説明

Mg合金板のカシメ方法

【課題】Mgを90質量%以上含有するMg合金板のカシメ方法を提供する。
【解決手段】Mg合金板を複数枚重ねて、複数枚のMg合金板1a,1bの接合位置9を加熱し、一定の加熱温度に保持しながらMg合金板をパンチ2でダイス3内に押し込むことによってMg金属板を塑性変形させてクリンチングカシメを行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mg合金板を塑性変形させて接合するカシメ方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、JIS規格AZ31等のマグネシウムを主成分(Mg含有量90質量%以上)とする合金(以下、Mg合金という)は、軽量かつ高強度で、しかも電磁波遮蔽性や放熱性に優れているので、携帯電話やTVカメラ等の電子機器の筺体等の素材として注目されている。
しかしながら、Mg合金板は接合することが難しいので、Mg合金からなる製品を得るために、鋳造が広く行なわれている。ところが、鋳造によって得られる製品は、寸法精度が劣り、生産性が低いという問題がある。
【0003】
鋳造以外の成形技術としては、加熱した型を用いて、板状のMg合金(以下、Mg合金板という)に曲げ加工や絞り加工等を施して所定の形状に成形すれば、寸法精度の良好なMg合金板の成形品を得ることは可能である。しかし、その成形品同士を接合しなければならないので、Mg合金板の接合技術を確立する必要がある。
たとえば特許文献1には、Al−Mg系のAl合金板の抵抗スポット溶接方法が開示されている。この技術は、自動車ボディ等に使用されるAl−Mg系のAl合金板を、通電によって局部的に溶融させ、さらに凝固させることによって、図3に示すようなナゲット5を形成して接合するものである。そのAl−Mg系のAl合金板のMg含有量は5〜9wt%であり、主成分はAlであるから抵抗スポット溶接を容易に行なうことができる。
【0004】
ところが、Mgを90質量%以上含有するMg合金板の接合に抵抗スポット溶接法を適用すると、Mg合金板は放熱性が高い性質であることから、Mg合金板を中心部まで十分に加熱して溶融させることができないので、Mg合金板の溶接は困難であった。また、他の溶接法(たとえばアーク溶接等)を用いても、Mg合金板の放熱性が高い故に、Mg合金板の溶接による接合は困難であった。
【0005】
そこで、Mg合金板を溶接以外の方法で接合する技術としては、たとえば特許文献2に、無機接合層を介してマグネシウム合金片を接合したマグネシウム合金部材が開示されている。この技術は、マグネシウム合金片の接合面に無機系接着剤を塗布し、その接合面を圧接して接合した後、さらに熱処理により有機溶媒を除去するものであり、製造工程が複雑になり、生産性の低下を招くという問題がある。
【0006】
また、特許文献3には、MgおよびMg合金の摩擦攪拌接合方法が開示されているが、この技術は、2枚のMg合金板材を突き合わせて、その突き合わせ部を摩擦攪拌接合用ツールで摩擦攪拌して、発生する摩擦熱を利用して接合するものである。この方法は、Mg合金板がかなり厚い場合に有効であり、比較的薄いMg合金板では接合できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5-277751号公報
【特許文献2】特開2010-125624号公報
【特許文献3】特開2011-79022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、Mgを90質量%以上含有するMg合金板のカシメ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、Mg合金板を塑性変形させてカシメ接合する方法について検討した結果、Mg合金板が厚い場合にはカシメ接合は困難であるが、携帯電話やTVカメラ等の筺体等の素材として使用される比較的薄いMg合金板では、Mg合金板を一定の加熱温度に保持しながら、図2(a)に示すようなパンチ2とダイス3を用いてプレス加工すれば、クリンチングカシメ接合が可能であるという知見を得た。
【0010】
