説明

N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸およびその誘導体の調製方法

本発明は、N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸および一般式(I)(式中、両方のRは同一の意味を有し、H、C〜Cアルキル、CHOH、SOMおよびCOOMから選択され;すべてのMは同一の意味を有し、水素原子、Na、KまたはNHを表す)で表されるその誘導体の調製方法であって:グリオキシル酸を一般式(II)で表されるサラン化合物で、アミンプロトン受容体の存在下で還元的アミノ化することを含む、前記方法に関する。式(I)で表される化合物を、植物用の肥料調製物中の微量栄養素のためのキレート剤として用いることができる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸およびフェニル環において置換されているその誘導体、ならびにそれらの塩の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
HBEDの名称でも知られている、N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸、およびフェノール性ヒドロキシ基に関してパラ位において置換されているその誘導体は、水溶液中でIII族およびIV族の金属イオンをキレートするその能力について周知である。それらを、植物用肥料調製物中の微量栄養素、例えば鉄、亜鉛、銅またはマンガンなどの微量栄養素のためのキレート剤として用いることができる。したがって、大規模でのその工業的生産の必要性が存在する。
【0003】
HBEDを調製する既知の方法の1つはUS 3,632,637に記載されており、N,N’−エチレンジアミン二酢酸二ナトリウムを、臭化または塩化o−アセトキシベンジルと反応させ、次にアルカリ加水分解させて、アセトキシ保護基を除去することを含む。臭化o−アセトキシベンジルの調製は複雑であり、2つの反応段階を必要とする:o−ヒドロキシベンジルアルコールを無水酢酸と反応させて酢酸o−アセトキシベンジルを生成し、次にHBrで臭素化することである。さらに、後にMartell et alにより、Can. J. Chem., vol. 63(3), 449-456, 1986中に報告されているように、その手順は樹脂性ポリマー副産物が生成するという難点があり、それは酸または塩基での処理により促進され、時に材料の再結晶の間に自発的に生成するようであった。この方法の他の欠点は、N,N’−エチレンジアミン二酢酸二ナトリウムが容易に入手できず、シアン化物(NaCN)およびCHOの使用を伴うエチレンジアミンのカルボキシメチル化の反応で調製しなければならないことである。
【0004】
Martell et alはCan. J. Chem., vol. 63(3), 449-456, 1986中で、HBEDおよび誘導体を合成するための2つの方法を報告している。HBEDを合成するのに適する第1の方法は、N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミンを、そのアミドに、ホルムアルデヒドとHCNとの反応を介して変換し、続いて加水分解することを伴う。この方法の欠点は、HCNの使用、およびジアミドを加水分解することが困難であることであり、それには極めてpHに敏感な金属触媒の使用が必要である。フェノール性ヒドロキシ基に対してパラ置換されたHBED誘導体を合成するのに適する第2の方法は、N,N’−エチレンジアミン二酢酸の、パラ置換されたフェノールおよびホルムアルデヒドとの反応を伴い、それはpHに極めて敏感であることが見出された。この第2の方法の他の欠点はまた、出発N,N’−エチレンジアミン二酢酸を合成することが必要であることである。
【0005】
HBEDを調製するための他の合成方法は、WO01/46114に記載されており、N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミンをハロ酢酸tert−ブチルと反応させ、次に、得られたN,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸ジ−tert−ブチルエステルを弱酸、例えばギ酸などで加水分解することを含む。当該方法は特に、中間体の二塩酸塩の生成および塩化ナトリウムへのその中和を回避する一方で、そのままの(neat)HBEDを得、それを次に目的のモノカチオン性(mono-cationic)塩に容易に変換できるように設計されていた。しかしながら、N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン酸のブロモ酢酸t−ブチルとの反応はDMSO溶媒中で行われ、極めて長い時間を要する。ギ酸での加水分解もまた極めて多大な時間が必要であり、5日を要し、加水分解の収率は極めて低い。さらに、ブロモ酢酸t−ブチルは高価であり、工業的規模で容易に入手できない。
【0006】
フェノール性OH基に関してパラ位において置換されているHBED誘導体を調製するための合成方法は、US 2,967,196およびUS 3,038,793から既知であり、ホルムアルデヒドをN,N’−エチレンジアミン二酢酸二ナトリウムと反応させて、フェノール性OH基に対してオルト位においてパラ置換フェノール類と縮合させることができるジメチロール誘導体を生成させることを含む。この方法の欠点は、N,N’−エチレンジアミン二酢酸二ナトリウムを、まず、NaCNおよびCHOの使用を伴うエチレンジアミンのカルボキシメチル化の反応において調製しなければならないことである。この方法は、フェノール性OH基に対してパラ位およびオルト位の両方における、フェノールとのメチロール基の反応、および化合物の複雑な混合物の生成の可能性による副産物生成のために、HBEDの調製に適用された場合には機能しない。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、HBED自体およびフェノール性OH基に関してパラ位において置換されているその誘導体の両方に適用可能であり、HBEDとその誘導体との両方の場合において同一の反応系において、また同様の条件下で行うことができる合成方法を提供することにある。
【0008】
また本発明の目的は、少数の段階を有し、容易に入手できるかまたは容易に大規模で合成される試薬、ならびに標準的であり簡単な工業的操作および設備を用いる合成方法を提供することにある。また本発明の目的は、有毒なシアン化物を用いる必要性を解消することにある。
【0009】
本発明において、N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸および一般式I:
【化1】

