説明

LAK−T細胞におけるトランスジェニックT細胞レセプターの発現

本発明はLAK−T細胞に向けられており,それはトランスジェニックT細胞受容体(tg−TCR)によって形質転換されている。本発明は,更に,トランスジェニックT細胞を産生する方法,これら細胞を含んでなる医薬組成物,及び,LAK−T細胞又はその医薬組成物を,血液学的悪性腫瘍若しくは固形腫瘍又は急性若しくは慢性の感染症又は自己免疫疾患の治療ために,養子細胞療法において使用することに向けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,トランスジェニックT細胞受容体(tg−TCR)によって形質転換されたLAK−T細胞に関する。本発明は,更に,これらトランスジェニックT細胞を創り出す方法,これら細胞を含む医薬組成物,及び,LAK−T細胞又はその医薬組成物を血液学的悪性腫瘍若しくは固形腫瘍又は急性若しくは慢性の感染症又は自己免疫疾患の治療ため,養子細胞療法において使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
同種異系の幹細胞移植(SCT)の際のリンパ球の養子移植は,血液学的悪性腫瘍の根絶に対する免疫系の力を示した(Kolb et al.,1995)。SCTは,いくつかのケースにおいては,腎細胞癌(RCC)の如き固形腫瘍を排除するように機能することができるようにも思われる(Kolbらにおいて2004年に,及び,Dudley及びRosenbergにおいて2003年に,総説されている)。SCTのレシピエントにおいて,悪性細胞の除去は,移植レシピエントにおける新しい造血システムの発生の後に特異的T細胞がその生体内で活性化され且つ十分な数に増大されなければならないがために,数カ月から1年までの期間を経た後でなければ起こらない可能性がある。別法として,免疫寛容がSCTレシピエントにおいて確立される期間(ほぼ60日)の後,腫瘍細胞に対する免疫応答のスピードアップのために,非感作でかつ非分離の白血球を移植することができる。ここで再び,腫瘍細胞を攻撃する能力のある特異的リンパ球が,移植された非選択の全白血球群の中に低頻度にしか存在しない前駆体リンパ球から,活性化され増加されなければならない。SCTの後に非選択の全リンパ球群をドナー白血球注入(DLI)することは,ゆっくり進行する慢性骨髄性白血病(CML)の除去のためには,よく機能する。しかし,悪性細胞の成長が免疫細胞の増加能力を凌いでいるという事実に一部起因して,急性白血病の除去では効果が落ちる。この同じ増加の格差が,急速に進行している固形腫瘍に対して免疫的除去の効果が乏しいということに,影響を及ぼしている。DLIにおいて非選択の全白血球群を使用することの2つ目の不利益は,レシピエントの正常な細胞及び組織を攻撃する能力を有するT細胞も移植されるかもしれず,その結果,高い発病率及び死亡率を有する移植片対宿主疾患(GVHD)がもたらされ得ることである。
【0003】
最近の研究は,特定の腫瘍関連特異性を有する選択されたT細胞の養子移植が,患者が骨髄非破壊療法(Dudley,et al., 2002, 2003)によって前処置されている場合には特に,自家移植における腫瘍量を大きく減少できることを示している。これは,腫瘍患者にSCTを実行する必要をなくさせるし,また,それにより,GVHDの問題も回避する。自家腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)の混合物の移植で前処置されたメラノーマ患者において,有効な免疫応答が観察された。これらの細胞混合物は,CD4及びCD8陽性のT細胞を含んでおり,特定の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)−腫瘍関連抗原(TAA)リガンドに特異的な多数のCD8T細胞クローン単独の養子移植より,臨床的に有効であるように見える。この違いに寄与している1つの要因は,長命のCD8T細胞を生体内で維持させるために,CD4T細胞を持つ必要があるということである。更にまた,単一リガンドに向けられた免疫応答は,対応するリガンドを発現しなくなっている腫瘍細胞変異株の選択を導く結果となり得,それにより,かかる変異株は免疫による検出を逃れることができる。他方で,腫瘍浸潤リンパ球の中に存在するものとしてのT細胞の複合混合物の移植は,複数の特異性を有するCD4細胞及びCD8細胞を提供することによって,これらの課題を解決することができるが,かかる移植は,正常組織によって発現されたリガンドを認識するT細胞をTILの混合物が含む場合には,自己免疫をもたらす結果ともなり得る。このことは,例えば,メラニン細胞でも発現しているものであるメラノーマ分化抗原を認識する細胞を用いた養子細胞療法(ACT:adoptive cell therapy)の後に,通常のメラニン細胞への攻撃により,当該メラノーマ患者に白斑が生じることによって示される(Dudley et al., 2002)。
【0004】
より急速に増殖する腫瘍患者の治療にACTを使用できるようにするためには,正常組織への重篤な攻撃を回避しつつ腫瘍細胞を効果的に攻撃するよう,リガンド特異性につき選択されかつ富化された,ペプチド特異的なエフェクターT細胞(CD4ヘルパーT細胞及び細胞毒性Tリンパ球の両方)を移植することが,一つの目標点である。これらの細胞は,生体外で急速にかなりの数に増加させられ,次いでACTのために用いられることになる。あるいは,そのようなリガンド特異的なT細胞のT細胞受容体(TCR)を,レシピエントの末梢血リンパ球又は定義づけられた特異性を有する活性化Tされた細胞クローン(よく成長し,宿主の正常組織を攻撃する能力を有しない)を使用して,活性化リンパ球において,TCR−導入遺伝子としてクローン化し,発現させることができる。
【0005】
米国特許出願20020090362(特許文献1)は,患者を治療する方法であって,患者に,細胞表面上のHLAクラスI(又は等価な)分子により提示される抗原分子の少なくとも一部を認識する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)であり当該患者由来のものではない細胞傷害性Tリンパ球の治療上有効な量を投与することを含むものである方法を開示している。この特許出願は,CTLのドナーからみて同種異系であるか又は異種でさえある刺激細胞の使用を記載している。更に,米国特許出願20020090362は,好ましくは,選択された分子(ペプチド)をローディング(loading)することができない刺激細胞を開示し,特に,TAP欠乏の刺激細胞の使用を開示する。
