説明

N−フェニルナフタルイミド系化合物およびそれを用いた電子写真感光体

【課題】 高感度な電子写真感光体を提供することのできるN−フェニルナフタルイミド系化合物と、電子写真感光体の感度特性、感光層の耐久性、および湿式現像剤の溶剤に対する耐溶剤性に優れた電子写真感光体とを提供すること。
【解決手段】 導電性基体上に、電荷発生剤、電荷輸送剤およびバインダ樹脂を含有する感光層を備える電子写真感光体において、前記電荷輸送剤として、下記一般式(1)で示されることを特徴とするN−フェニルナフタルイミド系化合物を使用する。
【化1】


(式中、R1は炭素数2〜11のアルキル基を示す。Xはニトロ基などを示す。R2、mおよびnは、明細書中に記載のとおりである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体の電子輸送剤として好適なN−フェニルナフタルイミド系化合物、および、それを用いた電子写真感光体に関する。
【背景技術】
【0002】
静電式複写機、ファクシミリ、レーザビームプリンタなどの画像形成装置に使用される電子写真感光体は、導電性基体上に、電荷発生剤と、電荷輸送剤と、バインダ樹脂とを含む感光層を形成した、いわゆる有機感光体(OPC)が主流である。
従来、有機感光体の感度特性などを向上させることを目的として、電荷輸送能に優れた種々の電荷輸送剤が開発されており、特許文献1には、電子輸送剤として、下記一般式(a)に示すナフタルイミド系化合物が記載されている。
【0003】
【化1】

【0004】
(一般式(a)中、Rは、置換基を有してもよい炭化水素残基を示す。)
また、有機感光体を用いた画像形成装置の現像方法としては、従来、粉体のトナー(乾式現像剤)を使用する乾式現像法が一般的であるが、電気絶縁性の高い溶剤中に着色剤、ポリマー粒子などを分散した湿式現像剤を使用して、感光体表面の静電潜像にトナー粒子を電気泳動させることにより現像を実行する湿式現像(液体現像)法も知られている。湿式現像剤のトナー粒子は、これを形成するバインダ樹脂や帯電制御剤によって所定の電荷に帯電しており、溶剤中で安定に分散するものであることから、湿式現像剤では、乾式現像剤に比べて、トナー粒子の粒径を小さくすることができ、しかも、湿式現像によれば、乾式現像におけるリークなどの問題を生じることがない。それゆえ、湿式現像は、乾式現像に比べて、より一層解像度が高く、高品位の画像形成を実現することができる。
【特許文献1】特開平7−49579号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1には、上記一般式(a)で示されるナフタルイミド系化合物の具体例として、例えば、Rが、フェニル基であるもの(同文献の化合物番号No.5)、パラ位にn−ドデシル基を有するフェニル基であるもの(同No.6)、パラ位とメタ位とにそれぞれメトキシカルボニル基を有するフェニル基であるもの(同No.8、実施例1)などが記載されている。しかしながら、実際に、これらのナフタルイミド系化合物を電子輸送剤として使用した場合には、後述する比較例の結果より明らかなように、感光層中でナフタルイミド系化合物の結晶が析出してしまい、実用に適した電子写真感光体を得ることができないという問題がある。
【0006】
また、上記の湿式現像剤は、高い電気絶縁性が要求されるものであることから、通常、溶剤としてイソパラフィン、n−パラフィンなどのパラフィン系溶媒が用いられており、画像形成を繰返し実行するなどして、感光体と湿式現像剤とが長時間にわたって接触したときには、感光層中の電子輸送剤などがパラフィン系溶媒中に溶出して、感光体の感度が経時的に低下する問題が生じる。しかも、感光層中の電子輸送剤などがパラフィン系溶媒中に溶出することにより、感光層に軟化、ひび割れなどが生じて劣化するという問題も生じる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、高感度な電子写真感光体を提供することのできるN−フェニルナフタルイミド系化合物と、電子写真感光体の感度特性、感光層の耐久性、および湿式現像剤の溶剤に対する耐溶剤性に優れた電子写真感光体とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、N−フェニルナフタルイミド系化合物におけるN−置換フェニルのオルト位に、選択的に、炭素数が2〜11のアルキル基を導入した化合物は、意外にも、優れた電子輸送能を発揮するものであり、しかも、かかるN−フェニルナフタルイミド系化合物は、感光層中にて安定して分散して、高感度な電子写真感光体を提供するものである、という新たな知見を得て、さらに検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1) 下記一般式(1)で示されることを特徴とするN−フェニルナフタルイミド系化合物、
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R1は炭素数2〜11のアルキル基を示す。R2は、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基、または、炭素数1〜8のアルコキシ基を示す。mは0〜4の整数を示す。mが2以上のとき、同一のベンゼン環に置換する2以上のR2は、互いに異なる基であってもよい。Xは、ハロゲン原子またはニトロ基を示す。nは0〜4の整数を示す。nが2以上のとき、同一のナフタレン環に置換する2以上のXは、互いに異なる基であってもよい。)
(2) 前記一般式(1)のXがニトロ基、nが1であり、かつ、Xの置換位置が、ナフタルイミドの4位であることを特徴とする、前記(1)に記載のN−フェニルナフタルイミド系化合物、
(3) 導電性基体上に感光層を備える電子写真感光体であって、
前記感光層が、電荷発生剤、電荷輸送剤およびバインダ樹脂を含有し、
前記電荷輸送剤として、前記(1)または(2)に記載のN−フェニルナフタルイミド系化合物を含むことを特徴とする、電子写真感光体、
(4) 前記感光層が、単一の層からなる感光層であり、前記電荷輸送剤が、前記(1)または(2)に記載のN−フェニルナフタルイミド系化合物と、正孔輸送剤とを含むものであることを特徴とする、前記(3)に記載の電子写真感光体、
(5) 湿式現像用の電子写真感光体であることを特徴とする、前記(3)または(4)に記載の電子写真感光体、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
後述する比較例の結果より明らかなように、N−置換フェニル基のオルト位に何らの置換基も有していないN−フェニルナフタルイミド系化合物によれば、感光層中でナフタルイミド系化合物の結晶が析出し、実用に適した電子写真感光体が得られなくなる問題が生じるのに対し、後述する実施例の結果より明らかなように、N−置換フェニル基のオルト位に炭素数2〜11のアルキル基が置換している、上記一般式(1)で示される本発明のN−フェニルナフタルイミド系化合物によれば、優れた電子輸送能を発揮することができるだけでなく、感光層中にて安定して分散させることができ、高感度な電子写真感光体を提供することができる。
【0013】
なお、N−置換フェニル基のオルト位に置換基を有するN−フェニルナフタルイミド系化合物について、上記特許文献1には何ら記載されていない。また、N−置換フェニル基のオルト位に置換基を有することにより得られる、本発明に特有の顕著な作用効果については、上記特許文献1に何らの記載もなく、示唆すらもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のN−フェニルナフタルイミド系化合物は、下記一般式(1)で示されることを特徴とする。
【0015】
【化3】

