説明

LKB1活性化剤

【課題】安全性が高いLKB1活性化剤を提供する。
【解決手段】ヌートカトンを含有するLKB1活性化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LKB1活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
LKB1(又はSTK11ともいう)は、1998年に、ポイツ・イェーガー症候群(PJS)の原因因子として見出された(例えば、非特許文献1参照)。PJSは、皮膚及び口腔粘膜の色素沈着と、消化管におけるポリポーシスを特徴とする、常染色体優性の遺伝性疾患である。
【0003】
最近の研究により、LKB1は少なくとも12個のキナーゼを標的分子としてリン酸化し、活性化するマスターキナーゼであることや、STRAD(STe20-Related Adaptor Protein)及びMO25(Mouse Protein 25)と呼ばれる活性調節分子と複合体を形成することが明らかとなってきた(例えば、非特許文献2〜3参照)。LKB1の役割については、例えばLKB1遺伝子を欠失したマウスを用いた検討では、LKB1欠失マウスは妊娠中期で死亡し、胎児には神経管欠損、間充織の細胞死、及び血管異常などが観察されている(例えば、非特許文献4参照)。このことから、細胞分化を制御するLKB1の役割が示唆されている。また、ショウジョウバエを用いた研究では、LKB1の突然変異クローンが頂端基底上皮の極性を破壊したことから、LKB1の細胞極性化への関与が示唆されている(例えば、非特許文献5参照)。さらに疫学的調査によると、PJS患者は健常人と比較して様々な癌の発症リスクが顕著に高いということが明らかにされている。以上の事実から、LKB1は細胞の分化や極性を調節することにより、癌抑制因子として機能していると推察されている(例えば、非特許文献6参照)。実際に、LKB1と癌との直接の因果関係を示した報告も以下のようになされている。
【0004】
LKB1の喪失と癌遺伝子K−Rasの変異を併せもつ肺癌マウスモデルでは、K−Ras変異単独のモデルよりも侵襲性の高い腫瘍が発生し、また、非小細胞肺癌の扁平上皮癌サブタイプでLKB1の変異が見いだされている(例えば、非特許文献7参照)。さらに乳癌においても、LKB1の発現の消失やLKB1遺伝子のメチル化による不活化が認められている(例えば、非特許文献8参照)。
以上より、LKB1を活性化することは癌の予防や改善に寄与すると考えられるが、LKB1を活性化するような剤についてはほとんど報告がない。わずかに、アディポサイトカインの一つであるアディポネクチンや、糖尿病の治療薬として用いられるメトホルミンが、LKB1を活性化することを示唆する報告があるのみである(例えば、非特許文献9及び10参照)。
【0005】
さらに、LKB1の標的分子の一つとして、SIK(salt inducible kinase)がある。これまでに、副腎皮質を副腎皮質刺激ホルモンで刺激するとSIKが誘導され、その結果ステロイドホルモン産生の律速酵素の遺伝子発現が調節されることが明らかになってきた(例えば、非特許文献11参照)。副腎で産生されるステロイドホルモンは、糖代謝、脂質代謝、血圧の調節、生殖機能の維持等の機能をもっており、生体活動の維持に必須なホルモンである。副腎機能が低下してステロイドホルモンが減少すると、慢性的な脱力感や全身倦怠感が引き起こされることが一般的に知られている。そのため、副腎機能を正常に保つことは健常な生活を送るうえで大変重要なことである。LKB1は、副腎に特異的に高発現し副腎機能の調節作用を持つSIKの活性を制御する作用を有する。そのため、LKB1をリン酸化し活性化するLKB1活性化剤は、副腎機能調節剤として大変有用であると考えられる。
【0006】
さらに、BRSK(Brain-Specific Kinases)1(又はSAD−Bともいう)及びBRSK2(又はSAD−Aともいう)もLKB1の標的分子となることが知られている。BRSK1及びBRSK2は脳に特異的に発現しており、脳神経細胞の分化及び極性調節を担う重要な分子である。脳神経細胞の極性とは、未分化の脳神経細胞が樹状突起又は軸索という相異なる性質をいい、脳神経系の発生分化に重要である。脳神経細胞の活動電位は樹状突起で発生し、軸索を伝播して他の神経細胞に伝達されていく。そのため、脳神経細胞の分化及び極性を制御することは、脳神経系の働きを正常に保つうえで非常に重要である(例えば、非特許文献12参照)。LKB1は、BRSK1及び/又はBRSK2を活性化するため、LKB1活性化剤はBRSK1及び/又はBRSK2の活性化を介し、神経細胞の分化及び極性を制御することにより脳機能の調節剤として有用であると考えられる。