ここで、クリンチングカシメ接合とは、図2(b)に示すように、上板1aに突出部4を形成し、その突出部4を下板1bと噛み合わせて、上板1aと下板1bをカシメ接合するものである。
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、Mg合金板を複数枚重ねて、複数枚のMg合金板の接合位置を加熱し、一定の加熱温度に保持しながら加熱されたMg合金板をパンチでダイス内に押し込むことによってMg合金板を塑性変形させてクリンチングカシメを行なうMg合金板のカシメ方法である。
【0011】
本発明のMg合金板のカシメ方法においては、Mg合金板の厚さを0.1〜4mmとし、加熱温度を250〜300℃とすることが好ましい。また、加熱を、ヒーターからの伝熱または電極からの通電によって行なうことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Mgを90質量%以上含有するMg合金板を簡略な方法で、カシメ接合を行なうことが可能であるから、携帯電話やTVカメラ等の筺体等のMg合金板が使用される製品の製造に有利であり、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用してMg合金板のクリンチングカシメを行なった例を示す斜視図であり、(a)は上板側、(b)は下板側を示す。
【図2】クリンチングカシメの例を模式的に示す断面図であり、(a)上板,下板,ダイス,パンチの配置の例、(b)接合部の例を示す。
【図3】スポット溶接による接合部の例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、Mgを90質量%以上含有するMg合金板を2枚重ねてクリンチングカシメ接合を行なった接合部9の例を示す斜視図であり、(a)は上板側、(b)は下板側を示す。また、図2は、クリンチングカシメ接合の例を模式的に示す断面図であり、(a)は上板1a,下板1b,ダイス2,パンチ3の配置、(b)は接合部9を示す。以下に、図1,2を参照して、Mg合金板を2枚重ねてクリンチングカシメ接合を行なう手順について説明する。ここでは2枚のMg合金板のうち、上側(パンチ2側)のMg合金板を上板1a、下側(ダイス3側)のMg合金板を下板1bとする。
【0015】
Mg合金板のクリンチングカシメ接合で使用するパンチ2は、図2(a)に示すように、その下端部に円形の突起6を有しており、ダイス3は、円形の凹部7の底部に円環状の溝8を有する。パンチ2の下面21(すなわち突起6の下面)とダイス3の上面31は、いずれも平面とする。パンチ2の下面21と上板1aの上面がそれぞれに上板1a、下板1bに当接する位置が、クリンチングカシメ接合による接合位置となる。
【0016】
Mg合金板のクリンチングカシメ接合においては、図2(a)に示すように、上板1a,下板1bをパンチ2とダイス3で挟持して、上板1a,下板1bの接合位置を加熱し、一定の加熱温度に保持しながら、パンチ2で上板1aと下板1bをダイス3に押し込むことによって、図2(b)に示すように上板1aと下板1bを塑性変形させて接合する。このとき、上板1aと下板1bが溝8に流れ込むことによって、接合部9では、上板1aに突出部4が形成され、かつその突出部4が下板1bと噛み合い、上板1aと下板1bが強固に接合される。
【0017】
上板1aと下板1bの接合位置の加熱温度は250〜300℃の範囲内が好ましい。接合位置における上板1a,下板1bの温度が250℃未満では、上板1a,下板1bが変形し難いので、クリンチングカシメ接合が困難になる。一方、接合位置における上板1a,下板1bの温度が300℃を超えると、上板1a,下板1bが局部的に溶融するので、クリンチングカシメ接合が困難になる。
【0018】
上板1aと下板1bの接合位置を加熱する手段は特に限定しないが、上記した通りパンチ2とダイス3がそれぞれ上板1a,下板1bに当接することから、パンチ2とダイス3にヒーターを配設して上板1a,下板1bに伝熱する、あるいはパンチ2とダイス3に電極を配設して上板1a,下板1bに通電する等によって加熱することが好ましい。