式中:
両方のRは同一の意味を有し、H、C〜Cアルキル、CHOH、SOMおよびCOOMから選択され;
すべてのMは同一の意味を有し、水素原子、Na、KまたはNHを表す;
で表されるその誘導体の調製方法であって:
【0010】
−グリオキシル酸を式(II)
【化2】

式中、Rは式(I)について上記で定義したのと同一の意味を有する、
で表されるサラン(salan)化合物で、アミンプロトン受容体の存在下で還元的アミノ化して、式(I)で表され、式中Mが水素原子である化合物を得ること、および
−所望により、それをさらに式(I)で表され、式中MがNa、KまたはNHを表す化合物に、対応する塩基で処理することにより変換すること
を含む、前記方法を提供する。
【0011】
上記式中の用語C〜Cアルキル基は、直鎖状(直線状)または分枝状C〜Cアルキル基の両方、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチルを包含する。
本発明の方法により調製される最も好ましい化合物は、式(I)で表され、式中、Rが水素原子またはメチレン基である化合物である。
サラン化合物:グリオキシル酸:アミンのモル比は、1:2:2〜1:4:5の範囲内、好ましくは1:3:3.5である。
【0012】
本発明の方法における還元的アミノ化において用いる過剰の試薬をすべて、反応後に反応媒体から容易に回収し、次のバッチの還元的アミノ化において用いることができる。従来技術から知られている方法とは対照的に、当該方法における唯一の無機副産物は塩である。
還元的アミノ化を、好ましくは水素化触媒の存在下で接触水素化(水素との反応)により行うことができる。
【0013】
接触水素化のために、式(I)で表される出発サラン化合物を、好ましくはC〜Cアルカノールもしくはそれらの混合物から選択される極性溶媒に、または30〜60%のアルカノールを含むC〜Cアルカノール/水混合物に溶解することができる。好ましい溶媒は、メタノール、水およびメタノールとの混合物中のエタノール、例えば工業用変性アルコールであり得る。次に、グリオキシル酸およびアミンを同一の溶媒に溶解した溶液を、サラン化合物の溶液に導入する。グリオキシル酸対アミンのモル比は約1:1であるかまたは過剰のアミンを用いることができる。
【0014】
還元的アミノ化を、水性アミンプロトン受容体媒体中で行うこともできる。そのような場合において、当該反応を不均一媒体中で行い、そこでグリオキシル酸とアミンとの混合物は水相に溶解され、サラン化合物および触媒は未溶解のままである。
【0015】
水素化触媒を、貴金属または遷移金属、例えばパラジウム、白金、ロジウム、ニッケル、オスミウムおよびルテニウムなどをベースとする触媒を含むが、これらには限定されない慣用の触媒から選択することができる。これらの触媒は、担体に結合した形態で用いることができ、最も一般的に用いられる担体は、炭素または炭である。最も好ましいのは、ラネーニッケル(Ra−Ni)および炭上のパラジウムまたは白金(Pd/C、Pt/C)である。水素化を、溶媒中の試薬を水素ガスの雰囲気中で混合することにより行う。溶媒、反応温度および水素圧力の選択は、用いる特定の触媒に依存する。水素化を、約1〜4atmの低い水素圧力および比較的低い温度の下で(典型的に貴金属触媒、例えば白金を用いる際)、または低圧もしくは中圧、例えば30〜50atmの下で(Ra−NiまたはRh/Cを用いる際)行うことができる。好ましい触媒は、Pd/CまたはRa−Niであり、好ましくは出発サラン化合物に関して1〜5重量%の量である。
【0016】
水素化を、30〜70℃にて、好ましくは約50℃にて、水素吸収が終了するまで行うことができる。反応時間は、通常4〜48時間である。
【0017】
グリオキシル酸を、簡便で、商業的に入手できる任意の形態において、好ましくは遊離酸、もしくはその水和物、例えば一水和物など、またはそれらの混合物として用いることができる。またそれを、その塩、例えばナトリウム塩水和物、例えば一水和物などとして用いることができる。好ましくは、還元的アミノ化をアルコール性媒体中で行う際に、グリオキシル酸一水和物を用いる。反応を水中で行う際に、50%水溶液を好ましく用いる。反応をアルコール性溶媒中で行う際に、グリオキシル酸がまた、そのアセタールまたはヘミアセタールの形態で少なくとも部分的に存在し得る。グリオキシル酸エステルの使用もまた、本発明により意図される。「グリオキシル酸」により、上記で記載したそれらのあらゆる形態またはそれらの混合物は、本発明により理解される。
【0018】
アミンプロトン受容体は、反応媒体中でプロトンに結合することができる任意のアミン化合物であり得、最も好ましくは単純な第三アミン、例えばトリエチルアミンまたはトリブチルアミンであり得る。アミンはまた、グリオキシル酸中のカルボキシル基に対する遮断剤として作用する。
【0019】
式(I)で表され、式中、MがHである化合物を、加圧濾過およびそれに続く濾液からの溶媒の蒸発により水素化触媒を分離した後に、遊離酸またはその一塩酸塩の形態で単離する。一塩酸塩の形態の生成物を、塩酸でpH=1.5〜2.5に酸性化させた後に水から結晶化させることができる。式(I)で表され、式中、MがHである化合物のその塩、すなわち式(I)で表され、式中、MがNa、KまたはNHを表す化合物への変換を、対応する塩基でpH10〜12.5、好ましくは11.5に処置することにより行う。そのような対応する塩基は、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは水酸化アンモニウムである。アルカリ化の後に、式(I)で表され、式中、MがNa、KまたはNHである化合物の10〜35%(重量)水溶液が得られ、好ましくは20重量%である。
【0020】
式(II)で表される出発サラン化合物を、2種の方法で調製することができる。
【0021】
1つの方法によれば、式(II)で表される出発サラン化合物を、エチレンジアミンを、2モル当量のサリチルアルデヒド、またはヒドロキシ基に関してパラ位における置換基Rで置換された対応するサリチルアルデヒド誘導体と縮合させ、次にこのようにして得られたサレン化合物(シッフ塩基)を還元することにより調製することができる。第2の方法によれば、式(II)で表される出発サラン化合物を、エチレンジアミン、ホルムアルデヒド源およびフェノールまたはパラ位において置換基Rで置換されているフェノールの反応により調製することができる(直接的マンニッヒ縮合)。第2の方法は、RがC〜Cアルキルである際に最も好ましく適用可能である。
【0022】
したがって、本発明の1つの変法(variant)において、式(I)で表され、式中Rが上記に記載した通りである化合物の調製方法は、エチレンジアミンを、2モル当量の式(IV)
【化3】