【0006】
MHCによる拘束を受けない免疫応答を示す細胞の例としては,リンホカイン活性化キラー(LAK)細胞がある。それらは,さまざまな腫瘍細胞並びにHLAクラスI陰性の標的細胞も溶解する,活性化されたナチュラル・キラー(NK)細胞及びMHC非拘束性T細胞の混合物である。活性化されたNK細胞(LAK群に存在するもののような)は,MHCクラスI分子との相互作用の後,その細胞溶解性機能が阻害される。
【0007】
LAK細胞は,CD3-NK細胞及びCD3+T細胞の混成群であり,いずれもCD4サブセット及びCD8サブセットのものである。LAK細胞の特徴は,MHCに拘束されない様式で,様々な腫瘍細胞を溶解する能力である。加えて,LAK細胞は,MHC非拘束性の細胞傷害性エフェクター細胞の識別のための一般的基準としての役目を果たす,クラスI陰性の標的細胞(例えばDaudi及びK562)を殺することができる。LAK群のCD3-及びCD3+画分への分離により,NK細胞及びT細胞のいずれもが,クラスI陰性の標的細胞及び様々な異なる腫瘍細胞を溶解できるということが明らかにされた。更に,LAK−T細胞は,標的細胞上の特定のMHCクラスI分子の発現によって阻害され得る。
【0008】
実際面では,LAK細胞は,他のMHC非拘束性T細胞/NK細胞に勝る1つの大きな利点を示す。それは,かかる細胞が生体外で比較的簡単な方法により,産生できることである。LAK細胞は,末梢血単核細胞(PBMC)から,高用量インターロイキン−2(IL−2)の存在下,生体外培養を経て誘導することができる。この方法は,1人のドナーからの細胞と1つのサイトカインとを使用するだけであることから,ヒトNK細胞やMHC非拘束性のCD4+及びCD8+T細胞を産生するその他の方法,例えば末梢血全リンパ球(PBL)群混合物の同種異系刺激によるもの等より優れている。
【0009】
EP1275400(特許文献2)は,MHC非拘束性のT細胞/NK細胞をMHC拘束性T細胞との組合せで含んでいる治療組成物,特に,LAK細胞を含む治療組成物に向けられている。ヒトの腫瘍(それらはMHCクラス1a又は1b分子の発現の欠損,低下若しくは異常を示す)の治療における上記の組合せの使用が開示されている。上記組成物/組合せの使用により,さもなければ免疫検出を免れることになったであろう腫瘍細胞変異株の出現に対抗する方向の,平衡のとれた選択圧をかけることが可能である。しかし,トランスジェニックTCRの発現については,この特許には開示されていない。
【0010】
トランスジェニックTCRを発現しているT細胞を使用する現行のアプローチは,レシピエント細胞が患者の正常組織を攻撃する結果となり,そのため自己免疫疾患又はGVHDを導き得る,という問題を抱えている。この問題に対する1つの解決策は,内因性TCRの正確な特異性が知られている場合,選択されたT細胞株又はクローンを使用することである。しかしながら,これには,時間及びコストがかかり,また,医薬品製造基準(GMP)に直ちには準拠しない選択プロセス(例えば,テトラマー(tetramers)やストレプタマー(streptamers))を必要とするかもしれない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願20020090362
【特許文献2】EP1275400
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って,本発明の目的は,病原性因子上のMHC−ペプチド・リガンドを認識する能力を有するtg−TCRを持つT細胞であって,多数を比較的短い期間に産生することができ,且つ自己免疫疾患又は移植片対宿主疾患を引き起こすリスクのないT細胞を提供することである。更に,本発明の課題は,養子細胞移植において使用することができる,抗原特異性T細胞の迅速な産生のための方法を提供することである。更にまた,本発明の課題は,移植片対宿主疾患若しくは自己免疫のリスクなしに疾病に罹っている患者の治療に供することのできる,MHC非拘束性T細胞に基づく医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
これらの課題は,独立クレームの主題によって解決される。好ましい具体例は,従属クレームに記載される。
本発明は,リンフォカイン活性化T細胞(LAK−T細胞)を用いることにより,どちらの課題も解決する。
第1に,リンフォカイン刺激の使用,例えばIL−2又はIL−15のようなサイトカインの使用により,短い期間(1〜2週間)で,そのような細胞を多数提供することができる。
第2に,LAK−T細胞は,MHCクラスI分子の発現が(腫瘍細胞においてよくあるように)低いか若しくは異常な標的細胞を認識して,効率的に殺す特性を有する。一方で,それらは,MHCクラスI分子を通常のレベルで発現する正常な体細胞への傷害という点では,抑制されている。
【発明の効果】
【0014】
従って,LAK−T細胞が腫瘍特異性を有するT細胞受容体を発現するようにトランスフェクトされている場合には,それらは,対応するtg−TCRリガンドを発現している腫瘍細胞を殺すために,よりよく活性化される筈である一方で,それらは,LAK−T細胞の機能を停止させるMHC分子を十分に発現することによって保護されている正常細胞を過度に攻撃しない筈である。
【0015】
これによって,先行技術のアプローチによる以下の不利な点を回避することができる:
定義づけられた抗原特異性を有するT細胞株又はクローンを,tg−TCRのレシピエントとして,各患者に使用するために選択することは:
・そのような細胞を分離するのに時間がかかる
・技術的に常に実行可能とは限らず,従って,一部の患者が治療を受けられないかもしれない
・試薬や作業要員のため高コストである
・GMP基準に従うのが難しい,又は,
・MHCクラスI分子による負の制御を受けておらず,かつ様々な内因性TCRを発現している非選択の活性化リンパ球の移植は,自己免疫又はGVHDを引き起こす場合がある。
【0016】
