説明

Lモードガイド波センサとその使用方法

【課題】小型化が可能になるとともに、強磁性材料以外の材料で形成されている物についても検査することを可能にするLモードガイド波センサを提供する。
【解決手段】Lモードのガイド波を用いて被検査体を検査するためのLモードガイド波センサ10。被検査体1に取り付けられる振動子3と、振動子3に巻かれ交流電圧が印加されるコイル5とを備える。振動子3は、強磁性材料により形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Lモード(Longitudinal mode)のガイド波を用いて被検査体を検査するLモードガイド波センサに関する。なお、Lモードのガイド波は、その伝播方向に振動しながら被検査体中を伝播する。また、当該ガイド波の周波数は、例えば、1kHz〜数百kHz(一例では、32kHz、64kHz、128kHzなど)である。
【背景技術】
【0002】
Lモードのガイド波は、例えば、図1の構成により発生させられる。図1において、コイル21が被検査体1(図では配管)に巻かれており、磁石23が被検査体1に取り付けられている。この状態で、コイル21に交流電流を流すと、交流磁場が発生する。この交流磁場による磁力と磁石23による磁場を利用して、強磁性体である被検査体1を磁歪効果により振動させ、これにより音波の一種であるガイド波を発生させる。発生したガイド波は、被検査体1中をその長手方向に沿って伝播していく。
【0003】
ガイド波の反射波を検出することで、被検査体1の健全性を検査する。ガイド波は、被検査体1における不連続部や、被検査体1の断面積変化などによって反射波として反射される。この反射波を検出することで、被検査体1の健全性を検査する。被検査体1の健全性として、例えば、被検査体1の傷または腐食のなどの欠損部分の有無を検査する。
【0004】
このようなガイド波は、一般の音波検査で用いる音波と比較して、減衰が少なく、被検査体1の広範囲にわたって被検査体1の健全性を検査できる。一般の音波検査において使用する音波は、例えば、周波数が5MHzと高く波長が0.6mmと小さいため、減衰しやすい。これに対し、上述のようなガイド波は、例えば、周波数が数kHz〜数十kHzと小さく波長が100mmと大きいので、減衰しにくい。
【0005】
本願の先行技術文献として、例えば下記の特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−36516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Lモードのガイド波を用いた検査において、以下の問題(A)、(B)があった。
【0008】
(A)装置が、次のように大型化してしまう。図1の構成では、コイル21を被検査体1に巻くので、被検査体1が大きい場合には、コイル21の寸法も大きくなってしまう。同様に、被検査体1が大きい場合には、強磁性体である被検査体1内の磁場を保持できる磁力を有する大型の磁石23が必要であった。このように、コイル21や磁石23の寸法が大きくなってしまう。
【0009】
(B)被検査体1に、Lモードのガイド波を発生させるためには、被検査体1が強磁性材料で形成されている必要があった。そのため、強磁性材料以外の材料で形成されている物については、Lモードのガイド波により検査ができなかった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、小型化が可能になるとともに、強磁性材料以外の材料で形成されている物についても検査することを可能にするLモードガイド波センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するため、本発明によると、Lモードのガイド波を用いて被検査体を検査するためのLモードガイド波センサであって、
被検査体に取り付けられる振動子と、
振動子に巻かれ、交流電圧が印加されるコイルと、を備え、
前記振動子は、強磁性材料により形成されている、ことを特徴とするLモードガイド波センサが提供される。
【0012】
本発明の好ましい実施形態によると、前記振動子には、磁石が取り付けられており、
該磁石において、前記コイルの軸方向一方側がS極となっており、前記コイルの軸方向他方側がN極となっている。
【0013】
好ましくは、前記振動子は、薄板状に形成されている。
【発明の効果】
【0014】
上述した本発明によると、被検査体に取り付けられる振動子を強磁性材料で形成し、この振動子にコイルを巻くようにしたので、コイルの寸法を被検査体の寸法に合わせる必要がない。従って、Lモードガイド波センサを小型化することが可能となる。
また、被検査体とは別個の強磁性体である振動子自体に、コイルによる交流磁場を印加することで、振動子を振動させ、これにより、被検査体にガイド波を発生させる。従って、強磁性材料以外の材料で形成されている物も、被検査体とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】Lモードのガイド波を発生させるために従来用いていた装置を示す。
【図2】本発明の実施形態によるLモードガイド波センサを被検査体に取り付けた状態を示す。
