説明

LED電球及びLED電球用ケース

【課題】点灯回路周囲における熱の滞留を抑制するLED電球用ケースの提供。
【解決手段】超微細エッチングによってアルミニウム製ケース20の表面に20〜80nm周期の超微細凹凸を形成した後、金型温度145℃にした射出成形用金型にインサートし、その表面にPPS樹脂を射出する。これにより射出成形部30(回路カバー31、絶縁部32、及び口金固定部33が一体化したもの)が成形されると共に、これを構成する樹脂組成物がケース表面の超微細凹凸に侵入して硬化した一体化物であるLED電球用ケースが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子としてLED(Light Emitting Diode)を用いたLED電球及びLED電球用ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、白熱電球等と比較して長寿命であり、高いエネルギー効率を有するLEDを光源とするLED電球の開発が行われている。そのLED電球の開発において、LED発光時における放熱性の向上が重要な問題となっており、これに対する技術が提案されている。例えば、特許文献1に開示されるようなLED電球において、LEDで発生した熱は、LEDからLED基板に、LED基板からこれを載置している載置部材に、そして載置部材から筐体部材に迅速に伝熱されて筐体部材から放熱される。LED基板には、通常複数個のLEDが配設されるが、上記載置部材と筐体部材を伝熱性の金属(例えばアルミニウム)で形成することにより、LEDの温度上昇を抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4659131号公報
【特許文献2】WO 03/064150 A1
【特許文献3】WO 2004/041532 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した例のように、LEDで発生する熱の放熱経路に関しては様々な技術が提案されている。一方で、LEDで発生する熱がLEDの点灯制御を行う点灯回路の周囲に滞留したり、筐体内部の点灯回路自体が発生する熱が当該点灯回路の周囲に滞留することで、当該点灯回路を形成する電子部品に悪影響を及ぼすおそれがある。そのため、点灯回路周囲における放熱効率を高める必要がある。今後のLEDの小型化に伴い、LEDと点灯回路間の距離が短縮され、電子部品の密度が向上することを考慮すると、点灯回路周囲における放熱性能の向上は重要な問題である。
【0005】
本発明は、前記した課題を解決するためになされたもので、下記の目的を達成する。本発明の目的は、点灯回路周囲における熱の滞留を抑制するLED電球、及びLED電球用ケースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記目的を達成するために次の手段をとる。なお後述する発明を実施するための最良の形態の説明及び図面で使用した符号を参考のために括弧書きで付記するが、本発明の構成要素は該付記したものには限定されない。
【0007】
本発明1のLED電球は、
LED(10)が実装された基板(11)と、
口金(40)を介して受電し前記LEDを点灯させる点灯回路(15)と、
前記点灯回路が収容される回路カバー(31)と、
前記LED点灯時の熱を放熱するアルミニウム製のケース(20)と、
を備えるLED電球(1)であって、
前記回路カバーは、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、及びポリアミド樹脂から選択される1種以上を含む樹脂組成物により構成される射出成形物であり、
前記ケース表面には凹凸が形成されており、前記射出成形物を構成する樹脂組成物が前記凹凸に侵入していることにより、前記回路カバーと前記ケースが一体化されていることを特徴とする。
【0008】
本発明2のLED電球は、
LED(10)が実装された基板(11)と、
口金(40)を介して受電し前記LEDを点灯させる点灯回路(15)と、
前記点灯回路が収容されるアルミニウム製の回路カバー(35)と、
前記LED点灯時の熱を放熱するアルミニウム製のケース(20)と、