本発明の概念にとって重要なことは,TCR導入遺伝子のレシピエントであるT細胞が,標的細胞を,MHC発現に依存することなく殺し,また自らのT細胞受容体に依存することなくこれを実行し,そして,最も重要なことは,これらT細胞が,MHCクラスI分子によって負の制御を受けなければならない(質的,又は,量的のいずれかによって)ということである。正常組織を潜在的な自己免疫攻撃から保護するのは,この後者の特性である。
【0017】
LAK−T細胞は,自己MHCクラスI分子によって負の制御を受けるという特徴を有し,従って,特異性未知の様々な異なる内因性TCR有するTCR−トランスジェニックリンパ球による望まざる攻撃から正常細胞を保護するよう,この自然の機構を利用することが可能である。tg−TCRを有するレシピエント細胞は,MHCクラスI分子による負の制御を克服するよう,適当な腫瘍細胞によるトランスジェニックTCRのシグナリングを通じて活性化できるが,自己MHC分子を発現しているがトランスジェニックTCR−リガンドは発現していない正常細胞による,その阻害性受容体に対するシグナリングを通して負の制御を受ける能力をまだ保持している。臨床の場におけるそのようなT細胞の使用は,トランスジェニックTCRによる認識から逃れるかもしれないMHCクラスIアロタイプを異常に発現している腫瘍細胞をも攻撃することができる,という潜在的利点をもたらす。
【0018】
LAK−T細胞をレシピエントとして使用すること,及び,それらに所望の特異性をもつtg−TCRsを提供するという二つのアプローチの組合せは,短い期間内で多数の活性化リンパ球を得るという可能性を提供し,それは,正常組織を自己免疫による損傷から保護するために,負のMHC制御を利用する(図1を参照)。本発明のアプローチは,従って,すべての患者にとって,速く,安価に,利用可能であって,クローズド・バッグ・システム(closed bag system)に適合させることができるものである。tg−TCRリガンドをもはや発現しない腫瘍変異株が出現しても,それらは,LAK−Tを介したMHC非拘束性の傷害に,依然として感受性を有する筈である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は,本発明の利点を説明している: LAK−T細胞は,活性化レセプタ(AR),阻害性レセプタ(IR)及び内因性TCR(図示せず)を発現している。正常細胞は,ARを刺激する活性化リガンド(AL)を発現していない一方,IRを刺激するMHCクラスIリガンドを発現しているため,傷害から保護されている((A)を参照)。(B)において,腫瘍細胞は,LAK−T細胞がMHCクラスI分子によってそれらのIRに届けられる信号より大きい信号をそれらのARに受信するときに,内因性TCRに依存しない方法で,LAK−T細胞によって,殺される。更に,トランスジェニックTCR(tg−TCR)を発現したLAK−T細胞は,腫瘍細胞を,(B)に記載されているメカニズムにより殺すことができ,更に,そのtg−TCRによるペプチド−MHCリガンドの認識を通して,活性化される((C)を参照)。(D)もし腫瘍細胞変異株がtg−TCRに対するペプチド−MHCリガンドの発現を失っても,当該変異株は,依然として,IRによる阻害より大きいARの活性化を通じたLAK−Tによる傷害に対し,感受性を有するままである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
第1の側面によれば,本発明は,トランスジェニックT細胞レセプター(tg−TCR)によって形質転換されたLAK−T細胞を提供する。
上記のとおり,いくつかの利点を,図1に,そして概説として上記に示されているように,tg−TCRで形質転換されたLAK−T細胞の使用から導き出すことができる。
好ましい具体例において,LAK−T細胞は,好ましくはCD4又はCD8サブタイプの,活性化されたリンホカイン活性化キラー(LAK)T細胞である。
【0021】
本発明のLAK−T細胞は,好ましくは,tg−TCRをコードしているベクターによって,形質転換されている。このベクターは,好ましくは,本発明による核酸及び1つ又は2つ以上の調節性の核酸配列を含む発現ベクターである。好ましくは,このベクターは,プラスミド又はレトロウイルス・ベクターである。
【0022】
レトロウイルス・ベクターは,最も好ましいベクターの一つである。使用されるレトロウイルス・ベクターの例として,マウス骨髄増殖性の肉腫ウイルス(MPSV)に基づくレトロウイルス・ベクター,例えばレトロウイルス・ベクターMP71−GFP−PREを挙げることができ(Engels et al. Hum. Gene Ther., 2003),そして,ベクター粒子が,文献記載のとおりに生産される(Engels et al. Hum. Gene Ther., 2005 Sommermeyer et al. Eur. J. Immunol 2006)。
【0023】
別法として,tg−TCRは,電気穿孔法(エレクトロポレーション)により,TCRをコードする核酸を前記T細胞に転移することによって,活性化されたT細胞に導入される。例えば,最近報告されたように,生体外で転写されたRNAを,TCRα鎖及びTCRβ鎖をコードしているcDNAから調製して,活性化されたT細胞内にエレクトロポレーションで入れることができる(Zhao et al. Mol. Ther., 2006)。
【0024】
LAK−T細胞を形質転換するためのtg−TCRは,予め所定のMHC−抗原複合体に特異的である。
これらの抗原は,好ましくは,ウイルス,細菌,原生動物及び寄生虫に由来する病原性因子の他,腫瘍細胞若しくは腫瘍細胞関連抗原,自己抗原,又はその機能部分から選択される。
ウイルスは,好ましくは,インフルエンザウイルス,麻疹及びRSウイルス,デング熱ウイルス,ヒト免疫不全ウイルス,ヒト肝炎ウイルス,ヘルペスウイルス,又はパピローマウイルスからなる群から選択される。原生動物は,Plasmodium falciparumでもよく,細菌は,結核を引き起こすマイコバクテリウム属細菌でもよい。
腫瘍関連抗原は,好ましくは,血液学的悪性腫瘍又は固形腫瘍,より好ましくは,結腸癌,乳癌,前立腺癌,腎細胞癌(RCC),肺癌,肉腫又はメラノーマの細胞から選択される。
【0025】
本発明のMHC非拘束性T細胞は,好ましくは,末梢血からの混合全リンパ球群を,インターロイキン−2(IL−2)及び/又はインターロイキン−15(IL−15)の存在下,生体外培養することにより得られる。
【0026】