式中、Rは上記の式(I)について記載した通りである、
で表される化合物と反応させて、式(V)
【化4】

式中、Rは上記の式(I)について記載した通りである、
で表される対応する化合物を得、次に式(V)で表される化合物を還元して式(II)で表される化合物を得ることにより、式(II)で表されるサラン化合物を調製することを含む。
【0023】
式(IV)で表される化合物、すなわちサリチルアルデヒドおよびヒドロキシ基に関してパラ位において置換基Rで置換されているその誘導体は、周知であり、容易に商業的に入手できる物質である。
エチレンジアミンと、式(IV)で表される化合物との反応を、好適な溶媒、例えば低級アルコール類またはそれらの混合物などの中で、周囲温度にて既知の方法で行うことができる。
【0024】
式(V)で表される化合物を還元して式(II)で表される化合物を得ることを、一般的に当該分野において知られているあらゆる既知の還元方法を用いて行うことができる。そのような方法の1つは、複合アルカリ金属水素化物、例えばボロハイドライド、好ましくはナトリウムボロハイドライドおよび水素化リチウムアルミニウムなどでの還元である。好ましい還元方法は、グリオキシル酸の還元的アミノ化反応のための上記で記載した方法および触媒を用いた接触水素化である。
【0025】
最も好ましくは、式(V)で表される化合物の還元を、触媒、例えばPd/CまたはRa−Niのようなパラジウムまたはニッケル触媒などの存在下で水素を用いた接触水素化により行うことができる。還元を接触水素化により行う際には、式(II)で表される中間体化合物を、反応媒体からそれを単離せずに、同一の水素化環境中で還元的アミノ化においてグリオキシル酸でさらに直接反応させることができる。
【0026】
エチレンジアミンと式(IV)で表される化合物との反応および式(V)で表される中間体化合物の還元の両方の収率は、原則的に定量的である。さらなる利点は、式(V)で表される中間体化合物を還元して式(II)で表される化合物を生成、およびそれに続くグリオキシル酸の式(II)で表される化合物での還元的アミノ化を、同一の条件下でおよび同一の設備において、同一の操作を用いて行うことができ、それによりプロセス全体が単純化され、その費用が低下することである。
【0027】
したがって、本発明のある態様は、式(I)で表され、式中、Rが上記で記載した通りである化合物の調製方法であって:
a)エチレンジアミンを、2モル当量の式(IV)
【化5】

式中、Rは上記の式(I)について記載した通りである、
で表される化合物と反応させて、式(V)
【化6】

式中、Rは式(I)について記載した通りである、
で表される対応する化合物を得ること、
b)式(V)で表される化合物を還元して、式(II)で表され、式中Rが上記で記載した通りである化合物を得ること;
【0028】
c)グリオキシル酸を、一般式(II)
【化7】

式中、Rは式(I)について上記で定義したのと同一の意味を有する、
で表されるサラン化合物で、アミンプロトン受容体の存在下で、還元的アミノ化して、式(I)で表され、式中、Mが水素原子である化合物を得ること、および
d)所望により、式(I)で表され、式中、Mが水素原子である化合物を、式(I)で表され、式中、MがNa、KまたはNHを表す化合物に、対応する塩基で処理することによりさらに変換すること
を含む、前記方法である。
【0029】
好ましくは、上記の態様において、段階b)における還元および段階c)における還元的アミノ化を、式(V)で表される中間体化合物を単離せずに同一の反応容器中で行う。
また好ましくは、すべての段階a)〜c)を、式(IV)および(V)で表される中間体化合物を単離せずに、同一の反応容器中で行うことができる。
【0030】
また好ましくは、段階b)における還元および段階c)における還元的アミノ化の両方を、水素化触媒の存在下でC〜Cアルカノールもしくはそれらの混合物中で、またはC〜Cアルカノール/水混合物中で、水素で水素化することにより行う。好ましい水素化触媒は、Ra−NiおよびPd/Cである。
【0031】
本発明の第2の変法において、式(I)で表され、式中、RがC〜Cアルキルである化合物の調製方法は、式(II)で表され、式中、RがC〜Cアルキルである出発サラン化合物を、エチレンジアミン、ホルムアルデヒド源および式(III)
【化8】