を備えるLED電球(1)であって、
ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、及びポリアミド樹脂から選択される1種以上を含む樹脂組成物により構成され、前記回路カバー及び前記ケースと接触する射出成形物(射出成形部30)を有し、
前記回路カバー表面及び前記ケース表面には凹凸が形成されており、前記射出成形物を構成する樹脂組成物が、前記回路カバー表面及び前記ケース表面の双方の凹凸に侵入していることにより、前記回路カバーと前記ケースが一体化されていることを特徴とする。
【0009】
本発明3のLED電球は、本発明1又は2のLED電球であって、
前記射出成形物(射出成形部30)は、
前記樹脂組成物により構成され前記口金(40)と前記ケース(20)とを絶縁する絶縁部(32)、前記樹脂組成物により構成され前記ケース外部に表出する放熱部(絶縁部32)、及び前記樹脂組成物により構成され前記口金が固定される口金固定部(33)が一体に成形されたものであることを特徴とする。
【0010】
本発明4のLED電球は、
本発明3のLED電球(1)であって、
前記絶縁部(32)と前記放熱部(絶縁部32)は同一部であることを特徴とする。
【0011】
本発明5のLED電球用ケースは、
LED(10)点灯時の熱を放熱するアルミニウム製のケース(20)と、
ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、及びポリアミド樹脂から選択される1種以上を含む樹脂組成物により構成され、口金(40)を介して受電し前記LEDを点灯させる点灯回路(15)が収容される射出成形物である回路カバー(31)により構成され、
前記ケース表面には凹凸が形成されており、前記射出成形物を構成する樹脂組成物が、前記凹凸に侵入していることにより、前記ケースと前記回路カバーが一体化されていることを特徴とする。
【0012】
本発明6のLED電球用ケースは、
LED(10)点灯時の熱を放熱するアルミニウム製のケース(20)と、
ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、及びポリアミド樹脂から選択される1種以上を含む樹脂組成物により構成される射出成形物(射出成形部30)と、
口金(40)を介して受電し前記LEDを点灯させる点灯回路(15)が収容されるアルミニウム製の回路カバー(35)により構成され、
前記ケース表面及び回路カバー表面には凹凸が形成されており、前記射出成形物を構成する樹脂組成物が、前記ケース表面及び前記回路カバー表面の双方の凹凸に侵入していることにより、前記ケース、前記射出成形物、及び前記回路カバーが一体化されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、回路カバーからケースへの熱伝導を容易にして、点灯回路周囲に熱が滞留することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、第1実施形態に係るLED電球の縦断面図である。
【図2】図2は、熱伝導シミュレーション実験に用いるPPS−アルミニウムモデルを示す図である。
【図3】図3は、PPS−アルミニウムモデルにおける接合面の状態を示す図である。
【図4】図4は、PPS−アルミニウムモデルにおいて設定した各材質の密度、比熱、及び熱伝導率を示す図である。
【図5】図5は、PPS−アルミニウムモデルにおける温度分布を示すグラフである。
【図6】図6は、第2実施形態に係るLED電球の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係るLED電球について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
[第1実施形態に係るLED電球]
図1は、本発明の第1実施形態に係るLED電球の縦断面図である。LED電球1は、図1に示すように光源となる複数のLED10が実装された基板11と、口金40を介して受電しLED10を点灯させる点灯回路15と、点灯回路15が収容される回路カバー31と、LED10点灯時の熱を放熱し、回路カバー31と一体化されるアルミニウム製のケース20を備えるものである。