【0007】
上述のように、LKB1を活性化することは副腎機能及び/又は脳機能にも効果的であると言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nature、1998年、第391巻、p.184−187
【非特許文献2】EMBO J.、2004年、第23巻、p.833−843
【非特許文献3】J.Biol.、2003年、第2巻、p.28
【非特許文献4】Science、2001年、第293巻、p.1323−1326
【非特許文献5】Nature、2003年、第421巻、p.379−384
【非特許文献6】FEBS Lett.、2003年、第546巻、p.159−165
【非特許文献7】Nature、2007年、第448巻、p.807−811
【非特許文献8】Appl.Immunohistochemi.Mol.Morphol.、2006年、第14巻、p.146−153
【非特許文献9】Biochem.Biophys.Res.Commun.、2006年、第351巻、p.595−601
【非特許文献10】Science、2005年、第310巻、p.1642−1646
【非特許文献11】Mol.Endocrinol.、2001年、第15巻、p.1264−1276
【非特許文献12】Science、2005年、第307巻、p.929−932
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、安全性が高いLKB1活性化剤を提供することを課題とする。
また、本発明は、癌等の腫瘍の予防、治療及び/又は改善に有効な抗腫瘍剤を提供することを課題とする。
また、本発明は、脳機能の調節等に有効な脳神経細胞の極性調節剤を提供することを課題とする。
また、本発明は、副腎機能の調節等に有効な副腎機能調節剤を提供することを課題とする。
さらに、本発明は、癌細胞(悪性腫瘍)等の腫瘍細胞の増殖抑制に有効な腫瘍細胞増殖抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、PJSの原因分子であり、癌抑制遺伝子の転写産物であるLKB1の活性化に有効な成分の探索を行った。その結果、ヌートカトンにLKB1活性化作用があることを見い出した。さらにヌートカトンは、癌細胞の増殖を抑制したことから、癌等の腫瘍の予防、治療及び/又は改善に有効であることを見い出した。LKB1はSIK、BRSK1及びBRSK2をリン酸化することによりそれら分子の活性を調節する。そのため、ヌートカトンは副腎機能及び/又は脳機能の調節等に有効であることも見い出した。本発明は、これらの知見に基づき完成するに至った。
【0011】
本発明は、ヌートカトンを含有するLKB1活性化剤に関する。
また、本発明は、ヌートカトンを含有する抗腫瘍剤に関する。
また、本発明は、ヌートカトンを含有する脳神経細胞の極性調節剤に関する。
また、本発明は、ヌートカトンを含有する副腎機能調節剤に関する。
また、本発明は、ヌートカトンを含有する腫瘍細胞増殖抑制剤に関する。
さらに、本発明は、LKB1活性化剤、抗腫瘍剤、脳神経細胞の極性調節剤、副腎機能調節剤又は腫瘍細胞増殖抑剤製造のためのヌートカトンの使用に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、安全性が高いLKB1活性化剤を提供することができる。
また、本発明によれば、癌等の腫瘍の予防、治療及び/又は改善に有効な抗腫瘍剤を提供することができる。
また、本発明によれば、脳機能の調節等に有効な脳神経細胞の極性調節剤を提供することができる。
また、本発明によれば、副腎機能の調節等に有効な副腎機能調節剤を提供することができる。
また、本発明によれば、腫瘍細胞の増殖抑制に有効な腫瘍細胞増殖抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】肝癌由来細胞株(Hepa1−6)を用いたヌートカトンのLKB1活性化作用を示す電気泳動図である。
【図2】肝癌由来細胞株(Hepa1−6)を用いたヌートカトンの癌細胞増殖抑制作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、その好ましい実施態様に基づき詳細に説明する。
本発明のLKB1活性化剤、抗腫瘍剤及び腫瘍細胞増殖抑制剤は、ヌートカトンを含有することを特徴とする。