第2の側面において,本発明は,次の工程を含むトランスジェニックLAK−T細胞の産生方法を提供する。
a) 混合全リンパ球群を用意すること;
b) それらリンパ球を,適当な手段によって活性化させること;
c) 活性化された細胞を,富化(enriching)化し,そこからLAK−T細胞を単離すること;
d) 単離されたLAK−T細胞を,予め所定のMHC−抗原複合体に特異的なトランスジェニックTCRをコードする核酸で形質転換すること。
【0027】
ステップa)において,全リンパ球群は,好ましくは,末梢血から得られる。実施例の章の「スタート点の全リンパ球群」の章を参照。
特に,2つのリンパ球源を,MHC非拘束性エフェクター細胞の発生のために使用することができる。第1には,リンパ球は無菌の末梢血サンプルから単離することができ,また,代わりとしては,多数のリンパ球が必要とされるときには,白血球搬出法(leukapheresis)及びその後の洗浄を経て得ることができ,それにより10〜20倍多いリンパ球を得ることができる。何れの方法も,本発明方法のステップa)を実践する方法として適当である。
【0028】
ステップb)において,活性化は,好ましくは,本発明のリンパ球を,好ましくはインターロイキン−2(IL−2)及び/又はインターロイキン−15(IL−15)の存在下,生体外培養により活性化して実施することができる。
【0029】
ステップc)において,活性化された細胞は富化され,そしてLAK−T細胞はリンパ球の混合物から単離される。富化は,例えば,市販の試薬(Dynal Biotech, Oslo, Norway)を,製造業者の指示(Falk et al. Cancer Res. 2002)に従って用いて,他のリンパ球サブセット(例えば,NK細胞,B細胞及び調節性T細胞)を減少させることによって実行することができる。富化の工程は,適当な手段,例えば,特異的な抗体によって制御することができ,そして富化は,必要なら1回又は2回以上繰り返してもよい。
【0030】
上記したように,本発明の核酸は,好ましくは,ベクターに取り込まれており,より好ましくは,かかるベクターは,プラスミド又はレトロウイルス・ベクターから選択される。
代わりの方法として,tg−TCRは,上記したように,TCRをコードする核酸をエレクトロポレーションによって前記T細胞に移転させることにより,活性化されたT細胞に導入することができる。詳細は,実施例の章を参照。
【0031】
第3の側面において,上記方法によって得ることのできるLAK−T細胞が提供される。
【0032】
更なる側面において,上記で得られるLAK−T細胞及び薬学的に許容される担体を含んでなる医薬組成物が提供される。
【0033】
本発明のLAK−T細胞は,好ましくは,許容される担体又は担体物質と混ぜ合わせた医薬組成物の形で,疾患を治療又は少なくとも軽減できる用量で,使用される。そのような組成物は,(有効成分及び担体に加えて)充填剤,塩類,緩衝剤,安定化剤,可溶化剤及びその他の物質を含むことができ,それらは知られた従来技術である。
【0034】
「薬学的に許容される」の語は,有効成分の生物学的活性の効果を妨げない無毒性物質であることを意味しており,担体の選択は,各適用例により異なる。
【0035】
医薬組成物は,有効成分の活性を強化する又は治療を補う追加成分を含むことができる。そのような追加成分及び/又は要素は,相乗効果を達成するか又は副作用若しくは望まない作用を最小化する医薬組成物の一部であることができる。
【0036】
本発明の有効成分を製剤又は調剤及びその応用/治療に適用するための技術は,”Remington‘s Pharmaceutical Sciences”,Mack Publishing Co., Easton, PAの最新版に,記載されている。適切な応用は,例えば,筋肉内,皮下,髄内への注射の他,クモ膜下,直接心室内,静脈内,結節内,腹腔内又は腫瘍内への注射等の,非経口投与である。静脈内注射は,患者の好適な治療法である。
【0037】
本発明の医薬組成物は,好ましくは養子細胞療法のための薬剤の製造のために,特に,血液学的悪性腫瘍若しくは固形腫瘍又は急性若しくは慢性感染症又は自己免疫疾患の治療のために用いられる。
【0038】
本発明は,以下の実施例及び図で説明される。
図1は,トランスジェニックTCRのためのレシピエント・リンパ球としての,MHC非拘束性T細胞を示している。(A)MHC非拘束性T細胞(LAK−T細胞)は,活性レセプタ(AR),阻害レセプタ(IR)及び内因性TCRs(図示せず)を発現している。正常細胞は,ARを刺激する活性化リガンド(AL)を発現せず,IRを刺激するMHCクラスIリガンドを発現しているため,傷害から保護されている。(B) 腫瘍細胞は,LAK−T細胞がMHCクラスI分子によってそのIRに分配されるより大きい信号をそのARに受信するとき,内因性TCRに依存しない方法で,LAK−T細胞によって殺される。(C) トランスジェニックTCRs(tg−TCRs)を発現しているLAK−T細胞は,腫瘍細胞を,Bに記載されているメカニズムにより傷害することができ,更に,そのtg−TCRによるペプチド−MHCリガンドの認識を通して,活性化される。(D) 腫瘍細胞変異株がtg−TCRに対するペプチド−MHCリガンドの発現を失う場合であっても,当該変異株は,依然として,IRによる阻害より大きいARの活性化を通じたLAK−Tによる傷害に対し,感受性を有するままである。
【実施例】
【0039】
MHC非拘束性エフェクターT細胞の産生
スタート点の全リンパ球群
リンパ球の2つのソースが,MHC非拘束性エフェクター細胞を発生させるために使用できる。1) リンパ球は,無菌の末梢血液サンプルから標準のフィコール勾配分離手法を使用して,単離することができる。このプロセスは,300〜500mLの血液サンプルで,6x108迄のリンパ球を得るのに適している。あるいは,同様に,リンパ球の単離には,バフィー・コート細胞のフィコール法による分離を使用することができる。2) より多数のリンパ球が必要な場合には,白血球搬出法の後洗浄することにより得ることができ,10〜20倍多いリンパ球を得ることができる。白血球搬出法による生成物は,例えば,COBE Spectra(Gambro BCT, Lakewood, CO, USA)装置を使用し,製造業者の指示に従って,修正された単核細胞プログラム(バージョン6.1)を180分間実行することにより,得ることができる。その後,逆流遠心洗浄(counter-flow centrifugal elutriation)が,ELUTRA装置(Gambro,BCT)で,2400rpmの固定ロータ速度を用い,且つ媒質の流速をコンピュータ制御で段階的に調整しながら,実施される。富化されたリンパ球は,第3画分に存在するが,1%のヒト血清アルブミン(Octalbine, Octapharma, Langen, Germany)を含むRPMI1640培養液(Biochrom, Berlin, Germany)で2回洗浄される。