【0017】
図1に示すLED10は、可視光を放射する半導体発光素子であり、複数個のLED10が基板11に実装されている。基板11として、例えばガラスエポキシ材等の樹脂材料やセラミック材料等が利用されるが、当該材料として熱伝導率の高いものを利用することが好ましい。基板11の実装面には複数のLED10が実装される図示しない配線パターンが形成されている。この配線パターンによって複数のLED10が所定の接続方法で接続される。また、この配線パターンと点灯回路15が図示しないリード線によって接続される。
【0018】
基台12は熱伝導性に優れた金属材料(例えばアルミニウム)により形成されている。基台12は、LED10が実装された基板11を装着すると共に、後述する筒状をしたケース20の他端を塞いでいる。基台12はケース20の他端に内嵌され、ケース20の内周面に基板11が装着された基台12が伝熱性の接着剤などにより固着される。本例においては、ケース20のテーパ部21が所定のテーパ角を有する円筒形状であり、基台12が同じテーパ角を有する円盤形状となっている。従って、基台12の直径とケース20の内径が合致する位置に基台12が位置決めされることになる。なお、ケース20の内周面に複数のストッパを形成しておき、ケース20の他端から圧入された基台12が、当該ストッパにより位置決めされるようにしても良い。
【0019】
基台12の表側には、基板11載置用の凹部12aが形成され、この凹部12aの底面と基板17とが接触する状態で、基板11が基台12に取着されている。なお、基板11の基台12への取着は、例えば固定ビスにより直接固定する方法や、板ばね等により取着力を加える方法により行われる。なお、この凹部12aにより基板11の位置決めを容易且つ正確に行うことができる。基台12は、その厚み方向に貫通する貫通孔12bを備えている。点灯回路15からの2本のリード線が、後述する蓋体34の貫通孔34a,34a及び当該基台12の貫通孔12b,12bを通って、基板11の配線パターンに電気的に接続される。本例では2個の貫通孔12bが設けられており、各々をリード線が通過するが、貫通孔を1個のみもうけ、当該貫通孔に2本のリード線を通過させるようにしても良い。
【0020】
点灯回路15は、LED10を点灯させる電子部品(図示しない。)から構成されており、口金部材40を介して供給される交流電圧(例えば100V)を直流電圧(例えば24V)に変換してLED10に供給する。点灯回路15は、例えば整流・平滑回路、DC/DCコンバータ等により構成されている。
【0021】
ケース20は、図1に示すような筒状をし、他端から一端にかけて徐々に外径が小さくなっており、他端に上記の基台12が取着され、一端に射出成形部30を介して口金40が設けられている。ケース20は、内部に回路カバー31を収納し、この回路カバー31内に点灯回路15が格納されている。ケース20は、筒壁21と、筒壁21の一端に設けられた底壁22とを有し、底壁22の中央部分(筒部の中心軸を含む)に貫通孔24が設けられている。
【0022】
筒壁21は、筒壁21の中心軸に沿って他端(グローブ側)から一端(口金側)に移動したときに、内径が徐々に小さくなるテーパ状である。LED10が点灯した際に発生した熱は、基板11から基台12、基台12からケース20に伝わり、当該ケース20から外気へと主に放出される。即ち、ケース20はLED10が点灯した際に発生した熱を外気中に放熱する放熱機能を有し、基台12は基板11の熱をケース20に伝える伝熱機能を有するといえる。
【0023】
射出成形部30は、点灯回路15を収容する回路カバー31、ケース20と口金40との間に介在して互いの間を絶縁する絶縁部32、及び、口金40が螺合される螺旋状の口金固定部33によって構成されている。これら回路カバー31、絶縁部32、及び口金固定部33は射出成形によって一体に成形されたものである。ここで本実施形態において、絶縁部32は、ケース20の外部(下方)に表出しており、回路カバー31に伝達した熱を外気中に放熱する放熱機能を備えるものでもある。
【0024】