【0016】
上記一般式(1)中、N−置換フェニルのオルト位に置換するR1としては、炭素数2〜11のアルキル基が挙げられる。
炭素数2〜11のアルキル基としては、例えば、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、s−ペンチル、t−ペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、1−メチルペンチル、2−メチルペンチル、n−ヘプチル、5−メチルヘキシル、n−オクチル、3,3−ジメチルヘキシル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシルなどの、炭素数2〜11のアルキル基が挙げられる。
【0017】
1に相当するアルキル基の炭素数は、好ましくは、2〜8であり、より好ましくは、2〜4であり、特に好ましくは、2または3である。
1に相当するアルキル基の炭素数が1である場合(R1がメチル基である場合)には、N−フェニルナフタルイミド系化合物が結晶化するおそれがある。一方、R1に相当するアルキル基の炭素数が12以上である場合には、感光層の感度特性が低下するといった問題や、上記N−フェニルナフタルイミド系化合物を含有する感光層と、後述する導電性基体、下引き層などとの相溶性、結着性の低下に伴って、感光層が剥離するといった問題が生じる。
【0018】
上記一般式(1)中、N−置換フェニルに置換することのあるR2としては、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基、および炭素数1〜8のアルコキシ基が挙げられる。
炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル、および、上記例示の炭素数2〜11のアルキル基のうち炭素数が2〜8であるものが挙げられる。炭素数6〜18のアリール基としては、例えば、フェニル、o、mまたはp−トリル、2,3−、2,4−、2,5−、3,4−または3,5−キシリル、o、mまたはp−クメニル、メシチル、ナフチル、ビフェニルなどの、炭素数6〜18のアリール基が挙げられる。炭素数1〜8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシなどの、炭素数1〜8のアルコキシ基が挙げられる。
【0019】
2の個数を示すmは、0〜4、好ましくは、0〜2、より好ましくは、0または1である。
mが2〜4である場合において、2以上のR2は、互いに異なる基であってもよい。すなわち、N−置換フェニルは、そのオルト位に置換しているR1とは別に、例えば、メチル基とエチル基、3つのメチル基とエチル基、メチル基とエチル基とイソプロピル基、2つのメチル基とフェニル基、エチル基とメトキシ基などの組み合わせからなる置換基を有していてもよい。
【0020】
2の置換位置は、特に限定されるものではないが、好ましくは、N−置換フェニルのオルト位が挙げられる。この場合、同じくオルト位にR1が置換していることと相俟って、上記N−フェニルナフタルイミド系化合物におけるナフタレン環の環平面と、窒素原子に置換しているベンゼン環(N−置換フェニル)の環平面とが、同一平面上に配置されるのをより一層確実に防止することができ、その結果、N−フェニルナフタルイミド系化合物の溶解性をより一層向上させることができる。
【0021】
2の好適例としては、これに限定されるものではないが、置換基の個数を示すmが1であり、置換位置が、R1と同じN−置換フェニルのオルト位であり、かつ、炭素数が1〜11、好ましくは、1〜8、より好ましくは、1〜4のアルキル基が挙げられる。
上記一般式(1)中、ナフタルイミドのナフタレン環部分に置換することのあるXとしては、ハロゲン原子およびニトロ基が挙げられる。
【0022】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
Xの個数を示すnは、0〜4、好ましくは、0〜2、より好ましくは、0または1である。
Xの置換位置は、特に限定されるものではないが、好ましくは、ナフタルイミドの4位(上記一般式(1)中に記載の置換位置番号参照)が挙げられる。
【0023】
Xの好適例としては、これに限定されるものではないが、置換基の個数を示すnが1であり、かつ、ナフタルイミドの4位に置換したニトロ基が挙げられる。
上記一般式(1)で示されるN−フェニルナフタルイミド系化合物は、例えば、置換基Xを有することのあるナフタル酸無水物(1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物)と、置換基R1を有しかつ置換基R2を有することのあるアニリン系化合物と、を反応させることによって合成することができる。
【0024】
本発明の電子写真感光体は、導電性基体上に感光層を備えており、この感光層が、電荷発生剤、電荷輸送剤およびバインダ樹脂を含有し、さらに、上記電荷輸送剤が、上記一般式(1)で示されるN−フェニルナフタルイミド系化合物を含むことを特徴としている。
本発明の電子写真感光体において、上記N−フェニルナフタルイミド系化合物は、電子輸送剤として感光層に含有されるものである。上記N−フェニルナフタルイミド系化合物は、上記一般式(1)で示されるN−フェニルナフタルイミド系化合物を1種のみ含有するものであってもよく、2種以上含有するものであってもよい。
【0025】
また、上記N−フェニルナフタルイミド系化合物は、上記一般式(1)で示される化合物のなかでも、特に、Xがニトロ基、nが1であり、かつ、Xの置換位置が、ナフタルイミドの4位であるものが好ましい。
本発明の電子写真感光体において、導電性基体としては、基体自体が導電性を有するか、または、基体の表面が導電性を有する、種々の材料が挙げられる。具体的には、例えば、鉄、アルミニウム、銅、スズ、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドミウム、チタン、ニッケル、パラジウム、インジウム、ステンレス鋼、真鍮などの金属単体;上記の金属が蒸着またはラミネートされたプラスチック材料;ヨウ化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウムなどで被覆されたガラス;カーボンブラックなどの導電性微粒子を分散した樹脂基体などが挙げられる。導電性基体の形状は、本発明の電子写真感光体を使用する画像形成装置の構造に応じて、シート状、ドラム状などの種々の形状を採用することができる。
【0026】
本発明の電子写真感光体において、感光層の層構成は、同一の層内に電荷発生剤と電荷輸送剤とを含有する単層型感光層、および、電荷発生剤を含有する層(電荷発生層)と電荷輸送剤を含有する層(電荷輸送層)とが分離した積層型感光層のいずれであってもよいが、好ましくは、単層型感光層である。
本発明の電子写真感光体において、電荷発生剤としては、例えば、無金属フタロシアニン、チタニルフタロシアニン(TiOPc)、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料;ジスアゾ顔料、ジスアゾ縮合顔料、モノアゾ顔料、ペリレン系顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、トリスアゾ顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、ピリリウム塩、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料、キナクリドン系顔料などが挙げられる。電荷発生剤は、画像形成装置の露光光源の波長に応じて、適宜選択すればよい。上記例示の電荷発生剤は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0027】
