番号7:E. coli dapFの塩基配列
配列番号8:E. coli DapFのアミノ酸配列
配列番号9:C. glutamicumのddh遺伝子の塩基配列
配列番号10:C. glutamicumのDDHのアミノ酸配列
配列番号11:B. lactofermentumのddh遺伝子の塩基配列
配列番号12:B. lactofermentumのDDHのアミノ酸配列
配列番号13:C. efficiensのddh遺伝子の塩基配列
配列番号14:C. efficiensのDDHのアミノ酸配列
配列番号15:H. arsenicoxydansのddh遺伝子の塩基配列
配列番号16:H. arsenicoxydansのDDHのアミノ酸配列
配列番号17:B. thetaiotaomicronのddh遺伝子の塩基配列
配列番号18:B. thetaiotaomicronのDDHのアミノ酸配列
配列番号19:dapD遺伝子欠失用プライマー
配列番号20:dapD遺伝子欠失用プライマー
配列番号21:E.coli lysCの塩基配列
配列番号22:E.coli LysCのアミノ酸配列
配列番号23: E.coli dapAの塩基配列
配列番号24: E.coli DapAのアミノ酸配列
配列番号25:E.coli dapBの塩基配列
配列番号26:E.coli DapBのアミノ酸配列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
L−リジン生産能を有するエシェリヒア・コリであって、メソ−α,ε−ジアミノピメリン酸合成経路の1又は2以上の酵素の活性が低下するように改変され、かつ、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が導入されたことを特徴とするエシェリヒア・コリ。
【請求項2】
前記メソ−α,ε−ジアミノピメリン酸合成経路の酵素が、2,3,4,5−テトラヒドロピリジン−2,6−ジカルボン酸 N−スクシニルトランスフェラーゼ、スクシニルジアミノピメリン酸トランスアミナーゼ、スクシニルジアミノピメリン酸デスクシニラーゼ、及びジアミノピメリン酸エピメラーゼから選ばれる、請求項1に記載のエシェリヒア・コリ。
【請求項3】
前記2,3,4,5−テトラヒドロピリジン−2,6−ジカルボン酸 N−スクシニルトランスフェラーゼ、スクシニルジアミノピメリン酸トランスアミナーゼ、スクシニルジアミノピメリン酸デスクシニラーゼ、及びジアミノピメリン酸エピメラーゼが、それぞれdapD遺伝子、dapC遺伝子、dapE遺伝子及びdapF遺伝子によりコードされる、請求項2に記載のエシェリヒア・コリ。
【請求項4】
前記遺伝子の発現量を低下させること、又はこれらの遺伝子を破壊することにより、メソ−α,ε−ジアミノピメリン酸合成経路の酵素の活性が低下した、請求項3に記載のエシェリヒア・コリ。
【請求項5】
少なくとも2,3,4,5−テトラヒドロピリジン−2,6−ジカルボン酸 N−スクシニルトランスフェラーゼ活性が低下するように改変された、請求項2〜4のいずれか一項に記載のエシェリヒア・コリ。
【請求項6】
前記ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が、コリネ型細菌のddh遺伝子である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のエシェリヒア・コリ。
【請求項7】
前記2,3,4,5−テトラヒドロピリジン−2,6−ジカルボン酸 N−スクシニルトランスフェラーゼが、下記(A)または(B)に記載のタンパク質である請求項2〜6のいずれか一項に記載のエシェリヒア・コリ。
(A)配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ、2,3,4,5−テトラヒドロピリジン−2,6−ジカルボン酸 N-スクシニルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項8】
前記スクシニルジアミノピメリン酸トランスアミナーゼが、下記(C)または(D)に記載のタンパク質である請求項2〜7のいずれか一項に記載のエシェリヒア・コリ。
(C)配列番号4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質。
(D)配列番号4に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ、スクシニルジアミノピメリン酸トランスアミナーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項9】
前記スクシニルジアミノピメリン酸デスクシニラーゼが、下記(E)または(F)に記載のタンパク質である請求項2〜8のいずれか一項に記載のエシェリヒア・コリ。
(E)配列番号6に示すアミノ酸配列を有するタンパク質。
(F)配列番号6に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失
、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ、スクシニルジアミノピメリン酸デスクシニラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項10】
前記ジアミノピメリン酸エピメラーゼが、下記(G)または(H)に記載のタンパク質である請求項2〜9のいずれか一項に記載のエシェリヒア・コリ。
(G)配列番号8に示すアミノ酸配列を有するタンパク質。
(H)配列番号8に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ、ジアミノピメリン酸エピメラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項11】
前記dapD遺伝子が、下記(a)または(b)に記載のDNAである、請求項3〜10のいずれか一項に記載のエシェリヒア・コリ。
(a)配列番号1の塩基配列を含むDNA、または
(b)配列番号1の塩基配列または同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、2,3,4,5−テトラヒドロピリジン−2,6−ジカルボン酸 N−スクシニルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項12】
前記dapC遺伝子が、下記(c)または(d)に記載のDNAである、請求項3〜11のいずれか一項に記載のエシェリヒア・コリ。
(c)配列番号3の塩基配列を含むDNA、または
(d)配列番号3の塩基配列または同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、スクシニルジアミノピメリン酸トランスアミナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項13】
前記dapE遺伝子が、下記(e)または(f)に記載のDNAである、請求項3〜12のいずれか一項に記載のエシェリヒア・コリ。
(e)配列番号5の塩基配列を含むDNA、または
(f)配列番号5の塩基配列または同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、スクシニルジアミノピメリン酸デスクシニラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項14】
前記dapF遺伝子が、下記(g)または(h)に記載のDNAである、請求項3〜13のいずれか一項に記載のエシェリヒア・コリ。
(g)配列番号7の塩基配列を含むDNA、または
(h)配列番号7の塩基配列または同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ジアミノピメリン酸エピメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項15】
前記ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼが、下記(I)または(J)に記載のタンパク質である請求項2〜14のいずれか一項に記載のエシェリヒア・コリ。
(I)配列番号10、12、14、16、または18に示すアミノ酸配列を有するタンパク質。
(J)配列番号10、12、14、16、または18に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項16】
前記ddh遺伝子が、下記(i)または(j)に記載のDNAである、請求項3〜13のいずれか一項に記載のエシェリヒア・コリ。
(i)配列番号9、11、13、15、または17の塩基配列を含むDNA、または
(j)配列番号9、11、13、15、または17の塩基配列または同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項17】
さらに、L−リジンによるフィードバック阻害が解除されたジヒドロジピコリン酸合成酵素、及びL−リジンによるフィードバック阻害が解除されたアスパルトキナーゼを保持し、かつ、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ活性が増強された、請求項1〜16のいずれか一項に記載のエシェリヒア・コリ。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の細菌を培地中で培養し、該培地からL−リジンを採取することを特徴とする、L−リジンの製造法。

【公開番号】特開2010−226956(P2010−226956A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190795(P2007−190795)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】