式中、RはC〜Cアルキルである、
で表されるフェノール化合物の、約1:2:2のエチレンジアミン:ホルムアルデヒド:フェノール化合物のモル比における反応により調製することを含む。
【0032】
したがって、本発明のある態様は、N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸および一般式I:
【化9】

式中:
両方のRは同一の意味を有し、C〜Cアルキルから選択され;
すべてのMは同一の意味を有し、水素原子、Na、KまたはNHを表す;
で表されるその誘導体の調製方法であって:
【0033】
a)エチレンジアミン、ホルムアルデヒド源および式(III)
【化10】

式中、RはC〜Cアルキルである、
で表されるフェノール化合物を、約1:2:2のエチレンジアミン:ホルムアルデヒド:式(III)で表されるフェノール化合物のモル比で反応させて、一般式(II)
【化11】

式中、Rは式(I)について定義したのと同一の意味を有する、
で表されるサラン化合物を得ること、
【0034】
b)グリオキシル酸を、式(II)で表されるサラン化合物でアミンプロトン受容体の存在下で還元的アミノ化して、式(I)で表され、式中、Mが水素原子である化合物を得ること、ならびに
c)所望により、それをさらに式(I)で表され、式中、MがNa、KまたはNHを表す化合物に対応する塩基で処理することにより変換すること
を含む、前記方法である。
【0035】
式(III)で表されるフェノール化合物は既知であり、商業的に入手可能である。
ホルムアルデヒド源は、慣用で商業的に入手可能なあらゆるホルムアルデヒド源、例えばホルムアルデヒド水溶液、パラホルムアルデヒド、トリオキサンまたはヘキサメチレンテトラアミンHMTP(ウロトロピン)であり得る。好ましいホルムアルデヒド源は、水性35〜40%ホルムアルデヒド溶液であり、通常10〜15%メタノールで安定化されている約37%のホルムアルデヒド濃度の飽和水溶液(ホルマリンまたはホルモル)として販売されている。
【0036】
好ましいホルムアルデヒド源のほとんどは、37%ホルムアルデヒド水溶液およびパラホルムアルデヒドである。
エチレンジアミン、ホルムアルデヒド源および式(III)で表されるフェノール化合物の反応(直接的マンニッヒ縮合)を、水−アルコール混合物中で還流温度にて行うことができる、式(II)で表される生成物を反応混合物から、その塩酸塩としてまたは溶媒の蒸発により分離することができる。マンニッヒ縮合の収率は80〜95%である。
以下の例は本発明を例示し、その範囲をこれらの例中に示す態様に限定するいかなる意図をも伴わない。
【0037】
例1
式(I)で表され、式中RがC〜Cアルキルである化合物の、直接的マンニッヒ縮合により調製したサラン化合物を用いた調製の一般的方法
メカニカルスターラー(mechanical stirrer)および還流冷却器を備えた250mlのフラスコに、100mlの溶媒および0.1molのエチレンジアミンを導入して、溶液を得る。当該溶液に、0.2molのパラホルムアルデヒド/37%ホルムアルデヒド水溶液および0.2〜0.4mlの37%塩酸を分割して加える。得られた混合物を、完全に均質になるまで50〜60℃にて0.5時間加熱し、次に、同一の溶媒中の式(III)で表されるフェノール化合物の50%溶液を、0.1mol/hの速度で加える。反応混合物を4〜30時間還流にて加熱する。
【0038】
このようにして得られた式(II)で表されるサラン化合物を、結晶化により:
−濃塩酸でpH0.5〜2.0に反応混合物を酸性化した後に、サラン一塩酸塩の形態で、または、
−溶媒を蒸発させ、エチルエーテルから5〜10℃にて結晶化した後に、サランの形態で、
分離することができる。
【0039】
還元的アミノ化を、閉鎖された反応媒体、例えばメカニカルスターラーを備え、加熱されたオートクレーブ中で行うことができる。サラン化合物、ならびにグリオキシル酸、アミンおよび溶媒を含む混合物を、オートクレーブに導入する。サラン化合物の全量の追加を完了した後、反応混合物は反応体サラン:グリオキシル酸:アミンを1:2:2〜1:4:5の範囲内のモル比にて含む。反応混合物中の反応体の合計濃度は、2〜10重量%の範囲内にある。
【0040】
次に、反応混合物に触媒を加え、それは好ましくはサラン化合物に関して1〜5重量%の量のNi−ラネーまたはPd/Cである。
空気を、不活性ガス、好ましくはアルゴン流を用いて反応系から除去し、オートクレーブを水素ガスで加圧する。
還元的アミノ化を、2〜50atmの水素圧力にて4〜48時間行う。
【0041】
触媒を濾過し、溶媒を蒸発させ、pH1.5〜2.5に酸性化した後に生成物を水から結晶化させることにより、生成物を単離する。
結晶化後の全収率は、反応において用いる式(III)で表されるフェノール化合物のタイプに依存して30〜85%の範囲内にある。生成物の構造をH NMR分析により確認し、それらの純度をHPLCおよび元素分析により確認する。
【0042】
例2
N,N’−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸、一塩酸塩三水和物
2.1.N,N’−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)エチレンジアミン(サラン化合物)
例1に記載した一般的手順に従って、エチレンジアミン(6.0g、0.1mol)、37%ホルムアルデヒド水溶液(14.9ml、0.2mol)、p−クレゾール(21.6g、0.2mol)および溶媒としてエタノール(150ml)を反応系に導入して、均質な反応混合物を生成させた。反応混合物を60℃にて12時間加熱した。反応の進行を、エタノール:クロロホルム(9:2)展開系でのTLC分析によりモニタリングした。反応の完了を確認した際に、9.2ml(0.11mol)の37%塩酸を滴加し、pH=2.5を得た。周囲温度にて6時間結晶化させた後、白色固体が得られ、それを濾過し、エタノールで3回洗浄した。このようにして得られた粗生成物(raw product)の収量は、24.6g(82%)であった。次に、粗生成物をエタノール:水混合物から結晶化させ、濾過し、エタノール(50ml)で洗浄した。単離した生成物を、50℃にて3時間真空乾燥機中で乾燥した。結晶化の収率は70%であった。
【0043】
このようにして得られたN,N’−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)エチレンジアミンの構造を、H NMRにより確認した。HPLC分析により、96%のレベルの純度が示された。
【数1】