【0040】
LAK−T細胞の産生
リンフォカイン活性化キラー(LAK)細胞のT細胞画分は,MHC非拘束性エフェクターT細胞の源の一つである。これらの細胞は,上記の2つのいずれかの方法によって得られた全リンパ球群を,RPMI1640培養液〔2mMのL−グルタミン,1mMのピルビン酸ナトリウム,100μMのペニシリン,100μg/mLのストレプトマイシンで補充され,15%の熱不活化したプールされたヒト血清及び500〜1000U/mLの組換えIL−2(Proleukin, Cetus Corp., Emeryville CA.)を含み,1%のフィトヘマグルチニン(PHA-P:Difco Laboratories, Detroit, MI)を含んでいるかあるいは含んでいない。〕で培養することによって産生される。培養液は,5%二酸化炭素中,37°Cで通常3日から7日の間インキュベートされる;しかしながら,これらの細胞は,より長い時間培養液において維持できる。その後,活性化されたT細胞画分は,市販の試薬(Dynal Biotech, Oslo, Norway)を製造業者の指示(Falk et al. Cancer Res. 2002)に従って用いて他のリンパ球サブセットを減少させることにより,富化される。サンプルの部分量が,富化について,以下に記載の方法に従いCD4又はCD8表面分子に特異的なモノクローナル抗体の結合を検出するフローサイトメトリーによって,管理される。これら細胞の95%超がCD4又はCD8マーカーに対して陽性であることが期待される。もしそうでないら,富化の手順をもう一度繰り返すことができる。
【0041】
富化されたT細胞サブセットを用いたMHC非拘束性T細胞の産生
CD4又はCD8リンパ球画分の富化
上記の2つの方法のいずれかによって得られた混合全リンパ球群は,リン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄され,次いで,市販の試薬(Dynal Biotech, Oslo, Norway)を製造業者の指示(von Geldern, Eur. J. Immunol, 2006)に従って使用しCD4及びCD8リンパ球以外の全てのリンパ球サブセットを減少させる磁性粒子分離法を用いて,CD4高濃度画分とCD8高濃度化画分に分けられる。サンプルの部分量が,富化について,以下に記載の方法に従いCD4又はCD8表面分子に特異的なモノクローナル抗体の結合を検出するフローサイトメトリーによって,管理される。これら細胞は,富化されつつある群に応じ,その95%超がCD4又はCD8マーカーに対しそれぞれ陽性であることが期待される。もしもそうでないなら,高濃度化の手順をもう一度繰り返すことができる。
【0042】
富化されたリンパ球の刺激
富化され洗浄されたリンパ球は,RPMI1640培養液〔2mMのL−グルタミン,1mMのピルビン酸ナトリウム,100μMのペニシリン,100μg/mLのストレプトマイシンで補充され,15%の熱不活化したプールされたヒト血清及び500−1000U/mLの組換えIL−2(Proleukin, Cetus Corp., Emeryville CA.)又は5ng/mLのIL−15(PromoCell, Heidelberg, Germany)を含み,1%のフィトヘマグルチニン(PHA−P:Difco Laboratories, Detroit, MI)を含んでいるかあるいは含んでいない。〕で,培養される。培養液は,5%二酸化炭素中,37°Cで通常3日から7日の間インキュベートされる;しかしながら,これらの細胞は,より長い時間培養液において維持できる。サンプルの部分量が,富化についてのコントロールとして,以下に記載の方法(フォン・ゲルデルン,ヨル.ジェイ.イムノル.2006年(von Geldern, Eur. J. Immunol. 2006))に従って,CD4又はCD8表面分子及び活性化マーカーであるCD45ROに特異的なモノクローナル抗体の結合を検出するフローサイトメトリーによって,管理される。
【0043】
フローサイトメトリーによる活性化されたエフェクター細胞の表現型判定
T細胞は,以下のモノクローナル抗体での表層染色に関して特徴づけられる:FITC接合抗ヒトCD3(UCHT1),CD4(13B8.2),CD8(B9.11)及びCD45RO(UCHL1)は,いずれも,Beckman-Coulter, Westbrook, ME.から購入した。リンパ球は,モノクローナル抗体と共に,氷上で45分間インキュベートされ,リン酸緩衝生理食塩水及び5%のウシ胎児血清によって洗浄され,PBS/1%パラホルムアルデヒドで固定され,フローサイトメトリによって分析される(FACSCalibur; Becton Dickinson, San Jose, CA)。適当なサブセットマーカー(CD4又はCD8)に対する陽性染色が,95%より多くの細胞にあることが期待される。また,活性化/記憶細胞のマーカーとしてのCD45ROの存在が,90%より多くの細胞にあることが予想される(von Geldern, Eur. J. Immunol. 2006)。
【0044】
機能的特徴の決定