【図3】図1におけるLモードガイド波センサ付近の部分拡大図である。
【図4】本発明の実施形態によるLモードガイド波センサを示す斜視図である。
【図5】複数のLモードガイド波センサによりガイド波を多チャンネル化する場合を示す。
【図6】振動子と被検査体の間に接触媒質を設けた場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0017】
図2(A)は、本発明の実施形態によるLモードガイド波センサ10を被検査体に取り付けた状態を示す。図2(B)は、図2(A)の2B−2B矢視断面図である。
図3(A)は、図2(A)におけるLモードガイド波センサ10付近の部分拡大図である。図3(B)は、図3(A)の3B−3B矢視断面図である。
図4(A)は、Lモードガイド波センサ10において、振動子3と磁石7とを分離した状態を示す斜視図である。図4(B)は、Lモードガイド波センサ10の斜視図である。
【0018】
Lモードガイド波センサ10は、Lモードのガイド波を用いて被検査体1を検査するための装置である。Lモードガイド波センサ10は、振動子3、コイル5、および磁石7を備える。
【0019】
振動子3は、強磁性材料で形成されている。好ましくは、図3のように、振動子3を、薄く(薄板状に)形成する。これにより、振動子3が小型であっても、振動子3の振動が、被検査体1へより伝わりやすくなるように、振動子3と被検査体1との接触面積を大きくすることができる。
図3、図4の例では、振動子3における被検査体1に接触する接触面3aは、平面であるが、曲面であってもよい。すなわち、振動子3を薄く(薄板状に)形成する場合、振動子3の接触面3aは、接触面3aが取り付けられる被検査体1の表面の曲面形状に整合した曲面であってもよい。これにより、振動子3の接触面3a全体を被検査体1に密着させることができる。
振動子3は、適宜の手段(テープや接着剤)などで被検査体1に取り付けてよい。ただし、被検査体1が磁性材料で形成されている場合には、振動子3に取り付けられた磁石7の磁力を利用して、振動子3を被検査体1に取り付けることができる。
【0020】
コイル5は、振動子3に巻かれている。コイル5には、交流電圧が印加される。
【0021】
磁石7は、振動子3に取り付けられている。磁石7において、コイル5の軸方向一方側がS極となっており、コイル5の軸方向他方側がN極となっている。磁石7は、強磁性体(振動子3)内の磁場を保持するだけの磁力を有していればよい。磁石7は、永久磁石であるのがよい。磁石7は、振動子3の接触面3aと反対側の面3bに取り付けられる。
また、磁石7は、振動子3と同様に薄く(薄板状)に形成するのがよい。これにより、磁石7による磁場を、振動子3内に効率よく作用させることができる。この場合、振動子3の面3bに取り付けられる磁石7の取付面7aは、振動子3における面3bの形状に整合した形状であるのがよい。これにより、磁石7の取付面7a全体を被検査体1に密着させることができる。
【0022】
振動子3、コイル5および磁石7は、接着剤などの適宜の結合手段により、一体として結合されているのがよい。
【0023】
Lモードガイド波センサ10は、図4のように、交流電源9、および検出装置11をさらに備える。交流電源9は、コイル5に交流電圧を印加する。検出装置11は、コイル5の両端間の電圧を検出できるようにコイル5に接続されている。なお、図2、図3では、交流電源9と検出装置11の図示を省略している。
【0024】
図2、図3のように、コイル5が巻かれ磁石7が取り付けられた振動子3を被検査体1に取り付けた状態で、適宜のスイッチをオンすることで、交流電源9がコイル5に交流電圧を印加する。これにより、振動子3が振動して、Lモードのガイド波が被検査体1中に発生し、かつ、当該ガイド波が被検査体1内を伝播していく。このように伝播していったガイド波が、被検査体1における傷や腐食(減肉)などの欠陥部位で反射して、振動子3の位置へ戻って来る。反射波が振動子3の位置に到達することでコイル5の両端間に発生する電圧を検出装置11により検出する。
【0025】
上述した本実施形態のLモードガイド波センサ10によると、以下の効果(1)〜(7)が得られる。
【0026】
(1)被検査体1に取り付けられる振動子3を強磁性材料で形成し、この振動子3にコイル5を巻くようにしたので、コイル5の寸法を被検査体1の寸法に合わせる必要がない。従って、Lモードガイド波センサ10を、図1の場合と比較して格段に小型化することが可能となる。
【0027】
(2)被検査体1とは別個の強磁性体である振動子3に、コイル5による交流磁場を印加することで、振動子3を振動させ、これにより、被検査体1にガイド波を発生させる。従って、強磁性材料以外の材料で形成されている物も、被検査体1とすることができる。
【0028】
(3)磁石7の磁力を、従来の場合と比較して大幅に小さくすることができるので、磁石7を小型化することができる。従来では、図1のように、強磁性体である被検査体1内の磁場を保持できる磁力を有する大型の磁石が必要であった。これに対し、本実施形態では、小型の振動子3(強磁性体)内の磁場を保持するだけの磁力を有する磁石7であればよいので、磁石7を小型化できる。