レーザビームプリンタなどのデジタル光学系の画像形成装置は、一般に、露光光源として半導体レーザ(LD)や発光ダイオード(LED)を使用しており、その波長は680〜830nm前後(近赤外領域)が主流である。従って、本発明の電子写真感光体をデジタル光学系の画像形成装置に使用する場合には、電荷発生剤として、好ましくは、近赤外領域での感度に優れた無金属フタロシアニン、チタニルフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料が挙げられる。
【0028】
上記フタロシアニン系顔料の結晶形は、特に限定されないが、例えば、無金属フタロシアニンは、X型またはτ型であることが好ましい。チタニルフタロシアニンは、α型(X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)7.6°および28.6°に主たる回折ピークを有するもの)、または、Y型(ブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有するもの)であることが好ましい。ヒドロキシガリウムフタロシアニンは、V型であることが好ましく、クロロガリウムフタロシアニンはII型であることが好ましい。
【0029】
露光光源としてハロゲンランプなどの白色光源を使用するアナログ光学系の画像形成装置で、本発明の電子写真感光体を使用する場合には、電荷発生剤として、好ましくは、可視領域に感度を有するペリレン系顔料、ビスアゾ系顔料などが挙げられる。
本発明の電子写真感光体において、電荷輸送剤は、電子輸送剤としての、上記一般式(1)で示されるN−フェニルナフタルイミド系化合物を含むこと以外は、特に限定されるものではなく、上記N−フェニルナフタルイミド系化合物(1)とともに、他の電子輸送剤や、正孔輸送剤を併用することができる。
【0030】
他の電子輸送剤としては、例えば、ベンゾキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、ジフェノキノン系化合物、ジナフトキノン系化合物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド系化合物、フルオレノン系化合物、マロノニトリル系化合物、チオピラン系化合物、トリニトロチオキサントン系化合物、ジニトロアントラセン系化合物、ジニトロアクリジン系化合物、ニトロアントアラキノン系化合物、ジニトロアントラキノン系化合物などが挙げられる。
【0031】
本発明の電子写真感光体を湿式現像用の電子写真感光体として使用する場合において、上記他の電子輸送剤は、上記例示のものの中でも特に、分子量が600以上の化合物であることが好ましい。このような電子輸送剤を用いることによって、炭化水素系溶剤を含む湿式現像剤を用いて繰返し画像形成処理を実行した場合に、電子輸送剤および正孔輸送剤の溶出量をより一層抑制することができる。
【0032】
正孔輸送剤としては、例えば、置換基を有することのある芳香族炭化水素に、置換基を有することのあるジアリールアミノ基を1、2または3個置換してなる化合物(具体的には、例えば、N,N,N’,N’−テトラフェニルベンジジン系化合物、N,N,N’,N’−テトラフェニルフェニレンジアミン系化合物、N,N,N’,N’−テトラフェニルナフチレンジアミン系化合物、N,N,N’,N’−テトラフェニルフェナントリレンジアミン系化合物、例えば、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセンなどのスチリル系化合物など。);2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾールなどのオキサジアゾール系化合物;ポリビニルカルバゾールなどのカルバゾール系化合物;1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリンなどのピラゾリン系化合物;有機ポリシラン化合物、ヒドラゾン系化合物、インドール系化合物、オキサゾール系化合物、イソオキサゾール系化合物、チアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピラゾール系化合物、トリアゾール系化合物などが挙げられる。
【0033】
上記の「置換基を有することのある芳香族炭化水素に、置換基を有することのあるジアリールアミノ基を1、2または3個置換してなる化合物」において、置換基を有することのある芳香族炭化水素の芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ビフェニル、o−,m−,p−ターフェニル、ビナフタレン、スチルベン、スチリルスチルベンなどが挙げられる。
【0034】
また、置換基を有することのある芳香族炭化水素の置換基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アリールアルケニル基などが挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、sec−ペンチル、2−メチルペンチル、tert−ペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシルなどの、炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルなどの、炭素数3〜8のシクロアルキル基が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル、1−プロペニル、アリル、イソプロペニル、2−ブテニル、1,3−ブタジエニル、1−ペンテニル、2−ヘキセニルなどの、炭素数が1〜6のアルケニル基が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル、o、mまたはp−トリル、2,3−、2,4−、2,5−、3,4−または3,5−キシリル、o、mまたはp−クメニル、メシチル、ナフチル、ビフェニルなどの、炭素数6〜18のアリール基が挙げられる。アラルキル基としては、例えば、ベンジル、1−フェニルエチル、フェネチル、1−フェニルプロピル、ベンズヒドリル、o、mまたはp−メチルベンジル、2,3−、2,4−、2,5−、3,4−または3,5−ジメチルベンジルなどの、炭素数7〜18のアラルキル基が挙げられる。アリールアルケニル基としては、例えば、スチリル、シンナミルなどの、炭素数が8〜12のアリールアルケニル基が挙げられる。
【0035】
上記の「置換基を有することのある芳香族炭化水素に、置換基を有することのあるジアリールアミノ基を1、2または3個置換してなる化合物」において、置換基を有することのあるジアリールアミノ基のジアリールアミノ基としては、例えば、ジフェニルアミノ、ジナフチルアミノ、ジベンジルアミノ、ジスチリルアミノなどが挙げられる。
また、置換基を有することのあるジアリールアミノ基の置換基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アリールアルケニル基などが挙げられる。これらの基は、上記例示の基と同様のものが挙げられる。
【0036】
本発明の電子写真感光体を湿式現像用の電子写真感光体として使用する場合において、正孔輸送剤は、上記例示のものの中でも特に、下記一般式(h1)または下記一般式(h2)で示される部位を有する、分子量が900以上の化合物であることが好ましい。このような正孔輸送剤を用いたときには、炭化水素系溶剤を含む湿式現像剤を用いて繰返し画像形成処理を実行した場合に、正孔輸送剤の溶出量をより一層抑制することができる。
【0037】
【化4】

