説明

N,N′,N″−トリヒドロキシイソシアヌル酸の製造方法

【課題】 入手しやすい安価な原料から短い工程で簡易にN,N′,N″−トリヒドロキシイソシアヌル酸を製造できる方法を提供する。
【解決手段】 本発明のN,N′,N″−トリヒドロキシイソシアヌル酸の製造方法は、ヒドロキシルアミン又はその塩とカルボニル化合物とを反応させてN,N′,N″−トリヒドロキシイソシアヌル酸を生成させることを特徴とする。前記カルボニル化合物として、例えば、ホスゲン、尿素、炭酸エステル、ハロギ酸エステル、カルボニル基に2つの含窒素芳香族複素環式基が窒素原子部位で結合した複素環式カルボニル化合物などを用いることができる。反応は塩基の存在下で行ってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有毒ガスの吸着剤や酸化反応における酸化触媒等として有用なN,N′,N″−トリヒドロキシイソシアヌル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N,N′,N″−トリヒドロキシイソシアヌル酸は二酸化硫黄の吸着剤としての用途が知られている(特開平4−250819号公報、特表平6−502349号公報)。また、有機化合物の合成における有用な酸化触媒としての利用が開示されている(国際公開第03/55600号パンフレット)。
【0003】
N,N′,N″−トリヒドロキシイソシアヌル酸の製造方法として、水酸基を保護したヒドロキシルアミンをホスゲンやジフェニルカーボネート、カルボニルビスイミダゾールなどと反応させてN,N′,N″−トリ置換オキシイソシアヌル酸を得、次いで脱保護することによりN,N′,N″−トリヒドロキシイソシアヌル酸を得る方法が知られている。例えば、テトラヘドロン レター(Tetrahedron Lett.)2004,45,8277には、ジフェニルカーボネートとO−ベンジルヒドロキシルアミンからの合成例が示されている。クロアティカ ケミカ アクタ(Croat.Chem.Acta)2000,73,569には、ベンゾトリアゾールとホスゲン、及びO−ベンジルヒドロキシルアミンからの合成例が示されている。また、カナディアン ジャーナル オブ ケミストリー(Canadian.J.Chem.)1960,38,343には、ホスゲンとO−アルキルヒドロキシルアミンからの製造例が示されている。また、アンゲバンテ ヘミー(Angew.Chem.)1961,73,657には、カルボキシビスイミダゾールとO−ベンジルヒドロキシルアミンからの製造例が報告されている。
【0004】
また、テトラヘドロン レター(Tetrahedron Lett.)1968,40,4315には、メチルアジドフォルメートと光による反応が、またジャーナル オブ オーガニックケミストリー(J.Org.Chem.)1965,30,1268には、アルコキシフォスフォラミドと二酸化炭素の反応が記載されており、こうして得られるN,N′,N″−トリアルコキシイソシアヌル酸を脱保護することによりN,N′,N″−トリヒドロキシイソシアヌル酸を得ることができる。
【0005】
しかし、これら従来の方法では、原料が複雑な構造を有するものであったり、反応の工程が長かったり、反応時や後処理時の操作性が悪かったりして、N,N′,N″−トリヒドロキシイソシアヌル酸の工業的な製造法として必ずしも満足できるものではなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平4−250819号公報
【特許文献2】特表平6−502349号公報
【特許文献3】国際公開第03/55600号パンフレット
【非特許文献1】テトラヘドロン レター(Tetrahedron Lett.)2004,45,8277
【非特許文献2】クロアティカ ケミカ アクタ(Croat.Chem.Acta)2000,73,569
【非特許文献3】カナディアン ジャーナル オブ ケミストリー(Canadian.J.Chem.)1960,38,343
【非特許文献4】アンゲバンテ ヘミー(Angew.Chem.)1961,73,657
【非特許文献5】テトラヘドロン レター(Tetrahedron Lett.)1968,40,4315
【非特許文献6】ジャーナル オブ オーガニックケミストリー(J.Org.Chem.)1965,30,1268
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、入手しやすい安価な原料から短い工程で簡易にN,N′,N″−トリヒドロキシイソシアヌル酸を製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討した結果、ヒドロキシルアミン又はその塩とカルボニル化合物から一段でN,N′,N″−トリヒドロキシイソシアヌル酸が生成することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、ヒドロキシルアミン又はその塩とカルボニル化合物とを反応させてN,N′,N″−トリヒドロキシイソシアヌル酸を生成させることを特徴とするN,N′,N″−トリヒドロキシイソシアヌル酸の製造方法を提供する。
【0010】
前記カルボニル化合物として、例えば、ホスゲン、尿素、炭酸エステル、ハロギ酸エステル、カルボニル基に2つの含窒素芳香族複素環式基が窒素原子部位で結合した複素環式カルボニル化合物などを用いることができる。反応は塩基の存在下で行ってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、入手しやすい安価な原料から短い工程で簡易にN,N′,N″−トリヒドロキシイソシアヌル酸を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[ヒドロキシルアミン又はその塩]
本発明では水酸基が保護されていないヒドロキシルアミン(NH2OH)又はその塩を反応に用いる。そのため、後で保護基を外す工程を要しない。ヒドロキシルアミンの塩としては、特に限定されず、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩等の無機酸塩;シュウ酸塩、酢酸塩、p−トルエンスルホン酸塩などの有機酸塩などが挙げられる。
【0013】
ヒドロキシルアミン又はその塩は、そのままの形態で、あるいは適当な溶媒(有機溶媒、水又はこれらの混合物)の溶液又は分散液の形態で使用できる。
【0014】
[カルボニル化合物]
カルボニル化合物としては、ヒドロキシルアミンのアミノ基によりカルボニル基が求核攻撃されうる化合物であればよく、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
1−C(=O)−R2 (1)
(式中、R1、R2は、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、置換オキシ基、無置換又は置換アミノ基、カルボニル基との結合部位に窒素原子を有する含窒素芳香族複素環式基を示す。R1、R2は、互いに結合して、隣接する炭素原子とともに環を形成していてもよく、また一体となってオキソ(=O)基を形成していてもよい)