回路カバー31は、上端が開口され下端の一部が塞がれた円筒状に成形されていて、上端の開口部は蓋体34によって塞がれる。回路カバー31の下端中央部を除いた底面31bは、ケース20における底壁22の上面の一部を覆っている。また、回路カバー31は下方の絶縁部32に連なる突出筒部31cを有している。突出筒部31cは回路カバー31の底面31bから下方に突出し、貫通孔24の最外部を通過して絶縁部32に連なる部分である。なお、回路カバー31内に点灯回路15の全部分が収納されず、その一部分のみが収納されるようにしても良い。例えば、突出筒部31cや、筒状の絶縁部32及び口金固定部33の内側(LED電球1の中心軸寄り)に点灯回路15の他部分が収納されるようにしても良い。
【0025】
蓋体34は有底筒状をし、筒部が回路カバー31の上端部に外嵌されることにより蓋部が回路カバー31の開口部を塞ぐようになっている。つまり、蓋体34の筒部内径と、回路カバー31の上端部の外径が対応しており、蓋体34と回路カバー31とを組み立てた状態で、蓋体34の筒部内周面と、回路カバー31の上端部外周面とが当接する。なお、蓋体34と回路カバー31とは、例えば接着剤で固定しても良いし、係合部と被係合部とを組み合わせた係合手段により固定しても良いし、両者にねじを設けて螺着しても良いし、さらには蓋体34の筒部内径を回路カバー31の上端部外径よりも小さくして、嵌め合いにより固定しても良い。
【0026】
蓋体34は、軽量化のため比重の小さい材料、例えばPBT等の樹脂で形成するのが好ましい。蓋体34の蓋部には、点灯回路15と基板11との配線を担うリード線が通過する貫通孔34aが2つ設けられている。各貫通孔34aは、基体12の貫通孔12bに対応する位置に設けられる。ここで例えば、蓋体34の裏面側(蓋部の底面側)に係止爪等からなる基板ホルダを設けておき、点灯回路15を構成する電子部品が実装された基板をこの基版ホルダによって蓋体34に固定し、且つ基板からの2本のリード線(出力側のリード線)を貫通孔34a,34aに各々通過させた状態で回路カバー31と組み立てるようにすると良い。なお、蓋体34に設ける貫通孔は1つでも良く、1つの貫通孔に2本のリード線を通過させるようにしても良い。
【0027】
所定の肉厚を有する絶縁部32は、底壁22の底面を覆い底壁22と口金40の間を絶縁する。また、絶縁部32はケース20下方に表出しており、回路カバー31から当該絶縁部32に熱伝導された熱を外気中に放熱する。このように本実施形態の絶縁部32は放熱機能を有するものであり、省スペースで放熱効果を高めることができる。また、本実施形態のように、底壁22の一部を回路カバー31の底面31b及び絶縁部32の上面と密着させることによって、回路カバー31に伝達した熱及び回路カバー31から絶縁部32に熱伝導した熱がケース20に伝わり、外気中に放熱されることになる。
【0028】
絶縁部32の下方には口金固定部33が設けられている。口金固定部33の外周部に口金40が螺合されることで、口金40と射出成形部30が固定される。口金40は、例えばE17形やE26形などの一般照明電球用のソケットに接続可能なものであり、口金固定部33に嵌合されて固定されるシェル41、このシェル41の一端側に設けられる絶縁部42、及びこの絶縁部42の頂部に設けられるアイレット43を有している。シェル41及びアイレット43には点灯回路15の入力側から引き出されているリード線(図示しない)が接続されている。
【0029】
グローブ50は、透光性を有しており、例えば透明のガラスや合成樹脂などの材質により、端部50aに開口を有する略半球状に形成されている。そして、端部50aがケース20のテーパ部21の内側に嵌合され、例えばシリコーン樹脂やエポキシ樹脂などの接着剤による接着固定により取り付けられている。これにより、複数個のLED10は、グローブ50の開口に位置して、グローブ50により覆われる。
【0030】
前述したように、点灯回路15の入力側には口金40のシェル41及びアイレット43が配線で電気的に接続され、点灯回路15の出力側に接続された配線が蓋体34の貫通孔34a,34a及び基体12の貫通孔12b,12bを通じて基板11の配線パターンに電気的に接続されている。口金40が供電されると、点灯回路15が動作し所定の直流電圧(例えば24V)が出力される。直流電圧が基板11に実装されているLED10に印加され、LED10が点灯し、LED10から可視光(例えば白色光)が放射される。