ヌートカトン(Nootkatone:4,4a,5,6,7,8−ヘキサヒドロ−6−イソプロペニル−4,4a−ジメチル−2(3H)−ナフタレノン)は、グレープフルーツの果皮等に多く存在する特徴的な香気成分である(Mol.Cell Biochem.、2007年、第306巻、p.239−245)。このように、天然物素材に存在するヌートカトンを含有する本発明のLKB1活性化剤、抗腫瘍剤及び腫瘍細胞増殖抑制剤は、安全性が高い。また、ヌートカトンの生理作用については、自律神経調整作用、AMP活性化プロテインキナーゼ活性化作用、肥満抑制作用、持久力向上作用等が知られていたが、LKB1活性化については知られていなかった。本発明者等がヌートカトンのLKB1活性化作用を明らかにし、その知見に基づいて本発明が完成するに至った。
本発明において、ヌートカトンとは、4,4a,5,6,7,8−ヘキサヒドロ−6−イソプロペニル−4,4a−ジメチル−2(3H)−ナフタレノンなるセスキテルペンケトンをいう。当該ヌートカトンには、8種類の光学異性体が存在する。本発明においては、それら異性体を単独又は混合して用いることができるが、次の構造式(I)で表される(+)−ヌートカトンを用いるのが好ましい。
【0015】
【化1】

【0016】
本発明で用いるヌートカトンは、通常の有機化学的合成、微生物を用いた合成等により製造することができ、例えば、特開2004−123561号公報、特開2003−250591号公報、特表平11−501052号公報に記載の方法により得ることができる。また、本発明で用いるヌートカトンは、ヌートカトンを含有する天然物から通常の方法により抽出することにより得ることもできる。ここで、抽出は、例えば、水、熱水、エタノール、メタノール、イソプロパノール等のアルコール水、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル等の有機溶剤等を用いて行う抽出操作と高速液体クロマトグラフやカラムクロマトグラフ等による精製操作や蒸留操作を適宜組み合わせて行う方法により行うことができる。ヌートカトンを含有する天然物としては特に制限はないが、例えばミカン(Rutaceae)科のグレープフルーツ(Citrus paradisi)、ザボン(Citrus maxima)、ナツミカン(Citrus natsudaidai)等が挙げられる。グレープフルーツからヌートカトンを抽出する場合、その原料としては例えば、グレープフルーツ果実、グレープフルーツ果皮、グレープフルーツオイル、グレープフルーツ濃縮果汁、グレープフルーツ果汁搾汁後の残渣等を用いることができる。抽出条件は通常の条件を適用でき、例えばグレープフルーツなどの天然物を40〜100℃で1分〜3日間浸漬又は加熱還流したり、圧搾すればよい。
【0017】
上記合成法や抽出法により得られるヌートカトンは、単数又は複数工程の精製等により夾雑物が除かれた高純度のものを用いることが好ましいが、本発明の効果を奏する限り粗精製物であってもよい。あるいは、上記化合物に、例えば酸化チタン、炭酸カルシウム、蒸留水、乳糖、デンプン等の適当な液体又は固体の賦形剤又は増量剤を加えて用いてもよい。
【0018】
後記実施例に示すとおり、ヌートカトンはLKB1活性化作用を有する。そのため、ヌートカトンはLKB1活性化剤に使用することができる。さらに、LKB1活性化剤を製造するために使用することが出来る。
また、後記実施例に示すとおり、ヌートカトンは癌細胞等の腫瘍細胞増殖抑制作用も有する。従って、ヌートカトンを含有する本発明の抗腫瘍剤及び腫瘍細胞増殖抑制剤は、癌等の腫瘍の予防、治療及び/又は改善に有用である。さらに、ヌートカトンはこのような抗腫瘍剤及び腫瘍細胞増殖抑制剤を製造するために使用することが出来る。
LKB1活性化剤は、LKB1の活性化を介して、LKB1の制御下にある生命現象を制御することが出来、例えば、副腎機能及び脳神経細胞の極性を調節することができる(例えば、非特許文献11及び12参照)。従って、ヌートカトンを含有することを特徴とする本発明の脳神経細胞の極性調節剤及び副腎機能調節剤は、それぞれ、脳神経細胞の極性及び副腎機能の調節等に有用である。
【0019】
本明細書において、「脳神経細胞の極性調節」とは、脳神経細胞の分化を制御しその機能を正常にすることを意味する。「副腎機能調節」とは、副腎の機能を正常に保つことを意味する。
【0020】
本発明のLKB1活性化剤は、上記のLKB1活性化、癌等の腫瘍の予防、治療及び/又は改善、副腎機能調節、脳機能調節等の効果を発揮する、ヒト及び動物用の飲料、食品、医薬品、ペットフード、医薬部外品等として使用可能である。さらに、本発明のLKB1活性化剤はそれらの製造のために使用可能である。癌としては、例えば胃癌、肺癌、肝癌、大腸癌、前立腺癌、乳癌、子宮癌、直腸癌、等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。副腎機能としては例えばステロイドホルモンの産生調節機能などが、脳機能としては例えば神経細胞の分化及び極性調節などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