2つの重要な機能的特徴が,MHC非拘束性エフェクターT細胞を評価するために極めて重要である。これらの細胞は,その名前が示すとおり,特定のMHC分子(それは,類似のフェノタイプを有しているがT細胞受容体を通じてシグナルを受信したときにのみ活性化されるものである伝統的なMHC拘束性T細胞による認識における顕著な特徴部である)の発現に依存することなく標的細胞を認識するものである。MHC非拘束性の機能は,Daudi,K562及びL721.221細胞等,MHCクラスI分子を発現していない標的細胞を,試験に供される細胞群が殺傷する能力を測定することによって,評価することができる(Falk et al. Cancer Res. 2002; von Geldern, Eur. J. Immunol. 2006)。この機能は,MHC非拘束性T細胞のCD8細胞群において顕著であり,CD4細胞においては,示す場合もあるがあまり一般的でない。更にまた,これらのMHCクラスI陰性の標的細胞が特定のMHCクラスI対立遺伝子を発現するようトランスフェクトされたとき,それらは,MHC非拘束性エフェクターT細胞による細胞溶解に対し,抵抗性を示すようになり,そしてこの抵抗性は,MHCクラスI分子に特異的な抗体で標的細胞をブロックすることによって,引っ込ませることができる。このことは,エフェクターT細胞がMHCクラスI分子によって負に制御されていることがを明らかにしている(Falk et al. Cancer Res. 2002; von Geldern, Eur. J. Immunol. 2006)。
【0045】
もう一つとして,MHC非拘束性エフェクター細胞は,標的細胞と接触したときTCRシグナルに依存することなく刺激されて,様々なサイトカインを分泌することができる。サイトカイン分泌は,CD4MHC非拘束性エフェクターT細胞において顕著であるが,CD8細胞もサイトカインを分泌することができる。特に重要なのは,IFN−γを分泌するCD4T細胞の能力である。
【0046】
細胞媒介性の細胞傷害及びモノクローナル抗体による阻害
細胞媒介性の細胞傷害は,標準の4時間51Cr遊離法において定量化される(Schendel et al., Tissue Antigens, 1979)。標的細胞が,Na251CrO4で90分間標識され,2回洗浄される。そして,2x103の細胞が,標的細胞に対するエフェクター細胞の比率を変化させながら,4時間,エフェクター細胞にさらされる。自然に起きる同位元素放出が,標的細胞のみをインキュベートすることによって決定される。放出の最大値は,ラベルされた標的細胞を直接カウントすることにより決定される。エフェクター細胞の4段階滴定による2重又は3重の測定が,通常,行われる。MHCブロッキングのために,所定のクラスI対立遺伝子を発現している標的細胞(例えば,L721.112;;Falk et al. Cancer Res. 2002; von Geldern, Eur. J. Immunol. 2006)を,HLAに特異的なモノクローナル抗体A1.4(Olympus, Hamburg, Germany)又はアイソタイプモノクローナル抗体(MOPC21;10 lg/mL)と共に,37°Cで,30分間,インキュベートし,そして,クロム遊離法において,エフェクター細胞と混合する。A1.4抗体と共にインキュベートされた標的細胞におけるクロム遊離の変化は,コントロールとしてのアイソタイプ抗体と比較する。アイソタイプ・コントロールと比較して,A1.4抗体の存在下では高いレベルのクロム放出が期待され,そのことは,標的細胞上のMHCクラスIのマスキングは,MHC非拘束性エフェクター細胞上の阻害レセプタと相互作用するMHCクラスI分子によってもたらされる抵抗性を,引っ込ませることを示している。(Falk et al. Cancer Res. 2002; von Geldern, Eur. J. Immunol. 2006)。
【0047】
サイトカイン及びケモカイン分泌
サイトカイン/ケモカインは,製造業者の指示に従い,マルチプレックスタンパク質アレイ(multiplex protein arrays)によって,定量化される(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA, USA)。サイトカインに特異的なモノクローナル抗体でコートされたマイクロスフィアが,50μLの上清と共に,室温で30分間インキュベートされる。3回洗浄したのち,ビオチン化された検出用モノクローナル抗体が加えられ,室温で30分間,インキュベートされ,続いてストレプトアビジン−PEインキュベーション(streptavidin-PE incubation)が行われる。2レーザー・アレイ・リーダー (Luminex v-Map)は,同時に11種のサイトカインを定量する;標準曲線(3.91−3.2x104 pg/mL)及び濃度は, Bio-Plex Manager 3.1.によって計算される。この方法によって評価することができるサイトカイン及びケモカインには,以下のものが含まれる:IL−2,IL−4,IL−5,IL−6,IL−8,IL−10,IL−13,GM−CSF,IFN−γ,TNF−α,MIP−1β。
【0048】
MHC非拘束性T細胞へのトランスジェニックTCR配列の導入
レトロウイルス・ベクターの作成及びウイルス上清の生産
選択された特異性を有するTCRのTCRα鎖及びTCRβ鎖の遺伝子は,PCRによって増幅されて,レトロウイルス・ベクターMP71―GFP―PREに組み込まれてクローン化される(Engels et al. Hum. Gene Ther., 2003)。そして,ベクター粒子が,文献記載のとおりに生産される(Engels et al. Hum. Gene Ther., 2005; Sommermeyer et al. Eur. J. Immunol. 2006))。
【0049】
T細胞への形質導入
T細胞は,レトロネクチン(RetroNectin)(3.5μg/穴)(Takara, Apen, Germany)でコートされた24穴非組織培養プレート中で形質導入される。活性化されたヒトT細胞が,硫酸プロタミンを補充(最終濃度4μg/ml)したレトロウィルス上清と共に,インキュベートされる(Sigma-Aldrich, Munich, Germany)。上清を加えた後,プレートが,32℃で,1.5時間,800×gでスピノキュレート(spinoculated)される。培養液は,48〜72時間の後,新しいものと置き換えられた(Engels et al. Hum. Gene Ther., 2005; Sommermeyer et al. Eur. J. Immunol. 2006)。
【0050】
生体外転写されたRNAのエレクトロポレーション
別法として,最近文献記載されているように,生体外転写されたRNAは,TCRα鎖及びTCRβ鎖をコードしているcDNAsから調製され,活性化されたT細胞の中にエレクトロポレーションすることができる(Zhao et al. Mol. Ther., 2006)。