【0031】
このLED10点灯時に発生する熱は、基板11に熱伝導されるとともに、この基板11から基体12に熱伝導され、さらに基体12からケース20に熱伝導されて空気中に放熱される。また、LED10点灯時に発生する熱の一部は空気層を介して回路カバー31に伝達され、点灯回路15自体が発生する熱の一部も回路カバー31に伝達されることになる。回路カバー31に伝達された熱は、絶縁部32から外気中に放熱され、又は、絶縁部32からケース20に熱伝導して外気中に放熱されるため、点灯回路15における熱の滞留を抑制することができる。
【0032】
なお本実施形態では、ケース20と回路カバー31とをケース20の口金側端部(底壁22)で接合しており、基台12と蓋体34、及び、筒部21と回路カバー21との間に空気層を設けるようにしている。即ち、LED10点灯時に発生する熱が筒部21から放熱される前に回路カバー21に直接的に熱伝導することを防止している。
【0033】
(樹脂成形部−アルミニウム間の熱伝導性)
前述した射出成形部30は、ケース20内部に設けられる回路カバー31、並びにケース20外部に設けられる絶縁部32及び口金固定部33が一体に成形されたものである。本実施形態における射出成形部30は、結晶性の熱可塑性樹脂により構成され、例えばポリブチレンテレフタレート(以下PBTと称す。)、ポリフェニレンサルファイド(以下PPSと称す。)、及びポリアミド樹脂から選択される1種以上を主成分とする樹脂組成物が好ましい。ケース20はアルミニウムにより構成されているため、射出成形部30からケース20への熱伝導性が良好であれば、点灯回路15周辺の熱が効率良く外気に放熱されることになる。
【0034】
本発明者らは、アルミニウムとPPS間の熱伝導性に関するシミュレート実験を行った。図2に示すように、0.2mm×1.0mmのPPS部と同形状のアルミニウム部を接合させたときの接合面の状態を異ならせて、シミュレートを行った。ここでは、PPS部の左端から右端方向に対して3W/cmの熱流束を生じさせた場合のPPS部及びアルミニウム部の各位置における温度を算出した。なお、PPS部及びアルミニウム部(接合面も含む)の上下面はいずれも断熱面と設定した。
【0035】
本実験で設定した接合面の状態は、図3に示すように、以下の4つである。
(a)PPS側接合面及びアルミニウム側接合面の双方に凹凸を設けて、双方の凹凸が相互にかみ合い隙間無く完全に密着した状態。ここで凹凸の幅は0.01mm、高低差は0.005mmとした。
(b)PPS側接合面及びアルミニウム側接合面の双方を凹凸無しの理想的なフラット面として、両接合面が面全体で密着した状態。
(c)PPS側接合面とアルミニウム側接合面の間に厚さ0.1mmの接着層を介在させた状態。
(d)PPS側接合面とアルミニウム側接合面の間に厚さ0.1mmの空気層を介在させた状態。
また、本実験において、PPS、アルミニウム、接着層を構成する接着剤、及び空気層を構成する空気の密度、比熱、及び熱伝導率は図4のように設定した。
【0036】
図5は、図2に示したPPS−アルミニウムモデルにおける各部の温度分布を示すグラフであり、各接合面の状態((a)〜(d))に応じた4つの分布状況が示されている。図5の横軸(位置(m))は、接合面の中心部を位置0mとし、マイナス方向がPPS側、プラス方向がアルミニウム側を示している。図5に示すように、空気層を設けた(d)の場合は、PPS部左端(−0.001m)の温度が287℃となっており最も高い。また、接着層を設けた(c)の場合は、PPS部左端の温度が193℃となった。フラット面同士を密着させた(b)の場合は、PPS部左端の温度が169℃となり、凹凸面同士を密着させた(a)の場合は、PPS部左端の温度が167℃となった。この結果から、接合面がフラット面である場合(a)と、フラット面より接合面積が大きい凹凸面とした場合(b)で熱伝導性に大きな違いがないことが確認された。しかしながら、接着層を設けるとPPS部からアルミニウム部への熱伝導性が低下し、空気層を設けてしまうとPPS部への熱の滞留が顕著になってしまうことが確認された。
【0037】