【0038】
(一般式(h1)または一般式(h2)中、Rh1、Rh2、Rh3、Rh4およびRh5は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、またはアラルキル基を示す。a〜eは、互いに独立して、0〜3の整数を示す。a〜eが2または3であるとき、同一のベンゼン環に置換する複数の置換基は、互いに異なる基であってもよい。また、a〜eが2または3であるとき、ベンゼン環の隣接する炭素原子に置換する2つのアルキル基またはアルケニル基は、互いに結合して、前記ベンゼン環とともに飽和または不飽和の炭化水素環を形成してもよい。)
本発明の電子写真感光体において、バインダ樹脂としては、特に限定されず、例えば、繰返し単位中に、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールZ型、ビスフェノールA型、ビスフェノールC型、ビスフェノールZC型などのビスフェノールを有するポリカーボネート樹脂;繰返し単位中に、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールZ型、ビスフェノールA型、ビスフェノールC型、ビスフェノールZC型などのビスフェノールと、ベンゼンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸と、を有するポリアリレート樹脂;ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0039】
なかでも、上記ポリカーボネート樹脂や上記ポリアリレート樹脂は、感光層の強度、耐磨耗性などをより一層良好なものにすることができ、とりわけ、感光層が単層型である場合に好適である。しかも、電荷輸送剤との相溶性に優れ、その分子内に、電荷輸送剤の電荷輸送能を妨害する部位を有しないものであることから、高感度な電子写真感光体を得る上でも好適である。
【0040】
本発明の電子写真感光体が、単層型感光層を有する、いわゆる単層型感光体である場合において、その感光層は、例えば、電荷発生剤、上記一般式(1)で示されるN−フェニルナフタルイミド系化合物(電子輸送剤)、およびバインダ樹脂を、必要に応じて、他の電子輸送剤、正孔輸送剤、後述する他の成分などとともに、後述する分散媒に分散または溶解させて、こうして得られた感光層形成用塗布液を導電性基体上に塗布し、乾燥させることによって製造することができる。なお、上記感光層は、導電基体上に、直接に形成してもよく、下引き層(バリア層)を介して形成してもよい。また、感光体の表面には保護層を形成してもよい。
【0041】
感光層形成用塗布液を作製するための分散媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類;n−ヘキサン、オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族系炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系炭化水素類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸メチルなどのエステル類;ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサンなどが挙げられる。これらの分散媒は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0042】
他の成分としては、例えば、分散剤、増感剤;酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、一重項クエンチャー、紫外線吸収剤などの劣化防止剤;軟化剤、可塑剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー;電荷輸送剤や電荷発生剤の分散性、感光層表面の平滑性などを改善させるための界面活性剤、レベリング剤などが挙げられる。上記分散剤としては、例えば、バインダ樹脂中での電荷発生剤の分散性を向上させるための分散剤が挙げられ、このような分散剤としては、例えば、ジスアゾイエロー、ジアニシジンオレンジ、ピラゾロンオレンジ、ピラゾロンレッドなどのアゾ系顔料が挙げられる。上記増感剤としては、例えば、テルフェニル、ハロナフトキノン類、アセナフチレンなどが挙げられる。
【0043】
上記感光層形成用塗布液は、例えば、電荷発生剤、電荷輸送剤、バインダ樹脂などを、分散媒とともに、ロールミル、ボールミル、アトライタ、ペイントシェーカー、超音波分散機などを用いて分散混合することによって、調製することができる。
単層型感光層の厚さは、特に限定されないが、好ましくは、5〜100μmであり、より好ましくは、10〜50μmである。
【0044】