【0044】
2.2.N,N’−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸一塩酸塩三水和物
2.1において上記で記載したように得られたサラン化合物(3g、0.01mol)を、メタノール(100ml)、Pd/C(0.05g)を含むオートクレーブに定性的に移し、メタノール(40ml)中のトリエチルアミン(4.0g、0.04mol)とグリオキシル酸一水和物(2.8g、0.03mol)との混合物を加えて、1:3:4(サラン:グリオキシル酸:トリエチルアミン)の最終的なモル比を得た。反応混合物の上方に残留する空気を、アルゴン流の流れを用いて除去した。
【0045】
反応系を50℃に加熱し、水素を5atmの圧力にて導入した。還元的アミノ化の反応を、50℃にて20時間撹拌しながら行った。反応が完了した際に、触媒を真空下で濾過し、溶媒を真空ロータリーエバポレーターにより蒸発させた。得られた固体を水に溶解し、10%塩酸でpH=2.0まで酸性化した。次に、結晶化を8℃にて16時間行った。
【0046】
3.8gの生成物を単離した(収率83%)。次に、粗生成物を周囲温度にて85%エタノールから結晶化させた。2.8gの生成物を結晶化の後に得た。生成物N,N’−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸・HCl・3HOの構造をH NMRにより確認し、その純度を元素分析により確認した。
【0047】
【数2】

【0048】
例3
N,N’−ビス(2−ヒドロキシ−5−プロピルベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸、一塩酸塩三水和物
3.1.N,N’−ビス(2−ヒドロキシ−5−プロピルベンジル)エチレンジアミン(サラン化合物)
例1に記載した一般的な手順に従って、還流冷却器およびDean-Starkトラップを備えた反応系中で、エチレンジアミン(6.0g、0.1mol)、37%ホルムアルデヒド水溶液(14.9ml、0.2mol)、4−プロピルフェノール(27.2g、0.2mol)、溶媒としてのトルエン(200ml)および37%塩酸(0.3ml)を導入して、均質な反応混合物を生成した。反応混合物を90〜95℃にて4時間加熱した。反応体の消費の進行を、反応において生成し、Dean-Starkトラップ中に採集される水の量を測定することによりモニタリングした。反応が停止した際に、混合物を110〜112℃にてさらに2時間加熱した。次に、溶媒を反応混合物から蒸発させ、得られた粘度の高い油(thick oil)を還流温度にてヘキサンで2回洗浄した。26.4gの粘度の高い油の形態にある粗生成物を収率74%で得た。次に、粗生成物を150mlのエタノールに溶解し、9.2ml(0.11mol)の37%塩酸でpH=2.0に酸性化した。沈殿した白色固体を真空下で濾過し、次にエタノール−水系から結晶させ、濾過し、50mlのエタノールで洗浄した。生成物を50℃にて3時間真空中で乾燥した。結晶化の収率は63%であった。
【0049】
このようにして得られたN,N’−ビス(2−ヒドロキシ−5−プロピルベンジル)エチレンジアミン生成物の構造を、H NMRにより確認した。HPLC分析により、97%のレベルでの純度が示された。
【数3】

【0050】
3.2.N,N’−ビス(2−ヒドロキシ−5−プロピルベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸,塩酸塩三水和物
上記の3.1に記載したようにして得られたサラン化合物(3g、0.01mol)を、メタノール(100ml)、Pd/C(0.15g)を含むオートクレーブに定性的に移し、メタノール(50ml)中のトリエチルアミン(4.0g、0.04mol)とグリオキシル酸一水和物(2.8g、0.03mol)との混合物を加えた。反応混合物の上方に残留する空気を、アルゴン流を用いて除去した。
【0051】
反応系を50℃に加熱し、水素ガスを4atmの圧力にて導入した。還元的アミノ化の反応を50℃にて20時間行った。反応が完了した際に、触媒を真空下で濾過し、溶媒を真空ロータリーエバポレーターにより蒸発させた。得られた固体残留物を水に溶解し、10%塩酸でpH=2.0まで酸性化した。次に、結晶化を8℃にて16時間行った。
【0052】
2.6gの生成物を、収率45%で単離した。次に、原料固体生成物をエタノール:水系から結晶化させた。1.8gの固体生成物が得られた。生成物N,N’−ビス(2−ヒドロキシ−5−プロピルベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸・HCl・3HOの同一性をH NMRにより確認し、純度を元素分析により確認した。
【0053】
【数4】