【0015】
前記ハロゲン原子には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が含まれる。置換オキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロピルオキシ、ブトキシ、t−ブチルオキシ基などのアルコキシ基(例えば、C1-6アルコキシ基);フェノキシ基などのアリールオキシ基;ベンジルオキシ基などのアラルキルオキシ基;アセチルオキシ基などのアシルオキシ基などが挙げられる。無置換又は置換アミノ基としては、アミノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基などのモノ又はジアルキルアミノ基;1−ピロリジニル基、ピペリジノ基などの環状アミノ基;アセチルアミノ基などのアシルアミノ基などが挙げられる。カルボニル基との結合部位に窒素原子を有する含窒素芳香族複素環式基としては、例えば、イミダゾリル基、トリアゾリル基、ベンゾトリアゾリル基などが挙げられる。R1、R2が、互いに結合して、隣接する炭素原子とともに形成する環としては、例えば、4員〜15員の炭素環又は複素環が挙げられる。
【0016】
前記カルボニル化合物の代表的な例として、例えば、ホスゲン;尿素;炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジフェニル、炭酸エチレンなどの炭酸エステル(炭酸ジC1-6アルキル、炭酸ジフェニル、環状炭酸エステル等);クロロギ酸メチル、クロロギ酸エチル、ブロモギ酸メチル、ブロモギ酸エチル、クロロギ酸フェニル、ブロモギ酸フェニルなどのハロギ酸エステル(ハロギ酸C1-6アルキルエステル、ハロギ酸フェニル等);カルボニルビスイミダゾール、カルボニルビストリアゾール、カルボニルビスベンゾトリアゾールなどのカルボニル基に2つの含窒素芳香族複素環式基が窒素原子部位で結合した化合物;二酸化炭素などが挙げられる。前記カルボニル化合物は単独で又は2以上を組み合わせて使用できる。
【0017】
カルボニル化合物の使用量は、その種類によっても異なるが、通常、ヒドロキシルアミン又はその塩1モルに対して、0.5〜3モル、好ましくは0.8〜1.5モル程度である。カルボニル化合物、ヒドロキシルアミン又はその塩の何れか一方を他方に対して大過剰量用いてもよい。
【0018】
[塩基]
本発明では、反応を促進するために塩基を反応系に添加してもよい。塩基としては、無機塩基及び有機塩基を利用でき、例えば、トリエチルアミン、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)、トリエチレンジアミン(1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン;DABCO)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン(DBN)、ヘキサメチレンテトラミン、テトラメチルエチレンジアミン、トリオクチルアミン、ジメチルアニリン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、4−メチルモルフォリン等の3級アミン;ピリジン、ルチジン、ピコリン、イミダゾールなどの窒素含有芳香族性複素環化合物;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;酸化マグネシウム、酸化カルシウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物;炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩類;酢酸ナトリウムや酢酸カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属のカルボン酸塩類;ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、t−ブトキシナトリウム、t−ブトキシカリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属のアルコキシド類などが挙げられる。これらの塩基は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。なかでも、トリエチルアミン、4−ジメチルアミノピリジンなどの3級アミン;ルチジン、ピコリンなどの窒素含有芳香族性複素環化合物などが好ましい。
【0019】
塩基の使用量は、反応を阻害しない範囲で適宜選択できるが、通常、ヒドロキシルアミン又はその塩に対して、0〜10当量(例えば、0.01〜10当量)、好ましくは0〜5当量(例えば、0.1〜5当量)、より好ましくは0〜2当量(例えば、0.5〜2当量)程度である。
【0020】
[反応]
反応は溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒としては、原料に対して不活性なものであれば特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、クロロベンゼンなどの置換基を有していてもよい芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの置換基を有していてもよい脂環式炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、ジフェニルエーテルなどのエーテル類;四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;N,N′−ジメチルホルムアミドなどの有機溶媒及びこれらの混合物が挙げられる。溶媒の使用量は、反応を損なわない範囲で適宜選択されるが、通常、ヒドロキシルアミン又はその塩100重量部に対して、0〜10000重量部、好ましくは0〜2000重量部程度である。
【0021】
反応温度は、例えば、20〜180℃、好ましくは40〜160℃、さらに好ましくは60〜140℃である。反応時間は、例えば1分から48時間程度の範囲で適宜選択できる。反応は、常圧、減圧、加圧下の何れであってもよいが、通常、常圧で行われる。反応は、回分式、半回分式、連続式などのいずれの方法により行うこともできる。
【0022】
なお、反応中間体の3量化(環化)を促進させるために、系内に、フッ化セシウム等のアルカリ金属フッ化物;フッ化カルシウム等のアルカリ土類金属フッ化物;遷移金属フッ化物;テトラブチルアンモニウムフルオリド等の4級アンモニウムフッ化物などのフッ化物を添加してもよい。フッ化物の使用量は、ヒドロキシルアミン又はその塩1モルに対して、一般に0〜0.5モル(例えば、0.00001〜0.5モル)、好ましくは0〜0.1モル(例えば、0.0001〜0.1モル)程度である。
【0023】
反応により、下記式(2)で表されるN,N′,N″−トリヒドロキシイソシアヌル酸が生成する。
【化1】