単層型感光層において、電荷発生剤の含有割合は、特に限定されないが、バインダ樹脂100重量部に対して、好ましくは、0.1〜50重量部、より好ましくは、0.5〜30重量部である。正孔輸送剤の含有割合は、特に限定されないが、バインダ樹脂100重量部に対して、好ましくは、10〜200重量部、より好ましくは、20〜100重量部である。電子輸送剤の含有割合は、特に限定されないが、バインダ樹脂100重量部に対して、好ましくは、5〜100重量部、より好ましくは、10〜80重量部である。正孔輸送剤と電子輸送剤とを併用する場合において、正孔輸送剤と電子輸送剤との総量は、特に限定されないが、バインダ樹脂100重量部に対して、好ましくは、20〜300重量部、より好ましくは、30〜200重量部である。
【0045】
本発明の電子写真感光体が、積層型感光層を有する、いわゆる積層型感光体である場合において、その感光層は、例えば、まず、導電性基体上に電荷発生層を形成した上で、この電荷発生層の表面に電荷輸送層を形成することにより、製造することができる。
電荷発生層は、例えば、電荷発生剤およびバインダ樹脂を、必要に応じて、正孔輸送剤や上記の他の成分とともに、上記分散媒に分散または溶解させて、こうして得られた電荷発生層形成用塗布液を導電性基体上に塗布し、乾燥させることによって作製することができる。電荷輸送層は、例えば、上記一般式(1)で示されるN−フェニルナフタルイミド系化合物(電子輸送剤)、およびバインダ樹脂を、必要に応じて、他の電子輸送剤や、上記他の成分などとともに、上記分散媒に分散または溶解させて、こうして得られた電荷輸送層形成用塗布液を上記電荷発生層上に塗布し、乾燥させることによって作製することができる。
【0046】
電荷発生層と電荷輸送層の積層順序は、上記の場合と逆の順序であってもよいが、一般に、電荷発生層はその膜厚が薄く、強度が十分ではないことから、上記のとおりの積層順序とするのが好ましい。上記電荷発生層および電荷輸送層のうち、導電性基体側に形成される層は、導電基体上に、直接に形成してもよく、下引き層を介して形成してもよい。また、上記電荷発生層および電荷輸送層のうち、感光体の外表面側に形成される層の表面には、保護層を形成してもよい。
【0047】
上記電荷発生層形成用塗布液および電荷輸送層形成用塗布液における分散媒としては、上記したものと同様のものが挙げられる。
上記電荷発生層形成用塗布液および電荷輸送層形成用塗布液は、例えば、電荷発生剤、電荷輸送剤、バインダ樹脂などの所定の成分を、分散媒とともに、ロールミル、ボールミル、アトライタ、ペイントシェーカー、超音波分散機などを用いて分散混合することによって、調製することができる。
【0048】
積層型感光層の厚さは、特に限定されないが、電荷発生層が、好ましくは、0.01〜5μm、より好ましくは、0.1〜3μmであり、電荷輸送層が、好ましくは、2〜100μm、より好ましくは、5〜50μmである。
積層型感光層の電荷発生層において、電荷発生剤の含有割合は、特に限定されないが、バインダ樹脂100重量部に対して、好ましくは、5〜1000重量部であり、より好ましくは、30〜500重量部である。また、積層型感光層の電荷輸送層において、電荷輸送剤(正孔輸送剤または電子輸送剤)の含有割合は、特に限定されないが、好ましくは、10〜500重量部、より好ましくは、25〜200重量部である。
【0049】
本発明の電子写真感光体は、静電式複写機、ファクシミリ、レーザビームプリンタなどの画像形成装置において、とりわけ、パラフィン系溶媒を使用した湿式現像剤を用いて、湿式現像法により画像形成を実行する画像形成装置において、好適である。
【実施例】
【0050】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいてより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
<N−フェニルナフタルイミド系化合物の合成>
合成例1
ナフタル酸無水物8.0g(C1263;40.37ミリモル)、酢酸(99.7%)100g、および、2−エチル−6−メチルアニリン10.90g(C913N;80.62ミリモル)を配合して、得られた懸濁液を4.5時間還流した後、一晩放置した。放置後の反応液には沈殿がほとんど認められなかった。
【0051】
次に、反応液を水250ミリリットルに滴下し、析出した黄色結晶をろ過して、0.25N−塩酸200ミリリットルに溶解させ、さらにろ過して、ろ液を水25ミリリットルに滴下して、析出物をろ過し、これをメタノール200ミリリットルに溶解させてろ過した。こうして得られた濾液に対して、クロロホルム−メタノール混合溶媒による晶析を3回繰り返して、析出物を乾燥させた。
【0052】
次いで、乾燥した析出物をクロロホルムに溶解させて、シリカゲルクロマトグラフィにて精製することにより、下記式(1−1)で示されるN−フェニルナフタルイミド系化合物(C2117NO2;分子量315.37)を得た。白色結晶、収量7.9g(収率62.1%)。
下記式(1−1)で示されるN−フェニルナフタルイミド系化合物の1H−NMRスペクトル図を図1に、その部分拡大図を図2に、それぞれ示す。
【0053】
【化5】