ヒーターを配設したパンチ2,ダイス3から上板1a,下板1bに伝熱する場合は、パンチ2またはダイス3のいずれか片方にヒーターを配設して、上板1a,下板1bに伝熱することは可能である。しかし、Mg合金板は放熱性が極めて高いことから、パンチ2およびダイス3の両方にヒーターを配設して上板1a,下板1bに伝熱することによって、接合位置の上板1a,下板1bを加熱することが好ましい。
【0019】
また、電極を配設したパンチ2,ダイス3から上板1a,下板1bに通電して、その抵抗発熱によって接合位置の上板1a,下板1bを加熱する場合は、一般の単相交流電源が使用できるので、パンチ2とダイス3の極性は特に限定しない。
通電時間は、50Hzの単相交流では7〜12サイクル(すなわち0.14〜0.24秒)の範囲内が好ましい。通電時間が0.14秒未満では、接合位置の上板1a,下板1bを十分に加熱できないので、上板1a,下板1bが十分に変形せず、その結果、クリンチングカシメ接合が困難になる。一方、通電時間が0.24秒を超えると、上板1a,下板1bが過剰に加熱されて局部的に溶融して、クリンチングカシメ接合が困難になる。
【0020】
通電する電流は、2.0〜2.5kAの範囲内が好ましい。電流が2.0kA未満では、接合位置の上板1a,下板1bを十分に加熱できないので、上板1a,下板1bが十分に変形せず、その結果、クリンチングカシメ接合が困難になる。一方、電流が2.5kAを超えると、上板1a,下板1bが過剰に加熱されて局部的に溶融して、クリンチングカシメ接合が困難になる。
そして、上板1a,下板1bの接合位置の加熱に引き続き、パンチ2をエアーシリンダーで押下してクリンチングカシメを行なう。パンチ2を押下するためにエアーシリンダーに付与するエアー圧は、1台のパンチで0.3〜0.5MPaの範囲内が好ましい。エアー圧が0.3MPa未満では、パンチ2の押下が弱いので、上板1a,下板1bは変形しない。一方、エアー圧が0.5MPaを超えると、上板1a,下板1bの変形速度が速すぎるので、突出部4が十分に形成されず、クリンチングカシメ接合が不十分となる。
【0021】
パンチ2を押下するにあたって、上板1a,下板1bが所定の温度に加熱された後、パンチ2の押下までに長時間が経過すると、放熱性が高い上板1aと下板1bの温度が急速に低下するので、クリンチングカシメ接合が困難になる。そこで、パンチ2とダイス3がそれぞれ上板1a,下板1bに当接した状態で、パンチ2のエアーシリンダーに上記したエアー圧を付与しながら、上板1a,下板1bを加熱することが好ましい。このようにして、接合位置の上板1a,下板1bを一定の加熱温度に保持しながらパンチ2を押下して、クリンチングカシメ接合を行なうことが可能となる。
【0022】
同一の接合位置で、パンチ2を押下する回数は、1回とすることが好ましい。パンチを2回以上押下するためには、上板1a,下板1bの接合位置を加熱した後に時間を要するので、放熱性が高い上板1aと下板1bの温度が急速に低下して、2回目以降の押下が困難になる。そのため、パンチ2の押下を1回に限定してクリンチングカシメ接合を行なうことが好ましい。
【0023】
このようにしてクリンチングカシメ接合を行ない、Mg合金板を塑性変形させることによって、図1に示すような接合部9を形成する。図1には接合部9を3ケ所に設ける例を示したが、本発明では接合部9の数は限定しない。上板1a,下板1bの大きさや接合部に求められる接合強さ等に応じて、接合部9の数を適宜設定する。
たとえば図1に示すように、接合部9を3ケ所に設ける場合は、3組のパンチ2とダイス3を並列して同時にクリンチングカシメ接合を行なう、あるいは1組のパンチ2とダイス3を用いて、それぞれの接合位置でクリンチングカシメ接合を合計3回行なうことによって、接合部9を3ケ所に設けることができる。
【0024】
Mg合金板(すなわち上板1a,下板1b)の厚さは、いずれも0.1〜4mmの範囲内が好ましい。厚さが0.1mm未満では、加熱によってMg合金板の温度が急激に上昇するので、反りが発生し易くなる。一方、Mg合金板は放熱性が極めて高い性質であることから、厚さが4mmを超えると、加えられた熱量が放散されるので、加熱してもMg合金板の温度が上昇せず、その結果、クリンチングカシメ接合が困難になる。
【0025】