【0054】
例4
N,N’−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸、一塩酸塩三水和物
例1に記載した一般的手順に従って、エチレンジアミン(0.1mol)および37%ホルムアルデヒド水溶液(0.2mol)をオートクレーブに加えた。反応混合物を均質になるまで80℃にて加熱した。次に、p−クレゾール(0.2mol)を50℃にて滴加し、そのままの反応混合物(溶媒を加えていない)を90〜95℃にて16時間加熱した。反応体の変換を、エタノール:クロロホルム(9:2)展開系でTLC分析によりモニタリングした。反応の完了を確認した際に、水を反応混合物からデカンテーションし、このようにして得られた油を還流温度にてヘキサンで2回、および水で3回洗浄した。残留する溶媒をロータリーエバポレーター上で除去した。粗生成物を66%の収率で得、次にエチルエーテルに溶解し、放置して結晶化させた。このようにして得られた白色固体を真空下で濾過し、60mlのエタノールで洗浄し、次に真空乾燥機中で40℃にて2時間乾燥した。その後、それをエチルエーテルから収率83%で結晶化させた。
【0055】
このようにして得られたN,N’−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)エチレンジアミン生成物の構造を、H NMRにより確認した。HPLC分析により、98%の純度レベルが示された。
上記の例2.1.において記載した手順に続いて36時間行った還元的アミノ化により、生成物が単離収率90%で得られた。エタノール:水系からの結晶化の後に得られたN,N’−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸一塩酸塩は、96%のレベルのHPLC純度を有する。
【0056】
例5
式(V)で表されるサレン化合物の還元により調製した式(II)で表されるサラン化合物を用いて式(I)で表される化合物を調製するための一般的手順
A.サレン化合物の調製
メカニカルスターラーおよび還流冷却器を備えた250mlの丸底フラスコに、100mlの溶媒および0.1molのエチレンジアミンを導入して、溶液を得る。当該溶液に、0.2molのサリチルアルデヒドまたは式(IV)で表されるその誘導体を分割して加える。得られた混合物を50〜60℃にて1時間加熱する。反応が進行するに伴って、生成したサレン化合物は微細な結晶質固体の形態で沈殿する。
【0057】
B.サレン化合物の還元
反応が完了した際に、サレン化合物を含む混合物を、メカニカルスターラーを有する加熱されたオートクレーブに移し、水素化触媒をサレン化合物に関して1〜5重量%の量で加える。空気を、不活性ガス流(好ましくはアルゴン)を通じることにより反応系から除去し、オートクレーブを水素ガスで加圧し、次に水素化を、40〜60℃にて2〜20atmの水素圧力にて4〜25時間、系における水素の吸収が停止するまで行う。
【0058】
C.グリオキシル酸での還元的アミノ化
上記のようにして調製したサラン化合物およびグリオキシル酸/アミン混合物を、1:2:2〜1:4:5の範囲内のサラン:グリオキシル酸:アミンの最終的なモル比が得られる量でオートクレーブに加える。反応混合物中の反応体の合計濃度は、2〜20重量%の範囲内にある。
【0059】
次に、反応混合物に、不均一系触媒、好ましくはNi−ラネーまたはPd/Cを、サラン化合物に関して1〜5重量%の量で加える。
空気を反応系から、排気することおよび不活性ガス流(好ましくはアルゴン)を通じることにより除去する。還元的アミノ化を、2〜50atmの水素圧力にて4〜48時間行う。
【0060】
生成物を、触媒の濾過、溶媒の蒸発およびpH1.5〜2.5に酸性化した後に生成物を水から結晶化させることにより単離する。
サレン化合物の調製とその還元との両方を水中で行う場合には、生成するサラン化合物を、鉱酸、好ましくは塩酸で酸性化することにより反応混合物から直接分離する。
生成物の構造をH NMR分析により確認し、それらの純度をHPLCおよび元素分析により確認する。
【0061】
例6
N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸一塩酸塩三水和物
例5において上記で記載した一般的手順に従って、エチレンジアミン(6.0g、0.1mol)、サリチルアルデヒド(24.4g、0.2mol)およびメタノール(120ml)をオートクレーブに加えた。反応混合物を50℃にて3時間加熱した。反応の進行を、エタノール:クロロホルム(9:2)展開系でTLC分析によりモニタリングした。反応の完了を確認した際に、サレン化合物の試料を単離して、H NMR分析を行い、得られた生成物の構造を確認した。
【0062】
【数5】

【0063】
次に、オートクレーブに0.2gのPd/Cを導入し、空気を除去し、反応を50℃にて水素ガス雰囲気中で5atmの圧力下で3時間行った。水素吸収が停止した際に、メタノール(100ml)中のトリエチルアミン(40.4g、0.4mol)とグリオキシル酸一水和物(27.6g、0.3mol)との混合物を、サラン化合物に導入した。
【0064】
反応系を50℃に加熱し、水素を10atmの圧力下で導入した。還元的アミノ化を15時間行い、次に触媒を濾過し、溶媒を真空ロータリーエバポレーターにより蒸発させた。得られた固体(62g)を水に溶解し、10%塩酸でpH=2.0に酸性化した。結晶化を8℃にて12時間行った。
【0065】
37gの生成物N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸一塩酸塩三水和物を、出発エチレンジアミンに関して全収率78%で分離した。粗生成物を85%エタノールから再結晶化させた。生成物の構造をH NMRにより確認し、その純度を元素分析により確認した。
【0066】
【数6】