【0054】
合成例2
ナフタル酸無水物に代えて、4−ニトロナフタル酸無水物(C125NO5)を40.37ミリモル使用したこと以外は、合成例1と同様にして、下記式(1−2)で示されるN−フェニルナフタルイミド系化合物(C211624;分子量360.36)を得た。黄色結晶。収量9.5g(収率65.3%)。
【0055】
下記式(1−2)で示されるN−フェニルナフタルイミド系化合物の1H−NMRスペクトル図を図3に、その部分拡大図を図4に、それぞれ示す。
【0056】
【化6】

【0057】
合成例3
ナフタル酸無水物に代えて、4−ニトロナフタル酸無水物(C125NO5)を40.37ミリモル使用し、2−エチル−6−メチルアニリンに代えて、2−エチルアニリン(C811N)を80.62ミリモル使用したこと以外は、合成例1と同様にして、下記式(1−3)で示されるN−フェニルナフタルイミド系化合物(C201424;分子量346.34)を得た。黄色結晶。収量9.1g(収率65.1%)。
【0058】
【化7】

【0059】
合成例4
ナフタル酸無水物に代えて、4−ニトロナフタル酸無水物(C125NO5)を40.37ミリモル使用し、2−エチル−6−メチルアニリンに代えて、2−エチルアニリン(C811N)を80.62ミリモル使用したこと以外は、合成例1と同様にして、下記式(1−4)で示されるN−フェニルナフタルイミド系化合物(C221824;分子量374.39)を得た。黄色結晶。収量9.7g(収率64.2%)。
【0060】
【化8】

【0061】
<電子写真感光体の製造>
実施例1
電荷発生剤として下記式(CGM−1)で示されるX型無金属フタロシアニンを4重量部、正孔輸送剤として下記式(HTM−1)で示されるスチルベンアミン系化合物を40重量部、電子輸送剤として上記合成例2で得られたN−フェニルナフタルイミド系化合物(1−2)を40重量部と、下記式(ETM−1)で示されるジフェノキノン系化合物を10重量部、バインダ樹脂として、下記式(RU−1)で示される繰返し単位と下記式(RU−2)で示される繰返し単位とを20:80のモル比で含有するポリカーボネート樹脂(Resin−1;粘度平均分子量50000)を100重量部、レベリング剤としてジメチルシリコーンオイル(信越化学工業(株)製の品番「KF−96−50CS」)を0.1重量部、および、溶媒としてテトラヒドロフランを750重量部配合して、超音波分散機で50時間混合、分散することにより、単層型感光層用の塗布液を調製した。
【0062】
【化9】

【0063】
【化10】

【0064】
【化11】

【0065】
【化12】

【0066】
次いで、上記塗布液を、導電性基体としてのアルミニウム素管(直径30mm、長さ254mm)の表面に塗布して、140℃で30分間熱風乾燥することにより、膜厚20μmの単層型感光層を備える電子写真感光体(感光体ドラム)を製造した。
実施例2
電荷発生剤として、X型無金属フタロシアニン(CGM−1)に代えて、下記式(CGM−2)で示されるY型チタニルフタロシアニンを4重量部と、下記式(CGM−5)で示されるピグメントイエロー93を3重量部との混合物を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、単層型感光層用の塗布液を調製した。次いで、こうして得られた塗布液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、膜厚20μmの単層型感光層を備える電子写真感光体を製造した。なお、下記式(CGM−2)で示されるチタニルフタロシアニンは、例えば、特許第3463032号公報の製造例1に記載されている方法に従って作製することができる。
【0067】
【化13】

【0068】
【化14】

【0069】
実施例3
電荷発生剤として、X型無金属フタロシアニン(CGM−1)に代えて、下記式(CGM−3)で示されるV型ヒドロキシガリウムフタロシアニン4重量部を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、単層型感光層用の塗布液を調製した。次いで、こうして得られた塗布液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、膜厚20μmの単層型感光層を備える電子写真感光体を製造した。
【0070】
【化15】

【0071】
実施例4
電荷発生剤として、X型無金属フタロシアニン(CGM−1)に代えて、下記式(CGM−4)で示されるII型クロロガリウムフタロシアニン4重量部を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、単層型感光層用の塗布液を調製した。次いで、こうして得られた塗布液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、膜厚20μmの単層型感光層を備える電子写真感光体を製造した。
【0072】
【化16】