上記実験結果から、ケース20と射出成形部30(回路ケース31及び絶縁部32)のフラット面同士又は凹凸面同士を接着剤を用いずに接合することが放熱性能向上の観点から好ましい。しかしながら、理想的なフラット面を形成することは不可能であり、通常は平面同士を密着させたとしても面接触ではなく点接触になってしまい、大部分は空気層が介在してしまうことになる。
【0038】
一方、ケース20及び射出成形部30に凹凸面を形成したとしても両者を接着剤を用いずに密着させて接合することは困難である。また、仮にねじ止めによってケース20と射出成形部30を密着させて一体化したとしても、ねじの緩み等によって容易に空気層が介在しうる。これに対して本発明者らは、後述するNMT(Nano molding technology)によって、アルミニウム製のケース20表面に凹凸を形成し、且つこれらの凹凸に射出成形部30を構成する樹脂組成物を侵入させた状態で硬化させた。即ち、ケース20表面の凹凸と射出成形部30の凹凸を密着させて両者を一体化した。
【0039】
(NMTの概要)
NMTは本発明者らが開発した技術であり、特許文献2及び3に示すように公知の技術である。NMTとは、アルミニウムと樹脂組成物との接合技術であり、アルミニウムに対して所定の表面処理を施した後、射出成形金型内にインサートし、当該金型内に溶融したエンジニアリング樹脂を射出して樹脂部分を成形すると同時に、その成形品とアルミニウムとを接合する方法(以下、略称して「射出接合」という。)である。
【0040】
NMTの要件として、アルミニウムに2の条件、樹脂組成物に1の条件がある。アルミニウムの2条件を以下に示す。
(1)アルミニウム表面が20〜80nm周期(好ましくは20〜50nm周期)の超微細凹凸、又は直径20〜80nm(好ましくは直径20〜50nm)の超微細凹部又は超微細凸部で覆われていること。指標としては、RSmが20nm〜80nmである超微細凹凸で覆われていると良い。また、Rzが20〜80nmの超微細凹部又は超微細凸部で覆われていても良い。さらに、RSmが20nm〜80nmであり、且つRzが20〜80nmの超微細凹凸で覆われていても良い。RSmは、日本工業規格(JIS B 0601:2001, ISO 4287:1997)に規定される輪郭曲線要素の平均長さであり、Rzは、日本工業規格(JIS B 0601:2001, ISO 4287:1997)に規定される最大高さである。ここで、このアルミニウムの表層は酸化アルミニウムの薄層であり、その厚さは3nm以上である。
(2)射出接合前のアルミニウム表面に、アンモニア、ヒドラジン、又は水溶性アミン化合物が化学吸着していること。
【0041】
一方、樹脂組成物の条件は以下の通りである。
(3)硬質の結晶性熱可塑性樹脂であって、150〜200℃でアンモニア、ヒドラジン、又は水溶性アミン類等の広義のアミン系化合物と反応し得る樹脂を主成分とすること。具体的には、PBT、PPS、又はポリアミド樹脂等が主成分として含まれている樹脂組成物であること。例えば、市販のPPS樹脂「SGX120」(株式会社 東ソー製)を好適に使用できる。
【0042】
NMTにおけるアルミニウムの表面処理法は特許文献2、3に開示されているが、その概要を記載する。形状化したアルミニウム部品(例えば本実施形態におけるケース20)を脱脂槽に投入して脱脂操作をする。次いで数%濃度の苛性ソーダ水溶液に浸漬して表層を溶かし、脱脂操作で落とし切れなかった汚れをアルミニウム表層ごと落とす。次いで数%濃度の硝酸水溶液に浸漬して、前操作で表面に付着したナトリウムイオン等を中和し除去する。ここまでの操作はアルミニウム部品の表面を構造的、化学的に安定した綺麗な表面にする操作である。もし汚れや腐食箇所の全くない綺麗なアルミニウム部品であれば、これら前処理操作は省くことができる。
【0043】
NMTにおける重要な処理は以下に示すものである。NMTでは水溶性アミン系化合物の水溶液にアルミニウム部品を適当な条件で浸漬し、部品表面をエッチングして20〜80nm周期の超微細凹凸を形成し、同時にそのアミン系化合物を化学吸着させる。例えば、アルミニウム部品を、45〜65℃にした1〜数%濃度の水和ヒドラジン水溶液に1分〜数分浸漬する超微細エッチングを行うことで、20〜40nm周期の超微細凹凸がアルミニウム表面に形成される。超微細エッチング後、アルミニウム部品をイオン交換水でよく水洗し、50〜70℃で乾燥すると、ヒドラジンの化学吸着が認められる射出接合に適したものとなる。これが「NMT」の表面処理法である。