【0051】
TCRトランスジェニックMHC非拘束性エフェクター細胞の表現型判定
MHC非拘束性エフェクター細胞におけるトランスジェニックT細胞受容体(TCR)の発現は,フローサイトメトリにより,2つの方法のうちのどちらかで定量することができる。種々のヒトV−β鎖を検出するモノクローナル抗体のパネルは,商業的に入手できる(Immunotech, Marseille, France)。トランスジェニックV−β鎖の既知の配列に基づき,対応する抗体を用いて,形質導入された細胞を染色することができる。別法として,蛍光標識されたMHC多量体(選択されたTCRによって認識されるMHC−ペプチド複合体に相当する)が利用できる場合,それらを,MHC非拘束性エフェクター細胞上のトランスジェニックTCRの発現を検出するために,フローサイトメトリにおいて使用することができる。標識され結合された抗体又は多量体の蛍光強度は,FACSCaliburフローサイトメータ及びCellquest Proソフトウェア(Becton Dickinson, Heidelberg, Germany)を用いて測定される。
【0052】
tg−MHC非拘束性エフェクター細胞の機能の分析
トランスジェニックTCRsを今や発現しているエフェクター細胞は,元のMHC非拘束性エフェクター細胞とは異なる機能を有する。トランスジェニックエフェクター細胞は,上記の通り,MHCクラスI陰性の標的細胞を認識して,傷害する能力を保持している。この機能は,TCRと相互作用する抗体でブロックすることによっては,妨げられない。なぜなら,その認識はTCRに依存することなく発生するからである(Falk et al., J. Exp. Med. , 1995)。このMHC非拘束性エフェクタ細胞の機能は,上記の方法(細胞傷害試験及びMHC抗体による阻害)によって,確認することができる。MHC非拘束性エフェクター細胞へのトランスジェニックTCRの導入の後,当該細胞は,MHCで拘束されるTCR特異性を追加的に獲得する。この新たな特異性は,トランスジェニックTCRに対するリガンドに相当するMHC−ペプチド複合体を発現している標的細胞について,これを認識し,殺す能力を試験することによって,確認できる。かかる認識は,MHC非拘束性エフェクタ細胞の機能とは対照的に,TCRのシグナリングに依存しており,従って,CD3に特異的な抗体によって,阻害されるし,あるいは,V−β鎖に対する適当な抗体が利用可能な場合には,そのようなTCR特異的な試薬を用いた抗体ブロックによっても,阻害される。加えて,この認識は,標的細胞上でのMHCクラスIの発現をブロックすることによっても阻害される。ここで,細胞毒性は,コントロールとしてのアイソタイプ抗体の場合と比較して,クラスIに特異的な抗体の存在下では,減少するものと期待される。このように,種々の標的細胞(すなわち,MHCクラスI分子を発現しているか又はいない細胞,及び,トランスジェニックTCRのMHC−ペプチド・リガンドを発現しているか又はいない細胞)を試験し,エフェクター細胞側のトランスジェニックTCR,CD3に特異的な抗体,及び,標的細胞側のMHC分子に特異的な抗体のいずれかの抗体を使用する阻害実験を組み合わせることにより,2つのエフェクタ細胞の機能が,TCR−組換え遺伝子を発現しているMHC非拘束性エフェクターT細胞群に存在することを,証明することができる。
【0053】
本アプローチが特に有利なのは,2つの特異性,すなわちトランスジェニックTCRを経由した腫瘍細胞に対するMHC拘束性の認識とMHC非拘束性エフェクター細胞によって媒介される生来の腫瘍細胞に対する認識の双方を,同一群に属するエフェクター細胞の腫瘍に対する攻撃へと向かわせることができることである。更にこのことは,トランスジェニックTCRを発現しているリンパ球を極度に高いパーセンテージで得る必要はないことを意味し,これにより導入遺伝子発現のため形質導入された又はエレクトロポレーションされたレシピエント細胞を富化する必要をなくす。なぜなら,MHC非拘束性の細胞毒性及び/又はサイトカイン分泌を通じた利点が,トランスジェニックTCRを発現していないMHC非拘束性エフェクター細胞から期待されるからである。MHC非拘束性エフェクター細胞のCD4及びCD8群の使用は,高い抗腫瘍細胞毒性及びサイトカイン分泌という相補的な機能を提供する。
【0054】
参考文献
Engels, B, Cam, H., Schuler, T., Indraccolo, S., Gladow, M., Braun, C., Blankenstein, T., and W. Uckert. 2003. Retroviral vectors for high-level transgene expression in T lymphocytes. Hum. Gene Ther. 14: 1155-1168.

Engels, B., Nossner, E., Frankenberger, B., Blankenstein, Th., Schendel, D.J., and W. Uckert. 2005. Redirecting human T lymphocytes towards renal cell carcinoma-specificity by retroviral transfer of T cell receptor genes. Human Gene Ther. 16(7):799-810.

Falk, C.S. Noessner, E., Weiss, E.H. and D.J. Schendel. 2002. Retaliation against tumor cells showing aberrant HLA expression using lymphokine activated killer (LAK)-derived T cells. Cancer Res. 62 (2): 480-487.

Falk, C.S., Steinle, A. and D.J. Schendel. 1995. Expression of HLA-C molecules confers target cell resistance to some non-MHC-restricted T cells in a manner analogous to allospecific NK cells. J. Exp. Med. 182:1005-1018.