【0067】
例7
N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸一塩酸塩三水和物
例5に記載した一般的手順に従って、エチレンジアミン(6g、0.1mol)、サリチルアルデヒド(24.4g、0.2mol)および水(100ml)を、オートクレーブに加えた。反応混合物を45℃にて5時間加熱した。反応の進行を、エタノール:クロロホルム(9:2)展開系でTLC分析によりモニタリングした。反応の完了を確認した際に、生成物の試料を単離してH NMR分析を行い、得られたサレン生成物の構造を確認した(分析は例6に提示したデータと整合した)。
【0068】
次に、オートクレーブに0.1gのPd/Cを導入し、空気を除去し、オートクレーブを水素で加圧し、反応を45〜50℃にて6atmの水素圧力下で14時間行った。水素の吸収が停止した際に、メタノール(180ml)およびグリオキシル酸一水和物(27.8g、0.3mol)とトリエチルアミン(40.5g、0.4mol)との混合物を系に導入した。
【0069】
反応系を50℃に加熱し、水素を10atmの圧力の下で導入した。還元的アミノ化を15時間行い、次に触媒を濾過し、溶媒を真空ロータリーエバポレーターにより蒸発させた。得られた固体を水に溶解し、10%塩酸でpH=2.0に酸性化した。結晶化を8℃にて10時間行った。
【0070】
35.5gの生成物N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸塩酸塩三水和物を、出発エチレンジアミンに関して全収率84%で分離した。粗生成物を85%エタノールから再結晶化させた。生成物の構造をH NMRにより確認し、その純度を元素微量分析により確認した。
【0071】
例8
N,N’−ビス(5−カルボキシ−2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸一塩酸塩三水和物
上記の生成物を、例5に記載した一般的手順に従って、サレン化合物を調製するための出発物質として、3−ホルミル−4−ヒドロキシ安息香酸を用いて調製した。3−ホルミル−4−ヒドロキシ安息香酸のエチレンジアミンとの縮合および得られたサレン化合物のサラン化合物への還元を、イソプロパノール中で総収率62%で行った。
【0072】
サラン生成物を反応混合物から単離し、還元的アミノ化を、グリオキシル酸50%水溶液およびトリブチルアミンを、1:2.5:3に等しいサラン化合物:グリオキシル酸:トリブチルアミンのモル比で用いて、水中で行った。還元的アミノ化を、サラン化合物に関して1.5重量%のRa−Ni触媒の存在下で、45atmの水素圧力にて35時間行った。N,N’−ビス(5−カルボキシ−2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸塩酸塩三水和物の収率は、37%であった。
【0073】
生成物の構造をH NMRにより確認し、その純度を元素微量分析により確認した。
【数7】

【0074】
例9
N,N’−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸一塩酸塩三水和物
上記の生成物を、例5に記載した一般的手順に従って、サレン化合物を調製するための出発物質として5−メチルサリチルアルデヒドを用いて調製した。5−メチルサリチルアルデヒドのエチレンジアミンとの縮合および得られたサレン化合物のサラン化合物への還元を、エタノール中で総収率92%で行った。
【0075】
サラン生成物を反応混合物から単離し、還元的アミノ化を、グリオキシル酸50%水溶液およびトリブチルアミンを、1:3:3に等しいサラン化合物/グリオキシル酸/トリブチルアミンのモル比で用いて、水中で行った。還元的アミノ化を、サラン化合物に関して1.5重量%のRa−Ni触媒の存在下で、45atmの水素圧力にて48時間行った。生成物N,N’−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸塩酸塩三水和物の収率は、75%であった。
【0076】
生成物の構造をH NMRにより確認し、その純度を元素微量分析によって確認した。
【数8】

【0077】
例10
N,N’−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸、ナトリウム塩
メカニカルスターラーを備えた50mlのビーカー中に、上記の例9において調製した3g(0.006mol)のN,N’−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸一塩酸塩三水和物および24.5mlの脱イオン水を導入した。次に、1ml(0.018mol)の50%NaOH水溶液を滴加した。10分間撹拌した後に、N,N’−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸ナトリウム塩の10%水溶液が得られ、それはpH=11.5を有していた。
【0078】
例11
N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸、カリウム塩
メカニカルスターラーを備えた50mlのビーカー中に、上記の例6において調製した2.5g(0.0057mol)のN,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸一塩酸塩三水和物および24.5mlの脱イオン水を導入した。次に、1.72ml(0.0171mol)の40%NaOH水溶液を滴加した。10分間撹拌した後に、N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸ナトリウム塩の8%水溶液、pH=12.2が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸および一般式I:
【化1】

式中:
両方のRは同一の意味を有し、H、C〜Cアルキル、CHOH、SOMおよびCOOMから選択され;
すべてのMは同一の意味を有し、水素原子、Na、KまたはNHを表す;
で表されるその誘導体の調製方法であって:
−グリオキシル酸を、一般式(II)
【化2】