【0029】
(4)振動子3、コイル5および磁石7は、接着剤などの適宜の結合手段により、一体化されているので、振動子3、コイル5および磁石7の取り扱いが容易になる。この場合、一体化した振動子3、コイル5および磁石7を、交流電源9および検査装置11とコイル5が接続可能なLモードガイド波センサ10とすることができ、当該Lモードガイド波センサ10を、交流電源9および検査装置と切り離した製品として販売することもできる。
【0030】
(5)Lモードガイド波センサ10を小型化することができるので、次のように、被検査体1の多様な形状にも対応可能となる。従来では、被検査体1は、ガイド波発生に必要な分だけコイルが巻き付けられる形状(例えば、円筒形状)を有している必要があった。これに対し、本実施形態では、被検査体1に、小型の振動子3を取り付ければよい。従って、本実施形態では、被検査体1の形状に制限されることなく、様々な形状(例えば、大型の平板)を有する物を被検査体1にすることができる。
【0031】
(6)Lモードガイド波センサ10を小型化することができるので、被検査体1の狭隘部にもLモードガイド波センサ10を取り付けることができる。
【0032】
(7)Lモードガイド波センサ10を小型化することができるので、図5のように、複数のLモードガイド波センサ10を、被検査体1上に配列させて、被検査体1に取り付けることができる。これにより、Lモードガイド波の多チャンネル化(図5では、チャンネルCH1〜CH4)が可能となる。なお、図5では、各Lモードガイド波センサ10の交流電源9と検査装置11の図示を省略している。
【0033】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、下記の変形例1〜3を、適切に組み合わせて、または、単独で採用してもよい。
【0034】
(変形例1)
図3の例では、振動子3を被検査体1に直接取り付けていたが、図6のように接触媒質13を介して振動子3を被検査体1に取り付けてもよい。図6(A)は、図3(A)に対応するが、接触媒質13を設けた場合を示す。図6(B)は、図6(A)の6B−6B矢視断面図である。
接触媒質13により、振動子3と被検査体1との接触面積が大きくとれない場合でも、振動子3と被検査体1との間の振動伝達性を良好にすることができる。接触媒質13は、振動子3と被検査体1とを結合させる接着剤、テープなどの変形可能な固体、振動子3と被検査体1との間の空間を埋める液体であってよい。接触媒質13として固体を用いる場合には、接触媒質13は、振動子3と被検査体1との両方に密着できる形状を有するのがよい。接触媒質13として液体を用いる場合には、適宜の手段(例えば、前記空間を囲むように被検査体1に接着したシール材)により、振動子3と被検査体1との間の前記空間に液体を保持するのがよい。
【0035】
(変形例2)
磁石7は、永久磁石であったが、電磁石であってもよい。この場合、磁石7は、固体部分(好ましくは、磁性材料で形成された芯部)と、該固体部分に巻かれたコイルとからなる。また、該コイルに直流電流を流すことで、磁場を振動子3に作用させる。
【0036】
(変形例3)
磁石7を省略してもよい。すなわち、交流電圧をコイル5に印加することで、強磁性体の振動子3に生じる磁場を利用して、Lモードのガイド波を被検査体1に伝播させること可能である。この場合には、磁石7を省略してもよく、他の点は、上述と同じである。
【符号の説明】
【0037】
1 被検査体、3 振動子、3a 振動子の接触面,5 コイル、7 磁石、9 交流電源、10 Lモードガイド波センサ、11 検出装置、13 接触媒質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Lモードのガイド波を用いて被検査体を検査するためのLモードガイド波センサであって、
被検査体に取り付けられる振動子と、
振動子に巻かれ、交流電圧が印加されるコイルと、を備え、
前記振動子は、強磁性材料により形成されている、ことを特徴とするLモードガイド波センサ。
【請求項2】
前記振動子には、磁石が取り付けられており、
該磁石において、前記コイルの軸方向一方側がS極となっており、前記コイルの軸方向他方側がN極となっている、ことを特徴とする請求項1に記載のLモードガイド波センサ。
【請求項3】
前記振動子は、薄板状に形成されている、ことを特徴とする請求項1または2に記載のLモードガイド波センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−232135(P2011−232135A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101817(P2010−101817)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【特許番号】特許第4568377号(P4568377)
【特許公報発行日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000198318)株式会社IHI検査計測 (132)
【Fターム(参考)】