なお、上板1aと下板1bの厚さは必ずしも同一とする必要はないが、クリンチングカシメ接合によって、図2(b)に示すように、上板1aに十分な大きさの突出部4を安定して形成し、かつその突出部4を下板1bと噛み合わせて接合部9を形成するためには、同じ厚さの上板1aと下板1bを接合することが好ましい。
2枚のMg合金板をクリンチングカシメ接合によって接合する手順を説明したが、本発明は、接合するMg合金板を2枚に限定するものではない。3枚以上のMg合金板を接合する場合も、同様の手順でクリンチングカシメ接合を行なうことができる。
【0026】
また、本発明は、JIS規格AZ31,AZ61,AM60,AM80等のMgを90質量%以上含有するMg合金板のクリンチングカシメ接合に適用できる。
【実施例】
【0027】
図2(a)に示すようにパンチ2とダイス3を1組用いてクリンチングカシメ接合を行ない、2枚のMg合金板(JIS規格AZ31)を、図1に示すように接合した。その手順について説明する。
使用したパンチ2の突起6の外径は4mm、ダイス3の凹部7の内径は6mmとし、上板1aと下板1bの厚さは、いずれも1mmとした。
【0028】
これらの上板1aと下板1bを重ねて、図2(a)に示すように、パンチ2とダイス3で挟持し、パンチ2の下面21を上板1aの上面に当接させ、ダイス3の上面31を下板1bの下面に当接させた。
次に、パンチ2を押下するエアーシリンダー(図示せず)にエアー圧(0.3MPa)を付与しながら、パンチ2とダイス3に配設した電極(図示せず)から50Hzの単相交流電流を通電(通電時間10サイクル=0.2秒,電流2.2kA)して、上板1aと下板1bを加熱した。このようにして上板1aと下板1bの接合位置を加熱して280℃に保持しながら、パンチ2を1回押下して、クリンチングカシメを行なった。これを発明例1として表1に示す。
【0029】
表1に示す発明例2〜4は、Mg合金板の厚さを本発明の範囲内で変化させてクリンチングカシメを行なった例である。また、比較例1,2は、加熱温度が本発明の範囲を外れる例である。これらの例では、Mg合金板の厚さに応じてパンチ2とダイス3を選択し、加熱温度に応じて電流と通電時間を設定した。
【0030】
【表1】

【0031】
さらに接合位置を変更して、同様の手順でクリンチングカシメ接合を行なうことによって、図1に示すように、3ケ所に接合部9を設けた。
発明例1〜4では、いずれの接合部9も、接合不良や反りは認められず、十分な接合強さが得られた。また、接合部9の断面を調査したところ、図2(b)に示すように、上板1aに突出部4が形成され、かつその突出部4が下板1bと噛み合った状態で接合されており、良好な接合部が得られた。
【0032】
一方、比較例1,2では、上板1aに突出部4が十分に形成されず、その突出部4が下板1bと噛み合った状態も不完全であった。
【符号の説明】
【0033】
1a 上板
1b 下板
2 パンチ
21 パンチの下面
3 ダイス
31 ダイスの上面
4 突出部
5 ナゲット
6 突起
7 凹部
8 溝
9 接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg合金板を複数枚重ねて、該複数枚のMg合金板の接合位置を加熱し、一定の加熱温度に保持しながらMg合金板をパンチでダイス内に押し込むことによって前記Mg合金板を塑性変形させてクリンチングカシメを行なうことを特徴とするMg合金板のカシメ方法。
【請求項2】
前記Mg合金板の厚さを0.1〜4mmとし、前記加熱温度を250〜300℃とすることを特徴とする請求項1に記載のMg合金板のカシメ方法。
【請求項3】
前記加熱を、ヒーターからの伝熱または電極からの通電によって行なうことを特徴とする請求項1または2に記載のMg合金板のカシメ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−43184(P2013−43184A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180702(P2011−180702)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(501089690)ツツミ産業株式会社 (4)