式中、Rは式(I)について定義したのと同一の意味を有する、
で表されるサラン化合物で、アミンプロトン受容体の存在下で、還元的アミノ化して、式(I)で表され、式中、Mが水素原子である化合物を得ること、および
−所望により、それをさらに、式(I)で表され、式中、MがNa、KまたはNHを表す化合物に、対応する塩基で処理することにより変換すること、
を含む、前記方法。
【請求項2】
式(II)で表される前記サラン化合物を、エチレンジアミンを、2モル当量の式(IV)
【化3】

式中、Rは式(I)について記載した通りである、
で表される化合物と反応させて、式(V)
【化4】

式中、Rは式(I)について記載した通りである、
で表される対応するサレン化合物を得、次に式(V)で表されるサレン化合物を還元して式(II)で表される化合物を得ることにより調製する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸および一般式I:
【化5】

式中:
両方のRは同一の意味を有し、H、C〜Cアルキル、CHOH、SOMおよびCOOMから選択され;
すべてのMは同一の意味を有し、水素原子、Na、KまたはNHを表す;
で表されるその誘導体の調製方法であって:
a)エチレンジアミンを、2モル当量の式(IV)
【化6】

式中、Rは式(I)について定義した通りである、
で表される化合物と反応させて、式(V)
【化7】

で表される対応するサレン化合物を得ること、
b)式(V)で表されるサレン化合物を還元して、式(II)
【化8】

式中、Rは式(I)について定義した通りの意味を有する、
で表される化合物を得ること、
c)グリオキシル酸を、式(II)で表される化合物で、アミンプロトン受容体の存在下で還元的アミノ化して、式(I)で表され、式中、Mが水素原子である化合物を得ること、および
d)所望により、それを式(I)で表され、式中MがNa、KまたはNHを表す化合物に、対応する塩基で処理することによりさらに変換すること、
を含む、前記方法。
【請求項4】
式(II)で表される前記サラン化合物を、エチレンジアミン、ホルムアルデヒド源および式(III)
【化9】

式中、RはC〜Cアルキルである、
で表されるフェノール化合物を、約1:2:2のエチレンジアミン:ホルムアルデヒド:フェノール化合物のモル比で反応させることにより調製する、式(I)で表され、式中、RがC〜Cアルキルである化合物を調製するための請求項1に記載の方法。
【請求項5】
一般式I:
【化10】

式中、
両方のRは同一の意味を有し、C〜Cアルキルから選択され;
すべてのMは同一の意味を有し、水素原子、Na、KまたはNHを表す;
で表されるN,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸誘導体の調製方法であって:
a)エチレンジアミン、ホルムアルデヒド源および式(III)
【化11】

式中、RはC〜Cアルキルである、
で表されるフェノール化合物を、約1:2:2のエチレンジアミン:ホルムアルデヒド:フェノール化合物のモル比で反応させて、一般式(II)
【化12】

式中、Rは式(I)について上記で定義したのと同一の意味を有する、
で表されるサラン化合物を得ること、ならびに
b)グリオキシル酸を、式(II)で表されるサラン化合物で、アミンプロトン受容体の存在下で還元的アミノ化して、式(I)で表され、式中、Mが水素原子である化合物を得ること、ならびに
c)所望により、それをさらに式(I)で表され、式中、MがNa、KまたはNHを表す化合物に、対応する塩基で処理することにより変換すること、
を含む、前記方法。
【請求項6】
ホルムアルデヒド源が、ホルムアルデヒド水溶液およびパラホルムアルデヒドから選択される、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
ホルムアルデヒド源がホルムアルデヒド水溶液である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
式(II)で表される化合物:グリオキシル酸:アミンのモル比が1:2:2〜1:4:5の範囲内である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
モル比が約1:3:3.5である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
アミンプロトン受容体がトリエチルアミンである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
還元的アミノ化を、水素化触媒の存在下で、C〜Cアルカノールもしくはそれらの混合物中で、またはC〜Cアルカノール/水混合物中で、水素で水素化することにより行う、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
段階b)における還元および段階c)における還元的アミノ化を、式(V)で表される中間体化合物を単離せずに同一の反応容器中で行う、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
a)〜c)のすべての段階を、式(IV)および(V)で表される中間体化合物を単離せずに同一の反応容器中で行う、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
段階b)における還元および段階c)における還元的アミノ化を、共に、水素化触媒の存在下で、C〜Cアルカノールもしくはそれらの混合物中で、またはC〜Cアルカノール/水混合物中で、水素で水素化することにより行う、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
水素化触媒が固体担体上のニッケル、パラジウムまたは白金である、請求項11または14に記載の方法。
【請求項16】
水素化触媒がRa−NiまたはPd/Cである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
RがCHを表す、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
RがHを表す、請求項1または6〜16のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2010−539212(P2010−539212A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−525318(P2010−525318)
【出願日】平成20年9月15日(2008.9.15)
【国際出願番号】PCT/EP2008/062269
【国際公開番号】WO2009/037235
【国際公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(510077831)
【氏名又は名称原語表記】PREZEDSIEBIORSTWO PRODUKCYJNO−CONSULTINGOWE ADOB SP.Z O.O.SP.K.
【住所又は居所原語表記】ul.Warszawska 43,PL−61−028 Poznan(PL)
【Fターム(参考)】