【0044】
(第1実施形態に係るLED電球用ケースの作成)
金型温度145℃にした射出成形用金型に上記表面処理を施したケース20をインサートし、その表面に前述した樹脂(例えばPPS樹脂「SGX120」)を射出する。これにより射出成形部30(回路カバー31、絶縁部32、及び口金固定部33が一体化したもの)が成形されると共に、これを構成する樹脂組成物がアルミニウム表面の超微細凹凸に侵入して硬化した一体化物であるLED電球用ケースが得られる。
【0045】
このLED電球用ケースは、アルミニウム製のケース20と回路カバー31、絶縁部32、及び口金固定部33が一体化した部品である。このような構造とすることで、回路カバー31、絶縁部32、及び口金固定部33とケース20を固定するためのねじ止め機構や接着剤が不要であるため、LED電球の構造や組立工程を簡素化することができる。且つ、射出成形部30からケース20への熱伝導を促す凹凸構造となっているため、回路カバー31における熱の滞留を防止することができる。
【0046】
[第2実施形態に係るLED電球]
次に第2実施形態に係るLED電球について、第1実施形態と異なる部分について説明する。図6は、本発明の第2実施形態に係るLED電球の縦断面図である。ケース20は、テーパ部21と、テーパ部21の下端から下方に突出した端部23により構成される。射出成形部30は、絶縁部32と口金固定部33により構成される。第2実施形態において点灯回路15は、アルミニウム製の回路カバー35に収納される。回路カバー35は上下が開口された略円筒状であり、当該回路カバー35に点灯回路15が格納される。なお、回路カバー35内に点灯回路15の全部分が収納されず、その一部分のみが収納されるようにしても良い。例えば、筒状の絶縁部32及び口金固定部33の内側(LED電球1の中心軸寄り)に点灯回路15の他部分が収納されるようにしても良い。
【0047】
ここでアルミニウム製の回路カバー35の端部35aと、アルミニウム製のケース20の端部23は、樹脂成形部30を構成する絶縁部32と共に、例えば前述したNMTによる射出接合によって一体化されている。例えば、第2実施形態におけるLED電球用ケースの作成は、以下のようにして行われる。
【0048】
(第2実施形態に係るLED電球用ケースの作成)
金型温度145℃にした射出成形用金型に前述したNMT用の表面処理を施したケース20及び回路カバー35をインサートし、ケース端部23及び回路カバー端部35aに前述した樹脂(例えばPPS樹脂「SGX120」)を射出する。これにより射出成形部30(絶縁部32及び口金固定部33が一体化したもの)が成形されると共に、これを構成する樹脂組成物がアルミニウム製の端部23及び35a表面の超微細凹凸に侵入して硬化した一体化物であるLED電球用ケースが得られる。
【0049】
このLED電球用ケースは、アルミニウム製のケース20とアルミニウム製の回路カバー31が絶縁部32を介して一体に接合された部品であり、さらに絶縁部32と口金固定部33が一体化された部品である。このような構造とすることで、回路カバー31、絶縁部32、及び口金固定部33とケース20を固定するためのねじ止め機構や接着剤が不要であるため、LED電球の構造や組立工程を簡素化することができる。
【0050】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこの形態に限定されることはなく、本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内での変更が可能なことはいうまでもない。また、本実施形態ではNMTによってアルミニウム表面に凹凸を形成して樹脂組成物と接合しているが、凹凸の形成及び樹脂組成物との接合が可能な他の手法を用いるようにしても良い。例えば、アルミニウム表面に凹凸を設ける際に、アルマイト処理を行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0051】