Schendel, D.J., Wank, R. and B. Dupont. 1979. Standardization of the human in vitro cell-mediated lympholysis technique. Tissue Antigens 13: 112-120.

Sommermeyer, D., Neudorfer, J., Weinhold, M., Leisegang, M., Engels, B., Noessner, E., Heemskerk, M.H.M., Schendel, D.J., Blankenstein, T., Bernhard, H., and W. Uckert. 2006. Designer T cells by T cell receptor replacement. Eur. J. Immunol. 36: 3052-3059.

von Geldern, M., Simm, B., Braun, M., Weiss, E.H., Schendel, D.J. and Falk, C.S. 2006. TCR-independent cytokine stimulation induces non-MHC-restricted cell activity and is negatively regulated by HLA class I. Eur. J. Immunol. 36: 2347-2358. [Epub Aug 15, 2006].

Zhao, Y., Zheng, Z., Cohen, C., Gattiononi, L., Palmer, D.C., Restifo, N.P., Rosenberg, S.A. and R.A. Morgan. 2006. High-efficiency transfction of primary human and mouse T lymphocytes using RNA electroporation. Mol. Ther. 13(1): 151-159.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスジェニックT細胞レセプター(tg−TCR)によって形質転換された,活性化されたリンホカイン活性化キラー(LAK)T細胞。
【請求項2】
CD4又はCD8サブタイプのものである,請求項1のLAK−T細胞。
【請求項3】
該T細胞がtg−TCRをコードしているベクターによって形質転換されたものである,請求項1のLAK−T細胞。
【請求項4】
該ベクターが,プラスミド及びレトロウイルス・ベクターからなる群から選択されるものである,請求項3のLAK−T細胞。
【請求項5】
該TCRをコードする核酸をエレクトロポレーションによって該T細胞に移転することにより,tg−TCRが該活性化されたT細胞に導入されるものである,請求項3のLAK−T細胞。
【請求項6】
該TCRをコードする核酸が,TCRα鎖及びβ鎖をコードするcDNAから調製されるRNAである,請求項5のLAK−T細胞。
【請求項7】
tg−TCRが,所定のMHC−抗原複合体に特異的である,前記何れかの請求項のLAK−T細胞。
【請求項8】
抗原が,ウイルス,細菌,原生動物及び寄生虫に由来する病原性因子並びに腫瘍細胞若しくは腫瘍細胞関連抗原,自己抗原又はその機能的部分から選択されるものである,請求項7のLAK−T細胞。
【請求項9】
該ウイルスが,インフルエンザウイルス,麻疹及びRS(respiratory syncytial)ウイルス,デング熱ウイルス,ヒト免疫不全ウイルス,ヒト肝炎ウイルス,ヘルペスウイルス又はパピローマウイルスからなる群から選択され,あるいは,該原生動物がPlasmodium falciparumであり,あるいは,該細菌が結核を引き起こすマイコバクテリウム属細菌である,請求項8のLAK−T細胞。
【請求項10】
該腫瘍関連抗原が,血液学的悪性腫瘍又は固形腫瘍,好ましくは結腸癌,乳癌,前立腺癌,腎細胞癌(RCC),肺癌,肉腫又はメラノーマの細胞から選択されるものである,請求項8のLAK−T細胞。
【請求項11】
該細胞が,インターロイキン−2(IL−2)及び/又はインターロイキン−15(IL−15)の存在下に末梢血単核細胞(PBMC)を生体外培養して誘導されるものである,前記いずれか一つの請求項のLAK−T細胞。
【請求項12】
以下の工程を含んでなるトランスジェニックLAK−T細胞の産生方法:
a) 末梢血から混合全リンパ球群を用意すること;
b) それらリンパ球を,適当な手段によって活性化させること;
c) 活性化された細胞を富化し,そこからLAK−T細胞を単離すること;
d) 単離されたLAK−T細胞を,所定のMHC−抗原複合体に特異的なトランスジェニックTCRをコードする核酸で形質転換すること。
【請求項13】
LAK−T細胞が,活性化されたリンホカイン活性化キラー(LAK)T細胞,好ましくはCD4またはCD8サブタイプのものである,請求項12の方法。
【請求項14】
該リンパ球が,インターロイキン−2及び/又はインターロイキン−15の存在下に生体外培養を経て活性化されるものである,請求項12又は13の方法。
【請求項15】
該核酸がベクターに取り込まれているものである,請求項12〜14のいずれかの方法。
【請求項16】
該ベクターがプラスミド又はレトロウイルス・ベクターから選択されるものである,請求項15の方法。
【請求項17】
TCRをコードする核酸をエレクトロポレーションによって該T細胞に移転することにより,tg−TCRが該活性化されたT細胞に導入されるものである,請求項12〜14のいずれかの方法。
【請求項18】
TCRをコードする核酸が,TCRα鎖及びβ鎖をコードするcDNAから調製されるRNAである,請求項17の方法。
【請求項19】
請求項12〜18のいずれかの方法によって得られるLAK−T細胞。
【請求項20】
前記いずれかの請求項のLAK−T細胞及び薬学的に許容し得る担体を含んでなる医薬組成物。
【請求項21】
養子細胞療法のための医薬の製造のための,請求項1〜11及び19のいずれかのLAK−T細胞又は請求項20の医薬組成物の使用。
【請求項22】
血液学的悪性腫瘍もしくは固形腫瘍又は急性若しくは慢性感染症又は自己免疫疾患を治療するための,請求項21の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2010−512156(P2010−512156A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540752(P2009−540752)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【国際出願番号】PCT/EP2007/063704
【国際公開番号】WO2008/071701
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(509160867)ヘルムホルツ・ツェントルム・ミュンヘン・ドイチェス・フォーシュンクスツェントルム・フュア・ゲズントハイト・ウント・ウンベルト・ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】