【0024】
なお、反応機構は必ずしも明らかではないが、例えば前記式(1)で表される化合物を原料として用いた場合には、下記反応式に示すように、式(1)で表されるカルボニル化合物にヒドロキシルアミンが反応し、N−ヒドロキシイソシアネートを経由して反応が進行するものと考えられる。
【化2】

【0025】
反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段やこれらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0027】
実施例1
フラスコに、50重量%ヒドロキシルアミン水溶液1.321g(20mmol)、ジフェニルカーボネート4.284g(20mmol)を入れ、窒素雰囲気下、100℃で30分撹拌した。反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、0.1%の収率でN,N′,N″−トリヒドロキシイソシアヌル酸が生成していた。
【0028】
実施例2
ヒドロキシルアミン塩酸塩1.390g(20mmol)、ジフェニルカーボネート4.284g(20mmol)、及びN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)18.5gを入れ、窒素雰囲気下、120℃で2時間撹拌した。反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、0.1%の収率でN,N′,N″−トリヒドロキシイソシアヌル酸が生成していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシルアミン又はその塩とカルボニル化合物とを反応させてN,N′,N″−トリヒドロキシイソシアヌル酸を生成させることを特徴とするN,N′,N″−トリヒドロキシイソシアヌル酸の製造方法。
【請求項2】
カルボニル化合物が、ホスゲン、尿素、炭酸エステル、ハロギ酸エステル、又はカルボニル基に2つの含窒素芳香族複素環式基が窒素原子部位で結合した複素環式カルボニル化合物である請求項1記載のN,N′,N″−トリヒドロキシイソシアヌル酸の製造方法。
【請求項3】
反応を塩基の存在下で行う請求項1又は2記載のN,N′,N″−トリヒドロキシイソシアヌル酸の製造方法。

【公開番号】特開2006−273721(P2006−273721A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−91066(P2005−91066)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)