【0073】
実施例5
電子輸送剤として、上記合成例1で得られたN−フェニルナフタルイミド系化合物(1−1)40重量部と、上記式(ETM−1)で示されるジフェノキノン系化合物10重量部と、を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、単層型感光層の塗布液を調製した。次いで、こうして得られた塗布液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、膜厚20μmの単層型感光層を備える電子写真感光体を製造した。
【0074】
実施例6
電子輸送剤として、上記合成例3で得られたN−フェニルナフタルイミド系化合物(1−3)40重量部と、上記式(ETM−1)で示されるジフェノキノン系化合物10重量部と、を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、単層型感光層の塗布液を調製した。次いで、こうして得られた塗布液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、膜厚20μmの単層型感光層を備える電子写真感光体を製造した。
【0075】
実施例7
電子輸送剤として、上記合成例4で得られたN−フェニルナフタルイミド系化合物(1−4)40重量部と、上記式(ETM−1)で示されるジフェノキノン系化合物10重量部と、を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、単層型感光層の塗布液を調製した。次いで、こうして得られた塗布液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、膜厚20μmの単層型感光層を備える電子写真感光体を製造した。
【0076】
実施例8
電子輸送剤として、上記合成例2で得られたN−フェニルナフタルイミド系化合物(1−2)40重量部のみを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、単層型感光層の塗布液を調製した。次いで、こうして得られた塗布液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、膜厚20μmの単層型感光層を備える電子写真感光体を製造した。
【0077】
比較例1
電子輸送剤として、下記式(ETM−2)で示されるN−フェニルナフタルイミド系化合物40重量部と、上記式(ETM−1)で示されるジフェノキノン系化合物10重量部と、を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、単層型感光層の塗布液を調製した。次いで、こうして得られた塗布液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、単層型感光層を備える電子写真感光体の製造を試みたところ、感光層中でN−フェニルナフタルイミド系化合物(ETM−2)が結晶化したことから、実用に適した膜厚の均一な感光層を形成することができなかった。
【0078】
【化17】

【0079】
比較例2
電子輸送剤として、下記式(ETM−3)で示されるN−フェニルナフタルイミド系化合物40重量部と、上記式(ETM−1)で示されるジフェノキノン系化合物10重量部と、を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、単層型感光層の塗布液を調製した。次いで、こうして得られた塗布液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、単層型感光層を備える電子写真感光体の製造を試みたところ、感光層中でN−フェニルナフタルイミド系化合物(ETM−3)が結晶化したことから、実用に適した膜厚の均一な感光層を形成することができなかった。なお、下記式(ETM−3)で示されるN−フェニルナフタルイミド系化合物は、上記特許文献1に記載の化合物番号No.5に相当するものである(同文献の表1参照)。
【0080】
【化18】

【0081】
比較例3
電子輸送剤として、下記式(ETM−4)で示されるN−フェニルナフタルイミド系化合物40重量部と、上記式(ETM−1)で示されるジフェノキノン系化合物10重量部と、を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、単層型感光層の塗布液を調製した。次いで、こうして得られた塗布液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、単層型感光層を備える電子写真感光体の製造を試みたところ、感光層中でN−フェニルナフタルイミド系化合物(ETM−4)が結晶化したことから、実用に適した膜厚の均一な感光層を形成することができなかった。
【0082】
【化19】

【0083】
比較例4
電子輸送剤として、下記式(ETM−5)で示されるN−フェニルナフタルイミド系化合物40重量部と、上記式(ETM−1)で示されるジフェノキノン系化合物10重量部と、を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、単層型感光層の塗布液を調製した。次いで、こうして得られた塗布液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、単層型感光層を備える電子写真感光体の製造を試みたところ、感光層中でN−フェニルナフタルイミド系化合物(ETM−5)が結晶化したことから、実用に適した膜厚の均一な感光層を形成することができなかった。なお、下記式(ETM−5)で示されるN−フェニルナフタルイミド系化合物は、上記特許文献1に記載の化合物番号No.8に相当するものである(同文献の表1および実施例1参照)。
【0084】
【化20】

【0085】
比較例5
電子輸送剤として、上記式(ETM−6)で示されるN−フェニルナフタルイミド系化合物40重量部と、上記式(ETM−1)で示されるジフェノキノン系化合物10重量部と、を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、単層型感光層の塗布液を調製した。次いで、こうして得られた塗布液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、単層型感光層を備える電子写真感光体の製造を試みたところ、感光層中でN−フェニルナフタルイミド系化合物(ETM−6)が結晶化したことから、実用に適した膜厚の均一な感光層を形成することができなかった。
【0086】
【化21】

【0087】
比較例6
電子輸送剤として、下記式(ETM−7)で示されるN−フェニルナフタルイミド系化合物40重量部と、上記式(ETM−1)で示されるジフェノキノン系化合物10重量部と、を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、単層型感光層の塗布液を調製した。次いで、こうして得られた塗布液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、単層型感光層を備える電子写真感光体の製造を試みたところ、感光層中でN−フェニルナフタルイミド系化合物(ETM−7)が結晶化したことから、実用に適した膜厚の均一な感光層を形成することができなかった。
【0088】
【化22】