本発明のLKB1活性化剤を医薬品や医薬部外品として使用する場合、例えば、錠剤、顆粒剤等の経口用固形製剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤とすることができる。
ヌートカトンを含有する上記製剤は、それぞれ通常の製造方法により、直接又は製剤上許容し得る担体とともに混合、分散した後、所望の形態に加工することができる。この場合、前記ヌートカトンのほかに、かかる形態に通常用いられる動植物油等の油性基剤、鎮痛消炎剤、鎮痛剤、殺菌消毒剤、収斂剤、皮膚軟化剤、ホルモン剤、ビタミン類、保湿剤、紫外線吸収剤、アルコール類、キレート類、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、色素、香料等を本発明の効果を妨害しない範囲で適宜配合することができる。
前記製剤に対するヌートカトンの配合量は、その使用形態により異なるが、例えば錠剤、顆粒剤、カプセル剤等の経口用固形製剤の場合は、通常0.1〜90質量%であり、5〜80質量%とするのが好ましく、20〜70質量%とするのがより好ましい。また、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤等の場合は、通常0.01〜50質量%であり、0.1〜30質量%とするのが好ましく、1〜20質量%とするのがより好ましい。
本発明のLKB1活性化剤の投与量(有効摂取量)は、一日当り10〜3000mg/60kg体重とするのが好ましく、20〜1000mg/60kg体重とするのがより好ましく、30〜500mg/60kg体重とするのが更に好ましい。
【0022】
本発明のLKB1活性化剤を使用した飲料、食品、ペットフード等におけるヌートカトンの配合量は、その使用形態により異なるが、通常0.01質量%〜10質量%であり、0.01質量%〜5質量%とするのが好ましく、0.1質量%〜2質量%とするのがより好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
実施例1
ヌートカトンのLKB1活性化作用は、肝癌由来細胞株(Hepa 1-6)を用い、LKB1のリン酸化を指標として、次法により評価した。
Hepa 1-6細胞を25cm2フラスコにまき、DMEM(+10%FBS、+抗菌剤)中37℃で1〜2日培養した。サブコンフルエントになった時点で培養液を除去し、PBS(−)で洗浄後、DMEM(−FBS)に置き換え更に1日培養した。培養液を除去後、100μM(mol/L)のヌートカトン(和光純薬社)を含むDMEM(−FBS)を加え、30分間培養した。その後、培養液を除去し、PBS(−)で洗浄後、細胞溶解液(10mM Tris(pH7.4)、50mM塩化ナトリウム、30mMピロリン酸ナトリウム、0.5質量%Triton X-100、1質量%protease inhibitor cocktail(SIGMA、商品名:P2714)、1質量%phosphatase inhibitor cocktail-1(SIGMA、商品名:P2850)、1質量%phosphatase inhibitor cocktail-2(SIGMA、商品名:P5726))を200μL添加し、セルスクレイパーで細胞溶解液を回収した。回収した細胞溶解液は、25Gの針付シリンジを3回通すことにより十分にホモジナイズし、その後30分間氷上に放置した。15000rpmで15分間、4℃で遠心した後、その上清タンパク質を以下の測定に用いた。
上清蛋白質の濃度をBCA Protein Assay Kit(商品名、PIERCE社)で測定した後、サンプル間のタンパク質濃度を2mg/mLで一定になるよう調整した。その三分の一量のSDS Sample Buffer(Novagen社)を加えた後、95℃で熱変性、4℃で急冷し、電気泳動用のサンプルを調製した。
【0025】