1…LED電球
10…LED
11…基板
12…基台
15…点灯回路
20…ケース
30…樹脂成形部
31…回路カバー
33…口金固定部
35…回路カバー
40…口金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LEDが実装された基板と、
口金を介して受電し前記LEDを点灯させる点灯回路と、
前記点灯回路が収容される回路カバーと、
前記LED点灯時の熱を放熱するアルミニウム製のケースと、
を備えるLED電球であって、
前記回路カバーは、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、及びポリアミド樹脂から選択される1種以上を含む樹脂組成物により構成される射出成形物であり、
前記ケース表面には凹凸が形成されており、前記射出成形物を構成する樹脂組成物が前記凹凸に侵入していることにより、前記回路カバーと前記ケースが一体化されていることを特徴とするLED電球。
【請求項2】
LEDが実装された基板と、
口金を介して受電し前記LEDを点灯させる点灯回路と、
前記点灯回路が収容されるアルミニウム製の回路カバーと、
前記LED点灯時の熱を放熱するアルミニウム製のケースと、
を備えるLED電球であって、
ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、及びポリアミド樹脂から選択される1種以上を含む樹脂組成物により構成され、前記回路カバー及び前記ケースと接触する射出成形物を有し、
前記回路カバー表面及び前記ケース表面には凹凸が形成されており、前記射出成形物を構成する樹脂組成物が、前記回路カバー表面及び前記ケース表面の双方の凹凸に侵入していることにより、前記回路カバーと前記ケースが一体化されていることを特徴とするLED電球。
【請求項3】
請求項1又は2に記載したLED電球であって、
前記射出成形物は、
前記樹脂組成物により構成され前記口金と前記ケースとを絶縁する絶縁部、前記樹脂組成物により構成され前記ケース外部に表出する放熱部、及び前記樹脂組成物により構成され前記口金が固定される口金固定部が一体に成形されたものであることを特徴とするLED電球。
【請求項4】
請求項3に記載したLED電球であって、
前記絶縁部と前記放熱部は同一部であることを特徴とするLED電球。
【請求項5】
LED点灯時の熱を放熱するアルミニウム製のケースと、
ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、及びポリアミド樹脂から選択される1種以上を含む樹脂組成物により構成され、口金を介して受電し前記LEDを点灯させる点灯回路が収容される射出成形物である回路カバーにより構成され、
前記ケース表面には凹凸が形成されており、前記射出成形物を構成する樹脂組成物が、前記凹凸に侵入していることにより、前記ケースと前記回路カバーが一体化されていることを特徴とするLED電球用ケース。
【請求項6】
LED点灯時の熱を放熱するアルミニウム製のケースと、
ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、及びポリアミド樹脂から選択される1種以上を含む樹脂組成物により構成される射出成形物と、
口金を介して受電し前記LEDを点灯させる点灯回路が収容されるアルミニウム製の回路カバーにより構成され、
前記ケース表面及び回路カバー表面には凹凸が形成されており、前記射出成形物を構成する樹脂組成物が、前記ケース表面及び前記回路カバー表面の双方の凹凸に侵入していることにより、前記ケース、前記射出成形物、及び前記回路カバーが一体化されていることを特徴とするLED電球用ケース。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−69514(P2013−69514A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206672(P2011−206672)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000206141)大成プラス株式会社 (87)
【Fターム(参考)】