【0089】
比較例7
電子輸送剤として、上記式(ETM−1)で示されるN−フェニルナフタルイミド系化合物40重量部のみを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、単層型感光層の塗布液を調製した。次いで、こうして得られた塗布液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、膜厚20μmの単層型感光層を備える電子写真感光体を製造した。
【0090】
<電子写真感光体の性能評価>
上記実施例1〜8および比較例7で得られた電子写真感光体について、下記(I)〜(IV)に示す性能評価を実施した。
(I)明電位の測定
GENTEC社製のドラム感度試験機を用いて、上記実施例1〜8および比較例7で得られた電子写真感光体の感度を測定した。測定は、以下の手順に従って実施した。まず、電子写真感光体の表面に印加電圧を加えて、表面電位が+850Vとなるように帯電させた後、ハロゲンランプ(露光光源)の白色光からバンドパスフィルタを用いて取り出した波長780nmの単色光(半値幅20nm、光強度1.0μJ・cm-2)を40ミリ秒間照射して、電子写真感光体の表面を露光した。こうして、露光開始から0.5秒経過した時点での表面電位(明電位;単位V)を測定して、この値を電子写真感光体の感度とした。明電位の値が小さいほど、電子写真感光体が高感度であることを示している。
【0091】
(II)正孔輸送剤の溶出量の測定
上記実施例1〜8および比較例7で得られた電子写真感光体(感光体ドラム)を、それぞれ、イソパラフィン系溶剤(エクソン化学社製の商品名「アイソパーL」)500mL中に浸漬して、600時間静置した。次いで、イソパラフィン系溶剤を取り出して、その吸光度を測定し、あらかじめ作成しておいた検量線に基づいて、イソパラフィン系溶剤中での正孔輸送剤(HTM)の含有量(すなわち、HTMの溶出量;単位g/cm3)を算出した。正孔輸送剤の溶出量が少ないほど、炭化水素系溶剤についての耐溶剤性および湿式現像に使用した場合の耐久性が優れていることを示している。
【0092】
(III)溶剤浸漬後の感度変化
電子写真感光体として、上記(II)の「HTMの溶出量の測定」に供したものを使用したこと以外は、上記(I)に記載の方法と同様にして、電子写真感光体の明電位(単位V)を測定した。次いで、各実施例および比較例において、上記(1)で測定された明電位に対する変化量ΔV(単位V)を算出して、溶剤浸漬後の感度変化を評価した。変化量ΔVの絶対値が小さいほど、湿式現像による繰返し使用後の感度変化が小さく、炭化水素系溶剤についての耐溶剤性および湿式現像に使用した場合の耐久性が優れていることを示している。
【0093】
(IV)ドラム外観の変化
上記(II)の「HTMの溶出量の測定」に供した電子写真感光体(感光体ドラム)の表面状態を目視で観察して、感光層にひび割れなどの損傷(クラック)が生じているか否かを確認することにより、湿式現像による繰返し使用後の外観変化(炭化水素系溶剤についての耐溶剤性)を評価した。評価の基準は次のとおりである。
A:感光体ドラム表面の損傷(クラック)は観察されなかった。
B:感光体ドラム表面に、実用上不適切な量の損傷(クラック)が観察された。
【0094】
感光層の形成に使用した各成分の式番号を表1に、上記(I)〜(IV)に示した性能評価の評価結果を表2に、それぞれ示す。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
表2に示すように、電子輸送剤として、上記一般式(1)で示される本発明のN−フェニルナフタルイミド系化合物を使用した実施例1〜8の電子写真感光体によれば、感光層中でN−フェニルナフタルイミド系化合物が結晶化するという事態を生じることがなく、高感度な電子写真感光体を得ることができた。また、実施例1〜8の電子写真感光体によれば、パラフィン系溶媒を用いた湿式現像剤に長時間接触させた場合であっても、感光層からの電子輸送剤の溶出や、感光体の感度低下を抑制し、感光層の軟化、ひび割れなどを防止することができた。
【0098】
一方、電子輸送剤として、従来公知のジフェノキノン系化合物(ETM−1)を使用したときには、パラフィン系溶媒を用いた湿式現像剤に長時間接触させた場合に、電子輸送剤の溶出、感光体の感度低下、感光層の軟化、ひび割れなどが顕著に発生した。
また、上述のとおり、N−フェニルナフタルイミド系化合物におけるN−置換フェニルのオルト位に置換基を有しない化合物を電子輸送剤として使用した場合には、感光層中で電子輸送剤が結晶化したために、実用に耐え得る電子写真感光体を得ることができなかった。
【0099】
本発明は、以上の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲において、種々の設計変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】合成例1で得られたN−フェニルナフタルイミド系化合物(1−1)の1H−NMRスペクトル図である。
【図2】図1に示す1H−NMRスペクトル図の部分拡大図である。
【図3】合成例2で得られたN−フェニルナフタルイミド系化合物(1−2)の1H−NMRスペクトル図である。
【図4】図3に示す1H−NMRスペクトル図の部分拡大図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されることを特徴とするN−フェニルナフタルイミド系化合物。
【化1】

(式中、R1は炭素数2〜11のアルキル基を示す。R2は、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基、または、炭素数1〜8のアルコキシ基を示す。mは0〜4の整数を示す。mが2以上のとき、同一のベンゼン環に置換する2以上のR2は、互いに異なる基であってもよい。Xは、ハロゲン原子またはニトロ基を示す。nは0〜4の整数を示す。nが2以上のとき、同一のナフタレン環に置換する2以上のXは、互いに異なる基であってもよい。)
【請求項2】
前記一般式(1)のXがニトロ基、nが1であり、かつ、Xの置換位置が、ナフタルイミドの4位であることを特徴とする、請求項1に記載のN−フェニルナフタルイミド系化合物。
【請求項3】
導電性基体上に感光層を備える電子写真感光体であって、
前記感光層が、電荷発生剤、電荷輸送剤およびバインダ樹脂を含有し、
前記電荷輸送剤として、請求項1または2に記載のN−フェニルナフタルイミド系化合物を含むことを特徴とする、電子写真感光体。
【請求項4】
前記感光層が、単一の層からなる感光層であり、前記電荷輸送剤が、請求項1または2に記載のN−フェニルナフタルイミド系化合物と、正孔輸送剤とを含むものであることを特徴とする、請求項3に記載の電子写真感光体。
【請求項5】
湿式現像用の電子写真感光体であることを特徴とする、請求項3または4に記載の電子写真感光体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−131552(P2006−131552A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−322649(P2004−322649)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】