上記で調製したサンプル(タンパク質量として20μg)をSDS−PAGE(10%ゲル)に供し、イモビロン−P トランスファーメンブレン(ミリポア社)へ転写後、3%スキムミルクを用いて室温で1時間、ブロッキング反応を行った。続いてanti-phospho-LKB1(Ser428)抗体(Cell Signaling社)を1000倍希釈して、4℃で一晩、一次抗体反応を行った。反応後、1000倍希釈したanti-rabbit-HRP抗体(Cell Signaling社)を用いて、室温で1時間、二次抗体反応を行った。その後、phototope-HRP Western Detection System(商品名、Cell Signaling社)を検出試薬として用いて、化学発光検出装置ChemiDoc XRS(バイオラッド社)を用いてphospho-LKB1を検出した。試料無添加の溶媒コントロール群を対象(コントロール)とした。その結果を図1に示す。尚、一次抗体としてα-tubulin(Cell Signaling社)を用いることにより、総タンパク質量に相異がないことを確認した。
【0026】
図1からわかるように、ヌートカトンを添加することによりphospho-LKB1が生成された。このことから、ヌートカトンはLKB1活性化作用を有することがわかる。
【0027】
実施例2
ヌートカトンの癌細胞増殖抑制作用は、肝癌由来細胞株(Hepa 1-6)を用い、細胞増殖試薬WST−1(商品名、Roche Applied Science)を用いて次法により評価した。
Hepa 1-6細胞を96ウェルマイクロプレートにまき、DMEM(+10%FBS、+抗菌剤)中37℃で1日培養した。培養液を除去後、200μM(mol/L)のヌートカトン(和光純薬社)を含むDMEM(+10%FBS、+抗菌剤)を加え、24時間培養した。培養液にWST−1を10μL/ウェルずつ添加し、さらに2時間培養した。培養後、分光光度計を用いて450nmの吸光度を測定した。得られた吸光度は、培養液中において代謝活性を有する生細胞数に比例する。すなわち、吸光度が低いと、細胞増殖が抑制されていることを意味する。
【0028】
その結果を図2に示す。図2には、試料無添加の溶媒コントロール群の吸光度を1としたときの相対的吸光度を、平均値±標準誤差(n=8)で示した。有意差を*P<0.05とした。
図2からわかるように、ヌートカトンを添加することにより吸光度が低下し、代謝活性を有する生細胞数が減少した。このことから、ヌートカトンは癌細胞増殖抑制作用も有することがわかる。
【0029】
実施例1及び2の結果から、ヌートカトンは優れたLKB1活性化作用及び癌細胞等の腫瘍細胞増殖抑制作用を有し、腫瘍の予防、治療及び/又は改善に有効であることがわかる。さらに、ヌートカトンは優れたLKB1活性化作用を有するので、ヌートカトンは抗腫瘍剤、脳神経細胞の極性調節剤、及び副腎機能調節剤として好適に用いることができる。
【0030】
処方例1 カプセル剤の調製
通常のカプセル化剤中に下記成分からなる組成物(300mg)を常法により封入し、カプセル化剤を調製した。
(成分) (成分量)
ヌートカトン(和光純薬製) 20質量%
コーンスターチ 45質量%
セルロース 15質量%
トコフェロール 2質量%
乳糖 18質量%
【0031】
処方例2 錠剤の調製
常法により、下記成分からなる組成物(1錠当り250mg)を打錠し、錠剤を製造した。
(成分) (成分量)
ヌートカトン(和光純薬製) 30質量%
コーンスターチ 30質量%
セルロース 10質量%
ビタミンC 20質量%
乳糖 10質量%
【0032】
処方例3 顆粒剤の調製
常法により、下記成分からなる組成物(1袋当り500mg)を混合し、顆粒剤を製造した。
(成分) (成分量)
ヌートカトン(和光純薬製) 15質量%
コーンスターチ 20質量%
セルロース 15質量%
ビタミンC 20質量%
乳糖 20質量%
カフェイン 10質量%
【0033】
処方例4 内服液剤の調製
常法により、下記成分からなる組成物を混合し、内服液剤(30ml)を調製した。
(成分) (成分量)
ヌートカトン(和光純薬製) 5質量%
スクロース 15質量%
アスパルテーム 5質量%
安息香酸 0.1質量%
クエン酸 1質量%
精製水 残量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヌートカトンを含有することを特徴とするLKB1活性化剤。
【請求項2】
ヌートカトンを含有することを特徴とする抗腫瘍剤。
【請求項3】
ヌートカトンを含有することを特徴とする脳神経細胞の極性調節剤。
【請求項4】
ヌートカトンを含有することを特徴とする副腎機能調節剤。
【請求項5】
ヌートカトンを含有することを特徴とする腫瘍細胞増殖抑制剤。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−280598(P2010−280598A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134162(P2009−134162)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】